絶火の騎士2

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/15 09:00
完成日
2016/04/19 19:58

みんなの思い出

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オープニング

 記憶を失っても、城から抜け出す能力だけは衰えていなかった。
 かつて通った道。バルトアンデルス城の廊下、中庭。帝都を貫き、政府と市街地を分かつイルリ河にかけられた大きな橋。
 夜の闇に沈まないように懸命に輝こうとする夜の都市を眺め、ヴィルヘルミナは目を細める。
「私は一体何故、皇帝になろうと考えたのだろう?」
 “今”の自分の気持ちこそ、きっと“過去”そのものだ。
 確かに今でも誰かを助けたいと、救いたいという強い衝動がある。それは何物にも代えがたい、抗えぬ本能のようでさえある。
 一つでも多くの涙を止めて、悪しき運命を挫く。ヴィルヘルミナ・ウランゲルという人間の根源はそこにあった。
 だが、王になりたいなどとは思わない。世界を変えられるのは王ではなく人間ひとりひとりのはずだ。
 権力に縛られた正義など願い下げだ。だが、どうして……“未来”の自分は、王になることをよしとしたのだろうか?
「……あなたのようなお方が一人で夜歩きとは、感心しませんね」
 声のした方へ目を向ける。橋の上には奇妙な三人組の姿があった。
 何故か三人とも全く別々の、関連性のない格好をしているのに、顔にだけは揃って妙な仮面をつけている。
「どちら様かな?」
「うーん……僕らの事を知っているのは君だけなのに、その君が忘れちゃったら僕らも困っちゃうよね。どうするの、花男?」
「花男って……」
 花の仮面をつけた男が頭を掻く。すると二人の話を横で聞いていた女がおもむろに刀を抜く。
「我が盟友、ヴィルヘルミナよ。某は失望したぞ。その身を薪とし、全てを燃やし照らすそなただからこそこの剣を捧げると誓ったのだ……だというのに……」
「え? このヒト泣いてない?」
「彼女はちょっと情緒不安定なので……」
 カタカタと小刻みに震える切っ先。よく聞くと鼻をすすっているような音もする。
「しかし、仰る事は良くわかります。あなたはもう私達の王ではない」
「そなたは言ったな。もしもその身に何かが起きた時……悪にその身柄を利用されるくらいであれば、命を絶てと……」
「そうですね。命を……えっ、命をですか……?」
「あのさー、僕の時はそんなこと言ってなかったよ」
「言ったのだ!! そなたら新参者と一緒にするではない! 某とヴィルヘルミナは血よりも濃い絆で結ばれているのだッ!」
 刀を振り回しながら叫ぶ女に二人の男は一歩身を引く。
「しかし、このままにしておけないのは事実ですね……」
「うん。それは僕も同意。誰が敵か味方かもわからないんだし。ヴィルヘルミナには僕との約束を守ってもらわないとね」
「事情はそれぞれ異なるようですが……ここは一先ず共闘で如何でしょう?」
 花男の提案に頷き、三人が同時に武器を構えた。
 異様な雰囲気に冷や汗を流し、穏やかに笑みを浮かべるヴィルヘルミナ。
「まあ落ち着け。何のことだか正直さっぱりわからないのだが、まずは武器を収め――ッ!?」
 鞭のようにしなる刃がヴィルヘルミナの長髪を切り裂く。そこへ一瞬で剣士が距離を詰め、刀を振り下ろした。
「……我が一撃をかわすか! 力は衰えぬようだな……だが!」
 丸腰のヴィルヘルミナに二の太刀を防ぐ余力はなかった。
 繰り出される刃、それを弾いたのは遠方から投げつけられた槍だった。

「……ンだよこれ?」
 オズワルドから差し出された装備を前に、カルステン・ビュルツは露骨に怪訝な表情を浮かべる。
 騒乱に巻き込まれた帝都の復興にひたすらに打ち込む事が今の彼を支えていた。
「皇帝の権限が代理人であるカッテに移り、政府は国を立て直すのでやっとの状態だ。なんとか国の体裁を保ち他国とのバランスを取り繕うのに精一杯……俺達には新しい力が必要だ」
 それは銀と紫の装飾が施された美しい槍だった。カルステンは知っている。それはビュルツ家の家宝、伝説の槍の模造品。
「聖槍クルヴェナルか……?」
「騎士皇ナイトハルトに仕えた十騎兵の一人、初代ビュルツが使ったモンだ。ま、そいつはレプリカで、今は“絶火槍”で通ってる」
 オズワルドは自らが背負った槍、本物のクルヴェナルを手に取り。
「こいつもいずれはテメエの親父に渡す筈だった」
 無言で目を逸らすカルステン。その胸ぐらを掴みあげ、オズワルドは顔を寄せる。
「弱ったヴィルヘルミナにはこれからあらゆる苦難が待つだろう。大英雄の娘、革命の乙女の血を利用しようと考える連中はごまんといる」
「ヴルツァライヒか……」
「それ以外にも、な。ともあれ、護衛が必要だ。小僧、テメエが守れ」
「な、なんで俺が……」
「帝国軍でもハンターでもないテメエは、いつどこで死んでも誰も気に留めない路傍の石だ。どんな無為な死に様を晒しても全く問題ねェ」
「あいつの盾になって死ねってかよ!」
 逆にオズワルドの胸ぐらを掴み返し、頭突き気味に額を打ち付ける。だがオズワルドは怯まない。
「日の当たらない道を選んだのはテメエだ。だが、それもいい。そんなテメエにしか出来ない事もあるだろうぜ。大事なのはな、小僧。“今の自分を信じる事”だ」
 同じ夢を見た二人は、皇帝とチンピラという相反する未来に辿り着いた。
 それはいい。それは最早変えられないのだから。時は不可逆。だが、未来は選ぶ事ができる。
「何のために磨いた腕だ? 誰かを救いたいと、何かを守りたいと思うのなら、自分のやり方でやってみろ。それでも騎士であろうとするのなら、な」

 槍は魔力で自動的に持ち主の手に収まった。
 素早くヴィルヘルミナと女との間に割って入ったカルステンは女の腹を蹴り飛ばし、ヴィルヘルミナを連れて後退する。
「君は……?」
 腕の中のヴィルヘルミナに問われ、青年は舌打ちする。
 “騎士”とは、帝国ではとうに滅びた風習だ。古臭い考え方を揶揄する為に、時折誰かが嘲笑の代わりに吐く言葉。
 革命戦争の英雄にして裏切りの騎士、オズワルド。彼はその二つの宿命と共に、帝国最後の“騎士”と呼ばれた。
「見りゃわかるだろ」
 望む望まざるに関わらず、青年は彼の血を継いでいる。
「通りすがりの――変質者だよ!」
 カルステンに遅れハンター達が駆けつける。
 それを待っていたように小柄な仮面の少年が笑みを浮かべる。
「……来たみたいだね。さってと……それじゃ、試させてもらおっか?」
 手にした銃は変形し、ボウガンの形状を取る。
「君達に、彼女を護る力があるのかどうか……ね」

リプレイ本文

「皇帝陛下はこちらへ」
「君達は……そうか、ハンターか? しかし随分都合のいいタイミングだな」
 ヴィルヘルミナの側についたシガレット=ウナギパイ(ka2884)は盾を構える。
 今日この瞬間駆けつけたわけではなくしばらく警護していたのだが、それについては応じなかった。
 バイクに跨って花男へ距離を詰めたキヅカ・リク(ka0038)と春日 啓一(ka1621)がハンターの中で最も早く戦闘を開始し、それに遅れキアラと鳥仮面の女それぞれに二名ずつのハンターがついた。
 この段階でハンターはシガレットを皇帝の直衛とし、不審者三名に対しカルステンを含め二名ずつで人数の利を得た上で対処する事を選ぶ。
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)と夕鶴(ka3204)は鳥仮面の女へ距離を詰め、近接戦闘の構えを取る。
「うんうん、ちゃんとできてると思うよ。でも、本気でやり合うつもり?」
 Charlotte・V・K(ka0468)が違和感を覚えたのは、キアラからほとんど敵意を感じられなかったからだ。
 考えてみればおかしな事がある。以前キアラは皇帝の記憶の手がかりをオルクスから探ろうとしていた筈だ。
 オルクスと接触し皇帝を害するような話を吹きこまれたとしても、それを愚直に信じるタイプだろうか?
「何だ、あんたら知り合いなのか?」
「話すのは二度目だがね。あちらは私達を知っているようだ」
「知ってるよ。君達ハンターがこれまで帝国の闇が齎した事件を解決してきた事はね……でも、少しガッカリだよ」
 そう言ってキアラは奇妙な銃を構える。
「君達はこの国の事がわかってないみたいだね。本当に彼女を守れるのか、やっぱり試さなきゃだめかな?」
「来るぞカルステン君。気をつけろ……彼はああ見えて男だ」
「男でも女でも気をつけるわ!」

「歪虚の相手だけでもうんざりしてんのに、どうして大人ってのは阿呆ばっかりなのかね……!」
 花男へと殴りかかる啓一。しかしその拳は不可視の壁に阻まれ花男へは届かない。
 男が無言で放つのたうつ剣撃と接近できない事に苛立ち舌打ちする啓一。そこへキヅカが駆け寄り、盾で剣を弾いた。
 鞭は生き物のように蠢いて襲いかかるが、キヅカはそれを次々に盾で弾いて見せる。
「ほう……大したモンだ」
「あれも結局は鞭みたいなものなんだから、手元の動きを見ればいいんだよ」
 剣戟の先端は目で捉えられる速度を超えているが、手元の動きはまだ比較的緩慢だ。
 それと理解すれば啓一も攻撃を捌きやすくなる。そしてキヅカは拳銃を構え、不可視の壁を超えた攻撃を加えた。
「あの剣、やっぱり光属性かな」
「ああ……。というか、見覚えがないか?」
「そうだね。あれってホリィのローエングリンに似てる」

「……待て。少し落ち着け」
 鳥の仮面をつけた女はアルトと刃を打ち合い、その衝撃に身体を任せるように背後へ跳ぶと一度刀を鞘に収めた。
「アルト……」
「わかってる。おまえ……どうして打ってこない?」
 夕鶴が敵の攻撃を抑え、アルトが攻撃に回る。それが二人の作戦だ。
 しかし彼女は夕鶴に大した攻撃も行って来なかった。故に既に何度も打ち合ったというのに、二人共に目立った傷もない。
 が、同時に相手にも大したダメージは与えられていない。それほどまでの腕前なのだから、加減をしていると見るのは当然であった。
「某は無闇矢鱈と殺戮に興じる趣味などない。この刃が狙うは皇帝ただ一人」
「理解できんな。剣を掲げた相手を討とうという凶刃の言葉とは思えん。私とて彼女が守ったこの国の為に身命を賭して闘う人間の一人だ。黙って見ていられるわけもないだろう」
「皇帝は私の獲物だ。おばさん達にくれてやるつもりは……ない!」
 地を蹴り素早く大地を駆けたアルトの攻撃が襲いかかる。目にも留まらぬ速度の剣戟を、女は同等の速力の剣を以って制する。
 しかしそれは完全とは行かない。女の腕に、頬に切り傷と共に血が流れる。
「力無き人を一人でも多く守る為の力……それを手に入れる為に、踏み台にさせて貰おう。例え噂の絶火隊でもだ!」
 刃が煌めくと共にアルトの刀は女の腕を貫いた。だが同時に女はアルトの胸ぐらを掴み、額と額を突き合わせる。
「いい目をしているな。様々な未来を覚悟している目だ。剣の腕も達人の域にあると保証してやろう。だからこそ理解できる筈だ。某と闘えば絶対に人死が出る。それは貴様ではないかもしれんがな」
 ぞっとしたのは、その瞳にあったのが敵意でも怒りでもなく、奇妙な穏やかさだったからだ。
 女はアルトを突き飛ばすと、使い物にならない左腕を一瞥し改めて剣を構えた。
「某の剣は斬るものを選ぶ……が、今回は特別だ。絶火刀の力を見せてやろう」
 奇妙な機械刀はゆらゆらと炎のようなオーラを帯びる。当然、様々な攻撃方法が予想される。
 しかしその尋常ならざるマテリアルが込められた刃が向けられた先は二人のハンターではなく。
 女の立つその足元。巨大な橋そのものであった。

「うおっ、なんだァ!?」
 皇帝を片手で支えながらぎょっとするシガレット。
 橋の幅は魔導トラックがすれ違える程あり、およそ10メートル程。真っ二つにされている。
 橋が落ちる……心配はない。吊橋ではなく支柱で支えられている。問題はそこではなく。
「向こう側が……見えねぇぞ!?」
 まるで赤い光のカーテンがかかったように、切断面から向こうが見えなくなっていた。
 後方のシガレットが混乱していた頃、キヅカの背面が突然爆発し顔面から地面に倒れ込んだ。
「おぶ!」
「リク! ……ってぇ、なんでキアラがこっちに来てんだ!」
 笑顔で駆け寄るキアラは銃を二つに分離。ボウガンとハンドガンの二丁を持ちながら突っ込んでくる。
「だって君達橋に留まって分断とかも本格的にしないんだもん。正面から行くわけ無いじゃん」
 背後から繰り出された花男の拳が啓一の脇腹にめり込む。すると腕が光り、衝撃波が啓一の身体を吹き飛ばした。
 地面をバウンドしつつ受け身をとった啓一だが、そこへすっと夕鶴が駆けつけ盾を構えると謎の衝撃音が響き、いつの間にか目の前に鳥仮面の女の姿があった。
「春日君はそっち! こいつは僕が抑えるから!」
 花男と格闘しつつ叫ぶリク。啓一が振るう拳から身をかわした女にアルトが斬りかかるが、その剣をキアラの銃弾が弾き逸らした。
「言ったでしょ、共闘するって」
「……雲行きが怪しいな。悪ィが先に離脱するぜ。陛下、こっちだ」
 シガレットは皇帝を連れ、橋から遠ざかるように走り出す。キアラはその様子に小さく頷き。
「最初からそうしとけばいいのに……っと!」
 Charlotteの銃撃に続きカルステンが突っ込んでくると、距離を取る為背後に跳ぶが、丁度夕鶴と背中合わせになる形だ。
「流石同じ狙撃手というべきか……さっきからフレンドリーファイアを誘発してくる。狙い辛いものだね……」
 と、いうより。三人組は全員が一対多の戦いに慣れているようだった。
 恐らく通常時は単独で多数と戦闘をしているのだろう。それにしては連携が上手くはまっているのは、キアラの存在が大きい。
 多人数戦闘の場合、どうしてもそれをジョイントする役割が必要になる。そうでなければ強力な個の力を発揮しきれない。
「邪魔するだけして自分は逃げまわるか……カルステン君、そっちはダメだ!」
 夕鶴がキアラを振り払おうと剣を振るうが、掻い潜った先には仮面の女が剣を構えている。
 ハンター達が一箇所に集中した後、女は素早く剣を振るった。それは無数の剣閃となり、ハンターを纏めて薙ぎ払う。
 影響を受けなかったのは攻撃を想定し回避に成功したアルトと射程外にいたキヅカ、そしてCharlotte。
 啓一、夕鶴、カルステンの三名は致命傷……ではなかった。傷口に手を当てた夕鶴だが、血が流れていない。
「峰打ち……かすめただけ……かっ?」
 夕鶴の身体が大きく傾き目が丸くなる。切り刻まれた橋がばらばらと崩れだし、ハンターらを巻き込んだのだ。
「本命はこっちかよ!?」
 崩落する橋の一部から飛び出した仮面の女がアルトへと迫る。
 狙いは皇帝なのだから同然シガレットを追うだろう。ならばここで身体を盾に立ち塞がらなければならない。
 あの機械刀の能力は大まかには読めた。切っ先から光の斬撃を飛ばすだけではなく、刀身が通過した部分の光の屈折を制御している。
 それにより攻防の最中に一瞬姿を消したり、フェイントでペースを崩してくる。
「つまり……そこだ!」
 空振りの刃で姿の見えなくなった敵を狙い刃を振るうアルト。だがその剣は敵を捉えてはいなかった。
 それどころか相手はもうアルトの脇を抜けていた。
「貴様は強い……が、それは守る力とは呼べんよ」
 振り返り直ぐに走り出すアルト。このままではシガレットが危険だった。
 崩落からなんとか免れた夕鶴も後を追おうとするが、キアラに背後から組み倒され、後頭部に銃口が突きつけられる。
「はーい、そこまで」
「く……っ! 私を人質にしようと無駄だ。路傍の石を甘く見ない事だ……命を擲って戦っているのは貴殿らだけではない!」
「君はそうだろうけど、他の人は動けないんだよ」
 実際カルステンは固まり、Charlotteは怪訝な表情を浮かべている。
 そうしてこちらの戦いが止まっている最中、キヅカは花男と戦闘を続けていた。
 一対一の戦いになっていたが、うまく押さえ込めたのはキヅカが敵の動きを見定め、場合によっては傷を厭わず組みついて行動を制止していたからだ。
 今も花男にタックルをかましひっつくが、肘打ちなどの釣瓶撃ちで切れた頬から血が滴る。
「すごい執念ですね……正直疲れてきました」
「これが僕の戦い方だからね……死んでもここは……通さない!」
「リク!!」
 そこへ啓一が駆け寄ると花男は腕を突き出す。キヅカは咄嗟に背後へ跳び、庇うように身構えた。
 その腕が機械仕掛けである事にはとっくに気づいていた。マテリアルが収束し、光弾が発射されるのも想定していた。
 これを受け止めたキヅカは攻勢防壁にて攻撃を弾き返し、同時にすれ違う啓一に手を伸ばす。
「後は……任せた!」
 キヅカのハイタッチが啓一の聖拳に触れるが、キヅカの想定した現象は発生しなかった。
 超重錬成は「敵」を対象に「瞬時」に発動するスキルであり、他人に付与する事はできなかったのだ。
 雄叫びを上げ突撃する啓一が放った拳は、攻性防壁の効果で怯んだ花男の腹にめり込むが、男は啓一の胸に手を当て、腕の機導式を発動する。
 衝撃で吹き飛んだ啓一が受け身を取り立ち上がる。花男は軽く刃を振るい、二人の背後に目を向けた。
「皇帝は去りましたか」
 男はこれ以上この場に留まる理由がないと言わんばかりに自ら橋から飛び降りると、鞭剣でターザンのように岸に降り立ち、悠々と姿を消した。
「うおっ、ヤベェのが追っかけてくる!」
 鳥仮面とアルトは猛然と走りながら互いの剣をぶつけあい、そのままの勢いでシガレットに突っ込んでくる。
「陛下は俺の後ろから出るんじゃねェぞ!」
 見ているだけでもあの攻撃を受けたら危険だとわかる。が、皇帝を巻き込むわけにも行かない。
 盾で身構えるシガレットへ迫る二人。緊張の余り息を呑んだシガレットに攻撃が届くよりも早く、シガレットの後ろから伸びたハンマーが仮面の女の頭にめり込んだ。
 全員が固まり視線を移すと、そこにはハンマーを振り下ろしたヴィルヘルミナの姿があった。
「あ。俺が貸したハンマー」
 納得したように手を叩くシガレット。女はアルトと攻防をずっと続けていた事、そして予想外の攻撃を防げなかったのか、頭から盛大に血を吹き出し倒れこんだ。

「で、なんでお前ら一緒にいるんだァ?」
「あなたこそその女は……」
「気絶したんでこのまま帝国軍に引き渡そうかと思ってな」
 鳥女を背負ったシガレットに「そ、そうか」と短く返す夕鶴。その隣には普通にキアラが立っている。
「つまり今回我々に依頼を送ったのがキアラくんだったという話なのだ」
 オズワルドに襲撃者の情報をリークした者がいたからハンターを護衛につけられた。その情報源こそキアラだったのだ。
「んん? つまり八百長って事かァ?」
「そうじゃないよ。簡単に言えば立場の違いを守ったまま、彼女を守り、そして危機の始まりを伝えたかったんだ」
 花男はそもそも皇帝を殺そうとは考えていなかった。鳥女は皇帝を殺そうと息巻いていたが、それは彼女の個人的思惑だ。
「そして僕はヴィルヘルミナに借りがある。だから彼女を守る必要があるんだけど、個人的な目的もあって常に側にはいられない」
「……だから試したのか。俺や、こいつらハンターの事を」
「ハニートラップではなかったが、またしてやられたという事だね。カルステンくん」
「その件はもう許してくれ……」
 Charlotteの横槍にがっくりと肩を落とすカルステン。夕鶴はそれを横目に。
「それで先程の話の続きなのだが……他にも皇帝陛下を狙っている者がいるとあなたは言ったな」
「ヴィルヘルミナだから言う事を聞いていたけど、彼女以外の話は聞かないってやつが身内にも何人もいる」
「やれやれ。皇帝一人の存在だけでこうも立ちゆかなくなるとは、依存が過ぎる」
「この国はそうやって保たれてきたんだよ」
 キヅカは腕を組み、神妙な面持ちで頷く。
「悲劇も不幸もない世界にしたいって、ひたすらに進み続けるルミナちゃんだからこそついてきた。そんな人もいるよね」
「だからって、人と人とが殺しあう前にやることがあるだろうが……」
 わしわしと頭を掻き、啓一は腕を組む。
「絶火に関わらず、ヴィルヘルミナという枷が外れて暴走する輩は必ず現れるはずだ。表舞台に立っている連中じゃそれは防げない」
「それが私達へのキアラくんの願いというわけか?」
「そう。今となっては僕らより……君達ハンターの方が本来の絶火隊に近いのかもしれないね」
 Charlotteに応じ、キアラは歩き出す。
「キアラ……また会えてよかった。僕はルミナちゃんの意志を継ぐよ。この世界に誰もが欠けてはいけない……キアラがここにいるってことは、そういう事なんでしょ?」
「彼女は咎人の僕を許し、影の騎士にしてくれた。君達があの日僕に言ってくれた言葉の意味、僕にもわかった気がするよ」
 キヅカの言葉に振り返らず、キアラはそのままどこかへと去っていった。
「あ~。なんだかしっちゃかめっちゃかだが……とりあえず回復するからそこに並べ」
 手を叩くシガレットの言葉に各々疲れた様子のハンター達。キヅカはぼんやりしているヴィルヘルミナに歩み寄る。
「僕の事は覚えてないだろうけど……生きていてくれてありがとう」
「記憶はないが、君達の戦いはしかと見せてもらったよ」
 優しい微笑みに頷くキヅカ。花男は捉えられなかったが、女の方は確保し帝国軍に引き渡す事ができた。
「……ところで、あの橋どうすんだ?」
「「「あ」」」
 啓一の言葉に振り返るハンター達。橋の崩落はしばらくの間、帝都の交通に悪影響を及ぼしたという……。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイka2884

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 質実にして勇猛
    夕鶴(ka3204
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/04/12 17:15:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/10 19:03:38
アイコン ルミナちゃん守り隊
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/04/15 03:00:32