大江家の忠臣、里を眺めて涙する

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/05/17 19:00
完成日
2016/05/24 00:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●宗主、帰還
 大江 紅葉(kz0163)は久しぶりのエトファリカ連邦国に安堵した。
 二週間ほどグラズヘイム王国のとある貴族の家に厄介になっていた。少女を助けに入った結果、自分自身が重傷となってしまったからだった。
(術の腕を磨く……これからでも遅くはありませんよね)
 己の知識偏重を痛感した出来事。これまではそれでもかまわなかったが、いざ世界を見て回り、歪虚との戦いを考えた場合今以上の力がいるとわかってきた。
 帰宅の途中で陰陽寮に顔を出し、上司であり術の指南役でもあった男にこっぴどくしかられた上、心配したと告げられた。ひたすら謝るしかなかった。
 途中で知り合いの男性に会い、やはり説教と心配した旨を告げられた。
 この瞬間、帰ってこられて良かったと改めて思う。
 帰宅したとたん、家臣たちには泣かれた。そのあとの対応は真綿にくるむであり、旅の疲れもあるだろうからと寝室や着替えを用意される。
「怪我が治ったから帰ってきたのです! ちょ、皆さん、何ですか」
 妙にご飯も豪勢で、紅葉に精をつけようと必死なのがうかがえる。
「宗主はお体弱いですし、すぐ風邪ひくし」
「怪我が治ったとはいえ、あちらの空気とこちらでは違います」
 家臣たちの中にいろいろ理由があるらしい。
 紅葉は仕方がないと理解して流される。大江の里がなくなってから、紅葉を中心に家臣や里人は集まった。小さい集団でも紅葉の存在は中心であり、上に立ち導き手であった。
(でも、信用がないんですよね……この構いっぷりは)
 ここで再び己のふがいなさを痛感した。
 そんな中、三人の爺たちが旧里に向かいたいと伝えてきたのだった。
「待ってください! 危険ですよ。まず、私と一個小隊くらい行かないと」
「そんな大仰なことはいりませんよ」
 三人の爺に諭され、経緯を話されて紅葉はうなずくしかなかった。
「何かいるかもしれないんですよね?」
「だからこそ、ちょっと奮発して人数を雇いますじゃ」
 すでに外堀は埋まっていた。
 紅葉は彼らの無事を祈るだけだった。少しずつ、人の流れができれば、帰還もしやすくなる。近いうちに、己もその地に向かうことを決心した。

●古い里、言い知れぬ不安
 ハンターたちは大江家の三人の老人たちをつれて大江の古い里に向かった。堀川 瑞奈、杉 広雪と田貫 石丸という三人は、年をとっていることを除けば好奇心強く、思考も記憶もしっかりしている。そのため、ハンターたちの意見にも耳を傾け、必要ならば意見をしていた。
 道中は問題なかった。この三人に道中の調査依頼を受けたハンターが調べていたから、油断さえしなければ想定できる部分が多かった。
 古い里が見えた瞬間、誰もがほっとする。ハンターの気は緩みすぎることはないが、三人の爺たちは涙を流さんばかりに喜んだ。
「なつかしいのう!」
「潮の香りじゃ」
「ああ、あのこんもり加減は」
 海が見えて島が見える。
 島と言っても潮の満ち引きで道が現れる為、孤立してしまうことはない。うまく橋を作れれば言うことはないが、満ち潮の時は小舟で行き来できるので問題はない様だ。
 三人は見つめる、ただ黙って。
 戦闘の跡も見受けられる。時間が経っているため、逃げたときのままではない。
 里を見れば戻ってくるのは、あの時の辛さだ。
「紅葉様とはぐれたときはどれだけ不安だったか」
「本当に運がいいとしか言いようがない」
「まあ、紅葉様は勘が鋭いし、道に関しては心配はしておらなかったが」
 三人は笑う。
「嘘いえ、ぬしが一番取り乱しておったくせに」
「そうじゃそうじゃ」
「そ、そうじゃったか?」
 時が巻戻る。辛かったことを口にしているが、すでに明るい日が見えたために思い出として笑えるようになっていた。
 細い道を進み、里に上がる。
「先日のハンターが言っておった家はあれかのう?」
「あれがなければ廃墟だといっても分からぬ」
「もう、人が住んでおらぬから」
 三人の爺は溜息をもらす。

 カサリ、ガサリ……。

 奇妙な音が響く。
 風のせいにするには風がない。
「……しゃれこうべも多いと聞くし」
「葬らねばならぬよのう」
「幾人死んだのか……」
 里人は分からないが、大江家で半分以上は死んでいるのは間違いない。傭兵は全滅に近かった。
「本当に、彼らがわしらを見捨ててもおかしくはなかったのにの」
「鬼の……行く末に気付いておったからか」
「……気の毒なことをした……本当に」
 傭兵の多くは鬼だった。歪虚による汚染が強い所が近いため、鬼を雇うのは合理的だった。仕事を求める彼らと、必要とする大江家。
 島は静まり返っている。そのために音が響く。

 カサリ、ガサリ……。

「おお、ハンターが言っていた家はあれじゃの」
 瑞奈が指さす家は、他と異なり形をとどめていた。
「墓参りとできれば宗主の家をみてきたいのぉ」
 広雪はあれているといえども生まれて長く住んでいた島に再び来られた喜びをかみしめている。
「夕餉はわしが腕を振るおう、戦料理じゃが」
 石丸は家のかまどを見てうきうきしている。

 カサリ、ガサリ……。

 何かが動く。姿は見せないそれらは、侵入者たる人間たちを静かに見つめていた。

●???
 それは侵入者に苛立ちを覚えた。
「あたくしの世界にどうして人間が入ってくるの? どうして? 本当に……腹が立つわ! ねえ? どうにかしてちょうだい、お願いよ?」

リプレイ本文

●偵察
 ハンターは上陸前に偵察を申し出る。瑞奈と広雪、石丸はしぶしぶ了承する。慎重を旨としていた彼らも目の前となると気がせくのだった。

 ボルディア・コンフラムス(ka0796)とミオレスカ(ka3496)は慎重に歩みを進めた。
 旧里は静かであり、響くのは風が木々を揺らして作る音と波の音。
「先日来た時、整備した家はあれです」
 ミオレスカは近づいて壊れていないか、不審なものがないか確認する。建物自体は問題なさそうだが、周囲には動物のような足跡がある。以前見た雑魔の種類かと考える。
「使えそうだな」
 ボルディアも家と周囲を見た後、ファミリアの力を使い周囲を見渡す。
「荒れてるとしか言いようがないか」
 ボルディアは大きく息を吐く。家屋は壊れ朽ちている。動くものはおおよそないという、島の状況を知れた。
 少し先も二人は見に行く。何かの気配はあるが、姿を見せることがない。足跡が多数あるのが不気味である。
 島は大きくないようで、用心して見回るとなると大きいため、あの家に戻り、仲間に連絡を取った。

●焦燥
 三人の爺はそわそわと待っている。護衛として残るハンターは彼の気持ちを安らげようと心がける。
「ここまで来たら焦っても仕方がないだろう? 話をしていていればあっという間だ」
 ロニ・カルディス(ka0551)は穏やかに声をかける。
 三人は里があるほうを見たままうなずく。
「妙な気配もあるっていうし、用心は必要だよ! そのための僕たちなんだから」
 超級まりお(ka0824)は笑顔で励ます。
「ここから復興できればいいな。紅葉さんが持っている機械を活用できるかもしれない」
 ザレム・アズール(ka0878)は以前、紅葉がグラズヘイム王国で刻令術の農具を借りて帰るきっかけとなっている。畑作業が基本の道具だが、活用できれば復興も、道具の改良にもつながるだろうと考える。
「紅葉殿が幼いころいた里。前回はちらりと見ていないが……思い出話が聞けたら嬉しい」
 雪継・白亜(ka5403)は三人の爺を見る。道中でもぽつりぽつり彼らは話していた。
「たくさんあるのう」
「宗主は本当お転婆じゃったから」
「傭兵によじ登ってよく遊んでもらっておった」
 二つ名が「知追う者」というが、幼いころは活発だったのがうかがえる。今もその名残を感じる者もあるかもしれないが。
「傭兵といえば……鬼もいて、それも弔うってェのが……」
 万歳丸(ka5665)は不思議がる。鬼が排斥されていたころだろうから、雇う気になるとは。
「雇いたい、雇われたいで利害は一致」
「合理的なのは大江家の流れ」
「まあ、そのくせ、本読み始めたら動かないの」
 非合理的だと笑う。
「少しでも戻れる手伝いができれば……それに、本があるというから興味深い」
 ムディル(ka6175)の言葉に、興味がある者が反応する。戦乱を生き延びているのか否か、どんなものがあるのか。
 話をしている間に連絡が入った。

●丘の上へ
 危険とはいえ、家屋に入ると緊張の糸はほぐれる。庭を見ても緑はない、かろうじて生き延びる灌木や幹たちのみが見える。
 白亜は鳴子を設置するために家を出た。他の者も、明かりのためのたいまつづくりや中が見えにくい細工等を行う。
 かまどで作る汁物の香りが漂い始めると、廃墟が里に戻ったようだった。
 石丸が喜々として腕を振るった。ただ煮るだけとはいえ、遠征も考えた工夫も見られる。食事は食べるだけでなく、心も満たすものという意識。
「へえ、こういう方法があるんだ。こういうお年寄りの知恵を『お爺ちゃんのタマ袋』ていうだよね?」
 作り方を見たまりおが感嘆の声を上げたが、様々な反応を見せる一行。
「これが宗主じゃなくて良かったのう」
「寿命が縮まるとこじゃったわい」
「のう、どう意味みじゃ」
 瑞奈たちも笑いを誘い、楽しく夕食はすぎる。
 ハンターたちの夜の見張りのローテーションはすでに決まっている。それに合わせて食べて休めるときに休んでおくこととなる。
 まずはムディルとザレムであり、それぞれ周囲を観察しつつ時を過ごした。
 次にまりおとロニ、続いてミオレスカと万歳丸、最後はボルディアと白亜であった。
 特に何もない。周囲に「何か」がいる気配がずっと続くが直接何もなかっただけだ。

 墓参りが主な目的であるが、実際来ると欲が出る。他のところも見たい、宗主の屋敷があったほうはどうだろうかと。
 墓所がある道を一行はゆっくり上がる。ハンターが警戒は怠ることはない。
「時間にもよるかと思いましたが、鳥もいませんね」
 ミオレスカは土地が負った傷を思った。
「植物も枯れているのか。生きてはいるみたいだけど、芽吹きからほど遠い感じだ」
 ザレムは観察する。歪虚に支配されたのが原因か、ここに原因となる存在がまだいるのか。植物を見ることで、それが長くいる場所を特定できると考える。護衛を基本とするため、離れることはない。
 上がる道には朽ちた鎧の破片、骨の断片がうかがえる。
「すべてではないだろうが」
 ロニは用意されていた桶に丁重に集めた遺品や骨を入れる。
 それを持ち、瑞奈と広雪、石丸は黙々と作業をする。はじめこそしゃべっていた彼らだが、少しずつ重くなる桶に無言となる。
「我も手伝おう」
 白亜は桶を持とうとする。
「いやいや……護衛に専念してくれてよいよい」
 三人は異口同音に礼を述べ、浅く笑う。
「……逃げられるなら全員で逃げたかったのう」
 広雪は頭蓋骨の破片のようなものを手に撫でた。
「彼らが引き留めたから今のわしらがある……」
 石丸は最後に見た敵の数を考えた。逃げられたのは奇跡のような状況だったとつぶやく。逃げた者もすべてがたどり着けたわけではなかった。
「傭兵はともかく、宗主たちは逃げられなかったのか?」
 万歳丸の問いかけに三人は首を横に振った。
「逃げきれていない里人もおったし……」
「あの時点で命より書物が大事だとな!」
 三人は笑う。
「嘘なのは明らかじゃが、それ以上追求できない」
「せめて奥方だけでものう」
「お子は幼いからの」
 三人は溜息をもらす。紅葉の妹若葉は当時3歳であり、できれば母親は必要だった。
「……なあ、ここから東は何があるんだ?」
 ファミリアを放っていたボルディアが尋ねる。
「宗主の屋敷があるのう」
「何かあったのかの?」
 察しがいい。
「距離があるから、途中までしか見えなかった。倒木やがけ崩れなんかで道が途切れている。ただ、俺なら見てこられそうだから、ちょっと見てこようか? そこが戦闘の中心だったようだし」
 ボルディアは見た物からそう分析する。
「……行きたいのはやまやまだが、のお」
 三人は安全を優先した返答をした。
 一行は墓があるあたりにやってきた。墓石は倒れているものがほとんどだ。
「海が見えるんだね」
 まりおは荒涼とした景色を眺める。寂しいと感じるのは、生命力に乏しいからだろう。もし、ここが緑の木々に覆われ、太陽の光がさんさんと照っていればきっと気持ちいい場所に違いない。
 警戒、弔いを無言で行う。口を開くと泣きそうだと瑞奈が明るく言うが、すぐに口をつぐんだ。
 整備をしてほっと息をつく。
 ムディルは己の故郷の弔いの言葉をつぶやいた。
「生まれも育ちも違うが、人を弔うのに理由はいらないだろう。安らかに眠れるなら」
 三人の爺は手を合わせて無言で埋めたところを眺めていた。

 ミオレスカは笛を吹いた。年が明けて間もないころ、紅葉が死者を弔うためと決意を新たにするために護衛した際聞いた音楽。おぼろげであるが、弔いの気持ちとして。
「儀式の曲じゃな」
「よく知っておる」
 三人は微笑みながら聞いていた。
「どういう内容のものなんです?」
 ザレムが問うと三人は首をかしげる。
「大江の家は結構あれこれ集めるからのう」
「もともとは追儺と言っていたが……」
「たぶん、原型はとどめておらんだろうのう」
 三人は笑う。
「興味深い。時間が許せば宗主の屋敷まで行ってみたいものですね」
 ムディルは人から知識を得たと同時に本からも吸収している。どんなものがあるか非常に気になる、読めるか否かは別として。

●撤収
 状況を確認する意味も含め、宗主の屋敷があるほうに向かってみる。
 途中からは通るのは難しそうだ。ハンターならばどうにかなりそうであるが、足腰が弱り気味の依頼人たちは難しいだろう。
「……これは?」
 ザレムは地面を見る。
 はっきりとした足跡があるのだった、複数、それも異なる大きさ。
「こちらには引きずったような跡があります」
 ミオレスカが指さした。
「上では気づかなかったがな」
 ロニは三爺のそばに寄りながら思い出そうとする、弔うとき見ていたはずだから。
 白亜とまりおが三爺のそばにつき警戒する。そこを取り巻くように万歳丸、ムディル、ザレムが付き、ボルディアとミオレスカが若干離れて周囲をうかがった。
「……離れるぞ」
 緊張が走る中、ボルディアの合図とともに一行は素早く戻る。
 一旦、拠点にしている家に戻った。方針を話し合う前に、依頼主たちがきっぱりと告げた。
「出るべきじゃ。そろそろ満ち潮が来る」
「道がなくなるぞ」
「小舟もないからな」
 里を知っている三人の言葉は鋭い。
「特殊な地形が奴らを出しにくいが、残れば襲撃が来るかもしれねェわけか」
 万歳丸も手早く片づける。
「こちらを虎視眈々とうかがってはいたが、何もしなかったから警告で雑魔だったか?」
「人間が再度来たと知った場合、向かってくるかもしれない」
 ムディルと白亜は前回のことを重ねて、視線の意味を考えた。
「なら早くしないと! あの奥にいるなら、僕たちに気づいているかもしれないんだね」
 まりおは素早く準備すると、家の外に出て警戒に当たる。
 全員の準備は早かった。

●火柱
 ドーン、という大きな音がびびいたのはそれから二分後だった。
 大きな石が飛んできて家を直撃した。続いてもう一つ、小さいが炎をまとっている。もともとはたいまつだったのかもしれない。
「爺ちゃんズ!」
 まりおは武器を抜き放ち、その場で待機した。出てくる仲間に気づいたため、敵をうかがうほうが重要。
「どこだ!」
「わからない、隠れてるみたい」
 ボルディアは舌打ちすると戦斧を振える状態にする。耳をそばだて、鳴子を確認する。
「伏せてくださいっ!」
 再び飛んできた石をミオレスカはとっさに撃ち落とそうとする。破片を食らうが、どこから飛んでくるかは分かった。
 ハンターたちは武器を抜き、瑞奈と広雪そして石丸を内側にし、じりじりと退く。
「俺たちは立ち去る!」
 ザレムは襲撃者に声を張り上げる。
 再び石が飛んでくる、岩と言いたくなるほど大きな物が。
「急ごう、火が」
 ムディルが促す。
 すぐに鎮火するか延焼するか気になるが、退路が断たれた直後、どの程度の相手がいるか不明な状況で危険すぎる。
 攻撃の手はやまない。
「俺ァ万歳丸だ! ンでもってこっちはジジイ!」
 相手をあおるように、様子を窺うように万歳丸が声を張り上げる。思考できる相手の場合、手が止まる可能性はある。
 動きが止まったようだ。
 この間にハンターは依頼主たちをかばい下がる。
「怪我は大丈夫か?」
 ロニは撤退中に何度か傷をいやす。攻撃主は姿を出さないが、無差別に飛んでくる大きな石はハンターの疲労に影響を与えた。
「……鳴子だ」
 白亜ははっとする。
 敵は攻撃の意思があるのだろう、近づくということは。
「あと一息だ」
 ボルディアは唇をかむ。閉じ込められるより、対岸まで行って戦うほうがましではある。
「ホントだ、水が来てる」
 まりおは眉をひそめる。渡り切るまでもってほしいと強く願う。しんがりを努めつつ、戦いと走る準備をした。雑魔のような影が見え隠れしていたから。
 満ち潮が来る前に、一行は渡り終えた。

●野営にて
 渡り切ったところで、夜が来てしまう。
 テントを張った万歳丸は疲れ切った瑞奈たちに毛布を渡す。
 ザレムは続く緊張からの疲労を減らそうと、温かい料理を作る。
 気分を変えられるようにと白亜はコーヒーを淹れる準備をする。
 ミオレスカとボルディアは少し離れたところで警戒をしている。
 ムディルとロニ、まりおは瑞奈たちのそばで待機した。
 夜何も起こらないといい。
 なお、逃げるきっかけとなった炎は見える。島中に燃え移ることはないようだ。
「できたぞ! 豚汁、胃の中から温まる」
 ザレムは明るい声音を出して一行に声をかける。
「食後にはコーヒーも淹れるぞ」
「食前でもいいよな?」
 白亜にボルディアが笑いかける。
「すまないのう」
 瑞奈はどこか落ち込んだ様子だ。
「妖怪はいるってわかっていたんです。それに、慎重なおかげで無事脱出できたんです」
 ムディルが慰める。
「ごはん食べよう? 爺ちゃんたちが戻ってこないと、家の人たちが探しに来るよ」
 まりおに促されて、瑞奈たちは温かい豚汁を受け取る。
「ありがとうのう」
 嬉しそうにほおばった。

 夜の襲撃も考え、見張りを立てる。
 ムディルとザレムは特に何もなかったと、次のまりおとロニを起こす。
 静かな夜は更けていき、家の炎も収まったようだ。
「さて、次を起こすか」
 ロニとまりおはミオレスカと万歳丸にバトンを渡す。
 静かすぎて耳が痛くなりそうな夜だ。テントの周囲の寝息や服がずれる音が気持ちに休まる。
「……あれはっ」
 ミオレスカは暗い島を見つめる。明かりを持つ一人の女性の姿が見えた。
「あれが妖怪ってわけか?」
 万歳丸もじっと見る。人間が暮らせる環境ではないし、その形跡も見受けられなかった。
 暗くはっきりとしないが、小袖に長い袴、打掛を羽織っているように見える。赤い髪が見えるが、頭上には薄い小袖を乗せ顔を見せないようにしている。
 女の影は怒りからか、長い髪を舞わせ炎を吹き上げたように見えた。一瞬だけの出来事。
「……起こすか……」
 万歳丸はいう。ミオレスカが見張りをしている間に、次に起きる予定のボルディアと白亜を起こし、ひとまず様子を見る。
「あれがあそこの主ということか?」
 誰かに似ている気もしなくはなく、白亜は首を横に振った。
「あれだけのものを投げたって?」
 ボルディア自身、疑問形でつぶやく。投げる頻度が多かったため、複数いるか術を使うかのいずれかと思えた。
 朝になりこの事実を伝えたところ、三人の依頼主は驚愕する。
「まさかと思うが……あのお方が?」
「わからぬ、里人かもしれぬし、関係ない妖怪かもしれぬ」
「西からきていついたかもしれぬ」
 どれも、否定できない。
 どれも、肯定もできない。
 多くのモノが死に、長い間、人類側は近づいていなかったのだから。
 天ノ都までの道のりは、後ろ髪が引かれつつも、無言で素早かった。

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参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 冒険者
    雪継・白亜(ka5403
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 幻獣学者の同志
    ムディル(ka6175
    人間(紅)|27才|男性|霊闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ムディル(ka6175
人間(クリムゾンウェスト)|27才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/05/17 11:08:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/15 05:08:22