ゲスト
(ka0000)
【紅空】Interception
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/15 09:00
- 完成日
- 2016/05/21 17:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●海の果てから来るモノ
クリムゾンウェストの東海岸側では多くの船が行き来している。
冒険都市リゼリオと同盟の各都市、そして辺境を繋ぐ交易船が日に何十隻と各港を出発するのだ。
そんな交易船の中で、リゼリオから辺境へと向かう1隻の船があった。積み荷は食料品から嗜好品まで色々だ。
「へえ、あの積み荷は例の開拓地『ホープ』まで運ぶわけか。それまた長旅になりそうだな」
「そうだな。とは言えずっと陸路で行くよりはマシだろう。帝国経由だと大回りになっちまうしな」
その船の上で、船乗りの男達はデッキブラシで甲板を磨きながらそんな会話をしていた。
実際陸路での運搬はとても時間が掛かる。障害物は避けて通らないといけないし、盗賊や歪虚の襲撃も多くリスクが高いのだ。
その点海路は障害物など無いに等しいし、陸路に比べて襲ってくるものも少ない。仮に襲われても足の速い船なら逃走も容易だ。
「最近はあちこちで歪虚が暴れ始めて大変みたいだしなぁ。その点、海は今んところ平和だな」
「全くだ。何でか知らんが海を泳ぐ歪虚なんて滅多にいないようだし、俺たちにとっちゃ嬉しい限りだ」
最近では各国の交易も盛んになってきて物資の搬送の仕事も増えてきたし、彼らにとってはまさに今が稼ぎ時であった。
「おいっ。お前ら口ばっかり動かしてないで手を動かせ! 床磨きが終わる前に港に着いちまうぞ!」
「「へーい」」
そんなお喋りな船乗り達に一括したのはこの船の船長だった。彼は床を擦り始めた男達を見てやれやれと肩を竦める。
航行は順調。あと数時間もすれば辺境にある港に着く予定だ。空を見れば天気も良く、嵐や時化の前兆もない。
「……んっ?」
船長は船の四方をぐるりと眺めていたのだが、ある一点で気になるものを見つけて目を細める。よく見ればそれは木の板のようなものが海面に浮かんでいるように見えた。
双眼鏡を手に取り覗き込んでみると、そこにはやはり木の板が浮かんでいる。それも1枚ではなく、布の切れ端や樽がそのまま浮かんでいるのも目に入った。
「こいつはえらいこった。どっかの運の悪い奴が難破したのか?」
時化た波にやられたのか、それとも賊や歪虚にやられたのか。何れにせよ何か危険な気配を船長は感じ取る。
「お前ら、航路を変えるぞ。舵を切れ」
果たして、船長の判断が正しかったのかどうかはその後すぐに分かった。
船は大量の漂流物が浮かぶ海域を避けながら進み、その海域への監視を続けていた。
そしてその海域の真横を過ぎ去ったところで、突然海面が盛り上がり始めそこからナニカが姿を現したのだ。
「な、何だありゃあ!?」
「クラゲの化け物だっ!」
海面から姿を現したのは船乗りたちの乗る船よりも大きく、まさしく化け物と言うべき大きさの巨大なクラゲの姿をしていた。
だが、クラゲと言ってもその傘の部分はまるで甲殻類かのような硬質な見た目をしており、そこから伸びる触手にはスパイクのように鋭い棘が無数に並んでいる。
「船長っ! アイツ、追ってきますよ!?」
「ちくしょうっ! 振り切るぞ!」
そんな慌てふためく船上の様子を、狂気に満ちた漆黒の瞳がじっと見つめていた。
●緊急事態
辺境の開拓地『ホープ』に地球連合の駐屯地。そこの司令部に1つの緊急連絡が舞い込んだ。
「狂気の歪虚だと。それは本当なのか?」
「はい。外見的特徴は一致しています。こちらがつい先ほど届きました。ご確認ください」
そう言って情報士官が司令官に渡したファイルには数枚の写真が入っていた。そのどれもにリアルブルーに居た頃に見覚えのある異形の化け物が写っていた。
「状況は?」
「目標は辺境の東部沿岸に突如出現。目撃者の情報によると、海の底から現れたそうです」
交易船の一隻がそれと遭遇し、急ぎに急いで予定より2時間も早く港へと逃げ込んだそうだ。
更にその船の船長が言うには狂気の歪虚が現れた海域周辺には船のものらしき残骸が散らばっていたという。
「目標は海面から浮上し、その後その交易船を追うかのような行動を取りました。しかし目標の速度は遅く、すぐに振り切ったそうです」
「となると、今その目標はどこにいるんだ?」
司令官の言葉に情報士官が大型ディスプレイに情報を映し出す。そこには辺境東部の簡略的な地図に赤の光点が浮かびあがる。
「目標は以前として西へと進んでいるとの情報が入っています。現状の速度を保つなら明日正午頃に辺境沿岸にある港町に到達します」
「あの港は我々の物資補給経路にもなっていたはずだな。部族会議とハンターズソサエティの動きは?」
「初動は芳しくありません。目標が交戦経験の少ない狂気の歪虚なせいもあるでしょうが、何より目標が飛行能力を有している為有効な攻撃手段がないようです」
そう、狂気の歪虚は個体にもよるが飛行能力を持っている。飛行というよりは浮遊と言うべき速度でしか飛ばないが、それだけで大多数の武器が役立たずになるのだから厄介な能力だ。
「…………」
ここまでの報告を受けて司令官は一度口を閉じ考え込む。この後、地球連合の辺境駐屯地の司令官として取るべき手は何かを。
数分の沈黙の後、司令官は再び口を開く。
「投入出来るCAMの数は?」
「既に2個小隊が出撃準備を始めています」
「仕事が早いな……しかし、現地まで距離がある。間に合うか?」
計算によれば、CAM運搬用魔導トラックを使い夜通し走り続けて港町への到着予定は正午過ぎとなる。
「ギリギリ間に合わないか。となれば何とかして敵を足止めしなければならないな」
司令官は眉を顰め再び考え込む。と、そのタイミングで指令室の扉が開いた。
「司令官、例の武装に関する報告書をお届けにあがりましたよー……っと、お取込み中だったかな?」
そこに現れたのはこの場には似つかわしくないよれよれの白衣を纏う軽薄な顔の男だった。
●アース・ホープ出撃
「さて、諸君。お仕事の時間だよ」
格納庫に集まったハンター達にトーマスは開口一番にそう告げた。
「説明は既に受けたと思うけどちょっと緊急事態でね。君達には先行部隊として敵の足止めをお願いしたい」
今回の仕事の内容は地球連合軍のCAM部隊が港町に到着するまでの時間稼ぎだ。
「敵が港に到着する予定時刻と、CAM部隊が港に到着する予定時刻の差はおよそ1時間。君達にはそれだけの時間を稼いで貰う」
1時間という時間は短いようで長い。特に戦闘に置いては1分1秒の違いで生死が別れる場面がごまんと存在するのだ。
「いいかい? 恐らく君達の機関銃じゃあの歪虚は倒せない。だからCAM部隊からの対空支援を待つんだ。彼らの武器なら狂気の歪虚の外殻を破壊できるはずだからね」
トーマスが皆に念を押したところで、白衣の女性が駆け寄ってきて発進準備が出来たことを告げる。
「それじゃあ皆、また後で会おう」
トーマスはそう言って、下手糞な敬礼をして見せた。
クリムゾンウェストの東海岸側では多くの船が行き来している。
冒険都市リゼリオと同盟の各都市、そして辺境を繋ぐ交易船が日に何十隻と各港を出発するのだ。
そんな交易船の中で、リゼリオから辺境へと向かう1隻の船があった。積み荷は食料品から嗜好品まで色々だ。
「へえ、あの積み荷は例の開拓地『ホープ』まで運ぶわけか。それまた長旅になりそうだな」
「そうだな。とは言えずっと陸路で行くよりはマシだろう。帝国経由だと大回りになっちまうしな」
その船の上で、船乗りの男達はデッキブラシで甲板を磨きながらそんな会話をしていた。
実際陸路での運搬はとても時間が掛かる。障害物は避けて通らないといけないし、盗賊や歪虚の襲撃も多くリスクが高いのだ。
その点海路は障害物など無いに等しいし、陸路に比べて襲ってくるものも少ない。仮に襲われても足の速い船なら逃走も容易だ。
「最近はあちこちで歪虚が暴れ始めて大変みたいだしなぁ。その点、海は今んところ平和だな」
「全くだ。何でか知らんが海を泳ぐ歪虚なんて滅多にいないようだし、俺たちにとっちゃ嬉しい限りだ」
最近では各国の交易も盛んになってきて物資の搬送の仕事も増えてきたし、彼らにとってはまさに今が稼ぎ時であった。
「おいっ。お前ら口ばっかり動かしてないで手を動かせ! 床磨きが終わる前に港に着いちまうぞ!」
「「へーい」」
そんなお喋りな船乗り達に一括したのはこの船の船長だった。彼は床を擦り始めた男達を見てやれやれと肩を竦める。
航行は順調。あと数時間もすれば辺境にある港に着く予定だ。空を見れば天気も良く、嵐や時化の前兆もない。
「……んっ?」
船長は船の四方をぐるりと眺めていたのだが、ある一点で気になるものを見つけて目を細める。よく見ればそれは木の板のようなものが海面に浮かんでいるように見えた。
双眼鏡を手に取り覗き込んでみると、そこにはやはり木の板が浮かんでいる。それも1枚ではなく、布の切れ端や樽がそのまま浮かんでいるのも目に入った。
「こいつはえらいこった。どっかの運の悪い奴が難破したのか?」
時化た波にやられたのか、それとも賊や歪虚にやられたのか。何れにせよ何か危険な気配を船長は感じ取る。
「お前ら、航路を変えるぞ。舵を切れ」
果たして、船長の判断が正しかったのかどうかはその後すぐに分かった。
船は大量の漂流物が浮かぶ海域を避けながら進み、その海域への監視を続けていた。
そしてその海域の真横を過ぎ去ったところで、突然海面が盛り上がり始めそこからナニカが姿を現したのだ。
「な、何だありゃあ!?」
「クラゲの化け物だっ!」
海面から姿を現したのは船乗りたちの乗る船よりも大きく、まさしく化け物と言うべき大きさの巨大なクラゲの姿をしていた。
だが、クラゲと言ってもその傘の部分はまるで甲殻類かのような硬質な見た目をしており、そこから伸びる触手にはスパイクのように鋭い棘が無数に並んでいる。
「船長っ! アイツ、追ってきますよ!?」
「ちくしょうっ! 振り切るぞ!」
そんな慌てふためく船上の様子を、狂気に満ちた漆黒の瞳がじっと見つめていた。
●緊急事態
辺境の開拓地『ホープ』に地球連合の駐屯地。そこの司令部に1つの緊急連絡が舞い込んだ。
「狂気の歪虚だと。それは本当なのか?」
「はい。外見的特徴は一致しています。こちらがつい先ほど届きました。ご確認ください」
そう言って情報士官が司令官に渡したファイルには数枚の写真が入っていた。そのどれもにリアルブルーに居た頃に見覚えのある異形の化け物が写っていた。
「状況は?」
「目標は辺境の東部沿岸に突如出現。目撃者の情報によると、海の底から現れたそうです」
交易船の一隻がそれと遭遇し、急ぎに急いで予定より2時間も早く港へと逃げ込んだそうだ。
更にその船の船長が言うには狂気の歪虚が現れた海域周辺には船のものらしき残骸が散らばっていたという。
「目標は海面から浮上し、その後その交易船を追うかのような行動を取りました。しかし目標の速度は遅く、すぐに振り切ったそうです」
「となると、今その目標はどこにいるんだ?」
司令官の言葉に情報士官が大型ディスプレイに情報を映し出す。そこには辺境東部の簡略的な地図に赤の光点が浮かびあがる。
「目標は以前として西へと進んでいるとの情報が入っています。現状の速度を保つなら明日正午頃に辺境沿岸にある港町に到達します」
「あの港は我々の物資補給経路にもなっていたはずだな。部族会議とハンターズソサエティの動きは?」
「初動は芳しくありません。目標が交戦経験の少ない狂気の歪虚なせいもあるでしょうが、何より目標が飛行能力を有している為有効な攻撃手段がないようです」
そう、狂気の歪虚は個体にもよるが飛行能力を持っている。飛行というよりは浮遊と言うべき速度でしか飛ばないが、それだけで大多数の武器が役立たずになるのだから厄介な能力だ。
「…………」
ここまでの報告を受けて司令官は一度口を閉じ考え込む。この後、地球連合の辺境駐屯地の司令官として取るべき手は何かを。
数分の沈黙の後、司令官は再び口を開く。
「投入出来るCAMの数は?」
「既に2個小隊が出撃準備を始めています」
「仕事が早いな……しかし、現地まで距離がある。間に合うか?」
計算によれば、CAM運搬用魔導トラックを使い夜通し走り続けて港町への到着予定は正午過ぎとなる。
「ギリギリ間に合わないか。となれば何とかして敵を足止めしなければならないな」
司令官は眉を顰め再び考え込む。と、そのタイミングで指令室の扉が開いた。
「司令官、例の武装に関する報告書をお届けにあがりましたよー……っと、お取込み中だったかな?」
そこに現れたのはこの場には似つかわしくないよれよれの白衣を纏う軽薄な顔の男だった。
●アース・ホープ出撃
「さて、諸君。お仕事の時間だよ」
格納庫に集まったハンター達にトーマスは開口一番にそう告げた。
「説明は既に受けたと思うけどちょっと緊急事態でね。君達には先行部隊として敵の足止めをお願いしたい」
今回の仕事の内容は地球連合軍のCAM部隊が港町に到着するまでの時間稼ぎだ。
「敵が港に到着する予定時刻と、CAM部隊が港に到着する予定時刻の差はおよそ1時間。君達にはそれだけの時間を稼いで貰う」
1時間という時間は短いようで長い。特に戦闘に置いては1分1秒の違いで生死が別れる場面がごまんと存在するのだ。
「いいかい? 恐らく君達の機関銃じゃあの歪虚は倒せない。だからCAM部隊からの対空支援を待つんだ。彼らの武器なら狂気の歪虚の外殻を破壊できるはずだからね」
トーマスが皆に念を押したところで、白衣の女性が駆け寄ってきて発進準備が出来たことを告げる。
「それじゃあ皆、また後で会おう」
トーマスはそう言って、下手糞な敬礼をして見せた。
リプレイ本文
●空を舞う者達
「ひゅー! これが新技術のプロトタイプ、飛行機というものですか! これはわくわくが止まりません!」
数時間の飛行移動をしただけですっかり舞い上がっているフレデリク・リンドバーグ(ka2490)は、出発前に言われた通り海上に出たところで機体の操作パネルのスイッチを1つ押す。
すると機体両翼から金属音がして、何かが海面へと落下していくのが見えた。
「増槽の切り離し完了っと……ひゃー! 次は巨大怪獣討伐だー! 悪い怪獣やっつけるぞー!」
同じく増槽を切り離して機体を身軽にしたエリス・ブーリャ(ka3419)は、目の前に迫っている巨大な狂気の歪虚を目に思わず笑みを浮かべていた。
「んふふふふ、待ってたんだよね、こういう日を!」
エリスと同じくテンションの高いウーナ(ka1439)も思わず操縦桿を握る手に力が入る。
「ところで、ガッちゃんは大丈夫? 酔ったりしてない?」
「飛行機は初めてではありませんしその心配は無用ですよ。しかし、これまたまたデカブツが現れましたねえ」
ウーナの操る複座機の後部に乗るGacrux(ka2726)は久しぶりの飛行を楽しむ時間もつかの間、戦場へと入ったところで意識を切り替えながら目の前に立ちはだかる大型歪虚の姿に目を細める。 「大丈夫、大丈夫! なんとかなるし、寧ろなんとかしちゃうから!」
「そうそう。もしもの時の為にパラシュートも用意したんだからいざって時も安心だよ」
ウーナの言葉に続き、ロベリア・李(ka4206)の冗談めかした声が無線から聞こえてきた。
「そう簡単に落ちるつもりはないがな。折角の戦場なのだから存分に戦わなくては」
「そりゃあ勿論。期待してるから、操縦は任せたよ」
そんなロベリアの乗る複座機の操縦を務める不動シオン(ka5395)は不敵な笑みを浮かべる。
「敵もこっちに気づいたようだな。小さいのが大量に出てきたぞ」
柊 真司(ka0705)の言葉通り、クラゲ型歪虚まであと1kmといったところで、クラゲ型歪虚の傘の下から小さな黒い影が大量に飛び出してきているのが見えた。
「戦闘開始でありますね。今回もよろしくお願いするでありますよ、アース・ホープ!」
愛しみを込めてその名を呼んだクラヴィ・グレイディ(ka4687)は、高速で接近してくる小型歪虚の群れに向けて機関銃のトリガーを引いた。
●海上の迎撃戦
「各機散開!」
「了っ、解!」
無線で響くGacruxの声にウーナは操縦桿を斜めに傾けながら思いっきり引いた。すると機体は左にロールしながら、ピッチを上げて急旋回していく。
他の機体もそれぞれの方向へ旋回を始めると、目の前に迫っていたトビウオ型歪虚の群れは同じようにばらけてその後ろを追い始める。
「意外と速いね、あのトビウオ!」
「ええ、どうやら速度ではあちらが勝っているようで……ウーナ、右旋回を!」
後ろを見やったGacruxはぐんぐんと追いついてくるトビウオ型歪虚の姿を見て咄嗟に指示を飛ばす。
ウーナはそれに従い操縦桿を倒し、機体は横滑りするようにして右へと旋回していく。
「ただ、旋回性能はお世辞にもいいとは言えないようです」
くるりと180度ターンを決めたウーナとGacruxの機体に対し、トビウオ型歪虚の群れは随分と遠くまで飛んでいきながらゆっくりと方向転換をしている。
「分かりやすい弱点があるのはこっちにとってはありがたいよね!」
「少なくとも旋回を続けていたら攻撃されることはなさそうです」
同じように旋回をすることで敵を振り切ったエリスとフレデリクの機体が、ウーナとGacruxの機体の後ろにつく。
「それじゃああたしたちはクラゲのとこに行くから、あれはお任せするよ」
「了解です。あのトビウオの群れは私達がこの新しいオモチャで遊んであげます!」
やる気たっぷりなフレデリクの言葉にウーナは笑みを浮かべつつ、機首を傾け未だにゆっくりと進攻しているクラゲ型歪虚の下へと向かう。
「それじゃあ張り切ってやっつけちゃうよー! 前々からやっつけたいと思ってたんだよね」
旋回を終えて再び正面から突っ込んでくるトビウオ型歪虚の群れに、エリスはまたとないチャンスだと心の中で舌なめずりをしながら、機首を上げて天高い空へと機体を押し上げ始めた。
勿論トビウオ型歪虚達もそれに反応し、エリス機の後に続くようにして高く高く昇ってくる。
「ひゃー、こんなに一杯釣れちゃった! フレデリクちゃん後はお願いねっ」
「任されました!」
エリスは機体の後ろに追いすがってくる大量のトビウオ型歪虚の姿を見て、フレデリクに通信を送った。
それに返事をしたフレデリクは歪虚からは完全にノーマークになっており簡単にトビウオ型歪虚の背後に回り込むことが出来た。
もはやしっかりと狙いを定める必要もなく、フレデリク機が放った7.92mmの銃弾はいともたやすくトビウオ型歪虚の体を突き破りその蹂躙の残骸がぼとぼとと真下の海面へと落ちていく。
ただすべてのトビウオ型歪虚を打ち落とすには火力が足りず、空へと上がる為に速度の落ちたエリス機の尾翼に群れの先頭を行く1匹が追いついた。
「おおっと、不味い不味い!」
布の破れるような嫌な音がしたのと同時に、エリスは操縦桿をさらに手前に倒す。すると機体はぐっと縦方向に傾き始め、空に腹を見せたかと思うとそのまま青い海面に機首を向けた。
「ひゃっ――――ほー!」
上空からの急降下。今まで体に掛かっていたGが比べ物にならないくらいキツくなるが、それすらも楽しみながらエリス機は一気に高度を落とす。
機首を上げて水平飛行に戻った時、トビウオ型歪虚達はまだ上空でゆっくり旋回をしているところだった。
「さあ、今度はエリスちゃんが追っかける番だよー」
獲物に狙いを定めた鮫の如く、エリス機はトビウオ型歪虚の背後を取る為に機体を駆った。
「仲間はやらせないのであります!」
クラヴィ機の機関銃が火を噴き、目の前を飛ぶトビウオ型歪虚が砕け散る。
「クラヴィ、感謝する。では私達はもう一度クラゲ型への攻撃を開始する」
背後の憂いがなくなったシオンは何度目かのクラゲ型歪虚への接近を試みる。
シオン機はぐるりとクラゲ型歪虚の周囲を旋回しながら徐々に距離を詰め、ほぼその真後ろを取ったところで機首をクラゲ型歪虚へと向けた。
そして銃の射程に入るかと思った瞬間、クラゲ型歪虚の触手が突然動き出す。
「機体左下から触手接近、回避行動!」
「ちぃっ!」
ロベリアの指示にシオンは操縦桿を右へと倒す。シオン機が右へと旋回を始めたところで、その腹を掠めるように岩肌のような見た目をした触手が通り過ぎていく。
「あと少しだったんだがな」
「今撃ってたら仮に当てられても、こっちは触手で吹っ飛ばされてたよ」
クラゲ型歪虚の触手は射程内に入ったこちらへの反応は予想以上に早かった。
今のところ避けるコースを先読みしたり、複数本で襲ってきたりはしないので回避は難しくないが、あれだけ大きい触手での攻撃だとちゃんと避けるには紙一重という訳にもいかず射程内に留まることが出来ないでいる。
「今回の目的は援軍到着までの時間稼ぎよ。だから焦りは禁物」
「分かってはいるが……そうこうしているうちにお代わりが来たようだ」
クラゲ型歪虚を視界に収めていると、その傘の下からまた十数匹のトビウオ型歪虚が飛び出してくるのが見えた。
「多いわね。アレは一旦片付けたほうが良さそうよ」
「そうするとしよう」
シオン機はクラゲ型歪虚から距離を取る為に旋回を始める。だが、やはりと言うべきか今出てきたトビウオ型歪虚達は一番近くにいたシオン機目掛けて突進してきていた。
「不味いね。距離がばらばらの状態で全部こっちにこられたわ」
「四の五の言ってはいられない。しっかりと掴まっていろ!」
機体のマテリアルエンジンが甲高い音を立て始める。機体はぐんっと加速するが、トビウオ型歪虚は徐々にそれに追いすがってくる。
そして追いつかれると思われた瞬間、シオン機は左に向かって急旋回を開始した。
すぐ傍まで接近していたトビウオ型歪虚はそれを追えずほぼ直進しながら飛び去って行く。だが、まだ距離があった数匹は旋回して体を曝した機体上部目掛けて突っ込んでくる。
「任せて頂戴。迎撃するわ」
座席から腕を伸ばしたロベリアはその手にした銃の引き金を引いた。そこから放たれるのは弾丸ではなく、収束したマテリアルで形成された3本の矢だった。
放たれた光の矢は迫ってくるトビウオ型歪虚の頭を貫き、勢いを失ったその死骸は慣性と重力に従って機体下部を通り過ぎていく。
だが、それでも落とし切れなかった最後の1匹がその目を光らせた。
「そう簡単にはやらせねぇよ」
その瞬間、上空から降り注ぐ鉛の雨にシオン機に接近していた最後の一匹がズタズタに引き裂かれる。
そして惨状を掻き消すかのようにして双翼の機体――真司機が通り過ぎていく。その後ろにはおまけとばかりに数匹のトビウオ型歪虚を引き連れながら。
海面近くまで高度を下げた真司機は海面に波紋を作りながら後ろに追いすがってくるトビウオ型歪虚を確認する。
そして、前を向いた瞬間に別の2匹のトビウオ型歪虚が接近してきているのが目に入った。
その時真司の心に生まれたのは恐怖でも焦りでもなく、それらを飲み込むほどの好奇心。
「お前の限界、見せても貰うぜ!」
ざわりと真司の雰囲気が変わった。その身に溢れるマテリアルが力へと変換され、それは思考をも加速させる。
前から接近するトビウオ型歪虚と衝突するまであと僅かとなった瞬間、真司は操縦桿を僅かにだけ傾ける。それ以上でもそれ以下でも駄目という『計算』された角度と速度で真司機は右へとロールする。
まるで針に糸を通すかの如く定められた繊細な動きで真司機は2匹のトビウオ型歪虚の間を通り抜けた。さらにそこで一気に急上昇し、後ろから追いすがっていたトビウオ型歪虚もやり過ごす。
「く――はっ! 確かにこれはキツい」
窮地を脱したところで真司は覚醒を解いた。やはり覚醒と機体を動かす為にと同時にマテリアルを消費する行動をしては体にかかる負荷は通常の比ではない。
マテリアルの保有量は足りていても、それを取り出す蛇口の大きさが足りていないと言えばいいだろうか。何にしても操縦をしながらの覚醒は非推奨と言われていた意味を真司は身をもって理解した。
「なあ、援軍到着までの残り時間はあとどれくらいだ?」
「だいたいあと30分であります!」
真司の問いにはクラヴィが答えてくれた。やっと半分と言うべきか、あと半分と言うべきか。何にしても今ここで脱落するには早すぎるのは確かだ。
「ところで真司殿。少しヘルプをお願いしたいのであります!」
見ればクラヴィ機が大量のトビウオ型歪虚に追われている。どうも先ほどまで真司を追っていたモノ達もあちらに標的を変えていたようだ。
「了解。本当に今日は大漁だな」
「食べられもしない雑魚ばっかりだがな」
「あの大物を食べるのもゴメンだけどね」
真司の言葉にシオンとロベリアが乗っかる。
隣に並び合った真司機とシオン機は互いにアイコンタクトを送り合うと、仲間の窮地を救うべく空を舞う魚群目掛けて機銃のトリガーを同時に引いた。
●3600秒の末
戦闘が始まって丁度1時間。港街の方角から眩い光を放つ閃光弾が打ち上げられた。
「皆さん、援軍が到着したようです」
それをいち早く見つけたフレデリクが通信でハンター仲間達にそう伝える。
『こち……地球連合軍……より、援護射撃……する』
さらに途切れ途切れな通信が入ってきた。距離の問題か、周波数がちゃんとあっていないのかは分からないが、どうやら作戦通りにクラゲ型歪虚に砲撃を開始するようだ。
「やっとクラゲに接近するの慣れてきたところだったんだけどなー、残念」
エリスのそんな言葉を聞きながらハンター達はクラゲ型歪虚から一斉に距離を取る。
そして数秒の間を置いた後、港町の沿岸で光が瞬いた。音速をゆうに超える砲弾が空気を切り裂いて飛び、クラゲ型歪虚の外殻に着弾すると共に爆炎を上げる。
砲撃音と爆発音が入り乱れる中で、罅割れ崩れ始めた外殻が海へと落ちていくのが見えた。
『――――ッ!』
それは鳴き声なのか、初めて感じたその音に驚きつつも砲撃が有効だったことをハンター達も確信する。
だがそこでクラゲ型歪虚が急に加速を始めた。今までゆっくり飛んでいたのが嘘のように、ぐんぐんと速度を上げて港町へと接近していく。
「不味いね。CAMの砲撃をよほどの脅威と感じたみたい」
「このままだと撃墜する前にCAM部隊と接敵するぞ。どうする?」
シオン機は追いすがりながら射撃を繰り返すが、まだ外殻が剥げていない場所もあり狙いが中々合わない。
そこで、クラゲ型歪虚の正面に割り込んだ機体があった。
「さあ、ガッちゃん。張り切って輝いてね!」
「輝いたりはしませんけど、気合はいれて行きます」
Gacruxの目の周りに黒の目張りが浮かび、その体から乾いた血のような黒い炎に似たオーラがあふれ出す。
その黒のオーラはウーナ機の軌跡に残滓を残しながら散っていき、それがクラゲ型歪虚の気を僅かに引いた。
進行速度を緩めたクラゲ型歪虚に再び砲弾の雨が降り注ぐ。外殻は次々に砕け、正面部分は殆ど崩れ落ちていった。
と、そこでクラゲ型歪虚の傘の下からトビウオ型歪虚が再び飛び出してくる。
「あっ、まだトビウオを残していたのでありますか!」
「ちっ、雑魚はこっちに任せろ。他の奴はこのデカブツを頼んだぜ! 行くぞ、クラヴィ」
「了解であります!」
港町にいるCAM部隊へ向かおうとするトビウオ型歪虚をクラヴィ機と真司機が後を追う。
クラゲ型歪虚を誘引するウーナ機を除く残った3機は一気に急上昇し、クラゲ型歪虚の真上を捉えると急降下を始めた。
「そろそろ引導を渡してやる。深海の闇へと還れ!」
吐き出された銃弾の嵐が、クラゲ型歪虚の柔らかい内側の蹂躙を開始した。
●作戦後の格納庫
「今回も皆頑張ってくれたようだね」
戻ってきた機体を眺めながらトーマスはそう呟く。
流石に無傷とはいかず機体には大小さまざまな傷が残っているが、どれも直せる範囲のものだ。
そんな機体から視線を外したトーマスは、先ほど一度読んだ今回の作戦報告書に目を向ける。
「作戦時の機動性は認められたみたいだけど……決定打に欠ける、ね」
確かにCAMと比べれば火力面で貧弱なのは否定できない。となれば次に考えるべきは……。
「ちょっとリーダー。サボってないであなたも手伝いなさいよ!」
「分かった分かった。そう怒鳴るな。小皺が増えるぞ」
白衣の女性が投げたスパナをしゃがんで躱しながら、トーマスは次にするべきことを頭の中でまとめ始めていた。
「ひゅー! これが新技術のプロトタイプ、飛行機というものですか! これはわくわくが止まりません!」
数時間の飛行移動をしただけですっかり舞い上がっているフレデリク・リンドバーグ(ka2490)は、出発前に言われた通り海上に出たところで機体の操作パネルのスイッチを1つ押す。
すると機体両翼から金属音がして、何かが海面へと落下していくのが見えた。
「増槽の切り離し完了っと……ひゃー! 次は巨大怪獣討伐だー! 悪い怪獣やっつけるぞー!」
同じく増槽を切り離して機体を身軽にしたエリス・ブーリャ(ka3419)は、目の前に迫っている巨大な狂気の歪虚を目に思わず笑みを浮かべていた。
「んふふふふ、待ってたんだよね、こういう日を!」
エリスと同じくテンションの高いウーナ(ka1439)も思わず操縦桿を握る手に力が入る。
「ところで、ガッちゃんは大丈夫? 酔ったりしてない?」
「飛行機は初めてではありませんしその心配は無用ですよ。しかし、これまたまたデカブツが現れましたねえ」
ウーナの操る複座機の後部に乗るGacrux(ka2726)は久しぶりの飛行を楽しむ時間もつかの間、戦場へと入ったところで意識を切り替えながら目の前に立ちはだかる大型歪虚の姿に目を細める。 「大丈夫、大丈夫! なんとかなるし、寧ろなんとかしちゃうから!」
「そうそう。もしもの時の為にパラシュートも用意したんだからいざって時も安心だよ」
ウーナの言葉に続き、ロベリア・李(ka4206)の冗談めかした声が無線から聞こえてきた。
「そう簡単に落ちるつもりはないがな。折角の戦場なのだから存分に戦わなくては」
「そりゃあ勿論。期待してるから、操縦は任せたよ」
そんなロベリアの乗る複座機の操縦を務める不動シオン(ka5395)は不敵な笑みを浮かべる。
「敵もこっちに気づいたようだな。小さいのが大量に出てきたぞ」
柊 真司(ka0705)の言葉通り、クラゲ型歪虚まであと1kmといったところで、クラゲ型歪虚の傘の下から小さな黒い影が大量に飛び出してきているのが見えた。
「戦闘開始でありますね。今回もよろしくお願いするでありますよ、アース・ホープ!」
愛しみを込めてその名を呼んだクラヴィ・グレイディ(ka4687)は、高速で接近してくる小型歪虚の群れに向けて機関銃のトリガーを引いた。
●海上の迎撃戦
「各機散開!」
「了っ、解!」
無線で響くGacruxの声にウーナは操縦桿を斜めに傾けながら思いっきり引いた。すると機体は左にロールしながら、ピッチを上げて急旋回していく。
他の機体もそれぞれの方向へ旋回を始めると、目の前に迫っていたトビウオ型歪虚の群れは同じようにばらけてその後ろを追い始める。
「意外と速いね、あのトビウオ!」
「ええ、どうやら速度ではあちらが勝っているようで……ウーナ、右旋回を!」
後ろを見やったGacruxはぐんぐんと追いついてくるトビウオ型歪虚の姿を見て咄嗟に指示を飛ばす。
ウーナはそれに従い操縦桿を倒し、機体は横滑りするようにして右へと旋回していく。
「ただ、旋回性能はお世辞にもいいとは言えないようです」
くるりと180度ターンを決めたウーナとGacruxの機体に対し、トビウオ型歪虚の群れは随分と遠くまで飛んでいきながらゆっくりと方向転換をしている。
「分かりやすい弱点があるのはこっちにとってはありがたいよね!」
「少なくとも旋回を続けていたら攻撃されることはなさそうです」
同じように旋回をすることで敵を振り切ったエリスとフレデリクの機体が、ウーナとGacruxの機体の後ろにつく。
「それじゃああたしたちはクラゲのとこに行くから、あれはお任せするよ」
「了解です。あのトビウオの群れは私達がこの新しいオモチャで遊んであげます!」
やる気たっぷりなフレデリクの言葉にウーナは笑みを浮かべつつ、機首を傾け未だにゆっくりと進攻しているクラゲ型歪虚の下へと向かう。
「それじゃあ張り切ってやっつけちゃうよー! 前々からやっつけたいと思ってたんだよね」
旋回を終えて再び正面から突っ込んでくるトビウオ型歪虚の群れに、エリスはまたとないチャンスだと心の中で舌なめずりをしながら、機首を上げて天高い空へと機体を押し上げ始めた。
勿論トビウオ型歪虚達もそれに反応し、エリス機の後に続くようにして高く高く昇ってくる。
「ひゃー、こんなに一杯釣れちゃった! フレデリクちゃん後はお願いねっ」
「任されました!」
エリスは機体の後ろに追いすがってくる大量のトビウオ型歪虚の姿を見て、フレデリクに通信を送った。
それに返事をしたフレデリクは歪虚からは完全にノーマークになっており簡単にトビウオ型歪虚の背後に回り込むことが出来た。
もはやしっかりと狙いを定める必要もなく、フレデリク機が放った7.92mmの銃弾はいともたやすくトビウオ型歪虚の体を突き破りその蹂躙の残骸がぼとぼとと真下の海面へと落ちていく。
ただすべてのトビウオ型歪虚を打ち落とすには火力が足りず、空へと上がる為に速度の落ちたエリス機の尾翼に群れの先頭を行く1匹が追いついた。
「おおっと、不味い不味い!」
布の破れるような嫌な音がしたのと同時に、エリスは操縦桿をさらに手前に倒す。すると機体はぐっと縦方向に傾き始め、空に腹を見せたかと思うとそのまま青い海面に機首を向けた。
「ひゃっ――――ほー!」
上空からの急降下。今まで体に掛かっていたGが比べ物にならないくらいキツくなるが、それすらも楽しみながらエリス機は一気に高度を落とす。
機首を上げて水平飛行に戻った時、トビウオ型歪虚達はまだ上空でゆっくり旋回をしているところだった。
「さあ、今度はエリスちゃんが追っかける番だよー」
獲物に狙いを定めた鮫の如く、エリス機はトビウオ型歪虚の背後を取る為に機体を駆った。
「仲間はやらせないのであります!」
クラヴィ機の機関銃が火を噴き、目の前を飛ぶトビウオ型歪虚が砕け散る。
「クラヴィ、感謝する。では私達はもう一度クラゲ型への攻撃を開始する」
背後の憂いがなくなったシオンは何度目かのクラゲ型歪虚への接近を試みる。
シオン機はぐるりとクラゲ型歪虚の周囲を旋回しながら徐々に距離を詰め、ほぼその真後ろを取ったところで機首をクラゲ型歪虚へと向けた。
そして銃の射程に入るかと思った瞬間、クラゲ型歪虚の触手が突然動き出す。
「機体左下から触手接近、回避行動!」
「ちぃっ!」
ロベリアの指示にシオンは操縦桿を右へと倒す。シオン機が右へと旋回を始めたところで、その腹を掠めるように岩肌のような見た目をした触手が通り過ぎていく。
「あと少しだったんだがな」
「今撃ってたら仮に当てられても、こっちは触手で吹っ飛ばされてたよ」
クラゲ型歪虚の触手は射程内に入ったこちらへの反応は予想以上に早かった。
今のところ避けるコースを先読みしたり、複数本で襲ってきたりはしないので回避は難しくないが、あれだけ大きい触手での攻撃だとちゃんと避けるには紙一重という訳にもいかず射程内に留まることが出来ないでいる。
「今回の目的は援軍到着までの時間稼ぎよ。だから焦りは禁物」
「分かってはいるが……そうこうしているうちにお代わりが来たようだ」
クラゲ型歪虚を視界に収めていると、その傘の下からまた十数匹のトビウオ型歪虚が飛び出してくるのが見えた。
「多いわね。アレは一旦片付けたほうが良さそうよ」
「そうするとしよう」
シオン機はクラゲ型歪虚から距離を取る為に旋回を始める。だが、やはりと言うべきか今出てきたトビウオ型歪虚達は一番近くにいたシオン機目掛けて突進してきていた。
「不味いね。距離がばらばらの状態で全部こっちにこられたわ」
「四の五の言ってはいられない。しっかりと掴まっていろ!」
機体のマテリアルエンジンが甲高い音を立て始める。機体はぐんっと加速するが、トビウオ型歪虚は徐々にそれに追いすがってくる。
そして追いつかれると思われた瞬間、シオン機は左に向かって急旋回を開始した。
すぐ傍まで接近していたトビウオ型歪虚はそれを追えずほぼ直進しながら飛び去って行く。だが、まだ距離があった数匹は旋回して体を曝した機体上部目掛けて突っ込んでくる。
「任せて頂戴。迎撃するわ」
座席から腕を伸ばしたロベリアはその手にした銃の引き金を引いた。そこから放たれるのは弾丸ではなく、収束したマテリアルで形成された3本の矢だった。
放たれた光の矢は迫ってくるトビウオ型歪虚の頭を貫き、勢いを失ったその死骸は慣性と重力に従って機体下部を通り過ぎていく。
だが、それでも落とし切れなかった最後の1匹がその目を光らせた。
「そう簡単にはやらせねぇよ」
その瞬間、上空から降り注ぐ鉛の雨にシオン機に接近していた最後の一匹がズタズタに引き裂かれる。
そして惨状を掻き消すかのようにして双翼の機体――真司機が通り過ぎていく。その後ろにはおまけとばかりに数匹のトビウオ型歪虚を引き連れながら。
海面近くまで高度を下げた真司機は海面に波紋を作りながら後ろに追いすがってくるトビウオ型歪虚を確認する。
そして、前を向いた瞬間に別の2匹のトビウオ型歪虚が接近してきているのが目に入った。
その時真司の心に生まれたのは恐怖でも焦りでもなく、それらを飲み込むほどの好奇心。
「お前の限界、見せても貰うぜ!」
ざわりと真司の雰囲気が変わった。その身に溢れるマテリアルが力へと変換され、それは思考をも加速させる。
前から接近するトビウオ型歪虚と衝突するまであと僅かとなった瞬間、真司は操縦桿を僅かにだけ傾ける。それ以上でもそれ以下でも駄目という『計算』された角度と速度で真司機は右へとロールする。
まるで針に糸を通すかの如く定められた繊細な動きで真司機は2匹のトビウオ型歪虚の間を通り抜けた。さらにそこで一気に急上昇し、後ろから追いすがっていたトビウオ型歪虚もやり過ごす。
「く――はっ! 確かにこれはキツい」
窮地を脱したところで真司は覚醒を解いた。やはり覚醒と機体を動かす為にと同時にマテリアルを消費する行動をしては体にかかる負荷は通常の比ではない。
マテリアルの保有量は足りていても、それを取り出す蛇口の大きさが足りていないと言えばいいだろうか。何にしても操縦をしながらの覚醒は非推奨と言われていた意味を真司は身をもって理解した。
「なあ、援軍到着までの残り時間はあとどれくらいだ?」
「だいたいあと30分であります!」
真司の問いにはクラヴィが答えてくれた。やっと半分と言うべきか、あと半分と言うべきか。何にしても今ここで脱落するには早すぎるのは確かだ。
「ところで真司殿。少しヘルプをお願いしたいのであります!」
見ればクラヴィ機が大量のトビウオ型歪虚に追われている。どうも先ほどまで真司を追っていたモノ達もあちらに標的を変えていたようだ。
「了解。本当に今日は大漁だな」
「食べられもしない雑魚ばっかりだがな」
「あの大物を食べるのもゴメンだけどね」
真司の言葉にシオンとロベリアが乗っかる。
隣に並び合った真司機とシオン機は互いにアイコンタクトを送り合うと、仲間の窮地を救うべく空を舞う魚群目掛けて機銃のトリガーを同時に引いた。
●3600秒の末
戦闘が始まって丁度1時間。港街の方角から眩い光を放つ閃光弾が打ち上げられた。
「皆さん、援軍が到着したようです」
それをいち早く見つけたフレデリクが通信でハンター仲間達にそう伝える。
『こち……地球連合軍……より、援護射撃……する』
さらに途切れ途切れな通信が入ってきた。距離の問題か、周波数がちゃんとあっていないのかは分からないが、どうやら作戦通りにクラゲ型歪虚に砲撃を開始するようだ。
「やっとクラゲに接近するの慣れてきたところだったんだけどなー、残念」
エリスのそんな言葉を聞きながらハンター達はクラゲ型歪虚から一斉に距離を取る。
そして数秒の間を置いた後、港町の沿岸で光が瞬いた。音速をゆうに超える砲弾が空気を切り裂いて飛び、クラゲ型歪虚の外殻に着弾すると共に爆炎を上げる。
砲撃音と爆発音が入り乱れる中で、罅割れ崩れ始めた外殻が海へと落ちていくのが見えた。
『――――ッ!』
それは鳴き声なのか、初めて感じたその音に驚きつつも砲撃が有効だったことをハンター達も確信する。
だがそこでクラゲ型歪虚が急に加速を始めた。今までゆっくり飛んでいたのが嘘のように、ぐんぐんと速度を上げて港町へと接近していく。
「不味いね。CAMの砲撃をよほどの脅威と感じたみたい」
「このままだと撃墜する前にCAM部隊と接敵するぞ。どうする?」
シオン機は追いすがりながら射撃を繰り返すが、まだ外殻が剥げていない場所もあり狙いが中々合わない。
そこで、クラゲ型歪虚の正面に割り込んだ機体があった。
「さあ、ガッちゃん。張り切って輝いてね!」
「輝いたりはしませんけど、気合はいれて行きます」
Gacruxの目の周りに黒の目張りが浮かび、その体から乾いた血のような黒い炎に似たオーラがあふれ出す。
その黒のオーラはウーナ機の軌跡に残滓を残しながら散っていき、それがクラゲ型歪虚の気を僅かに引いた。
進行速度を緩めたクラゲ型歪虚に再び砲弾の雨が降り注ぐ。外殻は次々に砕け、正面部分は殆ど崩れ落ちていった。
と、そこでクラゲ型歪虚の傘の下からトビウオ型歪虚が再び飛び出してくる。
「あっ、まだトビウオを残していたのでありますか!」
「ちっ、雑魚はこっちに任せろ。他の奴はこのデカブツを頼んだぜ! 行くぞ、クラヴィ」
「了解であります!」
港町にいるCAM部隊へ向かおうとするトビウオ型歪虚をクラヴィ機と真司機が後を追う。
クラゲ型歪虚を誘引するウーナ機を除く残った3機は一気に急上昇し、クラゲ型歪虚の真上を捉えると急降下を始めた。
「そろそろ引導を渡してやる。深海の闇へと還れ!」
吐き出された銃弾の嵐が、クラゲ型歪虚の柔らかい内側の蹂躙を開始した。
●作戦後の格納庫
「今回も皆頑張ってくれたようだね」
戻ってきた機体を眺めながらトーマスはそう呟く。
流石に無傷とはいかず機体には大小さまざまな傷が残っているが、どれも直せる範囲のものだ。
そんな機体から視線を外したトーマスは、先ほど一度読んだ今回の作戦報告書に目を向ける。
「作戦時の機動性は認められたみたいだけど……決定打に欠ける、ね」
確かにCAMと比べれば火力面で貧弱なのは否定できない。となれば次に考えるべきは……。
「ちょっとリーダー。サボってないであなたも手伝いなさいよ!」
「分かった分かった。そう怒鳴るな。小皺が増えるぞ」
白衣の女性が投げたスパナをしゃがんで躱しながら、トーマスは次にするべきことを頭の中でまとめ始めていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 フレデリク・リンドバーグ(ka2490) エルフ|16才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/05/14 20:15:20 |
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相談卓 フレデリク・リンドバーグ(ka2490) エルフ|16才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/05/15 06:29:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/11 21:42:33 |