Jolly Rogerを掲げろ!

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/14 12:00
完成日
2016/04/22 00:58

みんなの思い出

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オープニング

「ようこそ、我が船へ。歓迎しよう御客人」
 辺り一面大海原。海洋に浮かぶ帆船の甲板上へ集ったハンター達に、端麗でありながら、美しいというよりは、厳しいという印象を与える女性が一人。
「私はこの艦の艦長、アドリアーナ=シェルヴィーノ大佐だ」
 三角帽で金髪を飾り、女性らしい豊満なスタイルに男物の軍服を身に着け、更にその上に軍指定のものではなく、紅と黒を基調とした外套を羽織る彼女──アドリアーナ=シェルヴィーノが艦長を務めるこの紅い帆を張る船──血塗れ鴎(ガッビアーノ・サングイノーサ)号は、とある港街の駐在海軍に所属する戦艦だ。
 軍管轄下にあるにしては物騒過ぎる名を冠しているが、この船にはその名に勝るとも劣らない、剣呑極まる特徴があった。
「御客人とは言ったが、今回の諸君の役割はゲストではなく、ホストになる。まあ、事前に聞いているだろうが、今ここで詳細を語っておこう。フィオリーニ中尉、彼らに説明を」
 アドリアーナは傍らに控えている者に声を掛けた。
 凹凸の乏しい肢体からは判然としないが、肩まで届く亜麻色の髪と柔らかな顔付き、そして身に着けた軍服の仕様から女性である事が見て取れる。
「はい、了解です」
 彼女は、フィオレ=フィオリーニ。血塗れ鴎号の一等航海士にして、アドリアーナの副官という立場に居る女性士官である。
「率直に言いますと、皆さんには歪虚討伐任務に参加して貰う事になります」
「ホストとは、つまりそういう事だ。手厚く、いや、手痛い歓迎を施してやると良い」
 アドリアーナが、僅かに口端を歪める。
 一見すると冷徹な女将軍にも見えるが、冗句も介さない堅物ではないらしい。若干、ブラックな感も否めないが。
「えーと、では続けます」
 フィオレは取り合わずに続けた。こちらは、印象通りに生真面目な性質のようだ。
「この海域で、最近水難事故が多数発生し、私達は原因を調査していたのですが、先日奇跡的に生還した漁師の口から、歪虚の仕業である事が判明しました。その歪虚は、巨大な頭足類の姿をしていたそうです」
「つまり、彼の言が正しければ、今回の敵は船乗りにとっての最悪の悪夢の具現──海に住まう怪物クラーケンという事になるが、この辺りに彼の幻獣に纏わる伝承は一つもない」
「おそらく、今回の討伐対象は元々巨体を誇る通常種の烏賊、蛸などの頭足類が、歪虚化に伴い更に巨大になったと推測されます。脅威度は幻獣と比較して低いかと思われますが、目撃者に寄れば、その大きさは軍艦並だとの事です」
「恐怖のあまりに、現実を頭の中で肥大させる事は良くあるが、しかし、実際に彼の漁船は海の藻屑と化している。決して、油断できる相手ではなかろうよ」
 クリムゾンウェストだけではなくリアルブルーにおいても、クラーケンの名は数ある海の怪の中で代表格として語り継がれている。たとえ紛い物であっても、その畏怖は拭いようがない。
「あの、艦長。本当にこの船だけで行くんですか? やっぱり止めた方が良いですって、港に引き返して僚船に付いてくれる船を探しましょ?」
 不安を隠せないフィオレが上官に進言する。
「他の船の連中が誰も彼も及び腰だったから、我々が単独で出港した事を忘れたのか?  無理もないだろうがな。クラーケンの名は船乗りにとって恐怖の象徴だ。説得も不可能ではないだろうが、討伐が遅れれば更なる犠牲者が出る恐れもある」
「それは、そうかもしれませんが」
「それに士気が低い者が同行しても、邪魔なだけだ。お前も港に残っても良かったんだぞ?」
「そういうわけにはいきません。この船の航海士は私ですから!」
「ほう、気張るじゃないか。もう少し胸を張って言えるようになれば一人前なんだが」
「し、仕方ないじゃないですか。私だって、もしも艦長くらいにあれば──」
 自分のコンプレックスを指摘──被害妄想なのだが──されたフィオレが愚痴を零し始めたその時、
「右舷海面に巨影あり!」
 見張り台に立つ水夫の野太い声が甲板に降って来た。
「おいでなすったか」
「ちょっと待って、心の準備が──」
 船上にある全ての視線が、右舷側へと吸い寄せられる。
 ぬらり、と右舷の縁に掛かったのは、頭足類特有の粘液に濡れ複数の吸盤が見られる触手である。
「ひいぃっ!?」
 フィオレが悲鳴を上げた瞬間、海面を割って巨大な怪物が浮上した。巨大も巨大、この軍艦と比べても遜色がない程だ。
 その姿は、生還したという漁師の証言通りに頭足類を思わせる。
 しかし、
「蛸か烏賊か、判然とせんな」
 頭部にも見える丸く膨らんだ胴部を持っているが、海面近くでのた打つ触手は計十本。確かにその見た目からは、蛸か烏賊かの判別は付かない。
「まあ、どちらでも構わん。──何を腑抜けている、愚図共! 我らが敵のお出ましだ。さっさと働け、戦闘配置!」
 出現したクラーケンの偉容に茫然としていた水夫達の尻を、アドリアーナの命令が蹴り立てる。
 慌てふためいて動き出した彼らを見渡して、
「野郎共、髑髏を掲げろ。あの死に損ないに、本来あるべき姿を思い出せてやれ!」
 右手にカットラス、左手にフリントロック・ピストルを構えた艦長の鬨の声に応じ、マストに旗が掲げられる。
 同盟軍軍旗ではない。
 はためく黒生地の中で踊るは、交差した大腿骨と、呵々と哂う髑髏が一つ。そして、その頭蓋を啄む一羽の紅い鴎。
 その旗が意味するは──
「我らが自由に刃向う阿呆には、かくの如し終焉を」
 この髑髏の印を見ても尚、戦意を失わない愚か者には漏れ無きデッドエンドを、という死の宣告に他ならない。
 海賊旗──本来、同盟海軍にとって取り締まるべき賊共の象徴。それをこの船が御旗として飾るのは、問題以外の何物でもない。
「ああ、また上の人に怒られる。しかも私だけ」
 事実、これまでフィオレは幾度となく軍上層部から説教を受けていた。しかし当のアドリア―ナ──この死神の箱舟を率いる守護女神は、何処吹く風である。
「お偉方には好きなように言わせておけ。戦場には戦場の作法がある。踊りませんか(Shall we Dance)? とお誘いしても、敵は躍らせられん。
 連中は紛れもない賊だが、その理念だけは理解できる──航路の障害は全て圧し潰せ。その一点だけは」
 海賊旗が意味する警告を、所詮は巨大化した蛸だか烏賊だかに過ぎない雑魔に理解できる筈もなく、船体をへし折ろうと触手に力が籠められる。
「そうではなくては張り合いがないがな──右舷大砲、用意!」
 口端を満足そうに曲げながら、アドリアーナはカットラスを振り上げて、
「撃てぇ!」
 振り下ろす。
「「「YOOHOOOO!!!」」」
 甲板に水夫達の咆哮が響き渡り、更にその声を、右舷に取り付けられた計十四門ある大砲の上げる砲声が劈いた。

リプレイ本文

「マンマ・ミーア! 」
 砲撃を受けた本体の痛みに同調してのた打つ触手を前に、超級まりお(ka0824)は奇声を上げた。
「ついにキター、ゲソーだ。巨大ゲソー!」
「ゲソ? あの、なんで嬉しそうなんですか。あれに捕まったら一溜りもないんじゃ?」
 怯えるフィオレが、マストの陰に隠れながらまりおに声を掛ける。
「大丈夫だよ。そん時はAボタンを連打すれば良いのさ」
「ぼ、ボタン……?」
「麗しき艦長殿、少々お尋ねしたいんですが、よろしいですか?」
 アドリアーナに慇懃な態度で声を掛けたのは、エアルドフリス(ka1856)。
「構わんよ。だが手短に頼もうか、水も滴る色男殿?」
 覚醒の影響で全身に湿り気を帯びている事を揶揄され、エアルドフリスが苦笑を浮かべた。
「いやなに、マストに登りたいんですが、作法があるなら御教授を賜りたいと思いましてね」
「なに、大して難しい事ではないさ。船の揺れに逆らわん事だ。無理に体勢を立て直そうとせず、波が起こす揺れに身を任せておけば良い」
「そういう事なら任せて頂きたい。水の流れのままに任せる術は心得ているので」
「それは頼もしい。では期待させて貰おう」
 エアルドフリスに笑んで見せてから、アドリアーナはハンター一行の面々を見渡した。
「さて、ハンター諸君。お客様がテーブルに着いた。歓迎の祝砲は聞こえただろう? それでは各々、宴を──」
 洒落の利いた口上を並べる彼女の背後から、触手が急襲する。
 寸での所で回避したアドリアーナは、カトラスを振るって触手の先端を斬り飛ばし、傷口へ銃口を向けると躊躇いなく銃爪を引いた。
「チッ、邪魔が入った。まあ良い、仕切り直すのも面倒だ。──野郎共、宴の時間だ! 思う存分に食い散らかせ!」
 戦神すら震わす凄惨な笑みを浮かべる女神が、髑髏の下に相応しい粗暴な激を飛ばす
「ヒュー♪ 痺れるねぇ」
 ジャック・エルギン(ka1522)は、口笛を吹くとその瞳に赤熱した鉄の輝きを灯らせた。
「そんじゃま、おっ始めようかい!」
「おーおー、若さってのは眩しいねえ。おっさん、目が眩んじゃう」
 闘氣震わすジャックとは裏腹に、気怠そうに呟いたのは鵤(ka3319)。
「ノリ悪いな、オッサン。見ろよ、クラーケンだぜ?」
「おっさんはもう心が枯れてるから、巨大生物相手にワクワクしたりしないの。大怪獣決戦とか止めてよ、もう」
「でも僕達がどうにかしないと、この船も藻屑になっちゃうよ?」
 鵤に応じたのは、時音 ざくろ(ka1250)である。彼の肩には一羽のイヌワシが止まっていた。
「そいつは勘弁願いたいなあ。どうせ溺れるなら酒の方が良いねえ、おっさんは。ま、お給料分はきっちりこなしますか」
 そう言いながらも、鵤は尚も覇気なくリボルバーを手に取る。
「──これもお仕事だかんね」
 だが照星を覗く彼の瞳は、拳銃に備えられた照準器のレンズかと見紛う程に冷たかった。
「これ以上の犠牲は食い止めないと。もう何人もの命がこの海で散ったんだから」
 触手が甲板の内へと這い寄って来る。悪夢のような光景を見る時音は、これと同じものを見た犠牲者達に思いを馳せた。
 彼の肩からイヌワシが飛び立った。空高く舞い上がり、何処か悲し気な声を晴れ渡った空に響かせる。
「そっか、鳥さんも悲しいんだね……。うん、僕達の手で終わらせよう」
 時音は必殺の意思を籠めて大剣を構えた。



「ちゃっちゃとくたばれ、オードブル。今日のメインは手前と違って、飛び切りの上玉なんだからよ」
 旋回砲の砲手を務めるのは、アーヴィン(ka3383)。
 旋回砲が自身のマテリアルに順応するのを確認すると、撃ち出した砲弾を更に高速化して、クラーケンの土手っ腹に叩き込んだ。
「ド派手な分、耳に来るなこいつは」
「なら、耳でも塞ぎやしょうか?」
「冗談だろ? 野郎のゴツイ手に耳触られるなんざ、御免だぜ」
 装填作業を手伝う水兵の申し出を、鼻で哂って断る。
(俺だって真っ平御免だよ)
 内心で毒吐きながら、水兵は黙々と作業に取り掛かった。
「早くしてくれよ、水兵。のんびりしてる暇はないぜー?」
 何度か、火薬の分量を過剰に仕込もうとする衝動に駆られながら。

「同盟の海で好き勝手やってくれたな、クラーケン!」
 ジャックは、甲板を侵す触手を太刀の柄頭で殴る。軟体の触手は大して応えた様子もなく、ジャックへと襲い掛かった。絡み付こうとする触手を回避。が、触手は軟体特有の不快な動きで、逃した獲物へと踊り掛かった。
「代わりをくれてやるから、それで手前を慰めとけ!」
 ジャックは手近な樽を蹴り上げて、身代わりに触手へと掴ませた。丈夫な造りの樽が、いとも容易く木片と化す。
「おいおい、随分と早えな。そんなに抱き心地が良かったか?」
 樽を締め上げた瞬間の隙を突いて、前へと踏み込む。──裂帛の踏込を受けた甲板が悲鳴を上げた。
「そんじゃあ、さっさと逝きな!」
 全霊を籠めた袈裟切りの一刀が、触手を両断した。

「贄を喰らいて恩得を齎す蛇よ──」
 マストの上に立ち海魔の触手を見下ろすエアルドフリスは、その手に握る杖へと語り掛ける。
 杖の銘は、忌まわしき三日月(Crom Cruach)。人間から生贄を受け取り、その対価として豊穣を齎したという神の名だ。
「既に幾多の血がこの海に捧げられた──」
 この金属杖が錬成の過程でその名を得たのは、単なる偶然か、それとも皮肉か。
 持ち主が抱く思想である《均衡》に近しき性質を持つ邪神の名を冠したのは。
「汝がただ血に酔う悪蛇でないと言うのなら、今、我が詞に応えよ。その身が、天秤を司るに相応しい御身であると言うのなら──」
 杖の先に氷矢が出現する。術者のマテリアルを推進力に変えて、氷が触手へと突き刺さった。蠢く触手を甲板に縫い止めた氷矢が砕け、氷塵と化す。
 日光を受けて輝く氷塵が、触手を覆い氷漬けにした。
「──飲み干した血と同量の災厄を、彼の者に齎せ」
 エアルドフリスの周囲に虚しく響く雨音──その源が可視化し、流れ集いて水塊を成す。
 水塊が落ち、凍結した直下の触手に鎚の一撃を見舞う。軟体の守りも凍結した今は意味もなく、触手は衝撃によって粉々に砕け散った。

 二度目の一斉掃射が、潮風を震わせる。
「奴はまだピンシャンしているぞ! 次弾装填を急げ!」

「めっさのたくってんねぇ。おっさん、こっわーい」
 相も変わらず無気力な鵤だが、大口径リボルバーの照準は精確に触手を捉えていく。味方を襲う触手へと散逸的に銃弾を叩き込む彼を疎ましく思ったのか、触手が鵤へと迫った。
「うっわあぃ、こっちに来んじゃねえよ、っとぉ」
 それでも尚、へらりとした笑みを貼り付けたまま鵤は小盾を掲げた。主を覆うように、光の障壁が展開する。
 触手が障壁に触れた瞬間、紫電が散った。攻性を宿す障壁に弾かれた触手に生じる、一瞬の隙。
「そんじゃ、いっただきまーす」
 無機質な光を湛える双眸が見逃す筈もなく。小盾を覆うマテリアルが収束し形成した機導の剣が、触手を斬り飛ばした。
「──ごっそうさん」

「レッツゴー♪」
 まりおは、二本の触手の猛攻を掻い潜りながら、甲板上を駆け回る。いや、彼女の足場は舟板だけではない。樽を足場に高く飛翔したかと思えば、次の瞬間には触手に着地する。彼の究極アスリートを目標とするまりおに取って、走破できぬ場所などない。心のBボタンさえ押し込めば、不可能など存在しないのだ。
 跳んで跳ねて、ついに二本の内の一本を斬り飛ばした。そう、斬撃だ。彼女の得物は大剣の筈。しかし何故だろうか、そこにハンマーの幻影がちらつくのは。
 甲板に着地した彼女にもう一本の触手が迫る。
 触手の攻めに対し、まりおは背を向けて跳んだ。しかし逃走の為ではない。
「ホッ、ハッ!」
 マストを蹴って繰り出す、三角飛び。触手を回避し、更に上を取る。主幹から枝のように突き出たマストを蹴って、急激落下。体重を乗せた必殺の一撃を以って、触手を両断する。
「イヤッフゥゥゥ!」
 Vサインを掲げて勝利の雄叫びを上げる。
「はっ、しまった。つい条件反射で。まだまだ行くよ、レッツゴー♪」

「キャアアアァァァ、こっちに来ないで!」
 悲鳴を上げて逃げ惑うフィオレ。その背を追う触手の動きは、明らかに遅い。どうやら怯える獲物を嬲る愉悦を理解しているらしい。
「ひゃう!?」
 足を縺れさせフィオレは躓く。その無防備な姿に、触手は蠕動しながら一気に襲い掛かった。
「危ない!」
 フィオレに迫る触手を、大剣が受け止める。足下から噴出するマテリアルを推進力に変えた時音が、フィオレを背に立ちはだかったのである。
 触手が、進撃を止めた大剣をその主ごとひねり潰そうと蠢いた。
「させるか。超機導、パワァァァオンッ。弾け飛べぇ!」
 大剣を、紫電纏う障壁が覆う。破裂音を響かせながら、触手が弾かれた。
「まだだ、こいつも受け取れ」
 剣先を空に走らせ、時音は三角形の光陣を描く。
「必殺デルタエンド! フィニィィッシュ!」
 三つの光点から迸る光線に穿たれ、触手が千切れ飛んだ。
「さあ、もう大丈夫だよ。ざくろが護るから安心して」
 時音が振り返り、へたり込んだフィオレに手を差し伸べて微笑んだ。この微笑こそが、この少年をハーレム王の座まで至らせたのだろう。
「か、カッコイイです!」
 ここにも、その微笑みにほだされた乙女が一人──かと思われたが、時音の手を握ったフィオレは予想外の言葉を口にした。
「やっぱり、女は度胸ですよね。胸の大きさで女性の価値なんて決まりませんよね!」
「え、えーと」
 時音は悟る。彼女が自分を女と勘違いしている事を。
「う、うん、そうだね。ざくろもそう思うなー」
「ですよね。私、少しだけ自信が付いた気がします!」
 こうして時音は、乙女の心の平穏を守ったのである。

「存外に応えているようだな。あの優男、中々使えるじゃないか。流石はエルフといった所か」
 クラーケンの損耗具合から見て、アドリア―ナは次の砲撃で仕留められると読んだ。
「さあさあ急げ、野郎共。客人達にだけ仕事をさせるつもりか? 弾込めが終わり次第に、ぶちかませ!」
「「「Aye, aye, ma'am!」」」
 水兵達の咆哮が響き、次々と砲弾が放たれる。弾雨を受けたクラーケンが、海中へと没して逝く。
「なっ!?」
 蛸に似た胴体が海面に沈む直前に、クラーケンは最期の悪足掻きを見せた。血塗れ鴎号を目掛けて、墨を撒き散らしたのである。
「私の船にぶっ掛けるとは良い度胸をしているな、早漏。上等だ、もう一度上がって来い。次は一滴も出せない程、扱いてやる」
「お、落ち着いて下さい!」
 今にも海中に飛び込もうとするアドリア―ナを、懸命にフィオレが抑える。
「そうそう、過ぎた事は過ぎた事だろ? それに何より、せっかくの美人が台無しだぜ?」
 何故か一滴も墨を浴びていないアーヴィンがアドリアーナに声を掛けた。全身墨塗れになった水兵が、彼の背に恨みがましい視線を浴びせている。
「ほう、この私を口説いているのか?」
「勿論、こんな一級品の美女を前にして黙ってちゃあ、男に生まれた意味がねえ。どうだい、今夜一献付き合わないか?」
「ふむ、そうだな。どうせなら今夜と言わずに、今から酒盛りと洒落込もうじゃないか」
「公務中ですよ!?」
「独断で出港したんだ、今更公務も何もあるまいよ。確かラムの入った樽があったな」
「おいおい、おっさん抜きで何楽しそうな話してんのよ。酒あるところにおっさんあり、これ常識だぜ?」
 酒の匂いを嗅ぎ付けた鵤も寄って来る。
(予定とだいぶ違うが、しゃーねえ。為る様に為る、いやぜってーヤッテみせる)
 アーヴィンが決意も新たした所で、帰港の航路を行く船上にて二次会の宴が幕を開けた。

「報告書に何て書けば……」
「あんたも大変だな、姉ちゃん。──それよりもさ、何か手伝う事はねえか?」
 ハンター達にタオルを配り終え、悲嘆に暮れるフィオレへ、ジャックが声を掛ける。
「そんな、これ以上ご面倒をお掛けするわけには」
「俺が手伝いてえの。俺も同盟生まれだからさ、ガキの頃にゃ海の男に憧れたもんさ」
「そうなんですか。では舵を取ってみますか? 操舵係の人に声を掛ければ教えて貰えると思いますけど」
「マジで!? よっしゃあ! じゃあちょっと行って来る」
「ふふ、元気な人ですね。私も見習わないと」
 勢い良く駆けて行くジャックを見て、フィオレが微笑みを漏らす。
「フィオレだったね。さっき躓いていただろう? 俺は薬師をやっていてね、擦り傷に効く軟膏も持ち合わせているから、どれ、診せてみなさい」
 次に彼女へ声を掛けたのは、エアルドフリス。
「ほら、そこの木箱に座って」
「え? えと、その、はい」
 フィオレはされるがままに木箱に腰掛け、制服のスカート裾をたくし上げて膝を晒す。
「やはり、擦りむいてるな。少しヒヤッとするぞ」
(まあ、これくらいなら構わんだろう。……多分)
 心中で何やら思案しながら、エアルドフリスは軟膏を彼女の膝に塗る。
「あの、ありがとうございます」
「礼には及ばんさ。それより何か土産になりそうな話を聞かせてくれないかな? 船好きの恋人が居るものでね」
「恋人さんですか? きっと、素敵な女性なんでしょうね」
「うん? ああ。───そうだとも、俺には勿体ないくらいに素敵な人だよ」

 一方その頃──
「おい嬢ちゃん、危ねえから下りて来な!」
「大丈夫、やっぱ最後は旗の上じゃないとね」
 まりおは、マストの頂点に掲げられた海賊旗の上に立っていた。
「ところでこの旗、下りないの?」



「……あいつらの肝臓は鋼鉄製か?」
 帰港した船の縁で、アーヴィンが胃の中身を海に吐いている。そんな彼を他所に、船の中央では二人のウワバミが杯を交わしていた。
「御仁、私と肩を並べるとは相当の飲み手だな。称賛に値する」
「いやいや、艦長ちゃんだって大したもんだぜ? しっかし、決着着く前に酒が切れちまうとはね」
 酒樽が空になったというのだから、その凄みが伝わるというもの。
「どうするかね? 私はまだあのエルフと店を回るつもりだが」
「おっさんもお伴したいとこだけど、ちっとばかり墨浴びちまったし風呂が先かね」
「では、またの機会に」
「是非とも」
「では行くとしようか、そこのエルフ。最後まで付き合ってくれるのだろう?」
 アドリアーナはへたり込んでいるアーヴィンの首根っこを掴んで引き摺り歩く。
「待て、もう酒は良い。それより俺も風呂に──」
「そうか、じゃあ次は女だな。私の馴染の娼館に連れて行ってやろう。あそこなら風呂もある」
「馴染って、あんた──」
「安心しろ、私は両刀だ。十人相手にして精根尽きてなければ、相手をしてやっても良いぞ?」
 アーヴィンは悟った。自分は野獣すら尻尾を巻いて逃げ出す魔女に手を出してしまったのだと。

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重体一覧

参加者一覧


  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師

  • アーヴィン(ka3383
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 髑髏旗の下で【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/04/13 23:56:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/10 02:07:10