ゲスト
(ka0000)
【龍奏】異端者はかく語りき
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/02 22:00
- 完成日
- 2016/05/13 04:22
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ラヴィアンさん!」
今や龍園ヴリトラルカには、クリムゾンウェスト連合軍の人間たちが大挙として押し寄せていた。
青龍が連合軍との本格的な協調路線を示した事により、龍園の施設が次々に開放され、連合軍用のキャンプ地も増設が進んでいる。
三つの遺跡を取り戻した事により、危険な汚染領域である北狄を物理的に、または転移的に突破できるようになった人類軍は、この龍園にもCAMや魔導アーマーといった兵器を運び込みつつあった。
そんな中、篠原神薙が声をかけたのは地球からやってきたというラヴィアン・リュー中尉だ。
「君は……確かカム・ラディ遺跡の時に会った?」
「篠原神薙です。一応その後の戦闘でも何度かご一緒してますけど……」
「そう……それは失礼をしたわね」
「いや、特徴の無い顔なんで……あれ? ジョンさん?」
苦笑を浮かべながら視線を移した先には、先程までラヴィアンと話していたらしいジョン・スミス(kz0004)の姿があった。
「や、どうもお久しぶりですね、神薙君♪」
ジョンと言えばサルヴァトーレ・ロッソのクルーの1人。“大転移”とその後のロッソの騒動で神薙とも面識があった。
「ジョンさん、いつの間にこっちに来たんですか? この間の作戦には居ませんでしたよね?」
「青龍の許可が出て、龍園にも転移門が設置されたでしょう? 簡単に足を運べるようになったのは良いのですが、クルーの中に覚醒者は少ないもので……それでボクに白羽の矢、という感じですね」
そういえばジョンは覚醒者だが、クリストファーや艦長のダニエルは覚醒者ではなかったはずだ。
「アニタもこちらに来ていると聞いたのですが、もう次の作戦に向かっていると聞きまして。すれ違っちゃいました♪」
なるほどと頷き、それから神薙は二人を交互に見やる。
「お二人は知り合いなんですか?」
「何故そう思うのかしら?」
「同じ地球軍だし……」
「ラヴィアンは知り合いでもなければ、ボクみたいなタイプとはお話してくれませんものね?」
口元に手をやり小さく笑うジョン。ラヴィアンは僅かに眉を動かし、ため息混じりに腕を組んだ。
「ボクよりも本当はクリストファーと会いたかったでしょう。元SOTですし、元カレみたいなものでしょう」
「全く違うわ……あんなアマちゃんと一緒にしないでほしいわね。……ジョン、もういいでしょう?」
「ええ。それではボクはお暇します。ロッソに戻って、今後の方針を固めなければなりませんからね」
ウィンクを残してスミスは転移門の方へ歩いて行く。神薙はその背中を見送り、ロッソの現状について思い返してみた。
未だにサルヴァトーレ・ロッソは帝国領北部に墜落したままで修復作業が続行されている。
カム・ラディ遺跡の一件から龍鉱石の正体がバレるまでのタイミングでナサニエルはいつの間にか姿を消し、今はロッソの再始動に従事しているという。
「ジョンさんが来たって事は、ロッソの人たちと連絡が取れたんですね? ロッソは強欲王との戦いに参加するって言ってました?」
「あのね……私はハイスクールの教員じゃないの。いちいち質問するんじゃなくて自分で確認するなり調べるなりしなさいな」
「じゃあ……異世界転移門の話はどうです?」
その単語に背を向けていたラヴィアンも振り返り、僅かに首を傾げつつも神薙と向き合った。
「北の聖地、星の傷跡にあるヴォイドゲート……これを奪い返せば、地球に帰れるって」
「ええ。私はそう確信しているわ」
「ラヴィアンさんにしては珍しいですね。確信しているなんて……誰も確かめたことがないのに」
彼女の性格に希望的観測は似合わない。何か根拠があるからこそ、異世界転移門の話を切り出したように思えた。
その噂話は連合軍の中にも広がりつつある。転移者にとって故郷への帰還は、よほどの事情がない限り望むべき事と見て間違いない。
大転移から最早二年。この見ず知らずの世界で戦ってこられたのも、帰るべき故郷があってこそ。
そして、手に入れたこの力で――故郷さえも救えるかもしれないという、希望があってこそだろう。
「今の俺達なら、きっとVOIDにも負けない。だけど、俺達が帰ってしまったらこの世界は……」
「くだらない悩みね」
「ラヴィアンさんは、この世界に居た時間が短いからそう思うんですよ」
「長さじゃないわ。自分が何をすべきか、使命をきちんと認識しているかどうか……これは覚悟の問題よ」
「地球軍人は地球を守る事を第一に考える……って事ですか」
小さく笑い、ラヴィアンは振り返り龍園を眺める。
「君は私にどんな言葉を期待しているの? 異世界人は皆友達、龍もヒトも仲間、皆仲良く戦いましょうとでも言えばいいのかしら?」
「それは……」
「この街は異常よ。トカゲ人間や龍のバケモノと人間が一緒に暮らしてる。地球人がこの光景を見たら誤解するでしょうね。異世界人はVOIDの仲間だって」
確かに青龍の眷属は味方になったが、見た目はまるきり強欲と変わらない。クリムゾンウェスト人ですらこの状況に困惑しているくらいだ。
「別に、そんな場所があったって構わない。異世界がある事も、龍とヒトが共存する事も構わないわ。彼らには彼らの命があり、文明がある……けど、それと地球の事を天秤にかけた時、私が出す答えは何度試したって同じになる。何かを犠牲にしなければ世界を守れないのなら、私は躊躇いなく尻尾を切り落とせる」
ラヴィアンと言葉を交わし、神薙にもわかったことがある。
世の中は仲良しこよし、なんでも丸く収まったりはしない。ラヴィアンは地球の軍人だ。きっとあの世界ほど、人と人とが殺しあった世界はないだろう。
軍は世界を救うスーパーヒーローではなく、限られた予算と人員で、限られた場所を守る組織だ。ラヴィアンの冷徹さは、全く間違いではない。
「もういいかしら? 私は星の傷跡の偵察に同行するつもりよ」
「あ。俺も一緒に行っていいですか?」
「確かにハンターの部隊と一緒に行動するけど……」
「俺もハンターです。問題ないですよね? 偵察ってどこです?」
「星の傷跡、クレバスの周辺は守りが厚いわ。だから西側の洞窟から侵入ルートを探してみようと思ってる」
「わかりました! じゃあ仲間を集めてきます!」
「え? ちょっと君……」
手を振り走り出す神薙に溜息を零すラヴィアン。その眉間にはずっと皺が寄ったままだ。
「どうしてあんな子供が、最も危険な最前戦への威力偵察に当たり前みたいに名乗り出るのかしら?」
神薙だけではない。この世界は異常だ。
年端もいかない子供たちが、覚醒者だと、特別な力があるというだけの理由で前線に送られ、勝ち目の少ない戦争でバタバタと死んでいく。
「そう……おかしいのよ、そんなのは……」
また眉間の皺が深くなる。不機嫌そうな顔を崩さないまま、ラヴィアンも準備の為に歩き出した。
今や龍園ヴリトラルカには、クリムゾンウェスト連合軍の人間たちが大挙として押し寄せていた。
青龍が連合軍との本格的な協調路線を示した事により、龍園の施設が次々に開放され、連合軍用のキャンプ地も増設が進んでいる。
三つの遺跡を取り戻した事により、危険な汚染領域である北狄を物理的に、または転移的に突破できるようになった人類軍は、この龍園にもCAMや魔導アーマーといった兵器を運び込みつつあった。
そんな中、篠原神薙が声をかけたのは地球からやってきたというラヴィアン・リュー中尉だ。
「君は……確かカム・ラディ遺跡の時に会った?」
「篠原神薙です。一応その後の戦闘でも何度かご一緒してますけど……」
「そう……それは失礼をしたわね」
「いや、特徴の無い顔なんで……あれ? ジョンさん?」
苦笑を浮かべながら視線を移した先には、先程までラヴィアンと話していたらしいジョン・スミス(kz0004)の姿があった。
「や、どうもお久しぶりですね、神薙君♪」
ジョンと言えばサルヴァトーレ・ロッソのクルーの1人。“大転移”とその後のロッソの騒動で神薙とも面識があった。
「ジョンさん、いつの間にこっちに来たんですか? この間の作戦には居ませんでしたよね?」
「青龍の許可が出て、龍園にも転移門が設置されたでしょう? 簡単に足を運べるようになったのは良いのですが、クルーの中に覚醒者は少ないもので……それでボクに白羽の矢、という感じですね」
そういえばジョンは覚醒者だが、クリストファーや艦長のダニエルは覚醒者ではなかったはずだ。
「アニタもこちらに来ていると聞いたのですが、もう次の作戦に向かっていると聞きまして。すれ違っちゃいました♪」
なるほどと頷き、それから神薙は二人を交互に見やる。
「お二人は知り合いなんですか?」
「何故そう思うのかしら?」
「同じ地球軍だし……」
「ラヴィアンは知り合いでもなければ、ボクみたいなタイプとはお話してくれませんものね?」
口元に手をやり小さく笑うジョン。ラヴィアンは僅かに眉を動かし、ため息混じりに腕を組んだ。
「ボクよりも本当はクリストファーと会いたかったでしょう。元SOTですし、元カレみたいなものでしょう」
「全く違うわ……あんなアマちゃんと一緒にしないでほしいわね。……ジョン、もういいでしょう?」
「ええ。それではボクはお暇します。ロッソに戻って、今後の方針を固めなければなりませんからね」
ウィンクを残してスミスは転移門の方へ歩いて行く。神薙はその背中を見送り、ロッソの現状について思い返してみた。
未だにサルヴァトーレ・ロッソは帝国領北部に墜落したままで修復作業が続行されている。
カム・ラディ遺跡の一件から龍鉱石の正体がバレるまでのタイミングでナサニエルはいつの間にか姿を消し、今はロッソの再始動に従事しているという。
「ジョンさんが来たって事は、ロッソの人たちと連絡が取れたんですね? ロッソは強欲王との戦いに参加するって言ってました?」
「あのね……私はハイスクールの教員じゃないの。いちいち質問するんじゃなくて自分で確認するなり調べるなりしなさいな」
「じゃあ……異世界転移門の話はどうです?」
その単語に背を向けていたラヴィアンも振り返り、僅かに首を傾げつつも神薙と向き合った。
「北の聖地、星の傷跡にあるヴォイドゲート……これを奪い返せば、地球に帰れるって」
「ええ。私はそう確信しているわ」
「ラヴィアンさんにしては珍しいですね。確信しているなんて……誰も確かめたことがないのに」
彼女の性格に希望的観測は似合わない。何か根拠があるからこそ、異世界転移門の話を切り出したように思えた。
その噂話は連合軍の中にも広がりつつある。転移者にとって故郷への帰還は、よほどの事情がない限り望むべき事と見て間違いない。
大転移から最早二年。この見ず知らずの世界で戦ってこられたのも、帰るべき故郷があってこそ。
そして、手に入れたこの力で――故郷さえも救えるかもしれないという、希望があってこそだろう。
「今の俺達なら、きっとVOIDにも負けない。だけど、俺達が帰ってしまったらこの世界は……」
「くだらない悩みね」
「ラヴィアンさんは、この世界に居た時間が短いからそう思うんですよ」
「長さじゃないわ。自分が何をすべきか、使命をきちんと認識しているかどうか……これは覚悟の問題よ」
「地球軍人は地球を守る事を第一に考える……って事ですか」
小さく笑い、ラヴィアンは振り返り龍園を眺める。
「君は私にどんな言葉を期待しているの? 異世界人は皆友達、龍もヒトも仲間、皆仲良く戦いましょうとでも言えばいいのかしら?」
「それは……」
「この街は異常よ。トカゲ人間や龍のバケモノと人間が一緒に暮らしてる。地球人がこの光景を見たら誤解するでしょうね。異世界人はVOIDの仲間だって」
確かに青龍の眷属は味方になったが、見た目はまるきり強欲と変わらない。クリムゾンウェスト人ですらこの状況に困惑しているくらいだ。
「別に、そんな場所があったって構わない。異世界がある事も、龍とヒトが共存する事も構わないわ。彼らには彼らの命があり、文明がある……けど、それと地球の事を天秤にかけた時、私が出す答えは何度試したって同じになる。何かを犠牲にしなければ世界を守れないのなら、私は躊躇いなく尻尾を切り落とせる」
ラヴィアンと言葉を交わし、神薙にもわかったことがある。
世の中は仲良しこよし、なんでも丸く収まったりはしない。ラヴィアンは地球の軍人だ。きっとあの世界ほど、人と人とが殺しあった世界はないだろう。
軍は世界を救うスーパーヒーローではなく、限られた予算と人員で、限られた場所を守る組織だ。ラヴィアンの冷徹さは、全く間違いではない。
「もういいかしら? 私は星の傷跡の偵察に同行するつもりよ」
「あ。俺も一緒に行っていいですか?」
「確かにハンターの部隊と一緒に行動するけど……」
「俺もハンターです。問題ないですよね? 偵察ってどこです?」
「星の傷跡、クレバスの周辺は守りが厚いわ。だから西側の洞窟から侵入ルートを探してみようと思ってる」
「わかりました! じゃあ仲間を集めてきます!」
「え? ちょっと君……」
手を振り走り出す神薙に溜息を零すラヴィアン。その眉間にはずっと皺が寄ったままだ。
「どうしてあんな子供が、最も危険な最前戦への威力偵察に当たり前みたいに名乗り出るのかしら?」
神薙だけではない。この世界は異常だ。
年端もいかない子供たちが、覚醒者だと、特別な力があるというだけの理由で前線に送られ、勝ち目の少ない戦争でバタバタと死んでいく。
「そう……おかしいのよ、そんなのは……」
また眉間の皺が深くなる。不機嫌そうな顔を崩さないまま、ラヴィアンも準備の為に歩き出した。
リプレイ本文
「連合宙軍との共同作戦……成り行きとはいえ軍を抜けざるを得なかった身としては胸熱です」
「そ、そう……向こうじゃ珍しくもない肩書だけど」
ビシリと敬礼を決める水城もなか(ka3532)にラヴィアンはやや困った様子で敬礼を返す。
「ハンターになる為に形式上軍は抜けていますが、個人的には連合宙軍所属のままのつもりですから!」
「ふむ。リアルブルー人にとって軍属であるという事は高いステイタスを意味するのでしょうか」
「いや~、ボクも元軍属だけど……こだわりの形は人それぞれ、かな? ボクは軍属そのものより、“愛機”の事が忘れられないタイプだし……境遇と思い出によるよ」
レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)の説明に、顎に手をやり頷くGacrux(ka2726)。
地球から転移してきて尚、“連合宙軍”としての振る舞いを続けるラヴィアン一派とハンター達は星の傷跡へ続くと目される洞窟の一つに足を踏み入れていた。
入り口から少し進んだ所に早速分岐路を見つけると、キヅカ・リク(ka0038)はそこに大きな龍鉱石を設置する。
「龍鉱石を持ち歩いていると、敵を寄せ付けてしまいますの?」
「マテリアル感知するタイプだと可能性はあるよね。こういう脇道においておけば敵を引きつけて撤退を楽にできるかもしれないし、ここなら後で回収しようとしても楽でしょ」
「なるほど~! では、わたくしの龍鉱石も置いてゆきますわ!」
「……って、結構持ってるね!?」
小さい体で持ち込んだ龍鉱石をのしのし積み重ねるチョココ(ka2449)に神薙が驚くが、チョココは朗らかな笑顔のまま小首を傾げるだけだ。
一行は大まかに4つの班を作り、縦一列に並んで洞窟を進む作戦をとった。
洞窟内は狭い箇所も多く、全てのハンターが同時に展開できない事。また、長距離の探索をする上で覚醒時間の節約が必要であった事。
そもそも敵との戦闘を極力回避する事を考えれば、その作戦は妥当であり、負担を分散する事でより奥地への進行を可能としていた。
「篠原さんは後ろからゆっくりついてきて下さい。マヘルさんも、何かあれば無線を使ってください。こちらからの連絡は緊急時以外はLEDで合図しますが」
「はい、任されました。水城さんも気をつけて」
まず先頭をゆく1班。もなかは元々偵察兵という事もあり、先導役を買って出る。
「水城さん、張り切ってますね。それに俺に妙に気を使ってくれているような……」
「リアルブルーに戻る方法が見つかるかもしれないんですから、張り切っているのは私も同じです。でも彼女の場合、地球人であるか、そして軍属かどうかが問題みたいですね」
口元に手をやり、小さく微笑むマヘル・ハシバス(ka0440)。
もなか的には地球人かつ元民間人であれば、未だに守護の任があると捉えている。
そういう意味でキヅカやマヘルは範囲に入るが、年若くとも軍属であったレホスは“戦士”。例外というわけだ。
「さて、後方でもマッピングは行うでしょうが、より精度を高める為に私達も書き込みましょうか」
先頭をゆくもなかは自身の気配を消すスキルを持っている。これにより、故意に発見を誘発するか、曲がり角で偶然対面でもしない限りは敵に発見されない。
数体のリザードマンが岩陰に隠れたもなかを素通りし去っていく。その事をマヘルに伝えると、連結通話を用いて各班に連絡が飛ぶ。
本来隊列が縦に伸びる場合、先頭の班は敵を素通りできても後続が躓いたりするものだが、彼らはこれで部分的に迅速な移動を実現し、回避を可能としていた。
「とはいえ、全く敵を倒さないのも問題ですね」
2班。先頭を交代したGacruxはそう呟く。
放置した敵が後方に溜まるという事は、それだけ囲まれるリスクが増すという事だ。敵が単体でぼんやりしているだけなら、倒した方が良い場合もある。
特にこうした、分岐路も存在しない直線を封鎖された場合はやむを得ない。
「白兵戦は苦手なんだよね……普段は拳銃を使ってるから」
「大丈夫です。俺の後に続いて下さい」
そっとリザードマンに背後から近づくと、Gacruxはワイヤーを長い竜の首に引っ掛け、背後に締め上げる。
すかさずレホスは駆け寄りアルケミストクローを繰り出す。その刃はスキルで延長されたように輝き、リザードマンの胸を一撃で貫いた。
「お見事です」
「そりゃ、押さえててもらえば外さないよねぇ」
「どうやら大した戦闘力ではないようですし、1体だけ遭遇した場合は片付けてしまった方が早いかもしれませんね。死体も消えますし」
「あ、そうだね」
歪虚は活動を維持できなくなれば塵になって消える。痕跡隠滅の手間が省けてこの場合は便利だ。
「それに、アースワームの場合は放置すると囲まれる可能性が高い」
屈んでGacruxが確認したのは地面の様子だ。何かが這いながら地面を削ったような奇妙な溝が幾つかできている。
「覚醒を切って少し進んで見ましょう。恐らく、アースワームがいるはずです」
「こういう場合はどうするんですの?」
レホスの連結通話で呼び寄せられ全員が合流した先にあったのは、大きく開けた空間だった。
天井から水が小さな滝のようにあちこちから流れ、地底湖を作っている。その周辺には複数のアースワームがうろついていた。
「いち、にい、さん……4体もいますわ~」
愛用の双眼鏡を覗き込んだチョココの言葉にキヅカは腕を組み。
「幸いまだ気づかれてないし、遠距離から一斉攻撃で倒しちゃったらどうかな」
「そうだね。アースワームは頑丈だけど移動速度は大した事ないし」
頷く神薙。銃声は洞窟内によく響くが、魔法や弓であれば問題はあるまい。
「ラヴィアンさん達も援護をお願いします」
「ええ、勿論よ。ついでに背後のクリアリングもしておくから」
上々な返事に頷くキヅカ。ハンター達は一斉に覚醒し、攻撃を開始する。
覚醒した段階でアースワームはハンターの存在を察知するが、振り返るより攻撃の方が早い。
マヘルと神薙は同時にデルタレイを放ち、4体の敵にまんべんなく光線を降り注がせる。
続けてチョココはスタッフを掲げ、くるりを回転しながら冷気の霧を結晶へと収束させる。
「アースワームは眠らない気がするので……アイスボルトですわ!」
氷の刃がアースワームに突き刺さると同時、Gacruxは弓矢を放つ。その一撃はアースワームの硬い表皮を砕き、穴を開けた。
能力が低下した二体を狙い、ラヴィアンらが一斉射撃を行う。これで二体が沈黙するが、残りの二体はハンターを目指し突進している。
Gacruxが更に矢を突き刺したとこへ突進を回避したもなかが背後に回り込み、矢で砕けた部位にダガーを突き立てる。
「そっちに飛ばすからタコ殴りにしといて!」
アースワームに突っ込んでいったキヅカは後ろに回り込み攻撃を誘うと、攻性防壁でレホスの方へとワームを飛ばす。
「ちょっ」
痺れてぐったりしたワームが足元に滑り込んできたので、レホスはアルケミストクローを突き立てる。
「今がチャンスですわ!」
「少し良心が痛みますけど……」
チョココが杖を、マヘルが七支刀を振り下ろしタコ殴りにすると、ワームはぐたっとしたまま塵に帰っていった。
「ちょっと……なんか変な汁がついたんだけど……」
げんなりした様子のレホスにキヅカは申し訳無さそうな顔をした。
その後もハンターは幾度も歪虚と交戦するが、その全てでイニシアチブを取り、一方的に殲滅を続けた。
先手が打てれば驚異的な相手ではない。2,3体なら瞬殺できると踏んでからは、見かけた敵もなるべく処理する事にした。
「あらら? キヅカ様、また行き止まりですわ」
「ホントだ。って事は、全部の分岐路でどん詰まりかあ」
既に洞窟内に入り3時間が経過。大凡直線で7km程をマッピングした所で、完全な行き止まりに遭遇する。
これまでは少し戻って別の道を進んでいたが、ここで完全な手詰まりとなった。
「となると、ここを行くしかありませんね」
少し開けた空間の高所に、水を流し込んでいる水路のような脇道がいくつかあった。
できれば水場は進みたくなかったのと、現実的ではない4メートル程の高さからスルーしていたが、もうここくらいしか思いつかない。
「この高さは……ちょっと私達には難しいですね」
困ったように苦笑を浮かべるマヘル。もなかは頭上を見上げ。
「私なら頑張れば届きそうですね」
「なら話は早いですね」
Gacruxは壁を背に腰を落とし、両手を組んで正面に構える。
そこを踏み台に跳んだもなかが淵を掴み、すっと高所に登りついた。
更にワイヤーを互いの武器に巻きつけたものを使い、もなかが体重が低い順から引き上げ、後は上の人数を増やせば登り切る事ができた。
「Gacruxさんって色々できるんだね」
「まあ、色々やってますからね……」
固く結んだワイヤーを解きながら、レホスの言葉に頷くのだった。
水深3センチほどの水路を進むと、再び広い洞窟に出る。
少し低くなった場所には地下水が貯まり、そこには無数の隆起したマテリアル結晶が濡れていた。
「わぁ~! とってもきれいですわね!」
「ここは流石に敵も居ないようですね。もう随分移動しましたし、一息入れませんか?」
警戒しながらの進軍は心身ともに疲労する。それでも覚醒者が先陣を切っているだけかなり進行は早いが、マヘルの申し出はありがたい。
マヘルがコーヒーを淹れると、ハンターらは濡れた上着を絞ったりしながら乾いた地べたを探して腰を下ろす。
「篠原くんは何か考え事ですか?」
キヅカともなかが地図を照らし合わせる中、マヘルの問いに神薙は結晶の泉を見つめ。
「実は、もうすぐ地球に帰れるのかと思ったら、色々考えちゃって……」
「私もですけどね。帰るために覚醒者になったはずなのに、こちらの世界で出会ったものが大きすぎました、今は気軽に帰ることはできません」
「今は気軽に帰れない、か……。確かに、こっちの世界で出会った物はすごく大きいよね」
レホスは濡れた髪を束ね、膝を抱えるように座る。
「ボクもこの世界の人の役に立ちたいと思ってる。命を捨てる覚悟だってしたけど……でも、やっぱりダメなんだ。ボクはどうしても、もう一度家族に会いたい」
「それは何も不自然な願いではありませんよ」
Gacruxはたいまつで即席の焚き火を作りつつ。
「大転移以前に転移し、帰郷を悲願に何十年もこの世界を彷徨った異邦人もいる。星に残した家族と引き裂かれたまま、まだ還るな等、何故俺達が言える」
「Gacruxさん……ありがとう」
「あの、あの。皆様の故郷、地球ってどんなところですの~?」
「地球ですか? そうですね……」
チョココの問いに思案するマヘル。ラヴィアンは上着をチョココの肩にかけつつ、隣に腰を下ろす。
「碌な場所じゃないわ。あんなに人間同士が殺しあった世界はないだろうし」
「こ、怖いところなんですの……?」
「かもね。でも、あなたみたいな子がこんな危険な仕事をしなくてもいい世界……とは、言えないみたいね」
レホスを一瞥し溜息を零す。地球の戦況も切迫していた。兵員の最低年齢も引き下げられたし、戦場には彼女のような年若い兵もいた。
「不思議ですよね。僕も二年前までこんな事想像もしてなかった。でも、戦わないと守れないんです。自分も仲間も……約束も」
「子供とか大人とか、男だとか女だとか、そんな事は関係ないんだ。守りたいもののために戦う。皆が戦ってるのは、そういう理由だから」
キヅカとレホスの言葉にGacruxは視線を伏せる。
ヒトはそこまで高潔ではないと彼は知っていた。だが彼らのその潔さを否定するほど、無粋でもなかった。
「私は、元民間人が前線に立つ現状は異常に思えます。力の問題ではなく、軍人の矜持の問題です」
「そうね。私もあなた達の力は良くわかってる。でも、それを許してしまったら、自分が軍人でいられなくなる気がする」
「中尉……」
もなかの言葉に首を横に振り、眉間の皺を僅かに緩めラヴィアンは息を吐いた。
「そんなエゴの話をしに来たわけじゃないわね。少し休んだら、出発しましょう。ここはマテリアル流のおかげか、少し温かいわ」
その後も新たなルートを開拓したハンター達だが、行動時間が6時間ほどになった段階で帰り道を考慮し引き返す事とした。
帰り道でも数度の戦闘で覚醒を強いられた事を思えばその判断は妥当であり、地図に関しても少なくとも“進む”事に関しては十全な出来であった。
「ひっ」
「うおっ、いっぱいいる!?」
帰りに自分たちが置いた龍鉱石に無数のアースワームが群がる様にチョココとキヅカが青ざめたが、背後からの一斉攻撃で排除し、鉱石は無事手元に戻った。
半日ぶりの外の空気は、しかし日が暮れてすっかり冷えきっていた。
「流石に疲れましたね……温かいコーヒーが恋しいです」
「10時間以上の作戦ですから、無理もありませんね。ナッツでよければ私物がありますよ」
もぐもぐとナッツを齧るもなかはマヘルにもお裾分け。
そそくさと引き上げの指示をし、文句をぶつくさ言う部下を睨めつけるラヴィアンの横顔をチョココはじっと見つめる。
「わたくしは難しい事はあまりわかりませんけども、あの方は悪いお人ではないように思えますわ。ただ……ず~っと何かに怒っているみたいですけど」
「多分、自分自身に怒ってるんじゃないかな……」
神薙の言葉に首を傾げるチョココ。レホスは背後で手を組み。
「シノハラくんはすごいよね。色々見て、考えて。キミの活躍、友達から聞いてるよ」
「俺なんて別に……ただ必死なだけでさ」
「皆そうだって。結局僕達って子供だし、必死にやるしかないじゃん。でも、自分で願って、決めて、やってみて……初めてわかる事もあるよね」
キヅカの言葉に頷く二人。同年代、同じ世界で育った三人は、それぞれの想いを抱えて戦っている。
「ボク、この世界の人達のこと、尊敬してるんだ。地球に帰る為の戦いだけど、その過程を蔑ろにしたりしない。マヘルさんの言うように、この世界で出会った人との絆だって、本物だから」
少年少女が語らう姿にもなかは少し複雑な表情を浮かべたが、その肩をマヘルがそっと叩く。
「難しい事は確実に手段が確定してから決めましょう、それでもいいと思いますよ。さあ、私達も帰りましょう。ここは冷えますから」
マヘルの言葉に声を揃えて返事をし、三人は小走りで移動する。その姿を追うようにGacruxも歩き出す。
少年少女のまっすぐな想いは、彼には少し眩しかった。だが未来の選択は自由だ。
「Gacruxさん!」
急かすように手を振るレホスの姿に歩みを少し早めた。
凍える雪道をハンターらは龍園を目指し歩き出した。大きな不安と、少しの希望を胸に、彼らは前進を続ける。
「そ、そう……向こうじゃ珍しくもない肩書だけど」
ビシリと敬礼を決める水城もなか(ka3532)にラヴィアンはやや困った様子で敬礼を返す。
「ハンターになる為に形式上軍は抜けていますが、個人的には連合宙軍所属のままのつもりですから!」
「ふむ。リアルブルー人にとって軍属であるという事は高いステイタスを意味するのでしょうか」
「いや~、ボクも元軍属だけど……こだわりの形は人それぞれ、かな? ボクは軍属そのものより、“愛機”の事が忘れられないタイプだし……境遇と思い出によるよ」
レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)の説明に、顎に手をやり頷くGacrux(ka2726)。
地球から転移してきて尚、“連合宙軍”としての振る舞いを続けるラヴィアン一派とハンター達は星の傷跡へ続くと目される洞窟の一つに足を踏み入れていた。
入り口から少し進んだ所に早速分岐路を見つけると、キヅカ・リク(ka0038)はそこに大きな龍鉱石を設置する。
「龍鉱石を持ち歩いていると、敵を寄せ付けてしまいますの?」
「マテリアル感知するタイプだと可能性はあるよね。こういう脇道においておけば敵を引きつけて撤退を楽にできるかもしれないし、ここなら後で回収しようとしても楽でしょ」
「なるほど~! では、わたくしの龍鉱石も置いてゆきますわ!」
「……って、結構持ってるね!?」
小さい体で持ち込んだ龍鉱石をのしのし積み重ねるチョココ(ka2449)に神薙が驚くが、チョココは朗らかな笑顔のまま小首を傾げるだけだ。
一行は大まかに4つの班を作り、縦一列に並んで洞窟を進む作戦をとった。
洞窟内は狭い箇所も多く、全てのハンターが同時に展開できない事。また、長距離の探索をする上で覚醒時間の節約が必要であった事。
そもそも敵との戦闘を極力回避する事を考えれば、その作戦は妥当であり、負担を分散する事でより奥地への進行を可能としていた。
「篠原さんは後ろからゆっくりついてきて下さい。マヘルさんも、何かあれば無線を使ってください。こちらからの連絡は緊急時以外はLEDで合図しますが」
「はい、任されました。水城さんも気をつけて」
まず先頭をゆく1班。もなかは元々偵察兵という事もあり、先導役を買って出る。
「水城さん、張り切ってますね。それに俺に妙に気を使ってくれているような……」
「リアルブルーに戻る方法が見つかるかもしれないんですから、張り切っているのは私も同じです。でも彼女の場合、地球人であるか、そして軍属かどうかが問題みたいですね」
口元に手をやり、小さく微笑むマヘル・ハシバス(ka0440)。
もなか的には地球人かつ元民間人であれば、未だに守護の任があると捉えている。
そういう意味でキヅカやマヘルは範囲に入るが、年若くとも軍属であったレホスは“戦士”。例外というわけだ。
「さて、後方でもマッピングは行うでしょうが、より精度を高める為に私達も書き込みましょうか」
先頭をゆくもなかは自身の気配を消すスキルを持っている。これにより、故意に発見を誘発するか、曲がり角で偶然対面でもしない限りは敵に発見されない。
数体のリザードマンが岩陰に隠れたもなかを素通りし去っていく。その事をマヘルに伝えると、連結通話を用いて各班に連絡が飛ぶ。
本来隊列が縦に伸びる場合、先頭の班は敵を素通りできても後続が躓いたりするものだが、彼らはこれで部分的に迅速な移動を実現し、回避を可能としていた。
「とはいえ、全く敵を倒さないのも問題ですね」
2班。先頭を交代したGacruxはそう呟く。
放置した敵が後方に溜まるという事は、それだけ囲まれるリスクが増すという事だ。敵が単体でぼんやりしているだけなら、倒した方が良い場合もある。
特にこうした、分岐路も存在しない直線を封鎖された場合はやむを得ない。
「白兵戦は苦手なんだよね……普段は拳銃を使ってるから」
「大丈夫です。俺の後に続いて下さい」
そっとリザードマンに背後から近づくと、Gacruxはワイヤーを長い竜の首に引っ掛け、背後に締め上げる。
すかさずレホスは駆け寄りアルケミストクローを繰り出す。その刃はスキルで延長されたように輝き、リザードマンの胸を一撃で貫いた。
「お見事です」
「そりゃ、押さえててもらえば外さないよねぇ」
「どうやら大した戦闘力ではないようですし、1体だけ遭遇した場合は片付けてしまった方が早いかもしれませんね。死体も消えますし」
「あ、そうだね」
歪虚は活動を維持できなくなれば塵になって消える。痕跡隠滅の手間が省けてこの場合は便利だ。
「それに、アースワームの場合は放置すると囲まれる可能性が高い」
屈んでGacruxが確認したのは地面の様子だ。何かが這いながら地面を削ったような奇妙な溝が幾つかできている。
「覚醒を切って少し進んで見ましょう。恐らく、アースワームがいるはずです」
「こういう場合はどうするんですの?」
レホスの連結通話で呼び寄せられ全員が合流した先にあったのは、大きく開けた空間だった。
天井から水が小さな滝のようにあちこちから流れ、地底湖を作っている。その周辺には複数のアースワームがうろついていた。
「いち、にい、さん……4体もいますわ~」
愛用の双眼鏡を覗き込んだチョココの言葉にキヅカは腕を組み。
「幸いまだ気づかれてないし、遠距離から一斉攻撃で倒しちゃったらどうかな」
「そうだね。アースワームは頑丈だけど移動速度は大した事ないし」
頷く神薙。銃声は洞窟内によく響くが、魔法や弓であれば問題はあるまい。
「ラヴィアンさん達も援護をお願いします」
「ええ、勿論よ。ついでに背後のクリアリングもしておくから」
上々な返事に頷くキヅカ。ハンター達は一斉に覚醒し、攻撃を開始する。
覚醒した段階でアースワームはハンターの存在を察知するが、振り返るより攻撃の方が早い。
マヘルと神薙は同時にデルタレイを放ち、4体の敵にまんべんなく光線を降り注がせる。
続けてチョココはスタッフを掲げ、くるりを回転しながら冷気の霧を結晶へと収束させる。
「アースワームは眠らない気がするので……アイスボルトですわ!」
氷の刃がアースワームに突き刺さると同時、Gacruxは弓矢を放つ。その一撃はアースワームの硬い表皮を砕き、穴を開けた。
能力が低下した二体を狙い、ラヴィアンらが一斉射撃を行う。これで二体が沈黙するが、残りの二体はハンターを目指し突進している。
Gacruxが更に矢を突き刺したとこへ突進を回避したもなかが背後に回り込み、矢で砕けた部位にダガーを突き立てる。
「そっちに飛ばすからタコ殴りにしといて!」
アースワームに突っ込んでいったキヅカは後ろに回り込み攻撃を誘うと、攻性防壁でレホスの方へとワームを飛ばす。
「ちょっ」
痺れてぐったりしたワームが足元に滑り込んできたので、レホスはアルケミストクローを突き立てる。
「今がチャンスですわ!」
「少し良心が痛みますけど……」
チョココが杖を、マヘルが七支刀を振り下ろしタコ殴りにすると、ワームはぐたっとしたまま塵に帰っていった。
「ちょっと……なんか変な汁がついたんだけど……」
げんなりした様子のレホスにキヅカは申し訳無さそうな顔をした。
その後もハンターは幾度も歪虚と交戦するが、その全てでイニシアチブを取り、一方的に殲滅を続けた。
先手が打てれば驚異的な相手ではない。2,3体なら瞬殺できると踏んでからは、見かけた敵もなるべく処理する事にした。
「あらら? キヅカ様、また行き止まりですわ」
「ホントだ。って事は、全部の分岐路でどん詰まりかあ」
既に洞窟内に入り3時間が経過。大凡直線で7km程をマッピングした所で、完全な行き止まりに遭遇する。
これまでは少し戻って別の道を進んでいたが、ここで完全な手詰まりとなった。
「となると、ここを行くしかありませんね」
少し開けた空間の高所に、水を流し込んでいる水路のような脇道がいくつかあった。
できれば水場は進みたくなかったのと、現実的ではない4メートル程の高さからスルーしていたが、もうここくらいしか思いつかない。
「この高さは……ちょっと私達には難しいですね」
困ったように苦笑を浮かべるマヘル。もなかは頭上を見上げ。
「私なら頑張れば届きそうですね」
「なら話は早いですね」
Gacruxは壁を背に腰を落とし、両手を組んで正面に構える。
そこを踏み台に跳んだもなかが淵を掴み、すっと高所に登りついた。
更にワイヤーを互いの武器に巻きつけたものを使い、もなかが体重が低い順から引き上げ、後は上の人数を増やせば登り切る事ができた。
「Gacruxさんって色々できるんだね」
「まあ、色々やってますからね……」
固く結んだワイヤーを解きながら、レホスの言葉に頷くのだった。
水深3センチほどの水路を進むと、再び広い洞窟に出る。
少し低くなった場所には地下水が貯まり、そこには無数の隆起したマテリアル結晶が濡れていた。
「わぁ~! とってもきれいですわね!」
「ここは流石に敵も居ないようですね。もう随分移動しましたし、一息入れませんか?」
警戒しながらの進軍は心身ともに疲労する。それでも覚醒者が先陣を切っているだけかなり進行は早いが、マヘルの申し出はありがたい。
マヘルがコーヒーを淹れると、ハンターらは濡れた上着を絞ったりしながら乾いた地べたを探して腰を下ろす。
「篠原くんは何か考え事ですか?」
キヅカともなかが地図を照らし合わせる中、マヘルの問いに神薙は結晶の泉を見つめ。
「実は、もうすぐ地球に帰れるのかと思ったら、色々考えちゃって……」
「私もですけどね。帰るために覚醒者になったはずなのに、こちらの世界で出会ったものが大きすぎました、今は気軽に帰ることはできません」
「今は気軽に帰れない、か……。確かに、こっちの世界で出会った物はすごく大きいよね」
レホスは濡れた髪を束ね、膝を抱えるように座る。
「ボクもこの世界の人の役に立ちたいと思ってる。命を捨てる覚悟だってしたけど……でも、やっぱりダメなんだ。ボクはどうしても、もう一度家族に会いたい」
「それは何も不自然な願いではありませんよ」
Gacruxはたいまつで即席の焚き火を作りつつ。
「大転移以前に転移し、帰郷を悲願に何十年もこの世界を彷徨った異邦人もいる。星に残した家族と引き裂かれたまま、まだ還るな等、何故俺達が言える」
「Gacruxさん……ありがとう」
「あの、あの。皆様の故郷、地球ってどんなところですの~?」
「地球ですか? そうですね……」
チョココの問いに思案するマヘル。ラヴィアンは上着をチョココの肩にかけつつ、隣に腰を下ろす。
「碌な場所じゃないわ。あんなに人間同士が殺しあった世界はないだろうし」
「こ、怖いところなんですの……?」
「かもね。でも、あなたみたいな子がこんな危険な仕事をしなくてもいい世界……とは、言えないみたいね」
レホスを一瞥し溜息を零す。地球の戦況も切迫していた。兵員の最低年齢も引き下げられたし、戦場には彼女のような年若い兵もいた。
「不思議ですよね。僕も二年前までこんな事想像もしてなかった。でも、戦わないと守れないんです。自分も仲間も……約束も」
「子供とか大人とか、男だとか女だとか、そんな事は関係ないんだ。守りたいもののために戦う。皆が戦ってるのは、そういう理由だから」
キヅカとレホスの言葉にGacruxは視線を伏せる。
ヒトはそこまで高潔ではないと彼は知っていた。だが彼らのその潔さを否定するほど、無粋でもなかった。
「私は、元民間人が前線に立つ現状は異常に思えます。力の問題ではなく、軍人の矜持の問題です」
「そうね。私もあなた達の力は良くわかってる。でも、それを許してしまったら、自分が軍人でいられなくなる気がする」
「中尉……」
もなかの言葉に首を横に振り、眉間の皺を僅かに緩めラヴィアンは息を吐いた。
「そんなエゴの話をしに来たわけじゃないわね。少し休んだら、出発しましょう。ここはマテリアル流のおかげか、少し温かいわ」
その後も新たなルートを開拓したハンター達だが、行動時間が6時間ほどになった段階で帰り道を考慮し引き返す事とした。
帰り道でも数度の戦闘で覚醒を強いられた事を思えばその判断は妥当であり、地図に関しても少なくとも“進む”事に関しては十全な出来であった。
「ひっ」
「うおっ、いっぱいいる!?」
帰りに自分たちが置いた龍鉱石に無数のアースワームが群がる様にチョココとキヅカが青ざめたが、背後からの一斉攻撃で排除し、鉱石は無事手元に戻った。
半日ぶりの外の空気は、しかし日が暮れてすっかり冷えきっていた。
「流石に疲れましたね……温かいコーヒーが恋しいです」
「10時間以上の作戦ですから、無理もありませんね。ナッツでよければ私物がありますよ」
もぐもぐとナッツを齧るもなかはマヘルにもお裾分け。
そそくさと引き上げの指示をし、文句をぶつくさ言う部下を睨めつけるラヴィアンの横顔をチョココはじっと見つめる。
「わたくしは難しい事はあまりわかりませんけども、あの方は悪いお人ではないように思えますわ。ただ……ず~っと何かに怒っているみたいですけど」
「多分、自分自身に怒ってるんじゃないかな……」
神薙の言葉に首を傾げるチョココ。レホスは背後で手を組み。
「シノハラくんはすごいよね。色々見て、考えて。キミの活躍、友達から聞いてるよ」
「俺なんて別に……ただ必死なだけでさ」
「皆そうだって。結局僕達って子供だし、必死にやるしかないじゃん。でも、自分で願って、決めて、やってみて……初めてわかる事もあるよね」
キヅカの言葉に頷く二人。同年代、同じ世界で育った三人は、それぞれの想いを抱えて戦っている。
「ボク、この世界の人達のこと、尊敬してるんだ。地球に帰る為の戦いだけど、その過程を蔑ろにしたりしない。マヘルさんの言うように、この世界で出会った人との絆だって、本物だから」
少年少女が語らう姿にもなかは少し複雑な表情を浮かべたが、その肩をマヘルがそっと叩く。
「難しい事は確実に手段が確定してから決めましょう、それでもいいと思いますよ。さあ、私達も帰りましょう。ここは冷えますから」
マヘルの言葉に声を揃えて返事をし、三人は小走りで移動する。その姿を追うようにGacruxも歩き出す。
少年少女のまっすぐな想いは、彼には少し眩しかった。だが未来の選択は自由だ。
「Gacruxさん!」
急かすように手を振るレホスの姿に歩みを少し早めた。
凍える雪道をハンターらは龍園を目指し歩き出した。大きな不安と、少しの希望を胸に、彼らは前進を続ける。
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質問卓 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/04/29 14:44:18 |
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相談卓 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/05/02 21:31:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/28 06:43:55 |