ゲスト
(ka0000)
盗賊雑魔を退治せよ!
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/04/22 19:00
- 完成日
- 2016/05/04 20:34
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●貴族達の間に広がる暗雲
その日、ウィクトーリア家の屋敷内は暗い空気に包まれていた。
大広間にはルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)がソファー椅子に座りながら、ウィクトーリア家専属のメッセンジャーが持ってきた手紙を慎重に読んでいる。
その姿をフェイト・アルテミス(kz0134)ら使用人達は立ちながら、残念天才博士と名高いハデスはルサリィの向かいのソファー椅子に座りながら見つめていた。
「……とりあえず、お父様とお母様がご無事であることは分かったわ」
ルサリィの一言で、使用人達はほっと安堵のため息を吐く。
しかしフェイトとハデスは、相変わらず難しい表情を浮かべたまま。
「けれどやっぱり、ハデス博士の推測通りでもあるみたいよ」
その言葉で、再び室内に緊張感が走る。
ルサリィは両親から送られてきた手紙を、フェイトへ渡す。
「わたしの推測が当たったことは喜ばしいことだが、事態は最悪だな」
ハデスは唸りながら、腕を組む。
実はここ一ヶ月以内で、グラズヘイム王国ではとある事件が続けて起きていた――。
事件のはじまりは、グラズヘイム王国内にたびたび出没する盗賊団の事件だった。
一般人が滅多に足を踏み入れることのないリンダールの森を拠点として、騎士が駐屯している村近くでは行動を起こさず、なかなか捕まえることができなかった。
ヤツらが狙うのは地方から王都・イルダーナへ運ばれる物で、中には王家や貴族への献上品まで含まれている。
そこで騎士団が動いた。
【とある貴族が所有しているリンダールの森の近くにある鉱山で、巨大なダイヤモンドが発掘された。王女への献上品として、王都へ運ばれることになった】
と、嘘の情報を流したのだ。
そして情報通りの日時に荷馬車が森の中を走っていると、予想通り馬に乗った盗賊団が襲ってくる。
前もって待ち構えていた騎士達は隠れていた荷台の中から出て、ヤツらを捕らえようとしたのだが……。
盗賊団は慌てて森の奥へ逃げ込んだ。
――そこで不幸な事故が起きてしまった。
盗賊団は騎士達の静止の声を聞かずに逃げているうちに馬の脚では通れない場所へ来てしまい、仕方なく馬を捨てて自分の足で走って行く。
そして突然、強い雨が降り出した。
人間が滅多に足を踏み入れない自然の山はすぐにぬかるみ、盗賊団の足を奪ったのだ。
よりにもよって中腹の崖の部分で、盗賊団は次々と足を滑らせる。それまで勢いよく走ってきたせいで、上手く立ち止まれなかったのだろう。
そして盗賊団は全員、崖の下へ落ちていった……。
「騎士達は悪天候の山に居続けることは危険と判断してすぐに山を下りて、盗賊団が残した馬を引き連れて近くの村の駐屯に行ったみたいよ」
ルサリィはすっかり冷めてしまったミックスベリーティーを飲んで、重いため息を吐く。
「……ですが盗賊団は人間として絶命した後に、雑魔として復活してしまったのですね」
手紙を読み終えたフェイトは、顔色を悪くする。
ハデスはメガネを外して、痛むこめかみを指で押す。
「最悪の結末だ。結果的に王国や貴族に恨みを持ったまま死んだ盗賊団は、雑魔になってしまった。そのせいでグラズヘイム王国の関係者達が、次々と襲われているんだからな」
リンダールの森近くにいる貴族や騎士達が次々と襲われる事件が起こり、たまたま貴族同士のパーティーに参加していたハデスの両親と、ルサリィの両親まで巻き込まれてしまった。
事件のことはハデスが先に知り、ルサリィに連絡をしたのだ。
ルサリィはすぐさまメッセンジャーを現地へ送ったところ、父のマルセドと母のミナーヴァから手紙を渡された。
パーティーに参加していた貴族達の中にはハンターや覚醒者を護衛として雇っていた者がいたおかげで、軽傷で済んだらしい。
「ハデス博士のご両親も無事だそうだけど……、お父様は襲われそうになったお母様を庇った為に腕を骨折なされたとか……」
「そのぐらいで済んだのなら、まだ良いと言える。中には重傷者まで出たらしいからな」
死人こそ出てはいないものの、貴族達は戦々恐々としている。
ハデスは事件の詳細を知り、上記の推測を立てた。そして新たな情報を得て、一つの仮説を立てる。
「雑魔が襲う者達は、主に貴族ばかりだ。生前、追い詰められたという逆恨みからの復讐だろうな」
雑魔はより多くの貴族が集まる場所に、出没していた。
しかも厄介なことに元は盗賊団なだけあり、他者の生命力を吸い取って回復してしまう。そのせいで、なかなか退治することができないのだ。
「両親からの手紙には、わたしに『改めてハンターズソサエティに依頼するように』と書かれていたわ。そして『堕落者を倒す為に、協力しろ』とも」
「協力って……まさかエサ役として貴族を集めるつもりか? いくら優秀なハンターが複数いても、我が身が一番可愛いと思っている貴族連中には無理があるように思えるが……」
「……ハデス博士、もうちょっと言い方柔らかくしなさいよ。囮役については、ちょっと考えがあるのよ。リンダールの森近くにある別荘を、退治場所として提供しようと思っているわ」
ハデスはルサリィの作戦を聞くと、再び唸りながら腕を組む。
「――まあ確かに、決行した方が良い作戦だ。それでヤツらを釣られるのならば、一気に解決となるからな」
「ええ。だからあなた達も、覚悟を決めてね」
ルサリィはフェイトを含む使用人達へ、厳しい眼差しを向ける。
「分かっております。ルサリィお嬢様の身にも降りかかるかもしれない災いを摘む為ならば、この身をいくらでもご利用してくださいませ」
フェイトを筆頭に、ウィクトーリア家の使用人達は真剣な面持ちで深く頭を下げた――。
その日、ウィクトーリア家の屋敷内は暗い空気に包まれていた。
大広間にはルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)がソファー椅子に座りながら、ウィクトーリア家専属のメッセンジャーが持ってきた手紙を慎重に読んでいる。
その姿をフェイト・アルテミス(kz0134)ら使用人達は立ちながら、残念天才博士と名高いハデスはルサリィの向かいのソファー椅子に座りながら見つめていた。
「……とりあえず、お父様とお母様がご無事であることは分かったわ」
ルサリィの一言で、使用人達はほっと安堵のため息を吐く。
しかしフェイトとハデスは、相変わらず難しい表情を浮かべたまま。
「けれどやっぱり、ハデス博士の推測通りでもあるみたいよ」
その言葉で、再び室内に緊張感が走る。
ルサリィは両親から送られてきた手紙を、フェイトへ渡す。
「わたしの推測が当たったことは喜ばしいことだが、事態は最悪だな」
ハデスは唸りながら、腕を組む。
実はここ一ヶ月以内で、グラズヘイム王国ではとある事件が続けて起きていた――。
事件のはじまりは、グラズヘイム王国内にたびたび出没する盗賊団の事件だった。
一般人が滅多に足を踏み入れることのないリンダールの森を拠点として、騎士が駐屯している村近くでは行動を起こさず、なかなか捕まえることができなかった。
ヤツらが狙うのは地方から王都・イルダーナへ運ばれる物で、中には王家や貴族への献上品まで含まれている。
そこで騎士団が動いた。
【とある貴族が所有しているリンダールの森の近くにある鉱山で、巨大なダイヤモンドが発掘された。王女への献上品として、王都へ運ばれることになった】
と、嘘の情報を流したのだ。
そして情報通りの日時に荷馬車が森の中を走っていると、予想通り馬に乗った盗賊団が襲ってくる。
前もって待ち構えていた騎士達は隠れていた荷台の中から出て、ヤツらを捕らえようとしたのだが……。
盗賊団は慌てて森の奥へ逃げ込んだ。
――そこで不幸な事故が起きてしまった。
盗賊団は騎士達の静止の声を聞かずに逃げているうちに馬の脚では通れない場所へ来てしまい、仕方なく馬を捨てて自分の足で走って行く。
そして突然、強い雨が降り出した。
人間が滅多に足を踏み入れない自然の山はすぐにぬかるみ、盗賊団の足を奪ったのだ。
よりにもよって中腹の崖の部分で、盗賊団は次々と足を滑らせる。それまで勢いよく走ってきたせいで、上手く立ち止まれなかったのだろう。
そして盗賊団は全員、崖の下へ落ちていった……。
「騎士達は悪天候の山に居続けることは危険と判断してすぐに山を下りて、盗賊団が残した馬を引き連れて近くの村の駐屯に行ったみたいよ」
ルサリィはすっかり冷めてしまったミックスベリーティーを飲んで、重いため息を吐く。
「……ですが盗賊団は人間として絶命した後に、雑魔として復活してしまったのですね」
手紙を読み終えたフェイトは、顔色を悪くする。
ハデスはメガネを外して、痛むこめかみを指で押す。
「最悪の結末だ。結果的に王国や貴族に恨みを持ったまま死んだ盗賊団は、雑魔になってしまった。そのせいでグラズヘイム王国の関係者達が、次々と襲われているんだからな」
リンダールの森近くにいる貴族や騎士達が次々と襲われる事件が起こり、たまたま貴族同士のパーティーに参加していたハデスの両親と、ルサリィの両親まで巻き込まれてしまった。
事件のことはハデスが先に知り、ルサリィに連絡をしたのだ。
ルサリィはすぐさまメッセンジャーを現地へ送ったところ、父のマルセドと母のミナーヴァから手紙を渡された。
パーティーに参加していた貴族達の中にはハンターや覚醒者を護衛として雇っていた者がいたおかげで、軽傷で済んだらしい。
「ハデス博士のご両親も無事だそうだけど……、お父様は襲われそうになったお母様を庇った為に腕を骨折なされたとか……」
「そのぐらいで済んだのなら、まだ良いと言える。中には重傷者まで出たらしいからな」
死人こそ出てはいないものの、貴族達は戦々恐々としている。
ハデスは事件の詳細を知り、上記の推測を立てた。そして新たな情報を得て、一つの仮説を立てる。
「雑魔が襲う者達は、主に貴族ばかりだ。生前、追い詰められたという逆恨みからの復讐だろうな」
雑魔はより多くの貴族が集まる場所に、出没していた。
しかも厄介なことに元は盗賊団なだけあり、他者の生命力を吸い取って回復してしまう。そのせいで、なかなか退治することができないのだ。
「両親からの手紙には、わたしに『改めてハンターズソサエティに依頼するように』と書かれていたわ。そして『堕落者を倒す為に、協力しろ』とも」
「協力って……まさかエサ役として貴族を集めるつもりか? いくら優秀なハンターが複数いても、我が身が一番可愛いと思っている貴族連中には無理があるように思えるが……」
「……ハデス博士、もうちょっと言い方柔らかくしなさいよ。囮役については、ちょっと考えがあるのよ。リンダールの森近くにある別荘を、退治場所として提供しようと思っているわ」
ハデスはルサリィの作戦を聞くと、再び唸りながら腕を組む。
「――まあ確かに、決行した方が良い作戦だ。それでヤツらを釣られるのならば、一気に解決となるからな」
「ええ。だからあなた達も、覚悟を決めてね」
ルサリィはフェイトを含む使用人達へ、厳しい眼差しを向ける。
「分かっております。ルサリィお嬢様の身にも降りかかるかもしれない災いを摘む為ならば、この身をいくらでもご利用してくださいませ」
フェイトを筆頭に、ウィクトーリア家の使用人達は真剣な面持ちで深く頭を下げた――。
リプレイ本文
●盗賊雑魔VSハンターの戦い
リンダールの森の近く、平原の中にポツンと一軒だけある別荘は今夜は久々に大勢の人が集まり、大ホールでパーティーが行われている。
パーティーがはじまって一時間が経過すると、ジルボ(ka1732)は暗い窓の外を見ながらボソッと呟く。
「雑魔として生まれ変わっても、盗賊は盗賊か。他者の生命力を奪うとは、イイ根性してんな。まっ、貴族は上客だし、メイドさんは美人揃いだし、良いとこ見せないとな」
「確かに盗賊達にとっては、自業自得の末路だよ。同情の余地は無いけれど、やっぱり生きて捕まった方がまだいくらかは救われただろうに。死んでも余罪を増やしていることだし、しっかり償ってもらわないとね」
そこへ『王女様なりきりグッズ』と『蛮勇の指輪』、『篭手「グリント」』に『方位磁石「導きの光」』を身に付けたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が紅茶カップを二つ持って来た。
「ジルボさんもどうぞ。『ヒカヤ紅茶』を『祝福の水筒』に入れて持って来たんだよ」
「おっ、ありがたい。頂こう」
二人がヒカヤ紅茶を飲んでいると、鼻をクンクンと鳴らしながら万歳丸(ka5665)が近付いてくる。
「何だか良い香りがするな」
「敵を引き寄せる為の紅茶だよ。万歳丸も、いくつかアイテムを身に付けているね」
「へっ? どれだ?」
万歳丸は『篭手「グリント』と『護符「クリミナルローズ」』、『蛮勇の指輪』を所持していたのだが、敵を引き寄せるアイテムだとは知らなかったらしい。
「でもアルトさんは、他にも良い香りがしまちゅよ?」
北谷王子 朝騎(ka5818)はアルトの身体の香りに、うっとりする。
「『シエラリオ天然化粧水』を肌に塗ってきたからかな? でも戦闘前に着飾るというのも、変な感じがするけどね」
「けれどパーティーの参加者なら、着飾った方が自然だよ。私は『蛮勇の指輪』と『篭手「グリント』を身に付けて、敵を引き寄せるの」
両腕を上げて見せながら、玉兎 小夜(ka6009)は真剣な表情を浮かべた。
「雑魔になっても忘れない盗賊精神は見上げたものがあるけれど、依頼人達は守らないとね。雑魔達の首を斬りまくって、修行とお金稼ぎをしっかりしないと!」
「相手は人間から雑魔へと変身した奴らだから、首を斬っただけでは死なないかもよ?」
アルトから貰ったヒカヤ紅茶を冷ましながら飲んでいるアルスレーテ・フュラー(ka6148)は、冷静に言い続ける。
「死者は大人しく死んでいればいいのに、雑魔として復活して人を襲うなんて働き者の盗賊達ね。本当はあんまりお近付きになりたくないタイプだけど、お仕事だし頑張りましょう」
そしてアルスレーテが紅茶を飲み干した瞬間、奴らはやって来た――。
ガッシャーン!
派手にガラス戸が叩き割られて、そこから盗賊雑魔達が侵入して来る。
十体の盗賊雑魔は人間の中年男性だった頃の面影が僅かながらに残っているものの、全員身長が二メートルほど巨大化しており、腐敗している肌や虚ろな眼は明らかに生きた人間のモノではない。
「先に占術をやっといて、良かったでちゅ。占い通り、庭からやって来たでちゅね」
朝騎はほっと安堵のため息を吐きながらも、呪符を握り締めた。
「囮役のみなさんは避難するでちゅ!」
囮役の者達は大ホールの隅にある一見は壁模様になっている隠し扉から、地下一階へと避難していく。
「全員避難するまで、俺達が時間を稼がねーとな!」
ジルボはライフル「ミーティアAT7」を両手に持って構えると、雑魔達へ向けてアクティブスキルの制圧射撃を放った。連続射撃をすることによって弾幕が張られて、視界を塞がれた雑魔達はその場で立ち止まる。
「このチャンスを逃すことはないな!」
アルトはアクティブスキルの踏鳴を発動させて、近くにいた一体の雑魔に素早く近付く。
そして試作振動刀「オートMURAMASA」を鞘から引き抜き、アクティブスキルの連華にて雑魔の首を攻撃した。
「急所となる生前の体の部分、この雑魔は首の一部分の皮膚の色が変色していないように見えたのだけど……」
一般スキルの鋭敏視覚を持っているアルトの眼に、雑魔の首の一部分が肌色であるのが見えたのだ。
すると大当たりしたようで、雑魔の斬り裂かれた首の部分から黒いモヤが噴出してきたかと思うと、そのまま身体が塵となって消滅していく。
しかし突然弾幕の中から雑魔の二本の腕が、アルト目がけて伸びてきた。
「おっと、危ない」
だがアルトはアクティブスキルの瞬影で攻撃を回避すると、再び蓮華にて今度は雑魔の伸びた両腕を一太刀で斬り落とし、次に右の太ももを斬った。
「破れたスラックスの隙間から、肌の色が見えたよ」
アルトの言う通り、肌色の太ももを斬られた雑魔は消滅していく。
アルトの戦い方を見て、ジルボはアクティブスキルの直感視を発動させながら、特殊強化鋼製ワイヤーウィップに持ち変える。
「やっぱ視覚を強化して戦った方が、有利みたいだな。さて、アンタらの残された人間の部分はどこにあるんだ?」
麻痺の粉塵をまき散らしながら近付いて来た雑魔に対して、ジルボはワイヤーウィップを振るって腐敗した身体を切り裂くと、後ろに下がって距離を取った。
雑魔は一旦身体が真っ二つになるものの、すぐに傷口から出てきた灰色の粘着の液体が離れた肉体を繋げる。
「さっすがゾンビ野郎、回復能力は眼を見張るものがあるが、衣類も元通りになれば良かったな」
身体は元通りに再生しても、着ている物はそうはいかない。
破れた上着から腹の一部がまだ肌色をしているのを見つけると、ジルボは再びライフルに持ち替えて、アクティブスキルのターゲッティングを発動させた。
ジルボが放った射撃は肌色の部分に命中して、そこから黒いモヤが噴出していくのと同時に雑魔の身体は塵のように散っていく。
その様子を横目で見ながら、万歳丸は使用人の最後の一人を隠し部屋に押し込む。
「戦闘は俺達に任せて、さっさと行きな! ……よしっ、朝騎、全員隠し部屋に入ったぞ!」
「扉の前にテーブルとイスを置いて、部屋を隠すでちゅ!」
万歳丸と朝騎がテーブルとイスで隠し部屋の扉を塞いでいると、大勢の気配に気付いた一体の雑魔が走って来た。
「うおっ、やべェ!」
「ジルボさん、ヘルプでちゅっ!」
「二人とも巻き込まれないように、少し離れていろ!」
ジルボはライフルを雑魔へ向けると、再び制圧射撃を放つ。
雑魔が弾幕によって動きが鈍くなっている間に、二人は急いで扉を隠す作業を終わらせる。
万歳丸はゴーグル「サードアイズ」で顔の上半分を覆いながら、雑魔を睨み付けた。
「貴族と王国関係者を憎む一念で雑魔になる――とはな。そこまで成るんなら、ある意味本物だ。さあ、来なァ! その恨みも憎しみも全て、俺が天までふっ飛ばしてやらァ!」
聖拳「プロミネント・グリム」を装着した両手で、アクティブスキルの青龍翔咬波を発動させながら雑魔を攻撃する。
雑魔はマテリアルの気配を感じ取り、咄嗟に身体を傾けて避けようとした。しかし避けきれなかった右半身が黒くボロボロと崩れるも、雑魔は残った左腕を万歳丸へ向けて伸ばす。
鋭敏視覚にて左腕の攻撃を避けた万歳丸は、伸びた腕の肘部分が人間の肌であることを見逃さなかった。
「そこかァ!」
縮んで元通りになろうとする肘へ向けて、アクティブスキルの震撃を放つ。
雑魔は肘を破壊されると、音もなく静かに身体が崩れていく。
だが息つく暇なく次の雑魔が、万歳丸へ向けてチェーンウィップで攻撃してきた。
万歳丸は咄嗟に右腕を上げて、チェーンウィップをあえて巻き付ける。
「チィッ! 次から次へと出てきやがる。おらァ、アルスレーテ! 給料分は働けェ!」
そう言いつつ万歳丸は、アクティブスキルの投極《天地開闢》を発動させた。
「呵呵ッ! てめェの天地は俺が決める! 吹ッ飛びなァ!」
そして万歳丸は、雑魔をアルスレーテへ向けて投げ飛ばした。
「ボールみたいに雑魔を投げないでほしいんだけど……。まっ、どれだけ私のアクティブスキルが効くのか、試してみたいわね」
アルスレーテは床に落ちた雑魔に、素早く老龍固をかけてみる。
「関節と痛覚がある相手には効くんだけど、どうかしら?」
しかし雑魔はその両方を持っていなかったようで、アルスレーテの下で激しくジタバタと暴れ出した。
「くぅっ! この雑魔相手には効果が無かったようね。それじゃあ実験終了ってことで」
暴れる雑魔の右のこめかみ部分が肌色であるのを発見したアルスレーテは、一度離れると鉄扇「北斗」で急所を攻撃する。
「急所を突けば簡単に倒せるのは良いんだけど……、やっぱり麻痺の粉塵は厄介ね」
顔をしかめながら、アルスレーテは軽く咳き込む。
先程接近した時に、雑魔が放つ麻痺の粉塵を少し吸い込んでしまったのだ。
「アルスレーテさん、後ろでちゅ!」
少しふらついたアルスレーテは、朝騎の叫び声で慌てて振り返る。
アルスレーテの背後から襲い掛かろうとした雑魔の頭に、朝騎が放ったアクティブスキルの火炎符が命中して燃え上がった。
「油断は禁物ね」
アルスレーテはアクティブスキルの落燕を使い、雑魔の動きを制限している間に離れる。
「朝騎の占術によりまちゅと、急所は左目でちゅね!」
朝騎はデリンジャーを両手に持って構えると、雑魔の左目を狙って撃った。
「大当たりでちゅ♪ ハッ! アルスレーテさん、このロープに捕まるでちゅよ!」
持ってきたロープの先を輪にして、朝騎はふらついているアルスレーテへ向けて投げる。
輪を空中で受け取ったアルスレーテは、ロープの端を持つ朝騎に引っ張られながら歩いて移動した。
「助かったわ……。アクティブスキルのチャクラ・ヒールを使って、麻痺状態を治すことに集中したいんだけど……朝騎のその格好は何?」
アルスレーテは朝騎が作ったアクティブスキルの結界術の中に入った途端、彼女の姿を見て顔をしかめる。
「麻痺の粉塵予防でちゅ! 水中眼鏡で眼を保護して、浮き輪の空気を口から吸うことによって、粉塵を吸わずに済むでちゅ!」
「いや、粉塵は鼻から入るから、眼や口を塞いでもあんまり意味はないわよ?」
「何でちゅと!」
衝撃を受けている朝騎から顔をそらして、アルスレーテは治療に専念した。
「アルスレーテ、悪ィが俺の右腕の傷も頼む」
万歳丸も結界術の中に入り、チェーンウィップによって傷付いた右腕を上げて見せる。
「良いわよ。万歳丸にはいざという時、私の盾になってもらうから」
「……さっき雑魔を投げたこと、何気に恨んでいるな?」
アルスレーテは返答する代わりに、万歳丸からサッと視線をそらす。
負傷者達を庇うように、小夜は雑魔へ向かって走り出した。
「私と同じ無表情かと思ったら、恨みがましい表情を浮かべているんだね。ある意味、戦いやすいよ」
スッと眼を細めた小夜は、斬魔刀「祢々切丸」 を鞘から引き抜く。
「倒せるかどうかは分からないけれど、とりあえずその首、斬りたいから斬らせてもらうね」
そしてアクティブスキルの一之太刀で、雑魔の首を斬り飛ばす。
しかし雑魔の首と胴体部分から粘着の液体が出てきて、身体を修復させていく。
「残念、ハズレね。では次のアクティブスキル・電光石火はどうなのかな?」
今度は残った雑魔の胴体を攻撃してみた。それでも与えた傷が治っていくところを見ると、急所には当たらなかったらしい。
「……やっぱり当てずっぽうな攻撃じゃあ、急所に当てるのは難しいね」
「小夜さんっ、ヤツの右耳を斬り落とすんだ!」
鋭敏視覚を使って、雑魔の右耳が急所であることを見つけたアルトが叫ぶ。
「斬りにくい部分だけど、舞刀士としては燃えるよ」
小夜は刀を鞘に入れて戻すと、構える。
そして雑魔の首と胴体が完全にくっついた頃合いを見計らって、アクティブスキルの宵にて右耳を斜めに斬った。
「ヒットアンドウェイ。――さよなら、うさぎ」
呟くと同時に小夜は後ろに下がり、滅びゆく雑魔から離れる。
「けほっ、ごほっ……。少し粉塵を吸い込んじゃったみたいだね。痺れうさぎになっちゃったよ」
だが休む暇などなく、小夜の近くにもう一体の雑魔が近付いて来た。
「よっしゃ、回復したぜ! 小夜、動くなよ! オラぁ、青龍翔咬波!」
ケガを治してもらった万歳丸が、雑魔へ向けて青龍翔咬波を放つ。
すると巻き起こった風にふかれた雑魔のボサボサの髪の隙間から、首の後ろにある肌色が現れた。
「ようやく倒す為に、首が斬れるね」
小夜は眼に鋭さを宿すと雑魔の背後に回り、再び電光石火にて首を斬る。
「『死んでも死にきれない』とは、こういう存在のことを言うんだね。人間、生きるのも死ぬのも大変だよ」
「ほわっちゅ!」
小夜の声と重なるようにして、朝騎の悲鳴と、持っていた浮き輪が雑魔のチェーンウィップによって破壊される音が重なった。
結界術の効果時間が終わった途端に、雑魔が攻撃を仕掛けてきたのだ。
「朝騎、そこから動くなよ!」
ジルボは直感視にて、朝騎を襲った雑魔の左胸が急所であることに気付き、ターゲッティングで撃ち抜く。
「そらっ、アルスレーテ! 治癒のスキルを持ってんだから、傷付くことを恐れずに派手に戦え!」
万歳丸はニヤッと笑うと、伸びてきた雑魔の腕を掴んで再び投極《天地開闢》を使いながら、アルスレーテへ向けて投げ飛ばす。
「だから急所が分からない雑魔を投げないでよ!」
顔をしかめながらアルスレーテは鉄扇で、雑魔の頭を叩いて飛ばした。
「ヤレヤレ、コレも占術通りでちゅね」
朝騎はため息を吐きながらデリンジャーを持ち構えて、飛んできた雑魔のあらわになった肌色の額を撃ち抜いた――。
盗賊雑魔を全て倒し終えた後、ハンター達は隠し扉の前に置かれたテーブルとイスを撤去する。
そして囮役の者達が続々と大ホールへ出てきたが、最後にルサリィが出てきた途端、朝騎が眼の色を変えて飛びつこうとした。
「ルサリィお嬢様、無事で良かったで……ちゅっ!?」
しかしルサリィの前に真剣な表情の小夜が立ち塞がり、朝騎の頭を手のひらでガシッと掴んで止める。
「ルサリィお嬢様は大事な依頼人、お仕事真面目うさぎは近付く怪しいヤツを排除しなきゃね」
「ひぃっ! 小夜さん、お顔が怖いでちゅ~!」
騒ぐ二人を見ながら、ジルボとアルトは肩を竦め、万歳丸はアルスレーテに声をかけた。
「なあ、アレはアクティブスキルで治せねーのか?」
「ああいう病気は無理よ。こういうことはあんまり言いたくないけれど、治せる自信もないしね」
アルスレーテは朝騎を見ながら、重いため息を吐かずにはいられなかった。
【終わり】
リンダールの森の近く、平原の中にポツンと一軒だけある別荘は今夜は久々に大勢の人が集まり、大ホールでパーティーが行われている。
パーティーがはじまって一時間が経過すると、ジルボ(ka1732)は暗い窓の外を見ながらボソッと呟く。
「雑魔として生まれ変わっても、盗賊は盗賊か。他者の生命力を奪うとは、イイ根性してんな。まっ、貴族は上客だし、メイドさんは美人揃いだし、良いとこ見せないとな」
「確かに盗賊達にとっては、自業自得の末路だよ。同情の余地は無いけれど、やっぱり生きて捕まった方がまだいくらかは救われただろうに。死んでも余罪を増やしていることだし、しっかり償ってもらわないとね」
そこへ『王女様なりきりグッズ』と『蛮勇の指輪』、『篭手「グリント」』に『方位磁石「導きの光」』を身に付けたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が紅茶カップを二つ持って来た。
「ジルボさんもどうぞ。『ヒカヤ紅茶』を『祝福の水筒』に入れて持って来たんだよ」
「おっ、ありがたい。頂こう」
二人がヒカヤ紅茶を飲んでいると、鼻をクンクンと鳴らしながら万歳丸(ka5665)が近付いてくる。
「何だか良い香りがするな」
「敵を引き寄せる為の紅茶だよ。万歳丸も、いくつかアイテムを身に付けているね」
「へっ? どれだ?」
万歳丸は『篭手「グリント』と『護符「クリミナルローズ」』、『蛮勇の指輪』を所持していたのだが、敵を引き寄せるアイテムだとは知らなかったらしい。
「でもアルトさんは、他にも良い香りがしまちゅよ?」
北谷王子 朝騎(ka5818)はアルトの身体の香りに、うっとりする。
「『シエラリオ天然化粧水』を肌に塗ってきたからかな? でも戦闘前に着飾るというのも、変な感じがするけどね」
「けれどパーティーの参加者なら、着飾った方が自然だよ。私は『蛮勇の指輪』と『篭手「グリント』を身に付けて、敵を引き寄せるの」
両腕を上げて見せながら、玉兎 小夜(ka6009)は真剣な表情を浮かべた。
「雑魔になっても忘れない盗賊精神は見上げたものがあるけれど、依頼人達は守らないとね。雑魔達の首を斬りまくって、修行とお金稼ぎをしっかりしないと!」
「相手は人間から雑魔へと変身した奴らだから、首を斬っただけでは死なないかもよ?」
アルトから貰ったヒカヤ紅茶を冷ましながら飲んでいるアルスレーテ・フュラー(ka6148)は、冷静に言い続ける。
「死者は大人しく死んでいればいいのに、雑魔として復活して人を襲うなんて働き者の盗賊達ね。本当はあんまりお近付きになりたくないタイプだけど、お仕事だし頑張りましょう」
そしてアルスレーテが紅茶を飲み干した瞬間、奴らはやって来た――。
ガッシャーン!
派手にガラス戸が叩き割られて、そこから盗賊雑魔達が侵入して来る。
十体の盗賊雑魔は人間の中年男性だった頃の面影が僅かながらに残っているものの、全員身長が二メートルほど巨大化しており、腐敗している肌や虚ろな眼は明らかに生きた人間のモノではない。
「先に占術をやっといて、良かったでちゅ。占い通り、庭からやって来たでちゅね」
朝騎はほっと安堵のため息を吐きながらも、呪符を握り締めた。
「囮役のみなさんは避難するでちゅ!」
囮役の者達は大ホールの隅にある一見は壁模様になっている隠し扉から、地下一階へと避難していく。
「全員避難するまで、俺達が時間を稼がねーとな!」
ジルボはライフル「ミーティアAT7」を両手に持って構えると、雑魔達へ向けてアクティブスキルの制圧射撃を放った。連続射撃をすることによって弾幕が張られて、視界を塞がれた雑魔達はその場で立ち止まる。
「このチャンスを逃すことはないな!」
アルトはアクティブスキルの踏鳴を発動させて、近くにいた一体の雑魔に素早く近付く。
そして試作振動刀「オートMURAMASA」を鞘から引き抜き、アクティブスキルの連華にて雑魔の首を攻撃した。
「急所となる生前の体の部分、この雑魔は首の一部分の皮膚の色が変色していないように見えたのだけど……」
一般スキルの鋭敏視覚を持っているアルトの眼に、雑魔の首の一部分が肌色であるのが見えたのだ。
すると大当たりしたようで、雑魔の斬り裂かれた首の部分から黒いモヤが噴出してきたかと思うと、そのまま身体が塵となって消滅していく。
しかし突然弾幕の中から雑魔の二本の腕が、アルト目がけて伸びてきた。
「おっと、危ない」
だがアルトはアクティブスキルの瞬影で攻撃を回避すると、再び蓮華にて今度は雑魔の伸びた両腕を一太刀で斬り落とし、次に右の太ももを斬った。
「破れたスラックスの隙間から、肌の色が見えたよ」
アルトの言う通り、肌色の太ももを斬られた雑魔は消滅していく。
アルトの戦い方を見て、ジルボはアクティブスキルの直感視を発動させながら、特殊強化鋼製ワイヤーウィップに持ち変える。
「やっぱ視覚を強化して戦った方が、有利みたいだな。さて、アンタらの残された人間の部分はどこにあるんだ?」
麻痺の粉塵をまき散らしながら近付いて来た雑魔に対して、ジルボはワイヤーウィップを振るって腐敗した身体を切り裂くと、後ろに下がって距離を取った。
雑魔は一旦身体が真っ二つになるものの、すぐに傷口から出てきた灰色の粘着の液体が離れた肉体を繋げる。
「さっすがゾンビ野郎、回復能力は眼を見張るものがあるが、衣類も元通りになれば良かったな」
身体は元通りに再生しても、着ている物はそうはいかない。
破れた上着から腹の一部がまだ肌色をしているのを見つけると、ジルボは再びライフルに持ち替えて、アクティブスキルのターゲッティングを発動させた。
ジルボが放った射撃は肌色の部分に命中して、そこから黒いモヤが噴出していくのと同時に雑魔の身体は塵のように散っていく。
その様子を横目で見ながら、万歳丸は使用人の最後の一人を隠し部屋に押し込む。
「戦闘は俺達に任せて、さっさと行きな! ……よしっ、朝騎、全員隠し部屋に入ったぞ!」
「扉の前にテーブルとイスを置いて、部屋を隠すでちゅ!」
万歳丸と朝騎がテーブルとイスで隠し部屋の扉を塞いでいると、大勢の気配に気付いた一体の雑魔が走って来た。
「うおっ、やべェ!」
「ジルボさん、ヘルプでちゅっ!」
「二人とも巻き込まれないように、少し離れていろ!」
ジルボはライフルを雑魔へ向けると、再び制圧射撃を放つ。
雑魔が弾幕によって動きが鈍くなっている間に、二人は急いで扉を隠す作業を終わらせる。
万歳丸はゴーグル「サードアイズ」で顔の上半分を覆いながら、雑魔を睨み付けた。
「貴族と王国関係者を憎む一念で雑魔になる――とはな。そこまで成るんなら、ある意味本物だ。さあ、来なァ! その恨みも憎しみも全て、俺が天までふっ飛ばしてやらァ!」
聖拳「プロミネント・グリム」を装着した両手で、アクティブスキルの青龍翔咬波を発動させながら雑魔を攻撃する。
雑魔はマテリアルの気配を感じ取り、咄嗟に身体を傾けて避けようとした。しかし避けきれなかった右半身が黒くボロボロと崩れるも、雑魔は残った左腕を万歳丸へ向けて伸ばす。
鋭敏視覚にて左腕の攻撃を避けた万歳丸は、伸びた腕の肘部分が人間の肌であることを見逃さなかった。
「そこかァ!」
縮んで元通りになろうとする肘へ向けて、アクティブスキルの震撃を放つ。
雑魔は肘を破壊されると、音もなく静かに身体が崩れていく。
だが息つく暇なく次の雑魔が、万歳丸へ向けてチェーンウィップで攻撃してきた。
万歳丸は咄嗟に右腕を上げて、チェーンウィップをあえて巻き付ける。
「チィッ! 次から次へと出てきやがる。おらァ、アルスレーテ! 給料分は働けェ!」
そう言いつつ万歳丸は、アクティブスキルの投極《天地開闢》を発動させた。
「呵呵ッ! てめェの天地は俺が決める! 吹ッ飛びなァ!」
そして万歳丸は、雑魔をアルスレーテへ向けて投げ飛ばした。
「ボールみたいに雑魔を投げないでほしいんだけど……。まっ、どれだけ私のアクティブスキルが効くのか、試してみたいわね」
アルスレーテは床に落ちた雑魔に、素早く老龍固をかけてみる。
「関節と痛覚がある相手には効くんだけど、どうかしら?」
しかし雑魔はその両方を持っていなかったようで、アルスレーテの下で激しくジタバタと暴れ出した。
「くぅっ! この雑魔相手には効果が無かったようね。それじゃあ実験終了ってことで」
暴れる雑魔の右のこめかみ部分が肌色であるのを発見したアルスレーテは、一度離れると鉄扇「北斗」で急所を攻撃する。
「急所を突けば簡単に倒せるのは良いんだけど……、やっぱり麻痺の粉塵は厄介ね」
顔をしかめながら、アルスレーテは軽く咳き込む。
先程接近した時に、雑魔が放つ麻痺の粉塵を少し吸い込んでしまったのだ。
「アルスレーテさん、後ろでちゅ!」
少しふらついたアルスレーテは、朝騎の叫び声で慌てて振り返る。
アルスレーテの背後から襲い掛かろうとした雑魔の頭に、朝騎が放ったアクティブスキルの火炎符が命中して燃え上がった。
「油断は禁物ね」
アルスレーテはアクティブスキルの落燕を使い、雑魔の動きを制限している間に離れる。
「朝騎の占術によりまちゅと、急所は左目でちゅね!」
朝騎はデリンジャーを両手に持って構えると、雑魔の左目を狙って撃った。
「大当たりでちゅ♪ ハッ! アルスレーテさん、このロープに捕まるでちゅよ!」
持ってきたロープの先を輪にして、朝騎はふらついているアルスレーテへ向けて投げる。
輪を空中で受け取ったアルスレーテは、ロープの端を持つ朝騎に引っ張られながら歩いて移動した。
「助かったわ……。アクティブスキルのチャクラ・ヒールを使って、麻痺状態を治すことに集中したいんだけど……朝騎のその格好は何?」
アルスレーテは朝騎が作ったアクティブスキルの結界術の中に入った途端、彼女の姿を見て顔をしかめる。
「麻痺の粉塵予防でちゅ! 水中眼鏡で眼を保護して、浮き輪の空気を口から吸うことによって、粉塵を吸わずに済むでちゅ!」
「いや、粉塵は鼻から入るから、眼や口を塞いでもあんまり意味はないわよ?」
「何でちゅと!」
衝撃を受けている朝騎から顔をそらして、アルスレーテは治療に専念した。
「アルスレーテ、悪ィが俺の右腕の傷も頼む」
万歳丸も結界術の中に入り、チェーンウィップによって傷付いた右腕を上げて見せる。
「良いわよ。万歳丸にはいざという時、私の盾になってもらうから」
「……さっき雑魔を投げたこと、何気に恨んでいるな?」
アルスレーテは返答する代わりに、万歳丸からサッと視線をそらす。
負傷者達を庇うように、小夜は雑魔へ向かって走り出した。
「私と同じ無表情かと思ったら、恨みがましい表情を浮かべているんだね。ある意味、戦いやすいよ」
スッと眼を細めた小夜は、斬魔刀「祢々切丸」 を鞘から引き抜く。
「倒せるかどうかは分からないけれど、とりあえずその首、斬りたいから斬らせてもらうね」
そしてアクティブスキルの一之太刀で、雑魔の首を斬り飛ばす。
しかし雑魔の首と胴体部分から粘着の液体が出てきて、身体を修復させていく。
「残念、ハズレね。では次のアクティブスキル・電光石火はどうなのかな?」
今度は残った雑魔の胴体を攻撃してみた。それでも与えた傷が治っていくところを見ると、急所には当たらなかったらしい。
「……やっぱり当てずっぽうな攻撃じゃあ、急所に当てるのは難しいね」
「小夜さんっ、ヤツの右耳を斬り落とすんだ!」
鋭敏視覚を使って、雑魔の右耳が急所であることを見つけたアルトが叫ぶ。
「斬りにくい部分だけど、舞刀士としては燃えるよ」
小夜は刀を鞘に入れて戻すと、構える。
そして雑魔の首と胴体が完全にくっついた頃合いを見計らって、アクティブスキルの宵にて右耳を斜めに斬った。
「ヒットアンドウェイ。――さよなら、うさぎ」
呟くと同時に小夜は後ろに下がり、滅びゆく雑魔から離れる。
「けほっ、ごほっ……。少し粉塵を吸い込んじゃったみたいだね。痺れうさぎになっちゃったよ」
だが休む暇などなく、小夜の近くにもう一体の雑魔が近付いて来た。
「よっしゃ、回復したぜ! 小夜、動くなよ! オラぁ、青龍翔咬波!」
ケガを治してもらった万歳丸が、雑魔へ向けて青龍翔咬波を放つ。
すると巻き起こった風にふかれた雑魔のボサボサの髪の隙間から、首の後ろにある肌色が現れた。
「ようやく倒す為に、首が斬れるね」
小夜は眼に鋭さを宿すと雑魔の背後に回り、再び電光石火にて首を斬る。
「『死んでも死にきれない』とは、こういう存在のことを言うんだね。人間、生きるのも死ぬのも大変だよ」
「ほわっちゅ!」
小夜の声と重なるようにして、朝騎の悲鳴と、持っていた浮き輪が雑魔のチェーンウィップによって破壊される音が重なった。
結界術の効果時間が終わった途端に、雑魔が攻撃を仕掛けてきたのだ。
「朝騎、そこから動くなよ!」
ジルボは直感視にて、朝騎を襲った雑魔の左胸が急所であることに気付き、ターゲッティングで撃ち抜く。
「そらっ、アルスレーテ! 治癒のスキルを持ってんだから、傷付くことを恐れずに派手に戦え!」
万歳丸はニヤッと笑うと、伸びてきた雑魔の腕を掴んで再び投極《天地開闢》を使いながら、アルスレーテへ向けて投げ飛ばす。
「だから急所が分からない雑魔を投げないでよ!」
顔をしかめながらアルスレーテは鉄扇で、雑魔の頭を叩いて飛ばした。
「ヤレヤレ、コレも占術通りでちゅね」
朝騎はため息を吐きながらデリンジャーを持ち構えて、飛んできた雑魔のあらわになった肌色の額を撃ち抜いた――。
盗賊雑魔を全て倒し終えた後、ハンター達は隠し扉の前に置かれたテーブルとイスを撤去する。
そして囮役の者達が続々と大ホールへ出てきたが、最後にルサリィが出てきた途端、朝騎が眼の色を変えて飛びつこうとした。
「ルサリィお嬢様、無事で良かったで……ちゅっ!?」
しかしルサリィの前に真剣な表情の小夜が立ち塞がり、朝騎の頭を手のひらでガシッと掴んで止める。
「ルサリィお嬢様は大事な依頼人、お仕事真面目うさぎは近付く怪しいヤツを排除しなきゃね」
「ひぃっ! 小夜さん、お顔が怖いでちゅ~!」
騒ぐ二人を見ながら、ジルボとアルトは肩を竦め、万歳丸はアルスレーテに声をかけた。
「なあ、アレはアクティブスキルで治せねーのか?」
「ああいう病気は無理よ。こういうことはあんまり言いたくないけれど、治せる自信もないしね」
アルスレーテは朝騎を見ながら、重いため息を吐かずにはいられなかった。
【終わり】
依頼結果
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サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/20 12:15:55 |
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作戦相談スレッド 北谷王子 朝騎(ka5818) 人間(リアルブルー)|16才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2016/04/22 08:43:42 |