ゲスト
(ka0000)
【命魔】鬼の居ぬ間に襲いて
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,800
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/13 19:00
- 完成日
- 2016/04/28 15:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※こちらのシナリオは個別シナリオとなります。通常参加の各PCに個別リプレイが別に、納品されます。
なお、表示されているシリーズシナリオとしての続編は今後、リリースされません。ご参加の際はお間違えの無いようにご注意ください。
●ある者の娯楽
「さて、一気に暇になったね」
協力者である二人が出かけた後。歪虚――『錬金術の到達者』コーリアスは、暇を持て余していた。
――彼は、暇と言う物が嫌いだ。だが、同時に――それが必要な物であれば、厭わない。
「んー、今回はどの研究を進めるべきかな――ん?」
脳内で、進行中の研究を振り返っていたその時。彼は、異様な反応を――感知する。
「やれやれ、ネズミでも入り込んでしまったかなぁ?」
面倒そうな口ぶりでありながらも、その表情に、嫌な感じは――ない。
寧ろ、その表情は――まるで新しい娯楽を見つけた、子供のようで。
「余り――ここは荒らされたくないしね。後で言い訳はしにくいし」
目線は、机の上に置かれた、アレクサンドルの手記、そして『夢物語』たち。
既にアレクサンドル自身はそれらを暗記しているとは言え、取られれば面倒な事になる。
他にも入られたくない部屋はいくつかあるが……これに比べれば、どれも軽い物だ。
「さて、こういう時はどうするべきだったかな? ……そうだね、アレを起動しよう。確かまだ残っていたはず」
後ろに向かった彼は、幾つものカプセルを開放した。
中から出てきたのは――女性型のアンドロイドゴーレム。
だが、その動きはぎこちなく。
「やはり、『アレ』の力がないと自然にはいかない物だね。……ま、試作品だし、これでいいっか」
放たれたそれらは、一斉に四方へと散っていく。その数、八体。
――下された命令は、侵入者の探索、そして撃破。
●ブリーフィング
「さて、今回の依頼は、山中の洞窟にある、歪虚のアジトの探査です」
集められたハンターたちに、ロレント・フェイタリはそう切り出した。
「現状、大掛かりな作戦が他所で進行中ですからね。余り人手は裂けません。ですが――それは敵も同じです」
今、歪虚たちによる大掛かりな作戦が進行中だ。ハンターオフィスの殆どは、その対処に追われている。だが、作戦が終了すれば、それぞれの歪虚がその拠点に帰るだろう。そうなれば――簡単には進入はできなくなる。つまり――チャンスは今しかない、と言う事だ。
「けれど、それを抜きにしても、今回は危険です。――付近に、歪虚『コーリアス』の反応が出ています」
前回の作戦――ロレントも関わったそれで、ハンターたちはコーリアスの身体組織の一部を手に入れる事に成功していた。それを用いて錬金術師協会では研究が進み、その結果ある程度、コーリアスの反応を探知する事が出来ていたのである。――最も、正確な位置を特定する程の物ではなく、飽くまでも『近隣区域に居るかどうか』程度ではあったが。
「それに対抗する為のもう一つの手段が、これです」
渡されたのは、二丁の拳銃のような物。
「これは一発打ち切りですが――コーリアスの錬金術を受けた物体に当たれば、その効果を無効化し、元の物質に戻します」
但し、何時までこれが通用するか、分からない――と、ロレントは語る。
コーリアスがこの銃を解析すれば、逆に己の用いる理論を変え、銃の効果を無効化する事も可能だと言う。
「だから――使うかどうかは、あなた方次第です」
何を目指すのか。何を望むのか――
――全ては、ハンターたちに委ねられた。
なお、表示されているシリーズシナリオとしての続編は今後、リリースされません。ご参加の際はお間違えの無いようにご注意ください。
●ある者の娯楽
「さて、一気に暇になったね」
協力者である二人が出かけた後。歪虚――『錬金術の到達者』コーリアスは、暇を持て余していた。
――彼は、暇と言う物が嫌いだ。だが、同時に――それが必要な物であれば、厭わない。
「んー、今回はどの研究を進めるべきかな――ん?」
脳内で、進行中の研究を振り返っていたその時。彼は、異様な反応を――感知する。
「やれやれ、ネズミでも入り込んでしまったかなぁ?」
面倒そうな口ぶりでありながらも、その表情に、嫌な感じは――ない。
寧ろ、その表情は――まるで新しい娯楽を見つけた、子供のようで。
「余り――ここは荒らされたくないしね。後で言い訳はしにくいし」
目線は、机の上に置かれた、アレクサンドルの手記、そして『夢物語』たち。
既にアレクサンドル自身はそれらを暗記しているとは言え、取られれば面倒な事になる。
他にも入られたくない部屋はいくつかあるが……これに比べれば、どれも軽い物だ。
「さて、こういう時はどうするべきだったかな? ……そうだね、アレを起動しよう。確かまだ残っていたはず」
後ろに向かった彼は、幾つものカプセルを開放した。
中から出てきたのは――女性型のアンドロイドゴーレム。
だが、その動きはぎこちなく。
「やはり、『アレ』の力がないと自然にはいかない物だね。……ま、試作品だし、これでいいっか」
放たれたそれらは、一斉に四方へと散っていく。その数、八体。
――下された命令は、侵入者の探索、そして撃破。
●ブリーフィング
「さて、今回の依頼は、山中の洞窟にある、歪虚のアジトの探査です」
集められたハンターたちに、ロレント・フェイタリはそう切り出した。
「現状、大掛かりな作戦が他所で進行中ですからね。余り人手は裂けません。ですが――それは敵も同じです」
今、歪虚たちによる大掛かりな作戦が進行中だ。ハンターオフィスの殆どは、その対処に追われている。だが、作戦が終了すれば、それぞれの歪虚がその拠点に帰るだろう。そうなれば――簡単には進入はできなくなる。つまり――チャンスは今しかない、と言う事だ。
「けれど、それを抜きにしても、今回は危険です。――付近に、歪虚『コーリアス』の反応が出ています」
前回の作戦――ロレントも関わったそれで、ハンターたちはコーリアスの身体組織の一部を手に入れる事に成功していた。それを用いて錬金術師協会では研究が進み、その結果ある程度、コーリアスの反応を探知する事が出来ていたのである。――最も、正確な位置を特定する程の物ではなく、飽くまでも『近隣区域に居るかどうか』程度ではあったが。
「それに対抗する為のもう一つの手段が、これです」
渡されたのは、二丁の拳銃のような物。
「これは一発打ち切りですが――コーリアスの錬金術を受けた物体に当たれば、その効果を無効化し、元の物質に戻します」
但し、何時までこれが通用するか、分からない――と、ロレントは語る。
コーリアスがこの銃を解析すれば、逆に己の用いる理論を変え、銃の効果を無効化する事も可能だと言う。
「だから――使うかどうかは、あなた方次第です」
何を目指すのか。何を望むのか――
――全ては、ハンターたちに委ねられた。
リプレイ本文
●侵入
「……僕も少し、油断が過ぎていた様だね」
中央の部屋で、コーリアスは一人、そう呟く。
余りにも想定が甘過ぎた。この山奥の拠点が、そう簡単に見つかるはずがない。そう考えていたが故の油断。
既にプロト・マティリアたちは巡回を開始したとは言え……事前準備をしていなかったが故に、そう簡単に侵入者たちの場所を特定する事は出来ない。
だが、コーリアスの表情に焦りはなく。――寧ろ、ある程度の楽しみが、彼の顔には浮かんでいた。
「――そうじゃなきゃ、面白くはないからね」
刺激を求める彼にとって、予想外の事態とは恐れるべき物ではない。寧ろ、楽しむべきチャンスだ。
『侵入者』たちは、如何なる楽しみを与えてくれるのだろうか。そう考えながら、コーリアスは……巡回するプロトマティリアたちに、指示を出し始めた。
――正南方。
「……警戒して臨まねばな」
ここに居る敵の怖さは、知っていた。
何せ、彼によって――自身は片腕を失ったのだから。
強く。義手である方の拳を握り。慎重に、クローディオ・シャール(ka0030)は歩みを進める。
「……そうか。……構造はほぼ一致しているか」
トランシーバーからの味方の連絡に従い、手元の紙に、地図を書き込んでいく。
――そこで、彼は己に近づく、足音に気づく。機械的な――鉄と鉄がぶつかり合うようなその足音は、決して味方の物ではない。壁の裏に隠れて息を潜め、じっと敵が通り過ぎるのを、彼は待つ。
『クローディオさん?』
「!」
トランシーバーから響く声。
クローディオ自身は、物音を立てぬよう、十分に注意を払っていた。だが、それはトランシーバーの相手側に居る味方には伝わっていなかったのである。
トランシーバーの音に気づき、くるりと。無機質な動きで、機械人形は振り返る。
「仕方ないか……!」
轟音を立てて突進してくる機械人形に、クローディオもまた、迎撃の腹を決める。
盾を構え、振り下ろされた手刀を受け止める!
ガン。
機械人形の力は弱くはない。だが、数々の激戦を潜り抜けてきたクローディオの体力と腕力、そして経験が、その一撃を受け流した。
「……んのぉ……!」
強く。地が揺れるほどに、足に力を入れて踏みしめる。
その反動を、足を通して腰、そして肩――最後に盾を持った腕に通す。
全ての力を、強烈な衝撃力に変換し、盾に込めて押し込む!
ドカッ。
吹き飛ぶ機械人形が、壁に叩きつけられる。
今の内、と言わんばかりに、即座に反転してその場を離脱する。
だが、機械人形もまた……人に出来ないような、関節の制限に反した奇妙な動きで立ち上がり、即座に追いかけてくる。
クローディオの速度は、並みのハンターのそれを上回る。故に距離は縮まっていない。だが……追いかけられている状態に於いては地図の作成はままならず、このままではジリ貧に他ならない。
(どこかで撒かなければな)
クローディオの思考は然し、正面から突進してきた人影に遮られる事になる。
●酒宴と条件と
「ま、虎穴に入りゃなんとやら、だな」
北西側から進入したのは、探検家である紫月・海斗(ka0788)。彼にとって、この様な建築物は遺跡も同様。心躍る、遺跡なのである。
……但し、危険な守護者たちがうろついている、と言うおまけつきではあるのだが。
入って直ぐ、周囲を見渡す。
「こーいう時は、大体中央に何かあるって決まってるもんだ」
クローディオの地図が作られる前から、彼の冒険家としての直感は、目標の場所を示していた。
故に彼はわき目も振らず、一直線に中央の部屋へと向かっていく!
ガチャ。
壁の裏に隠れながら静かに、裏手で中央の部屋の扉を押し開ける。
「いらっしゃい、と言うべきかなぁ? ……僕の部屋に、何の用だい?」
その声に、海斗はそれが――この建築物の主であろう歪虚である事を、悟る。
今更逃げても彼はそれを許しはしまい。何より――折角宝の山を前にして、何も取らずに逃げたのでは――探検家の名が廃るだろう。
「客人だ。手荒に扱わないで欲しいもんだな」
「それはまた奇怪だね。僕も結構長く生きてきているけど、こそこそと他人の家に入る『客人』と言うのは初めて見るね」
「んじゃ、以後覚えておくこったな。ほれ。お土産も持ってきた――だんな、酒はいけるクチかい?」
取り出したるは、日本酒の一升瓶。そして――
「ツマミは月餅だ、美味いぞ」
「さて、客に注がせてもなんだからね。僕が注ごう」
そう言って、とくとくと、海斗が持ってきた器それぞれに、酒を注ぐコーリアス。
それを手に取り、
「乾杯」
――人と歪虚が、共に杯を取る奇妙な光景。
だが、それは決して、両者が思惑を持たぬ事を示すわけではない。
バタン。
扉が、独りでに閉じる。
かくして、危険極まりない会談は、始まったのであった。
●どたばた劇
――バタン。
扉を開けて、南東側から進入したチョココ(ka2449)が出てくる。その手には、大量の紙の束。発見した何かの資料だろうか。
「うんしょ、うんしょ……」
さすがに量が多い。取捨選択が出来ない以上、ありったけの全てを持っていくしかない。
だが、それでは動きが取り難くなるのもまた真実。そして――ゴーレムが徘徊するこの地に於いては、それは致命的になる。
ガシャン。
「ひゃぁ!」
聞こえてきた機械音に、紙を1枚、取り落とす。急いで物陰に隠れるが――地面にある紙に気づいたアンドロイドゴーレムが接近する。
紙を拾い上げ、周囲を見るゴーレムに、このまま隠し通す事は不可能と言う事を悟る。
「先手必勝ですわー!」
物陰から奇襲で放たれる氷弾。その冷気によりアンドロイドゴーレムの動きが鈍った一瞬を突き、資料を抱えてダッシュで逃げるチョココ。
「わわっ!」
だが、大量の資料はバランスを不安定にさせる。零れ落ちた紙を拾おうとした瞬間、追いついたアンドロイドの正拳が、チョココを捉える。
「あうっ!?」
強烈な衝撃力に吹き飛ばされる。さすが機械、腕力も相当の物なのだろう。資料の一部が、散る。
だが、距離は離れた。即座に右手を翳すチョココ。
「ここで捕まる訳にはいきませんのー!」
巨大な壁が立ち上がる。それが通路を封鎖し――アンドロイドゴーレムの追撃を阻む。
「ふう……」
何とか目の前の窮地は脱した。だが、壁が破壊されるのは時間の問題。
すぐさま振り向き、一目散に逃げ出す。
然しその前の曲がり角を曲がった瞬間。巡回していた別のアンドロイドゴーレムが、彼女に向かってきていた。
「うきゃっ!?」
「――大丈夫だ、私が居る!」
そこへ颯爽と、盾を構えたクローディオが滑り込み、一撃を受け止める。その盾撃がアンドロイドゴーレムを押し戻した直後、更に後ろから浴びせられる氷の弾丸。一瞬の冷気がその動きを止めた隙に、脇下にチョココを抱え、猛然とダッシュするクローディオ。
窮地は脱した。然し……手元に残った資料は、3枚ほど。
●Danger Area
「――なら、力づくしかねぇよな」
交渉は決裂した。故に、海斗は動き出す。
目の前の敵は、決して力づくで、自分一人で押し切れる物ではない。故に――目的のみを果たして、さっさと撤退すべきだ。
「ぐぅ……!?」
だが、立ち上がり目的の場所へと駆け出そうとした瞬間、目の前がくらっとする。
「回り始めたね」
腕を組んだまま、笑うコーリアス。
「強行で来なければ、このまま客として送り返すつもりだったんだけどね」
自身は決して酒に弱い訳ではない。ならば目の前の者が何かしたと言う事か。今のこの時間まで発動しなかったと言う事は……条件発動、あるいは時限性か。
「……毒か?」
「ある意味ではそうだろうね。……激しく動くと、発動するのさ」
「そうかい……」
絶体絶命の状況でありながら、笑みを浮かべた海斗。
懐に手を忍ばせ、『奥の手』に手を掛ける。
ボン。服で隠しているが、それは『銃』。己に打ち込むと言う事は、それなりの痛みを伴う事になる。
眉をしかめる。だが、痛みを代償に、意識は急激に晴れ始める。
「へーぇ。中々面白い事をするね」
僅かな音、そして効果が解除された事に、コーリアスが眉を吊り上げる。今の一手は――彼の『興味』を猛烈に引いたようだ。
身体の自由を取り戻した海斗は、そのまま机の上にある本に手を掛ける。
「さっさと逃げればよかったんだけどねぇ」
「物手に入ったらずらかるわな」
そのまま本を持ち上げ、後退しようとする。だが……その瞬間、足に痛みを感じる。
――見れば、足が地面から生えた槍に串刺しにされていた。地面を錬金されたのか。
「逃げないのを見て……僕が何もしないで待ってると思うかい?」
そのまま、扉に手を掛けるコーリアス。錬金で、扉を封鎖する。
「さて、少し、遊ばせてもらおうかな。どうやって僕の術を解いたのか、興味があるしね」
手をわきわきさせて、コーリアスは、海斗に近づいていた。
一方。逃走していたクローディオ、そしてチョココは……3体目のアンドロイドゴーレムと遭遇していた。
「通れそうにないか」
今度の敵は、道を塞ぐ様にして立っている。後退しようにも、遠く後方には土の壁、そして追いかけるゴーレムが居る筈だ。このままでは突破できない。
「仕方ない……っ!?」
強行突破をクローディオが腹に決めた、その直後。
アンドロイドゴーレムの『背中』を、冷気弾が襲った。
「手伝ってください……壊します!」
到着したのは、北側から突入していたメトロノーム・ソングライト(ka1267)。
アンドロイドゴーレムから逃げ回る内に、クローディオとチョココは、建物の北西まで、回りこんでいたのだ。
頷いて、二人とも、思考を逃げる事から、アンドロイドの破壊に――切り替える。
――振り下ろされる手刀を、クローディオが受け止める。
直後、チョココのアイスボルトが、ゴーレムの動きを鈍らせる。
然しそれが効いたのは僅か一瞬。次の瞬間、バイクモードに変形したゴーレムが、猛烈な推力を以ってしてクローディオを突き飛ばし、摩擦熱で冷気を中和しながらチョココに一直線に突進する。
「うひゃぁ!」
とっさに目の前に土の壁を立てるチョココ。直後に、彼女が横に跳んだのとほぼ同時に、バイクに変形したゴーレムがその土壁を突き破る。加速度もあり、相当の威力があった事が伺える。
だが、それもまた、メトロノームの計算の内。壁が破壊されたその一瞬を見計らって、彼女は貯めていた魔力を解き放つ。
歌によって呼び出されるは、雷の神獣。それは一直線に奔り、正面からバイクと激突する!
「……!!」
だが、それでも突進の勢いは弱まらず、方向転換したそれは、そのままメトロノームに激突。突き飛ばす。
「大丈夫か」
癒しの光をメトロノームに飛ばすクローディオ。
立ち上がる彼女は、同様に変形したアンドロイドゴーレムに相対する。
敵の損傷は軽くはない。自分もダメージはあるものの、クローディオの回復術があれば…倒す事は難しくはない。
突進してくる敵に、再度土の壁を展開する。突破した敵に、更に雷の神獣をぶつける。
体当たりが再度直撃する事になるが…アンドロイドゴーレムは、変形したまま、そのままの勢いで壁に衝突。動かなくなる。
「よし、このまま回収して――」
メトロノームがそれに近づいた瞬間。
「危ない!」
クローディオが彼女をかばい、横に跳ぶ。
――彼女を襲ったのは、爆発。電撃系攻撃を浴びせすぎたせいでどこかがショートしたのか。あるいは。
――最初から自爆装置が仕込まれていたのか。
爆発が収まった時。ゴーレムのボディと頭部の大半は破壊されており、残っていたのは片腕と片足のみ。
それを拾い上げるメトロノーム。
「……もう少し、欲しいかもしれませんね」
●セカンドチャンス
「やれやれ……千客万来、と言った所ですかね」
扉の錬金を解除した直後、新たな訪問者の気配を感じ。とりあえず、キャビネットの様な物体を練成し、倒れた海斗をその中に包むようにして隠すコーリアス。
「――!」
部屋に踏み込んだ瞬間。アニス・エリダヌス(ka2491)の表情が変わる。
或いは目の前の歪虚に遭遇せずに、情報を得られれば――と思ったが、そうも行かないようだ。
覚悟を決める。
「戦うつもりはありません」
そう、宣言する。
「そうか。じゃあ、何をしに着たんだい?」
「――知りたい事が、あるんです」
目線が向くのは、机の上にある、アレクサンドルの手記。
「情報には代償が伴う物だ。貴公は、僕に何を与えてくれるんだい?」
「!」
――話術のみで己の欲する物を得るには、『使えるカード』が足りていない。
コーリアスの興味を十分に引けなかったのだ。
「やれやれ、『つまらない』ね……」
コーリアスが最も嫌うのは、『面白みのない』物。その点では、交渉を望みながら要素を用意しなかったアニスは、彼の逆鱗に触れたと言えよう。
故に彼は、即座に――攻撃行動に移った。
放たれるのは、空気を固めた刃。それを横に跳んで回避するアニス。
そのまま椅子を蹴り、その反動を以って前方へ跳ぶ。狙うは机の上にある、その手記――!
「させないよ」
アニスの手が手記に掛かると同時に、コーリアスの手も、また彼女の腕に掛かった。即座に黄金と化して行く腕。
――コーリアスは、『つまらない』と彼が判断した相手には容赦はない。
海斗がこの技を受けなかったのは、一重にその『共に酒を飲む』と言う行動を、彼が『面白い』と判断したからだ。
「く――!」
だがこういう状況の為に、彼女は奥の手を保持していた。
即座に懐の特殊拳銃のトリガーを引き、自身の腹部に打ち込む。
――手が、元に戻っていく。そのまま光の杭を生成し、逆にコーリアスの腕に打ち込む。
彼の動きが止まった、その一瞬を狙って、手記を掴み、後退するが――
「けど、その手なら――僕も使える」
ドン、と地面を踏み、突き上がる槍を生成する。それがアニスの足を貫き、彼女の動きをも――止める。――海斗にも使った、あの技だ。
「さぁ、お互い動けなくなった事だし、殴り合いと行こうか」
笑いながら、コーリアスは――空中に、無数の透明の槍を生成した。
――コーリアスを前にして、正攻法で目的を果たすつもりだったのならば、味方の到着を待ち同時に動くべきだったのだろう。
――そして、1対1になってしまったのならば。特殊拳銃を使い切った後は、逃げる事に集中し、書類の奪取は放棄すべきだったのだろう。
――欲するのは悪い事ではない。ただし力持つ者の前では…欲は致命的な『弱点』とも成りえるのである。
●探索者
「――応答しろ」
「どうした……っと、わりぃ、こっちも取り込み中でな」
クローディオの呼びかけに答えたのは、柊 真司(ka0705)のみ。しかもその後ろからは爆発音が聞こえる。アニスと海斗からの回答は――ない。
「ったく、しつこい……!」
生成した雷撃の障壁で、弾き返す。だが、機械の体に痺れを走らせたのは僅か一瞬。すぐさま自由を取り戻したアンドロイドゴーレムが、再度真司を追う。
――バイクを使用したのが、多くのアンドロイドゴーレムが彼を追う理由だ。バイクは騒音を伴う。故に彼は全潜入者の内――最も位置が特定しやすかったのだ。
「これで打ち止めか――!」
最後の一発の攻性障壁を打ち込む。距離を離した瞬間、更に火炎による目晦まし。視界から消えたその瞬間、横にある部屋に滑り込む。
「ふう。何とか撒いたか」
扉を閉め、回りを見渡す。
――どうやらここも、資料室のようだ。
一方。
残ったアンドロイドゴーレムのパーツをクローディオとチョココに預け、メトロノームもまた、コーリアスの前に辿りつく。
「戦うつもりはありません。……ですが、交渉したい事が」
「ほう。さっきの子も同じ事を言っていたけど――今はそこで寝ているね」
指差したその先には、倒れたアニスと、海斗。
メトロノームの顔色が一気に険しくなる。仲間を傷つけられて、平然と出来るわけがない。
だが、それでも彼女は努めて平静に、言葉を紡ぐ。
――仲間の命までもが、自身の言葉一つに、掛かっているのかもしれないのだから。
――交渉は、難航していた。
飽くまでも代償を求めるコーリアスに対して、それを出さずに、人形のほかのパーツを得ようとするメトロノーム。
仲間たちもコーリアスの手の内にある以上、迂闊な事は出来ない。
だが、その瞬間、メトロノームは、扉の影から様子を伺う、真司の姿を捉えていた。
彼の動きに合わせるようにして、注意を引くがごとく。わざとらしい身振りで、コーリアスに語りかける。
「そうですか……それでは仕方ないですね。この件はなかった事に」
次の瞬間、高速で駆け出した真司が、一瞬にして海斗とアニスを拾い上げる。
「悪いが今日はアンタとやり合うつもりは無くてな。このまま帰らせて貰うわ」
――もしも仕掛けてきたのならば、攻性防壁展開の用意があった。メトロノームもまた、味方を助け出すためならば、手出しも厭わなかった。
だが、コーリアスは手を出さず、ただ、真司が後退するのを、見送っただけだった。
「中々に面白い話をさせてもらったお礼に、今帰るのならば手出しはしないさ」
真司が撤退した後。そう、コーリアスはメトロノームに語りかける。
「だけど……それが限界だね。……若しもこれ以上何かを望むのであれば、交渉は決裂。僕の全力を以って貴公を捕縛して――交渉条件として使わせてもらう事になる。それでいいのかな?」
――結果として、メトロノームは撤退する事になる。仲間全員の安全な撤退には変えられないからだ。
クローディオの吹く笛の音を頼りに、ハンターたちはアジトから撤退する。
●コーリアスの片付け
「さて……ずいぶんと荒らして行ってくれた物だね」
焼かれた資料はいくつか。そちらは問題ではない。何故なら既に、『製品』は彼の頭の中にある。
奪われた資料もいくつか。こちらは多少、気になる物の……それこそメトロノームの言ったように、何を作ってくれるのか、楽しみではある。
それに――
「面白いおもちゃが得られたしね」
手にあったのは、人が彼の錬金術に対抗するため作り出した、武装。
「これを分析すれば――もっと面白い事ができそうだ」
錬金術の到達者たる歪虚は、そう、微笑んだ。
「……僕も少し、油断が過ぎていた様だね」
中央の部屋で、コーリアスは一人、そう呟く。
余りにも想定が甘過ぎた。この山奥の拠点が、そう簡単に見つかるはずがない。そう考えていたが故の油断。
既にプロト・マティリアたちは巡回を開始したとは言え……事前準備をしていなかったが故に、そう簡単に侵入者たちの場所を特定する事は出来ない。
だが、コーリアスの表情に焦りはなく。――寧ろ、ある程度の楽しみが、彼の顔には浮かんでいた。
「――そうじゃなきゃ、面白くはないからね」
刺激を求める彼にとって、予想外の事態とは恐れるべき物ではない。寧ろ、楽しむべきチャンスだ。
『侵入者』たちは、如何なる楽しみを与えてくれるのだろうか。そう考えながら、コーリアスは……巡回するプロトマティリアたちに、指示を出し始めた。
――正南方。
「……警戒して臨まねばな」
ここに居る敵の怖さは、知っていた。
何せ、彼によって――自身は片腕を失ったのだから。
強く。義手である方の拳を握り。慎重に、クローディオ・シャール(ka0030)は歩みを進める。
「……そうか。……構造はほぼ一致しているか」
トランシーバーからの味方の連絡に従い、手元の紙に、地図を書き込んでいく。
――そこで、彼は己に近づく、足音に気づく。機械的な――鉄と鉄がぶつかり合うようなその足音は、決して味方の物ではない。壁の裏に隠れて息を潜め、じっと敵が通り過ぎるのを、彼は待つ。
『クローディオさん?』
「!」
トランシーバーから響く声。
クローディオ自身は、物音を立てぬよう、十分に注意を払っていた。だが、それはトランシーバーの相手側に居る味方には伝わっていなかったのである。
トランシーバーの音に気づき、くるりと。無機質な動きで、機械人形は振り返る。
「仕方ないか……!」
轟音を立てて突進してくる機械人形に、クローディオもまた、迎撃の腹を決める。
盾を構え、振り下ろされた手刀を受け止める!
ガン。
機械人形の力は弱くはない。だが、数々の激戦を潜り抜けてきたクローディオの体力と腕力、そして経験が、その一撃を受け流した。
「……んのぉ……!」
強く。地が揺れるほどに、足に力を入れて踏みしめる。
その反動を、足を通して腰、そして肩――最後に盾を持った腕に通す。
全ての力を、強烈な衝撃力に変換し、盾に込めて押し込む!
ドカッ。
吹き飛ぶ機械人形が、壁に叩きつけられる。
今の内、と言わんばかりに、即座に反転してその場を離脱する。
だが、機械人形もまた……人に出来ないような、関節の制限に反した奇妙な動きで立ち上がり、即座に追いかけてくる。
クローディオの速度は、並みのハンターのそれを上回る。故に距離は縮まっていない。だが……追いかけられている状態に於いては地図の作成はままならず、このままではジリ貧に他ならない。
(どこかで撒かなければな)
クローディオの思考は然し、正面から突進してきた人影に遮られる事になる。
●酒宴と条件と
「ま、虎穴に入りゃなんとやら、だな」
北西側から進入したのは、探検家である紫月・海斗(ka0788)。彼にとって、この様な建築物は遺跡も同様。心躍る、遺跡なのである。
……但し、危険な守護者たちがうろついている、と言うおまけつきではあるのだが。
入って直ぐ、周囲を見渡す。
「こーいう時は、大体中央に何かあるって決まってるもんだ」
クローディオの地図が作られる前から、彼の冒険家としての直感は、目標の場所を示していた。
故に彼はわき目も振らず、一直線に中央の部屋へと向かっていく!
ガチャ。
壁の裏に隠れながら静かに、裏手で中央の部屋の扉を押し開ける。
「いらっしゃい、と言うべきかなぁ? ……僕の部屋に、何の用だい?」
その声に、海斗はそれが――この建築物の主であろう歪虚である事を、悟る。
今更逃げても彼はそれを許しはしまい。何より――折角宝の山を前にして、何も取らずに逃げたのでは――探検家の名が廃るだろう。
「客人だ。手荒に扱わないで欲しいもんだな」
「それはまた奇怪だね。僕も結構長く生きてきているけど、こそこそと他人の家に入る『客人』と言うのは初めて見るね」
「んじゃ、以後覚えておくこったな。ほれ。お土産も持ってきた――だんな、酒はいけるクチかい?」
取り出したるは、日本酒の一升瓶。そして――
「ツマミは月餅だ、美味いぞ」
「さて、客に注がせてもなんだからね。僕が注ごう」
そう言って、とくとくと、海斗が持ってきた器それぞれに、酒を注ぐコーリアス。
それを手に取り、
「乾杯」
――人と歪虚が、共に杯を取る奇妙な光景。
だが、それは決して、両者が思惑を持たぬ事を示すわけではない。
バタン。
扉が、独りでに閉じる。
かくして、危険極まりない会談は、始まったのであった。
●どたばた劇
――バタン。
扉を開けて、南東側から進入したチョココ(ka2449)が出てくる。その手には、大量の紙の束。発見した何かの資料だろうか。
「うんしょ、うんしょ……」
さすがに量が多い。取捨選択が出来ない以上、ありったけの全てを持っていくしかない。
だが、それでは動きが取り難くなるのもまた真実。そして――ゴーレムが徘徊するこの地に於いては、それは致命的になる。
ガシャン。
「ひゃぁ!」
聞こえてきた機械音に、紙を1枚、取り落とす。急いで物陰に隠れるが――地面にある紙に気づいたアンドロイドゴーレムが接近する。
紙を拾い上げ、周囲を見るゴーレムに、このまま隠し通す事は不可能と言う事を悟る。
「先手必勝ですわー!」
物陰から奇襲で放たれる氷弾。その冷気によりアンドロイドゴーレムの動きが鈍った一瞬を突き、資料を抱えてダッシュで逃げるチョココ。
「わわっ!」
だが、大量の資料はバランスを不安定にさせる。零れ落ちた紙を拾おうとした瞬間、追いついたアンドロイドの正拳が、チョココを捉える。
「あうっ!?」
強烈な衝撃力に吹き飛ばされる。さすが機械、腕力も相当の物なのだろう。資料の一部が、散る。
だが、距離は離れた。即座に右手を翳すチョココ。
「ここで捕まる訳にはいきませんのー!」
巨大な壁が立ち上がる。それが通路を封鎖し――アンドロイドゴーレムの追撃を阻む。
「ふう……」
何とか目の前の窮地は脱した。だが、壁が破壊されるのは時間の問題。
すぐさま振り向き、一目散に逃げ出す。
然しその前の曲がり角を曲がった瞬間。巡回していた別のアンドロイドゴーレムが、彼女に向かってきていた。
「うきゃっ!?」
「――大丈夫だ、私が居る!」
そこへ颯爽と、盾を構えたクローディオが滑り込み、一撃を受け止める。その盾撃がアンドロイドゴーレムを押し戻した直後、更に後ろから浴びせられる氷の弾丸。一瞬の冷気がその動きを止めた隙に、脇下にチョココを抱え、猛然とダッシュするクローディオ。
窮地は脱した。然し……手元に残った資料は、3枚ほど。
●Danger Area
「――なら、力づくしかねぇよな」
交渉は決裂した。故に、海斗は動き出す。
目の前の敵は、決して力づくで、自分一人で押し切れる物ではない。故に――目的のみを果たして、さっさと撤退すべきだ。
「ぐぅ……!?」
だが、立ち上がり目的の場所へと駆け出そうとした瞬間、目の前がくらっとする。
「回り始めたね」
腕を組んだまま、笑うコーリアス。
「強行で来なければ、このまま客として送り返すつもりだったんだけどね」
自身は決して酒に弱い訳ではない。ならば目の前の者が何かしたと言う事か。今のこの時間まで発動しなかったと言う事は……条件発動、あるいは時限性か。
「……毒か?」
「ある意味ではそうだろうね。……激しく動くと、発動するのさ」
「そうかい……」
絶体絶命の状況でありながら、笑みを浮かべた海斗。
懐に手を忍ばせ、『奥の手』に手を掛ける。
ボン。服で隠しているが、それは『銃』。己に打ち込むと言う事は、それなりの痛みを伴う事になる。
眉をしかめる。だが、痛みを代償に、意識は急激に晴れ始める。
「へーぇ。中々面白い事をするね」
僅かな音、そして効果が解除された事に、コーリアスが眉を吊り上げる。今の一手は――彼の『興味』を猛烈に引いたようだ。
身体の自由を取り戻した海斗は、そのまま机の上にある本に手を掛ける。
「さっさと逃げればよかったんだけどねぇ」
「物手に入ったらずらかるわな」
そのまま本を持ち上げ、後退しようとする。だが……その瞬間、足に痛みを感じる。
――見れば、足が地面から生えた槍に串刺しにされていた。地面を錬金されたのか。
「逃げないのを見て……僕が何もしないで待ってると思うかい?」
そのまま、扉に手を掛けるコーリアス。錬金で、扉を封鎖する。
「さて、少し、遊ばせてもらおうかな。どうやって僕の術を解いたのか、興味があるしね」
手をわきわきさせて、コーリアスは、海斗に近づいていた。
一方。逃走していたクローディオ、そしてチョココは……3体目のアンドロイドゴーレムと遭遇していた。
「通れそうにないか」
今度の敵は、道を塞ぐ様にして立っている。後退しようにも、遠く後方には土の壁、そして追いかけるゴーレムが居る筈だ。このままでは突破できない。
「仕方ない……っ!?」
強行突破をクローディオが腹に決めた、その直後。
アンドロイドゴーレムの『背中』を、冷気弾が襲った。
「手伝ってください……壊します!」
到着したのは、北側から突入していたメトロノーム・ソングライト(ka1267)。
アンドロイドゴーレムから逃げ回る内に、クローディオとチョココは、建物の北西まで、回りこんでいたのだ。
頷いて、二人とも、思考を逃げる事から、アンドロイドの破壊に――切り替える。
――振り下ろされる手刀を、クローディオが受け止める。
直後、チョココのアイスボルトが、ゴーレムの動きを鈍らせる。
然しそれが効いたのは僅か一瞬。次の瞬間、バイクモードに変形したゴーレムが、猛烈な推力を以ってしてクローディオを突き飛ばし、摩擦熱で冷気を中和しながらチョココに一直線に突進する。
「うひゃぁ!」
とっさに目の前に土の壁を立てるチョココ。直後に、彼女が横に跳んだのとほぼ同時に、バイクに変形したゴーレムがその土壁を突き破る。加速度もあり、相当の威力があった事が伺える。
だが、それもまた、メトロノームの計算の内。壁が破壊されたその一瞬を見計らって、彼女は貯めていた魔力を解き放つ。
歌によって呼び出されるは、雷の神獣。それは一直線に奔り、正面からバイクと激突する!
「……!!」
だが、それでも突進の勢いは弱まらず、方向転換したそれは、そのままメトロノームに激突。突き飛ばす。
「大丈夫か」
癒しの光をメトロノームに飛ばすクローディオ。
立ち上がる彼女は、同様に変形したアンドロイドゴーレムに相対する。
敵の損傷は軽くはない。自分もダメージはあるものの、クローディオの回復術があれば…倒す事は難しくはない。
突進してくる敵に、再度土の壁を展開する。突破した敵に、更に雷の神獣をぶつける。
体当たりが再度直撃する事になるが…アンドロイドゴーレムは、変形したまま、そのままの勢いで壁に衝突。動かなくなる。
「よし、このまま回収して――」
メトロノームがそれに近づいた瞬間。
「危ない!」
クローディオが彼女をかばい、横に跳ぶ。
――彼女を襲ったのは、爆発。電撃系攻撃を浴びせすぎたせいでどこかがショートしたのか。あるいは。
――最初から自爆装置が仕込まれていたのか。
爆発が収まった時。ゴーレムのボディと頭部の大半は破壊されており、残っていたのは片腕と片足のみ。
それを拾い上げるメトロノーム。
「……もう少し、欲しいかもしれませんね」
●セカンドチャンス
「やれやれ……千客万来、と言った所ですかね」
扉の錬金を解除した直後、新たな訪問者の気配を感じ。とりあえず、キャビネットの様な物体を練成し、倒れた海斗をその中に包むようにして隠すコーリアス。
「――!」
部屋に踏み込んだ瞬間。アニス・エリダヌス(ka2491)の表情が変わる。
或いは目の前の歪虚に遭遇せずに、情報を得られれば――と思ったが、そうも行かないようだ。
覚悟を決める。
「戦うつもりはありません」
そう、宣言する。
「そうか。じゃあ、何をしに着たんだい?」
「――知りたい事が、あるんです」
目線が向くのは、机の上にある、アレクサンドルの手記。
「情報には代償が伴う物だ。貴公は、僕に何を与えてくれるんだい?」
「!」
――話術のみで己の欲する物を得るには、『使えるカード』が足りていない。
コーリアスの興味を十分に引けなかったのだ。
「やれやれ、『つまらない』ね……」
コーリアスが最も嫌うのは、『面白みのない』物。その点では、交渉を望みながら要素を用意しなかったアニスは、彼の逆鱗に触れたと言えよう。
故に彼は、即座に――攻撃行動に移った。
放たれるのは、空気を固めた刃。それを横に跳んで回避するアニス。
そのまま椅子を蹴り、その反動を以って前方へ跳ぶ。狙うは机の上にある、その手記――!
「させないよ」
アニスの手が手記に掛かると同時に、コーリアスの手も、また彼女の腕に掛かった。即座に黄金と化して行く腕。
――コーリアスは、『つまらない』と彼が判断した相手には容赦はない。
海斗がこの技を受けなかったのは、一重にその『共に酒を飲む』と言う行動を、彼が『面白い』と判断したからだ。
「く――!」
だがこういう状況の為に、彼女は奥の手を保持していた。
即座に懐の特殊拳銃のトリガーを引き、自身の腹部に打ち込む。
――手が、元に戻っていく。そのまま光の杭を生成し、逆にコーリアスの腕に打ち込む。
彼の動きが止まった、その一瞬を狙って、手記を掴み、後退するが――
「けど、その手なら――僕も使える」
ドン、と地面を踏み、突き上がる槍を生成する。それがアニスの足を貫き、彼女の動きをも――止める。――海斗にも使った、あの技だ。
「さぁ、お互い動けなくなった事だし、殴り合いと行こうか」
笑いながら、コーリアスは――空中に、無数の透明の槍を生成した。
――コーリアスを前にして、正攻法で目的を果たすつもりだったのならば、味方の到着を待ち同時に動くべきだったのだろう。
――そして、1対1になってしまったのならば。特殊拳銃を使い切った後は、逃げる事に集中し、書類の奪取は放棄すべきだったのだろう。
――欲するのは悪い事ではない。ただし力持つ者の前では…欲は致命的な『弱点』とも成りえるのである。
●探索者
「――応答しろ」
「どうした……っと、わりぃ、こっちも取り込み中でな」
クローディオの呼びかけに答えたのは、柊 真司(ka0705)のみ。しかもその後ろからは爆発音が聞こえる。アニスと海斗からの回答は――ない。
「ったく、しつこい……!」
生成した雷撃の障壁で、弾き返す。だが、機械の体に痺れを走らせたのは僅か一瞬。すぐさま自由を取り戻したアンドロイドゴーレムが、再度真司を追う。
――バイクを使用したのが、多くのアンドロイドゴーレムが彼を追う理由だ。バイクは騒音を伴う。故に彼は全潜入者の内――最も位置が特定しやすかったのだ。
「これで打ち止めか――!」
最後の一発の攻性障壁を打ち込む。距離を離した瞬間、更に火炎による目晦まし。視界から消えたその瞬間、横にある部屋に滑り込む。
「ふう。何とか撒いたか」
扉を閉め、回りを見渡す。
――どうやらここも、資料室のようだ。
一方。
残ったアンドロイドゴーレムのパーツをクローディオとチョココに預け、メトロノームもまた、コーリアスの前に辿りつく。
「戦うつもりはありません。……ですが、交渉したい事が」
「ほう。さっきの子も同じ事を言っていたけど――今はそこで寝ているね」
指差したその先には、倒れたアニスと、海斗。
メトロノームの顔色が一気に険しくなる。仲間を傷つけられて、平然と出来るわけがない。
だが、それでも彼女は努めて平静に、言葉を紡ぐ。
――仲間の命までもが、自身の言葉一つに、掛かっているのかもしれないのだから。
――交渉は、難航していた。
飽くまでも代償を求めるコーリアスに対して、それを出さずに、人形のほかのパーツを得ようとするメトロノーム。
仲間たちもコーリアスの手の内にある以上、迂闊な事は出来ない。
だが、その瞬間、メトロノームは、扉の影から様子を伺う、真司の姿を捉えていた。
彼の動きに合わせるようにして、注意を引くがごとく。わざとらしい身振りで、コーリアスに語りかける。
「そうですか……それでは仕方ないですね。この件はなかった事に」
次の瞬間、高速で駆け出した真司が、一瞬にして海斗とアニスを拾い上げる。
「悪いが今日はアンタとやり合うつもりは無くてな。このまま帰らせて貰うわ」
――もしも仕掛けてきたのならば、攻性防壁展開の用意があった。メトロノームもまた、味方を助け出すためならば、手出しも厭わなかった。
だが、コーリアスは手を出さず、ただ、真司が後退するのを、見送っただけだった。
「中々に面白い話をさせてもらったお礼に、今帰るのならば手出しはしないさ」
真司が撤退した後。そう、コーリアスはメトロノームに語りかける。
「だけど……それが限界だね。……若しもこれ以上何かを望むのであれば、交渉は決裂。僕の全力を以って貴公を捕縛して――交渉条件として使わせてもらう事になる。それでいいのかな?」
――結果として、メトロノームは撤退する事になる。仲間全員の安全な撤退には変えられないからだ。
クローディオの吹く笛の音を頼りに、ハンターたちはアジトから撤退する。
●コーリアスの片付け
「さて……ずいぶんと荒らして行ってくれた物だね」
焼かれた資料はいくつか。そちらは問題ではない。何故なら既に、『製品』は彼の頭の中にある。
奪われた資料もいくつか。こちらは多少、気になる物の……それこそメトロノームの言ったように、何を作ってくれるのか、楽しみではある。
それに――
「面白いおもちゃが得られたしね」
手にあったのは、人が彼の錬金術に対抗するため作り出した、武装。
「これを分析すれば――もっと面白い事ができそうだ」
錬金術の到達者たる歪虚は、そう、微笑んだ。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓です メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/04/13 09:52:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/09 06:21:20 |