美しき 君の瞳と 星朧

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/20 22:00
完成日
2016/04/29 11:15

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●リゼリオ
 ハンターズソサエティ本部があるこの町は、海岸近くの平地といくつかの島を含んだ都市だ。
 当然、港町としての機能も備えてあるのは言うまでもない事であった。
「これが、刻令術式外輪船なのですね」
 ローブ姿の魔術師の女性がフードを外しながら目の前の帆船に目を奪われていた。
 彼女の出身はグラズヘイム王国だ。ここまで大きい船は王国にはないかもしれない。噂によると超大型の船を建造しているとか聞くが、しょせんは地方貴族の娘。彼女がその真相を知る事はない。
 感心しているばかりのこの女性に船まで案内した青年が言った。
「リゼリオで建造中だった大型帆船を買い取り、刻令術式外輪船の実験船としたのには苦労しましたが」
 青年は船大工なのだろうか。
 まだ肌寒い季節なのにタンクトップ姿だ。筋肉隆々としており、背も高く、精悍な顔付きをしている。
「そうなのですか?」
「船というのは前後左右のバランスが重要なのです」
 そうでなければ、波を越える事も、ややもすれば浮いている事すらもできなくなる。
 建造途中とは言え、刻令術式の外輪を取りつけようというのだ。建造は難しくなるだろう。
 男性に向けていた視線を船に向き直して女性は口を開いた。
「次は、私が刻令術での操作を行う番ですね」
 女性はある騎士を通じて刻令術の技術者として勉強してきた。
 技術者の一人として、この船に乗り込み、外輪を動かすのだ。
「他にも先輩の技術者がいると聞いていますので、あまり、気を張らずに」
「はい。ですが、将来を期待されて王都から来たのです。ただのクルーズにならないように頑張ります!」
 ぐっと拳を握る。
 船はその物珍しさもあり、同盟や王国の富裕層向けディナークルーズ船として主利用されているのだ。
 役に立たない技術者は刻令術の操作室から叩きだされ、寂しくディナーを摂る事になるという。

●ハンターオフィス
「こちらが依頼内容となります」
 受付嬢が丁寧な口調で資料を手渡した。
 モニターには刻令術式外輪船の姿、そして、船内の様子が映し出されている。
「依頼主は船舶を運航管理しているとある商会からです。ハンターの皆さんには護衛を兼ねて船に乗る事になります」
 リゼリオ沖を周回するだけのようであるが、沖合に出ると雑魔や歪虚が現れる可能性は無しではない。
 客層は富裕層が多いようで、安全管理に万全を期している……というのが表向きの理由ではあるが、刻令術の実験を途中で止められたくないのも、理由の一つなのだろう。
「万が一、雑魔や歪虚など、運航に差し支えがる障害が発生した場合、速やかな排除をお願いします」
 過去に出現した雑魔がモニターに映し出される。
 人の手足が生えたような魚や、分泌液を撒き散らしながら迫る触手を持つイカやタコ……。
「覚醒者である皆さんのお力があれば、特に問題はないはずです」
 気持ち悪かったのだろうか、さっとモニターの表示が変わった。
 そこには、レストランの風景や甲板から見えるリゼリオの夜景。
「依頼を受けていただくのに、条件があります」
 モニター表示は次に豪華な寝室や入浴設備が映し出した。
「一般のお客様と同様、武器防具類を装着して船内で滞在は出来ません。他のお客様に分からないように武器を隠し持つ事は可能です。それと、服装は比較的自由ですが、常識の範囲内でお願いします」
 再三の注意による改善が見込めない場合、倉庫に押し込められる事になりますと受付嬢は続けた。
「雑魔が出現しない限り、一般のお客様と同様にお過ごし下さい。自費扱いになりますが、飲酒も可能ですし、船内の設備を利用する事もできます」
 つまりだ、これは護衛という名のディナークルーズという訳だ。
 当然、雑魔や歪虚が出現すれば軽装備で戦う事にはなるだろうが、出て来なければ問題はない。
「それと、刻令術の操作室や操舵室など運航に関わる場所への立ち入りは禁止されていますので、なにか御用があれば、船員までお問い合わせ下さい」
 最後に手渡された資料。
 それは富裕層向けのパンフレットだった。

リプレイ本文

●時音 ざくろ(ka1250)×アルラウネ(ka4841
 ゆっくりと岸壁を離れだしたクルーズ船。
 富裕層向けという事で内装は驚くほど贅沢であった。敷いてある真っ赤な絨毯はフワフワで飾りはキラキラと輝いている。
「豪華……夜景も、凄く綺麗なんだって……それに、アルラのドレス姿もよく似合ってる」
 ざくらが少し照れながら、アルラウネの姿をみつめる。
 グラデーションかかった彼女の髪がより美しく映えていた。当の本人はいささかキツそうな胸元を摘まんだ。
「ちょっと窮屈だけど」
「もし……脱ぐなら、ここの部屋でね」
 微笑を浮かべながら気を使ったはずのざくろの言葉だったのだが、勘違いしたアルラウネは突然脱ぎだし、胸元が露わになる。
「ちょ、ちょっと待って! まだ、身回りもあるし」
「……やっぱり、そっちの姿の方が好きなのね」
 乱れた服をさっと直すアルラウネ。
「もう! そういう意味じゃなくて!」
 ざくろが顔を真っ赤にして否定したのは言うまでも無い。

 船内を見回って異常がないか確認した二人はディナーを満喫し――アルラウネの酒代はざくろが負担し――今は、展望室で肩を寄せ合っていた。
「綺麗な夜景だよね……あれ? アルラ、少し酔った?」
 ジッとアルラウネの横顔を見つめる。
 彼女の、少しばかり赤みのある顔と、ドレス姿がいつもよりも色っぽく感じられた。
 その時、不意にぐらっと大きい波を越えて船が揺れる。咄嗟にアルラウネの身体を抱き支えた。
「……ざくろん、ありがとう」
「いっぱい飲むから」
「そうじゃなくて……こんな、ステキな所に誘ってくれた事に、ね」
 彼女の宝石の輝きのような瞳が潤んで見えた。
 引き込まれるように、ざくろはアルラウネの瞳をみつめる。
「その瞳に、吸い込まれちゃいそう」
 ざくろがアルラウネの顔に触れようとした時、再び船が揺れ――彼の手が肩袖に触れる。
 その手に艶めかしく自身の手を重ねてアルラウネは言った。
「……続きは部屋で、ね」
 彼の腕に自身の腕を絡ませ、二人は部屋に向かって歩み出した。

●檜ケ谷 樹(ka5040)×リルエナ
 大きい波があるのは外洋だからだろうか、慣れぬヒールを履くリルエナがバランスを崩し、前に倒れそうになるのを、さっと樹は手を伸ばして支えた。
 が、倒れる方が早かったのか樹の腕は彼女の豊満なそれを横から撫でただけであり、慌てて樹はもつれながら彼女の全身を逆の腕で支える。
「ありがとう、樹。どうも、飲み過ぎて、遊び過ぎたようだ」
 彼女は笑顔で告げる。
 桜色の長い髪と瞳が優しげな雰囲気を湛えていた。
 豪華な夕食を舌鼓し、痛快な娯楽を楽しみ、夜景を堪能した。リルエナは都度、驚きや楽しげな表情を浮かべ、樹は彼女を連れてきて良かったと思った。
 依頼主の好意で、彼女自身の乗船許可と費用は負担しなかったが、リゼリオまでの旅費や宿泊費等は樹が負担したのだ。
「少し、肌寒いね。部屋に戻ろう」
 その様に言いながら、リルエナに上着をそっと掛ける樹。
 彼女は返事の変わりに、ゆっくりと頷いて、樹に寄りかかった。
「樹が居た世界の夜景も見てみたい」
 彼女の台詞が波音の中、かすかに聞き取れた。

 船が海を進むように、夜の時間も進んでいく。
 二人の甘い一時が過ぎ、寝台で横になって、おぼろげな星空を眺める。
「……変えられたのは、僕の方なんだろうなぁ」
 生きるのに必死になって、美人で可愛い大切な人がいる。転移前では考えられなかった。
 このまま、この世界で彼女と一緒に暮らすのもいい。あの世界に帰らないでもいいかと、寝息を立てる彼女の頭を撫でながら思う。
「…………」
 眠気を感じ、樹はリルエナの寝顔を見つめつつ、心の中で決意しながら瞳を閉じた
「……リルエナ、僕は――――」

●アマリリス(ka5726)×ウェグロディ(ka5723
 食事は美味であった。
 食材は海や山はもちろん、今やかなり希少となったロッソ産のリアルブルーの物など多様で、当然の如く、お酒も進む。
「美味しかったわ。特に絶妙なソースと、白身魚のふわふわとした食感が……」
 ほろ酔い気分で部屋に戻るアマリリスが頬を押さえながら思い出すように言った。
「リリス、何か君の口に合うものはあったかな? リリスが望むなら、船を降りてからでも、また、僕が作ろう」
 ウェグロディはそう言いながら、そっとアマリリスの肩を抱き寄せた。
 先にお風呂を済ませていたのは正解だった。後は部屋に戻って、ふかふかのベッドに入るだけだ。
「……ロディ、一緒にお風呂入りたかった?」
 悪戯っぽく突然訊ねたアマリリスの言葉に不意を打たれたウェグロディは慌てた表情を浮かべる。
「も、もう、僕はそんな子供ではないよ」
 平静を装っている雰囲気が微笑ましく、甲板の途中でアマリリスは立ち止まった。
「少し、風に当たりたいわ」
 このまま部屋に帰ってしまうのは――勿体ない。
 そんな気をさせる星空だった。
 二人は並んで夜空を眺めていた。船が疾走する音が響く。
「……ねえ、ロディ。私達、いつまでこうなのかしらね……」

 ポツリ――アマリリスが顔は夜空に向けながら最愛の弟に呟いた。
 姉弟だから気兼ねなく甘えられる。心を許せる。だけど――姉弟は姉弟。その事実は変わらない。

「ロディは……私と何時まで一緒にいてくれるのかしらね?」

 声にならない程、小さい呟きだが、真横にいるウェグロディに聞こえない訳がない。
 弟は少し首を傾げて何かを言おうとした。それをアマリリスは頭を振って制した。

「……少し酔ったかしら」
 風で流れる赤い髪を手で押さえながらウェグロディに言う。
「忘れて。いえ、忘れなさい……せっかく、楽しんでるんだから、今は、この時間を大事にしましょう」
「……うん、分かったよ、リリス」
 姉がそう言うのであれば、それに従うだけの事。
 ウェグロディは姉を抱き寄せた。
「そろそろ、寝室へ帰ろうか」
 今晩は何時までも一緒だと思いながら、二人は寝室へと歩き出した。

●綿狸 律(ka5377)×皆守 恭也(ka5378
「うおぉ! すげぇぇ!! なんか、ピカピカしてるぅぅぅ!!!」
 興奮気味の律が瞳を輝かせていた。
 豪華絢爛とはこの事。船内の装飾に目を奪われながら、恭也の手を走る。人目もはばからず、走る。

「きょーや! きょーや! あっちから、美味そうな匂い!」
 そっちは厨房の方ですと教えようと思った恭也の言葉を遮り、律が別方向に向かって走り出す。

「きょーや! きょーや! こっちには、楽しそうな遊び場が!」
 あぁ……娯楽室ですねと口を開こうと思った恭也を再び引っ張って別の所へ行こうとする律。

「きょーや! きょーや!」
「律、落ち着きましょう」
 恭也に窘められ、不満そうに頬を膨らませる律。
 とりあえず、夕食なのだからと恭也は説明するのであった。

――

「箸がねぇ! きょーや! 箸ねぇぞ!」
「東方ではありませんしね」
 テーブルの上に並べられたフォークやナイフ、スプーン。
 律は恐る恐るスプーンに手を伸ばした。
「きょーや、見とけよー? 母さんに仕込まれたオレのテーブルマナーを!」
 頼もしい発言だ。
 恭也も慣れない銀食器に少し緊張していたが、それでも、主には言っておかなければならない事があった。
「律……最初は前菜ですよ」

――

 夕食を済ませ、お風呂で背中を流し合いながら昔話で盛り上がり、二人は寝室へと向かっていた。
 途中の甲板で空を見上げる。先程よりも雲はだいぶと流れただろうか。星空が明るく感じられた。
 船の縁に手を掛け、しばしの静寂。
 律が恭也の手を掴んだ。指輪の堅い感触が感じられる。
「きょーや、オレ、お前がオレの従者で良かったよ……こうやって、今でも、一緒にいてくれるしな」
「俺こそ、お前が主で良かった……これからも、傍で守らせてくれ」
 誓いの言葉を告げながら、恭也は優しく律の身体を抱き包む。
 律は抱擁の中で嬉しそうな笑みを浮かべると、つま先立ちして大切で大好きな恭也の頬を唇で触れた。
 溢れそうな愛を込めて。

●ウィアド(ka3220)×陽向居 酒楽(ka5161)
 桟橋の手前で酒楽は乗船する船を見上げていた。
「ほーぉ、豪華客船で周遊か」
 旨い酒にありつけるはずだ。
 胸の高鳴りを楽しみつつ、一歩踏み出そうとした所で、ぐっと袖を引っ張られた。
「……酒楽さんはどうしていつもの格好なんだ?」
 振り返ると、普段と違う見なれない姿のウィアドがいた。
 ダークグレーのスーツに真っ赤なネクタイが映えている。真っ赤な長い髪を1つに束ねている。
「あ? 正装しないとダメ!?」
「着の身着のままじゃダメだよ。ほら着替えて!!」
 用意周到。ウィアドの両手には整髪料や髭そり。足元にはスーツケース。
「面倒くせえなあ」
 ウィアドに引っ張られるように控えのターミナルへと連れて行かれる酒楽だった。

 娯楽室で賭博に興じ――ながら、護衛任務をしっかりとこなし、二人はバーで酒を酌み交わしていた。
「……酒楽さん、スーツ着て、髪を整えたら、なかなか男前じゃないか」
 王国産の希少価値が高いワインを口にしながらウィアドが言う。
 今の酒楽は普段と違って、ぼさぼさの髪を整え、無精髭を剃り、黒いスーツ姿だ。
「いつもこうしていたらいいのに」
「面倒くせえなあ」
 何度目かになる言葉を言い放ち、セットした髪に手を伸ばす。
「……ああ、もう。髪型崩しちゃダメだって、何度言えば……。整えるからじっとしてて」
 油断しているとすぐに正装を崩そうとする酒楽だが、都度、ウィアドが素早く直していた。
「ウィアド、お前よく平気だなあ……こんな窮屈な格好」
「仕事ですしって、言ってるそばから、ネクタイを緩めないで下さい」
 髪の次はネクタイ。
 クイっと形を直す。
「酒楽さんは、本当に世話が焼けるなあ。世話してくれる嫁さん探さないのか?」
「嫁? ああ、いたよ」
 通りすがった青髪の女性のドレス姿に、にやつきながらボソっと言う酒楽。
「え? 結婚してた? じゃあ奥さんは今……」
「もう亡くなってっけどな。俺にゃ、勿体無いくらいの、イイ女だったよ」
「……あの……辛いこと思い出させて、ごめん……」
 ぶわっと泣き出すウィアド。
 泣き上戸だったのかと思いながら、酒楽は泣いているウィアドの頭をわしゃわしゃと撫でながら笑った。
「ばーか、お前ェ何泣いてんの……よくある話さ。ただの昔話。朝になったら忘れちまいな」
「俺は孤児で、養父母に育てて貰って、その人達がすごくいい人で……大事な人を喪うってどんなことか良く分かるから……」
 瞳から零れ落ちる涙を手で拭いながらウィアドは続ける。
「よくある話、で流せる酒楽さんは大人なんだな……いや、大事な奥さんを亡くして辛くない訳ないじゃないか」
 バンっとグラスを置いて泣きながら酒楽に迫る。
「俺で良かったら、いくらでも話聞くから」
「あー、もう、男の涙なんざ見たくもねェや。話はまたな」
 ついに、自身の髪をぐちゃぐちゃに掻き巻き上げ、酒楽はボトルに手を伸ばした。
「さ、飲み直そうぜ! やっぱ、高い酒は美味ェ!」

 その後、飲み過ぎた酒楽がウィアドの膝枕で爆睡する事案が発生したが、飲みの席では稀に良くある事だという事で朝までそのままだったという。

●ヴィルマ・ネーベル(ka2549)×ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)
「綺麗だよ、ヴィルマ。お姫様みたい」
 魔女を自称している普段の彼女からは想像がつかない姿だ。ヨルムガンドはきょとんとした視線を向けていた。
 勝ち誇った様な表情を湛え、ヴィルマがヨルムガンドの素直な言葉をサラリと流して言った。
「そなた、この間、奢ってくれると言っておったのぅ?」
 ニヤリと笑ったヴィルマの視線に思わずヨルムガンドは目を逸らした。
 まさか、富裕層ターゲットのこの店で好き放題飲むつもりなのだろうか。
「クク、我も鬼ではない。一杯でいいのじゃ。ヨルガが選んでくれた一杯が飲みたいのじゃ」
「え、俺が選んで良いの?」
 一杯でいいのかと内心、ホッとしてヨルムガンドは注文を考える。
「楽しみじゃ。ヨルガが我にどんな一杯を飲ませるつもりなのかのぉ」
 ヴィルマに聞こえないように、ヨルムガンドは渋いバーテンダーの老人にそっと注文した。
「花言葉と同じように、カクテルにもカクテル言葉っていうのがあるんだって」
「カクテル言葉……今度、調べてみるのじゃ」
 素知らぬ振りで返しながら、頭の中でいくつかカクテル言葉を思い出す。
(ブルームーンなら『できない相談』だったはずじゃし、カルーアミルクなら『悪戯好き』だったのかのう……)
「注文したカクテルは、どんな意味なんだろうね?」
 悪戯っぽく笑ったヨルムガンドにヴィルマはスンと顔を上げる。
「花より団子じゃ。いや、この場合は、言葉より酒、じゃな」
 待ち遠しい雰囲気をチラチラさせながらバーテンダーが注ぐグラスを注視する。
 鮮やかなピンクで彩られたカクテルがヴィルマの前に差し出された。
「『ピンク・スクァーレル』でございます」
 バーテンダーがカクテル名を告げた。
(……まったく、分からんのぉ)
 ヨルムガンドの視線を感じながらカクテルを口につけた。

 甘い――。

 ふと、その甘さに今の状況が重なる。
 リゼリオの夜景を眺めながらバーで男と女が二人。
「護衛任務じゃ、これは護衛にn」
 心の中で感じていた事が言葉になっていたようだ。ヨルムガンドが直接的な言葉で言い放つ。
「状況的には、デート?」
「な、なな! た、確かに、男女で出かけることをデートと言ったりもするがのぅ……のぅ!」
 動揺し過ぎてグラスからカクテルが零れそうになる。
「だ、大丈夫? 急に変な事言ってごめん……」
「さ、酒の席じゃ、き、気にする事はないわ……ないのじゃ!」
 桃色のカクテルが楽しげに揺らいでいた。

 夜も更け、寝室に戻る二人。先にヴィルマの部屋の前に着いた。
「おやすみなさい、ヴィルマ」
「お、おやすみなのじゃ」
 ニッコリと笑いながら頭を撫でてヨルムガンドは、隣の自室へと向かう。
 その後ろ姿をヴィルマは先程貰った飴を手にしながら見つめていた。
(子どもでもあるまいに、ヨルガに飴を貰うと嬉しいのは、何故かのぅ)
 彼は振り向きもせず自室の前に着いた。
 そして取っ手を回す。そこまで見送り、ヴィルマも部屋の戸を開けて、飴玉の包装を剥がしつつ、部屋の中に足を踏み入れる。
 ヨルムガンドがふと視線を彼女へと向けた。
 ちょうど、ヴィルマが部屋にスッと入っていく姿を愛おしそうに眺める。
(ヴィルマの目が好き。青くて、キラキラしてて、海みたいに綺麗な瞳……もっと近くで見たいけど、怖がらせてしまうから……)
 そして、彼自身も飴玉に手を伸ばした。

 青い瞳を浮かべつつ、青い飴の甘さを感じながら、二人は其々、部屋へと戻ったのであった。


 おしまい。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師

  • ウィアド(ka3220
    エルフ|22才|男性|霊闘士
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • オヤジ魂全開
    陽向居 酒楽(ka5161
    人間(紅)|38才|男性|舞刀士

  • ヨルムガンド(ka5168
    人間(紅)|22才|男性|猟撃士
  • 仁恭の志
    綿狸 律(ka5377
    人間(紅)|23才|男性|猟撃士
  • 星朧の中で
    アマリリス(ka5726
    鬼|21才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/20 14:26:31