ゲスト
(ka0000)
悪意満ちゆく者
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/19 19:00
- 完成日
- 2016/04/27 12:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
アイアンメイデンに座って足をばたばたさせるエリザベートは、で先程から文句ばかりを垂れ流している。
「ねー、ホントに来んの?」
「……ああ」
その側に立つ青黒い鎧に身を包んだ男――オウレルは、彼女のことなど我関せずじっと正面を見据えていた。
この小屋から”掃除屋”と呼ばれる存在が逃げ出してしばらく経つ。それがどこに行ったのか。残された負のマテリアルが東に向かったと聞き、直ぐに思い当たった。
カールスラーエ要塞だ。
そしてそれが要塞へ辿り着いたなら。間違いなくこの場所は特定され、部隊が派遣される。
どのようにして地中深く埋もれたか細い痕跡を追うのかは分からない。だが、オウレルの知っている彼らならそれを成し遂げると、そう確信していた。
根底にあるのは、忌まわしき記憶。
思い出す度に、どうしようもない苛立ちに襲われ、同時に酷い頭痛と胸の痛みに苛まれる。
楽しいと。面白いと。このままここで、何も考えずに過ごしていたいと。
かつてあの場所で、そんな愚劣極まりないことを考えてしまっていた過去の自分という存在。
そのものを。
全てすり潰し乗り越えるためにオウレルは、ただ待っていた。
「はぁ……もうあたし行くかんね?」
「好きにしたらいい」
「……マジ意味分かんね」
声を掛けられても、オウレルは目線すら向けない。
それに苛ついたのだろう。エリザベートは聞こえよがしに舌打ちを鳴らした。
何と言われようとも構わない。オウレルは消し去らなければならないのだ。自分が人間であったという、その証を。
そうしなければ、決して堂々と胸を張ることなど出来ないだろう。
――自分が、オルクス様に忠義を誓う者であると。全てをオルクス様に捧げた身であると。
そうだ、オルクス様。
オルクス様だ。
あの聡明で、高潔で――
聡明……? あの、嫌みたらしい口調の持ち主が?
高潔? 人の体を啜り喰らう、語るも憚る化け物が?
「……う、あああ」
頭の中にノイズが走る。
視界が歪んで極彩色がぎらぎらと舞う。
目が痛い頭が痛い喉が胸が胃が全身の筋肉が。全て張り裂けとばかりに悲鳴を上げる。
「ぐ、うう、僕……僕は……!」
脳がぐちゃぐちゃに掻き乱され、自分は誰なのか、ここはどこなのか、様々な疑問が脳裏に怒濤の如く浮かんでは消える。
「何、またぁ?」
そこに、声が飛び込んできた。
それを聞いた瞬間、咄嗟にオウレルは腰の剣を抜いていた。
「お前は……お前が……!」
視界の端に辛うじて捉えたその影に向け、オウレルは剣を投げつけていた。
力の入らない腕で、踏ん張ることも出来ずに投げた剣は、明後日の方角に飛んでいく。
「ホント、オルちゃんの魅了喰らってまだ頑張るとかさ、ちょっとしつこすぎない?」
「仲間……僕の、仲間は……グンター、ジーク、ヨゼフ……」
「いつの話してんの」
蹲るオウレルを見下すように、エリザベートが完璧な嘲笑を浮かべ言い放つ。
「んなもんとっくに死んでるっつーの」
「おま、えがあああっ!」
その瞬間、全ての力を注いでオウレルはエリザベートに飛びかかった。しかし少しも行かないうちに、足をもつれさせて地面を転がる。
「てかさ」
それをエリザベートは、動物園のパンダでも見るような目で眺めると、
「殺したんじゃん。あんたが、その手で」
何を当たり前なことをと告げた。
「命乞いするのを、なーんの躊躇もなくさぁ。あれはちょっと楽しかったなぁ、きゃはははっ!」
エリザベートは転がったオウレルの髪を鷲づかみにし、顔を引っ張り上げる。
「もうさ、あんたは戻れないの。いい加減諦めたら?」
エリザベートの瞳が赤く輝く。強制的に視線を合わされ、オウレルはその光を間近に浴びる。
「それにその発作みたいなの、だんだん間が開いてきてるよねぇ。抵抗する力が、無くなってきてんの」
光が侵食するように目から脳へと入り込み――そして、荒れた心が穏やかになっていくのを感じた。
オウレルが大人しくなったのを見てエリザベートはニヤリと笑い……しかしその笑みの中に、何か違う感情を覗かせて。
掴んだ頭を、思い切り蹴飛ばした。
「……痛いな」
「目ぇ覚めたでしょ」
オウレルがゆっくりと体を起こす。
そうだ、自分はこんなことをしている場合ではないのだ。示さなければいけない。
全ては、オルクス様のために。
●
「よっしゃ掘れ掘れぇっ!」
「おう!」
カールスラーエ要塞の直下に広がる大空間に、熱気と怒号が渦巻いていた。
スライム襲撃事件。これを受けて、その侵入経路の特定が、今まさに第二師団員の手によって行われているのだ。
痕跡は薄く、またその大半は地中に埋もれている。それを辿るのは簡単ではない。
ならばどうするか。
簡単だ。地中に埋もれ分かりづらいなら、地中ではなくしてしまえばいい。
「どうだ、何か臭うか!」
「何となくな! そのまま掘り進めてくれ!」
とにかく怪しい部分を掘り返し、そこに覚醒者が顔を突っ込んでマテリアルの残滓を探す。
大体の方角が分かれば十分だ。その方角の延長線上、そこを虱潰しに調べればいい。
「よーしお前らとにかく掘れぇっ! 敵は待っちゃくれねえぞ!」
「誰か新しいシャベル持って来てくれ! 力入れすぎてぶっ壊れちまった!」
「てめえ何本目だよ!」
ひたすら騒がしく、昼も夜も通して師団員は穴を掘っていく。そしてそれは数日にも及び――
「伝令! 要塞西数キロの地点に、怪しげな小屋を発見しました!」
「よっし、ハンター呼んでこい! 俺らだけじゃ怖え!」
「了解!」
やがてその場所を、何とか探し当てたのだった。
●
小屋に駆けつけたハンター、そして第二師団員を待っていたのは、青黒い鎧に身を包んだ一人の男だった。
師団員達の数人が、その姿を見て声を上げる。
「お、お前、オウレル……!」
生きていたのかとその目に涙を浮かべ。しかし次の瞬間、彼の雰囲気に違和感を覚える。
「……待ってたよ」
オウレルは、腰に下げた二本の剣を引き抜いた。
その目には、何の感情も浮かんでいない。まるで羽虫を叩くときのように。
「何だ、ヴァルターはいないのか」
ちらりと視線だけを動かして、オウレルが呟く。
「そ、そうだヴァルター! あいつが一番お前を心配してたんだ。待ってろ、いま呼んで……!」
「ああ、別にいいよ」
急いで魔導短伝話を取り出そうとした師団員は――しかしそれを取ることが出来なかった。
「お、オウレル……なんで」
血が吹き上がる。袈裟懸けに胴体を斬り裂かれ、目を見開いたまま師団員はどさりと倒れた。
剣に付いた血糊を払い、オウレルが片手を上げる。
「どちらにしろ、皆殺すんだから」
――周囲の茂みが一斉に音を鳴らし、手に手に剣を構えたゾンビの群れが飛び出してきた。
「ねー、ホントに来んの?」
「……ああ」
その側に立つ青黒い鎧に身を包んだ男――オウレルは、彼女のことなど我関せずじっと正面を見据えていた。
この小屋から”掃除屋”と呼ばれる存在が逃げ出してしばらく経つ。それがどこに行ったのか。残された負のマテリアルが東に向かったと聞き、直ぐに思い当たった。
カールスラーエ要塞だ。
そしてそれが要塞へ辿り着いたなら。間違いなくこの場所は特定され、部隊が派遣される。
どのようにして地中深く埋もれたか細い痕跡を追うのかは分からない。だが、オウレルの知っている彼らならそれを成し遂げると、そう確信していた。
根底にあるのは、忌まわしき記憶。
思い出す度に、どうしようもない苛立ちに襲われ、同時に酷い頭痛と胸の痛みに苛まれる。
楽しいと。面白いと。このままここで、何も考えずに過ごしていたいと。
かつてあの場所で、そんな愚劣極まりないことを考えてしまっていた過去の自分という存在。
そのものを。
全てすり潰し乗り越えるためにオウレルは、ただ待っていた。
「はぁ……もうあたし行くかんね?」
「好きにしたらいい」
「……マジ意味分かんね」
声を掛けられても、オウレルは目線すら向けない。
それに苛ついたのだろう。エリザベートは聞こえよがしに舌打ちを鳴らした。
何と言われようとも構わない。オウレルは消し去らなければならないのだ。自分が人間であったという、その証を。
そうしなければ、決して堂々と胸を張ることなど出来ないだろう。
――自分が、オルクス様に忠義を誓う者であると。全てをオルクス様に捧げた身であると。
そうだ、オルクス様。
オルクス様だ。
あの聡明で、高潔で――
聡明……? あの、嫌みたらしい口調の持ち主が?
高潔? 人の体を啜り喰らう、語るも憚る化け物が?
「……う、あああ」
頭の中にノイズが走る。
視界が歪んで極彩色がぎらぎらと舞う。
目が痛い頭が痛い喉が胸が胃が全身の筋肉が。全て張り裂けとばかりに悲鳴を上げる。
「ぐ、うう、僕……僕は……!」
脳がぐちゃぐちゃに掻き乱され、自分は誰なのか、ここはどこなのか、様々な疑問が脳裏に怒濤の如く浮かんでは消える。
「何、またぁ?」
そこに、声が飛び込んできた。
それを聞いた瞬間、咄嗟にオウレルは腰の剣を抜いていた。
「お前は……お前が……!」
視界の端に辛うじて捉えたその影に向け、オウレルは剣を投げつけていた。
力の入らない腕で、踏ん張ることも出来ずに投げた剣は、明後日の方角に飛んでいく。
「ホント、オルちゃんの魅了喰らってまだ頑張るとかさ、ちょっとしつこすぎない?」
「仲間……僕の、仲間は……グンター、ジーク、ヨゼフ……」
「いつの話してんの」
蹲るオウレルを見下すように、エリザベートが完璧な嘲笑を浮かべ言い放つ。
「んなもんとっくに死んでるっつーの」
「おま、えがあああっ!」
その瞬間、全ての力を注いでオウレルはエリザベートに飛びかかった。しかし少しも行かないうちに、足をもつれさせて地面を転がる。
「てかさ」
それをエリザベートは、動物園のパンダでも見るような目で眺めると、
「殺したんじゃん。あんたが、その手で」
何を当たり前なことをと告げた。
「命乞いするのを、なーんの躊躇もなくさぁ。あれはちょっと楽しかったなぁ、きゃはははっ!」
エリザベートは転がったオウレルの髪を鷲づかみにし、顔を引っ張り上げる。
「もうさ、あんたは戻れないの。いい加減諦めたら?」
エリザベートの瞳が赤く輝く。強制的に視線を合わされ、オウレルはその光を間近に浴びる。
「それにその発作みたいなの、だんだん間が開いてきてるよねぇ。抵抗する力が、無くなってきてんの」
光が侵食するように目から脳へと入り込み――そして、荒れた心が穏やかになっていくのを感じた。
オウレルが大人しくなったのを見てエリザベートはニヤリと笑い……しかしその笑みの中に、何か違う感情を覗かせて。
掴んだ頭を、思い切り蹴飛ばした。
「……痛いな」
「目ぇ覚めたでしょ」
オウレルがゆっくりと体を起こす。
そうだ、自分はこんなことをしている場合ではないのだ。示さなければいけない。
全ては、オルクス様のために。
●
「よっしゃ掘れ掘れぇっ!」
「おう!」
カールスラーエ要塞の直下に広がる大空間に、熱気と怒号が渦巻いていた。
スライム襲撃事件。これを受けて、その侵入経路の特定が、今まさに第二師団員の手によって行われているのだ。
痕跡は薄く、またその大半は地中に埋もれている。それを辿るのは簡単ではない。
ならばどうするか。
簡単だ。地中に埋もれ分かりづらいなら、地中ではなくしてしまえばいい。
「どうだ、何か臭うか!」
「何となくな! そのまま掘り進めてくれ!」
とにかく怪しい部分を掘り返し、そこに覚醒者が顔を突っ込んでマテリアルの残滓を探す。
大体の方角が分かれば十分だ。その方角の延長線上、そこを虱潰しに調べればいい。
「よーしお前らとにかく掘れぇっ! 敵は待っちゃくれねえぞ!」
「誰か新しいシャベル持って来てくれ! 力入れすぎてぶっ壊れちまった!」
「てめえ何本目だよ!」
ひたすら騒がしく、昼も夜も通して師団員は穴を掘っていく。そしてそれは数日にも及び――
「伝令! 要塞西数キロの地点に、怪しげな小屋を発見しました!」
「よっし、ハンター呼んでこい! 俺らだけじゃ怖え!」
「了解!」
やがてその場所を、何とか探し当てたのだった。
●
小屋に駆けつけたハンター、そして第二師団員を待っていたのは、青黒い鎧に身を包んだ一人の男だった。
師団員達の数人が、その姿を見て声を上げる。
「お、お前、オウレル……!」
生きていたのかとその目に涙を浮かべ。しかし次の瞬間、彼の雰囲気に違和感を覚える。
「……待ってたよ」
オウレルは、腰に下げた二本の剣を引き抜いた。
その目には、何の感情も浮かんでいない。まるで羽虫を叩くときのように。
「何だ、ヴァルターはいないのか」
ちらりと視線だけを動かして、オウレルが呟く。
「そ、そうだヴァルター! あいつが一番お前を心配してたんだ。待ってろ、いま呼んで……!」
「ああ、別にいいよ」
急いで魔導短伝話を取り出そうとした師団員は――しかしそれを取ることが出来なかった。
「お、オウレル……なんで」
血が吹き上がる。袈裟懸けに胴体を斬り裂かれ、目を見開いたまま師団員はどさりと倒れた。
剣に付いた血糊を払い、オウレルが片手を上げる。
「どちらにしろ、皆殺すんだから」
――周囲の茂みが一斉に音を鳴らし、手に手に剣を構えたゾンビの群れが飛び出してきた。
リプレイ本文
森の中にゾンビの呻き声が無数に響く。そして一様に剣を振り上げると、ハンター達と師団員に向けて斬りかかってきた。
「……なんだ、この数は」
瞬時に辺りに目を配り、敵の配置を確認したウィンス・デイランダール(ka0039)が小さく呟く。
左右に五体ずつと、背後に五体の計十五体。
ぎりと槍を掴む拳を鳴らし、ウィンスは大きく右側のゾンビ達の前に歩み出た。
構えは一見無防備にも見えるほどゆったりと、しかし裏腹に激流のようなマテリアルが体内を巡る。吐いた息は白く煙り、次の一撃に向けての力を溜めていく。
「師団員の皆さんは、背後の敵をお願いします。……この方は、まだ息があるようですね。治療します」
おうと応える野太い声を背に、フランシスカ(ka3590)はオウレルに斬られた師団員に駆け寄る。
傷は深いが、即死というわけではない。処置次第では、助かる見込みは十分あるだろう。
「ならその間、援護は任せな!」
フォークス(ka0570)がフランシスカの側に立ち、左側のゾンビに向けてマシンガンの引き金を引いた。無数の弾丸が、ゾンビ達の足元を穿って飛びかかろうとする動きを止める。
「これは久しぶりに、死者殺しの腕の見せ所か」
クスリと笑ってイレーヌ(ka1372)は、ウィンスの攻撃範囲に重ならないよう右側に移動する。その位置は、右は元より背後のゾンビもスキルに巻き込める場所だ。
厳かな鎮魂歌にマテリアルを込めて、イレーヌは旋律を紡ぐ。それを耳にしたゾンビはビクリと体を震わせて、何かに怯えるように突撃の勢いを弱めていった。
「オウレルさん……なの」
呟き、リリア・ノヴィドール(ka3056)は小屋の方へ向けて走りながら、マテリアルを込めて複数のチャクラムを投げ放った。
僅かな光を帯びる刃は自在に宙を舞い、周囲のゾンビへと襲いかかる。
「ん……爆発、しない……?」
リリアの後を追いながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509)はチャクラムがゾンビの体を裂くの見る。
そして同じくマテリアルを込めて手裏剣を放つ。無数の刃が木々の合間を縫うように、ゾンビへと突き刺さっていった。
「め、メイドさん……だとっ?」
ジルボ(ka1732)の視線の先、剣を構えたゾンビがこちらへ向けて襲いかかってくる。
しかし、その服装は――ひらひらとレースのはためくメイド服だ。
「まさか野郎、コレだけのメイドさんを……ぐぬぅ……できる!」
「ジルボさんが何言ってるのか、ちょっと分かんないね」
フォークスの威嚇射撃から逃れたゾンビを邪魔だと袈裟に斬りながら、玉兎 小夜(ka6009)が冷静に突っ込みを入れた。
長刀を翻し、すれ違い様にもう一撃。押し出すように力を込める。
「邪魔。あっち行ってろ!」
胸元を裂かれたゾンビは体勢を崩し、恨みがましい目で小夜を睨みながら地面を転がった。
ゾンビの相手は残った仲間に任せ、ジルボと小夜も小屋の方へと急ぐ。
●
「……簡単に連携などさせてはくれないか」
歌により動きを阻害されたゾンビに、オウレルが目をやった。
「オウレルさん……随分雰囲気、変わったの」
リリアが掛ける声に力はない。姿形こそ彼女の知っているものだったが、それだけだ。
「おにーさんらしく、ない……」
微かに震える声で、シェリルは呟く。向けられた殺意に対し刀を構えるものの、下がった腕が彼女の迷いを現している。
「お二人さん、あんま感情に流されないようにな。こいつは敵だぜ!」
近接として前に出るリリアとシェリルの背中に、ジルボは活を飛ばす。今は大人しくとも、どう動くか分かったものではないのだ。
まずは腕を潰す。
先制攻撃とばかりにジルボは冷気を弾丸に込め、引き金を引いた。
一直線に彼我の距離を貫いた弾丸はしかし、読まれていたかのようにオウレルが振り上げた剣の腹に阻まれていた。
「やはり、お前が一番厄介だな」
ぎろりと、冷たい目がジルボを睨む。
「へいへい、そっちの人はそんなに魅力的なのかな!?」
ジルボへ敵意が集中するのはまずい。前に出ながら、小夜は敢えて挑発的な言葉をオウレルに向けた。
しかしオウレルは取り合わず、マテリアルを込めた剣を上段に構える。
その目はジルボに向いていて、
「させないの!」
それを見たリリアは、咄嗟に苦無を投げつけていた。
オウレルは首を傾けそれを躱す。しかしそれにより、放たれた衝撃波はジルボの脇の地面を抉る。
「何の為に……あの時、一人で戦ったの?」
その隙を突いて、シェリルがオウレルの視界外に移動し刀を振るう。
言葉に対する返しはない。オウレルは体をずらして刀を躱し――それを追って放たれたシェリルの二の太刀を剣で受ける。
無数の斬撃が飛び交い、金属音と火花を散らした。
「嫌がらせは大好きなんだ」
合間を縫ってジルボの銃撃が、オウレルの剣を撃ち弾く。
リズムが崩れた。同時に、大きく踏み込んだ小夜が長刀の柄で殴る素振りをしたかと思うと、一気に二歩の距離を跳び退る。
「お前、兎の中で有罪確定!」
流れる様に離れた間合いから斬撃を繰り出す。狙いは鬱陶しい肩だったが、鎧の曲面に刃を滑らされてしまう。
オウレルは大きく剣を振って距離を取った。
「……強いね、流石に」
「人のこと言えないわよ。若者の人間離れなの」
小屋の前、オウレルと四人のハンターが斬り結ぶ。
拮抗した戦いは、ほんの少しのイレギュラーで崩れてしまいそうだった。
「もう少し、歌った方がよさそうかな」
しかし、イレーヌの歌声がそれを確実に防いでいる。ゾンビがこちらに向かっているおかげで、先程よりも多くを巻き込めた。
これで連携はそうそう出来ないだろう。
「この程度の戦力で殲滅可能だと、ナメられたって事だ」
そして苛つきを隠しもせず、ウィンスは掃き捨てる。手にした槍を後ろに回し、無防備を装った体勢からマテリアルを込めて、愚かにも彼の前に立ちふさがったゾンビの群れに全力で振り回した。
瞬間的に威力を底上げされた一撃は鮮烈に弧を描き、攻撃範囲に立ち入ったゾンビを悉く吹き飛ばす。
「――ああ、クソ腹立たしいにも程がある!」
「全くだネ!」
弾の減った銃を仕舞って両手にハンドガンを構えながら、フォークスは近寄ってきたゾンビから距離を取る。ゾンビの耐久力はかなりのもので、また銃の効きも余りよろしくないらしい。
「Hey フランシスカ! そっちはどんな感じだい?」
一発で駄目なら二発撃ち込めばいい。フォークスは左右交互に引き金を引いていく。
「ええ、丁度済みました。ですが……」
止血は行ったが、息が浅く脈も弱い。
フランシスカは師団員を出来る限り安全な場所に動かし、振り返る。そして二本の斧を手に、近くのゾンビに斬りかかった。
「早く医者に運ばなければ危ないですね。早急に終わらせましょう」
この場に漂う感覚に、フランシスカは胸が悪くなる。
振り下ろされる剣を斧で受け止め、もう片方で脇腹を抉る。
剣に掛かる力が弱まった。そのまま押し返し両手の自由を得ると、肩口から胸に掛けて容赦なく刃を叩き込む。
「よし、それじゃあさっさと殲滅しちまおうか!」
タクティカルリロードで残弾を回復させ、フォークスの弾幕がゾンビの動きを縫い止める。そこにフランシスカが斬りかかりゾンビに大きなダメージを与えると、
「死人は死人らしくネ!」
一瞬の隙を狙って、ゾンビの眼球から後頭部へ弾丸が通り抜けた。
●
苦無を構えたまま、リリアが敢えてオウレルの懐に潜り込む。
完全に剣の間合い。二刀の連撃がリリアを襲うが、咄嗟にオウレルの体を蹴ることで跳び上がりそれを回避する。
「エリザベートと、オルクスに……何か、された?」
そこに斬り込みながらも、シェリルは問いかけることをやめない。
しかし言葉の代わりに返ってくるのは、強烈なカウンターの一撃だ。
その威力は、警戒していても容易く躱せるものではない。
ジルボの銃撃が、幾度目か剣の腹を叩く。振り下ろされた剣の軌道が歪み、空を切る。次いで放たれた冷気の弾丸が、隙を突いて右足を凍結させた。
「ねえねえ、友達だったのに何で斬ったの?」
確実な空隙。確信と共に小夜の刀が翻る。
だがそれすら、読んでいたかのように防がれる。逆に強く刀を弾かれて体勢を崩し、凍結を無理に解いたオウレルの蹴りをまともに受けてしまう。
弛緩させた筋肉が衝撃を受け流そうとするも、許容量を超えて内臓が悲鳴を上げた。
一進一退の攻防。だが、数の利は確実に有利に働いていた。
オウレルは少しずつ、ダメージを蓄積させていく。
「威力が、足りないの……!」
だが、このまま行けば、下手をするとハンター達の消耗が先に限界を向かえてしまう。
リリアのチャクラムが、軌道を自在に変えてオウレルに殺到する。それは前衛であるシェリルと小夜の裏から、オウレルの死角を通っての攻撃だ。
一つは剣の柄に叩き落とされ、一つは籠手の表面で流される。
だが一つは、オウレルの脇腹を裂いた。
「……っ、小賢しいな」
その言葉に、シェリルは目を伏せる。
「やっぱり……心が、違う」
そして、飛び退いたオウレルに向けて手裏剣を投げつけた。六つの刃による全方位攻撃。オウレルは対応に遅れ、全てを落とすことができなかった。
「おいおい、逃げられると思うなよ!」
僅かな後退の予兆を、ジルボの銃撃が潰す
直線的に過ぎる通常射撃は躱されても、動きを制限する広範囲射撃ならば関係ない。
「脳震盪になれぇっ!」
相手を活かす不殺の剣。そして小夜がオウレルの顎先に向けて振り上げた剣は、狙い通りの場所に吸い込まれていった。
「ウィンス、避けてくれ」
言うが早いかイレーヌがパチンと指を鳴らす。同時に見えない衝撃が、辺りに迸った。
彼らを囲んでいたゾンビは、まともにその衝撃に体を打たれてもんどりを打つ。それを眺めてイレーヌは、満足げな笑みを浮かべた。
しかし、それでもゾンビは起き上がる。体中に傷を負い、ふらふらと不自然に揺れながら剣を振りかぶる。
「だったら、倒れるまで斬るまでだ」
ウィンスに向けて三つの剣が次々に、振り下ろされ、払われ、突きを放つ。だがそれらを悉く槍の柄で弾き、ウィンスはその内の一体に突きを叩き込んだ。
左右にフェイントを交えての、強烈な一突き。技術に劣るゾンビがそれに対応出来るはずも無く、腹部に大穴を空けて倒れ込む。
「殲滅されるのは、テメエらの方だ」
そこに再び刃が飛んだ。
躱す動きを封じるのは、イレーヌの歌声。今度こそ容易く首を飛ばされて、ゾンビは動きを止めていた。
「ちっ、ホントにこの程度かよ。ナメやがって!」
「この分なら、早めに終わりそうだ」
残るは二体。師団員達は少し苦労しているようだが、援護に行くまで持ちこたえてくれそうだ。
そして左側のゾンビの数も、かなり少なくなってきている。
歪虚は殺す。その信念の元に振り下ろされるフランシスカの斧が、ゾンビの剣を叩き折っていた。
フランシスカが跳び退る。その瞬間に、いくつもの弾丸がゾンビの胴体に穴を空け、汚れた血を飛び散らせた。
剣を失い、ゾンビは防御もままならない。そのまま唸り声を断末魔に変え、倒れ伏す。最後にフランシスカの斧が、その首を斬り飛ばした。
「回復します」
「ああ、頼むヨ」
フランシスカを中心に、淡い光が舞い散っていく。二人に蓄積したダメージが、ゆっくりと癒えていった。
本当ならば他の仲間の回復も行いたいが、少し距離が開いてしまった上にここを離れるとオウレルとゾンビが合流してしまう。拘ることはせず、出来る限りの回復を行う事にしていた。
「もうちょっとだ、気張って行くヨ!」
不意に近づいてきたゾンビに蹴りを叩き込み距離を取って、フォークスは引き抜いた拳銃の引き金を引く。
「手伝います」
ゾンビの後ろから、フランシスカが斬りつける。
大きくダメージを受けたゾンビにトドメの一撃を二人で加え、また別の個体へと向かった。
最早ゾンビの殲滅は、時間の問題だった。
●
オウレルは息も荒く小屋の壁に寄りかかる。
「……やはり、このままじゃ」
そして、小さく何かを呟いた。
「格上だろうけど、効いたでしょ!」
「シェリルさん!」
「……うん!」
リリアとシェリルがタイミングを合わせ、オウレルに飛びかかった。
二人の手が、オウレルに触れる。その瞬間、二人は想いを乗せてマテリアルを思い切り流し込んだ。
「何を……!」
「オウレルさん……あたし達の事、わかる?」
「貴方の道は……そっちじゃない、負けないで……!」
逃れようとオウレルが藻掻く。だが、二人は強くしがみつき離れない。特にシェリルは首元に手を回し、いつかと同じようにその体を抱きしめる。
「む、始まっていたか。意味があるか分からないが、私も手伝おう」
既にゾンビは殲滅された。駆けつけたイレーヌも、オウレルの手を掴む。
「既にあんたの作戦は失敗だ。諦めろ」
「おい、何かすげえ羨ましい感じになってないか。メイドハーレムに飽き足らず!」
オウレルの中に暖かいものが流れ込む。だが、今の彼には、それは酷く忌々しいものだった。
「やめろ!」
「Hey dick face! 無駄な抵抗はやめな」
暴れようとするオウレルを、フォークスの銃撃が制する。
「だめ押しです」
フランシスカはレジストの光を、オウレルに向けて発動する。
「我が友に星の祝福を。我が子らに天の恵愛を」
そして紡ぐのは、祈りを込めた安念と救済。罪を赦す、願いの形。
だが。
「――僕はもう、戻る気は無い」
オルクスの力を軸として、エリザベートが補強していった魅了の力。それは、想像を超えて強力なものだった。
マテリアルが跳ね返される。想いは空回りし、何も届かない。
「ちっ、捕縛を――!」
ジルボがロープを手に、駆け寄ろうとしたときだ。
オウレルはまだ動く片手を動かし、剣を振るっていた。それはハンター達ではなく、背後の小屋の壁を貫いていて。
大きな爆発と共に小屋が内側から吹き飛び、紫の霧が辺りに充満した。
毒性のある霧だ。近くで吸い込んだ数名が、目眩を起こす。
「Don't fucking move!」
咄嗟にフォークスが銃を構えるが、オウレルの側には味方がいる。引き金を引く指が、僅かな躊躇に一瞬止まる。
その間に、リリアとイレーヌが振り解かれ、弾き飛ばされていた。
だが唯一、確りと両腕で抱きついていたシェリルだけは一息に離す事ができず、
「離して、やらない……!」
「そうか」
――シェリルの脇腹を、強い力が貫いた。
●
二人の重傷者を出したこの件は、スライムの発生源を特定、焼却したことで解決を迎えた。
そして第二師団は正式にオウレルを敵性存在に認定。これにより、彼の捜索は全て打ち切られることとなった。
「……なんだ、この数は」
瞬時に辺りに目を配り、敵の配置を確認したウィンス・デイランダール(ka0039)が小さく呟く。
左右に五体ずつと、背後に五体の計十五体。
ぎりと槍を掴む拳を鳴らし、ウィンスは大きく右側のゾンビ達の前に歩み出た。
構えは一見無防備にも見えるほどゆったりと、しかし裏腹に激流のようなマテリアルが体内を巡る。吐いた息は白く煙り、次の一撃に向けての力を溜めていく。
「師団員の皆さんは、背後の敵をお願いします。……この方は、まだ息があるようですね。治療します」
おうと応える野太い声を背に、フランシスカ(ka3590)はオウレルに斬られた師団員に駆け寄る。
傷は深いが、即死というわけではない。処置次第では、助かる見込みは十分あるだろう。
「ならその間、援護は任せな!」
フォークス(ka0570)がフランシスカの側に立ち、左側のゾンビに向けてマシンガンの引き金を引いた。無数の弾丸が、ゾンビ達の足元を穿って飛びかかろうとする動きを止める。
「これは久しぶりに、死者殺しの腕の見せ所か」
クスリと笑ってイレーヌ(ka1372)は、ウィンスの攻撃範囲に重ならないよう右側に移動する。その位置は、右は元より背後のゾンビもスキルに巻き込める場所だ。
厳かな鎮魂歌にマテリアルを込めて、イレーヌは旋律を紡ぐ。それを耳にしたゾンビはビクリと体を震わせて、何かに怯えるように突撃の勢いを弱めていった。
「オウレルさん……なの」
呟き、リリア・ノヴィドール(ka3056)は小屋の方へ向けて走りながら、マテリアルを込めて複数のチャクラムを投げ放った。
僅かな光を帯びる刃は自在に宙を舞い、周囲のゾンビへと襲いかかる。
「ん……爆発、しない……?」
リリアの後を追いながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509)はチャクラムがゾンビの体を裂くの見る。
そして同じくマテリアルを込めて手裏剣を放つ。無数の刃が木々の合間を縫うように、ゾンビへと突き刺さっていった。
「め、メイドさん……だとっ?」
ジルボ(ka1732)の視線の先、剣を構えたゾンビがこちらへ向けて襲いかかってくる。
しかし、その服装は――ひらひらとレースのはためくメイド服だ。
「まさか野郎、コレだけのメイドさんを……ぐぬぅ……できる!」
「ジルボさんが何言ってるのか、ちょっと分かんないね」
フォークスの威嚇射撃から逃れたゾンビを邪魔だと袈裟に斬りながら、玉兎 小夜(ka6009)が冷静に突っ込みを入れた。
長刀を翻し、すれ違い様にもう一撃。押し出すように力を込める。
「邪魔。あっち行ってろ!」
胸元を裂かれたゾンビは体勢を崩し、恨みがましい目で小夜を睨みながら地面を転がった。
ゾンビの相手は残った仲間に任せ、ジルボと小夜も小屋の方へと急ぐ。
●
「……簡単に連携などさせてはくれないか」
歌により動きを阻害されたゾンビに、オウレルが目をやった。
「オウレルさん……随分雰囲気、変わったの」
リリアが掛ける声に力はない。姿形こそ彼女の知っているものだったが、それだけだ。
「おにーさんらしく、ない……」
微かに震える声で、シェリルは呟く。向けられた殺意に対し刀を構えるものの、下がった腕が彼女の迷いを現している。
「お二人さん、あんま感情に流されないようにな。こいつは敵だぜ!」
近接として前に出るリリアとシェリルの背中に、ジルボは活を飛ばす。今は大人しくとも、どう動くか分かったものではないのだ。
まずは腕を潰す。
先制攻撃とばかりにジルボは冷気を弾丸に込め、引き金を引いた。
一直線に彼我の距離を貫いた弾丸はしかし、読まれていたかのようにオウレルが振り上げた剣の腹に阻まれていた。
「やはり、お前が一番厄介だな」
ぎろりと、冷たい目がジルボを睨む。
「へいへい、そっちの人はそんなに魅力的なのかな!?」
ジルボへ敵意が集中するのはまずい。前に出ながら、小夜は敢えて挑発的な言葉をオウレルに向けた。
しかしオウレルは取り合わず、マテリアルを込めた剣を上段に構える。
その目はジルボに向いていて、
「させないの!」
それを見たリリアは、咄嗟に苦無を投げつけていた。
オウレルは首を傾けそれを躱す。しかしそれにより、放たれた衝撃波はジルボの脇の地面を抉る。
「何の為に……あの時、一人で戦ったの?」
その隙を突いて、シェリルがオウレルの視界外に移動し刀を振るう。
言葉に対する返しはない。オウレルは体をずらして刀を躱し――それを追って放たれたシェリルの二の太刀を剣で受ける。
無数の斬撃が飛び交い、金属音と火花を散らした。
「嫌がらせは大好きなんだ」
合間を縫ってジルボの銃撃が、オウレルの剣を撃ち弾く。
リズムが崩れた。同時に、大きく踏み込んだ小夜が長刀の柄で殴る素振りをしたかと思うと、一気に二歩の距離を跳び退る。
「お前、兎の中で有罪確定!」
流れる様に離れた間合いから斬撃を繰り出す。狙いは鬱陶しい肩だったが、鎧の曲面に刃を滑らされてしまう。
オウレルは大きく剣を振って距離を取った。
「……強いね、流石に」
「人のこと言えないわよ。若者の人間離れなの」
小屋の前、オウレルと四人のハンターが斬り結ぶ。
拮抗した戦いは、ほんの少しのイレギュラーで崩れてしまいそうだった。
「もう少し、歌った方がよさそうかな」
しかし、イレーヌの歌声がそれを確実に防いでいる。ゾンビがこちらに向かっているおかげで、先程よりも多くを巻き込めた。
これで連携はそうそう出来ないだろう。
「この程度の戦力で殲滅可能だと、ナメられたって事だ」
そして苛つきを隠しもせず、ウィンスは掃き捨てる。手にした槍を後ろに回し、無防備を装った体勢からマテリアルを込めて、愚かにも彼の前に立ちふさがったゾンビの群れに全力で振り回した。
瞬間的に威力を底上げされた一撃は鮮烈に弧を描き、攻撃範囲に立ち入ったゾンビを悉く吹き飛ばす。
「――ああ、クソ腹立たしいにも程がある!」
「全くだネ!」
弾の減った銃を仕舞って両手にハンドガンを構えながら、フォークスは近寄ってきたゾンビから距離を取る。ゾンビの耐久力はかなりのもので、また銃の効きも余りよろしくないらしい。
「Hey フランシスカ! そっちはどんな感じだい?」
一発で駄目なら二発撃ち込めばいい。フォークスは左右交互に引き金を引いていく。
「ええ、丁度済みました。ですが……」
止血は行ったが、息が浅く脈も弱い。
フランシスカは師団員を出来る限り安全な場所に動かし、振り返る。そして二本の斧を手に、近くのゾンビに斬りかかった。
「早く医者に運ばなければ危ないですね。早急に終わらせましょう」
この場に漂う感覚に、フランシスカは胸が悪くなる。
振り下ろされる剣を斧で受け止め、もう片方で脇腹を抉る。
剣に掛かる力が弱まった。そのまま押し返し両手の自由を得ると、肩口から胸に掛けて容赦なく刃を叩き込む。
「よし、それじゃあさっさと殲滅しちまおうか!」
タクティカルリロードで残弾を回復させ、フォークスの弾幕がゾンビの動きを縫い止める。そこにフランシスカが斬りかかりゾンビに大きなダメージを与えると、
「死人は死人らしくネ!」
一瞬の隙を狙って、ゾンビの眼球から後頭部へ弾丸が通り抜けた。
●
苦無を構えたまま、リリアが敢えてオウレルの懐に潜り込む。
完全に剣の間合い。二刀の連撃がリリアを襲うが、咄嗟にオウレルの体を蹴ることで跳び上がりそれを回避する。
「エリザベートと、オルクスに……何か、された?」
そこに斬り込みながらも、シェリルは問いかけることをやめない。
しかし言葉の代わりに返ってくるのは、強烈なカウンターの一撃だ。
その威力は、警戒していても容易く躱せるものではない。
ジルボの銃撃が、幾度目か剣の腹を叩く。振り下ろされた剣の軌道が歪み、空を切る。次いで放たれた冷気の弾丸が、隙を突いて右足を凍結させた。
「ねえねえ、友達だったのに何で斬ったの?」
確実な空隙。確信と共に小夜の刀が翻る。
だがそれすら、読んでいたかのように防がれる。逆に強く刀を弾かれて体勢を崩し、凍結を無理に解いたオウレルの蹴りをまともに受けてしまう。
弛緩させた筋肉が衝撃を受け流そうとするも、許容量を超えて内臓が悲鳴を上げた。
一進一退の攻防。だが、数の利は確実に有利に働いていた。
オウレルは少しずつ、ダメージを蓄積させていく。
「威力が、足りないの……!」
だが、このまま行けば、下手をするとハンター達の消耗が先に限界を向かえてしまう。
リリアのチャクラムが、軌道を自在に変えてオウレルに殺到する。それは前衛であるシェリルと小夜の裏から、オウレルの死角を通っての攻撃だ。
一つは剣の柄に叩き落とされ、一つは籠手の表面で流される。
だが一つは、オウレルの脇腹を裂いた。
「……っ、小賢しいな」
その言葉に、シェリルは目を伏せる。
「やっぱり……心が、違う」
そして、飛び退いたオウレルに向けて手裏剣を投げつけた。六つの刃による全方位攻撃。オウレルは対応に遅れ、全てを落とすことができなかった。
「おいおい、逃げられると思うなよ!」
僅かな後退の予兆を、ジルボの銃撃が潰す
直線的に過ぎる通常射撃は躱されても、動きを制限する広範囲射撃ならば関係ない。
「脳震盪になれぇっ!」
相手を活かす不殺の剣。そして小夜がオウレルの顎先に向けて振り上げた剣は、狙い通りの場所に吸い込まれていった。
「ウィンス、避けてくれ」
言うが早いかイレーヌがパチンと指を鳴らす。同時に見えない衝撃が、辺りに迸った。
彼らを囲んでいたゾンビは、まともにその衝撃に体を打たれてもんどりを打つ。それを眺めてイレーヌは、満足げな笑みを浮かべた。
しかし、それでもゾンビは起き上がる。体中に傷を負い、ふらふらと不自然に揺れながら剣を振りかぶる。
「だったら、倒れるまで斬るまでだ」
ウィンスに向けて三つの剣が次々に、振り下ろされ、払われ、突きを放つ。だがそれらを悉く槍の柄で弾き、ウィンスはその内の一体に突きを叩き込んだ。
左右にフェイントを交えての、強烈な一突き。技術に劣るゾンビがそれに対応出来るはずも無く、腹部に大穴を空けて倒れ込む。
「殲滅されるのは、テメエらの方だ」
そこに再び刃が飛んだ。
躱す動きを封じるのは、イレーヌの歌声。今度こそ容易く首を飛ばされて、ゾンビは動きを止めていた。
「ちっ、ホントにこの程度かよ。ナメやがって!」
「この分なら、早めに終わりそうだ」
残るは二体。師団員達は少し苦労しているようだが、援護に行くまで持ちこたえてくれそうだ。
そして左側のゾンビの数も、かなり少なくなってきている。
歪虚は殺す。その信念の元に振り下ろされるフランシスカの斧が、ゾンビの剣を叩き折っていた。
フランシスカが跳び退る。その瞬間に、いくつもの弾丸がゾンビの胴体に穴を空け、汚れた血を飛び散らせた。
剣を失い、ゾンビは防御もままならない。そのまま唸り声を断末魔に変え、倒れ伏す。最後にフランシスカの斧が、その首を斬り飛ばした。
「回復します」
「ああ、頼むヨ」
フランシスカを中心に、淡い光が舞い散っていく。二人に蓄積したダメージが、ゆっくりと癒えていった。
本当ならば他の仲間の回復も行いたいが、少し距離が開いてしまった上にここを離れるとオウレルとゾンビが合流してしまう。拘ることはせず、出来る限りの回復を行う事にしていた。
「もうちょっとだ、気張って行くヨ!」
不意に近づいてきたゾンビに蹴りを叩き込み距離を取って、フォークスは引き抜いた拳銃の引き金を引く。
「手伝います」
ゾンビの後ろから、フランシスカが斬りつける。
大きくダメージを受けたゾンビにトドメの一撃を二人で加え、また別の個体へと向かった。
最早ゾンビの殲滅は、時間の問題だった。
●
オウレルは息も荒く小屋の壁に寄りかかる。
「……やはり、このままじゃ」
そして、小さく何かを呟いた。
「格上だろうけど、効いたでしょ!」
「シェリルさん!」
「……うん!」
リリアとシェリルがタイミングを合わせ、オウレルに飛びかかった。
二人の手が、オウレルに触れる。その瞬間、二人は想いを乗せてマテリアルを思い切り流し込んだ。
「何を……!」
「オウレルさん……あたし達の事、わかる?」
「貴方の道は……そっちじゃない、負けないで……!」
逃れようとオウレルが藻掻く。だが、二人は強くしがみつき離れない。特にシェリルは首元に手を回し、いつかと同じようにその体を抱きしめる。
「む、始まっていたか。意味があるか分からないが、私も手伝おう」
既にゾンビは殲滅された。駆けつけたイレーヌも、オウレルの手を掴む。
「既にあんたの作戦は失敗だ。諦めろ」
「おい、何かすげえ羨ましい感じになってないか。メイドハーレムに飽き足らず!」
オウレルの中に暖かいものが流れ込む。だが、今の彼には、それは酷く忌々しいものだった。
「やめろ!」
「Hey dick face! 無駄な抵抗はやめな」
暴れようとするオウレルを、フォークスの銃撃が制する。
「だめ押しです」
フランシスカはレジストの光を、オウレルに向けて発動する。
「我が友に星の祝福を。我が子らに天の恵愛を」
そして紡ぐのは、祈りを込めた安念と救済。罪を赦す、願いの形。
だが。
「――僕はもう、戻る気は無い」
オルクスの力を軸として、エリザベートが補強していった魅了の力。それは、想像を超えて強力なものだった。
マテリアルが跳ね返される。想いは空回りし、何も届かない。
「ちっ、捕縛を――!」
ジルボがロープを手に、駆け寄ろうとしたときだ。
オウレルはまだ動く片手を動かし、剣を振るっていた。それはハンター達ではなく、背後の小屋の壁を貫いていて。
大きな爆発と共に小屋が内側から吹き飛び、紫の霧が辺りに充満した。
毒性のある霧だ。近くで吸い込んだ数名が、目眩を起こす。
「Don't fucking move!」
咄嗟にフォークスが銃を構えるが、オウレルの側には味方がいる。引き金を引く指が、僅かな躊躇に一瞬止まる。
その間に、リリアとイレーヌが振り解かれ、弾き飛ばされていた。
だが唯一、確りと両腕で抱きついていたシェリルだけは一息に離す事ができず、
「離して、やらない……!」
「そうか」
――シェリルの脇腹を、強い力が貫いた。
●
二人の重傷者を出したこの件は、スライムの発生源を特定、焼却したことで解決を迎えた。
そして第二師団は正式にオウレルを敵性存在に認定。これにより、彼の捜索は全て打ち切られることとなった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 9人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
- 約束を重ねて
シェリル・マイヤーズ(ka0509)
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/15 20:12:31 |
|
![]() |
作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/04/19 07:08:45 |