ゲスト
(ka0000)
闇は去りて光を繋げ
マスター:香月丈流

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2016/05/18 07:30
- 完成日
- 2016/06/01 00:09
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
テスカ教徒の巡礼に、北狄への侵攻、幻獣の森で起きた包囲網突破戦、遺跡を巡る龍種との攻防……王国暦1015年の末から現在まで、クリムゾンウエストでは様々な事件が起きた。その頻度は年々増加し、歪虚も凶暴化しているような気がする。
激闘に次ぐ激闘だが、覚醒者を中心に、国家や種族の垣根を超えて人類が協力。強敵や危機的状況も乗り越え、最善や最良の結果を残してきた。その内容は、誰もが知るところだろう。
しかし……忘れないで欲しい。
戦いの犠牲になるのは、常に『力無き民達』だという事を。
歪虚の侵攻により、大都市や町が戦場になる事も少なくない。避難誘導や救助は優先して行われるため、人的被害は最小限に抑えられているが、建造物への被害は確実に出ている。
加えて、市民への精神的ダメージも軽視できない。住み慣れた土地からの移住、戦争への恐怖、財産や家族を失う悲しみ……大規模作戦の裏で、市民達も『見えない敵』と戦っているのだ。
終わりの見えない、厳しい現実が続いているが、軍や覚醒者を恨んでいる者は少ない。時には混乱が起きたり、多少の愚痴を零す事はあるが、基本的には感謝の想いを抱いている。恐らく、自分達が『護られている』事を日頃から実感しているのだろう。
だからこそ……歪虚の強襲を受けても、彼らは希望や笑顔を失わない。前を向き、自分達の脚で進もうとしている。大戦の爪跡は各地に残っているが、その中の1つ。ゾンネンシュトラール帝国の地方都市では、大戦の傷跡を癒すために復興の作業員を増員していた。
「いやぁ、今日は良い天気だな! 絶好の仕事日和だぜ!」
抜けるような青空を見上げ、中年の男性が豪快に笑う。作業着姿で鉢巻きを締め、手には使い古したトンカチ。外見を見る限り、『熟練の大工』といった風格を纏っている。
彼以外にも、作業に来ている大工は多い。壊滅的な被害を受けた町を立て直すため、総力を挙げて家屋の修復を急いでいた。
が……状況を見る限り、作業が進んでいるとは言い難いようだ。修復した家屋は半分程度だし、道路等の整備も終わっていない。それどころか、瓦礫や残骸が残っている場所まである。
「なぁ……『今度は』大丈夫だよな?」
「そう思いたいですね。あんなのは二度とゴメンですし」
壊れた建材を運び出しながら、青年達が苦笑いを零した。作業の進み具合が遅い事には、理由がいくつかある。歪虚の侵攻が予想以上に激しかった事、被害が大きいため資材や人手が充分に確保できない事、皇帝の失脚により内政が滞っていた事、などなど。
最大の原因は……『無粋な破壊者』の存在だろう。やつらは大地を踏み鳴らし、集団で現れる。そして、人々の頑張りを嘲笑うように全てを破壊していく。
例え、それが復興途中の町だとしても。
「この地響きは……?」
鳴り響く大地と、大勢の足音に気付き、作業員の1人が声を上げた。脳裏に浮かぶ、苦い思い出……ようやく建て直した建築物が、無残に破壊されていく光景。
「同じだ……『この前』と!」
この町は、2度死んでいる。最初は、大規模作戦で壊滅した時。その後、戦況が落ち着いてから復興を始めたが、突然『破壊者』が現れて全てを壊してしまった。
それでも、人々は絶望に屈する事なく立ち上がったのだが……。
「アイツらが来たんだ!!」
恐怖と絶望が、人々の心を塗り潰していく。望まれない来訪者達が、彼らの視界に飛び込んできた。
血肉を持たない、動く人骨の集団。歪虚化した影響なのか、体長は2mを超えている。手には錆びた大斧や大槌を持ち、町に迫っていた。
『うわぁぁぁ!!』
白昼の悪夢を目の当りにし、人々が悲鳴を上げる。そんな事は一切気にせず、骸骨達は斧や槌を振り下ろした。
修復中の建物や、建て直している家屋『だけを』狙って。
前回、骸骨の集団が現れた時も、そうだった。やつらは決して人を襲わない。建物だけを狙い、復興中の町を蹂躙していく。
恐らく、人の命を奪うよりも、物を破壊する方が楽しいのだろう。結果として、それが不安や絶望を煽って『生きる希望』を奪っている。苦しみが長く続き、真綿で首を絞めるような状況になっている。
一時間もしないうちに、骸骨達は町から去って行った。残されたのは大量の残骸と……希望を失った作業員達。誰もが力無く地面に座り、涙を浮かべている。
「また……また1から作り直しかよ!」
絞り出すように、1人が叫ぶ。最初に骸骨が襲ってきた時、人々は怪我をしなかった事を喜んだ。2度も襲ってくるとは、夢にも思わなかった。
いや……頭の片隅では、その可能性も考えていたかもしれない。考えていたが、町は自分達の手で建て直したかった。歪虚や絶望に、負けたくなかったのだ。
今度こそ、彼らの心は折れてしまった。何かを頼るように、ギルドに助けを求めても、責める者は居ないだろう。
激闘に次ぐ激闘だが、覚醒者を中心に、国家や種族の垣根を超えて人類が協力。強敵や危機的状況も乗り越え、最善や最良の結果を残してきた。その内容は、誰もが知るところだろう。
しかし……忘れないで欲しい。
戦いの犠牲になるのは、常に『力無き民達』だという事を。
歪虚の侵攻により、大都市や町が戦場になる事も少なくない。避難誘導や救助は優先して行われるため、人的被害は最小限に抑えられているが、建造物への被害は確実に出ている。
加えて、市民への精神的ダメージも軽視できない。住み慣れた土地からの移住、戦争への恐怖、財産や家族を失う悲しみ……大規模作戦の裏で、市民達も『見えない敵』と戦っているのだ。
終わりの見えない、厳しい現実が続いているが、軍や覚醒者を恨んでいる者は少ない。時には混乱が起きたり、多少の愚痴を零す事はあるが、基本的には感謝の想いを抱いている。恐らく、自分達が『護られている』事を日頃から実感しているのだろう。
だからこそ……歪虚の強襲を受けても、彼らは希望や笑顔を失わない。前を向き、自分達の脚で進もうとしている。大戦の爪跡は各地に残っているが、その中の1つ。ゾンネンシュトラール帝国の地方都市では、大戦の傷跡を癒すために復興の作業員を増員していた。
「いやぁ、今日は良い天気だな! 絶好の仕事日和だぜ!」
抜けるような青空を見上げ、中年の男性が豪快に笑う。作業着姿で鉢巻きを締め、手には使い古したトンカチ。外見を見る限り、『熟練の大工』といった風格を纏っている。
彼以外にも、作業に来ている大工は多い。壊滅的な被害を受けた町を立て直すため、総力を挙げて家屋の修復を急いでいた。
が……状況を見る限り、作業が進んでいるとは言い難いようだ。修復した家屋は半分程度だし、道路等の整備も終わっていない。それどころか、瓦礫や残骸が残っている場所まである。
「なぁ……『今度は』大丈夫だよな?」
「そう思いたいですね。あんなのは二度とゴメンですし」
壊れた建材を運び出しながら、青年達が苦笑いを零した。作業の進み具合が遅い事には、理由がいくつかある。歪虚の侵攻が予想以上に激しかった事、被害が大きいため資材や人手が充分に確保できない事、皇帝の失脚により内政が滞っていた事、などなど。
最大の原因は……『無粋な破壊者』の存在だろう。やつらは大地を踏み鳴らし、集団で現れる。そして、人々の頑張りを嘲笑うように全てを破壊していく。
例え、それが復興途中の町だとしても。
「この地響きは……?」
鳴り響く大地と、大勢の足音に気付き、作業員の1人が声を上げた。脳裏に浮かぶ、苦い思い出……ようやく建て直した建築物が、無残に破壊されていく光景。
「同じだ……『この前』と!」
この町は、2度死んでいる。最初は、大規模作戦で壊滅した時。その後、戦況が落ち着いてから復興を始めたが、突然『破壊者』が現れて全てを壊してしまった。
それでも、人々は絶望に屈する事なく立ち上がったのだが……。
「アイツらが来たんだ!!」
恐怖と絶望が、人々の心を塗り潰していく。望まれない来訪者達が、彼らの視界に飛び込んできた。
血肉を持たない、動く人骨の集団。歪虚化した影響なのか、体長は2mを超えている。手には錆びた大斧や大槌を持ち、町に迫っていた。
『うわぁぁぁ!!』
白昼の悪夢を目の当りにし、人々が悲鳴を上げる。そんな事は一切気にせず、骸骨達は斧や槌を振り下ろした。
修復中の建物や、建て直している家屋『だけを』狙って。
前回、骸骨の集団が現れた時も、そうだった。やつらは決して人を襲わない。建物だけを狙い、復興中の町を蹂躙していく。
恐らく、人の命を奪うよりも、物を破壊する方が楽しいのだろう。結果として、それが不安や絶望を煽って『生きる希望』を奪っている。苦しみが長く続き、真綿で首を絞めるような状況になっている。
一時間もしないうちに、骸骨達は町から去って行った。残されたのは大量の残骸と……希望を失った作業員達。誰もが力無く地面に座り、涙を浮かべている。
「また……また1から作り直しかよ!」
絞り出すように、1人が叫ぶ。最初に骸骨が襲ってきた時、人々は怪我をしなかった事を喜んだ。2度も襲ってくるとは、夢にも思わなかった。
いや……頭の片隅では、その可能性も考えていたかもしれない。考えていたが、町は自分達の手で建て直したかった。歪虚や絶望に、負けたくなかったのだ。
今度こそ、彼らの心は折れてしまった。何かを頼るように、ギルドに助けを求めても、責める者は居ないだろう。
リプレイ本文
●
今のご時世、荒れた大地や壊れた家屋を目にするのは珍しくない。歪虚の突発的な強襲を受けているため、見慣れた光景と化している。
「こういう場所を見ると、嫌でも実感するねぇ……『壊すのはいとも容易く、作り直すのはとても難しい』って事を」
破壊の爪痕を遠目に見ながら、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は髪を結い直している。赤い長髪をリボンで纏め、ポニーテールのように後頭部に垂らした。
彼らが居るのは、町から北に1km程度進んだ位場所。今回の雑魔は北方から現れるため、町の外に防衛線を展開して殲滅する作戦である。
「歪虚ってのは、大抵趣味の悪い連中だが……この手の輩は一番ムカつくね。他人様の希望を手折るたぁ見下げた野郎共だ」
普段はノリの軽いカッツ・ランツクネヒト(ka5177)だが、今日は本気モード。軽薄な表情はナリを潜め、金色の双眸が怒りに燃えている。
「タチが悪いな。悲劇を繰り返さないため、職人達を危険に晒さないためにも、徹底的に始末したいものだ」
カッツとは対照的に、鞍馬 真(ka5819)は沈着冷静。淡々とした口調は冷たい印象を与えるが、内心では人々を守るために闘志を燃やしていた。
「ああ。町の人に元気を取り戻すためにもな!」
拳を握り、力強く叫ぶ岩井崎 旭(ka0234)。想いのこもった言葉は、火傷しようなくらいに熱い。依頼の話を聞いた瞬間から、彼の決意は固まっていた。
雑魔の度重なる強襲で、住民達は『心が折れた』と語っていたが、旭の意見は違う。町の人々はハンターに助けを求めたが、『町を諦めない』という選択をしたのだ。その想いに、覚悟に、応えないワケにはいかない。
「相手は無粋な雑魔だ。遠慮なくブン殴って、早々に退場してもらおう」
歪虚に襲撃されても、復興を果たした街は数多い。タラサ=ドラッフェ(ka5001)の故郷もその1つであり、彼女自身も歪虚に肉親と右目を奪われている。だからこそ……復興の大切さや大変さが分かっているのだろう。
誰もが警戒心を強める中、彼らの五感が異常を感じ始めていた。緊張感を増す空気に、肌を刺すような殺意。遠くから聞こえてくる、不気味で耳障りな足音。そして、視界に映る異形の姿。大斧や大槌を携えた、骸骨の集団。
「おー、来たみたいですねー。いち、にー、さん……10体くらいでしょうかー」
雑魔の姿を確認し、葛音 水月(ka1895)はほんの少しだけ笑みを浮かべた。と同時に全身のマテリアルを活性化させると、黒猫のような耳と尻尾が生えてきた。
その状態で、水月はマテリアルを脚部に集中。黒い影を残しつつ、加速して敵の集団に突撃していく。
ほぼ同時に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は扇を持った手を軽く振った。
「冷たき女王の腕。包む御手より舞うは氷華。想いの槍に貫かれ、大地に脚を結ぶが良い」
力ある言葉と反応し、一定範囲内の温度が急降下。冷やされた空気が冷気の嵐と化し、華のように広がって敵の集団を飲み込んだ。強烈な吹雪が全身を叩き、手足に氷が纏わり付いていく。
動きの鈍った敵に狙いを定め、水月が嬉々とした笑顔を浮かべて懐に飛び込む。重く硬い刀を細身の体で軽々と振り上げ、渾身の力を込めて振り下ろした。
斬っているのか、叩き砕いているのか分からない一撃が、骸骨を易々と縦に両断。そこから体を半回転させるように捻り、追撃の薙ぎ払いで雑魔を完全に斬り砕いた。
骨の欠片が宙を舞う中、旭はゴースロンのシーザーと共に疾走。マテリアルと共に自身の獣性を開放すると、上半身が羽毛に覆われてミミズクのような姿に変化した。
そのまま、旭は巨大なハルバードを振り回す。銀色の斧刃が閃光の如く奔り、まるで豆腐でも切るように雑魔の全身をバラバラに斬り裂いた。
仲間が立て続けに倒されても、骸骨達は止まらない。骨を揺らし、カタカタと歯を鳴らし、少しずつ前進している。
敵の足を止めるため、真は魔導拳銃剣を構えた。鋭い黒眼が一瞬だけ金色の輝きを放ち、雑魔の足元を狙い撃つ。弾丸が雨のように降り注ぎ、地面に無数の穴を穿って骸骨達の進行を遅らせた。
更に、星野 ハナ(ka5852)は敵の足元を泥に変えて移動を阻害。その隙に素早く複数の符を取り出し、結界を張って敵の1体を閉じ込めた。
間髪入れずにマテリアルを送り込むと、結界内部で光の奔流が発生。圧倒的な輝きが骸骨の全身を焼き焦がし、邪悪を浄化するように一瞬で焦滅させた。
「この程度の歪虚で街を襲おうとか、舐めまくりですぅ~ムカつきますぅ。素直にブッコロされちゃってくださいぃ」
骸骨達の弱さに、ハナはご立腹のようだ。頬をプクッと膨らませ、ぶりっ子のように怒りを表現している。可愛らしい見た目とは裏腹に、発言自体は過激だが。
足止めされた雑魔達に向かって、前衛担当のハンター達が押し寄せる。アルスレーテ・フュラー(ka6148)は戦馬に跨って大地を駆け、敵を射程に収めた。
「ひたすら近付いて攻撃……シンプルで良いわね」
銀色の長髪を揺らしながら、鉄扇を持つ手に力を籠める。緑色の瞳が蒼く染まると、鉄扇を閉じて棍のように突き出した。手首を捻り、抉るような力を加えた一撃。鋭く打ち落とされた刺突が敵の頭蓋骨と肩を砕き、亀裂が全身に広がって砕け散った。
その隣を、フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)が駆け抜ける。狂気にも似た笑顔を浮かべ、楽しそうな様子で。
敵との距離を一気に詰め、試作雷撃刀を奔らせる。狙い澄ました斬撃が骸骨の左肘に命中し、骨を叩き斬って欠片が周囲に舞い散った。
反撃とばかりに、隻腕の骸骨が大斧を振り回す。フェイルはその動きに集中し、ダンスのような大きな動きで斬撃を回避。間合いを少し開け、武器を構え直した。
「ちょっときみ、トロ過ぎない? 戦場での判断ミスはぁ~命取りってね♪ だから……」
言葉を切ったフェイルの瞳が、暗く赤い光を放つ。地面を強く蹴り、獲物を狙う獣のように雑魔に飛び掛かった。
「刈りとってやるよ」
淡々とした、冷たい一言。これが、普段のフェイルの口調であり、戦闘中は意図的にテンションを上げている。彼の動きに合わせ、背後から『影色をした手』の幻影が出現。まるで死者を地獄へ引きずり落とすかの如く、ワラワラと纏わり付いている。
幻影の手と共に、フェイルは武器を一閃。雑草でも刈るように頭部を斬り飛ばし、残った胴体には斬撃を連続で叩き込む。数秒もしないうちに、骸骨の体は粉々に斬り裂かれた。
正面から攻める仲間達とは別に、ヒースは敵の側面から接近。相手をかく乱するような動きから魔導槍を構え、鋭く突き出した。漆黒の槍先が空を切り、吸い込まれるように胸骨を貫通。その衝撃が一瞬で全身に広がり、骨が音を立ててボロボロと崩れ落ちた。
残った敵の集団に、月雲 夜汐(ka5780)が飛び込む。彼女の狙いは、自身を囮にする事。敢えて無防備な姿を晒し、狙ってきた敵の攻撃は舞い踊るように回避している。
「此方ですよ、ほらほら。よそ見は……なりませぬよ?」
白い短髪を揺らしながら、敵を挑発する夜汐。回避から大きく踏み込んで懐に潜り込み、三日月のような刀を鋭く薙いだ。剣閃が弧を描き、雑魔の両脚を砕く。
バランスを崩して倒れこむ骸骨を狙い、丑(ka4498)が駆け込んだ。
「さて。名実共に『礎』になってもらいましょうか」
戦闘中の真面目な顔を見られるのは恥ずかしいらしく、布を被って表情は隠している。が、その隙間から覗く灰色の瞳は、まるで猛き獣。マテリアルを開放させて強く踏み込むと、地面に水墨のような波紋が広がった。
太刀を握る手に力を籠め、首を狙って抜刀。鋭い斬撃が頸椎を正確に両断し、残りの骨は地面に落下して粉々に砕け散った。
「危ねぇ?! うわぁ危ねぇ?!」
男のような話し方で雑魔の攻撃を避けているのは、西空 晴香(ka4087)。釣り目でサメのような鋭い歯をしているが、緑の長髪を大きなリボンでポニーテールにしている。
骸骨が放つ大槌を紙一重で回避しているが、その動きは立体的で捉えるのが難しい。敵が大振りになった隙を狙い、静香は素早く苦無を投げ放った。小振りな刃が膝に突き刺さり、骨を砕いてバランスが崩れる。
片足になって倒れながらも、雑魔はその勢いを利用して大斧を振り下ろした。狙いは静香……ではなく、近くに居たカッツ。
予想外の攻撃に対し、カッツはマテリアルを駆使して敵の側面に回り込む。斧刃が黒髪を掠めて髪が舞い散る中、お返しとばかりに直剣を滑らせた。幅広の刀身が斜めに奔り、骨を叩き折るように斬り裂いていく。剣を振り抜いた時、雑魔は動かない骨となって地面に転がっていた。
「さあ……どっちの一撃がより重いか、力比べといこうじゃないか!」
大槌を持つ雑魔に向かって、タラサが真正面から勝負を挑む。燃え上がる闘志に呼応するように、橙色の長髪が赤く変色。ほんの数秒で真紅に変わった。
その状態で、タラサは斧を構えて全力で振り下ろす。命中力度外視の一撃が、雑魔に迫る。
骸骨は大斧を盾代わりに掲げたが、そんなモノは関係ない。渾身の攻撃が武器ごと敵の体を叩き割り、残骸と骨の欠片が周囲に散らばった。
これで、倒した数は9体。最後の1体を倒すため、蜜鈴は煙管の先端を骸骨に向けた。そこから種子のような雷玉が生まれ、轟音と共に芽吹いて茨のような雷光が奔る。幾筋もの雷撃が敵に殺到し、全身を貫通して一瞬で消え去った。残ったのは、力尽きた骸骨の残骸のみ。
「もう終わりですかー。正直、弱過ぎて拍子抜けですね」
周囲を見渡しながら、水月が残念そうに言葉を漏らす。戦う事を喜びとしている彼にとって、歯応えのない敵では物足りないのだろう。
「いや……まだ終わりじゃない。残念だけど、な」
言いながら、真は北方に視線を向けた。黒眼が見詰める先に在るのは……蠢く異形達の影。殺意や敵意を隠す事なく、骸骨の群れが近付いてきている。恐らく……今倒した敵の、倍近い数の群れが。
「増援? 伏兵? まぁ、どっちでも良いか。バラバラにするんだし」
ハンター達の強さに危機を感じて増援が現れたのか、それとも10匹以上の雑魔が町を狙っていたのかは分からないが、フェイルには関係ない。『仕事なら倒す』、ただそれだけである。
骸骨が残っている以上、見逃す気は微塵も無い。ハンター達は武器を握り直し、骸骨の群れと向き合った。
●
雑魔の相手をしている者は多いが、今回の依頼に参加したハンターは、それで全員ではない。復興を手伝うため、数人の覚醒者が町を訪れていた。
「これが、帝都から遠く離れた場所の現実……この景色を忘れないようにしなきゃ」
高瀬 未悠(ka3199)の赤い双眸が、荒らされた大地を見渡す。クールで無表情な少女だが、町の惨状に心を痛めているのだろう。瞳の奥に、深い悲しみを湛えていた。
復興状況は最悪に近いが、ハンター達の協力を得られた事で人々の気持ちは上向きになっている。覚醒者と一緒に町を立て直すため、避難している住人の大半が作業現場に集まっていた。
「あ、あの……少ないですけど、少しでも皆さんの食料の足しになればと思って……受け取ってください」
人見知りの激しいレイ・アレス(ka4097)だが、頑張って気持ちを言葉にし、食糧を差し出す。彼が準備してきたのは、干し肉と魚の干物。量的に、避難者全員の一食分に満たないかもしれないが、保存の利く物を選んでくれた気配りと、食糧を準備してくれた気持ちは嬉しい。住人達はレイに礼を述べ、笑顔で食糧を受け取った。
「私たちにできることは限られています。だからこそ……できることを精一杯しなければなりませんね」
町と人々の状況を確認し、決意を言葉にするシャルロット・ウォーカー(ka6139)。人として、ハンターとして、自分にやれる事があれば協力を惜しむ気は無い。加えて、彼女は女医。医師としての立場から、他の参加者とは違う方法で住人達を助ける事もできるだろう。
「ああ、その通りだ。加えて、先を見て行動せねばな」
シャルロットに同意しながら、明王院 蔵人(ka5737)は図面に筆を走らせていた。彼は現地の状況を目で確認し、復興に最適な建築手法を提案。実際に図面を引き、町の建築技師に蒼界の技術を伝えようとしていた。
蔵人の言う『先』とは、ハンター達の支援が終わった後の事。自分達が居なくなっても復興が順調に進むよう、出来る限りの物を残したいのだろう。ちなみに、使用する木材は既に手配済みである。
「なら、オレは作業員達のサポートに回ろう。黒子に徹して、影から皆を支えるさ」
歌劇のような口調で話し、蒼い髪を掻き上げるルーン・ルン(ka6243)。細身の体を舞台男優のような衣服で包み、睫毛は長く顔立ちは整っている。住民女性から黄色い声が漏れているが……ルーンの性別は、女性。つまりは、男装の麗人だったりする。
蔵人と技師達の話が終わる頃合いを見計らい、エイル・メヌエット(ka2807)は1枚の紙を差し出した。
「良かったら、これを使って。避難した住民の話を元に、私と遥華さんで地図を作ってみたわ」
彼女と央崎 遥華(ka5644)は、事前に住人達から情報を集めていた。エイルは区画整理と、住人達が残した貴重品を探すために。遥華は町を破壊前の姿に戻すため、建物の場所や種類を聞いて回った。
互いに目的は違ったが、目指していた物は同じ。2人は自分達が得た情報を纏め、1枚の地図を作り上げたのだ。そこには、当時の区画配置や建物が細かく記されている。完全に再現する事は難しいかもしれないが、復興の指標になる事は間違いない。
技師達は2人に礼を述べ、早速作業に取り掛かった。集まった住人やハンター達を仕事別で班に分け、指示を飛ばしている。
「整地をするなら、私にも手伝わせて下さい。こんなナリですが、邪魔はしませんよ」
力仕事への参加を希望したマーオ・ラルカイム(ka5475)だが……その口調は、丁寧ながらも冷たい。まるで熱を失ったように、淡々としている。
上流階級紳士のように綺麗な衣服を纏っているため、土で汚れる整地作業は向いていないのだが、本人は微塵も気にしていない。泥で汚れようが、残骸で破けようが……少しでも住人達の苦しみを癒せるなら、彼は黙々と作業を続けるだろう。本来、心根は優しい男なのだから。
復興の手順も決まり、住人達が元気良く動き始めた。作業に必要な荷車や槌等の道具は、レイと蔵人が手配した物を使用。崩れそうな土台や柱は撤去し、瓦礫や残骸は町の外まで運び出していく。
(今、私にできることを。『今』を未来に繋げるために……)
自分に言い聞かせるように心の中で呟き、瓦礫運搬用の通路を確保する遥華。別件の仕事に参加した際、自身の『ハンターとしての覚悟と力量』が足りていないと思ったらしく、少々元気がない。それを周りに気付かれないよう気丈に振る舞い、作業員達の事を気に掛けている。
「待って、その柱は後回しよ。触るなら最後でないと、危ないと思うわ」
倒壊寸前の柱に触れようとした住民達を、マリィア・バルデス(ka5848)が制した。崩れるという確証や自信は無いが、彼女は元軍人。その時の経験から、直感的に危機を察したのだろう。
マリィアの意見に従い、住人達が周りから残骸を片付けていく。作業中、柱が何度か大きく揺れ、彼女の勘が当たった事を物語っていた。
ハンター達の役目は、整地や建築だけではない。住人達のケアや知識を伝える事も必要だと考え、ディーナ・フェルミ(ka5843)は子供達を集めて青空教室を開いていた。
「野生動物に無暗に触るのは、危険なの。食べる時も部位が重要で……」
普通の勉強も大事だが、今の世界情勢を考えたら、サバイバル知識も必要になる。何があっても『生き残って欲しい』という想いで、彼女は授業をしているのかもしれない。自分達と歳の近いディーナの言葉に、子供達は真剣に耳を傾けている。
少しずつだが確実に作業が進む中、北風に乗って激しい物音が聞こえてきた。聞き慣れない音に、作業員達の手が止まる。その音が何なのか……ハンター達には分かっていた。
「どうやら、戦闘が始まったみたいね……」
北に視線を向け、未悠が静かに呟く。聴覚を研ぎ澄ませている彼女には、戦闘の状況がハッキリと分かっていた。万が一、町まで雑魔が侵入してきたら、身を挺してでも作業員を守る覚悟は出来ている。
「今、大事な仕事中なのが分からないのかしら? これだから骨ってやぁね」
溜息混じりの言葉を吐きながらも、ケイ(ka4032)は根菜を刻む手を止めない。『腹が減っては戦ができぬ』、作業員達をサポートするため、彼女は炊き出しを担当していた。
作ろうとしているのは、スイトンとレモン水。大量の根菜を大鍋にドバッと入れ、出汁で煮込む。その間に、樽に薄切りのレモンと水を入れ、ハチミツで味を調えている。
醤油と出汁の良い香りが周囲に広がっているが、住人の大半はそれを嗅いでいる余裕は無い。遠く離れているとはいえ、雑魔が現れた事で不安と恐怖が心を埋め尽くしていた。
不安そうな住人の手を、レイが優しく包む。
「大丈夫です。皆さんは僕達が守りますから、心配いりませんよ」
人と話すのは苦手だが、今のレイは堂々としている。その落ち着いた様子は、とても10歳の少年とは思えない。『作業員達を守りたい』という想いが、彼を支えているのだろう。
「恐れる事など無いさ。オレ達ハンターは、平和の使者なのだから!」
身振り手振りを加え、ルーンが自身に満ちた言葉を口にする。まるで劇の1シーンのようだが、強気な発言の方が住人達も心強いのだろう。少しだけ、笑顔が戻っている。
「希望の芽は潰させたりしないわ……絶対に。だから、一緒に町を建て直しましょう?」
優しく語り掛け、人々を励ますエイル。彼女の目的は、町だけでなく住人達の『心』も復興する事。不安そうな人達を、緑の瞳が優しく見守っていた。支援体質な事もあり、弱っている者を見捨てておけないのかもしれない。
「お待たせ~。きっちり栄養と水分とって、キビキビ働きなさい野郎共」
若干重くなった空気を吹き飛ばすように、ケイの明るい声が周囲に響いた。暗い気分を変えるには、美味しい食事も効果的である。ケイが器にスイトンを盛ると、ルーンがそれを作業者達に配膳。全員に行き渡ると、早めの昼食が始まった。
戦闘中という事もあり、最初は住人達も怖がっていたが、今は『ハンターが一緒に居る』という安心感が勝っている。彼らが復興支援に来た事も、レイやエイルが励ました事も、決して無駄ではなかったようだ。
だが……中には、食事が手につかない者も数人居る。恐らく、歪虚や合戦の恐怖が忘れられないのだろう。幼い子供や、女性なら尚更に。
その気持ちを理解したのか、遥華は怯える少女を優しく抱きしめた。
「今は……今だけは、甘えても良いんですよ。私に出来る事があれば、遠慮せずに言って下さい」
言葉と共に柔らかく微笑み、そっと頭を撫でる。避難生活はストレスが溜まりやすいし、親を亡くした子供も居るかもしれない。年下の子供達のために、遥華は少しでも役に立ちたいのだ。
彼女の想いが通じたのか、少女は遥華に抱きついて顔を埋めた。細かく肩が震えているのは、泣いているからだろう。遥華が周りの子達に笑顔を向けると、1人、また1人と、遥華に抱きついた。
「辛い時こそ、笑顔でいるのが大事かもしれない。でも……ちゃんと泣く事も必要だと思うの。思い切り泣いたら、また前に進めるわ」
遥華の隣では、未悠も励ましの言葉を掛けている。静かに手を伸ばして少年の頭を撫でると、両目から大粒の涙が零れ落ちた。
泣くのは悪い事ではない。我慢して気持ちを腐らせるよりは、思い切り発散した方が前に進める。この少年も、未悠の激励で大きく進めるに違いない。
そして、子供達を泣かせないために、大人達も奮闘する。励ましの言葉は伝播し、町の雰囲気が上向きだした。
(心への『薬』は大丈夫みたいですね。体調や衛生管理用の薬は、若干不足しているようですが……)
周囲の状況を確認し、シャルロットは複雑な笑みを浮かべた。人々の心理的ケアや食糧は充分だが、医薬品が足りていない。このままでは、基本的な治療や衛生管理が難しくなるだろう。多少は医薬品を持ってきたが、それだけでは足りない。シャルロットは今後の薬品確保のため、必要な物を紙に書き始めた。
●
ハナの符術が泥を生み出し、骸骨達の脚を止めて動きを鈍らせる。その隙を突くように、丑が一気に距離を詰めて斬撃を放った。精密な一撃が、敵の背骨を両断して骨を残骸に化す。
次いで、緑の疾風が吹き抜けた。風の正体は、高速移動している晴香。移動速度を短刀に上乗せし、鋭く振り抜く。剣閃が雑魔達の膝を次々に砕き、完全に移動を封じた。
戦闘担当のハンター達は骸骨の第2波と交戦中だが、取り乱している者は1人も居ない。目の前の敵を殲滅するため、互いに協力し合っている。
取り乱すどころか……逆に、喜んでいる者が数人。
「お前たちの本能が壊せ、殺せと叫んでいるのかなぁ? だとしたら……ボクらは似た者同士」
冷たい笑みを浮かべ、骸骨に立ち向かうヒース。その両脚から、血色のオーラが翼状に放出されている。
「似た者同士、殺し踊り合うのも一興さぁ」
槍が躍るように宙を奔り、骸骨を縦に斬り裂く。敵を壊し殺す事に、ヒースは微塵の躊躇いも無い。自ら戦い続ける道を選び、罪も罰も背負う覚悟は済ませている。敵を完全に破壊するため、ヒースは槍を振り回した。
水月は刀を両手で握り、戦場を駆け回っている。口元には笑みを浮かべ、まるで無邪気な子供がオモチャを壊すように雑魔を切断。心の底から、戦いを楽しんでいるかのようだ。
「ウォーカー様、葛音様。くれぐれも、ご無理はなさりませぬよう……」
ヒースの水月の言動に危うさを感じたのか、夜汐が注意を促す。彼女の言葉が届いたか分からないが……今は戦闘中。それを確認している余裕は無い。
夜汐は脚を破壊された雑魔に狙いを定め、マテリアルを込めて刀を奔らせた。三日月の刃が敵に触れた瞬間、マテリアルが一気に炸裂。衝撃と斬撃が一気に押し寄せ、骸骨を1体、完全に粉砕した。
彼女の後に続くように、フェイルが駆け込む。狂気的な笑顔を浮かべたまま連続で刀を振り、肩や肘といった大きな関節を次々に砕いて雑魔のバラバラに分解した。
更に、真は魔導拳銃剣を直剣モードに変換し、鋭い踏み込みから刃を薙ぎ払う。切っ先が半月を描き、足止めされた雑魔達を直撃。力強い斬撃が頭部や背骨を斬り裂き、敵を単なる骨に還した。
「同じ作業を何度もやらせるんじゃないわよ、めんどくさい連中ね……」
苛立ちをぶつけるかの如く、アルスレーテが鉄扇を突き出す。普段なら歪虚に関して無関心だが、今回の雑魔には怒りを覚えているようだ。螺旋を描く刺突が骸骨の胸骨を背骨ごと砕き、その命と骨の欠片が舞い散った。
「人の最たるは『心よりの笑顔』じゃ。悲しみと絶望の涙しか齎さぬおんし等に、慈悲は無い」
比較的温厚な蜜鈴も、今日ばかりは怒りの言葉を口にしている。その心情を表すように、鉄扇と煙管から雷光の茨が奔った。溢れる電撃が雑魔を焦がし、力尽きるまで焼き尽くす。
「今回は、ちょいとマジでね。てめえら全員、次の朝日を拝めると思うなよ……!」
言うが早いか、カッツは直剣の他に短剣を構えた。大小2本の武器を逆手に構え、雑魔を斬り刻む。奔る剣閃が骨を寸断し、細かく砕いていく。彼の両手が止まった時、骸骨は地獄へと送り返された。
ここまで徹底的に倒されても、残った雑魔は闘志を失っていない。1体の骸骨が大斧を両手で握り、ヤケクソ気味に派手に振り回した。
タラサは迫り来る斧刃をしゃがんで避け、態勢を低くしたまま大きく踏み込む。下から斧を振り上げ、攻撃が命中する直前にマテリアルを開放。強烈な衝撃が全身を駆け回り、一瞬で亀裂が走って派手に砕け散った。
「てめぇで最後だ! 住人達の悲しみと怒りを思い知れ!」
吠える旭の言葉通り、残された骸骨は、あと1体。戦いに終止符を打つため、彼は馬を走らせた。加速しながら両手で槍を構え、マテリアルを込める。敵を射程に収めると、旭はそれを開放した。
巨大な槍が高速で宙を駆け、大気が渦を巻く。烈風と化した槍撃が連続で突き刺さり、抉るような傷跡を穿った。その速さと力強さは、まるで小型の嵐。風の牙が骸骨を喰い散らし、全てを無に還した。
二度の襲撃を乗り越え、周囲を警戒するハンター達。三度目があるかと思ったが、敵が現れる気配は無い。ようやく、戦闘班は安堵の溜息を漏らした。
●
戦闘終了から数十分後。参加したハンター全員が、町に集まっていた。互いの状況を報告し合い、情報を共有している。
「一応、俺と真で見回りしてきたぜ。近くに怪しい物は無いから、安心してくれ!」
旭の報告を聞き、作業員達から歓声が湧き上がった。彼と真は、戦闘終了後に町の近隣を警戒。念のために、雑魔が侵攻してきた道を逆行し、骸骨の発生源や巣の有無を確認してきた。
結果は、聞いての通り。怪しい物は無かったし、マテリアルが減衰している地点もない。安全は確保されたと考えて、間違いないだろう。
「念のため、夜間の見回りくらいはさせて貰うわ。何か起きてからじゃ遅いし」
「私もお供しますぅ~。夜だろうと、小物に負ける気は有りませんよぅ」
万が一に備え、マリィアとハナが夜間警備を買って出る。雑魔は殲滅したが、危険が全く無いとは断言出来ない。ハンター達が居てくれたら心強いだろう。
2人の提案に、住人達は心の底から安心して満面の笑みを浮かべた。
「どうせ詰め寄られるなら、生身の女性が良いですよ。ねぇ、ケイさん?」
戦いが終わって『普段の姿』に戻った丑は、微笑みながらウインクを飛ばした。ケイは彼の言動に慣れているのか、軽く笑って手を振っている。
その対応で満足したのか、丑の視線が作業者の方に移動。『人と関わるのが好き』と本人は言っているが……灰色の瞳は、女性を探しているようにしか見えない。
「私達も復興を手伝おうか。こう見えても、力仕事には慣れてるしね」
提案しつつ、タラサは衣服の袖を捲り上げた。海商の家に生まれた彼女は、幼い頃から船に慣れ親しんでいる。船旅では力仕事が多いし、自然と鍛えられてきたようだ。
彼女同様、復興作業を手伝おうとしている戦闘メンバーは多い。今の状況なら、人手は何人いても邪魔にならない。それがハンターなら、尚更に。
「そうして貰えると助かる。戦闘まで任せたのに、すまんな」
申し訳なさそうに、蔵人が頭を下げた。復旧作業に参加してくれるのは嬉しいが、心苦しいという想いもあるようだ。もっとも、戦闘メンバーは全く気にしていないが。
早速、新たな人手も加わって作業が開始された。仕事内容に変わりは無いが、人員が増えた分だけ速度が上がっている。
サポート役のルーンは、瓦礫や残骸を分別。使えそうな物は町の中に保管し、その在庫が分かるようにリストも書いている。
晴香は住民に許可を貰い、骨の埋葬準備を進めていた。雑魔は敵だが、遺骨自体に罪は無い。誰の骨かは分からないが、野晒しには出来ない。町の隅に穴を掘り、回収した骨を静かに埋葬した。
「良き来世に恵まれますように……。」
一人呟き、静かに手を合わせる。簡素な墓ではあるが、埋葬された者達は感謝している気がする。
空が茜色に染まり始めた頃、町の中から全ての瓦礫が運び出された。区画の整理や整地も終わり、残った大仕事は建物の再建のみ。復興に向けて、大きな前進である。
「これは、私達からのプレゼントです。この町が、再び素敵な場所に戻るよう祈っております」
そう言ってマーオが取り出したのは、薔薇の種。まだ花壇も作っていないが、町に花が咲いていたら気分も明るくなる。マーオ自身も薔薇を育てているため、教えられる事も多いに違いない。
彼だけでなく、エイルと蜜鈴も種を持参している。3人は残骸の中から石やレンガを集め、町の一角に並べて簡易的な花壇を作成。住人達と一緒に種を植え、水を撒いた。
(綺麗に咲きますように。花も、皆の笑顔も……)
濡れた花壇を見詰め、想いを込めるエイル。植物が芽吹くように、希望も目を出して欲しい……そんな気持ちを感じ取ったのか、蜜鈴がエイルの肩を優しく叩いた。
「人と共に育つ命じゃ……笑顔の様に咲きよるじゃろう」
慰めや気休めではなく、蜜鈴自身もそう信じている。この花が咲く頃には、蘇った町にたくさんの笑顔が溢れていると。その光景を頭に描き、エイルと蜜鈴は顔を合わせて微笑んだ。
「ここも、笑い絶えぬ平和な村に戻れますでしょうか……」
仲間や住人達から離れ、不安を口にする夜汐。彼女自身、町の復興を心から望んでいる。だからこそ……再び笑顔が奪われる事を案じていた。
「信じましょう。人々が積み重ねてきたものと……明るい未来を」
不意に声を掛けてきたのは、ディーナ。いつの間にか、彼女は夜汐の隣に立っていた。町の様子を一望できる、この場所に。
1歩1歩は小さくても、踏み出せば必ず前に進む。例え町が壊されても、住人達が積み重ねてきた物は壊れない。彼らの進む先は、きっと未来に繋がっているのだから。
復興途中の町には一足先に笑顔が咲き、空には星が輝き始めていた。
今のご時世、荒れた大地や壊れた家屋を目にするのは珍しくない。歪虚の突発的な強襲を受けているため、見慣れた光景と化している。
「こういう場所を見ると、嫌でも実感するねぇ……『壊すのはいとも容易く、作り直すのはとても難しい』って事を」
破壊の爪痕を遠目に見ながら、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は髪を結い直している。赤い長髪をリボンで纏め、ポニーテールのように後頭部に垂らした。
彼らが居るのは、町から北に1km程度進んだ位場所。今回の雑魔は北方から現れるため、町の外に防衛線を展開して殲滅する作戦である。
「歪虚ってのは、大抵趣味の悪い連中だが……この手の輩は一番ムカつくね。他人様の希望を手折るたぁ見下げた野郎共だ」
普段はノリの軽いカッツ・ランツクネヒト(ka5177)だが、今日は本気モード。軽薄な表情はナリを潜め、金色の双眸が怒りに燃えている。
「タチが悪いな。悲劇を繰り返さないため、職人達を危険に晒さないためにも、徹底的に始末したいものだ」
カッツとは対照的に、鞍馬 真(ka5819)は沈着冷静。淡々とした口調は冷たい印象を与えるが、内心では人々を守るために闘志を燃やしていた。
「ああ。町の人に元気を取り戻すためにもな!」
拳を握り、力強く叫ぶ岩井崎 旭(ka0234)。想いのこもった言葉は、火傷しようなくらいに熱い。依頼の話を聞いた瞬間から、彼の決意は固まっていた。
雑魔の度重なる強襲で、住民達は『心が折れた』と語っていたが、旭の意見は違う。町の人々はハンターに助けを求めたが、『町を諦めない』という選択をしたのだ。その想いに、覚悟に、応えないワケにはいかない。
「相手は無粋な雑魔だ。遠慮なくブン殴って、早々に退場してもらおう」
歪虚に襲撃されても、復興を果たした街は数多い。タラサ=ドラッフェ(ka5001)の故郷もその1つであり、彼女自身も歪虚に肉親と右目を奪われている。だからこそ……復興の大切さや大変さが分かっているのだろう。
誰もが警戒心を強める中、彼らの五感が異常を感じ始めていた。緊張感を増す空気に、肌を刺すような殺意。遠くから聞こえてくる、不気味で耳障りな足音。そして、視界に映る異形の姿。大斧や大槌を携えた、骸骨の集団。
「おー、来たみたいですねー。いち、にー、さん……10体くらいでしょうかー」
雑魔の姿を確認し、葛音 水月(ka1895)はほんの少しだけ笑みを浮かべた。と同時に全身のマテリアルを活性化させると、黒猫のような耳と尻尾が生えてきた。
その状態で、水月はマテリアルを脚部に集中。黒い影を残しつつ、加速して敵の集団に突撃していく。
ほぼ同時に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は扇を持った手を軽く振った。
「冷たき女王の腕。包む御手より舞うは氷華。想いの槍に貫かれ、大地に脚を結ぶが良い」
力ある言葉と反応し、一定範囲内の温度が急降下。冷やされた空気が冷気の嵐と化し、華のように広がって敵の集団を飲み込んだ。強烈な吹雪が全身を叩き、手足に氷が纏わり付いていく。
動きの鈍った敵に狙いを定め、水月が嬉々とした笑顔を浮かべて懐に飛び込む。重く硬い刀を細身の体で軽々と振り上げ、渾身の力を込めて振り下ろした。
斬っているのか、叩き砕いているのか分からない一撃が、骸骨を易々と縦に両断。そこから体を半回転させるように捻り、追撃の薙ぎ払いで雑魔を完全に斬り砕いた。
骨の欠片が宙を舞う中、旭はゴースロンのシーザーと共に疾走。マテリアルと共に自身の獣性を開放すると、上半身が羽毛に覆われてミミズクのような姿に変化した。
そのまま、旭は巨大なハルバードを振り回す。銀色の斧刃が閃光の如く奔り、まるで豆腐でも切るように雑魔の全身をバラバラに斬り裂いた。
仲間が立て続けに倒されても、骸骨達は止まらない。骨を揺らし、カタカタと歯を鳴らし、少しずつ前進している。
敵の足を止めるため、真は魔導拳銃剣を構えた。鋭い黒眼が一瞬だけ金色の輝きを放ち、雑魔の足元を狙い撃つ。弾丸が雨のように降り注ぎ、地面に無数の穴を穿って骸骨達の進行を遅らせた。
更に、星野 ハナ(ka5852)は敵の足元を泥に変えて移動を阻害。その隙に素早く複数の符を取り出し、結界を張って敵の1体を閉じ込めた。
間髪入れずにマテリアルを送り込むと、結界内部で光の奔流が発生。圧倒的な輝きが骸骨の全身を焼き焦がし、邪悪を浄化するように一瞬で焦滅させた。
「この程度の歪虚で街を襲おうとか、舐めまくりですぅ~ムカつきますぅ。素直にブッコロされちゃってくださいぃ」
骸骨達の弱さに、ハナはご立腹のようだ。頬をプクッと膨らませ、ぶりっ子のように怒りを表現している。可愛らしい見た目とは裏腹に、発言自体は過激だが。
足止めされた雑魔達に向かって、前衛担当のハンター達が押し寄せる。アルスレーテ・フュラー(ka6148)は戦馬に跨って大地を駆け、敵を射程に収めた。
「ひたすら近付いて攻撃……シンプルで良いわね」
銀色の長髪を揺らしながら、鉄扇を持つ手に力を籠める。緑色の瞳が蒼く染まると、鉄扇を閉じて棍のように突き出した。手首を捻り、抉るような力を加えた一撃。鋭く打ち落とされた刺突が敵の頭蓋骨と肩を砕き、亀裂が全身に広がって砕け散った。
その隣を、フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)が駆け抜ける。狂気にも似た笑顔を浮かべ、楽しそうな様子で。
敵との距離を一気に詰め、試作雷撃刀を奔らせる。狙い澄ました斬撃が骸骨の左肘に命中し、骨を叩き斬って欠片が周囲に舞い散った。
反撃とばかりに、隻腕の骸骨が大斧を振り回す。フェイルはその動きに集中し、ダンスのような大きな動きで斬撃を回避。間合いを少し開け、武器を構え直した。
「ちょっときみ、トロ過ぎない? 戦場での判断ミスはぁ~命取りってね♪ だから……」
言葉を切ったフェイルの瞳が、暗く赤い光を放つ。地面を強く蹴り、獲物を狙う獣のように雑魔に飛び掛かった。
「刈りとってやるよ」
淡々とした、冷たい一言。これが、普段のフェイルの口調であり、戦闘中は意図的にテンションを上げている。彼の動きに合わせ、背後から『影色をした手』の幻影が出現。まるで死者を地獄へ引きずり落とすかの如く、ワラワラと纏わり付いている。
幻影の手と共に、フェイルは武器を一閃。雑草でも刈るように頭部を斬り飛ばし、残った胴体には斬撃を連続で叩き込む。数秒もしないうちに、骸骨の体は粉々に斬り裂かれた。
正面から攻める仲間達とは別に、ヒースは敵の側面から接近。相手をかく乱するような動きから魔導槍を構え、鋭く突き出した。漆黒の槍先が空を切り、吸い込まれるように胸骨を貫通。その衝撃が一瞬で全身に広がり、骨が音を立ててボロボロと崩れ落ちた。
残った敵の集団に、月雲 夜汐(ka5780)が飛び込む。彼女の狙いは、自身を囮にする事。敢えて無防備な姿を晒し、狙ってきた敵の攻撃は舞い踊るように回避している。
「此方ですよ、ほらほら。よそ見は……なりませぬよ?」
白い短髪を揺らしながら、敵を挑発する夜汐。回避から大きく踏み込んで懐に潜り込み、三日月のような刀を鋭く薙いだ。剣閃が弧を描き、雑魔の両脚を砕く。
バランスを崩して倒れこむ骸骨を狙い、丑(ka4498)が駆け込んだ。
「さて。名実共に『礎』になってもらいましょうか」
戦闘中の真面目な顔を見られるのは恥ずかしいらしく、布を被って表情は隠している。が、その隙間から覗く灰色の瞳は、まるで猛き獣。マテリアルを開放させて強く踏み込むと、地面に水墨のような波紋が広がった。
太刀を握る手に力を籠め、首を狙って抜刀。鋭い斬撃が頸椎を正確に両断し、残りの骨は地面に落下して粉々に砕け散った。
「危ねぇ?! うわぁ危ねぇ?!」
男のような話し方で雑魔の攻撃を避けているのは、西空 晴香(ka4087)。釣り目でサメのような鋭い歯をしているが、緑の長髪を大きなリボンでポニーテールにしている。
骸骨が放つ大槌を紙一重で回避しているが、その動きは立体的で捉えるのが難しい。敵が大振りになった隙を狙い、静香は素早く苦無を投げ放った。小振りな刃が膝に突き刺さり、骨を砕いてバランスが崩れる。
片足になって倒れながらも、雑魔はその勢いを利用して大斧を振り下ろした。狙いは静香……ではなく、近くに居たカッツ。
予想外の攻撃に対し、カッツはマテリアルを駆使して敵の側面に回り込む。斧刃が黒髪を掠めて髪が舞い散る中、お返しとばかりに直剣を滑らせた。幅広の刀身が斜めに奔り、骨を叩き折るように斬り裂いていく。剣を振り抜いた時、雑魔は動かない骨となって地面に転がっていた。
「さあ……どっちの一撃がより重いか、力比べといこうじゃないか!」
大槌を持つ雑魔に向かって、タラサが真正面から勝負を挑む。燃え上がる闘志に呼応するように、橙色の長髪が赤く変色。ほんの数秒で真紅に変わった。
その状態で、タラサは斧を構えて全力で振り下ろす。命中力度外視の一撃が、雑魔に迫る。
骸骨は大斧を盾代わりに掲げたが、そんなモノは関係ない。渾身の攻撃が武器ごと敵の体を叩き割り、残骸と骨の欠片が周囲に散らばった。
これで、倒した数は9体。最後の1体を倒すため、蜜鈴は煙管の先端を骸骨に向けた。そこから種子のような雷玉が生まれ、轟音と共に芽吹いて茨のような雷光が奔る。幾筋もの雷撃が敵に殺到し、全身を貫通して一瞬で消え去った。残ったのは、力尽きた骸骨の残骸のみ。
「もう終わりですかー。正直、弱過ぎて拍子抜けですね」
周囲を見渡しながら、水月が残念そうに言葉を漏らす。戦う事を喜びとしている彼にとって、歯応えのない敵では物足りないのだろう。
「いや……まだ終わりじゃない。残念だけど、な」
言いながら、真は北方に視線を向けた。黒眼が見詰める先に在るのは……蠢く異形達の影。殺意や敵意を隠す事なく、骸骨の群れが近付いてきている。恐らく……今倒した敵の、倍近い数の群れが。
「増援? 伏兵? まぁ、どっちでも良いか。バラバラにするんだし」
ハンター達の強さに危機を感じて増援が現れたのか、それとも10匹以上の雑魔が町を狙っていたのかは分からないが、フェイルには関係ない。『仕事なら倒す』、ただそれだけである。
骸骨が残っている以上、見逃す気は微塵も無い。ハンター達は武器を握り直し、骸骨の群れと向き合った。
●
雑魔の相手をしている者は多いが、今回の依頼に参加したハンターは、それで全員ではない。復興を手伝うため、数人の覚醒者が町を訪れていた。
「これが、帝都から遠く離れた場所の現実……この景色を忘れないようにしなきゃ」
高瀬 未悠(ka3199)の赤い双眸が、荒らされた大地を見渡す。クールで無表情な少女だが、町の惨状に心を痛めているのだろう。瞳の奥に、深い悲しみを湛えていた。
復興状況は最悪に近いが、ハンター達の協力を得られた事で人々の気持ちは上向きになっている。覚醒者と一緒に町を立て直すため、避難している住人の大半が作業現場に集まっていた。
「あ、あの……少ないですけど、少しでも皆さんの食料の足しになればと思って……受け取ってください」
人見知りの激しいレイ・アレス(ka4097)だが、頑張って気持ちを言葉にし、食糧を差し出す。彼が準備してきたのは、干し肉と魚の干物。量的に、避難者全員の一食分に満たないかもしれないが、保存の利く物を選んでくれた気配りと、食糧を準備してくれた気持ちは嬉しい。住人達はレイに礼を述べ、笑顔で食糧を受け取った。
「私たちにできることは限られています。だからこそ……できることを精一杯しなければなりませんね」
町と人々の状況を確認し、決意を言葉にするシャルロット・ウォーカー(ka6139)。人として、ハンターとして、自分にやれる事があれば協力を惜しむ気は無い。加えて、彼女は女医。医師としての立場から、他の参加者とは違う方法で住人達を助ける事もできるだろう。
「ああ、その通りだ。加えて、先を見て行動せねばな」
シャルロットに同意しながら、明王院 蔵人(ka5737)は図面に筆を走らせていた。彼は現地の状況を目で確認し、復興に最適な建築手法を提案。実際に図面を引き、町の建築技師に蒼界の技術を伝えようとしていた。
蔵人の言う『先』とは、ハンター達の支援が終わった後の事。自分達が居なくなっても復興が順調に進むよう、出来る限りの物を残したいのだろう。ちなみに、使用する木材は既に手配済みである。
「なら、オレは作業員達のサポートに回ろう。黒子に徹して、影から皆を支えるさ」
歌劇のような口調で話し、蒼い髪を掻き上げるルーン・ルン(ka6243)。細身の体を舞台男優のような衣服で包み、睫毛は長く顔立ちは整っている。住民女性から黄色い声が漏れているが……ルーンの性別は、女性。つまりは、男装の麗人だったりする。
蔵人と技師達の話が終わる頃合いを見計らい、エイル・メヌエット(ka2807)は1枚の紙を差し出した。
「良かったら、これを使って。避難した住民の話を元に、私と遥華さんで地図を作ってみたわ」
彼女と央崎 遥華(ka5644)は、事前に住人達から情報を集めていた。エイルは区画整理と、住人達が残した貴重品を探すために。遥華は町を破壊前の姿に戻すため、建物の場所や種類を聞いて回った。
互いに目的は違ったが、目指していた物は同じ。2人は自分達が得た情報を纏め、1枚の地図を作り上げたのだ。そこには、当時の区画配置や建物が細かく記されている。完全に再現する事は難しいかもしれないが、復興の指標になる事は間違いない。
技師達は2人に礼を述べ、早速作業に取り掛かった。集まった住人やハンター達を仕事別で班に分け、指示を飛ばしている。
「整地をするなら、私にも手伝わせて下さい。こんなナリですが、邪魔はしませんよ」
力仕事への参加を希望したマーオ・ラルカイム(ka5475)だが……その口調は、丁寧ながらも冷たい。まるで熱を失ったように、淡々としている。
上流階級紳士のように綺麗な衣服を纏っているため、土で汚れる整地作業は向いていないのだが、本人は微塵も気にしていない。泥で汚れようが、残骸で破けようが……少しでも住人達の苦しみを癒せるなら、彼は黙々と作業を続けるだろう。本来、心根は優しい男なのだから。
復興の手順も決まり、住人達が元気良く動き始めた。作業に必要な荷車や槌等の道具は、レイと蔵人が手配した物を使用。崩れそうな土台や柱は撤去し、瓦礫や残骸は町の外まで運び出していく。
(今、私にできることを。『今』を未来に繋げるために……)
自分に言い聞かせるように心の中で呟き、瓦礫運搬用の通路を確保する遥華。別件の仕事に参加した際、自身の『ハンターとしての覚悟と力量』が足りていないと思ったらしく、少々元気がない。それを周りに気付かれないよう気丈に振る舞い、作業員達の事を気に掛けている。
「待って、その柱は後回しよ。触るなら最後でないと、危ないと思うわ」
倒壊寸前の柱に触れようとした住民達を、マリィア・バルデス(ka5848)が制した。崩れるという確証や自信は無いが、彼女は元軍人。その時の経験から、直感的に危機を察したのだろう。
マリィアの意見に従い、住人達が周りから残骸を片付けていく。作業中、柱が何度か大きく揺れ、彼女の勘が当たった事を物語っていた。
ハンター達の役目は、整地や建築だけではない。住人達のケアや知識を伝える事も必要だと考え、ディーナ・フェルミ(ka5843)は子供達を集めて青空教室を開いていた。
「野生動物に無暗に触るのは、危険なの。食べる時も部位が重要で……」
普通の勉強も大事だが、今の世界情勢を考えたら、サバイバル知識も必要になる。何があっても『生き残って欲しい』という想いで、彼女は授業をしているのかもしれない。自分達と歳の近いディーナの言葉に、子供達は真剣に耳を傾けている。
少しずつだが確実に作業が進む中、北風に乗って激しい物音が聞こえてきた。聞き慣れない音に、作業員達の手が止まる。その音が何なのか……ハンター達には分かっていた。
「どうやら、戦闘が始まったみたいね……」
北に視線を向け、未悠が静かに呟く。聴覚を研ぎ澄ませている彼女には、戦闘の状況がハッキリと分かっていた。万が一、町まで雑魔が侵入してきたら、身を挺してでも作業員を守る覚悟は出来ている。
「今、大事な仕事中なのが分からないのかしら? これだから骨ってやぁね」
溜息混じりの言葉を吐きながらも、ケイ(ka4032)は根菜を刻む手を止めない。『腹が減っては戦ができぬ』、作業員達をサポートするため、彼女は炊き出しを担当していた。
作ろうとしているのは、スイトンとレモン水。大量の根菜を大鍋にドバッと入れ、出汁で煮込む。その間に、樽に薄切りのレモンと水を入れ、ハチミツで味を調えている。
醤油と出汁の良い香りが周囲に広がっているが、住人の大半はそれを嗅いでいる余裕は無い。遠く離れているとはいえ、雑魔が現れた事で不安と恐怖が心を埋め尽くしていた。
不安そうな住人の手を、レイが優しく包む。
「大丈夫です。皆さんは僕達が守りますから、心配いりませんよ」
人と話すのは苦手だが、今のレイは堂々としている。その落ち着いた様子は、とても10歳の少年とは思えない。『作業員達を守りたい』という想いが、彼を支えているのだろう。
「恐れる事など無いさ。オレ達ハンターは、平和の使者なのだから!」
身振り手振りを加え、ルーンが自身に満ちた言葉を口にする。まるで劇の1シーンのようだが、強気な発言の方が住人達も心強いのだろう。少しだけ、笑顔が戻っている。
「希望の芽は潰させたりしないわ……絶対に。だから、一緒に町を建て直しましょう?」
優しく語り掛け、人々を励ますエイル。彼女の目的は、町だけでなく住人達の『心』も復興する事。不安そうな人達を、緑の瞳が優しく見守っていた。支援体質な事もあり、弱っている者を見捨てておけないのかもしれない。
「お待たせ~。きっちり栄養と水分とって、キビキビ働きなさい野郎共」
若干重くなった空気を吹き飛ばすように、ケイの明るい声が周囲に響いた。暗い気分を変えるには、美味しい食事も効果的である。ケイが器にスイトンを盛ると、ルーンがそれを作業者達に配膳。全員に行き渡ると、早めの昼食が始まった。
戦闘中という事もあり、最初は住人達も怖がっていたが、今は『ハンターが一緒に居る』という安心感が勝っている。彼らが復興支援に来た事も、レイやエイルが励ました事も、決して無駄ではなかったようだ。
だが……中には、食事が手につかない者も数人居る。恐らく、歪虚や合戦の恐怖が忘れられないのだろう。幼い子供や、女性なら尚更に。
その気持ちを理解したのか、遥華は怯える少女を優しく抱きしめた。
「今は……今だけは、甘えても良いんですよ。私に出来る事があれば、遠慮せずに言って下さい」
言葉と共に柔らかく微笑み、そっと頭を撫でる。避難生活はストレスが溜まりやすいし、親を亡くした子供も居るかもしれない。年下の子供達のために、遥華は少しでも役に立ちたいのだ。
彼女の想いが通じたのか、少女は遥華に抱きついて顔を埋めた。細かく肩が震えているのは、泣いているからだろう。遥華が周りの子達に笑顔を向けると、1人、また1人と、遥華に抱きついた。
「辛い時こそ、笑顔でいるのが大事かもしれない。でも……ちゃんと泣く事も必要だと思うの。思い切り泣いたら、また前に進めるわ」
遥華の隣では、未悠も励ましの言葉を掛けている。静かに手を伸ばして少年の頭を撫でると、両目から大粒の涙が零れ落ちた。
泣くのは悪い事ではない。我慢して気持ちを腐らせるよりは、思い切り発散した方が前に進める。この少年も、未悠の激励で大きく進めるに違いない。
そして、子供達を泣かせないために、大人達も奮闘する。励ましの言葉は伝播し、町の雰囲気が上向きだした。
(心への『薬』は大丈夫みたいですね。体調や衛生管理用の薬は、若干不足しているようですが……)
周囲の状況を確認し、シャルロットは複雑な笑みを浮かべた。人々の心理的ケアや食糧は充分だが、医薬品が足りていない。このままでは、基本的な治療や衛生管理が難しくなるだろう。多少は医薬品を持ってきたが、それだけでは足りない。シャルロットは今後の薬品確保のため、必要な物を紙に書き始めた。
●
ハナの符術が泥を生み出し、骸骨達の脚を止めて動きを鈍らせる。その隙を突くように、丑が一気に距離を詰めて斬撃を放った。精密な一撃が、敵の背骨を両断して骨を残骸に化す。
次いで、緑の疾風が吹き抜けた。風の正体は、高速移動している晴香。移動速度を短刀に上乗せし、鋭く振り抜く。剣閃が雑魔達の膝を次々に砕き、完全に移動を封じた。
戦闘担当のハンター達は骸骨の第2波と交戦中だが、取り乱している者は1人も居ない。目の前の敵を殲滅するため、互いに協力し合っている。
取り乱すどころか……逆に、喜んでいる者が数人。
「お前たちの本能が壊せ、殺せと叫んでいるのかなぁ? だとしたら……ボクらは似た者同士」
冷たい笑みを浮かべ、骸骨に立ち向かうヒース。その両脚から、血色のオーラが翼状に放出されている。
「似た者同士、殺し踊り合うのも一興さぁ」
槍が躍るように宙を奔り、骸骨を縦に斬り裂く。敵を壊し殺す事に、ヒースは微塵の躊躇いも無い。自ら戦い続ける道を選び、罪も罰も背負う覚悟は済ませている。敵を完全に破壊するため、ヒースは槍を振り回した。
水月は刀を両手で握り、戦場を駆け回っている。口元には笑みを浮かべ、まるで無邪気な子供がオモチャを壊すように雑魔を切断。心の底から、戦いを楽しんでいるかのようだ。
「ウォーカー様、葛音様。くれぐれも、ご無理はなさりませぬよう……」
ヒースの水月の言動に危うさを感じたのか、夜汐が注意を促す。彼女の言葉が届いたか分からないが……今は戦闘中。それを確認している余裕は無い。
夜汐は脚を破壊された雑魔に狙いを定め、マテリアルを込めて刀を奔らせた。三日月の刃が敵に触れた瞬間、マテリアルが一気に炸裂。衝撃と斬撃が一気に押し寄せ、骸骨を1体、完全に粉砕した。
彼女の後に続くように、フェイルが駆け込む。狂気的な笑顔を浮かべたまま連続で刀を振り、肩や肘といった大きな関節を次々に砕いて雑魔のバラバラに分解した。
更に、真は魔導拳銃剣を直剣モードに変換し、鋭い踏み込みから刃を薙ぎ払う。切っ先が半月を描き、足止めされた雑魔達を直撃。力強い斬撃が頭部や背骨を斬り裂き、敵を単なる骨に還した。
「同じ作業を何度もやらせるんじゃないわよ、めんどくさい連中ね……」
苛立ちをぶつけるかの如く、アルスレーテが鉄扇を突き出す。普段なら歪虚に関して無関心だが、今回の雑魔には怒りを覚えているようだ。螺旋を描く刺突が骸骨の胸骨を背骨ごと砕き、その命と骨の欠片が舞い散った。
「人の最たるは『心よりの笑顔』じゃ。悲しみと絶望の涙しか齎さぬおんし等に、慈悲は無い」
比較的温厚な蜜鈴も、今日ばかりは怒りの言葉を口にしている。その心情を表すように、鉄扇と煙管から雷光の茨が奔った。溢れる電撃が雑魔を焦がし、力尽きるまで焼き尽くす。
「今回は、ちょいとマジでね。てめえら全員、次の朝日を拝めると思うなよ……!」
言うが早いか、カッツは直剣の他に短剣を構えた。大小2本の武器を逆手に構え、雑魔を斬り刻む。奔る剣閃が骨を寸断し、細かく砕いていく。彼の両手が止まった時、骸骨は地獄へと送り返された。
ここまで徹底的に倒されても、残った雑魔は闘志を失っていない。1体の骸骨が大斧を両手で握り、ヤケクソ気味に派手に振り回した。
タラサは迫り来る斧刃をしゃがんで避け、態勢を低くしたまま大きく踏み込む。下から斧を振り上げ、攻撃が命中する直前にマテリアルを開放。強烈な衝撃が全身を駆け回り、一瞬で亀裂が走って派手に砕け散った。
「てめぇで最後だ! 住人達の悲しみと怒りを思い知れ!」
吠える旭の言葉通り、残された骸骨は、あと1体。戦いに終止符を打つため、彼は馬を走らせた。加速しながら両手で槍を構え、マテリアルを込める。敵を射程に収めると、旭はそれを開放した。
巨大な槍が高速で宙を駆け、大気が渦を巻く。烈風と化した槍撃が連続で突き刺さり、抉るような傷跡を穿った。その速さと力強さは、まるで小型の嵐。風の牙が骸骨を喰い散らし、全てを無に還した。
二度の襲撃を乗り越え、周囲を警戒するハンター達。三度目があるかと思ったが、敵が現れる気配は無い。ようやく、戦闘班は安堵の溜息を漏らした。
●
戦闘終了から数十分後。参加したハンター全員が、町に集まっていた。互いの状況を報告し合い、情報を共有している。
「一応、俺と真で見回りしてきたぜ。近くに怪しい物は無いから、安心してくれ!」
旭の報告を聞き、作業員達から歓声が湧き上がった。彼と真は、戦闘終了後に町の近隣を警戒。念のために、雑魔が侵攻してきた道を逆行し、骸骨の発生源や巣の有無を確認してきた。
結果は、聞いての通り。怪しい物は無かったし、マテリアルが減衰している地点もない。安全は確保されたと考えて、間違いないだろう。
「念のため、夜間の見回りくらいはさせて貰うわ。何か起きてからじゃ遅いし」
「私もお供しますぅ~。夜だろうと、小物に負ける気は有りませんよぅ」
万が一に備え、マリィアとハナが夜間警備を買って出る。雑魔は殲滅したが、危険が全く無いとは断言出来ない。ハンター達が居てくれたら心強いだろう。
2人の提案に、住人達は心の底から安心して満面の笑みを浮かべた。
「どうせ詰め寄られるなら、生身の女性が良いですよ。ねぇ、ケイさん?」
戦いが終わって『普段の姿』に戻った丑は、微笑みながらウインクを飛ばした。ケイは彼の言動に慣れているのか、軽く笑って手を振っている。
その対応で満足したのか、丑の視線が作業者の方に移動。『人と関わるのが好き』と本人は言っているが……灰色の瞳は、女性を探しているようにしか見えない。
「私達も復興を手伝おうか。こう見えても、力仕事には慣れてるしね」
提案しつつ、タラサは衣服の袖を捲り上げた。海商の家に生まれた彼女は、幼い頃から船に慣れ親しんでいる。船旅では力仕事が多いし、自然と鍛えられてきたようだ。
彼女同様、復興作業を手伝おうとしている戦闘メンバーは多い。今の状況なら、人手は何人いても邪魔にならない。それがハンターなら、尚更に。
「そうして貰えると助かる。戦闘まで任せたのに、すまんな」
申し訳なさそうに、蔵人が頭を下げた。復旧作業に参加してくれるのは嬉しいが、心苦しいという想いもあるようだ。もっとも、戦闘メンバーは全く気にしていないが。
早速、新たな人手も加わって作業が開始された。仕事内容に変わりは無いが、人員が増えた分だけ速度が上がっている。
サポート役のルーンは、瓦礫や残骸を分別。使えそうな物は町の中に保管し、その在庫が分かるようにリストも書いている。
晴香は住民に許可を貰い、骨の埋葬準備を進めていた。雑魔は敵だが、遺骨自体に罪は無い。誰の骨かは分からないが、野晒しには出来ない。町の隅に穴を掘り、回収した骨を静かに埋葬した。
「良き来世に恵まれますように……。」
一人呟き、静かに手を合わせる。簡素な墓ではあるが、埋葬された者達は感謝している気がする。
空が茜色に染まり始めた頃、町の中から全ての瓦礫が運び出された。区画の整理や整地も終わり、残った大仕事は建物の再建のみ。復興に向けて、大きな前進である。
「これは、私達からのプレゼントです。この町が、再び素敵な場所に戻るよう祈っております」
そう言ってマーオが取り出したのは、薔薇の種。まだ花壇も作っていないが、町に花が咲いていたら気分も明るくなる。マーオ自身も薔薇を育てているため、教えられる事も多いに違いない。
彼だけでなく、エイルと蜜鈴も種を持参している。3人は残骸の中から石やレンガを集め、町の一角に並べて簡易的な花壇を作成。住人達と一緒に種を植え、水を撒いた。
(綺麗に咲きますように。花も、皆の笑顔も……)
濡れた花壇を見詰め、想いを込めるエイル。植物が芽吹くように、希望も目を出して欲しい……そんな気持ちを感じ取ったのか、蜜鈴がエイルの肩を優しく叩いた。
「人と共に育つ命じゃ……笑顔の様に咲きよるじゃろう」
慰めや気休めではなく、蜜鈴自身もそう信じている。この花が咲く頃には、蘇った町にたくさんの笑顔が溢れていると。その光景を頭に描き、エイルと蜜鈴は顔を合わせて微笑んだ。
「ここも、笑い絶えぬ平和な村に戻れますでしょうか……」
仲間や住人達から離れ、不安を口にする夜汐。彼女自身、町の復興を心から望んでいる。だからこそ……再び笑顔が奪われる事を案じていた。
「信じましょう。人々が積み重ねてきたものと……明るい未来を」
不意に声を掛けてきたのは、ディーナ。いつの間にか、彼女は夜汐の隣に立っていた。町の様子を一望できる、この場所に。
1歩1歩は小さくても、踏み出せば必ず前に進む。例え町が壊されても、住人達が積み重ねてきた物は壊れない。彼らの進む先は、きっと未来に繋がっているのだから。
復興途中の町には一足先に笑顔が咲き、空には星が輝き始めていた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/17 16:36:45 |
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相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/11/06 16:26:55 |