ゲスト
(ka0000)
【幻魂】狩るか狩られるか
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/22 19:00
- 完成日
- 2016/04/23 22:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●第二次防衛戦
――大幻獣『フェンリル』の死。
突如訪れた別離は、スコール族のファリフ・スコール(kz0009)に大きな変化を与えていた。
試練を乗り越え、霊闘士の新たなる力が覚醒。
フェンリルを祖霊としたファリフは、幻獣の森へ侵攻せんとする歪虚を前に立ち塞がる。
一方、歪虚の青木燕太郎(kz0166)はある目的の前に――暗躍を開始する。
様々な思惑が入り交じる中、連合軍と歪虚は再び刃を交えようとしていた。
幻獣の森は未だかつてない危機に瀕していた。死と破壊はもはや目前まで迫り、戦う力のない幻獣達はただ怯えるしかなかった。
多数の歪虚が攻めてきた第一次防衛戦では、人と幻獣の連合軍によって辛うじて幻獣の森を守ることは出来た。だが、次はあるのだろうか? さらにその次があったらどうすればいいのか? その問いに答えられるものはいなかった。
だが、それでも。この幻獣の森を守るために立ち上がる者達がいた。それは勇気なのか、それとも蛮勇か。その答えが出るのは、戦いが終わった時であろう。
「隊長、偵察からの報告が届きました」
「ご苦労様です。早速確認させてください」
幻獣の森の一角に設けられた猫型幻獣達の作戦本部にて、三毛猫の大幻獣トリィが部下から報告を受ける。
再び幻獣の森を囲んできた歪虚の軍勢。既に小競り合いは始まっており、本格的な進攻も時間の問題であろう。
報告によると幻獣の森の西部の敵は、森林地帯では黒い狼型と鳥型の歪虚が、平原地帯では多数の巨人部隊が確認されている。
「黒い狼と鳥の歪虚……ルプナートルですか」
「恐らく。前回と同じならば森を抜けた先にいるかと思います」
魔人ルプナートル。狩人と称し幻獣を狩るこの歪虚は、幻獣達にとって忌むべき敵であり恐怖の対象であった。
第一次防衛戦でもその姿は確認されており、ハンター達との戦いで手傷を負ったもののその傷も今は癒えてしまっているだろう。
「前回と同じく防戦に徹すれば抑えられないことはないでしょうが……」
「ええ、それだけでは今回はよくても、また次、その次へと問題を先送りするだけで解決になりません」
守っているだけではいけない。それだけではいつまでもこの襲撃は続き、いずれこの森は陥落するだろう。
だからここで歪虚達に痛手を負わせ、幻獣の森に手を出せばただでは済まない事を示さなくてはならない。そして何より、恐れと不安に苛まれた幻獣の仲間達を今一度奮い立たせる為にも、そのきっかけを作らなくてはならない。
その為にトリィは決断する。魔人ルプナートルを討つために、その命を賭けると。
「彼らの協力は取り付けられましたか?」
「はい。脚の早い選りすぐりが集まってくれました」
「それは良かった。それでは準備を進めてください。私はハンターの皆さんに会ってきます」
トリィはそう一言残し、ハンター達が休憩所として使ってるテントへと向かう。
と、その前に少し立ち止まり、木々の隙間から覗く空を見上げた。
「折角の昼寝日和なのに、残念です」
●決死隊
ハンター達が休んでいるテントに、小さな猫型幻獣が顔を覗かせた。三毛猫のトリィ、人の言葉を介せる数少ない大幻獣のうちの一匹だ。
トリィはハンター達の視線を受け、ぺこりと小さくお辞儀をする。
「まず皆さんにお礼を言わせてください。私達幻獣の為に力を貸していただき、本当にありがとうございます」
開口一番に感謝の言葉を述べられて、ハンター達は驚いた顔や不思議そうな表情を見せながらもそれを快く受け取った。
「そして皆さんに謝らなければなりません。私はこれから皆さんに酷いお願い事をさせて頂きます」
トリィのその言葉にハンター達は何かよくない話があるのだと悟り、表情を引き締めて次の言葉を待つ。
「私はこの戦いに負ければ後はないと考えています。例え今回は凌げたとしても、次も同じ規模の襲撃を受けたら持たないでしょう」
そんなことはない、とは誰も言えなかった。前回の戦いで人だけでなく多くの幻獣達が傷を負い、命を落とした。だから人と幻獣の連合軍は戦力としては確実に前回より落ちている。それに対して歪虚の軍勢はまるで堪えた様子がなく、前回と同じかそれ以上の規模で攻めてきている。
「だから今回、私は打って出ることにしました。憎き怨敵、魔人ルプナートルを討つのです」
守るのでなく、敢えてこちらから攻撃を仕掛ける。勿論防衛をしないわけではない。それはトリィの部下の猫型幻獣や他のハンター達に任せるのだ。
そしてその間に少数精鋭を持って魔人ルプナートルと接敵し、これを打ち取る。この戦いに勝つために、そして幻獣の森の未来を繋ぐ為にはあの魔人の討伐が絶対条件なのだ。
「この作戦に参加する者は決死隊となります。まず無傷では帰れないでしょう。それでも私はお願いさせて頂きます。貴方達に力を貸して欲しいと」
死を覚悟しそれを厭わず作戦の成功こそを第一とする、それが決死隊というもの。生半可な覚悟では逆に足手まといになるだろう。だからこそトリィはここで問う、それでも着いてきてくれるか、と。
トリィは返事を待たずして、テントの外へと出た。ハンター達がそれに続けば、そこには見慣れぬ幻獣達が出迎えてくれた。
全長3mほどの大型の獣。美麗と言える曲線的なフォルムに、燃えるような赤い毛並み。リアルブルーでは豹と呼ばれている動物と酷似したその幻獣は、鋭い目でハンター達を捉えていた。
「彼らはこの森の中でも1、2位を争う俊足の幻獣です。ルプナートルの下へは彼らに運んでもらいます」
この豹型幻獣達は、騎乗型幻獣で知られるイェジドやリーリーに負けない足を持つとトリィは説明してくれる。ただ、速さに特化した分だけ耐久や防御力に劣り戦闘は得意ではないらしい。故に戦闘に参加するのはトリィとハンター達だけとなる。
トリィは地面を蹴って跳躍すると、豹型幻獣達のうちの一匹の背に乗り、そしてハンター達に問いかける。
「さあ、皆さん。私に命を預けてくれる覚悟はできたでしょうか?」
ハンター達に決断が迫られる。
――大幻獣『フェンリル』の死。
突如訪れた別離は、スコール族のファリフ・スコール(kz0009)に大きな変化を与えていた。
試練を乗り越え、霊闘士の新たなる力が覚醒。
フェンリルを祖霊としたファリフは、幻獣の森へ侵攻せんとする歪虚を前に立ち塞がる。
一方、歪虚の青木燕太郎(kz0166)はある目的の前に――暗躍を開始する。
様々な思惑が入り交じる中、連合軍と歪虚は再び刃を交えようとしていた。
幻獣の森は未だかつてない危機に瀕していた。死と破壊はもはや目前まで迫り、戦う力のない幻獣達はただ怯えるしかなかった。
多数の歪虚が攻めてきた第一次防衛戦では、人と幻獣の連合軍によって辛うじて幻獣の森を守ることは出来た。だが、次はあるのだろうか? さらにその次があったらどうすればいいのか? その問いに答えられるものはいなかった。
だが、それでも。この幻獣の森を守るために立ち上がる者達がいた。それは勇気なのか、それとも蛮勇か。その答えが出るのは、戦いが終わった時であろう。
「隊長、偵察からの報告が届きました」
「ご苦労様です。早速確認させてください」
幻獣の森の一角に設けられた猫型幻獣達の作戦本部にて、三毛猫の大幻獣トリィが部下から報告を受ける。
再び幻獣の森を囲んできた歪虚の軍勢。既に小競り合いは始まっており、本格的な進攻も時間の問題であろう。
報告によると幻獣の森の西部の敵は、森林地帯では黒い狼型と鳥型の歪虚が、平原地帯では多数の巨人部隊が確認されている。
「黒い狼と鳥の歪虚……ルプナートルですか」
「恐らく。前回と同じならば森を抜けた先にいるかと思います」
魔人ルプナートル。狩人と称し幻獣を狩るこの歪虚は、幻獣達にとって忌むべき敵であり恐怖の対象であった。
第一次防衛戦でもその姿は確認されており、ハンター達との戦いで手傷を負ったもののその傷も今は癒えてしまっているだろう。
「前回と同じく防戦に徹すれば抑えられないことはないでしょうが……」
「ええ、それだけでは今回はよくても、また次、その次へと問題を先送りするだけで解決になりません」
守っているだけではいけない。それだけではいつまでもこの襲撃は続き、いずれこの森は陥落するだろう。
だからここで歪虚達に痛手を負わせ、幻獣の森に手を出せばただでは済まない事を示さなくてはならない。そして何より、恐れと不安に苛まれた幻獣の仲間達を今一度奮い立たせる為にも、そのきっかけを作らなくてはならない。
その為にトリィは決断する。魔人ルプナートルを討つために、その命を賭けると。
「彼らの協力は取り付けられましたか?」
「はい。脚の早い選りすぐりが集まってくれました」
「それは良かった。それでは準備を進めてください。私はハンターの皆さんに会ってきます」
トリィはそう一言残し、ハンター達が休憩所として使ってるテントへと向かう。
と、その前に少し立ち止まり、木々の隙間から覗く空を見上げた。
「折角の昼寝日和なのに、残念です」
●決死隊
ハンター達が休んでいるテントに、小さな猫型幻獣が顔を覗かせた。三毛猫のトリィ、人の言葉を介せる数少ない大幻獣のうちの一匹だ。
トリィはハンター達の視線を受け、ぺこりと小さくお辞儀をする。
「まず皆さんにお礼を言わせてください。私達幻獣の為に力を貸していただき、本当にありがとうございます」
開口一番に感謝の言葉を述べられて、ハンター達は驚いた顔や不思議そうな表情を見せながらもそれを快く受け取った。
「そして皆さんに謝らなければなりません。私はこれから皆さんに酷いお願い事をさせて頂きます」
トリィのその言葉にハンター達は何かよくない話があるのだと悟り、表情を引き締めて次の言葉を待つ。
「私はこの戦いに負ければ後はないと考えています。例え今回は凌げたとしても、次も同じ規模の襲撃を受けたら持たないでしょう」
そんなことはない、とは誰も言えなかった。前回の戦いで人だけでなく多くの幻獣達が傷を負い、命を落とした。だから人と幻獣の連合軍は戦力としては確実に前回より落ちている。それに対して歪虚の軍勢はまるで堪えた様子がなく、前回と同じかそれ以上の規模で攻めてきている。
「だから今回、私は打って出ることにしました。憎き怨敵、魔人ルプナートルを討つのです」
守るのでなく、敢えてこちらから攻撃を仕掛ける。勿論防衛をしないわけではない。それはトリィの部下の猫型幻獣や他のハンター達に任せるのだ。
そしてその間に少数精鋭を持って魔人ルプナートルと接敵し、これを打ち取る。この戦いに勝つために、そして幻獣の森の未来を繋ぐ為にはあの魔人の討伐が絶対条件なのだ。
「この作戦に参加する者は決死隊となります。まず無傷では帰れないでしょう。それでも私はお願いさせて頂きます。貴方達に力を貸して欲しいと」
死を覚悟しそれを厭わず作戦の成功こそを第一とする、それが決死隊というもの。生半可な覚悟では逆に足手まといになるだろう。だからこそトリィはここで問う、それでも着いてきてくれるか、と。
トリィは返事を待たずして、テントの外へと出た。ハンター達がそれに続けば、そこには見慣れぬ幻獣達が出迎えてくれた。
全長3mほどの大型の獣。美麗と言える曲線的なフォルムに、燃えるような赤い毛並み。リアルブルーでは豹と呼ばれている動物と酷似したその幻獣は、鋭い目でハンター達を捉えていた。
「彼らはこの森の中でも1、2位を争う俊足の幻獣です。ルプナートルの下へは彼らに運んでもらいます」
この豹型幻獣達は、騎乗型幻獣で知られるイェジドやリーリーに負けない足を持つとトリィは説明してくれる。ただ、速さに特化した分だけ耐久や防御力に劣り戦闘は得意ではないらしい。故に戦闘に参加するのはトリィとハンター達だけとなる。
トリィは地面を蹴って跳躍すると、豹型幻獣達のうちの一匹の背に乗り、そしてハンター達に問いかける。
「さあ、皆さん。私に命を預けてくれる覚悟はできたでしょうか?」
ハンター達に決断が迫られる。
リプレイ本文
●草原を駆ける者達
「前方に巨人多数。情報通り装備は棍棒や鉄刀ばかりで遠距離武器は持っていないみたいです!」
歪虚の軍勢は既に幻獣の森の目前まで迫っていた。その姿を赤き光を灯した右目で捉えたナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の声が皆の耳にも届く。
「奴らを相手にしている暇はない。突っ切って、振り切る」
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)の声に皆が頷いた。自分達はルプナートルに対する決死隊なのだ。ここで時間を食う訳にはいかない。
草原を風の如く走る豹型幻獣とその背に乗るハンター達は、僅か数十秒の間に巨人達のすぐ目の前まで距離を詰める。
そこまで近づけば流石に巨人達も彼らの存在に気づいた。だが遅い。先頭を進んでいた巨人達が武器を振りあげている間に、豹型幻獣達はその足元をすり抜けてその後方へと駆け抜けていく。
「きゃー! 流石は豹の幻獣さん。早すぎてだーれも反応出来てないの」
豹型幻獣の背中にぺったりと身を寄せて乗っているディーナ・フェルミ(ka5843)は、遥か後方で既に通り過ぎて誰もいない場所に武器を振り降ろしている巨人達の姿を見て大はしゃぎだ。
そんなディーナに豹型幻獣のほうは小さく唸る声を返し、ご満悦になったディーナはその背中にすりすりと頬を擦りつける。
「抜けた……と思ったら第二陣か。どれだけ投入してるんだ」
その言葉と共にラミア・マクトゥーム(ka1720)が眉を潜める。闊歩する巨人達の群れを抜けたと思ったら、さらに数百メートル向こうに次の巨人の群れが現れたのだ。
しかも今度はこちらの姿を既に捉えており、武器を構えて臨戦態勢になっている。今度はさっきと同じように簡単に抜けられそうにない。
その時、1匹の豹型幻獣が速度を上げて前に出た。
「オレが攪乱する。援護を頼むぞ」
その豹型幻獣の背に乗る真田 天斗(ka0014)はそう言い残すと、更に速度を上げて巨人達の群れに突っ込んでいく。
天斗が群れの先頭にいた巨人の顔に目掛けてチャクラムを投げると、その巨人が僅かに怯んだ隙に豹型幻獣がその背後に回り込む。
巨人達は天斗と豹型幻獣目掛けて一斉に武器を振りあげるが、それが振り下ろされる前に豹型幻獣は大地を蹴ってその巨人達の足元へと走り込む。
巨人達の攻撃で大地が爆発したかのように抉れ土塊が周囲に飛び散るが、豹型幻獣と天斗はその欠片すら避けながら巨人達の足元を走り回る。
1匹と1人を相手に乱戦状態を思わす混乱に陥った巨人達。そんな巨人達の下に他のハンター達も接敵する。
「そこを退いて貰おうか」
青霧 ノゾミ(ka4377)は丁度こちらへと振り返ろうとしている巨人の足元に向けて、龍の彫刻が施されている杖を向ける。
瞬間、大地が盛り上がったかと思うと突き上げるようにして土で出来た壁がせり上がる。それに足を掬い上げられた巨人は後ろに向かって背中から転倒した。
「すごっ……アースウォールってあんな使い方も出来るんだ」
その様子を目にしていた多々良 莢(ka6065)は、本来想定されていない使われ方をする土魔法に素直に驚き感心していた。
そうしている間に転倒した巨人の横をすり抜け、ハンター達は第二陣の巨人の群れの中を駆け抜けていく。
そして一人も欠けることなく巨人の群れを抜けたところで、一番最後尾にいたソフィ・アナセン(ka0556)が豹型幻獣の上から振り返り巨人達に向けて杖を向けた。
「これはおまけです。追ってこないでください!」
すると大地から一枚の土壁がせり上がり、ハンター達を追おうとしてきた一体の巨人がそれに激突する。
激突された土壁は一瞬で粉砕されてしまうが、衝撃で後ろによろめいた巨人は後続の別の巨人達を巻き込んでそのまま玉突き事故を起こした。
足止めは十分。そう確信したハンター達はもう後ろは振り返らず前を見据える。
「急ぎましょう。恐らく、ルプナートルもこちらの存在に気づいたはずです」
トリィの言葉にハンター達もそれに同意して頷いた。
●幻獣狩りの魔人
幻獣の森を守る猫型幻獣に向けて矢を放っていたルプナートルは、ふとその手を止めて視線を目の前に広がる森から草原の方へと向ける。
「耳無しが来たか」
人と呼ばれる力ある者達。前回の狩りを邪魔されたこともあり、ルプナートルはその存在に対して興味を抱いていた。だから試す。耳がなくとも狩るに値する相手なのかどうかを。
ルプナートルは手にした矢の鏃で軽く頬を撫で、そして弓に番えた。
散発的に現れる巨人達を避けながら進むハンター達。その時、トリィの耳がぴくりと動いた。
「風切り音……来ます!」
瞬間、トリィは手にしたレイピアを正面に振るう。それは正確に飛来した物を捉え、金属がぶつかり合う音と共に火花が散った。
更にトリィはその衝撃で後ろに吹き飛ばされ豹型幻獣から落下してしまう。
「トリィ!?」
「止まらないでください! すぐに追いつきます!」
フェイルが宙に投げ出されたトリィに視線を送るが、トリィはそれに対して構わず進めと返した。トリィを乗せていた豹型幻獣もすぐさま取って返しトリィを拾いに走っていく。
そして、考えている時間もない間に次の攻撃が、無数の矢がハンター達に向けて迫る。
フェイルは迫る矢を雷撃刀で弾く。その衝撃は以前相対した時に弾いた威力とは比べ物にならないほどに小さい。恐らく数撃つ分威力は下がっているのだろうと容易に想像はついた。
だが、その数が尋常ではない。まるで横殴りの雨の如く次々に矢が飛来する。
「ふざけ、やがって!」
ハンター達は時に武器で防ぎ、時に豹型幻獣に身を任せ降り注ぐ矢の雨をかいくぐって進む。
そして側面に広がる森が視界から途切れた瞬間、その先に目標の相手が姿を現した。
「見えた。あいつがルプナートルか」
遠目でも分かる黒い肌をした巨漢の男。聞いていた特徴に見事に一致するその姿を見て、莢はここからが本番だと刀の柄を握る手に力が入る。
そしてルプナートルの姿が見えた途端、降り注いでいた矢の雨が止まった。
「来る!」
ラミアの耳にこれまでとは違う風を切る音、いや切り裂く音が届いた。それを感じた瞬間にラミアは手にした槍を構えようとするが、それよりも早く飛来した矢が彼女の肩を貫いた。
「――ぐぅっ!?」
ラミアは衝撃で体が後ろに吹き飛ばされそうになるのを何とか耐え、肩に刺さった矢を半ばからへし折って引き抜き、即座にマテリアルを集中させて治癒力を高め傷口を塞ぐ。
更にハンター達の視線の先でルプナートルが次の矢を弓に番えているのが見え、その矢は再び放たれる。
「そう何度もさせませんよ!」
だがそれと同じタイミングでナナセは引いていた弓から矢を放った。それは風を割いて飛び、ルプナートルの放った矢と正面から衝突する。
ナナセの放った矢は一瞬の均衡すら許されず弾き飛ばされた。だが、僅かに軌道のずれたルプナートルの矢は誰もいない空間を引き裂きながら遥か後方へと飛んで行く。
次を放たれる前にと豹型幻獣達が速度を上げる。そしてルプナートルの顔がハッキリと分かるまで近づいた瞬間、突然その視界を紫色の煙が遮った。
「っ! 毒です。絶対に吸い込まないでください!」
豹型幻獣達もその危険性を感じとり、左右に散開してその煙を避ける。
「どうやら猟犬のお出ましのようですね」
その煙を作り出した存在に気づいた天斗は、乗っていた豹型幻獣の背中を1つ叩いてそのまま飛び降りる。
天斗はファイティングポーズをとりながらその煙の内側を見つめる。するとそこに、一対の凶暴な光が浮かび上がった。
「シッ!」
天斗は一瞬で距離を詰め、その拳を振るう。だが手応えはなく、振るわれた拳は空を切る。
だが気配は感じられている。追撃を……。そう思った天斗だったが、進もうとする足が急に重くなる。
(っ! しまった、毒が……)
毒煙の中で殺気が膨れ上がる。不味い。そう思い天斗は防御態勢を取るが、次の瞬間襲ってきたのは鋭い牙ではなく、肌を焼く熱気だった。
「毒煙に飛び込むなんて、無茶は程々にしてください」
熱気の正体はソフィが放った火魔法による爆炎であった。炎と衝撃波で毒煙は掻き消され、天斗の体の重みが消えていく。
「悪い助かった」
「お礼は後でいいです。それより来ますよ」
ソフィの視線の先。毒煙を吹き飛ばされて姿を現した大狼が、その醜悪なまでに避けた口を大きく開いた。
ハンター達が次々と豹型幻獣の背から飛び降りる。そして手にした武器を向ける先には、顎に手をあててこちらの様子を窺うルプナートルの姿があった。
「覚悟してねルプナートル。あなたの命運もここまでだよ」
「ふむ、1人も殺せなかったか。耳がないのが実に惜しい」
莢の言葉をまるで聞こえていないとばかりにルプナートルはそう口にする。その手は腰に吊るされた紐へと触れ、そこに結ばれた幻獣のものらしき多くの耳が小さく揺れた。
「その奪われた命、返してもらおうか」
ノゾミのその言葉と共に戦闘は始まった。ノゾミが先制と放った氷の矢がルプナートルの胸元へと迫るが、ルプナートルはそれを弓で打ち払う。
「まずは罠の確認!」
そう言ってディーナは手にした龍鉱石をルプナートルの周りに向かって投げつけた。瞬間、地面から黒い槍が次々と真上に向かって飛び出してくる。
黒い槍は程なくして塵となって消え、そして罠が消えた『道』をラミアが駆ける。
「ルプナートル。アンタはやり過ぎた」
「やり過ぎ? 狩った獲物を無駄にしたことは一度もないが?」
ルプナートルは迫ってきたラミアに向けて矢を放つ。ラミアはその矢を槍で弾くが、次々と放たれる矢に前に進むことが出来ない。
「しかし、ふむ。お前達を狩った場合はどうするか。耳も毛皮もないとなると……」
「悩む必要はない。お前の狩りはおしまいだ」
ルプナートルの背中に紫電の刃が奔る。罠をかいくぐり回り込んだフェイルは、さらにもう一撃その無防備な背中を斬りつける。
飛び散る鮮血。フェイルはそれに気づいた瞬間、その場から飛び退いた。
「ほう」
ルプナートルはその動きに感心したように声を漏らした。そして突然ラミアへと視線を向けると、腕を振るって滴り落ちてきていた血を撒き散らしてくる。
「避けろ!」
「えっ?」
フェイルが叫ぶが、広範囲に巻かれた血を避ける術はない。その一滴がラミアへと触れた途端、それは漆黒の縄へと姿を変えてその体を縛り付ける。
「体液で罠を生成する。それがお前の能力か」
「何だ。気づいていなかったのか?」
ルプナートルは更に腕を振るい、フェイルに向けて血を飛ばす。フェイルはそれを飛び退って避けるが、瞬く間にルプナートルの周囲は血の罠地帯へと姿を変えた。
それならばとノゾミが龍鉱石を投げる。しかし、それが罠を発動させる前にルプナートルは矢を放った。矢は龍鉱石を射抜いて砕くと、突如分裂し無数の矢となってノゾミの体を貫く。
ハンター達が学習したように、ルプナートルも学習している。もはや近づくことすらままならない。
だが、それでも一歩前にでる者がいた。瞬間、罠が発動しその足にトラバサミが食らいつく。
「っ! 大丈夫。痛くない。これが……私の、仕事なのっ」
ディーナの声にマテリアルの波長が重なる。紡がれるのは魂を鎮める為の歌。正ならざる者を退ける聖なる声。
瞬間、ルプナートルを囲っていた罠が一斉に作動した。黒い槍が、縄が、トラバサミが何もない空間を捉えようと発動し、そして成果をあげることなく消えていく。
「むっ!」
「今なら、届く!」
その好機を逃すまいと莢が地面を蹴った。肉薄し、間合いに捉えた瞬間限界まで引き絞っていた腕を伸ばし、ルプナートルの胸元を貫こうと太刀を突きだす。
だが、莢の攻撃をルプナートルの弓で受けとめた。そして僅かな拮抗の末、力負けした莢は後ろに向けて薙ぎ払われる。
更にルプナートルは腰のナイフを抜き、側面から迫ってきたフェイルの雷撃刀を受け止めた。
「ふむ、急所ばかり狙うな。耳無しにも獣の本能が備わっているのか?」
その問いに答えさせる間も与えず、ルプナートルのつま先がフェイルの脇腹に突き刺さる。
強い。それを理解しているつもりだったが、その理解を超える魔人の力を前にハンター達は傷を増やしていく。
だが、それでも諦めるものはいなかった。
「ルプナートル!」
そこでルプナートルに飛び掛かる小さな影。何とか追いついたトリィのレイピアがマテリアルの光で溢れる。
「やっと来たか。お前は上物だ。綺麗な剥製にしてやろう」
ルプナートルが飛び掛かってくるトリィに向けて弓を構える。そして矢を番え、放つ前にその腕に銀色の矢が突き立った。
金属を打ち鳴らす音が後から響き、矢の刺さった腕を一気に凍らせていく。
「感謝します。ナナセさん!」
ルプナートルの目にはトリィの遥か後方で、弓を放った体勢でこちらを見据えるナナセの赤い瞳が見えた。
次の瞬間、トリィのレイピアがルプナートルの腹部に突き刺さる。極光の輝きは全て刀身を通じてルプナートルの体に注がれ、そして引き抜いた傷口からその残光が零れる。
「その身の内側から焼かれなさい」
ルプナートルが膝をつく。勝負は決したと誰もが思った。だが、ルプナートルは傷口を押さえながら立ち上がる。
「死を恐れるな。その瞬間まで、狩人たれ」
その言葉を唱えた瞬間、ルプナートルはトリィに貫かれた腹部の肉を自ら引きちぎった。それにハンター達が驚く間に、ルプナートルはソレを弓に番えた。
そしてまるで槍のように長く太い矢となった自らの体の一部をハンター達へと向ける。
どう考えてもそれは唯の矢ではない。放たれればどうなるのか。それは分からないが、確実に甚大な被害が出る。
「いいや、死ぬのは怖いもんさ。でも、それよりも嫌なものがある」
そこで矢面に出たのはラミアだった。覚醒の証である右頬の獅子の紋章を輝かせ、手にした槍を構える。
「ここで何もしなにのはあたしじゃない。そう、だから、あたしはここで命を賭ける。死んでも生きて帰る為に!」
その言葉に応えるように炎が燃え上がった。炎はラミアの体を包み込み、その姿を変貌させる。
「紅蓮の獅子か……良い。その耳、貰おうか」
ルプナートルが矢を放つ。それに対して炎のたてがみを揺らしたラミアは、赤と青の入り混じった爪牙を持って迎え撃った。
黒き槍矢を炎が包む。正と負のマテリアルが反発し、互いの力を削いでいく。
ラミアは自分の腹部を何かが貫いたのを感じた。だが、止まらない。ソレを身に纏う炎で焼きながら、獣の如く咆えた。
「この一撃は! 憎しみじゃなく、人と幻獣の為に!」
人と幻獣の執念の結果が、その首元に食らいついた。
「前方に巨人多数。情報通り装備は棍棒や鉄刀ばかりで遠距離武器は持っていないみたいです!」
歪虚の軍勢は既に幻獣の森の目前まで迫っていた。その姿を赤き光を灯した右目で捉えたナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の声が皆の耳にも届く。
「奴らを相手にしている暇はない。突っ切って、振り切る」
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)の声に皆が頷いた。自分達はルプナートルに対する決死隊なのだ。ここで時間を食う訳にはいかない。
草原を風の如く走る豹型幻獣とその背に乗るハンター達は、僅か数十秒の間に巨人達のすぐ目の前まで距離を詰める。
そこまで近づけば流石に巨人達も彼らの存在に気づいた。だが遅い。先頭を進んでいた巨人達が武器を振りあげている間に、豹型幻獣達はその足元をすり抜けてその後方へと駆け抜けていく。
「きゃー! 流石は豹の幻獣さん。早すぎてだーれも反応出来てないの」
豹型幻獣の背中にぺったりと身を寄せて乗っているディーナ・フェルミ(ka5843)は、遥か後方で既に通り過ぎて誰もいない場所に武器を振り降ろしている巨人達の姿を見て大はしゃぎだ。
そんなディーナに豹型幻獣のほうは小さく唸る声を返し、ご満悦になったディーナはその背中にすりすりと頬を擦りつける。
「抜けた……と思ったら第二陣か。どれだけ投入してるんだ」
その言葉と共にラミア・マクトゥーム(ka1720)が眉を潜める。闊歩する巨人達の群れを抜けたと思ったら、さらに数百メートル向こうに次の巨人の群れが現れたのだ。
しかも今度はこちらの姿を既に捉えており、武器を構えて臨戦態勢になっている。今度はさっきと同じように簡単に抜けられそうにない。
その時、1匹の豹型幻獣が速度を上げて前に出た。
「オレが攪乱する。援護を頼むぞ」
その豹型幻獣の背に乗る真田 天斗(ka0014)はそう言い残すと、更に速度を上げて巨人達の群れに突っ込んでいく。
天斗が群れの先頭にいた巨人の顔に目掛けてチャクラムを投げると、その巨人が僅かに怯んだ隙に豹型幻獣がその背後に回り込む。
巨人達は天斗と豹型幻獣目掛けて一斉に武器を振りあげるが、それが振り下ろされる前に豹型幻獣は大地を蹴ってその巨人達の足元へと走り込む。
巨人達の攻撃で大地が爆発したかのように抉れ土塊が周囲に飛び散るが、豹型幻獣と天斗はその欠片すら避けながら巨人達の足元を走り回る。
1匹と1人を相手に乱戦状態を思わす混乱に陥った巨人達。そんな巨人達の下に他のハンター達も接敵する。
「そこを退いて貰おうか」
青霧 ノゾミ(ka4377)は丁度こちらへと振り返ろうとしている巨人の足元に向けて、龍の彫刻が施されている杖を向ける。
瞬間、大地が盛り上がったかと思うと突き上げるようにして土で出来た壁がせり上がる。それに足を掬い上げられた巨人は後ろに向かって背中から転倒した。
「すごっ……アースウォールってあんな使い方も出来るんだ」
その様子を目にしていた多々良 莢(ka6065)は、本来想定されていない使われ方をする土魔法に素直に驚き感心していた。
そうしている間に転倒した巨人の横をすり抜け、ハンター達は第二陣の巨人の群れの中を駆け抜けていく。
そして一人も欠けることなく巨人の群れを抜けたところで、一番最後尾にいたソフィ・アナセン(ka0556)が豹型幻獣の上から振り返り巨人達に向けて杖を向けた。
「これはおまけです。追ってこないでください!」
すると大地から一枚の土壁がせり上がり、ハンター達を追おうとしてきた一体の巨人がそれに激突する。
激突された土壁は一瞬で粉砕されてしまうが、衝撃で後ろによろめいた巨人は後続の別の巨人達を巻き込んでそのまま玉突き事故を起こした。
足止めは十分。そう確信したハンター達はもう後ろは振り返らず前を見据える。
「急ぎましょう。恐らく、ルプナートルもこちらの存在に気づいたはずです」
トリィの言葉にハンター達もそれに同意して頷いた。
●幻獣狩りの魔人
幻獣の森を守る猫型幻獣に向けて矢を放っていたルプナートルは、ふとその手を止めて視線を目の前に広がる森から草原の方へと向ける。
「耳無しが来たか」
人と呼ばれる力ある者達。前回の狩りを邪魔されたこともあり、ルプナートルはその存在に対して興味を抱いていた。だから試す。耳がなくとも狩るに値する相手なのかどうかを。
ルプナートルは手にした矢の鏃で軽く頬を撫で、そして弓に番えた。
散発的に現れる巨人達を避けながら進むハンター達。その時、トリィの耳がぴくりと動いた。
「風切り音……来ます!」
瞬間、トリィは手にしたレイピアを正面に振るう。それは正確に飛来した物を捉え、金属がぶつかり合う音と共に火花が散った。
更にトリィはその衝撃で後ろに吹き飛ばされ豹型幻獣から落下してしまう。
「トリィ!?」
「止まらないでください! すぐに追いつきます!」
フェイルが宙に投げ出されたトリィに視線を送るが、トリィはそれに対して構わず進めと返した。トリィを乗せていた豹型幻獣もすぐさま取って返しトリィを拾いに走っていく。
そして、考えている時間もない間に次の攻撃が、無数の矢がハンター達に向けて迫る。
フェイルは迫る矢を雷撃刀で弾く。その衝撃は以前相対した時に弾いた威力とは比べ物にならないほどに小さい。恐らく数撃つ分威力は下がっているのだろうと容易に想像はついた。
だが、その数が尋常ではない。まるで横殴りの雨の如く次々に矢が飛来する。
「ふざけ、やがって!」
ハンター達は時に武器で防ぎ、時に豹型幻獣に身を任せ降り注ぐ矢の雨をかいくぐって進む。
そして側面に広がる森が視界から途切れた瞬間、その先に目標の相手が姿を現した。
「見えた。あいつがルプナートルか」
遠目でも分かる黒い肌をした巨漢の男。聞いていた特徴に見事に一致するその姿を見て、莢はここからが本番だと刀の柄を握る手に力が入る。
そしてルプナートルの姿が見えた途端、降り注いでいた矢の雨が止まった。
「来る!」
ラミアの耳にこれまでとは違う風を切る音、いや切り裂く音が届いた。それを感じた瞬間にラミアは手にした槍を構えようとするが、それよりも早く飛来した矢が彼女の肩を貫いた。
「――ぐぅっ!?」
ラミアは衝撃で体が後ろに吹き飛ばされそうになるのを何とか耐え、肩に刺さった矢を半ばからへし折って引き抜き、即座にマテリアルを集中させて治癒力を高め傷口を塞ぐ。
更にハンター達の視線の先でルプナートルが次の矢を弓に番えているのが見え、その矢は再び放たれる。
「そう何度もさせませんよ!」
だがそれと同じタイミングでナナセは引いていた弓から矢を放った。それは風を割いて飛び、ルプナートルの放った矢と正面から衝突する。
ナナセの放った矢は一瞬の均衡すら許されず弾き飛ばされた。だが、僅かに軌道のずれたルプナートルの矢は誰もいない空間を引き裂きながら遥か後方へと飛んで行く。
次を放たれる前にと豹型幻獣達が速度を上げる。そしてルプナートルの顔がハッキリと分かるまで近づいた瞬間、突然その視界を紫色の煙が遮った。
「っ! 毒です。絶対に吸い込まないでください!」
豹型幻獣達もその危険性を感じとり、左右に散開してその煙を避ける。
「どうやら猟犬のお出ましのようですね」
その煙を作り出した存在に気づいた天斗は、乗っていた豹型幻獣の背中を1つ叩いてそのまま飛び降りる。
天斗はファイティングポーズをとりながらその煙の内側を見つめる。するとそこに、一対の凶暴な光が浮かび上がった。
「シッ!」
天斗は一瞬で距離を詰め、その拳を振るう。だが手応えはなく、振るわれた拳は空を切る。
だが気配は感じられている。追撃を……。そう思った天斗だったが、進もうとする足が急に重くなる。
(っ! しまった、毒が……)
毒煙の中で殺気が膨れ上がる。不味い。そう思い天斗は防御態勢を取るが、次の瞬間襲ってきたのは鋭い牙ではなく、肌を焼く熱気だった。
「毒煙に飛び込むなんて、無茶は程々にしてください」
熱気の正体はソフィが放った火魔法による爆炎であった。炎と衝撃波で毒煙は掻き消され、天斗の体の重みが消えていく。
「悪い助かった」
「お礼は後でいいです。それより来ますよ」
ソフィの視線の先。毒煙を吹き飛ばされて姿を現した大狼が、その醜悪なまでに避けた口を大きく開いた。
ハンター達が次々と豹型幻獣の背から飛び降りる。そして手にした武器を向ける先には、顎に手をあててこちらの様子を窺うルプナートルの姿があった。
「覚悟してねルプナートル。あなたの命運もここまでだよ」
「ふむ、1人も殺せなかったか。耳がないのが実に惜しい」
莢の言葉をまるで聞こえていないとばかりにルプナートルはそう口にする。その手は腰に吊るされた紐へと触れ、そこに結ばれた幻獣のものらしき多くの耳が小さく揺れた。
「その奪われた命、返してもらおうか」
ノゾミのその言葉と共に戦闘は始まった。ノゾミが先制と放った氷の矢がルプナートルの胸元へと迫るが、ルプナートルはそれを弓で打ち払う。
「まずは罠の確認!」
そう言ってディーナは手にした龍鉱石をルプナートルの周りに向かって投げつけた。瞬間、地面から黒い槍が次々と真上に向かって飛び出してくる。
黒い槍は程なくして塵となって消え、そして罠が消えた『道』をラミアが駆ける。
「ルプナートル。アンタはやり過ぎた」
「やり過ぎ? 狩った獲物を無駄にしたことは一度もないが?」
ルプナートルは迫ってきたラミアに向けて矢を放つ。ラミアはその矢を槍で弾くが、次々と放たれる矢に前に進むことが出来ない。
「しかし、ふむ。お前達を狩った場合はどうするか。耳も毛皮もないとなると……」
「悩む必要はない。お前の狩りはおしまいだ」
ルプナートルの背中に紫電の刃が奔る。罠をかいくぐり回り込んだフェイルは、さらにもう一撃その無防備な背中を斬りつける。
飛び散る鮮血。フェイルはそれに気づいた瞬間、その場から飛び退いた。
「ほう」
ルプナートルはその動きに感心したように声を漏らした。そして突然ラミアへと視線を向けると、腕を振るって滴り落ちてきていた血を撒き散らしてくる。
「避けろ!」
「えっ?」
フェイルが叫ぶが、広範囲に巻かれた血を避ける術はない。その一滴がラミアへと触れた途端、それは漆黒の縄へと姿を変えてその体を縛り付ける。
「体液で罠を生成する。それがお前の能力か」
「何だ。気づいていなかったのか?」
ルプナートルは更に腕を振るい、フェイルに向けて血を飛ばす。フェイルはそれを飛び退って避けるが、瞬く間にルプナートルの周囲は血の罠地帯へと姿を変えた。
それならばとノゾミが龍鉱石を投げる。しかし、それが罠を発動させる前にルプナートルは矢を放った。矢は龍鉱石を射抜いて砕くと、突如分裂し無数の矢となってノゾミの体を貫く。
ハンター達が学習したように、ルプナートルも学習している。もはや近づくことすらままならない。
だが、それでも一歩前にでる者がいた。瞬間、罠が発動しその足にトラバサミが食らいつく。
「っ! 大丈夫。痛くない。これが……私の、仕事なのっ」
ディーナの声にマテリアルの波長が重なる。紡がれるのは魂を鎮める為の歌。正ならざる者を退ける聖なる声。
瞬間、ルプナートルを囲っていた罠が一斉に作動した。黒い槍が、縄が、トラバサミが何もない空間を捉えようと発動し、そして成果をあげることなく消えていく。
「むっ!」
「今なら、届く!」
その好機を逃すまいと莢が地面を蹴った。肉薄し、間合いに捉えた瞬間限界まで引き絞っていた腕を伸ばし、ルプナートルの胸元を貫こうと太刀を突きだす。
だが、莢の攻撃をルプナートルの弓で受けとめた。そして僅かな拮抗の末、力負けした莢は後ろに向けて薙ぎ払われる。
更にルプナートルは腰のナイフを抜き、側面から迫ってきたフェイルの雷撃刀を受け止めた。
「ふむ、急所ばかり狙うな。耳無しにも獣の本能が備わっているのか?」
その問いに答えさせる間も与えず、ルプナートルのつま先がフェイルの脇腹に突き刺さる。
強い。それを理解しているつもりだったが、その理解を超える魔人の力を前にハンター達は傷を増やしていく。
だが、それでも諦めるものはいなかった。
「ルプナートル!」
そこでルプナートルに飛び掛かる小さな影。何とか追いついたトリィのレイピアがマテリアルの光で溢れる。
「やっと来たか。お前は上物だ。綺麗な剥製にしてやろう」
ルプナートルが飛び掛かってくるトリィに向けて弓を構える。そして矢を番え、放つ前にその腕に銀色の矢が突き立った。
金属を打ち鳴らす音が後から響き、矢の刺さった腕を一気に凍らせていく。
「感謝します。ナナセさん!」
ルプナートルの目にはトリィの遥か後方で、弓を放った体勢でこちらを見据えるナナセの赤い瞳が見えた。
次の瞬間、トリィのレイピアがルプナートルの腹部に突き刺さる。極光の輝きは全て刀身を通じてルプナートルの体に注がれ、そして引き抜いた傷口からその残光が零れる。
「その身の内側から焼かれなさい」
ルプナートルが膝をつく。勝負は決したと誰もが思った。だが、ルプナートルは傷口を押さえながら立ち上がる。
「死を恐れるな。その瞬間まで、狩人たれ」
その言葉を唱えた瞬間、ルプナートルはトリィに貫かれた腹部の肉を自ら引きちぎった。それにハンター達が驚く間に、ルプナートルはソレを弓に番えた。
そしてまるで槍のように長く太い矢となった自らの体の一部をハンター達へと向ける。
どう考えてもそれは唯の矢ではない。放たれればどうなるのか。それは分からないが、確実に甚大な被害が出る。
「いいや、死ぬのは怖いもんさ。でも、それよりも嫌なものがある」
そこで矢面に出たのはラミアだった。覚醒の証である右頬の獅子の紋章を輝かせ、手にした槍を構える。
「ここで何もしなにのはあたしじゃない。そう、だから、あたしはここで命を賭ける。死んでも生きて帰る為に!」
その言葉に応えるように炎が燃え上がった。炎はラミアの体を包み込み、その姿を変貌させる。
「紅蓮の獅子か……良い。その耳、貰おうか」
ルプナートルが矢を放つ。それに対して炎のたてがみを揺らしたラミアは、赤と青の入り混じった爪牙を持って迎え撃った。
黒き槍矢を炎が包む。正と負のマテリアルが反発し、互いの力を削いでいく。
ラミアは自分の腹部を何かが貫いたのを感じた。だが、止まらない。ソレを身に纏う炎で焼きながら、獣の如く咆えた。
「この一撃は! 憎しみじゃなく、人と幻獣の為に!」
人と幻獣の執念の結果が、その首元に食らいついた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/19 12:46:39 |
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依頼について 真田 天斗(ka0014) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/22 06:02:17 |