ゲスト
(ka0000)
過去の呪縛から解放を!
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/04/15 07:30
- 完成日
- 2016/04/22 05:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※未来に刻む勝利を 第5話 オープニングの続き※
●龍尾城の一室
鳴月 牡丹(kz0180)は自信満々の表情を湛えながら部屋へと入った。
一歩進む毎に豊満なそれが揺れる。
(お、お、大きい……)
思わずごくりと、紡伎 希(kz0174)は唾を飲み込む。
おまけに服装もスリットが深く入っており、大人の色香漂っている。
かと言って、女性らしさだけではなく、どこかしら、男性らしさも感じられるのは、その態度だろうか。
「僕の名は、牡丹。武家四十八家門第五家門 鳴月家の者だ」
わざと低い声を出しているような、そんな感じだった。
差し出された手は女性的ではあったが、ゴツゴツしているようにも見える。
「ハンターズ・ソサエティの受付嬢 紡伎 希です」
一礼してから手を握った。
「早速だが、今回の作戦、よろしくな」
「えと……」
なんの事か分からず助けを求めるように視線を立花院 紫草 (kz0126)に向ける希。
「実は、牡丹には、長江西で編成と訓練中の、とある部隊を率いてもらっている」
「長江西と言いますと……十鳥城から見ると、東側の方角ですね」
チョコレート解放戦線の際、ハンター達によって制圧した一帯である。
そこを拠点とし、部隊の編成と訓練を行っているのだ。
「僕が率いる部隊は今後、ある作戦の為の兵力なんだけど、今回、十鳥城解放のお手伝いに特別、向かう事になった」
「災狐の軍勢と戦うのですか?」
驚く希に対して、紫草が首を横に振った。
「あくまでも戦力を消耗させるつもりはありません。もっとも、最悪の場合は、十鳥城への侵攻という形にはなるかもしれませんが。重要なのは、牡丹の部隊を速やかに十鳥城内へと入城させる事です」
「……つまり、災狐が狙っている方法を、そっくりそのまま私達も行うという事ですか」
希の言葉に牡丹は頷きながら応えた。
「そういう事。僕が部隊を率いて、城へ迫る災狐本隊の軍勢を牽制しつつ、住民らの一斉蜂起が成功したら城門から堂々と入城するのさ。もちろん、物資も一緒に」
十鳥城に潜伏している災狐の配下らは、隙を見て城門を解放させ、本隊を入れるつもりなのだ。
ならば、逆に潜伏している災狐の配下を討伐し、住民による一斉蜂起で城門を解放させる。そこへ部隊を入城させる。こうなれば、さしもの災狐本隊の軍勢も、うかつには手を出せないはずだ。
なにしろ、十鳥城は歪虚勢力によって周囲を囲まれても落ちなかった防御力の高い城なのだから。
「……人が悪いです。紫草様」
「申し訳ない。少し、試したかったのだ。今回の作戦、無事に終わったら、ぜひとも、次の仕事を依頼したい」
微笑んだ紫草の顔を見て、ぷくっと頬を膨らませる希だった。
●城下町の一角
十鳥城と城下町は数十年間、堕落者であり城主である矢嗚文熊信の支配下にあった。
数名のハンター達の活躍により、城内の状況把握、そして、矢嗚文との武闘会までこぎ着けた。
「あとは、潜伏していた災狐の配下による襲撃を迎え撃てば……」
大轟寺蒼人は本国からの知らせの手紙を読んいた。
武闘会当日に奴らが襲いかかって来るのは分かっている。蒼人は代官、住民らと共に自衛の為、武装蜂起。
その勢いのまま、城を解放する為、城門を開けて、女将軍 鳴月牡丹が率いる部隊を引き入れるのだ。
「矢嗚文との決着はハンター達に任せるとして、こちらは犠牲者をどれだけ抑えられるかが問題だ」
眼鏡の位置をクイクイっと中指で直す蒼人。
もっとも、彼に出来る事はと言えば、災狐の配下を打ち倒す事だけだ。
「……それに、今回は、希ちゃんも一緒だしー!」
肩を並べて一緒に戦うわけではないが、それでも、株をあげるにはこういう機会しかないだろう。
「もう、諦めた方が良いですよ」
連絡係の男が冷めた口調で言った。
蒼人の話しをあの少女にすると気味悪そうな顔をするのだ。脈なしだろう。
「そんな訳にはいないかい! あのヒラヒラのスカートの中には夢が詰まっているのだから!」
「だから、それがいけないと思うのです」
当日、大丈夫かなと不安になる連絡係であった。
●闇市場の一角
「援軍か……心強いな」
代官が作戦内容が記載された書状を確認して口を開いた。
連邦国の部隊だけではない。自衛のための武装蜂起に合わせて、ハンター達を派遣するという。
「直接、歪虚と戦う者達、負傷した者を診る者達、戦闘能力のない者を護衛する者達……行う事は多いからな」
今は一人でも力を持つ者が欲しい。
ハンター達にはそれぞれの判断で動いて貰う事にした。代官はハンターなる者がよく分からないからだ。
「独自に動いた方が、力を発揮できるだろうし、な」
代官は代官で行う事がある。
それは、蜂起した住民達を指揮する事ではない。
「一匹でも多くの歪虚を討伐する。それが、代官たる俺の役目」
万が一、武闘会でハンター達が敗れる事があっても、住民達の被害を抑える事ができれば、必ず、次のチャンスはある。
最悪、災狐の目論見さえ凌げば問題ないのだ。
「……命に代えても、必ず!」
酒が入った壺を呷ると、それを壁に向かって投げつけた。
長年愛用していた壺だが、惜しくはない。もはや、賽は投げられたのだから。
●過去の呪縛
数十年前、歪虚勢力に周囲を囲まれた十鳥城と城下町。
高い塀と深い掘りによって落城する事は無かったが、周囲を囲まれ援軍も望めない状況に陥った。数年は保ったとされているが、このままだと全滅する事を危惧した城主 矢嗚文熊信は歪虚の軍門に下る。
その際の契約は、『十鳥城の支配者である者』だった。結果的に矢嗚文は堕落者として十鳥城を支配し続けた。
不定期に行われる支配者との戦いは、年月が経つにつれ、生き残った住民の重みとなってくる。ある者は死を覚悟し、ある者は無理矢理連れていかれ、また、ある時は、幼い子供や老人を送りだした。
「それが、この十鳥城に住む人々の『絶望』だったのですね……」
希が声を落としながら呟いた。
矢嗚文は住民らを守る為に自身を『堕落者』と化した。だが、それは同時に十鳥城に住む人々にとっては『呪い』でもあったのだ。
呪いは、生き残っている人々の奥底に暗く蠢いている。
「だからこそ、紫草様は、『一人一人の変革』に拘ったのですか」
住民一人一人が乗り越えなくてはならない壁なのだ。
蜂起という行動を成功に導くことこそ、彼らを本当に救う一歩なのだ。
希は二丁の拳銃を構えた。利き手に持ったのは大切な人から戴いた魔導拳銃「マーキナ」。もう片方の手に持ったのは、オキナから餞別に貰った魔導拳銃剣「エルス」。
服装もいつもの受付嬢の制服ではない。真っ赤なゴシックドレスに身を包んでいる。
「一人でも多くの人を、災狐の悪の手から守ってみせます」
希の決意は、嵐の前の静けさを予感させる十鳥城の城下町へと向けられていた。
●龍尾城の一室
鳴月 牡丹(kz0180)は自信満々の表情を湛えながら部屋へと入った。
一歩進む毎に豊満なそれが揺れる。
(お、お、大きい……)
思わずごくりと、紡伎 希(kz0174)は唾を飲み込む。
おまけに服装もスリットが深く入っており、大人の色香漂っている。
かと言って、女性らしさだけではなく、どこかしら、男性らしさも感じられるのは、その態度だろうか。
「僕の名は、牡丹。武家四十八家門第五家門 鳴月家の者だ」
わざと低い声を出しているような、そんな感じだった。
差し出された手は女性的ではあったが、ゴツゴツしているようにも見える。
「ハンターズ・ソサエティの受付嬢 紡伎 希です」
一礼してから手を握った。
「早速だが、今回の作戦、よろしくな」
「えと……」
なんの事か分からず助けを求めるように視線を立花院 紫草 (kz0126)に向ける希。
「実は、牡丹には、長江西で編成と訓練中の、とある部隊を率いてもらっている」
「長江西と言いますと……十鳥城から見ると、東側の方角ですね」
チョコレート解放戦線の際、ハンター達によって制圧した一帯である。
そこを拠点とし、部隊の編成と訓練を行っているのだ。
「僕が率いる部隊は今後、ある作戦の為の兵力なんだけど、今回、十鳥城解放のお手伝いに特別、向かう事になった」
「災狐の軍勢と戦うのですか?」
驚く希に対して、紫草が首を横に振った。
「あくまでも戦力を消耗させるつもりはありません。もっとも、最悪の場合は、十鳥城への侵攻という形にはなるかもしれませんが。重要なのは、牡丹の部隊を速やかに十鳥城内へと入城させる事です」
「……つまり、災狐が狙っている方法を、そっくりそのまま私達も行うという事ですか」
希の言葉に牡丹は頷きながら応えた。
「そういう事。僕が部隊を率いて、城へ迫る災狐本隊の軍勢を牽制しつつ、住民らの一斉蜂起が成功したら城門から堂々と入城するのさ。もちろん、物資も一緒に」
十鳥城に潜伏している災狐の配下らは、隙を見て城門を解放させ、本隊を入れるつもりなのだ。
ならば、逆に潜伏している災狐の配下を討伐し、住民による一斉蜂起で城門を解放させる。そこへ部隊を入城させる。こうなれば、さしもの災狐本隊の軍勢も、うかつには手を出せないはずだ。
なにしろ、十鳥城は歪虚勢力によって周囲を囲まれても落ちなかった防御力の高い城なのだから。
「……人が悪いです。紫草様」
「申し訳ない。少し、試したかったのだ。今回の作戦、無事に終わったら、ぜひとも、次の仕事を依頼したい」
微笑んだ紫草の顔を見て、ぷくっと頬を膨らませる希だった。
●城下町の一角
十鳥城と城下町は数十年間、堕落者であり城主である矢嗚文熊信の支配下にあった。
数名のハンター達の活躍により、城内の状況把握、そして、矢嗚文との武闘会までこぎ着けた。
「あとは、潜伏していた災狐の配下による襲撃を迎え撃てば……」
大轟寺蒼人は本国からの知らせの手紙を読んいた。
武闘会当日に奴らが襲いかかって来るのは分かっている。蒼人は代官、住民らと共に自衛の為、武装蜂起。
その勢いのまま、城を解放する為、城門を開けて、女将軍 鳴月牡丹が率いる部隊を引き入れるのだ。
「矢嗚文との決着はハンター達に任せるとして、こちらは犠牲者をどれだけ抑えられるかが問題だ」
眼鏡の位置をクイクイっと中指で直す蒼人。
もっとも、彼に出来る事はと言えば、災狐の配下を打ち倒す事だけだ。
「……それに、今回は、希ちゃんも一緒だしー!」
肩を並べて一緒に戦うわけではないが、それでも、株をあげるにはこういう機会しかないだろう。
「もう、諦めた方が良いですよ」
連絡係の男が冷めた口調で言った。
蒼人の話しをあの少女にすると気味悪そうな顔をするのだ。脈なしだろう。
「そんな訳にはいないかい! あのヒラヒラのスカートの中には夢が詰まっているのだから!」
「だから、それがいけないと思うのです」
当日、大丈夫かなと不安になる連絡係であった。
●闇市場の一角
「援軍か……心強いな」
代官が作戦内容が記載された書状を確認して口を開いた。
連邦国の部隊だけではない。自衛のための武装蜂起に合わせて、ハンター達を派遣するという。
「直接、歪虚と戦う者達、負傷した者を診る者達、戦闘能力のない者を護衛する者達……行う事は多いからな」
今は一人でも力を持つ者が欲しい。
ハンター達にはそれぞれの判断で動いて貰う事にした。代官はハンターなる者がよく分からないからだ。
「独自に動いた方が、力を発揮できるだろうし、な」
代官は代官で行う事がある。
それは、蜂起した住民達を指揮する事ではない。
「一匹でも多くの歪虚を討伐する。それが、代官たる俺の役目」
万が一、武闘会でハンター達が敗れる事があっても、住民達の被害を抑える事ができれば、必ず、次のチャンスはある。
最悪、災狐の目論見さえ凌げば問題ないのだ。
「……命に代えても、必ず!」
酒が入った壺を呷ると、それを壁に向かって投げつけた。
長年愛用していた壺だが、惜しくはない。もはや、賽は投げられたのだから。
●過去の呪縛
数十年前、歪虚勢力に周囲を囲まれた十鳥城と城下町。
高い塀と深い掘りによって落城する事は無かったが、周囲を囲まれ援軍も望めない状況に陥った。数年は保ったとされているが、このままだと全滅する事を危惧した城主 矢嗚文熊信は歪虚の軍門に下る。
その際の契約は、『十鳥城の支配者である者』だった。結果的に矢嗚文は堕落者として十鳥城を支配し続けた。
不定期に行われる支配者との戦いは、年月が経つにつれ、生き残った住民の重みとなってくる。ある者は死を覚悟し、ある者は無理矢理連れていかれ、また、ある時は、幼い子供や老人を送りだした。
「それが、この十鳥城に住む人々の『絶望』だったのですね……」
希が声を落としながら呟いた。
矢嗚文は住民らを守る為に自身を『堕落者』と化した。だが、それは同時に十鳥城に住む人々にとっては『呪い』でもあったのだ。
呪いは、生き残っている人々の奥底に暗く蠢いている。
「だからこそ、紫草様は、『一人一人の変革』に拘ったのですか」
住民一人一人が乗り越えなくてはならない壁なのだ。
蜂起という行動を成功に導くことこそ、彼らを本当に救う一歩なのだ。
希は二丁の拳銃を構えた。利き手に持ったのは大切な人から戴いた魔導拳銃「マーキナ」。もう片方の手に持ったのは、オキナから餞別に貰った魔導拳銃剣「エルス」。
服装もいつもの受付嬢の制服ではない。真っ赤なゴシックドレスに身を包んでいる。
「一人でも多くの人を、災狐の悪の手から守ってみせます」
希の決意は、嵐の前の静けさを予感させる十鳥城の城下町へと向けられていた。
リプレイ本文
●アルト・ヴァレンティーニ (ka3109)
城下町を一人のハンターがフラフラと歩んでいる。
全身は血や泥で汚れ、刀先を引きずっていた。
「……分かった。この地区を抜けて掩護に行く」
トランシーバーから聞こえてくる救援要請に応えながらアルトは周囲の警戒を続ける。
アルトは負傷者を装って、敵を誘っているのだ。効果あり、既に幾体か葬ってきていた。
(……2……いや、3、か)
頬の血糊を伸ばしながら、敵の数を数える。
突如、左脇から犬の形をした歪虚が噛みついてきた。
盾で受け止めると同時に瞬時に刀先を閃かせ歪虚の首を刎ねた。
一瞬の事で残り2体は襲いかかる相手を間違えたと気がつかないままアルトに向かって飛びかかる。
「私を相手にして、逃げられると思うなよ?」
俊敏性がある敵だが、アルトの動きの方がいくつも上手だ。盾を使うまでもなく敵の攻撃を避けると、手首を返し刀先を二閃。
襲いかかってきた歪虚はそれだけで塵と崩れた。
アルトは表情を変えず、静かに納刀すると救援要請のあった場所に向かって城下町を疾風の如く走りだす。
十鳥城を巡る戦いは始まったばかりなのだから。
●只野知留子 (ka0274)+アクエリア・ルティス (ka6135)+大轟寺蒼人
「技量の過不足なく、効率的に戦わないと無用な被害がでます」
知留子の言葉に蒼人は唸りながら口を開く。
「戦略上、必要な拠点の制圧は外せない」
かつての詰め所の建物をいくつか指で差した蒼人。
住民達の武装蜂起は成った。数十名からなる住民達はハンター達に割り振りされている。今は具体的な進軍先の調整を行っているのだ。限られた戦力である。無駄には出来ない。
「……城門からの連絡なのね。ありがとう」
二人のやりとりの中、アクエリアが連絡のメモ用紙を受け取ると、それを二人が覗きこんでいる地図上に滑らせる。二人の合間にぴったりと止まる。
メモには、城門付近での歪虚や雑魔の目撃数が増えている事が記されていた。恐らく、なにかの前兆なはずだ。
城門の外にはエトファリカ連邦国の軍勢が入城の為に待機している。このままだと城門は主戦場の一つとなり得る可能性は極めて高い。
「避難エリア周辺には一隊のみ。残りの隊は詰め所奪還と城門援護、これでいいか?」
「歪虚勢力の討伐は私達の仲間任せという事でしょうか?」
城下町に災狐の配下がどれだけ潜んでいるか分からない。
武装蜂起と共にそれらを排除しなくては、今後に多大な悪影響を残すのは明白だ。
「……代官と連絡がつかないが、きっと、討伐に向かっていると思う」
蒼人が唇を噛みながら応えた。
本来ならば、ここで指揮を執っていてもおかしくない人物だ。
「一応、討伐に向かっている仲間達に連絡しておくね」
トランシーバーを手にしてアクエリアが言った。
連絡が無事に届くかどうか分からない上に、代官なる人物と遭遇できる可能性も低いだろう。
「それでは、私達は行って来ますね」
キュッと音を立てて踵を返した知留子に、蒼人が声をかけてきた。
「助言ありがとう……彼らを頼みます」
「……はい。アクエリア様、行きましょう」
蜂起を志願した住民達は覚悟の上だろう。だが、勇気ある住民達を守ると強く決意し、知留子は仲間に呼び掛けた。
「みんな、がんばりましょう!」
アクエリアが笑顔で拳を振り上げた。
事は動きだせば、早いはずだ。十鳥城の解放に向けて、武装蜂起した住民達はハンターらの先導の下、要所へと進撃を開始したのであった。
●イッカク (ka5625)&金鹿 (ka5959)&里見 茜 (ka6182)
「…あ゛? なんだ、おまえ。鬼か」
眉間に皺を寄せながら言い放ったイッカクの台詞に茜が両肩を竦めた。
鬼である故に余計な確執になるかもと思い角を隠して人間として参加したはずが、いきなり見破られた。それも、同じ鬼種族の人に。
「えへへ、つい癖で!」
「……へぇ」
正体を見破っておきながら興味なさそうなイッカクの反応に茜が跳ねて抗議の声をあげた。
「い、今、私の事、子供っぽいって思ったでしょ!」
二人の身長差はかなりある。
見降ろす形になっている事もあり茜がそう感じたのも無理はない。
「久々に『地元』の空気を吸っている所、騒ぐんじゃねぇ」
「むぅ」
頬を膨らませる茜を一瞥し、イッカクは周囲を何気なく見渡した。
金の為とはいえ『地元』である東方に戻って来るとは、二度と吸えないと思っていただけに感慨深いものがある。
「お二人とも、東方の地にゆかりのある鬼なのですか? 私も東方生まれですわ」
いかにもお嬢様育ちという様相で金鹿が二人に呼び掛けた。
「少しでも同胞の為に出来ることがあればと思います」
微笑を浮かべて言った金鹿の台詞にイッカクが悪態をつきながら城門を睨んだ。
「そうかい。言っておくが、俺は金の為だ」
「……分かりましたですの」
イッカクの言葉にニッコリと笑う金鹿。
「気に喰わない女だ。さっさと術を使いやがれ」
「金鹿さん、よろしくお願いします!」
二人の鬼が武器をそれぞれ獲物を構えた。
城門の制圧に向かったハンター達のうち、後衛職からの遠距離攻撃が突撃の合図となっているからだ。
「五行の理を持って、無間の輪廻を表す蝶よ、煌めく珠と成れ! 胡蝶符!」
符を掲げ術を唱えた金鹿が蝶に似た光弾を城門前に蔓延る歪虚へと放った。
●レーヴェ・W・マルバス (ka0276)―閏 (ka5673)―夜桜 奏音 (ka5754)
「一緒に頑張りましょうね、ノゾミさん。……え? 南東方向ですね。分かりました」
避難エリアの防衛にあたっていた奏音はトランシーバーからの連絡を受けていた。
視線を避難所で作業中である仲間に向ける。
「一斉蜂起の名に皆団結しておる。くく、良い良い。士気は大事じゃ」
避難していた住民達の表情にレーヴェは満足そうであった。
ハンター達が訪れた避難所の1つである。当初は不安そうな顔をしていたのだが、レーヴェの呼び掛けで奮起。それぞれが出来る事を行い始めた。
「それでは、俺は行きますので……残りのおにぎり、よろしくお願いします」
オニギリをまだ握っておきそうな雰囲気を発しながら、閏は一緒に握っていた住民達へ頭を下げた。
避難所では大量の炊き出しの準備に追われていたからだ。腹が減っては戦はできぬ。
ハンター達やハンターオフィス経由で持ち込まれた食材。住民達の残り少ない食材。それらを合わせての炊き出しだ。
(……住民達は覚悟を決めた。必ず、皆さんをお守りします)
食材を使い切るというのは、覚悟の表れだ。十鳥城の解放が成さなければ、彼らには飢えが待っている。
それでも、蜂起をした同胞と、命を掛けて駆け付けたハンター達、城の外で待つ援軍の為に避難所の住民達は一丸となっていた。
炊き出しだけではなく避難所自体のバリケードも住民達は構築している。
「各自、己が自信もって出来ることをやり遂げよ。いざという時は、木鎚で打ち鳴らして知らせるのじゃ」
レーヴェが鐘や金属板を探し出して設置していく。
万が一、避難所に敵が現れた際には、立て篭もって時間を稼いでもらう算段である。
住民達との分かれを終えた二人に奏音が呼び掛けた。
「敵を南東方面で発見した報告が入りました。レーヴェさん、閏さん、参りましょう」
避難エリアから見て南東方向に現れた災狐配下の歪虚達は群れながら駆ける。
小さい掘りに架かる小橋を勢いそのままに渡ろうとした時だった。
「俺に出来る事と言えばこれ位しか、ないですから。皆さんを護る為に俺は戦います」
小橋を塞ぐように立った閏が符を1つ取り出した。
「六行の天則に従い、熱き火よ、焼き尽くす炎となり、魔を滅せよ! 火炎符!」
火の精霊力が付与された符が先頭を走ってくる犬歪虚に直撃する。
驚き、戸惑って立ち止まった群れに向かって、奏音が複数枚の符を投げつけた。
それらは光り輝く結界となり、結界内の歪虚を焼いた。
「これ以上先には行かせませんよ」
強力な符術によって瀕死に追い込まれる犬歪虚共。
動きが鈍った所で、マテリアルの弾丸が雨霰の如く降り注いだ。
「一網打尽、じゃろう」
レーヴェが撃ったものだ。
瞬く間に幾体もの犬歪虚が塵と化した。閏がホッとしたのも束の間、奥の路地から更に犬歪虚共が沸き出してきた。
「閏、代わるのじゃ!」
ライフルを立て掛けたまま、片手に拳銃、もう片方の方に彼女自身が製錬し鍛えたナイフを持ってレーヴェが進みでた。
符術師である閏では前線は支えきれないと判断しての事だ。
「だ、だけど……っ」
「心配無用のう。ドワーフ嘗めんなし、じゃ」
飛びかかってきた犬歪虚を足蹴りして吹き飛ばすと威嚇で拳銃を放つ。
「それでは、お願いします。俺は……術を!」
「符術師の力、見せつけてやりましょう」
後退した閏に奏音が符を構えたまま呼び掛けた。
ここでハンター達が引けば避難所まで障害はないのだ。絶対に通さないと奏音は決意を込めて、次の術を放った。
●龍崎・カズマ (ka0178)
城下町の至る所で戦闘が始まっている。
特に激戦なのは城門付近だろう。城門を開こうと集ったハンター達とそれを防ぐために災狐配下の犬歪虚との戦いだ。
「つまり、敵も馬鹿じゃないって事だ」
カズマは一人呟きながら、絶火槍を杖代わりにしていた。
真っ赤に染まった包帯から血の匂いが漂うが、怪我をしている訳ではない。怪我人を装っているのだ。これで、犬歪虚を誘いだろうという事だ。
その包帯は怪我をした住民から貰った。
「出やがったな」
廃墟街から城門へと向かういくつもの路地の1つで彼は城門に向かう犬歪虚を遊撃していたのだ。
運が良かったのか、かなりの数の犬歪虚と遭遇し、それを彼は一人で抹殺していた。
囲まれない様に逃げる振りをして、絶火槍にマテリアルを込めて投げつける。
その隙に別の犬歪虚が迫る。武器を投げて丸裸とでも思ったのだろうか。
「残念、だったな」
投げたはずだった槍は手元に戻っていた。
驚いた様に、ポカーンと開けている犬歪虚に口に、カズマは槍先を叩き込んだ。
●七夜・真夕 (ka3977)&ルンルン・リリカル・秋桜 (ka5784)
二人は蜂起した住民達と共に、かつて詰め所であった場所へと進軍していた。
「怪我した人は下がって治療を! 大丈夫、皆で支えよう!」
敵の攻撃により負傷した住民に向かって真夕が叫んだ。そして、自身が最前線に躍り出る。
犬歪虚が詰め所に引き籠っていたのだ。
「みんな、絶対生きてこの町を取り戻しちゃいましょう! 恐れず、無理せず、大胆にです☆」
双丘を派手に揺らしながらルンルンが身振りと共に近くの台の上に飛び乗った。
街の地形をぐるりと確認して少しでも優位になるようにと見渡す。
「そうです。無理はしないで、絶対生き残りましょう」
真夕も魔法陣を描きながら同じ様に呼び掛ける。
その時、詰め所の脇路地から犬歪虚が奇襲を仕掛けたきた。
「ここでトラップカード発動☆ 今です!」
不可視の結界が展開され、路地一帯の足元が泥状となった。
こうなると、さすがに俊敏性が高い犬歪虚でも身動きが鈍くなる。
そこに住民達が槍の穂先を並べて一斉に襲いかかった。これなら、歪虚を倒す事ができるだろう。
「反対側からもワラワラと。ここは、私が!」
マテリアルで宙に描いた魔法陣が完成。同時にエンブレムナイフを突き出すと先端から稲妻が迸った。
路地で一列になっていた犬歪虚らはまさに格好の餌食。
「こちらは封鎖してしまいましょう」
続いて真夕は次の魔法を唱え始める。
「……大地よ、絶対なる不動なる壁となり、我らを万物から遮れ!」
路地が土の壁に塞がる犬歪虚の奇襲を未然に防ぐ。
こうなれば、残りは詰め所に立て籠る敵のみである。
住民達は一斉に入口に取りつくが、乱雑に積み上がっているバリケードが邪魔してなかなか、進めない。
その様子を見てルンルンがカードの束にキスをすると術を唱えながら放り投げる。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法ニンジャパワー! 目覚めてみんなのニンジャ力☆」
大地のマテリアルの流れを通わせる事で住民達の戦闘能力を向上させるのだ。
立て続けに束を宙に放ち術を行使するルンルンを脅威と感じたのか、犬歪虚の1体が呪術のような炎の珠を形成する。
「やらせないわよ! 当然でしょう!」
真夕がマテリアルを集中して魔法に干渉すると、炎の球が消え失せた。
同時に詰め所を入口が轟音と共に開かれた。こうなれば、あとは制圧するのみだ。
●久延毘 大二郎 (ka1771)+アルファス (ka3312)+ミルベルト・アーヴィング (ka3401)
「先の東征より一年余りが経ったが……東方の真の開放には未だ至っておらず、か……」
「ヨモツヘグイや獄炎を倒しただけじゃ終わらない……東方はこれから立ち上がるんだ」
大二郎とアルファスが並んで城門を見上げていた。
東方での戦いは歪虚王の討伐という奇跡のような結末だった。だが、災狐のように、獄炎の配下の残党の存在も確認されている。
「……ならば、この戦いを、真の開放への第一歩としようじゃないか」
「蜂起した市民の皆さんが来るまで、ここは命に代えても守ります!」
そんな決意を告げながら、ミルベルトは二人の横に並んだ。
城門前の敵は、片付けた。だが、路地から犬歪虚は度々襲撃してくる。
「和風と中華風の様式が合わさった城門のようだ。これは、開閉には上に登る必要があるだろう」
巨大な城壁の上に櫓の様な建物があり、その建物の真下に城門があるのを見て、大二郎が冷静に分析した。
内開きの城門は閂を外しただけではビクともしなかった。なんらかの仕組みがある可能性は大いにある。
「アンカーを届かせます」
近くに転がっていた板を城壁に立て掛けると、助走して板を足場にして跳躍するアルファス。
放たれたアンカーはギリギリ城壁の上に届いて引っ掛かった。城壁を登る彼を見つけ、城壁の上と櫓に居た犬歪虚が群がって来た。
「掩護します!」
城壁の真下でミルベルトが鎮魂歌を詠う。
ただの歌ではない。アンデットや歪虚の行動を阻害する聖なる歌だ。動きが鈍くなった犬歪虚が繰り出す攻撃は悉く、アルファスに届かない。
「今、ロープを降ろしますので!」
アルファスは眼下の二人に叫ぶと、マテリアルを操り、自身の身体を光の障壁で包み込む。
機導術だ。敵の攻撃に対し身を守ると同時に敵を弾き飛ばせるからだ。
●Uisca Amhran (ka0754)&小鳥遊 時雨 (ka4921)&紡伎 希(kz0174)
避難エリアの北西方向でも犬歪虚の群れが迫っていた。
「ノゾミちゃん、どれくらい成長したか、見せてもらうね。期待してるよっ」
屋敷の塀が並ぶ中、門の入口でUiscaが、希に声をかける。
振り返った少女はふわゆるの緑髪を揺らす。そのすぐ斜め後ろで弓を構える時雨。
「ここまで頑張ってくれた、皆の為にも、ここまで耐えてきた皆の為にも……守ってくれてた人の為にも……」
マテリアルを込めながら矢を番えて引いていく。
視線は犬歪虚に向けられているが、意識は希へと向いていた。
「皆で一緒に! いくよ、ノゾミ!」
刹那、冷気のマテリアルを宿した矢が氷の塵を軌跡として残しながら飛翔する。
真っ先に狙われた犬歪虚は時雨が放った矢が直撃して消滅した。
「イスカさん……時雨さん……見て下さい! 私の力を!」
希が掲げた拳銃の先に回転する光り輝く三角錐が現れると、各頂点から光が放たれ、犬歪虚らに直撃していく。
だが、敵の数は多い、別の路地から数十体の犬歪虚が門へと殺到してくる。
門の後ろをチラリと確認するUisca。避難所を守る為に自衛を担う人々の不安そうな表情が見て取れた。
「行かせませんよ。避難している人々には触れさせません!」
彼女は両腕を交差させると、そのままマテリアルを意識しながら高々と挙げた。
そして、二人の仲間に呼び掛ける。
「私は結界を張っている間動けないよ。その間、敵はノゾミちゃん達に任せるね」
聖導士には侵入を防ぐ結界を張る術がある。敵味方問わないが、この状況下で一匹でも侵入させない方法としては確実なはずだ。
「分かりました。イスカさんは術に集中して下さい」
「任された! いっちょやるよ!」
希と時雨が威勢良く返事をしつつ、犬歪虚を迎え撃つ。
「よぉし!」
結界が構築され、時雨が門に振り返って自衛の人々に呼び掛けた。
「せーの! で、意気込みでも、プロポーズでも、何でも可で、大声上げての威嚇お願い!」
「「ぷ、ぷろぽーず!?」」
突拍子もない時雨の言葉に、Uiscaと希の甲高い声が重なった。
「いいの! 声を出して戦おう! 向こうにも届くように、ってさ!」
時雨が向けた視線の方角……その意を汲んで、人々は頷くと、一斉に叫び声を上げた。
死闘が繰り広げられているはずの闘技場へ向けて、各々の生きる声を。
●葛音 水月 (ka1895)+チョココ (ka2449)+シガレット=ウナギパイ (ka2884)
「ここが……あは、テレビで見た、あの世界にって感じー?」
水月はふと思いだしてそんな事を言うが、同行している二人にはなんの事かさっぱりの様子だった。
分かるのは、ここが廃墟街であり、人が住んでいないという事である東方風の街並みが続く事だ。
「廃墟街での目撃情報があったからなァ。潜んでいるなら、ここのはずだぜェ」
「……市街地戦となると、巻き込み型の範囲魔法は使用が難しいですわ」
シガレットの言葉にチョココが弱気な発言をする。
「そういう思いを歪虚は利用するからなァ」
気にする事でもないという意味でシガレットが巨大なハンマーを担いだ。
これでもクルセイダーというのだから、世のす……ではなく、広いものだ。
「こういう所に、なァ!」
勢い良く振りかぶって、廃墟と化している屋敷の壁を粉砕する。
同時に奇怪な叫び声をあげて犬歪虚が飛び出してきた。潜伏している所、突然、襲われたので驚いたのだろう。
「は、はぅあ! ほ、炎よ! なのですわ!」
慌てながらチョココが炎の矢を放った。
ボシュっと音を立てて歪虚が一瞬で炎に包まれ、塵と化した。
「どうやら、他にも隠れているのがいるみたいだぜェ!」
次々と壁という壁、戸という戸、塀という塀を粉砕しながらシガレットが水月に呼び掛けた。
楽しそうにガチャリとパイルバンカーをセットするとニヤリとした表情を浮かべる。
「敵さんはっけーん、です♪」
チラリと見えた鼻先が壁の中にすぐに引っ込んだのを見つけ、水月はゴースロンを駆る。
一気に距離を詰めると、豪快な音と共に、杭を打ち込む。
破壊という言葉をもはや通り越している。壁ごと歪虚を破砕してしまった。
あまりの衝撃的な状況に怯えたのか犬歪虚の一匹が飛び出してきた。
「逃がさないですの」
今度は冷静にチョココは魔法は唱える。
二人の解体屋が炙りだした敵を狙えばいいのだ。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じてですの!」
マテリアルで形成された氷の矢が犬歪虚を貫通すると、氷が広がり、犬歪虚の動きを阻害する。
動きが鈍くなった所で楽しそうな笑みを浮かべたまま水月がガチャっとパイルバンカーの先を犬歪虚へと向けた。
「えへっ☆」
大音響が流れる中、シガレットのハンマーも休む間もなく振りまわっていた。
「どうやら、隠れているのが不利だと悟ったみたいだなァ」
廃墟街のあちらこちらから出てきた犬歪虚の姿を見て呟く。
だが、彼は破壊の手を休めなかった。拳銃と盾に持ち替える事はなく、ハンマーを振りまわす。
建物の損害状況を見ながら絶妙なタイミングを計っているのだ。
かくして迫って来た複数体の歪虚を巻き込む形で、シガレットがハンマーを振りかぶった。
「今だぜェ!」
狙い通り倒壊した壁に巻き込まれる犬歪虚。
「魔法を撃つですの」
「可愛いお犬さん♪」
なんとか這い出た所を、チョココの魔法と水月の杭がトドメを差していったのだった。
●城門の死闘
櫓にあがったアルファスは群がってくる歪虚へ機導術を放って蹴散らしていた。
城門の上は通路のようになっており、遠くから幾体もの犬歪虚が近づいてくるのが容易に見える。
「これだけの数がいるという事は、櫓の中が怪しいです。敵は僕が惹きつけます!」
「わたくしも掩護します。大二郎さんは、櫓の中に!」
ミルベルトも光の波動を放ちつつ、呼び掛けた。
犬歪虚がこれほどの戦力を置いているのだ。重要な場所の可能性が高い。
二人の仲間の言葉に頷くと、大二郎は櫓の中に飛び込む。
「これは……歯車……いや、からくりというべきか……」
巨大なからくり装置におもわず興味を奪われそうになるが、今はそれどころではない。
なにか操作すれば巨大な城門を開けられるのだろうが……正確な操作は分からない。
外から戦いの音が響いてくる。
いくらハンター達といっても、敵が次々と現れては多勢に無勢だ。
「……落ち着くのだ。先人は、必ず、知恵を残す……」
視線を巡らす。
どこかに、どこかにあるはずだ。これだけの大掛かりの仕掛けが万が一動かなくなった場合に備えて、手動でも動かせる要となる部位が。
「これか!」
ぐっと大二郎は仕掛けの1つに手を伸ばした。
城壁が小刻みに揺れる。
「城門が開くのでしょうか!?」
癒しの力を使ってアルファスの怪我を回復させながらミルベルトが言った。
防止するかの如く、城壁の上を幾体もの犬歪虚が駆けてくるのを迎撃しつつアルファスは異変に気が付く。
「……音が止まった……」
城門が開かなければ意味がない。
しかし、歪虚の襲撃で城壁の下に降りられる状況ではない。そこは、城門前に残った仲間達を信じるしかない。
「いい加減にしてもらいますよ!」
アルファスはマテリアルを集中させた。
異変は城門の近くにいたハンター達が真っ先に把握した。
内開きのではあるのだが、長年の堆積物が溜まっており、わずかばかりの隙間しか開かなかったのだ。
「なにヘタってやがる!」
その隙間にイッカクが武骨な指を差し込むと、力の限り引き踏ん張る。
ガガッと動いて少し広がった隙間に茜が飛び込んだ。彼女の小さい身体なら門からすり抜けて外へと出られるからだ。
「イッカクさん、続けて下さい!」
「ハッ! ガキに言われるまでもねぇ!」
二人の鬼が渾身の力で城門を開けようとする。
そんな無防備な所に一気に襲いかかってくる犬歪虚。
「邪魔するんじゃねぇ!」
横腹を噛まれながらもイッカクは城門を開ける手を緩めなかった。
多少の傷は覚悟の上だ。とにかく、城門さえ開けば外で待機している軍勢が入って来られる。
「そうです! 邪魔です!」
城門を押していた茜がザッと大地を蹴って、犬歪虚の顔面に殴りかかる。
勢いもあり、吹き飛ぶ歪虚に向かって舌をベーと出した後、イッカクの真下で城門を引き動作に戻った。
そこへ再び歪虚の群れが迫る。
「させませんですわ」
金鹿が掲げた符が光り輝く鳥と成り、歪虚の攻撃を食い止めた。
だが、他の歪虚が牙を向けてくる。それに対し、金鹿は二人を庇うように両手を広げ――た所で、牙を向けてきた歪虚は塵となって消滅した。
●クリスティン・ガフ (ka1090)―歩夢 (ka5975)
ギターの音が響き渡る。
「大丈夫! 俺達がついてる! 誰も死なせやしない」
爽やかなスマイルで歩夢が符を取り出したが、先程、城門手前にいた仲間のハンターを助ける時に放った術ではなく、別の符術だ。
戦機を見出す術である。
「無茶はしても無理はしてくれるな! 全員、生きてくれ!!」
城門付近にいるハンター達を囲っている犬歪虚の群れの中、符術が示した場所への突撃を引き連れて来た討伐隊に伝える。
「読み通りだ」
長大な刀を振りかぶりながらクリスティンが呟いた。
討伐隊を率いて、蜂起場所から城門まで辿り着くまでの間、既に城門付近では戦闘になっていると想定していた。
「一気に片をつける!」
マテリアルを込めて勢いよく刀を振るう。
その衝撃波は荒れる三日月のように飛ぶと、犬歪虚を斬りつけた。
突然の背後からの奇襲に大慌てにある歪虚の群れ。城門付近のハンター達も体勢を整えると反撃に出る。城門の解放まで時間の問題だろう。
「一丸となって抜けたら、城門を開けるのだ!」
なおもクリスティンは最前線で刀を振りまわしながら討伐隊に叫んだ。
討伐隊は、各々が気合いの掛け声を挙げ、槍を並べて突撃する。
「おっと、それは狙わせないぜ」
側面から奇襲を仕掛けてこようとした犬歪虚に向けて、歩夢が符術を放った。
一斉蜂起には勢いというものが大切だ。その勢いを削ぐかもしれない障害を歩夢は積極的に狙う。
歪虚の群れを突破した討伐隊は、一斉に城門へと取りついた。
「見なよ、これが貴方達の成果だ」
満面の笑みを浮かべ、なおも喰いついてくる犬歪虚へ向けて符術を放つ。
枷が外れたようにクリスティンはニヤリと口元を緩めた。
討伐隊の面々は城門に取りついている。犬歪虚と対峙するのはハンター達に役目が移ったのだ。
「一匹も残さない。貴様らはここで消えろ」
ここからは遠慮はいらない。ひたすら歪虚を滅していくだけだ。
その意を理解して歩夢も符を構えながら並んだ。
ここに、二人のハンターに率いられた討伐隊は、数十年閉ざしたままの城門を開いたのであった。
自衛、そして、武装蜂起により、十鳥城は城門が開かれ、外で待機していた鳴月 牡丹(kz0180)率いるエトファリカ連邦国の部隊が入城。
十鳥城に向かっていた災狐本隊の軍勢は、しぶしぶ北西に向けて引き上げて行ったのであった。
おしまい。
●白雪隊
城門がハンター達と武装蜂起した住民達によって開かれる頃、廃墟街で犬歪虚の討伐を担っていたハンター達の戦闘は継続していた。
「避難所に近寄らせません」
エステル・クレティエ (ka3783)が犬歪虚の群れに向かって魔法を唱えるべく短杖の先端で陣を描いた。
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせて!」
猛烈な氷の吹雪が一帯を包み込んで歪虚の動きが明らかに鈍くなる。
それを確認してエステルは小隊の仲間に呼び掛けた。
「今です。お願いしますっ」
その台詞が終わらない内に、影が飛び出た。
七葵 (ka4740)だ。彼は敵が凍てついている好機を見逃さずに一気に勝負を決めにかかる。
敵の方が数が多いが、小隊の連携を持ってすれば、危うい事など全く無かった。
「エトファリカの武家の者として……」
白銀に煌めいた刀を水平に構えて突き出す。
「……十鳥城は必ず開放せる!」
一瞬の事と表現するには言葉が足りない程、素早い突きで犬歪虚を仕留める七葵。
攻撃した後の隙を狙って別の歪虚が噛みついてくるが、それを銀 真白 (ka4128)は刀で受け止める。
「簡単には届かせない」
小隊の仲間を守り、自身を囮に引き付ける事で、長期戦を戦えるようにと整えて来た。
その狙いは正しかった。廃墟街の奥深くまで踏み込んでいるが、小隊の継戦能力は維持されている。
「……あれは……人か?」
視界の中に映った侍の姿を見て、真白は呟いた。
髭だらけ、髪はぐしゃぐしゃの中年の男だ。
手には途中で折れた刀を手にしている。付近の建物の壁には生々しい戦闘の跡が残っていた。かなりの激戦があったのだろう。
「これは、酷いです……」
さっと近寄ってエステルが応急手当を開始する。
「周囲に敵が居るかもしれない。俺は警戒にあたる」
キュッと口元を噛みながら七葵は刀を構えて言った。
残念ながら、男が助かる見込みはないだろう。そう思った。
「……『代官さん』……ですね」
応急手当が行われている中、耳元で真白が訊ねた。
依頼出発前に聞いていた人物だ。堕落者である城主の代わりに実質的に住民達を監督している立場にあり、今回の蜂起では住民達を守る為に歪虚討伐を行っていたという。
「ハン……ター、か……」
息も絶え絶えに代官は口を開いた。
「隊長格を……討ち取った……時期に、城下町の……歪虚も、いなっ!?」
真白は口から大量の鮮血が噴き出す代官の上半身を支えた。ずしりとした重さを感じる。
胸から腹にかけての応急手当を行っていたエステルが叫ぶ。
「喋ってはダメです」
代官は顔を横に振った。
自らに訪れる結末を理解しているのだろう。だからこそ、なにか伝えたい事があるのかもしれない。
「城門が開き、連邦国の部隊が入城したと連絡を受けました。十鳥城は歪虚の手から解放されたのです」
丁寧にゆっくりと真白は代官に伝えた。
「……君らは、エトファリカの者……か?」
代官の視線は真白と七葵に向けられていた。
頷く真白。
「そうか……因果なものだな……」
十数年前、救援を断たれ孤立した十鳥城。
未来も希望もないまま流れた年月の末、巡り合わせた出逢い。
七葵が周囲をザッと回り終わって戻って来た。敵は既に居ないようだ。
「最後になにか伝える事はあるか?」
「……武闘会で……戦っている、ハンター達に……感謝、を……」
エステルは涙を浮かべながら応急手当を止めた。
もはや、言葉が出ている事すら奇跡だろう。
「……矢鳴文様……地獄の入口で、お待ちして……おり……ます……」
穏やかな表情で静かに息を引き取った代官の骸を、真白は静かに降ろした。
付近に落ちていた鞘をエステルは拾い、七葵に渡す。七葵は代官が握っていた刀を鞘に納めると、持たせるよう置いた。
代官の死に際が孤独でなかった事。それだけでも、意味深いものであると信じながら。
城下町を一人のハンターがフラフラと歩んでいる。
全身は血や泥で汚れ、刀先を引きずっていた。
「……分かった。この地区を抜けて掩護に行く」
トランシーバーから聞こえてくる救援要請に応えながらアルトは周囲の警戒を続ける。
アルトは負傷者を装って、敵を誘っているのだ。効果あり、既に幾体か葬ってきていた。
(……2……いや、3、か)
頬の血糊を伸ばしながら、敵の数を数える。
突如、左脇から犬の形をした歪虚が噛みついてきた。
盾で受け止めると同時に瞬時に刀先を閃かせ歪虚の首を刎ねた。
一瞬の事で残り2体は襲いかかる相手を間違えたと気がつかないままアルトに向かって飛びかかる。
「私を相手にして、逃げられると思うなよ?」
俊敏性がある敵だが、アルトの動きの方がいくつも上手だ。盾を使うまでもなく敵の攻撃を避けると、手首を返し刀先を二閃。
襲いかかってきた歪虚はそれだけで塵と崩れた。
アルトは表情を変えず、静かに納刀すると救援要請のあった場所に向かって城下町を疾風の如く走りだす。
十鳥城を巡る戦いは始まったばかりなのだから。
●只野知留子 (ka0274)+アクエリア・ルティス (ka6135)+大轟寺蒼人
「技量の過不足なく、効率的に戦わないと無用な被害がでます」
知留子の言葉に蒼人は唸りながら口を開く。
「戦略上、必要な拠点の制圧は外せない」
かつての詰め所の建物をいくつか指で差した蒼人。
住民達の武装蜂起は成った。数十名からなる住民達はハンター達に割り振りされている。今は具体的な進軍先の調整を行っているのだ。限られた戦力である。無駄には出来ない。
「……城門からの連絡なのね。ありがとう」
二人のやりとりの中、アクエリアが連絡のメモ用紙を受け取ると、それを二人が覗きこんでいる地図上に滑らせる。二人の合間にぴったりと止まる。
メモには、城門付近での歪虚や雑魔の目撃数が増えている事が記されていた。恐らく、なにかの前兆なはずだ。
城門の外にはエトファリカ連邦国の軍勢が入城の為に待機している。このままだと城門は主戦場の一つとなり得る可能性は極めて高い。
「避難エリア周辺には一隊のみ。残りの隊は詰め所奪還と城門援護、これでいいか?」
「歪虚勢力の討伐は私達の仲間任せという事でしょうか?」
城下町に災狐の配下がどれだけ潜んでいるか分からない。
武装蜂起と共にそれらを排除しなくては、今後に多大な悪影響を残すのは明白だ。
「……代官と連絡がつかないが、きっと、討伐に向かっていると思う」
蒼人が唇を噛みながら応えた。
本来ならば、ここで指揮を執っていてもおかしくない人物だ。
「一応、討伐に向かっている仲間達に連絡しておくね」
トランシーバーを手にしてアクエリアが言った。
連絡が無事に届くかどうか分からない上に、代官なる人物と遭遇できる可能性も低いだろう。
「それでは、私達は行って来ますね」
キュッと音を立てて踵を返した知留子に、蒼人が声をかけてきた。
「助言ありがとう……彼らを頼みます」
「……はい。アクエリア様、行きましょう」
蜂起を志願した住民達は覚悟の上だろう。だが、勇気ある住民達を守ると強く決意し、知留子は仲間に呼び掛けた。
「みんな、がんばりましょう!」
アクエリアが笑顔で拳を振り上げた。
事は動きだせば、早いはずだ。十鳥城の解放に向けて、武装蜂起した住民達はハンターらの先導の下、要所へと進撃を開始したのであった。
●イッカク (ka5625)&金鹿 (ka5959)&里見 茜 (ka6182)
「…あ゛? なんだ、おまえ。鬼か」
眉間に皺を寄せながら言い放ったイッカクの台詞に茜が両肩を竦めた。
鬼である故に余計な確執になるかもと思い角を隠して人間として参加したはずが、いきなり見破られた。それも、同じ鬼種族の人に。
「えへへ、つい癖で!」
「……へぇ」
正体を見破っておきながら興味なさそうなイッカクの反応に茜が跳ねて抗議の声をあげた。
「い、今、私の事、子供っぽいって思ったでしょ!」
二人の身長差はかなりある。
見降ろす形になっている事もあり茜がそう感じたのも無理はない。
「久々に『地元』の空気を吸っている所、騒ぐんじゃねぇ」
「むぅ」
頬を膨らませる茜を一瞥し、イッカクは周囲を何気なく見渡した。
金の為とはいえ『地元』である東方に戻って来るとは、二度と吸えないと思っていただけに感慨深いものがある。
「お二人とも、東方の地にゆかりのある鬼なのですか? 私も東方生まれですわ」
いかにもお嬢様育ちという様相で金鹿が二人に呼び掛けた。
「少しでも同胞の為に出来ることがあればと思います」
微笑を浮かべて言った金鹿の台詞にイッカクが悪態をつきながら城門を睨んだ。
「そうかい。言っておくが、俺は金の為だ」
「……分かりましたですの」
イッカクの言葉にニッコリと笑う金鹿。
「気に喰わない女だ。さっさと術を使いやがれ」
「金鹿さん、よろしくお願いします!」
二人の鬼が武器をそれぞれ獲物を構えた。
城門の制圧に向かったハンター達のうち、後衛職からの遠距離攻撃が突撃の合図となっているからだ。
「五行の理を持って、無間の輪廻を表す蝶よ、煌めく珠と成れ! 胡蝶符!」
符を掲げ術を唱えた金鹿が蝶に似た光弾を城門前に蔓延る歪虚へと放った。
●レーヴェ・W・マルバス (ka0276)―閏 (ka5673)―夜桜 奏音 (ka5754)
「一緒に頑張りましょうね、ノゾミさん。……え? 南東方向ですね。分かりました」
避難エリアの防衛にあたっていた奏音はトランシーバーからの連絡を受けていた。
視線を避難所で作業中である仲間に向ける。
「一斉蜂起の名に皆団結しておる。くく、良い良い。士気は大事じゃ」
避難していた住民達の表情にレーヴェは満足そうであった。
ハンター達が訪れた避難所の1つである。当初は不安そうな顔をしていたのだが、レーヴェの呼び掛けで奮起。それぞれが出来る事を行い始めた。
「それでは、俺は行きますので……残りのおにぎり、よろしくお願いします」
オニギリをまだ握っておきそうな雰囲気を発しながら、閏は一緒に握っていた住民達へ頭を下げた。
避難所では大量の炊き出しの準備に追われていたからだ。腹が減っては戦はできぬ。
ハンター達やハンターオフィス経由で持ち込まれた食材。住民達の残り少ない食材。それらを合わせての炊き出しだ。
(……住民達は覚悟を決めた。必ず、皆さんをお守りします)
食材を使い切るというのは、覚悟の表れだ。十鳥城の解放が成さなければ、彼らには飢えが待っている。
それでも、蜂起をした同胞と、命を掛けて駆け付けたハンター達、城の外で待つ援軍の為に避難所の住民達は一丸となっていた。
炊き出しだけではなく避難所自体のバリケードも住民達は構築している。
「各自、己が自信もって出来ることをやり遂げよ。いざという時は、木鎚で打ち鳴らして知らせるのじゃ」
レーヴェが鐘や金属板を探し出して設置していく。
万が一、避難所に敵が現れた際には、立て篭もって時間を稼いでもらう算段である。
住民達との分かれを終えた二人に奏音が呼び掛けた。
「敵を南東方面で発見した報告が入りました。レーヴェさん、閏さん、参りましょう」
避難エリアから見て南東方向に現れた災狐配下の歪虚達は群れながら駆ける。
小さい掘りに架かる小橋を勢いそのままに渡ろうとした時だった。
「俺に出来る事と言えばこれ位しか、ないですから。皆さんを護る為に俺は戦います」
小橋を塞ぐように立った閏が符を1つ取り出した。
「六行の天則に従い、熱き火よ、焼き尽くす炎となり、魔を滅せよ! 火炎符!」
火の精霊力が付与された符が先頭を走ってくる犬歪虚に直撃する。
驚き、戸惑って立ち止まった群れに向かって、奏音が複数枚の符を投げつけた。
それらは光り輝く結界となり、結界内の歪虚を焼いた。
「これ以上先には行かせませんよ」
強力な符術によって瀕死に追い込まれる犬歪虚共。
動きが鈍った所で、マテリアルの弾丸が雨霰の如く降り注いだ。
「一網打尽、じゃろう」
レーヴェが撃ったものだ。
瞬く間に幾体もの犬歪虚が塵と化した。閏がホッとしたのも束の間、奥の路地から更に犬歪虚共が沸き出してきた。
「閏、代わるのじゃ!」
ライフルを立て掛けたまま、片手に拳銃、もう片方の方に彼女自身が製錬し鍛えたナイフを持ってレーヴェが進みでた。
符術師である閏では前線は支えきれないと判断しての事だ。
「だ、だけど……っ」
「心配無用のう。ドワーフ嘗めんなし、じゃ」
飛びかかってきた犬歪虚を足蹴りして吹き飛ばすと威嚇で拳銃を放つ。
「それでは、お願いします。俺は……術を!」
「符術師の力、見せつけてやりましょう」
後退した閏に奏音が符を構えたまま呼び掛けた。
ここでハンター達が引けば避難所まで障害はないのだ。絶対に通さないと奏音は決意を込めて、次の術を放った。
●龍崎・カズマ (ka0178)
城下町の至る所で戦闘が始まっている。
特に激戦なのは城門付近だろう。城門を開こうと集ったハンター達とそれを防ぐために災狐配下の犬歪虚との戦いだ。
「つまり、敵も馬鹿じゃないって事だ」
カズマは一人呟きながら、絶火槍を杖代わりにしていた。
真っ赤に染まった包帯から血の匂いが漂うが、怪我をしている訳ではない。怪我人を装っているのだ。これで、犬歪虚を誘いだろうという事だ。
その包帯は怪我をした住民から貰った。
「出やがったな」
廃墟街から城門へと向かういくつもの路地の1つで彼は城門に向かう犬歪虚を遊撃していたのだ。
運が良かったのか、かなりの数の犬歪虚と遭遇し、それを彼は一人で抹殺していた。
囲まれない様に逃げる振りをして、絶火槍にマテリアルを込めて投げつける。
その隙に別の犬歪虚が迫る。武器を投げて丸裸とでも思ったのだろうか。
「残念、だったな」
投げたはずだった槍は手元に戻っていた。
驚いた様に、ポカーンと開けている犬歪虚に口に、カズマは槍先を叩き込んだ。
●七夜・真夕 (ka3977)&ルンルン・リリカル・秋桜 (ka5784)
二人は蜂起した住民達と共に、かつて詰め所であった場所へと進軍していた。
「怪我した人は下がって治療を! 大丈夫、皆で支えよう!」
敵の攻撃により負傷した住民に向かって真夕が叫んだ。そして、自身が最前線に躍り出る。
犬歪虚が詰め所に引き籠っていたのだ。
「みんな、絶対生きてこの町を取り戻しちゃいましょう! 恐れず、無理せず、大胆にです☆」
双丘を派手に揺らしながらルンルンが身振りと共に近くの台の上に飛び乗った。
街の地形をぐるりと確認して少しでも優位になるようにと見渡す。
「そうです。無理はしないで、絶対生き残りましょう」
真夕も魔法陣を描きながら同じ様に呼び掛ける。
その時、詰め所の脇路地から犬歪虚が奇襲を仕掛けたきた。
「ここでトラップカード発動☆ 今です!」
不可視の結界が展開され、路地一帯の足元が泥状となった。
こうなると、さすがに俊敏性が高い犬歪虚でも身動きが鈍くなる。
そこに住民達が槍の穂先を並べて一斉に襲いかかった。これなら、歪虚を倒す事ができるだろう。
「反対側からもワラワラと。ここは、私が!」
マテリアルで宙に描いた魔法陣が完成。同時にエンブレムナイフを突き出すと先端から稲妻が迸った。
路地で一列になっていた犬歪虚らはまさに格好の餌食。
「こちらは封鎖してしまいましょう」
続いて真夕は次の魔法を唱え始める。
「……大地よ、絶対なる不動なる壁となり、我らを万物から遮れ!」
路地が土の壁に塞がる犬歪虚の奇襲を未然に防ぐ。
こうなれば、残りは詰め所に立て籠る敵のみである。
住民達は一斉に入口に取りつくが、乱雑に積み上がっているバリケードが邪魔してなかなか、進めない。
その様子を見てルンルンがカードの束にキスをすると術を唱えながら放り投げる。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法ニンジャパワー! 目覚めてみんなのニンジャ力☆」
大地のマテリアルの流れを通わせる事で住民達の戦闘能力を向上させるのだ。
立て続けに束を宙に放ち術を行使するルンルンを脅威と感じたのか、犬歪虚の1体が呪術のような炎の珠を形成する。
「やらせないわよ! 当然でしょう!」
真夕がマテリアルを集中して魔法に干渉すると、炎の球が消え失せた。
同時に詰め所を入口が轟音と共に開かれた。こうなれば、あとは制圧するのみだ。
●久延毘 大二郎 (ka1771)+アルファス (ka3312)+ミルベルト・アーヴィング (ka3401)
「先の東征より一年余りが経ったが……東方の真の開放には未だ至っておらず、か……」
「ヨモツヘグイや獄炎を倒しただけじゃ終わらない……東方はこれから立ち上がるんだ」
大二郎とアルファスが並んで城門を見上げていた。
東方での戦いは歪虚王の討伐という奇跡のような結末だった。だが、災狐のように、獄炎の配下の残党の存在も確認されている。
「……ならば、この戦いを、真の開放への第一歩としようじゃないか」
「蜂起した市民の皆さんが来るまで、ここは命に代えても守ります!」
そんな決意を告げながら、ミルベルトは二人の横に並んだ。
城門前の敵は、片付けた。だが、路地から犬歪虚は度々襲撃してくる。
「和風と中華風の様式が合わさった城門のようだ。これは、開閉には上に登る必要があるだろう」
巨大な城壁の上に櫓の様な建物があり、その建物の真下に城門があるのを見て、大二郎が冷静に分析した。
内開きの城門は閂を外しただけではビクともしなかった。なんらかの仕組みがある可能性は大いにある。
「アンカーを届かせます」
近くに転がっていた板を城壁に立て掛けると、助走して板を足場にして跳躍するアルファス。
放たれたアンカーはギリギリ城壁の上に届いて引っ掛かった。城壁を登る彼を見つけ、城壁の上と櫓に居た犬歪虚が群がって来た。
「掩護します!」
城壁の真下でミルベルトが鎮魂歌を詠う。
ただの歌ではない。アンデットや歪虚の行動を阻害する聖なる歌だ。動きが鈍くなった犬歪虚が繰り出す攻撃は悉く、アルファスに届かない。
「今、ロープを降ろしますので!」
アルファスは眼下の二人に叫ぶと、マテリアルを操り、自身の身体を光の障壁で包み込む。
機導術だ。敵の攻撃に対し身を守ると同時に敵を弾き飛ばせるからだ。
●Uisca Amhran (ka0754)&小鳥遊 時雨 (ka4921)&紡伎 希(kz0174)
避難エリアの北西方向でも犬歪虚の群れが迫っていた。
「ノゾミちゃん、どれくらい成長したか、見せてもらうね。期待してるよっ」
屋敷の塀が並ぶ中、門の入口でUiscaが、希に声をかける。
振り返った少女はふわゆるの緑髪を揺らす。そのすぐ斜め後ろで弓を構える時雨。
「ここまで頑張ってくれた、皆の為にも、ここまで耐えてきた皆の為にも……守ってくれてた人の為にも……」
マテリアルを込めながら矢を番えて引いていく。
視線は犬歪虚に向けられているが、意識は希へと向いていた。
「皆で一緒に! いくよ、ノゾミ!」
刹那、冷気のマテリアルを宿した矢が氷の塵を軌跡として残しながら飛翔する。
真っ先に狙われた犬歪虚は時雨が放った矢が直撃して消滅した。
「イスカさん……時雨さん……見て下さい! 私の力を!」
希が掲げた拳銃の先に回転する光り輝く三角錐が現れると、各頂点から光が放たれ、犬歪虚らに直撃していく。
だが、敵の数は多い、別の路地から数十体の犬歪虚が門へと殺到してくる。
門の後ろをチラリと確認するUisca。避難所を守る為に自衛を担う人々の不安そうな表情が見て取れた。
「行かせませんよ。避難している人々には触れさせません!」
彼女は両腕を交差させると、そのままマテリアルを意識しながら高々と挙げた。
そして、二人の仲間に呼び掛ける。
「私は結界を張っている間動けないよ。その間、敵はノゾミちゃん達に任せるね」
聖導士には侵入を防ぐ結界を張る術がある。敵味方問わないが、この状況下で一匹でも侵入させない方法としては確実なはずだ。
「分かりました。イスカさんは術に集中して下さい」
「任された! いっちょやるよ!」
希と時雨が威勢良く返事をしつつ、犬歪虚を迎え撃つ。
「よぉし!」
結界が構築され、時雨が門に振り返って自衛の人々に呼び掛けた。
「せーの! で、意気込みでも、プロポーズでも、何でも可で、大声上げての威嚇お願い!」
「「ぷ、ぷろぽーず!?」」
突拍子もない時雨の言葉に、Uiscaと希の甲高い声が重なった。
「いいの! 声を出して戦おう! 向こうにも届くように、ってさ!」
時雨が向けた視線の方角……その意を汲んで、人々は頷くと、一斉に叫び声を上げた。
死闘が繰り広げられているはずの闘技場へ向けて、各々の生きる声を。
●葛音 水月 (ka1895)+チョココ (ka2449)+シガレット=ウナギパイ (ka2884)
「ここが……あは、テレビで見た、あの世界にって感じー?」
水月はふと思いだしてそんな事を言うが、同行している二人にはなんの事かさっぱりの様子だった。
分かるのは、ここが廃墟街であり、人が住んでいないという事である東方風の街並みが続く事だ。
「廃墟街での目撃情報があったからなァ。潜んでいるなら、ここのはずだぜェ」
「……市街地戦となると、巻き込み型の範囲魔法は使用が難しいですわ」
シガレットの言葉にチョココが弱気な発言をする。
「そういう思いを歪虚は利用するからなァ」
気にする事でもないという意味でシガレットが巨大なハンマーを担いだ。
これでもクルセイダーというのだから、世のす……ではなく、広いものだ。
「こういう所に、なァ!」
勢い良く振りかぶって、廃墟と化している屋敷の壁を粉砕する。
同時に奇怪な叫び声をあげて犬歪虚が飛び出してきた。潜伏している所、突然、襲われたので驚いたのだろう。
「は、はぅあ! ほ、炎よ! なのですわ!」
慌てながらチョココが炎の矢を放った。
ボシュっと音を立てて歪虚が一瞬で炎に包まれ、塵と化した。
「どうやら、他にも隠れているのがいるみたいだぜェ!」
次々と壁という壁、戸という戸、塀という塀を粉砕しながらシガレットが水月に呼び掛けた。
楽しそうにガチャリとパイルバンカーをセットするとニヤリとした表情を浮かべる。
「敵さんはっけーん、です♪」
チラリと見えた鼻先が壁の中にすぐに引っ込んだのを見つけ、水月はゴースロンを駆る。
一気に距離を詰めると、豪快な音と共に、杭を打ち込む。
破壊という言葉をもはや通り越している。壁ごと歪虚を破砕してしまった。
あまりの衝撃的な状況に怯えたのか犬歪虚の一匹が飛び出してきた。
「逃がさないですの」
今度は冷静にチョココは魔法は唱える。
二人の解体屋が炙りだした敵を狙えばいいのだ。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じてですの!」
マテリアルで形成された氷の矢が犬歪虚を貫通すると、氷が広がり、犬歪虚の動きを阻害する。
動きが鈍くなった所で楽しそうな笑みを浮かべたまま水月がガチャっとパイルバンカーの先を犬歪虚へと向けた。
「えへっ☆」
大音響が流れる中、シガレットのハンマーも休む間もなく振りまわっていた。
「どうやら、隠れているのが不利だと悟ったみたいだなァ」
廃墟街のあちらこちらから出てきた犬歪虚の姿を見て呟く。
だが、彼は破壊の手を休めなかった。拳銃と盾に持ち替える事はなく、ハンマーを振りまわす。
建物の損害状況を見ながら絶妙なタイミングを計っているのだ。
かくして迫って来た複数体の歪虚を巻き込む形で、シガレットがハンマーを振りかぶった。
「今だぜェ!」
狙い通り倒壊した壁に巻き込まれる犬歪虚。
「魔法を撃つですの」
「可愛いお犬さん♪」
なんとか這い出た所を、チョココの魔法と水月の杭がトドメを差していったのだった。
●城門の死闘
櫓にあがったアルファスは群がってくる歪虚へ機導術を放って蹴散らしていた。
城門の上は通路のようになっており、遠くから幾体もの犬歪虚が近づいてくるのが容易に見える。
「これだけの数がいるという事は、櫓の中が怪しいです。敵は僕が惹きつけます!」
「わたくしも掩護します。大二郎さんは、櫓の中に!」
ミルベルトも光の波動を放ちつつ、呼び掛けた。
犬歪虚がこれほどの戦力を置いているのだ。重要な場所の可能性が高い。
二人の仲間の言葉に頷くと、大二郎は櫓の中に飛び込む。
「これは……歯車……いや、からくりというべきか……」
巨大なからくり装置におもわず興味を奪われそうになるが、今はそれどころではない。
なにか操作すれば巨大な城門を開けられるのだろうが……正確な操作は分からない。
外から戦いの音が響いてくる。
いくらハンター達といっても、敵が次々と現れては多勢に無勢だ。
「……落ち着くのだ。先人は、必ず、知恵を残す……」
視線を巡らす。
どこかに、どこかにあるはずだ。これだけの大掛かりの仕掛けが万が一動かなくなった場合に備えて、手動でも動かせる要となる部位が。
「これか!」
ぐっと大二郎は仕掛けの1つに手を伸ばした。
城壁が小刻みに揺れる。
「城門が開くのでしょうか!?」
癒しの力を使ってアルファスの怪我を回復させながらミルベルトが言った。
防止するかの如く、城壁の上を幾体もの犬歪虚が駆けてくるのを迎撃しつつアルファスは異変に気が付く。
「……音が止まった……」
城門が開かなければ意味がない。
しかし、歪虚の襲撃で城壁の下に降りられる状況ではない。そこは、城門前に残った仲間達を信じるしかない。
「いい加減にしてもらいますよ!」
アルファスはマテリアルを集中させた。
異変は城門の近くにいたハンター達が真っ先に把握した。
内開きのではあるのだが、長年の堆積物が溜まっており、わずかばかりの隙間しか開かなかったのだ。
「なにヘタってやがる!」
その隙間にイッカクが武骨な指を差し込むと、力の限り引き踏ん張る。
ガガッと動いて少し広がった隙間に茜が飛び込んだ。彼女の小さい身体なら門からすり抜けて外へと出られるからだ。
「イッカクさん、続けて下さい!」
「ハッ! ガキに言われるまでもねぇ!」
二人の鬼が渾身の力で城門を開けようとする。
そんな無防備な所に一気に襲いかかってくる犬歪虚。
「邪魔するんじゃねぇ!」
横腹を噛まれながらもイッカクは城門を開ける手を緩めなかった。
多少の傷は覚悟の上だ。とにかく、城門さえ開けば外で待機している軍勢が入って来られる。
「そうです! 邪魔です!」
城門を押していた茜がザッと大地を蹴って、犬歪虚の顔面に殴りかかる。
勢いもあり、吹き飛ぶ歪虚に向かって舌をベーと出した後、イッカクの真下で城門を引き動作に戻った。
そこへ再び歪虚の群れが迫る。
「させませんですわ」
金鹿が掲げた符が光り輝く鳥と成り、歪虚の攻撃を食い止めた。
だが、他の歪虚が牙を向けてくる。それに対し、金鹿は二人を庇うように両手を広げ――た所で、牙を向けてきた歪虚は塵となって消滅した。
●クリスティン・ガフ (ka1090)―歩夢 (ka5975)
ギターの音が響き渡る。
「大丈夫! 俺達がついてる! 誰も死なせやしない」
爽やかなスマイルで歩夢が符を取り出したが、先程、城門手前にいた仲間のハンターを助ける時に放った術ではなく、別の符術だ。
戦機を見出す術である。
「無茶はしても無理はしてくれるな! 全員、生きてくれ!!」
城門付近にいるハンター達を囲っている犬歪虚の群れの中、符術が示した場所への突撃を引き連れて来た討伐隊に伝える。
「読み通りだ」
長大な刀を振りかぶりながらクリスティンが呟いた。
討伐隊を率いて、蜂起場所から城門まで辿り着くまでの間、既に城門付近では戦闘になっていると想定していた。
「一気に片をつける!」
マテリアルを込めて勢いよく刀を振るう。
その衝撃波は荒れる三日月のように飛ぶと、犬歪虚を斬りつけた。
突然の背後からの奇襲に大慌てにある歪虚の群れ。城門付近のハンター達も体勢を整えると反撃に出る。城門の解放まで時間の問題だろう。
「一丸となって抜けたら、城門を開けるのだ!」
なおもクリスティンは最前線で刀を振りまわしながら討伐隊に叫んだ。
討伐隊は、各々が気合いの掛け声を挙げ、槍を並べて突撃する。
「おっと、それは狙わせないぜ」
側面から奇襲を仕掛けてこようとした犬歪虚に向けて、歩夢が符術を放った。
一斉蜂起には勢いというものが大切だ。その勢いを削ぐかもしれない障害を歩夢は積極的に狙う。
歪虚の群れを突破した討伐隊は、一斉に城門へと取りついた。
「見なよ、これが貴方達の成果だ」
満面の笑みを浮かべ、なおも喰いついてくる犬歪虚へ向けて符術を放つ。
枷が外れたようにクリスティンはニヤリと口元を緩めた。
討伐隊の面々は城門に取りついている。犬歪虚と対峙するのはハンター達に役目が移ったのだ。
「一匹も残さない。貴様らはここで消えろ」
ここからは遠慮はいらない。ひたすら歪虚を滅していくだけだ。
その意を理解して歩夢も符を構えながら並んだ。
ここに、二人のハンターに率いられた討伐隊は、数十年閉ざしたままの城門を開いたのであった。
自衛、そして、武装蜂起により、十鳥城は城門が開かれ、外で待機していた鳴月 牡丹(kz0180)率いるエトファリカ連邦国の部隊が入城。
十鳥城に向かっていた災狐本隊の軍勢は、しぶしぶ北西に向けて引き上げて行ったのであった。
おしまい。
●白雪隊
城門がハンター達と武装蜂起した住民達によって開かれる頃、廃墟街で犬歪虚の討伐を担っていたハンター達の戦闘は継続していた。
「避難所に近寄らせません」
エステル・クレティエ (ka3783)が犬歪虚の群れに向かって魔法を唱えるべく短杖の先端で陣を描いた。
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせて!」
猛烈な氷の吹雪が一帯を包み込んで歪虚の動きが明らかに鈍くなる。
それを確認してエステルは小隊の仲間に呼び掛けた。
「今です。お願いしますっ」
その台詞が終わらない内に、影が飛び出た。
七葵 (ka4740)だ。彼は敵が凍てついている好機を見逃さずに一気に勝負を決めにかかる。
敵の方が数が多いが、小隊の連携を持ってすれば、危うい事など全く無かった。
「エトファリカの武家の者として……」
白銀に煌めいた刀を水平に構えて突き出す。
「……十鳥城は必ず開放せる!」
一瞬の事と表現するには言葉が足りない程、素早い突きで犬歪虚を仕留める七葵。
攻撃した後の隙を狙って別の歪虚が噛みついてくるが、それを銀 真白 (ka4128)は刀で受け止める。
「簡単には届かせない」
小隊の仲間を守り、自身を囮に引き付ける事で、長期戦を戦えるようにと整えて来た。
その狙いは正しかった。廃墟街の奥深くまで踏み込んでいるが、小隊の継戦能力は維持されている。
「……あれは……人か?」
視界の中に映った侍の姿を見て、真白は呟いた。
髭だらけ、髪はぐしゃぐしゃの中年の男だ。
手には途中で折れた刀を手にしている。付近の建物の壁には生々しい戦闘の跡が残っていた。かなりの激戦があったのだろう。
「これは、酷いです……」
さっと近寄ってエステルが応急手当を開始する。
「周囲に敵が居るかもしれない。俺は警戒にあたる」
キュッと口元を噛みながら七葵は刀を構えて言った。
残念ながら、男が助かる見込みはないだろう。そう思った。
「……『代官さん』……ですね」
応急手当が行われている中、耳元で真白が訊ねた。
依頼出発前に聞いていた人物だ。堕落者である城主の代わりに実質的に住民達を監督している立場にあり、今回の蜂起では住民達を守る為に歪虚討伐を行っていたという。
「ハン……ター、か……」
息も絶え絶えに代官は口を開いた。
「隊長格を……討ち取った……時期に、城下町の……歪虚も、いなっ!?」
真白は口から大量の鮮血が噴き出す代官の上半身を支えた。ずしりとした重さを感じる。
胸から腹にかけての応急手当を行っていたエステルが叫ぶ。
「喋ってはダメです」
代官は顔を横に振った。
自らに訪れる結末を理解しているのだろう。だからこそ、なにか伝えたい事があるのかもしれない。
「城門が開き、連邦国の部隊が入城したと連絡を受けました。十鳥城は歪虚の手から解放されたのです」
丁寧にゆっくりと真白は代官に伝えた。
「……君らは、エトファリカの者……か?」
代官の視線は真白と七葵に向けられていた。
頷く真白。
「そうか……因果なものだな……」
十数年前、救援を断たれ孤立した十鳥城。
未来も希望もないまま流れた年月の末、巡り合わせた出逢い。
七葵が周囲をザッと回り終わって戻って来た。敵は既に居ないようだ。
「最後になにか伝える事はあるか?」
「……武闘会で……戦っている、ハンター達に……感謝、を……」
エステルは涙を浮かべながら応急手当を止めた。
もはや、言葉が出ている事すら奇跡だろう。
「……矢鳴文様……地獄の入口で、お待ちして……おり……ます……」
穏やかな表情で静かに息を引き取った代官の骸を、真白は静かに降ろした。
付近に落ちていた鞘をエステルは拾い、七葵に渡す。七葵は代官が握っていた刀を鞘に納めると、持たせるよう置いた。
代官の死に際が孤独でなかった事。それだけでも、意味深いものであると信じながら。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 16人 |
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重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/13 08:44:16 |
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質問卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/04/14 08:07:59 |
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【防衛】 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/04/15 00:37:00 |
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【城門】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/13 22:37:09 |
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![]() |
【蜂起】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/14 19:58:01 |
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![]() |
【討伐】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/14 22:59:08 |
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![]() |
【相談】十鳥城の解放を 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/14 10:24:03 |