• 幻魂

【幻魂】 打ち壊せ、偽りの幻

マスター:桐咲鈴華

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/04/22 09:00
完成日
2016/04/30 07:52

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング



――大幻獣『フェンリル』の死。
 突如訪れた別離は、スコール族のファリフ・スコール(kz0009)に大きな変化を与えていた。
 試練を乗り越え、霊闘士の新たなる力が覚醒。
 フェンリルを祖霊としたファリフは、幻獣の森へ侵攻せんとする歪虚を前に立ち塞がる。
 一方、歪虚の青木燕太郎(kz0166)はある目的の前に――暗躍を開始する。

 様々な思惑が入り交じる中、連合軍と歪虚は再び刃を交えようとしていた。




「こちらをどうか……」
「すまない……助かった」
幻獣の森内部、前線から遠く離れた野戦基地にてエフィーリア・タロッキ(kz0077)は、先の戦いでハンター達が救出した支援部隊の負傷者の治療を行っていた。
支援部隊の人員は疲弊こそしていたが、肉体損傷などの目に見えた負傷者は少ない。快復した人員はエフィーリアに協力して負傷者の治療にあたっていた。
お陰で少しずつ治療に手は回るようになってきて、何名か戦線へ復帰できた者達も居る。ハンター達も傷を癒し、並み居る歪虚達を撃破せんと出撃してゆく。
「大分、楽になった……伝えなければならない事が、ある」
「はい、何でしょうか」
疲弊が激しく会話も難しかった支援部隊隊長である男性が、横たわりながらエフィーリアに告げる。
「我々支援部隊は、敵の情報を集めているうちに撤退が遅れてしまった……失態をし、苦労をかけて申し訳ない。だが……南部から侵攻中の敵部隊について、気になる情報を得た」
「情報……ですか?」
「ああ。敵の部隊はリビングアーマーにサイクロプス、それから殺傷力に特化したオークとゴブリンだが……それらをまとめて統括する『大将』が、少しずつ近づいて来ている」
その報告に、エフィーリアは息を呑む。
「そいつは……見た目は人間のような歪虚だ。黒いローブに身を包んで、見たこともない巨大な化け物達を従えてる。頭が4つあるトカゲや、無数の触手を操るタコみたいな怪物……」
隊長は敵の特徴を伝えてゆき、エフィーリアはそれを一語一句漏らさず記憶してゆく。普段『アルカナ』という奇抜な歪虚群の情報収集をしている彼女は、いかなる敵の情報も余さず記憶できる。
「やつらは、危険だ。奴らに比べればサイクロプスなんて赤子同然だと、戦闘を主体としない俺達でも理解出来た。いくらハンター達が強くとも、勝てない……今からでも撤退をしなければ、全滅する……」
「いいえ」
隊長の進言に、エフィーリアは気丈に否定する。訝しむ隊長をよそにエフィーリアは、森の奥を見る。そこに満ちる銀色の光を、エフィーリアは見た気がした。
「確かに、敵の数は圧倒的。それに、更に強大な敵が現れたなら、状況は絶望的でしょう……」
実際に視界に映った訳ではない。しかし、確かに感じ取った。森の奥で覚醒した、ファリフ・スコールの決意と、『守る』という強い意志を。エフィーリアは心で熱く奮い立つ魂を感じ取ったのだ。
「だから、大丈夫です。……不安は確かにありますが、手を、命を、……魂を繋いで、私達は存る。なればこそ、私達は信じて送り出しましょう。信じて、待ちましょう」
そうしてエフィーリアは、戦線を見据える。不安を奥歯でかみ締め、気丈に微笑みかける。

「……皆様の、勝利を」





「なんだァ? ハンターの奴ら、仕掛けてきたってのか?」
敵の歪虚の渦中。眼前の幻獣の森から奇妙な気配を感じ取り、黒いローブに身を包んだ歪虚は目を細める。
「凝りねェ奴らだ。数でも質でも負けてやがんのに食い下がる。おまけに森をつつけば出てくるとか、虫みてェだな。クハッ、我ながらいい例えじゃねこれ!?」
下卑た笑いを零しながら周囲の歪虚に同意を求める。歪虚は一様に彼の言葉に頷くような仕草をし、満足そうに彼は高らかに嗤う。フードを脱ぎ、頭から伸びる角と皮膜状の表皮が顕わになる。
「んじゃまー、『害虫』どもはさっさと駆除しますかねェ。青木のヤローに旨いところはやんねェ。幻獣どもはまとめてこの“幻喰らい”様のもんだ!」

リプレイ本文

●南の戦場の死闘

 幻獣の森南部、リビングアーマーのひしめく大部隊を指揮する傲慢の歪虚。黒いローブを身を纏った”幻喰らい”は、前方で起こっている戦闘を目を細めて見ていた。その様子はどこか余裕に満ちており、傲慢の性質に違わずハンター達や自らの配下達をも見下したように眺めている。
「数による蹂躙は戦場の華ではあるが、見ているだけはそれはそれでつまんねェもんだ」
 彼はそういって、傍らに控える異形の動物に腰掛ける。模倣幻獣と呼ばれるそれは、彼がかつて捕獲した幻獣を組み合わせ、改造して作り上げた存在だ。継ぎ接ぎで無理矢理に繋ぎ合わせたかのようないびつな存在は、ただ獲物を求めて涎を垂らしている獣と化している。
「……ん?」
 そんな彼が横合いに目をやる。そちらからやってくるのは、武装したハンター達だ。陣形に空いた穴から入り込んできたのか、リビングアーマー部隊との交戦とは別の場所からやってくる。”幻喰らい”は忌々しそうに模倣幻獣から降りながら、そちらに向き直る。
「ハ、ちょっとくれぇ予定が狂おうが構いやしねェよ。ハンター共程度が俺様の最高傑作に勝てるわきゃねェんだからよ」
 その手が、駆けてくるハンター達を指差す。模倣(イミテーション)ヒドラ、クラーケン、バフォメットの3体が、それらを捉えようと動き始める。
「行け! 思うままに食い散らせ!」
 その声と共に、模倣幻獣達がハンター達に襲いかかっていった。

「……来ました、皆さん、散開を」
 瀬織 怜皇(ka0684)が仲間達に警戒を促し、ハンター達は別れる。それぞれが各模倣幻獣の対応にあたる為だ。怜皇は淡い蒼色に変化した髪をなびかせながら傍らにいる恋人のUisca Amhran(ka0754)と共に、頭が複数存在するトカゲ、イミテーション・ヒドラと対峙する。
「支援部隊の方々の努力、無駄にはしません!」
 Uiscaは盾を構え、ヒドラと対峙する。ヒドラはその4つの頭でUiscaを狙わんと口を開いて噛み付こうとしてくるが、それらを盾で舞うように受け流していく。複雑な軌道を描いてくる頭部は確かに物量による攻めを得意としていたが、それぞれが同じ対象を狙う時は統率が取れた動きには見えず、動きがずれているように思える。
(思ったとおり、本来ありえない合成ですから、どうしても不自然な動きになってしまう)
 Uiscaは迫る牙を盾でいなし、地面を蹴って飛び、体を返して回転するように懐へと飛び込む。ヒドラの頭と頭はUiscaの読み通り、互いにぶつかるなどして上手くUiscaを狙う事は出来ないようだ。
「私のダンスに、ついてこられます?」
 Uiscaがそのままヒドラの注意を逸らし続けている隙を突き、怜皇が光線を放ちヒドラを貫いた。
「イスカ、無茶はしすぎないで」
「解っています、レオ!」
 二人は声を掛け合い、巧みなコンビネーションでヒドラへと肉迫する。Uiscaの死角は怜皇が遮り、怜皇の危機にはUiscaが割って入る。互いが互いを守り合うように立ち回る隙のない様子だったが、突如として羽音と共に悪魔のような姿をした模倣幻獣が割って入る。イミテーション・バフォメットは飛び回りながら、混乱の魔法をかけてくる。
「う……っ」
「レオ!」
 抵抗力の高いUiscaに効果は得られなかったが、怜皇の方は一瞬、動きを止められてしまう。コンビネーションに乱れが生じた隙に、ヒドラはその頭から冷気と炎のブレスを吐き出し、二人を攻撃する。
「そ、こっ!」
 ブレスでダメージを負うUiscaだったが、その一撃を省みず光弾を射出。ブレスの直撃を受けていた二人を確認し、油断していたバフォメットはまともに翼にその一撃を受けてしまい、大きく体勢が崩れる。そこへ怜皇が飛びかかるように斬撃を放ち、大きなダメージを与えた。
 今の一瞬、怜皇は確かに混乱によって行動を阻害されていたが、Uiscaの呼びかけで散漫している意識を一時だけ繋ぎ止める事が出来、攻性防壁を展開してブレスのダメージを軽減していたのだった。
「イスカは、護り抜きます……!」
 劣勢に陥ってもなお闘争本能を燃やし、屈しない心を持っていたが故に成し得た偶然だ。手痛いダメージを受けてなお、バフォメットは傷ついた翼で飛行を続け、ヒドラの巨体に隠れるように狡猾に立ち回る。高い体力を持っているヒドラはまだ健在で、それを意識した立ち回りにシフトしたバフォメットは倒しにくいだろう。
 そんな敵を前に怜皇は気持ちを奮い立たせ、真正面から対峙する。
「俺は、ね。死んだって構わないんですよ……大切な人を守れさえすれば、それでいいんですから……」
 自分が死んでも、次に引き継がれていくものを信じている。怜皇は自分の大事なものを守るために強大な敵に立ち向かう。しかし、決死の覚悟をもった怜皇の肩に優しく触れたのは、Uiscaだった。
「イスカ?」
 Uiscaの祈りが柔らかい光となり周囲を包み、2人の傷を癒やす。Uiscaは怜皇と並ぶように、2体の模倣幻獣の前に立ち塞がる。
「確かに敵は強いです。私達は、ここで死ぬかもしれません……」
 Uiscaは、強い意思の篭った瞳で前を向く。怜皇の覚悟と等しく強く、しかし全く別の決意を込めた視線で敵を見据える。
「だけど、どんなに絶望的でも……まだここでは死ねないんです。それは、あなたとの未来……”これから”があるんですからっ」
 Uiscaの決意は、未来へと向かう為の覚悟。恋人の怜皇と築いていく未来。子を成し、育ててゆき、幸せな家庭を築くという、明るく暖かな光景を見るための意思を持っていた。
「……だから、死んでもいいなんて言わないでください、レオ。私一人では、家庭を築く事なんて出来ないんですから」
 勇気づけるように、癒やすように微笑みかけるUisca。怜皇は、自分は死んでもいい。死んでも、次へと繋がる為の架け橋になると、そう信じて戦っていた。だが自分の恋人は、自分との未来の為に戦ってくれている。自分との未来を、築く為に戦っている……そう感じ取ったとき、ふっと体の奥に、今までの覚悟からくる力とは、また別の力が湧いてきた。
「……ええ、わかりました、イスカ」
 自分の大切なものの為に死ぬ。大切な人が居るなら尚更、人は命を賭けるのかもしれない。怜皇のその意思は変わらない。だが、その大切な人が、自分にとって本当に大切なものなら、大事にしたいなら、その心も守る為に戦わないでどうする。その人が思い描いている未来があるなら、それを守らないでどうすると、己を鼓舞してゆく。
「……俺は、イスカとの未来の為に命を賭けます。その為に……死ぬ気で、未来を掴み取ってやりますよ」
「ええ、いきましょう、レオ!」
 ヒドラが毒のブレスを、バフォメットが闇の魔術で攻撃を仕掛けてくる。抵抗の高いUiscaが魔術とブレスを割くように跳びかかり、その頭を杖で強打。遮蔽されていた視線が開いた隙を縫うような怜皇の電撃がバフォメットを捉える。
「確かに強い幻獣を掛け合わせたら、力は強くなるかもしれません。でも、肝心なものが抜けていましたね」
 着実にダメージを重ねていくヒドラとバフォメット。Uiscaと怜皇もまたダメージを受けつつあるが、Uiscaがそれを癒やすお陰で決定打にはならず、互いに少しずつ体力の削り合いとなっていた。ここからは、持久戦となるだろう。
「生き物は魂が宿っているから強いんですよっ。魂がない人形では、私達の魂には届きません!」
 模倣幻獣達は今や”幻喰らい”の操り人形。強さだけを求めた破壊兵器だ。意思なき暴力には屈しないという、Uiscaの強い魂が戦場を震わす。同じ戦場に立つ仲間を信じ、杖を握り直す。
「霊闘志の二人が、この戦いの要……彼女らが決めてくれるまで、私達は耐え切ってみえます」
「命を賭けて、守りぬいて見せますよ……。皆を、皆の未来を!」
 Uiscaと怜皇は並び、強大な魔物と激突した。



 模倣幻獣の中でも一際大きな個体。タコの頭に複数の触手を持つ、巨大な魔物イミテーション・クラーケンには、コロナ=XIX(ka4527)とレオン(ka5108)が対峙していた。彼女らは互いに死角を補い合いながら連携し、クラーケンへと肉迫していく。クラーケンは巨大かつ、多数の触手を使って動きまわる二人を絡め取ろうとする。レオンは炎のようなオーラを纏うことでクラーケンの目に留まるように動き、自らに向かってきた多数の触手を、攻撃を捨てた護りの構えで打ち払っていく。剣で触手に痛手を与えて追い払い返し、盾で弾き、受け流して回避していく。質量の大きな触手故にそれだけ体力も削られるが、仲間を守るために自ら体を張り、強い意思をもって言い放つ。
「お前の相手は僕だ、来い!」
 マテリアルの炎を立ち上らせ、クラーケンの足を一身に引き受けるレオン。その奮闘の隙を見てコロナは動物霊の力を身に宿し、素早い動きで蠢く巨大な触手をかわし続ける。機を見定める為、そして……
(何故、こんなものを生み出しましたの?)
 目の前で蠢く歪な異形どもを見てぽつりと思うのは、そんな感想。かつて神秘的だったであろう幻獣の姿はどこにもなく、血と肉に飢えて涎を垂らす異形のけだものと化した存在を、コロナは真っ直ぐ見据え、そしてその存在を否定する。
「この身は世界の為。それが高貴なる者の義務」
 強く拳を握り締め、クラーケンを見据える。襲いかかる触手を裏拳で打ち払い、携えた聖剣で刺し仕留める。
 幼くして長たる権利を得たのは、必要な時に命を賭ける為。自らの持つ矜持と義務をもって、自らの持つ使命に殉じる為のもの。コロナにとって、幻獣は人の隣人たる存在。霊闘志にとっては近しい魂を持つ存在だ。
 そんな彼らの母たる森を穢す存在がいる。踏み荒らし、害する存在がいる。そんな存在をどうして容認できようか。
(我らの友人。親しい存在。そんな彼らの安息の地を守るために、死への恐れを乗り越えて立ち向かう理由に、何の不足がありましょうか)
 足を踏みしめる。空気を肌で感じ、マテリアルを心で捉える。ゆっくりと息を吐き、整え、目を開く。迫る触手に恐怖はしない。なぜなら志を同じくして戦うレオンが、彼女へと向かう足を全て切り落とし、己へと注意を引きつけているからだ。
 だが、それでもクラーケンの8本の触手は健在だ。強い再生力でも持っているのか、常に8本の状態を維持したまま、素早い動きと長いリーチでレオンを追い詰めていく。いくら守りの型を取っているとはいえ、少しずつ体力を削られていくレオンを見て、コロナは再度、拳を握りしめる。
(―――そして、そう。今まさに私の為に命を投げ打ってくれている者がいる。奥義というものがあるのなら、今、この場で発揮できなくてどうしますの、コロナ!)
 強く握りしめた拳を中心に、強いマテリアルが彼女の周囲に渦巻く、ざわざわと空気を震わせ、強い力が地面を伝わっていく。収束された力はコロナの中へと、飲み込まれていく。

「―――はぁぁぁぁぁぁっ!」

 一瞬の静寂のち、彼女の身体から爆発的なマテリアルが解放される。空気ははじけ飛び、周囲の大地が割れる程の強大な力の放出は、巨大なクラーケンを一瞬たじろがせる程だった。
「はは、やったぁ! 奥義の解放に至ったんだね!」
 強大な祖霊の力がマテリアルとなり彼女に宿る。その影響からか山猫のような耳と尻尾がコロナに生え、レオンがその様子に賞賛を送る。
「……ありがとうございますの、レオン。貴方の援護あってのお陰ですわ」
「女の子を守るのは騎士たるものの仕事だよ。気にせずやっといで」
 たじろいでいて一瞬、動きが止まっていたクラーケンの触手を、振り返りざまに剣を強打し、打ち払うレオン。自分よりも強い力を持つ人が居るなら、自分はそれを守る盾となる。その人が安心して背中を預けてくれるような、そんな存在になるために。レオンはコロナの活力を開く為、触手を切り飛ばしていく。
「――今だ!」
 触手を斬り、道が開けたそこへ、コロナが飛び込む。地面を蹴り、弾丸のように駆ける彼女は衝撃を伴う速度でクラーケンの背後へと一瞬で回る。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 獣にも似た咆哮と共に、腕を振り上げる。クラーケンは素早い触手の動きで頭を守ろうとするも、身体を捻って振るわれたコロナの爪がその触手を一撃のもとに輪切りにする。
「これで、終わりですわ!!」
 触手によるガードがなくなった所へ、コロナは地面を蹴り、身体ごとその巨体へと突撃する。空気が破裂するほどの、弾丸のような速度を伴った一撃は、クラーケンの胴体を貫通し風穴を開けた。ゆっくりとその巨体が、力なく倒れてゆく。
「やり……ましたわ……!」
 ふっ、とその身から祖霊の力が消えると同時に、猫耳や尻尾が消失し、その場に膝をつく。奥義は凄まじく力を消耗するため、その場でコロナは動けなくなった。
「ナイスだったよ、コロナ! 凄いね、今のが奥義?」
「ええ……ありがとうございますの、レオン。少しだけ休んだら、次へ向かいましょう。まだ休んでいる訳には、いきませんの」
 そう言ってコロナは気丈に微笑みながら立ち上がり、未だ交戦を続けているUisca達の元へと向かうのだった。




「ちぃ、俺様が手ずから創ってやったってのに、役に立たないデクどもが」
 ”幻喰らい”は倒れたクラーケンを見て悪態をつく。そんな彼の元へ鋭い鞭の一撃がしなり、咄嗟に回避行動をとる。鞭を放ったのは十色 エニア(ka0370)だ。
「貴方が首謀者かな? 残念だけど、ここで終わりにさせてもらうよ」
「ンだてめェ、見るからに弱っちそうな見た目しやがって。目障りなんだよ!」
 ”幻喰らい”は手に魔力を溜め、強力な魔力の弾丸を生成。それらをエニアへ向けて放つ。エニアの周囲の地面が爆砕され、土煙が巻き上がった。
(見たところ魔術師か、ハンター如きとの魔術戦で遅れを取る訳ねェだろ)
 ”幻喰らい”はそう考え、エニアへ牽制の為の魔法を放ったのだ。エニアが距離を取れば自らの魔力で押しつぶせると思い、次の魔術の詠唱を始める。だが、土煙が晴れる前にエニアは距離を取る事はなく、逆に”幻喰らい”へと馬を走らせ、距離を詰めていった。
「ンだと!?」
「魔術師が接近戦しないなんて決まりはないよね、それに」
 咄嗟に放たれた魔力弾を、エニアは身に纏う風で軌道を逸らし、馬から飛び降りて”幻喰らい”に向けて鞭を振るう。
「見た目で判断してると痛い目見るよ、見るからに三下臭そうな親玉さん」
「テメェ……!」
 エニアの挑発に青筋を立て、より強力な魔術の詠唱を始めようとする”幻喰らい”だったが、魔術師とは思えない程至近距離まで接近し、鞭を振るい、こちらの物理攻撃を風で受け流す戦い方に翻弄され、詠唱の短い魔術で対応せざるを得ない”幻喰らい”。だが、逸らされる魔術も強力であり、回避して地面に着弾した魔力弾の衝撃だけでも体力を削られる。そんな二人が戦う中、横合いからラッシュを放ってきたのはリューリ・ハルマ(ka0502)だった。
「ちィ、新手か! どいつもこいつも使えねェ……」
「ねぇ、聞いてみたいんだけどさ」
「あァ?」
 リューリは”幻喰らい”に問いかける。
「あれってさ、もともとは普通の幻獣なんだよね?」
 未だ背後で仲間たちが戦う模倣幻獣達を指差すリューリ。”幻喰らい”は、何の事だと言わんばかりに、吐き捨てるように応える。
「あァ、そうだが何だ? 何が聞きてェ」
「あんな風にして、楽しい?」
 単刀直入にかけられたその問を意図していないものとして目を丸くする”幻喰らい”だったが、すぐさま嘲笑うかのような口調でリューリへと返答した。
「何を聞くかと思えば、くだらねェ。より使いやすく、より強く仕立てあげるのが、『道具』を最も効率的に使う為の方法だろォがよ。強い力を持った幻獣を使えばそれも手っ取り早いからなァ。いい素材を『便利に』使って道具にすんのは道理に適ってんだろ? お前ら人間だって、使いやすい道具の方がいいだろうが」
 ”幻喰らい”にとって、幻獣とはその程度の認識だ。使い捨ての道具、やや価値のある素材……その程度にしか思っていないようだった。
「うん、解ったよ」
 リューリはその答えを聞いて、ふっと吹っ切れたように真っ直ぐな目で”幻喰らい”を見据える。拳を握り、構えを取る。
「なら、そんな目的で幻獣をあんな姿にしちゃう君を……私は許さないよ! 問答無用で、ぐーぱんちだ!」
「やれるもんならやってみろよ!」
 今度は”幻喰らい”は、圧縮した火炎球を掌に宿す。それを地面に叩きつけると、衝撃と共に爆風と爆炎が燃え広がる。接近していたリューリ及びエニアが距離を取らされると、その隙に詠唱を開始。狙うは、眼前に現れたリューリ。掌にマテリアルが収束していき、電撃が漏れだしていたが……その電撃が、急にほつれた。
「な、ぐっ……!? 魔力が散った!?」
 今注意から外していたエニアによるカウンターマジックだ。”幻喰らい”は詠唱を潰され、収束していたマテリアルが拡散する。
「そんな適当な魔法で、わたし達を倒せると思ったの?」
「貴様……っ!」
「短絡的だね。魔法どころか考えも。効率ばかり求めて大事な所を見落としてるよ。急がば回れって格言も知らないのかな?」
「ほざくなぁぁっ!」
 エニアはあえて神経を逆撫でするような言葉遣いで自らに”幻喰らい”の注意を向けさせる。振るわれる魔力を伴った腕を鞭で絡めとり狙いを阻害し、短い挙動で打ち出された魔力弾も身に纏う風で受け流して回避する。接近戦による魔法戦の達人たる彼女は、同じく魔法戦を主に行う”幻喰らい”に絶えず挑戦的な態度を取っていたが、別の場所に着弾し爆発する魔法の威力を見て評価を改めていた。
(これだけの魔力だったなら自信があるのも頷けるね。けど、わたしには通用しないよ)
 ゼロ距離で肉薄し続けるエニア。同じ魔術師としての矜持か、エニアをねじ伏せようと魔力を高め続ける”幻喰らい”だが、挑発的な言動も接近戦も、彼の神経を逆撫で、注意を引き続けていたのは、リューリ為の隙を作る為だ。
(今まで模倣幻獣にされてしまった幻獣の気持ちは、代弁できないけど)
 リューリは拳を握りしめ、想いと共にマテリアルを込め、自らに宿る祖霊と大気に眠るマテリアルに力強く訴えかける。
(これ以上増やすのは、止められるよね)
 呼吸をひと吐き、ふた吐きして、少しずつ大気と同調していく。マテリアルを自らの中に取り込み、呼び入れ、我がものとし、身体ごと心と精神を自然と調和させていく。

(今使える力を全部使ってでも、”幻喰らい”は、絶対に、ここで……倒すよ!)

 祖霊へと訴えかけ、奥義を発現させるリューリ。かつて鏡像の林を抜けた時に決意した想いを描きながら、死を乗り越えた際に思い描いた覚悟を強く心に結びつける。大気が逆巻き、彼女の姿が変容する。腕や髪の一部が翼のような羽毛となり、爪が雄大な鉤爪に変化する。鷹を思わせる様相の彼女は”幻喰らい”へと飛来する。圧倒的なマテリアルの奔流に気づき、”幻喰らい”のローブから僅かに覗く顔色が青くなる。
「なっ、ん……なんだ、貴様はァ!?」
 思わず眼前にいたエニアから視線を外し、飛来するリューリから回避行動を取ろうとする”幻喰らい”だったが
「逃さないよ!」
 そのチャンスを逃すエニアではなく、詠唱した冷気の嵐を”幻喰らい”の足元に集中して放出する。吹き荒れる吹雪が”幻喰らい”の足を凍りつかせ、動きを封じる。
「今だっ!」
 リューリは指を曲げた掌を、上から下に叩きつけるように振るう。するとその手を動きに合わせて空間に満ちる風が突風の如く襲いかかり、”幻喰らい”を上方向から打ち付ける。強烈な突風を頭上から受け、大きく耐性が崩れたそこへ。
「ふっとべぇっ!」
 リューリの強力無比な拳が炸裂する。胴体にまともに受けた”幻喰らい”の身体はくの字に折れ曲がり、『がはぁっ!』と息を吐き出す。
「これで、終わらせ……!」
「させ、るかよォ!」
 もう片方の手で追加の一撃を放とうとしたリューリの眼前に掌を突きつける、そこから即席で作られた魔法弾が、放たれる。
「っ!!」
 ドゴォン!! と爆発的な音を立てて彼女の胸元へ衝撃が放たれる。強い衝撃にバキィ、と胸の奥で何かが折れる音がし、血を吐き出す。死を乗り越える決意については強く心に持っていたつもりだったが、今一瞬、その想いがほつれてしまった為に付け入る隙を与えてしまったのだった。そんなリューリだが、まともに受けた攻撃に朦朧となりつつも、意識を手放す前に握ったその拳を、眼前の”幻喰らい”に叩き込んだ。
「ぐー……ぱんち!!!」
「な、がふぅっ!?」
 リューリが地面へと落ちると同時に、奥義を宿した強力無比な一撃を顔面に受けた”幻喰らい”も綺麗な軌道を描いて吹っ飛んでいく。
「リューリさん!」
 エニアが慌てて駆け寄る。彼女の頭や腕から羽毛が消え、普通の人間の姿に戻る。それと同時に”幻喰らい”も起き上がり、よろよろとどこかへ歩き去ろうとする。
「ち、くしょう……! 青木の野郎、何が簡単な仕事だ、馬鹿野郎……!」
 悪態をつき、足を引きずりながらも慌ててこの場を去ろうとする”幻喰らい”。リューリに受けた2撃が、本来彼に立つ事すらままならないダメージを与えていた。
「あら、どこへ行きますの?」
「は……っ」
 そんな”幻喰らい”の元へ、コロナが姿を現す。
「たくさんの命を踏み躙り、幻獣の森もまた踏み潰そうとした狼藉者。逃すとお思いですこと?」
「く、くそったれェェェェ!」
 悪あがきに魔法弾を撃とうとするが、それよりもコロナの重く素早い一撃が、”幻喰らい”の顔面を大きく強打していた。
「ツケはしっかりと払ってもらいますのよ……飛んで、いきなさい!!」
 祖霊の力を込められ、大きく振り抜かれた聖剣が、”幻喰らい”を遠くの空に吹き飛ばした。
「ちく、しょォ……」
 最期に悔悟の篭った声をあげながら、”幻喰らい”は消滅していった。


 指揮官である”幻喰らい”はこうして撃破された。彼の指揮していたリビングアーマー部隊は、その頭脳を失った事で瓦解し、散り散りにどこかへと消えてしまった。
 幻獣の森の南部戦線の一つがなくなり、ハンター達は勝利にまた一つ近づいたのだった。

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  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニアka0370
  • 《太陽》たる輝きの使徒
    コロナ=XIXka4527

重体一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502

参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇(ka0684
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 《太陽》たる輝きの使徒
    コロナ=XIX(ka4527
    人間(紅)|14才|女性|霊闘士
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    人間(紅)|16才|男性|闘狩人

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アイコン 【質問卓】
リューリ・ハルマ(ka0502
エルフ|20才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/04/17 17:19:44
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/17 14:03:31
アイコン 【相談卓】偽りの幻を打ち壊せ
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/04/21 16:32:43