ゲスト
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【春郷祭】プロレスに思いを込めて・前編
マスター:cr

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/09 07:30
- 完成日
- 2016/05/14 23:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催され、郷祭と呼ばれていた。
この春と秋の郷祭は、二年ほど前から近隣の住人のみならず同盟内の商人達も商機を当て込んで集まる、大規模な祭りとなっている。
今年も、その春郷祭の季節が廻って来た。
ジェオルジ各地の村長達の会議は今にも始まりそうで、そこではいつもはない議題が取り上げられる。
サルヴァト―レ・ロッソからジェオルジ各地に移り住んだ新住人達からの幾つかの要望と、彼らに新たな地での商業を試みる機会を与えるといった内容だ。
しかし。
それらとはまた別に、春郷祭はすでに様々な意味で賑やかに始まっていた。
●
「というわけなのですけど、お願いできますか?」
「ああ、もちろんだぜ!」
ある日のハンターオフィス。そこでは受付嬢のモア・プリマクラッセ(kz0066)とイバラキ(kz0159)が何やら会話をしていた。どうやらイバラキの元に指名で依頼が入り、それをモアが仲介役になって紹介していたようだ。
「ちゅーわけでモアさん、手伝い頼むな!」
「村長祭はそうでなくても我々ヴァリオスの商人は行くものです。その合間であれば大丈夫ですよ」
「助かったぜ! いやぁ、モアさんのリングアナウンスとレフェリングは結構受けてたんだぜ?」
イバラキに入った依頼、それは、村長祭でプロレスを披露して盛り上げて欲しいというものであった。前回の村長祭で披露した所評判を呼び、結果再度お呼びがかかることに成った。
「というわけで、まずはレスラー集めだな。モアさん、依頼出しといてくれよな!」
「へえ、いいじゃない。それじゃ私も参加ね」
そこでイバラキがモアに依頼を出そうとした時、横から別の人間が口を挟んだのであった。
●
「こちらの方は?」
「愛星 美織(まなせ みおり)さん、アタシにプロレスを教えてくれた人さ」
美織はリアルブルーからの転移者である。リアルブルーでは結構な人気のプロレスラーをしていたそうだ。鬼のイバラキに比べれば随分小柄。プロレスというものをよく知らないモアにとっては驚きであった。
モアは手元の資料を確認する。そこには美織のハンターとしての登録内容があった。クラスは疾影士。格闘士で無いのかとそれもまた驚きである。
「よろしくね。まあ私とイバラキだけじゃ興行は打てないし、もっとレスラー集めないとね」
というわけで、他のレスラーたちが集められることに成った。
しかしこの依頼に集まったレスラー達は、この後驚くべき展開になることをこの時はまだ知らなかったのである。
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催され、郷祭と呼ばれていた。
この春と秋の郷祭は、二年ほど前から近隣の住人のみならず同盟内の商人達も商機を当て込んで集まる、大規模な祭りとなっている。
今年も、その春郷祭の季節が廻って来た。
ジェオルジ各地の村長達の会議は今にも始まりそうで、そこではいつもはない議題が取り上げられる。
サルヴァト―レ・ロッソからジェオルジ各地に移り住んだ新住人達からの幾つかの要望と、彼らに新たな地での商業を試みる機会を与えるといった内容だ。
しかし。
それらとはまた別に、春郷祭はすでに様々な意味で賑やかに始まっていた。
●
「というわけなのですけど、お願いできますか?」
「ああ、もちろんだぜ!」
ある日のハンターオフィス。そこでは受付嬢のモア・プリマクラッセ(kz0066)とイバラキ(kz0159)が何やら会話をしていた。どうやらイバラキの元に指名で依頼が入り、それをモアが仲介役になって紹介していたようだ。
「ちゅーわけでモアさん、手伝い頼むな!」
「村長祭はそうでなくても我々ヴァリオスの商人は行くものです。その合間であれば大丈夫ですよ」
「助かったぜ! いやぁ、モアさんのリングアナウンスとレフェリングは結構受けてたんだぜ?」
イバラキに入った依頼、それは、村長祭でプロレスを披露して盛り上げて欲しいというものであった。前回の村長祭で披露した所評判を呼び、結果再度お呼びがかかることに成った。
「というわけで、まずはレスラー集めだな。モアさん、依頼出しといてくれよな!」
「へえ、いいじゃない。それじゃ私も参加ね」
そこでイバラキがモアに依頼を出そうとした時、横から別の人間が口を挟んだのであった。
●
「こちらの方は?」
「愛星 美織(まなせ みおり)さん、アタシにプロレスを教えてくれた人さ」
美織はリアルブルーからの転移者である。リアルブルーでは結構な人気のプロレスラーをしていたそうだ。鬼のイバラキに比べれば随分小柄。プロレスというものをよく知らないモアにとっては驚きであった。
モアは手元の資料を確認する。そこには美織のハンターとしての登録内容があった。クラスは疾影士。格闘士で無いのかとそれもまた驚きである。
「よろしくね。まあ私とイバラキだけじゃ興行は打てないし、もっとレスラー集めないとね」
というわけで、他のレスラーたちが集められることに成った。
しかしこの依頼に集まったレスラー達は、この後驚くべき展開になることをこの時はまだ知らなかったのである。
リプレイ本文
●
「今回もよろしく頼むぜ!」
「ええ、またお声がかかったのですからきっちりとメインイベントを務めあげましょう」
控室で、イバラキはノエル(ka0768)とそんな会話を交わしていた。目を向ければ央崎 枢(ka5153)が顔にペイントを施していた。見知った顔がいるとそれだけで心強い。
だが、全員が全員そういう人間ではない。新たにレスラーとなった者達も居る。
「プロレスってリアルブルーに居た時も見た事は無いんだけど……まぁなんとかなるなる」
天竜寺 舞(ka0377)はほんの少しだけ戸惑い、だが前向きに気持ちを切り替えた。しかし、試合に望むには少々知識が足りない。そこで美織による簡単なプロレス講座が始まった。
「ガチで戦わない試合…? 蒼の世界にゃ不思議なモンがあんだなあ」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)はその説明を一通り聞いて、そう興味深そうに漏らした。しかしそれを耳にした美織はすかさず否定する。
「違うわよ。いつでもお客さんとの真剣勝負なの」
見てくれる観客を喜ばせる。それがプロレスラーなのだと一番伝えたい事を伝える美織。
「踊りや何かでお客さんの前で興業するのは小さい頃からやってるしね。お客さんを楽しませられるよう頑張るよ」
それを聞いて、舞も合点がいったようだ。
「ま、暴れるのには変わりねぇだろ? 任せとけ!」
そしてボルディアもそう自信を漲らせる。ポイントを知れば、あとはそれに向けて準備だ。舞も顔にペイントを始めていた。
しかし、ここで一つ問題が起きた。獅臣 琉那(ka6082)もフェースペイントを施している。そして顔を合わせた二人は同じ形、歌舞伎をモチーフにしたものだったことに気づく。
「うーん、被りは良くないわね……」
美織は少々悩んだが、何か思いついたらしく舞に耳打ちをしていた。
●
舞は会場の裏で三味線を持って待機していた。次は彼女の試合ではない。試合に出るのは目の前に居る龍崎・カズマ(ka0178)、彼女はその入場曲を演奏するためここに居たのだ。
が、目の前に居る龍崎は龍崎ではなかった。そこにあるのはユグディラをデフォルメした着ぐるみ。
「それを着て入場するの?」
「あくまでこれはショーですってことを印象付けたいからな」
そう言い残して龍崎は入場口に立った。
「青コーナーよりU・K選手の入場です」
そんなコールとともにどこか気の抜けた音楽が鳴る。それに合わせ、U・Kはコミカルに踊りながら入場してきた。その姿に子どもたちは大喜びだ。
そのままリングに近づいたU・Kは高く跳び上がりリングイン。着地と同時に着ぐるみは脱ぎ捨てられ、リング上に立っていたのは精悍な戦士であった。そのギャップに観客席はまた一段と盛り上がる。
「赤コーナーよりモルドレッド選手の入場です」
続いてのコールと共に会場に流れる棘々しい音楽。入場口からモルドレッドを名乗る央崎が入ってきた。棍を掲げ、フードを目深に被って入場してくるその顔はうかがい知ることは出来ない。その恐ろしげな雰囲気に観客たちもざわめき息を呑む。そんな中でも、前回の大会を観戦してモルドレッドのことを知っている者からコールが飛んだ。それに対し彼はただ、静かに棍を向けるだけで応える。そんな動きがより彼の不気味さを演出するスパイスとなった。
そしてゆっくり静かにリングインしたモルドレッドは、フードに手をかけると一瞬でそれを取った。その下から現れたのは両目の周りを黒く塗り左頬に銀の十字架を描いた怪奇派レスラー・モルドレッドそのものだった。
「最初に言っておく! 降参ならいつでも受け付けるぜ?」
そしてゴングが鳴る前、マイクを取って叫んだU・Kの言葉にもモルドレッドは黙して答えない。それが会場の緊張感を一層張り詰める。その緊張感がピークに達した瞬間、ゴングが鳴った。
その音と共に両者は組み合う。すかさず背後を取り、腕を取って切り返す。腕を取られたら脚を取り返し、脚を取られたら一回転してエスケープ。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンと呼ばれる技術。流れるようなその動きはさながら肉体のチェス。
十分会場が温まれば二人はギアを上げる。まずモルドレッドが動く。強烈なドロップキックを突き刺すべく飛び上がる。だが、そこを潜り込み、腕を取って引きずり下ろしそのままロープへと投げる。
帰ってきたところにラリアットを放とうと待ち構えるU・K。だがモルドレッドは振られた勢いを使ってロープを駆け上がると、宙返りをしながら体を浴びせた。華麗な月面宙爆、コード:ネメシスと名付けた技が炸裂する。
さらにすかさず頭を脇に挟みこむと、そのまま走って顔面をマットに叩きつけようとする。しかしU・Kはそれをこらえるとそのままロープに振る。
今度はロープで帰ってきたモルドレッドだったが、やおら身を低くすると股下を滑り込んで足払いで切り返そうとした。そこを更に読んで体を掴みボディスラムで投げ返す。相手の裏を読み合う一進一退の攻防に客席が加速度的に盛り上がっていく。
U・Kはここですかさず畳み掛ける。足を固めるとそこに足を差し込んで倒れこみ、ダメージを与えたところでブリッジして顎をロックする。鎌固めという高度な関節技をこの世界の人々は見たことがない。
何とか逃れた所にとどめを刺すべくコーナーに登る。だがその時だった。ぐったりと倒れ鈍く動いていたモルドレッドは急に加速し、そのままポスト上のU・Kの肩に足を掛けると腕を取りながら旋回しつつ極めた。これがフィニッシュホールドのジャッジメントデイであった。
しかしU・Kはその上を行った。逆らわずに相手の力を利用して自分も旋回する。結果、ポスト上に座る形になったモルドレッドに背後から肩車されるように飛び乗り、そのまま膝で頭と喉を挟み込んでリング下へ落とす。必殺のドラゴンシュタイナー。その妙技に観客は驚きを隠せない。
カウントが進む。ワン、ツー。しかしスリーが入る直前、ぬっと立ち上がったモルドレッドは相手の頭を背後に抱えてコーナーを駆け上がり、そのまま宙返りして後頭部をマットに叩きつけた。もう一つのフィニッシャー、ジ・エンドを返すことなどU・Kには出来なかった。
●
続いての試合は女子選手によるタッグマッチ。先に入場していたイバラキ&美織組が待つリングに、コールを受けたボルディア&舞組が入場してくる。スモークが炊かれた中を堂々とした態度で入場してくるボルディア。しかし舞が入ってこない。観客がざわめき始めた時突如として響く拍子木の音。その音がだんだん早くなっていくと同時に、入場口から一人飛び出してきた。ワンピース水着に身を包み、顔には隈取、これこそがカブキガールその人である。
駆け込んできたカブキガールこと舞は最後の音に合わせてロープを飛び越え、見得を切る。そのミステリアスな雰囲気に観客も興味津々だ。
そんな舞と美織が先発で試合は始まる。まずは美織がエルボーを打ち込んでいく。それをクルクルと回りながら回避し、その回転のままローリングソバットを叩き込む舞、いやカブキガール。
技を決めて見得を切る傍らでは、キックが胸元に突き刺さりうずくまった相手。そこでロープに走る。スピードを載せてのドロップキック狙い。しかし美織は両足を水平になるまで広げながら飛び上がって回避し、戻ってきたところに逆にドロップキックを打ち込む。お返しの一撃を喰らい、吹っ飛ばされながらも一回転して立ち上がると再びの見得切り。そんな攻防に拍手が巻き起こった所で、両者共にタッチをする。
変わって出てきたボルディアはシンプルに考えていた。元より技はわからない。ならばパワーで攻める。腕を叩きつける、それだけで鳴る鈍く重い音は見ているこちらの骨にまで響きそうだ。
技を喰らい顔をしかめるイバラキだが、すぐにニヤリと笑いお返しのキックをブチ込む。こちらも芯まで届く重い音。その音を聞くだけで深いダメージが入ったことが伺える。しかし、ボルディアは効いていないとばかりにアピールする。
ならばと胸を突き出すイバラキ。そこに打撃を打ち込むボルディア。今度はボルディアが胸を突き出しイバラキが蹴りを入れる。鈍い音がひとしきり鳴った所で、二人の攻撃が交錯し両者が同時に倒れる。
ここで美織が手を伸ばしてタッチ。追い打ちをかけようとボルディアを引きずり起こすと両足を頭に引っ掛けて一回転しながら脇固めに取った。
「蚊トンボがブンブン飛んでンなあ! カユイじゃねぇかこの野郎!」
しかしボルディアは技を掛けられながら美織の体を抱え上げてしまった。そのまま荒々しく叩き付ける。
大ダメージを受けてフラフラと立ち上がる美織。そこにボルディアが走りこんできた。すれ違いざま右腕を振りぬく。最もシンプルなプロレス技、ラリアットだが、彼女の筋肉質の肉体から繰り出されることが何よりの説得力を持たせていた。一回転して頭から落ちる美織。
たまらずイバラキが飛び込み自コーナーまで引きずってタッチ。その間にボルディアもタッチ。
出てくるなりイバラキはランニングミドルを放つ。それを回避し、見栄を切ってからのローリングソバット、そして三角飛びの要領でロープに飛び乗りそのままクロスボディ。
だがイバラキもパワーには自信がある。そんな舞の体を正面から受け止め、そのまま後ろに反り投げようとした時だった。
突然彼女の顔が緑色に染まった。目を押さえのたうち回る。そして舞の口元からも緑色の液が一筋流れる。これが美織が教えた秘技、毒霧殺法だった。
観客があっと驚き言葉も出ない中、再び走ってロープに飛び乗った舞は今度は宙返りをしながら体当たりを浴びせる。鋭い回転が出す威力がイバラキの巨体をマットに押し倒していた。
ラ・ブファドーラと呼ばれる立体攻撃の前に、イバラキは為すすべなくカウントスリーの声を聞いた。その時、やっと状況を理解した観客達はここまで忘れていた分を取り戻すかのように、大きな歓声で答えるのであった。
●
「ささ、宴を盛り上げましょう」
狐火と名乗るレスラーの入場が告げられ、雅な音楽がかかる。それと共に現れたのは黄金色の単衣を羽織った女性。顔は狐面に覆われ伺い知ることは出来ない。
観客達がざわめく中、リングに上った彼女は両手を上げる。すると桜の花弁が舞い散る。それを浴びながら面を取ると、そこには顔に白塗りを施し赤と黒の模様を描いた琉那、いや、レスラー狐火の姿があった。
観客が驚異と歓喜の声を上げる中、続けての入場曲がかかる。それと同時に、前回の大会も観戦したものからコールが始まった。
「ノエル! ノエル!」
その声を背に、蒼いセパレート型のリングコスチュームに身を包んだノエル・ザ・スネグーラチカが花道をゆっくりと進む。その堂々とした姿は王者の風格を漂わせている。
リングインした二人は静かに向かい合う。そしてそれはゴングが鳴った後でも変わらなかった。
互いの隙を伺いつつ、じっとリング上で向き合う二人。ほんの少しの間ながら、悠久の時を感じさせる空間を終えて二人は組み合う。
二人の手が触れ合った瞬間、狐火は一瞬で体を低くして潜り込む。それを上から抱え込む様にして受け止めるノエルだったが、狐火はそのまま足をすくって倒し上に乗って体重をかけながら締め上げようとしていく。
狐火は柔術のバックボーンを持つのか、鋭く高度な動きでノエルをコントロール。それをあくまでレスリングの技術で受け止めるノエル。
やがて膠着状態になったのか、ロープ際で絡まったところで二人は離れる。そのときだった。パシンッ! と鋭い音が鳴った。
ノエルの顔が弾かれている。空手仕込みの掌底という打撃。その威力は、ノエルの鼻から一筋流れた血が物語っていた。
そこに何発も掌底を放つ。打たれ続けるノエル。だが、1ダース受けた所でやおらエルボーを放つ。それも下から上へかち上げる形のエルボーだ。
ここから二人は掌底とエルボーのラリーを始める。殴り合いというには洗練された戦い。鋭い音と重い音が交互になる中、ここでノエルが飛び込んだ。前から体を抱え込み、持ち上げて背中から落とす。
マットに叩きつけた所で一瞬で足を絡ませると極めあげる。4の字固め、足を殺す苦痛にさしもの狐火も表情が歪む。
上からチョップを連打して逃れる狐火。技が解けたところを狙っていた。
首の後ろに腕を回してロックし、両足で頸動脈を締め上げる。狐火が鬼蜘蛛と名付けたサブミッションだった。
もがけばもがくほど締まっていく。急速にスタミナが減っていく。ズルズルと這いずってなんとかロープに逃れたがダメージは深い。
さらに体を起こしたノエルの首に腕を掛けつつマットに飛び込み、ダメージを与えた所でチキンウィングに固めていく。二手目、三手目と繋がる関節技地獄に沈めていった。
「宴も酣。幕引きへのお時間どす……お休みなはれ?」
あとは止めだ。その場でゆっくり周り立ち上がるのを待つ。そして立ち上がった瞬間顎先目掛けて真っ直ぐ足を伸ばす。必殺のトラースキック。これで終わるはずだった。
だが、ノエルはその瞬間潜りこみ、バランスを崩した狐火の体を抱えた。
両腕が背後に回され、腕にかけられていることを狐火が気づいた時には、彼女の体は大きく弧を描き橋をかけていた。
人間風車、ダブルアームスープレックスが決まり両肩がマットに付く。
「ワン! ツー! ……スリー!」
ガッチリと抑えこまれた狐火に跳ね返すことは出来なかった。耐えて耐えての大逆転。王道の勝利がそこにあった。
●
メインイベントの決着を知らせるゴングが鳴る。観客が今日一番の歓声を上げる。だがそれに水を刺すように、突如としてリング上に7体の人影が雪崩れ込んできた。顔は全員同じ形の覆面をしており、中身を窺い知ることはできない。
ボルディアはプロレスをしに来た仲間かと思い肩を叩こうとした。
だが、それを美織が制する。どうも想定外の人物らしい。リングに上がろうとするのを止めるべく美織はエプロンに上がる。
しかし覆面達はそんな彼女を持ち上げると、急角度でリング下に叩きつけた。
雑用をしていた舞が飛び込んでくる。叩きつけられた美織の膝はあらぬ方向に曲がっている。
「え? 何こいつら。ライバル団体のカチコミなの?」
舞は臨戦態勢に入る。
「違う……こいつら……」
美織は苦痛で脂汗を流しながら舞を止める。だが舞の心は決まった。そしてリング上ではその気持ちをノエルが代弁していた。
「一番すごいのはプロレスですわ」
マイクを取ったノエルのその声に観客達は最高の乱入劇だと理解した。ならば招かれざる客を叩き潰すまで。
「面白い、やってやるよ!」
「さあ、リングに美しい華を咲かせましょう」
「今回もよろしく頼むぜ!」
「ええ、またお声がかかったのですからきっちりとメインイベントを務めあげましょう」
控室で、イバラキはノエル(ka0768)とそんな会話を交わしていた。目を向ければ央崎 枢(ka5153)が顔にペイントを施していた。見知った顔がいるとそれだけで心強い。
だが、全員が全員そういう人間ではない。新たにレスラーとなった者達も居る。
「プロレスってリアルブルーに居た時も見た事は無いんだけど……まぁなんとかなるなる」
天竜寺 舞(ka0377)はほんの少しだけ戸惑い、だが前向きに気持ちを切り替えた。しかし、試合に望むには少々知識が足りない。そこで美織による簡単なプロレス講座が始まった。
「ガチで戦わない試合…? 蒼の世界にゃ不思議なモンがあんだなあ」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)はその説明を一通り聞いて、そう興味深そうに漏らした。しかしそれを耳にした美織はすかさず否定する。
「違うわよ。いつでもお客さんとの真剣勝負なの」
見てくれる観客を喜ばせる。それがプロレスラーなのだと一番伝えたい事を伝える美織。
「踊りや何かでお客さんの前で興業するのは小さい頃からやってるしね。お客さんを楽しませられるよう頑張るよ」
それを聞いて、舞も合点がいったようだ。
「ま、暴れるのには変わりねぇだろ? 任せとけ!」
そしてボルディアもそう自信を漲らせる。ポイントを知れば、あとはそれに向けて準備だ。舞も顔にペイントを始めていた。
しかし、ここで一つ問題が起きた。獅臣 琉那(ka6082)もフェースペイントを施している。そして顔を合わせた二人は同じ形、歌舞伎をモチーフにしたものだったことに気づく。
「うーん、被りは良くないわね……」
美織は少々悩んだが、何か思いついたらしく舞に耳打ちをしていた。
●
舞は会場の裏で三味線を持って待機していた。次は彼女の試合ではない。試合に出るのは目の前に居る龍崎・カズマ(ka0178)、彼女はその入場曲を演奏するためここに居たのだ。
が、目の前に居る龍崎は龍崎ではなかった。そこにあるのはユグディラをデフォルメした着ぐるみ。
「それを着て入場するの?」
「あくまでこれはショーですってことを印象付けたいからな」
そう言い残して龍崎は入場口に立った。
「青コーナーよりU・K選手の入場です」
そんなコールとともにどこか気の抜けた音楽が鳴る。それに合わせ、U・Kはコミカルに踊りながら入場してきた。その姿に子どもたちは大喜びだ。
そのままリングに近づいたU・Kは高く跳び上がりリングイン。着地と同時に着ぐるみは脱ぎ捨てられ、リング上に立っていたのは精悍な戦士であった。そのギャップに観客席はまた一段と盛り上がる。
「赤コーナーよりモルドレッド選手の入場です」
続いてのコールと共に会場に流れる棘々しい音楽。入場口からモルドレッドを名乗る央崎が入ってきた。棍を掲げ、フードを目深に被って入場してくるその顔はうかがい知ることは出来ない。その恐ろしげな雰囲気に観客たちもざわめき息を呑む。そんな中でも、前回の大会を観戦してモルドレッドのことを知っている者からコールが飛んだ。それに対し彼はただ、静かに棍を向けるだけで応える。そんな動きがより彼の不気味さを演出するスパイスとなった。
そしてゆっくり静かにリングインしたモルドレッドは、フードに手をかけると一瞬でそれを取った。その下から現れたのは両目の周りを黒く塗り左頬に銀の十字架を描いた怪奇派レスラー・モルドレッドそのものだった。
「最初に言っておく! 降参ならいつでも受け付けるぜ?」
そしてゴングが鳴る前、マイクを取って叫んだU・Kの言葉にもモルドレッドは黙して答えない。それが会場の緊張感を一層張り詰める。その緊張感がピークに達した瞬間、ゴングが鳴った。
その音と共に両者は組み合う。すかさず背後を取り、腕を取って切り返す。腕を取られたら脚を取り返し、脚を取られたら一回転してエスケープ。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンと呼ばれる技術。流れるようなその動きはさながら肉体のチェス。
十分会場が温まれば二人はギアを上げる。まずモルドレッドが動く。強烈なドロップキックを突き刺すべく飛び上がる。だが、そこを潜り込み、腕を取って引きずり下ろしそのままロープへと投げる。
帰ってきたところにラリアットを放とうと待ち構えるU・K。だがモルドレッドは振られた勢いを使ってロープを駆け上がると、宙返りをしながら体を浴びせた。華麗な月面宙爆、コード:ネメシスと名付けた技が炸裂する。
さらにすかさず頭を脇に挟みこむと、そのまま走って顔面をマットに叩きつけようとする。しかしU・Kはそれをこらえるとそのままロープに振る。
今度はロープで帰ってきたモルドレッドだったが、やおら身を低くすると股下を滑り込んで足払いで切り返そうとした。そこを更に読んで体を掴みボディスラムで投げ返す。相手の裏を読み合う一進一退の攻防に客席が加速度的に盛り上がっていく。
U・Kはここですかさず畳み掛ける。足を固めるとそこに足を差し込んで倒れこみ、ダメージを与えたところでブリッジして顎をロックする。鎌固めという高度な関節技をこの世界の人々は見たことがない。
何とか逃れた所にとどめを刺すべくコーナーに登る。だがその時だった。ぐったりと倒れ鈍く動いていたモルドレッドは急に加速し、そのままポスト上のU・Kの肩に足を掛けると腕を取りながら旋回しつつ極めた。これがフィニッシュホールドのジャッジメントデイであった。
しかしU・Kはその上を行った。逆らわずに相手の力を利用して自分も旋回する。結果、ポスト上に座る形になったモルドレッドに背後から肩車されるように飛び乗り、そのまま膝で頭と喉を挟み込んでリング下へ落とす。必殺のドラゴンシュタイナー。その妙技に観客は驚きを隠せない。
カウントが進む。ワン、ツー。しかしスリーが入る直前、ぬっと立ち上がったモルドレッドは相手の頭を背後に抱えてコーナーを駆け上がり、そのまま宙返りして後頭部をマットに叩きつけた。もう一つのフィニッシャー、ジ・エンドを返すことなどU・Kには出来なかった。
●
続いての試合は女子選手によるタッグマッチ。先に入場していたイバラキ&美織組が待つリングに、コールを受けたボルディア&舞組が入場してくる。スモークが炊かれた中を堂々とした態度で入場してくるボルディア。しかし舞が入ってこない。観客がざわめき始めた時突如として響く拍子木の音。その音がだんだん早くなっていくと同時に、入場口から一人飛び出してきた。ワンピース水着に身を包み、顔には隈取、これこそがカブキガールその人である。
駆け込んできたカブキガールこと舞は最後の音に合わせてロープを飛び越え、見得を切る。そのミステリアスな雰囲気に観客も興味津々だ。
そんな舞と美織が先発で試合は始まる。まずは美織がエルボーを打ち込んでいく。それをクルクルと回りながら回避し、その回転のままローリングソバットを叩き込む舞、いやカブキガール。
技を決めて見得を切る傍らでは、キックが胸元に突き刺さりうずくまった相手。そこでロープに走る。スピードを載せてのドロップキック狙い。しかし美織は両足を水平になるまで広げながら飛び上がって回避し、戻ってきたところに逆にドロップキックを打ち込む。お返しの一撃を喰らい、吹っ飛ばされながらも一回転して立ち上がると再びの見得切り。そんな攻防に拍手が巻き起こった所で、両者共にタッチをする。
変わって出てきたボルディアはシンプルに考えていた。元より技はわからない。ならばパワーで攻める。腕を叩きつける、それだけで鳴る鈍く重い音は見ているこちらの骨にまで響きそうだ。
技を喰らい顔をしかめるイバラキだが、すぐにニヤリと笑いお返しのキックをブチ込む。こちらも芯まで届く重い音。その音を聞くだけで深いダメージが入ったことが伺える。しかし、ボルディアは効いていないとばかりにアピールする。
ならばと胸を突き出すイバラキ。そこに打撃を打ち込むボルディア。今度はボルディアが胸を突き出しイバラキが蹴りを入れる。鈍い音がひとしきり鳴った所で、二人の攻撃が交錯し両者が同時に倒れる。
ここで美織が手を伸ばしてタッチ。追い打ちをかけようとボルディアを引きずり起こすと両足を頭に引っ掛けて一回転しながら脇固めに取った。
「蚊トンボがブンブン飛んでンなあ! カユイじゃねぇかこの野郎!」
しかしボルディアは技を掛けられながら美織の体を抱え上げてしまった。そのまま荒々しく叩き付ける。
大ダメージを受けてフラフラと立ち上がる美織。そこにボルディアが走りこんできた。すれ違いざま右腕を振りぬく。最もシンプルなプロレス技、ラリアットだが、彼女の筋肉質の肉体から繰り出されることが何よりの説得力を持たせていた。一回転して頭から落ちる美織。
たまらずイバラキが飛び込み自コーナーまで引きずってタッチ。その間にボルディアもタッチ。
出てくるなりイバラキはランニングミドルを放つ。それを回避し、見栄を切ってからのローリングソバット、そして三角飛びの要領でロープに飛び乗りそのままクロスボディ。
だがイバラキもパワーには自信がある。そんな舞の体を正面から受け止め、そのまま後ろに反り投げようとした時だった。
突然彼女の顔が緑色に染まった。目を押さえのたうち回る。そして舞の口元からも緑色の液が一筋流れる。これが美織が教えた秘技、毒霧殺法だった。
観客があっと驚き言葉も出ない中、再び走ってロープに飛び乗った舞は今度は宙返りをしながら体当たりを浴びせる。鋭い回転が出す威力がイバラキの巨体をマットに押し倒していた。
ラ・ブファドーラと呼ばれる立体攻撃の前に、イバラキは為すすべなくカウントスリーの声を聞いた。その時、やっと状況を理解した観客達はここまで忘れていた分を取り戻すかのように、大きな歓声で答えるのであった。
●
「ささ、宴を盛り上げましょう」
狐火と名乗るレスラーの入場が告げられ、雅な音楽がかかる。それと共に現れたのは黄金色の単衣を羽織った女性。顔は狐面に覆われ伺い知ることは出来ない。
観客達がざわめく中、リングに上った彼女は両手を上げる。すると桜の花弁が舞い散る。それを浴びながら面を取ると、そこには顔に白塗りを施し赤と黒の模様を描いた琉那、いや、レスラー狐火の姿があった。
観客が驚異と歓喜の声を上げる中、続けての入場曲がかかる。それと同時に、前回の大会も観戦したものからコールが始まった。
「ノエル! ノエル!」
その声を背に、蒼いセパレート型のリングコスチュームに身を包んだノエル・ザ・スネグーラチカが花道をゆっくりと進む。その堂々とした姿は王者の風格を漂わせている。
リングインした二人は静かに向かい合う。そしてそれはゴングが鳴った後でも変わらなかった。
互いの隙を伺いつつ、じっとリング上で向き合う二人。ほんの少しの間ながら、悠久の時を感じさせる空間を終えて二人は組み合う。
二人の手が触れ合った瞬間、狐火は一瞬で体を低くして潜り込む。それを上から抱え込む様にして受け止めるノエルだったが、狐火はそのまま足をすくって倒し上に乗って体重をかけながら締め上げようとしていく。
狐火は柔術のバックボーンを持つのか、鋭く高度な動きでノエルをコントロール。それをあくまでレスリングの技術で受け止めるノエル。
やがて膠着状態になったのか、ロープ際で絡まったところで二人は離れる。そのときだった。パシンッ! と鋭い音が鳴った。
ノエルの顔が弾かれている。空手仕込みの掌底という打撃。その威力は、ノエルの鼻から一筋流れた血が物語っていた。
そこに何発も掌底を放つ。打たれ続けるノエル。だが、1ダース受けた所でやおらエルボーを放つ。それも下から上へかち上げる形のエルボーだ。
ここから二人は掌底とエルボーのラリーを始める。殴り合いというには洗練された戦い。鋭い音と重い音が交互になる中、ここでノエルが飛び込んだ。前から体を抱え込み、持ち上げて背中から落とす。
マットに叩きつけた所で一瞬で足を絡ませると極めあげる。4の字固め、足を殺す苦痛にさしもの狐火も表情が歪む。
上からチョップを連打して逃れる狐火。技が解けたところを狙っていた。
首の後ろに腕を回してロックし、両足で頸動脈を締め上げる。狐火が鬼蜘蛛と名付けたサブミッションだった。
もがけばもがくほど締まっていく。急速にスタミナが減っていく。ズルズルと這いずってなんとかロープに逃れたがダメージは深い。
さらに体を起こしたノエルの首に腕を掛けつつマットに飛び込み、ダメージを与えた所でチキンウィングに固めていく。二手目、三手目と繋がる関節技地獄に沈めていった。
「宴も酣。幕引きへのお時間どす……お休みなはれ?」
あとは止めだ。その場でゆっくり周り立ち上がるのを待つ。そして立ち上がった瞬間顎先目掛けて真っ直ぐ足を伸ばす。必殺のトラースキック。これで終わるはずだった。
だが、ノエルはその瞬間潜りこみ、バランスを崩した狐火の体を抱えた。
両腕が背後に回され、腕にかけられていることを狐火が気づいた時には、彼女の体は大きく弧を描き橋をかけていた。
人間風車、ダブルアームスープレックスが決まり両肩がマットに付く。
「ワン! ツー! ……スリー!」
ガッチリと抑えこまれた狐火に跳ね返すことは出来なかった。耐えて耐えての大逆転。王道の勝利がそこにあった。
●
メインイベントの決着を知らせるゴングが鳴る。観客が今日一番の歓声を上げる。だがそれに水を刺すように、突如としてリング上に7体の人影が雪崩れ込んできた。顔は全員同じ形の覆面をしており、中身を窺い知ることはできない。
ボルディアはプロレスをしに来た仲間かと思い肩を叩こうとした。
だが、それを美織が制する。どうも想定外の人物らしい。リングに上がろうとするのを止めるべく美織はエプロンに上がる。
しかし覆面達はそんな彼女を持ち上げると、急角度でリング下に叩きつけた。
雑用をしていた舞が飛び込んでくる。叩きつけられた美織の膝はあらぬ方向に曲がっている。
「え? 何こいつら。ライバル団体のカチコミなの?」
舞は臨戦態勢に入る。
「違う……こいつら……」
美織は苦痛で脂汗を流しながら舞を止める。だが舞の心は決まった。そしてリング上ではその気持ちをノエルが代弁していた。
「一番すごいのはプロレスですわ」
マイクを取ったノエルのその声に観客達は最高の乱入劇だと理解した。ならば招かれざる客を叩き潰すまで。
「面白い、やってやるよ!」
「さあ、リングに美しい華を咲かせましょう」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/05 12:36:46 |
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盛り上げる為の下準備【相談】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/05/09 02:16:59 |