異世界武侠 八卦の舞

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/23 19:00
完成日
2016/05/01 00:51

みんなの思い出

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オープニング

「もし、そこなお方。ちょいとお聞きしたい事がありんしてねぇ。わっちに付き合うてくれなんし」
 とある廃工場の門前。その両脇に立つ二人組の男、その片割れへと漆塗りの下駄の音を響かせながら近付き声を掛けてきたのは、一人の女だった。
「何者だ、ここは女が寄るような場所じゃねえぞ」
 男は体面上邪険に扱いながらも、その声音には少しばかり甘ったるさがあった。無理もないだろう。女が纏う、その扇情的な雰囲気を前にすれば、男たるものそそられるのは当然の事と言えた。
 着崩した着物から覗く豊満な胸元、紅を差した厚ぼったい唇、絹糸を漆で一本一本丁寧に染め上げたかのような黒髪。彼女を構成する要素のどれ一つを取っても、男を魅了する為に設計されたかのようだ。
 いや、彼女に妖艶さを与えているのは、何も容姿だけではない。その異様に曲線的な立ち振る舞いが、彼女の艶めかしさをより一層に際立たせている。
 だがそれは、この男に武術の心得がなかったからこその印象だった。二人の内、もう一人の男は、門前へと歩み寄ってくる女の歩み──その所作に、別のモノを見出した。甘い匂いを発し虫を誘き寄せる食虫植物が隠す、恐ろしき牙にも似たモノを。
「止まれ、女。何者だ」
「おやまあ、まさかこうも容易く見破られるとは思うて居りんせんで。さほどはぐらかす気もありんせんでしたが。では、名を明かさせて頂きんす。わっちの名は、香扇(かせん)でありんす。どうぞよしなに」
 女──香扇は、その名を告げながら一礼する。その所作もまた、礼儀に倣うというよりは、より色香を立たせる為の行いであるかのようだ。
「おい、お前は下がってろ」
 しかし片割れの男は、それを見てより強い警戒心を覚えたらしく、相棒の男へ後退を促して前へ出ようとした。
「──っ!?」
 渋々ながら後ろへ下ろうとした男の手首を、香扇の左手が取る。
「ちょいと、もちっと居なんせ」
 腕を掴んだのは血管が透けて見える程に白い、女の細腕。にも関わらず、男の身体はいとも容易く引き寄せられる。
「おい、手を──」
 咄嗟に逆らおうと力を籠めた刹那──天地が逆転した。
 頭を地に叩き付けられ昏倒するまで、何が起きたか彼に理解する事はできなかった。認識できたのは、自分の手首を掴んだ手が、滑るような動きで腕を昇り額に添えられた所まで。その後は視界が巡るましく回り、翻弄されるのみだった。
「おやまあ、他愛のない」
「……っ、その動き、やはり八卦掌か」
 今しがた相方を伸した技を見て、男は香扇の素性、その一部の見当に確信を持った。
 この妖艶な女は、八卦掌の拳士だ。それはもう疑いようがない。
 柔と剛を併せ持つ勁、そして走圏と呼ばれる円周を意識した足運び。中華武術の三大内家拳が一つ、八卦掌の特徴に相違ない。
「お分かりで? 護身の為に嗜む程度のものでござんすが」
「抜かせ。今の動き、女の護身術には役不足に過ぎる。答えろ、女。目的は何だ?」
「女にそう問いを重ねるものではありんせん。どうしてもお聞きしたいのなら、お力ずくでどうぞ。お腰に付けたそれは、伊達ではないのでござんしょ?」
 香扇は男が腰に佩く段平の刀を指し示した。ショートソードと比しても尚、幅の広く短い刀身を持つ二振りの刀を。
「八斬刀──詠春拳でござんすね。わっちの知り合いにも使い手が居りんして、奇縁な事もありんすねぇ」
 ころころと、その時だけ妙に稚気を感じさせる笑みを漏らす香扇。そんな彼女に警戒の目を向けたまま、男は八斬刀を両の手に一本ずつ握った。
「貴様は空手のままやるつもりか」
「ああ、そうでござんした。ではわっちはこれを」
 嘯くように告げながら、左袖に隠した左手を露にする。その手に握られていたのは、一柄の扇子──いや、
「鉄扇……だと? たかが暗器で、我が功を宿したこの刀の相手が務まると思うか!」
 彼女の得物を見た男は目を剥いて、香扇を睨み付ける。怒気を受けた彼女は、男の視線から自分を庇うように鉄扇を広げてみせる。
「おやまあ、怖い。嫌ですよう、そう睨んでは」
 しかしその声の調子は怯えとは無縁。寧ろ、あからさまに揶揄する意図さえ感じられた。
「膾切りにしてくれる!」
 男はその意図を理解しつつも、敢えて挑発に乗った。ここまで虚仮にされて尚、自分を抑えるつもりはなかった。如何な功を重ねていようと、たかが女──最後まで警戒を抱いていながらも、そういう慢心が彼の心にあったのかもしれない。
 心中はどうあれ、男は持てる功を全て注ぎ込んで双刀を振るい、香扇へと斬り掛かった。
 詠春拳の套路を簡潔に言い表すなら、実直──その一言に尽きる。無駄な動きを一切排した、効率性のみを追求したその套路は、とかく防御に優れるが、それが一度攻勢に転じれば、相手に反撃を許さぬ猛攻となる。──筈だった。
「もっと早う動きんせんと、わっちに喘ぎ声一つ上げさせる事も叶いんせんよ?」
 だが八斬刀による連撃は、その悉くが閉じた鉄扇を前に阻まれた。
 八卦掌は歩法のみに留まらず、その殆どの動作において円を描く事に重きを置く。故にその套路には停止する瞬間が存在しない。
 功夫だけでなく、殆どの武術の技にはその終わりに必ず停止する瞬間が存在する。それは威力を生じさせる為に必要不可欠なものだ。
 しかし柔と剛を併合した八卦掌には、必要ない。力を込めずとも、柔を以って円を巡らせば、そこに剛の力が宿るのだから。そして終わりがないからこそ、常に相手の速さを上回る事を可能とするのだ。
 だが速度を上回っても、攻めを防ぐ盾がなければ意味はない。香扇の得物は鉄扇。たとえその骨組みが鉄製であろうとも、所詮は扇子。その強度はたかが知れている。暗器に過ぎない鉄扇では、八斬刀の斬撃を受ける事は不可能だ。
「くっ、化勁か……!」
 化勁──纏絲の法、その内が一つ。つまりは、香扇の鉄扇は襲い来る斬撃を受けているのではなく、受け流しているのである。
 事実、先程から八斬刀の刀身が鉄扇に触れた瞬間に、男自身の意思とは無関係にあらぬ方向へと流されている。これでは幾ら手数を重ねようと、ただ徒に消耗するだけだ。
「ならばっ!」
 男は一歩足を下げたかと思うと、攻め手を変えた。斬撃──線の軌道を描くからこそ、こうも容易く捌かれるのだ。ならばいっそ、点に絞れば良い。
 直後に男が放ったのは刺突──円の守護を穿つ、点の攻撃を繰り出した。
「おやまあ──」
 ──誘われたのだとも露知らず。
「──思うてたよりお早いですねぇ」
 音を立てて、扇子が広がる。絞った点を迎えたのは、広げられた面。
 渾身の刺突は、紙細工の蝶のように弄ばれた。たたらを踏んで身体が前へと流れる。いや、流される。
「では心逝くまで、お逝きなんし」
 頸骨が砕けて暗闇へと墜ちて逝く直前に男の鼓膜を犯したのは、痺れる程に官能的な響きを持つ、蕩けるように甘い女の声だった。

リプレイ本文

「たっ、のもーっ!」
 開口一番、リオン(ka1757)が正面玄関を殴り飛ばした。
「おやまあ──」
 凄まじい衝撃に吹っ飛んだ戸が、工場内の香扇へと飛んで行く。彼女は飛来した戸を広げた扇で受けると、まさに今自分に刀で斬り掛かろうとしていた男の方向へと流した。
「──ようこそ、お出でなんした」
 床に伸びる男を捨て置き、香扇はリオンを見遣った。
「あり~? どこの誰チャンかにゃ、そこのヘビネーチャン?」
「蛇?」
 ぬらりとした所作を比喩してなのか、蛇と称された香扇が首を傾げる。
「わっちは香扇といいんす。そちらと同じく雇われの身でござんすよ?」
「ふ~ん。門のアレをやったのも、今の技? ヤバくね、何さっきの? 教えてクリクリー?」
「それは、はしたないものをお見せしんした。──お教えするのは構いんせんが、今はあちらの殿方達の御相手がお先では?」
「そだネ。んじゃ、チョッチお片付けしちゃおっかナ☆」
 心躍る闘争を予感して、リオンはさも愉し気に拳を打ち鳴らした。

「サタデーナイトスペシャルなんて、放っておいて得な事などありません。喜ぶのはケチな小悪党と、ヤブ医者だけですからね」
 狭霧 雷(ka5296)が両の手にリボルバーの銃把を握り締めながら、銃で武装した男達の前へ進み出る。
「何だ、こいつは……?」
 男達は、狭霧の衣装──アクタースーツを見遣って、戸惑いを見せる。
「とにかく止まれ! 銃を捨てろ」
 戸惑いは一時の事、すぐに彼らは狭霧へと粗末な拳銃の銃口を向けた。
「やれやれ、煩い雑魚を蹴散らすとしましょうか」
 幾つもの殺眼に捉えられた狭霧は更にもう一歩、足を踏み出した。
「阿呆め!」
 男達は、銃爪にトリガープルを乗せる。
 響き渡る銃火の咆哮──同時に幾重にも重なる射線が、狭霧を襲う。しかし、
「阿呆はそちらです」
 狭霧は倒れる事なく、ほくそ笑む。その表情を男達に窺う事はできないが。
「馬鹿な……!」
 男達が驚愕を露にする。さもあらん。銃撃に対して狭霧は右に一歩、更に左に二歩動いただけだ。
「驚く事は何もない。スキル頼みの我流ではありますが、これがガン=カタというものです」
 講釈を説き終え、両手のリボルバーを掲げる。
「これより先、私の銃は必中必殺と知りなさい」

「これはまた面白いお方が。こうも奇縁が重なると、少し怖いくらいですねぇ」

「騒がしい、ね、もう……始まってる、の?」
 オリガ・ローディン(ka6253)は、怒声と銃声に眉を顰める。
「よお、お嬢ちゃん。迷子か? 子供はママの所にさっさと帰りな」
 男達の一人が細身の少女であるオリガに、嘲笑を向ける。
「……邪魔、消えて」
「邪魔とはひでえなあ、何なら俺らがママのとこまで──」
 男の喉元に、魔導籠手の指先から飛び出した刃が食い込んだ。
「二度と、その汚い口を……開くな……!」
 男の喉に突き付けた右手にオレンジ、左手にブルーの炎が生じる。
「ヒッ……!?」
 顔面を灼かれると錯覚した男がのけぞり、尻餅を突く。
「死にたく、ないなら……黙って消えて」
 男を見下ろす両眼、その右眼が右手の炎と同色に染まる。それは彼女の憤怒を表す色か。それともかつて彼女を襲った災禍を、今も視続けているのか。
「ヒュー♪ 威勢が良いな、嬢ちゃん」
 口笛を吹きながら、オリガの前に進み出たのは、態度の軽い金髪の男。しかしその歩みには、武道の心得が滲み出ている。
「お前達は下がってな、この嬢ちゃんの相手は俺がする。良いだろ? 嬢ちゃん」
「……望む、ところ」

「こんなもんデスカ? リアルブルーのクンフーとかいうのは」
 旋棍で手斧を握る男の顎を打ち払う。
「がっかりデス。ちっともHeartがDancingしませんヨ?」
 頽れた男を一瞥して、クロード・N・シックス(ka4741)は嘆息を漏らした。
「──それは失礼した」
 そんな彼女の前に進み出たのは、細目の男。その腰には二振りの八斬刀が提げられている。
「だが、永き歴史の中で練磨された功夫を、この程度で知った気になられては困る」
「ヘエ、それじゃあアナタが教えてくれるんデスカ?」
 微笑を零すクロードに、男は八斬刀を両手に取り、二つの刃を水平に傾ける構えを取った。
「お望みとあらば、その身に刻み付けて進ぜよう」
「是非もありません」
 対してクロードは、歴史による裏打ちのない我流の型を構えた。
「──授業料は、この旋棍の一撃で良いデスカ?」

「人間相手、か。気は進まんが、無視するわけにもいかないので、な」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)は愛刀──その長い刀身を包む布の結び目に手を掛けた。慣れた手付きで解くと、布がはらりと落ちて刀身が露になる。
 月神への祈祷の言葉と、祓魔の祝詞が刻まれた刀身が。
 抜刀の一瞬だけ、金銀黒毛の大狼をオウガの背に幻視した男達が、彼の間合いへと立ち入る事を躊躇する。
「──この男の相手は俺がする」
 オウガの前に現れたのは、彼の得物と比べても遜色ない長さを誇る棍を携えた、禿頭の男。
「始める前に、言っておく。降伏を望むなら先に言って貰いたい」
「人様の商売の邪魔しくさって、吹いてんじゃねえ」
「仕方あるまい。では、相応の覚悟をして貰おう」
 オウガは肩を竦めると、愛刀の切先を禿頭に向けた。

「お粗末な銃でも、数がある分厄介だな」
 クリスティン・ガフ(ka1090)は、積み上げられた木箱を弾避けにしながら、男達の逃走経路を塞ぐように工場内の壁沿いを移動する。
「くっ……!」
 次の弾避けとして選んだ木箱の陰へと移動する彼女を、幾つもの銃口が捉える。クリスティンは携えた鋼糸を天井の梁に巻き付けると、天井高くまで跳んだ。
 錐揉みしながら宙を舞い、襲い来る弾丸の雨を掻い潜る。
 弾丸の群れが皮一枚を裂く──死の悪寒が背筋を伝う中、中空でリボルバーの銃爪を絞る。
 シリンダー内の弾丸を撃ち尽くして、着地。すぐに手近な木箱の陰に転がり込むと、再装填──しようとした手を止める。
「弾代だってロハじゃないんだ。連中には、自分達のお手製を喰らって貰おう」
 クリスティンは立ち上がると、背を預けていた木箱の蓋をこじ開けた。中から一挺の拳銃と弾倉を取り出すと木箱を蹴り飛ばし、辺りに銃をばら撒いた。
 直後に、銃を構えて飛び出した。まずは正面の敵──三人の膝を撃ち抜いた所で、拳銃が弾詰ま(ジャム)った。
「酷い出来だな、本当に!」
 排莢不良の拳銃を捨て、足下の銃を拾い上げると、更に別の敵へと銃を向けて銃爪を絞る。だが、
「不発だと!?」
 弾丸が射出されない。
「間抜けめ!」
 照準に晒された男が、安堵と嘲りの混じった笑みを浮かべながら銃口を向けて、撃発。
「なに!?」 
 だがそれもまた、不発に終わる。
「間抜けはどっちだ」
 クリスティンは男の顔面目掛けて拳銃を放り投げた。鼻面にクリーンヒットし、男が倒れる。
「何て泥仕合だ、まったく」
 悪態を吐きながら更に足下の銃を拾い上げようとして思い留まり、自前のリボルバーを再装填する。
「弾が出ないなんて、そんな馬鹿な理由でくたばるのは御免だ」

「棒術、ではないのか?」
「俺の六点半棍を、棒切れ遊びと一緒にしてくれんなよ」
 禿頭は長棍の末端を握って胸元の位置で保持し、突きや小刻みな払いを主体として攻めて来る。
「大体手前のそれは何だ。ぬるぬるとうっとうしい」
「心外だな。こちらも由緒正しき舞を起源としているんだが」
 オウガの緩急を付けた独特の剣術は、神楽を応用した我流である。禿頭の直線的な攻めと比すると手数には劣るが、曲線の多い所作は酷く捉え難い。
「まあ良い、ではそろそろ決着と行こう」
 曲線を描く剣舞と、実直な棍捌きが拮抗。
「しまっ……!」
 緩やかな所作から急激な足運びを取ったオウガに、禿頭が応じ手を誤った。長棍の半ばを長刀に断たれ、首筋へ切先が突き付けられる。
「今一度問う。降伏する気になったか?」
「──くたばれ」
「そうか──ならば仕方ない」
 刀を翻し、一足飛びに禿頭に懐へ飛び込むと、柄頭をその鳩尾に叩き込んだ。しかし、
「甘えんだよ」
 その一打は、分厚い掌に受け止められる。
「こちらの台詞だ」
 オウガが微かに不敵な笑みを浮かべた直後、柄頭から雷光が迸り、禿頭の胴を貫いた。。
 倒れた男の胸が上下しているのを確認すると、オウガはやや安堵したように溜息を漏らした。
「やはり人間相手となると、余計な気が入ってしまうな」

 八斬刀と旋棍の鬩ぎ合いは、手合いを重ねる毎に速度を増して行く。しかし、優劣の見極めは、誰の眼にも明らかだった。
 クロードの足下で花開く、紅い華々を見れば。
 下方から迫る斬撃を、交差した旋棍で受け止め後ろに下がる。しかし、それを追う事なく、細目は訝し気に彼女を見た。笑みを浮かべる彼女を。
「何故、笑うのです?」
「嬉しいんデスヨ。貴方のお蔭で、私は更に強くなる。──だから、お礼を上げるわ」
「お礼? 貴女の命、ですか? それならば差し出されるまでも──」
「いいえ、私の全身全霊を」
 クロードが細目との距離を詰め、左方の旋棍を振るう。
 それに対し、細目は冷静に応じ手を返した。クロードの技は愚直だ。大技ばかりで、小細工がない。彼の八斬刀に取っては、格好のカモ。
 旋棍の一打を右の刀で払って、左の刺突で仕留める。術理に沿って組み立てた彼の応じ手は、しかし、
「な、に!?」
 クロードが柄を握る拳をインパクトの寸前で緩め、短から長へ打撃部位を反転させ目測を誤らせる幻惑の一手を繰り出した事により、悪手へと変わる。
 細目は手首を打ち据えられ、八斬刀を取り落した。
「くっ、まだ……!」
「もう、終わりよ」
 左の刺突と、右の突撃が交叉する。
 八斬刀の切先が頬を裂き、旋棍の先端が鳩尾に突き刺さった。
「あ~、しんどい」
 工場の端まで吹き飛んだ細目を見遣ると、出血による倦怠感に襲われ溜息を零した。

 蹴り上げた机越しに、更に強烈な蹴撃を叩き込む。向こう側からも同様に蹴りが放たれ、机が圧壊。
「っ……!」
 力負けしたオリガが、弾き飛ばされる。後ろ脚を踏ん張り、倒そうになるのをどうにか堪えた。
「──なんで、こんな力があるのに、銃を作ったりするの……?」
 気を巡らせて身体を癒しながら、オリガは金髪に問いを投げた。
「んー? まああれだ、人助けって所かね」
「人、助け……?」
「そうさ。俺らが作った銃で御機嫌になる奴が居る。俺らの財布も御機嫌になる。皆がハッピーになれるってわけだ」
「ふざけないで……! その銃で、死んだ人も居るのに……!」
「ああ、ま、そいつらは運がなかったんだろ?」
 運が、なかった?
「ふざける、な……!」
 人の死を、そんな理由で片付けて良いわけがない。人の死には、確固足る理由があるべきだ。そう、集落の住人達と両親を殺した歪虚を招いた要因が、オリガ自身であったのと同様に。
 ──そうでなければ、あまりに虚しいから。
 腕に宿る炎が、より一層激しく燃え上がった。
 金髪の懐に飛び込み、拳を振るう。まずは左の裏拳で相手の防御をこじ開け、その隙間に右の正拳をねじ込んだ。
「拳が重く……!?」
 金髪が拳の勢いに負けて下がる。
 オリガは手近な机を足場に跳び、宙で身体を弓なりにしならせ反動を付けると、組み合わせた両拳の鎚を金髪に落とした。
 床に頭を叩き付け昏倒した金髪を見下ろし、肩で息をしながらオリガは言った。
「私は……そんなの絶対に、認めない」

 己が眉間を睨む銃口──その銃身を、右方のリボルバーで打ち払う。入れ替わりに、敵の眉間に銃口を向け、銃爪を絞る。
 弾丸が敵の後頭部から突き抜けると同時に、左方のリボルバーの照準を、視界の隅に映る敵に向け、撃発。
 狭霧は常に活路を歩き、敵を死路へと案内する。
 最後に残った一人の男に取って、双対のリボルバーは、さながら死神の鎌のように映っただろう。
 左右に広げられたリボルバーへとその視線が泳ぐ。顎を蹴り上げられるその時まで、狭霧の蹴撃には気付かぬまま。
 周囲に自分以外に立つ者が居ない事を確認した狭霧は、空薬莢を排莢する。総計十二の真鍮器が軽やかな音を立てて、主の勝利を祝福した。
 
 交差した腕を掲げて、振り下ろされた手斧の柄を受け止める。左の手で斧を払い、木肌を滑らせ斧を握る男の手首を掴むと、更に右手で肩を掴んで動きを拘束。
「喰らえ、アタシの石頭☆」
 男の額へ、リオンは躊躇なくヘッドバットを叩き込む。 
 白目を剥く男を掴んだまま後方へと振り返ると、不意を突こうと刀を振り上げた男に向けて蹴り飛ばす。
 手近な机を踏み台にして飛翔すると、体勢を崩した刀持ちの顔面へと真空飛び膝蹴りを叩き込んだ。
 リオンはデリンジャーを手に取り、鼻の曲がった男に銃口を突き付ける。
「ハイハイ、ベイビー? 御機嫌いかが? アタシここのドンにお話しがあるんだけどサ~? 何処に居るのか知んないキャナ~?」
「ぼ、ぼふはらはほほひ」
 男が指差した先──二階のキャットウォークに視線を向けると、粗野な顔付きの男が立って居た。
「こいつが見えるか、馬鹿共! こいつはな、証拠隠滅用に工場に仕込んでおいた爆薬に繋がった導火線だ」
 右手に燐寸、左手に長い導火線を持った男が。
「死にたくなけりゃ、降伏しやがれ!」
「無駄だ、それに火を着けても爆発はしないぞ」
 声高々と叫ぶ男に、クリスティンが落ち着き払った様子で応えた。
「眼に付いた導火線は、あらかた切っておいたからな」
「は、ハッタリだ!」
「そう思うなら好きにしろ。どちらにせよ、そんな暇は与えんがな」
 言い終えるや否や、彼女は柄に仕込んだモーターを作動して、鋼糸を振るう。キャットウォークを斬り裂かれ、崩れた足場と共に男が落ちる。
「──糞が。ん? 燐寸! 燐寸は何処に行った!?」
「火遊びは、そーこーまーで」
 慌てふためいて辺りを手探る男のこめかみに、デリンジャーが突き付けられる。
「そんじゃあ、アタシと良い事して遊ぼうか?」



 ゲボッ!?
「ちょっちだけ話してくれれば、痛いのも苦しいのも、お終いだからサ~ァ? 早くゲロッちゃおうよ?」
 ……話せば俺はただじゃ済まねえ。
「そう言わずに──」
「もし、お口を挟ませて頂ぎんすが、殿方にこういう物の聞き方は良くありんせんよ?」
「じゃあどうすんのさ、ヘビネーチャン」
「殿方にはとても大切にして居られる物がござんしょ? それも二つも。まあ、わっちにお任せなんし。この水風船を潰すような感触は、少々癖になりんしてねぇ。
 そーれぇ♪」
 ギギぃァ──!
「おやまあ、おいたわしや。そんなに痛いのでござんすか? わっちもこれ以上は心苦しゅうて敵いんせん。できれば──」
 ──わ、わかった、言うから、言うから。
「お話しして頂けるので? それは是非、お礼をしなければいけんせんねぇ。
 では、もう一ついかが?」

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MVP一覧

  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフka1090

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • HappyTerror
    リオン(ka1757
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士
  • 双棍の士
    葉桐 舞矢(ka4741
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 能力者
    狭霧 雷(ka5296
    人間(蒼)|27才|男性|霊闘士

  • オリガ・ローディン(ka6253
    人間(紅)|15才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/20 00:58:32
アイコン 相談所
オリガ・ローディン(ka6253
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/04/22 21:45:46