• 戦闘

異世界武侠 八卦の舞

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2016/04/23 19:00
リプレイ完成予定
2016/05/02 19:00

オープニング

「もし、そこなお方。ちょいとお聞きしたい事がありんしてねぇ。わっちに付き合うてくれなんし」
 とある廃工場の門前。その両脇に立つ二人組の男、その片割れへと漆塗りの下駄の音を響かせながら近付き声を掛けてきたのは、一人の女だった。
「何者だ、ここは女が寄るような場所じゃねえぞ」
 男は体面上邪険に扱いながらも、その声音には少しばかり甘ったるさがあった。無理もないだろう。女が纏う、その扇情的な雰囲気を前にすれば、男たるものそそられるのは当然の事と言えた。
 着崩した着物から覗く豊満な胸元、紅を差した厚ぼったい唇、絹糸を漆で一本一本丁寧に染め上げたかのような黒髪。彼女を構成する要素のどれ一つを取っても、男を魅了する為に設計されたかのようだ。
 いや、彼女に妖艶さを与えているのは、何も容姿だけではない。その異様に曲線的な立ち振る舞いが、彼女の艶めかしさをより一層に際立たせている。
 だがそれは、この男に武術の心得がなかったからこその印象だった。二人の内、もう一人の男は、門前へと歩み寄ってくる女の歩み──その所作に、別のモノを見出した。甘い匂いを発し虫を誘き寄せる食虫植物が隠す、恐ろしき牙にも似たモノを。
「止まれ、女。何者だ」
「おやまあ、まさかこうも容易く見破られるとは思うて居りんせんで。さほどはぐらかす気もありんせんでしたが。では、名を明かさせて頂きんす。わっちの名は、香扇(かせん)でありんす。どうぞよしなに」
 女──香扇は、その名を告げながら一礼する。その所作もまた、礼儀に倣うというよりは、より色香を立たせる為の行いであるかのようだ。
「おい、お前は下がってろ」
 しかし片割れの男は、それを見てより強い警戒心を覚えたらしく、相棒の男へ後退を促して前へ出ようとした。
「──っ!?」
 渋々ながら後ろへ下ろうとした男の手首を、香扇の左手が取る。
「ちょいと、もちっと居なんせ」
 腕を掴んだのは血管が透けて見える程に白い、女の細腕。にも関わらず、男の身体はいとも容易く引き寄せられる。
「おい、手を──」
 咄嗟に逆らおうと力を籠めた刹那──天地が逆転した。
 頭を地に叩き付けられ昏倒するまで、何が起きたか彼に理解する事はできなかった。認識できたのは、自分の手首を掴んだ手が、滑るような動きで腕を昇り額に添えられた所まで。その後は視界が巡るましく回り、翻弄されるのみだった。
「おやまあ、他愛のない」
「……っ、その動き、やはり八卦掌か」
 今しがた相方を伸した技を見て、男は香扇の素性、その一部の見当に確信を持った。
 この妖艶な女は、八卦掌の拳士だ。それはもう疑いようがない。
 柔と剛を併せ持つ勁、そして走圏と呼ばれる円周を意識した足運び。中華武術の三大内家拳が一つ、八卦掌の特徴に相違ない。
「お分かりで? 護身の為に嗜む程度のものでござんすが」
「抜かせ。今の動き、女の護身術には役不足に過ぎる。答えろ、女。目的は何だ?」
「女にそう問いを重ねるものではありんせん。どうしてもお聞きしたいのなら、お力ずくでどうぞ。お腰に付けたそれは、伊達ではないのでござんしょ?」
 香扇は男が腰に佩く段平の刀を指し示した。ショートソードと比しても尚、幅の広く短い刀身を持つ二振りの刀を。
「八斬刀──詠春拳でござんすね。わっちの知り合いにも使い手が居りんして、奇縁な事もありんすねぇ」
 ころころと、その時だけ妙に稚気を感じさせる笑みを漏らす香扇。そんな彼女に警戒の目を向けたまま、男は八斬刀を両の手に一本ずつ握った。
「貴様は空手のままやるつもりか」
「ああ、そうでござんした。ではわっちはこれを」
 嘯くように告げながら、左袖に隠した左手を露にする。その手に握られていたのは、一柄の扇子──いや、
「鉄扇……だと? たかが暗器で、我が功を宿したこの刀の相手が務まると思うか!」
 彼女の得物を見た男は目を剥いて、香扇を睨み付ける。怒気を受けた彼女は、男の視線から自分を庇うように鉄扇を広げてみせる。
「おやまあ、怖い。嫌ですよう、そう睨んでは」
 しかしその声の調子は怯えとは無縁。寧ろ、あからさまに揶揄する意図さえ感じられた。
「膾切りにしてくれる!」
 男はその意図を理解しつつも、敢えて挑発に乗った。ここまで虚仮にされて尚、自分を抑えるつもりはなかった。如何な功を重ねていようと、たかが女──最後まで警戒を抱いていながらも、そういう慢心が彼の心にあったのかもしれない。
 心中はどうあれ、男は持てる功を全て注ぎ込んで双刀を振るい、香扇へと斬り掛かった。
 詠春拳の套路を簡潔に言い表すなら、実直──その一言に尽きる。無駄な動きを一切排した、効率性のみを追求したその套路は、とかく防御に優れるが、それが一度攻勢に転じれば、相手に反撃を許さぬ猛攻となる。──筈だった。
「もっと早う動きんせんと、わっちに喘ぎ声一つ上げさせる事も叶いんせんよ?」
 だが八斬刀による連撃は、その悉くが閉じた鉄扇を前に阻まれた。
 八卦掌は歩法のみに留まらず、その殆どの動作において円を描く事に重きを置く。故にその套路には停止する瞬間が存在しない。
 功夫だけでなく、殆どの武術の技にはその終わりに必ず停止する瞬間が存在する。それは威力を生じさせる為に必要不可欠なものだ。
 しかし柔と剛を併合した八卦掌には、必要ない。力を込めずとも、柔を以って円を巡らせば、そこに剛の力が宿るのだから。そして終わりがないからこそ、常に相手の速さを上回る事を可能とするのだ。
 だが速度を上回っても、攻めを防ぐ盾がなければ意味はない。香扇の得物は鉄扇。たとえその骨組みが鉄製であろうとも、所詮は扇子。その強度はたかが知れている。暗器に過ぎない鉄扇では、八斬刀の斬撃を受ける事は不可能だ。
「くっ、化勁か……!」
 化勁──纏絲の法、その内が一つ。つまりは、香扇の鉄扇は襲い来る斬撃を受けているのではなく、受け流しているのである。
 事実、先程から八斬刀の刀身が鉄扇に触れた瞬間に、男自身の意思とは無関係にあらぬ方向へと流されている。これでは幾ら手数を重ねようと、ただ徒に消耗するだけだ。
「ならばっ!」
 男は一歩足を下げたかと思うと、攻め手を変えた。斬撃──線の軌道を描くからこそ、こうも容易く捌かれるのだ。ならばいっそ、点に絞れば良い。
 直後に男が放ったのは刺突──円の守護を穿つ、点の攻撃を繰り出した。
「おやまあ──」
 ──誘われたのだとも露知らず。
「──思うてたよりお早いですねぇ」
 音を立てて、扇子が広がる。絞った点を迎えたのは、広げられた面。
 渾身の刺突は、紙細工の蝶のように弄ばれた。たたらを踏んで身体が前へと流れる。いや、流される。
「では心逝くまで、お逝きなんし」
 頸骨が砕けて暗闇へと墜ちて逝く直前に男の鼓膜を犯したのは、痺れる程に官能的な響きを持つ、蕩けるように甘い女の声だった。

解説

・目的
廃工場に屯す銃器密造グループの捕縛、または壊滅

・フィールド
廃棄された織物工場。
内部には密造銃の為の作業台や、密造銃を収めた木箱などがある。
また放置された織物機もあり、中は雑然としている。
開けたスペースも数カ所あり。

・敵
転移して来た華僑マフィア構成員が作ったグループ。総数、約二十名。
下部の人員は紅世界の人間で構成されており、数人の華僑が纏めている模様。
非覚醒者
銃で武装した者が二割、刀、手斧、棍などで武装し武術の心得を持った者が八割。
尚、参加PCに猟撃士、機導士、魔術師などの遠距離攻撃手段を持つ者が含まれると、銃武装者の割合が増加する。
覚醒者
舞刀士、格闘士が数人。主に詠春拳の功を積んでいる。
OPで登場した八斬刀(武器名にして、それを扱う術の名称)、棍を使った六点半棍などの使い手で構成。徒手空拳で闘う者も居る。彼らの使用武器については、プレイングによって希望する事もできる。
また彼らは、『気功波』『青龍翔咬波』のスキルは使用できない。彼らはマテリアルを、武侠小説などにおける内功と同じ概念と捉えており、主に身体能力向上にしか用いない。

・味方
香扇 蒼 女性 格闘士
武装は鉄扇
アクションスキル
柔能制剛
化勁 『竜巻返し』受け性能特化スキル
彼女は、自分と同じ功夫の使い手が集うギルドに所属している模様。廓詞を使うが、別に花魁の経験はない……はず。はんなりドS。

・備考
今回の依頼者は、軍。
最近、銃器による事件事故が多発した為、調査してみると粗悪な密造銃が近辺に出回っている事が発覚。製造元の捕縛、または壊滅をハンターに依頼した。
密造銃は低コストかつ低品質。『ジャンクガン』よりも酷い出来映えである。

マスターより

 紅世界全格闘家の皆さま、カンフー映画風シナリオです。
 映画の活字化を基本スタイルとして居りますので、僕の拙いシナリオを演者として、そして観客として楽しんで頂ければ、これ以上の喜びはありますまい。

 どちらかと言えば、格闘士、もしくは格闘スタイルのPC向けです。勿論、解説にもある通り猟撃士などの後衛系PC参加の場合でも、ある程度難易度調整を施して対応します。

 さて、ここで重大報告。「お、このMS、功夫が書けるのか」と思ったそこの貴方、僕は完全な門外漢です。正直に申しますと、付け焼刃も良い所です。無理ですって、あんなん完全に理解するの。廓詞もかなり危うい。何故、こんな口調にしたのやら。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2016/05/01 00:51

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • HappyTerror
    リオン(ka1757
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士
  • 双棍の士
    葉桐 舞矢(ka4741
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 能力者
    狭霧 雷(ka5296
    人間(蒼)|27才|男性|霊闘士

  • オリガ・ローディン(ka6253
    人間(紅)|15才|女性|格闘士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/20 00:58:32
アイコン 相談所
オリガ・ローディン(ka6253
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/04/22 21:45:46