ゲスト
(ka0000)
砲戦用ゴーレム(実験用)、データ収集依頼
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/13 07:30
- 完成日
- 2016/05/21 17:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国西方・リベルタース地方── 敵本拠地イスルダ島と海を挟んで面するこの地は王国における対歪虚戦の最前線である。
その地に築かれた王国の最重要拠点の一つ、ハルトフォート砦の司令官・ラーズスヴァンは、比類なき剛勇をもって知られる武人であると同時に、大砲開発に(ともすれば度を過ぎた)熱情を注ぐ『技術者』でもある。
彼は、彼の理想とする大砲開発を実現する予算を獲得する為、王国内で技術研究が発足したばかりの『ゴーレム』開発に相乗りすることにした。
ゴーレム──刻令術と呼ばれる魔導技術によって操作される大きな無機物の人形に、彼が開発した大砲を据え付け、自走砲台とする── かくして、ハルトフォート砦において、『砲戦用ゴーレム』の開発は始まった。
●
ハルトフォート砦『特種兵站幕僚』ジョアン・R・パラディールは、その日、とある荷物を待つ為に、大河ティベリスに面する艀の一つに出張っていた。
王都イルダーナから発する河川交通用の大型船は、砦の維持や補修に必要な物資を搬入するには最も適した輸送手段だ。陸路よりもずっと早く、多くの資材や人員を運ぶことができる。
だが、その日、ジョアンが待っていたのは、そんな『定期便』ではなかった。その定期便に曳かれて大河を下ってきた大筏──その上に固定されて運ばれてきた2つの岩塊が、彼が待つ『荷物』であった。
この日の為に新設された『上陸用の砂浜』に、船から解かれた筏が寄せる。
「動かせるのか?」
ジョアンは訊ねた。船乗りとは趣が異なるローブ姿の若い女が、ジャバジャバと水を蹴立てて陸へと揚がる。
「勿論!」
女は答えた。筏上の荷から伸びたケーブルを何か鞄の様に大きな機械を繋げ。レバーを大きく上へと入れる。
その瞬間、何か軋む様な音と共に…… 筏の上に横たえられていた岩塊が、ゆっくりと『身を起こし』始めた。
「これが…… これがゴーレムか」
初めて見るその『異様』に、言葉をなくして立ち尽くすジョアン。
その『威容』を誇らしげに、ゴーレム刻令術師の娘が「にしし」と笑った。
「砲戦用ゴーレム開発の為、催促されていた実験用の素体ゴーレム2体。本日付をもって砦に搬入いたしました。受け取りにサインをお願いします!」
ハルトフォート砦、ラーズスヴァンの執務室── ジョアンに案内されて来た刻令術師の娘がそう報告した瞬間。それまでデスクでつまらなそうに書類仕事をしていたドワーフの司令官は「そうか!」と叫ぶと、まるでおもちゃの到着を待ちわびた子供の様に、書類も何もかもおっぽって執務室を飛び出していった。
逃げられた、と舌打ち、悪態を吐く副官。ジョアンはそちらに同情の視線を向けた後、驚き、目を丸くして立ち竦む刻令術師について来るよう声を掛けた。
慌てて追いかけて来る彼女を待つようにゆっくりと、砦の中枢──タワー・ハウスを下り、地下工房と砲台に面した中庭に出る。
「……星型のお堀? 随分と面白い形の砦ね」
「所謂、中世的な城郭から稜堡式城郭へと移行してる最中なんだ。大砲が普及してない王国では確かに珍しいかもしれない」
もっとも、予算の都合上、工事は遅々として進まないけれど…… そう苦笑している内に目的地へと到着する。
ラーズスヴァンはそこにいた。搬入されたばかりのゴーレム2体、その肩部に、早速、大砲の据え付け工事が行われていた。
「まったく…… まだ受け取りのサインもしていないのに」
ジョアンがぼやくと、ラーズスヴァンがゴーレムを見上げたまま、その野太い腕を伸ばしてきた。書類を乗せたボードを渡すと、視線を落としもせずに受け取りのサインを書き殴る。
「これでこいつはわしのものだな」
豪快に笑うドワーフの司令官。欄外に大きくはみ出した(というか、あさっての場所に記された)サインに、刻令術師の娘が困ったようにジョアンを見返す。
「では、こいつの概要を説明してくれ」
「あ、は、はい! これはゴーレムで大砲を運用する上でのデータ収集を目的とした試作ゴーレムです。材質は『クレイ(土塊)』と『ストーン(岩塊)』が1体ずつ。試作と言っても量産化を前提にしたものではなく、『取り合えず作ってみた』という意味での試作で、実験機としての意味合いが強いです。これは『とりあえず実機を寄越せ』というハルトフォートからの無茶な要求を無理に通した結果であり……」
「で、こいつはどこまで動かせるんだ?」(←聞いてない)
「……。元々存在していた『基本運動関係』の刻令術は『感知系』のそれと連動したまま残してあります。でも、元々刻令術にない動作は手動で動かすかこちらでデータ化してやる必要が……」
「さっぱりわからん。もっと具体的には言えんのか?」
「ガッデム! コントローラーで『歩け』とコマンドを入れてやれば、障害物とか地面の平衡とか感知して、ある程度勝手にゴーレムは歩いてくれます! でも、砲撃姿勢とか、弾込め動作とか、この砲の角度だと弾どれくらいの距離飛ぶんだよ、とか言うのは、元々の刻令術にはないので、そっちで勝手に実験せいや! ……ってことです。こほん」
一気に言い切り、我に返って咳払いをする刻令術師の娘を振り返り、ラーズスヴァンがニヤリと笑う。
「と、言うわけでな、小僧」
「はい(……嫌な予感)」
「お前、ちょっくらこのゴーレムたちと前線行って来て、そのデータとやらを取って来い」
「……はい(やっぱり……)」
「こっちの土塊には固定式の砲をつけておいた。弾着修正はゴーレム自体を動かして行え。そっちの岩塊には上下可動式の砲。腕の上下で着弾距離の修正ができる。……距離は、だが」
現時点で用意できた弾種は2種。中長距離砲撃用の普通の円弾(所謂、砲丸。非炸裂)と、対小目標用のキャニスター弾(発射後、扇状に散弾をばら撒く近接戦闘用の砲弾)だ。マテリアル式で時差炸裂する砲弾も開発予定ではあったのだが…… ラーズスヴァンが招聘した同族の技術者3名がなぜか未だに到着せず、開発は進んでいない。
「……そんな状態で、本当に戦場に出してしまって大丈夫なんですか? まずは後方で実用に耐え得るレベルにまで持っていく必要があると思いますが」
「そうよ! せっかくのゴーレム2体、いきなり壊されでもしたら堪らないわ!」
刻令術師の娘が横から口を出すと、ドワーフは「わかった」と頷いた。──その辺のやり方は『お前ら』に一任する。だが、実戦でなければ得られぬ戦訓というものもまた多いのもまた事実。
「え? 『お前ら』……?」
そう自身を指差しながら…… その意味を理解した娘が「えーっ!?」と大声で抗議した。
「そう喚くな。護衛にハンターたちをつけてやる。……実際にゴーレムを扱うのは彼等だしな。改めて意見も言ってもらって来ると良い」
その地に築かれた王国の最重要拠点の一つ、ハルトフォート砦の司令官・ラーズスヴァンは、比類なき剛勇をもって知られる武人であると同時に、大砲開発に(ともすれば度を過ぎた)熱情を注ぐ『技術者』でもある。
彼は、彼の理想とする大砲開発を実現する予算を獲得する為、王国内で技術研究が発足したばかりの『ゴーレム』開発に相乗りすることにした。
ゴーレム──刻令術と呼ばれる魔導技術によって操作される大きな無機物の人形に、彼が開発した大砲を据え付け、自走砲台とする── かくして、ハルトフォート砦において、『砲戦用ゴーレム』の開発は始まった。
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ハルトフォート砦『特種兵站幕僚』ジョアン・R・パラディールは、その日、とある荷物を待つ為に、大河ティベリスに面する艀の一つに出張っていた。
王都イルダーナから発する河川交通用の大型船は、砦の維持や補修に必要な物資を搬入するには最も適した輸送手段だ。陸路よりもずっと早く、多くの資材や人員を運ぶことができる。
だが、その日、ジョアンが待っていたのは、そんな『定期便』ではなかった。その定期便に曳かれて大河を下ってきた大筏──その上に固定されて運ばれてきた2つの岩塊が、彼が待つ『荷物』であった。
この日の為に新設された『上陸用の砂浜』に、船から解かれた筏が寄せる。
「動かせるのか?」
ジョアンは訊ねた。船乗りとは趣が異なるローブ姿の若い女が、ジャバジャバと水を蹴立てて陸へと揚がる。
「勿論!」
女は答えた。筏上の荷から伸びたケーブルを何か鞄の様に大きな機械を繋げ。レバーを大きく上へと入れる。
その瞬間、何か軋む様な音と共に…… 筏の上に横たえられていた岩塊が、ゆっくりと『身を起こし』始めた。
「これが…… これがゴーレムか」
初めて見るその『異様』に、言葉をなくして立ち尽くすジョアン。
その『威容』を誇らしげに、ゴーレム刻令術師の娘が「にしし」と笑った。
「砲戦用ゴーレム開発の為、催促されていた実験用の素体ゴーレム2体。本日付をもって砦に搬入いたしました。受け取りにサインをお願いします!」
ハルトフォート砦、ラーズスヴァンの執務室── ジョアンに案内されて来た刻令術師の娘がそう報告した瞬間。それまでデスクでつまらなそうに書類仕事をしていたドワーフの司令官は「そうか!」と叫ぶと、まるでおもちゃの到着を待ちわびた子供の様に、書類も何もかもおっぽって執務室を飛び出していった。
逃げられた、と舌打ち、悪態を吐く副官。ジョアンはそちらに同情の視線を向けた後、驚き、目を丸くして立ち竦む刻令術師について来るよう声を掛けた。
慌てて追いかけて来る彼女を待つようにゆっくりと、砦の中枢──タワー・ハウスを下り、地下工房と砲台に面した中庭に出る。
「……星型のお堀? 随分と面白い形の砦ね」
「所謂、中世的な城郭から稜堡式城郭へと移行してる最中なんだ。大砲が普及してない王国では確かに珍しいかもしれない」
もっとも、予算の都合上、工事は遅々として進まないけれど…… そう苦笑している内に目的地へと到着する。
ラーズスヴァンはそこにいた。搬入されたばかりのゴーレム2体、その肩部に、早速、大砲の据え付け工事が行われていた。
「まったく…… まだ受け取りのサインもしていないのに」
ジョアンがぼやくと、ラーズスヴァンがゴーレムを見上げたまま、その野太い腕を伸ばしてきた。書類を乗せたボードを渡すと、視線を落としもせずに受け取りのサインを書き殴る。
「これでこいつはわしのものだな」
豪快に笑うドワーフの司令官。欄外に大きくはみ出した(というか、あさっての場所に記された)サインに、刻令術師の娘が困ったようにジョアンを見返す。
「では、こいつの概要を説明してくれ」
「あ、は、はい! これはゴーレムで大砲を運用する上でのデータ収集を目的とした試作ゴーレムです。材質は『クレイ(土塊)』と『ストーン(岩塊)』が1体ずつ。試作と言っても量産化を前提にしたものではなく、『取り合えず作ってみた』という意味での試作で、実験機としての意味合いが強いです。これは『とりあえず実機を寄越せ』というハルトフォートからの無茶な要求を無理に通した結果であり……」
「で、こいつはどこまで動かせるんだ?」(←聞いてない)
「……。元々存在していた『基本運動関係』の刻令術は『感知系』のそれと連動したまま残してあります。でも、元々刻令術にない動作は手動で動かすかこちらでデータ化してやる必要が……」
「さっぱりわからん。もっと具体的には言えんのか?」
「ガッデム! コントローラーで『歩け』とコマンドを入れてやれば、障害物とか地面の平衡とか感知して、ある程度勝手にゴーレムは歩いてくれます! でも、砲撃姿勢とか、弾込め動作とか、この砲の角度だと弾どれくらいの距離飛ぶんだよ、とか言うのは、元々の刻令術にはないので、そっちで勝手に実験せいや! ……ってことです。こほん」
一気に言い切り、我に返って咳払いをする刻令術師の娘を振り返り、ラーズスヴァンがニヤリと笑う。
「と、言うわけでな、小僧」
「はい(……嫌な予感)」
「お前、ちょっくらこのゴーレムたちと前線行って来て、そのデータとやらを取って来い」
「……はい(やっぱり……)」
「こっちの土塊には固定式の砲をつけておいた。弾着修正はゴーレム自体を動かして行え。そっちの岩塊には上下可動式の砲。腕の上下で着弾距離の修正ができる。……距離は、だが」
現時点で用意できた弾種は2種。中長距離砲撃用の普通の円弾(所謂、砲丸。非炸裂)と、対小目標用のキャニスター弾(発射後、扇状に散弾をばら撒く近接戦闘用の砲弾)だ。マテリアル式で時差炸裂する砲弾も開発予定ではあったのだが…… ラーズスヴァンが招聘した同族の技術者3名がなぜか未だに到着せず、開発は進んでいない。
「……そんな状態で、本当に戦場に出してしまって大丈夫なんですか? まずは後方で実用に耐え得るレベルにまで持っていく必要があると思いますが」
「そうよ! せっかくのゴーレム2体、いきなり壊されでもしたら堪らないわ!」
刻令術師の娘が横から口を出すと、ドワーフは「わかった」と頷いた。──その辺のやり方は『お前ら』に一任する。だが、実戦でなければ得られぬ戦訓というものもまた多いのもまた事実。
「え? 『お前ら』……?」
そう自身を指差しながら…… その意味を理解した娘が「えーっ!?」と大声で抗議した。
「そう喚くな。護衛にハンターたちをつけてやる。……実際にゴーレムを扱うのは彼等だしな。改めて意見も言ってもらって来ると良い」
リプレイ本文
ハルトフォート砦、西門前──
ずしん……ずしん……と重い音を響かせながら門より出で来た『それ』を間近に見上げて…… 葛音 水月(ka1895)とナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の2人は「はわー……」と大きく口を開けた。
「資料では見てましたけど…… これが実物のゴーレムですか……」
「砲を備えた岩の巨人…… ずらりと並べば歩く城壁ですね!」
その言葉に、きらきら瞳を輝かせた水月が「わかります!」とナナセに詰め寄る。
「完成したこれを並べて砲列射撃! とか格好良さそうでどきどきですねっ! 目指す方向性としては、『少人数で運用できて、最低限の自衛能力を持つカノン砲』といったところでしょーか!」
普段はのんびりやな水月が見せた突然の熱量に、元気印のナナセ姐さんも若干、押された。初めて見るゴーレムに興味津々なナナセであったが、辺境出身ということもあって、魔導技術にはそんなに詳しくない。
「そうじゃな。動いて、ある程度自衛できる大砲、程度に私も考えているよ」
ちまっとしたドワーフ姐さん、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が、横から助け舟を出した。
レーヴェはこのゴーレムの遠距離砲戦能力──特に、城壁や構造物の破壊といった攻城能力を重視していた。近距離戦能力には期待していない。そこは役割分担すれば良いだけの話だ。
一方、同じく見た目ちまっとしたメル・アイザックス(ka0520)姐さんは、リアルブルーで言うところの『突撃砲』、即ち『歩兵の盾』としての役割も期待していた。今回も機会があれば近接戦闘にも耐え得るかテストしたいと思っている。
「将来的には、ボクらのいた世界での戦闘車両みたいな位置づけになるのかな? だったら、そちらを見据えての運用方法を考えてみるのも大事かな」
元ロッソのCAM操縦士、フラン・レンナルツ(ka0170)は、手元の資料をパラパラ捲りながら「うーん……」と唇に指を当てた。彼女の想定する方向性は、メルのものより更に進んでMBTのそれに近い。
「確かに使い方次第では色々できそうだけど……」
三角帽子の月影 夕姫(ka0102)は、生真面目な表情で思案気に呟いた。夕姫自身は砲撃という部分に興味を持っており、どちらかと言えばレーヴェ寄りの考え方だ。
「これ、低コスト路線で開発を進める前提ですよね?」
屈託の無い笑顔でナナセがジョアンを振り返る。
ジョアンの歯切れは悪かった。
王国は大国だ。だが、工業化に関しては…… ゴーレムや砲を大量生産する為の設備も技術もノウハウもない。
低コストと多様性──それを両立させるには…… 素体はなるべく安価に抑えつつ、使い手の用途に応じて装備を整えてもらう方向性か──?
悩むジョアン。その服の裾をクイクイと引っ張る者がいた。
横を見て、視線を下げる。そこに、くまのぬいぐるみを抱えたちびっこ、佐藤 絢音(ka0552)がいた。
「ごーれむさんがきちんと使えるかの試験はだいじなの。あやねがちゃんと護衛するのよ」
絢音は励ます様にジョアンの背中を叩くと、グッと親指を突き出した。
●
砦近郊の実験場──という名のただの野っ原に向けて、一行は移動を開始した。
のしのし歩く2体のゴーレム。それに後続する資材を載せた馬車とを中心に、その後側方に広く展開しながらハンターたちが随伴する。
「歩兵に側面を守らせたり、連携も大切だよね。ゴーレムが向ける事が出来る砲の角度は広くはないし」
実験場への移動の際も、フランは実用後の運用を想定した動きを実践していた。今は2台しかないが、将来的には、縦隊や横隊、斜行陣、楔形陣、凹角陣など、戦闘車両的な行進・展開・突撃・防御といった部隊行動も意識しておいた方が良いかもしれない──ゴーレムと馬車と『歩兵たち』が道行く光景を見やりながら、フランはそんな事を考える。
実験場に到着したハンターたちは、まず実験場の後方、見晴らしの良い丘の上にテントで『指揮所』を開設すると、まずは砲の特性を理解する為、平地へゴーレムを前進させた。
クレイ型にはメルが、ストーン型には水月が、操縦者としてそれぞれついた。2人は刻令術師からコントローラー──伝導用のケーブルでゴーレムと繋がっている──を受け取り、操作方法のレクチャーを受ける。
「このレバーが前進と後退、こちらの左右で旋回…… こちらの2つが両腕の操作、でいいんだよねっ? えっと……?」
「エレン。エレン・ブラッドリー。エレンでいいわよ」
「じゃ、エレンさん。これ、砲の射角や方位、機体の水平とか分かる機器とかあるといいかもー」
「あと、可能なら機体と連動する画面がコントローラーに欲しいかも! あとあと、激戦時には狙いとかつけられなさそうだから、ボタン一つで砲の角度を幾つか取れるようにしたらどうかなっ?」
一方、機体側──
メルの声を聞いた天央 観智(ka0896)が、ゴーレムに備え付けられた砲について、ジョアンに訊ねた。
「……砲弾の初速の均一化は完了していますか? 砲手の匙加減で射程を決めるような砲のままでは、幾ら砲角と射距離のサンプルを取ったところで意味がありませんが」
「その点に関しては処置済み、と司令官から聞いています。リミッターを掛ける事で、砲の『薬室』──便宜上、そう訳された──に込められるマテリアル量を制限したそうで、その上限で撃てば常に一定だとか何とか……」
観智は頷いた。決してエレガントではないが、対処法としては実際的だ。ともあれ、これである程度は流体力学的に、ニュートン力学的に砲弾の軌道予測が出来そうだ。つまり、今、夕姫らがしている作業も無駄にはならない。
その夕姫は、立てかけた梯子でゴーレムの肩部の砲へと上がって、糸を使って砲身側面、その中心線に正確に直線を記していた。そして、巨大な分度器──学校の授業で使うようなやつだ──を砲の基点に設置し、砲を上下するよう水月に指示を出す。
「どうしますー? まずは最大射程から計りますかー?」
「ええ。まずは45度からいきましょう。距離を測った後、弾着のバラツキ具合を計測して…… その後はとりあえず15度間隔で」
笛が鳴る。ジョアンと共にゴーレムの近くから退避する観智。滑る様に梯子を下りた夕姫が、その梯子を抱えて後を追う。ブブブブブ……とバイクで前進し、ゴーレムからの距離を記した木の板を10mごとに──軽機の銃床をハンマー代わりに──地面へ突き立てていたフランが、全ての板を打ち終えたのを確認した後、全速力でその場を離脱する。
大きく一歩を踏み出し、片膝をつき始めるゴーレムたち── メルと水月がゴーレムの腕を慎重に操作…… 縦軸合わせ……横軸合わせ……とぎこちなく動いた腕が、背部の弾薬ラックから砲丸を取り出し…… 再び、縦軸合わせ、横軸合わせで砲口に弾を持っていく。
「……仕方の無いことですが、やはり時間が掛かり過ぎますね。砲弾や砲口の位置を自動で感知できませんか?」
必死に腕を操作する2人を見やりながら、観智が傍らに立つエレンに訊ねた。
「元々、ゴーレムの刻令術に、大砲をどうこうする動作や機能はありませんから…… 刻令術の研究自体、まだまだ生まれたばかりの学問です。ゴーレムに関しても、利用できる部分を利用している段階に過ぎません」
「……なるほど。データの共有化などはまだ夢のまた夢みたいですね…… では、『感覚系』で目標の距離とか速度とか、風向き、風速等の砲撃に関する諸元を測定したり、弾着を自分で『観測』して自動で修正させたりすることも……」
首を振るエレン。本来なら、あのゴーレムだってまだまだ研究段階のものなんです── そう言い終わる前に、再び、けたたましく笛が鳴る。
甲高い、それでいて腹にまで響く重い発砲音── 音速を超えた砲弾が砲口から飛び出す際の衝撃波が生み出す砲声は、魔導砲と言えども変わらない。
砲撃の瞬間、それまで物珍しそうに周囲を飛んでいた妖精が、慌ててナナセの元へと戻った。
肩にしがみ付いて怯える妖精を宥めるナナセ。暫くして、落着した砲弾が土煙と共に地面を砕いてめり込む。
「散布界がばらけてる…… やはり命中精度は高くはないわね……」
複数回の弾着を双眼鏡で確認し、呟く夕姫。一方、ナナセはゴーレムの方へと視線を向ける。
「んんー…… 敵の立場に立って倒し方とか考えちゃうと…… やっぱり操縦手を射殺すのが楽ですかねー」
「やはり装填の自動化は必須ね。今のままだと人の手で弾を込めた方が早いわ」
「砲撃姿勢のコマンド化も、ですね」
休憩時── 丘の上のテントの下で昼食を取りながら、夕姫と観智がジョアンに告げた。
食事の内容は、ベーコンとチーズを乗せて炙ったパンと、キャベツと玉葱のスープ── 温かいそれらの食事は、なんとドワーフ姐さん・レーヴェの手によって作られたものだった。技術畑の印象が強い彼女だが、知を求めて料理の分野にも手を出した事があった。本職と同様に拘りを見せており、ベーコンの焼け具合、チーズの焦げの面積比率、きらきらと黄金色に輝くスープはなんとも芸術的……ではあるのだが、皆はそこまで気づいてくれない。
「煤払いの必要がないのは、魔導砲の利点ですけどねー」
砲の消耗具合を確認してきた水月が遅れて食卓につく。
子供好きのちびっこ姐さん・メルの横でチーズをはむはむ食べていた絢音が椅子からひょいと降り。ジョアンの所にとことこ歩いて、袖を引いて話し掛ける。
「あのね、大規模戦では弱い敵もワラワラ出てくるの。だから、面制圧がたいせつだと思うの。りあるぶるーで有名なのは、クラスター弾なの。上空で炸裂して小さい爆弾の雨を降らせる武器なの。サッカー場一面くらいの広さなら更地に出来るの」
(未だに)困惑するジョアンにコクリと頷いて、絢音はチーズとベーコンの無くなったパンを「あげる」と(無理矢理)手渡し、再び自席へ歩いて帰る。
「ふむ。榴弾は空中で炸裂させた方が効果が高いですからね。今のままでは動目標に当たりませんし……砲弾を一種のゴーレム化して、近接信管的に運用できれば……」
観智がぶつぶつと己の構想を思案し始めた時…… テントの外から、警戒を促す鐘の音が鳴り響いた。
慌てて飛び出すハンターたち。停止状態のゴーレムの上に立って見張りをしていたナナセが、荒野に目を凝らして告げる。
「雑魔の群れだ。黒い丸いのが蚤みたいにぴょんぴょん跳ねながらこっちに来ている」
その敵の群れの中に、一際大きな黒いまりもみたいな敵がいた。それは跳ねることもできずに、地表をごろごろ転がりながら接近を続けている。
警報が鳴る。
急ぎコントローラーに取り付くメルと水月。観智は短銃を手にゴーレムの直掩に回り。フランは魔導バイクに跨ると、ゴーレムの側方について軽機関銃を敵へと構える。
「……『実戦の中でしか分からない事もある』と司令は言ってましたけど…… それはちゃんと事前準備をした上で、の話ですよね……」
「はっはっはっ。実践に勝るものなし! 肝心なところで大雑把なのはいかにもドワーフらしいだろう?」(←ヒトによります)
観智のぼやきに、豪快に笑ってみせるレーヴェ。夕姫は「ちょうど良い的ね」と呟きながらゴーレムの側まで移動。双眼鏡を覗いて操作手2人に彼我の距離と目標の移動速度を伝達する。
砲声が立て続けに鳴り響き── 迫る敵に合わせて砲の角度を調節しつつ、弾着修正を繰り返し…… やがて複数の直撃弾でもって敵大物を撃破する。
だが、その間に、敵の小物が大群でこちらに迫りつつあった。敵に肉薄されてしまえば、小回りの利かないゴーレムはどうしても不利を免れ得ない。
「その為に、ボクたちがいる」
呟き、迫る敵へ向けバイクを台座に軽機を撃ち捲るフラン。腕に双頭の蛇のオーラを纏わせたナナセが、弓に番えた2本の矢を引き絞り……投射。跳ね迫る雑魔を同時に貫く。
「キャニスター弾の出番なの!」
長射程型の『デルタレイ』──三角の頂点から放たれる3条の光線で3方の敵を切り裂きながら、絢音がゴーレムを振り返る。
当たるかね、と呟きながらも、レーヴェは矢にマテリアルの冷気を纏わせると、立て続けにそれを放って凍らせ、その動きを阻害する。
「今日、どれだけの装弾作業を行ったと思って…… くらえっ! 必殺、十字ボタン、斜め入力ー!」
なんか漫画調で瞳をめらめらと燃やした水月が、ラックから取り出した円筒形の砲弾をなめらかな動きで砲へと装填。続けて砲の角度を0度に──水平射撃の態勢を取る。
メルもまた同様に「炎の○マ~!」とか叫びながらキャニスター弾を装填すると、ゴーレムに固定された砲の射角を0に取るべく、斜面に手をついて四つん這いの姿勢を取らせる。
「各員退避! 砲口前に出ぬよう留意!」
フランの叫びに、ゴーレム前面より一斉に退避するハンターたち。ジェットブーツを噴かした絢音が後方へ跳び、迫る敵と砲の射界から一瞬で距離を取る。
「「いっけぇ~!」」
叩きつけられる砲撃ボタン。同時に砲声が轟いて── 瞬間、地上を跳ね迫り来ていた雑魔たちが、まるで見えない壁にぶつかったかの様に波状的に地面へ落下した。
「……当たったな」
「範囲攻撃ですものね。……なかなか便利そうですねー。マテリアルの散弾矢とか、スキルで再現できないかな……?」
意外な顔をするレーヴェと羨ましそうに思案するナナセ。だが、夕姫は皆に「まだよ」と告げつつ、大鎌を手に前へと走る。
散弾を喰らった雑魔たちが、再び地を跳ね始めていた。……範囲攻撃であるが故に、威力はどうしても弱くなる。特に歪虚が相手となれば……
「ま、私的には足止めになればそれで良いけどな!」
レーヴェは再び弓に矢を番えると、残敵の掃討を始めた夕姫を支援すべく、その矢を放った。
●
全ての雑魔を蹴散らし、或いは追い散らして── その日の運用実験は終了した。
砦への道すがら。馬車の中でジョアンが皆に意見を聞く。
「一刻も早い『榴弾』の開発を! キャニスター弾だけでは敵を押さえられません!」
「円弾だけだと命中精度が悪いしね。なるべく遠くから、数を揃えて一斉に面攻撃、ってのが基本運用かな?」
水月と夕姫が言う。皆の案と意見は砦についてから書面に纏めます、と告げる夕姫に、ジョアンが礼を言い、多難な前途に溜め息を吐く。
(伸び代はある子だとは思うんだけどなぁ…… 刻令術も、砲も、ゴーレムも……王国も)
その裾が引っ張られた。ジョアンは横を見、視線を下げた。
「とりあえず、砲門数を増やした方が良いの。あと砲を後装式にできれば、あやねたちでも弾を込められるの」
そう言って絢音は絵を描いた。
多連装砲に手足を生やしただけのその姿は……色んな意味で、ヤバかった。
ずしん……ずしん……と重い音を響かせながら門より出で来た『それ』を間近に見上げて…… 葛音 水月(ka1895)とナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の2人は「はわー……」と大きく口を開けた。
「資料では見てましたけど…… これが実物のゴーレムですか……」
「砲を備えた岩の巨人…… ずらりと並べば歩く城壁ですね!」
その言葉に、きらきら瞳を輝かせた水月が「わかります!」とナナセに詰め寄る。
「完成したこれを並べて砲列射撃! とか格好良さそうでどきどきですねっ! 目指す方向性としては、『少人数で運用できて、最低限の自衛能力を持つカノン砲』といったところでしょーか!」
普段はのんびりやな水月が見せた突然の熱量に、元気印のナナセ姐さんも若干、押された。初めて見るゴーレムに興味津々なナナセであったが、辺境出身ということもあって、魔導技術にはそんなに詳しくない。
「そうじゃな。動いて、ある程度自衛できる大砲、程度に私も考えているよ」
ちまっとしたドワーフ姐さん、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が、横から助け舟を出した。
レーヴェはこのゴーレムの遠距離砲戦能力──特に、城壁や構造物の破壊といった攻城能力を重視していた。近距離戦能力には期待していない。そこは役割分担すれば良いだけの話だ。
一方、同じく見た目ちまっとしたメル・アイザックス(ka0520)姐さんは、リアルブルーで言うところの『突撃砲』、即ち『歩兵の盾』としての役割も期待していた。今回も機会があれば近接戦闘にも耐え得るかテストしたいと思っている。
「将来的には、ボクらのいた世界での戦闘車両みたいな位置づけになるのかな? だったら、そちらを見据えての運用方法を考えてみるのも大事かな」
元ロッソのCAM操縦士、フラン・レンナルツ(ka0170)は、手元の資料をパラパラ捲りながら「うーん……」と唇に指を当てた。彼女の想定する方向性は、メルのものより更に進んでMBTのそれに近い。
「確かに使い方次第では色々できそうだけど……」
三角帽子の月影 夕姫(ka0102)は、生真面目な表情で思案気に呟いた。夕姫自身は砲撃という部分に興味を持っており、どちらかと言えばレーヴェ寄りの考え方だ。
「これ、低コスト路線で開発を進める前提ですよね?」
屈託の無い笑顔でナナセがジョアンを振り返る。
ジョアンの歯切れは悪かった。
王国は大国だ。だが、工業化に関しては…… ゴーレムや砲を大量生産する為の設備も技術もノウハウもない。
低コストと多様性──それを両立させるには…… 素体はなるべく安価に抑えつつ、使い手の用途に応じて装備を整えてもらう方向性か──?
悩むジョアン。その服の裾をクイクイと引っ張る者がいた。
横を見て、視線を下げる。そこに、くまのぬいぐるみを抱えたちびっこ、佐藤 絢音(ka0552)がいた。
「ごーれむさんがきちんと使えるかの試験はだいじなの。あやねがちゃんと護衛するのよ」
絢音は励ます様にジョアンの背中を叩くと、グッと親指を突き出した。
●
砦近郊の実験場──という名のただの野っ原に向けて、一行は移動を開始した。
のしのし歩く2体のゴーレム。それに後続する資材を載せた馬車とを中心に、その後側方に広く展開しながらハンターたちが随伴する。
「歩兵に側面を守らせたり、連携も大切だよね。ゴーレムが向ける事が出来る砲の角度は広くはないし」
実験場への移動の際も、フランは実用後の運用を想定した動きを実践していた。今は2台しかないが、将来的には、縦隊や横隊、斜行陣、楔形陣、凹角陣など、戦闘車両的な行進・展開・突撃・防御といった部隊行動も意識しておいた方が良いかもしれない──ゴーレムと馬車と『歩兵たち』が道行く光景を見やりながら、フランはそんな事を考える。
実験場に到着したハンターたちは、まず実験場の後方、見晴らしの良い丘の上にテントで『指揮所』を開設すると、まずは砲の特性を理解する為、平地へゴーレムを前進させた。
クレイ型にはメルが、ストーン型には水月が、操縦者としてそれぞれついた。2人は刻令術師からコントローラー──伝導用のケーブルでゴーレムと繋がっている──を受け取り、操作方法のレクチャーを受ける。
「このレバーが前進と後退、こちらの左右で旋回…… こちらの2つが両腕の操作、でいいんだよねっ? えっと……?」
「エレン。エレン・ブラッドリー。エレンでいいわよ」
「じゃ、エレンさん。これ、砲の射角や方位、機体の水平とか分かる機器とかあるといいかもー」
「あと、可能なら機体と連動する画面がコントローラーに欲しいかも! あとあと、激戦時には狙いとかつけられなさそうだから、ボタン一つで砲の角度を幾つか取れるようにしたらどうかなっ?」
一方、機体側──
メルの声を聞いた天央 観智(ka0896)が、ゴーレムに備え付けられた砲について、ジョアンに訊ねた。
「……砲弾の初速の均一化は完了していますか? 砲手の匙加減で射程を決めるような砲のままでは、幾ら砲角と射距離のサンプルを取ったところで意味がありませんが」
「その点に関しては処置済み、と司令官から聞いています。リミッターを掛ける事で、砲の『薬室』──便宜上、そう訳された──に込められるマテリアル量を制限したそうで、その上限で撃てば常に一定だとか何とか……」
観智は頷いた。決してエレガントではないが、対処法としては実際的だ。ともあれ、これである程度は流体力学的に、ニュートン力学的に砲弾の軌道予測が出来そうだ。つまり、今、夕姫らがしている作業も無駄にはならない。
その夕姫は、立てかけた梯子でゴーレムの肩部の砲へと上がって、糸を使って砲身側面、その中心線に正確に直線を記していた。そして、巨大な分度器──学校の授業で使うようなやつだ──を砲の基点に設置し、砲を上下するよう水月に指示を出す。
「どうしますー? まずは最大射程から計りますかー?」
「ええ。まずは45度からいきましょう。距離を測った後、弾着のバラツキ具合を計測して…… その後はとりあえず15度間隔で」
笛が鳴る。ジョアンと共にゴーレムの近くから退避する観智。滑る様に梯子を下りた夕姫が、その梯子を抱えて後を追う。ブブブブブ……とバイクで前進し、ゴーレムからの距離を記した木の板を10mごとに──軽機の銃床をハンマー代わりに──地面へ突き立てていたフランが、全ての板を打ち終えたのを確認した後、全速力でその場を離脱する。
大きく一歩を踏み出し、片膝をつき始めるゴーレムたち── メルと水月がゴーレムの腕を慎重に操作…… 縦軸合わせ……横軸合わせ……とぎこちなく動いた腕が、背部の弾薬ラックから砲丸を取り出し…… 再び、縦軸合わせ、横軸合わせで砲口に弾を持っていく。
「……仕方の無いことですが、やはり時間が掛かり過ぎますね。砲弾や砲口の位置を自動で感知できませんか?」
必死に腕を操作する2人を見やりながら、観智が傍らに立つエレンに訊ねた。
「元々、ゴーレムの刻令術に、大砲をどうこうする動作や機能はありませんから…… 刻令術の研究自体、まだまだ生まれたばかりの学問です。ゴーレムに関しても、利用できる部分を利用している段階に過ぎません」
「……なるほど。データの共有化などはまだ夢のまた夢みたいですね…… では、『感覚系』で目標の距離とか速度とか、風向き、風速等の砲撃に関する諸元を測定したり、弾着を自分で『観測』して自動で修正させたりすることも……」
首を振るエレン。本来なら、あのゴーレムだってまだまだ研究段階のものなんです── そう言い終わる前に、再び、けたたましく笛が鳴る。
甲高い、それでいて腹にまで響く重い発砲音── 音速を超えた砲弾が砲口から飛び出す際の衝撃波が生み出す砲声は、魔導砲と言えども変わらない。
砲撃の瞬間、それまで物珍しそうに周囲を飛んでいた妖精が、慌ててナナセの元へと戻った。
肩にしがみ付いて怯える妖精を宥めるナナセ。暫くして、落着した砲弾が土煙と共に地面を砕いてめり込む。
「散布界がばらけてる…… やはり命中精度は高くはないわね……」
複数回の弾着を双眼鏡で確認し、呟く夕姫。一方、ナナセはゴーレムの方へと視線を向ける。
「んんー…… 敵の立場に立って倒し方とか考えちゃうと…… やっぱり操縦手を射殺すのが楽ですかねー」
「やはり装填の自動化は必須ね。今のままだと人の手で弾を込めた方が早いわ」
「砲撃姿勢のコマンド化も、ですね」
休憩時── 丘の上のテントの下で昼食を取りながら、夕姫と観智がジョアンに告げた。
食事の内容は、ベーコンとチーズを乗せて炙ったパンと、キャベツと玉葱のスープ── 温かいそれらの食事は、なんとドワーフ姐さん・レーヴェの手によって作られたものだった。技術畑の印象が強い彼女だが、知を求めて料理の分野にも手を出した事があった。本職と同様に拘りを見せており、ベーコンの焼け具合、チーズの焦げの面積比率、きらきらと黄金色に輝くスープはなんとも芸術的……ではあるのだが、皆はそこまで気づいてくれない。
「煤払いの必要がないのは、魔導砲の利点ですけどねー」
砲の消耗具合を確認してきた水月が遅れて食卓につく。
子供好きのちびっこ姐さん・メルの横でチーズをはむはむ食べていた絢音が椅子からひょいと降り。ジョアンの所にとことこ歩いて、袖を引いて話し掛ける。
「あのね、大規模戦では弱い敵もワラワラ出てくるの。だから、面制圧がたいせつだと思うの。りあるぶるーで有名なのは、クラスター弾なの。上空で炸裂して小さい爆弾の雨を降らせる武器なの。サッカー場一面くらいの広さなら更地に出来るの」
(未だに)困惑するジョアンにコクリと頷いて、絢音はチーズとベーコンの無くなったパンを「あげる」と(無理矢理)手渡し、再び自席へ歩いて帰る。
「ふむ。榴弾は空中で炸裂させた方が効果が高いですからね。今のままでは動目標に当たりませんし……砲弾を一種のゴーレム化して、近接信管的に運用できれば……」
観智がぶつぶつと己の構想を思案し始めた時…… テントの外から、警戒を促す鐘の音が鳴り響いた。
慌てて飛び出すハンターたち。停止状態のゴーレムの上に立って見張りをしていたナナセが、荒野に目を凝らして告げる。
「雑魔の群れだ。黒い丸いのが蚤みたいにぴょんぴょん跳ねながらこっちに来ている」
その敵の群れの中に、一際大きな黒いまりもみたいな敵がいた。それは跳ねることもできずに、地表をごろごろ転がりながら接近を続けている。
警報が鳴る。
急ぎコントローラーに取り付くメルと水月。観智は短銃を手にゴーレムの直掩に回り。フランは魔導バイクに跨ると、ゴーレムの側方について軽機関銃を敵へと構える。
「……『実戦の中でしか分からない事もある』と司令は言ってましたけど…… それはちゃんと事前準備をした上で、の話ですよね……」
「はっはっはっ。実践に勝るものなし! 肝心なところで大雑把なのはいかにもドワーフらしいだろう?」(←ヒトによります)
観智のぼやきに、豪快に笑ってみせるレーヴェ。夕姫は「ちょうど良い的ね」と呟きながらゴーレムの側まで移動。双眼鏡を覗いて操作手2人に彼我の距離と目標の移動速度を伝達する。
砲声が立て続けに鳴り響き── 迫る敵に合わせて砲の角度を調節しつつ、弾着修正を繰り返し…… やがて複数の直撃弾でもって敵大物を撃破する。
だが、その間に、敵の小物が大群でこちらに迫りつつあった。敵に肉薄されてしまえば、小回りの利かないゴーレムはどうしても不利を免れ得ない。
「その為に、ボクたちがいる」
呟き、迫る敵へ向けバイクを台座に軽機を撃ち捲るフラン。腕に双頭の蛇のオーラを纏わせたナナセが、弓に番えた2本の矢を引き絞り……投射。跳ね迫る雑魔を同時に貫く。
「キャニスター弾の出番なの!」
長射程型の『デルタレイ』──三角の頂点から放たれる3条の光線で3方の敵を切り裂きながら、絢音がゴーレムを振り返る。
当たるかね、と呟きながらも、レーヴェは矢にマテリアルの冷気を纏わせると、立て続けにそれを放って凍らせ、その動きを阻害する。
「今日、どれだけの装弾作業を行ったと思って…… くらえっ! 必殺、十字ボタン、斜め入力ー!」
なんか漫画調で瞳をめらめらと燃やした水月が、ラックから取り出した円筒形の砲弾をなめらかな動きで砲へと装填。続けて砲の角度を0度に──水平射撃の態勢を取る。
メルもまた同様に「炎の○マ~!」とか叫びながらキャニスター弾を装填すると、ゴーレムに固定された砲の射角を0に取るべく、斜面に手をついて四つん這いの姿勢を取らせる。
「各員退避! 砲口前に出ぬよう留意!」
フランの叫びに、ゴーレム前面より一斉に退避するハンターたち。ジェットブーツを噴かした絢音が後方へ跳び、迫る敵と砲の射界から一瞬で距離を取る。
「「いっけぇ~!」」
叩きつけられる砲撃ボタン。同時に砲声が轟いて── 瞬間、地上を跳ね迫り来ていた雑魔たちが、まるで見えない壁にぶつかったかの様に波状的に地面へ落下した。
「……当たったな」
「範囲攻撃ですものね。……なかなか便利そうですねー。マテリアルの散弾矢とか、スキルで再現できないかな……?」
意外な顔をするレーヴェと羨ましそうに思案するナナセ。だが、夕姫は皆に「まだよ」と告げつつ、大鎌を手に前へと走る。
散弾を喰らった雑魔たちが、再び地を跳ね始めていた。……範囲攻撃であるが故に、威力はどうしても弱くなる。特に歪虚が相手となれば……
「ま、私的には足止めになればそれで良いけどな!」
レーヴェは再び弓に矢を番えると、残敵の掃討を始めた夕姫を支援すべく、その矢を放った。
●
全ての雑魔を蹴散らし、或いは追い散らして── その日の運用実験は終了した。
砦への道すがら。馬車の中でジョアンが皆に意見を聞く。
「一刻も早い『榴弾』の開発を! キャニスター弾だけでは敵を押さえられません!」
「円弾だけだと命中精度が悪いしね。なるべく遠くから、数を揃えて一斉に面攻撃、ってのが基本運用かな?」
水月と夕姫が言う。皆の案と意見は砦についてから書面に纏めます、と告げる夕姫に、ジョアンが礼を言い、多難な前途に溜め息を吐く。
(伸び代はある子だとは思うんだけどなぁ…… 刻令術も、砲も、ゴーレムも……王国も)
その裾が引っ張られた。ジョアンは横を見、視線を下げた。
「とりあえず、砲門数を増やした方が良いの。あと砲を後装式にできれば、あやねたちでも弾を込められるの」
そう言って絢音は絵を描いた。
多連装砲に手足を生やしただけのその姿は……色んな意味で、ヤバかった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/12 07:45:31 |
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相談所 葛音 水月(ka1895) 人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/05/12 07:59:17 |