ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】春色パスタBENTO
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2016/05/10 22:00
- 完成日
- 2016/05/20 02:23
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
村長祭の実行委員から手紙を貰って、馳せ参じたのは小さな村の村娘達。
そんな彼女達が呼ばれた理由というのは、至って簡単な理由に他ならない。
それは――弁当を作って欲しい。それ一点である。
初めは驚いたが、話を聞くにつれて…その弁当の重要性が明確になってくる。
「去年は各自で用意したり食べに行ったりしていたんだが、そうなるといざという時に誰がどこにいるかわからなくなったりして大変だったんだ。店を出している側も調理にてんてこ舞いで自分らの食事もままならない始末…そこでだ。今年は配給する事に決めたという訳だ」
実行委員の一人が彼女達に説明する。
「ですが、予算とかそう言うのは…」
「もちろんこちらで出すさ。幸い、去年の祭りが好評だった事もあって十分な予算が確保できている。それにだ。この弁当に各地の農産物を作って貰えればPRにもなるというもの。春はピクニックの季節でもあるし、欲しい者には販売する流れも出来ている」
別の一人がこの企画の成功を確信し、自信に満ちた表情でこちらを見てくる。
「えと…でも、私達だけじゃ皆の分は…」
「大丈夫。作ると言っても当日の話じゃない。君達には仕出し弁当のアイデアを固めて欲しいんだ。全てが決まったら、後はお店に発注して君達のレシピ通りに作って貰うから」
不安げな顔をしていた村娘達の前に何処からともなく歩み出てきたのは一人の青年。
優しい笑顔のイケメンで…思わず目を奪われる。
「そうそう、それにね…君達に決めたのには理由があるんだ。確か去年のピザ屋さん、凄く盛況だっただろう。だからこそ君達ならとびきり美味しいものを作ってくれると思ってさ。どうかな、僕に捧げるお弁当…作ってくれないかい?」
やや芝居がかった物言いではあるが、容姿に助けられて村娘達のハートに色んな意味で火が灯る。
『判りました。私達にやらせて下さいっ!』
その言葉に部屋にいた実行委員達から拍手が起こる。
「有難う。もう頼める者がいなくてね~、とりあえず詳細はここに書いてあるからよろしく頼むよ」
後から来た青年がそう言って村娘達に書類を渡して、彼は他の実行委員達と共にはけてゆく。
「ええ~と…詳細って何かしら?」
その動きの早さに少し呆気に取られながら、村娘の一人が冊子を捲る。
するとそこには、実行委員達の要望が書き連ねられていて…。
「えーと、何なに…コンセプトはずばり春色でパスタ。野菜をふんだんに使った健康志向。但し、食中毒駄目絶対。デザートもあると嬉しい。肉、魚もバランスよく。後、冷めても美味して工夫を……って何よこれ。自由じゃないのね…」
てっきり簡単な軽食程度のものを想像していた彼女達であったが、ここに書かれている内容を形にするならば結構な工夫が必要となるだろう。しかも最後に小さく、ゆくゆくは農作業時にも持って行けるようなものにもなれば…などという希望まで添えられている。
「うぅ~…何となく騙された気がするぅ…」
セミロングの一人がぽつりと呟く。
「確かに。去年の実行委員にあんなイケメンな人いなかったし…」
全員を知っている訳ではないが、それでもカッコいい人がいれば目に留まっていた筈だ。
とするとさっきのイケメンは今年から入ったか、あるいは邪推するならばこの為に呼んできたか…。
まあ、どちらであってももう引き受けた以上はやるしかない。
「いーい、二人とも。あの人が本当の実行委員であれ雇われであれ関係ないわ! だって、去年の事で指名されたのは事実なのよ。私達の料理が認められて任されたの。だったら、それに応えるしかないじゃない!!」
リーダー的ポジションにある彼女が拳を作りやる気を見せる。
「そうね、そうよねっ。私達がやらなきゃ」
一つに髪を纏めた娘もその言葉に同意する。
「うん。頑張って作って気に入って貰えたら、もしかしたらいい人に巡り合えるかもっ」
セミロングの娘にはちょっとした下心があるようだが…それはそれだ。
彼女達は村に戻ると早速レシピ考案に取り掛かる。だが、
「えー、冷めても硬くならないようにとか難しいんですけどぉ~」
「生野菜は基本的に入れにくいよねぇ。でも、健康志向ってどうすればいいのよぉ」
「そもそも春色って適当過ぎるわよね…」
前途多難――作っては食べ、作っては食べを繰り返すうちに徐々に増えてゆくのは体重ばかり…。
それぞれがそれぞれの顔の丸みを見取って危機感を覚える。
『やばい…このままだとレシピが出来ても私達が終わってしまう…』
そう悟って、彼女達はまたハンターオフィスに駆け込むのだった。
そんな彼女達が呼ばれた理由というのは、至って簡単な理由に他ならない。
それは――弁当を作って欲しい。それ一点である。
初めは驚いたが、話を聞くにつれて…その弁当の重要性が明確になってくる。
「去年は各自で用意したり食べに行ったりしていたんだが、そうなるといざという時に誰がどこにいるかわからなくなったりして大変だったんだ。店を出している側も調理にてんてこ舞いで自分らの食事もままならない始末…そこでだ。今年は配給する事に決めたという訳だ」
実行委員の一人が彼女達に説明する。
「ですが、予算とかそう言うのは…」
「もちろんこちらで出すさ。幸い、去年の祭りが好評だった事もあって十分な予算が確保できている。それにだ。この弁当に各地の農産物を作って貰えればPRにもなるというもの。春はピクニックの季節でもあるし、欲しい者には販売する流れも出来ている」
別の一人がこの企画の成功を確信し、自信に満ちた表情でこちらを見てくる。
「えと…でも、私達だけじゃ皆の分は…」
「大丈夫。作ると言っても当日の話じゃない。君達には仕出し弁当のアイデアを固めて欲しいんだ。全てが決まったら、後はお店に発注して君達のレシピ通りに作って貰うから」
不安げな顔をしていた村娘達の前に何処からともなく歩み出てきたのは一人の青年。
優しい笑顔のイケメンで…思わず目を奪われる。
「そうそう、それにね…君達に決めたのには理由があるんだ。確か去年のピザ屋さん、凄く盛況だっただろう。だからこそ君達ならとびきり美味しいものを作ってくれると思ってさ。どうかな、僕に捧げるお弁当…作ってくれないかい?」
やや芝居がかった物言いではあるが、容姿に助けられて村娘達のハートに色んな意味で火が灯る。
『判りました。私達にやらせて下さいっ!』
その言葉に部屋にいた実行委員達から拍手が起こる。
「有難う。もう頼める者がいなくてね~、とりあえず詳細はここに書いてあるからよろしく頼むよ」
後から来た青年がそう言って村娘達に書類を渡して、彼は他の実行委員達と共にはけてゆく。
「ええ~と…詳細って何かしら?」
その動きの早さに少し呆気に取られながら、村娘の一人が冊子を捲る。
するとそこには、実行委員達の要望が書き連ねられていて…。
「えーと、何なに…コンセプトはずばり春色でパスタ。野菜をふんだんに使った健康志向。但し、食中毒駄目絶対。デザートもあると嬉しい。肉、魚もバランスよく。後、冷めても美味して工夫を……って何よこれ。自由じゃないのね…」
てっきり簡単な軽食程度のものを想像していた彼女達であったが、ここに書かれている内容を形にするならば結構な工夫が必要となるだろう。しかも最後に小さく、ゆくゆくは農作業時にも持って行けるようなものにもなれば…などという希望まで添えられている。
「うぅ~…何となく騙された気がするぅ…」
セミロングの一人がぽつりと呟く。
「確かに。去年の実行委員にあんなイケメンな人いなかったし…」
全員を知っている訳ではないが、それでもカッコいい人がいれば目に留まっていた筈だ。
とするとさっきのイケメンは今年から入ったか、あるいは邪推するならばこの為に呼んできたか…。
まあ、どちらであってももう引き受けた以上はやるしかない。
「いーい、二人とも。あの人が本当の実行委員であれ雇われであれ関係ないわ! だって、去年の事で指名されたのは事実なのよ。私達の料理が認められて任されたの。だったら、それに応えるしかないじゃない!!」
リーダー的ポジションにある彼女が拳を作りやる気を見せる。
「そうね、そうよねっ。私達がやらなきゃ」
一つに髪を纏めた娘もその言葉に同意する。
「うん。頑張って作って気に入って貰えたら、もしかしたらいい人に巡り合えるかもっ」
セミロングの娘にはちょっとした下心があるようだが…それはそれだ。
彼女達は村に戻ると早速レシピ考案に取り掛かる。だが、
「えー、冷めても硬くならないようにとか難しいんですけどぉ~」
「生野菜は基本的に入れにくいよねぇ。でも、健康志向ってどうすればいいのよぉ」
「そもそも春色って適当過ぎるわよね…」
前途多難――作っては食べ、作っては食べを繰り返すうちに徐々に増えてゆくのは体重ばかり…。
それぞれがそれぞれの顔の丸みを見取って危機感を覚える。
『やばい…このままだとレシピが出来ても私達が終わってしまう…』
そう悟って、彼女達はまたハンターオフィスに駆け込むのだった。
リプレイ本文
●試作品
『おいでませっ、ハンターの皆さんっ!!』
机に並べられた料理の数々に助っ人ハンター達は目を丸くする。てっきりメニュー作りに四苦八苦していると思っていたのだが、村娘達は思いの外元気に多くの試作料理と共に出迎えてくれる。
「ほほぅ、これはなかなかの歓迎だな」
そこでまず動いたのはニヒルな笑顔のナイスミドル、エリオ・アルファーノ(ka4129)だった。
彼は以前飲み屋を営んでいた手前、料理には興味がある。
どれ一つと、近くにあった青菜のベーコン炒めを口に運ぶ。
「あっ、ちょっ…それは…」
失敗作と言いかけて、村娘達は彼から飛び出た言葉に目を丸くする。
「……うむ、美味い。こんなに美味いのに何がダメだというんだ?」
そこで隣りにいた鞍馬 真(ka5819)も試しに一口口にして、彼は確信した。
この男は残念な味覚感覚の持ち主だと――。
(これが美味いと言えるとは…)
静かにフォークを置いて、真は必死に口の中のものを飲み込む。
青菜のベーコン炒め…それはとてつもなく甘かった。というのも、村娘の一人がうっかり塩と砂糖を間違えてしまったのだ。グラッセ風味になった青菜と塩味の強いベーコンの相性は残念ながら最悪である。
「どうした? 食べないのなら、俺が頂くぞ?」
平然と言うエリオに真は無言で皿を差し出す。
「あっ、ボクも食べてみていいかな?」
そんな料理に興味を持って、残月(ka6290)もその料理に手を伸ばす。そして、
「うげぇ~~、これ超甘い…」
彼女の舌は実に正直だった。慌てて持参してきていた水をがぶ飲みし、口内にあるそれを流し込む。
「うーむ……どうやらこの料理…君達には相当甘いらしいな。確かに飯としてはどうかと思うが、オヤツとしては丁度いいだろう? お茶請けにとか…」
「却下だ」
真がズバリ言い切る。その言葉に「そうか」と小さく答えて、彼は黙々とそれを食べ始める。
(この人凄い…きっと長年修行して舌を鍛えた強者なんだ…)
だが、残月はエリオのその雄姿に感化されて、
「お願いします。弟子入りさせて下さい!」
まさかの弟子入り志願。普段はクールな彼女であるが、修業となれば話は別だ。何に置いても強くなりたい。その為には教えを乞う事もいとわない。
「おや…俺は別に構わないが、ただの片付け係だ。共に食べるだけになるが?」
「宜しくお願いします」
残月が嬉しそうに言う。
(よーし、この人について食べればきっとボクだって…)
超人の舌が手に入る。意気込む彼女であるが、味覚など変わる筈もなく…この後待っているのは、味を別にした胃袋耐久の過酷な試練だけだったりするのだが、彼女はまだ知らない。そして、もう一人。片付け係には変わったお人・ドゥアル(ka3746)がいて…。
「あのー、起きてますかぁ~?」
身体を覆い隠す程のロングの金髪。前髪で視界不良と思われるが、彼女は器用に手と口を動かす。
「あい…起きて…ま…すぅー…あの、食料が…頂けると聞きましたので…たくさんいただきまぐぅー」
所々に雑じる寝息であるが、彼女はちゃんと生きている。
「うーん、この方こういう体質だってここに書いてありますぅ」
依頼を受けてくれたハンター達のデータを捲りながら、もう一人の村娘が驚く。
「はあ…なんか面白い方ですねぇ」
それを知り、村娘は彼女をそっとしておく事にした。料理を食べて貰えるならば、問題はないだろう。
「あの、試食さんと、混じらないように……こちらで、食べても―…?」
いくつかの皿を手にしてドゥアルが尋ねる。
「あ、はい。どうぞー…」
そんな彼女を見て、やはり不思議だと思う村娘達。
「さて、もしこの時点で自信作があるなら味見をしようか?」
さっきの激甘炒めの衝撃から立ち直った真が村娘達に尋ねる。
「風も試食できます。その為に来たんですから」
大きな目玉のついた三角帽子の少女・最上 風(ka0891)も手を上げ主張する。
「えと、そうですね~だったら、これからお願いします」
そう言って差し出されたのは小さめのお弁当箱だった。既に彼女達のアイデアが詰まってできた一箱らしい。
いただきますを済ませて、蓋を開けまず目に入ったのは筒状のパスタとよくあるポテトサラダだ。
そこに二種類のソーセージが並んでいて、別包みでタルトが添えられている。
「えと、これは…」
「リガトーニというパスタで筒のところにお野菜のペーストを入れ込みました。これだったら水分が出ないので。ポテトサラダには松の実とかフルーツも使ってます。ソーセージは豚のと魚のと…タルトにはブラックチェリーをメインに果物を沢山使ってみました」
手短な説明の後にいざ実食。
片付け班以外には同じ料理が配られて、現状の確認が行われる。
そして、一箱を食べ切って出てきた答えは味にというよりも見た目について。
「確かに野菜も使っているし、バランスは良いのかもしれない。しかし、せっかくの春の祭りなのだから春らしく感じられるものが良いな…」
蓋を開いた第一印象がベージュに偏っているのは如何なものか。水分対策を重視した余り、ソースをかけるという選択をせず、具材としてパスタに入れ込んだ事によって見栄えは大きなマカロニが大半を占めて、そこにポテトの黄色とソーセージの色とあっては、彩りが全く皆無と言っていい。
「確かにそれは思ったわね…言い方はきついけど、このお弁当を開けてワクワクしないもの」
アイデア班のマリィア・バルテス(ka5848)も率直な感想を述べる。
「後、少し手が込んでいるので配給用にするには作り手に負担がかかるかもですね」
風も言う。最も大事な大量生産という部分に置いて、手がかかるというのはできれば避けたい。
「味はまあまあだと思うんだけどな。しいてあげれば、少し魚のソーセージが生臭く感じるくらいか」
ザレム・アズール(ka0878)も自分の舌が感じた感想を付け加える。
「あうぅ、ですよね~。薄々そういうの気付いていたんですがどうにも出来なくて…」
ぐすんと涙ぐみながら、焦る心と葛藤してきた村娘達が肩を落とす。
「何、弱気になってるんですか! 何の為に私達が来たと思ってるんです? 安くて旨い料理…フッフッフ、腕がなりますぅ!」
星野 ハナ(ka5852)が彼女達を元気付ける。
「大丈夫だよ。私もまた手伝うから」
そう言うのは天竜寺 詩(ka0396)だ。秋のピッアァの折にも手伝いに来た一人である。
「それに手間かもですが、彩りに関しては弁当箱とかそれを包む布とかでも改善出来るはずですし、思い切って春色仕様にしてみてはどうですか?」
飴と鞭――風が僅かにフォローを入れてやれば、少しずつではあるが村娘達の意欲も回復していく。
「お皿は纏めて洗うので、こちらにお願いしまーす」
そこで雑用係のエルバッハ・リオン(ka2434)が皆に声をかけて…ここからはアイデア班の腕の見せ所となりそうだった。
●実演調理
弁当…それはバランスのとれた料理で作られる魅惑のワンダーランド。
好みのものばかり詰めるなんてナンセンス。傷みやすい食材を温かいものと一緒に入れ込んでしまえば、それは生存の危機をもたらすもの。よって、弁当には大胆さと繊細さが要求される。
「しかしきみたちはまた大変なことを抱えたものだな…」
調理台の近くにある試作品を眺めながら真が村娘に言う。
彼とてピッツァ作りに参加し面識があるのだ。ちなみにザレムとマリィアもそれにあたる。
「えへへっ、ちょっと事情がありまして……でも楽しいですよ♪」
よもやイケメンにほだされて…とは言えないけれど、やりがいを感じているのは確かで、彼女達は以前に比べて笑顔が多い。
「フフッ、それって大事ですよね」
そんな彼女の言葉を聞いてエルバッハがぼそりと言葉を付け加える。
彼女は片付け班の食べ切ったお皿を回収し、洗い場での迅速な洗浄を受け持っているようだ。
一方では些かスパルタ気味に対応する人影一つ。彼女の名は夜桜 奏音(ka5754)という。
「大丈夫です。胃薬は沢山ありますから、皆さんはどんどん食べて下さいね」
そう言ってリアルブルーの某地方にみる給仕宜しく、無くなりかけた皿を見つけると素早く新たな残り物を追加。常時皿には何かしらの料理が乗っている状態を作っている。しかも驚く事に彼女はただ闇雲に配膳している訳ではない。
「……あむあむあむ、これは……割と、美味し…ぐー」
そんな言葉を聞けば即座に気に入っていると判断して、同系の料理を追加する。
(沢山の残り物を処理するには頭も必要…少しでも多く食べて頂くには好きなものを多く配膳する…こういう裏方も必要ですよね)
そう考えて、時に飽きないように工夫しつつ彼女は的確に片付け班に料理を運んでゆく。
「私もこうしてはいられません」
そんな彼女に刺激され、エルバッハも止まっていた洗い物を再開するのだった。
さて、場所を移して厨房の顔触れは詩にザレム、マリィアにハナの四名と二人の村娘。
作る手順や早さも重要となってくる為、一人ずつ調理しその様子を残りの者が観察する。
「まずは私からいっちゃうですぅ」
そう言ってまずはハナがトライ。作るのも食べるのも大好きな彼女はエプロンをつけると意気揚々とスパゲッティを沸騰した鍋に放り込んで、その合間にデザート作り。
「あのぉ、苺のジャムとか蜜柑のシロップ漬けとかありますぅ?」
小さ目の鍋ではお湯を沸かし寒天を溶かして、その横には牛乳を用意しつつ彼女が尋ねる。
「えと、確かジャムは…」
「これかしら?」
振り返り棚を探そうとした村娘より先にエルバッハが瓶詰のそれを手渡す。
「よく聞いてましたね」
「ふふ、偶然です」
そう言う彼女であったが、きっとものの場所を先に確認していたに違いない。
在庫状況を照らしつつ、外には彼女の戦馬を待機させており、いつでも補充に行けるよう準備しているのだ。
ジャムを受け取った彼女はそれと牛乳を入れて火を消し粗熱を取ると、型に入れて冷水につける。
「これは…」
「牛乳羹ですよぉ。寒天で作れば常温でも暫くすれば固まるので」
にこりと笑顔を見せて、手際よくそれを仕上げると今度はまな板の上で野菜を豪快に切ってゆく。旬の春キャベツを始め新玉葱やピーマンに人参。お馴染みの野菜を割と小さめに切り揃えて、茹で上がったパスタは二等分により分ける。
「女の子は一つしかないってやなんですぅ。だから選ぶ楽しみ必須ですぅ」
と言うが早いかまずはアラビアータから。本来であればシンプルに具は入れないものであるが、彼女は気にしない。さっき切った野菜の半分と小さなミートボールを作って投入し、具有りのアラビアータを完成させてゆく。そして、そっちが出来たら今度はナポリタン。リアルブルーではお馴染みのパスタ料理であるが、こちらではあまりメジャーではないらしい。
「えっ、トマトソースじゃなくてケチャップで混ぜるのですか?」
と村娘から飛び出した質問に「もちの、ろんですよぉ」と頷く彼女。
女性ならではの発想で二種類のパスタと簡単デザートの完成である。
「ナポリタンは赤、アラビアータは白として二種類のお弁当を出す事を提案するのですぅ」
彼女が胸を張って言う。そこで発案組が少しずつ頂いた後、試食班へ。
結果は後に回して、次はザレムの番。今回唯一の男料理人であり豪快料理かと思いき、彼も料理好きだ。大雑把なものではなく、ちゃんと考えられたメニューを披露する。
「俺もまずはパスタから茹でるとするか」
寸胴な鍋に水を張って沸騰し始めたらパスタを投入。予め茹でられていた筍は置いておいて、まだだった菜の花と卵もここでさっと一緒に茹でておく。その間に彼が始めたのは鯵の下処理と、ハナ同様にデザートの仕込み。鯵は三枚におろして、骨の処理を済ませて、薄くハーブソルトを振った後ムニエルにする為小麦粉をつけておく。デザートの方は寒天を使うものの緩めになるよう調整して、ベースは少し大人めにモヒート風味。ソーダとホワイトラムのベースにライムを絞ってそれをジュレにする。
「俺のコンセプトは『心が浮き立つ春の弁当』だからな」
彼はそう言って、パスタをあげると手慣れた様子でペペロンチーノに。但し、具材には筍、菜の花、桜エビが加えられ、見た目も鮮やかであるし、鷹の爪とにんにくのいい香りが厨房に充満し一同の食欲を掻き立てる。
「うーむ、これは堪らないなぁ」
そんな言葉が片付け班のエリオから出たらしめたものだ。
(にんにくは食欲を倍増させるだけでなく、活力も促進するからな)
そんな事を考えながら、残る料理の完成を目指す。たっぷりのバターで鯵を焼いて、もう一つは彼のとっておき。
人参にアスパラ、さやえんどうを漬け込んでいた牛肉で巻いてフライパンで焼けば牛薄肉の野菜巻が完成する。
最後にジュレにはミント添え、ムニエルにはレモンを絞って…彼もフィニッシュ。
「おおっ、これは純粋に美味しそうなのです」
通りががった奏音の言葉に手応えを感じるザレムであった。
「二人共素敵なお弁当…私も負けていられないんだよ」
到着早々丁寧に村娘達に挨拶をしていた詩――彼女はこのお弁当作りをなかなか面白そうだと思っていた。
だから自分も来る前に色々思いを巡らせてきたけれど、着いて皆のそれを見ればまだまだ発想の余地はあったように思う。
(次々と出てくるアイデアにワクワクが止まらないんだよ♪)
仲間達に刺激を受けて、彼女は腕をまくるとまずはラビオリ作りから。
「あら、あなたもラビオリにするのね」
その様子を前にマリィアから声が漏れる。
「はい、でもこれはデザートとしてなので、餡はこれなの」
そう言って持ち上げたのは小豆餡。既に餡子になったものを使って時短を狙う。
「成程ね…だからその生地にヨモギを混ぜ込むのね」
ラビオリといえば普通は主食のイメージがあるが、餡を甘いものにする事でデザートとして仕上げる発想は十代ならではかもしれない。他にも彼女の集めた材料にはスパゲッティよりさらに細いカッぺリーニや、貝の形をしたコンキリオーニという名のパスタがあって…如何やら彼女は全てにパスタを使うようだ。
デザートが仕上がると順に用意したパスタ類を茹でて、一旦湯を沸かし直し次は具材だ。アスパラに続いて、出てきた薄切り豚肉に視線が集まる。
「それをどうするんだ?」
ザレムが尋ねる。
「こうします」
そんな彼に実演。詩はトングで一枚取り上げると湯の中に潜らせてゆっくりしゃぶしゃぶ。リアルブルーの人間ならば知っているかもしれないが、ザレムはクリムゾンウェスト出身。しゃぶしゃぶは初めてと見える。
「ふぇぇ、こんな調理法があったとは…」
村娘達もその調理法に静かな驚き。但し、味がついていない訳であるから、この後の味付けにも興味津々。
「これはさっきの野菜と一緒に胡麻ダレと混ぜて食べるんだよ。コクがあって、麺も冷やしてるから美味しいの」
その言葉に味を想像しようと目を閉じる面々。
「冷やし担々麺の辛いの抜きといったところですねぇ…って皆さんには判らないですよねぇ」
ハナが例えてはみたものの、やはり赤の世界のものではなくて…的外れであった事を認める。
「まぁ、後で食べてみてよ♪ とっても美味しいから」
詩はそう言ってお弁当作りを再開した。残る一品はコンキリオーニを使った海鮮サラダ。ボイルしたホタテとわかめを醤油とポン酢とオリーブオイルで和えて、さっぱりとした味わいに仕上げる。
「はい、これでパスタ尽くし弁当完成だよ」
詩が弁当に詰めて、試食班に提出する。後はマリィアただ一人。彼女の弁当は如何に――。
●完成
マリィアの作る弁当は赤の世界でも馴染み深いものが多い。
彼女がそれに寄せたかどうかは定かではないが、村娘達もよく知っている料理なのだ。
「まずはこれね。リボリータ」
別名『パンといんげん豆のトマトスープ』…とはいってもスープを弁当に詰める訳にはいかないから一工夫。がそれは工夫といっても実際のところ別の地方ではやられている事だったり。
「似たのにラタトゥイユがあるけれど、あれは夏野菜で少し時期が違うじゃない? だけどこれなら旬野菜をギリギリまで煮詰めて具だけ入れれば何とかなると思ったのよ」
適当にそこらにある野菜を一センチ角のサイコロ状に。水で戻したいんげん豆は蒸炒めし、合わせてオリーブオイルでしっかりと炒めたらクルトン状に固くなったパンとトマトソースを入れてひたすら煮込む。
その煮込み時間を利用し彼女もラビオリを制作するのであるが、ここにもひと手間。皮に南瓜、ほうれん草、食紅を練り込んで春っぽさをアピール。中の具にもこだわりを見せて、ベースの肉餡に加える形で赤とプレーンにはほうれん草、緑にはチーズ、黄色には魚のミンチを追加し包み込む。
「うわぁあ、これは綺麗なのですぅ」
ハナが四色のラビオリを前に目を輝かせる。
「後からクリームソースをかけるけどね」
そう言うと彼女は今度はデザートの生地作り。
卵に小麦粉、砂糖といったよくある材料で作るのはナッツとピールを使ったパウンドケーキだ。
「ハナさん、さっきの砂糖漬けの余り貸して貰えるかしら?」
眺めたままでいた彼女にそう言って、適度に混ざった生地に混ぜ込む。
その頃には煮詰めていたリボリータの水分が飛び始めているから、パウンドケーキの生地をオーブンに入れた後、追いかける形で仕上げに入る。
「さてと、チーズは何処だったかしら?」
リボリータを耐熱皿に移してチーズをかけてオーブンへ。
ラビオリにもソースを作ってかければ彼女の弁当も完成である。
「あの、お疲れ様でした」
工程が多い分時間がかかるのが難点であるが、これでハンター達の考えてきたメニューは出揃って、いよいよ実食。公平を期す為、初めに出来たものから順に試食を始める。その頃には出来立ての湯気はもうなく、弁当の難しい所がこれによって明確になってくる。
「では、再び頂こう」
真と風がハナの弁当を開けフォークを伸ばし、真がアラビアータを、風がナポリタンを試食する。
「うーん…普通に美味いんだが、惜しいな」
「ですね…ちょっとソース、というか麺がパサついています」
やはりロングパスタを入れるには乾燥対策が必須のようだ。安くて時間もかからない弁当であるが、その点を欠いてしまっては元も子もない。牛乳羹の方は崩れもせず、程よい甘さで高評価がついたのであるが、メインは星一つ半に留まる。彼女同様ロングパスタを使ったザレムであったが、彼のペペロンチーロは一味違う。
「あれ、パサついていないのです」
風が不思議そうに言う。
「麺を炒める時に油を多い目にしておいたからな。こうすれば麺自体が油でコーティングされて、解けやすいし乾燥もしにくくなる」
炒める際も普段彼はバターを使うらしいのだが、今回はオリーブオイルにして弁当という形態に合わせて、調味もアレンジ。ムニエルはソースなしで頂けるように下味を衣に付け足し肉巻きも味付に加えて、腐敗防止のレモンやミントの気遣いも添えている。そんな彼の弁当は完璧かと思われたのが…。
「ジュレが温くなって微妙だな…」
キンキンに冷えていたら申し分なかったが、ミントも時間が経つにつれて萎れ少し残念な感じになっている。
「く…俺とした事が」
別に対決ではないのだが、これもまた経験だ。
「あぁ…そんなぁ~」
そんな彼よりも落込んだのは次の弁当の制作者・詩だった。
弁当の蓋を取ったと同時に目に入ったのは冷しゃぶパスタの無残な姿。盛り付け時は綺麗だったのだが、胡麻だれをかけて蓋をしたそれは徐々に流れ色合いが微妙になっているのに加えて、しゃぶしゃぶした肉はどうしても水切りがきっちりできない様でたれが薄まってみえる。
「えと、でも味は良いかもしれないですよ。それに冷製パスタなら冷めても問題ない訳ですし、ポカポカ陽気にはぴったりかも…」
気落ちする詩にそう声をかけて風がパスタを試食する。だが、結果はやはり薄まったたれでは味気ない。
「パスタだけというアイデアは良いと思うのだが、配慮が足らなかったようだな」
海鮮サラダにしてもタレが鍵であり、唯一デザートは意表をついていて面白いのだが…水分問題がどうしても拭えない。
「はうぅ~…」
詩が心底がっかりした様子で項垂れる。
「大丈夫、ラビオリの仇は私が討つわ」
そこで立ち上がったのはマリィアだった。
四色のラビオリの評判はそこそこ。ソースと絡めて出す事によって乾燥は防げる。けれど、ソースを入れてしまう事により少なからず零れないかという疑念が付き纏う。だが、リボリータとパウンドケーキに関してはいう事なしだ。
「冷めても美味しいし、作る点でもそれ程労力は要らないからいいかもしれないですっ!」
村娘達もその料理を大きく評価して、ここからは良かったものを組み合わせて弁当にしてゆく作業に入る。
候補に挙がったのはマリィアの三種に、ザレムのメインとおかず、そしてザレム以外の三人のデザートだ。それ以外の料理は自動的にまたも片付け班へと回されて…大食いと自負する残月とてこれは笑えない。
「うぅ、もう食べられない…っ!?」
回されてくる料理を前に思わず口を押える。
既にお腹はぽっこりお山で、美味しい筈の料理さえ彼女の喉を通らない。
もはや苦行の域を抜けて、下手したら地獄に達しかけているかもしれないと彼女は思う。
「うぅ、師匠…お願いしますぅ…」
逆流しそうになる食べ物を必死に抑えながら、彼女がエリオに助けを求める。だが、エリオとて既に限界だ。
「あぁ、これは酒に合いそうだ。塩加減が丁度いい」
そう言ってフォークに刺した漬物を眺め、感想をいう事で食べる行為を少し遅らせようと試みる。
が、ここには残り物処理の番人・奏音がいて、
「あの、別に感想は要りませんから…どうぞ、遠慮なさらず食べて下さいね」
と妙に冷たく切り捨てられたら流石の彼も顔色を悪くする。
そんな彼には透かさず、胃薬を取り出してコップの水と共に笑顔で提供。
(すみません。でも、これも貴方の選んだお仕事なんです…だから、私は鬼になります)
心中で彼女が呟く。
(まさか、ここまで大変だとは思わなかったな…)
とこれはエリオ。初めは自分の舌がどれ程一般とかけ離れているのかを知る為にこの依頼に参加した。しかし、出てくるものはどれも美味く幸せなお仕事だと思ったのは初めだけだ。美味い不味い云々よりも、食べるという事がこんなにも苦痛を伴うものだと知ったのは今回が初めてである。
「感想がいらないだと? 何を言うか、美味いものを食って美味いと言えないなんておかしいだろう!」
実際は腹の限界突破を迎えて美味いと感じなくなってきている気もするが、彼はそう主張し僅かな休憩を確保しようと躍起になる。
「でも、ドゥアルさんはまだいけるようですよ?」
それを聞いてギョッとする彼。けれど、確かに。彼女は未だ半睡眠状態のまま食べ続けている。
「もし、ピクニック…考慮する、なら…子供を対象にした…モノも…ずぴぃー」
それに加えて助言まで――大食いの玄人は間違いなく、彼女と言えよう。
がそんな超人は二人といない。このままでは片付け班が満腹で倒れてしまいそうだと判断し村娘が助け舟。
「エルさんと奏音さん、ここは一旦私達に任せて貰って新たなお仕事をお願いしてもいいですか?」
エルバッハの事を愛称で呼び、親近感を出した上で村娘の提案。それは料理を入れる弁当箱選びだ。
「お二人のセンスで良いお弁当箱を選んできて下さいね! 入れるお料理は多分この辺になると思いますから」
選ばれた料理を見せて試食もして貰い二人にお願いする。
「わかりました。では行きましょうか」
「はい、喜んで」
そうして、エルバッハの戦馬に跨り二人は駆ける。
「そう言えば風さんが包みも工夫したらと言っていました。そっちも時間があったら当たってみましょう」
エルバッハがふと思い出し言う。
「よいですね。楽しみです」
それに奏音が答える。
暫くの後辿りついた弁当屋の倉庫にはありとあらゆる形の弁当箱が揃っていて、
「これは…選び買いがありそうです」
呆気にとられつつも、エルバッハの瞳が嬉々とする。だって、二人は女の子。可愛いものを見つける嗅覚は優れているはず。試食した料理と味を思い出しながら…彼女らはぴったりくるお弁当箱を見つけるべく奮闘し始めるのだった。
一方、厨房の話し合いは未だ終わらない。
料理の候補が上がったとはいえ、次はバランスを考えなくては。
「今度こそお役に立ちたいんだよ」
メニューでは残念な結果に終わってしまったが、詩はまだ諦めない。
「ハナさんの言う通り、一つだけというのはつまらないわよね…だから二つしたらどうかしら?」
メインパスタの候補が二つ出た事もあって、好みの問題を考えればそれが適当だろう。
「しかし、ソースの問題はどうするんだ?」
ラビオリのソース…絡めたとしても完全に絡ませ切る事は出来ない為、どうしても流れてくるのは避けられない。
「あの…だったらパンをしいてみるのはどうかな?」
スポンジの要領で、パンならばそれも食べてしまえるし一石二鳥だ。
「いいわね、それ。詩さんの意見に賛成よ」
ラビオリ同盟という訳ではないが、マリィアがその意見に同意する。
「俺のおかずは肉と魚、二つとも入れるのには手間がかかる。という事で片方ずつに分けたらどうだろう?」
ラビオリには既に肉が詰まっているから魚を。ペペロンチーノに肉はないから逆に肉巻きが適しているだろう。
「後は野菜ですが…この際あのリボリータを兼用としてはどうですぅ?」
ハナが同じものを入れる事を提案する。
「新しく考えるのも大変ですし、逆に共通点がある事で、あぁ同じとこが作ってるものなんだなっと判って貰える。いいと思います」
それに風の意見が加わり、副菜はそこにまとまりそうだ。
「あの…お子様向けのはこのナポリタンってやつにしませんか? 乾燥対策さえすれば、きっと子供受けすると思うのですよね。ケチャップって子供が大好きですし…」
村娘の一人がおずおずと意見する。
「となるとどうすれば…」
「卵…」
暫くしてぽつりと呟かれた詩の言葉に皆が視線を向ける。
「卵ですよ♪」
詩の閃き…そこから出来た子供向け弁当とは?
●お披露目
「おおっ、これが君達の春色BENTOだねっ」
あの後も試行錯誤を繰り返して、彼女達は三つの弁当を完成させた。
まず一つ目は定番ロングパスタを使用したペペロンチーノ弁当だ。春野菜を具材に使ったパスタに肉巻きが添えられ、リボリータはサラダ感覚で…他の二つにもこれは添えられている。加えてデザートは栄養豊富なナッツと果実のパウンドケーキ。ずっしりとした作りではあるが、大人の女子には嬉しいサイズだ。
そして二つ目は苦労したラビオリMIX弁当。ほうれん草だった部分をヨモギに変えて四色ラビオリのクリームソースがけには鯵のムニエルがつく。こちらにもさっきのパウンドケーキがデザートに。
そして子供向けにはオムナポ弁当。卵に包まれたナポリタンをメインに、当初村娘達が作っていたソーセージを添えて、デザートは軽めに牛乳羹だ。全体量も大人向けよりも少なく、クローバーの形の弁当箱に収めてある。
ちなみに大人向けの弁当箱は箱こそシンプルな楕円型に決まったが、移動の事も考えて包む風呂敷を用意。
開くとランチョンマットにもなるし、デザインも多数あって選べるようにする事で特別感とリピート心を刺激する仕様となっている。
「うん…これはいいね。早速発注を開始するよ」
試作で詰めてきた弁当に運営達が舌鼓を打って、彼女らは喜びと安堵の表情を浮かべる。
「あの、つきましては…一つお願いしたい事があるのですが」
村娘の一人が言う。
「あぁ、何だい?」
「すみませんが…これを作るにあたってハンターさんのお知恵もお借りましたので、その依頼料出して頂きたく…」
『え…』
『宜しくお願いしまーーす!』
村娘達はそう言い切り、請求書を置くと有無を言わせず素早くその部屋を後にした。
そして、彼女達はハンター達と待ち合わせている丘へと向かって…。
手伝ってくれたハンターらと共に一足早いピクニック。勿論、お弁当は彼女らの作ったものだ。
「おおっ、やはり無理して食べなければ断然美味いな」
エリオが今日は御酒を片手に弁当を突く。
「修行の後のご褒美も大事だよね。うん、そうに決まってる」
そう言うのは残月だ。
あの後、必死に動いて食べたものを消費。再び残り物に挑み続けたものの、量の多さに片付け班が食べ切るのに数日を有したのだが、まぁそれもいい思い出だ。
「おおっ、まだ頂いても……これは、とてつもなく…びみぃ――…」
ドゥアルはそんな事を呟きつつ完成品を味わう。
「最後の最後でいい仕事が出来ました」
とこれはエルバッハ。風呂敷自由案は彼女のアイデア。
けれど本当は選びきれなかっただけなのであるが、それは内緒だ。
「何はともあれ、お弁当は完成に至りました。本当にありがと―――」
『存分に食べて行って下さいね――♪』
村娘達が言う。
この春色BENTOが人気となり、予定より早く一般展開の企画が持ち上がるのだが――。
まだこの時の彼らは知る由もない事であった。
『おいでませっ、ハンターの皆さんっ!!』
机に並べられた料理の数々に助っ人ハンター達は目を丸くする。てっきりメニュー作りに四苦八苦していると思っていたのだが、村娘達は思いの外元気に多くの試作料理と共に出迎えてくれる。
「ほほぅ、これはなかなかの歓迎だな」
そこでまず動いたのはニヒルな笑顔のナイスミドル、エリオ・アルファーノ(ka4129)だった。
彼は以前飲み屋を営んでいた手前、料理には興味がある。
どれ一つと、近くにあった青菜のベーコン炒めを口に運ぶ。
「あっ、ちょっ…それは…」
失敗作と言いかけて、村娘達は彼から飛び出た言葉に目を丸くする。
「……うむ、美味い。こんなに美味いのに何がダメだというんだ?」
そこで隣りにいた鞍馬 真(ka5819)も試しに一口口にして、彼は確信した。
この男は残念な味覚感覚の持ち主だと――。
(これが美味いと言えるとは…)
静かにフォークを置いて、真は必死に口の中のものを飲み込む。
青菜のベーコン炒め…それはとてつもなく甘かった。というのも、村娘の一人がうっかり塩と砂糖を間違えてしまったのだ。グラッセ風味になった青菜と塩味の強いベーコンの相性は残念ながら最悪である。
「どうした? 食べないのなら、俺が頂くぞ?」
平然と言うエリオに真は無言で皿を差し出す。
「あっ、ボクも食べてみていいかな?」
そんな料理に興味を持って、残月(ka6290)もその料理に手を伸ばす。そして、
「うげぇ~~、これ超甘い…」
彼女の舌は実に正直だった。慌てて持参してきていた水をがぶ飲みし、口内にあるそれを流し込む。
「うーむ……どうやらこの料理…君達には相当甘いらしいな。確かに飯としてはどうかと思うが、オヤツとしては丁度いいだろう? お茶請けにとか…」
「却下だ」
真がズバリ言い切る。その言葉に「そうか」と小さく答えて、彼は黙々とそれを食べ始める。
(この人凄い…きっと長年修行して舌を鍛えた強者なんだ…)
だが、残月はエリオのその雄姿に感化されて、
「お願いします。弟子入りさせて下さい!」
まさかの弟子入り志願。普段はクールな彼女であるが、修業となれば話は別だ。何に置いても強くなりたい。その為には教えを乞う事もいとわない。
「おや…俺は別に構わないが、ただの片付け係だ。共に食べるだけになるが?」
「宜しくお願いします」
残月が嬉しそうに言う。
(よーし、この人について食べればきっとボクだって…)
超人の舌が手に入る。意気込む彼女であるが、味覚など変わる筈もなく…この後待っているのは、味を別にした胃袋耐久の過酷な試練だけだったりするのだが、彼女はまだ知らない。そして、もう一人。片付け係には変わったお人・ドゥアル(ka3746)がいて…。
「あのー、起きてますかぁ~?」
身体を覆い隠す程のロングの金髪。前髪で視界不良と思われるが、彼女は器用に手と口を動かす。
「あい…起きて…ま…すぅー…あの、食料が…頂けると聞きましたので…たくさんいただきまぐぅー」
所々に雑じる寝息であるが、彼女はちゃんと生きている。
「うーん、この方こういう体質だってここに書いてありますぅ」
依頼を受けてくれたハンター達のデータを捲りながら、もう一人の村娘が驚く。
「はあ…なんか面白い方ですねぇ」
それを知り、村娘は彼女をそっとしておく事にした。料理を食べて貰えるならば、問題はないだろう。
「あの、試食さんと、混じらないように……こちらで、食べても―…?」
いくつかの皿を手にしてドゥアルが尋ねる。
「あ、はい。どうぞー…」
そんな彼女を見て、やはり不思議だと思う村娘達。
「さて、もしこの時点で自信作があるなら味見をしようか?」
さっきの激甘炒めの衝撃から立ち直った真が村娘達に尋ねる。
「風も試食できます。その為に来たんですから」
大きな目玉のついた三角帽子の少女・最上 風(ka0891)も手を上げ主張する。
「えと、そうですね~だったら、これからお願いします」
そう言って差し出されたのは小さめのお弁当箱だった。既に彼女達のアイデアが詰まってできた一箱らしい。
いただきますを済ませて、蓋を開けまず目に入ったのは筒状のパスタとよくあるポテトサラダだ。
そこに二種類のソーセージが並んでいて、別包みでタルトが添えられている。
「えと、これは…」
「リガトーニというパスタで筒のところにお野菜のペーストを入れ込みました。これだったら水分が出ないので。ポテトサラダには松の実とかフルーツも使ってます。ソーセージは豚のと魚のと…タルトにはブラックチェリーをメインに果物を沢山使ってみました」
手短な説明の後にいざ実食。
片付け班以外には同じ料理が配られて、現状の確認が行われる。
そして、一箱を食べ切って出てきた答えは味にというよりも見た目について。
「確かに野菜も使っているし、バランスは良いのかもしれない。しかし、せっかくの春の祭りなのだから春らしく感じられるものが良いな…」
蓋を開いた第一印象がベージュに偏っているのは如何なものか。水分対策を重視した余り、ソースをかけるという選択をせず、具材としてパスタに入れ込んだ事によって見栄えは大きなマカロニが大半を占めて、そこにポテトの黄色とソーセージの色とあっては、彩りが全く皆無と言っていい。
「確かにそれは思ったわね…言い方はきついけど、このお弁当を開けてワクワクしないもの」
アイデア班のマリィア・バルテス(ka5848)も率直な感想を述べる。
「後、少し手が込んでいるので配給用にするには作り手に負担がかかるかもですね」
風も言う。最も大事な大量生産という部分に置いて、手がかかるというのはできれば避けたい。
「味はまあまあだと思うんだけどな。しいてあげれば、少し魚のソーセージが生臭く感じるくらいか」
ザレム・アズール(ka0878)も自分の舌が感じた感想を付け加える。
「あうぅ、ですよね~。薄々そういうの気付いていたんですがどうにも出来なくて…」
ぐすんと涙ぐみながら、焦る心と葛藤してきた村娘達が肩を落とす。
「何、弱気になってるんですか! 何の為に私達が来たと思ってるんです? 安くて旨い料理…フッフッフ、腕がなりますぅ!」
星野 ハナ(ka5852)が彼女達を元気付ける。
「大丈夫だよ。私もまた手伝うから」
そう言うのは天竜寺 詩(ka0396)だ。秋のピッアァの折にも手伝いに来た一人である。
「それに手間かもですが、彩りに関しては弁当箱とかそれを包む布とかでも改善出来るはずですし、思い切って春色仕様にしてみてはどうですか?」
飴と鞭――風が僅かにフォローを入れてやれば、少しずつではあるが村娘達の意欲も回復していく。
「お皿は纏めて洗うので、こちらにお願いしまーす」
そこで雑用係のエルバッハ・リオン(ka2434)が皆に声をかけて…ここからはアイデア班の腕の見せ所となりそうだった。
●実演調理
弁当…それはバランスのとれた料理で作られる魅惑のワンダーランド。
好みのものばかり詰めるなんてナンセンス。傷みやすい食材を温かいものと一緒に入れ込んでしまえば、それは生存の危機をもたらすもの。よって、弁当には大胆さと繊細さが要求される。
「しかしきみたちはまた大変なことを抱えたものだな…」
調理台の近くにある試作品を眺めながら真が村娘に言う。
彼とてピッツァ作りに参加し面識があるのだ。ちなみにザレムとマリィアもそれにあたる。
「えへへっ、ちょっと事情がありまして……でも楽しいですよ♪」
よもやイケメンにほだされて…とは言えないけれど、やりがいを感じているのは確かで、彼女達は以前に比べて笑顔が多い。
「フフッ、それって大事ですよね」
そんな彼女の言葉を聞いてエルバッハがぼそりと言葉を付け加える。
彼女は片付け班の食べ切ったお皿を回収し、洗い場での迅速な洗浄を受け持っているようだ。
一方では些かスパルタ気味に対応する人影一つ。彼女の名は夜桜 奏音(ka5754)という。
「大丈夫です。胃薬は沢山ありますから、皆さんはどんどん食べて下さいね」
そう言ってリアルブルーの某地方にみる給仕宜しく、無くなりかけた皿を見つけると素早く新たな残り物を追加。常時皿には何かしらの料理が乗っている状態を作っている。しかも驚く事に彼女はただ闇雲に配膳している訳ではない。
「……あむあむあむ、これは……割と、美味し…ぐー」
そんな言葉を聞けば即座に気に入っていると判断して、同系の料理を追加する。
(沢山の残り物を処理するには頭も必要…少しでも多く食べて頂くには好きなものを多く配膳する…こういう裏方も必要ですよね)
そう考えて、時に飽きないように工夫しつつ彼女は的確に片付け班に料理を運んでゆく。
「私もこうしてはいられません」
そんな彼女に刺激され、エルバッハも止まっていた洗い物を再開するのだった。
さて、場所を移して厨房の顔触れは詩にザレム、マリィアにハナの四名と二人の村娘。
作る手順や早さも重要となってくる為、一人ずつ調理しその様子を残りの者が観察する。
「まずは私からいっちゃうですぅ」
そう言ってまずはハナがトライ。作るのも食べるのも大好きな彼女はエプロンをつけると意気揚々とスパゲッティを沸騰した鍋に放り込んで、その合間にデザート作り。
「あのぉ、苺のジャムとか蜜柑のシロップ漬けとかありますぅ?」
小さ目の鍋ではお湯を沸かし寒天を溶かして、その横には牛乳を用意しつつ彼女が尋ねる。
「えと、確かジャムは…」
「これかしら?」
振り返り棚を探そうとした村娘より先にエルバッハが瓶詰のそれを手渡す。
「よく聞いてましたね」
「ふふ、偶然です」
そう言う彼女であったが、きっとものの場所を先に確認していたに違いない。
在庫状況を照らしつつ、外には彼女の戦馬を待機させており、いつでも補充に行けるよう準備しているのだ。
ジャムを受け取った彼女はそれと牛乳を入れて火を消し粗熱を取ると、型に入れて冷水につける。
「これは…」
「牛乳羹ですよぉ。寒天で作れば常温でも暫くすれば固まるので」
にこりと笑顔を見せて、手際よくそれを仕上げると今度はまな板の上で野菜を豪快に切ってゆく。旬の春キャベツを始め新玉葱やピーマンに人参。お馴染みの野菜を割と小さめに切り揃えて、茹で上がったパスタは二等分により分ける。
「女の子は一つしかないってやなんですぅ。だから選ぶ楽しみ必須ですぅ」
と言うが早いかまずはアラビアータから。本来であればシンプルに具は入れないものであるが、彼女は気にしない。さっき切った野菜の半分と小さなミートボールを作って投入し、具有りのアラビアータを完成させてゆく。そして、そっちが出来たら今度はナポリタン。リアルブルーではお馴染みのパスタ料理であるが、こちらではあまりメジャーではないらしい。
「えっ、トマトソースじゃなくてケチャップで混ぜるのですか?」
と村娘から飛び出した質問に「もちの、ろんですよぉ」と頷く彼女。
女性ならではの発想で二種類のパスタと簡単デザートの完成である。
「ナポリタンは赤、アラビアータは白として二種類のお弁当を出す事を提案するのですぅ」
彼女が胸を張って言う。そこで発案組が少しずつ頂いた後、試食班へ。
結果は後に回して、次はザレムの番。今回唯一の男料理人であり豪快料理かと思いき、彼も料理好きだ。大雑把なものではなく、ちゃんと考えられたメニューを披露する。
「俺もまずはパスタから茹でるとするか」
寸胴な鍋に水を張って沸騰し始めたらパスタを投入。予め茹でられていた筍は置いておいて、まだだった菜の花と卵もここでさっと一緒に茹でておく。その間に彼が始めたのは鯵の下処理と、ハナ同様にデザートの仕込み。鯵は三枚におろして、骨の処理を済ませて、薄くハーブソルトを振った後ムニエルにする為小麦粉をつけておく。デザートの方は寒天を使うものの緩めになるよう調整して、ベースは少し大人めにモヒート風味。ソーダとホワイトラムのベースにライムを絞ってそれをジュレにする。
「俺のコンセプトは『心が浮き立つ春の弁当』だからな」
彼はそう言って、パスタをあげると手慣れた様子でペペロンチーノに。但し、具材には筍、菜の花、桜エビが加えられ、見た目も鮮やかであるし、鷹の爪とにんにくのいい香りが厨房に充満し一同の食欲を掻き立てる。
「うーむ、これは堪らないなぁ」
そんな言葉が片付け班のエリオから出たらしめたものだ。
(にんにくは食欲を倍増させるだけでなく、活力も促進するからな)
そんな事を考えながら、残る料理の完成を目指す。たっぷりのバターで鯵を焼いて、もう一つは彼のとっておき。
人参にアスパラ、さやえんどうを漬け込んでいた牛肉で巻いてフライパンで焼けば牛薄肉の野菜巻が完成する。
最後にジュレにはミント添え、ムニエルにはレモンを絞って…彼もフィニッシュ。
「おおっ、これは純粋に美味しそうなのです」
通りががった奏音の言葉に手応えを感じるザレムであった。
「二人共素敵なお弁当…私も負けていられないんだよ」
到着早々丁寧に村娘達に挨拶をしていた詩――彼女はこのお弁当作りをなかなか面白そうだと思っていた。
だから自分も来る前に色々思いを巡らせてきたけれど、着いて皆のそれを見ればまだまだ発想の余地はあったように思う。
(次々と出てくるアイデアにワクワクが止まらないんだよ♪)
仲間達に刺激を受けて、彼女は腕をまくるとまずはラビオリ作りから。
「あら、あなたもラビオリにするのね」
その様子を前にマリィアから声が漏れる。
「はい、でもこれはデザートとしてなので、餡はこれなの」
そう言って持ち上げたのは小豆餡。既に餡子になったものを使って時短を狙う。
「成程ね…だからその生地にヨモギを混ぜ込むのね」
ラビオリといえば普通は主食のイメージがあるが、餡を甘いものにする事でデザートとして仕上げる発想は十代ならではかもしれない。他にも彼女の集めた材料にはスパゲッティよりさらに細いカッぺリーニや、貝の形をしたコンキリオーニという名のパスタがあって…如何やら彼女は全てにパスタを使うようだ。
デザートが仕上がると順に用意したパスタ類を茹でて、一旦湯を沸かし直し次は具材だ。アスパラに続いて、出てきた薄切り豚肉に視線が集まる。
「それをどうするんだ?」
ザレムが尋ねる。
「こうします」
そんな彼に実演。詩はトングで一枚取り上げると湯の中に潜らせてゆっくりしゃぶしゃぶ。リアルブルーの人間ならば知っているかもしれないが、ザレムはクリムゾンウェスト出身。しゃぶしゃぶは初めてと見える。
「ふぇぇ、こんな調理法があったとは…」
村娘達もその調理法に静かな驚き。但し、味がついていない訳であるから、この後の味付けにも興味津々。
「これはさっきの野菜と一緒に胡麻ダレと混ぜて食べるんだよ。コクがあって、麺も冷やしてるから美味しいの」
その言葉に味を想像しようと目を閉じる面々。
「冷やし担々麺の辛いの抜きといったところですねぇ…って皆さんには判らないですよねぇ」
ハナが例えてはみたものの、やはり赤の世界のものではなくて…的外れであった事を認める。
「まぁ、後で食べてみてよ♪ とっても美味しいから」
詩はそう言ってお弁当作りを再開した。残る一品はコンキリオーニを使った海鮮サラダ。ボイルしたホタテとわかめを醤油とポン酢とオリーブオイルで和えて、さっぱりとした味わいに仕上げる。
「はい、これでパスタ尽くし弁当完成だよ」
詩が弁当に詰めて、試食班に提出する。後はマリィアただ一人。彼女の弁当は如何に――。
●完成
マリィアの作る弁当は赤の世界でも馴染み深いものが多い。
彼女がそれに寄せたかどうかは定かではないが、村娘達もよく知っている料理なのだ。
「まずはこれね。リボリータ」
別名『パンといんげん豆のトマトスープ』…とはいってもスープを弁当に詰める訳にはいかないから一工夫。がそれは工夫といっても実際のところ別の地方ではやられている事だったり。
「似たのにラタトゥイユがあるけれど、あれは夏野菜で少し時期が違うじゃない? だけどこれなら旬野菜をギリギリまで煮詰めて具だけ入れれば何とかなると思ったのよ」
適当にそこらにある野菜を一センチ角のサイコロ状に。水で戻したいんげん豆は蒸炒めし、合わせてオリーブオイルでしっかりと炒めたらクルトン状に固くなったパンとトマトソースを入れてひたすら煮込む。
その煮込み時間を利用し彼女もラビオリを制作するのであるが、ここにもひと手間。皮に南瓜、ほうれん草、食紅を練り込んで春っぽさをアピール。中の具にもこだわりを見せて、ベースの肉餡に加える形で赤とプレーンにはほうれん草、緑にはチーズ、黄色には魚のミンチを追加し包み込む。
「うわぁあ、これは綺麗なのですぅ」
ハナが四色のラビオリを前に目を輝かせる。
「後からクリームソースをかけるけどね」
そう言うと彼女は今度はデザートの生地作り。
卵に小麦粉、砂糖といったよくある材料で作るのはナッツとピールを使ったパウンドケーキだ。
「ハナさん、さっきの砂糖漬けの余り貸して貰えるかしら?」
眺めたままでいた彼女にそう言って、適度に混ざった生地に混ぜ込む。
その頃には煮詰めていたリボリータの水分が飛び始めているから、パウンドケーキの生地をオーブンに入れた後、追いかける形で仕上げに入る。
「さてと、チーズは何処だったかしら?」
リボリータを耐熱皿に移してチーズをかけてオーブンへ。
ラビオリにもソースを作ってかければ彼女の弁当も完成である。
「あの、お疲れ様でした」
工程が多い分時間がかかるのが難点であるが、これでハンター達の考えてきたメニューは出揃って、いよいよ実食。公平を期す為、初めに出来たものから順に試食を始める。その頃には出来立ての湯気はもうなく、弁当の難しい所がこれによって明確になってくる。
「では、再び頂こう」
真と風がハナの弁当を開けフォークを伸ばし、真がアラビアータを、風がナポリタンを試食する。
「うーん…普通に美味いんだが、惜しいな」
「ですね…ちょっとソース、というか麺がパサついています」
やはりロングパスタを入れるには乾燥対策が必須のようだ。安くて時間もかからない弁当であるが、その点を欠いてしまっては元も子もない。牛乳羹の方は崩れもせず、程よい甘さで高評価がついたのであるが、メインは星一つ半に留まる。彼女同様ロングパスタを使ったザレムであったが、彼のペペロンチーロは一味違う。
「あれ、パサついていないのです」
風が不思議そうに言う。
「麺を炒める時に油を多い目にしておいたからな。こうすれば麺自体が油でコーティングされて、解けやすいし乾燥もしにくくなる」
炒める際も普段彼はバターを使うらしいのだが、今回はオリーブオイルにして弁当という形態に合わせて、調味もアレンジ。ムニエルはソースなしで頂けるように下味を衣に付け足し肉巻きも味付に加えて、腐敗防止のレモンやミントの気遣いも添えている。そんな彼の弁当は完璧かと思われたのが…。
「ジュレが温くなって微妙だな…」
キンキンに冷えていたら申し分なかったが、ミントも時間が経つにつれて萎れ少し残念な感じになっている。
「く…俺とした事が」
別に対決ではないのだが、これもまた経験だ。
「あぁ…そんなぁ~」
そんな彼よりも落込んだのは次の弁当の制作者・詩だった。
弁当の蓋を取ったと同時に目に入ったのは冷しゃぶパスタの無残な姿。盛り付け時は綺麗だったのだが、胡麻だれをかけて蓋をしたそれは徐々に流れ色合いが微妙になっているのに加えて、しゃぶしゃぶした肉はどうしても水切りがきっちりできない様でたれが薄まってみえる。
「えと、でも味は良いかもしれないですよ。それに冷製パスタなら冷めても問題ない訳ですし、ポカポカ陽気にはぴったりかも…」
気落ちする詩にそう声をかけて風がパスタを試食する。だが、結果はやはり薄まったたれでは味気ない。
「パスタだけというアイデアは良いと思うのだが、配慮が足らなかったようだな」
海鮮サラダにしてもタレが鍵であり、唯一デザートは意表をついていて面白いのだが…水分問題がどうしても拭えない。
「はうぅ~…」
詩が心底がっかりした様子で項垂れる。
「大丈夫、ラビオリの仇は私が討つわ」
そこで立ち上がったのはマリィアだった。
四色のラビオリの評判はそこそこ。ソースと絡めて出す事によって乾燥は防げる。けれど、ソースを入れてしまう事により少なからず零れないかという疑念が付き纏う。だが、リボリータとパウンドケーキに関してはいう事なしだ。
「冷めても美味しいし、作る点でもそれ程労力は要らないからいいかもしれないですっ!」
村娘達もその料理を大きく評価して、ここからは良かったものを組み合わせて弁当にしてゆく作業に入る。
候補に挙がったのはマリィアの三種に、ザレムのメインとおかず、そしてザレム以外の三人のデザートだ。それ以外の料理は自動的にまたも片付け班へと回されて…大食いと自負する残月とてこれは笑えない。
「うぅ、もう食べられない…っ!?」
回されてくる料理を前に思わず口を押える。
既にお腹はぽっこりお山で、美味しい筈の料理さえ彼女の喉を通らない。
もはや苦行の域を抜けて、下手したら地獄に達しかけているかもしれないと彼女は思う。
「うぅ、師匠…お願いしますぅ…」
逆流しそうになる食べ物を必死に抑えながら、彼女がエリオに助けを求める。だが、エリオとて既に限界だ。
「あぁ、これは酒に合いそうだ。塩加減が丁度いい」
そう言ってフォークに刺した漬物を眺め、感想をいう事で食べる行為を少し遅らせようと試みる。
が、ここには残り物処理の番人・奏音がいて、
「あの、別に感想は要りませんから…どうぞ、遠慮なさらず食べて下さいね」
と妙に冷たく切り捨てられたら流石の彼も顔色を悪くする。
そんな彼には透かさず、胃薬を取り出してコップの水と共に笑顔で提供。
(すみません。でも、これも貴方の選んだお仕事なんです…だから、私は鬼になります)
心中で彼女が呟く。
(まさか、ここまで大変だとは思わなかったな…)
とこれはエリオ。初めは自分の舌がどれ程一般とかけ離れているのかを知る為にこの依頼に参加した。しかし、出てくるものはどれも美味く幸せなお仕事だと思ったのは初めだけだ。美味い不味い云々よりも、食べるという事がこんなにも苦痛を伴うものだと知ったのは今回が初めてである。
「感想がいらないだと? 何を言うか、美味いものを食って美味いと言えないなんておかしいだろう!」
実際は腹の限界突破を迎えて美味いと感じなくなってきている気もするが、彼はそう主張し僅かな休憩を確保しようと躍起になる。
「でも、ドゥアルさんはまだいけるようですよ?」
それを聞いてギョッとする彼。けれど、確かに。彼女は未だ半睡眠状態のまま食べ続けている。
「もし、ピクニック…考慮する、なら…子供を対象にした…モノも…ずぴぃー」
それに加えて助言まで――大食いの玄人は間違いなく、彼女と言えよう。
がそんな超人は二人といない。このままでは片付け班が満腹で倒れてしまいそうだと判断し村娘が助け舟。
「エルさんと奏音さん、ここは一旦私達に任せて貰って新たなお仕事をお願いしてもいいですか?」
エルバッハの事を愛称で呼び、親近感を出した上で村娘の提案。それは料理を入れる弁当箱選びだ。
「お二人のセンスで良いお弁当箱を選んできて下さいね! 入れるお料理は多分この辺になると思いますから」
選ばれた料理を見せて試食もして貰い二人にお願いする。
「わかりました。では行きましょうか」
「はい、喜んで」
そうして、エルバッハの戦馬に跨り二人は駆ける。
「そう言えば風さんが包みも工夫したらと言っていました。そっちも時間があったら当たってみましょう」
エルバッハがふと思い出し言う。
「よいですね。楽しみです」
それに奏音が答える。
暫くの後辿りついた弁当屋の倉庫にはありとあらゆる形の弁当箱が揃っていて、
「これは…選び買いがありそうです」
呆気にとられつつも、エルバッハの瞳が嬉々とする。だって、二人は女の子。可愛いものを見つける嗅覚は優れているはず。試食した料理と味を思い出しながら…彼女らはぴったりくるお弁当箱を見つけるべく奮闘し始めるのだった。
一方、厨房の話し合いは未だ終わらない。
料理の候補が上がったとはいえ、次はバランスを考えなくては。
「今度こそお役に立ちたいんだよ」
メニューでは残念な結果に終わってしまったが、詩はまだ諦めない。
「ハナさんの言う通り、一つだけというのはつまらないわよね…だから二つしたらどうかしら?」
メインパスタの候補が二つ出た事もあって、好みの問題を考えればそれが適当だろう。
「しかし、ソースの問題はどうするんだ?」
ラビオリのソース…絡めたとしても完全に絡ませ切る事は出来ない為、どうしても流れてくるのは避けられない。
「あの…だったらパンをしいてみるのはどうかな?」
スポンジの要領で、パンならばそれも食べてしまえるし一石二鳥だ。
「いいわね、それ。詩さんの意見に賛成よ」
ラビオリ同盟という訳ではないが、マリィアがその意見に同意する。
「俺のおかずは肉と魚、二つとも入れるのには手間がかかる。という事で片方ずつに分けたらどうだろう?」
ラビオリには既に肉が詰まっているから魚を。ペペロンチーノに肉はないから逆に肉巻きが適しているだろう。
「後は野菜ですが…この際あのリボリータを兼用としてはどうですぅ?」
ハナが同じものを入れる事を提案する。
「新しく考えるのも大変ですし、逆に共通点がある事で、あぁ同じとこが作ってるものなんだなっと判って貰える。いいと思います」
それに風の意見が加わり、副菜はそこにまとまりそうだ。
「あの…お子様向けのはこのナポリタンってやつにしませんか? 乾燥対策さえすれば、きっと子供受けすると思うのですよね。ケチャップって子供が大好きですし…」
村娘の一人がおずおずと意見する。
「となるとどうすれば…」
「卵…」
暫くしてぽつりと呟かれた詩の言葉に皆が視線を向ける。
「卵ですよ♪」
詩の閃き…そこから出来た子供向け弁当とは?
●お披露目
「おおっ、これが君達の春色BENTOだねっ」
あの後も試行錯誤を繰り返して、彼女達は三つの弁当を完成させた。
まず一つ目は定番ロングパスタを使用したペペロンチーノ弁当だ。春野菜を具材に使ったパスタに肉巻きが添えられ、リボリータはサラダ感覚で…他の二つにもこれは添えられている。加えてデザートは栄養豊富なナッツと果実のパウンドケーキ。ずっしりとした作りではあるが、大人の女子には嬉しいサイズだ。
そして二つ目は苦労したラビオリMIX弁当。ほうれん草だった部分をヨモギに変えて四色ラビオリのクリームソースがけには鯵のムニエルがつく。こちらにもさっきのパウンドケーキがデザートに。
そして子供向けにはオムナポ弁当。卵に包まれたナポリタンをメインに、当初村娘達が作っていたソーセージを添えて、デザートは軽めに牛乳羹だ。全体量も大人向けよりも少なく、クローバーの形の弁当箱に収めてある。
ちなみに大人向けの弁当箱は箱こそシンプルな楕円型に決まったが、移動の事も考えて包む風呂敷を用意。
開くとランチョンマットにもなるし、デザインも多数あって選べるようにする事で特別感とリピート心を刺激する仕様となっている。
「うん…これはいいね。早速発注を開始するよ」
試作で詰めてきた弁当に運営達が舌鼓を打って、彼女らは喜びと安堵の表情を浮かべる。
「あの、つきましては…一つお願いしたい事があるのですが」
村娘の一人が言う。
「あぁ、何だい?」
「すみませんが…これを作るにあたってハンターさんのお知恵もお借りましたので、その依頼料出して頂きたく…」
『え…』
『宜しくお願いしまーーす!』
村娘達はそう言い切り、請求書を置くと有無を言わせず素早くその部屋を後にした。
そして、彼女達はハンター達と待ち合わせている丘へと向かって…。
手伝ってくれたハンターらと共に一足早いピクニック。勿論、お弁当は彼女らの作ったものだ。
「おおっ、やはり無理して食べなければ断然美味いな」
エリオが今日は御酒を片手に弁当を突く。
「修行の後のご褒美も大事だよね。うん、そうに決まってる」
そう言うのは残月だ。
あの後、必死に動いて食べたものを消費。再び残り物に挑み続けたものの、量の多さに片付け班が食べ切るのに数日を有したのだが、まぁそれもいい思い出だ。
「おおっ、まだ頂いても……これは、とてつもなく…びみぃ――…」
ドゥアルはそんな事を呟きつつ完成品を味わう。
「最後の最後でいい仕事が出来ました」
とこれはエルバッハ。風呂敷自由案は彼女のアイデア。
けれど本当は選びきれなかっただけなのであるが、それは内緒だ。
「何はともあれ、お弁当は完成に至りました。本当にありがと―――」
『存分に食べて行って下さいね――♪』
村娘達が言う。
この春色BENTOが人気となり、予定より早く一般展開の企画が持ち上がるのだが――。
まだこの時の彼らは知る由もない事であった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/09 23:46:10 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/05/10 00:07:38 |