知追う者、鬼に問う使者の語

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/19 22:00
完成日
2016/04/25 10:56

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●対面
「……それで? 天気の話をしにきたわけじゃないだろう?」
 アカシラ(kz0146)に言われて大江 紅葉(kz0163)はうなずく。かれこれ十五分、取り留めのない話をしていた。
「あなたにシシャを立てるよう指示した妖怪……いえ、歪虚について……」
「指示? なんのことだい」
 アカシラは紅葉が何をどこまで知っているのか知らないため、否定する。
 使者ヒラツが「妖怪がいた」と言ったこと、目玉の妖怪を討ったのは自分が雇ったハンターであること、その妖怪に行く道筋を作ったのは嫉妬の歪虚だったことなど紅葉はすべて告げた。
 紅葉の様子はあえて感情を殺す表情に口調であると初対面でも分かる。
「……私よりちょっと背が低い、男の子の姿ではありませんでしたか?」
「……なんだい、そこまで知ってるのかい」
 告げられた言葉に、白を切る必要はない、と判断した。
 アカシラは覚えている、鬼のしゃれこうべを抱え、ねっとりと絡みつくようにしゃべるくせに、どこか抜けていた人形の少年であったと。
「それで、何が聞きたいんだい? 結果だけ見りゃァ、アタシらも……少なからずアンタ達も助かったわけだ。今更お縄につく、っていうワケにはいかないよ?」
 アカシラはさらりと言うが、実際はどろりと蠢く気持ち悪さがなくはない。余りにも、ヒトに利がある介入だった、と。アカシラ自身了解できないでいるのだ。
「ふふ……本当、どうするんでしょうね? ……性だとしか言いようがないです。知識を追いたい、本当の事を知りたい! ただ、それだけ」
 アカシラから見れば少女にも見える符術師の女は寂しそうにつぶやく。
「へぇ……じゃあ、アンタはどこまで調べたんだい? 聞いていいなら……」
「災厄の十三魔レチタティーヴォ」
「……は?」
「あなたの背中を押した子の後ろにいたのはその歪虚です」
 紅葉はカップを傾け茶を飲み、立ち上がる。
「アイツが、ねぇ……」
 知った名に、暫し沈思したアカシラであったが、すぐに稚気の混じった表情でこう切り返した。
「残念ながら、アイツは死んでる。何かしたいことでもあったのかい」
「そうですねぇ……質問して、濁されるようなら殴りますっ!」
「アンタ、とても腕っ節が強そうには見えないけどねえ……無理はするんじゃないよ」
「アカシラ殿はお優しいですね」
「適材適所さ」
「ふふっ。さて、帰りますね。アカシラ殿、またエトファリカに戻ることがあるなら、我が家へいらっしゃってください。大したものは出せませんが軽い食事くらいは用意して歓待しますよ」
 ぺこりとお辞儀をして紅葉は立ち去った。
「またって……」
 アカシラは頭を掻いた。

●誘拐
 プエル(kz0127)がグラズヘイム王国に戻ってから、エクエスは着実に隙間を埋めて行く。情報の不足は否めず、かといって、情報を持っている人物たちが答えるか不明という問題が立ちふさがる。
「本当にプエルは……どうやって終幕を持ってくるかだなぁ」
 エクエスは町に立ち寄る。プエルのワイバーンを借りているため、目立たないように降ろして歩いても、十分移動は楽だ。
「ん? あの紋章は……イノアはやっぱりニコラスに似てるよな……」
 遠くに見たのはイノア・クリシスという少女の姿だ。彼女の兄、すでに死んだニコラスにどこか似ているが、性格の為、イノアの方がきりっとした凛々しさがある。
「ああ、彼女は知らないだろうけど……脅してもいいんだよな」
 エクエスはククと喉の奥で笑った、彼女に付従っている男を見た瞬間遊ぼうと考える。
 エクエスは彼女に近寄ると、彼女の抵抗を許さず抱えた。一気に走り出す。
「……イノア様っ!」
 声の人物が追いつくはずはない。町の中を探しまわるだろうから時間は十分稼げるだろう。少し外れた廃墟に行き、イノアを乱暴に地面に落とした。
「……な、何者ですっ!」
「さて? 何者でしょう? お姫様」
 イノアは声で気付いたらしく、目を見開いた。
「……お、お前は……お兄様をどこに連れて行ったのっ!」
「なぜ、私が連れて行ったと思うのです?」
「お前はお兄様のことを懸想していたから!」
 エクエスは言葉を理解するのに時間がかかり、間を開けて大笑いする。
「あんな糞ガキ大嫌いだ! むしろ、あんたの方が興味あった。だけど今でもガキだがあの時はもっとガキだったよな!」
 イノアは後ろにずるずると下がる。
「俺は知りたいんだ、ニコラスの行方を」
「……な、なんですって?」
 イノアの声が上ずる。
 不意に門扉の所に人の気配がした。
「イノア様にはまだお話を聞きたいのでまずは鼠をつぶさないといけないですね」
 エクエスは剣を引き抜いた。

●邂逅
 アカシラに会った後、紅葉は転移門から帰ろうと思ったが、聞こえた声に走り寄る。そこにいる青年を見た瞬間、紅葉は驚いた。
 以前、紅葉にあった歪虚に似ているから。ただ、こちらの青年は生きており、彼より穏やかな雰囲気がしている。
「どうしたんですか?」
「歪虚が、私が守るべき方を……」
 肩で息をしている。
「私が追いかけますから、ハンターを呼んできてください。たぶん、その方が確実です」
「……しかしっ」
「私だってハンターですよ? 申し遅れました、私はエトファリカ連邦国陰陽寮所属の大江 紅葉と申します」
「……わたくしはグラズヘイム王国の、一領地を治めるウィリアム・クリシス様に使える騎士ジョージ・モースといいます。分かりました、お願いします」
 紅葉とジョージは別れて走り始めた。
 覚醒状態となり、紅葉は駆け抜ける。いつでも術を使える状態にして。
(……うーん……きっと援軍はすぐに来ますよね?)
 カードバインダーと風呂敷にあったナックルだけが武器だ。
 廃墟から声がした。ゆっくり近づいて様子をうかがう。この時、気付いていないががれきか何かを蹴飛ばした。
(声の様子から女の子がいる……。歪虚は……声に聞き覚えが……)

 ガチャン。

 あわてて紅葉は隠れていた場所を離れた。衝撃波が壁を壊したのだった。
「……これは、これは……このようなところでエトファリカの役人が何をやっているんですか?」
「……プエル君の相方?」
「そこまでご存知ですか? プエル様はあなたにご執心の様子……大人しく死んでくれませんか? そうすれば、そこの小娘は殺さないですよ」
「……下衆」
 紅葉はカードバインダーを取り出し、状況を確認した。いくつか雑魔が寄ってきているのが面倒なところ。
「いいですか、あなたがこちらに来なければ、雑魔はイノアを殺さない」
 紅葉は唇をかんだ。
 怯えている少女は毅然としているが、殺された妹と同じくらいの年齢に見え、一層焦りが生じた。

リプレイ本文

●不安
「紅葉さんもよくトラブルに巻き込まれますね……。彼女とイノアさんの命がかかっている以上、急がねばなりません」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は気を引き締め、仲間と走り出す。
 紅葉のおかげで道に迷わず、町外れの廃墟は迫る。途中で乗り物からは下りて進む。
「音がしますね……」
 ミオレスカ(ka3496)は陰から覗く。愛馬のハニーマーブル号の手綱を引き、いざとなったらイノアを乗せて逃がせるように。
 廃墟の門があるだろうあたりに雑魔とハンターらしい影がうかがえる。
「クリシスのお嬢の姿が見えない? 人質にでも取られているのか?」
 百鬼 雷吼(ka5697)は符を取り出して【式符】を使う準備をする。
「白昼堂々と誘拐……知能のある歪虚がやったなら裏に何かあるだろうな。まずはその子を保護しないと」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は周囲の様子をうかがい、地形を推測する。
「表から行って様子を見る……裏から回って状況把握」
 トラシーバーを取り出してレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は仲間を見る。
「行こう、早く助けないと」
 ザレム・アズール(ka0878)は班分けや段取りが終わった直後、機導術の【ジェットブーツ】を使用し、飛び出した。紅葉のことを知っていることも手伝い、非常に焦りを覚えていた。

●隠密
 紅葉は打開策を見つけようと必死だが、回避するので精一杯だ。
(もっと、まともに修業すべきでした!)
 後悔しても仕方がない。
「厄介な者が来る前に死んでくださいね?」
 エクエスは楽しそうに優しい声音で告げた。

 銃声が響いた。
 紅葉の後方に回り込んでいた雑魔は銃弾にはじき飛ばされる。
 ザレムは倒れそうな紅葉を支えるように立った。
「待たせてすまんな、それに三人だが。このけが……弄んだのか!」
「いえいえ、この方がよけるものですから」
 エクエスは言いながら攻撃を仕掛けるが、ザレムが盾を持ち紅葉をかばう。
「最近プエルと一緒じゃないと思ったら誘拐してまで女つれて、両手に華か? そんなんじゃもてないぜ?」
 レイオスは追いつき、割って入る。
 エクエスは彼の言葉に目を細めた。
「紅葉さん、動けるならこっちに!」
 仲間を援護後、ミオレスカは声をかけつつ近づく。
「だめです、それに近づくと、あのお嬢さんが」
 紅葉はレイオスとザレムに焦る声音で告げた。

 壁の中を見るために近づくエルバッハ、アルトと雷吼。
 雷吼は【式符】をかけた符はザレムに託していた。彼が近づいたところで中が見え、集中を解く。静かに速く走り、エルバッハとアルトに追いつく。
「奧にいる」
「アリアお願い」
 雷吼が指した方向にアルトはペットの桜型妖精アリスのアリアに見てくるよう頼んだ。
 壁すれすれに飛び中を観察したアリアは指を差している。
「……なら、用心しつつ突入しましょう」
 エルバッハはトランシーバーで仲間に告げた後、壁を壊すべく【ファイアーボール】を紡ぎ上げた。

●救出
「私はこの辺で失礼させていただきますよ。イノア様、是非ともあなたの兄の行方がわかりましたら、我が愚父に教えてください」
 エクエスはイノアの返答を待たずに、前にいるザレムやレイオスに向かってマテリアルを凝縮した技を放つ。
 ザレムやレイオスの鎧や盾によってそれは防がれるが、衝撃波がおそった。エクエスが近くに来ているために攻撃はできるし、足止めはしたいが下手に刺激できない。
 仲間がイノアを保護するのが先だ。だからこそ、別働隊がいると思わせないように行動しないとならない。
 壁が崩れる激しい音が響いた。ファイアーボールの炸裂、それに続いた雷撃。
「あちらも三人で行っているんでね」
「これでおまえは逃げ道がなくなる」
 ザレムとレイオスがエクエスに攻撃をする。
「紅葉さんも……」
「そうですね」
 ミオレスカに促されてほっとする紅葉。その手にはミオレスカやザレムが渡した符がある。
 エクエスは悠長に前線を下げて逃げる作戦では消されると気づく。
(ちっ、遊びすぎた……ワイバーンが使えていれば!)
 エクエスは焦りながら目を走らせた。

 魔法の後にアルトは飛び込む。雑魔を斬り、イノアのそばまでやってきた。
「ボクたちが入ってきたところから出れば馬がある」
「ありがとうございます」
 イノアはお礼を述べる。
「次はそこですね」
 イノアに近づきつつ、エルバッハは魔法を放つ。炎の玉は雑魔を巻き込みエクエスの後方で炸裂する。
「【星奏顕符《雷》】」
 雷吼は雑魔に符を放つ。宙を舞う符はマテリアルに反応し、雷となって敵を打った。
 これらによって雑魔たちはほぼ霧散していた。
「これなら行ける」
 アルトはエルバッハと雷吼にイノアを託すと、エクエスに向かって走り出した。

●命乞い
 エクエスは冷や汗をかく。紅葉でも殺せれば気分は良かったが、ザレムとレイオスが邪魔だった。逃げたいが逃げ道が細く頼りない。
 逃げる隙を作るには彼らの興味を引くしかない。
「待ってください! ほら、わたくしのような小物を殺すよりも、プエル様の終幕を見る方が楽しいのではありませんか?」
「終幕?」
 ザレムは不意の言葉にオウム返した。
「そうです! あなた方が先の戦いで倒した十三魔のアレが楽しみにしていた演目です! 興味ありませんか?」
「それが、ハロウィンやってたあのプエルだというのか?」
 アルトの確認にエクエスはうなずく。
「そうです! プエル自体が演目なのです。どうです? 興味ありませんか?」
「流れを整えるのが、あなたがれちたんに言われた役割なのですか?」
 ミオレスカの問いかけにエクエスは渋面を作る。
「今の私は自らの意思で動いていますよ? 従っているのだって自分の意思だ。是非ともあのガキの絶望に沈む姿をみたい! できれば俺自身が手をかけてやりたい!」
 エクエスは酔ったように笑う。
「趣味悪いな……絶望って……」
「そうですよぉ? あなたはあのガキがアレの元で動き出した頃からご存じでしょう? 純粋に『あのお方のために』と言い張って、生き生きと行動されていた」
 エクエスに言われてレイオスは最初の苦い出会いを思い出す。プエルは絶望とは無縁そうだった。
「兄は? 本当に知らないの!」
「先ほども申し上げましたでしょう? プエルがニコラス・クリシスである証拠はないのです。あなたに似てはいますが、それだけですよ? 是非ともニコラスの最期の状況を知りたい」
 イノアに問われ、エクエスは正直に答えた。
「なんで知りたいんです?」
「演目のため! プエルがニコラスなら、落としがいがあるからだ!」
「落としがい?」
「ニコラスは虫どころか雑魔にも慈悲をかけそうなお優しい若君だったからな! 歪虚になって平気で人を殺していた! 記憶がないと言い張るが、実は忘れているふりをしているだけかもしれない。どれだけの矛盾を抱えているのか知ったとき、あのガキがどうするか! 面白いじゃないか!」
 エルバッハはプエルが兵士を殺し死体で遊んでいたのを見ている。エクエスの言うとおりならば、大きな落差だ。
「悪趣味だな。わからないだろうなんだろうが、お前は消えることに変わりはない」
 雷吼は符を握る。
「悪趣味? この楽しみがなければアレのそばにいませんよ! さて、ここまで話したんですし、私を解放してください」
「それで? 演目を進めるとどうなる? 街は?」
「結構死人出るでしょうね? せっかくなのでマテリアルもほしいですし。それに、領主のやり方に腹を立てる商人や研究者もいますからね」
「すでに、手配済み?」
 ザレムは眉をひそめた。領主にも会ったことがあるため気になる。
「……あなたもあの少年の歪虚も元人間ということなんですね」
「そうですよ? 幸いというか、ほぼ元の姿のまま歪虚になりましたけれど」
 ミオレスカは確認のために問うた。一度見たニコラスも描かれた絵を改めて思い出す。年頃が同じイノア、そして、プエル似ていると言えば似ている。
「元の姿に近いなら出入りが楽か……それにしても本当おまえたちレチタティーヴォに連なる奴らは暗躍が好きだな……」
 アルトは武器を構えた。
「やめてくださいよ! プエルの終幕のことを話をしたんですよ。特等席で見させてくださいよ!」
「今回は逃がさない」
 レイオスは武器を構え直す、全力で攻撃するために。
「嫌だっ! 何で俺ばっかり! あのガキのせいで、俺は殺された! アレを手引きしたのはあのガキだろう!」
「関係ありません! ……レチタティーヴォがいたのは魔法公害で対立する街の様子を観ていただけでしょう。そこに兄が現れた……混乱に沈むはずの領地の跡取り息子が来て話をした……余興だったのでしょう……」
「領地の危機なら、なぜガキは言わなかった」
「話を、誰も聞かなかったからです。私たちもお前も! 最期の日、兄は言いました『あの歪虚だけが僕の話を聞いてくれた』と。忙しいから後にしてくれと言う父や母、じゃれつくだけの私、お前は拒絶! 人の顔色を見る兄が話しかけることができない」
 イノアは叫び、涙を流している。
「……クリシスのお嬢……」
「そろそろ倒していいんじゃないでしょうか」
 近くにいる雷吼とエルバッハがそれぞれの術を紡ぎ始める。
「話をしても得るものはないからな」
 アルトが冷たく言い放つと技を放った。
 逃げようとするエクエスはそれに続くハンターたちの攻撃を食らう。
「畜生……あのガキのせいで……あの野郎のせいで!」
 エクエスは反撃もできず、怨嗟の叫びとともに塵と化して消えた。

●過去
「紅葉さん!」
 ミオレスカは道具を出して、紅葉の応急処置を行う。
 紅葉は座り込んで疲れた表情をし、ざっくりと切れた衣からは血が見える。
「ありがとうございます」
「何のんきに言っているんですか! あなたって人は! もっと田んぼで走り回って、疲れさせれば良かったです!」
 エトファリカでついこの間会ったから思わずきつい言葉となる。しかし、表情には安堵が浮かぶ。
「とはいえ……今回のことは初動が肝心だったんだから、ミオレスカの嬢ちゃん、大江のお嬢を責めないでおいてあげてくれ」
「いいえ、迷惑をおかけしたのは間違っていません。申し訳ありません……」
 紅葉の謝罪に、ミオレスカは首を横に振った。
「……私の家の問題です。こちらの方にもハンターの方々にも多大な迷惑をおかけして……申し訳ありません」
 イノアが深く頭を下げる。
「あなただって連れ去られて怖い思いをしたんだよ? いくら、顔見知りだったとはいえ、誘拐した奴が悪くあなたに落ち度はない」
 アルトはイノアに事実を告げる。
「そうだ。けがはないかい? もしあるなら、俺か……ミオが見るよ?」
 ザレムはイノアに尋ねる。年頃から生き別れの妹を思い出し、いっそう不安になる。
「いえ、ありません。皆様が助けてくださったおかげで……」
 イノアは口をつぐんだ。
「……魔法公害って何かあったんですか?」
「……できれば、ジョルジュのことはまだ口外しないでくださいませんか? 事情は話します」
 エルバッハはうなずく。
「五年前、我が領内で魔法公害が発生しました。解決しようとした父は、商人や研究者たちともめました。稼ぎたい、言いがかりだとか……他の領主の介入等を招く寸前でした」
「崩壊するな……それは」
 アルトはため息を漏らす。
「はい。父は奔走していました。そして、兄ですが……妹の私から見ても自慢でした。文武両道、かっこいい兄でした。歌が上手で、優しすぎる……そのせいで、自分の思いを口にできなかったのでしょうね」
 その内容は本人がいないためわからない。
「魔法公害から雑魔等の発生がひどくなり、魔法生物が暴れ、領主の館を襲いました。兄や母や兵士たちが死に、多くの人が怪我をしました。私は母にかばわれて軽傷で済みました。父の公表ではただの魔法生物の暴走です」
 イノアは話を一旦切り、大きく息を吐いた。
「その事件の前に兄はレチタティーヴォに会ったようなのです。屋敷の丘から景色を見るのが兄の楽しみだったようです。そこに、町の混乱を見るのを待っていたのか、レチタティーヴォが現れたのです。兄は歪虚だと気づいたのですが、話を聞いてくれたために一緒にいたそうです」
 何を話したか知らない上、死の前日と当日に会っていたという。
「レチタティーヴォは最後にこう言ったそうです『私兵を動かせないなら、ハンターを雇えば私を倒せるだろう』と」
 負けることもないという絶対的な自信か、混乱に拍車をかけるための情報か。
「もめているため、町に護衛なしで行けない兄は手紙を書くことでソサエティに依頼をしようとしました。私が部屋に入ってきて、手紙を見つけて……」
 後は大騒ぎとなった。領主が手を打って、事態を収拾しようとしたが収まりきれなかった。
「兄はレチタティーヴォに剣を向けて殺されたと父は言いました。でも……死体はありません」
 秘匿していた事実。
 隠しきれないために口にした事実。
 ハンターは黙る。情報の扱いを間違えれば、クリシスの家は消し飛ぶだろう。その領地に行ったことある人は知っている、そんな事件があったとは思わせないほど、民は穏やかにくらしているということを。
「プエルは倒すつもりだが……もしあんたの兄で元に戻せる方法ないのか?」
 レイオスは複雑な思いになった。殺された人も多くいる中、それは願ってはいけないことでもあろう。罪を背負って行けるならば、という問いもある。
 しかし、歪虚は死の先にあるモノ。無に帰るモノ。
「そんな方法あるんでしょうか? でももう一度兄と話せるなら謝罪したいのです」
「謝罪?」
「はい、兄に完璧な跡取り領主を目指すのではなく、ふわっとしている兄でもいいと……」
「……謝罪より、褒めるだな」
 ザレムは微笑む。
「……どっちにしろ、ボクたちの仕事は君を助けることだよ? 領地のことや過去を触れる必要ないから」
 アルトはイノアに優しく告げる。
「そうだな。いらぬ混乱をおこせば、それこそ歪虚の思うつぼだ……さっきからお嬢が静かだ……」
 雷吼は座り込んでいる紅葉を見た。血の気が引いた顔でボーとしている。
「早く寝かせてあげた方がいいかもしません! イノアさん、話してくださってありがとうございます。口は堅いですから!」
 ミオレスカが安心させるように笑顔を見せる。
「その方は……我が家で面倒見ます。私をかばってくださったのですから」
 イノアは紅葉の横にしゃがんだ。
「プエルはどこにいるのか? 父親と何かあるならそこにくるのか?」
「生前を覚えていないなら、難しいかもしれません。エクエスがどこまで道を整え、プエルがそこを歩くかでしょう」
「……おびき出すか、探すか……」
 レイオスはエルバッハの指摘にうなずき、いずれの方法も不確かだとため息を漏らした。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 撃退士
    百鬼 雷吼(ka5697
    鬼|24才|男性|符術師

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依頼相談掲示板
アイコン 救出作戦
ミオレスカ(ka3496
エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/04/19 20:54:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/19 15:22:10