ゲスト
(ka0000)
元気老人ゴロウタイファイブ!
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/26 19:00
- 完成日
- 2016/05/03 17:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
春めいて王国某所。
簡素な石壁に囲まれた街の名は、ターミナル。特に何事も無く平穏な日々を享受する街である。ここ十年以上は、大きな事件も起きていないのだ。
この平和な街にも自警団はある。ターミナルの自警団の詰め所には、リアルブルーの道場を模した訓練所が併設されている。平和であっても鍛錬は必要だという、自警団創設者の思いがあった。
「一生現役」という誰も意味を理解していない掛け軸のかかった道場は、今、五人の老人によって占拠されていた。彼らは元・自警団員であり平均年齢60歳オーバー。
だが、心は元気であった。
「わしらが若い頃は、もっと遠くの土地まで確認しに行ったもんじゃ」
「そうじゃ、馬を一日飛ばしてもバテることなく、三日立て続けに監視役を担ってもピンピンしておったわ」
彼らが引退したのは十年以上も前のことである。ここのところ、現役時代の話を道場で毎日していた。老人の笑い声に包まれる道場に、一人だけ若者がいた。
現自警団の副団長ダルマである。今年24才の彼は、自警団に入団して3年目だった。副団長と銘打たれているが、実質、道場の管理とご老体の監視役である。
元気なご老体を前にして、副団長は嘆息を漏らす。
「毎日、毎日……ご苦労なこった」
「毎日、なんじゃって?」
声に振り返れば、さらに追加で赤ら顔の老人が道場を訪れていた。小脇に彼が愛用している剣が抱えられている。老人は副団長に「フンッ!」と挨拶すると、仲間と合流する。
「おぉ、レッド! やっとこさ来たか」
「すまぬな。孫を説得するのに手間がかかったわ」
「はっは、お主の孫は真面目だからな」
「っと、時間がもったいない。いつものをやるぞ!」
男たちはいそいそと多様な色のスカーフを取り出すと、自分たちの首元に巻いた。アイコンタクトを済ますと、赤いスカーフを巻いた赤ら顔の老人から名乗りを上げる。
「我こそは、ターミナル自警団の元団長! 赤き近接の……ヒック、近接のファンタジスタ、ゴロウタイレッド!!」
「俺はいつでもクールなナイスガイ。御年68歳だが、そんなことは関係ふぁい! 蒼き弓使い、ゴロウタイブルー!」
「はっはっは、俺のいるところに笑いあり。ターミナルの街に笑顔を届ける、ちょっぴりお茶目な剣客……ゴロウタイイエロー!」
「ターミナルで魔法が必要ならば俺に聞け! ターミナル一? 王国一? いや、世界一の魔法使い、ゴロウタイブラック!」
「真のリーダーはわし、メンバー一の長寿にしてターミナルの知恵袋。同時にターミナルの火薬袋! ライフルマスター、ゴロウタイホワイト!」
「最後に、このわし。毎日健康青汁家族! 槍をもたせれば、敵を一切近寄らせない。ゴロウタイグリーン!」
そして、六人の声が揃う。
「ターミナルを守る。我ら、ゴロウタイファイブ!!」
「六人いるじゃねーか」
「わかっていないなぁ、えーと、博士」
「ダルマ、だ。自警団副団長だよ」
「ダルマ。わし達のファイブは、五体満足という意味じゃ。老いてなお、元気なことを示しておるのじゃ」
かっかっかと笑うホワイトを前に、ダルマは「はぁ」と生返事を返す。
ゴロウタイファイブは再び集まり、談笑を始める。その様子を眺めていると、後ろから自警団の現団長が近づいてきた。
「ダルマ、大変だ」
「どうしましたか、団長」
「ゴブリンだ。ゴブリンの群れが、ターミナル近郊に出やがった」
ただでさえ声がでかい団長が、張り上げて告げた。嫌な予感がして振り返ったが、すでにゴロウタイファイブの姿が消えていた。
「団長! ゴロウタイファイブの姿が、ありません」
「え、窓から出て行ってたけど……」
「いや、あのじいさん達にゴブリンが出たとか聞いたら討伐に行くに決まってるでしょ」
団長の顔が一気に険しくなる。
「ダルマ……どうしよう。自警団も先日の運動会の影響で、すぐに動けないし……」
「とりあえず、ゴブリン討伐を任せるハンターに託しましょう」
「名案だ!」
●
ターミナル近郊、緩やかな丘陵に十数匹のゴブリンの群れがいた。
そのゴブリンの群れを双眼鏡で眺める六人の老人がいた。
「いた。ついに、我らの出番だ」
「ゴロウタイファイブ、初めての出動じゃな!」
意気揚々と戦闘準備を始めるゴロウタイファイブ。
口ずさむのは、バーニングファイア―ゴロウタイ。
愛読書は、リアルブルーより持ち込まれし『特撮大全』。
「はっはっは、腕がなるわい」
迷惑な老人たちの戦いが、今、始まろうとしていた!
春めいて王国某所。
簡素な石壁に囲まれた街の名は、ターミナル。特に何事も無く平穏な日々を享受する街である。ここ十年以上は、大きな事件も起きていないのだ。
この平和な街にも自警団はある。ターミナルの自警団の詰め所には、リアルブルーの道場を模した訓練所が併設されている。平和であっても鍛錬は必要だという、自警団創設者の思いがあった。
「一生現役」という誰も意味を理解していない掛け軸のかかった道場は、今、五人の老人によって占拠されていた。彼らは元・自警団員であり平均年齢60歳オーバー。
だが、心は元気であった。
「わしらが若い頃は、もっと遠くの土地まで確認しに行ったもんじゃ」
「そうじゃ、馬を一日飛ばしてもバテることなく、三日立て続けに監視役を担ってもピンピンしておったわ」
彼らが引退したのは十年以上も前のことである。ここのところ、現役時代の話を道場で毎日していた。老人の笑い声に包まれる道場に、一人だけ若者がいた。
現自警団の副団長ダルマである。今年24才の彼は、自警団に入団して3年目だった。副団長と銘打たれているが、実質、道場の管理とご老体の監視役である。
元気なご老体を前にして、副団長は嘆息を漏らす。
「毎日、毎日……ご苦労なこった」
「毎日、なんじゃって?」
声に振り返れば、さらに追加で赤ら顔の老人が道場を訪れていた。小脇に彼が愛用している剣が抱えられている。老人は副団長に「フンッ!」と挨拶すると、仲間と合流する。
「おぉ、レッド! やっとこさ来たか」
「すまぬな。孫を説得するのに手間がかかったわ」
「はっは、お主の孫は真面目だからな」
「っと、時間がもったいない。いつものをやるぞ!」
男たちはいそいそと多様な色のスカーフを取り出すと、自分たちの首元に巻いた。アイコンタクトを済ますと、赤いスカーフを巻いた赤ら顔の老人から名乗りを上げる。
「我こそは、ターミナル自警団の元団長! 赤き近接の……ヒック、近接のファンタジスタ、ゴロウタイレッド!!」
「俺はいつでもクールなナイスガイ。御年68歳だが、そんなことは関係ふぁい! 蒼き弓使い、ゴロウタイブルー!」
「はっはっは、俺のいるところに笑いあり。ターミナルの街に笑顔を届ける、ちょっぴりお茶目な剣客……ゴロウタイイエロー!」
「ターミナルで魔法が必要ならば俺に聞け! ターミナル一? 王国一? いや、世界一の魔法使い、ゴロウタイブラック!」
「真のリーダーはわし、メンバー一の長寿にしてターミナルの知恵袋。同時にターミナルの火薬袋! ライフルマスター、ゴロウタイホワイト!」
「最後に、このわし。毎日健康青汁家族! 槍をもたせれば、敵を一切近寄らせない。ゴロウタイグリーン!」
そして、六人の声が揃う。
「ターミナルを守る。我ら、ゴロウタイファイブ!!」
「六人いるじゃねーか」
「わかっていないなぁ、えーと、博士」
「ダルマ、だ。自警団副団長だよ」
「ダルマ。わし達のファイブは、五体満足という意味じゃ。老いてなお、元気なことを示しておるのじゃ」
かっかっかと笑うホワイトを前に、ダルマは「はぁ」と生返事を返す。
ゴロウタイファイブは再び集まり、談笑を始める。その様子を眺めていると、後ろから自警団の現団長が近づいてきた。
「ダルマ、大変だ」
「どうしましたか、団長」
「ゴブリンだ。ゴブリンの群れが、ターミナル近郊に出やがった」
ただでさえ声がでかい団長が、張り上げて告げた。嫌な予感がして振り返ったが、すでにゴロウタイファイブの姿が消えていた。
「団長! ゴロウタイファイブの姿が、ありません」
「え、窓から出て行ってたけど……」
「いや、あのじいさん達にゴブリンが出たとか聞いたら討伐に行くに決まってるでしょ」
団長の顔が一気に険しくなる。
「ダルマ……どうしよう。自警団も先日の運動会の影響で、すぐに動けないし……」
「とりあえず、ゴブリン討伐を任せるハンターに託しましょう」
「名案だ!」
●
ターミナル近郊、緩やかな丘陵に十数匹のゴブリンの群れがいた。
そのゴブリンの群れを双眼鏡で眺める六人の老人がいた。
「いた。ついに、我らの出番だ」
「ゴロウタイファイブ、初めての出動じゃな!」
意気揚々と戦闘準備を始めるゴロウタイファイブ。
口ずさむのは、バーニングファイア―ゴロウタイ。
愛読書は、リアルブルーより持ち込まれし『特撮大全』。
「はっはっは、腕がなるわい」
迷惑な老人たちの戦いが、今、始まろうとしていた!
リプレイ本文
●
ターミナルの街近郊にある丘を越えた先に、ゴブリンの群れがいた。
ご老体ファイブが、その姿を視界に捉え、
「行くとするかのぅ」と進みだそうとした。
その時――。
「お待ち下さい」
声に振り返れば、アティニュス(ka4735)がいた。
話は聞かせてもらいました、とアティニュスは進言を申し出る。
「戦闘に入る前に、前口上はされないのでしょうか?」
「前口上……」
「格好良くやるなら必要だと思うのですが」
しばし思案した後、相談を始めるゴロウタイ。
その姿を確認し、アティニュスは馬を走らせた。代わりに、近くにやってきたのは大伴 鈴太郎(ka6016)だ。
鈴は目の前の話し合いを聞きながら、練り上げたマテリアルを纏う。
「傍迷惑なジーサンたちだな、ったく……。年寄りは年寄りらしく縁側で茶でも啜っててくれりゃいいのによぉ」
小さく愚痴を零しながら、庇うために前に出る。
ふと見上げれば、ギュンター=IX(ka5765)の姿があった。
「あ! ギ、ギュンターのコトじゃねーかンな!?」
慌てて手振りを交えて、鈴は弁解する。
「と、年寄りってのはさ……つまりその……」
「つまり、なんでしょうか?」
優しい笑みを浮かべ、ギュンターは問いかける。紳士的で、どこか面白がっているような口調だった。
言葉を濁しながら、鈴は話題を変えることにした。
「ン、ンなコトよりこのジーサンたちどうすンだ!? 怪我でもされたらヤベーぜ?」
「お年寄りは敬うべきと思いますが、彼らのことは正直、困った方々とは思いますね」
エルバッハ・リオン(ka2434)がつぶやきを漏らしながら、魔法の射程をはかる。
「とはいえ、その熱意は本物でしょうから、できる限りの協力はしましょうか」
ちらりと見やれば、ゴロウタイの話し合いは熱を帯びて声が大きくなっていた。それは、耳が遠いからではないと思いたい。
「リアルブルーの文化の悪影響と考えると……乾いた笑いしかでませんけどね」
クオン・サガラ(ka0018)が魔導バイクに乗って、告げる。クリムゾンウェストへの文化的影響は、今後も考えていかなければならない課題だ。
だが、一方でこのご老体への配慮は忘れない。
「最悪の事態は避けたいので、大怪我や精神的なフォローはしていきましょう」
「ふむ」
仲間の言にギュンターは目を細め、
「私はピンチの時に現れるメンバーでも演じましょうか」と自身の役回りを確認する。
話し合いながらも、ゴブリンへ今にでも向かいそうな気迫をゴロウタイは見せ始めていた。それを諌めるように、ステラ・フォーク(ka0808)が声をかける。
「主役は最後に登場するもの……ゴブリン達の隙を作るのは、私達にお任せくださいまし、お爺様達」
弾むような声で告げ、最後に「かっこいい口上を期待していますわ」と添えておく。
期待された老人たちの気合が上昇した。
「さて……」と動物霊の力を見に宿して、ステラは丘を下る。
「毎回これも困るけど……歪虚を倒したいクライアントだと思えば腹は立たないわね」
マリィア・バルデス(ka5848)は自身に言い聞かせるようにつぶやき、パニッシュメントに弾を込める。今回の依頼に問題があるとすれば、依頼者が老人たちではないことだろう。
依頼者の気持ちを代弁するように、
「ったくいい歳こいて戦隊ものとか爆笑もんだねぇ。あーヤダヤダ」
と零しながら、鵤(ka3319)がタバコを吹かす。
道中、戦隊物は多数が少数を袋叩きにするものだと、鵤は愚痴っていた。リアルブルー出身者の言葉は、真実らしく聞こえる。
「主役は最後で暴れる。鉄則だぜ?」
ゴロウタイがいつ動き出してもいいように盾を構え、鵤は次の煙草に手を伸ばす。目の前では爆炎がゴブリンたちの中心で、広がっていた。
●
エルの爆炎を合図に、クオンとステラが回りこむように駈け出した。魔導バイクを操り、一歩先を行くクオンは弓使いのゴブリンを射程内に収め、すかさず引き金を引く。
銃声の音にゴブリンが、動き出す。
まずは遠距離組を倒すと決めていた。
クオンは弓使いへ弾丸を浴びせ、ステラはメイジの喉元に狙いを絞る。攻撃の兆候を聞き漏らさぬよう、ステラは動物霊の力を重ねがけていた。
立て続けに、エルがもう一発ファイアーボールを打ち込んだ。
爆炎が広がる中、ゴブリンたちも負けじと攻撃を開始する。メイジが魔法の矢を放ち、弓使い達が弓を絞る。それぞれ三体ずつ、攻撃先はバラけていた。
初めて見る魔法に、鈴は目を見張っていた。しかも、ゴブリンの放った魔法の一つはゴロウタイファイブに向かってくる。
「……っ!」
議論に熱が入る老人たちを庇い、鈴は魔法の矢を真正面から受け止めた。強化した肉体でも、まともに食らっては堪えるものだ。
「頼んだぜ、本当……」
前方をにらみ、鈴は痛みの走った腕を押さえる。
「さくっと無力化しておかないとねぇ。爺さんがいつ動き出すやら」
鵤は苦笑を浮かべ、素早く光の三角形を展開した。その頂点から、光線を飛ばしてゴロウタイを狙う個体を貫く。
重ねて、ステラが同じ個体に弾丸を食らわせた。ゴロウタイの議論にも聞き耳をたて、ステラが呟く。
「そろそろ議論も佳境かしら……余裕はなさそうね」
「とりあえず、一体!」
マリィアが声を上げると同時にゴブリンメイジの眉間に穴が穿たれた。倒れるメイジから目を外し、マリィアは素早く銃口を上へと上げる。
飛来した矢を銃弾で撃ち飛ばす。視線を下げれば、ゴブリンたちの近接部隊が丘の中腹に至っていた。
●
ゴブリンの動向に、斬り伏せたメイジを見下ろしアティニュスが転身する。
短い呼吸をはさみ、納刀した刀にマテリアルを練り込める。次に刀が抜かれた時には、二体のゴブリンソルジャーとゴブリンが切り払われていた。
素早く広範囲な連撃を前に、ゴブリンたちは足止めを食らう。
「もう少し待ってくれないと困るんだ」
白い髪を振り乱し、アティニュスが告げる。一斉に放たれたゴブリンの斬撃を受け捌きながら、アティニュスは視界の端で後方の様子を探る。
アティニュスが背を向けた先、残る弓使い三体は炎に追われていた。
「そろそろ倒れてほしいところです」
苦笑を浮かべ、クオンは炎を放つ。なかなかトドメに至らない。
なら、もう一度と炎を放つ。今度は、弓使いの一体が巻き込まれて焼け落ちた。残る二体はクオンの炎を浴びつつ、前へと押し進んだ。狙うのは守っていると思われたらしい、ゴロウタイだ。
「このまま戦いに入られると面倒そうだねぇ」
戦闘より前口上談義に花咲かせるゴロウタイに、鵤が苦言を呈する。飛来する矢をマリィアが撃ち落とし、見かねたギュンターも支援に入る。
「……まぁ、そろそろでしょう」
老人たちから見えない位置に立ち、ギュンターは瑞鳥符を放つ。光り輝く鳥の姿に変わった符が、矢を落とす。続けざまに胡蝶符を放ち、ステラがそれに合わせる。弓使いの一体が矢を取りこぼした。
最後にクオンがファイアースローワーでとどめを刺す。未だにメイジと弓使いがそれぞれ一体づつ残る中、ゴロウタイが戦場を振り返った。
「やーやー、我こそは!」
彩りのいい前口上が始まったが、残念ながら聞けるほどの余裕がない。前口上に集中するゴロウタイは、明らかに敵の姿が見えていない。
彼らが被弾しないよう立ち回りながら、鈴は嘆息を漏らす。
「これからが、大変だな」
マテリアルを練り直し、鈴は前を向くのだった。
●
ついに動きだしたゴロウタイファイブ!
メインテーマがかき鳴らされそうな前口上の終わりに、景気付けのようにエルがファイアーボールを放つ。ただし、それはゴロウタイの後方ではなくゴブリンに向けられていた。
「見ろ! わしらの前口上に、ゴブリンどももはじけ飛んでおるわ!」
大口を開けて笑うゴロウタイのポジティブさに、鵤が戦況を見つつ突く。
「おたくらの出番はもうちょい先ですぅー。いいからほれ、適当に歩いて進みなさいよ」
まずは力尽きかけたゴブリンと接敵してもらわねばならない。
ゴロウタイを動かしながら、鵤は盾でまだ続く矢を防ぐ。
「ほいほい、進んで進んで」
「接敵前に終わるんじゃないのか……」
よっこらどっこらと歩く老人の列を眺めながら、鈴は天を仰ぐ。鈴の目の前では、アティニュスがゴブリン二体を刀の錆にしていた。連続した斬撃を前に、ただのゴブリンでは歯がたたなかったのである。
残るゴブリンソルジャーは三体。そのうちの二体がアティニュスの斬撃を逃れて、ゴロウタイへ近づいていた。そこへエルが眠りを誘う霧を発生させる。
霧は、一匹を眠りに落とした。残る一体へは、鵤が魔導拳銃剣に持ち替えて飛び込む。一瞬、ゴブリンソルジャーの目の前で光の刃が舞った。
前衛が温まる中、後衛の攻防は落ち着きつつあった。残っていた弓使いは、ステラの銃撃によって弓を落としていた。弓がなければ、ただのゴブリンである。
クオンが抜き去りざまにショットアンカーを放ち、とどめを刺す。そして、そのままメイジへと近づく。
メイジは、ゴロウタイに気を取られていた。集中力を高めて魔法の矢を最前に立つレッドへ放つ。まっすぐに飛んだ魔法の矢は、しかし、レッドには至らなかった。
光の鳥が、レッドの目の前で魔法の矢を落としたのだ。振り返れば、紫色のスカーフを首元に巻いてギュンターが立っていた。
「私はゴロウタイファイブ影の戦術師……フォローはお任せください。ゴロウタイパープル、参上しました」
全く見も知らぬ仲間の登場に、ゴロウタイたちは無駄にテンションを上げた。
レッドとグリーンは、そのテンションを引っさげて全速力で駈け出した。
「ちょっ待て、先走ンじゃねぇって! 作戦っつーモンがあンだろ!?」
慌てた鈴が急いで追いかける。
「人の話聞けっての! ジジイ、コラ! だあああ、もう行くっきゃねぇ!」
嘆きの叫びを上げながら、速力を上げる。その様子を眺めて、ギュンターはやれやれと肩をすくめた。
そして、おおよそ話し合いや今までの動きを見て、一番冷静な相手に近づく。
それは、ブラックだった。親しい技を持つ相手であれば、なおさら話をしやすい。
「ブラック、あなたにはわかるのではないですか。この仕事に誇りを持っているのなら……それを継ぐ若者達を育てる場を多く作らなくてはならないと」
無理して走るレッドとグリーン。それを追いかける鈴を見やりながらギュンターは符を取り出す。
「彼らから活躍の場……成長のための場を奪ってしまっては、元も子もありませんよね」
そして、アティニュスやクオンたちへ目を向ける。ブラックは黙って聞き入りながら、魔法の矢を放っていた。弱々しい魔法の矢だが、敵に届けば僅かばかりに傷を与える。
「パープルさんや」
その様子を見て、ホワイトが近づいてきた。
「はい」
「わしらも、ある程度は分かっとるよ。ただなぁ、わしらは何も自警団としてしてこれなんだのだ。最後にちょっと、華を持たせてくれぬかの」
「わかっていらっしゃるのなら、結構」とギュンターは頷く。
「引くべきところは引き若者たちを立てるのも、また年長者の仕事です」
それだけ告げると、最も聞き入れてもらえなさそうな二人の元へ急ぐ。
レッドとグリーンは、接敵まで残り僅かだ。
●
「だぁあああ!」
まだ元気の残るゴブリンを鈴は、強烈な一撃で吹き飛ばす。
「……う」
今の一撃の感触に、鈴は二の足を踏んだ。続けざまに攻撃を加えることもできただろう。しかし、彼女にはできなかった。
「大丈夫?」と近距離戦闘の技術を用いてマリィアが間を塞ぐ。
鈴は大丈夫と頷きを返す。ゴブリンはそろそろ倒れそうだった。レッドたちが攻撃を繰り出したのに合わせて、ボディー狙いの一撃を入れる。ゴブリンの身体がぐらついた。
グリーンの槍が目の前でゴブリンに刺さり、レッドが刃を叩き込む。
「……よしっ」
確かな感触に二人は、小さく頷きあった。が、すぐに次のゴブリンが迫る。
ゴブリンは、桜吹雪に視界を奪われ、一歩及ばない。
「熱くなりすぎですよ。いつもの冷静な貴方なら、こんな時どうしていますか?」
「いつもね……深呼吸でもするかの」
実戦経験がないレッドたちは、いつも、の感覚がない。だが、演習は経験してきた。
落ち着いた二人にギュンターはその感じです、と頷く。
レッドとグリーンがそれぞれにゴブリンへ攻撃を与える。二つの刃は空を切るが、エルの風刃が敵を裂き、まるで斬ったかのように錯覚させた。
そして、ホワイトとブルーの遠距離攻撃が調整された位置に進んだゴブリンの命を刈った。
「あれが……最後の敵じゃな」
レッドたちが目を向けた先には、ソルジャーの成れの果てがいた。
アティニュスが一体屠った後、眠っていたソルジャーから剣を奪ったのだ。そして与えられた苛烈な一撃。起き上がったソルジャーはすでに死に体であった。
「わしらの勝利じゃ!」
レッドたちの攻撃に合わせ、やや遠方からメイジを倒したクオンが雷撃を浴びせた。ステラが背後から撃ちぬくと同時に、レッドたちの刃がソルジャーを沈める。
「やれやれ、終わったか」
そこから少し離れた地点で、ソルジャーを足下に転がし、鵤が煙草を吸っていた。
ゴロウタイたちの満悦そうな顔が、憎たらしく感じる一杯だった。
●
戦闘後、ゴロウタイにアティニュスは問いかけた。
「ゴブリンを倒した感想はいかがですか」
ゴロウタイの反応はマチマチだった。命を奪う感触はけして後味がよいといいきれない。それを諭すように、アティニュスは告げる。
そして、アレを見て下さいと指差した。そこには、マリィアがダルマに頼んで集めてもらった親族たちがいた。ゴロウタイが反発しないよう、女子供だけを集めてもらったのだ。
孫の涙に勝る薬はない。
「ヒーローは笑顔を守るものですよね」
ぽつりとアティニュスはいう。
「街の人々を、そういう形で「護る」と言うのも良いのではないでしょうか?」
「きっと、わかってくれていますよ」
ギュンターが孫子に向かっていくゴロウタイの背中を見ながら告げる。
「家族ならぬ私達には、彼らがどこまで人生の曲がり角を曲がって斜陽の道に踏み込んでるのか分からないんだもの」
ぽつりぽつりとマリィアもまた、ゴロウタイの背中にいう。
「薄暮の道に踏み込んで、いくら怒られても注意されても出来ないことが増えていく少年に戻って行く」
ゴロウタイははるか遠く、家族の元へ戻っていく。
「悔しいのは本人だもの。そして 、生きてさえいれば必ずいつか私達も行く道で。出来る事と出来ない事の区別すら出来なくなった人にそれでもどうにか届くのは、家族の心からの言葉だけだと思うのよね……」
家族の言葉が響くとき、ゴロウタイファイブは解散を決めるのだった。
ターミナルの街近郊にある丘を越えた先に、ゴブリンの群れがいた。
ご老体ファイブが、その姿を視界に捉え、
「行くとするかのぅ」と進みだそうとした。
その時――。
「お待ち下さい」
声に振り返れば、アティニュス(ka4735)がいた。
話は聞かせてもらいました、とアティニュスは進言を申し出る。
「戦闘に入る前に、前口上はされないのでしょうか?」
「前口上……」
「格好良くやるなら必要だと思うのですが」
しばし思案した後、相談を始めるゴロウタイ。
その姿を確認し、アティニュスは馬を走らせた。代わりに、近くにやってきたのは大伴 鈴太郎(ka6016)だ。
鈴は目の前の話し合いを聞きながら、練り上げたマテリアルを纏う。
「傍迷惑なジーサンたちだな、ったく……。年寄りは年寄りらしく縁側で茶でも啜っててくれりゃいいのによぉ」
小さく愚痴を零しながら、庇うために前に出る。
ふと見上げれば、ギュンター=IX(ka5765)の姿があった。
「あ! ギ、ギュンターのコトじゃねーかンな!?」
慌てて手振りを交えて、鈴は弁解する。
「と、年寄りってのはさ……つまりその……」
「つまり、なんでしょうか?」
優しい笑みを浮かべ、ギュンターは問いかける。紳士的で、どこか面白がっているような口調だった。
言葉を濁しながら、鈴は話題を変えることにした。
「ン、ンなコトよりこのジーサンたちどうすンだ!? 怪我でもされたらヤベーぜ?」
「お年寄りは敬うべきと思いますが、彼らのことは正直、困った方々とは思いますね」
エルバッハ・リオン(ka2434)がつぶやきを漏らしながら、魔法の射程をはかる。
「とはいえ、その熱意は本物でしょうから、できる限りの協力はしましょうか」
ちらりと見やれば、ゴロウタイの話し合いは熱を帯びて声が大きくなっていた。それは、耳が遠いからではないと思いたい。
「リアルブルーの文化の悪影響と考えると……乾いた笑いしかでませんけどね」
クオン・サガラ(ka0018)が魔導バイクに乗って、告げる。クリムゾンウェストへの文化的影響は、今後も考えていかなければならない課題だ。
だが、一方でこのご老体への配慮は忘れない。
「最悪の事態は避けたいので、大怪我や精神的なフォローはしていきましょう」
「ふむ」
仲間の言にギュンターは目を細め、
「私はピンチの時に現れるメンバーでも演じましょうか」と自身の役回りを確認する。
話し合いながらも、ゴブリンへ今にでも向かいそうな気迫をゴロウタイは見せ始めていた。それを諌めるように、ステラ・フォーク(ka0808)が声をかける。
「主役は最後に登場するもの……ゴブリン達の隙を作るのは、私達にお任せくださいまし、お爺様達」
弾むような声で告げ、最後に「かっこいい口上を期待していますわ」と添えておく。
期待された老人たちの気合が上昇した。
「さて……」と動物霊の力を見に宿して、ステラは丘を下る。
「毎回これも困るけど……歪虚を倒したいクライアントだと思えば腹は立たないわね」
マリィア・バルデス(ka5848)は自身に言い聞かせるようにつぶやき、パニッシュメントに弾を込める。今回の依頼に問題があるとすれば、依頼者が老人たちではないことだろう。
依頼者の気持ちを代弁するように、
「ったくいい歳こいて戦隊ものとか爆笑もんだねぇ。あーヤダヤダ」
と零しながら、鵤(ka3319)がタバコを吹かす。
道中、戦隊物は多数が少数を袋叩きにするものだと、鵤は愚痴っていた。リアルブルー出身者の言葉は、真実らしく聞こえる。
「主役は最後で暴れる。鉄則だぜ?」
ゴロウタイがいつ動き出してもいいように盾を構え、鵤は次の煙草に手を伸ばす。目の前では爆炎がゴブリンたちの中心で、広がっていた。
●
エルの爆炎を合図に、クオンとステラが回りこむように駈け出した。魔導バイクを操り、一歩先を行くクオンは弓使いのゴブリンを射程内に収め、すかさず引き金を引く。
銃声の音にゴブリンが、動き出す。
まずは遠距離組を倒すと決めていた。
クオンは弓使いへ弾丸を浴びせ、ステラはメイジの喉元に狙いを絞る。攻撃の兆候を聞き漏らさぬよう、ステラは動物霊の力を重ねがけていた。
立て続けに、エルがもう一発ファイアーボールを打ち込んだ。
爆炎が広がる中、ゴブリンたちも負けじと攻撃を開始する。メイジが魔法の矢を放ち、弓使い達が弓を絞る。それぞれ三体ずつ、攻撃先はバラけていた。
初めて見る魔法に、鈴は目を見張っていた。しかも、ゴブリンの放った魔法の一つはゴロウタイファイブに向かってくる。
「……っ!」
議論に熱が入る老人たちを庇い、鈴は魔法の矢を真正面から受け止めた。強化した肉体でも、まともに食らっては堪えるものだ。
「頼んだぜ、本当……」
前方をにらみ、鈴は痛みの走った腕を押さえる。
「さくっと無力化しておかないとねぇ。爺さんがいつ動き出すやら」
鵤は苦笑を浮かべ、素早く光の三角形を展開した。その頂点から、光線を飛ばしてゴロウタイを狙う個体を貫く。
重ねて、ステラが同じ個体に弾丸を食らわせた。ゴロウタイの議論にも聞き耳をたて、ステラが呟く。
「そろそろ議論も佳境かしら……余裕はなさそうね」
「とりあえず、一体!」
マリィアが声を上げると同時にゴブリンメイジの眉間に穴が穿たれた。倒れるメイジから目を外し、マリィアは素早く銃口を上へと上げる。
飛来した矢を銃弾で撃ち飛ばす。視線を下げれば、ゴブリンたちの近接部隊が丘の中腹に至っていた。
●
ゴブリンの動向に、斬り伏せたメイジを見下ろしアティニュスが転身する。
短い呼吸をはさみ、納刀した刀にマテリアルを練り込める。次に刀が抜かれた時には、二体のゴブリンソルジャーとゴブリンが切り払われていた。
素早く広範囲な連撃を前に、ゴブリンたちは足止めを食らう。
「もう少し待ってくれないと困るんだ」
白い髪を振り乱し、アティニュスが告げる。一斉に放たれたゴブリンの斬撃を受け捌きながら、アティニュスは視界の端で後方の様子を探る。
アティニュスが背を向けた先、残る弓使い三体は炎に追われていた。
「そろそろ倒れてほしいところです」
苦笑を浮かべ、クオンは炎を放つ。なかなかトドメに至らない。
なら、もう一度と炎を放つ。今度は、弓使いの一体が巻き込まれて焼け落ちた。残る二体はクオンの炎を浴びつつ、前へと押し進んだ。狙うのは守っていると思われたらしい、ゴロウタイだ。
「このまま戦いに入られると面倒そうだねぇ」
戦闘より前口上談義に花咲かせるゴロウタイに、鵤が苦言を呈する。飛来する矢をマリィアが撃ち落とし、見かねたギュンターも支援に入る。
「……まぁ、そろそろでしょう」
老人たちから見えない位置に立ち、ギュンターは瑞鳥符を放つ。光り輝く鳥の姿に変わった符が、矢を落とす。続けざまに胡蝶符を放ち、ステラがそれに合わせる。弓使いの一体が矢を取りこぼした。
最後にクオンがファイアースローワーでとどめを刺す。未だにメイジと弓使いがそれぞれ一体づつ残る中、ゴロウタイが戦場を振り返った。
「やーやー、我こそは!」
彩りのいい前口上が始まったが、残念ながら聞けるほどの余裕がない。前口上に集中するゴロウタイは、明らかに敵の姿が見えていない。
彼らが被弾しないよう立ち回りながら、鈴は嘆息を漏らす。
「これからが、大変だな」
マテリアルを練り直し、鈴は前を向くのだった。
●
ついに動きだしたゴロウタイファイブ!
メインテーマがかき鳴らされそうな前口上の終わりに、景気付けのようにエルがファイアーボールを放つ。ただし、それはゴロウタイの後方ではなくゴブリンに向けられていた。
「見ろ! わしらの前口上に、ゴブリンどももはじけ飛んでおるわ!」
大口を開けて笑うゴロウタイのポジティブさに、鵤が戦況を見つつ突く。
「おたくらの出番はもうちょい先ですぅー。いいからほれ、適当に歩いて進みなさいよ」
まずは力尽きかけたゴブリンと接敵してもらわねばならない。
ゴロウタイを動かしながら、鵤は盾でまだ続く矢を防ぐ。
「ほいほい、進んで進んで」
「接敵前に終わるんじゃないのか……」
よっこらどっこらと歩く老人の列を眺めながら、鈴は天を仰ぐ。鈴の目の前では、アティニュスがゴブリン二体を刀の錆にしていた。連続した斬撃を前に、ただのゴブリンでは歯がたたなかったのである。
残るゴブリンソルジャーは三体。そのうちの二体がアティニュスの斬撃を逃れて、ゴロウタイへ近づいていた。そこへエルが眠りを誘う霧を発生させる。
霧は、一匹を眠りに落とした。残る一体へは、鵤が魔導拳銃剣に持ち替えて飛び込む。一瞬、ゴブリンソルジャーの目の前で光の刃が舞った。
前衛が温まる中、後衛の攻防は落ち着きつつあった。残っていた弓使いは、ステラの銃撃によって弓を落としていた。弓がなければ、ただのゴブリンである。
クオンが抜き去りざまにショットアンカーを放ち、とどめを刺す。そして、そのままメイジへと近づく。
メイジは、ゴロウタイに気を取られていた。集中力を高めて魔法の矢を最前に立つレッドへ放つ。まっすぐに飛んだ魔法の矢は、しかし、レッドには至らなかった。
光の鳥が、レッドの目の前で魔法の矢を落としたのだ。振り返れば、紫色のスカーフを首元に巻いてギュンターが立っていた。
「私はゴロウタイファイブ影の戦術師……フォローはお任せください。ゴロウタイパープル、参上しました」
全く見も知らぬ仲間の登場に、ゴロウタイたちは無駄にテンションを上げた。
レッドとグリーンは、そのテンションを引っさげて全速力で駈け出した。
「ちょっ待て、先走ンじゃねぇって! 作戦っつーモンがあンだろ!?」
慌てた鈴が急いで追いかける。
「人の話聞けっての! ジジイ、コラ! だあああ、もう行くっきゃねぇ!」
嘆きの叫びを上げながら、速力を上げる。その様子を眺めて、ギュンターはやれやれと肩をすくめた。
そして、おおよそ話し合いや今までの動きを見て、一番冷静な相手に近づく。
それは、ブラックだった。親しい技を持つ相手であれば、なおさら話をしやすい。
「ブラック、あなたにはわかるのではないですか。この仕事に誇りを持っているのなら……それを継ぐ若者達を育てる場を多く作らなくてはならないと」
無理して走るレッドとグリーン。それを追いかける鈴を見やりながらギュンターは符を取り出す。
「彼らから活躍の場……成長のための場を奪ってしまっては、元も子もありませんよね」
そして、アティニュスやクオンたちへ目を向ける。ブラックは黙って聞き入りながら、魔法の矢を放っていた。弱々しい魔法の矢だが、敵に届けば僅かばかりに傷を与える。
「パープルさんや」
その様子を見て、ホワイトが近づいてきた。
「はい」
「わしらも、ある程度は分かっとるよ。ただなぁ、わしらは何も自警団としてしてこれなんだのだ。最後にちょっと、華を持たせてくれぬかの」
「わかっていらっしゃるのなら、結構」とギュンターは頷く。
「引くべきところは引き若者たちを立てるのも、また年長者の仕事です」
それだけ告げると、最も聞き入れてもらえなさそうな二人の元へ急ぐ。
レッドとグリーンは、接敵まで残り僅かだ。
●
「だぁあああ!」
まだ元気の残るゴブリンを鈴は、強烈な一撃で吹き飛ばす。
「……う」
今の一撃の感触に、鈴は二の足を踏んだ。続けざまに攻撃を加えることもできただろう。しかし、彼女にはできなかった。
「大丈夫?」と近距離戦闘の技術を用いてマリィアが間を塞ぐ。
鈴は大丈夫と頷きを返す。ゴブリンはそろそろ倒れそうだった。レッドたちが攻撃を繰り出したのに合わせて、ボディー狙いの一撃を入れる。ゴブリンの身体がぐらついた。
グリーンの槍が目の前でゴブリンに刺さり、レッドが刃を叩き込む。
「……よしっ」
確かな感触に二人は、小さく頷きあった。が、すぐに次のゴブリンが迫る。
ゴブリンは、桜吹雪に視界を奪われ、一歩及ばない。
「熱くなりすぎですよ。いつもの冷静な貴方なら、こんな時どうしていますか?」
「いつもね……深呼吸でもするかの」
実戦経験がないレッドたちは、いつも、の感覚がない。だが、演習は経験してきた。
落ち着いた二人にギュンターはその感じです、と頷く。
レッドとグリーンがそれぞれにゴブリンへ攻撃を与える。二つの刃は空を切るが、エルの風刃が敵を裂き、まるで斬ったかのように錯覚させた。
そして、ホワイトとブルーの遠距離攻撃が調整された位置に進んだゴブリンの命を刈った。
「あれが……最後の敵じゃな」
レッドたちが目を向けた先には、ソルジャーの成れの果てがいた。
アティニュスが一体屠った後、眠っていたソルジャーから剣を奪ったのだ。そして与えられた苛烈な一撃。起き上がったソルジャーはすでに死に体であった。
「わしらの勝利じゃ!」
レッドたちの攻撃に合わせ、やや遠方からメイジを倒したクオンが雷撃を浴びせた。ステラが背後から撃ちぬくと同時に、レッドたちの刃がソルジャーを沈める。
「やれやれ、終わったか」
そこから少し離れた地点で、ソルジャーを足下に転がし、鵤が煙草を吸っていた。
ゴロウタイたちの満悦そうな顔が、憎たらしく感じる一杯だった。
●
戦闘後、ゴロウタイにアティニュスは問いかけた。
「ゴブリンを倒した感想はいかがですか」
ゴロウタイの反応はマチマチだった。命を奪う感触はけして後味がよいといいきれない。それを諭すように、アティニュスは告げる。
そして、アレを見て下さいと指差した。そこには、マリィアがダルマに頼んで集めてもらった親族たちがいた。ゴロウタイが反発しないよう、女子供だけを集めてもらったのだ。
孫の涙に勝る薬はない。
「ヒーローは笑顔を守るものですよね」
ぽつりとアティニュスはいう。
「街の人々を、そういう形で「護る」と言うのも良いのではないでしょうか?」
「きっと、わかってくれていますよ」
ギュンターが孫子に向かっていくゴロウタイの背中を見ながら告げる。
「家族ならぬ私達には、彼らがどこまで人生の曲がり角を曲がって斜陽の道に踏み込んでるのか分からないんだもの」
ぽつりぽつりとマリィアもまた、ゴロウタイの背中にいう。
「薄暮の道に踏み込んで、いくら怒られても注意されても出来ないことが増えていく少年に戻って行く」
ゴロウタイははるか遠く、家族の元へ戻っていく。
「悔しいのは本人だもの。そして 、生きてさえいれば必ずいつか私達も行く道で。出来る事と出来ない事の区別すら出来なくなった人にそれでもどうにか届くのは、家族の心からの言葉だけだと思うのよね……」
家族の言葉が響くとき、ゴロウタイファイブは解散を決めるのだった。
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/04/25 23:09:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/25 02:11:17 |