ゲスト
(ka0000)
狼とセシル
マスター:鵺本

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/20 07:30
- 完成日
- 2016/04/26 03:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●母と娘
「いい子にしてるのよ、セシル」
村のはずれに建つ、赤い屋根のこじんまりとした一軒家。
傍には小川が流れ、家から少し歩けば、人形を抱いた金髪の少女――セシル気に入りの、コスモスの花畑がある。
窓から差し込む陽光が、カーペットの上に座り込むセシルの横顔を柔らかく照らしだす。小鳥のさえずりをBGMに、会話を交わす金色の親子。
正にそれは、平和の象徴だった。
「だいじょうぶよ!」
自信満々といった様子で胸を叩いて見せた我が子の満面の笑みに、女からは自然と笑みが溢れ出る。
「おかあさんこそ、きをつけてね」
セシルから、舌足らずな気遣いの言葉が漏れ出る。
「ちかごろ、ぶっそうなんだから」
「そうねぇ」
セシルの頭を撫でてやりながら、女は堪えるようにして笑った。
最近、村の近くで狼の目撃情報が出ている。
畑が荒らされた、うちの家畜が殺されていた、だの物騒な話をよく耳にする。
ただでさえ最近は不作が続いているというのに、村人たちの気は滅入っていくばかりだ。
そんな状況下で娘を一人にするのは心配であり、女としても不本意なのだが、このような状況では外に働きに行かなければ生活ができない。
立ち上がり、セシルに背を向ける。
玄関の扉を開ければ、揃いの金色の髪が風に凪いだ。
「それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
ドアの向こうに見える青空が、セシルの目にはかすかに濁っているように見えた。
●母の嘆き
「今回の依頼の目的は、狼型歪虚の討伐です」
受付嬢が淡々と依頼文を読み上げていく。
「複数の狼型歪虚が、小さな村を占領している状態です。戦闘能力自体は通常の狼とあまり変わらないようですが、数が多いので油断は禁物です」
線の細い銀縁の眼鏡の端をつまみ、位置を直しながら、受付嬢の視線は書面を追っていく。
「村最奥にある家の中には、幼い少女が一人取り残されているとの情報もあり――」
「お願いします……! 娘を……セシルを助けてください!」
受付嬢の言葉を遮るようにして、ギルドの扉を開け一人の女性が飛び込んできた。
「私が悪いんです……! 私が、私が娘を一人にしなければ……!」
受付嬢のスカートにすがりつくと、女性はそのまま地面に崩れ落ちてしまう。
受付嬢は困ったように、ちらちらと視線を動かし続けていた。
「いい子にしてるのよ、セシル」
村のはずれに建つ、赤い屋根のこじんまりとした一軒家。
傍には小川が流れ、家から少し歩けば、人形を抱いた金髪の少女――セシル気に入りの、コスモスの花畑がある。
窓から差し込む陽光が、カーペットの上に座り込むセシルの横顔を柔らかく照らしだす。小鳥のさえずりをBGMに、会話を交わす金色の親子。
正にそれは、平和の象徴だった。
「だいじょうぶよ!」
自信満々といった様子で胸を叩いて見せた我が子の満面の笑みに、女からは自然と笑みが溢れ出る。
「おかあさんこそ、きをつけてね」
セシルから、舌足らずな気遣いの言葉が漏れ出る。
「ちかごろ、ぶっそうなんだから」
「そうねぇ」
セシルの頭を撫でてやりながら、女は堪えるようにして笑った。
最近、村の近くで狼の目撃情報が出ている。
畑が荒らされた、うちの家畜が殺されていた、だの物騒な話をよく耳にする。
ただでさえ最近は不作が続いているというのに、村人たちの気は滅入っていくばかりだ。
そんな状況下で娘を一人にするのは心配であり、女としても不本意なのだが、このような状況では外に働きに行かなければ生活ができない。
立ち上がり、セシルに背を向ける。
玄関の扉を開ければ、揃いの金色の髪が風に凪いだ。
「それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
ドアの向こうに見える青空が、セシルの目にはかすかに濁っているように見えた。
●母の嘆き
「今回の依頼の目的は、狼型歪虚の討伐です」
受付嬢が淡々と依頼文を読み上げていく。
「複数の狼型歪虚が、小さな村を占領している状態です。戦闘能力自体は通常の狼とあまり変わらないようですが、数が多いので油断は禁物です」
線の細い銀縁の眼鏡の端をつまみ、位置を直しながら、受付嬢の視線は書面を追っていく。
「村最奥にある家の中には、幼い少女が一人取り残されているとの情報もあり――」
「お願いします……! 娘を……セシルを助けてください!」
受付嬢の言葉を遮るようにして、ギルドの扉を開け一人の女性が飛び込んできた。
「私が悪いんです……! 私が、私が娘を一人にしなければ……!」
受付嬢のスカートにすがりつくと、女性はそのまま地面に崩れ落ちてしまう。
受付嬢は困ったように、ちらちらと視線を動かし続けていた。
リプレイ本文
●村の門番
「空気が、澱んでますね」
そう、眉をひそめながら呟きを零すのはアシェ-ル(ka2983)だ。
同意を示してか、隣に腰を下ろしたリュドミラ・スェーミ(ka4186)も小さく頷く。
獣の形をしていようとも、相手は紛れもなく歪虚。
現在、6人のハンターたちは少し離れた草むらに身を潜め、村の入り口を注意深く観察していた。
村の周囲には人っ子一人おらず、代わりとばかりに村の入り口には、3体の狼が縄張りを守護するかのように立ち塞がっている。
「まずは、あの狼をなんとかしないとですね」
リラ(ka5679)が小さく呟きを零す。村の中に入らないことには何も始まらない。
「愛梨(ka5827)、お願いできますか?」
「まっかせといて」
自慢げに胸を叩き、愛梨は自身の懐に腕を差し入れた。
「終わり次第殲滅班に合流するわ。……あれくらい、一瞬で消し炭にしてやるんだから」
愛梨がわざとらしく音を立て草むらから勢い良く飛び出したのと同時に、狼たちの視線が一気に集中する。
「あなたたちの相手はあたしよ!」
仲間たちが村の中に侵入したのを横目に確認すると、懐から取り出した符を天へ向かって勢い良く投げた。落雷が、向かってきた3体の狼たちの体を貫く。
急所を逃したのか、そのうちの1体は雷に身を打たれてなお、屈することなく愛梨へと向かってくる。牙を剥き、口の端からは涎を垂らした1体の獣。死に損ないの哀れな亡骸。
「あなたに恨みはないんだけれど、悪いわね」
紅蓮の炎が、獣を焼き尽くす。
残すはあと、12体。
●蔓延る獣たち
「……愛梨さん、大丈夫でしょうか」
「あれくらい平気でしょ」
不安げなアシェールを、ノーマン・コモンズ(ka0251)が静かに慰める。
「ここなら暴れても問題ないかな」
あたりを見回しながら、ノーマンがやる気なさげに呟く。
無言で頷くリュドミラも同意見のようだ。
周囲に民家はなく、アシェールとリュドミラが身を隠せる木々もある。
まわりの木々が少々吹っ飛ぶかもしれないが、それくらいは許してほしいものだ。
ローエン・アイザック(ka5946)とリラの救援班2人には、こちらとは反対方向で待機してもらっている。
アシェールの上げる炎弾が、戦闘開始の合図。
ノーマンが獣の角笛で引きつけている間に、救援班の2人にはセシルの救護を、という寸法だ。
ただ、ここに来るまでの間、狼型歪虚と遭遇しなかった。
それだけが唯一の気掛かりだった。
「じゃあ始めるけど、そっちの準備は?」
「問題ありません!」
「……いけ、マス」
深く頷き、角笛を吹く。響き渡る轟音に周囲が震えるような錯覚が3人を襲った。
次いで聞こえる、獣の遠吠え。鳴き声は共鳴を始め、次第に数を増す。
「ウィンドガスト!」
アシェールの叫びに呼応し、ノーマンの周囲に緑色の風が渦巻き始める。
順調に集い始めた狼たちに、ノーマンは口角を不気味なまでに吊り上げた。
「さあ畜生ども、僕を楽しませてくれよ!」
角笛を仕舞ったのが合図だった。集まった狼型歪虚の数はざっと7。受付嬢が言っていた大型個体が含まれていないのは残念だが、囮役としては十分といったところか。
「迎撃……開始」
「ファイアーボール、上げます!」
リュドミラは銃を、ノーマンは八握剣を構え、アシェールは炎弾を打ち上げる。
赤い閃光が視界を染めると同時に、戦闘が始まった。
ノーマンは、危なげなく手裏剣で狼型歪虚を仕留めていく。
だが、少し数が多い。敵は獣の姿をしているとはいえ、歪虚であることに変わりはない。
残る歪虚の数は5体。
とはいえ、仲間を倒されたことに逆上したのか、ただでさえ荒かった狼たちの気性は荒くなっていくばかり。
リュドミラの援護があるとはいえ、少しばかりノーマンの顔には苦戦の色が見える。
攻撃を畳み掛けるノーマンに視線を送る。ちらりと、一瞬視線が合った。
ノーマンは笑っていた。それは単に彼が戦闘狂だからなのかもしれない。
それでも――。
「無差別範囲の攻撃魔法を使います! ノーマンさん! 避けてくださいぃぃぃ!」
銃から放たれた炎弾が、再び周囲を赤く染め上げた。
残りあと、5体。
●コスモス畑のその先に
ファイアーボールを合図にゴースロンを駆り、リラとローエンはコスモス畑へとやってきた。
「おとぎ話の中みたいですね」
「本当にね」
思わず漏れ出たリラの言葉に、ノーマンも自然と頷いていた。
かすかに濁った青空の下、真っ白なコスモスが風に凪いでいる。
ノーマンたちが歪虚を引きつけてくれているおかげか、周囲に敵の姿はない。
ここだけが現実から切り離された、それこそ物語の中の光景のように思えた。
「隠れている個体がいるかもしれない。慎重に行こう」
「そうですね」
ゴースロンの速度を緩め、ゆっくりとコスモス畑を進んで行く。
しばらくすると、受付嬢から聞いていた通りの小さな家屋が2人の目に飛び込んできた。
「コスモス畑を抜けて、赤い屋根! あれですね!」
「見たところ、歪虚はいない……のかな。なんというか、こう、拍子抜けというか……」
「セシルちゃん、いますか? 私はハンターです! お母さんの代わりに迎えに来ました!」
ゴースロンから降りたリラが、家へと向かいながら語りかける。
「セシルちゃん! いるなら返事をしてください!」
呼びかけを続ける。鍵が掛かっているのか、扉はちっとも開きはしない。
ローエンもゴースロンから降り、リラの元へと向かう。
返事はない。が、代わりとばかりに家の中から物音がした。
ローエンとリラの視線がかち合う。慌てたようにローエンが家の周囲を確認して回った。
「破られた形跡はないよ。大丈夫、きっと怯えて声が出ないだけだろう。……ほら、ここ。窓にひびが入ってる。破る前に諦めたということは、ローエンちゃんたち囮の効果があったみたいだね」
「ああ、良かった……。間に合ったんですね」
リラはほっと胸を撫で下ろした。
その時、ゆっくりと玄関の扉が開いていくのを視界の隅に確認した。
扉の隙間から、つぶらな青い目がじっとリラとローエンを見つめている。
だが2人と目が合うと、金髪の少女はびくりと震え、再度扉を閉めてしまった。
「待った」
ローエンは深追いしようとするリラを押しとどめた。
響き渡る、低い唸り声。
「彼女は、僕たちに怯えてるわけじゃないみたいだ」
「歪虚……!」
隠れて様子を伺っていた歪虚たちが、赤い屋根を取り囲む木々の間から一斉に姿を現した。
●合流、のち決戦
「あれ、もしかしてもう片付けちゃった?」
符を補充し終え、殲滅班へと合流した愛梨が最初に口にした台詞はそれだけだった。
「……って、何がどうなっちゃってるのよ、これ」
愛梨の目に飛び込んできたのは、歪虚はおろか、何も残らない、文字通りの焼け野原だった。
周囲の家々にはなんとか被害が及んでいないが、周囲数メートルが綺麗なまでに焼き尽くされている様はむしろ称賛にすら値する。
「……炎弾、デス」
「なるほど」
ぼそりと呟いたリュドミラに納得する。そろりと視線を動かせば、ノーマンに必死に謝罪しているアシェールの姿が目に入った。
と、その時愛梨のトランシーバーに着信があった。
「こちら愛梨、無事に殲滅班と合流したわ。丁度これから生存者を――」
「こちらリラ! 例の大型歪虚です! 場所はセシルちゃんの家! 至急救援をお願いします!」
それだけで理解した。
頷くと、4人は一斉に現場へと急行した。
●親玉のお出まし
「セシル、ちゃん」
トランシーバーを仕舞い込むと、拳に力をいれながら、ゆっくりと唾を飲み込む。
通常の大きさの狼型歪虚4体に囲まれるような形で、馬ほどの大きさの巨大な狼がじりじりとリラへと歩み寄ってきていた。
受付嬢の言っていた、大型個体。間違いない。
囮にも引き寄せられず、あえてこの場所に留まり続けていたというのか。
例えそうだとするのなら、想定外に頭がいいのかもしれない。
「大丈夫、絶対に、大丈夫ですから」
いつこちらへ飛びかかってくるか分からない。
他の狼たちとは明らかに異なる禍々しい気配を感じる。
口の端からは涎を零し、煌々と輝く赤い目は真っすぐにリラの姿を捉えている。
「ローエンさんは、援護をお願いします」
「分かった」
ローエンの囁きに応じ、リラの拳を純白の光が包み込んでいった。
「……でもその前に、セシルちゃんを」
――彼女を、安心させてあげてください。
「リラ!!」
「大丈夫! 私一人でも、皆が応援に来てくれるまでの少しの時間くらいは稼げます!」
リラが言い切ると同時に、大型個体が遠吠えを上げる。衝撃に地面が揺らいだ。
呼応するかのように天に向かって4匹の狼たちが遠吠えを上げ、リラへと向かって駆け出していく。援護のため、ローエンはホーリーライトを放つ。
まばゆい光が、取り巻きの狼めがけて一直線に放物線を描いた。
光の一つが、1体の狼に直撃する。
飛び上がった狼は、そのまま地面へと勢い良く叩きつけられた。
「セシルちゃん、大丈夫、絶対、に、お母さんにっ……会わせてあげるから……!」
扉の隙間から垣間見た、怯え混じりの青い瞳。
怖かっただろう。
狼だらけの村の中、たった1人で取り残されて。
小さな少女の恐怖は、リラたちには計り知れない。
向かってきた大型個体を間一髪でかわし、側部から飛跳撃を叩き込む。
大型個体がセシルの家とは反対方向に吹き飛ばされる。
なんとか、少女の家から引き離すことには成功した。
取り巻きの残された3体の狼たちが、大型個体を庇うようにゆっくりと起き上がるボスの周囲を取り囲んでいた。
「ローエンさん! リラさん!」
丁度その時、遠くからアシェールの声が聞こえてきた。
「ローエンさん」
背を向けたままのリラが、静かにローエンを促す。
決意を込めた少女の背中に、ローエンはゆっくりと頷いた。
残すはあと、4体。
●取り残された少女
「セシルちゃん」
小さく扉をノックする。相変わらず、返事はない。
けれど中に少女が取り残されているのは分かっている。
背後では仲間たちが戦っている物騒な物音がする。
再度ノックを繰り返す。すると、今度はゆっくりながらも扉が開かれていった。
「君が、セシルちゃんかな?」
ローエンの言葉に、金髪の少女は小さく頷く。
「僕はローエン・アイザック、君のお母さんに頼まれて、君を助けに来たんだよ」
怯え混じりの少女の顔に、微かに光が差した。
「……中に、入っても?」
頷き返したセシルに安堵の息を吐きながら、家の中に踏み込んだ。
安全のため鍵を閉め、小さな少女に視線を合わせるためしゃがみ込む。
「今、外で皆が頑張ってくれているから、もう少しだけ我慢出来る?」
こくり、と小さな頷き。
「一人で、よく頑張ったね。ご褒美にキャンディをあげよう」
「……ありがとう、おにいちゃん」
ぎこちないながらも、キャンディを受け取ったセシルは確かに微笑んでいた。
●最終決戦
「皆さん、すみません。手間をかけさせてしまって……!」
「気にしなくて……いい……デス」
申し訳なさそうに息を吐くリラに、リュドミラが励ましを漏らす。
「そうそう。いいね、なかなか楽しくなってきた」
「そんな呑気なこと言ってる場合!?」
口角を吊り上げるノーマンに、愛梨は思わず素っ頓狂な声を上げていた。
リラの先ほどの一撃が効いたのか、大型個体が起き上がるまではもう少しばかり時間がかかりそうだ。
「でも、どうしましょう。ここで火弾を使うのはさすがに」
セシルごとふっ飛ばしかねない。極弩重雷撃砲ならいけるだろうかとアシェールが思っていると、
「小型……引き受ける……デス」
リュドミラが銃を取り出しながら静かな呟きを漏らした。
「では私も、小型の撃破に回ります。ノーマンさんとアシェールさんは大型を」
リラの言葉に一同は頷く。
「それじゃ、私は皆の後方支援ってことで」
補充したばかりの符を取り出し、愛梨も上機嫌に笑んだ。
「……さてと、さっさと殺しますか」
大型個体が立ち上がったのを合図に、ノーマンが我先にと駆け出していく。
同時に、アシェールの放ったウィンドガストがノーマンの体に風の鎧を纏わせた。
リュドミラの放った弾丸が1体の狼の胴を貫き、リラの放った気功波が2体目を吹き飛ばす。
最後に愛梨の放った火炎符が、残す1体を塵へと変えた。
残すはあと1体――この群れのボスであった個体だけだ。
ランアウトで急速に接近し、ワイヤーを放つ。敵は他の個体とは違い、ワイヤーを警戒する素振りを見せた。そこが狙いだ。
距離を取った瞬間を見定め、飛燕からの広角投射を繰り出す。
「これで、終わりだよ……!」
大型個体の喉から頭をめがけ、力一杯刀を突き上げた。
始まりは唐突で、終わってみればこんなにも呆気ない。
刀を鞘に収めながら振り返れば、家の扉から姿を覗かせているローエンと、彼の背に隠れている小さな少女の姿があった。
リラはセシルの姿を捉えると、真っ先に少女のもとへ駆け出していった。
そして彼女を抱きしめてただ一言、
「良く、頑張ったね」
そんな言葉を漏らしたのだった。
●終わりよければ
結局、セシル以外の村人を発見することはできなかった。
逃げ遅れた村人がいなかったことを良しとするか、無駄な労力を使わされたと凹むべきなのか、なかなか反応に困るところではあったが。
けれどそんな悩みは、助けた少女の笑顔を見ていると非常に瑣末なことに思えた。
「セシル……!」
「おかあさん……!」
ギルドにて再会した親子は、涙を流しながら深く抱擁を交わしている。
「良かったですね、セシルちゃん」
アシェールの言葉に、リュドミラは噛み締めるようにゆっくりと頷く。
普段無表情な彼女の顔にも、微かに笑みが浮かんでいた。
「本当にありがとうございます……!」
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべて礼をするセシルを見ていると、本当に細かいことなどどうでもよくなってくる。
仲睦ましげな親子の様子に、気を抜けば涙さえこぼれ落ちそうなほどだ。
「あれ、もしかして受付嬢さん泣いてる?」
「……泣いてません」
愛梨の指摘に受付嬢は眼鏡を片手で持ち上げながら、必死に目元を拭っている。
そんな様子では説得力は皆無だというのに。
「雨でも降ってるんじゃないですか!?」
半ばキレ気味に言う受付嬢の言葉に反し、外には見事なまでの快晴が広がっているのだった。
「空気が、澱んでますね」
そう、眉をひそめながら呟きを零すのはアシェ-ル(ka2983)だ。
同意を示してか、隣に腰を下ろしたリュドミラ・スェーミ(ka4186)も小さく頷く。
獣の形をしていようとも、相手は紛れもなく歪虚。
現在、6人のハンターたちは少し離れた草むらに身を潜め、村の入り口を注意深く観察していた。
村の周囲には人っ子一人おらず、代わりとばかりに村の入り口には、3体の狼が縄張りを守護するかのように立ち塞がっている。
「まずは、あの狼をなんとかしないとですね」
リラ(ka5679)が小さく呟きを零す。村の中に入らないことには何も始まらない。
「愛梨(ka5827)、お願いできますか?」
「まっかせといて」
自慢げに胸を叩き、愛梨は自身の懐に腕を差し入れた。
「終わり次第殲滅班に合流するわ。……あれくらい、一瞬で消し炭にしてやるんだから」
愛梨がわざとらしく音を立て草むらから勢い良く飛び出したのと同時に、狼たちの視線が一気に集中する。
「あなたたちの相手はあたしよ!」
仲間たちが村の中に侵入したのを横目に確認すると、懐から取り出した符を天へ向かって勢い良く投げた。落雷が、向かってきた3体の狼たちの体を貫く。
急所を逃したのか、そのうちの1体は雷に身を打たれてなお、屈することなく愛梨へと向かってくる。牙を剥き、口の端からは涎を垂らした1体の獣。死に損ないの哀れな亡骸。
「あなたに恨みはないんだけれど、悪いわね」
紅蓮の炎が、獣を焼き尽くす。
残すはあと、12体。
●蔓延る獣たち
「……愛梨さん、大丈夫でしょうか」
「あれくらい平気でしょ」
不安げなアシェールを、ノーマン・コモンズ(ka0251)が静かに慰める。
「ここなら暴れても問題ないかな」
あたりを見回しながら、ノーマンがやる気なさげに呟く。
無言で頷くリュドミラも同意見のようだ。
周囲に民家はなく、アシェールとリュドミラが身を隠せる木々もある。
まわりの木々が少々吹っ飛ぶかもしれないが、それくらいは許してほしいものだ。
ローエン・アイザック(ka5946)とリラの救援班2人には、こちらとは反対方向で待機してもらっている。
アシェールの上げる炎弾が、戦闘開始の合図。
ノーマンが獣の角笛で引きつけている間に、救援班の2人にはセシルの救護を、という寸法だ。
ただ、ここに来るまでの間、狼型歪虚と遭遇しなかった。
それだけが唯一の気掛かりだった。
「じゃあ始めるけど、そっちの準備は?」
「問題ありません!」
「……いけ、マス」
深く頷き、角笛を吹く。響き渡る轟音に周囲が震えるような錯覚が3人を襲った。
次いで聞こえる、獣の遠吠え。鳴き声は共鳴を始め、次第に数を増す。
「ウィンドガスト!」
アシェールの叫びに呼応し、ノーマンの周囲に緑色の風が渦巻き始める。
順調に集い始めた狼たちに、ノーマンは口角を不気味なまでに吊り上げた。
「さあ畜生ども、僕を楽しませてくれよ!」
角笛を仕舞ったのが合図だった。集まった狼型歪虚の数はざっと7。受付嬢が言っていた大型個体が含まれていないのは残念だが、囮役としては十分といったところか。
「迎撃……開始」
「ファイアーボール、上げます!」
リュドミラは銃を、ノーマンは八握剣を構え、アシェールは炎弾を打ち上げる。
赤い閃光が視界を染めると同時に、戦闘が始まった。
ノーマンは、危なげなく手裏剣で狼型歪虚を仕留めていく。
だが、少し数が多い。敵は獣の姿をしているとはいえ、歪虚であることに変わりはない。
残る歪虚の数は5体。
とはいえ、仲間を倒されたことに逆上したのか、ただでさえ荒かった狼たちの気性は荒くなっていくばかり。
リュドミラの援護があるとはいえ、少しばかりノーマンの顔には苦戦の色が見える。
攻撃を畳み掛けるノーマンに視線を送る。ちらりと、一瞬視線が合った。
ノーマンは笑っていた。それは単に彼が戦闘狂だからなのかもしれない。
それでも――。
「無差別範囲の攻撃魔法を使います! ノーマンさん! 避けてくださいぃぃぃ!」
銃から放たれた炎弾が、再び周囲を赤く染め上げた。
残りあと、5体。
●コスモス畑のその先に
ファイアーボールを合図にゴースロンを駆り、リラとローエンはコスモス畑へとやってきた。
「おとぎ話の中みたいですね」
「本当にね」
思わず漏れ出たリラの言葉に、ノーマンも自然と頷いていた。
かすかに濁った青空の下、真っ白なコスモスが風に凪いでいる。
ノーマンたちが歪虚を引きつけてくれているおかげか、周囲に敵の姿はない。
ここだけが現実から切り離された、それこそ物語の中の光景のように思えた。
「隠れている個体がいるかもしれない。慎重に行こう」
「そうですね」
ゴースロンの速度を緩め、ゆっくりとコスモス畑を進んで行く。
しばらくすると、受付嬢から聞いていた通りの小さな家屋が2人の目に飛び込んできた。
「コスモス畑を抜けて、赤い屋根! あれですね!」
「見たところ、歪虚はいない……のかな。なんというか、こう、拍子抜けというか……」
「セシルちゃん、いますか? 私はハンターです! お母さんの代わりに迎えに来ました!」
ゴースロンから降りたリラが、家へと向かいながら語りかける。
「セシルちゃん! いるなら返事をしてください!」
呼びかけを続ける。鍵が掛かっているのか、扉はちっとも開きはしない。
ローエンもゴースロンから降り、リラの元へと向かう。
返事はない。が、代わりとばかりに家の中から物音がした。
ローエンとリラの視線がかち合う。慌てたようにローエンが家の周囲を確認して回った。
「破られた形跡はないよ。大丈夫、きっと怯えて声が出ないだけだろう。……ほら、ここ。窓にひびが入ってる。破る前に諦めたということは、ローエンちゃんたち囮の効果があったみたいだね」
「ああ、良かった……。間に合ったんですね」
リラはほっと胸を撫で下ろした。
その時、ゆっくりと玄関の扉が開いていくのを視界の隅に確認した。
扉の隙間から、つぶらな青い目がじっとリラとローエンを見つめている。
だが2人と目が合うと、金髪の少女はびくりと震え、再度扉を閉めてしまった。
「待った」
ローエンは深追いしようとするリラを押しとどめた。
響き渡る、低い唸り声。
「彼女は、僕たちに怯えてるわけじゃないみたいだ」
「歪虚……!」
隠れて様子を伺っていた歪虚たちが、赤い屋根を取り囲む木々の間から一斉に姿を現した。
●合流、のち決戦
「あれ、もしかしてもう片付けちゃった?」
符を補充し終え、殲滅班へと合流した愛梨が最初に口にした台詞はそれだけだった。
「……って、何がどうなっちゃってるのよ、これ」
愛梨の目に飛び込んできたのは、歪虚はおろか、何も残らない、文字通りの焼け野原だった。
周囲の家々にはなんとか被害が及んでいないが、周囲数メートルが綺麗なまでに焼き尽くされている様はむしろ称賛にすら値する。
「……炎弾、デス」
「なるほど」
ぼそりと呟いたリュドミラに納得する。そろりと視線を動かせば、ノーマンに必死に謝罪しているアシェールの姿が目に入った。
と、その時愛梨のトランシーバーに着信があった。
「こちら愛梨、無事に殲滅班と合流したわ。丁度これから生存者を――」
「こちらリラ! 例の大型歪虚です! 場所はセシルちゃんの家! 至急救援をお願いします!」
それだけで理解した。
頷くと、4人は一斉に現場へと急行した。
●親玉のお出まし
「セシル、ちゃん」
トランシーバーを仕舞い込むと、拳に力をいれながら、ゆっくりと唾を飲み込む。
通常の大きさの狼型歪虚4体に囲まれるような形で、馬ほどの大きさの巨大な狼がじりじりとリラへと歩み寄ってきていた。
受付嬢の言っていた、大型個体。間違いない。
囮にも引き寄せられず、あえてこの場所に留まり続けていたというのか。
例えそうだとするのなら、想定外に頭がいいのかもしれない。
「大丈夫、絶対に、大丈夫ですから」
いつこちらへ飛びかかってくるか分からない。
他の狼たちとは明らかに異なる禍々しい気配を感じる。
口の端からは涎を零し、煌々と輝く赤い目は真っすぐにリラの姿を捉えている。
「ローエンさんは、援護をお願いします」
「分かった」
ローエンの囁きに応じ、リラの拳を純白の光が包み込んでいった。
「……でもその前に、セシルちゃんを」
――彼女を、安心させてあげてください。
「リラ!!」
「大丈夫! 私一人でも、皆が応援に来てくれるまでの少しの時間くらいは稼げます!」
リラが言い切ると同時に、大型個体が遠吠えを上げる。衝撃に地面が揺らいだ。
呼応するかのように天に向かって4匹の狼たちが遠吠えを上げ、リラへと向かって駆け出していく。援護のため、ローエンはホーリーライトを放つ。
まばゆい光が、取り巻きの狼めがけて一直線に放物線を描いた。
光の一つが、1体の狼に直撃する。
飛び上がった狼は、そのまま地面へと勢い良く叩きつけられた。
「セシルちゃん、大丈夫、絶対、に、お母さんにっ……会わせてあげるから……!」
扉の隙間から垣間見た、怯え混じりの青い瞳。
怖かっただろう。
狼だらけの村の中、たった1人で取り残されて。
小さな少女の恐怖は、リラたちには計り知れない。
向かってきた大型個体を間一髪でかわし、側部から飛跳撃を叩き込む。
大型個体がセシルの家とは反対方向に吹き飛ばされる。
なんとか、少女の家から引き離すことには成功した。
取り巻きの残された3体の狼たちが、大型個体を庇うようにゆっくりと起き上がるボスの周囲を取り囲んでいた。
「ローエンさん! リラさん!」
丁度その時、遠くからアシェールの声が聞こえてきた。
「ローエンさん」
背を向けたままのリラが、静かにローエンを促す。
決意を込めた少女の背中に、ローエンはゆっくりと頷いた。
残すはあと、4体。
●取り残された少女
「セシルちゃん」
小さく扉をノックする。相変わらず、返事はない。
けれど中に少女が取り残されているのは分かっている。
背後では仲間たちが戦っている物騒な物音がする。
再度ノックを繰り返す。すると、今度はゆっくりながらも扉が開かれていった。
「君が、セシルちゃんかな?」
ローエンの言葉に、金髪の少女は小さく頷く。
「僕はローエン・アイザック、君のお母さんに頼まれて、君を助けに来たんだよ」
怯え混じりの少女の顔に、微かに光が差した。
「……中に、入っても?」
頷き返したセシルに安堵の息を吐きながら、家の中に踏み込んだ。
安全のため鍵を閉め、小さな少女に視線を合わせるためしゃがみ込む。
「今、外で皆が頑張ってくれているから、もう少しだけ我慢出来る?」
こくり、と小さな頷き。
「一人で、よく頑張ったね。ご褒美にキャンディをあげよう」
「……ありがとう、おにいちゃん」
ぎこちないながらも、キャンディを受け取ったセシルは確かに微笑んでいた。
●最終決戦
「皆さん、すみません。手間をかけさせてしまって……!」
「気にしなくて……いい……デス」
申し訳なさそうに息を吐くリラに、リュドミラが励ましを漏らす。
「そうそう。いいね、なかなか楽しくなってきた」
「そんな呑気なこと言ってる場合!?」
口角を吊り上げるノーマンに、愛梨は思わず素っ頓狂な声を上げていた。
リラの先ほどの一撃が効いたのか、大型個体が起き上がるまではもう少しばかり時間がかかりそうだ。
「でも、どうしましょう。ここで火弾を使うのはさすがに」
セシルごとふっ飛ばしかねない。極弩重雷撃砲ならいけるだろうかとアシェールが思っていると、
「小型……引き受ける……デス」
リュドミラが銃を取り出しながら静かな呟きを漏らした。
「では私も、小型の撃破に回ります。ノーマンさんとアシェールさんは大型を」
リラの言葉に一同は頷く。
「それじゃ、私は皆の後方支援ってことで」
補充したばかりの符を取り出し、愛梨も上機嫌に笑んだ。
「……さてと、さっさと殺しますか」
大型個体が立ち上がったのを合図に、ノーマンが我先にと駆け出していく。
同時に、アシェールの放ったウィンドガストがノーマンの体に風の鎧を纏わせた。
リュドミラの放った弾丸が1体の狼の胴を貫き、リラの放った気功波が2体目を吹き飛ばす。
最後に愛梨の放った火炎符が、残す1体を塵へと変えた。
残すはあと1体――この群れのボスであった個体だけだ。
ランアウトで急速に接近し、ワイヤーを放つ。敵は他の個体とは違い、ワイヤーを警戒する素振りを見せた。そこが狙いだ。
距離を取った瞬間を見定め、飛燕からの広角投射を繰り出す。
「これで、終わりだよ……!」
大型個体の喉から頭をめがけ、力一杯刀を突き上げた。
始まりは唐突で、終わってみればこんなにも呆気ない。
刀を鞘に収めながら振り返れば、家の扉から姿を覗かせているローエンと、彼の背に隠れている小さな少女の姿があった。
リラはセシルの姿を捉えると、真っ先に少女のもとへ駆け出していった。
そして彼女を抱きしめてただ一言、
「良く、頑張ったね」
そんな言葉を漏らしたのだった。
●終わりよければ
結局、セシル以外の村人を発見することはできなかった。
逃げ遅れた村人がいなかったことを良しとするか、無駄な労力を使わされたと凹むべきなのか、なかなか反応に困るところではあったが。
けれどそんな悩みは、助けた少女の笑顔を見ていると非常に瑣末なことに思えた。
「セシル……!」
「おかあさん……!」
ギルドにて再会した親子は、涙を流しながら深く抱擁を交わしている。
「良かったですね、セシルちゃん」
アシェールの言葉に、リュドミラは噛み締めるようにゆっくりと頷く。
普段無表情な彼女の顔にも、微かに笑みが浮かんでいた。
「本当にありがとうございます……!」
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべて礼をするセシルを見ていると、本当に細かいことなどどうでもよくなってくる。
仲睦ましげな親子の様子に、気を抜けば涙さえこぼれ落ちそうなほどだ。
「あれ、もしかして受付嬢さん泣いてる?」
「……泣いてません」
愛梨の指摘に受付嬢は眼鏡を片手で持ち上げながら、必死に目元を拭っている。
そんな様子では説得力は皆無だというのに。
「雨でも降ってるんじゃないですか!?」
半ばキレ気味に言う受付嬢の言葉に反し、外には見事なまでの快晴が広がっているのだった。
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相談卓 アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/04/19 19:46:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/16 23:28:56 |