ゲスト
(ka0000)
貴様、スルメにしてくれる!
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/04/15 19:00
- 完成日
- 2016/04/21 00:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
うららかな春の日。ハンターたちは漁船に乗っていた。
ただ今リゼリオのはるか沖合。
現在釣りをしている。釣って釣って、釣りまくっている。
なにかが憑いているとしか思えないほど釣れている。
「うわー、すごい! 完全に入れ食い状態ですよ!」
「面白い位釣れるな!」
予期せぬ大漁に大喜びのハンターたち。
しかし、カチャはその輪に加われなかった。
釣り自体するどころではないのだ。船に乗ってものの数分もしないうち、重度の船酔いに襲われてしまったので。
先程まで海に向かってひっきりなしにあげていたが、もうその力すらなく、船底に転がったまま。身動き一つしない。釣り上げられた魚でさえぴちぴち撥ねているのに、
「カチャさーん、大丈夫ですかー?」
仲間が呼んでも反応なし。まさに生ける屍だ。
「なんとか頑張って起きてくださいよー、いつ歪虚が出るか分からないんですから」
歪虚。
そう、実はハンターたちは漁師さんたちから頼まれ、歪虚退治に来ているのだ。
聞けばそいつが出没するのは、漁もたけなわになったとき。それ以外はどこかに姿を隠しており、所在が掴めないのだという。
ならば自らがおとりになり相手をおびき寄せよう――ということで船を借り受け、このように漁をしている次第。
けして遊んでいるのではない。
でも、釣れたら釣れたでそりゃ嬉しい。
「どうでしょ、ちょっと休憩してご飯にしませんか?」
「お、いーね。刺し身にして食おうぜ刺し身。なんたって新鮮だしな」
「焼くのもいいんじゃないか。ほら、七輪」
「おー、準備がいいですね。カチャさん、食べましょう。なにかお腹に入れたら、元気が出るかも知れませんよ」
無理無理無理。むしろ吐く。と死んだ目で言うカチャ。
その時、船が激しく揺れ出した。波は穏やかなままなのに。
見れば船体に触手が張り付いている。
「おっと、お出ましか!」
カチャ以外のハンターたちは船べりから下をのぞき込んだ。
ざばああ
飛沫を上げ出てきたのはイカ歪虚。
本来の場所にある目玉以外にも無数の目玉が――通常外套と呼ばれる部分に――ついており、ギョロギョロ動いている。
漏斗部分から、ベッと墨が吐かれた。
墨は油のようにぬるぬるしている。不安定な船の上、こんなもので足を滑らせたら危険だ。
ハンターたちは、一旦間合いを取った。
今だとばかりイカは、船の魚を次々奪い、体の下にある口へと押し込んで行く。
「他人が労して取ったものを横取りとは、ふてえ野郎だ!」
「許せませんね!」
ハンターたちはイカ歪虚に対し、干し殺してやりたいほどの怒りを覚えつつ、武器を構えた。
が、イカもバカではない。相手が自分を襲いにくいよう、引っ切りなし船を揺らし続ける。
そんな中カチャは、相変わらず屍だった。
揺れに合わせ船の上を、右へ左へ転がって行くだけ。冷凍マグロ程も役に立ちそうにない。
ただ今リゼリオのはるか沖合。
現在釣りをしている。釣って釣って、釣りまくっている。
なにかが憑いているとしか思えないほど釣れている。
「うわー、すごい! 完全に入れ食い状態ですよ!」
「面白い位釣れるな!」
予期せぬ大漁に大喜びのハンターたち。
しかし、カチャはその輪に加われなかった。
釣り自体するどころではないのだ。船に乗ってものの数分もしないうち、重度の船酔いに襲われてしまったので。
先程まで海に向かってひっきりなしにあげていたが、もうその力すらなく、船底に転がったまま。身動き一つしない。釣り上げられた魚でさえぴちぴち撥ねているのに、
「カチャさーん、大丈夫ですかー?」
仲間が呼んでも反応なし。まさに生ける屍だ。
「なんとか頑張って起きてくださいよー、いつ歪虚が出るか分からないんですから」
歪虚。
そう、実はハンターたちは漁師さんたちから頼まれ、歪虚退治に来ているのだ。
聞けばそいつが出没するのは、漁もたけなわになったとき。それ以外はどこかに姿を隠しており、所在が掴めないのだという。
ならば自らがおとりになり相手をおびき寄せよう――ということで船を借り受け、このように漁をしている次第。
けして遊んでいるのではない。
でも、釣れたら釣れたでそりゃ嬉しい。
「どうでしょ、ちょっと休憩してご飯にしませんか?」
「お、いーね。刺し身にして食おうぜ刺し身。なんたって新鮮だしな」
「焼くのもいいんじゃないか。ほら、七輪」
「おー、準備がいいですね。カチャさん、食べましょう。なにかお腹に入れたら、元気が出るかも知れませんよ」
無理無理無理。むしろ吐く。と死んだ目で言うカチャ。
その時、船が激しく揺れ出した。波は穏やかなままなのに。
見れば船体に触手が張り付いている。
「おっと、お出ましか!」
カチャ以外のハンターたちは船べりから下をのぞき込んだ。
ざばああ
飛沫を上げ出てきたのはイカ歪虚。
本来の場所にある目玉以外にも無数の目玉が――通常外套と呼ばれる部分に――ついており、ギョロギョロ動いている。
漏斗部分から、ベッと墨が吐かれた。
墨は油のようにぬるぬるしている。不安定な船の上、こんなもので足を滑らせたら危険だ。
ハンターたちは、一旦間合いを取った。
今だとばかりイカは、船の魚を次々奪い、体の下にある口へと押し込んで行く。
「他人が労して取ったものを横取りとは、ふてえ野郎だ!」
「許せませんね!」
ハンターたちはイカ歪虚に対し、干し殺してやりたいほどの怒りを覚えつつ、武器を構えた。
が、イカもバカではない。相手が自分を襲いにくいよう、引っ切りなし船を揺らし続ける。
そんな中カチャは、相変わらず屍だった。
揺れに合わせ船の上を、右へ左へ転がって行くだけ。冷凍マグロ程も役に立ちそうにない。
リプレイ本文
リールを巻く巻く。どんどん巻く。竿は弓なり
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は歓声を上げる。
「わーい、またまた大物が釣れましたー! 今日はもうバカヅキですよー! ルンルン忍法の勝利です!」
釣りと忍法がどう関係するのかは定かでないが、バカヅキなのは確かである。もっともそれは彼女に限ったことではない。メンバー全員がバカヅキ状態なのだ。
鯛にヒラメにカレイにシロギス、アイナメ、ハゼ、イカなど旬のものを総なめ状態。右舷だろうが左舷だろうがトモだろうがミヨシだろうが、糸を垂らせば必ず当たりが来る。クーラーボックスも船の生け簀も満杯状態。
そんな時であった、イカ歪虚イカイカーンが現れたのは。
●
イカ歪虚は船に張り付き、無数の目をギョロギョロさせながら、生け簀の魚を独り占め。
ザレム・アズール(ka0878)は憤慨した。釣った魚を横取りされたからというのはもちろんだが、それに加えて相手が、完全なる歪虚化を遂げていたからである。
「完全に歪虚になったら、食べられないじゃないか……とっとと片付けて美味い刺身を食べるぞ」
地下足袋を履いた足で踏ん張り、揺らされる船の上、重心を保つ。
そのすぐ脇をカチャが、無抵抗に転がって行った。
「おいおい、危ないぞ」
注意をされるも無反応なカチャ。船酔いになっているところ更に揺らされたことで、あえなくダウンしているらしい。
そこに、イカ歪虚の触手が伸びてきた。これも食べられるものかどうなのか調べてみようということらしい。
それに気づいたメイム(ka2290)はハンマーを振り回し、イカ歪虚の前に立ち塞がる。
「ふりぃぃず!」
鋭い咆哮に一瞬相手の動きが止まる。そこに鉄槌の連打。一番敏感そうな触手の先端を狙って。
痛かったのだろう、イカはハンマーの下から、急いで触手を引き抜いた。
己と帆柱との間に命綱を結んだレーヴェ・W・マルバス(ka0276)はカチャの襟首を捕まえ、引き寄せた。自分と同じように綱を結わえ落ちないようにしてやってから、呼びかける。
「これ、起きんかカチャや」
頬をぴたぴた叩く。顔をのぞき込む。
「起きんかい」
カチャの目は、腐ったサバのようだった。
(これは出すものを出させた方がいいのう……)
そう診断を下し、カチャの上体を起こす。海に向け袂に寄りかからせ、背中をさすってやる。触手がこちらに来ないよう、ライフルで牽制しながら。
「吐いてー、吐いたら少しは楽になるじゃろうて」
ザレムはイカ歪虚の注意を引くことに専念した。
巻き上げ機を背の支えにし、自身のクーラーボックスを手繰り寄せ、釣った魚を投げる。
「ほーらほら、こっちの魚は甘いぞー」
イカの食欲は激しかった。ボックスの中身が見る見る内に減って行く。
「あれ、もう終わりか?」
なので反対側の舷にいる超級まりお(ka0824)とルンルンから、急遽徴発。
「悪い! 2人とも、ボックスこっちに投げてくれ!」
「アイサー!」
まりおは特にこだわりなく、自身のクーラーボックスを投げよこした。
しかしルンルンは、ザレムの要請に及び腰。
「ええっ!? いやですよ、この中には私の明日の幸せが沢山詰まってるんですものー!」
そんな彼女のクーラーボックスを、横からまりおが取り上げる。
「大丈夫、また釣ればいいよ!」
「あーっ!」
補給物資を受け取ったザレムは、餌撒きを再会する。
目が多いだけに動体視力が優れているのか、イカ歪虚は投げられたものを全て正確にキャッチする。
釣った魚たちが貪り食われて行くのを目の当たりにしたルンルンは、怒りに震えた。思わずフーっ! と唸る。
「私の幸せを横取りするなんて、食べ物の恨みは恐ろしいんだからっ!」
直後、ふるふると頭を振る。
「いけないいけない……こんなことしてると、私も猫頭になっちゃいそうなのです」
気を取り直し扇符を広げ、きっと相手を見据える。
「目玉が一杯でとってもきしょいのです……お前なんか、目がー目がーってなっちゃえばいいんだからっ。ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花! 煌めいて☆星の花達」
五色の光がイカ歪虚を直撃した。
眩しかったらしい。イカ本来の目である部分に、下から膜がせり上がる。
ザレムはそれらの動きを冷静に眺め、分析した。
(あれにだけ瞼があるということは、ほかの部分より重要だからだろう。生物なら弱点は脳……確かイカの脳幹は、あの頭に見えるとんがり部分にじゃなく、目と目の間にあったはず。多分、こいつも……)
大まかなアタリをつけてから攻撃に移る。
まだ動きが鈍っている相手へ急接近。眉間目がけ放たれるデルタレイ。
イカ歪虚は触手で接近を阻もうとした。
三条の光線がその根元を直撃し、穴をあけた。
まりおはグレートソードで切りかかる。端っこの方から。
「えいやあ!」
短い触手が切り落とされた。
切れた触手はすぐには消えず、しばし激しくのたうち回る。
「本物ならイカソーメンにして踊り食い出来るんだけどねー」
うそぶく彼女にイカは、漏斗を向けた。
意図を察し素早く転進するまりお。だが、船の床板に当たり飛び散ってくる飛沫を、完全に避けることは出来なかった。
「あーっ! もう、シミがついちゃったー!」
シャツに散ったそれに鼻を近づけ、思わず身をよじる。
「うわ、くっさ! 生ぐさっ!」
ところでカチャは絶賛船酔い中。
「ほれ口を拭いて深呼吸」
レーヴェの尽力により出すものは全部出したのだが、なおむかつきが止まらない。
「おええ……口の中がずっぱいいい……誰か波をどめてええええ……」
「落ち着け、海は誰にも止められんでな。とにかくは、何かに捕まって揺れを抑えることじゃて。ほれ、このマストなど。なんなら私の胸を貸してやってもよいでな」
しゃがみこんでいる相手を抱っこするようにしながら、船酔い解消の心得を伝授するおかんドワーフ。
「手元を見るな。遠くを見るのじゃ。意識を他のことに集中させるのじゃ」
「ほがのこどっでどんな……」
「そうよのう……おおそうじゃ、おぬし借金があるのじゃろう? その返済について考えるのはどうじゃな? 後どのくらい稼げば完済出来るのかなー、とか」
「……余計よいぞうなんでずけど……」
そこに缶ビールを携えたメイムが滑り込んでくる。
「カチャさん、いいもの見つけたよ! さあ、酔いをもって酔いを制するんだ!」
と言うなりカチャの鼻をつまみ、首を引っ張り、口にビールを流し込む。
「さあカチャさんはお酒に酔っているだけだよ、まだまだ動ける。竹刀構えて♪」
カチャの目に生気が戻った。
「……ぬおおおお、船酔いなんか起こしている場合じゃありませんでした! 私には借金返済という大義があるのですっ! そのためには歪虚死すべしっ!」
「おう、その意気その意気」
もう大丈夫だと見たレーヴェは、イカへの攻撃に移った。
なるべく正確に射撃するために、揺れる船の上で腹ばいになり、ライフルを構える。船体の揺れに呼吸を合わせ、最も的にしやすい本体目がけ連射。
穿たれた目玉が次々弾ける。
イカ歪虚は怒った。触手を伸ばしレーヴェを叩こうとする。
ライフルを刀に持ち替え、それを斬り払うレーヴェ。
「わしの戦法は遠近両用じゃで!」
イカ歪虚は強く船に絡み付いた。締め付けられた船体が軋みを上げ始める。
「ちょっとちょっと何してんのイカ! この船借り物なんだから、傷めたら駄目だって!」
まりおは船板に張り付いた触手の上面を、剥ぐように切りつけた。下手に切断しようとすれば、船そのものも傷つけそうだったので。
カチャが竹刀を構え、突進してくる。
「食らえ目潰しー!」
無数の目玉の一つに、竹刀の先がブスッと刺さる。
かなり痛かったのだろう。イカはおのれ許せんとばかり、勢いよく墨を吐いた。
まりおほどの回避能力をもたないため、まともに頭からくらうカチャ。濃縮された磯臭さに船酔いがぶり返す。
「うっ……おええええ」
そんな彼女に発破をかけるザレム。
「奴をなんとかしないとまた酔うぞ」
彼はイカの懐目がけ飛び込んだ。盾をかざして至近距離から、攻性防御を発動させる。
雷電を纏う障壁が、容赦なくぬめった体にぶつかる。
加えてメイムが襲いかかる。鉄槌、鉄槌、さらに鉄槌。
イカ歪虚は段々戦うのが嫌になってきた。もう腹は一杯になっているのだ。この上痛い思いをするのは割に合わない、とおぼろながらに論理的な思考をし、船から離れようとし始める。
だがその行動は、ルンルンによって先読みされていた。
「クククク、想定通りの展開ですね!」
彼女は悪役のように笑い、触手の一本にしかけていた地縛符を発動させる。
「そんなに船が好きなら、くっついちゃえ……ジュゲームリリカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術、カードを場に伏せて、そのままトラップ発動です!」
地縛符は、ちょうど接着剤のように作用した。粘ついた泥が触手と船板とを結び付けてしまう。
イカ歪虚は腕が引っ込められないことに焦った。ほかの触手を総動員して船体を押し、どうにか引きはがそうとする。
動きが止まった機を活かし、ザレムは、船に搭載してあった射出式の銛を手にする――本来はマグロやシイラ、マンボウといった大型魚に使うものだが、丈夫さからして、歪虚にも適用可能だ。
「よおーし、そのままそのまま」
銛がイカ歪虚の頭頂部に突き刺さった。
ついで、スラッシュアンカーも打ち込まれる。
イカは刺さってきたものを振り払おうと、大きく頭を振る。
ザレムはアンカーを巻き取った。宙に舞いながらデルタレイを放つ。
目玉と眉間をポイント攻撃されたイカは、暴れた。張り付いていた触手を力づくで引きちぎる。
反動で船が大きく傾いた。
「おっと、これはいかん」
レーヴェは綱をつけたまま、小さな操舵室に入った。丸い舵を握り、大きく回す。
「そーれ!」
船の姿勢が立て直された。
「何をやらせても一流じゃのう、わし。自分で自分の才能が怖いわい。よーそろー!」
その間にザレムは三角頭に張り付き、先に打ち込んでおいた銛を跨ぐ。体勢を整えるため。
「頭の上じゃ墨も届かないな」
うそぶいて背負った大剣を引き抜き、頭のてっぺんに振り下ろす。
えんぺらが割れる音がした。皮が破れ、墨とは違った体液が吹き出した。
そろそろ終わりが近い。そう悟ったまりおは触手への攻撃を止め、カチャにサムズアップ。
「じゃあ止めは任せたよ、カチャ」
「ふぇっ? わ、私が止めですか?」
「もちろん。流れ的に一番適役そうだし」
「そ、そうですか? じゃあ行かせてただきます!」
酔いのせいだろう。カチャはいつも以上にノリがよかった。デルタレイの一撃で焦げ目がついている眉間を狙って、突き。
イカの潰れかかった目がくわっと開いた。
切り残されていた短い触手が、カチャに思い切りぶち当たる。
「ふわっ!!」
弾き飛ばされたカチャは、船の舷を越え転げ落ちる。命綱があったため海にドボンとはならずにすんだが、宙づり状態だ。
「キャー! 落ちる落ちる落ちる!」
まりおは命綱を引っ張り、引き上げにかかる。
「おーい、大丈夫-?」
ルンルンは帽子の花飾りに触れつつ、ポーズを決めた。
「お花を取ってファイヤールンルン☆ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法火遁の術! 歪虚は消毒なんだからっ」
イカ歪虚の目と目の間に火焔符が張り付けられる。次に何が来るか察したザレムは、船に跳び移った。
「あべし!」
ルンルンの掛け声とともに護符が発動した。
イカ歪虚は炎に包まれ弾けとぶ。
消滅を確認したレーヴェは操舵室から顔を出し、皆に聞いた。
「これで任務完了したわけじゃが……このまますぐ港に戻ってよいかの?」
まりおに引っ張り上げられたカチャは、激しく頷いた。
「はいはいはいはい戻りましょう、今すぐ!」
が、残りの者――ザレム、メイム、まりお、ルンルンはというと。
「まあ待てよ。せっかくだから釣り直してから帰ろうぜ」
「ツキがきてるからね、勿体ないよ」
「収穫、イカに食べられちゃったしねー」
「クーラーボックスを再びいっぱいにするまでは帰れません!」
数が多い方の意見が勝つことは言うまでもない。
沈むカチャ。
メイムがその肩を叩く。
「カチャさん知ってる? 船酔いって水泳でも克服できるらしいよ。さっき海に落とさなかったあたしはやさしいほうだよねー?」
本当に泳いで帰ろうかなと、カチャは、ちょっとだけ思った。
●
「やっぱり海の幸は、新鮮さが命だよな」
ザレムは柳刃包丁を操り、刺し身を作っていく。魚の身は薄く、イカの身は細く。
「イカは完全に歪虚じゃったしスルメにはできんかったの」
「焼きイカにもならない歪虚の事は忘れましょう。ザレムさーん、鯛飯のお釜もう空けちゃっていいですかね」
「おー、そうだな、もういいぞ。身をほぐして交ぜてくれー」
「はーい」
釜の蓋が取られ、ほわほわ湯気が立ち上がる。何ともおいしそうな匂い。
まりおは、七輪の火起こし係。焼けているのはイカと魚。
もう一つの七輪では、ヤカンがしゅんしゅん言っている。
「おっ、沸いた沸いた」
メイムは鯛の切り身を乗せた白米の上に、あつあつのお茶をかけた。
「うん、おいしいっ」
ザレムが包丁片手に言う。
「もうすぐメインの鍋と大皿が出来るからな」
ルンルンは鯛飯をかき込み、うーん、と満足の声を上げる。
「カチャさん、とっても美味しいですよ」
呼びかけられたカチャは地面に転がったまま、無反応。
「スルメもあるぞ、カチャよ。食わんと無くなるぞ」
レーヴェが呼んでも無反応。五体投地し続ける。
その側にメイムが、そっとしゃがみこんだ。
「カチャさん、これを飲んで元気だしなよ」
渡してきたのは缶ビール。
ずるずる起き上がったカチャは黙ってそれを手に取り、ぷしゅっとプルタブを開けた。
こうして彼女は翌日、船酔いに勝るとも劣らない二日酔いに悩まされることになるのである。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は歓声を上げる。
「わーい、またまた大物が釣れましたー! 今日はもうバカヅキですよー! ルンルン忍法の勝利です!」
釣りと忍法がどう関係するのかは定かでないが、バカヅキなのは確かである。もっともそれは彼女に限ったことではない。メンバー全員がバカヅキ状態なのだ。
鯛にヒラメにカレイにシロギス、アイナメ、ハゼ、イカなど旬のものを総なめ状態。右舷だろうが左舷だろうがトモだろうがミヨシだろうが、糸を垂らせば必ず当たりが来る。クーラーボックスも船の生け簀も満杯状態。
そんな時であった、イカ歪虚イカイカーンが現れたのは。
●
イカ歪虚は船に張り付き、無数の目をギョロギョロさせながら、生け簀の魚を独り占め。
ザレム・アズール(ka0878)は憤慨した。釣った魚を横取りされたからというのはもちろんだが、それに加えて相手が、完全なる歪虚化を遂げていたからである。
「完全に歪虚になったら、食べられないじゃないか……とっとと片付けて美味い刺身を食べるぞ」
地下足袋を履いた足で踏ん張り、揺らされる船の上、重心を保つ。
そのすぐ脇をカチャが、無抵抗に転がって行った。
「おいおい、危ないぞ」
注意をされるも無反応なカチャ。船酔いになっているところ更に揺らされたことで、あえなくダウンしているらしい。
そこに、イカ歪虚の触手が伸びてきた。これも食べられるものかどうなのか調べてみようということらしい。
それに気づいたメイム(ka2290)はハンマーを振り回し、イカ歪虚の前に立ち塞がる。
「ふりぃぃず!」
鋭い咆哮に一瞬相手の動きが止まる。そこに鉄槌の連打。一番敏感そうな触手の先端を狙って。
痛かったのだろう、イカはハンマーの下から、急いで触手を引き抜いた。
己と帆柱との間に命綱を結んだレーヴェ・W・マルバス(ka0276)はカチャの襟首を捕まえ、引き寄せた。自分と同じように綱を結わえ落ちないようにしてやってから、呼びかける。
「これ、起きんかカチャや」
頬をぴたぴた叩く。顔をのぞき込む。
「起きんかい」
カチャの目は、腐ったサバのようだった。
(これは出すものを出させた方がいいのう……)
そう診断を下し、カチャの上体を起こす。海に向け袂に寄りかからせ、背中をさすってやる。触手がこちらに来ないよう、ライフルで牽制しながら。
「吐いてー、吐いたら少しは楽になるじゃろうて」
ザレムはイカ歪虚の注意を引くことに専念した。
巻き上げ機を背の支えにし、自身のクーラーボックスを手繰り寄せ、釣った魚を投げる。
「ほーらほら、こっちの魚は甘いぞー」
イカの食欲は激しかった。ボックスの中身が見る見る内に減って行く。
「あれ、もう終わりか?」
なので反対側の舷にいる超級まりお(ka0824)とルンルンから、急遽徴発。
「悪い! 2人とも、ボックスこっちに投げてくれ!」
「アイサー!」
まりおは特にこだわりなく、自身のクーラーボックスを投げよこした。
しかしルンルンは、ザレムの要請に及び腰。
「ええっ!? いやですよ、この中には私の明日の幸せが沢山詰まってるんですものー!」
そんな彼女のクーラーボックスを、横からまりおが取り上げる。
「大丈夫、また釣ればいいよ!」
「あーっ!」
補給物資を受け取ったザレムは、餌撒きを再会する。
目が多いだけに動体視力が優れているのか、イカ歪虚は投げられたものを全て正確にキャッチする。
釣った魚たちが貪り食われて行くのを目の当たりにしたルンルンは、怒りに震えた。思わずフーっ! と唸る。
「私の幸せを横取りするなんて、食べ物の恨みは恐ろしいんだからっ!」
直後、ふるふると頭を振る。
「いけないいけない……こんなことしてると、私も猫頭になっちゃいそうなのです」
気を取り直し扇符を広げ、きっと相手を見据える。
「目玉が一杯でとってもきしょいのです……お前なんか、目がー目がーってなっちゃえばいいんだからっ。ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花! 煌めいて☆星の花達」
五色の光がイカ歪虚を直撃した。
眩しかったらしい。イカ本来の目である部分に、下から膜がせり上がる。
ザレムはそれらの動きを冷静に眺め、分析した。
(あれにだけ瞼があるということは、ほかの部分より重要だからだろう。生物なら弱点は脳……確かイカの脳幹は、あの頭に見えるとんがり部分にじゃなく、目と目の間にあったはず。多分、こいつも……)
大まかなアタリをつけてから攻撃に移る。
まだ動きが鈍っている相手へ急接近。眉間目がけ放たれるデルタレイ。
イカ歪虚は触手で接近を阻もうとした。
三条の光線がその根元を直撃し、穴をあけた。
まりおはグレートソードで切りかかる。端っこの方から。
「えいやあ!」
短い触手が切り落とされた。
切れた触手はすぐには消えず、しばし激しくのたうち回る。
「本物ならイカソーメンにして踊り食い出来るんだけどねー」
うそぶく彼女にイカは、漏斗を向けた。
意図を察し素早く転進するまりお。だが、船の床板に当たり飛び散ってくる飛沫を、完全に避けることは出来なかった。
「あーっ! もう、シミがついちゃったー!」
シャツに散ったそれに鼻を近づけ、思わず身をよじる。
「うわ、くっさ! 生ぐさっ!」
ところでカチャは絶賛船酔い中。
「ほれ口を拭いて深呼吸」
レーヴェの尽力により出すものは全部出したのだが、なおむかつきが止まらない。
「おええ……口の中がずっぱいいい……誰か波をどめてええええ……」
「落ち着け、海は誰にも止められんでな。とにかくは、何かに捕まって揺れを抑えることじゃて。ほれ、このマストなど。なんなら私の胸を貸してやってもよいでな」
しゃがみこんでいる相手を抱っこするようにしながら、船酔い解消の心得を伝授するおかんドワーフ。
「手元を見るな。遠くを見るのじゃ。意識を他のことに集中させるのじゃ」
「ほがのこどっでどんな……」
「そうよのう……おおそうじゃ、おぬし借金があるのじゃろう? その返済について考えるのはどうじゃな? 後どのくらい稼げば完済出来るのかなー、とか」
「……余計よいぞうなんでずけど……」
そこに缶ビールを携えたメイムが滑り込んでくる。
「カチャさん、いいもの見つけたよ! さあ、酔いをもって酔いを制するんだ!」
と言うなりカチャの鼻をつまみ、首を引っ張り、口にビールを流し込む。
「さあカチャさんはお酒に酔っているだけだよ、まだまだ動ける。竹刀構えて♪」
カチャの目に生気が戻った。
「……ぬおおおお、船酔いなんか起こしている場合じゃありませんでした! 私には借金返済という大義があるのですっ! そのためには歪虚死すべしっ!」
「おう、その意気その意気」
もう大丈夫だと見たレーヴェは、イカへの攻撃に移った。
なるべく正確に射撃するために、揺れる船の上で腹ばいになり、ライフルを構える。船体の揺れに呼吸を合わせ、最も的にしやすい本体目がけ連射。
穿たれた目玉が次々弾ける。
イカ歪虚は怒った。触手を伸ばしレーヴェを叩こうとする。
ライフルを刀に持ち替え、それを斬り払うレーヴェ。
「わしの戦法は遠近両用じゃで!」
イカ歪虚は強く船に絡み付いた。締め付けられた船体が軋みを上げ始める。
「ちょっとちょっと何してんのイカ! この船借り物なんだから、傷めたら駄目だって!」
まりおは船板に張り付いた触手の上面を、剥ぐように切りつけた。下手に切断しようとすれば、船そのものも傷つけそうだったので。
カチャが竹刀を構え、突進してくる。
「食らえ目潰しー!」
無数の目玉の一つに、竹刀の先がブスッと刺さる。
かなり痛かったのだろう。イカはおのれ許せんとばかり、勢いよく墨を吐いた。
まりおほどの回避能力をもたないため、まともに頭からくらうカチャ。濃縮された磯臭さに船酔いがぶり返す。
「うっ……おええええ」
そんな彼女に発破をかけるザレム。
「奴をなんとかしないとまた酔うぞ」
彼はイカの懐目がけ飛び込んだ。盾をかざして至近距離から、攻性防御を発動させる。
雷電を纏う障壁が、容赦なくぬめった体にぶつかる。
加えてメイムが襲いかかる。鉄槌、鉄槌、さらに鉄槌。
イカ歪虚は段々戦うのが嫌になってきた。もう腹は一杯になっているのだ。この上痛い思いをするのは割に合わない、とおぼろながらに論理的な思考をし、船から離れようとし始める。
だがその行動は、ルンルンによって先読みされていた。
「クククク、想定通りの展開ですね!」
彼女は悪役のように笑い、触手の一本にしかけていた地縛符を発動させる。
「そんなに船が好きなら、くっついちゃえ……ジュゲームリリカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術、カードを場に伏せて、そのままトラップ発動です!」
地縛符は、ちょうど接着剤のように作用した。粘ついた泥が触手と船板とを結び付けてしまう。
イカ歪虚は腕が引っ込められないことに焦った。ほかの触手を総動員して船体を押し、どうにか引きはがそうとする。
動きが止まった機を活かし、ザレムは、船に搭載してあった射出式の銛を手にする――本来はマグロやシイラ、マンボウといった大型魚に使うものだが、丈夫さからして、歪虚にも適用可能だ。
「よおーし、そのままそのまま」
銛がイカ歪虚の頭頂部に突き刺さった。
ついで、スラッシュアンカーも打ち込まれる。
イカは刺さってきたものを振り払おうと、大きく頭を振る。
ザレムはアンカーを巻き取った。宙に舞いながらデルタレイを放つ。
目玉と眉間をポイント攻撃されたイカは、暴れた。張り付いていた触手を力づくで引きちぎる。
反動で船が大きく傾いた。
「おっと、これはいかん」
レーヴェは綱をつけたまま、小さな操舵室に入った。丸い舵を握り、大きく回す。
「そーれ!」
船の姿勢が立て直された。
「何をやらせても一流じゃのう、わし。自分で自分の才能が怖いわい。よーそろー!」
その間にザレムは三角頭に張り付き、先に打ち込んでおいた銛を跨ぐ。体勢を整えるため。
「頭の上じゃ墨も届かないな」
うそぶいて背負った大剣を引き抜き、頭のてっぺんに振り下ろす。
えんぺらが割れる音がした。皮が破れ、墨とは違った体液が吹き出した。
そろそろ終わりが近い。そう悟ったまりおは触手への攻撃を止め、カチャにサムズアップ。
「じゃあ止めは任せたよ、カチャ」
「ふぇっ? わ、私が止めですか?」
「もちろん。流れ的に一番適役そうだし」
「そ、そうですか? じゃあ行かせてただきます!」
酔いのせいだろう。カチャはいつも以上にノリがよかった。デルタレイの一撃で焦げ目がついている眉間を狙って、突き。
イカの潰れかかった目がくわっと開いた。
切り残されていた短い触手が、カチャに思い切りぶち当たる。
「ふわっ!!」
弾き飛ばされたカチャは、船の舷を越え転げ落ちる。命綱があったため海にドボンとはならずにすんだが、宙づり状態だ。
「キャー! 落ちる落ちる落ちる!」
まりおは命綱を引っ張り、引き上げにかかる。
「おーい、大丈夫-?」
ルンルンは帽子の花飾りに触れつつ、ポーズを決めた。
「お花を取ってファイヤールンルン☆ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法火遁の術! 歪虚は消毒なんだからっ」
イカ歪虚の目と目の間に火焔符が張り付けられる。次に何が来るか察したザレムは、船に跳び移った。
「あべし!」
ルンルンの掛け声とともに護符が発動した。
イカ歪虚は炎に包まれ弾けとぶ。
消滅を確認したレーヴェは操舵室から顔を出し、皆に聞いた。
「これで任務完了したわけじゃが……このまますぐ港に戻ってよいかの?」
まりおに引っ張り上げられたカチャは、激しく頷いた。
「はいはいはいはい戻りましょう、今すぐ!」
が、残りの者――ザレム、メイム、まりお、ルンルンはというと。
「まあ待てよ。せっかくだから釣り直してから帰ろうぜ」
「ツキがきてるからね、勿体ないよ」
「収穫、イカに食べられちゃったしねー」
「クーラーボックスを再びいっぱいにするまでは帰れません!」
数が多い方の意見が勝つことは言うまでもない。
沈むカチャ。
メイムがその肩を叩く。
「カチャさん知ってる? 船酔いって水泳でも克服できるらしいよ。さっき海に落とさなかったあたしはやさしいほうだよねー?」
本当に泳いで帰ろうかなと、カチャは、ちょっとだけ思った。
●
「やっぱり海の幸は、新鮮さが命だよな」
ザレムは柳刃包丁を操り、刺し身を作っていく。魚の身は薄く、イカの身は細く。
「イカは完全に歪虚じゃったしスルメにはできんかったの」
「焼きイカにもならない歪虚の事は忘れましょう。ザレムさーん、鯛飯のお釜もう空けちゃっていいですかね」
「おー、そうだな、もういいぞ。身をほぐして交ぜてくれー」
「はーい」
釜の蓋が取られ、ほわほわ湯気が立ち上がる。何ともおいしそうな匂い。
まりおは、七輪の火起こし係。焼けているのはイカと魚。
もう一つの七輪では、ヤカンがしゅんしゅん言っている。
「おっ、沸いた沸いた」
メイムは鯛の切り身を乗せた白米の上に、あつあつのお茶をかけた。
「うん、おいしいっ」
ザレムが包丁片手に言う。
「もうすぐメインの鍋と大皿が出来るからな」
ルンルンは鯛飯をかき込み、うーん、と満足の声を上げる。
「カチャさん、とっても美味しいですよ」
呼びかけられたカチャは地面に転がったまま、無反応。
「スルメもあるぞ、カチャよ。食わんと無くなるぞ」
レーヴェが呼んでも無反応。五体投地し続ける。
その側にメイムが、そっとしゃがみこんだ。
「カチャさん、これを飲んで元気だしなよ」
渡してきたのは缶ビール。
ずるずる起き上がったカチャは黙ってそれを手に取り、ぷしゅっとプルタブを開けた。
こうして彼女は翌日、船酔いに勝るとも劣らない二日酔いに悩まされることになるのである。
依頼結果
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相談卓 レーヴェ・W・マルバス(ka0276) ドワーフ|13才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/04/15 09:55:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/14 21:30:04 |