ゲスト
(ka0000)
紅蓮の微笑
マスター:神宮寺飛鳥
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
「――実は、皇帝の座を降りようかと考えているのだ」
バルトアンデルス城内、皇帝の執務室。お茶を運んできた所に放たれた一言にオズワルドは目を丸くする。
が、今度はあまり驚かなかった。眉を潜め腕を組むと、しばし考え込んだ後に言った。
「それは……なんだ? どういう意味なんだ?」
「どうとは?」
「なんか違う意味があンだろ? お前が本当に皇帝をやめるとは思えん」
「いや、そのまんまの意味だよ?」
しばし見つめ合う二人。オズワルドはゆっくりと歩み寄り、ヴィルヘルミナの胸倉を掴み上げた。
「このクソ小娘ェ! いい加減ぶん殴るぞ!」
「暴力はやめないかオズワルド。というか、皇帝を殴るな」
「うっせェ! お前さんが皇帝をやめたらこの国がどうなンのかわかってんだろうが!?」
にこりと穏やかに微笑むヴィルヘルミナ。そう、わかっている。この国にはどうしても皇帝が必要なのだ。
強く、圧倒的で、人ならざる覇気を持つ強王がいてこそ、危ういバランスが保たれている。革命戦争で頭が挿げ変わった武力国家なのだ。その皇帝は並大抵で勤まる役職ではない。
「勿論だよ。だからこそタングラムは私をこの国に呼び戻したのだからね」
胸倉を掴まれたまま懐かしそうに語る。そう、世界を一人で旅していたヴィルヘルミナをこの国に呼び戻したのがタングラムであった。あの時は色々あってタングラムと決闘する事になり、それを打ち破って皇帝となったのだ。
「うん、懐かしい懐かしい」
「懐かしんでる場合か! お前はなぁ、毎度毎度もう少し物を考えて……」
「考えた上での結論だよ、オズワルド」
手を離させながら立ち上がると、窓の向こうに顔を向ける。
「この国の皇帝に相応しいのは本当に私なのだろうか? 国民の多くはそんな疑問を頭の片隅に持ってこれまで生きて来たはずだ」
「当たり前だろ。万能の王なんざ幻想だ」
「だが今一度それを問う必要はあるのではないかね? 私もほら、女だ。己のやり方を不安に思ったり思わなかったりする事がある」
「嘘つけェ!! お前がしなを作ってる時はぜってぇ碌な事考えてねェ時なんだよ!!」
ニコニコしながらオズワルドの叫びを受けていたヴィルヘルミナだが、急に纏っている雰囲気が変わる。重く、どす黒い迫力のある空気だ。表情は相変わらず優しげな笑みだが、その瞳には異様な気配が渦巻いている。
「剣機の目撃情報が増え始めている。そろそろ新たな剣機がお目見えするだろう」
「……それがどうした?」
「同盟領で発生した事件に兵を送らなかった事で、国民も兵も私に対する疑念を抱いている筈だ」
「……そうだな」
まるでそうであってほしいと言わんばかりの語り口に冷や汗を流すオズワルド。
昔からそうだった。まだこの女が少女であった時から、時折何を考えているのかさっぱりわからない瞬間があった。そしてその悪寒にも似た気配は、彼女が王としてこの国に呼び戻された頃から増したように思える。
「考えなしってわけじゃねェんだな?」
「深い思慮があるわけではないよ。ただ、“そうなったらいいな”と思っているだけだ」
「いいだろう。だが話は騎士議会にかけさせてもらう。この国はお前一人の物じゃねぇからな。師団長の意見を仰ぐ」
「ではその議会を招集している間、私は地方の視察でもしていよう。彼方此方の師団が同盟領の事件に手を出している今が好機だからな」
「どこが好機なんだ。狙われやすくなるだけじゃねェか」
女はまたニコリとほほ笑んだ。まさかそれこそが“好機”という事なのか。
「だったら俺かエイゼンシュテインを護衛につけろ。シグルドは……話がややこしくなるからな……」
「いや、私一人で十分だ。この国内の人間で師団長以外に私を殺せる者などいない」
「そういう問題じゃねぇよ」
「護衛ならハンターをつける。彼らと話したい事もあるからね」
「まさかお前……今の話をハンターにするつもりじゃねェだろうな?」
今日一番の楽しそうな笑顔に思い切り肩を落とすオズワルド。この女が悪ふざけにおいて折れる事がないという事も、嫌という程承知していた。
「おい、聞いたか? なんでも皇帝陛下がこの町にも来るらしいぞ」
「地方の小都市を視察して周ってるそうだが……いったいどういうつもりなんだか」
とある田舎町ではその噂でここ数日持ちきりだった。普段は帝都から出ない皇帝が地方にやってくるのは彼らにとっては一大事であり、そしてその時を待っていた者達から見れば朗報であった。
「手筈は整っているな? ヴィルヘルミナは明日、間違いなくこの町にやってくる」
「ああ。既に町長には話をつけてある。金を掴ませれば連中は絶対に喋らんだろう。どっちみち望む所だからな」
噂話をする人々を遠巻きに路地裏から眺める黒ずくめの男達がいた。彼らは数日前から仲間を集め、入念に準備を進めて来たのだ。
「偽りの皇帝を我らの手で討ち、帝国を正しき血筋の元に返すのだ」
「今は我らに否定的な旧皇族の方々も、ウランゲルの血が流れれば奮起なさるに違いない」
「「「 正統なる太陽の為に 」」」
声を合わせ頷き合う男達。段取りを終えると彼らは闇に散り散りになってゆく。
「くれぐれも気をつけろ。ヴィルヘルミナはあの剣機を破壊し、剣豪と戦い生き残った猛者だ……」
「相手が怪物であろうが関係ない。我らが命を代価に誅殺を果たすまでよ……」
気配は全て闇に消えたと思われた。しかしそこへひょっこり、一人の青年が顔を見せる。
「……やれやれ。こうなる事はわかってたろうに。何考えてやがんだ、ウランゲルの娘はよ」
頬を掻き、それから胸から提げたペンダントに手を伸ばす。
「正統なる太陽の為に……か」
この国に正義などありはしない。問題は今と昔、そのどちらがより真っ当だったかという事だけだ。
「馬鹿な連中だぜ。皇帝を殺せば世界が急に変わるわけもねぇってのによ」
この話を聞かなかった事にするか、或いは……。ひとしきり悩んだ後、青年は答えを出せぬまま暗がりを後にした。
バルトアンデルス城内、皇帝の執務室。お茶を運んできた所に放たれた一言にオズワルドは目を丸くする。
が、今度はあまり驚かなかった。眉を潜め腕を組むと、しばし考え込んだ後に言った。
「それは……なんだ? どういう意味なんだ?」
「どうとは?」
「なんか違う意味があンだろ? お前が本当に皇帝をやめるとは思えん」
「いや、そのまんまの意味だよ?」
しばし見つめ合う二人。オズワルドはゆっくりと歩み寄り、ヴィルヘルミナの胸倉を掴み上げた。
「このクソ小娘ェ! いい加減ぶん殴るぞ!」
「暴力はやめないかオズワルド。というか、皇帝を殴るな」
「うっせェ! お前さんが皇帝をやめたらこの国がどうなンのかわかってんだろうが!?」
にこりと穏やかに微笑むヴィルヘルミナ。そう、わかっている。この国にはどうしても皇帝が必要なのだ。
強く、圧倒的で、人ならざる覇気を持つ強王がいてこそ、危ういバランスが保たれている。革命戦争で頭が挿げ変わった武力国家なのだ。その皇帝は並大抵で勤まる役職ではない。
「勿論だよ。だからこそタングラムは私をこの国に呼び戻したのだからね」
胸倉を掴まれたまま懐かしそうに語る。そう、世界を一人で旅していたヴィルヘルミナをこの国に呼び戻したのがタングラムであった。あの時は色々あってタングラムと決闘する事になり、それを打ち破って皇帝となったのだ。
「うん、懐かしい懐かしい」
「懐かしんでる場合か! お前はなぁ、毎度毎度もう少し物を考えて……」
「考えた上での結論だよ、オズワルド」
手を離させながら立ち上がると、窓の向こうに顔を向ける。
「この国の皇帝に相応しいのは本当に私なのだろうか? 国民の多くはそんな疑問を頭の片隅に持ってこれまで生きて来たはずだ」
「当たり前だろ。万能の王なんざ幻想だ」
「だが今一度それを問う必要はあるのではないかね? 私もほら、女だ。己のやり方を不安に思ったり思わなかったりする事がある」
「嘘つけェ!! お前がしなを作ってる時はぜってぇ碌な事考えてねェ時なんだよ!!」
ニコニコしながらオズワルドの叫びを受けていたヴィルヘルミナだが、急に纏っている雰囲気が変わる。重く、どす黒い迫力のある空気だ。表情は相変わらず優しげな笑みだが、その瞳には異様な気配が渦巻いている。
「剣機の目撃情報が増え始めている。そろそろ新たな剣機がお目見えするだろう」
「……それがどうした?」
「同盟領で発生した事件に兵を送らなかった事で、国民も兵も私に対する疑念を抱いている筈だ」
「……そうだな」
まるでそうであってほしいと言わんばかりの語り口に冷や汗を流すオズワルド。
昔からそうだった。まだこの女が少女であった時から、時折何を考えているのかさっぱりわからない瞬間があった。そしてその悪寒にも似た気配は、彼女が王としてこの国に呼び戻された頃から増したように思える。
「考えなしってわけじゃねェんだな?」
「深い思慮があるわけではないよ。ただ、“そうなったらいいな”と思っているだけだ」
「いいだろう。だが話は騎士議会にかけさせてもらう。この国はお前一人の物じゃねぇからな。師団長の意見を仰ぐ」
「ではその議会を招集している間、私は地方の視察でもしていよう。彼方此方の師団が同盟領の事件に手を出している今が好機だからな」
「どこが好機なんだ。狙われやすくなるだけじゃねェか」
女はまたニコリとほほ笑んだ。まさかそれこそが“好機”という事なのか。
「だったら俺かエイゼンシュテインを護衛につけろ。シグルドは……話がややこしくなるからな……」
「いや、私一人で十分だ。この国内の人間で師団長以外に私を殺せる者などいない」
「そういう問題じゃねぇよ」
「護衛ならハンターをつける。彼らと話したい事もあるからね」
「まさかお前……今の話をハンターにするつもりじゃねェだろうな?」
今日一番の楽しそうな笑顔に思い切り肩を落とすオズワルド。この女が悪ふざけにおいて折れる事がないという事も、嫌という程承知していた。
「おい、聞いたか? なんでも皇帝陛下がこの町にも来るらしいぞ」
「地方の小都市を視察して周ってるそうだが……いったいどういうつもりなんだか」
とある田舎町ではその噂でここ数日持ちきりだった。普段は帝都から出ない皇帝が地方にやってくるのは彼らにとっては一大事であり、そしてその時を待っていた者達から見れば朗報であった。
「手筈は整っているな? ヴィルヘルミナは明日、間違いなくこの町にやってくる」
「ああ。既に町長には話をつけてある。金を掴ませれば連中は絶対に喋らんだろう。どっちみち望む所だからな」
噂話をする人々を遠巻きに路地裏から眺める黒ずくめの男達がいた。彼らは数日前から仲間を集め、入念に準備を進めて来たのだ。
「偽りの皇帝を我らの手で討ち、帝国を正しき血筋の元に返すのだ」
「今は我らに否定的な旧皇族の方々も、ウランゲルの血が流れれば奮起なさるに違いない」
「「「 正統なる太陽の為に 」」」
声を合わせ頷き合う男達。段取りを終えると彼らは闇に散り散りになってゆく。
「くれぐれも気をつけろ。ヴィルヘルミナはあの剣機を破壊し、剣豪と戦い生き残った猛者だ……」
「相手が怪物であろうが関係ない。我らが命を代価に誅殺を果たすまでよ……」
気配は全て闇に消えたと思われた。しかしそこへひょっこり、一人の青年が顔を見せる。
「……やれやれ。こうなる事はわかってたろうに。何考えてやがんだ、ウランゲルの娘はよ」
頬を掻き、それから胸から提げたペンダントに手を伸ばす。
「正統なる太陽の為に……か」
この国に正義などありはしない。問題は今と昔、そのどちらがより真っ当だったかという事だけだ。
「馬鹿な連中だぜ。皇帝を殺せば世界が急に変わるわけもねぇってのによ」
この話を聞かなかった事にするか、或いは……。ひとしきり悩んだ後、青年は答えを出せぬまま暗がりを後にした。
リプレイ本文
「まさかあの皇帝の護衛を任されるとは……」
不安げに呟く近衛 惣助(ka0510)。帝都にてハンター達は馬車の前で皇帝の到着を待っていた。
「芋姉ちゃんの護衛だって。なーんか大変そうだねぇ」
「美人と評判の皇帝だが、頭に“残念な”って形容詞がつくのも有名な話だからなぁ」
背後で手を組むソウジ(ka2928)。ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は退屈そうに欠伸を一つ。
「へーか……カッテのおねーさん……」
「俺みたいな駆け出しで大丈夫だろうか。なんか緊張してきたぜ……」
呟くシェリル・マイヤーズ(ka0509)の隣、胸に手を当てルオ(ka1272)が深呼吸をする。
「今回の視察、護衛がハンターだけで本当に良いのでしょうか?」
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の疑問に惣助も腕を組み。
「あえて少数警備にする事で自らを餌に不穏分子を釣り出すつもりなのかもしれんな」
「ええ。陛下は予め情報を掴んでいるのかもしれません」
ともあれば集まったハンター達でさえ彼女の思惑に利用されている事になる。
「振り回される兵士に同情したが、同じ立場になると笑えないな……」
苦笑を浮かべる惣助。そこへヴィルヘルミナがちょっと散歩に来ました、くらいのノリで紙袋を片手に歩いてくる。
「やあ。今日は宜しく頼むよ」
「おぉ~、噂に違わぬ美人だぜ!」
頭を下げるシルヴィアと惣助。ロジャーは瞳を輝かせガッツポーズ。ソウジとシェリルは興味深そうに皇帝を眺めている。
「お初に御意を得ます。ルオと申します……って、あれ!?」
「どうした? 私の顔に何かついているか?」
「し、失礼しました。知人にあまりにもそっくりだったもので……」
混乱しながら頭を下げるルオ。ヴィルヘルミナはその様子に楽しげに笑ってみせた。
リアルブルーから転移してきた男、ルオ。実はもう皇帝と会うのが三回目の男。
「でも俺はルミナちゃんの方が好みかな」
そしてそれに気づいていない男……。
ヴィルヘルミナは紙袋から蒸かした芋を取り出しつつ馬車へ乗り込む。
「では行こうか。道中腹も減るだろうから、皆もこれを食べると良い」
現地に到着する頃には日も傾き始めていた。皇帝と同じ馬車に揺られ、同じ芋を食べたハンター達は微妙な表情で町へ降り立つ。
「これでいいんでしょうか……」
真面目なシルヴィアと惣助が頭を悩ませている間にロジャーは口笛交じりに歩き出し。
「んじゃ、俺は情報収集してくっから。あんたらは先行っててくれなー」
「僕も何か買ってこよーっと。何か美味しそうな物があったら皆の分も買ってくるねー」
続き、ソウジも離脱。シルヴィアは額に手を当て考える。
「これで……これでいいんでしょうか」
「さて、早速集会場へ向かおう。陳情の為に町人が待っている筈だ」
「……畏まりました。私は周囲を警戒します故、お傍にはこちらの二人が控える事になっております」
頷くシェリルと惣助。ルオは集会場の周囲を見渡し。
「俺も周囲を警戒しておきます。何かあればこいつでお知らせしますので」
と、首から提げた笛を見せた。ヴィルヘルミナはシルヴィアとルオ、二人の肩を強く叩き。
「任せたよ」
と言った。こうしてまずは陳情を受ける為、町の集会場へ向かうのであった。
「中々似合ってるじゃないか」
まずは控室に通された一行。シェリルはそこで使用人の格好に着替えていた。ついでに集会場の見取り図も手に入れたが、狭いので目視で全体を確認できそうだ。
「やはり使用人は可愛い方がいいなあ。私に茶を淹れてくれるのは可愛くない弟と頑固ジジイだけだからな」
「へーか……皆の不満高めて……わざわざこんな事して……何を誘ってるの? 危ない事すると、カッテ……心配するよ?」
ヴィルヘルミナは目を丸くし、それから優しくシェリルの頭を撫でる。
「すまない、まだ秘密なのだ。だがきっと悪いようにはならない。心配もかけないと約束するよ。ありがとう、シェリル」
『シェリル、そろそろいいか?』
ノックの音と惣助の声が聞こえ返事をする。皇帝は心配をかけないと言ったが、いまいち信用できないシェリルであった。
「わが町はご覧の通り女子供、老人ばかりです。働き手もなく、何とか食べていくので精いっぱい。このままでは町はやっていけなくなります……」
陳情は開始からいい雰囲気ではなかった。問題がなさそうなら出て行こうと思っていた惣助も、とりあえず留まる事にする。
シェリルが感じたのは、この町では皇帝を良く思わない人も多いという事。というより、肯定的な意見は全く聞こえてこない。
皇帝はそんな陳情をメモに取りつつ、考え、そして自分なりの回答を繰り出して行く。今のままでいいとは思わない。だが抜本的な解決策を見出すには時間がかかる、それが現実だった。
そんな時だ。ルオの笛の音が町に響き渡ったのは。
「ルオさん、何事ですか!?」
近くにいたシルヴィアが駆け寄ると、ルオは息を切らしながら困った様子で振り返る。
「いや、今そこの屋根の上に長物を持った奴がいたんだ。黒ずくめで……ありゃ銃かなんかじゃないかと思って」
「その不審者は?」
「それが……すまない、見失っちまった……」
心底申し訳なさそうなルオだが、シルヴィアは別の印象を抱いていた。そこへロジャーが走ってくる。
「なんだなんだ!? 何が起きた!?」
「……そちらこそ何があったのですか」
ロジャーの頬にはくっきり手形がついている。更にソウジが走ってくるが、左右の手に食べ物が詰まった紙袋を持ち、パンを咥えていた。
「ももがもんが?」
「いや、もう何言ってんのかわかんないぜ」
冷や汗を流すルオ。ロジャーは頬を撫でながら肩を落とし、ソウジはパンを飲み込む。
「いやまあ、色々な……」
「こっちもちょっと色々ねー」
顔を見合わせるルオとシルヴィア。ともあれこの件は報告しなければならない。
「そうか……そんな事が」
腕を組み思案する惣助。陳情も終わり、今晩の宿にハンター達と皇帝は集まっていた。
「すまない、俺があの時捕まえておけば……」
「いえ、ルオさんは覚醒者です。普通に考えれば逃げきれません」
「ああ。土地勘があったのか……町人の協力があったのか」
シルヴィアと惣助の言葉になるほどと目を丸くするルオ。道理で見失うわけだ。
「つーかよ、この町結構怪しい奴多いぜ。働き盛りの男はいないって話だったのに、その辺で見かけるじゃねーか」
だからフられるんだ……なんて付け加え、面白くなさそうなロジャー。ソウジは一人考え込んでいる。
「今夕食の準備してるんだよね? それもヤバくない?」
「ええ。敵は陛下が強い事を知っている筈。だとしたら真っ向勝負よりは搦め手で来ると考えるのが自然です」
「毒物混入か。ま、俺でもそうするわな」
シルヴィアの声に肩を竦めるロジャー。シェリルは頷きつつ。
「やっぱり……食べないようにした方がいい」
「だが頭から断るわけにもいかんだろう。歓迎を受けているわけだからな。ならば俺が毒見をしよう」
惣助の言う事も一理ある。一先ずは食卓に呼ばれる事に決め、一行は現場に向かった。本当に問題がありそうなら食べなければよいだけの事。
「本日はわざわざご足労頂き誠に感謝しております。ささ、大した物ではありませんが、御付きの方々もご一緒に……」
食卓には村には似合わない程の豪華な食事が並んでいた。ハンター達も歓待を受けているが、食事に手は伸びない。
「失礼。まずは俺が毒見をさせていただく」
「ど、毒などと……そのような事は」
「町の方々には申し訳ありませんが、これも護衛の役目ですので」
ヴィルヘルミナの前に置かれたスープをスプーンで掬い上げる惣助。仲間の、そして村人の視線が集中する。スプーンが惣助の口に入ろうとした瞬間、ヴィルヘルミナがその腕を掴んだ。
「人の食事に勝手に手を出すな、無礼者」
「……は?」
「町長、こんな食事は食えん。私は芋しか食えない体質なのでな」
きょとんとなる惣助の前で皇帝はわけのわからない話をでっち上げ席を立つ。
「このような豪勢な食事、用意するのも大変だったであろう。これは諸君らで食べると良い」
「し、しかし……その……」
「良い。部屋に戻って休む。帰るぞお前達」
ぞろぞろと食卓を後にする一行。腑に落ちない様子の惣助に歩きながらヴィルヘルミナはスプーンを見せる。
「マイスプーンだ」
銀色に輝くスプーン。その先端は黒く変色していた。
「……つまり、毒が入ってたって事か!?」
「こんな美人の命を狙うとか勿体ねー事を」
驚きを隠せないルオ。呆れたように呟くロジャーの横でソウジは声をあげる。
「ていうかいいのー? この調子じゃ間違いなくもう一回くらい仕掛けてくるよ? 住民も共犯っぽいしさー」
くいっぱぐれた一行は自前の食料やソウジが買ってきた物で夕飯とした。町で売っていた物に毒はなかったようだ。
「良い。町人もまた本意ではなかろう」
「そーかなぁ? 悪人は甘やかすとつけあがるよ?」
「ともあれ、私は疲れたので寝る。後の事は任せたぞ」
と言って寝室に籠った皇帝。ハンター達は隣の部屋に待機室を作り、交代で夜間も巡回をする事に決めた。
「では行ってくる。まずは俺とシェリルだ」
「気を付けてな~……って、シルヴィアはどこ行ったんだ?」
「なんか体調が悪いんだって。って事は僕一人で巡回するのー?」
いざ出発しようとした惣助だが、ロジャーの言う通りシルヴィアが見当たらない。
「確かにソウジを一人にするのも問題だな……」
「なら僕はここに残って芋姉ちゃんに異変がないか見ておくよ」
「そうだな。なら変則的になるが、巡回は二班交代、ソウジは部屋に残ってもらうとしよう」
惣助に決定に頷く仲間達。ソウジは笑顔で返しつつ、何かを考えるように窓の向こうに目を向けた。
「……誰かいる」
異変を察知したのは惣助とシェリルが巡回していた時だ。宿の周囲を歩いていると、物陰から黒ずくめの男が姿を見せた。
「止まれ!」
構えた銃の上にライトを乗せ男を照らし出す惣助。男は短剣を抜き、飛び出すように襲い掛かってくる。
舌打ちしつつ引き金を引く惣助。狙いは男の足。男はかなり素早かったが、惣助の射撃は正確に足を貫通。男は転倒したが、別方向から二人同時に飛びかかってくる。
素早く距離を詰め惣助を斬りつける男。もう一人はシェリルに襲いかかるが、シェリルはこれにダーツを投げて迎撃。怯んだ隙に惣助を襲う敵の足元を蹴りで払い、組み倒すと足にナイフを突き立てた。
「髪一つ……触らせない」
「すまん! ……敵襲だ! 敵の数は不明、増援に注意しろ!」
ダーツを受けた男が逃げ出すのを銃撃する惣助。物陰に逃げ込まれ追跡しようとするが、シェリルの驚く声で振り返る。
見ればシェリルが組み伏せた男は口から血を流し絶命していた。
「違う……私じゃない……」
だらりと地に足れた男の手からは小さな錠剤が零れ落ちていた。
一方、窓の割れる音と共に宿の廊下にも黒ずくめの男が飛び込んでくる。待機していたルオとロジャーが飛び出し行き先を塞いだ。
「ここから先には通さないぜ!」
男は銃を取り出し発砲。これをロジャーはナイフで弾き、すかさず自らも銃で反撃。一人の男を転倒させるが、その背後から剣を持った男が飛び込んでくる。
ルオは振り下ろされる剣を受け、力任せに鍔迫り合いから弾き飛ばす。倒れた相手に組み付き、ロープで縛りあげた。
「ったく、ちっと無謀すぎねーかあんたら」
覚醒者に適う腕前ではなかったのだ。やれやれとロジャーが銃を収めようとしたその時、再び硝子の割れる音が響き渡った。
「……この音、皇帝陛下の部屋か?」
屋根を伝い、窓から直接皇帝の部屋に飛び込んだ侵入者。剣を抜きベッドに振り下ろすが、そこに皇帝の姿はなかった。
「い、いない……ぐあっ!?」
代わりに側面からシルヴィアの放った銃弾に撃ち抜かれる。部屋の隅で被っていたシーツを剥いで立ち上がり、シルヴィアは敵を確認。
「三人……この程度」
「貴様! ヴィルヘルミナをどこにや……」
「はいドーン! 残念でしたー」
更に窓の下に隠れていたソウジが日本刀を振るう。一人の黒ずくめの腕が吹き飛び、悲鳴があがった。
「大げさだなー。命は奪わないよ? 奪わないだけだけどね!」
三人目もシルヴィアに撃たれ剣を落とす。次の瞬間、外套を剥いでピンを抜く。そこには男の身体に巻かれた大量の爆薬が見えた。
目を見開くシルヴィアだが、ソウジは爆薬を切断し発破を阻止。まるでそこにあると分かっていたように男を組み伏せ笑う。
「言っとくけど、生き延びて首謀者とか全部吐くまで楽になれないからね? 悪い奴は苦しんでもらうに決まってるじゃん」
「くそ……くそぉおおーっ!!」
絶叫する男の声が響く中ルオとロジャーが駆けこんでくる。同時にベッドの下から皇帝が顔を覗かせた。
「あれ、シルヴィア……具合が悪かったんじゃ? って、陛下!?」
「どっから出てきてんだよ……」
「すみません。寝所に控えて欲しいという陛下の要望もあり、潜んでいたのです」
朝まで警備は続いたが敵襲はもうなかった。皇帝は何事もなかったかのように町を立とうとしている。
「しかし、ソウジは何故あそこに?」
シルヴィアの声にソウジは懐から手紙を取り出し、それを皇帝に渡した。
「昨日、町で買い物してる時に会った人から聞いたんだ。襲撃計画の内容をね。信用できるか怪しかったから、一応伏せてたけど」
手紙はその男から渡された物だと言う。皇帝はそれを受け取り、笑顔を浮かべた。
「しかし町を回るのも大事な事かと思いますが、このご時世に陛下が居城を離れても大丈夫なのですか? こんな事が続くようでは……」
「へーか狙うなら……旧体制派? 保身で……国民見捨てた……。今、命を賭けるは……何の為?」
不安そうなルオ。敵の目的はまだ聞き出せていない。シェリルは悲しげに呟く。
「歪虚いなくても……争いはなくならないのかな」
皇帝はシェリルの頭を撫で、迎えの馬車に乗り込む。ルオはその背中に言った。
「帝国の領民は、きっと幸せでしょうね。俺には陛下が民を苦しめる政治をするとは思えないから……!」
「……そうならば良かったのだがね」
寂しげな声に立ち尽くすルオ。惣助は隣に立ち。
「戦場に立ち行動で示す人柄はとても惹かれる。正にカリスマだ。だからこそ、怖い……どこまでも従ってしまいそうでね」
「俺は……」
「言いたい事があるなら言った方がいいぜ。陛下、宜しければ今晩一緒にお茶でも……って、うわなにする放せ!?」
惣助とシルヴィアに連衡されるロジャー。シェリルは小さく呟く。
「私に手伝える事……あるかな……」
馬車に乗り込み、ハンター達は帰路に着く。
皇帝選挙が行われると発表されたのは、これから数日後の事であった。
不安げに呟く近衛 惣助(ka0510)。帝都にてハンター達は馬車の前で皇帝の到着を待っていた。
「芋姉ちゃんの護衛だって。なーんか大変そうだねぇ」
「美人と評判の皇帝だが、頭に“残念な”って形容詞がつくのも有名な話だからなぁ」
背後で手を組むソウジ(ka2928)。ロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は退屈そうに欠伸を一つ。
「へーか……カッテのおねーさん……」
「俺みたいな駆け出しで大丈夫だろうか。なんか緊張してきたぜ……」
呟くシェリル・マイヤーズ(ka0509)の隣、胸に手を当てルオ(ka1272)が深呼吸をする。
「今回の視察、護衛がハンターだけで本当に良いのでしょうか?」
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の疑問に惣助も腕を組み。
「あえて少数警備にする事で自らを餌に不穏分子を釣り出すつもりなのかもしれんな」
「ええ。陛下は予め情報を掴んでいるのかもしれません」
ともあれば集まったハンター達でさえ彼女の思惑に利用されている事になる。
「振り回される兵士に同情したが、同じ立場になると笑えないな……」
苦笑を浮かべる惣助。そこへヴィルヘルミナがちょっと散歩に来ました、くらいのノリで紙袋を片手に歩いてくる。
「やあ。今日は宜しく頼むよ」
「おぉ~、噂に違わぬ美人だぜ!」
頭を下げるシルヴィアと惣助。ロジャーは瞳を輝かせガッツポーズ。ソウジとシェリルは興味深そうに皇帝を眺めている。
「お初に御意を得ます。ルオと申します……って、あれ!?」
「どうした? 私の顔に何かついているか?」
「し、失礼しました。知人にあまりにもそっくりだったもので……」
混乱しながら頭を下げるルオ。ヴィルヘルミナはその様子に楽しげに笑ってみせた。
リアルブルーから転移してきた男、ルオ。実はもう皇帝と会うのが三回目の男。
「でも俺はルミナちゃんの方が好みかな」
そしてそれに気づいていない男……。
ヴィルヘルミナは紙袋から蒸かした芋を取り出しつつ馬車へ乗り込む。
「では行こうか。道中腹も減るだろうから、皆もこれを食べると良い」
現地に到着する頃には日も傾き始めていた。皇帝と同じ馬車に揺られ、同じ芋を食べたハンター達は微妙な表情で町へ降り立つ。
「これでいいんでしょうか……」
真面目なシルヴィアと惣助が頭を悩ませている間にロジャーは口笛交じりに歩き出し。
「んじゃ、俺は情報収集してくっから。あんたらは先行っててくれなー」
「僕も何か買ってこよーっと。何か美味しそうな物があったら皆の分も買ってくるねー」
続き、ソウジも離脱。シルヴィアは額に手を当て考える。
「これで……これでいいんでしょうか」
「さて、早速集会場へ向かおう。陳情の為に町人が待っている筈だ」
「……畏まりました。私は周囲を警戒します故、お傍にはこちらの二人が控える事になっております」
頷くシェリルと惣助。ルオは集会場の周囲を見渡し。
「俺も周囲を警戒しておきます。何かあればこいつでお知らせしますので」
と、首から提げた笛を見せた。ヴィルヘルミナはシルヴィアとルオ、二人の肩を強く叩き。
「任せたよ」
と言った。こうしてまずは陳情を受ける為、町の集会場へ向かうのであった。
「中々似合ってるじゃないか」
まずは控室に通された一行。シェリルはそこで使用人の格好に着替えていた。ついでに集会場の見取り図も手に入れたが、狭いので目視で全体を確認できそうだ。
「やはり使用人は可愛い方がいいなあ。私に茶を淹れてくれるのは可愛くない弟と頑固ジジイだけだからな」
「へーか……皆の不満高めて……わざわざこんな事して……何を誘ってるの? 危ない事すると、カッテ……心配するよ?」
ヴィルヘルミナは目を丸くし、それから優しくシェリルの頭を撫でる。
「すまない、まだ秘密なのだ。だがきっと悪いようにはならない。心配もかけないと約束するよ。ありがとう、シェリル」
『シェリル、そろそろいいか?』
ノックの音と惣助の声が聞こえ返事をする。皇帝は心配をかけないと言ったが、いまいち信用できないシェリルであった。
「わが町はご覧の通り女子供、老人ばかりです。働き手もなく、何とか食べていくので精いっぱい。このままでは町はやっていけなくなります……」
陳情は開始からいい雰囲気ではなかった。問題がなさそうなら出て行こうと思っていた惣助も、とりあえず留まる事にする。
シェリルが感じたのは、この町では皇帝を良く思わない人も多いという事。というより、肯定的な意見は全く聞こえてこない。
皇帝はそんな陳情をメモに取りつつ、考え、そして自分なりの回答を繰り出して行く。今のままでいいとは思わない。だが抜本的な解決策を見出すには時間がかかる、それが現実だった。
そんな時だ。ルオの笛の音が町に響き渡ったのは。
「ルオさん、何事ですか!?」
近くにいたシルヴィアが駆け寄ると、ルオは息を切らしながら困った様子で振り返る。
「いや、今そこの屋根の上に長物を持った奴がいたんだ。黒ずくめで……ありゃ銃かなんかじゃないかと思って」
「その不審者は?」
「それが……すまない、見失っちまった……」
心底申し訳なさそうなルオだが、シルヴィアは別の印象を抱いていた。そこへロジャーが走ってくる。
「なんだなんだ!? 何が起きた!?」
「……そちらこそ何があったのですか」
ロジャーの頬にはくっきり手形がついている。更にソウジが走ってくるが、左右の手に食べ物が詰まった紙袋を持ち、パンを咥えていた。
「ももがもんが?」
「いや、もう何言ってんのかわかんないぜ」
冷や汗を流すルオ。ロジャーは頬を撫でながら肩を落とし、ソウジはパンを飲み込む。
「いやまあ、色々な……」
「こっちもちょっと色々ねー」
顔を見合わせるルオとシルヴィア。ともあれこの件は報告しなければならない。
「そうか……そんな事が」
腕を組み思案する惣助。陳情も終わり、今晩の宿にハンター達と皇帝は集まっていた。
「すまない、俺があの時捕まえておけば……」
「いえ、ルオさんは覚醒者です。普通に考えれば逃げきれません」
「ああ。土地勘があったのか……町人の協力があったのか」
シルヴィアと惣助の言葉になるほどと目を丸くするルオ。道理で見失うわけだ。
「つーかよ、この町結構怪しい奴多いぜ。働き盛りの男はいないって話だったのに、その辺で見かけるじゃねーか」
だからフられるんだ……なんて付け加え、面白くなさそうなロジャー。ソウジは一人考え込んでいる。
「今夕食の準備してるんだよね? それもヤバくない?」
「ええ。敵は陛下が強い事を知っている筈。だとしたら真っ向勝負よりは搦め手で来ると考えるのが自然です」
「毒物混入か。ま、俺でもそうするわな」
シルヴィアの声に肩を竦めるロジャー。シェリルは頷きつつ。
「やっぱり……食べないようにした方がいい」
「だが頭から断るわけにもいかんだろう。歓迎を受けているわけだからな。ならば俺が毒見をしよう」
惣助の言う事も一理ある。一先ずは食卓に呼ばれる事に決め、一行は現場に向かった。本当に問題がありそうなら食べなければよいだけの事。
「本日はわざわざご足労頂き誠に感謝しております。ささ、大した物ではありませんが、御付きの方々もご一緒に……」
食卓には村には似合わない程の豪華な食事が並んでいた。ハンター達も歓待を受けているが、食事に手は伸びない。
「失礼。まずは俺が毒見をさせていただく」
「ど、毒などと……そのような事は」
「町の方々には申し訳ありませんが、これも護衛の役目ですので」
ヴィルヘルミナの前に置かれたスープをスプーンで掬い上げる惣助。仲間の、そして村人の視線が集中する。スプーンが惣助の口に入ろうとした瞬間、ヴィルヘルミナがその腕を掴んだ。
「人の食事に勝手に手を出すな、無礼者」
「……は?」
「町長、こんな食事は食えん。私は芋しか食えない体質なのでな」
きょとんとなる惣助の前で皇帝はわけのわからない話をでっち上げ席を立つ。
「このような豪勢な食事、用意するのも大変だったであろう。これは諸君らで食べると良い」
「し、しかし……その……」
「良い。部屋に戻って休む。帰るぞお前達」
ぞろぞろと食卓を後にする一行。腑に落ちない様子の惣助に歩きながらヴィルヘルミナはスプーンを見せる。
「マイスプーンだ」
銀色に輝くスプーン。その先端は黒く変色していた。
「……つまり、毒が入ってたって事か!?」
「こんな美人の命を狙うとか勿体ねー事を」
驚きを隠せないルオ。呆れたように呟くロジャーの横でソウジは声をあげる。
「ていうかいいのー? この調子じゃ間違いなくもう一回くらい仕掛けてくるよ? 住民も共犯っぽいしさー」
くいっぱぐれた一行は自前の食料やソウジが買ってきた物で夕飯とした。町で売っていた物に毒はなかったようだ。
「良い。町人もまた本意ではなかろう」
「そーかなぁ? 悪人は甘やかすとつけあがるよ?」
「ともあれ、私は疲れたので寝る。後の事は任せたぞ」
と言って寝室に籠った皇帝。ハンター達は隣の部屋に待機室を作り、交代で夜間も巡回をする事に決めた。
「では行ってくる。まずは俺とシェリルだ」
「気を付けてな~……って、シルヴィアはどこ行ったんだ?」
「なんか体調が悪いんだって。って事は僕一人で巡回するのー?」
いざ出発しようとした惣助だが、ロジャーの言う通りシルヴィアが見当たらない。
「確かにソウジを一人にするのも問題だな……」
「なら僕はここに残って芋姉ちゃんに異変がないか見ておくよ」
「そうだな。なら変則的になるが、巡回は二班交代、ソウジは部屋に残ってもらうとしよう」
惣助に決定に頷く仲間達。ソウジは笑顔で返しつつ、何かを考えるように窓の向こうに目を向けた。
「……誰かいる」
異変を察知したのは惣助とシェリルが巡回していた時だ。宿の周囲を歩いていると、物陰から黒ずくめの男が姿を見せた。
「止まれ!」
構えた銃の上にライトを乗せ男を照らし出す惣助。男は短剣を抜き、飛び出すように襲い掛かってくる。
舌打ちしつつ引き金を引く惣助。狙いは男の足。男はかなり素早かったが、惣助の射撃は正確に足を貫通。男は転倒したが、別方向から二人同時に飛びかかってくる。
素早く距離を詰め惣助を斬りつける男。もう一人はシェリルに襲いかかるが、シェリルはこれにダーツを投げて迎撃。怯んだ隙に惣助を襲う敵の足元を蹴りで払い、組み倒すと足にナイフを突き立てた。
「髪一つ……触らせない」
「すまん! ……敵襲だ! 敵の数は不明、増援に注意しろ!」
ダーツを受けた男が逃げ出すのを銃撃する惣助。物陰に逃げ込まれ追跡しようとするが、シェリルの驚く声で振り返る。
見ればシェリルが組み伏せた男は口から血を流し絶命していた。
「違う……私じゃない……」
だらりと地に足れた男の手からは小さな錠剤が零れ落ちていた。
一方、窓の割れる音と共に宿の廊下にも黒ずくめの男が飛び込んでくる。待機していたルオとロジャーが飛び出し行き先を塞いだ。
「ここから先には通さないぜ!」
男は銃を取り出し発砲。これをロジャーはナイフで弾き、すかさず自らも銃で反撃。一人の男を転倒させるが、その背後から剣を持った男が飛び込んでくる。
ルオは振り下ろされる剣を受け、力任せに鍔迫り合いから弾き飛ばす。倒れた相手に組み付き、ロープで縛りあげた。
「ったく、ちっと無謀すぎねーかあんたら」
覚醒者に適う腕前ではなかったのだ。やれやれとロジャーが銃を収めようとしたその時、再び硝子の割れる音が響き渡った。
「……この音、皇帝陛下の部屋か?」
屋根を伝い、窓から直接皇帝の部屋に飛び込んだ侵入者。剣を抜きベッドに振り下ろすが、そこに皇帝の姿はなかった。
「い、いない……ぐあっ!?」
代わりに側面からシルヴィアの放った銃弾に撃ち抜かれる。部屋の隅で被っていたシーツを剥いで立ち上がり、シルヴィアは敵を確認。
「三人……この程度」
「貴様! ヴィルヘルミナをどこにや……」
「はいドーン! 残念でしたー」
更に窓の下に隠れていたソウジが日本刀を振るう。一人の黒ずくめの腕が吹き飛び、悲鳴があがった。
「大げさだなー。命は奪わないよ? 奪わないだけだけどね!」
三人目もシルヴィアに撃たれ剣を落とす。次の瞬間、外套を剥いでピンを抜く。そこには男の身体に巻かれた大量の爆薬が見えた。
目を見開くシルヴィアだが、ソウジは爆薬を切断し発破を阻止。まるでそこにあると分かっていたように男を組み伏せ笑う。
「言っとくけど、生き延びて首謀者とか全部吐くまで楽になれないからね? 悪い奴は苦しんでもらうに決まってるじゃん」
「くそ……くそぉおおーっ!!」
絶叫する男の声が響く中ルオとロジャーが駆けこんでくる。同時にベッドの下から皇帝が顔を覗かせた。
「あれ、シルヴィア……具合が悪かったんじゃ? って、陛下!?」
「どっから出てきてんだよ……」
「すみません。寝所に控えて欲しいという陛下の要望もあり、潜んでいたのです」
朝まで警備は続いたが敵襲はもうなかった。皇帝は何事もなかったかのように町を立とうとしている。
「しかし、ソウジは何故あそこに?」
シルヴィアの声にソウジは懐から手紙を取り出し、それを皇帝に渡した。
「昨日、町で買い物してる時に会った人から聞いたんだ。襲撃計画の内容をね。信用できるか怪しかったから、一応伏せてたけど」
手紙はその男から渡された物だと言う。皇帝はそれを受け取り、笑顔を浮かべた。
「しかし町を回るのも大事な事かと思いますが、このご時世に陛下が居城を離れても大丈夫なのですか? こんな事が続くようでは……」
「へーか狙うなら……旧体制派? 保身で……国民見捨てた……。今、命を賭けるは……何の為?」
不安そうなルオ。敵の目的はまだ聞き出せていない。シェリルは悲しげに呟く。
「歪虚いなくても……争いはなくならないのかな」
皇帝はシェリルの頭を撫で、迎えの馬車に乗り込む。ルオはその背中に言った。
「帝国の領民は、きっと幸せでしょうね。俺には陛下が民を苦しめる政治をするとは思えないから……!」
「……そうならば良かったのだがね」
寂しげな声に立ち尽くすルオ。惣助は隣に立ち。
「戦場に立ち行動で示す人柄はとても惹かれる。正にカリスマだ。だからこそ、怖い……どこまでも従ってしまいそうでね」
「俺は……」
「言いたい事があるなら言った方がいいぜ。陛下、宜しければ今晩一緒にお茶でも……って、うわなにする放せ!?」
惣助とシルヴィアに連衡されるロジャー。シェリルは小さく呟く。
「私に手伝える事……あるかな……」
馬車に乗り込み、ハンター達は帰路に着く。
皇帝選挙が行われると発表されたのは、これから数日後の事であった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/08/31 23:30:36 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/26 20:44:46 |