ゲスト
(ka0000)
【AP】多分江戸的捕物帳
マスター:からた狐

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/04/07 12:00
- 完成日
- 2016/04/28 17:54
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
天下泰平の世の中。
将軍様の御膝下、八百八町も平和を謳歌して……ばかりもいられなかった。
●賑やかな城下町
「てぇへんだてぇへんだてぇへんだー!」
大通りを、十手持ちの岡引きが土煙を上げて走る。
飯屋に飛び込むと、看板娘が慣れた様子で水を渡した。店で飯を食べていた遊び人が面白そうに事態を見守る。
「また、親分の『てぇへんだ』が始まった。今度はなんです?」
呆れる娘の前で水を飲み干すと、岡引きは青い顔をして身震いをした。
「今回ばかりは本当に大変なんでぃ。夕べ、とある商家に賊が押し入り、店の者は番頭丁稚までもが皆殺しでぃ」
「な、なんだって!!」
「ただ唯一、一人娘の姿だけが見当たらねぇと来てやがる。どうしたものかと探していたら、町はずれの神社で見かけたという目撃談があったという訳さ。こうしちゃいられねぇ、すぐに八丁堀の旦那に連絡だー」
「親分、気を付けてー」
来た時同様、岡引きが大騒ぎで駆けだしていく。
看板娘は手を振って見送り、奥では店主がやれやれと肩を竦めていた。
「物騒だなぁ。そいじゃあ、これにて」
恐々と身を震わせた遊び人は逃げるように店を出ようとしたが、銭の手を作った主人に捕まる。
「おいこら。お代がまだだぞ」
「……。すまねぇ、ツケといてくれやー」
「食い逃げかー!!」
悪びれなく遊び人は舌を出すと、猛ダッシュ。
振り払われて、怒る主人の声が遠くまで響いていた。
●とある料亭
人払いされた離れに、見るからに身分が高そうな着物を来た人物が顔を隠して入って来る。
座敷にあがれば、部屋の真ん中で裕福そうな商人が頭を下げていた。
「お奉行さま。本日は御足労いただき恐悦至極」
「そう畏まるな。楽にしてよいぞ」
という言葉をもらい、商人は顔を上げて下座についた。
奉行も顔を隠していた頭巾を取ると、早速とばかりに身を乗り出す。
「昨夜の押し入りの件、こちらの耳に届いているぞ。あれはその方の仕業であろう」
「いやいや、滅相もございません。確かに南蛮渡来の御禁制の品々を見つけられ、困っておりましたが。あれと当方は無関係でございますよ」
大げさに嘆く奉行だが、表情はさほど暗くない。商人も困ったような表情をしているものの、口端の笑みは隠せなかった。
「どうやら娘が一人逃げおおせたようで。町はずれの神社で見たと報告も受けてございますが、さてどうなるやら。可哀想なことにならねばよいのですが」
「どこまで本心なのやら」
奉行が揶揄すると、商人もおかしそうに噴き出す。
目だけで何かを催促すると、商人は分かってると言いたげに背後から大きな箱を取りだす。
「確かに、当方の興味はこちらにあるのみ。――山吹色のお菓子でございます。お納めくださいませ」
「おやおや。そちも悪よのぉ」
中を検め、悪い顔を作る奉行。商人もそろって満面の笑みを作っていた。
●そして、お城でも
「殿! 殿はどちらにおられるかー!」
無作法など気にせずに、長い廊下を走る者がいた。
「これは、お目付け役が何の騒ぎですかな」
訳を知る者たちが、顔を見合わせひそひそと話し合う。
「将軍様の御姿がまた見えないそうですよ。抜け道を使い、御城下にお忍びに行かれたのでは」
「またですか。御庭番はどうしたのでしょう」
「さて、内密なことは私どもにはとんと分かりませんねぇ」
「殿がお留守の間、我らは我らの仕事をするだけですよ」
優雅に笑う声が響く。
事情を知らない者は、ただただ惑うばかりだった。
●町はずれの神社
民家は無く。田畑も遠く。商業施設など勿論無い、山の中。
なぜこんな所にと、誰もが首をかしげるような場所にその神社はある。祠は小さいが、赤い鳥居はしっかりと立つ。
由来も定かではなく、妖怪変化を封じたとか、平和を守る守護神がいるとか、行き倒れを弔っているなど様々。
辺鄙な場所の割に境内はなんとなく清掃されているのだから、狐狸が出るとか、謎の仕事人が出入りしているとか、賊が出るとか、どこぞの屋敷の抜け道なっているなどとも、とにかく奇妙な噂だけは絶えないような場所だ。
そこに、娘が一人でいた。祠を前に、一心に祈っていたが……。
「見つけたぜ、お嬢さん」
声をかけられて、娘がはっと振り返る。
何やら物騒な殺気を振りまいた者たちが、娘を取り囲んでいた。
「恨みはねぇが、これも仕事。あの世で父親から詫びを入れてもらうんだな」
殺気を持ったまま、彼らはそれぞれに武器を携え娘を狙う。
娘はそんな彼らを睨みつけながら、隠し持っていた武器を構えていた。
さらっと風が吹いた。
この後、何が起こるのか。どんな結末を迎えるのか。
それはお天道様でも分かるまい。
将軍様の御膝下、八百八町も平和を謳歌して……ばかりもいられなかった。
●賑やかな城下町
「てぇへんだてぇへんだてぇへんだー!」
大通りを、十手持ちの岡引きが土煙を上げて走る。
飯屋に飛び込むと、看板娘が慣れた様子で水を渡した。店で飯を食べていた遊び人が面白そうに事態を見守る。
「また、親分の『てぇへんだ』が始まった。今度はなんです?」
呆れる娘の前で水を飲み干すと、岡引きは青い顔をして身震いをした。
「今回ばかりは本当に大変なんでぃ。夕べ、とある商家に賊が押し入り、店の者は番頭丁稚までもが皆殺しでぃ」
「な、なんだって!!」
「ただ唯一、一人娘の姿だけが見当たらねぇと来てやがる。どうしたものかと探していたら、町はずれの神社で見かけたという目撃談があったという訳さ。こうしちゃいられねぇ、すぐに八丁堀の旦那に連絡だー」
「親分、気を付けてー」
来た時同様、岡引きが大騒ぎで駆けだしていく。
看板娘は手を振って見送り、奥では店主がやれやれと肩を竦めていた。
「物騒だなぁ。そいじゃあ、これにて」
恐々と身を震わせた遊び人は逃げるように店を出ようとしたが、銭の手を作った主人に捕まる。
「おいこら。お代がまだだぞ」
「……。すまねぇ、ツケといてくれやー」
「食い逃げかー!!」
悪びれなく遊び人は舌を出すと、猛ダッシュ。
振り払われて、怒る主人の声が遠くまで響いていた。
●とある料亭
人払いされた離れに、見るからに身分が高そうな着物を来た人物が顔を隠して入って来る。
座敷にあがれば、部屋の真ん中で裕福そうな商人が頭を下げていた。
「お奉行さま。本日は御足労いただき恐悦至極」
「そう畏まるな。楽にしてよいぞ」
という言葉をもらい、商人は顔を上げて下座についた。
奉行も顔を隠していた頭巾を取ると、早速とばかりに身を乗り出す。
「昨夜の押し入りの件、こちらの耳に届いているぞ。あれはその方の仕業であろう」
「いやいや、滅相もございません。確かに南蛮渡来の御禁制の品々を見つけられ、困っておりましたが。あれと当方は無関係でございますよ」
大げさに嘆く奉行だが、表情はさほど暗くない。商人も困ったような表情をしているものの、口端の笑みは隠せなかった。
「どうやら娘が一人逃げおおせたようで。町はずれの神社で見たと報告も受けてございますが、さてどうなるやら。可哀想なことにならねばよいのですが」
「どこまで本心なのやら」
奉行が揶揄すると、商人もおかしそうに噴き出す。
目だけで何かを催促すると、商人は分かってると言いたげに背後から大きな箱を取りだす。
「確かに、当方の興味はこちらにあるのみ。――山吹色のお菓子でございます。お納めくださいませ」
「おやおや。そちも悪よのぉ」
中を検め、悪い顔を作る奉行。商人もそろって満面の笑みを作っていた。
●そして、お城でも
「殿! 殿はどちらにおられるかー!」
無作法など気にせずに、長い廊下を走る者がいた。
「これは、お目付け役が何の騒ぎですかな」
訳を知る者たちが、顔を見合わせひそひそと話し合う。
「将軍様の御姿がまた見えないそうですよ。抜け道を使い、御城下にお忍びに行かれたのでは」
「またですか。御庭番はどうしたのでしょう」
「さて、内密なことは私どもにはとんと分かりませんねぇ」
「殿がお留守の間、我らは我らの仕事をするだけですよ」
優雅に笑う声が響く。
事情を知らない者は、ただただ惑うばかりだった。
●町はずれの神社
民家は無く。田畑も遠く。商業施設など勿論無い、山の中。
なぜこんな所にと、誰もが首をかしげるような場所にその神社はある。祠は小さいが、赤い鳥居はしっかりと立つ。
由来も定かではなく、妖怪変化を封じたとか、平和を守る守護神がいるとか、行き倒れを弔っているなど様々。
辺鄙な場所の割に境内はなんとなく清掃されているのだから、狐狸が出るとか、謎の仕事人が出入りしているとか、賊が出るとか、どこぞの屋敷の抜け道なっているなどとも、とにかく奇妙な噂だけは絶えないような場所だ。
そこに、娘が一人でいた。祠を前に、一心に祈っていたが……。
「見つけたぜ、お嬢さん」
声をかけられて、娘がはっと振り返る。
何やら物騒な殺気を振りまいた者たちが、娘を取り囲んでいた。
「恨みはねぇが、これも仕事。あの世で父親から詫びを入れてもらうんだな」
殺気を持ったまま、彼らはそれぞれに武器を携え娘を狙う。
娘はそんな彼らを睨みつけながら、隠し持っていた武器を構えていた。
さらっと風が吹いた。
この後、何が起こるのか。どんな結末を迎えるのか。
それはお天道様でも分かるまい。
リプレイ本文
●
「食い逃げだぁ! 誰か捕まえてくれ!!」
「すぐに捕まえますぅ! 着物とフンドシ置いてけ、この盗人ぉ」
茶屋から逃げた食い逃げ犯を追いかけ、飛び出したのは茶屋の看板娘おハナこと星野 ハナ(ka5852)。
愛馬のまーちゃんにまたがれば、瞬く間に遊び人を追い詰め、地縛符を投げつける。
足元が泥状になり、もがく遊び人。その慌てた顔に向けて、おハナは笑顔で鼻を小突く。
「んもぅ、駄目ですよぅ、ツケの時には物・納♪ しなきゃ。払いに来た時きちんと返して差し上げますぅ」
「待ってくれ。代わりにさっきの話に絡んだ情報を買わないか?」
可愛い顔してやることエグイ。おハナが本気で身ぐるみ剥がそうとした為、遊び人は必死に代りを出す。
気になる所があり、ハナの手が止まる。それを肯定と取ったか、遊び人はべらべらと情報を話し出す。
曰く、昨夜殺された一家の主人は前々からとある黒い噂のある商家を調べていた。しかし、その商家にばれていたようで、密かに商家の用心棒が一家の周辺をうろついていたらしい。
「そして昨夜の一件。絶対その商家が何かしたに違いない。本当はこのネタでゆすりを……いや、げふ。ともかく、これで勘弁してくれよ」
「えー。そっちが勝手に喋って証拠も何も無しじゃないですかぁ。与太話はお店の売り上げになりませーん♪」
「ちょっと……いやあぁああ、おかーさーん!!」
おハナはばっさりバツを作ると、遊び人に容赦なく手をかける。
「常在戦場、表の時すらこんなスリリングが味わえるなんてぇ、きゃっ☆」
おまけに今夜の予定も出来た。それは顔には出さず、ハナはまず差し押さえた品を届けるべく店へと戻る。
●
賊が押し入ったという商家。陰惨な事件の跡がまだ生々しく残る現場に、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)はやってきていた。
彼女の姿を見つけ、現場調査中の役人が顔を顰める。
「ちりめん問屋のお嬢さんってのはよっぽど暇なのか」
「そんな事言わないで下さいよ。商人の事は商人が詳しいんですよ」
にっこり笑って役人の怒りをかわすと、店に向けて軽く手を合わせ、帳簿などをささっと調べ始める。
「実は、こちらの評判はうかがってますの。品行方正、明朗会計、客の評判も問題無し。恨まれるなどとんでもないとのことですが」
何冊もの帳簿に目を通していたルンルンだが、その目がいきなり険しくなる。
「これは裏帳簿! ですが、この店のではありませんね。――この商人さんは善良だけど、逆恨みしてそうな人達が……。この事件絶対何か裏があります! 乙女センサーにピンと来ちゃってるんだからっ!」
そうと勘づくと、ルンルンは早速さらなる聞き込みに出ようとする……が、その前に役人にしっかり捕まる。
「ええい、ちょろちょろと。何だってそんな熱心に調べるんだ?」
「ただのちりめん問屋のお嬢様のお節介なのです……。ほんの少し細かい事が気になって、気立てが良くて容姿端麗みんあのアイドルなだけの☆」
お説教も愛嬌ではぐらかすと、早速真実を求めて街へと飛び出して行った。
●
町外れの神社は普段と違い、随分と賑やかだった。
女性一人に、対して多数のごろつき。共に武器を抜き殺気を放っている。この場合どちらの味方をするべきか、一目瞭然。
男たちに向けて、鞍馬 真(ka5819)は太刀を抜き放つ。横笛の練習をするつもりが、いい運動になりそうだ。
「随分と物騒な遊びをしているな。私も混ぜてくれないか?」
「何奴!?」
男たちは先に真を始末すると決めたらしい。目線で合図をすると、一斉にかかってきた。
予想通りの展開に、全く慌てず真は受け止めようとしたが、
「お前たち! 何をしている!!」
さらなる乱入者が現れた。声の主を見て、真の表情が軽く歪む。
駆けつけたザレム・アズール(ka0878)は刀ムラマサを抜くと、真をかばうようにして立ちふさがった。
「殿、御無事で何より。しかもあの娘さんまで保護されていたとは」
二人だけで通じるような小声で、ザレムはこっそりと真に礼を取る。
「御庭番のきみが追ってくるとはね。しかし彼女は何なのだ? たまたま出くわしただけなんだけど」
「昨夜の事件で行方不明になった娘ですよ。裏事情がありそうなので保護すべきと、御家老からお話があったではありませんか」
「仕事は優秀な臣下に押しつけ……いやいや、任せているからなぁ」
ぼそぼそと話を続ける二人。
「何をごちゃごちゃと!!」
警戒して様子を窺がっていたごろつきたちだが、特に小細工は無いと気付くと、さっき以上に荒ぶり、刃物を振るってきた。
命を取ることに何のためらいも持たない動き。
真もザレムもひるまず、あっさりと相手の武器を叩き落とし、さらに踏み込んで的確に刀を振るう。
洗練された技に、ただの暴力で太刀打ちできるはずがない。瞬く間にごろつきたちは叩き伏せられていく。
さらに。
「そこで何をしているんだい!! みんな来ておくれよ!」
色気を含んだ女性の声が高く響いた。
誰かを呼ぶ素振りに、ごろつきたちは激しく動揺する。
「畜生。覚えていやがれ!」
敵わない相手に状況も不利と分かるや、ごろつきたちは捨て台詞を吐き、見事な逃げ足を披露する。
ザレムは真にメモを渡すと、少し間を置いて逃げたごろつきたちを追う。
「全く物騒だねぇ。走っていった彼は仲間かい? 大丈夫なの?」
姿を見せたのは紫吹(ka5868)だった。他に誰かが来る様子も無い。人を呼んだのは、ごろつきを追い払う方便か。
「ああ、お構いなく」
ザレムの意を読んで、真は頷く。奴らが無意味に誰かを追い回すとは考えにくい。必ず指示した黒幕がいるはず。ザレムはそれを探るつもりだ。
残された娘は真に寄ると、深々と頭を下げる。
「危ない所を、ありがとうございました」
助けてくれた礼は告げるが、その表情はまだ険しいままだ。
「どうやら相当の訳ありだな。どうせ退屈していたところだ。何かやりたいことがあるのなら、力になろう」
その前に場所を変えようと提案。ザレムからのメモにあった茶屋兼旅籠へと向かう。
「その店なら知ってるよ。私も茶屋をやっているからね。そうだ、一緒していいかい? 女もいる方が娘さんも安心できるだろう?」
乗り掛かった船だからと、紫吹も同行を申し出る。
色気を含んだ笑みは、男女問わずに警戒を解かせるには十分。――それは不自然なほど艶やかに美しかった。
●
娘襲撃に失敗したごろつきたちは、人目を避けるようにアジトらしきボロ小屋に潜伏。
さらに日暮れて暗くなるのを待ってから、裏通りを走り抜け、とある料亭にそっと入り込んだ。
中で待っていたのは商人と奉行。
「何、失敗しただと!?」
平謝りするごろつきたちに商人が怒り、奉行が嗤う。
「小娘一人。始末できぬとはな」
「申し訳ありません。かくなる上はお奉行さまのお力におすがりするしか……」
「案ずるな。小娘はじきじきに手を下すとあの方からお達しがあった」
「なんと、あの御方が……。勿論お礼は存分に」
「抜け荷の証拠隠滅と証言の口を塞ぐ為とはいえ、夕べの商家殺しのような真似を続ければさすがに疑う者が出て来るぞ」
「今の話、全て聞かせて貰ったのです!」
黒い会話に、鋭い声が被さった。
いつの間にか、部屋の隅にルンルンが立っていた。その手には商人から奉行に渡された箱が抱えられている。
奉行は即座に刀を抜き、問答無用で切り捨てる。途端、彼女の姿は一枚の符となり消え、支えを失った箱が床に落ちて中の小判をばらまいていた。
「昨夜の事件から商人の悪事を暴きに乗り込んでみれば……お奉行、そなたの悪事しかと見ました」
庭の隅から姿を現したのは、やはりルンルン。先ほどのは術で出した分身。手に扇符「六花」を構え、奉行らを見据える。
不審者の出現に、控えていたごろつきたちがただちに武器を抜いて二人を守ろうとする。
忠義は見事だが、向けた相手が悪い。
「弱気を泣かす不届き者、天に変わって成敗しちゃいます……武装―大王! この紋所が目に入らぬか、なんだからっ!」
掛け声と共に、反物が舞い鼓の音が現れ、王者振袖をまとうルンルン。
ちりめん問屋のお嬢様とは仮の姿。武装完了すると、さっと振袖についた家紋を向ける。
「それは副将軍家の! ではあなた様が」
平伏しかけた商人に、うろたえてるごろつきたち。だが、奉行は悪あがきを諦めない。
「我々は、単に夕べの事件を肴に食事を楽しんでおりましただけ。娘も見かけたので保護してやろうと思っての事、何も悪いことなどしておりません」
屋根裏から、ふき出す笑い声が響いてきた。ルンルンとは違う女の声。
「よく言いますねぇ。そこの商人の家を調べてみれば、こんなのもありましたよぉ。副将軍様に差し上げますぅ」
それとなく顔を隠したハナが、懐から分厚い帳簿などをルンルンへと投げ渡す。
「これは立派な抜け荷の証拠。しかも奉行の関与無くして成り立ちませんね?」
ルンルンが睨みつけると、奉行の形相が変わった。
「もはやここまで! 小娘二人、殺して埋めてしまえ」
口から泡を吹いてごろつきたちに命じると、躊躇なくごろつきたちは戦闘態勢に入った。
「二人ではない。俺が相手だ」
ルンルンの前に飛び出るザレム。男たちを尾行して料亭まで乗り込み、そこでルンルンと出くわした時は驚いたが、立場上強くも言えず、影から見守っていた。
危険が及ぶとなれば、潜む必要も無し。前に出ると、刀を抜く。
ハナが符を投げると、強い光がごろつきたちの目をくらます。さらに地縛符で縛り上げると、瞬く間に制圧した。
「うぬぅ……」
「お、お奉行どちらに。私めも」
どうにか逃れたらしい奉行は劣勢を感じて逃げを選び、その後をうろたえた様子で商人が追いかけていたが。
「どこへ行く」
奉行の首に、ザレムの刃が突き付けられた。
「おとなしく縄に付き沙汰を待つか、それとも首を置いて闇に消えるか。どっちにする」
切っ先がわずか肌に食い込み、奉行の顔が青くなっていく。商人も、ザレムの殺気に当てられ、腰を抜かしていた。
「わ、私のせいではない! そうだ、女だ! あの茶屋の女将がそそのかさねば、このような真似など」
だから命だけは、と乞う奉行。
「その話、詳しく聞かせてもらおう」
どうやらさらに、裏があるようで。
悪党たちを縛り上げると、詳細を聞き出し始めた。
●
茶屋兼旅籠の一室に篭るのは娘と紫吹。
真は、娘から奉行と商人の繋がりを聞くと、所用が出来たと出て行ったきり、戻ってこない。
「きっと逃げたんだよ。あるいは戻って来たごろつきたちに殺られたか」
不安がる娘に、紫吹はにこやかに不穏な事を口にする。表情と言葉のギャップに、娘は強張った。
それを紫吹はますます面白がる。
「おや、何を怯えてるんだい、お嬢ちゃん……?」
笑顔を崩さない紫吹だが、その気配は素人でも感じられるほど剣呑な物へと変わっていく。姿も人の形から優美に崩れ、九つの尻尾を生やした獣の性が露呈していく。
不穏な気配に震えて動けない娘。その顎を捉えて上を向かせると、紫吹は口付けるまでに顔を近づける。
と、音をあげて障子が開け放たれる。立っていたのは真であった。
「姿を現したな、女将。――いや、妖狐・玉藻前。あの神社を根城に悪行を重ねていたのか」
「あら、気付いていたの」
「これでも将軍の身。仇なす妖怪の謂れは伝え聞いていた。――だが、何故その娘を狙う?」
将軍、と聞き、ひるんだのは娘の方で。紫吹はただ鼻で笑う。
「そりゃアンタ、極限まで追い込まれた若く美しい娘の魂は、この世の物と思えぬ贅沢な御馳走だからさね。それに…このアタシ自身の美しさ、精気や力を与えてくれるってんだから、美味しく戴かなきゃ損、ってモンだよ」
紫吹は、完全に娘を獲物として見下す。
「娘、そこで見ておいで。お前を守ろうとする者が、お前の家族のようにむごたらしく死ぬ様を」
はっと顔を上げた娘を、けれども紫吹は首を横に振る。
「いいや、殺ったのは金と権力に憑かれた商人だよ。あたしは奉行に知恵と力を貸して商人と組ませ、そして正義感溢れるこの娘の親にそっと真相を囁いただけ」
直接手を下してはいない。密かに後押しをしただけ。ただ、目に留まった娘を喰らう為だけに。
「さあ、もういいだろう。この家ごと綺麗に葬ってあげるよ」
紫吹の手の符から火炎が放たれる。
それより早く真は飛びのいた。
前に出たのは駆けつけていたザレム。手にした試作型重機関銃「恵方撒」で、銃口がしっかりと紫吹を狙っていた。
異様な武器に女狐が驚く一瞬で、片はついた。ザレムが引き金を引くと、轟音と共に紫吹の体が吹き飛ぶ。
「ば、馬鹿な……!!」
崩れた体は色と形を失い、狐は巨大な石となった。
「商人と奉行は取り押さえた。これで復讐も終わりだ」
ザレムが伝えると、娘はその場で泣き崩れる。
真は動かなくなった石に触れる。冷たい感触はただの石としか思えないが。
「妖狐の殺生石。放っておけばいずれ復活するという。将軍家の使命により、これは厳重に封印する」
その手はずや後処理がよぎったのだろう。楽器を楽しむ暇もないと、珍しく真が疲れたような表情を浮かべていた。
「これにて、一件落着―!!」
振袖を翻して、ルンルンが明るく告げる。全ての鬱屈を吹き飛ばす、高らかな宣言だった。
●
秘密裏に殺生石はいずこへかと運び出された。その後どう処理されるのか、知るのはごく一部のみ。
奉行や悪徳商人の家では罪を問われて財産が差し抑えられた。だが、蔵はすでにほとんど空。残った財産から娘への謝罪と今後の資金が支払われる。
そして、夜が明けようという頃。
硬い物音で目を覚ました町人たちは、外で小判が降っていると気付く。
「義賊だ! 弁天様が出た」
「ありがたや、ありがたや」
金子を手にする街の人たちを見ながら、可愛い町娘は弁天おハナとなって、千両箱抱えて屋根から屋根へ飛び回っていた。
商人の家から盗んだのは帳簿だけにあらず。そもそもはこちらが目的だった。
「いつ素敵な次郎吉さんや五右衛門さんに声をかけられてもいいように、もっと腕を磨かなきゃですぅ」
戦馬に持たせていた金子を全てばらまくと、そっと闇へと消えていく。
天下泰平とはいえ、悪は絶えない。
されど、その悪も長くは続かず。今日も平和な日常が続こうとしていた。
「食い逃げだぁ! 誰か捕まえてくれ!!」
「すぐに捕まえますぅ! 着物とフンドシ置いてけ、この盗人ぉ」
茶屋から逃げた食い逃げ犯を追いかけ、飛び出したのは茶屋の看板娘おハナこと星野 ハナ(ka5852)。
愛馬のまーちゃんにまたがれば、瞬く間に遊び人を追い詰め、地縛符を投げつける。
足元が泥状になり、もがく遊び人。その慌てた顔に向けて、おハナは笑顔で鼻を小突く。
「んもぅ、駄目ですよぅ、ツケの時には物・納♪ しなきゃ。払いに来た時きちんと返して差し上げますぅ」
「待ってくれ。代わりにさっきの話に絡んだ情報を買わないか?」
可愛い顔してやることエグイ。おハナが本気で身ぐるみ剥がそうとした為、遊び人は必死に代りを出す。
気になる所があり、ハナの手が止まる。それを肯定と取ったか、遊び人はべらべらと情報を話し出す。
曰く、昨夜殺された一家の主人は前々からとある黒い噂のある商家を調べていた。しかし、その商家にばれていたようで、密かに商家の用心棒が一家の周辺をうろついていたらしい。
「そして昨夜の一件。絶対その商家が何かしたに違いない。本当はこのネタでゆすりを……いや、げふ。ともかく、これで勘弁してくれよ」
「えー。そっちが勝手に喋って証拠も何も無しじゃないですかぁ。与太話はお店の売り上げになりませーん♪」
「ちょっと……いやあぁああ、おかーさーん!!」
おハナはばっさりバツを作ると、遊び人に容赦なく手をかける。
「常在戦場、表の時すらこんなスリリングが味わえるなんてぇ、きゃっ☆」
おまけに今夜の予定も出来た。それは顔には出さず、ハナはまず差し押さえた品を届けるべく店へと戻る。
●
賊が押し入ったという商家。陰惨な事件の跡がまだ生々しく残る現場に、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)はやってきていた。
彼女の姿を見つけ、現場調査中の役人が顔を顰める。
「ちりめん問屋のお嬢さんってのはよっぽど暇なのか」
「そんな事言わないで下さいよ。商人の事は商人が詳しいんですよ」
にっこり笑って役人の怒りをかわすと、店に向けて軽く手を合わせ、帳簿などをささっと調べ始める。
「実は、こちらの評判はうかがってますの。品行方正、明朗会計、客の評判も問題無し。恨まれるなどとんでもないとのことですが」
何冊もの帳簿に目を通していたルンルンだが、その目がいきなり険しくなる。
「これは裏帳簿! ですが、この店のではありませんね。――この商人さんは善良だけど、逆恨みしてそうな人達が……。この事件絶対何か裏があります! 乙女センサーにピンと来ちゃってるんだからっ!」
そうと勘づくと、ルンルンは早速さらなる聞き込みに出ようとする……が、その前に役人にしっかり捕まる。
「ええい、ちょろちょろと。何だってそんな熱心に調べるんだ?」
「ただのちりめん問屋のお嬢様のお節介なのです……。ほんの少し細かい事が気になって、気立てが良くて容姿端麗みんあのアイドルなだけの☆」
お説教も愛嬌ではぐらかすと、早速真実を求めて街へと飛び出して行った。
●
町外れの神社は普段と違い、随分と賑やかだった。
女性一人に、対して多数のごろつき。共に武器を抜き殺気を放っている。この場合どちらの味方をするべきか、一目瞭然。
男たちに向けて、鞍馬 真(ka5819)は太刀を抜き放つ。横笛の練習をするつもりが、いい運動になりそうだ。
「随分と物騒な遊びをしているな。私も混ぜてくれないか?」
「何奴!?」
男たちは先に真を始末すると決めたらしい。目線で合図をすると、一斉にかかってきた。
予想通りの展開に、全く慌てず真は受け止めようとしたが、
「お前たち! 何をしている!!」
さらなる乱入者が現れた。声の主を見て、真の表情が軽く歪む。
駆けつけたザレム・アズール(ka0878)は刀ムラマサを抜くと、真をかばうようにして立ちふさがった。
「殿、御無事で何より。しかもあの娘さんまで保護されていたとは」
二人だけで通じるような小声で、ザレムはこっそりと真に礼を取る。
「御庭番のきみが追ってくるとはね。しかし彼女は何なのだ? たまたま出くわしただけなんだけど」
「昨夜の事件で行方不明になった娘ですよ。裏事情がありそうなので保護すべきと、御家老からお話があったではありませんか」
「仕事は優秀な臣下に押しつけ……いやいや、任せているからなぁ」
ぼそぼそと話を続ける二人。
「何をごちゃごちゃと!!」
警戒して様子を窺がっていたごろつきたちだが、特に小細工は無いと気付くと、さっき以上に荒ぶり、刃物を振るってきた。
命を取ることに何のためらいも持たない動き。
真もザレムもひるまず、あっさりと相手の武器を叩き落とし、さらに踏み込んで的確に刀を振るう。
洗練された技に、ただの暴力で太刀打ちできるはずがない。瞬く間にごろつきたちは叩き伏せられていく。
さらに。
「そこで何をしているんだい!! みんな来ておくれよ!」
色気を含んだ女性の声が高く響いた。
誰かを呼ぶ素振りに、ごろつきたちは激しく動揺する。
「畜生。覚えていやがれ!」
敵わない相手に状況も不利と分かるや、ごろつきたちは捨て台詞を吐き、見事な逃げ足を披露する。
ザレムは真にメモを渡すと、少し間を置いて逃げたごろつきたちを追う。
「全く物騒だねぇ。走っていった彼は仲間かい? 大丈夫なの?」
姿を見せたのは紫吹(ka5868)だった。他に誰かが来る様子も無い。人を呼んだのは、ごろつきを追い払う方便か。
「ああ、お構いなく」
ザレムの意を読んで、真は頷く。奴らが無意味に誰かを追い回すとは考えにくい。必ず指示した黒幕がいるはず。ザレムはそれを探るつもりだ。
残された娘は真に寄ると、深々と頭を下げる。
「危ない所を、ありがとうございました」
助けてくれた礼は告げるが、その表情はまだ険しいままだ。
「どうやら相当の訳ありだな。どうせ退屈していたところだ。何かやりたいことがあるのなら、力になろう」
その前に場所を変えようと提案。ザレムからのメモにあった茶屋兼旅籠へと向かう。
「その店なら知ってるよ。私も茶屋をやっているからね。そうだ、一緒していいかい? 女もいる方が娘さんも安心できるだろう?」
乗り掛かった船だからと、紫吹も同行を申し出る。
色気を含んだ笑みは、男女問わずに警戒を解かせるには十分。――それは不自然なほど艶やかに美しかった。
●
娘襲撃に失敗したごろつきたちは、人目を避けるようにアジトらしきボロ小屋に潜伏。
さらに日暮れて暗くなるのを待ってから、裏通りを走り抜け、とある料亭にそっと入り込んだ。
中で待っていたのは商人と奉行。
「何、失敗しただと!?」
平謝りするごろつきたちに商人が怒り、奉行が嗤う。
「小娘一人。始末できぬとはな」
「申し訳ありません。かくなる上はお奉行さまのお力におすがりするしか……」
「案ずるな。小娘はじきじきに手を下すとあの方からお達しがあった」
「なんと、あの御方が……。勿論お礼は存分に」
「抜け荷の証拠隠滅と証言の口を塞ぐ為とはいえ、夕べの商家殺しのような真似を続ければさすがに疑う者が出て来るぞ」
「今の話、全て聞かせて貰ったのです!」
黒い会話に、鋭い声が被さった。
いつの間にか、部屋の隅にルンルンが立っていた。その手には商人から奉行に渡された箱が抱えられている。
奉行は即座に刀を抜き、問答無用で切り捨てる。途端、彼女の姿は一枚の符となり消え、支えを失った箱が床に落ちて中の小判をばらまいていた。
「昨夜の事件から商人の悪事を暴きに乗り込んでみれば……お奉行、そなたの悪事しかと見ました」
庭の隅から姿を現したのは、やはりルンルン。先ほどのは術で出した分身。手に扇符「六花」を構え、奉行らを見据える。
不審者の出現に、控えていたごろつきたちがただちに武器を抜いて二人を守ろうとする。
忠義は見事だが、向けた相手が悪い。
「弱気を泣かす不届き者、天に変わって成敗しちゃいます……武装―大王! この紋所が目に入らぬか、なんだからっ!」
掛け声と共に、反物が舞い鼓の音が現れ、王者振袖をまとうルンルン。
ちりめん問屋のお嬢様とは仮の姿。武装完了すると、さっと振袖についた家紋を向ける。
「それは副将軍家の! ではあなた様が」
平伏しかけた商人に、うろたえてるごろつきたち。だが、奉行は悪あがきを諦めない。
「我々は、単に夕べの事件を肴に食事を楽しんでおりましただけ。娘も見かけたので保護してやろうと思っての事、何も悪いことなどしておりません」
屋根裏から、ふき出す笑い声が響いてきた。ルンルンとは違う女の声。
「よく言いますねぇ。そこの商人の家を調べてみれば、こんなのもありましたよぉ。副将軍様に差し上げますぅ」
それとなく顔を隠したハナが、懐から分厚い帳簿などをルンルンへと投げ渡す。
「これは立派な抜け荷の証拠。しかも奉行の関与無くして成り立ちませんね?」
ルンルンが睨みつけると、奉行の形相が変わった。
「もはやここまで! 小娘二人、殺して埋めてしまえ」
口から泡を吹いてごろつきたちに命じると、躊躇なくごろつきたちは戦闘態勢に入った。
「二人ではない。俺が相手だ」
ルンルンの前に飛び出るザレム。男たちを尾行して料亭まで乗り込み、そこでルンルンと出くわした時は驚いたが、立場上強くも言えず、影から見守っていた。
危険が及ぶとなれば、潜む必要も無し。前に出ると、刀を抜く。
ハナが符を投げると、強い光がごろつきたちの目をくらます。さらに地縛符で縛り上げると、瞬く間に制圧した。
「うぬぅ……」
「お、お奉行どちらに。私めも」
どうにか逃れたらしい奉行は劣勢を感じて逃げを選び、その後をうろたえた様子で商人が追いかけていたが。
「どこへ行く」
奉行の首に、ザレムの刃が突き付けられた。
「おとなしく縄に付き沙汰を待つか、それとも首を置いて闇に消えるか。どっちにする」
切っ先がわずか肌に食い込み、奉行の顔が青くなっていく。商人も、ザレムの殺気に当てられ、腰を抜かしていた。
「わ、私のせいではない! そうだ、女だ! あの茶屋の女将がそそのかさねば、このような真似など」
だから命だけは、と乞う奉行。
「その話、詳しく聞かせてもらおう」
どうやらさらに、裏があるようで。
悪党たちを縛り上げると、詳細を聞き出し始めた。
●
茶屋兼旅籠の一室に篭るのは娘と紫吹。
真は、娘から奉行と商人の繋がりを聞くと、所用が出来たと出て行ったきり、戻ってこない。
「きっと逃げたんだよ。あるいは戻って来たごろつきたちに殺られたか」
不安がる娘に、紫吹はにこやかに不穏な事を口にする。表情と言葉のギャップに、娘は強張った。
それを紫吹はますます面白がる。
「おや、何を怯えてるんだい、お嬢ちゃん……?」
笑顔を崩さない紫吹だが、その気配は素人でも感じられるほど剣呑な物へと変わっていく。姿も人の形から優美に崩れ、九つの尻尾を生やした獣の性が露呈していく。
不穏な気配に震えて動けない娘。その顎を捉えて上を向かせると、紫吹は口付けるまでに顔を近づける。
と、音をあげて障子が開け放たれる。立っていたのは真であった。
「姿を現したな、女将。――いや、妖狐・玉藻前。あの神社を根城に悪行を重ねていたのか」
「あら、気付いていたの」
「これでも将軍の身。仇なす妖怪の謂れは伝え聞いていた。――だが、何故その娘を狙う?」
将軍、と聞き、ひるんだのは娘の方で。紫吹はただ鼻で笑う。
「そりゃアンタ、極限まで追い込まれた若く美しい娘の魂は、この世の物と思えぬ贅沢な御馳走だからさね。それに…このアタシ自身の美しさ、精気や力を与えてくれるってんだから、美味しく戴かなきゃ損、ってモンだよ」
紫吹は、完全に娘を獲物として見下す。
「娘、そこで見ておいで。お前を守ろうとする者が、お前の家族のようにむごたらしく死ぬ様を」
はっと顔を上げた娘を、けれども紫吹は首を横に振る。
「いいや、殺ったのは金と権力に憑かれた商人だよ。あたしは奉行に知恵と力を貸して商人と組ませ、そして正義感溢れるこの娘の親にそっと真相を囁いただけ」
直接手を下してはいない。密かに後押しをしただけ。ただ、目に留まった娘を喰らう為だけに。
「さあ、もういいだろう。この家ごと綺麗に葬ってあげるよ」
紫吹の手の符から火炎が放たれる。
それより早く真は飛びのいた。
前に出たのは駆けつけていたザレム。手にした試作型重機関銃「恵方撒」で、銃口がしっかりと紫吹を狙っていた。
異様な武器に女狐が驚く一瞬で、片はついた。ザレムが引き金を引くと、轟音と共に紫吹の体が吹き飛ぶ。
「ば、馬鹿な……!!」
崩れた体は色と形を失い、狐は巨大な石となった。
「商人と奉行は取り押さえた。これで復讐も終わりだ」
ザレムが伝えると、娘はその場で泣き崩れる。
真は動かなくなった石に触れる。冷たい感触はただの石としか思えないが。
「妖狐の殺生石。放っておけばいずれ復活するという。将軍家の使命により、これは厳重に封印する」
その手はずや後処理がよぎったのだろう。楽器を楽しむ暇もないと、珍しく真が疲れたような表情を浮かべていた。
「これにて、一件落着―!!」
振袖を翻して、ルンルンが明るく告げる。全ての鬱屈を吹き飛ばす、高らかな宣言だった。
●
秘密裏に殺生石はいずこへかと運び出された。その後どう処理されるのか、知るのはごく一部のみ。
奉行や悪徳商人の家では罪を問われて財産が差し抑えられた。だが、蔵はすでにほとんど空。残った財産から娘への謝罪と今後の資金が支払われる。
そして、夜が明けようという頃。
硬い物音で目を覚ました町人たちは、外で小判が降っていると気付く。
「義賊だ! 弁天様が出た」
「ありがたや、ありがたや」
金子を手にする街の人たちを見ながら、可愛い町娘は弁天おハナとなって、千両箱抱えて屋根から屋根へ飛び回っていた。
商人の家から盗んだのは帳簿だけにあらず。そもそもはこちらが目的だった。
「いつ素敵な次郎吉さんや五右衛門さんに声をかけられてもいいように、もっと腕を磨かなきゃですぅ」
戦馬に持たせていた金子を全てばらまくと、そっと闇へと消えていく。
天下泰平とはいえ、悪は絶えない。
されど、その悪も長くは続かず。今日も平和な日常が続こうとしていた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/06 23:21:36 |