ゲスト
(ka0000)
【審判】ラストジャッジメント
マスター:WTRPGマスター
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
王城南西側に配した守備隊は大混乱に陥っていた。突如現れた巨大な赤い騎士が城壁そのものを攻撃し始めたのだ。ここまで巨大な敵との戦闘は想定外だ。連携が取れていたのが仇となり、迎撃できていたキメラも取りこぼす始末だ。
その中で唯一、ハンター達だけは動きが良い。怠惰の歪虚王ビックマーにかぎらず巨大な敵との戦いも経験しており、比較的統率を保っていた。
「しかしどうしたものか……」
王城のゲオルギウスは逼迫した状況に思わず唸った。混乱を沈静化して各部隊の連携を復旧しなければならないのだが、個々に連携の取れない部隊では再編の時間を稼ぐことすら難しい。かといって無策での撤退は避けたい。歩く破城槌のような巨大歪虚が居る以上、戦線を下げればずるずると押し込まれるだろう。
悩んだのは何秒程だったろうか。ゲオルギウスは意を決し撤退と戦線の再構築を命令すべく通信機を手にとった。それと同時に階段を駆け上がりながら近づく足音が聞こえ、ゲオルギウスは手を止める。何事かと訝しむ間にも扉は開かれ、慣れない全力疾走で息も絶え絶えのオーラン・クロスが現れた。
「………て……提案……します!」
「………発言を許す」
「ありがとう……ございます……」
ゲオルギウスはオーランが息を整えるのを待つ。その数秒すら惜しいと感じていたが、学者としての知見のほうが今は大事だとゲオルギウスは理解していた。
「エメラルドタブレットには法術陣の小規模起動の方法も記載されていました。これを王都の中に発動させます。あの巨大な歪虚の大半を消し飛ばす事ができるでしょう」
「それは確かか? 敵は巨大だが」
法術陣の最初の発動でも大型の個体や強力な個体は残った。とても飲み込めるようには見えない。厳しい問いにオーランは思わず目を逸らす。よく見れば足も震えたままだった。
「確かです。あれの核となった歪虚はともかく、その他の部位は群体です。大きな1個体ではありません。確実に効果があります」
「なるほど。どれほどで準備できる?」
「1時間、いただけますか?」
長い。それだけの防戦を続けて万一不発に終われば、守備隊はもはや復旧出来ないだろう。ゲオルギウスの逡巡は一瞬だった。それに賭ける以外の手が、騎士団には残されていない。
「……わかった。我々は何をすればいい?」
「そうですね……。法術陣は一度設置すれば動けません。敵を誘導する必要があります」
「騎士団や貴族に囮をせよ、と?」
ゲオルギウスはオーランを睨みつける。普段なら物怖じするオーランだが、今回ばかりは負けていなかった。
「ダメなら、私に出来ることはありません」
今にも逃げ出しそうな顔で、それでも口答えだけはした。覚悟の程はそれで理解した。
「……良かろう。直ちにかかれ」
「! ……はい!」
礼儀も何も無い慌てぶりでオーランは階段を転げ落ちるような速さで下りていく。
学者らしからぬ気迫にゲオルギウスは覚えがあった。彼は多くのものを失ってきた。多くの贖罪をしてきた。そして今日この場において未来を託された彼の真価が試されているのだろう。
ゲオルギウスは再び通信機を手に取る。試されているのは、騎士団とて同じことだ。
「作戦を伝える。これより巨大歪虚に対して法術陣による罠をはる。前線の部隊は罠の完成する1時間後まで城壁を死守。完成後は城壁を放棄し、指定の場所へと誘導せよ。細部はこちらから追って指示する。それと、敷設を担当するのはオーラン・クロスだ。彼は非戦闘員だ。必ず守りぬけ」
死を覚悟した人間特有の顔をしていた。ゲオルギウスは直感だけでオーランの異常に気付いていた。
■
そこはまるで死後の世界──別の人間に言わせれば、地獄とそれを呼ぶ者もいただろう。
エリオット・ヴァレンタインがその目に確かめたのは、辺り一帯を覆い尽くす黒い霧。
霧はある発生源を中心として、大地を這うように少しずつ周囲を浸食して広がっていた。
霧の中からは際限なく何かが生じている。
それに目を凝らしたエリオットは心臓を貫かれたような想いがしたことだろう。
「……まさか、あれは……」
その霧の中に見えた顔に、男の手が微かに震える。
「叔父上……それに、“隊長”……?」
それは歪虚の侵攻により命を落とした、かけがえのない人々の顔だった。
黒大公の力の前に壊滅させられた今は亡き近衛隊……エリオットが王国騎士団長となるまで所属していた王直属の精鋭部隊。その隊長の顔。
そして二年前の大侵攻において命を落とした貴族私兵──自身の伯父に当たる、勇敢な男の顔。
他にも数えきれないほどの見知った顔が見えた。
隣では、ベリトの侵攻阻止に貢献した副官のフィアが苦しげな顔でエリオットを見上げている。
「ベリトは、あの中心に居るんだな」
「は。報告では、霧はベリトを中心として半径100mに広がり、奴の進軍に合わせて移動しているようです」
つまり、あの黒い騎士隊を切り払わなければ、ベリトに辿りつくことは出来ない。
彼女は、エリオットがその光景に動揺していること、それが亡き人々に思いを馳せたが故のものだと勘違いしていたのだ。
「模倣も甚だしい。……あの女は、絶対に売るべきではない喧嘩を今、俺に売ったということだ」
酷く珍しい物言いに驚くフィア。見上げた青年の瞳が“赤く”染まっていることに気付く。
そこへ、エリオットに援軍の将達が合流。その中には騎士でありながら魔術師でもあるローレンスの姿もあった。
「団長、遅参致した。わしも戦線に加わりますぞ」
「ローレンス、単刀直入に言う。この霧が邪魔だ。どうすれば解除できる? 魔術師としての見解を聞かせてくれ」
「はっ。先の報告から優秀な魔術師を集めて解析・検討しました結果、恐らくベリトの術は自身のマテリアルによって空間に固定されているのではないかと思われます。解除には魔術師本人にダメージを与えるなど、幾つか方法が考えられますが……」
「ダメージ? 教会襲撃の際、その手は無効だったと聞いているが」
先の戦いの際も、致命傷と言わずとも十分に傷は与えていた。ローレンスは慌てず説明を続ける。
「規模と状況が違います。空間に対する魔術は対象の空間の体積に比例して必要なマテリアル量が大きく増します。報告の教会一つとこの戦域では桁がまるで違う。そして、今ベリトには法術陣による強烈な負荷もかかっているはず。少量のダメージでも、魔術を解除するには十分でしょう」
ベリトの幻術がこのまま市街を侵食した場合、どれだけ被害が出るかわからない。
だが、騎士団は目の前の敵に手一杯で、聖堂戦士団を含む後衛も慌ただしく支援の魔術を行使している。
となれば──
「全軍に通達。各隊は現状を維持し戦列を維持。歪虚はここで食い止めろ」
──残る戦力はひとつしかない。
「そして、ハンターに告げる。歪虚軍の将、傲慢の歪虚“ベリト”を討て」
その中で唯一、ハンター達だけは動きが良い。怠惰の歪虚王ビックマーにかぎらず巨大な敵との戦いも経験しており、比較的統率を保っていた。
「しかしどうしたものか……」
王城のゲオルギウスは逼迫した状況に思わず唸った。混乱を沈静化して各部隊の連携を復旧しなければならないのだが、個々に連携の取れない部隊では再編の時間を稼ぐことすら難しい。かといって無策での撤退は避けたい。歩く破城槌のような巨大歪虚が居る以上、戦線を下げればずるずると押し込まれるだろう。
悩んだのは何秒程だったろうか。ゲオルギウスは意を決し撤退と戦線の再構築を命令すべく通信機を手にとった。それと同時に階段を駆け上がりながら近づく足音が聞こえ、ゲオルギウスは手を止める。何事かと訝しむ間にも扉は開かれ、慣れない全力疾走で息も絶え絶えのオーラン・クロスが現れた。
「………て……提案……します!」
「………発言を許す」
「ありがとう……ございます……」
ゲオルギウスはオーランが息を整えるのを待つ。その数秒すら惜しいと感じていたが、学者としての知見のほうが今は大事だとゲオルギウスは理解していた。
「エメラルドタブレットには法術陣の小規模起動の方法も記載されていました。これを王都の中に発動させます。あの巨大な歪虚の大半を消し飛ばす事ができるでしょう」
「それは確かか? 敵は巨大だが」
法術陣の最初の発動でも大型の個体や強力な個体は残った。とても飲み込めるようには見えない。厳しい問いにオーランは思わず目を逸らす。よく見れば足も震えたままだった。
「確かです。あれの核となった歪虚はともかく、その他の部位は群体です。大きな1個体ではありません。確実に効果があります」
「なるほど。どれほどで準備できる?」
「1時間、いただけますか?」
長い。それだけの防戦を続けて万一不発に終われば、守備隊はもはや復旧出来ないだろう。ゲオルギウスの逡巡は一瞬だった。それに賭ける以外の手が、騎士団には残されていない。
「……わかった。我々は何をすればいい?」
「そうですね……。法術陣は一度設置すれば動けません。敵を誘導する必要があります」
「騎士団や貴族に囮をせよ、と?」
ゲオルギウスはオーランを睨みつける。普段なら物怖じするオーランだが、今回ばかりは負けていなかった。
「ダメなら、私に出来ることはありません」
今にも逃げ出しそうな顔で、それでも口答えだけはした。覚悟の程はそれで理解した。
「……良かろう。直ちにかかれ」
「! ……はい!」
礼儀も何も無い慌てぶりでオーランは階段を転げ落ちるような速さで下りていく。
学者らしからぬ気迫にゲオルギウスは覚えがあった。彼は多くのものを失ってきた。多くの贖罪をしてきた。そして今日この場において未来を託された彼の真価が試されているのだろう。
ゲオルギウスは再び通信機を手に取る。試されているのは、騎士団とて同じことだ。
「作戦を伝える。これより巨大歪虚に対して法術陣による罠をはる。前線の部隊は罠の完成する1時間後まで城壁を死守。完成後は城壁を放棄し、指定の場所へと誘導せよ。細部はこちらから追って指示する。それと、敷設を担当するのはオーラン・クロスだ。彼は非戦闘員だ。必ず守りぬけ」
死を覚悟した人間特有の顔をしていた。ゲオルギウスは直感だけでオーランの異常に気付いていた。
■
そこはまるで死後の世界──別の人間に言わせれば、地獄とそれを呼ぶ者もいただろう。
エリオット・ヴァレンタインがその目に確かめたのは、辺り一帯を覆い尽くす黒い霧。
霧はある発生源を中心として、大地を這うように少しずつ周囲を浸食して広がっていた。
霧の中からは際限なく何かが生じている。
それに目を凝らしたエリオットは心臓を貫かれたような想いがしたことだろう。
「……まさか、あれは……」
その霧の中に見えた顔に、男の手が微かに震える。
「叔父上……それに、“隊長”……?」
それは歪虚の侵攻により命を落とした、かけがえのない人々の顔だった。
黒大公の力の前に壊滅させられた今は亡き近衛隊……エリオットが王国騎士団長となるまで所属していた王直属の精鋭部隊。その隊長の顔。
そして二年前の大侵攻において命を落とした貴族私兵──自身の伯父に当たる、勇敢な男の顔。
他にも数えきれないほどの見知った顔が見えた。
隣では、ベリトの侵攻阻止に貢献した副官のフィアが苦しげな顔でエリオットを見上げている。
「ベリトは、あの中心に居るんだな」
「は。報告では、霧はベリトを中心として半径100mに広がり、奴の進軍に合わせて移動しているようです」
つまり、あの黒い騎士隊を切り払わなければ、ベリトに辿りつくことは出来ない。
彼女は、エリオットがその光景に動揺していること、それが亡き人々に思いを馳せたが故のものだと勘違いしていたのだ。
「模倣も甚だしい。……あの女は、絶対に売るべきではない喧嘩を今、俺に売ったということだ」
酷く珍しい物言いに驚くフィア。見上げた青年の瞳が“赤く”染まっていることに気付く。
そこへ、エリオットに援軍の将達が合流。その中には騎士でありながら魔術師でもあるローレンスの姿もあった。
「団長、遅参致した。わしも戦線に加わりますぞ」
「ローレンス、単刀直入に言う。この霧が邪魔だ。どうすれば解除できる? 魔術師としての見解を聞かせてくれ」
「はっ。先の報告から優秀な魔術師を集めて解析・検討しました結果、恐らくベリトの術は自身のマテリアルによって空間に固定されているのではないかと思われます。解除には魔術師本人にダメージを与えるなど、幾つか方法が考えられますが……」
「ダメージ? 教会襲撃の際、その手は無効だったと聞いているが」
先の戦いの際も、致命傷と言わずとも十分に傷は与えていた。ローレンスは慌てず説明を続ける。
「規模と状況が違います。空間に対する魔術は対象の空間の体積に比例して必要なマテリアル量が大きく増します。報告の教会一つとこの戦域では桁がまるで違う。そして、今ベリトには法術陣による強烈な負荷もかかっているはず。少量のダメージでも、魔術を解除するには十分でしょう」
ベリトの幻術がこのまま市街を侵食した場合、どれだけ被害が出るかわからない。
だが、騎士団は目の前の敵に手一杯で、聖堂戦士団を含む後衛も慌ただしく支援の魔術を行使している。
となれば──
「全軍に通達。各隊は現状を維持し戦列を維持。歪虚はここで食い止めろ」
──残る戦力はひとつしかない。
「そして、ハンターに告げる。歪虚軍の将、傲慢の歪虚“ベリト”を討て」
リプレイ本文
該当リプレイは以下のURLの特設ページで公開されております。
http://www.wtrpg10.com/event/cp017/opening
http://www.wtrpg10.com/event/cp017/opening
依頼結果
依頼成功度 | 失敗 |
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総合相談卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/04/27 22:39:56 |
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質問卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/04/25 07:42:06 |
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■選択肢2:イルダーナ防衛 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/04/28 10:42:32 |
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■選択肢1:ベリト迎撃 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/04/28 06:56:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/24 20:33:17 |