『号外特集』だいじなものは、なんですか?

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/13 19:00
完成日
2016/04/28 15:37

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

※こちらのシナリオは個別シナリオとなります。通常参加の各PCに個別リプレイが別に、納品されます。
 なお、表示されているシリーズシナリオとしての続編は今後、リリースされません。ご参加の際はお間違えの無いようにご注意ください。


『賢明なる読者諸君には既知の事柄に過ぎるため、是より先は全て、自己満足の為の駄文に過ぎぬ。
 しばしお付き合い願いたい。


 グラムヘイズ王国で、庶民の娯楽として広く愛されているものを一つ挙げるとなると……さて、何を挙げるだろうか。
 ある者は、劇場での観劇というかもしれない。またある者は、酒場で耳にする吟遊詩人の詩歌というかもしれない。
 文化を愛する心。嗚呼、素晴らしい事だ。文化的素養は人生を豊かにする。

 さて。賢明なる読者諸君。あなた方なら、きっとこういうことだろう。

 たとえどれだけ下劣でも、どれだけ愚昧でも、どれだけ低俗でも、どれだけ醜穢でも、どれだけ猥雑だとしても。

 ヘルメス情報局の『号外』こそが我々の娯楽だ、と。


 ――勿論、我々の記事が斯様に下劣で愚昧で低俗で醜穢で猥雑であるというのは仮定に過ぎない事もまた、賢明なる読者諸君ならご理解いただける事と思う』



 親愛なる読者諸君。久方ぶりの、ハンター諸氏の記事である。
 前回の特集記事を書き上げてから、世界では様々な出来事が起こっていた事は、当紙をご愛読頂いている諸氏はよくよくご存知であることと思う。
 王国に限っても、悪しき歪虚に取り憑かれたと思しきテスカ教徒達が反旗を翻し、大規模な戦乱が各地で引き起こされているし、かのシャルシェレット卿の異端審問という一大事変も記憶に新しい。
 我が王国に限らず、帝国の動乱、北方での事変と目まぐるしく動いている。

 賢明なる読者諸君はお気づきのことと思うが、これらの騒動の解決において中心的役割をになっているのは、やはり、ハンター達である。
 ハンターはその数を急増させたことを端緒に、以降長らく獅子奮迅の活躍を示し続けている。
 彼らが受勲の誉れを授かる事ももはや珍しい事ではなくなってきていることを踏まえると、なるほど、彼らの影響力が知れるものである。
 例えば、この号外の売れ行きなどは、その最たるところといえよう。

 ――さて。
 機会があれば、こうして巡ってくるのが、この特集、この記事である。
 これまではハンター達が精霊と結んだ契約について、焦点を当ててきた。
 しかし、と。敢えて触れておきたい。

 もうすぐ、二年になる。
 早いもので、彼らの活躍が描かれ初めてから、それだけの時間が経とうとしているのだ。
 ならば、此処は一つ趣向を変えても良い頃合いではないか、と愚考する次第である。

 つまり。

 この二年のうちでハンター諸氏が得た、『最も』大事なものは何か、と。

 少々野次馬根性が過ぎるだろうか?
 しかし、英雄顔負けの働きを示す彼らを識る、良き機会と言えないだろうか?

 さて。それでは、とくとご覧あれ――。





 『あなた』はその時、冒険都市リゼリオに居た。
 その時あなたは、一人で買い物をしていたかもしれない。連れと共に食事をしていたかもしれない。あるいは、依頼を物色していたのかもしれない。
 ただ、こういう事があった、というだけのことである。

「スターーーーーーーーーーーップ!!」
 あなたは、そんな声を聴いた。
 並々ならぬ熱量を孕んだ声だった。豊かすぎる声量はまっすぐに貴方の鼓膜を震わせたことだろう。
 ただ、見渡しても声の主ははっきりとしなかった。その疑念は、すぐに解けることとなる。
「何処を見ている!! む? こんなことが前にもあったような……まあいい! おい! ワシは此処だ!!! ヘイ!!!!!」
 声は、貴方の足元から響いていたのだ。


 そこに居たのは、『キノコ』だった。尋常ならざるキノコである事は一目で知れる。
 黒々としたチョビヒゲを蓄え、着古したクラシックなスーツを身にまとっている。声の渋さは見た目の滑稽さで台無しになっていた。
「貴様! この卓絶した観察眼を持つワシが見るに、ハンターであるな!!! ワシはイェスパー!! 見ての通りの文筆家である!!」
 何処からか取り出した黒羽のペンをぐるぐると振り回しながら、大きく見栄を切る。
「ワシは書くぞ! そして描く! そのためにも正々堂々と――貴様に、取材を申し込むゥゥゥゥゥン!!!!!!!!!!」
 路上を行き交う人々達から突き刺さる視線たるや、並々ならぬものがあった。声も大きいが、何より存在自体が奇異に過ぎる。
 あるいは貴方は、過去にこんな話を聴いたことがあるかもしれない。
 『ヘルメス情報局に、パルムの記者(?)がいるようだ』、と。尤も、そんな事情は同盟内の一般市民は知りようもないことであり、そうなれば衆目を集めるのも無理なからぬことである。
「……あ。む? またもアシスタントがいないではないか……まあいい! ワシはな、こういう記事を書いているぞ!」
 折り目正しく差し出されたのは、『ヘルメス通信局』の号外記事だ。そこには、『未来の英雄達、その回顧録』と書かれている。
「さあ……思う様、語るが良い!! 貴様がこの2年の間に得た、飛びきり大事な何ものかについて!!!」

 そうして、イェスパーと名乗ったパルムはちんまい方眼紙を手に傲然と、こう言い放ったのだった。

「600字以内でな!!」

リプレイ本文

●エヴァ・A・カルブンクルス (ka0029)
 最初に取り上げたいのは、二人組の紳士淑女である。
 一人は髪の眼鏡の青年。暖かくなった時分ではあるが、几帳面に手袋をしている。もう一人は、どこか嗅ぎなれぬ香りがする、髪が長い少女であった。
 男には影があり、少女には華がある。

 ――月と太陽のような二人だ、と筆者は感じた。

 ―・―

『ご飯の代金は奢ってくれるのかしら?』
 久しぶりの取材に、つい、気持ちが弾んだ。ちょっと勢いのある字になったけれどスケッチブックにそう書き殴って見せると、イェスパーは嬉しそうに飛び跳ねた。もちろん、って。
 私も頷きを返しながら、「そりゃ邪魔しちゃ悪い」と嘯いた連れの脇腹を小突いた。固い手応え。少しだけイラっとして、そのままシャツを鷲掴みにする。
「おい、手を離せ」
 いやよ。
「……散々付き合ったろうが」
 足りない。
「……」
 片手で胸元の紙束を手繰り、『何処行くの?』と示す。イェスパーは飛び跳ねたまま、「ワシについてこい!」と走りだした。
 もちろん、ついていったわ。

「おい、馬鹿、引っ張るな! 服が伸びる!」
 手を離すと、彼は厭そうな顔をして、それからゆっくりと付いてきた。


 ―・―

『一番はやっぱり旅の経験と、人との縁!』

 少女は孤児の出である。ハンターになり、覚醒者となり、闘う手段と旅をするという選択肢を得た。気の向くままに、あるいは依頼で巡る各地、そしてそこでの出会いが、少女を成長させたのだ。
 そうして、彼女は一冊の本を取り出した。

 ―・―

 ばん、と。取り出したのは……『アークスタッド軍馬目録』! 「持ち歩いてんのかよ」と、重い荷物の理由を知ってげんなりする隣の男は無視して、スケッチブックに書き殴る。
『これも旅のご縁で得た仕事なの!』
「ほー! なんと! 次! 次の絵は!」
 器用に椅子から身を乗り出したイェスパーは自分ではページをめくれないらしく、私の手を興奮して叩いて促しながら興奮しながら絵を眺めている。
 画家冥利に尽きる瞬間、だ。

「ワシがみるに……この絵、中々の腕前とみたぞ!」
『もちろん、縁だけじゃないってことね』
 これまでの事を、想う。それだけで、胸の奥から思い出が湧き上がってきた。

 バックステージを描いたこと。大規模な戦場で、大砲に絵を描いたこと。人と人との交歓の中で、絵を添えたこと。
 いつだって、絵が一緒にあった。
「どうしたのだ?」
 気が付くと、手が止まっていたらしく、イェスパーが覗き込んでいた。彼以外にも、横から流れてくる視線を感じながら……私は、笑みを浮かべていた。そして。

『全部大事なもの、大事な経験よ』

 そう、書き記した。


 ―・―

 少女は、ギルドに籠もり創作活動に勤しんでいるそうだ。
 積み上げた経験や、縁を、彼女自らの手で描き出そうとしていたのかもしれない。
 そんな彼女が、最後に筆者にこう尋ねた。

 ――お勧めの場所はないかしら、と。

 彼女はまた、旅に出かけるのだろう。そうして、縁を築いていくのだろう。
 傍らの彼と――或いは筆者と、こうして巡りあったように。



●葛葉 莢(ka5713
 一見すると、手折れそうな、線の細い少女であった。
 だが、すぐに違う、と知れた。それはその視線に籠められた意志の勁さであったり、野生の獣じみた躍動を感じさせる瑞々しい肢体であったりしたが――なにより、その言葉が、違った。
 筆者の取材に、少女はまず、こう告げたのだ。

 ――『暴力を薙ぎ払えるだけの暴力的な力かしら』、と。

 ―・―

 はっきり言うと、ハンターは本業ではないの。
 あら、何、その顔。ホントのことよ。
 私にとっては『覚醒者』となって得た力のほうが大事なもの。
 ほら……無力な悪党じゃ無法者連中に睨みが利かせられないじゃない?
 だから、力が必要なのよ。そういう輩には一番効果的だもの。

 そう思わない?

 ―・―

 少女は口の端を釣り上げるような笑みと共に、取材に応じていた。
 言葉に潜む棘や毒は、見栄えよい少女には似合うものではない。それでも不思議と、少女の中で整合が取れているように見えた。

『正義の味方は後手に回りがちよね』、と。彼女は言った。
 あるいは、揶揄するように。
 悪逆を正しく縛る法は無い。悪辣を防ぐ手立てを軍は持たない。それは、ハンターですらもそうだろう。
 彼らは縛られる。法や――あるいは、正義のもとに。
 ならば、彼女はどうなのだろう。

 ―・―

 救いきれず取り零しが生まれてしまうのを、どう防いだらいいのかしら。
 泣き寝入りする誰かが出ないようにするには、どうしたらいいのかしら。

 単純よ。
 正義のミカタでもない、悪党である私には、力があればいい。
 話す舌を持とうとしない無法者も、自覚なく我儘に力を振るう愚か者も、等しく叩き潰せるだけの力があれば、それで解決することだわ。

 私は制裁する。私は破砕する。私は必ず、報復する。
 誰もがそれを恐れるようになれば、私を恐れて無法を冒さなくなるでしょう?
 もし何処かの間抜けが何かをしでかしても、私はそれを止める。少なくとも、泣き寝入りなんて赦さない。
 暴力が法を冒していても、その成果で咎めを止められるなら十分と。

 そう言われるだけの、力。

 ―・―

「でもまだ足りないのよね。馬鹿が私にビビって馬鹿しでかさなくなったり、免罪符として成立するだけの力には」
 そこまで言って、少女はさらに、笑みを深めた。細められた目。つり上がった唇には、諧謔の色があった。

 ……彼女は解って居るのだろう。
 その道は、矛盾に満ちている。暴力を規制するその手こそが、血で汚れてしまう道だ。
 それでも、彼女はその道を往くのだろう。なぜなら、『理解しているから』。彼女という存在が必要であることを。そして――彼女だけでは、不十分である、ということを。
 覚醒者として。ハンターとして。あるいは、彼女が望む勁さには至らないのかもしれないが、それゆえに、彼女は、勁い。

 それを識るに足る言葉があった。
 彼女は、結びにこう告げたの。

「正しいやり方は正しい連中に任せている」、と。

 共に歩かざるとも、彼女自身が信を置く仲間がいる。それは、彼女の生き方に於いてこの上ない頼りとなるものなのだろう。


●ルシール・フルフラット(ka4000)
 かつて。この記事にも取り上げた貴婦人を、改めて紹介させていただきたい。
 『女騎士』の体現、と称した婦人である。清冽な佇まいに、裡に篭もる熱を秘めた女性であった。
 今回の取材で見かけたのは単なる偶然であったが、だとすれば、光の導きというべきだろう。
 彼女に訪れた幸福を、こうして記事にすることが出来るのだから。

「この二年で得た『最も』大事なもの、か」
 逡巡は、そう長い時間ではなかった。川の清水を掬い上げるような、柔らかな間を置いて、彼女はこう呟いた。

「……既に近くにあって、そうだと気付いたものなら、あるだろうか」


 ―・―

 私には、弟子として預かっている子がいてな。
 彼は懐こくて……真っ直ぐで。
 教えれば素直に覚えてやりがいもある。

 私も、戦技や立ち居振る舞い――理念など、時には厳しく、騎士として伝えられる事を伝えている。
 両親とは古い付き合いだから、彼の事は生まれた頃から知っているよ。

 ―・―

 とても良く出来た弟子なのだ、と彼女は語った。
 騎士の先達として、師として。あるいは、両親との付き合いの中で育んだ思い出が、件の『彼』とやらに一層の思いを抱かせているのか、と、そう思わせる口ぶりであった。

 ――その時は、まだ。

 嬉しげなその表情に、にわかに赤みが差してくるに至って、俄然取材意欲が湧いたのは、宜なるかなであろう。記者としては怠慢の至りではあるが、彼女自身の言葉で、その顛末を顕したい。

 ―・―

 ……そんな、幼子と思っていたのがいつの間にか私の背に追いついて。
 顔付きも凛々しくなり……更には私に女性として好意を抱いていると告白も、された。

 師弟であるし、歳の差もあるし、そういった対象から外に置いていたのだが……
 彼の真っ直ぐさは、なにもかも突き抜けて私の内に届いたんだ。

 ―・―

「私自身の内の熱が、彼と共に在りたいと感じたんだ」
 この婦人を射止めた少年の、その侠気を評したい。
 彼女は騎士として在り、伴侶を持たずに居たのだろう。

 誇り。記憶。理性。そして、彼女自身の性質。
 それらすべてが、病理となって彼女を縛っていたのだ。
 護るための騎士らしく。彼女を縛るそれは、護るためのものとなっていた。

 ――なればこそ、それらの鎖を断ち切った少年は、彼女の心そのものを味方にしたのだろう。
 彼女自身が、少年を択ぶように。

 彼女が覚醒する際に生じる、裡の熱。
 それは今、ともに歩むべき伴侶を得て、なお一層高まり、彼女が歩む力となっていることは、想像に難くない。

 歳の差や師弟で在り続けていることを思えば、白い目で見られることもあるかもしれない。
 だが――筆者は、こうも思うのだ。彼女ら自身が、そのようなものを気にするはずもない、と。
 彼らは既にそれを乗り越え、分かちがたく結び付いているのだから。

 だからこそ、僭越ながら筆者はこの言葉で結びとしたい。

 ――二人の道行きに、光の祝福があらんことを。

●ケイルカ(ka4121)
「そこの貴様!」
「貴様って……」
 突然に声をかけられて振り向いたケイルカは、『それ』を見て目を見開いてひたり、と固まってしまった。
「そう! 貴様だ! ハンターと……む?」
 やいのやいのと声を張るイェスパーに、ケイルカの頬を汗が伝う。溢れる汗にすぐに髪が張り付くほどの、大量の汗。
「……き」
「き?」
 両足で大地を踏みしめるようにして、身を支えた。気を張っていないと倒れそうなくらいに、動揺していたのだ。

 ケイルカ。年の頃17。
 彼女はキノコが、より具体的にはその傘の裏が大の苦手だった。

 ―・―

(大丈夫。これはパルムよ。この角度なら傘の裏はみえないし、それに……)
「む?」
(……大丈夫)
 害意はないキノコと見て、なんとか気持ちを落ち着けたケイルカに。
「え、ええと、大事なもの、だったかしら?」
「うむ!」
「ちょっ、暴れないで! 見えちゃう!」
「む?」
 ペンを振り回すイェスパーは、逆に危うい。傘の裏が見えてしまう。
「ええーと、そ、そうね。幼なじみのお姉ちゃんを目指してること、かしら……?」
「上とな!」
 取材意欲むき出しのパルムに、ケイルカは少しだけ安堵を抱いた。中々打ち解けやすい為人をしているらしい、と。
「……む?」
 だから、頼むことにしたのだ。

「お願い! 私を特訓して!」

 ―・―

「キノコが食べれんと」
「……せめて、傘の裏を見ても大丈夫なくらいにならないと、キノコ型の歪虚と戦えないわ。このままじゃ幼馴染みとも、一緒に戦えない……」
「幼馴染どのは、キノコが……?」
「好きよ」
 イェスパーは考えこむ素振りを見せていたから、ケイルカは思わずそう答えていた。すると、イェスパーは我が意を得たり、と言った調子で大きく頷く。
「ワシでよければ手伝うぞ!」
「いいの?!」
「なあに、取材料と思えば安いもの! なにせワシ赤貧ゆえ! さあ! 如何する!」
「おぉ……」
 気風の良さに、思わず感激してしまうケイルカであった。そのまま少女がガサゴソと荷物を漁って取り出したのは――
「なんだこれは」
「猫耳カチューシャよ!」

 ―・―

「ぬは! 似合うか!」
「猫ちゃん、可愛い〜!」
 傘の部分に器用にハメられたカチューシャはダンディなパルムに奇妙な魅力を与えている。そんなイェスパーを前に、ケイルカは生唾を飲み込むと、集中力を高めていく。
(これは猫……これは……猫……)
「ぬおっ!」
 そのまま、抱き上げた。あまりの勢いにイェスパーは悲鳴を零したが、それ以上にケイルカの心中は張り詰めていた。
 いける、か。いけるのか。
 手には、はっきりと『キノコ』の感触が伝わってくる。ぞ、と。身体に走りそうになる震えと、理性が鬩ぎ合っていた。あるいは思い出を伴い、触れている場所から痺れ始めるのだ。
 だが。
「何に震えてるのかよく分からんが、耐えるのだ、ハンターよ!!」
「……!」
 イェスパーの喝で、視界が開けた。そうだ。此処に居るのはキノコ。でも、善いキノコだ……!
 そう自覚した時、ケイルカの心の中で、何かが変わった。
「……意外と、抱けるわ!」
「おお!?」

 ―・―

 ――兎角、筆者の尽力もあり、少女は茸嫌いを克服したのである。
 そんな彼女の、最後に残した言葉をもって、彼女の項を終えたい。

「大事なものが出来たわ! それは茸の裏を見ても平気になったことよ!」

 なるほど。

 そういうこともあるらしい。


●パトリシア=K=ポラリス(ka5996)
 筆者がその二人に出会ったのは、たいそう善き日であったらしい。
 一人は、赤い頭巾を纏うた可憐な『少女』。もう一人は、華やぐ乙女、といった様子の快活な金髪の少女。
 興奮した様子の金髪の彼女が気になって取材を依頼した所、二つ返事で快諾を頂けた。

 これは、彼女が新たな『だいじなもの』を迎えた日の記録、である。

 ―・―

「やった! じゃあ、一緒に行きまショー!」
「ゴー!」
 取材依頼に対して同道者であるステラの快諾が得られた所で、パトリシア――パティはヒョイとイェスパーを肩に載せると、書類を手に握りしめながら、弾むように歩く。
 リズムよい足取りに、肩上のパルムが「む、む、お」と呻きながら、
「ど、どこへ、いくのだ!」
「ン―……ナイショダヨ!」

 ―・―

 道中聞いた所によると、少女は、かの紅い船の住人らしい。
 ハンターになったのは遅くとも、その足で歩き、その目で見届けてきた。
「たっくさん出逢いマシタ!」と嬉しげに語る言葉には、すべてが籠められていた。
 彼女を受け入れた街のこと。この世界で手にした、魔法の力。
 冷たい海で得た、昆布の思い出と未来の嫁。
 生命の重さと、引き金の重さを知ったこと。
 そして、同道していた少女との思い出でもある、甘いマカロン。

 綺麗なだけの道行ではない。
 ハンターとして歩んできた中で、それでも少女は、ひたむきに、真っ直ぐだった。
 それは何故か、と、問うてみた所、彼女はこう言った。

『ゼンブ忘れないよーに、ちゃんと見て、触って、聞いて、覚えてたいノ!』、と。

 ―・―

「お、見えた見えた。あの窓口だぜ」
「「おおー!」」
 そう聞くや脱兎の如く駈け出したパティの背をステラは苦笑と共に見送った。
「……空いてるな」
 なんとなしに見てみると、窓口に人は並んでいない。これならすぐにでも――と、思ったその時だ。
「ステラー! 早くー!」「早う参れー!」
「……おう、今行く」


 たどり着くと、既にパティは書類を職員に叩き付けており、案内を待っている所だった。
「ドンナ子と会えるのカナー♪」
「子……?」
「……そろそろ教えてやったらどうだ?」
 期待で胸を膨らませるパティに、イェスパーは怪訝げだ。ステラの軽く息を吐きながらの言葉に、
「あっ!」
 へへ、と笑ったパティは、なぜかステラの方を嬉しげに見つめると、えっとネ、んっとネ、と、散々焦らした後に、こう言った。

「リーリーさんを、お迎えするンダヨー♪」

 とてもとても眩しい、笑顔と共に。

 ―・―

 少女はその日、幻獣の相棒を迎え入れた。
 個人特定の観点から、紙面での言及を控えざるを得ないほど、大層華やかな幻獣である。

 出会いの時。幻獣を抱きしめ、その香りと、感触をしっかりと確かめていた彼女の姿が強く印象に残った。

 ――忘れない、と。少女は言った。
 それは決意の言葉だ。幸せも、哀しみも、すべてを受け止めることを自らに誓う言葉だった。
 この日迎えた相棒と、彼女は戦場に立つのだろう。彼女の友と、その相棒である幻獣と共に。そこで例え何が起こっても、悔いを残さず、笑っていられるように――彼女は今を、精一杯生きているのかもしれない。

 そんなことを、筆者は思ったのだった。


●アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
 道化のような、とは彼の御仁を指して言うには些か不敬かもしれない。なにせ、某帝国の貴族筋、である。
 ――正しくは、『かつて貴族だった』、というべきなのだろう。厳密には、現在の帝国には『貴族』は居ない。かの御仁も、極々個人的な経緯のもと、今はハンターに落ち着いている。

 そんな彼には、連れ合いが居た。親しい友だ、という。

 ―・―

「斯様な事があったとは、それがし寡聞にして知らなんだが」
「言ってナカッタもんネ!」
「ふうむ」
 連れの動じない様子に、アルヴィンは心底愉快げに笑ってみせた。
「他になんかないノー? 本邦初公開だヨ?」

 ―・―

 かの御仁はよく笑い、よく話した。同席している武人然とした友人とは大きく異なり、活発に過ぎる小型犬と、泰然とした――少しばかり愛嬌はあるかも知れぬが――猟犬、といった趣きの二人であった。

 そんな彼はハンターになって得たものは、友人たちだ、と憚りなく言い切り、とにかく、感謝の念を告げていた。
 独りでリゼリオにやってきて、今や小隊を組むようにまでなったこと。そこまで広がった交流の輪と、その上で彼と親しくあり続ける、此度の連れを含めた友人たちに。
 その上で、一番の友人は隣に座る彼である、とも。

 ―・―

 P(筆者注:個人情報保護の観点から伏せさせて頂いた)にはネー、感謝してるんダヨ〜!
 だってサ、僕のコトとか全然しらなくっテモ、気にせずに付き合ってクレルんダヨ?
 コレって、僕を、僕ってダケで友って判断したってことダヨね。
 ソレってスゴイことって思わナイカナ?

 ……二人共にソウ頷かレルのもチョットアレだケド、まーイイや!

 デモデモ、Pにはホントに感謝してるンダヨ。
 Pが、最初の友達、ダカラネ。
 今は一番の……ダヨネ? ン? アレ? P?

 ―・―

 疎まずに。押し付けずに。
 そうして付き合いを続けてくれる友人たちがいて、彼はとても幸せなのだ、と語った。
 彼は笑っていた。嗤い続けていた。

 だが、同じ口で、彼はこうも添えたのだ。

 だから世界は生きるに値するんだよ、と。

 ―・―

 僕はエルフだからサ、ほら、寿命とか違うヨネ。
 今仲良くっテモさ、いつか離れるかもしれナイ。
 大事なモノとかさ、ソレゾレに出来たりするカモしれないデショ?
 ……それでもイイんダー。残るモノがアルんダヨ。

 ――想い出、とかサ★

 ―・―

 酷く陽気な為人であることは、読者諸君も了解していただける事と思う。
 しかし、だ。帝国で家を追われ一番の友人にも過去を語らずに過ごしてきたなると、生半な事情ではあるまい。
 それを思うと、言葉の端々から滲んだものが偏在した感情ともいうべきものであったように筆者は感じた。

 交歓、交流にこの上ない感謝を示す一方で、決して依存はしない。
 均衡のとれた人物かといえば――おそらく、それも違う。

 何よりも、彼自身がおそらくその事を把握しているのだろう。
 それ故に彼は彼らしく在り続けており――同時に、友人たちへの深い感謝を、抱き続けているのかもしれない。

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重体一覧

参加者一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 落花流水の騎士
    ルシール・フルフラット(ka4000
    人間(紅)|27才|女性|闘狩人
  • 紫陽
    ケイルカ(ka4121
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • 悪党の美学
    五光 莢(ka5713
    人間(蒼)|18才|女性|格闘士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

サポート一覧

  • トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)
  • ダリオ・パステリ(ka2363)
  • レオン(ka5108)
  • ステラ・レッドキャップ(ka5434)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/11 19:58:23
アイコン リゼリオの一角で
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/04/12 19:53:42