ゲスト
(ka0000)
春眠暁は訪れず
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/13 12:00
- 完成日
- 2016/04/20 23:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●春の眠りは心地よく
辺境――そこは自然が数多く残る場所。それは逆に言えば、人の目や手が届かぬ場所が数多くあるということにもなる。
特につい最近まで歪虚の支配下にあった場所は、未だに雑魔の蔓延っていることも少なくなく、折角取り戻した故郷の地に戻れぬ辺境部族も大勢いる。
勿論その状況を手をこまねいて見ているわけではない。辺境の戦士達が、そしてハンター達が雑魔退治をしていき、少しずつではあるが人間の生活圏を取り戻している。
「よし、今日はこの辺りでキャンプを張ろう」
1人の年配の男がそう言って馬から降りた。彼は辺境の雑魔討伐に参加しているハンターの1人で、1つの部隊のリーダーを務めている。
行動を共にしている他の7人の仲間も勿論ハンターだ。その半数が駆け出しの新米ハンターではあるが、雑魔退治であれば十分戦力になる。
一同が馬から荷物を降ろし、テントを張ったり夕食の準備をしたりと作業をしていれば、傾いていた夕日はあっという間に沈んで、周囲は月明りがぼんやりとだけ照らす暗闇に包まれた。
「しっかし、今日の敵は手応えなかったなぁ。ゴブリンが2匹だけとか、準備運動にもならねーよ」
「言えてる。てかさ、何であのゴブリン2匹だけだったわけ? ゴブリンって基本群れで行動するもんだろ?」
まだ年若いハンターが今日の出来事を振り返っている。確かに彼らの言う通り、今日の戦果は大したことはない。ハンター8人を相手にゴブリン2匹など、まさに赤子の手をひねるより簡単なことだった。
しかし、疑問が残る。もう1人の若手が言うようにゴブリンは群れで行動する。偵察の為に2~3匹で行動することもあるが、発見したゴブリンを討伐したあとに周囲の捜索を行ったがゴブリンの群れの気配はなかった。
何らかの理由で群れからはぐれてしまったゴブリンだったのだろうか? それにしても、武器も防具も何も持っていないのは少し不思議ではあった。
「この仕事もあと1日かぁ。早くリゼリオに戻って美味い飯が食いてぇ!」
「何よ。私の料理が不味いっていうの?」
「不味い訳じゃないけど、リゼリオの店の料理を普段食べてるとなぁ。舌が肥えちゃって」
仲良く喧嘩している若いハンター達を眺めながら、リーダーの男は小さく笑みを浮かべる。何はともあれこの仕事はあと1日。明日の夕方には近くの村に辿り着く。それまで何事もなく済めばそれでいい。
「おい、お前ら。そろそろ寝る時間だ。喧嘩してるそっちの2人。元気そうだから最初の火の番をやらせてやる」
げぇっと明らかに嫌な顔を浮かべる若いハンター2人に、他のハンター達は何かとばっちりを受ける前にそそくさとテントの中へと避難する。
「じゃあ、頼んだぞ」
リーダーの男もそう言ってテントの中へと入っていく。テントの入り口を閉じる時、若い2人がまた言い合いを始めたようだが、それくらいの喧噪には慣れたものなリーダーの男は、それを子守歌に眠り込んだ。
そして、その眠りから覚めることは二度となかった。
●戻らぬ仲間
未帰還のハンター達のパーティーの捜索と、その原因の究明。ハンター達はその依頼を受けて、未帰還ハンター達の予定順路の逆を進む形で捜索を開始した。
進む道は見通しも良く、もし何かが近づいて来ればすぐに気づけるだろう。
「あーっと、逆に辿るとなると……この草原の先の山の麓から東に向かって、森に入ったら南下して、川に出たらそれに沿って西に……」
ブレアが地図と睨めっこしながらぶつぶつと呟いていると、共に行動しているハンターの1人が何かを見つけた。ブレアもそちらに視線をやれば、確かに何か見える。用意していた双眼鏡を覗いてみれば、それは地面に突き立っている槍であった。
不審に思ったハンター達はすぐにその場所へと向かう。そして、その現場を目撃することになった。
「なんだぁ、こりゃぁ」
ブレアも言葉を失う。それも無理はないだろう。そこには明らかに戦闘の跡があった。
地面に刺さっていた槍は矛先を下に突き立てられており、その矛先が立っている穴には数メートルの溝が共にあった。まるで突き立てた槍で地面を削ったかのようだ。
さらに3つほどテントがあるのだが、そのどれもが破け、壊されていた。その布地に大量の赤黒い染みは、恐らく想像通り血液であろう。
他の荷物も散乱し、明らかに争った跡がある。だが、敵味方両方とも死体は見当たらない。
ハンター達がいた痕跡は見つけた。しかしその姿はなく、何が起きたのかも謎のままだ。
と、その時。崩れたテントの中で何かが動いた。
「何だ? まさか生存者がいるのか?」
一縷の希望を期待する。しかし、もしかするとハンター達と交戦した敵かもしれない。警戒しながらハンター達はそのテントを囲み、そしてブレアが周囲に確認を取るとテントの布地をひっぺがす。
「お前は、確か討伐隊のリーダーだったはずだな」
そこには血まみれで土埃塗れの男が倒れていた。やや虚ろな目をしているが確かに生きている。男が地面を掴んでいた手を上げると、ブレアがその手を握った。
「安心しな。もう――」
「……にげ、ろ……」
「――何?」
男が掠れた声でそう呟いた瞬間、男の体が急にテントの中へと引きずり込まれた。咄嗟のことでブレアも手を放してしまったが、すぐにテントを蹴り払って男の姿を探す。
だが、そこに男の姿はない。ただ、人が1人通れそうなほどの大きな穴がそこにはあった。
「おいおいおい、こいつは――」
ブレアの戦士としての勘が警戒を告げる。だが、それはどうやら少し遅かったようだ。
周囲の地面が隆起したかと思うと、それを破る様にして緑色の蔦が天高く目指して伸びる。1本、2本、3本と次々とだ。
それと同時に、何かがハンター達の周りに降り注いできた。それはよく見れば、カラカラに乾いた死体であった。見た限りではゴブリンや馬のものに見える。
「なるほど。俺らは養分ってわけか。ふざけやがって!」
大きな蕾を揺らす一際太い花柄に向かい、ブレアは背負っていたグレートソードに手を伸ばした。
辺境――そこは自然が数多く残る場所。それは逆に言えば、人の目や手が届かぬ場所が数多くあるということにもなる。
特につい最近まで歪虚の支配下にあった場所は、未だに雑魔の蔓延っていることも少なくなく、折角取り戻した故郷の地に戻れぬ辺境部族も大勢いる。
勿論その状況を手をこまねいて見ているわけではない。辺境の戦士達が、そしてハンター達が雑魔退治をしていき、少しずつではあるが人間の生活圏を取り戻している。
「よし、今日はこの辺りでキャンプを張ろう」
1人の年配の男がそう言って馬から降りた。彼は辺境の雑魔討伐に参加しているハンターの1人で、1つの部隊のリーダーを務めている。
行動を共にしている他の7人の仲間も勿論ハンターだ。その半数が駆け出しの新米ハンターではあるが、雑魔退治であれば十分戦力になる。
一同が馬から荷物を降ろし、テントを張ったり夕食の準備をしたりと作業をしていれば、傾いていた夕日はあっという間に沈んで、周囲は月明りがぼんやりとだけ照らす暗闇に包まれた。
「しっかし、今日の敵は手応えなかったなぁ。ゴブリンが2匹だけとか、準備運動にもならねーよ」
「言えてる。てかさ、何であのゴブリン2匹だけだったわけ? ゴブリンって基本群れで行動するもんだろ?」
まだ年若いハンターが今日の出来事を振り返っている。確かに彼らの言う通り、今日の戦果は大したことはない。ハンター8人を相手にゴブリン2匹など、まさに赤子の手をひねるより簡単なことだった。
しかし、疑問が残る。もう1人の若手が言うようにゴブリンは群れで行動する。偵察の為に2~3匹で行動することもあるが、発見したゴブリンを討伐したあとに周囲の捜索を行ったがゴブリンの群れの気配はなかった。
何らかの理由で群れからはぐれてしまったゴブリンだったのだろうか? それにしても、武器も防具も何も持っていないのは少し不思議ではあった。
「この仕事もあと1日かぁ。早くリゼリオに戻って美味い飯が食いてぇ!」
「何よ。私の料理が不味いっていうの?」
「不味い訳じゃないけど、リゼリオの店の料理を普段食べてるとなぁ。舌が肥えちゃって」
仲良く喧嘩している若いハンター達を眺めながら、リーダーの男は小さく笑みを浮かべる。何はともあれこの仕事はあと1日。明日の夕方には近くの村に辿り着く。それまで何事もなく済めばそれでいい。
「おい、お前ら。そろそろ寝る時間だ。喧嘩してるそっちの2人。元気そうだから最初の火の番をやらせてやる」
げぇっと明らかに嫌な顔を浮かべる若いハンター2人に、他のハンター達は何かとばっちりを受ける前にそそくさとテントの中へと避難する。
「じゃあ、頼んだぞ」
リーダーの男もそう言ってテントの中へと入っていく。テントの入り口を閉じる時、若い2人がまた言い合いを始めたようだが、それくらいの喧噪には慣れたものなリーダーの男は、それを子守歌に眠り込んだ。
そして、その眠りから覚めることは二度となかった。
●戻らぬ仲間
未帰還のハンター達のパーティーの捜索と、その原因の究明。ハンター達はその依頼を受けて、未帰還ハンター達の予定順路の逆を進む形で捜索を開始した。
進む道は見通しも良く、もし何かが近づいて来ればすぐに気づけるだろう。
「あーっと、逆に辿るとなると……この草原の先の山の麓から東に向かって、森に入ったら南下して、川に出たらそれに沿って西に……」
ブレアが地図と睨めっこしながらぶつぶつと呟いていると、共に行動しているハンターの1人が何かを見つけた。ブレアもそちらに視線をやれば、確かに何か見える。用意していた双眼鏡を覗いてみれば、それは地面に突き立っている槍であった。
不審に思ったハンター達はすぐにその場所へと向かう。そして、その現場を目撃することになった。
「なんだぁ、こりゃぁ」
ブレアも言葉を失う。それも無理はないだろう。そこには明らかに戦闘の跡があった。
地面に刺さっていた槍は矛先を下に突き立てられており、その矛先が立っている穴には数メートルの溝が共にあった。まるで突き立てた槍で地面を削ったかのようだ。
さらに3つほどテントがあるのだが、そのどれもが破け、壊されていた。その布地に大量の赤黒い染みは、恐らく想像通り血液であろう。
他の荷物も散乱し、明らかに争った跡がある。だが、敵味方両方とも死体は見当たらない。
ハンター達がいた痕跡は見つけた。しかしその姿はなく、何が起きたのかも謎のままだ。
と、その時。崩れたテントの中で何かが動いた。
「何だ? まさか生存者がいるのか?」
一縷の希望を期待する。しかし、もしかするとハンター達と交戦した敵かもしれない。警戒しながらハンター達はそのテントを囲み、そしてブレアが周囲に確認を取るとテントの布地をひっぺがす。
「お前は、確か討伐隊のリーダーだったはずだな」
そこには血まみれで土埃塗れの男が倒れていた。やや虚ろな目をしているが確かに生きている。男が地面を掴んでいた手を上げると、ブレアがその手を握った。
「安心しな。もう――」
「……にげ、ろ……」
「――何?」
男が掠れた声でそう呟いた瞬間、男の体が急にテントの中へと引きずり込まれた。咄嗟のことでブレアも手を放してしまったが、すぐにテントを蹴り払って男の姿を探す。
だが、そこに男の姿はない。ただ、人が1人通れそうなほどの大きな穴がそこにはあった。
「おいおいおい、こいつは――」
ブレアの戦士としての勘が警戒を告げる。だが、それはどうやら少し遅かったようだ。
周囲の地面が隆起したかと思うと、それを破る様にして緑色の蔦が天高く目指して伸びる。1本、2本、3本と次々とだ。
それと同時に、何かがハンター達の周りに降り注いできた。それはよく見れば、カラカラに乾いた死体であった。見た限りではゴブリンや馬のものに見える。
「なるほど。俺らは養分ってわけか。ふざけやがって!」
大きな蕾を揺らす一際太い花柄に向かい、ブレアは背負っていたグレートソードに手を伸ばした。
リプレイ本文
●蔦の包囲網
夕日が地平線の向こうへと沈んでいき、草原はあっという間に夜の闇に包まれた。
そしてその暗闇に乗じるかのように、蔦の化け物はその身を大きくしならせハンター達に向けて振り下ろす。
「ちぃっ!」
真っ先に狙われたのはブレアだった。だがブレアは素早く抜いたグレートソードでその一撃を防ぎ、力任せに押し返す。
「まずは明かりを……っ!」
シャルア・レイセンファード(ka4359)が黄金色の杖で空間を叩くと、その場所に小さな火が灯り周囲を照らした。他のハンター達も自前の照明器具を点けていくと、ハンター達を威嚇するように大きく揺らめく複数の蔦の姿が浮かび上がる。
「ブレアっ。引きずり込まれた奴は!?」
「分からん!」
ブレアは更に襲ってくる蔦を斬り払いながら、岩井崎 旭(ka0234)の問いに大声で返した。
「クソがっ。まだ生きてるなら助けないと。全員見つけて連れ帰ってやる!」
旭は地面の穴の前に滑り込むようにして移動すると、その穴の奥を覗いてみる。穴は縦に垂直に掘られたようになっているが、松明が照らす明かりだけでは一番奥までは見通せずその先にはまだ暗闇が広がっていた。
その時、穴に注意を向けていた旭に向けて1本の蔦がその身を振り下ろしてくる。旭はそれに気づき愛用の黒斧槍を構えるが、その攻撃が旭へと届く前にその間に割って入る者がいた。
「こいつは仲間を救おうとしてるんだ。お前さんに手出しはさせんよ」
榊 兵庫(ka0010)は手にした十文字槍で蔦の一撃を受け止めると、その言葉と共に払い除け、槍の矛先を蔦へと向ける。
「見た限り、穴には変な液体なんかは付いてないか……どうやら力技で地面の下から掘ったみたいだな」
旭の隣で穴の様子を調べた龍崎・カズマ(ka0178)がそう呟く。さっきから襲い来る蔦も物理的に叩きつけてくるような攻撃しかしてこないところを見るに、完全に力押しで攻めるタイプだとカズマは当たりをつけた。
「これだけ数が多いと面倒ね。でも、おかげで狙いやすいわ」
そんな言葉と共にハンター達を囲う蔦に向けて嘗めるように火炎放射が放たれる。コントラルト(ka4753)は残り火を払うように炎を放っていた七支刀を振るうと、焼け焦げて苦しむようにうねる蔦に冷めた視線を送る。
「炎が弱点みたいね。分かりやすいわ」
「植物型だしやっぱりそうなんだ? よーし、それならあたしも張り切っちゃうんだよ!」
リュミア・ルクス(ka5783)は体を後ろに反らせて大きく息を吸うと一瞬息を止め、そして反らせた体を前に押し出すと同時に口を開く。
「ぎゃおー!」
可愛らしい鳴き声とは裏腹に、開かれた口からは高密度に圧縮されたマテリアルが吐き出され、それは大気を焦がす焔へと変換される。
竜の吐息≪ドラゴンブレス≫。それを模した炎は着弾と同時に爆炎となって周囲に熱と衝撃を撒き散らす。
「私も負けていられませんねぇ。歪虚はブッコロですぅ望むところですぅ」
炎で薙ぎ払われるその様子を見て、星野 ハナ(ka5852)は負けじと別方向にいる蔦に目掛けて数枚の符を投げつけた。
投げられた符に書かれている呪文に赤い光が灯ると、符はまるで生きているかのように舞い数本の蔦を囲う。
瞬間、符の囲んだ内側に光が満ちた。闇夜を払う光は数秒で止むと、そこにはあちこちを焦がした蔦の姿があった。
ハンター達からの攻撃は問題なく通る。弱点が火であることも早々に分かった。ならばあと確認すべきことは……。
その考えに至り、セリナ・アガスティア(ka6094)は符を飛ばした。狙うのは蔦の包囲の外側で揺れている大きな蕾だ。
だが、符が火の精霊力を持って赤熱化し蕾へと届こうとした時、1本の蔦がそれをさせないとばかりに飛ぶ符を叩き落した。
「蕾を守りますか」
「この蔦共が単体なのか同一個体なのかは分からないが、今のであの蕾が胆だっていうのは分かったな」
セリナの言葉に、カズマが今の攻撃で分かったことを補足するように口にする。
「知りたいことは大体知れたようだな。さて、それじゃあどう攻める?」
ブレアの言葉にハンター達は互いに視線を交わす。だが、これといった作戦を口にするものはいなかった。
「まあ、俺はこのままゴリ押しでも問題ないぜ!」
ブレアは結局ハンター達の言葉を待たず、グレートソードを振りまわし一本の蔦を根元から斬り飛ばした。
●奮闘
「さあ、派手に行くですよぉ。ニョロニョロ燃やし尽くしですぅ!」
ハナが投げた符が蔦を取り囲み、光の結界で包み込む。その攻撃で1本の短い蔦が力尽きて地面に倒れ込むが、他の蔦は未だに健在だ。
「倒れた蔦が復活する様子もないし、これ以上数が増える様子もない。警戒しすぎだったかしら」
上空に飛び上がり火を放ちながらコントラルトはそう呟く。囲まれた時こそ厄介だと思ったが、攻撃力も然程高くなく多少タフな程度だ。苦戦はしても負けはしない。そんな確信が心の中に生まれていた。
だからだろうか。慢心しているつもりはなかったが、上空に飛び上がって火を放つという行為が敵の気を引くには十分だということに気づけなかった。
「――なっ!?」
違和感に気づいた時にはその足首に伸ばされた蔦の先端が巻き付いていた。炎を放った面とは逆側から伸びてきた蔦を察知できなかったのだ。
コントラルトは蔦の振り回す力に抗いきれず宙づりにされる。更に、体に僅かだが虚脱感が襲ってきた。
「くっ、これは……マテリアルドレインか」
コントラルトは足を掴む蔦を焼き払おうと七支刀を向けるが、蔦はそれはさせまいとばかりにコントラルトの体を振り回し狙いを付けられないようにする。
だが、そのコントラルトを掴む蔦が突然動きを止めた。見ればコントラルトの足を掴むすぐ傍に赤いワイヤーが巻き付いていた。
「全く、世話が焼けるな」
カズマはそんな悪態をつきながらワイヤーウィップの持ち手を握り締め力の限り引っ張る。鍛え上げられたハンターの肉体は人の身の丈からは到底考えられない力を発揮し、完全に蔦の動きを抑え込んでいた。
「コントラルトさん、動かないでくださいね。今助けます」
シャルアの編み上げた魔法陣に蒼い火が灯る。氷のように冷たい色をしながらも、放たれた火は蔦の燃え上がらせ焼き切った。
自由になったコントラルトは身を捻って地面に降り立つ。多少マテリアルを吸われたが、戦闘に大きな支障はなさそうだ。
そんな一進一退の戦いを繰り広げる中で、その変化に最初に気づいたのは旭だった。
「なあ。あの蕾、何かさっきより膨らんでないか?」
ハンター達がその言葉に蕾へと視線を向けてみれば、確かに一回りほど蕾が大きくなっているように見える。それに、さっきまで殆ど頭を垂れている形だったのに、今は少しばかり蕾が上へと持ち上がっていた。
「開花が近いということですか……歪虚の花なんて、嫌な予感しかしません」
セリスが再び蕾に向けて炎の符術を飛ばすが、先ほどと同じように別の蔦に防がれて届かない。
「ここは1つ攻めるが吉か。なら俺が回りの蔦共を引き付けるとしよう」
そう言って兵庫が一歩前に出た。そして槍を構えると同時に、マテリアルをオーラへと変換し体の外へと噴き出させて身に纏う。
それに蔦は想像以上に反応した。元々の知能が低かったのもあってか、強いマテリアルを捕らえるべくその身を兵庫へ向けて伸ばす。
兵庫はその鼻っ柱を折る様に腰溜めに構えた槍を真横に振り抜き、近寄ってきた蔦を纏めて吹き飛ばす。だがそれでも諦めない蔦は執拗に兵庫を捕らえようと襲い掛かる。
「うおっ、流石に多いなっ!」
「兵庫さん、フォローします」
兵庫に巻き付こうとした蔦の一本にシャルアの放った氷の矢が突き刺さる。
「助かる、ぜっ!」
兵庫は凍り付き動きの鈍った蔦を兵庫は蹴り飛ばし、更に絡みついて来ようとする別の蔦を槍で薙ぐ。
「それなら私もお手伝いしますぅ。大盤振る舞いですよぅ!」
そこにハナも加勢し、炎を纏う符を次々に投げつける。
そうやって蔦が抑え込まれている間に残りのハンター達が蕾に対して接近し、攻撃をしかけ――
「――っ! あぶねぇ!?」
――ようとした瞬間。旭は咄嗟に真横に飛んだ。数瞬置いてその場所目掛け、蕾がその身で地面へ叩く。
「思ったより機敏だな。だが、見えないほどじゃない」
カズマの振るったワイヤーウィップが蕾の花柄に巻き付く。カズマはそのまま押さえつけようとするが、他の蔦よりこの蕾は力が強かった。蕾が暴れるように左右に揺れれば、その動きにカズマの体も振り回される。
「暴れまわるんじゃねぇっ!」
旭が斧槍を救い上げるようにしてフルスイングし、蕾を真上へと打ちあげる。蕾は空を仰ぐように上へと向き、更にそこに飛び上がった旭の斧槍の振り下ろしで、今度は地面へと叩き落される。
地面に叩きつけられた蕾は、そこに小さなへこみを作るほどの衝撃を受けていたようだが、それでも何事もなかったかのようにその身を起こし蕾を持ち上げる。
ここで更に蕾がまた少し大きくなった気がした。その先端が僅かに開き、今にも花開こうとしているように見える。
「おいおい、成長が早すぎるだろう。せっかちは嫌われるぜ」
ブレアがそんな愚痴をこぼしながらグレートソードを振りかぶったところで、彼の姿が急に後ろへと引っ張られて消えた。
ハンター達が振り返ってその姿を追えば、彼の腕に1本の蔦が巻き付いているのが見える。そして別の蔦が他のハンターにも迫っていた。
「このっ!」
旭も一瞬の虚を突かれて腕に蔦を巻き付けられた。だが、その体が引きずられる前に旭は大量のマテリアルを掴まれている腕に流し込む。
そして熱砂が舞った。旭の腕が引かれようとした瞬間、その腕を中心に赤熱した砂塵が渦巻いた。それは瞬く間に旭の腕に巻き付いていた蔦を焼き、ズタズタにして拘束を解く。
「んなもんで止められるかよッ!」
更についでと斧槍を振るい目の前に残る蔦を叩き切る。
「その人をあなたの養分にはさせないわ。放しなさい」
「よっし、良い援護、だぁっ!」
後ろに引きずられていったブレアの方も、セリナが放った攻撃で蔦が怯んだ隙に抜け出せたようだ。
「うーん、これ以上大きくなって蕾が開いたら大変なことになりそう。こうなったらリュミアちゃんのとっておきを見せてあげるよ!」
リュミアは胸元に手を当て、そして息を大きく吸い込む。そんな彼女の動きに何か察したのか、蕾がその身を振り降ろしてくるが、カズマと旭の連撃でそのまま後ろへと弾き返される。
「ぎゃ、おーー!!」
リュミアの咆哮が轟く。先ほどまでの火炎とはまた別の、悲痛の声にも似た雷の本流が吐き出された。爆音と共に大地が弾け、周囲には舞い上がった土煙が立ち込めパラパラと土や石が降り注いでくる。
その爆発の中心地、蕾の花柄の根元は先ほどの威力を物語る様に地面が抉られている。
「むぅ、まだこれだけじゃ足りないみたいだね。それじゃあもう一度。リュミアちゃんは諦めが悪いのだ」
悲痛の咆哮が二度三度と繰り返され、その度に大地が抉られる。そしてそれを4度繰り返したところで、それは姿を現した。
「何だあれは? ……おい、人だ。人が根っこに覆われてやがる!」
抉られた地面のその先には植物型歪虚の根があった。そしてその根に絡みつかれるようにして、1人の人間の姿がそこにあった。
「今助けるぞ!」
「あっ、待ちな……って、聞いてないな」
旭はブレアの言葉を聞くことなく真っ先に抉られた穴の中に飛び込む。
「オーケー、やることは変わらない。速攻でこの植物の化け物をぶった切るぞ」
「それから焼いて消し炭にしましょう」
ブレアの言葉にコントラルトが続き、2人は互いに白刃と灼熱の炎を蕾に向けて叩き込んだ。
●暁の光を目にした者は
植物型歪虚との戦いは結果的には善戦の内に終わった。
蔦の数が半分以下になったところで、攻勢をかけたことにより蕾は花開く前に根元から切られ、蕾も炎に焼かれて灰となった。
そして今ハンター達は、周囲の地面を掘り返しているところだった。
「こいつで最後、かね」
土塗れになりながら兵庫は地面の中に埋まっていた小柄な女性を抱き上げる。その体はぴくりとも動かない。
女性は子供ではなかったが、兵庫よりは若いだろう。その事に思うところがないと言えば、やはり嘘になってしまう。
「……ひどい……」
シャルアは寝かされた女性の遺体を前に、せめてもとその顔の土を落としてやる。その時触れたその白い肌は、彼女の手よりも冷たかった。
「助けられたのは1人だけ……死体を全て見つけられただけ、御の字かしら」
放っておいてアンデッドになられたら困るもの、とコントラルトは続けるが、それを言葉にしてから目を閉じ、口を閉じる。
唯一助かったのはあの時ハンター達の目の前で穴に引きずり込まれた男だけだった。その彼もかなり衰弱しており、未だに目を覚まさない。
「こういうこともあるんですねぇ……皆の遺品は、ちゃんと持ち帰ってあげますぅ」
並べられた7つの遺体。その全てを運ぶことは難しい。だから彼らからは持って運べるだけの品を預かり、ハンターオフィスへと提出する。
それを遺族が引き取り、どうしてもというのであれば別の依頼として彼らの遺体が回収されることだろう。
「私にはこれくらいしかできません……水神ティアの名の元に、母なる大地で静かな眠りを祈ります」
セリナは手にした符から溢れた水を彼らの体に振りかけていく。その魂に安らかな眠りが訪れるようにと。
「何とも、後味の悪い依頼になっちまったな」
「ハンターの仕事をしてりゃ、3~4回に1回はこんな依頼があるもんだ」
カズマの言葉にブレアが肩を竦めながらそう返す。
元々の依頼は彼らの捜索。無事に連れ帰ることは依頼内容ではなかった。とは言え、助けられなかった人の遺体が目の前にあればやはり思うことはある。
重い沈黙が訪れる。もうこれ以上ここに居る理由はない。それならば、後はハンターとして報告の為に戻るのみ。
「……帰ろうぜ」
旭はもう一度だけ彼らの遺体の顔を見て、あとは一度も振り返らずに歩き出した。
夕日が地平線の向こうへと沈んでいき、草原はあっという間に夜の闇に包まれた。
そしてその暗闇に乗じるかのように、蔦の化け物はその身を大きくしならせハンター達に向けて振り下ろす。
「ちぃっ!」
真っ先に狙われたのはブレアだった。だがブレアは素早く抜いたグレートソードでその一撃を防ぎ、力任せに押し返す。
「まずは明かりを……っ!」
シャルア・レイセンファード(ka4359)が黄金色の杖で空間を叩くと、その場所に小さな火が灯り周囲を照らした。他のハンター達も自前の照明器具を点けていくと、ハンター達を威嚇するように大きく揺らめく複数の蔦の姿が浮かび上がる。
「ブレアっ。引きずり込まれた奴は!?」
「分からん!」
ブレアは更に襲ってくる蔦を斬り払いながら、岩井崎 旭(ka0234)の問いに大声で返した。
「クソがっ。まだ生きてるなら助けないと。全員見つけて連れ帰ってやる!」
旭は地面の穴の前に滑り込むようにして移動すると、その穴の奥を覗いてみる。穴は縦に垂直に掘られたようになっているが、松明が照らす明かりだけでは一番奥までは見通せずその先にはまだ暗闇が広がっていた。
その時、穴に注意を向けていた旭に向けて1本の蔦がその身を振り下ろしてくる。旭はそれに気づき愛用の黒斧槍を構えるが、その攻撃が旭へと届く前にその間に割って入る者がいた。
「こいつは仲間を救おうとしてるんだ。お前さんに手出しはさせんよ」
榊 兵庫(ka0010)は手にした十文字槍で蔦の一撃を受け止めると、その言葉と共に払い除け、槍の矛先を蔦へと向ける。
「見た限り、穴には変な液体なんかは付いてないか……どうやら力技で地面の下から掘ったみたいだな」
旭の隣で穴の様子を調べた龍崎・カズマ(ka0178)がそう呟く。さっきから襲い来る蔦も物理的に叩きつけてくるような攻撃しかしてこないところを見るに、完全に力押しで攻めるタイプだとカズマは当たりをつけた。
「これだけ数が多いと面倒ね。でも、おかげで狙いやすいわ」
そんな言葉と共にハンター達を囲う蔦に向けて嘗めるように火炎放射が放たれる。コントラルト(ka4753)は残り火を払うように炎を放っていた七支刀を振るうと、焼け焦げて苦しむようにうねる蔦に冷めた視線を送る。
「炎が弱点みたいね。分かりやすいわ」
「植物型だしやっぱりそうなんだ? よーし、それならあたしも張り切っちゃうんだよ!」
リュミア・ルクス(ka5783)は体を後ろに反らせて大きく息を吸うと一瞬息を止め、そして反らせた体を前に押し出すと同時に口を開く。
「ぎゃおー!」
可愛らしい鳴き声とは裏腹に、開かれた口からは高密度に圧縮されたマテリアルが吐き出され、それは大気を焦がす焔へと変換される。
竜の吐息≪ドラゴンブレス≫。それを模した炎は着弾と同時に爆炎となって周囲に熱と衝撃を撒き散らす。
「私も負けていられませんねぇ。歪虚はブッコロですぅ望むところですぅ」
炎で薙ぎ払われるその様子を見て、星野 ハナ(ka5852)は負けじと別方向にいる蔦に目掛けて数枚の符を投げつけた。
投げられた符に書かれている呪文に赤い光が灯ると、符はまるで生きているかのように舞い数本の蔦を囲う。
瞬間、符の囲んだ内側に光が満ちた。闇夜を払う光は数秒で止むと、そこにはあちこちを焦がした蔦の姿があった。
ハンター達からの攻撃は問題なく通る。弱点が火であることも早々に分かった。ならばあと確認すべきことは……。
その考えに至り、セリナ・アガスティア(ka6094)は符を飛ばした。狙うのは蔦の包囲の外側で揺れている大きな蕾だ。
だが、符が火の精霊力を持って赤熱化し蕾へと届こうとした時、1本の蔦がそれをさせないとばかりに飛ぶ符を叩き落した。
「蕾を守りますか」
「この蔦共が単体なのか同一個体なのかは分からないが、今のであの蕾が胆だっていうのは分かったな」
セリナの言葉に、カズマが今の攻撃で分かったことを補足するように口にする。
「知りたいことは大体知れたようだな。さて、それじゃあどう攻める?」
ブレアの言葉にハンター達は互いに視線を交わす。だが、これといった作戦を口にするものはいなかった。
「まあ、俺はこのままゴリ押しでも問題ないぜ!」
ブレアは結局ハンター達の言葉を待たず、グレートソードを振りまわし一本の蔦を根元から斬り飛ばした。
●奮闘
「さあ、派手に行くですよぉ。ニョロニョロ燃やし尽くしですぅ!」
ハナが投げた符が蔦を取り囲み、光の結界で包み込む。その攻撃で1本の短い蔦が力尽きて地面に倒れ込むが、他の蔦は未だに健在だ。
「倒れた蔦が復活する様子もないし、これ以上数が増える様子もない。警戒しすぎだったかしら」
上空に飛び上がり火を放ちながらコントラルトはそう呟く。囲まれた時こそ厄介だと思ったが、攻撃力も然程高くなく多少タフな程度だ。苦戦はしても負けはしない。そんな確信が心の中に生まれていた。
だからだろうか。慢心しているつもりはなかったが、上空に飛び上がって火を放つという行為が敵の気を引くには十分だということに気づけなかった。
「――なっ!?」
違和感に気づいた時にはその足首に伸ばされた蔦の先端が巻き付いていた。炎を放った面とは逆側から伸びてきた蔦を察知できなかったのだ。
コントラルトは蔦の振り回す力に抗いきれず宙づりにされる。更に、体に僅かだが虚脱感が襲ってきた。
「くっ、これは……マテリアルドレインか」
コントラルトは足を掴む蔦を焼き払おうと七支刀を向けるが、蔦はそれはさせまいとばかりにコントラルトの体を振り回し狙いを付けられないようにする。
だが、そのコントラルトを掴む蔦が突然動きを止めた。見ればコントラルトの足を掴むすぐ傍に赤いワイヤーが巻き付いていた。
「全く、世話が焼けるな」
カズマはそんな悪態をつきながらワイヤーウィップの持ち手を握り締め力の限り引っ張る。鍛え上げられたハンターの肉体は人の身の丈からは到底考えられない力を発揮し、完全に蔦の動きを抑え込んでいた。
「コントラルトさん、動かないでくださいね。今助けます」
シャルアの編み上げた魔法陣に蒼い火が灯る。氷のように冷たい色をしながらも、放たれた火は蔦の燃え上がらせ焼き切った。
自由になったコントラルトは身を捻って地面に降り立つ。多少マテリアルを吸われたが、戦闘に大きな支障はなさそうだ。
そんな一進一退の戦いを繰り広げる中で、その変化に最初に気づいたのは旭だった。
「なあ。あの蕾、何かさっきより膨らんでないか?」
ハンター達がその言葉に蕾へと視線を向けてみれば、確かに一回りほど蕾が大きくなっているように見える。それに、さっきまで殆ど頭を垂れている形だったのに、今は少しばかり蕾が上へと持ち上がっていた。
「開花が近いということですか……歪虚の花なんて、嫌な予感しかしません」
セリスが再び蕾に向けて炎の符術を飛ばすが、先ほどと同じように別の蔦に防がれて届かない。
「ここは1つ攻めるが吉か。なら俺が回りの蔦共を引き付けるとしよう」
そう言って兵庫が一歩前に出た。そして槍を構えると同時に、マテリアルをオーラへと変換し体の外へと噴き出させて身に纏う。
それに蔦は想像以上に反応した。元々の知能が低かったのもあってか、強いマテリアルを捕らえるべくその身を兵庫へ向けて伸ばす。
兵庫はその鼻っ柱を折る様に腰溜めに構えた槍を真横に振り抜き、近寄ってきた蔦を纏めて吹き飛ばす。だがそれでも諦めない蔦は執拗に兵庫を捕らえようと襲い掛かる。
「うおっ、流石に多いなっ!」
「兵庫さん、フォローします」
兵庫に巻き付こうとした蔦の一本にシャルアの放った氷の矢が突き刺さる。
「助かる、ぜっ!」
兵庫は凍り付き動きの鈍った蔦を兵庫は蹴り飛ばし、更に絡みついて来ようとする別の蔦を槍で薙ぐ。
「それなら私もお手伝いしますぅ。大盤振る舞いですよぅ!」
そこにハナも加勢し、炎を纏う符を次々に投げつける。
そうやって蔦が抑え込まれている間に残りのハンター達が蕾に対して接近し、攻撃をしかけ――
「――っ! あぶねぇ!?」
――ようとした瞬間。旭は咄嗟に真横に飛んだ。数瞬置いてその場所目掛け、蕾がその身で地面へ叩く。
「思ったより機敏だな。だが、見えないほどじゃない」
カズマの振るったワイヤーウィップが蕾の花柄に巻き付く。カズマはそのまま押さえつけようとするが、他の蔦よりこの蕾は力が強かった。蕾が暴れるように左右に揺れれば、その動きにカズマの体も振り回される。
「暴れまわるんじゃねぇっ!」
旭が斧槍を救い上げるようにしてフルスイングし、蕾を真上へと打ちあげる。蕾は空を仰ぐように上へと向き、更にそこに飛び上がった旭の斧槍の振り下ろしで、今度は地面へと叩き落される。
地面に叩きつけられた蕾は、そこに小さなへこみを作るほどの衝撃を受けていたようだが、それでも何事もなかったかのようにその身を起こし蕾を持ち上げる。
ここで更に蕾がまた少し大きくなった気がした。その先端が僅かに開き、今にも花開こうとしているように見える。
「おいおい、成長が早すぎるだろう。せっかちは嫌われるぜ」
ブレアがそんな愚痴をこぼしながらグレートソードを振りかぶったところで、彼の姿が急に後ろへと引っ張られて消えた。
ハンター達が振り返ってその姿を追えば、彼の腕に1本の蔦が巻き付いているのが見える。そして別の蔦が他のハンターにも迫っていた。
「このっ!」
旭も一瞬の虚を突かれて腕に蔦を巻き付けられた。だが、その体が引きずられる前に旭は大量のマテリアルを掴まれている腕に流し込む。
そして熱砂が舞った。旭の腕が引かれようとした瞬間、その腕を中心に赤熱した砂塵が渦巻いた。それは瞬く間に旭の腕に巻き付いていた蔦を焼き、ズタズタにして拘束を解く。
「んなもんで止められるかよッ!」
更についでと斧槍を振るい目の前に残る蔦を叩き切る。
「その人をあなたの養分にはさせないわ。放しなさい」
「よっし、良い援護、だぁっ!」
後ろに引きずられていったブレアの方も、セリナが放った攻撃で蔦が怯んだ隙に抜け出せたようだ。
「うーん、これ以上大きくなって蕾が開いたら大変なことになりそう。こうなったらリュミアちゃんのとっておきを見せてあげるよ!」
リュミアは胸元に手を当て、そして息を大きく吸い込む。そんな彼女の動きに何か察したのか、蕾がその身を振り降ろしてくるが、カズマと旭の連撃でそのまま後ろへと弾き返される。
「ぎゃ、おーー!!」
リュミアの咆哮が轟く。先ほどまでの火炎とはまた別の、悲痛の声にも似た雷の本流が吐き出された。爆音と共に大地が弾け、周囲には舞い上がった土煙が立ち込めパラパラと土や石が降り注いでくる。
その爆発の中心地、蕾の花柄の根元は先ほどの威力を物語る様に地面が抉られている。
「むぅ、まだこれだけじゃ足りないみたいだね。それじゃあもう一度。リュミアちゃんは諦めが悪いのだ」
悲痛の咆哮が二度三度と繰り返され、その度に大地が抉られる。そしてそれを4度繰り返したところで、それは姿を現した。
「何だあれは? ……おい、人だ。人が根っこに覆われてやがる!」
抉られた地面のその先には植物型歪虚の根があった。そしてその根に絡みつかれるようにして、1人の人間の姿がそこにあった。
「今助けるぞ!」
「あっ、待ちな……って、聞いてないな」
旭はブレアの言葉を聞くことなく真っ先に抉られた穴の中に飛び込む。
「オーケー、やることは変わらない。速攻でこの植物の化け物をぶった切るぞ」
「それから焼いて消し炭にしましょう」
ブレアの言葉にコントラルトが続き、2人は互いに白刃と灼熱の炎を蕾に向けて叩き込んだ。
●暁の光を目にした者は
植物型歪虚との戦いは結果的には善戦の内に終わった。
蔦の数が半分以下になったところで、攻勢をかけたことにより蕾は花開く前に根元から切られ、蕾も炎に焼かれて灰となった。
そして今ハンター達は、周囲の地面を掘り返しているところだった。
「こいつで最後、かね」
土塗れになりながら兵庫は地面の中に埋まっていた小柄な女性を抱き上げる。その体はぴくりとも動かない。
女性は子供ではなかったが、兵庫よりは若いだろう。その事に思うところがないと言えば、やはり嘘になってしまう。
「……ひどい……」
シャルアは寝かされた女性の遺体を前に、せめてもとその顔の土を落としてやる。その時触れたその白い肌は、彼女の手よりも冷たかった。
「助けられたのは1人だけ……死体を全て見つけられただけ、御の字かしら」
放っておいてアンデッドになられたら困るもの、とコントラルトは続けるが、それを言葉にしてから目を閉じ、口を閉じる。
唯一助かったのはあの時ハンター達の目の前で穴に引きずり込まれた男だけだった。その彼もかなり衰弱しており、未だに目を覚まさない。
「こういうこともあるんですねぇ……皆の遺品は、ちゃんと持ち帰ってあげますぅ」
並べられた7つの遺体。その全てを運ぶことは難しい。だから彼らからは持って運べるだけの品を預かり、ハンターオフィスへと提出する。
それを遺族が引き取り、どうしてもというのであれば別の依頼として彼らの遺体が回収されることだろう。
「私にはこれくらいしかできません……水神ティアの名の元に、母なる大地で静かな眠りを祈ります」
セリナは手にした符から溢れた水を彼らの体に振りかけていく。その魂に安らかな眠りが訪れるようにと。
「何とも、後味の悪い依頼になっちまったな」
「ハンターの仕事をしてりゃ、3~4回に1回はこんな依頼があるもんだ」
カズマの言葉にブレアが肩を竦めながらそう返す。
元々の依頼は彼らの捜索。無事に連れ帰ることは依頼内容ではなかった。とは言え、助けられなかった人の遺体が目の前にあればやはり思うことはある。
重い沈黙が訪れる。もうこれ以上ここに居る理由はない。それならば、後はハンターとして報告の為に戻るのみ。
「……帰ろうぜ」
旭はもう一度だけ彼らの遺体の顔を見て、あとは一度も振り返らずに歩き出した。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/12 12:17:24 |
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【相談】現場検証 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/12 20:48:28 |