ゲスト
(ka0000)
Rattlesnake piss
マスター:楠々蛙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/13 07:30
- 完成日
- 2016/05/17 03:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ねえ、やっぱりここ止めにしましょ」
とある酒場にて、カウンターの奥で仏頂面をした店主に聞こえないよう、ラウラ=フアネーレは小さな声で同席する二人に囁き掛けた。
レモネードをストローで啜る彼女の足下では、黒猫のルーナが皿に注がれた牛乳を舐めている。ちなみに、ラウラの「この子にはミルクを頂戴」という注文に店主が牛乳を出した時、キャロル=クルックシャンクが「あるのかよ……」と小さくツッコんだのだが、まあそれはどうでも良い話である。
「しかしなあ、飯が食える所はここしかなかったというか、ここの方がまだマシだっただろ?」
ラウラの左に座り、ウイスキーがたゆたうグラスを傾けていたバリー=ランズダウンが、彼女に応じる。
つい先程彼らが訪れたばかりのこの町はお世辞にも治安が良いとは言えず、そうなると必然、こういう飲食店の衛生環境にも影響が出て来る。
酒瓶やら吐瀉物やらを片付けてあるだけ、この酒場はこの町の中でまだマシな方だと言えた。
「市場で食材を買えば良かったでしょ?」
「夕暮れ時で何処も品薄だったじゃねえか。それに、それじゃ酒が飲めねえ」
ラウラの右の席に腰掛け、ラムを呷るキャロルが、懐から紙箱を取り出し煙草を一本咥えた。燐寸の先端を片膝に乗せたブーツの底に擦り付けて着火し、咥え煙草に火を灯す。
「お酒だけならまだしも煙草まで。そんなに身体に毒を詰め込んで、馬鹿なんじゃないの?」
「言ってろ。銃弾を腹に喰らうよか、よっぽど身体に良いぜ。健康に気を遣う手合いに限って、流れ弾なんかに当たってくたばんだよ」
「そんな事言ってたら、本当に飛んで来るわよ──そもそもあれって、弾の痕でしょ?」
ラウラが指差したのは、店の内壁。そこには確かに、弾痕らしきものがあった。それも一つや二つではない、幾重にも弾痕が刻まれている。
「まあ、そうだろうな」
「それと、なんでテーブルの裏に鉄板が付いてるの?」
「準備が良いじゃねえか。必要なもんは取り揃えてあるから、後はセルフサービスで自衛しろってわけだ」
「銃の持ち込みもOKだからな。流石に長物はNGらしいんで、リボルバーで手を打っておいたが」
「やっぱり止めましょうよ、全然落ち着かないわ」
「そんなに不安なら、ラウラも少し飲んでみれば良いんじゃないか? ほんの少しくらいなら、大丈夫だろう。カウボーイなんてどうだ?」
「カウボーイ?」
ラウラが、バリーとキャロル──その西部劇然とした格好に目をやる。
「ウイスキーのミルク割りの事さ」
「ふうん、そんなのがあるの。けど、わたしは要らないわ。──それより、早くご飯を食べて帰りましょ」
「頼んだピザが出て来ない事には、食べようがないがな」
「キャロルが、オリーブ抜きなんてややこしい頼み方をするから遅いのよ」
「うるせえな。良いだろ、その方が好きなんだ」
悪びれた様子もなく紫煙を吐いて、キャロルが灰皿に灰を落とす。すると、店主に負けず劣らず無愛想な給仕の手に乗って、ようやく注文したピザがテーブルに置かれた。
「うわぁ、おいしそう♪」
程良く焦げ目のついた生地に、色鮮やかなトマト―ソース。そして切り分けた生地を持ち上げれば、糸を引いて伸びるチーズ。内装とは裏腹のピザに、それまで落ち込んでいたラウラのテンションが、傍目に見ても二段階は上がった。
「早く食べましょ♪──あ、タバスコは掛けないでね」
自分の皿にピザを取り分けようとするラウラ──だが、店街に響いたけたたましい騒音に、手を止める。
「なに? 馬車?」
音の正体は、轍が粗悪な舗装の石畳を転がって立てている物らしい。
音源たる荷馬車は、酒場の正面に停車する。──直後。
「伏せろ!」
そう叫んだのは、果たしてキャロルだったか、バリーだったか。とにかく彼らは、馬車の荷台に乗ったソレを目にするや否や、丸テーブルを手前に引き倒した。
宙を舞うラム入りのグラスをキャロルが掴み、ウイスキーとレモネードのグラスをバリーが掴んだ。そしてピザの乗った皿──二回転を決めたにも関わらず、生地が落ちなかったのは奇跡と言って良いだろう──の下に、滑り込んだラウラの手が入る。床に落としそうなった皿を、ルーナの尻尾が支えた。
「よ、良か──」
安堵の溜息を零そうとしたラウラだが、そんな余裕は次の瞬間に消し飛んだ。
BRATATATA──!!
獣の咆哮を思わせる、轟音によって。
幾らか耳の慣れて来たラウラには、それが銃火の音だと判別が付いた。だが、今まで聞いたどの銃の音と比べても、その音は暴力的で、そして何より、留まる事を知らない。既に、ラウラの良く知るキャロルのリボルバーの装填数など比べ物にならない程の銃弾が店内へと降り注いでいた。
「なにこれ、なにこれ、ナニコレ!?」
ピザの皿を未だに手放さないまま、悲鳴を上げるラウラ。その声も度重なる轟音にかき消される。
だから、ラウラの疑問に応えたわけではなかっただろうが、キャロルは今しがた目にしたこの咆哮の主の名を怒鳴るように口にした。
「糞っ垂れ、ガトリング砲だと!? それもクランク式の骨董品かよ!?」
そう、この弾時雨を酒場に降らせているのは、複数の銃身を円環上に並べ、人力でクランクを回す事によって、給弾、装填、撃発、排莢を連続で行い、高速長連射を実現した銃火器──ガトリング砲である。
「このテーブル、きっちり耐えられるのか?」
バリーが不安げに天板を拳で叩くと、不意に銃声が止んだ。残響が鼓膜へこびり付く。
弾切れか。いや、一瞬ちらりと目にしただけで明言はできないが、ガトリング砲に取り付けられた箱型弾倉のサイズから鑑みるに、装填数はおおよそ百。今の掃射に費やしたのは、精々がその半分程度と見て良いだろう。
バリーはウイスキーのグラスを、テーブルの陰からそっと差し出した。琥珀色の液体で満ちたグラスの表面に、半壊した正面入り口の様子が映る。
ガトリング砲一門だけではないらしい。数人の男達が、銃を構えてそこに立って居た。流石に店内に踏み込む気はないようだ。誰も好き好んで、あんな化物に背中を見せたくはないだろう。
あの手の得物は、使い手の心を殊更熱くさせる。余程心が冷えた者が扱わなければ、過剰殺人(Over kill)は必定。
人様の食事を邪魔するような手合いなら尚更だ。いよいよ歯止めが利かなくなれば、敵であろうと味方だろうと、射的の的よりも容易く薙ぎ払うようになる。
店内を見渡せば、疎らに居た他の客も生き残っているらしい。
「……さて、どうするか」
中折れ式リボルバーの銃身を折り、飛び出した弾丸を改めて六つの薬室へ込めながら、バリーはすぐに前へ出ようとする相棒を如何にして諌めるべきか、その術を考え始めた。
とある酒場にて、カウンターの奥で仏頂面をした店主に聞こえないよう、ラウラ=フアネーレは小さな声で同席する二人に囁き掛けた。
レモネードをストローで啜る彼女の足下では、黒猫のルーナが皿に注がれた牛乳を舐めている。ちなみに、ラウラの「この子にはミルクを頂戴」という注文に店主が牛乳を出した時、キャロル=クルックシャンクが「あるのかよ……」と小さくツッコんだのだが、まあそれはどうでも良い話である。
「しかしなあ、飯が食える所はここしかなかったというか、ここの方がまだマシだっただろ?」
ラウラの左に座り、ウイスキーがたゆたうグラスを傾けていたバリー=ランズダウンが、彼女に応じる。
つい先程彼らが訪れたばかりのこの町はお世辞にも治安が良いとは言えず、そうなると必然、こういう飲食店の衛生環境にも影響が出て来る。
酒瓶やら吐瀉物やらを片付けてあるだけ、この酒場はこの町の中でまだマシな方だと言えた。
「市場で食材を買えば良かったでしょ?」
「夕暮れ時で何処も品薄だったじゃねえか。それに、それじゃ酒が飲めねえ」
ラウラの右の席に腰掛け、ラムを呷るキャロルが、懐から紙箱を取り出し煙草を一本咥えた。燐寸の先端を片膝に乗せたブーツの底に擦り付けて着火し、咥え煙草に火を灯す。
「お酒だけならまだしも煙草まで。そんなに身体に毒を詰め込んで、馬鹿なんじゃないの?」
「言ってろ。銃弾を腹に喰らうよか、よっぽど身体に良いぜ。健康に気を遣う手合いに限って、流れ弾なんかに当たってくたばんだよ」
「そんな事言ってたら、本当に飛んで来るわよ──そもそもあれって、弾の痕でしょ?」
ラウラが指差したのは、店の内壁。そこには確かに、弾痕らしきものがあった。それも一つや二つではない、幾重にも弾痕が刻まれている。
「まあ、そうだろうな」
「それと、なんでテーブルの裏に鉄板が付いてるの?」
「準備が良いじゃねえか。必要なもんは取り揃えてあるから、後はセルフサービスで自衛しろってわけだ」
「銃の持ち込みもOKだからな。流石に長物はNGらしいんで、リボルバーで手を打っておいたが」
「やっぱり止めましょうよ、全然落ち着かないわ」
「そんなに不安なら、ラウラも少し飲んでみれば良いんじゃないか? ほんの少しくらいなら、大丈夫だろう。カウボーイなんてどうだ?」
「カウボーイ?」
ラウラが、バリーとキャロル──その西部劇然とした格好に目をやる。
「ウイスキーのミルク割りの事さ」
「ふうん、そんなのがあるの。けど、わたしは要らないわ。──それより、早くご飯を食べて帰りましょ」
「頼んだピザが出て来ない事には、食べようがないがな」
「キャロルが、オリーブ抜きなんてややこしい頼み方をするから遅いのよ」
「うるせえな。良いだろ、その方が好きなんだ」
悪びれた様子もなく紫煙を吐いて、キャロルが灰皿に灰を落とす。すると、店主に負けず劣らず無愛想な給仕の手に乗って、ようやく注文したピザがテーブルに置かれた。
「うわぁ、おいしそう♪」
程良く焦げ目のついた生地に、色鮮やかなトマト―ソース。そして切り分けた生地を持ち上げれば、糸を引いて伸びるチーズ。内装とは裏腹のピザに、それまで落ち込んでいたラウラのテンションが、傍目に見ても二段階は上がった。
「早く食べましょ♪──あ、タバスコは掛けないでね」
自分の皿にピザを取り分けようとするラウラ──だが、店街に響いたけたたましい騒音に、手を止める。
「なに? 馬車?」
音の正体は、轍が粗悪な舗装の石畳を転がって立てている物らしい。
音源たる荷馬車は、酒場の正面に停車する。──直後。
「伏せろ!」
そう叫んだのは、果たしてキャロルだったか、バリーだったか。とにかく彼らは、馬車の荷台に乗ったソレを目にするや否や、丸テーブルを手前に引き倒した。
宙を舞うラム入りのグラスをキャロルが掴み、ウイスキーとレモネードのグラスをバリーが掴んだ。そしてピザの乗った皿──二回転を決めたにも関わらず、生地が落ちなかったのは奇跡と言って良いだろう──の下に、滑り込んだラウラの手が入る。床に落としそうなった皿を、ルーナの尻尾が支えた。
「よ、良か──」
安堵の溜息を零そうとしたラウラだが、そんな余裕は次の瞬間に消し飛んだ。
BRATATATA──!!
獣の咆哮を思わせる、轟音によって。
幾らか耳の慣れて来たラウラには、それが銃火の音だと判別が付いた。だが、今まで聞いたどの銃の音と比べても、その音は暴力的で、そして何より、留まる事を知らない。既に、ラウラの良く知るキャロルのリボルバーの装填数など比べ物にならない程の銃弾が店内へと降り注いでいた。
「なにこれ、なにこれ、ナニコレ!?」
ピザの皿を未だに手放さないまま、悲鳴を上げるラウラ。その声も度重なる轟音にかき消される。
だから、ラウラの疑問に応えたわけではなかっただろうが、キャロルは今しがた目にしたこの咆哮の主の名を怒鳴るように口にした。
「糞っ垂れ、ガトリング砲だと!? それもクランク式の骨董品かよ!?」
そう、この弾時雨を酒場に降らせているのは、複数の銃身を円環上に並べ、人力でクランクを回す事によって、給弾、装填、撃発、排莢を連続で行い、高速長連射を実現した銃火器──ガトリング砲である。
「このテーブル、きっちり耐えられるのか?」
バリーが不安げに天板を拳で叩くと、不意に銃声が止んだ。残響が鼓膜へこびり付く。
弾切れか。いや、一瞬ちらりと目にしただけで明言はできないが、ガトリング砲に取り付けられた箱型弾倉のサイズから鑑みるに、装填数はおおよそ百。今の掃射に費やしたのは、精々がその半分程度と見て良いだろう。
バリーはウイスキーのグラスを、テーブルの陰からそっと差し出した。琥珀色の液体で満ちたグラスの表面に、半壊した正面入り口の様子が映る。
ガトリング砲一門だけではないらしい。数人の男達が、銃を構えてそこに立って居た。流石に店内に踏み込む気はないようだ。誰も好き好んで、あんな化物に背中を見せたくはないだろう。
あの手の得物は、使い手の心を殊更熱くさせる。余程心が冷えた者が扱わなければ、過剰殺人(Over kill)は必定。
人様の食事を邪魔するような手合いなら尚更だ。いよいよ歯止めが利かなくなれば、敵であろうと味方だろうと、射的の的よりも容易く薙ぎ払うようになる。
店内を見渡せば、疎らに居た他の客も生き残っているらしい。
「……さて、どうするか」
中折れ式リボルバーの銃身を折り、飛び出した弾丸を改めて六つの薬室へ込めながら、バリーはすぐに前へ出ようとする相棒を如何にして諌めるべきか、その術を考え始めた。
リプレイ本文
銃火の嵐が酒場に吹き荒れるより、少し前──
「ねえねえルー君、食べさせて~? ほら、ア~ン」
「え? ……まあ、誰も見てないみたいだし、一回だけなら」
隅のテーブルにカップルが一組──レイン・レーネリル(ka2887)とルーエル・ゼクシディア(ka2473)である。
「はい。あ~」
ルーエルがピザの切れ端を手に取り、レインの口元に運ぼうとしたその時──
BRATATATA──!!
咆哮が嵐を呼び、カップルの間を銃弾が横切った。
「っ……! 大丈夫っ、お姉さん!」
咄嗟にテーブルを持ち上げて弾避けにしたルーエルが、年上の恋人へと振り返った。
「よくも、私のシアワセタイムを……!」
するとそこには、顔面をチーズとトマトソース塗れにし、怒りに身を震わす乙女の姿があった。
「落ち着いて、お姉さん。ほら、顔拭いてあげるから」
「うう、二人の予定合わせるの苦労したのに、なんでこんな……」
恋人に袖で顔を拭われながら、一転して嘆き声を漏らすレイン。
「そんなに落ち込まないで。今は、この状況をどうにかしなきゃ。──幸い、知ってる顔もちらほらと居るみたいだし」
「…………」
烏丸 涼子 (ka5728)は、茫然とした面持ちで、今しがた木端微塵に吹き飛んだオーブンを眺めていた。
あの中では、ピザが焼かれていた筈なのだ。静かな夕食を望む彼女が、待ち焦がれていたピザが。
「……どの世界にも、屑というのは居るのね」
店員の塩対応にも、寧ろ居心地の良さまで感じていたというのに。
「さて、どう落とし前をつけさせようかしら」
「よろしく一杯やってる間に、かまされちまった。こないだとは立場が逆になっちまったなァ」
バリー達の隣のテーブルを倒し、その陰に隠れたJ・D(ka3351)が、苦々しく呟きを漏らす。
「まったくだ。だがあの時と違って、あちらさんが降伏を受け入れてくれるとも思えん」
「そいつも、まったく。ままなんねェなァ──」
ソリッドフレームのパーカッションロック式リボルバーを持つ左手とは逆の手に持つ酒瓶。その中で揺蕩うバーボンで口を湿らせようとして、思い留まる。
「──っと、流石にこれ以上コイツ(Turkey)を入れるのは止めとくか」
「湿気た事言ってねえで、景気良く行けよ」
キャロルがラムを呷り、空になったグラスを正面入り口へと放り投げる。グラスが割れる音に続いて、大袈裟な程の動揺の声。
「雑魚共は、ド素人も良い所だな。丁度良い、酒の余興が足りねえと思ってたんだ。
さあさ、踊れ! さもなきゃ、喰っちまうぞ?」
それを聞いたキャロルは、不敵に笑むと両手にリボルバーを構えて飛び出した。
「あの馬鹿、相も変わらず勝手しやがって」
相棒の無謀極まる行動に、バリーが頭を抱える。
「奴さんなら、心配要らねェだろうよ。悪運は強いらしいからな」
「まあ、な。鉛玉も、あの馬鹿の腹に収まるのは御免だろうさ」
肩を竦めるJDに、気を取り直してバリーは援護射撃を構える。
「それじゃ俺も、ちっとばかり連中に文句を付けて来る」
飲みの席には不似合いな大盾を構えたのは、春日 啓一(ka1621)だ。
「これと同じ目に遭わせて、手前らのやった事を思い知らせてやる」
テーブルの陰から出る前に、彼は手に握り締めていた骨を放り捨てた。先程の掃射で肉を削ぎ落されたそれは、取り敢えずの怒りの捌け口とされたのか、根本が砕けていた。
「私も行くとしようかしら」
春日に続いて立ち上がったのは、アイビス・グラス(ka2477)。
「Jさん、悪いけど隣に移ってくれる?」
「構わねェが、どうするつもりでェ?」
「──こうするのよ!」
彼女はテーブルを真上に投げ飛ばすと、直後に自身も飛び上がった。空中のテーブルを蹴り、その反動で吹き抜けになった二階に到達した。
「食い物の怨みってのは怖えなァ、まったく」
JDは、アイビスが注文したピザの成れの果てを見遣ると、達観した様子で肩を竦める。
「ピザが冷めちゃう……」
呟くJDの傍で、手元のピザを眺めるラウラが嘆き声を漏らす。
「なら、今の内に食べちまえば良いじゃねェか、嬢ちゃん」
「え?」
JDの提案を受け、しばし彼の顔とピザに視線を彷徨わせると、ラウラは首を振った。
「ううん、せっかくだから皆で食べましょ」
「──そいつは良い。なら姫さんの為にも、きりきり働くとするかね」
「デケえ玩具見せびらかしやがって、良い年して恥ずかしくねえのか!」
吼え立てながら、春日は特攻して行く。正直、彼が掲げる大盾も相当な大物だが、血が昇った彼にしてみれば、些細な事なのだろう。食事中は周囲の視線が痛かった大盾も、今となれば場に相応しい。
何せ竜の一撃にも耐え得るという触れ込みだ。銃火の嵐にも、その盾が砕ける事はない。
「畜生が、しこたま撃ちやがって……! 調子に乗るなよ、連射が出来るってのは早漏の苦しい言い訳じゃねえか……!」
とは言え着弾の衝撃は盾を通して、確実に春日の体力を削っていく。
「おいおい、どした。もう息切れか?」
ガトリング砲へ二挺拳銃の牽制射撃を加え、キャロルは自分の方へと射手の注意を引き付ける。
「余計な世話だ。そっちこそ、もう弾切れだろ? 俺に任せて引っ込んでな」
キャロルの皮肉にやり返すと、春日は再び盾を掲げて前へと進む。
その身を、揺らめく業火のような覇気が覆った。その姿は、さながら地獄の悪鬼の如く。
「オラオラオラ、こっちを向けよデカブツ! 二度とふざけた真似ができないよう、もぎ取ってやらあ!」
鋼板の奥に居座る射手の眼を、否応なしに釘付けにした。
ルーエルを抱えながら、足下から噴出するマテリアルの反発でレインは二階に上がった。
「と~うちゃくっ! う~む残念、もう少しだけルー君を抱っこしてたかったんだけど」
「は、早く下ろしてよ、お姉さん。……お姫様抱っこって、僕男なのに」
「はいはい、どうぞお姫様」
レインが芝居臭い恭しい仕草でルーエルを降ろすと、可憐な恋人は胡乱気な眼で彼女を見遣った。
「また、そうやってからかって……。ほら、置いて行くよ、お姉さん」
「待って待ってよ、ルー君。謝るから~」
一人でさっさと持ち場に着くルーエルを、一応は反省した素振りで追うレイン。しかし内心では──
(ふっへっへっ、拗ねてるルー君も堪りませんなあ♪)
などと考えているのだから、今後も懲りる事などないだろう。
「──ねえお姉さん、これ見てよ」
そう言ってルーエルが指差したのは、壁に釘で打ち付けられた一枚の手配書だった。
「ん~? おー、この顔、あの化物銃を振り回してるのと似てるね。へー、賞金首だったんだ。でも同盟軍の判が見当たらないよ?」
「軍が発行したものじゃないのかな? 生死問わず(DEAD or ALIVE)って書いてある。それに誰彼構わず撃って来るくらいだから、こっちも手加減は要らないみたいだけど」
ルーエルがそう呟くと、腕を組んで考え込んだレインは、やがて首を振ってみせた。
「うーん、やっぱりできるだけ生け捕りにしよう」
「うん、そうだね」
ルーエルは恋人の提案に頷きながら──ただ、と心中で付け加えた。
──ただ、お姉さんの身に何かあったら、どうするかはわからないけど。
烏丸は酒場から外に出て、迂回しながら正面へと回る。
「──っ!」
通りに面した角の陰から、リボルバーを携えた男が現れた。男が慌てて銃口を向けて来る。対する烏丸は、デリンジャーに手を伸ばそうともしなかった。
男と烏丸──彼我の距離は、八歩。これならば使い慣れない銃よりも、己が身に積んだ功夫の方が──迅い。
「ふっ──!」
一、二、三歩目までは、初速を得る為の予備動作。
「はあっ──!」
四歩目の踏み足に、その『勢』と、丹田と腰の捻りで生み出した『勁』を乗せて、残りの五歩を詰め寄った。
それこそは、八極に伝わる歩法──その絶招足る『箭疾歩』。
自身を狙うリボルバーを肘で払い、男の腹に拳突を叩き込む。くの字に折れ曲がった男の背に回り腕を固め、向きを変えて蹴り飛ばした。
たたらを踏んだ男を銃火が襲う。
「見限るのが早い事。救いようがないわね」
テラスの陰に身を隠して、味方ごと自分を狙ってきた敵の弾丸をやり過ごす。デリンジャーを抜いて応戦しようとした所で、銃口をこちらに向ける敵の群れを、三条の光線と光弾が薙ぎ払った。
「だいじょうぶ~?、カンフーさ~ん!」
二階のテラスから降って来るレインの溌溂とした声。
「助かったわ。ありがとう、カップルさん!」
身を隠したまま、大声を張り上げて礼を告げると、改めてデリンジャーを構え直す。
「さーて、あのデカブツはどうしたものかしらね」
「てえりゃぁ──!」
アイビスは二階のテーブルを外へ投げ飛ばすと同時に、テラスの柵を蹴って空中のテーブルに着地する。勢い良く落下したテーブルの上には、クラウチングスタートを構える、アイビスの姿。
「よーい──」
BAAANG!
銃声が響くその直前に、スタート。
「今更──」
銃弾の雨の中を疾走し、そのお返しとばかりに、拳打蹴撃の雨あられを撃ち手達へ叩き込む。
「フライングとか──」
頭を掴み地面に叩き付けた男の先には、リボルバーを構えた男。その銃口は既にアイビスを睨んでいた。だが、彼女は止まらない。
利き足円弧を描き、更にその遠心力を生かして軸足もまた旋風を起こす。
疾走の勢いを乗せたフィニッシュ──旋風二連脚。
「──言うんじゃないわよ!」
一蹴目が銃身を打ち払い、二蹴目が顎を打ち抜いた。
「最初に仕掛けて来たのは、そっちなん──ちょちょ!?」
昏倒した男に向けて台詞を決めようとしたアイビスは、こちらを向こうとするガトリング砲に気付くや否や、テーブルへ引き返す。
あわやという所で、爪先を引っ掛けて引き倒したテーブルの陰に潜り込み、一息を吐いた。
「何とか間に合ったけど、一体アレどうすんのよ」
「畜生め、これじゃァ埒が明きゃしねェ」
弾切れになったリボルバーのシリンダーを交換しながら、JDは滞った戦況に歯噛みする。
「仕方ねェ。飲み話で聞き齧ったもんを、即興でやるのは心許ねェが──。なァ、火ィ貸してくれねェか?」
「そりゃ構わないが、何やらかす気だ?」
バリーから燐寸箱を受け取ったJDは、口端を曲げて応じてみせた。
「なァに、ちょいと景気の良い火遊びさ。──布切れもあると助かるんだが」
「ええと、包帯で良い?」
「ああ、上出来だ。助かるぜ、嬢ちゃん」
ラウラから受け取った包帯を手にした酒瓶の口に入れると、十分に酒が染み込むのを見届けてから、帽子のフェルト生地で燐寸を擦り、火を灯す。
「まさか、モロトフ・カクテルの真似事か? ただのアルコールじゃ大した火力は出ないぞ」
「構わねェ、ボヤだけでも眼晦ましには十分だ!」
包帯に火を点けた即席火炎瓶を、ガトリング砲目掛けて投擲する。
「BINGO、ってか?」
過たず、ガトリング砲の複列銃身に命中した酒瓶が砕け、撒き散った中身に火種が引火して燃え上がった。
「今だ啓一ィ、やっちまえィ!」
「ああ、思う存分にぶちかます」
JDの掛け声に応じて、盾を放り捨てた春日が軋みを上げる身体に鞭打って、全身全霊を以って疾走した。
そうする間にも、火炎瓶が生み出した火は鎮火してゆく。
射手がクランクを回し、銃身が微かに動く。しかし、弾丸が射出される直前に、馬車に乗り上げた春日が円環状の銃身を握り締めた。
「っ……! ハ、ハハ、つかまえたぞ?」
掃射による過熱、更に火炎瓶によって熱せられた銃身を掴む手が灼痛に襲われる。だがそれでも回転を戒める手は離さず、剣呑極まる笑みを射手へと向けた。
「ひぃ……!?」
笑みに気圧された射手が、馬車から飛び降りる。
「逃がすかよ」
渾身の力を籠め、ガトリング砲を持ち上げる。銃架に砲身を固定する金具が弾け飛んだ。
「どっせええぃ!」
逃亡する射手を阻む位置へ、ガトリング砲を投げ飛ばす。
「く、くそっ、化物かよ!?」
仕方なく振り返った射手の前に、首を回して骨を鳴らす春日が立ちはだかった。
「さて、タダで済むとは思ってねえよな?」
「抜かせよ、大人しく殴られるとでも思ったか!」
射手は腰のホルスター──そこに納まったリボルバーの銃把に手を伸ばした。
「上等」
春日は躊躇わずに前へ出る。
拳に先んじて、リボルバーが撃発。──射出した弾丸が春日の頬を擦過。
朱線を引く顔には、零れ出た憤怒が。
「まずは、夕飯を台無しにされた俺の怨み──」
射手の懐に潜り込み、その頬に左フックを入れる。腰の捻じりを殺さず、その勢いを右拳に乗せ──
「──そしてこれが、食い物粗末にした、手前への罰だ!」
突き上げた右アッパーが、射手の顎に炸裂した。
「やっぱり、あんまり美味しくない……」
気落ちした様子で、冷めたピザを口に運ぶラウラ。
「飯が不味いと感じられるだけマシだ。生きてる証拠だぜ、そいつはァよ」
グラスを傾けながら、JDが声を掛ける。流石にリアルブルー製の上物はそう何本もないらしく、中身は平凡なウイスキーだ。酒の肴は、勿論チーズの固まったピザである。
「なんかそれ、楽観的なのか悲観的なのかわからない考え方ね」
「まァ、世間擦れした大人のつまらん考え方さ」
「プハーッ、やっぱり一仕事した後の一杯は格別ねー」
ジョッキになみなみと注いだミルクを飲み干して、ご満悦のアイビス。どうやら食い物の怨みは晴れたらしい。
「クソッ、俺の肉が。……もう一発入れときゃ良かったな」
対する春日は未だに根に持っていた。『肉』の一字は、年頃の男子に取ってそれ程重要なのである。
「……私は諦めないわ。今私の舌は、熱々のピザを求めているのよ」
そして猛烈なジャンクフード欲に囚われた烏丸は、決意を胸に酒場を飛び出した。
地平線に沈んで行く夕日を背に、長い一本道を並んで進むバイクが二台。
「せ~っかく、ツーリングデートができたのに、あんな事になるなんて」
「まあまあ、お姉さん。あんなトラブルがあったんだから、帰り道ではきっと良い事があるよ」
夕日が完全に沈み、二人を祝福するように空に星が一つ顔を出した。
「見て見てルー君、一番星♪ 綺麗だねえ」
「うん、そうだね──あ」
何事かを思い出したように声を漏らし、しばし逡巡するように黙り込むルーエル。
「どしたの?」
「えっと──お、お姉さんの方が綺麗だよ、って」
「ふぇ?」
恥じらいで顔を紅くしながらルーエルが呟く。対するレインは最初驚いた表情を浮かべかと思えば、一転して赤面し、それを隠すように頬に両手を当てた。
「な、なに言ってんの、急に!?」
「お姉さん、ハンドルから手離しちゃ危ないよ!?」
慌てふためく二人を微笑ましく見下ろすように、星が一つ、また一つと輝き始めた。
「ねえねえルー君、食べさせて~? ほら、ア~ン」
「え? ……まあ、誰も見てないみたいだし、一回だけなら」
隅のテーブルにカップルが一組──レイン・レーネリル(ka2887)とルーエル・ゼクシディア(ka2473)である。
「はい。あ~」
ルーエルがピザの切れ端を手に取り、レインの口元に運ぼうとしたその時──
BRATATATA──!!
咆哮が嵐を呼び、カップルの間を銃弾が横切った。
「っ……! 大丈夫っ、お姉さん!」
咄嗟にテーブルを持ち上げて弾避けにしたルーエルが、年上の恋人へと振り返った。
「よくも、私のシアワセタイムを……!」
するとそこには、顔面をチーズとトマトソース塗れにし、怒りに身を震わす乙女の姿があった。
「落ち着いて、お姉さん。ほら、顔拭いてあげるから」
「うう、二人の予定合わせるの苦労したのに、なんでこんな……」
恋人に袖で顔を拭われながら、一転して嘆き声を漏らすレイン。
「そんなに落ち込まないで。今は、この状況をどうにかしなきゃ。──幸い、知ってる顔もちらほらと居るみたいだし」
「…………」
烏丸 涼子 (ka5728)は、茫然とした面持ちで、今しがた木端微塵に吹き飛んだオーブンを眺めていた。
あの中では、ピザが焼かれていた筈なのだ。静かな夕食を望む彼女が、待ち焦がれていたピザが。
「……どの世界にも、屑というのは居るのね」
店員の塩対応にも、寧ろ居心地の良さまで感じていたというのに。
「さて、どう落とし前をつけさせようかしら」
「よろしく一杯やってる間に、かまされちまった。こないだとは立場が逆になっちまったなァ」
バリー達の隣のテーブルを倒し、その陰に隠れたJ・D(ka3351)が、苦々しく呟きを漏らす。
「まったくだ。だがあの時と違って、あちらさんが降伏を受け入れてくれるとも思えん」
「そいつも、まったく。ままなんねェなァ──」
ソリッドフレームのパーカッションロック式リボルバーを持つ左手とは逆の手に持つ酒瓶。その中で揺蕩うバーボンで口を湿らせようとして、思い留まる。
「──っと、流石にこれ以上コイツ(Turkey)を入れるのは止めとくか」
「湿気た事言ってねえで、景気良く行けよ」
キャロルがラムを呷り、空になったグラスを正面入り口へと放り投げる。グラスが割れる音に続いて、大袈裟な程の動揺の声。
「雑魚共は、ド素人も良い所だな。丁度良い、酒の余興が足りねえと思ってたんだ。
さあさ、踊れ! さもなきゃ、喰っちまうぞ?」
それを聞いたキャロルは、不敵に笑むと両手にリボルバーを構えて飛び出した。
「あの馬鹿、相も変わらず勝手しやがって」
相棒の無謀極まる行動に、バリーが頭を抱える。
「奴さんなら、心配要らねェだろうよ。悪運は強いらしいからな」
「まあ、な。鉛玉も、あの馬鹿の腹に収まるのは御免だろうさ」
肩を竦めるJDに、気を取り直してバリーは援護射撃を構える。
「それじゃ俺も、ちっとばかり連中に文句を付けて来る」
飲みの席には不似合いな大盾を構えたのは、春日 啓一(ka1621)だ。
「これと同じ目に遭わせて、手前らのやった事を思い知らせてやる」
テーブルの陰から出る前に、彼は手に握り締めていた骨を放り捨てた。先程の掃射で肉を削ぎ落されたそれは、取り敢えずの怒りの捌け口とされたのか、根本が砕けていた。
「私も行くとしようかしら」
春日に続いて立ち上がったのは、アイビス・グラス(ka2477)。
「Jさん、悪いけど隣に移ってくれる?」
「構わねェが、どうするつもりでェ?」
「──こうするのよ!」
彼女はテーブルを真上に投げ飛ばすと、直後に自身も飛び上がった。空中のテーブルを蹴り、その反動で吹き抜けになった二階に到達した。
「食い物の怨みってのは怖えなァ、まったく」
JDは、アイビスが注文したピザの成れの果てを見遣ると、達観した様子で肩を竦める。
「ピザが冷めちゃう……」
呟くJDの傍で、手元のピザを眺めるラウラが嘆き声を漏らす。
「なら、今の内に食べちまえば良いじゃねェか、嬢ちゃん」
「え?」
JDの提案を受け、しばし彼の顔とピザに視線を彷徨わせると、ラウラは首を振った。
「ううん、せっかくだから皆で食べましょ」
「──そいつは良い。なら姫さんの為にも、きりきり働くとするかね」
「デケえ玩具見せびらかしやがって、良い年して恥ずかしくねえのか!」
吼え立てながら、春日は特攻して行く。正直、彼が掲げる大盾も相当な大物だが、血が昇った彼にしてみれば、些細な事なのだろう。食事中は周囲の視線が痛かった大盾も、今となれば場に相応しい。
何せ竜の一撃にも耐え得るという触れ込みだ。銃火の嵐にも、その盾が砕ける事はない。
「畜生が、しこたま撃ちやがって……! 調子に乗るなよ、連射が出来るってのは早漏の苦しい言い訳じゃねえか……!」
とは言え着弾の衝撃は盾を通して、確実に春日の体力を削っていく。
「おいおい、どした。もう息切れか?」
ガトリング砲へ二挺拳銃の牽制射撃を加え、キャロルは自分の方へと射手の注意を引き付ける。
「余計な世話だ。そっちこそ、もう弾切れだろ? 俺に任せて引っ込んでな」
キャロルの皮肉にやり返すと、春日は再び盾を掲げて前へと進む。
その身を、揺らめく業火のような覇気が覆った。その姿は、さながら地獄の悪鬼の如く。
「オラオラオラ、こっちを向けよデカブツ! 二度とふざけた真似ができないよう、もぎ取ってやらあ!」
鋼板の奥に居座る射手の眼を、否応なしに釘付けにした。
ルーエルを抱えながら、足下から噴出するマテリアルの反発でレインは二階に上がった。
「と~うちゃくっ! う~む残念、もう少しだけルー君を抱っこしてたかったんだけど」
「は、早く下ろしてよ、お姉さん。……お姫様抱っこって、僕男なのに」
「はいはい、どうぞお姫様」
レインが芝居臭い恭しい仕草でルーエルを降ろすと、可憐な恋人は胡乱気な眼で彼女を見遣った。
「また、そうやってからかって……。ほら、置いて行くよ、お姉さん」
「待って待ってよ、ルー君。謝るから~」
一人でさっさと持ち場に着くルーエルを、一応は反省した素振りで追うレイン。しかし内心では──
(ふっへっへっ、拗ねてるルー君も堪りませんなあ♪)
などと考えているのだから、今後も懲りる事などないだろう。
「──ねえお姉さん、これ見てよ」
そう言ってルーエルが指差したのは、壁に釘で打ち付けられた一枚の手配書だった。
「ん~? おー、この顔、あの化物銃を振り回してるのと似てるね。へー、賞金首だったんだ。でも同盟軍の判が見当たらないよ?」
「軍が発行したものじゃないのかな? 生死問わず(DEAD or ALIVE)って書いてある。それに誰彼構わず撃って来るくらいだから、こっちも手加減は要らないみたいだけど」
ルーエルがそう呟くと、腕を組んで考え込んだレインは、やがて首を振ってみせた。
「うーん、やっぱりできるだけ生け捕りにしよう」
「うん、そうだね」
ルーエルは恋人の提案に頷きながら──ただ、と心中で付け加えた。
──ただ、お姉さんの身に何かあったら、どうするかはわからないけど。
烏丸は酒場から外に出て、迂回しながら正面へと回る。
「──っ!」
通りに面した角の陰から、リボルバーを携えた男が現れた。男が慌てて銃口を向けて来る。対する烏丸は、デリンジャーに手を伸ばそうともしなかった。
男と烏丸──彼我の距離は、八歩。これならば使い慣れない銃よりも、己が身に積んだ功夫の方が──迅い。
「ふっ──!」
一、二、三歩目までは、初速を得る為の予備動作。
「はあっ──!」
四歩目の踏み足に、その『勢』と、丹田と腰の捻りで生み出した『勁』を乗せて、残りの五歩を詰め寄った。
それこそは、八極に伝わる歩法──その絶招足る『箭疾歩』。
自身を狙うリボルバーを肘で払い、男の腹に拳突を叩き込む。くの字に折れ曲がった男の背に回り腕を固め、向きを変えて蹴り飛ばした。
たたらを踏んだ男を銃火が襲う。
「見限るのが早い事。救いようがないわね」
テラスの陰に身を隠して、味方ごと自分を狙ってきた敵の弾丸をやり過ごす。デリンジャーを抜いて応戦しようとした所で、銃口をこちらに向ける敵の群れを、三条の光線と光弾が薙ぎ払った。
「だいじょうぶ~?、カンフーさ~ん!」
二階のテラスから降って来るレインの溌溂とした声。
「助かったわ。ありがとう、カップルさん!」
身を隠したまま、大声を張り上げて礼を告げると、改めてデリンジャーを構え直す。
「さーて、あのデカブツはどうしたものかしらね」
「てえりゃぁ──!」
アイビスは二階のテーブルを外へ投げ飛ばすと同時に、テラスの柵を蹴って空中のテーブルに着地する。勢い良く落下したテーブルの上には、クラウチングスタートを構える、アイビスの姿。
「よーい──」
BAAANG!
銃声が響くその直前に、スタート。
「今更──」
銃弾の雨の中を疾走し、そのお返しとばかりに、拳打蹴撃の雨あられを撃ち手達へ叩き込む。
「フライングとか──」
頭を掴み地面に叩き付けた男の先には、リボルバーを構えた男。その銃口は既にアイビスを睨んでいた。だが、彼女は止まらない。
利き足円弧を描き、更にその遠心力を生かして軸足もまた旋風を起こす。
疾走の勢いを乗せたフィニッシュ──旋風二連脚。
「──言うんじゃないわよ!」
一蹴目が銃身を打ち払い、二蹴目が顎を打ち抜いた。
「最初に仕掛けて来たのは、そっちなん──ちょちょ!?」
昏倒した男に向けて台詞を決めようとしたアイビスは、こちらを向こうとするガトリング砲に気付くや否や、テーブルへ引き返す。
あわやという所で、爪先を引っ掛けて引き倒したテーブルの陰に潜り込み、一息を吐いた。
「何とか間に合ったけど、一体アレどうすんのよ」
「畜生め、これじゃァ埒が明きゃしねェ」
弾切れになったリボルバーのシリンダーを交換しながら、JDは滞った戦況に歯噛みする。
「仕方ねェ。飲み話で聞き齧ったもんを、即興でやるのは心許ねェが──。なァ、火ィ貸してくれねェか?」
「そりゃ構わないが、何やらかす気だ?」
バリーから燐寸箱を受け取ったJDは、口端を曲げて応じてみせた。
「なァに、ちょいと景気の良い火遊びさ。──布切れもあると助かるんだが」
「ええと、包帯で良い?」
「ああ、上出来だ。助かるぜ、嬢ちゃん」
ラウラから受け取った包帯を手にした酒瓶の口に入れると、十分に酒が染み込むのを見届けてから、帽子のフェルト生地で燐寸を擦り、火を灯す。
「まさか、モロトフ・カクテルの真似事か? ただのアルコールじゃ大した火力は出ないぞ」
「構わねェ、ボヤだけでも眼晦ましには十分だ!」
包帯に火を点けた即席火炎瓶を、ガトリング砲目掛けて投擲する。
「BINGO、ってか?」
過たず、ガトリング砲の複列銃身に命中した酒瓶が砕け、撒き散った中身に火種が引火して燃え上がった。
「今だ啓一ィ、やっちまえィ!」
「ああ、思う存分にぶちかます」
JDの掛け声に応じて、盾を放り捨てた春日が軋みを上げる身体に鞭打って、全身全霊を以って疾走した。
そうする間にも、火炎瓶が生み出した火は鎮火してゆく。
射手がクランクを回し、銃身が微かに動く。しかし、弾丸が射出される直前に、馬車に乗り上げた春日が円環状の銃身を握り締めた。
「っ……! ハ、ハハ、つかまえたぞ?」
掃射による過熱、更に火炎瓶によって熱せられた銃身を掴む手が灼痛に襲われる。だがそれでも回転を戒める手は離さず、剣呑極まる笑みを射手へと向けた。
「ひぃ……!?」
笑みに気圧された射手が、馬車から飛び降りる。
「逃がすかよ」
渾身の力を籠め、ガトリング砲を持ち上げる。銃架に砲身を固定する金具が弾け飛んだ。
「どっせええぃ!」
逃亡する射手を阻む位置へ、ガトリング砲を投げ飛ばす。
「く、くそっ、化物かよ!?」
仕方なく振り返った射手の前に、首を回して骨を鳴らす春日が立ちはだかった。
「さて、タダで済むとは思ってねえよな?」
「抜かせよ、大人しく殴られるとでも思ったか!」
射手は腰のホルスター──そこに納まったリボルバーの銃把に手を伸ばした。
「上等」
春日は躊躇わずに前へ出る。
拳に先んじて、リボルバーが撃発。──射出した弾丸が春日の頬を擦過。
朱線を引く顔には、零れ出た憤怒が。
「まずは、夕飯を台無しにされた俺の怨み──」
射手の懐に潜り込み、その頬に左フックを入れる。腰の捻じりを殺さず、その勢いを右拳に乗せ──
「──そしてこれが、食い物粗末にした、手前への罰だ!」
突き上げた右アッパーが、射手の顎に炸裂した。
「やっぱり、あんまり美味しくない……」
気落ちした様子で、冷めたピザを口に運ぶラウラ。
「飯が不味いと感じられるだけマシだ。生きてる証拠だぜ、そいつはァよ」
グラスを傾けながら、JDが声を掛ける。流石にリアルブルー製の上物はそう何本もないらしく、中身は平凡なウイスキーだ。酒の肴は、勿論チーズの固まったピザである。
「なんかそれ、楽観的なのか悲観的なのかわからない考え方ね」
「まァ、世間擦れした大人のつまらん考え方さ」
「プハーッ、やっぱり一仕事した後の一杯は格別ねー」
ジョッキになみなみと注いだミルクを飲み干して、ご満悦のアイビス。どうやら食い物の怨みは晴れたらしい。
「クソッ、俺の肉が。……もう一発入れときゃ良かったな」
対する春日は未だに根に持っていた。『肉』の一字は、年頃の男子に取ってそれ程重要なのである。
「……私は諦めないわ。今私の舌は、熱々のピザを求めているのよ」
そして猛烈なジャンクフード欲に囚われた烏丸は、決意を胸に酒場を飛び出した。
地平線に沈んで行く夕日を背に、長い一本道を並んで進むバイクが二台。
「せ~っかく、ツーリングデートができたのに、あんな事になるなんて」
「まあまあ、お姉さん。あんなトラブルがあったんだから、帰り道ではきっと良い事があるよ」
夕日が完全に沈み、二人を祝福するように空に星が一つ顔を出した。
「見て見てルー君、一番星♪ 綺麗だねえ」
「うん、そうだね──あ」
何事かを思い出したように声を漏らし、しばし逡巡するように黙り込むルーエル。
「どしたの?」
「えっと──お、お姉さんの方が綺麗だよ、って」
「ふぇ?」
恥じらいで顔を紅くしながらルーエルが呟く。対するレインは最初驚いた表情を浮かべかと思えば、一転して赤面し、それを隠すように頬に両手を当てた。
「な、なに言ってんの、急に!?」
「お姉さん、ハンドルから手離しちゃ危ないよ!?」
慌てふためく二人を微笑ましく見下ろすように、星が一つ、また一つと輝き始めた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 春日 啓一(ka1621) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/05/09 21:15:39 |
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相談卓 春日 啓一(ka1621) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/05/13 00:26:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/08 02:00:20 |