ゲスト
(ka0000)
お化けVSお化け
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/28 19:00
- 完成日
- 2014/09/04 03:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「お化け屋敷に歪虚が出た?」
言って首を傾げたのは、水を張った桶に足を突っ込んで涼を取るゼナイド(kz0052)だ。
ここは帝国第十師団の本拠地、アネリブーベにあるゼナイドの執務室。連日の暑さ対策に開け放たれた窓からは、涼とは無縁の生暖かい風を運んでくる。
「何ですの、その『お化け屋敷』と言うのは……」
聞いた事の無い名称に目を細めるゼナイド同様、禿頭に日除けの布を巻いたマンゴルトも不可解そうに眉を寄せている。
「何でもリアルブルーで流行っておる、夏の風物詩らしいぞい?」
「リアルブルーの……随分と胡散臭いですわね」
何処が胡散臭いのは、ゼナイドに聞かねばわからないだろう。
取り敢えず、皇帝陛下が興味を持っているリアルブルーの文化だと言うだけで偏った見方になっているのは間違いない。
「それで、そのお化け屋敷は何処でやっているのかしら。まさかアネリブーベ内ではありませんわよね?」
幾らなんでも帝国領の、しかも囚人らが集まるこの街でその様な事が起こるのは有り得ない。そう含みを持たせて問い掛けたのだが、案の定、お化け屋敷はアネリブーベの外で行われていた。
「アネリブーベ近郊ではあるが、少し離れた場所だの。しかも少々特殊な場所のようじゃぞ」
「特殊ですの?」
「うむ。過去に歪虚が湧いた場所で開こうとしたようじゃ」
書類に記載された情報によると、お化け屋敷を企画したリアルブルー人は、恐怖を増大させるスポットとして実際に歪虚が出現した場所に目を留めたらしい。
「歪虚が出現した場所に再び歪虚が湧くこと自体は不思議ではありませんわ。とは言え、馬鹿な場所に設置しましたわね。いったい何を考えてるのかしら。わたくし、そんな考え無しの尻拭いに兵士を出すのは嫌ですわよ」
「わしも色々思う所はあるんじゃが、陛下直々に討伐依頼が出ておるでの」
言って差し出された書類には、確かに皇帝陛下の署名がある。つまりこれを断るのは、陛下の命令に背くという事だ。
「陛下がわたくしに直接命令を……あら、何か書いてありますわ」
『ゼナイドへ
討伐にはハンターを同行させると良い。彼等は実に面白いからな!
それと、お化け屋敷はお化けの仮装をして入る決まりがあるそうだ。討伐の際には仮装をして向かうんだぞ(はーと)』
「「……」」
一瞬にして走る沈黙。
陛下らしいと言えば陛下らしいが、流石にこの申し出にはゼナイドも文句を言うだろう。そうマンゴルトは思ったのだが、やはり陛下への愛は深かったようだ。
「マンゴルト、至急仕立て屋を呼びなさい!」
「なんと?」
「陛下の仰せであれば従わない訳には行きませんわ。あのお方に満足いただける装いをし、見事歪虚を討伐して見せますわ! さあ、今すぐわたくしに相応しいお化けの仮装を用意させますのよ!」
急ぎなさい! そう言い終えると、ゼナイドは満足げな笑みを唇に湛えたのだった。
●
町から少し離れた丘の上にその建物はあった。
大きな看板を有し、おどろおどろしい雰囲気を持つこの建物こそ、リアルブルー式お化け屋敷だ。
看板にはその名の通り、赤で『リアルブルー式お化け屋敷』と書かれている。
「胡散臭いですわね」
そう零すのは、骸骨の仮面を被ってお化けに変装したゼナイドだ。彼女の手にはこの日の為にマンゴルトに作らせた、愛用ハンマーと同じ大きさの斧が握られている。
彼女はそれを地面に置くと、まだ到着していないハンターを待つべく屋敷の周辺に目を向けた。
「墓地をイメージしているのかしら。それにあの浮いている玉は――」
「ゼナイド様」
「ぶぎゃっ!?」
全くの無防備だった。
突如掛けられた声に驚いたゼナイドの斧が、報告に戻って来た兵士の顔面に突き付けられている。しかもその距離は、指1本分の隙間があるかどうか。
「……あ、あの……1階の制圧が終了しました……えっと……1階には何も、2階に歪虚がいるものと、思われます……」
震える声で報告する兵士の表情は見えない。理由としては、彼もまたゼナイド同様にお化けの仮装をしているからだ。
「そうですの……1階の様子はどうだったのかしら」
斧を下げながら息を吐くゼナイドの目は兵士に向いていない。視線は容赦なく屋敷に注がれている。
「おどろおどろしい雰囲気で、部屋の窓も黒い布で覆われていて視界も悪い状態で――」
『ぎゃあああああああっ!』
「今の声は!」
屋敷から激しい叫び声が聞こえて来た。
「ハンターを待ってる余裕はありませんわね。行きますわよ!」
歪虚が増え続ける今、貴重な戦力を失うのは痛い。
ゼナイドは仮装した兵士を伴って突入すると、真っ直ぐに2階を目指した。
「到着後、直ぐに戦闘に入れるように準備をなさい」
2階に伸びる階段を駆け上がり、悲鳴が聞こえた部屋を目指す。だが廊下に差し掛かった所で彼女の足は止まった。
「うあああああああ!」
「ぎゃああああああ!」
3つある部屋を行ったり来たりする仮装した兵士。その後ろからノコギリらしき物を持って追い掛ける巨大な生き物がいる。
「「グォォオオオ♪ グホッ♪ グホホホッ♪」
嬉々として兵士を追い掛ける生き物は、悪魔のような顔に似合わないサラサラのロングヘアーをしており、走る度に腐臭を髪から撒き散らしている。
全身はちょっと腐ってます程度のマッチョで、ハッキリ言って武器より筋肉で盛り上がった腕の方が怖い。
「まさか……あれが歪虚ですの……?」
「……その様ですね」
ゼナイドの倍はあろうかと言う巨体ながら、本気で逃げる兵士を追い駆ける足は速い。
「どうなさいますか?」
「放っておきましょう」
「え、ですが……」
「あの様子でしたら暫くは大丈夫ですわ。ああいう手合いはハンターの方が得意ですわよ、きっと」
ゼナイドはそう言うと、やや疲れた様子で斧を下ろして息を吐いた。
その目には歪虚に破壊された入り口が見えるが、もうそこはどうでも良い。と言うか、全身で入り口を破壊する敵って如何なんだろう。
そんな頭を過ったが、ゼナイドは全力でそれを振り払うと、もう1度大きな溜息を零した。
言って首を傾げたのは、水を張った桶に足を突っ込んで涼を取るゼナイド(kz0052)だ。
ここは帝国第十師団の本拠地、アネリブーベにあるゼナイドの執務室。連日の暑さ対策に開け放たれた窓からは、涼とは無縁の生暖かい風を運んでくる。
「何ですの、その『お化け屋敷』と言うのは……」
聞いた事の無い名称に目を細めるゼナイド同様、禿頭に日除けの布を巻いたマンゴルトも不可解そうに眉を寄せている。
「何でもリアルブルーで流行っておる、夏の風物詩らしいぞい?」
「リアルブルーの……随分と胡散臭いですわね」
何処が胡散臭いのは、ゼナイドに聞かねばわからないだろう。
取り敢えず、皇帝陛下が興味を持っているリアルブルーの文化だと言うだけで偏った見方になっているのは間違いない。
「それで、そのお化け屋敷は何処でやっているのかしら。まさかアネリブーベ内ではありませんわよね?」
幾らなんでも帝国領の、しかも囚人らが集まるこの街でその様な事が起こるのは有り得ない。そう含みを持たせて問い掛けたのだが、案の定、お化け屋敷はアネリブーベの外で行われていた。
「アネリブーベ近郊ではあるが、少し離れた場所だの。しかも少々特殊な場所のようじゃぞ」
「特殊ですの?」
「うむ。過去に歪虚が湧いた場所で開こうとしたようじゃ」
書類に記載された情報によると、お化け屋敷を企画したリアルブルー人は、恐怖を増大させるスポットとして実際に歪虚が出現した場所に目を留めたらしい。
「歪虚が出現した場所に再び歪虚が湧くこと自体は不思議ではありませんわ。とは言え、馬鹿な場所に設置しましたわね。いったい何を考えてるのかしら。わたくし、そんな考え無しの尻拭いに兵士を出すのは嫌ですわよ」
「わしも色々思う所はあるんじゃが、陛下直々に討伐依頼が出ておるでの」
言って差し出された書類には、確かに皇帝陛下の署名がある。つまりこれを断るのは、陛下の命令に背くという事だ。
「陛下がわたくしに直接命令を……あら、何か書いてありますわ」
『ゼナイドへ
討伐にはハンターを同行させると良い。彼等は実に面白いからな!
それと、お化け屋敷はお化けの仮装をして入る決まりがあるそうだ。討伐の際には仮装をして向かうんだぞ(はーと)』
「「……」」
一瞬にして走る沈黙。
陛下らしいと言えば陛下らしいが、流石にこの申し出にはゼナイドも文句を言うだろう。そうマンゴルトは思ったのだが、やはり陛下への愛は深かったようだ。
「マンゴルト、至急仕立て屋を呼びなさい!」
「なんと?」
「陛下の仰せであれば従わない訳には行きませんわ。あのお方に満足いただける装いをし、見事歪虚を討伐して見せますわ! さあ、今すぐわたくしに相応しいお化けの仮装を用意させますのよ!」
急ぎなさい! そう言い終えると、ゼナイドは満足げな笑みを唇に湛えたのだった。
●
町から少し離れた丘の上にその建物はあった。
大きな看板を有し、おどろおどろしい雰囲気を持つこの建物こそ、リアルブルー式お化け屋敷だ。
看板にはその名の通り、赤で『リアルブルー式お化け屋敷』と書かれている。
「胡散臭いですわね」
そう零すのは、骸骨の仮面を被ってお化けに変装したゼナイドだ。彼女の手にはこの日の為にマンゴルトに作らせた、愛用ハンマーと同じ大きさの斧が握られている。
彼女はそれを地面に置くと、まだ到着していないハンターを待つべく屋敷の周辺に目を向けた。
「墓地をイメージしているのかしら。それにあの浮いている玉は――」
「ゼナイド様」
「ぶぎゃっ!?」
全くの無防備だった。
突如掛けられた声に驚いたゼナイドの斧が、報告に戻って来た兵士の顔面に突き付けられている。しかもその距離は、指1本分の隙間があるかどうか。
「……あ、あの……1階の制圧が終了しました……えっと……1階には何も、2階に歪虚がいるものと、思われます……」
震える声で報告する兵士の表情は見えない。理由としては、彼もまたゼナイド同様にお化けの仮装をしているからだ。
「そうですの……1階の様子はどうだったのかしら」
斧を下げながら息を吐くゼナイドの目は兵士に向いていない。視線は容赦なく屋敷に注がれている。
「おどろおどろしい雰囲気で、部屋の窓も黒い布で覆われていて視界も悪い状態で――」
『ぎゃあああああああっ!』
「今の声は!」
屋敷から激しい叫び声が聞こえて来た。
「ハンターを待ってる余裕はありませんわね。行きますわよ!」
歪虚が増え続ける今、貴重な戦力を失うのは痛い。
ゼナイドは仮装した兵士を伴って突入すると、真っ直ぐに2階を目指した。
「到着後、直ぐに戦闘に入れるように準備をなさい」
2階に伸びる階段を駆け上がり、悲鳴が聞こえた部屋を目指す。だが廊下に差し掛かった所で彼女の足は止まった。
「うあああああああ!」
「ぎゃああああああ!」
3つある部屋を行ったり来たりする仮装した兵士。その後ろからノコギリらしき物を持って追い掛ける巨大な生き物がいる。
「「グォォオオオ♪ グホッ♪ グホホホッ♪」
嬉々として兵士を追い掛ける生き物は、悪魔のような顔に似合わないサラサラのロングヘアーをしており、走る度に腐臭を髪から撒き散らしている。
全身はちょっと腐ってます程度のマッチョで、ハッキリ言って武器より筋肉で盛り上がった腕の方が怖い。
「まさか……あれが歪虚ですの……?」
「……その様ですね」
ゼナイドの倍はあろうかと言う巨体ながら、本気で逃げる兵士を追い駆ける足は速い。
「どうなさいますか?」
「放っておきましょう」
「え、ですが……」
「あの様子でしたら暫くは大丈夫ですわ。ああいう手合いはハンターの方が得意ですわよ、きっと」
ゼナイドはそう言うと、やや疲れた様子で斧を下ろして息を吐いた。
その目には歪虚に破壊された入り口が見えるが、もうそこはどうでも良い。と言うか、全身で入り口を破壊する敵って如何なんだろう。
そんな頭を過ったが、ゼナイドは全力でそれを振り払うと、もう1度大きな溜息を零した。
リプレイ本文
「……色々言いたい事はありますが、良く来ましたわね」
歪虚のいる洋館の2階。
ゼナイド(kz0052)は集まったハンターを見回してそう言った。
この言葉に猫耳カチューシャを付けたメーナ(ka1713)が慌てて頭を下げる。
「お待たせしてごめんなさいですにゃ!」
ふわりと揺れたカチューシャに一瞬目を奪われるが、ちょっと待て、と。
「それは何の仮装ですの?」
猫耳を付けただけの仮装のような気もするが、お化けと指定した以上は何かのお化けなのだろう。
「化け猫よ! 武器は鉄パイプだからちょっと物騒な感じになっちゃったけど……相手が相手だし良いわよね!」
「おわっ!」
力説しながら振り回した鉄パイプが、傍にいた那月 蛍人(ka1083)にぶつかりそうになる。
そんな彼の頭には深編みの笠が被せてあるのだが、何ぞそれは。
「見たことのない被り物ですわね。付いているのは本物の血かしら?」
「い、いや、流石に本物は……ってそれより、アレ助けなくて良いの?」
蛍人が指差した先には歪虚に追い駆けられる兵士がいる。実は彼等の視線の先では歪虚と兵士の追いかけっこが延々と続いていた。
しかし――
「まだ大丈夫ですわよ。で、貴方の仮装は何かしら」
「幽霊虚無僧……的な物?」
「幽霊虚無僧?」
「昔入ったお化け屋敷にいた骸骨の虚無僧を思い出してこの仮装にしてみたんだ。ちなみにこの血は血糊だよ」
「血糊?」
そもそも虚無僧とは何なのか。その辺を突っ込みたかったが、彼女の目は既にその後ろで佇むへんてこな兎に向いていた。
「……いろいろ危険な匂いのする兎ですわね。ツッコまない方が良いのかしら」
触らぬ神に祟りなし。そんな言葉が頭を過るが、その声に兎そのものが物を申した。
「ハハッ、ラビーダヨー」
低速低温の嫌な声にゼナイドの目が眇められる。それを見止めたディル・トイス(ka0455)が、一瞬だけ兎を見た。
口元からお腹までを血糊で汚した兎の着ぐるみの中身はミカ・コバライネン(ka0340)だ。
彼曰く、リアルブルーでオカルト的人気のマスコットらしいが、正直その趣向は分らない。
「……目を合わせづらいのは何でだろう」
不可思議な存在感に目を逸らしたディルは、こちらを見ている何かに気付いた。
赤の短いスカートに白いシャツ。おかっぱ頭のウィッグを被った天竜寺 舞(ka0377)は暗がりにもわかる程に耳を赤く染めてスカートの裾を握り締めていた。
(失敗したー!)
リアルブルーにある日本と言う国の幽霊に変装したのだが、動き易さを重視した結果、別の意味で動き辛くなってしまった。
「み、見たら怒るからね!」
青白いメイクなのに真っ赤な顔で睨み付ける彼女に、ディルがコクコクと頷く。そんなディルはミイラの仮装で、これはゼナイドも理解できるらしくツッコんでこなかったのだが、どうしてもツッコまなければいけないモノがある。
「敢えて聞いて差し上げますわ。それは何ですの?」
問い掛けた先に居たのは、自慢の髭と髪の毛を結んで頭を毛玉に変えたヴァルトル=カッパー(ka0840)だ。
彼は髪と同色の毛皮で全身を隠しており、毛玉になってしまって息苦しい口にはシュノーケルをしていた。
「毛もくじゃらなナニカなのだ」
もごもごと聞こえて来た声に、「まんまですわね」と零してゼナイドの目が逸らされる。
いや、それ以上の言葉を返されても返事に困るだけなのだが、それにしてもハンターは濃い!
「郷に入れば郷に従えって奴で」
不意に聞こえた声に振り返りビクッとした。
「ソノヒキツッタカオ、スキダナ……なんて遊んでないで仕事な」
いつの間にか傍に立っていた兎の着ぐるみの発した言葉に口元が引き攣る。その様子を見ていたディルがふと首を傾げた。
(……ゼナイドさんは怖いの苦手……なのか?)
「い、いや、詮索するとあとが怖そうだからいいや」
ふるりと首を振って前を向く。
さてこれからワイルドデビル――こと、変態腐臭悪魔との戦闘が開始する。
「準備はよろしくて?」
ハンター達の動きはザッと確認した。
ゼナイドは不可思議な仮想で身を包んだ彼等を見回すと、手にしていた大きな斧を振り降ろした。
「さあ、思う存分変態をぶちのめしなさい!」
●
3つある部屋をグルグルと回る兵士と歪虚。それらを視界にハンター達は自分等に与えられた任務をこなすべく配置についていた。
「涼しくないではないか」
ぶつぶつ呟くヴァルトルは足音を頼りに近付く歪虚を確認する。徐々に近付く歪虚、それは洋館に漂う腐臭からも察する事が出来る。
「俺の足では追いつけぬであろう。こちらにやってくるのを待つとしよう」
狙いは歪虚が走ってくる瞬間。そして狙うべきノコギリが見えた瞬間だ。
そして彼とは別の曲がり角で待機するのは舞と蛍人、そして奇妙な兎――基、ミカである。
「そろそろだな……良いか、絶対に見るなよ!」
短すぎるスカートを押さえながら睨む彼女に、蛍人は無言で頷く。その手には虚無僧らしい錫杖が握られている。
「にしても、仮装するお化け屋敷なんて珍しいな」
リアルブルーではそんな事なかった。そう零した時だ。
「グォォオオオ♪」
ストレートロングの髪を靡かせて歪虚が駆けてきた。その前には必死に逃げる兵士の姿もある。
「行こう」
舞と頷き合って飛び出す。
「あ、アンタたちは……」
「ここは任せて先に行け!」
「捕まえられる物なら捕まえてみな!」
歪虚の前に飛び出した2人に兵士の足が止まりそうになる。が、その腕をミカが引き寄せた。
「な――」
(しー)
何が起きたのか。思わず声を発しようとした兵士に向かってミカが人差し指を立てる仕草を見せる。そして彼等の上に毛布を被せて暗闇に隠すと、物凄い勢いで舞と蛍人が駆け抜けて行った。
「ちょ、速ッ!?」
「うわああああああ!」
兵士と入れ替わった2人だったが、意外にも歪虚に追い付かれそうだ。必死に駆ける2人が目指すのは第2地点だ。
何だか赤い毛玉が見えるが……まあ、大丈夫だろう。
「くっ、捕まってたまるか!」
ステップを踏みながら伸びる腕を回避する舞。その度にスカートが舞い上がるのだが、幸いなことに辺りは暗くて見えない。
しかも蛍人に到っては逃げるだけでいっぱいいっぱい。
とにかく歪虚に捕まらないように逃げている。
「まずは第一陣」
舞のスカートには視線を寄越さないようにしながら、ディルは事前に用意していたロープに手を掛ける。そうして蛍人が転がり込んでくると、彼と2人で紐を引っ張った。
「いやああああっ!」
悲鳴はメーナの物だ。
彼女はスローモーションの如く舞い上がった歪虚に視線を飛ばしている。
「まっちょが……ゾンビって骨と皮しかないやつじゃないのにゃ? 何で皮が……ううん、肉があるのにゃ……」
ぶわっと逆立った毛にブルリと身を震わす。
だってそうだろう? 悪魔の顔をしたストレートロングヘアのゾンビが、ロープに足を引っ掛けて前に飛んで行くのだ。これが恐ろしい以外の何だと言うのか。
だが惨事はこれで納まらなかった。
「マイ!」
「ひぃっ!」
蛍人はロープを引っ張る際に避けていたが、舞は違った。
彼女は飛んでくる歪虚に視線が釘付け。しかも足が止まっている。
「……仕方ありませんわね」
こうなったら斧を投げて助けるか。そうゼナイドが構えた時だ。思わぬ所から救いの毛玉が飛んで来た。
「痛ってぇな! 何処見ておるのだっ!」
なんとなく自分から突進した気がしないでもないが、ヴァルトルが歪虚の信仰を遮った……と言うか、嫌なぶつかり方をした。
「ひぃっ!?」
歪虚が飛ぶのとほぼ同時に展開したメーナのシャインが今起きた事を映し出していた。
今起きた事、それはヴァルトルと歪虚の……いや、ここで敢えて語るのは止めよう。とりあえず、目撃してしまったハンターとゼナイドは顔色が悪い。
「ヴァ、ヴァルトル……大丈夫、にゃ……?」
恐る恐る問い掛けたメーナに、シュノーケルを吹き飛ばしてしまったヴァルトルが「うがあっ!」と起き上がった。
「グオッホッホー♪」
目の前で立ち上がったヴァルトルにご機嫌になった歪虚が抱き付く。しかもスリスリ頬擦りしたり、ハグしたりと、抱擁付きだ。
「俺の事は良い、こいつを倒すのだっ!」
ミシミシと骨が軋むが、逃げるわけにはいかない。今自分が耐える事で得られる物がある。
ヴァルトルは悲鳴を押し殺して皆に攻撃を促した、これにミカが呟く。
「……行くか」
この声にディルと蛍人がハッとなって頷く。
見た目こそイヤンな感じだが、今がチャンスであることは間違いない。
3人は息を合せるように頷き合うと、事前に決めていた行動に出るべく飛び出した。それに次いでメーナも鉄パイプを構えるのだが、密かにディルが置いていたランタンが彼女の武器を光らせた。
「グォッホ?」
優雅に髪を揺らして振り返った歪虚に、彼女の米神がヒクリと揺れる。
「何だろう何か腹立つんだけ……っ、いやぁぁ来ないでよー!」
ヴァルトルに夢中ですっかり油断していた。
「光に反応するのかな?」
周囲の音は耳栓で塞いでいるのでイマイチだが、今の行動を見ているとそんな気がしてくる。
舞は手にしていたLEDライトを揺らすと、ヴァルトルを抱き締めたまま駆け出そうとした歪虚を招いた。
「鬼さんこちら!」
「グホホォッ♪ オッホホホホォッ♪」
お気に召したらしい。
今まで抱えていたヴァルトルを手放すと、歪虚は唐突に舞に向かって駆け出した。
「え!? いきなり動いたら――」
「あっ」
止まっていた歪虚目掛けて振り下ろした蛍人の仕込み杖が歪虚の髪を両断した。
これにディルがぎこちなく視線を逸らし、メーナも思わず「あっ」と声を零す。
そして当の歪虚は頬を流れて行く髪の毛に、目を丸くして振り返った。その仕草はぎこちなさに満ちており、歪虚の衝撃を物語っていた。
「あ……ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
徐々に溜まって行く濁った涙。
どうやらあの髪の毛は歪虚のお気に入りだったらしい。何か言いたげに髪の毛を握り締めるその仕草が切ない。
「だっ、大丈夫かっこいいって! 似合ってる!」
「り……リアルブルーではお化屋敷で散髪するんだって……」
慌てて蛍人とディルが言葉を重ねるが歪虚は聞いていない。
「グ――ッ!?」
全身を振るい上がらせて奇声を発しようとした。が、そこにミカの用意した毛布が突っ込まれる。
モガモガと目を見開いて猛抗議。そして凄まじい勢いで毛布を噛み切ると、それを持っていたミカの腕にも喰らい付いた。
「っ、……まあ、そうなるよな」
言いながら苦痛に顔を歪める。しかし彼に追撃が来る事は無かった。
「もうそろそろ遊びは終わりな!」
深紅の瞳を輝かせて舞の洗練された刃が歪虚の足を叩く。そうする事で巨体を傾かせると、ディルの刃が畳み掛けるように敵の腕を裂いた。
「ゥォォオオオッ!」
裂かれた腕から腐敗した液体が飛び散る。それに眉を顰めながらも、ディルはもう一打を見舞おうと武器を構えた。
だが歪虚も必死だ。
大振りの一撃を見舞おうと片足を下げ、ノコギリを後方に下げた。そして力を溜めて一気に――
「ほ……ほぉ、なかなかの切れ味であるな……ちょっと後で味見させてもらう、寄越すが良い」
腕は確かに振り降ろされていた。しかし完全に振り切る前にヴァルトルが自分の体を使ってノコギリごと歪虚の腕を掴んだ。
当然ヴァルトルが無傷の筈もない。
口端から血を滴らせながら、それでもノコギリに喰らい付く。その執念にゾッと背を震わせながらも、メーナは攻撃の機会を伺うのを怠らなかった。
「食らうが良いにゃ!」
体や腕に巻き付く蔦。それが作り出す翼を越えて振り上げた鉄パイプが歪虚の背後から脳天目掛けて振り下ろされる。
「グァォォオオッ!」
グニャリと歪んだ頭にメーナの表情も歪む。だが汚い物を最期まで見る必要はなかった。
「髪の毛、ごめんねっ!」
謝っても容赦はしない。
蛍人は全てを覆い隠すように錫杖から光の弾を放つと、鉄パイプに叩かれて歪んだ頭を必死に抑える歪虚にトドメを刺した。
●
戦闘後、洋館の外に出た蛍人は、疲弊した様子で地面に座り込んでいた。
「歪虚にも色んなやつが居るんだな……」
正直しんどかった。そう零す彼の顔色は悪い。
そしてそんな彼の隣で、同じように顔色が悪いながらも負傷したヴァルトルにメーナがヒールを掛けていた。
「……大丈夫ですか?」
ダラダラと血を流すヴァルトルは、見た目よりは軽傷らしく、彼女の心配を他所にピンピンした様子である物を見詰めていた。
「なかなかの業物であるな……ど、どんな味がするのであろうか……じゅるっ」
思わず漏れた唾液を腕で拭う彼に、再びメーナの背がゾクリと震える。それでも治療の手を止めないのは、優しさゆえか、それとも好奇心ゆえか。
「ちょっと、白い物とか見えなかったよね?」
「え、白?」
何? そう目を瞬くのは、何故か舞に睨まれたディルだ。
「ううん、見えてなかったなら良いの! いやぁ、本当に良かったね!」
明らかに自分がホッとしているのだが、次に聞こえた小さな声に、ディルもホッと胸を撫で下ろす事になる。
その言葉とはこうだ。
「見えてたらあらゆる手段で記憶を忘却させなきゃいけない所だった」
「!?」
たぶん、ディルにとって今が一番危機的状況だったかもしれない。
そしてそんなやり取りを眺めながら煙草に火を灯したミカは、大して出なかった負傷者に安堵の息を零していた。
「あー……良かった」
相談時の冗談が元で怪我人が出ていたら洒落にならなかった。まあ、無傷ではないが、大丈夫、大丈夫。
ふぅっと吐き出した紫煙が空へ上って行く。
それを視界端に納め、ゼナイドは口角を上げてハンター達を見回した。
「面白い戦いでしたわね」
ふふ。そう口中で笑うと、彼女は自身の斧を肩に担ぎ、全員に帰還命令を出したのだった。
歪虚のいる洋館の2階。
ゼナイド(kz0052)は集まったハンターを見回してそう言った。
この言葉に猫耳カチューシャを付けたメーナ(ka1713)が慌てて頭を下げる。
「お待たせしてごめんなさいですにゃ!」
ふわりと揺れたカチューシャに一瞬目を奪われるが、ちょっと待て、と。
「それは何の仮装ですの?」
猫耳を付けただけの仮装のような気もするが、お化けと指定した以上は何かのお化けなのだろう。
「化け猫よ! 武器は鉄パイプだからちょっと物騒な感じになっちゃったけど……相手が相手だし良いわよね!」
「おわっ!」
力説しながら振り回した鉄パイプが、傍にいた那月 蛍人(ka1083)にぶつかりそうになる。
そんな彼の頭には深編みの笠が被せてあるのだが、何ぞそれは。
「見たことのない被り物ですわね。付いているのは本物の血かしら?」
「い、いや、流石に本物は……ってそれより、アレ助けなくて良いの?」
蛍人が指差した先には歪虚に追い駆けられる兵士がいる。実は彼等の視線の先では歪虚と兵士の追いかけっこが延々と続いていた。
しかし――
「まだ大丈夫ですわよ。で、貴方の仮装は何かしら」
「幽霊虚無僧……的な物?」
「幽霊虚無僧?」
「昔入ったお化け屋敷にいた骸骨の虚無僧を思い出してこの仮装にしてみたんだ。ちなみにこの血は血糊だよ」
「血糊?」
そもそも虚無僧とは何なのか。その辺を突っ込みたかったが、彼女の目は既にその後ろで佇むへんてこな兎に向いていた。
「……いろいろ危険な匂いのする兎ですわね。ツッコまない方が良いのかしら」
触らぬ神に祟りなし。そんな言葉が頭を過るが、その声に兎そのものが物を申した。
「ハハッ、ラビーダヨー」
低速低温の嫌な声にゼナイドの目が眇められる。それを見止めたディル・トイス(ka0455)が、一瞬だけ兎を見た。
口元からお腹までを血糊で汚した兎の着ぐるみの中身はミカ・コバライネン(ka0340)だ。
彼曰く、リアルブルーでオカルト的人気のマスコットらしいが、正直その趣向は分らない。
「……目を合わせづらいのは何でだろう」
不可思議な存在感に目を逸らしたディルは、こちらを見ている何かに気付いた。
赤の短いスカートに白いシャツ。おかっぱ頭のウィッグを被った天竜寺 舞(ka0377)は暗がりにもわかる程に耳を赤く染めてスカートの裾を握り締めていた。
(失敗したー!)
リアルブルーにある日本と言う国の幽霊に変装したのだが、動き易さを重視した結果、別の意味で動き辛くなってしまった。
「み、見たら怒るからね!」
青白いメイクなのに真っ赤な顔で睨み付ける彼女に、ディルがコクコクと頷く。そんなディルはミイラの仮装で、これはゼナイドも理解できるらしくツッコんでこなかったのだが、どうしてもツッコまなければいけないモノがある。
「敢えて聞いて差し上げますわ。それは何ですの?」
問い掛けた先に居たのは、自慢の髭と髪の毛を結んで頭を毛玉に変えたヴァルトル=カッパー(ka0840)だ。
彼は髪と同色の毛皮で全身を隠しており、毛玉になってしまって息苦しい口にはシュノーケルをしていた。
「毛もくじゃらなナニカなのだ」
もごもごと聞こえて来た声に、「まんまですわね」と零してゼナイドの目が逸らされる。
いや、それ以上の言葉を返されても返事に困るだけなのだが、それにしてもハンターは濃い!
「郷に入れば郷に従えって奴で」
不意に聞こえた声に振り返りビクッとした。
「ソノヒキツッタカオ、スキダナ……なんて遊んでないで仕事な」
いつの間にか傍に立っていた兎の着ぐるみの発した言葉に口元が引き攣る。その様子を見ていたディルがふと首を傾げた。
(……ゼナイドさんは怖いの苦手……なのか?)
「い、いや、詮索するとあとが怖そうだからいいや」
ふるりと首を振って前を向く。
さてこれからワイルドデビル――こと、変態腐臭悪魔との戦闘が開始する。
「準備はよろしくて?」
ハンター達の動きはザッと確認した。
ゼナイドは不可思議な仮想で身を包んだ彼等を見回すと、手にしていた大きな斧を振り降ろした。
「さあ、思う存分変態をぶちのめしなさい!」
●
3つある部屋をグルグルと回る兵士と歪虚。それらを視界にハンター達は自分等に与えられた任務をこなすべく配置についていた。
「涼しくないではないか」
ぶつぶつ呟くヴァルトルは足音を頼りに近付く歪虚を確認する。徐々に近付く歪虚、それは洋館に漂う腐臭からも察する事が出来る。
「俺の足では追いつけぬであろう。こちらにやってくるのを待つとしよう」
狙いは歪虚が走ってくる瞬間。そして狙うべきノコギリが見えた瞬間だ。
そして彼とは別の曲がり角で待機するのは舞と蛍人、そして奇妙な兎――基、ミカである。
「そろそろだな……良いか、絶対に見るなよ!」
短すぎるスカートを押さえながら睨む彼女に、蛍人は無言で頷く。その手には虚無僧らしい錫杖が握られている。
「にしても、仮装するお化け屋敷なんて珍しいな」
リアルブルーではそんな事なかった。そう零した時だ。
「グォォオオオ♪」
ストレートロングの髪を靡かせて歪虚が駆けてきた。その前には必死に逃げる兵士の姿もある。
「行こう」
舞と頷き合って飛び出す。
「あ、アンタたちは……」
「ここは任せて先に行け!」
「捕まえられる物なら捕まえてみな!」
歪虚の前に飛び出した2人に兵士の足が止まりそうになる。が、その腕をミカが引き寄せた。
「な――」
(しー)
何が起きたのか。思わず声を発しようとした兵士に向かってミカが人差し指を立てる仕草を見せる。そして彼等の上に毛布を被せて暗闇に隠すと、物凄い勢いで舞と蛍人が駆け抜けて行った。
「ちょ、速ッ!?」
「うわああああああ!」
兵士と入れ替わった2人だったが、意外にも歪虚に追い付かれそうだ。必死に駆ける2人が目指すのは第2地点だ。
何だか赤い毛玉が見えるが……まあ、大丈夫だろう。
「くっ、捕まってたまるか!」
ステップを踏みながら伸びる腕を回避する舞。その度にスカートが舞い上がるのだが、幸いなことに辺りは暗くて見えない。
しかも蛍人に到っては逃げるだけでいっぱいいっぱい。
とにかく歪虚に捕まらないように逃げている。
「まずは第一陣」
舞のスカートには視線を寄越さないようにしながら、ディルは事前に用意していたロープに手を掛ける。そうして蛍人が転がり込んでくると、彼と2人で紐を引っ張った。
「いやああああっ!」
悲鳴はメーナの物だ。
彼女はスローモーションの如く舞い上がった歪虚に視線を飛ばしている。
「まっちょが……ゾンビって骨と皮しかないやつじゃないのにゃ? 何で皮が……ううん、肉があるのにゃ……」
ぶわっと逆立った毛にブルリと身を震わす。
だってそうだろう? 悪魔の顔をしたストレートロングヘアのゾンビが、ロープに足を引っ掛けて前に飛んで行くのだ。これが恐ろしい以外の何だと言うのか。
だが惨事はこれで納まらなかった。
「マイ!」
「ひぃっ!」
蛍人はロープを引っ張る際に避けていたが、舞は違った。
彼女は飛んでくる歪虚に視線が釘付け。しかも足が止まっている。
「……仕方ありませんわね」
こうなったら斧を投げて助けるか。そうゼナイドが構えた時だ。思わぬ所から救いの毛玉が飛んで来た。
「痛ってぇな! 何処見ておるのだっ!」
なんとなく自分から突進した気がしないでもないが、ヴァルトルが歪虚の信仰を遮った……と言うか、嫌なぶつかり方をした。
「ひぃっ!?」
歪虚が飛ぶのとほぼ同時に展開したメーナのシャインが今起きた事を映し出していた。
今起きた事、それはヴァルトルと歪虚の……いや、ここで敢えて語るのは止めよう。とりあえず、目撃してしまったハンターとゼナイドは顔色が悪い。
「ヴァ、ヴァルトル……大丈夫、にゃ……?」
恐る恐る問い掛けたメーナに、シュノーケルを吹き飛ばしてしまったヴァルトルが「うがあっ!」と起き上がった。
「グオッホッホー♪」
目の前で立ち上がったヴァルトルにご機嫌になった歪虚が抱き付く。しかもスリスリ頬擦りしたり、ハグしたりと、抱擁付きだ。
「俺の事は良い、こいつを倒すのだっ!」
ミシミシと骨が軋むが、逃げるわけにはいかない。今自分が耐える事で得られる物がある。
ヴァルトルは悲鳴を押し殺して皆に攻撃を促した、これにミカが呟く。
「……行くか」
この声にディルと蛍人がハッとなって頷く。
見た目こそイヤンな感じだが、今がチャンスであることは間違いない。
3人は息を合せるように頷き合うと、事前に決めていた行動に出るべく飛び出した。それに次いでメーナも鉄パイプを構えるのだが、密かにディルが置いていたランタンが彼女の武器を光らせた。
「グォッホ?」
優雅に髪を揺らして振り返った歪虚に、彼女の米神がヒクリと揺れる。
「何だろう何か腹立つんだけ……っ、いやぁぁ来ないでよー!」
ヴァルトルに夢中ですっかり油断していた。
「光に反応するのかな?」
周囲の音は耳栓で塞いでいるのでイマイチだが、今の行動を見ているとそんな気がしてくる。
舞は手にしていたLEDライトを揺らすと、ヴァルトルを抱き締めたまま駆け出そうとした歪虚を招いた。
「鬼さんこちら!」
「グホホォッ♪ オッホホホホォッ♪」
お気に召したらしい。
今まで抱えていたヴァルトルを手放すと、歪虚は唐突に舞に向かって駆け出した。
「え!? いきなり動いたら――」
「あっ」
止まっていた歪虚目掛けて振り下ろした蛍人の仕込み杖が歪虚の髪を両断した。
これにディルがぎこちなく視線を逸らし、メーナも思わず「あっ」と声を零す。
そして当の歪虚は頬を流れて行く髪の毛に、目を丸くして振り返った。その仕草はぎこちなさに満ちており、歪虚の衝撃を物語っていた。
「あ……ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
徐々に溜まって行く濁った涙。
どうやらあの髪の毛は歪虚のお気に入りだったらしい。何か言いたげに髪の毛を握り締めるその仕草が切ない。
「だっ、大丈夫かっこいいって! 似合ってる!」
「り……リアルブルーではお化屋敷で散髪するんだって……」
慌てて蛍人とディルが言葉を重ねるが歪虚は聞いていない。
「グ――ッ!?」
全身を振るい上がらせて奇声を発しようとした。が、そこにミカの用意した毛布が突っ込まれる。
モガモガと目を見開いて猛抗議。そして凄まじい勢いで毛布を噛み切ると、それを持っていたミカの腕にも喰らい付いた。
「っ、……まあ、そうなるよな」
言いながら苦痛に顔を歪める。しかし彼に追撃が来る事は無かった。
「もうそろそろ遊びは終わりな!」
深紅の瞳を輝かせて舞の洗練された刃が歪虚の足を叩く。そうする事で巨体を傾かせると、ディルの刃が畳み掛けるように敵の腕を裂いた。
「ゥォォオオオッ!」
裂かれた腕から腐敗した液体が飛び散る。それに眉を顰めながらも、ディルはもう一打を見舞おうと武器を構えた。
だが歪虚も必死だ。
大振りの一撃を見舞おうと片足を下げ、ノコギリを後方に下げた。そして力を溜めて一気に――
「ほ……ほぉ、なかなかの切れ味であるな……ちょっと後で味見させてもらう、寄越すが良い」
腕は確かに振り降ろされていた。しかし完全に振り切る前にヴァルトルが自分の体を使ってノコギリごと歪虚の腕を掴んだ。
当然ヴァルトルが無傷の筈もない。
口端から血を滴らせながら、それでもノコギリに喰らい付く。その執念にゾッと背を震わせながらも、メーナは攻撃の機会を伺うのを怠らなかった。
「食らうが良いにゃ!」
体や腕に巻き付く蔦。それが作り出す翼を越えて振り上げた鉄パイプが歪虚の背後から脳天目掛けて振り下ろされる。
「グァォォオオッ!」
グニャリと歪んだ頭にメーナの表情も歪む。だが汚い物を最期まで見る必要はなかった。
「髪の毛、ごめんねっ!」
謝っても容赦はしない。
蛍人は全てを覆い隠すように錫杖から光の弾を放つと、鉄パイプに叩かれて歪んだ頭を必死に抑える歪虚にトドメを刺した。
●
戦闘後、洋館の外に出た蛍人は、疲弊した様子で地面に座り込んでいた。
「歪虚にも色んなやつが居るんだな……」
正直しんどかった。そう零す彼の顔色は悪い。
そしてそんな彼の隣で、同じように顔色が悪いながらも負傷したヴァルトルにメーナがヒールを掛けていた。
「……大丈夫ですか?」
ダラダラと血を流すヴァルトルは、見た目よりは軽傷らしく、彼女の心配を他所にピンピンした様子である物を見詰めていた。
「なかなかの業物であるな……ど、どんな味がするのであろうか……じゅるっ」
思わず漏れた唾液を腕で拭う彼に、再びメーナの背がゾクリと震える。それでも治療の手を止めないのは、優しさゆえか、それとも好奇心ゆえか。
「ちょっと、白い物とか見えなかったよね?」
「え、白?」
何? そう目を瞬くのは、何故か舞に睨まれたディルだ。
「ううん、見えてなかったなら良いの! いやぁ、本当に良かったね!」
明らかに自分がホッとしているのだが、次に聞こえた小さな声に、ディルもホッと胸を撫で下ろす事になる。
その言葉とはこうだ。
「見えてたらあらゆる手段で記憶を忘却させなきゃいけない所だった」
「!?」
たぶん、ディルにとって今が一番危機的状況だったかもしれない。
そしてそんなやり取りを眺めながら煙草に火を灯したミカは、大して出なかった負傷者に安堵の息を零していた。
「あー……良かった」
相談時の冗談が元で怪我人が出ていたら洒落にならなかった。まあ、無傷ではないが、大丈夫、大丈夫。
ふぅっと吐き出した紫煙が空へ上って行く。
それを視界端に納め、ゼナイドは口角を上げてハンター達を見回した。
「面白い戦いでしたわね」
ふふ。そう口中で笑うと、彼女は自身の斧を肩に担ぎ、全員に帰還命令を出したのだった。
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相談卓 ミカ・コバライネン(ka0340) 人間(リアルブルー)|31才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/08/28 00:44:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/24 00:36:18 |