ゲスト
(ka0000)
漢と雑魔と合同コンパ
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2014/08/31 15:00
- 完成日
- 2014/09/02 00:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
馬鹿は、いつも唐突だ。
行動力だけはある上、学んだ言葉はすぐに使いたがる。
今回の騒動も、やっぱり馬鹿が積もりに積もって人型になった馬鹿の王が発端だった――。
「ヨアキム様、どうされたんですか? 雑草なんか口にされて」
地下城『ヴェドル』謁見の間で玉座に座るヨアキム(kz0011)が、雑草を口いっぱいに詰め込んで租借している。
この様子を怪しんだ執事のキュジィは、一瞬気圧されるも思い切って問いかける事にしたのだ。
「んほ? ほべば、ぼべぇ……あべだぉ」
「ヨアキム様。まずはその口の草を何とかしてください。
何を仰っているのか分かりません」
「……ごっくん。
えーと、つまりあれだ。嫌な口臭をミントで消してたんだよ。これでお口スッキリ良い匂い。
給仕、お前ぇも口臭を気にしてねぇとモテねぇぞ?」
(……また何処かで妙なネタを仕入れて来たか)
キュジィは、とてつもなく嫌な予感がした。
それはヨアキムがミントと信じて要塞近くの雑草を租借していたからではない。
風呂嫌いのヨアキムが突然口臭を気にしだした事だ。
おそらく要塞でハンター辺りに妙な入れ智恵をされたのだろう。
思い切って『騙されたんだよ!』と言ってやりたいが、主に恥をかかす訳にもいかない。ここは得意のフォロースキルで乗り越える事にする。
「私は執事です! それよりも……あー、そうですよね。そうですね。
やはり、身嗜みは気を遣うべきですよね。でも、お風呂に入って身綺麗にされた方が……」
「それよりキュジィ。お前ぇ、知ってるか?」
キュジィの言葉を一方的に遮ったヨアキム。
ここからヨアキムが本題に入ろうとしていた事を察知したキュジィは、思わず唾を飲み込んだ。
「何をですか?」
「ハンターが強ぇ理由だよ」
「それは覚醒者としてマテリアルを自在に……」
「なんだそりゃ? ワシはそんな難しい事は分からねぇぞ!
それよりももっと簡単な理由だ。ハンターの連中は定期的にある武闘会をやってるらしい」
「聞いた事ありません。何でしょう?」
「漢と乙女が一堂に会して、相手を籠絡させるサバイバルだ。己の能力をすべて駆使して相手を陥落。一人、また一人と倒されていき、最強のハンターを決める武闘会――その名も『コンパ』だ!」
この時点で、キュジィは何かが間違っている事に気付いてはいた。
ただ、コンパなるものが分からない以上、下手にツッコめば大惨事になりかねない。
ここは様子見を決め込むとしよう。
「ほほー。そのような武闘会があるのですか」
「そうだ。だから、その武闘会をこの城で開催する。
安心せいっ! 既に依頼は出してある! ぶわっはっは!」
「…………」
半ば、予想通りの展開でホッとするキュジィ。
しかし、問題はこれに留まらない。
「この武闘会を盛り上げる為、雑魔を数体引っ捕まえてきた!
コンパ会場で奴らも放って盛り上げるぞ!」
「ええーー!?」
キュジィは、ここで事態が最悪な方向になっている事に気付いた。
この城に雑魔を放てば、工房の仕事にも支障が出る。中止をするのが難しいのであればフォローを入れまくって被害を最小限にするしかない。
キュジィは満面の笑みを浮かべながら、鋭い眼光をヨアキムへ投げかける。
「でも、この城では手狭になりませんか?
多くのハンターやドワーフの皆様もいらっしゃいます。ですので、要塞の外に囲いを作り、そこで武闘会を催しましょう。
できれば、屋外で食事も取れるようにしましょう。リアルブルーから来た方々なら、きっと良い食事を準備してくれるでしょう」
「おおーっ! さすがは、給仕!
その調子でうまいことやっておけよ!! ぶわっはっは!」
高笑いを決め込むヨアキム。
ここからキュジィの長い戦いが始まる――
行動力だけはある上、学んだ言葉はすぐに使いたがる。
今回の騒動も、やっぱり馬鹿が積もりに積もって人型になった馬鹿の王が発端だった――。
「ヨアキム様、どうされたんですか? 雑草なんか口にされて」
地下城『ヴェドル』謁見の間で玉座に座るヨアキム(kz0011)が、雑草を口いっぱいに詰め込んで租借している。
この様子を怪しんだ執事のキュジィは、一瞬気圧されるも思い切って問いかける事にしたのだ。
「んほ? ほべば、ぼべぇ……あべだぉ」
「ヨアキム様。まずはその口の草を何とかしてください。
何を仰っているのか分かりません」
「……ごっくん。
えーと、つまりあれだ。嫌な口臭をミントで消してたんだよ。これでお口スッキリ良い匂い。
給仕、お前ぇも口臭を気にしてねぇとモテねぇぞ?」
(……また何処かで妙なネタを仕入れて来たか)
キュジィは、とてつもなく嫌な予感がした。
それはヨアキムがミントと信じて要塞近くの雑草を租借していたからではない。
風呂嫌いのヨアキムが突然口臭を気にしだした事だ。
おそらく要塞でハンター辺りに妙な入れ智恵をされたのだろう。
思い切って『騙されたんだよ!』と言ってやりたいが、主に恥をかかす訳にもいかない。ここは得意のフォロースキルで乗り越える事にする。
「私は執事です! それよりも……あー、そうですよね。そうですね。
やはり、身嗜みは気を遣うべきですよね。でも、お風呂に入って身綺麗にされた方が……」
「それよりキュジィ。お前ぇ、知ってるか?」
キュジィの言葉を一方的に遮ったヨアキム。
ここからヨアキムが本題に入ろうとしていた事を察知したキュジィは、思わず唾を飲み込んだ。
「何をですか?」
「ハンターが強ぇ理由だよ」
「それは覚醒者としてマテリアルを自在に……」
「なんだそりゃ? ワシはそんな難しい事は分からねぇぞ!
それよりももっと簡単な理由だ。ハンターの連中は定期的にある武闘会をやってるらしい」
「聞いた事ありません。何でしょう?」
「漢と乙女が一堂に会して、相手を籠絡させるサバイバルだ。己の能力をすべて駆使して相手を陥落。一人、また一人と倒されていき、最強のハンターを決める武闘会――その名も『コンパ』だ!」
この時点で、キュジィは何かが間違っている事に気付いてはいた。
ただ、コンパなるものが分からない以上、下手にツッコめば大惨事になりかねない。
ここは様子見を決め込むとしよう。
「ほほー。そのような武闘会があるのですか」
「そうだ。だから、その武闘会をこの城で開催する。
安心せいっ! 既に依頼は出してある! ぶわっはっは!」
「…………」
半ば、予想通りの展開でホッとするキュジィ。
しかし、問題はこれに留まらない。
「この武闘会を盛り上げる為、雑魔を数体引っ捕まえてきた!
コンパ会場で奴らも放って盛り上げるぞ!」
「ええーー!?」
キュジィは、ここで事態が最悪な方向になっている事に気付いた。
この城に雑魔を放てば、工房の仕事にも支障が出る。中止をするのが難しいのであればフォローを入れまくって被害を最小限にするしかない。
キュジィは満面の笑みを浮かべながら、鋭い眼光をヨアキムへ投げかける。
「でも、この城では手狭になりませんか?
多くのハンターやドワーフの皆様もいらっしゃいます。ですので、要塞の外に囲いを作り、そこで武闘会を催しましょう。
できれば、屋外で食事も取れるようにしましょう。リアルブルーから来た方々なら、きっと良い食事を準備してくれるでしょう」
「おおーっ! さすがは、給仕!
その調子でうまいことやっておけよ!! ぶわっはっは!」
高笑いを決め込むヨアキム。
ここからキュジィの長い戦いが始まる――
リプレイ本文
燃え上がる炎。
沸き上がる熱意。
男と女――永遠に解く事のできないパズルに、ヴァイス(ka0364)は挑もうとしていた。
今日の為にすべての準備を整えた。
リアルブルー製のスーツに身を包み、ハットにサングラスをかけたヴァイス。
もう彼は恋のハンター。
あとは会場で、愛しき人と巡り合うだけ。
「時間だ……決めていくぜ。
待ってろよ、迷えるお嬢ちゃん達」
●
要塞『ノアーラ・クンタウ』の外部に設置された柵。
その付近には多くの屋台が並べられ、テーブルには酒や食事が乗せられている。
イベントを準備するドワーフ達が祭りの始まりを前に忙しそうに走り回る。
「昨日、言ってたなぁ。
『遂に初彼女ゲットっす!』とか『大人の階段を上るっす!』とか……」
ドワーフとすれ違う中、神楽(ka2032)は寂しそうに歩いていた。
昨日まではこの場所で大規模なコンパが行われると聞いていた。
胸を躍らせて眠れない夜を過ごした神楽であったが、今日の気分は正反対。
これもすべて今日開催されるコンパに原因があった。
「俺の知ってるコンパと違うっす~!!
コンパって男と女が話して盛り上がって、そのままベットにインっ! ってする素敵な大人の社交場じゃないんすか~! ……はぁ」
大きなため息をついた神楽。
実は今日のコンパとは名ばかり。
柵の中でハンター同士が武力を持って戦う武闘会。おまけにヒヨコ型雑魔まで放ってのバトルロイヤル。確かに男と女が盛り上がるには違いないが、方向性が違い過ぎる。
何故、こんな相違が生まれてしまったのか。
それはこのイベント開催を思い付いた者に原因がある。
「畜生、主催者に文句言ってやるっす!」
悲しみを乗り越えた結果、神楽の中に怒りの炎が沸き上がる。
神楽は周囲を見回して人集りを発見すると、早足でそこへ向かって移動する。
「主催者の人はこちらにいるっすか……」
「何か合コンの趣旨、間違えてない?」
神楽よりも先にカミーユ・鏑木(ka2479)がヨアキム(kz0011)へ詰め寄っていた。
カミーユはヨアキムがコンパについて勘違いしている事を説明していた。
ヨアキムが言い出した状況から察するに、要塞内のハンターズソサエティ付近のハンターから入れ智恵されたと思われる。もっとも、その仕入れた情報もヨアキムというブラックボックスを通して別の物へ変換されている恐れもあるのだが。
「あん? 何言っているんだ?
コンパってぇのは、漢同士が魂をぶつけ合う場所だろ? 熱い拳と拳で心を通わす弁論大会だ」
「違うわよ。
合コンって男女、または男と男、女と女でも良いのだけれど……逢い引きのための出・会・い・の・場のことよ?」
「そうっす!
男と男がベットの上で組んず解れつっす! ……あれ?」
カミーユの陰に隠れて神楽もこっそりヨアキムへ抗議。
カミーユに論調が混じっておかしな事を口走る神楽であったが、方向性は間違っていない。
しかし、バカの……否、ドワーフの王に言葉の説得は難しい。
「出会いの場? 出会いなら会場で出会っているじゃねぇか。
それよりベットの上ってどういう事だ?
……もしかして、リアルブルーにはハンター同士が戦える巨大ベットが存在するのか!? そいつぁすげぇ! 投げ技を封じちまう上、踏ん張れないようにしちまうって訳か」
「もう、そうじゃなくて……」
「あー、そうですね。えーと、とりあえず……お二人とも少々こちらへ」
説得を続ける二人の前に帝国一のフォロー力を持つと言われる執事のキュジィが姿を現した。
キュジィは二人を集団の外へ連れ出すと、小声で忠告し始める。
「お二人とも。ヨアキム様に言葉で説得しても無駄です。高い確率で理解できません。
その上、言い出す前に行動してしまう為に説得は徒労に終わります」
「じゃあ、どうすればいいっすか?」
「武闘会の方はハンターの皆様で雑魔退治を行っていただき、ヨアキム様には満足してもらいます。ヨアキム様が満足すれば、後はこちらで処理できます。
コンパとやらは私も存じ上げませんが、他の方にお声かけできるようにパーティの用意もできております。そちらを出会いの場としてご活用ください」
神楽とカミーユは、キュジィの説明に耳を傾けていた。
ヨアキムを無力化して雑魔を退治すれば通常のコンパを楽しむ事ができそうだ。
「ま、その方が早そうね」
「よっしゃ! やる気出たっす!
そうと決まればパーティ会場へ突撃っす!」
二人はヨアキムの説得を諦めて、酒と料理の待つパーティ会場へ歩き始めた。
●
「さぁ、祭りだ! せいぜい思いっきり楽しむとすっかぁ!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、クレイモアを手に柵の中へと飛び込んだ。
既に柵の中にはヒヨコ型雑魔が多数ひしめき合っている。
ヨアキムが何処かから捕縛してきた雑魔らしいが、相手が巨大なヒヨコという時点でやる気が削がれていく。
「……ったく、しょうがねぇな!」
目の前を走るヒヨコに向けてクレイモアを横へ薙いだ。
斬る、というよりも吹き飛ばした状態になるヒヨコ。派手に転んだ後、ヒヨコは自力で起き上がる事ができずに必死で足をバタバタさせている。
「ちょ、ちょろっス! ……ちょろっス!」
「おい、こいつ弱すぎるぞ。
それ以前に転んで自力で起き上がれない時点で退治する必要ないんじゃないか?
まあ、いいや。さっさとトドメを刺して……」
「ほう、ボクの為に敵を倒すか。天晴れである」
振り返れば、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)の姿がそこにあった。
自称大王のディアドラはコンパなる集まりに興味を示した。庶民が楽しむイベントを大王が参加する事は大きな意味がある。そう考えたディアドラは、柵を乗り越えてヒヨコと戦うボルディアの側までやってきたという訳だ。
「袋叩きになっているなら助けておこうかと思ったが、その心配はなさそうだな。さすがは戦士。見事である」
「あん?」
何が起こったのかさっぱり理解できないボルディア。
それに対して大王は一切無視して笑い始める。
「なるほど。コンパとやらはボクにその強さを見せる演舞なのだな。
満足したぞ。うわっはっは!」
そう言い放ったディアドラは、満足そうに歩き出した。
ヨアキムばりに勘違いしていそうな気配だが、本人が良いなら問題ないだろう。
「さて。邪魔もいなくなった事だし、今度こそ……」
「待つです~っ!」
ボルディアがクレイモアを振り下ろそうとした瞬間、背後からスノゥ(ka1519)が声をかける。
唐突に止められ、慌ててクレイモアを止めるボルディア。
「な、なんだぁ?」
「トドメを刺しては駄目ですぅ~。
このヒヨコの毛を楽しまなければ、絶対に損ですぅ~」
スノゥは、倒れたヒヨコへ近づくと思い切りぎゅっと抱きしめた。
ヒヨコ型雑魔の毛が想像以上にもふもふしている事に気付いたスノゥは、もふもふ好きとして見逃す事はできなかった。毛を質感を満喫する為、腕全体で包み込むように抱きしめたという訳だ。
「うわ~っ! 想像したよりも数倍はもふもふですぅ~。
これは、是非連れ帰ってもふもふコレクションに……」
「ちょ、ちょ……ちょろっス……」
スノゥに抱きしめられていたヒヨコは、数秒後にぐったり。
次の瞬間、ヒヨコの体は霧散して消失。スノゥの抱きしめが上手い具合に首を締める形になってしまったようだ。
「ああ~、私のもふもふが~っ!
……でも他にヒヨコはいっぱいるので、大丈夫です~」
そう言い放ったスノゥは、早々に次の目標を探して動き始める。
ボルディアはヒヨコが消失するのを黙って見守る他なかった。
「なんか良く分からねぇが……ただの武闘会って訳じゃなさそうだな」
●
スノゥがヒヨコを抱きしめている光景をミウ・ミャスカ(ka0421)は柵の外から見守っていた。
「んー、やっぱりもふもふなのかなぁ。
……それよりこのお肉、美味しい~」
ヒヨコのもふもふ感を味わいたいと感じながらも、用意された肉料理を満喫するミウ。
これには準備していた執事のキュジィも笑顔を隠せない。
「お褒めいただき光栄です」
「美味しい物を食べていたら、眠くなって……」
肉を片手にミウは睡魔に襲われる。
その様子を慌てて止めに入るキュジィ。
「ああ、いけません。お休みになるならベットをご用意致します」
「……んー、よろしく~」
本格的な睡眠へ突入しようとするミウ。
キュジィは近くのドワーフへ指示を出し、ミウのベット準備を開始。他人のフォローに関しては万能ぶりを発揮するようだ。
「はーい、パンケーキ上がったよ……って、寝ちゃったのか」
天川 麗美(ka1355)がパンケーキを片手に姿を現した。
ヨアキムが不味い手料理を出すのではないかと危惧した麗美は、パーティの料理担当に挙手してくれた。肉料理ばかりでは飽きるだろうと得意のパンケーキなどを作成しているようだ。
キュジィは、ミウが休んでいる事を麗美に伝える。
「はい。お休みになられています」
「そうか~。
ところでさ。あの不潔な上に加齢臭もプラスされたサイテーなオッサンは……あ、いけない」
麗美はキュジィの前で口を滑らせた。
誰の事を差しているのかは、キュジィもすぐに分かってしまう。あんなのでも一応は王様。敬意を払っておく必要はある。
しかし、キュジィは笑顔で返答する。
「大丈夫です。今回も何か勘違いされてこの武闘会を開かれたようです。
ですが、純粋だからこそこのような事ができるのではないでしょうか」
帝国からの指示ではあるが、ヨアキムをしっかりフォローするキュジィ。
その様子に麗美はホッとする。
「そうなのかなぁ。ただのお馬鹿さんにしか見えないけど……。
ま、いいや。もう一品作ってこよーっと」
キュジィのフォローを半分聞き流しながら、麗美は再び厨房へ戻る。
パーティはまだまだ始まったばかりなのだから。
●
一方、柵の中ではヒヨコ退治が続いていた。
「ヒヨコさん、もふもふ♪
はーい、みんなせいれーつっ。ちょろっスちょろっス♪」
Uisca Amhran(ka0754)は、見た目の可愛らしさからヒヨコを集めて調教しようとしていた。
見た目は可愛くても、ヒヨコは雑魔。
ハンターとして倒さなければならないのだが……。
「うんうん。いすかは本当に良い子じゃのう」
そんなUiscaの様子を星輝 Amhran(ka0724)は、暖かく見守っていた。
Uiscaの事を『目に入れても痛くない!』という程可愛がる星輝だったが、その結果が甘やかしまくり。
褒めまくるその様子は既に甘やかしの領域へと突入していた。
「あ、もう! ヒヨコさん、言う事聞いてくれない!
そんな悪い子にはおしおきだよ!」
Uiscaはネレイスワンドを振りかざし、ヒヨコの集団に向かってホーリーライトを放った。
輝く光の弾がヒヨコに命中。雑魔の中で一番貧弱なのではないかと思われるヒヨコは、簡単に吹っ飛ばされて喪失する。
「いすかの言う事を聞かなかったのだから当然じゃな」
「あー! またヒヨコさんを集めないと駄目じゃん」
Uiscaが軽く肩を落とした。
その傍らではバゼラードを傍らに角で戦うアイ・シャ(ka2762)の姿があった。
「そりゃ!」
大ぶりしたバゼラードがヒヨコの体にヒット。
吹き飛んだヒヨコは、他のヒヨコを巻き添えにして吹き飛んでいく。
Uiscaと違ってアイはヒヨコを撃ち倒し続ける。
「あー! ヒヨコさんを倒したら駄目なんだよ!」
「え? ええっと……コンパってこういうのじゃないの?
それとも木っ端微塵のドワーフ地方用語だったの?」
困惑するアイ。
そんな三人に対して、スーツ姿の男が近づいてくる。
「お嬢ちゃん達。
俺と一緒に愛のパーティを組んで燃え上がらないか?」
柵に足をかけてニヒルに笑うヴァイス。
実は戦闘の最中ではあるが、コンパを満喫する為にせっせとナンパを続けていたのだ。
「誰?」
「さあ?」
Uiscaとアイは首を傾げる。
その傍らで星輝は、ヴァイスの登場に警戒心を強める。
Uiscaの前に立って盾となる星輝。
「さてはおぬし……ロリコンじゃな?」
「な!?」
星輝にロリコン疑惑を投げかけられるヴァイス。
星輝はUiscaに姉と慕われるエルフだが、外見年齢は幼女に見える。そんな星輝をナンパ目的で近づいたという事はヴァイスがロリコンであると疑惑を持ったようだ。
「そ、そんな事あるはずないだろ!
そうだ。その奥のお嬢ちゃん達。一緒にお茶でもどうだい?」
ロリコン疑惑を否定しながら、ヴァイスはUiscaへ声をかける。
Uiscaは外見的にも若く見えるがロリコンの範疇よりは上だ。
「お話するのは好きなのでお茶ぐらいはいいですよ♪」
笑顔で答えるUisca。
早々のナンパ成功にガッツポーズのヴァイス。
「やった!」
「でも、私……恋人いますから」
「あ、私はに~さま以外の男性はちょっと……」
Uiscaとアイが突然の告白。
ヴァイスの意図を見透かして天から地へと突き落とす。
コンパの難しさを痛感するヴァイス。
次の相手を探すために、足取り重く歩き始めた。
●
ハンター達は様々な行動を取る。
ヒヨコを倒す者。
ヒヨコを愛でる者。
そして――それらのハンターを眺めながら酒を飲む者。
「ふーむ。あの王も妙な事を考えやがりますねぇ」
柵の外にあるパーティ用のテーブルの前で、シレークス(ka0752)はワインの注がれたジョッキを片手にコンパの様子を眺めていた。
キュジィの計らいもあって食事は次々に運ばれてくる。
それだけではなく、塩辛い物が欲しいと思った次の瞬間には塩分多めのツマミが出てくる。痒いところに手が届くパーティ料理に、シレークスは満足げだ。
おまけに一緒に飲みたいと申し出るドワーフ達も現れ、ハンターの戦いを見ながら飲む酒は格別だ。
「あの執事、ただ者ではないねぇ。一家に一人キュジィを……おっ、アレは確か……」
シレークスの視界に入ってきたのは、サクラ・エルフリード(ka2598)。
雑魔退治の依頼と聞いたサクラは、ロッドを片手にヒヨコ退治を行っている。
「たぁ!」
「ちょ、ちょろっス!」
振り回したロッドは、ヒヨコの脳天を直撃。
まるで自分から当たりに来ているかのように思える動き。決して鈍い訳ではないのだが、振れば振るだけヒヨコの頭にクリーンヒットしている。
「実力を試す為にコンパとやらに来たのですが……これでは腕試しになりません」
「サクラ、貴方も来ていたのですね」
知り合いを見かけたシレークスは、戦っている最中のサクラを呼び止める。
「シレークスさん……こんな所でもお酒ですか」
「こまけー事は気にしちゃ駄目なのです。まずは駆けつけ三杯」
そう言いながら、シレークスの手にはワインが並々と注がれたジョッキがあった。
明らかにサクラに飲ませる気満々だ。
「私は雑魔を倒さなければならないのですが……」
「まま、そう言わずに」
シレークスは無理矢理ジョッキをサクラの口へ持って行く。
必死に抵抗するサクラ。
だが、そこで悲劇が起きる。
「ちょろっス!」
隙を見つけたヒヨコは、サクラに目掛けてダイビング。
ヒヨコの部位で比較的硬いクチバシがサクラの後頭部にヒットした。
「痛っ! 何する……」
痛みのあまり開かれるサクラの口。
そこへシレークスが飲まそうとしていたワインが一気に注ぎ混まれる。
「あ!」
予想外の展開にシレークスも驚きを隠せない。
見る間に無くなっていくワイン。気付けばジョッキは空となっていた。
「サクラ、大丈夫ですか?」
「ううー、目が回ってますぅ~」
あまりお酒の強くないサクラ。
大量に飲まされたワインにより意識は朦朧。目が回ってしまったようだ。
「大丈夫……ではなさそうだな」
シレークスに支えられるもフラフラになるサクラ。
その横でヒヨコが勝ち誇ったようにポーズを決めていた。
「ちょろっス!」
●
「えーと……ヨアキムさんさ。どっからそんな話を聞いたんだよ?」
以前、ドワーフの戦闘訓練でヨアキムと面識があった日高・明(ka0476)。
今回の騒動を聞きつけてツッコミを入れずにはいられなかった。
ヨアキムの姿を見つけてすかさず事実を追求する。
「どこからって。そりゃリアルブルーのハンターからだ。
奴らはすげぇぞ。群がる女をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
「それ、絶対に何かおかしいから。
そもそも、コンパって結婚する相手を見つける場所だ。戦うっていうより、人生のパートナーを見つける場所だ」
「なるほど。戦って戦って戦い抜いて、強者の異性を見つけるハーレムのイベントか。フラグは何処で立つんだ? 伝説の樹の下で待機すればいいのか?」
「違うから!」
日高は脳筋を超越した超脳筋を前に目眩を覚える。
これは先日の戦闘訓練でも見かけた光景なのだが、ヨアキム相手に会話のキャッチボールは成立しない。
「噂のヨアキム様はどちらにいらっしゃるのかしら」
そこへヨアキムを探していたナナート=アドラー(ka1668)がやってくる。
祭りを楽しまないと損と考えたナナートは、愛くるしいヒヨコ数匹にクラッシュブロウを叩き込んで来たところだ。眉一つ動かさずにヒヨコをぶっ飛ばす当たり、プロのハンター臭を放っている。
「あ、いたいた。ヨアキム様!」
「おう、おめぇも参加者か」
「はい。私は乙女の……うぇぇぇ!」
ヨアキムに近づいたナナートだったが、至近距離でヨアキムの体臭を嗅いでしまった。
不意打ちの悪臭で心がへし折られそうになる。
悪臭は目に染みるらしく、既に涙がいっぱいになっている。
「だけど……涙が出ちゃう。女の子だもん」
「女の子って……男だよな……」
日高のツッコミを華麗にスルーしたナナートは、鼻を摘まみながらヨアキムの髭にリボンを結ぶ。
「ヨアキム様。もうちょっと身嗜みに気を配られた方がよろしくてよ。そうしないと、全然モテないんだから。女の子にも嫌われちゃうわよ」
「そうなのか! それで最近娘が口を聞いてくれねぇのか」
その言葉に日高は思わず振り返った。
娘。
女性
女の子。
ナナートとは違う性の娘。
それがあの悪臭放つスーパー脳筋に居るという。
嘘をついても良い日はもっと先ですよ?
「ちょっと待て! ヨアキムさん、娘がいたのか?」
「あん? いるに決まってる。
そりゃ、ワシも王だぞ。跡継ぎがいねぇとやべぇだろ。娘だけど」
さも当たり前と言わんばかりの発言に驚愕。
もし、ヴァイスや神楽が居れば『リア充爆発しろ』と叫んでいた事だろう。
だが、現実はあまりにも過酷だ。
日高が凍り付いている最中にナナートのリボンは結び終わる。
「いやん♪ ヨアキム様ったら可愛い~」
「そうか。これなら娘も話してくれるよな? ぶわっはっは!」
ヨアキムの高笑いが周囲に響き渡った。
●
「そこですっ!」
フィル・サリヴァン(ka1155)のハルバードが、ヒヨコの体を捉えた。
衝撃を受けたヒヨコは後方に吹き飛ばされ、他のヒヨコと派手に衝突する。
「ちょろっス!」
ヒヨコは必死に空中で体を回転させる。
衝撃を和らげてダメージを最小限に抑える為だ。羽で足を抱えるようにして縦回転。重力に従って地面へと引かれていく。
ここで格好良く着地すればヒヨコも最弱の汚名を返上できるのだが……。
――ごんっ!
周囲に響き渡る鈍い音。
回転に夢中になったのか、着地を忘れて頭から地面に激突。ヒヨコは見事なまでに自爆した。
「ちょ、ちょろっス……」
ヒヨコはフィルを恨めしそうに見つめながら喪失した。
その様子にフィルは思わずため息をつく。
「これがコンパですか。料理やお酒が出ているのでお祭りの一種だと思うのですが……このヒヨコは祭りに必須なのでしょうか」
首を捻るフィル。
何しろハルバードを振るえばあっさり倒されるヒヨコが相手だ。歯ごたえがなさ過ぎて呆気に取られてしまう。
緊張の糸が途切れるフィル。
そこへ数匹のヒヨコが飛び込んできた。
「どけぇ!」
フィルが声のする方向へ視線を送れば、テスカ・アルリーヴァ(ka2798)がクレセントグレイブで目の前のヒヨコを力任せに吹っ飛ばしていた。
祭りである事を認識したテスカは、派手に動いて派手にぶっ飛ばすを宣言。
時折酒を飲みながら、ヒヨコを一方的に叩きのめしていた。
「……ちっ、もう終わりかよ。歯ごたえねぇなぁ」
空になったジョッキを放り投げたテスカ。
ヒヨコは戦う気力を失った者にとっては自信を回復させる良い相手なのかもしれない。しかし、ハンターとして最前線戦い続けるテスカにとっては相手にならない。
当初はヒヨコ退治と酒で満喫するつもりだったが、ここまでヒヨコが弱いのではその予定も狂ってくる。
「辺境のドワーフが奇っ怪な事を考えると思ったんだが、これじゃ戯れる事もできやしねぇ。
……おう、そこの。ちょっと相手してくれないか?」
テスカの言葉にフィルは周囲を見回した。
周りには誰もいない。
明らかにテスカはフィルの事を見つめている。
「私、ですか?」
「これじゃ、ここまで来た甲斐がない。
いいだろ? 酔いが醒めるまでで構わないから」
テスカはクレセントグレイブを構え直す。
そもそもこのコンパはヨアキムが武闘会と勘違いして催したものだ。
なら、あくまでも『稽古』として楽しんでも損はない。
なにせ、フィルも不完全燃焼だったのだから。
「分かりました。お相手致しましょう」
ハルバードを握りしめるフィル。
その様子にテスカは満足そうに微笑んだ。
「今日もうまい酒が飲めそうだ」
●
「『ゴウコン』とは、物騒な催しなのだね。ハンターとして警備に当たらなければ!」
リアム・グッドフェロー(ka2480)は、この会場で珍しく警備を申し出ていた。
パーティの一種である事は理解できるが、酒と料理が振る舞われている以上は無法に走る者がいないとも限らない。
「そうね。草食系も悪くはないんだけど……もっと積極的に声をかけにいかないとね。お・と・こ・なら」
リアムの傍らにはヨアキムを説得していたカミーユの姿があった。
もっとも、カミーユの方は警備をするのではなく、壁際で女子に声をかけられない草食系に発破をかけて回っていた。
「駄目だよ。もっと注意を払ってもらわないと」
「えー、いいじゃない。男子の背中を押してあげるのもお姉さんの大切な仕事よ」
ちょっとむくれるカミーユ。
リアムは女性としてエスコートしているが、細かい素振りに女性を感じてしまうのは意識しているからなのだろうか。
「あら? そこの男子。どうしたの?」
カミーユの前に現れたのはヴァイス。
ヴァイスの視線には灰色の長髪が特徴的な女性があった。
「ああ。新しいお嬢ちゃんを見つけたのでね。声をかけようと思っていたんだ」
「そう! 今の聞いた、リアムちゃん。
この男特有の『やったるぜっ!』な感じ。これに女子は惹かれるのよ。分かる?」
女子をやたら強調するカミーユ。
やったるぜ! のところでちょっと低音で男性が見え隠れしてしまうのは、その肉体のせいだろうか。
「よし、行くぜ!
……あー、お嬢ちゃん。どうだい? 今夜は朝まで俺とランデブーしないかい?」
ヴァイスは目的の女性の肩に手を置く。
反射的に振り返る女性。
その口から放たれた言葉は――。
「おん? ヴァイスじゃねーか」
エールビールに口を付けたハスキー(ka2447)は、口に周りに泡を付けたままヴァイスを発見。
ヴァイスが運命の『お嬢ちゃん』と思っていた存在は、ヴァイスの依頼仲間にして飲み友達のハスキーだったようだ。
「朝までランデブー? それってつまり、朝まで飲みたいって事だろう?
分かってるじゃねぇか! さぁ、タダ酒とタダ飯を満喫するぞ!」
「ちょ、違う! 俺には愛しいのお嬢ちゃん達が待って……」
ハスキーに引き摺られるようにヴァイスは次のテーブルへ連れ去られていく。
哀愁漂う姿を見つめるリアムは、その背筋が寒くなった。
「……け、警備でもあれは止められないです」
●
パーティが進むにつれてヒヨコの数を減り始める。
何しろ数は相当数いるものの、その弱さは折り紙付き。
霧散して消えるヒヨコを前に、ハンター達は一気に勝負を仕掛ける。
「消えて」
メトロノーム・ソングライト(ka1267)のマジックアローがヒヨコに突き刺さる。
鳴き声一つあげる事もできないヒヨコは、そのまま地面に倒れて消え去った。
これで何匹目かは分からないが、もうかなりの数のヒヨコを倒しているはずだ。
(ふぅ。やっぱり一人……)
メトロノームの周囲を見回すが、ハンターは誰もいない。
表情を顔に出せない、人形のような自分だから誰も寄ってこないのだろうか。せめてヴァイスのような社交性があれば、友人ももっと多くなるのに。
ため息をつくメトロノーム。
ちなみに目指そうとしているヴァイスは、ハスキーに次々酒を飲まされて地面へ転がっている。
「治療、いかがです?」
寂しさが心を支配するメトロノームに最上 風(ka0891)が声をかける。
突然の声掛けに少々驚くメトロノーム。
だが、表情を変えられないメトロノームはぽつりと答える。
「いえ」
「えー。怪我とかしてません?
怪我していてもらえると嬉しいんだけどなぁ」
風はメトロノームに近寄りがたさを感じてはいたものの、内心は焦っていた。
本来であれば治療して治療代を相手からせしめる予定だった。だが、ヒヨコが想像以上に弱くて怪我をしている者は皆無。
そこで見かけたメトロノームへ強引に話掛けたという訳だ。
「怪我は……ありません」
「そっか。あ、あの子はどうかな?」
風が指差した先には鉄パイプを振り回す一人の少女がいた。
「己のすべてを駆使して腕を上げていく武闘会。
ああ、ハンター達の間ではそれをコンパって呼ぶのね……! 私も全力で頑張るのよ!」
メーナ(ka1713)はヒヨコの転倒を誘うように大きく鉄パイプを振り回す。
避けようと必死で藻掻くヒヨコ達。
そのうち足がもつれて地面へ転がる。何とも単純な作戦だが、このやり方でメーナも多くのヒヨコを倒す事に成功していた。
「ダブルアイスクリーム、いっちょあがり!」
ストライクブロウでヒヨコの頭の頭にできたタンコブに、もう一つタンコブを作り出すメーナ。
漫画のように出来た二段タンコブで、ヒヨコは思いっきり泣き喚く。
「ちょろっス~」
「あの人なら怪我してそう。行こっ」
「あ……」
風はメトロノームの手を引く。
手から伝わる暖かみ。
その暖かみを、メトロノームは久しぶりに感じた事を思い出した。
●
「コンパでは王様ゲームっていうのをやるんだよ!」
パーティの終盤、夢路 まよい(ka1328)が戦闘中のヨアキムに話掛けてきた。
まよいが言うにはコンパには『王様ゲーム』なる遊戯が定番なのだという。
「そうなのか! で、そのゲームはどんなのだ?」
「えーと、確か王様になった人は罰ゲームをやらないといけないんだったかな?
王様って言ったらヨアキムだよね♪ ほら、罰ゲームしないと!」
何処かで聞いた噂を必死に思い出したまよいの答えは、ヨアキムが問答無用で罰ゲーム決定の理不尽極まるゲームであった。せめてクイズに答えて泥だらけになってから罰ゲームなら納得しようもあるのだが、王様だから罰を下されるのでは堪らない。
「なにぃ!?
それなら、アイツだって王様だろう?」
「ボク? あ、ボクは大王だから王様ではないのだ」
ヨアキムに指を差されたディアドラは、あっさり否定する。
「あ、そうか。つーことは、王様はワシだけか。なーんだ……って、罰ゲーム決定じゃねぇか!」
「はーい、罰ゲームはヨアキムだけ避けるの禁止で殴り合いね!
お相手はこの方~!」
呼ばれたのはイスカ・ティフィニア(ka2222)。
魅せる戦いを心がけ、本日一番ヒヨコを倒したハンターである。
瞬脚、ランアウトを駆使した高速戦闘の前に、ヒヨコが対抗できるはずもなかった。その為かヨアキムが連れてきたヒヨコは全滅。残るは祭りの主催者たるヨアキムだけであった。
「なるほど。リアルブルーから来た連中が微妙な表情をしていたのは、このゲームがあったからか。
さて、ドワーフ王。正面から豪快にぶつかるのは格好良いが、こういう戦い方もあるって学んでいくといい」
イスカはステップを踏みながら戦闘のリズムを掴む。
罰ゲームにより避ける事が禁止されている以上、イスカのパンチはすべて受け止めなければならない。
何故? それはヨアキムが、王様だからだ。
「いくぜ」
瞬脚で一気に間合いを詰めるイスカ。
同時に腰を回転させて、強く握った拳を大きく後ろへ振りかぶる。
――そして。
「……んん! きぼぢぃぃぃぃ!!」
ヨアキムの歓喜なる雄叫びが響き渡った。
沸き上がる熱意。
男と女――永遠に解く事のできないパズルに、ヴァイス(ka0364)は挑もうとしていた。
今日の為にすべての準備を整えた。
リアルブルー製のスーツに身を包み、ハットにサングラスをかけたヴァイス。
もう彼は恋のハンター。
あとは会場で、愛しき人と巡り合うだけ。
「時間だ……決めていくぜ。
待ってろよ、迷えるお嬢ちゃん達」
●
要塞『ノアーラ・クンタウ』の外部に設置された柵。
その付近には多くの屋台が並べられ、テーブルには酒や食事が乗せられている。
イベントを準備するドワーフ達が祭りの始まりを前に忙しそうに走り回る。
「昨日、言ってたなぁ。
『遂に初彼女ゲットっす!』とか『大人の階段を上るっす!』とか……」
ドワーフとすれ違う中、神楽(ka2032)は寂しそうに歩いていた。
昨日まではこの場所で大規模なコンパが行われると聞いていた。
胸を躍らせて眠れない夜を過ごした神楽であったが、今日の気分は正反対。
これもすべて今日開催されるコンパに原因があった。
「俺の知ってるコンパと違うっす~!!
コンパって男と女が話して盛り上がって、そのままベットにインっ! ってする素敵な大人の社交場じゃないんすか~! ……はぁ」
大きなため息をついた神楽。
実は今日のコンパとは名ばかり。
柵の中でハンター同士が武力を持って戦う武闘会。おまけにヒヨコ型雑魔まで放ってのバトルロイヤル。確かに男と女が盛り上がるには違いないが、方向性が違い過ぎる。
何故、こんな相違が生まれてしまったのか。
それはこのイベント開催を思い付いた者に原因がある。
「畜生、主催者に文句言ってやるっす!」
悲しみを乗り越えた結果、神楽の中に怒りの炎が沸き上がる。
神楽は周囲を見回して人集りを発見すると、早足でそこへ向かって移動する。
「主催者の人はこちらにいるっすか……」
「何か合コンの趣旨、間違えてない?」
神楽よりも先にカミーユ・鏑木(ka2479)がヨアキム(kz0011)へ詰め寄っていた。
カミーユはヨアキムがコンパについて勘違いしている事を説明していた。
ヨアキムが言い出した状況から察するに、要塞内のハンターズソサエティ付近のハンターから入れ智恵されたと思われる。もっとも、その仕入れた情報もヨアキムというブラックボックスを通して別の物へ変換されている恐れもあるのだが。
「あん? 何言っているんだ?
コンパってぇのは、漢同士が魂をぶつけ合う場所だろ? 熱い拳と拳で心を通わす弁論大会だ」
「違うわよ。
合コンって男女、または男と男、女と女でも良いのだけれど……逢い引きのための出・会・い・の・場のことよ?」
「そうっす!
男と男がベットの上で組んず解れつっす! ……あれ?」
カミーユの陰に隠れて神楽もこっそりヨアキムへ抗議。
カミーユに論調が混じっておかしな事を口走る神楽であったが、方向性は間違っていない。
しかし、バカの……否、ドワーフの王に言葉の説得は難しい。
「出会いの場? 出会いなら会場で出会っているじゃねぇか。
それよりベットの上ってどういう事だ?
……もしかして、リアルブルーにはハンター同士が戦える巨大ベットが存在するのか!? そいつぁすげぇ! 投げ技を封じちまう上、踏ん張れないようにしちまうって訳か」
「もう、そうじゃなくて……」
「あー、そうですね。えーと、とりあえず……お二人とも少々こちらへ」
説得を続ける二人の前に帝国一のフォロー力を持つと言われる執事のキュジィが姿を現した。
キュジィは二人を集団の外へ連れ出すと、小声で忠告し始める。
「お二人とも。ヨアキム様に言葉で説得しても無駄です。高い確率で理解できません。
その上、言い出す前に行動してしまう為に説得は徒労に終わります」
「じゃあ、どうすればいいっすか?」
「武闘会の方はハンターの皆様で雑魔退治を行っていただき、ヨアキム様には満足してもらいます。ヨアキム様が満足すれば、後はこちらで処理できます。
コンパとやらは私も存じ上げませんが、他の方にお声かけできるようにパーティの用意もできております。そちらを出会いの場としてご活用ください」
神楽とカミーユは、キュジィの説明に耳を傾けていた。
ヨアキムを無力化して雑魔を退治すれば通常のコンパを楽しむ事ができそうだ。
「ま、その方が早そうね」
「よっしゃ! やる気出たっす!
そうと決まればパーティ会場へ突撃っす!」
二人はヨアキムの説得を諦めて、酒と料理の待つパーティ会場へ歩き始めた。
●
「さぁ、祭りだ! せいぜい思いっきり楽しむとすっかぁ!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、クレイモアを手に柵の中へと飛び込んだ。
既に柵の中にはヒヨコ型雑魔が多数ひしめき合っている。
ヨアキムが何処かから捕縛してきた雑魔らしいが、相手が巨大なヒヨコという時点でやる気が削がれていく。
「……ったく、しょうがねぇな!」
目の前を走るヒヨコに向けてクレイモアを横へ薙いだ。
斬る、というよりも吹き飛ばした状態になるヒヨコ。派手に転んだ後、ヒヨコは自力で起き上がる事ができずに必死で足をバタバタさせている。
「ちょ、ちょろっス! ……ちょろっス!」
「おい、こいつ弱すぎるぞ。
それ以前に転んで自力で起き上がれない時点で退治する必要ないんじゃないか?
まあ、いいや。さっさとトドメを刺して……」
「ほう、ボクの為に敵を倒すか。天晴れである」
振り返れば、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)の姿がそこにあった。
自称大王のディアドラはコンパなる集まりに興味を示した。庶民が楽しむイベントを大王が参加する事は大きな意味がある。そう考えたディアドラは、柵を乗り越えてヒヨコと戦うボルディアの側までやってきたという訳だ。
「袋叩きになっているなら助けておこうかと思ったが、その心配はなさそうだな。さすがは戦士。見事である」
「あん?」
何が起こったのかさっぱり理解できないボルディア。
それに対して大王は一切無視して笑い始める。
「なるほど。コンパとやらはボクにその強さを見せる演舞なのだな。
満足したぞ。うわっはっは!」
そう言い放ったディアドラは、満足そうに歩き出した。
ヨアキムばりに勘違いしていそうな気配だが、本人が良いなら問題ないだろう。
「さて。邪魔もいなくなった事だし、今度こそ……」
「待つです~っ!」
ボルディアがクレイモアを振り下ろそうとした瞬間、背後からスノゥ(ka1519)が声をかける。
唐突に止められ、慌ててクレイモアを止めるボルディア。
「な、なんだぁ?」
「トドメを刺しては駄目ですぅ~。
このヒヨコの毛を楽しまなければ、絶対に損ですぅ~」
スノゥは、倒れたヒヨコへ近づくと思い切りぎゅっと抱きしめた。
ヒヨコ型雑魔の毛が想像以上にもふもふしている事に気付いたスノゥは、もふもふ好きとして見逃す事はできなかった。毛を質感を満喫する為、腕全体で包み込むように抱きしめたという訳だ。
「うわ~っ! 想像したよりも数倍はもふもふですぅ~。
これは、是非連れ帰ってもふもふコレクションに……」
「ちょ、ちょ……ちょろっス……」
スノゥに抱きしめられていたヒヨコは、数秒後にぐったり。
次の瞬間、ヒヨコの体は霧散して消失。スノゥの抱きしめが上手い具合に首を締める形になってしまったようだ。
「ああ~、私のもふもふが~っ!
……でも他にヒヨコはいっぱいるので、大丈夫です~」
そう言い放ったスノゥは、早々に次の目標を探して動き始める。
ボルディアはヒヨコが消失するのを黙って見守る他なかった。
「なんか良く分からねぇが……ただの武闘会って訳じゃなさそうだな」
●
スノゥがヒヨコを抱きしめている光景をミウ・ミャスカ(ka0421)は柵の外から見守っていた。
「んー、やっぱりもふもふなのかなぁ。
……それよりこのお肉、美味しい~」
ヒヨコのもふもふ感を味わいたいと感じながらも、用意された肉料理を満喫するミウ。
これには準備していた執事のキュジィも笑顔を隠せない。
「お褒めいただき光栄です」
「美味しい物を食べていたら、眠くなって……」
肉を片手にミウは睡魔に襲われる。
その様子を慌てて止めに入るキュジィ。
「ああ、いけません。お休みになるならベットをご用意致します」
「……んー、よろしく~」
本格的な睡眠へ突入しようとするミウ。
キュジィは近くのドワーフへ指示を出し、ミウのベット準備を開始。他人のフォローに関しては万能ぶりを発揮するようだ。
「はーい、パンケーキ上がったよ……って、寝ちゃったのか」
天川 麗美(ka1355)がパンケーキを片手に姿を現した。
ヨアキムが不味い手料理を出すのではないかと危惧した麗美は、パーティの料理担当に挙手してくれた。肉料理ばかりでは飽きるだろうと得意のパンケーキなどを作成しているようだ。
キュジィは、ミウが休んでいる事を麗美に伝える。
「はい。お休みになられています」
「そうか~。
ところでさ。あの不潔な上に加齢臭もプラスされたサイテーなオッサンは……あ、いけない」
麗美はキュジィの前で口を滑らせた。
誰の事を差しているのかは、キュジィもすぐに分かってしまう。あんなのでも一応は王様。敬意を払っておく必要はある。
しかし、キュジィは笑顔で返答する。
「大丈夫です。今回も何か勘違いされてこの武闘会を開かれたようです。
ですが、純粋だからこそこのような事ができるのではないでしょうか」
帝国からの指示ではあるが、ヨアキムをしっかりフォローするキュジィ。
その様子に麗美はホッとする。
「そうなのかなぁ。ただのお馬鹿さんにしか見えないけど……。
ま、いいや。もう一品作ってこよーっと」
キュジィのフォローを半分聞き流しながら、麗美は再び厨房へ戻る。
パーティはまだまだ始まったばかりなのだから。
●
一方、柵の中ではヒヨコ退治が続いていた。
「ヒヨコさん、もふもふ♪
はーい、みんなせいれーつっ。ちょろっスちょろっス♪」
Uisca Amhran(ka0754)は、見た目の可愛らしさからヒヨコを集めて調教しようとしていた。
見た目は可愛くても、ヒヨコは雑魔。
ハンターとして倒さなければならないのだが……。
「うんうん。いすかは本当に良い子じゃのう」
そんなUiscaの様子を星輝 Amhran(ka0724)は、暖かく見守っていた。
Uiscaの事を『目に入れても痛くない!』という程可愛がる星輝だったが、その結果が甘やかしまくり。
褒めまくるその様子は既に甘やかしの領域へと突入していた。
「あ、もう! ヒヨコさん、言う事聞いてくれない!
そんな悪い子にはおしおきだよ!」
Uiscaはネレイスワンドを振りかざし、ヒヨコの集団に向かってホーリーライトを放った。
輝く光の弾がヒヨコに命中。雑魔の中で一番貧弱なのではないかと思われるヒヨコは、簡単に吹っ飛ばされて喪失する。
「いすかの言う事を聞かなかったのだから当然じゃな」
「あー! またヒヨコさんを集めないと駄目じゃん」
Uiscaが軽く肩を落とした。
その傍らではバゼラードを傍らに角で戦うアイ・シャ(ka2762)の姿があった。
「そりゃ!」
大ぶりしたバゼラードがヒヨコの体にヒット。
吹き飛んだヒヨコは、他のヒヨコを巻き添えにして吹き飛んでいく。
Uiscaと違ってアイはヒヨコを撃ち倒し続ける。
「あー! ヒヨコさんを倒したら駄目なんだよ!」
「え? ええっと……コンパってこういうのじゃないの?
それとも木っ端微塵のドワーフ地方用語だったの?」
困惑するアイ。
そんな三人に対して、スーツ姿の男が近づいてくる。
「お嬢ちゃん達。
俺と一緒に愛のパーティを組んで燃え上がらないか?」
柵に足をかけてニヒルに笑うヴァイス。
実は戦闘の最中ではあるが、コンパを満喫する為にせっせとナンパを続けていたのだ。
「誰?」
「さあ?」
Uiscaとアイは首を傾げる。
その傍らで星輝は、ヴァイスの登場に警戒心を強める。
Uiscaの前に立って盾となる星輝。
「さてはおぬし……ロリコンじゃな?」
「な!?」
星輝にロリコン疑惑を投げかけられるヴァイス。
星輝はUiscaに姉と慕われるエルフだが、外見年齢は幼女に見える。そんな星輝をナンパ目的で近づいたという事はヴァイスがロリコンであると疑惑を持ったようだ。
「そ、そんな事あるはずないだろ!
そうだ。その奥のお嬢ちゃん達。一緒にお茶でもどうだい?」
ロリコン疑惑を否定しながら、ヴァイスはUiscaへ声をかける。
Uiscaは外見的にも若く見えるがロリコンの範疇よりは上だ。
「お話するのは好きなのでお茶ぐらいはいいですよ♪」
笑顔で答えるUisca。
早々のナンパ成功にガッツポーズのヴァイス。
「やった!」
「でも、私……恋人いますから」
「あ、私はに~さま以外の男性はちょっと……」
Uiscaとアイが突然の告白。
ヴァイスの意図を見透かして天から地へと突き落とす。
コンパの難しさを痛感するヴァイス。
次の相手を探すために、足取り重く歩き始めた。
●
ハンター達は様々な行動を取る。
ヒヨコを倒す者。
ヒヨコを愛でる者。
そして――それらのハンターを眺めながら酒を飲む者。
「ふーむ。あの王も妙な事を考えやがりますねぇ」
柵の外にあるパーティ用のテーブルの前で、シレークス(ka0752)はワインの注がれたジョッキを片手にコンパの様子を眺めていた。
キュジィの計らいもあって食事は次々に運ばれてくる。
それだけではなく、塩辛い物が欲しいと思った次の瞬間には塩分多めのツマミが出てくる。痒いところに手が届くパーティ料理に、シレークスは満足げだ。
おまけに一緒に飲みたいと申し出るドワーフ達も現れ、ハンターの戦いを見ながら飲む酒は格別だ。
「あの執事、ただ者ではないねぇ。一家に一人キュジィを……おっ、アレは確か……」
シレークスの視界に入ってきたのは、サクラ・エルフリード(ka2598)。
雑魔退治の依頼と聞いたサクラは、ロッドを片手にヒヨコ退治を行っている。
「たぁ!」
「ちょ、ちょろっス!」
振り回したロッドは、ヒヨコの脳天を直撃。
まるで自分から当たりに来ているかのように思える動き。決して鈍い訳ではないのだが、振れば振るだけヒヨコの頭にクリーンヒットしている。
「実力を試す為にコンパとやらに来たのですが……これでは腕試しになりません」
「サクラ、貴方も来ていたのですね」
知り合いを見かけたシレークスは、戦っている最中のサクラを呼び止める。
「シレークスさん……こんな所でもお酒ですか」
「こまけー事は気にしちゃ駄目なのです。まずは駆けつけ三杯」
そう言いながら、シレークスの手にはワインが並々と注がれたジョッキがあった。
明らかにサクラに飲ませる気満々だ。
「私は雑魔を倒さなければならないのですが……」
「まま、そう言わずに」
シレークスは無理矢理ジョッキをサクラの口へ持って行く。
必死に抵抗するサクラ。
だが、そこで悲劇が起きる。
「ちょろっス!」
隙を見つけたヒヨコは、サクラに目掛けてダイビング。
ヒヨコの部位で比較的硬いクチバシがサクラの後頭部にヒットした。
「痛っ! 何する……」
痛みのあまり開かれるサクラの口。
そこへシレークスが飲まそうとしていたワインが一気に注ぎ混まれる。
「あ!」
予想外の展開にシレークスも驚きを隠せない。
見る間に無くなっていくワイン。気付けばジョッキは空となっていた。
「サクラ、大丈夫ですか?」
「ううー、目が回ってますぅ~」
あまりお酒の強くないサクラ。
大量に飲まされたワインにより意識は朦朧。目が回ってしまったようだ。
「大丈夫……ではなさそうだな」
シレークスに支えられるもフラフラになるサクラ。
その横でヒヨコが勝ち誇ったようにポーズを決めていた。
「ちょろっス!」
●
「えーと……ヨアキムさんさ。どっからそんな話を聞いたんだよ?」
以前、ドワーフの戦闘訓練でヨアキムと面識があった日高・明(ka0476)。
今回の騒動を聞きつけてツッコミを入れずにはいられなかった。
ヨアキムの姿を見つけてすかさず事実を追求する。
「どこからって。そりゃリアルブルーのハンターからだ。
奴らはすげぇぞ。群がる女をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
「それ、絶対に何かおかしいから。
そもそも、コンパって結婚する相手を見つける場所だ。戦うっていうより、人生のパートナーを見つける場所だ」
「なるほど。戦って戦って戦い抜いて、強者の異性を見つけるハーレムのイベントか。フラグは何処で立つんだ? 伝説の樹の下で待機すればいいのか?」
「違うから!」
日高は脳筋を超越した超脳筋を前に目眩を覚える。
これは先日の戦闘訓練でも見かけた光景なのだが、ヨアキム相手に会話のキャッチボールは成立しない。
「噂のヨアキム様はどちらにいらっしゃるのかしら」
そこへヨアキムを探していたナナート=アドラー(ka1668)がやってくる。
祭りを楽しまないと損と考えたナナートは、愛くるしいヒヨコ数匹にクラッシュブロウを叩き込んで来たところだ。眉一つ動かさずにヒヨコをぶっ飛ばす当たり、プロのハンター臭を放っている。
「あ、いたいた。ヨアキム様!」
「おう、おめぇも参加者か」
「はい。私は乙女の……うぇぇぇ!」
ヨアキムに近づいたナナートだったが、至近距離でヨアキムの体臭を嗅いでしまった。
不意打ちの悪臭で心がへし折られそうになる。
悪臭は目に染みるらしく、既に涙がいっぱいになっている。
「だけど……涙が出ちゃう。女の子だもん」
「女の子って……男だよな……」
日高のツッコミを華麗にスルーしたナナートは、鼻を摘まみながらヨアキムの髭にリボンを結ぶ。
「ヨアキム様。もうちょっと身嗜みに気を配られた方がよろしくてよ。そうしないと、全然モテないんだから。女の子にも嫌われちゃうわよ」
「そうなのか! それで最近娘が口を聞いてくれねぇのか」
その言葉に日高は思わず振り返った。
娘。
女性
女の子。
ナナートとは違う性の娘。
それがあの悪臭放つスーパー脳筋に居るという。
嘘をついても良い日はもっと先ですよ?
「ちょっと待て! ヨアキムさん、娘がいたのか?」
「あん? いるに決まってる。
そりゃ、ワシも王だぞ。跡継ぎがいねぇとやべぇだろ。娘だけど」
さも当たり前と言わんばかりの発言に驚愕。
もし、ヴァイスや神楽が居れば『リア充爆発しろ』と叫んでいた事だろう。
だが、現実はあまりにも過酷だ。
日高が凍り付いている最中にナナートのリボンは結び終わる。
「いやん♪ ヨアキム様ったら可愛い~」
「そうか。これなら娘も話してくれるよな? ぶわっはっは!」
ヨアキムの高笑いが周囲に響き渡った。
●
「そこですっ!」
フィル・サリヴァン(ka1155)のハルバードが、ヒヨコの体を捉えた。
衝撃を受けたヒヨコは後方に吹き飛ばされ、他のヒヨコと派手に衝突する。
「ちょろっス!」
ヒヨコは必死に空中で体を回転させる。
衝撃を和らげてダメージを最小限に抑える為だ。羽で足を抱えるようにして縦回転。重力に従って地面へと引かれていく。
ここで格好良く着地すればヒヨコも最弱の汚名を返上できるのだが……。
――ごんっ!
周囲に響き渡る鈍い音。
回転に夢中になったのか、着地を忘れて頭から地面に激突。ヒヨコは見事なまでに自爆した。
「ちょ、ちょろっス……」
ヒヨコはフィルを恨めしそうに見つめながら喪失した。
その様子にフィルは思わずため息をつく。
「これがコンパですか。料理やお酒が出ているのでお祭りの一種だと思うのですが……このヒヨコは祭りに必須なのでしょうか」
首を捻るフィル。
何しろハルバードを振るえばあっさり倒されるヒヨコが相手だ。歯ごたえがなさ過ぎて呆気に取られてしまう。
緊張の糸が途切れるフィル。
そこへ数匹のヒヨコが飛び込んできた。
「どけぇ!」
フィルが声のする方向へ視線を送れば、テスカ・アルリーヴァ(ka2798)がクレセントグレイブで目の前のヒヨコを力任せに吹っ飛ばしていた。
祭りである事を認識したテスカは、派手に動いて派手にぶっ飛ばすを宣言。
時折酒を飲みながら、ヒヨコを一方的に叩きのめしていた。
「……ちっ、もう終わりかよ。歯ごたえねぇなぁ」
空になったジョッキを放り投げたテスカ。
ヒヨコは戦う気力を失った者にとっては自信を回復させる良い相手なのかもしれない。しかし、ハンターとして最前線戦い続けるテスカにとっては相手にならない。
当初はヒヨコ退治と酒で満喫するつもりだったが、ここまでヒヨコが弱いのではその予定も狂ってくる。
「辺境のドワーフが奇っ怪な事を考えると思ったんだが、これじゃ戯れる事もできやしねぇ。
……おう、そこの。ちょっと相手してくれないか?」
テスカの言葉にフィルは周囲を見回した。
周りには誰もいない。
明らかにテスカはフィルの事を見つめている。
「私、ですか?」
「これじゃ、ここまで来た甲斐がない。
いいだろ? 酔いが醒めるまでで構わないから」
テスカはクレセントグレイブを構え直す。
そもそもこのコンパはヨアキムが武闘会と勘違いして催したものだ。
なら、あくまでも『稽古』として楽しんでも損はない。
なにせ、フィルも不完全燃焼だったのだから。
「分かりました。お相手致しましょう」
ハルバードを握りしめるフィル。
その様子にテスカは満足そうに微笑んだ。
「今日もうまい酒が飲めそうだ」
●
「『ゴウコン』とは、物騒な催しなのだね。ハンターとして警備に当たらなければ!」
リアム・グッドフェロー(ka2480)は、この会場で珍しく警備を申し出ていた。
パーティの一種である事は理解できるが、酒と料理が振る舞われている以上は無法に走る者がいないとも限らない。
「そうね。草食系も悪くはないんだけど……もっと積極的に声をかけにいかないとね。お・と・こ・なら」
リアムの傍らにはヨアキムを説得していたカミーユの姿があった。
もっとも、カミーユの方は警備をするのではなく、壁際で女子に声をかけられない草食系に発破をかけて回っていた。
「駄目だよ。もっと注意を払ってもらわないと」
「えー、いいじゃない。男子の背中を押してあげるのもお姉さんの大切な仕事よ」
ちょっとむくれるカミーユ。
リアムは女性としてエスコートしているが、細かい素振りに女性を感じてしまうのは意識しているからなのだろうか。
「あら? そこの男子。どうしたの?」
カミーユの前に現れたのはヴァイス。
ヴァイスの視線には灰色の長髪が特徴的な女性があった。
「ああ。新しいお嬢ちゃんを見つけたのでね。声をかけようと思っていたんだ」
「そう! 今の聞いた、リアムちゃん。
この男特有の『やったるぜっ!』な感じ。これに女子は惹かれるのよ。分かる?」
女子をやたら強調するカミーユ。
やったるぜ! のところでちょっと低音で男性が見え隠れしてしまうのは、その肉体のせいだろうか。
「よし、行くぜ!
……あー、お嬢ちゃん。どうだい? 今夜は朝まで俺とランデブーしないかい?」
ヴァイスは目的の女性の肩に手を置く。
反射的に振り返る女性。
その口から放たれた言葉は――。
「おん? ヴァイスじゃねーか」
エールビールに口を付けたハスキー(ka2447)は、口に周りに泡を付けたままヴァイスを発見。
ヴァイスが運命の『お嬢ちゃん』と思っていた存在は、ヴァイスの依頼仲間にして飲み友達のハスキーだったようだ。
「朝までランデブー? それってつまり、朝まで飲みたいって事だろう?
分かってるじゃねぇか! さぁ、タダ酒とタダ飯を満喫するぞ!」
「ちょ、違う! 俺には愛しいのお嬢ちゃん達が待って……」
ハスキーに引き摺られるようにヴァイスは次のテーブルへ連れ去られていく。
哀愁漂う姿を見つめるリアムは、その背筋が寒くなった。
「……け、警備でもあれは止められないです」
●
パーティが進むにつれてヒヨコの数を減り始める。
何しろ数は相当数いるものの、その弱さは折り紙付き。
霧散して消えるヒヨコを前に、ハンター達は一気に勝負を仕掛ける。
「消えて」
メトロノーム・ソングライト(ka1267)のマジックアローがヒヨコに突き刺さる。
鳴き声一つあげる事もできないヒヨコは、そのまま地面に倒れて消え去った。
これで何匹目かは分からないが、もうかなりの数のヒヨコを倒しているはずだ。
(ふぅ。やっぱり一人……)
メトロノームの周囲を見回すが、ハンターは誰もいない。
表情を顔に出せない、人形のような自分だから誰も寄ってこないのだろうか。せめてヴァイスのような社交性があれば、友人ももっと多くなるのに。
ため息をつくメトロノーム。
ちなみに目指そうとしているヴァイスは、ハスキーに次々酒を飲まされて地面へ転がっている。
「治療、いかがです?」
寂しさが心を支配するメトロノームに最上 風(ka0891)が声をかける。
突然の声掛けに少々驚くメトロノーム。
だが、表情を変えられないメトロノームはぽつりと答える。
「いえ」
「えー。怪我とかしてません?
怪我していてもらえると嬉しいんだけどなぁ」
風はメトロノームに近寄りがたさを感じてはいたものの、内心は焦っていた。
本来であれば治療して治療代を相手からせしめる予定だった。だが、ヒヨコが想像以上に弱くて怪我をしている者は皆無。
そこで見かけたメトロノームへ強引に話掛けたという訳だ。
「怪我は……ありません」
「そっか。あ、あの子はどうかな?」
風が指差した先には鉄パイプを振り回す一人の少女がいた。
「己のすべてを駆使して腕を上げていく武闘会。
ああ、ハンター達の間ではそれをコンパって呼ぶのね……! 私も全力で頑張るのよ!」
メーナ(ka1713)はヒヨコの転倒を誘うように大きく鉄パイプを振り回す。
避けようと必死で藻掻くヒヨコ達。
そのうち足がもつれて地面へ転がる。何とも単純な作戦だが、このやり方でメーナも多くのヒヨコを倒す事に成功していた。
「ダブルアイスクリーム、いっちょあがり!」
ストライクブロウでヒヨコの頭の頭にできたタンコブに、もう一つタンコブを作り出すメーナ。
漫画のように出来た二段タンコブで、ヒヨコは思いっきり泣き喚く。
「ちょろっス~」
「あの人なら怪我してそう。行こっ」
「あ……」
風はメトロノームの手を引く。
手から伝わる暖かみ。
その暖かみを、メトロノームは久しぶりに感じた事を思い出した。
●
「コンパでは王様ゲームっていうのをやるんだよ!」
パーティの終盤、夢路 まよい(ka1328)が戦闘中のヨアキムに話掛けてきた。
まよいが言うにはコンパには『王様ゲーム』なる遊戯が定番なのだという。
「そうなのか! で、そのゲームはどんなのだ?」
「えーと、確か王様になった人は罰ゲームをやらないといけないんだったかな?
王様って言ったらヨアキムだよね♪ ほら、罰ゲームしないと!」
何処かで聞いた噂を必死に思い出したまよいの答えは、ヨアキムが問答無用で罰ゲーム決定の理不尽極まるゲームであった。せめてクイズに答えて泥だらけになってから罰ゲームなら納得しようもあるのだが、王様だから罰を下されるのでは堪らない。
「なにぃ!?
それなら、アイツだって王様だろう?」
「ボク? あ、ボクは大王だから王様ではないのだ」
ヨアキムに指を差されたディアドラは、あっさり否定する。
「あ、そうか。つーことは、王様はワシだけか。なーんだ……って、罰ゲーム決定じゃねぇか!」
「はーい、罰ゲームはヨアキムだけ避けるの禁止で殴り合いね!
お相手はこの方~!」
呼ばれたのはイスカ・ティフィニア(ka2222)。
魅せる戦いを心がけ、本日一番ヒヨコを倒したハンターである。
瞬脚、ランアウトを駆使した高速戦闘の前に、ヒヨコが対抗できるはずもなかった。その為かヨアキムが連れてきたヒヨコは全滅。残るは祭りの主催者たるヨアキムだけであった。
「なるほど。リアルブルーから来た連中が微妙な表情をしていたのは、このゲームがあったからか。
さて、ドワーフ王。正面から豪快にぶつかるのは格好良いが、こういう戦い方もあるって学んでいくといい」
イスカはステップを踏みながら戦闘のリズムを掴む。
罰ゲームにより避ける事が禁止されている以上、イスカのパンチはすべて受け止めなければならない。
何故? それはヨアキムが、王様だからだ。
「いくぜ」
瞬脚で一気に間合いを詰めるイスカ。
同時に腰を回転させて、強く握った拳を大きく後ろへ振りかぶる。
――そして。
「……んん! きぼぢぃぃぃぃ!!」
ヨアキムの歓喜なる雄叫びが響き渡った。
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コンパ会場相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/08/27 06:31:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/30 22:03:54 |