ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】嫉妬の行進曲
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/13 07:30
- 完成日
- 2016/06/01 02:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●春郷祭スタート!
自由都市同盟『農耕推進地域ジェオルジ』のお祭りと言えば、春と秋に開催される郷祭が一番有名であるだろう。
そして寒い冬を越え、温かな春を迎えた今。まさしく今が、郷祭のシーズンである。
<フェリチタ>という村も、今回とても張り切っている様子。
村長も村人も皆一丸となって盛り上げようと、何カ月も前から何度も何度も話し合いや相談が行われ、万全の準備を整えながらお祭り本番に臨んでいるようだ。
ちなみに<音楽と食>……それが今年の春の、フェリチタ村での郷祭のコンセプトなのだという。
<音楽>は去年秋の「フェリチタ村の収穫祭」で、演奏や歌が大好評だった事から、今回はより一層力を入れる事に決定したそうだ。
監修には去年秋のメインレストラン・コーディネーターであり、バレンタインシーズンを賑わせた大人気アイドルグループ・恋しょこをプロデュースした実績も持つロザリーナ・アナスタージ(kz0138)を呼んでいる。
<食>の監修には、去年秋の「フェリチタ村の収穫祭」でも、ハンターの大活躍により評判がとても良かったメインレストランの料理長を務めていた料理界の彗星ことギアン・アナスタージ(kz0165)を呼んでおり、今年もレストランを出店するらしい。
だが今回の彼はこの春郷祭に乗じて、とある団体組織を設立し、世間にその存在を広めようとしていた。その名も『同盟美食追求会』――何やら先ずは「戦場でも美食を!」というテーマを掲げ美味しい缶詰の開発をするそうで?
そんな同盟美食追求会にフェリチタ村の村長アレッサンドロが、既にいち早くフェリチタ村の特産品開発の依頼を要請しているという噂もあるのだとか。
斯くして、今年の春郷祭も順調にスタートを切り、賑わうフェリチタ村。
しかし人が集まる所に騒動というものはあるものだ。
音楽で華やかに、食で豊かに、彩られるお祭りの裏で――
とある嫉妬の歪虚が動き出し、事件は既に起こり始めようとしているのだった。
「………春郷祭。音楽の、監修。面白そうな事をしてるのね、―――私が居ない所で」
●メロマーヌの魔女の報告書
同盟には同盟に執着し、潜伏し続けているという魔女が居た。その名も、ドローレ(kz0184)。
いつもオシャレな魔女らしい格好――甘い薄桃色の長い髪と綺麗な水色の眸が特徴の、見た目は可愛らしいお嬢さん。しかし彼女は、高位の嫉妬<ピグマリオ>である。
ドローレの現れる場所には必ず音楽があった――無ければ流すか、自ら演奏をしてしまう事もある。よほど音楽が好きなのだろう。音楽は楽しいと感じているらしい。
遊ぶことが好きだから、自分が居ない所で人が楽しい事をしているのが許せない寂しん坊。同盟が好き(?)だから、ついつい混沌に陥れたくなる天邪鬼。
そんなドローレは同盟を混乱させるゲームに執着しており、小規模ながらちょっとした騒動をよく起こしている為、今迄にソサエティへ寄せられた報告書は数知れず。
そしてどういった性質や特徴を持つピグマリオなのかというメモが、纏められていた。
ドローレに関する記述(一部抜粋)
・演奏と踊る事はさせても問題無いが、歌わせてはいけない。ドローレの歌声はとても美しいが、莫大な力を発揮させるスイッチである可能性が高い。しかし本人は「歌はもう歌いたくない」と零しており、無暗やたらに歌う訳ではないというのが不幸中の幸いである。
・普段は不愛想なものの非常に扱いやすい性質で、なにか誘導したい事がある場合、挑発やおだてるといった行為は有効。但し、身の安全に関わる事柄には用心深く、一度心を閉ざしてしまうと慎重深くなってしまう。
・何事も遊びやゲームと捉えている節があり、約束を破るなどの類はルール違反と捉える。ルール違反はドローレにとって極めて許しがたい行為であるらしい。一方で、ドローレも交わした約束はちゃんと守るようで、ドローレが約束を破ったというケースは現状一度も確認されていない。但しこちらから提案した約束をドローレが交わすか否かは、内容と交渉によるところのようだ。
・自分の拘りや譲れないものに対し、思い通りにならなければ気が済まない。とても執念深い上、かなり頑固である。
●薔薇嬢と追いかけっこ
――此処は麗しのローズガーデン。
――色とりどりの薔薇が咲き誇る、ロゼお嬢様ことロザリーナが所有する迷宮のように広い大庭園だ。
風が吹けば甘い花の馨が漂い、心を癒す長閑な園。
ロゼが深い愛情を注ぎながら育てた薔薇達は、いつも凛と誇らしげに微笑んでいた。
……しかし今日は少し、様子が違っていた。華美な彩に似合わず、とても不安そうな顔をしている。
「……、……っ!」
そしてロゼは息を切らしながら、時計塔広場の野原を駆けていた。先程転んでしまい、足からは血が垂れていて傷は痛むけれど、それでも走り続けなければならなかった。
なぜなら彼女は今、メロマーヌの魔女ことドローレに追われている身なのだから。
『ぷっぷー!』
『チャーン!!』
『ぷっぷー!』
『チャーン!!』
――ラッパとシンバルの音。太鼓の音も低くドンドンと響いている。
恐らく行進曲なのだろう。
ラッパを吹くドローレ率いるおもちゃの兵隊は歩速を揃え乍ら、ド派手に行進していた。
ドローレ達はやろうと思えば、一般人であるロゼを瞬殺する事なんていとも簡単にできてしまうだろう――しかしそれでも行進を優先するのが、ピグマリオらしいと言ったところ。
ロゼの体力が尽きるまで追い詰めて、クライマックスをどかんと派手に飾るのが狙いなのかもしれない。
しかしドローレは未だ気付いていなかった。
その悠長さが利用されているということを。
ロゼが逃げ乍ら時間を稼ぐ内に、ロゼに仕えるメイド達は既にハンターオフィスに助けを求めていた。もう間もなくするとハンター達が駆けつけてきてくれる筈だ。
そしてロゼは心の中でぽつりと呟いていた。
(ドローレちゃん、春郷祭の<音>の監修がやりたかった――んじゃなくて、<音>の監修をして楽しそうな私に嫉妬してるのよね……。だったらなんとかなる、筈)
春郷祭の<音>の監修をドローレが気が済むまで任せる……という約束は絶対にできなかったから、内心ほっとしているのである。
「ドローレちゃん、待っててね! 今度は私が嫉妬しちゃうくらい、楽しいことを一緒にやってくれる仲間が来てくれる筈だから……!」
『ぷっぷー?』
ドローレはラッパを吹きながら、首を傾げた。その反応はそこはかとなく、興味があると示しているようだった。
――しかし。
『プゥゥゥ!!!』
前言撤回するかのように怒っている音を響かせる。(「ハンター呼んだな!」)。
「……!」
そしてロゼも振り返るなら――目を見開いて安堵した。
行進曲の賑やかな音を頼りにハンター達が駆けつけてきてくれている姿が、見えたから。
自由都市同盟『農耕推進地域ジェオルジ』のお祭りと言えば、春と秋に開催される郷祭が一番有名であるだろう。
そして寒い冬を越え、温かな春を迎えた今。まさしく今が、郷祭のシーズンである。
<フェリチタ>という村も、今回とても張り切っている様子。
村長も村人も皆一丸となって盛り上げようと、何カ月も前から何度も何度も話し合いや相談が行われ、万全の準備を整えながらお祭り本番に臨んでいるようだ。
ちなみに<音楽と食>……それが今年の春の、フェリチタ村での郷祭のコンセプトなのだという。
<音楽>は去年秋の「フェリチタ村の収穫祭」で、演奏や歌が大好評だった事から、今回はより一層力を入れる事に決定したそうだ。
監修には去年秋のメインレストラン・コーディネーターであり、バレンタインシーズンを賑わせた大人気アイドルグループ・恋しょこをプロデュースした実績も持つロザリーナ・アナスタージ(kz0138)を呼んでいる。
<食>の監修には、去年秋の「フェリチタ村の収穫祭」でも、ハンターの大活躍により評判がとても良かったメインレストランの料理長を務めていた料理界の彗星ことギアン・アナスタージ(kz0165)を呼んでおり、今年もレストランを出店するらしい。
だが今回の彼はこの春郷祭に乗じて、とある団体組織を設立し、世間にその存在を広めようとしていた。その名も『同盟美食追求会』――何やら先ずは「戦場でも美食を!」というテーマを掲げ美味しい缶詰の開発をするそうで?
そんな同盟美食追求会にフェリチタ村の村長アレッサンドロが、既にいち早くフェリチタ村の特産品開発の依頼を要請しているという噂もあるのだとか。
斯くして、今年の春郷祭も順調にスタートを切り、賑わうフェリチタ村。
しかし人が集まる所に騒動というものはあるものだ。
音楽で華やかに、食で豊かに、彩られるお祭りの裏で――
とある嫉妬の歪虚が動き出し、事件は既に起こり始めようとしているのだった。
「………春郷祭。音楽の、監修。面白そうな事をしてるのね、―――私が居ない所で」
●メロマーヌの魔女の報告書
同盟には同盟に執着し、潜伏し続けているという魔女が居た。その名も、ドローレ(kz0184)。
いつもオシャレな魔女らしい格好――甘い薄桃色の長い髪と綺麗な水色の眸が特徴の、見た目は可愛らしいお嬢さん。しかし彼女は、高位の嫉妬<ピグマリオ>である。
ドローレの現れる場所には必ず音楽があった――無ければ流すか、自ら演奏をしてしまう事もある。よほど音楽が好きなのだろう。音楽は楽しいと感じているらしい。
遊ぶことが好きだから、自分が居ない所で人が楽しい事をしているのが許せない寂しん坊。同盟が好き(?)だから、ついつい混沌に陥れたくなる天邪鬼。
そんなドローレは同盟を混乱させるゲームに執着しており、小規模ながらちょっとした騒動をよく起こしている為、今迄にソサエティへ寄せられた報告書は数知れず。
そしてどういった性質や特徴を持つピグマリオなのかというメモが、纏められていた。
ドローレに関する記述(一部抜粋)
・演奏と踊る事はさせても問題無いが、歌わせてはいけない。ドローレの歌声はとても美しいが、莫大な力を発揮させるスイッチである可能性が高い。しかし本人は「歌はもう歌いたくない」と零しており、無暗やたらに歌う訳ではないというのが不幸中の幸いである。
・普段は不愛想なものの非常に扱いやすい性質で、なにか誘導したい事がある場合、挑発やおだてるといった行為は有効。但し、身の安全に関わる事柄には用心深く、一度心を閉ざしてしまうと慎重深くなってしまう。
・何事も遊びやゲームと捉えている節があり、約束を破るなどの類はルール違反と捉える。ルール違反はドローレにとって極めて許しがたい行為であるらしい。一方で、ドローレも交わした約束はちゃんと守るようで、ドローレが約束を破ったというケースは現状一度も確認されていない。但しこちらから提案した約束をドローレが交わすか否かは、内容と交渉によるところのようだ。
・自分の拘りや譲れないものに対し、思い通りにならなければ気が済まない。とても執念深い上、かなり頑固である。
●薔薇嬢と追いかけっこ
――此処は麗しのローズガーデン。
――色とりどりの薔薇が咲き誇る、ロゼお嬢様ことロザリーナが所有する迷宮のように広い大庭園だ。
風が吹けば甘い花の馨が漂い、心を癒す長閑な園。
ロゼが深い愛情を注ぎながら育てた薔薇達は、いつも凛と誇らしげに微笑んでいた。
……しかし今日は少し、様子が違っていた。華美な彩に似合わず、とても不安そうな顔をしている。
「……、……っ!」
そしてロゼは息を切らしながら、時計塔広場の野原を駆けていた。先程転んでしまい、足からは血が垂れていて傷は痛むけれど、それでも走り続けなければならなかった。
なぜなら彼女は今、メロマーヌの魔女ことドローレに追われている身なのだから。
『ぷっぷー!』
『チャーン!!』
『ぷっぷー!』
『チャーン!!』
――ラッパとシンバルの音。太鼓の音も低くドンドンと響いている。
恐らく行進曲なのだろう。
ラッパを吹くドローレ率いるおもちゃの兵隊は歩速を揃え乍ら、ド派手に行進していた。
ドローレ達はやろうと思えば、一般人であるロゼを瞬殺する事なんていとも簡単にできてしまうだろう――しかしそれでも行進を優先するのが、ピグマリオらしいと言ったところ。
ロゼの体力が尽きるまで追い詰めて、クライマックスをどかんと派手に飾るのが狙いなのかもしれない。
しかしドローレは未だ気付いていなかった。
その悠長さが利用されているということを。
ロゼが逃げ乍ら時間を稼ぐ内に、ロゼに仕えるメイド達は既にハンターオフィスに助けを求めていた。もう間もなくするとハンター達が駆けつけてきてくれる筈だ。
そしてロゼは心の中でぽつりと呟いていた。
(ドローレちゃん、春郷祭の<音>の監修がやりたかった――んじゃなくて、<音>の監修をして楽しそうな私に嫉妬してるのよね……。だったらなんとかなる、筈)
春郷祭の<音>の監修をドローレが気が済むまで任せる……という約束は絶対にできなかったから、内心ほっとしているのである。
「ドローレちゃん、待っててね! 今度は私が嫉妬しちゃうくらい、楽しいことを一緒にやってくれる仲間が来てくれる筈だから……!」
『ぷっぷー?』
ドローレはラッパを吹きながら、首を傾げた。その反応はそこはかとなく、興味があると示しているようだった。
――しかし。
『プゥゥゥ!!!』
前言撤回するかのように怒っている音を響かせる。(「ハンター呼んだな!」)。
「……!」
そしてロゼも振り返るなら――目を見開いて安堵した。
行進曲の賑やかな音を頼りにハンター達が駆けつけてきてくれている姿が、見えたから。
リプレイ本文
●薔薇の庭に、嫉妬の混沌
「よっし、間に合った!」
現場に到着した大伴 鈴太郎(ka6016)がほっと胸を撫でおろした。
「無事で良かったのん……!」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)も安心するように微笑むと、ロゼが飛び込んでくる。
「みんなぁぁ!」
「ロゼ、よく頑張ったね、もう安心して良いよ!」
カフカ・ブラックウェル(ka0794)が優しい声で励ませば、安堵するロゼ。思えば彼女は初めて出会った時も全速力で走っていたな――と、思い出しながら。
しかしあの頃と違うのは、秘めている想いだ。
「私達が何とかしてみせます! 必ず!」
そしてクレール・ディンセルフ(ka0586)が気合いを入れて拳を握ると――不機嫌な音色が『ブゥゥゥ』と鳴り響いた。その音を奏でる者へと振り返り、クレールは息を飲む。
「あれが、メロマーヌの魔女……!」
そう。ロゼを襲う彼女こそ、同盟に潜伏していると噂の嫉妬<ピグマリオ>。
「ドローレ……!」
鈴太郎は眉を潜めて呼び、燐光を帯びる瞳がドローレを見つめた。
(遠目には人間みてぇに見えたけど……やっぱ間近じゃ人間じゃねえってはっきり分かるモンなんだな)
陶器の様な肌が証明する――彼女は自分達や亜人とは違う命無き者・歪虚である、と。
ドローレは負のオーラたる疑心を放ちながら、ハンターの動向を探る様に睨みつけていた。
「貴方達、ハンターよね。……私を倒しに来たの? ――だとしたら、痛い目に遭う覚悟は出来ているのかしら」
そう紡ぐ声は冷え切って、睨んでいる眼差しも尖ったナイフの様に鋭い。
……ただ。
――愉快で賑やかな行進曲が奏でられ続けていて、よく聴こえないし、色々と台無し中だ。
(なんだこいつ……! ホントにすげー力を秘めてるっていうヤベー奴なのか!?)
(音楽隊がすっごい賑やか過ぎてドローレの言葉が全然シリアスに入ってこない……!)
鈴太郎とクレールが、衝撃のあまり心の中で想わずツッコミを入れた。
そうとは気付かないドローレだけがシリアスモードである。
「私達はドローレさんを倒しに来た訳じゃありませんよ?」
ルナ・レンフィールド(ka1565)はやや首を傾げ、ドローレを見つめて穏やかに目を細めた。
「じゃあ……何しに来たのよ」
「それは貴方と一緒に、楽しい事をする為です」
ルナに微笑みを向けられたドローレは、目を丸くする。そしてハンター達をきょろきょろと窺い、“自分を倒しに来た訳じゃないのかな?”と判断すると警戒心も少し和らいだようで、
「ふーん……?」
と、大人しく受け容れた。しかし穴の開く程見つめてくるだろう。
期待しているのかもしれない。
(ロゼさんも困った子に狙われてしまったものですね)
イレス・アーティーアート(ka4301)は、ロゼの傍に立っていた。戦うのではなく穏便に済ませる予定ではあるが、万が一の際には守れる様に。
それにドローレのおもちゃの兵隊だって、ロゼにとっては命を脅かす危険な存在と成り得るのだ。
「……! ロゼさん、私の背中に隠れてください」
「きゃあッッ!」
イレスはロゼを自身の背後へ隠して遮り、前へと立った。
その時ロゼ自身も銃口を向けられていると気付くと足が竦み、震えだした――だが発砲の刹那、イレスの青き瞳は流れてくる銃弾を確りと見据え、グレイブで堅守の構えを貫く。
――キン!
と、弾を受け止めた音が響いた。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫よ。それより、ありがとう……護ってくれて」
「“私の槍は護る為に”、ですから」
優しさに溢れた微笑みを浮かべる槍騎士――イレスを見つめて思い出すのは、去年のガーデンパーティーでのこと。ロゼはあの時の様に嬉しくて、安心した。イレスの“優しい意思”と“護る為の強さ”を、信頼しながら。
彼女をイレスに託したカフカは、ドローレを見据えていた。
「僕はハンターである前にトルバドゥールだ。ドローレ、君の気に入る音楽を奏でられると思うよ?」
「……私の?」
ドローレが僅かに興味を示すと、カフカはフルートを手にした。
「そう。君が音を出したら、次に僕が旋律を奏でる。そうやって僕達で音楽を作っていくんだ。音楽を愛する想いに人も歪虚も関係ない。だから、一緒に作ろうよ」
そしてドローレを誘うように演奏するのは、母さんの子守歌、春の訪れを祝う曲、薔薇姫に捧ぐ歌。彼は月光の愛し子――いつしか嫉妬達の行進曲は中断し、薔薇の庭には魂を込めた月の音が美しく響く。
なんとなくドローレの機嫌がよくなった様な気がする。そう感じたミィナは、慎重に交渉を始めた。
「でもその前に、おもちゃの兵隊さんの銃を収めて欲しいのん。このままだとロゼさんが怖がって、ドローレさんの音楽聞いてくれんかもしれんよ?」
「!」
ミィナが紡いだ言葉を聞くと、ドローレは『そっか』というような表情をした。
もしもローズガーデンで演奏をするならば、ロゼは貴重な観客なのだ。
◇
ドローレはおもちゃの兵隊に「銃を下げなさい」と告げていた。するとおもちゃの兵隊はぴたっと静止する。
「ありがとうなのん!」
その様子を見たミィナが照れながら提案していたお礼の通りにドローレをぎゅっと抱きしめると――、
「ミィナちゃぁぁん!!;」
(ロゼさん迫真の演技なのん!)
ロゼの嫉妬の声が聴こえ、そんなふうに心の中で想っていたが――実はロゼのソレは演技ではない。
ドローレに愉悦感を浸って貰う為、『嫉妬の演技をして欲しい』と伝えたエレメンタルコールは、残念ながら非覚醒者のロゼには届いていなかった。つまり、正真正銘本物の嫉妬だったようだ。
「嫉妬される立場は気分がいいわね。……でも」
おもちゃの兵隊は再び銃を構える。
「ロゼ……!」
響く、銃声音。カフカが土壁を生成したおかげでロゼには命中しなかったが、おもちゃの兵隊は再び動き出していた。散らばった兵士達は俊敏に行動し、発砲を繰り返す。
「やっぱりこの子達にとっては“銃”が遊び道具よ、奪ってしまうのはかわいそうだわ。……確かに、ロゼが私の音楽に集中してくれないなら残念だけど。でも、此処には貴方達がいるし、別にいい」
「そんな……!」
おもちゃの兵隊はドローレが即席で生成した雑魔で、意志を持たない無機物――にも関わらず、そう言って“遊んでいる”。
お願いではなく約束を結ばせれば抑止できるかもしれないが、だがそもそもドローレは楽しいゲーム感覚でおもちゃの兵隊を操っていた節が有り、元々約束を取り付けるのは難しかっただろうと、ミィナは悟る。
「なら、仕留めっきゃねーか!」
鈴太郎はおもちゃの兵隊を倒す決心をした。
「ロゼさんに攻撃するのを辞めてくださらないなら、仕方ありませんわね」
イレスはソウルトーチのオーラを纏った。
そしてロゼを標的にする機会が多かったおもちゃの兵隊達を引きつける。
「イレスさん……!」
「大丈夫ですわ。無茶はしません」
イレスに怪我をしてほしくない想いのあまり呼び止めたロゼに、イレスは淑やかな微笑みを返した。
「僕も……!」
カフカもロゼを護ろうとしていた――しかし。
「貴方は駄目よ」
「――!!」
「私はメロマーヌの魔女……音楽狂よ? 音楽が常に流れていないと落ち着かないの。
私は音楽隊達の演奏を止めてまで貴方の音を聴いていたのに、勝手に辞めないで欲しいわ。トルバドゥールさん?」
さっきまでご機嫌だったドローレの様子は打って変わっている。
「……っ」
彼女が歪虚だった事を思い出させるような、冷血な視線を宛てられたカフカは息を飲んでいた。
するとその瞬間、最愛の妹の祈りの歌が聴こえた。
お兄ちゃん、ロゼを守って。助けてあげて。
そして――戦ってる皆が無事に帰って来られるようにと祈る唄が。
「そんなに僕の音色を気に入ってくれたなら光栄だよ、メロマーヌ」
カフカはドローレの指名を受けてフルートを奏でた。心配そうに見つめるロゼを守りたくて紡ぐ、優しい旋律を。
するとドローレは、少し機嫌を取り戻す。
だが。
「それから貴方。本当は私に腹を立ててるんでしょ」
「……なっ!?」
「私、分かるの。敏感だから」
鈴太郎はドキッとした――確かに、ロゼを襲った事に対して心底ムカついていた。
(でもキレちまったら状況は悪化するって分かってたし、ちゃんと今は忘れるようにしてたのにかよー!?)
ただ完全に確信している様子ではなく、恐らく自意識過剰、或いは直感での発言だったと思われるが……。
(マジ半端無ぇ……ドローレの敵意察知力)
疑心を抱き、じとーっと見つめてくるドローレの眼差しに戸惑いつつ、深呼吸。
その時、親友が励ましてくれるような祈りが届いたような気がした。
――ひとつベルの音が鳴れば。心配してくれていると同時に、信頼してくれているのを実感した。
「カフカ、恋しょこの演奏ってできるか?!」
「……!」
カフカの従兄は、恋しょこのメンバーだ。
鈴太郎にリクエストされると、その甘く賑やかなメロディーを奏で始める。
そしてルナは鈴太郎に緑の風を纏わせた。
本来の効果に合わせ、軽やかにステップを踏み、脚の動きに連動するベルの音色が涼しく響いている鈴太郎のダンスがより魅力的な演出を生む。
「よしっ! 最高のステージを楽しませてやるぜ! 恋しょこ魂見せてやらぁ!」
鈴太郎が張り切って言った。
「お手並み拝見ね」
そして、静かに鑑賞を始めたドローレをルナは見つめていた。
――思わず口ずさみたくなるような楽曲ながら、彼女が共に歌い出す気配はない。
むしろ歌う鈴太郎に焦がれる眼差しを向けている。
(ドローレさんが歌いたくないって言ってた理由、楽しい音楽で他人を傷付けるのが嫌だからかな? だとしたら……似てるかもね)
音楽は楽しむ為、楽しませる為にある筈――でも私の歌は……。
ルナは過去を思い出し俯いて、けれど、前を向いた。
今は精一杯、演奏しよう。
カフカのフルートにリュートの音色を乗せて、恋しょこの音楽を共に彩っていく。
「歌で、踊りで、クラップで――! 恋しょこの魅力を魅せます!!」
クレールはクラッピングする左の掌に赤い竜を、右の掌に青い月を象った紋章を輝かせ、ダンスブーツで格好良い音を響かせていた。
振りまく笑顔は、まるで煌めく太陽。音楽を目一杯全身で伝えている――そんな姿を見て自分も踊りたくなってうずうずするドローレだったが、このタイミングでふと質問を挟む。
「ところで恋しょこって何?」
すると待ってました! と言わんばかりに、ロゼが張り切って答えた。
「同盟を賑わせた大人気の――恋にも歌にも一生懸命な可愛いアイドルグループよっ!」
「ろ、ロゼさん……!」
そんな紹介をされてクレールが思わず照れてしまう。
「同盟……?」
ドローレは同盟に潜伏していると噂されている程、同盟に執着している歪虚だ。
「――何よそれ、見せなさいよ」
同盟でデビューしたアイドルだと知ると、興味を示した。
「勿論! 今日は恋しょこスペシャルステージっ! ドローレの為のステージですから!」
クレールはメンバーのミィナ、鈴太郎と、互いに顔を合わせて頷く。
そうしてチョコレートのように蕩ける恋しょこの演奏に歌とダンスを乗せて、披露した。
ららら、と謳うミィナの声に乗せ、鈴太郎はレッスンを思い出しながら徐々に大胆に――跳ぶように兵隊の隣へと接近すると、優しく手を取った――かと思えば、
(喰らえ!)
練気を増幅させた有りっ丈のマテリアルを鎧徹しで流し込む。
そして兵隊が態勢を崩したところを、クレールは連携して、陽掴飛びで空を舞い、花火のように弾ける光で包み込む! 嫉妬の炎も燃やし尽くす完全燃焼で!
ドローレを魅せ乍ら、且つ、あっという間におもちゃの兵隊を撃破していた。
「さあ、一緒に――!」
クレールが手を差し伸べる。
「ふぅん……、恋しょこ、ね。覚えたわ」
するとドローレはその手を取って、初めて、微笑みを浮かばせていた。
◇
ミィナはタンバリンを、カフカはフルートを、ルナはリュートを、イレスはバイオリンを持った――それは、「貴方達と音楽を作るという提案、乗ってあげてもいいわよ」と完全に乗って来たドローレが求める音を奏でる為に。
「このままドローレコンサートミストレスの開催だ!」
クレールは手拍子足拍子、スピンすればドレスがカチコチと小気味良い機械音を奏でた。
そして賑やかに音楽が始まる――その前に。
「ひとつ、いいですか?」
「なに?」
首を傾げるドローレに、ルナは優しく紡ぐ。
「私達が春郷祭を楽しむのは嫌ですか?」
「それは、嫌よ」
――私が居ない所でなんて。
嫉妬で満たされ、でも何処か寂しそうにも見える瞳がルナを弱弱しく睨む。
「そう、ですよね。でも、許して欲しいんです。私達が楽しむ事を」
「嫌!」
嫌々とドローレは繰り返した。するとルナの元に、笛の音の祈りが届く。
ルナの信じる音楽が、可能性の扉を開きます様に。
そんな親友の想いは、ルナの希望となった。
「許して頂けるなら、私達は約束します。今から楽しいひと時をドローレさんに贈り――“あなたの音を皆で繋げる”、と。……ね?」
ルナが穏やかに言うと、ドローレは震えた。
「嫌よぉ……」
ぽろぽろと大粒の涙をいっぱい零しながら。
(ホントにこいつはヤベー奴で……歪虚なのか?)
鈴太郎がまるで人間の様だと思ってしまうのは、歪虚としての違和感を感じるからだろう。
うじうじと泣き始めてしまったドローレに、クレールは熱く真摯な眼差しで伝える。
「メロディーを繋げて、最高の大演奏となれるように精一杯頑張りますから! だから、お願いします!」
そしてイレスもドローレと向き合いながら、お願いする。
「貴方のそのラッパの音色で私達を引っ張って監修し……作り上げてくださりませんか? 貴方の好きな“音楽”を――」
イレスに頷いたドローレは泣きながらも『ぷぅぅ』と奏でる。
それにミィナがふにゃっと微笑み、カフカがそっとハーモニーを繋げた。
ドローレの演奏は正直言ってへたくそだ。
だが彼女の音楽は、純粋に音楽を愛している――。
そして……
春郷祭の開催期間中――ドローレが楽しんでいる人を襲うと言った事件は、発生しなかったという。
◇
「ロゼさん、痛いとこない?」
「ええ、大丈夫よ♪」
ロゼは明るく笑っていた。だからミィナは不安になった――本当は苦しくても痛くても、我慢してしまうんじゃないかと察してしまうから。
それに緊張が解ければ、失うかもしれなかった怖さの所為で脚が震えた。ロゼは大切なお姉ちゃん――そんなミィナがロゼは愛しくて、優しく抱擁する。
「ロゼ、これからも君を守るよ。君は…僕の大切な人だから」
カフカの言葉に、ロゼは有難うと微笑む。
「私も、守りたい。貴方も私にとって、とても大切な人だもの」
「よっし、間に合った!」
現場に到着した大伴 鈴太郎(ka6016)がほっと胸を撫でおろした。
「無事で良かったのん……!」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)も安心するように微笑むと、ロゼが飛び込んでくる。
「みんなぁぁ!」
「ロゼ、よく頑張ったね、もう安心して良いよ!」
カフカ・ブラックウェル(ka0794)が優しい声で励ませば、安堵するロゼ。思えば彼女は初めて出会った時も全速力で走っていたな――と、思い出しながら。
しかしあの頃と違うのは、秘めている想いだ。
「私達が何とかしてみせます! 必ず!」
そしてクレール・ディンセルフ(ka0586)が気合いを入れて拳を握ると――不機嫌な音色が『ブゥゥゥ』と鳴り響いた。その音を奏でる者へと振り返り、クレールは息を飲む。
「あれが、メロマーヌの魔女……!」
そう。ロゼを襲う彼女こそ、同盟に潜伏していると噂の嫉妬<ピグマリオ>。
「ドローレ……!」
鈴太郎は眉を潜めて呼び、燐光を帯びる瞳がドローレを見つめた。
(遠目には人間みてぇに見えたけど……やっぱ間近じゃ人間じゃねえってはっきり分かるモンなんだな)
陶器の様な肌が証明する――彼女は自分達や亜人とは違う命無き者・歪虚である、と。
ドローレは負のオーラたる疑心を放ちながら、ハンターの動向を探る様に睨みつけていた。
「貴方達、ハンターよね。……私を倒しに来たの? ――だとしたら、痛い目に遭う覚悟は出来ているのかしら」
そう紡ぐ声は冷え切って、睨んでいる眼差しも尖ったナイフの様に鋭い。
……ただ。
――愉快で賑やかな行進曲が奏でられ続けていて、よく聴こえないし、色々と台無し中だ。
(なんだこいつ……! ホントにすげー力を秘めてるっていうヤベー奴なのか!?)
(音楽隊がすっごい賑やか過ぎてドローレの言葉が全然シリアスに入ってこない……!)
鈴太郎とクレールが、衝撃のあまり心の中で想わずツッコミを入れた。
そうとは気付かないドローレだけがシリアスモードである。
「私達はドローレさんを倒しに来た訳じゃありませんよ?」
ルナ・レンフィールド(ka1565)はやや首を傾げ、ドローレを見つめて穏やかに目を細めた。
「じゃあ……何しに来たのよ」
「それは貴方と一緒に、楽しい事をする為です」
ルナに微笑みを向けられたドローレは、目を丸くする。そしてハンター達をきょろきょろと窺い、“自分を倒しに来た訳じゃないのかな?”と判断すると警戒心も少し和らいだようで、
「ふーん……?」
と、大人しく受け容れた。しかし穴の開く程見つめてくるだろう。
期待しているのかもしれない。
(ロゼさんも困った子に狙われてしまったものですね)
イレス・アーティーアート(ka4301)は、ロゼの傍に立っていた。戦うのではなく穏便に済ませる予定ではあるが、万が一の際には守れる様に。
それにドローレのおもちゃの兵隊だって、ロゼにとっては命を脅かす危険な存在と成り得るのだ。
「……! ロゼさん、私の背中に隠れてください」
「きゃあッッ!」
イレスはロゼを自身の背後へ隠して遮り、前へと立った。
その時ロゼ自身も銃口を向けられていると気付くと足が竦み、震えだした――だが発砲の刹那、イレスの青き瞳は流れてくる銃弾を確りと見据え、グレイブで堅守の構えを貫く。
――キン!
と、弾を受け止めた音が響いた。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫よ。それより、ありがとう……護ってくれて」
「“私の槍は護る為に”、ですから」
優しさに溢れた微笑みを浮かべる槍騎士――イレスを見つめて思い出すのは、去年のガーデンパーティーでのこと。ロゼはあの時の様に嬉しくて、安心した。イレスの“優しい意思”と“護る為の強さ”を、信頼しながら。
彼女をイレスに託したカフカは、ドローレを見据えていた。
「僕はハンターである前にトルバドゥールだ。ドローレ、君の気に入る音楽を奏でられると思うよ?」
「……私の?」
ドローレが僅かに興味を示すと、カフカはフルートを手にした。
「そう。君が音を出したら、次に僕が旋律を奏でる。そうやって僕達で音楽を作っていくんだ。音楽を愛する想いに人も歪虚も関係ない。だから、一緒に作ろうよ」
そしてドローレを誘うように演奏するのは、母さんの子守歌、春の訪れを祝う曲、薔薇姫に捧ぐ歌。彼は月光の愛し子――いつしか嫉妬達の行進曲は中断し、薔薇の庭には魂を込めた月の音が美しく響く。
なんとなくドローレの機嫌がよくなった様な気がする。そう感じたミィナは、慎重に交渉を始めた。
「でもその前に、おもちゃの兵隊さんの銃を収めて欲しいのん。このままだとロゼさんが怖がって、ドローレさんの音楽聞いてくれんかもしれんよ?」
「!」
ミィナが紡いだ言葉を聞くと、ドローレは『そっか』というような表情をした。
もしもローズガーデンで演奏をするならば、ロゼは貴重な観客なのだ。
◇
ドローレはおもちゃの兵隊に「銃を下げなさい」と告げていた。するとおもちゃの兵隊はぴたっと静止する。
「ありがとうなのん!」
その様子を見たミィナが照れながら提案していたお礼の通りにドローレをぎゅっと抱きしめると――、
「ミィナちゃぁぁん!!;」
(ロゼさん迫真の演技なのん!)
ロゼの嫉妬の声が聴こえ、そんなふうに心の中で想っていたが――実はロゼのソレは演技ではない。
ドローレに愉悦感を浸って貰う為、『嫉妬の演技をして欲しい』と伝えたエレメンタルコールは、残念ながら非覚醒者のロゼには届いていなかった。つまり、正真正銘本物の嫉妬だったようだ。
「嫉妬される立場は気分がいいわね。……でも」
おもちゃの兵隊は再び銃を構える。
「ロゼ……!」
響く、銃声音。カフカが土壁を生成したおかげでロゼには命中しなかったが、おもちゃの兵隊は再び動き出していた。散らばった兵士達は俊敏に行動し、発砲を繰り返す。
「やっぱりこの子達にとっては“銃”が遊び道具よ、奪ってしまうのはかわいそうだわ。……確かに、ロゼが私の音楽に集中してくれないなら残念だけど。でも、此処には貴方達がいるし、別にいい」
「そんな……!」
おもちゃの兵隊はドローレが即席で生成した雑魔で、意志を持たない無機物――にも関わらず、そう言って“遊んでいる”。
お願いではなく約束を結ばせれば抑止できるかもしれないが、だがそもそもドローレは楽しいゲーム感覚でおもちゃの兵隊を操っていた節が有り、元々約束を取り付けるのは難しかっただろうと、ミィナは悟る。
「なら、仕留めっきゃねーか!」
鈴太郎はおもちゃの兵隊を倒す決心をした。
「ロゼさんに攻撃するのを辞めてくださらないなら、仕方ありませんわね」
イレスはソウルトーチのオーラを纏った。
そしてロゼを標的にする機会が多かったおもちゃの兵隊達を引きつける。
「イレスさん……!」
「大丈夫ですわ。無茶はしません」
イレスに怪我をしてほしくない想いのあまり呼び止めたロゼに、イレスは淑やかな微笑みを返した。
「僕も……!」
カフカもロゼを護ろうとしていた――しかし。
「貴方は駄目よ」
「――!!」
「私はメロマーヌの魔女……音楽狂よ? 音楽が常に流れていないと落ち着かないの。
私は音楽隊達の演奏を止めてまで貴方の音を聴いていたのに、勝手に辞めないで欲しいわ。トルバドゥールさん?」
さっきまでご機嫌だったドローレの様子は打って変わっている。
「……っ」
彼女が歪虚だった事を思い出させるような、冷血な視線を宛てられたカフカは息を飲んでいた。
するとその瞬間、最愛の妹の祈りの歌が聴こえた。
お兄ちゃん、ロゼを守って。助けてあげて。
そして――戦ってる皆が無事に帰って来られるようにと祈る唄が。
「そんなに僕の音色を気に入ってくれたなら光栄だよ、メロマーヌ」
カフカはドローレの指名を受けてフルートを奏でた。心配そうに見つめるロゼを守りたくて紡ぐ、優しい旋律を。
するとドローレは、少し機嫌を取り戻す。
だが。
「それから貴方。本当は私に腹を立ててるんでしょ」
「……なっ!?」
「私、分かるの。敏感だから」
鈴太郎はドキッとした――確かに、ロゼを襲った事に対して心底ムカついていた。
(でもキレちまったら状況は悪化するって分かってたし、ちゃんと今は忘れるようにしてたのにかよー!?)
ただ完全に確信している様子ではなく、恐らく自意識過剰、或いは直感での発言だったと思われるが……。
(マジ半端無ぇ……ドローレの敵意察知力)
疑心を抱き、じとーっと見つめてくるドローレの眼差しに戸惑いつつ、深呼吸。
その時、親友が励ましてくれるような祈りが届いたような気がした。
――ひとつベルの音が鳴れば。心配してくれていると同時に、信頼してくれているのを実感した。
「カフカ、恋しょこの演奏ってできるか?!」
「……!」
カフカの従兄は、恋しょこのメンバーだ。
鈴太郎にリクエストされると、その甘く賑やかなメロディーを奏で始める。
そしてルナは鈴太郎に緑の風を纏わせた。
本来の効果に合わせ、軽やかにステップを踏み、脚の動きに連動するベルの音色が涼しく響いている鈴太郎のダンスがより魅力的な演出を生む。
「よしっ! 最高のステージを楽しませてやるぜ! 恋しょこ魂見せてやらぁ!」
鈴太郎が張り切って言った。
「お手並み拝見ね」
そして、静かに鑑賞を始めたドローレをルナは見つめていた。
――思わず口ずさみたくなるような楽曲ながら、彼女が共に歌い出す気配はない。
むしろ歌う鈴太郎に焦がれる眼差しを向けている。
(ドローレさんが歌いたくないって言ってた理由、楽しい音楽で他人を傷付けるのが嫌だからかな? だとしたら……似てるかもね)
音楽は楽しむ為、楽しませる為にある筈――でも私の歌は……。
ルナは過去を思い出し俯いて、けれど、前を向いた。
今は精一杯、演奏しよう。
カフカのフルートにリュートの音色を乗せて、恋しょこの音楽を共に彩っていく。
「歌で、踊りで、クラップで――! 恋しょこの魅力を魅せます!!」
クレールはクラッピングする左の掌に赤い竜を、右の掌に青い月を象った紋章を輝かせ、ダンスブーツで格好良い音を響かせていた。
振りまく笑顔は、まるで煌めく太陽。音楽を目一杯全身で伝えている――そんな姿を見て自分も踊りたくなってうずうずするドローレだったが、このタイミングでふと質問を挟む。
「ところで恋しょこって何?」
すると待ってました! と言わんばかりに、ロゼが張り切って答えた。
「同盟を賑わせた大人気の――恋にも歌にも一生懸命な可愛いアイドルグループよっ!」
「ろ、ロゼさん……!」
そんな紹介をされてクレールが思わず照れてしまう。
「同盟……?」
ドローレは同盟に潜伏していると噂されている程、同盟に執着している歪虚だ。
「――何よそれ、見せなさいよ」
同盟でデビューしたアイドルだと知ると、興味を示した。
「勿論! 今日は恋しょこスペシャルステージっ! ドローレの為のステージですから!」
クレールはメンバーのミィナ、鈴太郎と、互いに顔を合わせて頷く。
そうしてチョコレートのように蕩ける恋しょこの演奏に歌とダンスを乗せて、披露した。
ららら、と謳うミィナの声に乗せ、鈴太郎はレッスンを思い出しながら徐々に大胆に――跳ぶように兵隊の隣へと接近すると、優しく手を取った――かと思えば、
(喰らえ!)
練気を増幅させた有りっ丈のマテリアルを鎧徹しで流し込む。
そして兵隊が態勢を崩したところを、クレールは連携して、陽掴飛びで空を舞い、花火のように弾ける光で包み込む! 嫉妬の炎も燃やし尽くす完全燃焼で!
ドローレを魅せ乍ら、且つ、あっという間におもちゃの兵隊を撃破していた。
「さあ、一緒に――!」
クレールが手を差し伸べる。
「ふぅん……、恋しょこ、ね。覚えたわ」
するとドローレはその手を取って、初めて、微笑みを浮かばせていた。
◇
ミィナはタンバリンを、カフカはフルートを、ルナはリュートを、イレスはバイオリンを持った――それは、「貴方達と音楽を作るという提案、乗ってあげてもいいわよ」と完全に乗って来たドローレが求める音を奏でる為に。
「このままドローレコンサートミストレスの開催だ!」
クレールは手拍子足拍子、スピンすればドレスがカチコチと小気味良い機械音を奏でた。
そして賑やかに音楽が始まる――その前に。
「ひとつ、いいですか?」
「なに?」
首を傾げるドローレに、ルナは優しく紡ぐ。
「私達が春郷祭を楽しむのは嫌ですか?」
「それは、嫌よ」
――私が居ない所でなんて。
嫉妬で満たされ、でも何処か寂しそうにも見える瞳がルナを弱弱しく睨む。
「そう、ですよね。でも、許して欲しいんです。私達が楽しむ事を」
「嫌!」
嫌々とドローレは繰り返した。するとルナの元に、笛の音の祈りが届く。
ルナの信じる音楽が、可能性の扉を開きます様に。
そんな親友の想いは、ルナの希望となった。
「許して頂けるなら、私達は約束します。今から楽しいひと時をドローレさんに贈り――“あなたの音を皆で繋げる”、と。……ね?」
ルナが穏やかに言うと、ドローレは震えた。
「嫌よぉ……」
ぽろぽろと大粒の涙をいっぱい零しながら。
(ホントにこいつはヤベー奴で……歪虚なのか?)
鈴太郎がまるで人間の様だと思ってしまうのは、歪虚としての違和感を感じるからだろう。
うじうじと泣き始めてしまったドローレに、クレールは熱く真摯な眼差しで伝える。
「メロディーを繋げて、最高の大演奏となれるように精一杯頑張りますから! だから、お願いします!」
そしてイレスもドローレと向き合いながら、お願いする。
「貴方のそのラッパの音色で私達を引っ張って監修し……作り上げてくださりませんか? 貴方の好きな“音楽”を――」
イレスに頷いたドローレは泣きながらも『ぷぅぅ』と奏でる。
それにミィナがふにゃっと微笑み、カフカがそっとハーモニーを繋げた。
ドローレの演奏は正直言ってへたくそだ。
だが彼女の音楽は、純粋に音楽を愛している――。
そして……
春郷祭の開催期間中――ドローレが楽しんでいる人を襲うと言った事件は、発生しなかったという。
◇
「ロゼさん、痛いとこない?」
「ええ、大丈夫よ♪」
ロゼは明るく笑っていた。だからミィナは不安になった――本当は苦しくても痛くても、我慢してしまうんじゃないかと察してしまうから。
それに緊張が解ければ、失うかもしれなかった怖さの所為で脚が震えた。ロゼは大切なお姉ちゃん――そんなミィナがロゼは愛しくて、優しく抱擁する。
「ロゼ、これからも君を守るよ。君は…僕の大切な人だから」
カフカの言葉に、ロゼは有難うと微笑む。
「私も、守りたい。貴方も私にとって、とても大切な人だもの」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
ロゼさん救出音楽会 クレール・ディンセルフ(ka0586) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/05/12 22:34:37 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/07 23:26:50 |
|
![]() |
質問卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/05/12 13:31:27 |