ゲスト
(ka0000)
【AP】ナイト・ランナー
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/11 12:00
- 完成日
- 2016/04/19 01:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
油断するな。
迷わず撃て。
弾を切らすな。
ヴォイドには手を出すな。
――ストリートの警句――
●
その時降りしきる酸性雨が空中で小さな音を立てて蒸発していることに気付く者は誰も居なかった。ここで1/60秒単位でドンパチが行われているって言われて信じられるかい?
ハロー、チューマ(相棒)、こいつが信じられなかったとしたら初めましてだな。このクソッタレな世界にようこそ。信じられるってんならアンタはご同輩だな。また会ったか。次は死体で見ることにならなきゃいいな。
人類が産みだした科学技術の発展の先に待ち受けていたもの、そいつがこれだ。体にサイバネティク手術を施しニューロンの速度を超えた者たちが、この街の夜を駆ける。そこに陽の光が当たることは無い。行われていることはメガコーポとメガコーポの間のチェス。だが普通のチェスとはちょっと違う。何せメガコーポ様ったら俺達から見たらどうでもいいような事に血眼を上げてらっしゃるからな。天文学的なクレジットを突っ込みコマに最高峰の武装を施す。チャイナタウンのチェンさんところの肉饅頭より肉の部分が少なくなった連中。そいつらがコーポ達の手駒だ。
でもな、この世界じゃ皆が皆繋がっている。手駒を動かせばその後に跡が残る。そいつを嫌がってコーポは時にどこにも繋がっていない者達を使うことがある。
この世界の真の姿を知っちまい、戸籍データを失って飛び出した人間。存在しないからこそ、その存在に意味があるサイバネティックス手術を施したプロフェッショナル達。それがお前たちハンターなのさ。
●
神経に直結したオートマチックピストルのトリガーが引かれる。サイレンサーのおかげで最小限に抑えられた発射音と共に放たれた9ミリパラベラム弾は的確にクローン兵を撃ち抜いていく。
その銃弾の間を交わし、別の男が前に出る。プログラム通り真っ直ぐ前に突進してくるクローン兵の横を通り過ぎると、そいつは音もなく倒れた。男の爪の下から飛び出した薄刃は一瞬のうちにそいつらを息の音事斬り裂いていた。
今戦っているハンター達は簡単に言えば凄腕だった。そうじゃなけりゃそもそもこんな仕事(ビズ)を請けちゃいない。ビズの詳しい内容はさておき、手を出した相手はドラッケン社、「ヴォイド」と呼ばれる七大コーポの一つだった。ヴォイドに手を出さないのはストリートで生きる事にした人間が最初に知らなきゃいけないことだ。知らなきゃそもそも生きていけない。だが、そんなヤバい相手に手を出せる、って時点でその腕がわかるってもんさ。実際その腕は確かだった。1ダース送り込まれた企業のコマをものの数秒で片付けてみせる。
だが、なぜヴォイドに手を出しては行けないのか、その理由を身を持って知るのはその次の瞬間だった。真っ赤な強化樹脂製プロテクターに全身を包み、神経直結型単分子刀(ニューラル・カタナ)を手にした兵士、ドラッケン社の切り札であり、最高価格の商品であり、ストリートでその名が語られるときは必ず枕詞に“最強”が付く警備専門家、『レッド・ドラゴン』だった。
ハンター達が狼狽してから覚悟を決めるまでかかった時間はわずか0.1秒だった。『迷わず撃て』、ガキでも知ってるストリートの警句に乗っ取りトリガーを引く。
そしてハンター達全員が酸性雨の下に己の屍を晒したのはその0.2秒後だった。
●
「まず最初に。この話を聞いた時点でキャンセルは無しでお願いします。約束できますね?」
ビズの話のために呼び出されたお前達に、“ミス・ジョンソン”と名乗る女が口を開く。ハンターの仕事は程度の差こそあれどれも汚れ仕事(ウェット・ワーク)、こういう枕詞が付くのは日常茶飯事だ。だが、お前達は今晩のこの席で、得も言われぬ嫌な予感を胸に感じた。そしてその予感は現実のものとなるのだった。
「皆さんにお願いしたい仕事はこちらの建物、時代遅れの低層建築ですが――その8階の一室にある品物を回収して来てください。大きさはそうですね、そこのドリンクの入った缶と同じ程度ですから、ポケットにでも入るでしょう」
ここまでの話だったら近所の雑貨屋のおばさんにも出来るだろう。だが、お前たちに話が回ってきている時点でそれだけで終わる訳がない。
「皆さんの腕なら調べればすぐに分かることなのでここでお伝えします。この品物というのはドラッケン社の新製品サンプルです」
その言葉にお前達の網膜には、極度の緊張状態を示す警告文が流れる。ターゲットは「ヴォイド」の一角、しかも相手がそことなると当然――
「『レッド・ドラゴン』が投入されている可能性は十分考えられます」
それは最悪の言葉だった。
●
「まともにやっては成功確率は1パーミルにも満たないでしょう。ですが、今回こういう物を入手しました」
そして“ミス・ジョンソン”はデータチップをお前達に投げて渡す。
「ニューラル・カタナをクラックするための特製プログラム、名称は『ドラゴン・スレイヤー』です」
ダサいと思う余地は無かった。この小指の先ほどのチップがお前たちの命綱だった。
「作戦はこうです。『レッド・ドラゴン』を発見次第サイバースペースから対象のコントロールOSに侵入し、『ドラゴン・スレイヤー』を実行。同時に現実空間で戦闘を開始し、始末して脱出する」
言うだけなら誰でも出来る。涙が出るぐらい完璧な作戦だな全く。
「もちろん、『レッド・ドラゴン』はサイバースペース側でも最高クラスのセキュリティを保っており、常にジャミング・ノイズを撒き散らして侵入を防いでいます。これを乗り越えるには現実空間で50メートル以内の視認できる場所からジャック・インする必要があります」
つまり、現実空間(マンデイン)でチャンバラをする連中だけでなく、いつもは家に引きこもっているハッカー達も現場に行く必要があるってことだ。一か八かの大博打。しかしコイツを倒せばアンタも『ドラゴン・スレイヤー』だ。悪くは無いんじゃないか、チューマ?
迷わず撃て。
弾を切らすな。
ヴォイドには手を出すな。
――ストリートの警句――
●
その時降りしきる酸性雨が空中で小さな音を立てて蒸発していることに気付く者は誰も居なかった。ここで1/60秒単位でドンパチが行われているって言われて信じられるかい?
ハロー、チューマ(相棒)、こいつが信じられなかったとしたら初めましてだな。このクソッタレな世界にようこそ。信じられるってんならアンタはご同輩だな。また会ったか。次は死体で見ることにならなきゃいいな。
人類が産みだした科学技術の発展の先に待ち受けていたもの、そいつがこれだ。体にサイバネティク手術を施しニューロンの速度を超えた者たちが、この街の夜を駆ける。そこに陽の光が当たることは無い。行われていることはメガコーポとメガコーポの間のチェス。だが普通のチェスとはちょっと違う。何せメガコーポ様ったら俺達から見たらどうでもいいような事に血眼を上げてらっしゃるからな。天文学的なクレジットを突っ込みコマに最高峰の武装を施す。チャイナタウンのチェンさんところの肉饅頭より肉の部分が少なくなった連中。そいつらがコーポ達の手駒だ。
でもな、この世界じゃ皆が皆繋がっている。手駒を動かせばその後に跡が残る。そいつを嫌がってコーポは時にどこにも繋がっていない者達を使うことがある。
この世界の真の姿を知っちまい、戸籍データを失って飛び出した人間。存在しないからこそ、その存在に意味があるサイバネティックス手術を施したプロフェッショナル達。それがお前たちハンターなのさ。
●
神経に直結したオートマチックピストルのトリガーが引かれる。サイレンサーのおかげで最小限に抑えられた発射音と共に放たれた9ミリパラベラム弾は的確にクローン兵を撃ち抜いていく。
その銃弾の間を交わし、別の男が前に出る。プログラム通り真っ直ぐ前に突進してくるクローン兵の横を通り過ぎると、そいつは音もなく倒れた。男の爪の下から飛び出した薄刃は一瞬のうちにそいつらを息の音事斬り裂いていた。
今戦っているハンター達は簡単に言えば凄腕だった。そうじゃなけりゃそもそもこんな仕事(ビズ)を請けちゃいない。ビズの詳しい内容はさておき、手を出した相手はドラッケン社、「ヴォイド」と呼ばれる七大コーポの一つだった。ヴォイドに手を出さないのはストリートで生きる事にした人間が最初に知らなきゃいけないことだ。知らなきゃそもそも生きていけない。だが、そんなヤバい相手に手を出せる、って時点でその腕がわかるってもんさ。実際その腕は確かだった。1ダース送り込まれた企業のコマをものの数秒で片付けてみせる。
だが、なぜヴォイドに手を出しては行けないのか、その理由を身を持って知るのはその次の瞬間だった。真っ赤な強化樹脂製プロテクターに全身を包み、神経直結型単分子刀(ニューラル・カタナ)を手にした兵士、ドラッケン社の切り札であり、最高価格の商品であり、ストリートでその名が語られるときは必ず枕詞に“最強”が付く警備専門家、『レッド・ドラゴン』だった。
ハンター達が狼狽してから覚悟を決めるまでかかった時間はわずか0.1秒だった。『迷わず撃て』、ガキでも知ってるストリートの警句に乗っ取りトリガーを引く。
そしてハンター達全員が酸性雨の下に己の屍を晒したのはその0.2秒後だった。
●
「まず最初に。この話を聞いた時点でキャンセルは無しでお願いします。約束できますね?」
ビズの話のために呼び出されたお前達に、“ミス・ジョンソン”と名乗る女が口を開く。ハンターの仕事は程度の差こそあれどれも汚れ仕事(ウェット・ワーク)、こういう枕詞が付くのは日常茶飯事だ。だが、お前達は今晩のこの席で、得も言われぬ嫌な予感を胸に感じた。そしてその予感は現実のものとなるのだった。
「皆さんにお願いしたい仕事はこちらの建物、時代遅れの低層建築ですが――その8階の一室にある品物を回収して来てください。大きさはそうですね、そこのドリンクの入った缶と同じ程度ですから、ポケットにでも入るでしょう」
ここまでの話だったら近所の雑貨屋のおばさんにも出来るだろう。だが、お前たちに話が回ってきている時点でそれだけで終わる訳がない。
「皆さんの腕なら調べればすぐに分かることなのでここでお伝えします。この品物というのはドラッケン社の新製品サンプルです」
その言葉にお前達の網膜には、極度の緊張状態を示す警告文が流れる。ターゲットは「ヴォイド」の一角、しかも相手がそことなると当然――
「『レッド・ドラゴン』が投入されている可能性は十分考えられます」
それは最悪の言葉だった。
●
「まともにやっては成功確率は1パーミルにも満たないでしょう。ですが、今回こういう物を入手しました」
そして“ミス・ジョンソン”はデータチップをお前達に投げて渡す。
「ニューラル・カタナをクラックするための特製プログラム、名称は『ドラゴン・スレイヤー』です」
ダサいと思う余地は無かった。この小指の先ほどのチップがお前たちの命綱だった。
「作戦はこうです。『レッド・ドラゴン』を発見次第サイバースペースから対象のコントロールOSに侵入し、『ドラゴン・スレイヤー』を実行。同時に現実空間で戦闘を開始し、始末して脱出する」
言うだけなら誰でも出来る。涙が出るぐらい完璧な作戦だな全く。
「もちろん、『レッド・ドラゴン』はサイバースペース側でも最高クラスのセキュリティを保っており、常にジャミング・ノイズを撒き散らして侵入を防いでいます。これを乗り越えるには現実空間で50メートル以内の視認できる場所からジャック・インする必要があります」
つまり、現実空間(マンデイン)でチャンバラをする連中だけでなく、いつもは家に引きこもっているハッカー達も現場に行く必要があるってことだ。一か八かの大博打。しかしコイツを倒せばアンタも『ドラゴン・スレイヤー』だ。悪くは無いんじゃないか、チューマ?
リプレイ本文
●
「レッド・ドラゴン、ね。いかれてやがるぜ。あんた」
冷たい表情のコンクリート製スペース、通称コフィン(棺桶)の中で瀬崎・統夜(ka5046)は眼の前の鉄面皮の女に向かってそう口にした。
「だからこそ皆さんの所に回ってきたわけです」
だが、女は事も無げに言い返す。そう言われたら閉口するしかない。
「これはまた無茶なビズだ」
《笛吹き》というハンドルの男、元の戸籍名は鞍馬 真(ka5819)だった者もそう漏らす。無茶だと分かっていながらやらなきゃいけないこともある。半分に明日の生活のためだが。クレジットが無きゃ今晩のビールも買えやしねぇ。最も《笛吹き》がそういう物に興味があるかは知らないが。
「……心が躍るな」
しかし、二人の表情はプロのそれだった。《笛吹き》がこのビズを続ける理由の残り半分は刺激。レッド・ドラゴン相手なら刺激はその手に余るぐらいだ。そしてそれは瀬崎も同じだった。彼は鮫のように笑っていた。
「よりによってレッド・ドラゴンかあ……」
それに比べれば《野良猫》のお嬢ちゃんは随分と違った。住んでる世界が違う。何かの間違いで迷い込んだか、そうじゃなきゃハンターに憧れて忍び込んだ成りたがり(ワナビー)か。
答えはどちらでも無かった。この嬢ちゃんはアマチュアのハッカーとして普通に生活していたんだが、自分の実力に慢心しちまってヴォイドに手を出した。その結果がこれだ。枝を付けられてものの2秒だった。天王寺茜(ka4080)という可愛らしい名前も何もかも失って今やハンターさ。だが、ヴォイドに手を出してまだ死んでいないってことはただのガキ(スクリプトキディ)じゃ無いってことでもある。つまり腕は確かってことだ。
「毎度どうも、《薬屋》だ。前回は大変結構な暇潰しをさせて頂いたよ、ミス・ジョンソン」
で、こいつだ。男の名はエアルドフリス(ka1856)。通り名(ハンドル)は《薬屋》。カヴァーはヴァーチャルドラッグの調合師。そいつが時代遅れの火を付けるタバコを燻らせていた。
「それはどうも。今日は《甘い弾丸》(キャンディ・バレット)はご一緒じゃないのですか?」
「今度のビズも実に興味深いが些か危険すぎるようなのでね、相棒は置いてきた。プレゼントを買って帰れるよう気張るとするよ」
「《薬屋》、アンタに店仕舞いされると困るんだ。死なないでくれよ?」
頭の左右を赤と青に染め、セーラー服の上から男物のコートという冗談みたいな格好の《カガリ》と呼ばれている女――元の名は八原 篝(ka3104)が口を挟む。《カガリ》は《薬屋》の上客だった。つまり《薬屋》は《カガリ》が居なきゃダメだし、《カガリ》も《薬屋》が居なきゃ動けない。そいつもこいつも《カガリ》の昔に理由があった。
《カガリ》は元々はメガコーポの所有物である強化兵士だった。つまりはレッド・ドラゴンとご同輩だ。だが、ある日仕事をしくじっちまって今はこのザマだ。それでもこうやって生きているのはよっぽどお人好しのハンターが居たんだろうよ。
だが、元所有物である証ってのは今もこうして《カガリ》の体に残っている。生身の体に山程サイバーウェアを詰め込んだ代償。《薬屋》が持ってきてくれる治療薬無しでは生きられない体。今もとっくに発狂していてもおかしくない痛みを鎮痛剤で止めているって寸法だ。
「死ぬつもりは無いさ。それよりお嬢ちゃんはどうだい?」
「えとほら、み、未成年ですし? またの機会でっ」
《薬屋》が営業活動に勤しんでいた頃、この部屋に居た最後の一人は虚ろな目でそこに座っていた。
「で、こいつは誰なんだ?」
「さあな、迷い犬(ストレイ・ドッグ)が紛れ込んだのかどうか」
道元 ガンジ(ka6005)という識別コードだけがコイツがコイツであることを示している男。美味い匂いに惹かれて迷い込んだってとこか。確かなことは、見たことも無いようなサイバーウェアがぎっしり詰まっているってことと、こいつがこんなのでも生きているってこと。そしてこんな奴でも金のやり取りさえ行われりゃそれはプロだ。実力があれば役に立つさ。無けりゃ……死ぬだけだな。
「辿り着く前にやられたんじゃあ敵わんからな」
まあガンジの氏素性について探るのはこの辺にしておこう。《薬屋》はそう言っている間に下調べを終えていた。空中にサインを描けば、モニターが切り替わり標的のビルの内部構造と警備情報が綺麗に映しだされていた。コイツはサイバースペースでは最高クラスのハッカー、魔術師(ウィザード)って奴だ。その魔術ってのを、軽く披露してみせたところでハンター達は夜の街に飛び出した。
●
魔術なんて言われりゃチャイナタウンで一山いくらで売っている胡散臭い奴しか思い浮かばないが、《薬屋》の魔術は本物だった。トレースしてきた情報通りの内部構造に情報通りの警備、目的の物までたどり着くのはハンター達にとってはチャメシ・インシデントだった。あとはコイツをポケットに仕舞って帰るのみ。まあそうは行かないんだがな。
「よう、兄弟。遊びに来たぜ?」
《カガリ》がすっと前にでる。その前に立っていたのは真っ赤な特殊樹脂製のプロテクターに身を包んだ連中。ドラッケン社のハイエンド製品たるレッド・ドラゴンであった。涙がでるもてなしっぷりだな。
「2秒で頼むぜ」
瀬崎はそう《薬屋》達に音を残すと0.03秒で両手に構えた拳銃のトリガーを引く。神経に繋がった銃は薬莢をばらまき、発射された弾丸は正確にレッド・ドラゴンをスナイプしていく。
0.08秒。到着した弾丸に対し、自慢のニューラルカタナを一振り、それで弾丸は真っ二つ。運動エネルギーを打ち消すのはサービス。
0.14秒。チュイン……。《笛吹き》のブーストアップされた神経が微かな動作音を立てる。さすがのレッド・ドラゴンも捉えきれない速さで走り、そのまま銃弾を撃ちこむ。
0.21秒。銃弾を追いかけるように《笛吹き》が走る。手にしていたはずの拳銃を剣モードに切り替えて一撃
0.26秒。ニューラルカタナは銃弾と剣撃を一太刀で払いのける。返しで繰り出された突きはオプション。
0.32秒。それに《カガリ》が反応。もう一発銃弾をニューラル・カタナに撃ちこむ。これで切っ先を逸らして何とか《笛吹き》はかわし切る。だが、銃弾が撃ち込まれたはずのニューラルカタナの峰には傷一つ付いていない。誰かが見てたらドラッケン社の最新技術のショーカタログにちょうどいいんじゃないか?
0.38秒。レッド・ドラゴンは無慈悲に瀬崎が飛び込んだ柱の前まで移動。そこからもう一度カタナを一振り。相当年季の入ったボロビルだとは言え、ここはヴォイドの研究施設のはずだった。それなりにいいものにしているはずだ。そいつがバターの様に真っ二つ。
瀬崎に出来るのは急加速して飛びのき、また別の柱の陰に隠れることだけ。だが、この柱もいつまで持つか……。
0.49秒。レッド・ドラゴンが動く。狙うは瀬崎ではなく、その後ろにいる者。つまり《薬屋》《野良猫》、それからガンジ。サイバースペースへダイブした三人をマンデインで狙われたらもう手のうちようがない。
だから《笛吹き》が飛び込んだ。振り上げられるカタナ。体を差し出す《笛吹き》。切っ先はきらめき、そして……。
●
「多すぎ! もう、長居してられないわね」
その頃、サイバースペースにダイブした三人が見た光景は悪夢の様な光景だった。狙うターゲットはレッド・ドラゴンのOS部。そいつはひと目で分かった。ご丁寧なことに巨大な赤い竜のアバターで表示されている。ここだけ見りゃはるか昔のダイムノヴェルみたいな光景だが、そいつが吐く金色のブレスが全部ICE、つまり招かれざる客にお帰りいただくためのプログラムってんだから恐れ入る。その名も『ドラゴン・ブレス』ってのはいくらなんでもやり過ぎだとは思うが、それとこのICEの性能がどんなものかってのはまた別の話だ。無尽蔵に、無差別に撒き散らされたブレスはあちこちを飛び回っている。その一つがこちらまでひらひらと飛んできた。
「確かに多いな。だが」
おかんむりの様子の《野良猫》を横目で見て、《薬屋》は空間に指を滑らせる。すると月光の様な――最も月の光なんて軌道上に住んでる天上人(ハイランダー)でもないと見れない、ほとんどの人間にとってはお伽話の様な存在だが――青色の燐光が降り注ぐ。
「どんなに出来のいいICEでも、停まっちまえばただのノイズさ」
力には力、数には数。サイバースペース上での基本常識。撒き散らされるブレスもその青い光に撃ち貫かれると綺麗に活動を停止する。
「それじゃあガンジ、お願い……」
そう《野良猫》が言いかけた時だった。横目で見たガンジの姿(アイコン)がモーフィングして行く。年端も行かない少年の様な姿を取っていたそれは、みるみるうちに美しい黒い毛並みを湛えた狼の姿へと変わっていた。
「これって……」
どんなサーバーでも一瞬でクラックするという超S級ハッカー。サイバースペースの都市伝説(ネット・ロア)。《黒狼》。その姿がここにあった。
再び吹きつけられるブレス。それを一瞬でかわし、爪でブレスを切り裂く。綺麗に空間は切断され、ICEはここまで届かない。
「最速でクラック。でねーとヤバイことになる」
そして《黒狼》は静かにそう告げた。
伝説の降臨に感動している暇は無い。まず抜けなければ行けないのは三重に張られている防火壁(ファイア・ウォール)、その侵入経路を探すこと。ならば
「抜け道裏道猫の道、と……入口あけまーす♪」
《野良猫》はこの世界で生きるのはまだルーキーだったが、その解錠(デコード)の腕は確かだった。猫の姿のアイコンの、その手で壁をペタリと触ればそこから壁はほどけ、崩れていく。
そこに三度ブレスが吹きつけられる。
「さて、竜狩りといこうか」
《薬屋》はコードを走らせる。同時に蒼い炎がポップアップ。それは次々に現れ、球状に配置されていく。そしてもう一度実行のキーを押せば、それらから炎が吹き出され収束していく。
炎と炎、ぶつかり重なりあう二つのイメージ。そして後には何も残らない。
「《黒狼》、数秒お願い。鍵を開けるわ!」
「0.6秒だ。できるだろう?」
《野良猫》が鍵を破りながらそう送ったメッセージを、《黒狼》はそれだけ返して走りだした。緑色の光が走るグリッドライン上を駆け抜けていく。まだ防衛システムはダウンしていない。ドラゴン・ブレスはますます荒れ狂い、渦と成って張り巡らされる。
「俺を処理できるか?」
だが、それは《黒狼》を止められなかった。ブレスを突き破るように飛び込み、そのまま飛び出してくる。そして壁に体当たりを食らわせる。
その時、壁は忽然と消え失せた、ジャスト0.6秒。それで《野良猫》が解錠を終え、壁を破った瞬間だった。
《薬屋》は0.01秒のディレイをかけて螺旋を描く蒼い炎をラン(走らせる)。それで赤龍の喉元へと通じる綺麗な一本道が出来上がった。
そこを丁度のタイミングで飛び込んできた《黒狼》が走り抜ける。今、黒い狼は光と化した。
そのまま赤龍の懐にダイブ。衝撃で首が跳ね上がる。このリアクションはプログラミングされていたのか。
そして『ドラゴン・スレイヤー』という名の牙が突き立てられ――それでアバターは沈黙した。
●
切断面は綺麗なものだった。クローム色の断面が一瞬キラリと輝く。
「腕一本か。ビズの費用としては安いもんだな」
《笛吹き》はそうつぶやいた。己の左腕を斬り落としたニューラル・カタナは0.04秒前から沈黙している。どうやら今、自分の背後でサイバースペースに飛び込んでいた3人は上手くやってくれたらしい。
そしてそのことは、ここに居る他の者も分かっていた。《カガリ》が構えたアサルトライフルから、銃弾が発射される。スマート・リンク・システムのサポートにより、超高速度で発射されるが、そのリコイルはシステムが吸収してくれる。
「そんなカタナなんて無くてもやれるだろ? 来いよ、踊ろうぜ!」
ダンスを始めるためのイントロをアサルトライフルが奏で始める。その言葉にレッド・ドラゴンは答えない。最後まで信念に殉じる“さらりまん”たろうとしていた。
《笛吹き》が動く。彼の実力なら腕一本はゲームを始めるのにちょうどいいハンディキャップ。サイバーウェアの動作音が奏でるワルツをBGMに銃弾がリズムを刻む。
その時、瀬崎は最高の気分だった。脳に供給されるコンバット・ドラッグが彼の心臓をオーバーブーストさせ、法と安全性のラインを軽く飛び越えた神経加速回路が計算速度をクロックアップさせる。澄んだ水面の様に空間が全て見える。仲間の動きも、レッド・ドラゴンの一挙手一投足も。
「はっ! 貰うぜ! ドラゴンスレイヤー!!」
瀬崎は二丁の拳銃を華麗に振り回し、至近距離で銃弾を打ち込んでいく。それでも振るわれるカタナをかわし、繰り出される弾丸はまるでカンフー・ホロの様。
「チェックだ」
眼前に突きつけた銃のトリガーが引かれる。それは頭を撃ちぬくこと無く逸れ、飛んで行く。そして壁に当たり跳ね返って背中越しに脳を貫ぬく、それともう一丁の銃が脳を撃ちぬいたのは同時タイミングだった。
「チェックメイト」
●
「楽しかったぜ……じゃあな」
ビズが終わればこの場にも用無し、今からハンター達も他人同士。《カガリ》は手をひらひらさせながら去っていった。現地解散と決めたらしい。
「仕事帰りの一杯、打ち上げなら何時でも店に来てくださいねー♪」
一方、《野良猫》はストリートで道行くさらりまんに声を掛けていた。身にまとっているのはセクシャルに見せるように人間心理を元にデザインされたユニフォーム。普段の彼女はバイトに勤しむ少女。彼女にはクレジットが必要だ。報酬を貯めて戸籍を買い戻す――それが彼女の存在意義(レゾンデートル)だった。
そして、彼女が働く店に《薬屋》と《黒狼》、いや、ガンジが飛び込んでくる。打ち上げと洒落こんだらしい。たまにはこういうのもいいだろ?
ありったけの合成食品をオーダーし、食べ尽くしたガンジを《野良猫》は不思議そうに見ている。
「しかし《黒狼》ねぇ……知ってたの?」
「さあな。それよりお嬢ちゃん、うちの商品はどうだい?」
「だからまたの機会でっ」
「そいつは残念だな」
そして《野良猫》は仕事に戻る。
「それより、何か飲まないんですか?」
「あいにく俺は酒は飲めんのだがね。もっとトリップできるもんを知ってるぞ」
「というと……コレ、ですか?」
アンプルを指し示すハンドサインを見て、《薬屋》はこう返した。
「いやいや商品に手を出すのは三流だ。何より夜の仕事だよ」
「レッド・ドラゴン、ね。いかれてやがるぜ。あんた」
冷たい表情のコンクリート製スペース、通称コフィン(棺桶)の中で瀬崎・統夜(ka5046)は眼の前の鉄面皮の女に向かってそう口にした。
「だからこそ皆さんの所に回ってきたわけです」
だが、女は事も無げに言い返す。そう言われたら閉口するしかない。
「これはまた無茶なビズだ」
《笛吹き》というハンドルの男、元の戸籍名は鞍馬 真(ka5819)だった者もそう漏らす。無茶だと分かっていながらやらなきゃいけないこともある。半分に明日の生活のためだが。クレジットが無きゃ今晩のビールも買えやしねぇ。最も《笛吹き》がそういう物に興味があるかは知らないが。
「……心が躍るな」
しかし、二人の表情はプロのそれだった。《笛吹き》がこのビズを続ける理由の残り半分は刺激。レッド・ドラゴン相手なら刺激はその手に余るぐらいだ。そしてそれは瀬崎も同じだった。彼は鮫のように笑っていた。
「よりによってレッド・ドラゴンかあ……」
それに比べれば《野良猫》のお嬢ちゃんは随分と違った。住んでる世界が違う。何かの間違いで迷い込んだか、そうじゃなきゃハンターに憧れて忍び込んだ成りたがり(ワナビー)か。
答えはどちらでも無かった。この嬢ちゃんはアマチュアのハッカーとして普通に生活していたんだが、自分の実力に慢心しちまってヴォイドに手を出した。その結果がこれだ。枝を付けられてものの2秒だった。天王寺茜(ka4080)という可愛らしい名前も何もかも失って今やハンターさ。だが、ヴォイドに手を出してまだ死んでいないってことはただのガキ(スクリプトキディ)じゃ無いってことでもある。つまり腕は確かってことだ。
「毎度どうも、《薬屋》だ。前回は大変結構な暇潰しをさせて頂いたよ、ミス・ジョンソン」
で、こいつだ。男の名はエアルドフリス(ka1856)。通り名(ハンドル)は《薬屋》。カヴァーはヴァーチャルドラッグの調合師。そいつが時代遅れの火を付けるタバコを燻らせていた。
「それはどうも。今日は《甘い弾丸》(キャンディ・バレット)はご一緒じゃないのですか?」
「今度のビズも実に興味深いが些か危険すぎるようなのでね、相棒は置いてきた。プレゼントを買って帰れるよう気張るとするよ」
「《薬屋》、アンタに店仕舞いされると困るんだ。死なないでくれよ?」
頭の左右を赤と青に染め、セーラー服の上から男物のコートという冗談みたいな格好の《カガリ》と呼ばれている女――元の名は八原 篝(ka3104)が口を挟む。《カガリ》は《薬屋》の上客だった。つまり《薬屋》は《カガリ》が居なきゃダメだし、《カガリ》も《薬屋》が居なきゃ動けない。そいつもこいつも《カガリ》の昔に理由があった。
《カガリ》は元々はメガコーポの所有物である強化兵士だった。つまりはレッド・ドラゴンとご同輩だ。だが、ある日仕事をしくじっちまって今はこのザマだ。それでもこうやって生きているのはよっぽどお人好しのハンターが居たんだろうよ。
だが、元所有物である証ってのは今もこうして《カガリ》の体に残っている。生身の体に山程サイバーウェアを詰め込んだ代償。《薬屋》が持ってきてくれる治療薬無しでは生きられない体。今もとっくに発狂していてもおかしくない痛みを鎮痛剤で止めているって寸法だ。
「死ぬつもりは無いさ。それよりお嬢ちゃんはどうだい?」
「えとほら、み、未成年ですし? またの機会でっ」
《薬屋》が営業活動に勤しんでいた頃、この部屋に居た最後の一人は虚ろな目でそこに座っていた。
「で、こいつは誰なんだ?」
「さあな、迷い犬(ストレイ・ドッグ)が紛れ込んだのかどうか」
道元 ガンジ(ka6005)という識別コードだけがコイツがコイツであることを示している男。美味い匂いに惹かれて迷い込んだってとこか。確かなことは、見たことも無いようなサイバーウェアがぎっしり詰まっているってことと、こいつがこんなのでも生きているってこと。そしてこんな奴でも金のやり取りさえ行われりゃそれはプロだ。実力があれば役に立つさ。無けりゃ……死ぬだけだな。
「辿り着く前にやられたんじゃあ敵わんからな」
まあガンジの氏素性について探るのはこの辺にしておこう。《薬屋》はそう言っている間に下調べを終えていた。空中にサインを描けば、モニターが切り替わり標的のビルの内部構造と警備情報が綺麗に映しだされていた。コイツはサイバースペースでは最高クラスのハッカー、魔術師(ウィザード)って奴だ。その魔術ってのを、軽く披露してみせたところでハンター達は夜の街に飛び出した。
●
魔術なんて言われりゃチャイナタウンで一山いくらで売っている胡散臭い奴しか思い浮かばないが、《薬屋》の魔術は本物だった。トレースしてきた情報通りの内部構造に情報通りの警備、目的の物までたどり着くのはハンター達にとってはチャメシ・インシデントだった。あとはコイツをポケットに仕舞って帰るのみ。まあそうは行かないんだがな。
「よう、兄弟。遊びに来たぜ?」
《カガリ》がすっと前にでる。その前に立っていたのは真っ赤な特殊樹脂製のプロテクターに身を包んだ連中。ドラッケン社のハイエンド製品たるレッド・ドラゴンであった。涙がでるもてなしっぷりだな。
「2秒で頼むぜ」
瀬崎はそう《薬屋》達に音を残すと0.03秒で両手に構えた拳銃のトリガーを引く。神経に繋がった銃は薬莢をばらまき、発射された弾丸は正確にレッド・ドラゴンをスナイプしていく。
0.08秒。到着した弾丸に対し、自慢のニューラルカタナを一振り、それで弾丸は真っ二つ。運動エネルギーを打ち消すのはサービス。
0.14秒。チュイン……。《笛吹き》のブーストアップされた神経が微かな動作音を立てる。さすがのレッド・ドラゴンも捉えきれない速さで走り、そのまま銃弾を撃ちこむ。
0.21秒。銃弾を追いかけるように《笛吹き》が走る。手にしていたはずの拳銃を剣モードに切り替えて一撃
0.26秒。ニューラルカタナは銃弾と剣撃を一太刀で払いのける。返しで繰り出された突きはオプション。
0.32秒。それに《カガリ》が反応。もう一発銃弾をニューラル・カタナに撃ちこむ。これで切っ先を逸らして何とか《笛吹き》はかわし切る。だが、銃弾が撃ち込まれたはずのニューラルカタナの峰には傷一つ付いていない。誰かが見てたらドラッケン社の最新技術のショーカタログにちょうどいいんじゃないか?
0.38秒。レッド・ドラゴンは無慈悲に瀬崎が飛び込んだ柱の前まで移動。そこからもう一度カタナを一振り。相当年季の入ったボロビルだとは言え、ここはヴォイドの研究施設のはずだった。それなりにいいものにしているはずだ。そいつがバターの様に真っ二つ。
瀬崎に出来るのは急加速して飛びのき、また別の柱の陰に隠れることだけ。だが、この柱もいつまで持つか……。
0.49秒。レッド・ドラゴンが動く。狙うは瀬崎ではなく、その後ろにいる者。つまり《薬屋》《野良猫》、それからガンジ。サイバースペースへダイブした三人をマンデインで狙われたらもう手のうちようがない。
だから《笛吹き》が飛び込んだ。振り上げられるカタナ。体を差し出す《笛吹き》。切っ先はきらめき、そして……。
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「多すぎ! もう、長居してられないわね」
その頃、サイバースペースにダイブした三人が見た光景は悪夢の様な光景だった。狙うターゲットはレッド・ドラゴンのOS部。そいつはひと目で分かった。ご丁寧なことに巨大な赤い竜のアバターで表示されている。ここだけ見りゃはるか昔のダイムノヴェルみたいな光景だが、そいつが吐く金色のブレスが全部ICE、つまり招かれざる客にお帰りいただくためのプログラムってんだから恐れ入る。その名も『ドラゴン・ブレス』ってのはいくらなんでもやり過ぎだとは思うが、それとこのICEの性能がどんなものかってのはまた別の話だ。無尽蔵に、無差別に撒き散らされたブレスはあちこちを飛び回っている。その一つがこちらまでひらひらと飛んできた。
「確かに多いな。だが」
おかんむりの様子の《野良猫》を横目で見て、《薬屋》は空間に指を滑らせる。すると月光の様な――最も月の光なんて軌道上に住んでる天上人(ハイランダー)でもないと見れない、ほとんどの人間にとってはお伽話の様な存在だが――青色の燐光が降り注ぐ。
「どんなに出来のいいICEでも、停まっちまえばただのノイズさ」
力には力、数には数。サイバースペース上での基本常識。撒き散らされるブレスもその青い光に撃ち貫かれると綺麗に活動を停止する。
「それじゃあガンジ、お願い……」
そう《野良猫》が言いかけた時だった。横目で見たガンジの姿(アイコン)がモーフィングして行く。年端も行かない少年の様な姿を取っていたそれは、みるみるうちに美しい黒い毛並みを湛えた狼の姿へと変わっていた。
「これって……」
どんなサーバーでも一瞬でクラックするという超S級ハッカー。サイバースペースの都市伝説(ネット・ロア)。《黒狼》。その姿がここにあった。
再び吹きつけられるブレス。それを一瞬でかわし、爪でブレスを切り裂く。綺麗に空間は切断され、ICEはここまで届かない。
「最速でクラック。でねーとヤバイことになる」
そして《黒狼》は静かにそう告げた。
伝説の降臨に感動している暇は無い。まず抜けなければ行けないのは三重に張られている防火壁(ファイア・ウォール)、その侵入経路を探すこと。ならば
「抜け道裏道猫の道、と……入口あけまーす♪」
《野良猫》はこの世界で生きるのはまだルーキーだったが、その解錠(デコード)の腕は確かだった。猫の姿のアイコンの、その手で壁をペタリと触ればそこから壁はほどけ、崩れていく。
そこに三度ブレスが吹きつけられる。
「さて、竜狩りといこうか」
《薬屋》はコードを走らせる。同時に蒼い炎がポップアップ。それは次々に現れ、球状に配置されていく。そしてもう一度実行のキーを押せば、それらから炎が吹き出され収束していく。
炎と炎、ぶつかり重なりあう二つのイメージ。そして後には何も残らない。
「《黒狼》、数秒お願い。鍵を開けるわ!」
「0.6秒だ。できるだろう?」
《野良猫》が鍵を破りながらそう送ったメッセージを、《黒狼》はそれだけ返して走りだした。緑色の光が走るグリッドライン上を駆け抜けていく。まだ防衛システムはダウンしていない。ドラゴン・ブレスはますます荒れ狂い、渦と成って張り巡らされる。
「俺を処理できるか?」
だが、それは《黒狼》を止められなかった。ブレスを突き破るように飛び込み、そのまま飛び出してくる。そして壁に体当たりを食らわせる。
その時、壁は忽然と消え失せた、ジャスト0.6秒。それで《野良猫》が解錠を終え、壁を破った瞬間だった。
《薬屋》は0.01秒のディレイをかけて螺旋を描く蒼い炎をラン(走らせる)。それで赤龍の喉元へと通じる綺麗な一本道が出来上がった。
そこを丁度のタイミングで飛び込んできた《黒狼》が走り抜ける。今、黒い狼は光と化した。
そのまま赤龍の懐にダイブ。衝撃で首が跳ね上がる。このリアクションはプログラミングされていたのか。
そして『ドラゴン・スレイヤー』という名の牙が突き立てられ――それでアバターは沈黙した。
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切断面は綺麗なものだった。クローム色の断面が一瞬キラリと輝く。
「腕一本か。ビズの費用としては安いもんだな」
《笛吹き》はそうつぶやいた。己の左腕を斬り落としたニューラル・カタナは0.04秒前から沈黙している。どうやら今、自分の背後でサイバースペースに飛び込んでいた3人は上手くやってくれたらしい。
そしてそのことは、ここに居る他の者も分かっていた。《カガリ》が構えたアサルトライフルから、銃弾が発射される。スマート・リンク・システムのサポートにより、超高速度で発射されるが、そのリコイルはシステムが吸収してくれる。
「そんなカタナなんて無くてもやれるだろ? 来いよ、踊ろうぜ!」
ダンスを始めるためのイントロをアサルトライフルが奏で始める。その言葉にレッド・ドラゴンは答えない。最後まで信念に殉じる“さらりまん”たろうとしていた。
《笛吹き》が動く。彼の実力なら腕一本はゲームを始めるのにちょうどいいハンディキャップ。サイバーウェアの動作音が奏でるワルツをBGMに銃弾がリズムを刻む。
その時、瀬崎は最高の気分だった。脳に供給されるコンバット・ドラッグが彼の心臓をオーバーブーストさせ、法と安全性のラインを軽く飛び越えた神経加速回路が計算速度をクロックアップさせる。澄んだ水面の様に空間が全て見える。仲間の動きも、レッド・ドラゴンの一挙手一投足も。
「はっ! 貰うぜ! ドラゴンスレイヤー!!」
瀬崎は二丁の拳銃を華麗に振り回し、至近距離で銃弾を打ち込んでいく。それでも振るわれるカタナをかわし、繰り出される弾丸はまるでカンフー・ホロの様。
「チェックだ」
眼前に突きつけた銃のトリガーが引かれる。それは頭を撃ちぬくこと無く逸れ、飛んで行く。そして壁に当たり跳ね返って背中越しに脳を貫ぬく、それともう一丁の銃が脳を撃ちぬいたのは同時タイミングだった。
「チェックメイト」
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「楽しかったぜ……じゃあな」
ビズが終わればこの場にも用無し、今からハンター達も他人同士。《カガリ》は手をひらひらさせながら去っていった。現地解散と決めたらしい。
「仕事帰りの一杯、打ち上げなら何時でも店に来てくださいねー♪」
一方、《野良猫》はストリートで道行くさらりまんに声を掛けていた。身にまとっているのはセクシャルに見せるように人間心理を元にデザインされたユニフォーム。普段の彼女はバイトに勤しむ少女。彼女にはクレジットが必要だ。報酬を貯めて戸籍を買い戻す――それが彼女の存在意義(レゾンデートル)だった。
そして、彼女が働く店に《薬屋》と《黒狼》、いや、ガンジが飛び込んでくる。打ち上げと洒落こんだらしい。たまにはこういうのもいいだろ?
ありったけの合成食品をオーダーし、食べ尽くしたガンジを《野良猫》は不思議そうに見ている。
「しかし《黒狼》ねぇ……知ってたの?」
「さあな。それよりお嬢ちゃん、うちの商品はどうだい?」
「だからまたの機会でっ」
「そいつは残念だな」
そして《野良猫》は仕事に戻る。
「それより、何か飲まないんですか?」
「あいにく俺は酒は飲めんのだがね。もっとトリップできるもんを知ってるぞ」
「というと……コレ、ですか?」
アンプルを指し示すハンドサインを見て、《薬屋》はこう返した。
「いやいや商品に手を出すのは三流だ。何より夜の仕事だよ」
依頼結果
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質問用スレッド 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/04/06 10:17:08 |
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作戦会議だ、チューマ。 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/04/10 21:29:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/06 19:24:39 |