ゲスト
(ka0000)
黄のダイナステス
マスター:惇克

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/17 19:00
- 完成日
- 2014/06/25 12:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
炭焼き職人の朝は早い。
職人はこの日、まだ明け切っていない薄墨の空の下、木を伐る斧、草を払う鉈など各種の道具を調え、領主より樹木の伐採が許可された山林へと分け入った。
日が落ち、闇色に沈んだ山は人を拒む。
光が差し込む日中だけが、人に許された時間なのだ。
職人は日暮れまでに、炭に適した木材を探し、伐り、得てこなければならない。
時間との勝負に待ったはない。
息を弾ませながら、だが、しっかりとした足取りで職人は細く続く険しい樵道を奥へ奥へと進んでいった。
煮炊きに暖房にと、庶民の生活を支える消耗品である炭の需要は季節を問わず高い。
また、歪虚の穢れを祓う祭事と、それに並ぶ屋台にも多くの炭が使われる。
(じゃけぇ、ええ炭を届けにゃあいけん)
己が作り出すものが人々に必要とされている。その責任感と誇りを胸に、職人は過酷ともいえる労働に従事していた。
山の中腹に差し掛かった頃、職人は歩を止め表情を曇らせた。
先へと続く樵道が不自然に踏み荒らされていたのだ。
野生動物の、ましてや人のものではない痕跡を見て取った職人は、息を潜め身を屈めて注意深く周囲を伺う。
曲がりくねった樵道の先にある斜面、鬱蒼と茂る樹木の合間に黄色い兜虫のような異形の姿があった。
人の大きさほどもあるそれらは無秩序に蠢き、程よく育った木をへし折り、この春に芽吹いたばかりの幼木を踏みにじり、緩慢と獲物を探している。
(化け物が……好き勝手しおって!)
故郷の山、己の仕事場が蹂躙された悔しさに職人は顔を歪め、心中で毒づき静かに息を吐く。
そうしてから、異形に気取られぬよう慎重に踵を返すと、急ぎ山を下り、ギルドへと駆け込んだ。
職人はこの日、まだ明け切っていない薄墨の空の下、木を伐る斧、草を払う鉈など各種の道具を調え、領主より樹木の伐採が許可された山林へと分け入った。
日が落ち、闇色に沈んだ山は人を拒む。
光が差し込む日中だけが、人に許された時間なのだ。
職人は日暮れまでに、炭に適した木材を探し、伐り、得てこなければならない。
時間との勝負に待ったはない。
息を弾ませながら、だが、しっかりとした足取りで職人は細く続く険しい樵道を奥へ奥へと進んでいった。
煮炊きに暖房にと、庶民の生活を支える消耗品である炭の需要は季節を問わず高い。
また、歪虚の穢れを祓う祭事と、それに並ぶ屋台にも多くの炭が使われる。
(じゃけぇ、ええ炭を届けにゃあいけん)
己が作り出すものが人々に必要とされている。その責任感と誇りを胸に、職人は過酷ともいえる労働に従事していた。
山の中腹に差し掛かった頃、職人は歩を止め表情を曇らせた。
先へと続く樵道が不自然に踏み荒らされていたのだ。
野生動物の、ましてや人のものではない痕跡を見て取った職人は、息を潜め身を屈めて注意深く周囲を伺う。
曲がりくねった樵道の先にある斜面、鬱蒼と茂る樹木の合間に黄色い兜虫のような異形の姿があった。
人の大きさほどもあるそれらは無秩序に蠢き、程よく育った木をへし折り、この春に芽吹いたばかりの幼木を踏みにじり、緩慢と獲物を探している。
(化け物が……好き勝手しおって!)
故郷の山、己の仕事場が蹂躙された悔しさに職人は顔を歪め、心中で毒づき静かに息を吐く。
そうしてから、異形に気取られぬよう慎重に踵を返すと、急ぎ山を下り、ギルドへと駆け込んだ。
リプレイ本文
●
炭焼きには大量の木を使う。材料として、燃料として。
その木を、天然自然に山に生えているからといって、手当たり次第のべつまくなしに伐っていては、あっというまに山林の荒廃を招き、災害の温床にしてしまう。
そのことをよく知る炭焼き職人、山を仕事場とする者たちは、自ら節度を持って恩恵に預かっており、代々の領主によっても厳粛に管理されていた。
この付近も、かつては伐採地として木材の切り出しが行われていたが、後に保護され、幾年月をかけてようやく鬱蒼とした森にまで還っていた。
時間をかけた、穏やかな人と自然の共生があった。
だが。
雑魔はそんなことはお構いなしに、不条理に、降ってわいて破壊する。
静かな山中に、木がへし折られ、倒され、引き裂かれる軋んだ音が響く。
雑魔が動き回っていると思わしき場所は、遠くからでも一目見て分かるほどに荒らされている。
雑魔が出現し、狼藉を働いている場所の一歩手前で、ハンターたちは歩を止め、戦闘の準備を整えていた。
その間にもずっと、止むことのない木々の悲鳴にリュンルース・アウイン(ka1694)とルヴァルト(ka2065)は表情を曇らせた。
「やっぱり、木々が傷つけられるのは悲しいね……。仕事だから、というのを抜きにしても、放っては置けないよね」
「森で生まれ育った者として森の木々をただ破壊するだけの行為、許せないですねぇ~」
エルフである二人にとって、踏みにじられた森を目にするのは胸が痛むものであった。
木々を破壊する雑魔を退治し、森の平和を取り戻すことを共に決意する。
クライス・ロークレア(ka0820)の表情も険しかった。
人々の生活に欠かせない炭、それを作る職人の心意気。それらを踏みにじる雑魔という存在に対し、憤りを覚えていた。
だが、雑魔の姿を確認し、心中で困惑し目線を落とす。
(参ったな……俺、物理攻撃しか出来ないんだよな……)
兜虫型の雑魔の外皮は見るからに厚く頑強であり、生半な攻撃ではびくともしないだろう。
(――まぁ、出来ないことをあれこれ嘆いても仕方がない。出来る範囲で何とかするさ)
クライスは気持ちを切り替え、顔を上げ、前を見据えた。
「さって、仕事だ仕事。頑張るとするかね?」
「初仕事です! がんばって倒してきましょうね」
飄々とした様子のソレル・ユークレース(ka1693)にネージュ(ka0049)が朗らかに応える。
「虫はそんなに好きではないが……まあいいさ、我らが糧となるべく、雑魔よ塵となれ!」
ルーガ・バルハザード(ka1013)は胸を張り、拳をあげて凜々しく雑魔の殲滅を宣言する。
(そして報酬!)
という現金な声は心の中にしまいつつ。
「ま、全員生き残れるよう頑張ろーぜ?」
戦闘前に生じる独特の高揚感の中でジャック・エルギン(ka1522)は不敵に笑った。
人間同士での戦闘は経験してきているが、雑魔との戦闘は初となる。
雑魔という理不尽との戦いを目的として依頼に参加した彼は、新境地への期待を胸にしていた。
支給されたロングソードを手にし、改めて得物の状態を確認する。
当面の商売道具にして、自分の命を預けるものである。万が一、などということになってはたまらない。念には念を入れて調べ、不具合がないことを確かめるとそっと鞘に収めた。
(黄色い兜虫、ヘラクレス的なアレでしょうか)
ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)は心中でため息をつく。
(夏を間近に控えた今、子供たちが虫捕り網を手に捕まえにこないでしょうか)
(どれだけ採れるかなーと楽しみにしている子達はどのくらいいるのでしょうか)
(果たして倒してしまって良いのでしょうか)
(私のようなゴミ虫が、昆虫の王であるカブト様を傷つけても良いのでしょうか)
これまで延々と悩みつつ山林を進んできたのだ。その葛藤は深い。
ネガティブ思考でどんよりと淀み、ゴミ虫たる私はいっそ這いつくばったまま進んだ方が良いでしょうか、と背を丸め地面をなめるように下を向いていたが、同時に、注意深く樵道を観察していた。
炭焼き職人の目撃情報では雑魔が三匹、という話だったが、他所に潜んでいる可能性も考えられる。
異変を見逃すまいと踏み荒らされた樵道に目を配り、雑魔が草木茂る中を移動する音を聞き分けようと聴覚を研ぎ澄ましていた。
●
準備を終え、慎重に接近していったハンター達は雑魔の先手をとることに成功した。
「ヒャッハァ! おっ始めよーぜ!」
ジャックとニャンゴがほぼ同時に動いた。
両者ともに雑魔の角による攻撃を警戒し、側面から、ジャックは上方、ニャンゴは下方から接近を仕掛ける。
現場に到着するまで、精神世界での様々な葛藤を乗り越えたニャンゴに迷いはなく、いよいよ切って落とされた戦いの火蓋に、ジャックは笑みを深めていた。
「悪しき歪虚よ……誇り高き龍騎士の名に賭けて、私はお前を滅ぼそう!」
ロッドを構え、ルーガも進み出る。
戦闘にはロングソードを使用する心積もりのルーガだったが、うっかりと忘れてきてしまった。このまま戦えなくもないが、あまり効果は得られないだろう。
「……むしろ、この場の状況を考えつつ闘おうか」
まだ倒されていない樹木に被害が出ないよう、細心の注意を払いつつ、雑魔の側面へと回り込むように斜面を下り走り出すルーガ。
機敏に動き出した彼らに気をとられた雑魔。そののうち一匹が足を止める。
「さあ、動かないでね?」
リュンルースはこれを好機と捉え、精神を集中し、ワンドで雑魔を指し示す。
空を切って飛んだ光の矢が雑魔を撃ち、衝撃を与える。いくら頑強であろうとも、純粋なエネルギーの塊を防ぐことはできない。
ルヴァルトは攻性強化、自身のマテリアルをリュンルースに流入させ、魔法威力の底上げをはかる。
「ヤツの後ろに回る!」
クライスはまた別の雑魔の背後に回り込もうと移動を始めていた。
雑魔は兜虫の形をしている。一般的な兜虫の弱点は目と口の中。背中に飛び乗り、目を狙うことができれば、との目論見だった。
こうしたハンター達の動きに対応しきれず、もたつく雑魔へとネージュが一足飛びに接近、関節に一撃を加える。
「鬼さんこちら、ですよ!」
注意を引きつけ、他の仲間の所へ行かせないよう陽動を行う。
ハンター達は、頑強そうな雑魔に対して『前衛で分散して雑魔を足止めし、魔法ダメージを与えられるクラスが攻撃をする』といった作戦を立てていた。
その作戦の通り、雑魔はまごつきながらのたのたと分散し始める。
やや後方に位置取ったリュンルースとルヴァルト、彼らを守るよう雑魔の前にソレルが立ち塞がる。
自分の役割を『雑魔の動きを鈍らせること』とし、攻撃の要となる魔法職の二人に影響が出ないよう、雑魔をくい止めようとしていた。
雑魔が鋭い角を真正面に据え、地を抉りながらソレルに向かって突進する。
ソレルは恐れることも退くこともなく、角をロングソードで受け止める。
あまりの衝撃に、足下の地面ごと数メートルほど後退させられたが、ソレルは両の足で踏みとどまり、雑魔の侵攻を防いでいた。
「とりあえず、堅えってのを確かめておかねーと、なっ!」
雑魔の外皮は堅く頑強に見えるが、それがどの程度であるのか――板金鎧並みなのか、皮膚として傷つけられるレベルなのか――を確かめるため、ジャックは雑魔の横合い、斜め上から地を踏みしめ、自身の体重をも乗せての一撃を見舞う。
金属と金属とがぶつかり合うような高く鈍い音が響く。
外殻に一筋の傷が出来こそしたが、さほどのダメージは与えていないらしく、雑魔は平然としていた。
一方、ジャックは攻撃の反動に蹈鞴を踏み、腕に走った衝撃にほんの一瞬顔をしかめ、戯けたように手を振り、痺れを誤魔化す。
「堅ってー! こりゃ何度もやると手首がイカれちまう。別の方法、考えねぇとな」
反撃とばかりに振り回された雑魔の脚をロングソードで受け止め、捌き、退きつつ仲間の動きを伺う。
ジャックと入れ替わるように、ロングソードを腰だめに構えたニャンゴが飛び込んできた。
雑魔を転覆させようと、自分の身体ごとぶつけるような勢いで刺突する。
転覆こそしなかったものの、雑魔の胸部と腹部の間にロングソードが深々と突き立った。
「カブトムシ相撲でも得てして狙われやすい部位、狙いは当たったよう、です、が」
外殻が堅いのであれば、部位の付け根、堅い殻で覆えない箇所を狙えば良いと考えそれを実践した。
だが、転覆を狙った体当たりじみた攻撃、自身に跳ね返った衝撃も大きく、思わず背後によろめいたニャンゴの膝ががくりと落ちる。
「さ、さすがは昆虫の王カブト様……」
「うむ! 甲羅が固くとも、節の継ぎ目などは弱いだろう!」
ルーガはすかさずロッドの石突きを雑魔の脚部関節部分に突き刺し、動きを止めることに専念する。
「ひっくり返せれば柔な腹も狙えようが、な!」
人ほどの大きさ、重厚な外郭を持つ雑魔。重量もかなりのものであるがため、転覆させるのは一苦労だろう。
三人によって動きを止められた雑魔に止めの一撃、リュンルースのマジックアローが突き刺さり、雑魔は活動を停止した。
ルヴァルトは攻性強化を自身に掛け、次の攻撃に備える。
「よし、一匹撃破! 次に行くぞ!」
戦況を確認し、自分の行動を叫んで伝えるクライス。
乱戦となりがちな雑魔との戦闘。仲間への意思の伝達、確認は重要なものである。
クライスは背後をとっていた雑魔の背中に飛びかかる。
危険な行為だったが、クライスは雑魔の背中にかじりつきよじ登り、片手に携えたジャマダハルで目を狙う。
それを察した雑魔はクライスを振り落とそうと、脚を伸ばし竿立ちに仰け反る。
クライスはとっさに雑魔の角を掴むと、後ろに引っ張るように重心を傾けた。
不安定な姿勢をとったところでバランスを崩された雑魔は、そのまま仰向けに倒れ込む。
飛び退こうとしたクライスだったが間に合わず、足を挟まれ身動きがとれなくなってしまった。
「危ない!」
ネージュがすぐさまカバーに入り、洗練された動きで雑魔の関節を切りつけ、動きを封じる。その間に、クライスは足を引き抜き一時退避することができた。
雑魔は宙に向かって脚をばたつかせ、体勢を直そうともがき足掻く。
そこへとソレルが一気呵成に踏み込み、強烈な一撃を見舞う。
「大人しく、転がってろっての!」
腹部を貫かれた雑魔は、ソレルの言葉通りにそのまま大人しく息絶えた。
「ハ、なるほど、腹は柔いってか。そんならやってやろうぜ!」
ジャックが残る一匹に攻勢をかける。意図を察したニャンゴも加勢し、斜面と攻撃の勢いを利用する形で雑魔を転覆させる。
「そら、すぐに治してやる!」
ルーガは雑魔の下敷きとなり負傷したクライスをヒールで治療しつつ、昆虫が空を飛ぶような物音がないか、注意を払っていた。
兜虫は空を飛ぶ。他所から増援が飛んでくるのではないかと危惧していたのだ。
ネージュもまた、それを警戒していた。
(見たところに3匹いた、なら……もしかして)
空振りで思い過ごしであるかもしれなかったが、雑魔がもうこれ以上この場所にいないということが確認できれば、この後、職人達は安全に仕事ができるだろうという、思いやりがあった。
幸運なことに、増援が現れる気配は無い。
隙も油断も慢心もなく、敵襲に備えていた彼女らの姿勢が、敵をこれ以上、寄せ付けなかったのかもしれない。
治療を受けたクライスも攻撃に参加し、ソレルも続く。
前衛によって完全に動きを封じられた雑魔へと、リュンルースのマジックアロー、ルヴァルトの機導砲が着弾し、雑魔は爆発四散した。
雑魔が倒され、山中に静寂が戻る。
異変が去ったことを察した小鳥が、どこからともなく梢に戻り、涼しげにさえずり始める。
幸いにして、周辺の被害は少なく、再び木が伐れるようになるまでには、数年を要するだろうが、荒廃に繋がるような深刻なダメージの心配はなかった。
「鬱蒼と茂った木々……やはり死ぬならこういうところが良いと思いませんか」
ニャンゴが不吉なことをボソリと呟くが、あまりにも小さな声だったので他のハンター達には聞こえなかった。
そして、ニャンゴはこうも思った。
(でもこんなところにゴミ虫の死体があっては迷惑ですよね……なら、生きるだけ生きなくては)
ネガティブも突き抜ければ、結果としてポジティブに転じるものなのかもしれない。
●
町に戻り、雑魔を退治したことをハンターオフィスに報告した道すがら、ハンター達は往来で炭焼き職人と出会った。
炭焼き職人は備蓄しておいた炭を荷車に乗せ、問屋に納めに行く途中だった。
雑魔を倒したことを彼に告げると、炭で黒く汚れた顔を喜色満面にし、これでまた炭焼きを続けられると、何度も頭を下げた。
てらいのない純朴な感謝に面映さを覚えながら、炭焼き職人と別れたハンター達は
「とりあえず、一杯ひっかけるかね」
照れ隠しに呟かれたソレルの言葉をきっかけに、酒場へと繰り出していった。
「一仕事終えた後のエールは格別だよな、ルース」
グラスになみなみと注がれたエールを一息に飲み干し、嬉しそうに笑うソレルに、リュンルースもつられて笑う。
「お疲れ様。あまり飲み過ぎないでね、ソル」
仕事を終えた人々が憩いを求めて集う酒場。
陶然とした空気の中、人々は小皿の料理をつまみながら雑談に興じ、一日の憂さを晴らす。
様々な種類の小皿料理が所狭しと並ぶカウンター。その先には料理人が忙しく、鉄製のコンロの前で調理を続けている。
コンロの中で赤々と燃える炭火は、肉や魚を焼き、汁を温め、パンを炙っている。
普段、あまり気にとめることはないものだったが、人の営みに確かに必要なもの。
それを作る人、自然を今日、自分達の手で守ったのだ。
酒場の賑わいの中、ハンター達の胸に静かに達成感が満ちていった。
炭焼きには大量の木を使う。材料として、燃料として。
その木を、天然自然に山に生えているからといって、手当たり次第のべつまくなしに伐っていては、あっというまに山林の荒廃を招き、災害の温床にしてしまう。
そのことをよく知る炭焼き職人、山を仕事場とする者たちは、自ら節度を持って恩恵に預かっており、代々の領主によっても厳粛に管理されていた。
この付近も、かつては伐採地として木材の切り出しが行われていたが、後に保護され、幾年月をかけてようやく鬱蒼とした森にまで還っていた。
時間をかけた、穏やかな人と自然の共生があった。
だが。
雑魔はそんなことはお構いなしに、不条理に、降ってわいて破壊する。
静かな山中に、木がへし折られ、倒され、引き裂かれる軋んだ音が響く。
雑魔が動き回っていると思わしき場所は、遠くからでも一目見て分かるほどに荒らされている。
雑魔が出現し、狼藉を働いている場所の一歩手前で、ハンターたちは歩を止め、戦闘の準備を整えていた。
その間にもずっと、止むことのない木々の悲鳴にリュンルース・アウイン(ka1694)とルヴァルト(ka2065)は表情を曇らせた。
「やっぱり、木々が傷つけられるのは悲しいね……。仕事だから、というのを抜きにしても、放っては置けないよね」
「森で生まれ育った者として森の木々をただ破壊するだけの行為、許せないですねぇ~」
エルフである二人にとって、踏みにじられた森を目にするのは胸が痛むものであった。
木々を破壊する雑魔を退治し、森の平和を取り戻すことを共に決意する。
クライス・ロークレア(ka0820)の表情も険しかった。
人々の生活に欠かせない炭、それを作る職人の心意気。それらを踏みにじる雑魔という存在に対し、憤りを覚えていた。
だが、雑魔の姿を確認し、心中で困惑し目線を落とす。
(参ったな……俺、物理攻撃しか出来ないんだよな……)
兜虫型の雑魔の外皮は見るからに厚く頑強であり、生半な攻撃ではびくともしないだろう。
(――まぁ、出来ないことをあれこれ嘆いても仕方がない。出来る範囲で何とかするさ)
クライスは気持ちを切り替え、顔を上げ、前を見据えた。
「さって、仕事だ仕事。頑張るとするかね?」
「初仕事です! がんばって倒してきましょうね」
飄々とした様子のソレル・ユークレース(ka1693)にネージュ(ka0049)が朗らかに応える。
「虫はそんなに好きではないが……まあいいさ、我らが糧となるべく、雑魔よ塵となれ!」
ルーガ・バルハザード(ka1013)は胸を張り、拳をあげて凜々しく雑魔の殲滅を宣言する。
(そして報酬!)
という現金な声は心の中にしまいつつ。
「ま、全員生き残れるよう頑張ろーぜ?」
戦闘前に生じる独特の高揚感の中でジャック・エルギン(ka1522)は不敵に笑った。
人間同士での戦闘は経験してきているが、雑魔との戦闘は初となる。
雑魔という理不尽との戦いを目的として依頼に参加した彼は、新境地への期待を胸にしていた。
支給されたロングソードを手にし、改めて得物の状態を確認する。
当面の商売道具にして、自分の命を預けるものである。万が一、などということになってはたまらない。念には念を入れて調べ、不具合がないことを確かめるとそっと鞘に収めた。
(黄色い兜虫、ヘラクレス的なアレでしょうか)
ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)は心中でため息をつく。
(夏を間近に控えた今、子供たちが虫捕り網を手に捕まえにこないでしょうか)
(どれだけ採れるかなーと楽しみにしている子達はどのくらいいるのでしょうか)
(果たして倒してしまって良いのでしょうか)
(私のようなゴミ虫が、昆虫の王であるカブト様を傷つけても良いのでしょうか)
これまで延々と悩みつつ山林を進んできたのだ。その葛藤は深い。
ネガティブ思考でどんよりと淀み、ゴミ虫たる私はいっそ這いつくばったまま進んだ方が良いでしょうか、と背を丸め地面をなめるように下を向いていたが、同時に、注意深く樵道を観察していた。
炭焼き職人の目撃情報では雑魔が三匹、という話だったが、他所に潜んでいる可能性も考えられる。
異変を見逃すまいと踏み荒らされた樵道に目を配り、雑魔が草木茂る中を移動する音を聞き分けようと聴覚を研ぎ澄ましていた。
●
準備を終え、慎重に接近していったハンター達は雑魔の先手をとることに成功した。
「ヒャッハァ! おっ始めよーぜ!」
ジャックとニャンゴがほぼ同時に動いた。
両者ともに雑魔の角による攻撃を警戒し、側面から、ジャックは上方、ニャンゴは下方から接近を仕掛ける。
現場に到着するまで、精神世界での様々な葛藤を乗り越えたニャンゴに迷いはなく、いよいよ切って落とされた戦いの火蓋に、ジャックは笑みを深めていた。
「悪しき歪虚よ……誇り高き龍騎士の名に賭けて、私はお前を滅ぼそう!」
ロッドを構え、ルーガも進み出る。
戦闘にはロングソードを使用する心積もりのルーガだったが、うっかりと忘れてきてしまった。このまま戦えなくもないが、あまり効果は得られないだろう。
「……むしろ、この場の状況を考えつつ闘おうか」
まだ倒されていない樹木に被害が出ないよう、細心の注意を払いつつ、雑魔の側面へと回り込むように斜面を下り走り出すルーガ。
機敏に動き出した彼らに気をとられた雑魔。そののうち一匹が足を止める。
「さあ、動かないでね?」
リュンルースはこれを好機と捉え、精神を集中し、ワンドで雑魔を指し示す。
空を切って飛んだ光の矢が雑魔を撃ち、衝撃を与える。いくら頑強であろうとも、純粋なエネルギーの塊を防ぐことはできない。
ルヴァルトは攻性強化、自身のマテリアルをリュンルースに流入させ、魔法威力の底上げをはかる。
「ヤツの後ろに回る!」
クライスはまた別の雑魔の背後に回り込もうと移動を始めていた。
雑魔は兜虫の形をしている。一般的な兜虫の弱点は目と口の中。背中に飛び乗り、目を狙うことができれば、との目論見だった。
こうしたハンター達の動きに対応しきれず、もたつく雑魔へとネージュが一足飛びに接近、関節に一撃を加える。
「鬼さんこちら、ですよ!」
注意を引きつけ、他の仲間の所へ行かせないよう陽動を行う。
ハンター達は、頑強そうな雑魔に対して『前衛で分散して雑魔を足止めし、魔法ダメージを与えられるクラスが攻撃をする』といった作戦を立てていた。
その作戦の通り、雑魔はまごつきながらのたのたと分散し始める。
やや後方に位置取ったリュンルースとルヴァルト、彼らを守るよう雑魔の前にソレルが立ち塞がる。
自分の役割を『雑魔の動きを鈍らせること』とし、攻撃の要となる魔法職の二人に影響が出ないよう、雑魔をくい止めようとしていた。
雑魔が鋭い角を真正面に据え、地を抉りながらソレルに向かって突進する。
ソレルは恐れることも退くこともなく、角をロングソードで受け止める。
あまりの衝撃に、足下の地面ごと数メートルほど後退させられたが、ソレルは両の足で踏みとどまり、雑魔の侵攻を防いでいた。
「とりあえず、堅えってのを確かめておかねーと、なっ!」
雑魔の外皮は堅く頑強に見えるが、それがどの程度であるのか――板金鎧並みなのか、皮膚として傷つけられるレベルなのか――を確かめるため、ジャックは雑魔の横合い、斜め上から地を踏みしめ、自身の体重をも乗せての一撃を見舞う。
金属と金属とがぶつかり合うような高く鈍い音が響く。
外殻に一筋の傷が出来こそしたが、さほどのダメージは与えていないらしく、雑魔は平然としていた。
一方、ジャックは攻撃の反動に蹈鞴を踏み、腕に走った衝撃にほんの一瞬顔をしかめ、戯けたように手を振り、痺れを誤魔化す。
「堅ってー! こりゃ何度もやると手首がイカれちまう。別の方法、考えねぇとな」
反撃とばかりに振り回された雑魔の脚をロングソードで受け止め、捌き、退きつつ仲間の動きを伺う。
ジャックと入れ替わるように、ロングソードを腰だめに構えたニャンゴが飛び込んできた。
雑魔を転覆させようと、自分の身体ごとぶつけるような勢いで刺突する。
転覆こそしなかったものの、雑魔の胸部と腹部の間にロングソードが深々と突き立った。
「カブトムシ相撲でも得てして狙われやすい部位、狙いは当たったよう、です、が」
外殻が堅いのであれば、部位の付け根、堅い殻で覆えない箇所を狙えば良いと考えそれを実践した。
だが、転覆を狙った体当たりじみた攻撃、自身に跳ね返った衝撃も大きく、思わず背後によろめいたニャンゴの膝ががくりと落ちる。
「さ、さすがは昆虫の王カブト様……」
「うむ! 甲羅が固くとも、節の継ぎ目などは弱いだろう!」
ルーガはすかさずロッドの石突きを雑魔の脚部関節部分に突き刺し、動きを止めることに専念する。
「ひっくり返せれば柔な腹も狙えようが、な!」
人ほどの大きさ、重厚な外郭を持つ雑魔。重量もかなりのものであるがため、転覆させるのは一苦労だろう。
三人によって動きを止められた雑魔に止めの一撃、リュンルースのマジックアローが突き刺さり、雑魔は活動を停止した。
ルヴァルトは攻性強化を自身に掛け、次の攻撃に備える。
「よし、一匹撃破! 次に行くぞ!」
戦況を確認し、自分の行動を叫んで伝えるクライス。
乱戦となりがちな雑魔との戦闘。仲間への意思の伝達、確認は重要なものである。
クライスは背後をとっていた雑魔の背中に飛びかかる。
危険な行為だったが、クライスは雑魔の背中にかじりつきよじ登り、片手に携えたジャマダハルで目を狙う。
それを察した雑魔はクライスを振り落とそうと、脚を伸ばし竿立ちに仰け反る。
クライスはとっさに雑魔の角を掴むと、後ろに引っ張るように重心を傾けた。
不安定な姿勢をとったところでバランスを崩された雑魔は、そのまま仰向けに倒れ込む。
飛び退こうとしたクライスだったが間に合わず、足を挟まれ身動きがとれなくなってしまった。
「危ない!」
ネージュがすぐさまカバーに入り、洗練された動きで雑魔の関節を切りつけ、動きを封じる。その間に、クライスは足を引き抜き一時退避することができた。
雑魔は宙に向かって脚をばたつかせ、体勢を直そうともがき足掻く。
そこへとソレルが一気呵成に踏み込み、強烈な一撃を見舞う。
「大人しく、転がってろっての!」
腹部を貫かれた雑魔は、ソレルの言葉通りにそのまま大人しく息絶えた。
「ハ、なるほど、腹は柔いってか。そんならやってやろうぜ!」
ジャックが残る一匹に攻勢をかける。意図を察したニャンゴも加勢し、斜面と攻撃の勢いを利用する形で雑魔を転覆させる。
「そら、すぐに治してやる!」
ルーガは雑魔の下敷きとなり負傷したクライスをヒールで治療しつつ、昆虫が空を飛ぶような物音がないか、注意を払っていた。
兜虫は空を飛ぶ。他所から増援が飛んでくるのではないかと危惧していたのだ。
ネージュもまた、それを警戒していた。
(見たところに3匹いた、なら……もしかして)
空振りで思い過ごしであるかもしれなかったが、雑魔がもうこれ以上この場所にいないということが確認できれば、この後、職人達は安全に仕事ができるだろうという、思いやりがあった。
幸運なことに、増援が現れる気配は無い。
隙も油断も慢心もなく、敵襲に備えていた彼女らの姿勢が、敵をこれ以上、寄せ付けなかったのかもしれない。
治療を受けたクライスも攻撃に参加し、ソレルも続く。
前衛によって完全に動きを封じられた雑魔へと、リュンルースのマジックアロー、ルヴァルトの機導砲が着弾し、雑魔は爆発四散した。
雑魔が倒され、山中に静寂が戻る。
異変が去ったことを察した小鳥が、どこからともなく梢に戻り、涼しげにさえずり始める。
幸いにして、周辺の被害は少なく、再び木が伐れるようになるまでには、数年を要するだろうが、荒廃に繋がるような深刻なダメージの心配はなかった。
「鬱蒼と茂った木々……やはり死ぬならこういうところが良いと思いませんか」
ニャンゴが不吉なことをボソリと呟くが、あまりにも小さな声だったので他のハンター達には聞こえなかった。
そして、ニャンゴはこうも思った。
(でもこんなところにゴミ虫の死体があっては迷惑ですよね……なら、生きるだけ生きなくては)
ネガティブも突き抜ければ、結果としてポジティブに転じるものなのかもしれない。
●
町に戻り、雑魔を退治したことをハンターオフィスに報告した道すがら、ハンター達は往来で炭焼き職人と出会った。
炭焼き職人は備蓄しておいた炭を荷車に乗せ、問屋に納めに行く途中だった。
雑魔を倒したことを彼に告げると、炭で黒く汚れた顔を喜色満面にし、これでまた炭焼きを続けられると、何度も頭を下げた。
てらいのない純朴な感謝に面映さを覚えながら、炭焼き職人と別れたハンター達は
「とりあえず、一杯ひっかけるかね」
照れ隠しに呟かれたソレルの言葉をきっかけに、酒場へと繰り出していった。
「一仕事終えた後のエールは格別だよな、ルース」
グラスになみなみと注がれたエールを一息に飲み干し、嬉しそうに笑うソレルに、リュンルースもつられて笑う。
「お疲れ様。あまり飲み過ぎないでね、ソル」
仕事を終えた人々が憩いを求めて集う酒場。
陶然とした空気の中、人々は小皿の料理をつまみながら雑談に興じ、一日の憂さを晴らす。
様々な種類の小皿料理が所狭しと並ぶカウンター。その先には料理人が忙しく、鉄製のコンロの前で調理を続けている。
コンロの中で赤々と燃える炭火は、肉や魚を焼き、汁を温め、パンを炙っている。
普段、あまり気にとめることはないものだったが、人の営みに確かに必要なもの。
それを作る人、自然を今日、自分達の手で守ったのだ。
酒場の賑わいの中、ハンター達の胸に静かに達成感が満ちていった。
依頼結果
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相談用テーブル ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/06/16 21:41:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/14 00:38:05 |