ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】祭りの前の一波乱
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/17 12:00
- 完成日
- 2016/05/27 00:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「よっと……。これはここでよかったんだよなぁ?」
「えぇ、問題ありません。あとはあっちにあるやつも荷台に積んでおいてもらえると。まとめて運んだほうが楽ですから」
朝露に草花がきらめく中、村の男たちがその日の仕事に取り掛かり始めていた。
「まったく、村長も困ったお人だよ。リアルブルーにあるらしい『タンゴノセック』をうちでもやろう、なんて言い出して……」
祭りで使う予定のものを荷台にのせながら男がぼやく。
「祭りに使う広場だけでももう少し近くにあれば違ったとは思いますけど。でもほら、今年は一回多くラルちゃんの祭り装束が見られると思えばそれも、いいとは思いませんか?」
「いや、ラルちゃんかわいいよ? そこに異存はないけどさ……まだ13歳だろ?」
「だからなんだというのです?」
「え……?」
「ラルちゃんはかわいい! このむさくるしい村の癒し! そしてかわいい! これで充分ではないですか!?」
悲しきかな、村の九割が男性であるこの村では、ラルちゃんはもはや神同然の扱いをされていたのだった。
「わかった、わかったから!」
「ならいいですが」
一度訪れる静寂。その後に再び紡がれた言葉は不満だった。
「だがなぁ……祭りの内容をろくに知りもしないでやるってのはどうかと思うんだけどなぁ?」
「それはそうですが……言ってても始まらないですし、これ以上は荷台を引きながらにしましょうか」
「へいへい」
二人が荷台の持ち手に手をかけ、その両足を踏ん張った時だった。
「大変だ! 大変だ!」
朝の静かな空気に、大きな声がよく響いた。
「どうしたよ、朝っぱらから騒々しいな」
「だ、だから大変なんだ!」
「まずは落ち着いてください、そんな状態じゃ分かるものも分かりませんよ」
そういって差し出された水筒を受け取り、走ってきた男が息を整える。
「ぷはぁ……落ち着いたよ。すまねーな」
「いえいえ。それで、何があったんです?」
「何があったかはおらにも分からん。だけど、さっき行ってみたら広場が歪虚に占拠されてたんだ!」
「歪虚、ですか。昨日の準備中までは特に何もなかったことを鑑みると、出現は昨晩でしょうか。とにかく、被害者がいないようで助かりましたね」
「お~怖い怖い。祭りができなくなった、なんて言ったら村長がどうなることやら」
陽が昇ったら仕事が始まり、陽が落ちるのとともに皆家へ帰る。それがこの村の生活サイクルだ。
祭りの準備といえどこの例に漏れるわけではない。
二人がそう考えるのも無理はなかった。
しかし。
「ち、違うんだ。実は昨日、祭囃子の準備をするって言ってラルちゃんだけあそこに残ってたんだ。おらたちじゃ歪虚に対抗できないからわからないけど、きっとまだあの中に……」
「「な、なんだってー!」」
村の男たちによる緊急会議が開かれるまで、そう時間はかからなかった。
「よっと……。これはここでよかったんだよなぁ?」
「えぇ、問題ありません。あとはあっちにあるやつも荷台に積んでおいてもらえると。まとめて運んだほうが楽ですから」
朝露に草花がきらめく中、村の男たちがその日の仕事に取り掛かり始めていた。
「まったく、村長も困ったお人だよ。リアルブルーにあるらしい『タンゴノセック』をうちでもやろう、なんて言い出して……」
祭りで使う予定のものを荷台にのせながら男がぼやく。
「祭りに使う広場だけでももう少し近くにあれば違ったとは思いますけど。でもほら、今年は一回多くラルちゃんの祭り装束が見られると思えばそれも、いいとは思いませんか?」
「いや、ラルちゃんかわいいよ? そこに異存はないけどさ……まだ13歳だろ?」
「だからなんだというのです?」
「え……?」
「ラルちゃんはかわいい! このむさくるしい村の癒し! そしてかわいい! これで充分ではないですか!?」
悲しきかな、村の九割が男性であるこの村では、ラルちゃんはもはや神同然の扱いをされていたのだった。
「わかった、わかったから!」
「ならいいですが」
一度訪れる静寂。その後に再び紡がれた言葉は不満だった。
「だがなぁ……祭りの内容をろくに知りもしないでやるってのはどうかと思うんだけどなぁ?」
「それはそうですが……言ってても始まらないですし、これ以上は荷台を引きながらにしましょうか」
「へいへい」
二人が荷台の持ち手に手をかけ、その両足を踏ん張った時だった。
「大変だ! 大変だ!」
朝の静かな空気に、大きな声がよく響いた。
「どうしたよ、朝っぱらから騒々しいな」
「だ、だから大変なんだ!」
「まずは落ち着いてください、そんな状態じゃ分かるものも分かりませんよ」
そういって差し出された水筒を受け取り、走ってきた男が息を整える。
「ぷはぁ……落ち着いたよ。すまねーな」
「いえいえ。それで、何があったんです?」
「何があったかはおらにも分からん。だけど、さっき行ってみたら広場が歪虚に占拠されてたんだ!」
「歪虚、ですか。昨日の準備中までは特に何もなかったことを鑑みると、出現は昨晩でしょうか。とにかく、被害者がいないようで助かりましたね」
「お~怖い怖い。祭りができなくなった、なんて言ったら村長がどうなることやら」
陽が昇ったら仕事が始まり、陽が落ちるのとともに皆家へ帰る。それがこの村の生活サイクルだ。
祭りの準備といえどこの例に漏れるわけではない。
二人がそう考えるのも無理はなかった。
しかし。
「ち、違うんだ。実は昨日、祭囃子の準備をするって言ってラルちゃんだけあそこに残ってたんだ。おらたちじゃ歪虚に対抗できないからわからないけど、きっとまだあの中に……」
「「な、なんだってー!」」
村の男たちによる緊急会議が開かれるまで、そう時間はかからなかった。
リプレイ本文
●お祭りの始まりです
火事場の馬鹿力……とでも言うのだろうか。村の男達の尽力により、その日の昼にはラルちゃんの救出隊が現場に到着していた。
「ひゅー敵さんびっちりじゃないのぉ。こいつは中々だりぃなおい」
「おお、おお。ひしめいていやがるな。こいつを掃除するなァ、中々骨が折れそうだ」
開口一番、鵤(ka3319)とJ・D(ka3351)の二人があまりにも的確で単純な言葉をもらす。
「なぁに、この程度の数なら俺らがちょいと暴れまわりゃすぐ終わるさ」
「ラルさんは絶対お助けします……!! きっと、一人で心細いと思います……。俺達で、必ず彼女を救出してあげましょう!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)に同調するように閏(ka5673)もまた意気込みを新たにする。
「まぁ……祭りの備品が無けりゃもっと楽だが」
エヴァンスの言うように、一行の見つめる先、群れに群れている歪虚の中には各種祭具を手にしている個体が見て取れた。
その姿はさながら、祭りを楽しんでいるようにも見えなくは……ないのかもしれない。
「祭りの前に会場入りとは気が早い連中だな。ま、当日だろうと参加はお断りだがな」
そう、いくら祭りとはいえお呼びでないものは存在する。レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の目は、そんな連中に乱雑に扱われる祭具を静かに捉えていた。
「さぁて、さっさと巫女を救出し、この歪虚の不快な祭りは終わらせるのじゃよ」
「まさか歪虚と投合して一緒に盆踊りを踊っている筈もあるめえ。本腰入れて掃除をするのはその後だ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)とJ・Dが語るようにここは本来祭り会場なのだ。だからこそこの場にいる誰もが、祭りの成功とその主人公、ラルちゃんの救出のために動こうとしている。
しかし敵は目視できるだけでも相当な数、そして指揮官がいるかもしれないなどという情報まで入っている。自然、皆の視線が鵤へと集中した。
当の鵤は一度きょとんとした顔をしていたもののしっかりとその意味を理解したようだ。
「こんな中お空飛ぶとかおっさんマジ趣味じゃな……あーあーはいはい分かりましたよぉ。やればいいんでしょやればぁ」
心底面倒そうではあるものの、念のために盾を構えた鵤が中空へと飛び上がる。
それにより広場に落ちる大きな影。広場を埋め尽くさんとしている歪虚たちがそわそわしだすのが見て取れた。
しかし、ダンっ! という大きな音が櫓のほうでしたかと思えば、一斉に歪虚たちが静まり返った。そしてやぐらを中心にきれいな隊列を組み始める。
その様子は広場の方はしに陣取る一行からもよく見えた。
「あれは露骨ですねー」
櫓の上、他よりも一回り……いや、二回りは大きいかと思われる個体に葛音 水月(ka1895)が目星を付ける。
「となると報告にあった指揮官ってのはそいつかい?」
「おそらくはそうだと思いますよー」
フォークス(ka0570)への受け答えはのんびりとしたものだったが、そこからは水月の確かな意志が感じられる。
……その横で。
「なにか動いたかのぅ?」
櫓の下で何かが動いたのを見逃さないヴィルマとJ・Dがいた。
おそらくは音に驚いたのだろう。紅白幕の間からひょこっと顔を出してあたりをきょろきょろしたかと思えば即座に引っ込んでしまったなにか。
とっさの出来事でありそれが何なのかまでは特定できなかったが、
「直感視で見た感じ周りの歪虚とは違って人だな、ありゃァ」
もはやその正体は知れたも同然だった。
一方、空中浮遊もとい空からの偵察を行っている鵤の目には奇妙なものが映っていた。
広場に展開する歪虚と、丘にポツリポツリと配置された歪虚。それらは同じように見えて、そう言いきるにはどこか違和感を覚える。
だがその違和感の正体は櫓の上に陣取る指揮官らしき個体の行動によって明らかとなった。
なにかの合図の後に共通の動きを見せる広場の歪虚たち。しかし丘側の行動に変化はない。
「これはつまりそういうことなんだよなぁ……?」
明らかに動きの違う二つの勢力。それは暗に第二の指揮官の存在を伝えていた。あとはリルの捜索……に割けるだけの時間は鵤に残っていなかった。
「時間切れ、か」
すでにジェットブーツの最高点を迎えていた鵤は力に引かれるまま高度を下げ、地面へと足をつける。
「よっ、とぉ。おぉ? その顔はなにか分かった顔かねぇ?」
鵤の着地を合図に再集合した面々の顔はそれぞれが成果ありを物語っていた。
作戦会議で提示される情報はラルの居場所、指揮官の所在、さらなる指揮官の影。そのどれをとってもラルが危険な状況にいることは明白だ。
「指揮官が二体いそうならば、片方を残しておくのがいいかもですねー。下手にばらばらに動かれるよりは楽でしょうしー」
「そうしますとやはり櫓を攻略するのが第一目標でしょうか」
スタート地点があり、こうして目指す場所も定まった。あとはその点と点をつなぐ線を引くだけ。
「それじゃぁ行くとするか!」
皆より一段高い視点、ゴースロンの上からエヴァンスが声を張る。線を引く作業の先頭、敵の真っただ中へ切り込んでいくのが彼らだ。
「ガラじゃないンだよね、ベビーシッターは」
フォークスも口ではそう言うものの、彼女のまたがるトライクが駆動音をたてる。
――今ここに戦いの火ぶたが切って落とされた。
●喧嘩祭りもまた一興
「道を開けてもらうぜ!」
ゴースロンのいななきとともにエヴァンスが歪虚の群れを割り進んで行く。
その後ろにフォークスの乗るトライクを護衛する形で残りのメンバーが続いている。
エヴァンスのおかげで前進することに関して滞りの無い一行だったが、なにぶん敵は多数。側面、そして背後からも襲い掛かってくる。
「あぁぁああ……っ、敵が、多い……。……でも、俺にもきっとやれることがあるはずです……!」
あまりの敵の数に泣きそうになっている閏だったが、その両の目から涙をこぼすことは決してなかった。今の自分より怖い思いをしているであろうリルを思い、ひたすらに火炎符で敵を蹴散らしていく。
こんなところでへばっているわけにもいかないのだ。
「それにしても、なんとなく敵の動きが洗練されている気がするんだけど?」
とびかかってくる歪虚に対しフォークスはその得物を一振り。それだけで敵の姿は霧散する。しかしその直後、一体目によってどうしてもフォークスの死角となっていた場所から二体目が襲い掛かってくる。巧妙な二段構えの戦い方だ。
いくら運転中だからと言ってその程度で遅れを取るフォークスでもなく、二匹目すらなんなくいなしてみせる。
「それだけならよかったんだけどねぇ……。なんでこうそういうものを振り回しちゃうかなぁ」
「それ壊すと怒られちゃうのでやめてくれませんかー」
鵤が相対する敵は三匹。水月の前には四匹。それらは数にすれば造作もない相手。しかし問題はその全員が手にする武器にあった。
古イノボリ。リアルブルーの日本に伝われるとされるそれは装飾こそ多いものの、大振りの刀と張り合うほどの長さを持ち合わせている。まともに正面から相手をすればこちらのリーチに入る前に相手に圧倒されてしまうだろう。
……が、それはあくまで一般の人間なら、という話である。
熟練のハンターたちにとって、ただ長い棒を振り回すだけの敵など朝飯前もいいところだ。
「それ、返してもらうよぉ」
転瞬、三方へと光が走ったかと思うと、鵤へ向かっていた歪虚が古イノボリを唐突に手放しその場に崩れ落ちた。
「斬り込んじゃいますよー」
こちらもまた、迫る歪虚の間をスルリスルリと通り抜ける水月が通りすぎた後、歪虚は膝を折り地に伏せた。残るものはやはり古イノボリだけだ。
こうして着々と数が減っていく歪虚。いくら広場にひしめき合っているとはいえ、もちろんその数は有限だ。一行はやぐらの一歩手前というところまで到達していた。
だが敵とて一筋縄ではない。ことのほか状況が芳しくないことを理解したのだろう。やぐらの上に陣取る指揮官らしき個体が号令を出したことで再び歪虚の動きが変化する。
――その間が命取りになるとも知らずに。
「飛び道具ってのを知ってるか?」
隊列の再編成に伴って生まれた余裕。そのすきにレイオスが引き絞った弓から放たれた矢が指揮官に命中した。ぐらりと体勢を崩し、やぐらの下へ落とされる指揮官。
だが即座に起き上ったところを見る限り、致命傷にはいたらなかったようだ。なら、とレイオスが第二射を構えようとしたその時。
――ひゅん!
なにかが超スピードで飛来し、地面に突き刺さった。何かと思えばそこにはカラカラと音を立てて回るカザグ=ルマ。無視はできない威力のカザグ=ルマを前に警戒を強める一行。
しかし指揮官が負傷したことによるのだろう。なにかの号令の後、突如としてやぐら周囲から歪虚が退いていった。
「逃げてくれた……なんてわけじゃァないんだろうな」
「ひとまずは巫女の嬢ちゃんの救出だな」
歪虚が退いたことにより事実上奪還に成功したやぐらに近づき、紅白幕をめくってなかを覗き込むと。
「ひっ!?」
猛烈な勢いで後ずさりをする少女が一人。その身に纏うのは巫女装束。村の男たちの言っていた『ラルちゃん』がそこにいた。
「助けに来ましたよ、もう大丈夫です。……怖い思いをしましたね」
「た、す……け?」
力が抜けたのかカクンと膝をつきそうになるラルをそっと支える閏。ラルのことを考えるとここから脱出するのはもう少し落ち着いてからのほうがよかったのだろう。しかしそうゆっくりしていられるような余裕はなかった。
「やっと安心できたところ悪いが歪虚たちが戻ってくるぞ」
やぐらの上から偵察を行っていたJ・Dが告げる。歪虚たちはやはり退いたわけではなく、単に態勢を立て直していただけのようだ。
「そなたは必ず村に怪我なく連れて行くゆえ、安心するのじゃよ。ハンターが八人もおるのじゃからのぅ。さっさと綺麗にして、ここで祭りができるようにするでのぅ」
どうしてもドタバタしてしまう中ヴィルマに導かれてラルがトライクのサイドカーに押し込まれる。
「ふぇ!? えぇ!?」
「生憎チャイルドシートはなくてネ、しっかりベルト締めなよ」
上から盾をかぶせ、完全防御状態になったサイドカーを一瞥し、フォークスがハンドルを握りなおす。
「そこでじっとしてな嬢ちゃん、すぐ安全な場所まで連れてってやるからなぁ!」
戦いは次のフェイズへと移行する。
●戦いの行方ときれいな夕日
「いや、そっちは避けたほうがよさそうだ。敵の密度が濃い」
ラルという一般人を連れてのドライブに当たり、的確に周囲を把握するJ・Dの道案内の下で安全とは言えずとも安定して行軍を続ける一行。だが敵も敵でそれをみすみす見逃す指揮官ではなかった。
「やっぱりそうなるかねェ……どうやら指揮官が本腰を入れ始めたみたいだな」
また何かの号令の後に広場に広く展開していた歪虚が次々に一か所へと集まっていく。
「総力戦ですかー? 殲滅しやすくなったとも言いますけど」
「いくらなんでも限界はあるよ……!」
殲滅という観点からは水月の意見ももっともだ。しかし減ってきてはいるもののこれだけの数。一か所に集まられた時にはラルを保護し続けるに際して危険度が跳ね上がる。何としてでも阻止しなければならなかった。どうしてもラルとトライクを守りつつ戦うフォークスが渋い顔をする。
サイドカーをつけて戦場をドライブしているのだ。それは普段とは違い、体の片側が大きく弱点となっている状態に等しい。
そんな状況で、サイドカー側に襲い掛かる歪虚には妨害射撃を行って接近するのを阻止し、祭具を武器としている個体にはそこ以外の部位を狙ってピンポイントで排除していく。
敵が分散していたからこそ可能であったこの戦い方は、敵が集中してしまえばいかんせん手数が足りなくなる。
けれどだからこそ仲間がいる。
「まぁまぁ。どちらにせよ倒さなきゃいけないわけだしぃ?」
鵤がトライクの横につき、デルタレイで露払いを行う。だがそれでも祭具に気を使ってやるとなると効率は落ちてしまう。
だからこそ指揮官のそばへ集まる歪虚と主にトライクを中心に狙ってくる歪虚、それらの注意をレイオスとエヴァンスのソウルトーチがそれぞれ引き付け、引っぺがすことが有効になる。
そして、
「悪いが消えてもらうぜ!」
歪虚たちがある程度ひきよせられたところでエヴァンスの薙ぎ払いが発動する。一人で相手にするには少しばかり数が多いが、もともと祭具の数は歪虚に比べれば圧倒的に少ないことに加えてフォークスがピンポイントで叩き落としていることも有り、だいぶ全体攻撃がしやすくなってきたのも追い風となっていた。
だがそんな中、またしても超高速のカザグ=ルマが飛来する。が、それも二度目だ。もはやJ・Dが見逃すスキはなかった。
「少しおとなしくしていてもらえるか?」
狙撃手は自身の場所を特定されることにひどく弱い。そこにJ・DのCoolerが着弾したのだ。冷気によって沈黙させられてしまい、もはや当分動けなくなった。
「思い通りにさせてもらえるとでも思ったのかのぅ?」
直接指揮官のもとへ集まっていく敵に容赦なくヴィルマのブリザードが襲い掛かる。そしてそうして乱れた隊列の中をランアウトで強化された水月が駆け抜けていく。
小さなほころびは次第に大きなものへとなっていく。
とうとう閏の火炎符が指揮官に命中する。やはり指揮官は存在として強大なようで、一瞬、統率に揺らぎが見えた。
そしてやはりそれを見逃すJ・Dではなかった。
「さァ年貢の納め時だ」
J・Dのヴァールハイトから打ち出されるIcicleが指揮官格の歪虚を真正面に捉える。
『がぁうあぁぁ!? ……ううぅぅぅがぁぁぁぁぁぁ!!』
大地を揺るがすほどの断末魔の叫びを残して消えて去っていく指揮官。しかしその真の意味は。
「やっぱり予想通りだったみたいだね」
この状況にあっても丘の上で待機していた歪虚を引き連れ、もう一体の指揮官が広場へと降りてきた。広場側だった歪虚が素直にその指揮下に入ったのは叫びにそういう意味が含まれていたからなのだろう。
「もうワンラウンドってか」
大掃除はその後空が赤くなるまで続けられた。
●祭りは予定通りに……?
歪虚の殲滅も完了し平和が戻ったはずの広場はすでに新たな戦場と化していた。
遅れを取り戻すために怒号をとばし続ける村長の下、祭りの準備が急ピッチで進められているのだ。
その中にはラルも含まれている。疲れは残っているはずだが本人はとても楽しそうだ。
「お祭り、きっと楽しくなりますね。……よかった」
その様子に閏がそう言葉をこぼす。
祭りはもうすぐだ。
火事場の馬鹿力……とでも言うのだろうか。村の男達の尽力により、その日の昼にはラルちゃんの救出隊が現場に到着していた。
「ひゅー敵さんびっちりじゃないのぉ。こいつは中々だりぃなおい」
「おお、おお。ひしめいていやがるな。こいつを掃除するなァ、中々骨が折れそうだ」
開口一番、鵤(ka3319)とJ・D(ka3351)の二人があまりにも的確で単純な言葉をもらす。
「なぁに、この程度の数なら俺らがちょいと暴れまわりゃすぐ終わるさ」
「ラルさんは絶対お助けします……!! きっと、一人で心細いと思います……。俺達で、必ず彼女を救出してあげましょう!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)に同調するように閏(ka5673)もまた意気込みを新たにする。
「まぁ……祭りの備品が無けりゃもっと楽だが」
エヴァンスの言うように、一行の見つめる先、群れに群れている歪虚の中には各種祭具を手にしている個体が見て取れた。
その姿はさながら、祭りを楽しんでいるようにも見えなくは……ないのかもしれない。
「祭りの前に会場入りとは気が早い連中だな。ま、当日だろうと参加はお断りだがな」
そう、いくら祭りとはいえお呼びでないものは存在する。レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の目は、そんな連中に乱雑に扱われる祭具を静かに捉えていた。
「さぁて、さっさと巫女を救出し、この歪虚の不快な祭りは終わらせるのじゃよ」
「まさか歪虚と投合して一緒に盆踊りを踊っている筈もあるめえ。本腰入れて掃除をするのはその後だ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)とJ・Dが語るようにここは本来祭り会場なのだ。だからこそこの場にいる誰もが、祭りの成功とその主人公、ラルちゃんの救出のために動こうとしている。
しかし敵は目視できるだけでも相当な数、そして指揮官がいるかもしれないなどという情報まで入っている。自然、皆の視線が鵤へと集中した。
当の鵤は一度きょとんとした顔をしていたもののしっかりとその意味を理解したようだ。
「こんな中お空飛ぶとかおっさんマジ趣味じゃな……あーあーはいはい分かりましたよぉ。やればいいんでしょやればぁ」
心底面倒そうではあるものの、念のために盾を構えた鵤が中空へと飛び上がる。
それにより広場に落ちる大きな影。広場を埋め尽くさんとしている歪虚たちがそわそわしだすのが見て取れた。
しかし、ダンっ! という大きな音が櫓のほうでしたかと思えば、一斉に歪虚たちが静まり返った。そしてやぐらを中心にきれいな隊列を組み始める。
その様子は広場の方はしに陣取る一行からもよく見えた。
「あれは露骨ですねー」
櫓の上、他よりも一回り……いや、二回りは大きいかと思われる個体に葛音 水月(ka1895)が目星を付ける。
「となると報告にあった指揮官ってのはそいつかい?」
「おそらくはそうだと思いますよー」
フォークス(ka0570)への受け答えはのんびりとしたものだったが、そこからは水月の確かな意志が感じられる。
……その横で。
「なにか動いたかのぅ?」
櫓の下で何かが動いたのを見逃さないヴィルマとJ・Dがいた。
おそらくは音に驚いたのだろう。紅白幕の間からひょこっと顔を出してあたりをきょろきょろしたかと思えば即座に引っ込んでしまったなにか。
とっさの出来事でありそれが何なのかまでは特定できなかったが、
「直感視で見た感じ周りの歪虚とは違って人だな、ありゃァ」
もはやその正体は知れたも同然だった。
一方、空中浮遊もとい空からの偵察を行っている鵤の目には奇妙なものが映っていた。
広場に展開する歪虚と、丘にポツリポツリと配置された歪虚。それらは同じように見えて、そう言いきるにはどこか違和感を覚える。
だがその違和感の正体は櫓の上に陣取る指揮官らしき個体の行動によって明らかとなった。
なにかの合図の後に共通の動きを見せる広場の歪虚たち。しかし丘側の行動に変化はない。
「これはつまりそういうことなんだよなぁ……?」
明らかに動きの違う二つの勢力。それは暗に第二の指揮官の存在を伝えていた。あとはリルの捜索……に割けるだけの時間は鵤に残っていなかった。
「時間切れ、か」
すでにジェットブーツの最高点を迎えていた鵤は力に引かれるまま高度を下げ、地面へと足をつける。
「よっ、とぉ。おぉ? その顔はなにか分かった顔かねぇ?」
鵤の着地を合図に再集合した面々の顔はそれぞれが成果ありを物語っていた。
作戦会議で提示される情報はラルの居場所、指揮官の所在、さらなる指揮官の影。そのどれをとってもラルが危険な状況にいることは明白だ。
「指揮官が二体いそうならば、片方を残しておくのがいいかもですねー。下手にばらばらに動かれるよりは楽でしょうしー」
「そうしますとやはり櫓を攻略するのが第一目標でしょうか」
スタート地点があり、こうして目指す場所も定まった。あとはその点と点をつなぐ線を引くだけ。
「それじゃぁ行くとするか!」
皆より一段高い視点、ゴースロンの上からエヴァンスが声を張る。線を引く作業の先頭、敵の真っただ中へ切り込んでいくのが彼らだ。
「ガラじゃないンだよね、ベビーシッターは」
フォークスも口ではそう言うものの、彼女のまたがるトライクが駆動音をたてる。
――今ここに戦いの火ぶたが切って落とされた。
●喧嘩祭りもまた一興
「道を開けてもらうぜ!」
ゴースロンのいななきとともにエヴァンスが歪虚の群れを割り進んで行く。
その後ろにフォークスの乗るトライクを護衛する形で残りのメンバーが続いている。
エヴァンスのおかげで前進することに関して滞りの無い一行だったが、なにぶん敵は多数。側面、そして背後からも襲い掛かってくる。
「あぁぁああ……っ、敵が、多い……。……でも、俺にもきっとやれることがあるはずです……!」
あまりの敵の数に泣きそうになっている閏だったが、その両の目から涙をこぼすことは決してなかった。今の自分より怖い思いをしているであろうリルを思い、ひたすらに火炎符で敵を蹴散らしていく。
こんなところでへばっているわけにもいかないのだ。
「それにしても、なんとなく敵の動きが洗練されている気がするんだけど?」
とびかかってくる歪虚に対しフォークスはその得物を一振り。それだけで敵の姿は霧散する。しかしその直後、一体目によってどうしてもフォークスの死角となっていた場所から二体目が襲い掛かってくる。巧妙な二段構えの戦い方だ。
いくら運転中だからと言ってその程度で遅れを取るフォークスでもなく、二匹目すらなんなくいなしてみせる。
「それだけならよかったんだけどねぇ……。なんでこうそういうものを振り回しちゃうかなぁ」
「それ壊すと怒られちゃうのでやめてくれませんかー」
鵤が相対する敵は三匹。水月の前には四匹。それらは数にすれば造作もない相手。しかし問題はその全員が手にする武器にあった。
古イノボリ。リアルブルーの日本に伝われるとされるそれは装飾こそ多いものの、大振りの刀と張り合うほどの長さを持ち合わせている。まともに正面から相手をすればこちらのリーチに入る前に相手に圧倒されてしまうだろう。
……が、それはあくまで一般の人間なら、という話である。
熟練のハンターたちにとって、ただ長い棒を振り回すだけの敵など朝飯前もいいところだ。
「それ、返してもらうよぉ」
転瞬、三方へと光が走ったかと思うと、鵤へ向かっていた歪虚が古イノボリを唐突に手放しその場に崩れ落ちた。
「斬り込んじゃいますよー」
こちらもまた、迫る歪虚の間をスルリスルリと通り抜ける水月が通りすぎた後、歪虚は膝を折り地に伏せた。残るものはやはり古イノボリだけだ。
こうして着々と数が減っていく歪虚。いくら広場にひしめき合っているとはいえ、もちろんその数は有限だ。一行はやぐらの一歩手前というところまで到達していた。
だが敵とて一筋縄ではない。ことのほか状況が芳しくないことを理解したのだろう。やぐらの上に陣取る指揮官らしき個体が号令を出したことで再び歪虚の動きが変化する。
――その間が命取りになるとも知らずに。
「飛び道具ってのを知ってるか?」
隊列の再編成に伴って生まれた余裕。そのすきにレイオスが引き絞った弓から放たれた矢が指揮官に命中した。ぐらりと体勢を崩し、やぐらの下へ落とされる指揮官。
だが即座に起き上ったところを見る限り、致命傷にはいたらなかったようだ。なら、とレイオスが第二射を構えようとしたその時。
――ひゅん!
なにかが超スピードで飛来し、地面に突き刺さった。何かと思えばそこにはカラカラと音を立てて回るカザグ=ルマ。無視はできない威力のカザグ=ルマを前に警戒を強める一行。
しかし指揮官が負傷したことによるのだろう。なにかの号令の後、突如としてやぐら周囲から歪虚が退いていった。
「逃げてくれた……なんてわけじゃァないんだろうな」
「ひとまずは巫女の嬢ちゃんの救出だな」
歪虚が退いたことにより事実上奪還に成功したやぐらに近づき、紅白幕をめくってなかを覗き込むと。
「ひっ!?」
猛烈な勢いで後ずさりをする少女が一人。その身に纏うのは巫女装束。村の男たちの言っていた『ラルちゃん』がそこにいた。
「助けに来ましたよ、もう大丈夫です。……怖い思いをしましたね」
「た、す……け?」
力が抜けたのかカクンと膝をつきそうになるラルをそっと支える閏。ラルのことを考えるとここから脱出するのはもう少し落ち着いてからのほうがよかったのだろう。しかしそうゆっくりしていられるような余裕はなかった。
「やっと安心できたところ悪いが歪虚たちが戻ってくるぞ」
やぐらの上から偵察を行っていたJ・Dが告げる。歪虚たちはやはり退いたわけではなく、単に態勢を立て直していただけのようだ。
「そなたは必ず村に怪我なく連れて行くゆえ、安心するのじゃよ。ハンターが八人もおるのじゃからのぅ。さっさと綺麗にして、ここで祭りができるようにするでのぅ」
どうしてもドタバタしてしまう中ヴィルマに導かれてラルがトライクのサイドカーに押し込まれる。
「ふぇ!? えぇ!?」
「生憎チャイルドシートはなくてネ、しっかりベルト締めなよ」
上から盾をかぶせ、完全防御状態になったサイドカーを一瞥し、フォークスがハンドルを握りなおす。
「そこでじっとしてな嬢ちゃん、すぐ安全な場所まで連れてってやるからなぁ!」
戦いは次のフェイズへと移行する。
●戦いの行方ときれいな夕日
「いや、そっちは避けたほうがよさそうだ。敵の密度が濃い」
ラルという一般人を連れてのドライブに当たり、的確に周囲を把握するJ・Dの道案内の下で安全とは言えずとも安定して行軍を続ける一行。だが敵も敵でそれをみすみす見逃す指揮官ではなかった。
「やっぱりそうなるかねェ……どうやら指揮官が本腰を入れ始めたみたいだな」
また何かの号令の後に広場に広く展開していた歪虚が次々に一か所へと集まっていく。
「総力戦ですかー? 殲滅しやすくなったとも言いますけど」
「いくらなんでも限界はあるよ……!」
殲滅という観点からは水月の意見ももっともだ。しかし減ってきてはいるもののこれだけの数。一か所に集まられた時にはラルを保護し続けるに際して危険度が跳ね上がる。何としてでも阻止しなければならなかった。どうしてもラルとトライクを守りつつ戦うフォークスが渋い顔をする。
サイドカーをつけて戦場をドライブしているのだ。それは普段とは違い、体の片側が大きく弱点となっている状態に等しい。
そんな状況で、サイドカー側に襲い掛かる歪虚には妨害射撃を行って接近するのを阻止し、祭具を武器としている個体にはそこ以外の部位を狙ってピンポイントで排除していく。
敵が分散していたからこそ可能であったこの戦い方は、敵が集中してしまえばいかんせん手数が足りなくなる。
けれどだからこそ仲間がいる。
「まぁまぁ。どちらにせよ倒さなきゃいけないわけだしぃ?」
鵤がトライクの横につき、デルタレイで露払いを行う。だがそれでも祭具に気を使ってやるとなると効率は落ちてしまう。
だからこそ指揮官のそばへ集まる歪虚と主にトライクを中心に狙ってくる歪虚、それらの注意をレイオスとエヴァンスのソウルトーチがそれぞれ引き付け、引っぺがすことが有効になる。
そして、
「悪いが消えてもらうぜ!」
歪虚たちがある程度ひきよせられたところでエヴァンスの薙ぎ払いが発動する。一人で相手にするには少しばかり数が多いが、もともと祭具の数は歪虚に比べれば圧倒的に少ないことに加えてフォークスがピンポイントで叩き落としていることも有り、だいぶ全体攻撃がしやすくなってきたのも追い風となっていた。
だがそんな中、またしても超高速のカザグ=ルマが飛来する。が、それも二度目だ。もはやJ・Dが見逃すスキはなかった。
「少しおとなしくしていてもらえるか?」
狙撃手は自身の場所を特定されることにひどく弱い。そこにJ・DのCoolerが着弾したのだ。冷気によって沈黙させられてしまい、もはや当分動けなくなった。
「思い通りにさせてもらえるとでも思ったのかのぅ?」
直接指揮官のもとへ集まっていく敵に容赦なくヴィルマのブリザードが襲い掛かる。そしてそうして乱れた隊列の中をランアウトで強化された水月が駆け抜けていく。
小さなほころびは次第に大きなものへとなっていく。
とうとう閏の火炎符が指揮官に命中する。やはり指揮官は存在として強大なようで、一瞬、統率に揺らぎが見えた。
そしてやはりそれを見逃すJ・Dではなかった。
「さァ年貢の納め時だ」
J・Dのヴァールハイトから打ち出されるIcicleが指揮官格の歪虚を真正面に捉える。
『がぁうあぁぁ!? ……ううぅぅぅがぁぁぁぁぁぁ!!』
大地を揺るがすほどの断末魔の叫びを残して消えて去っていく指揮官。しかしその真の意味は。
「やっぱり予想通りだったみたいだね」
この状況にあっても丘の上で待機していた歪虚を引き連れ、もう一体の指揮官が広場へと降りてきた。広場側だった歪虚が素直にその指揮下に入ったのは叫びにそういう意味が含まれていたからなのだろう。
「もうワンラウンドってか」
大掃除はその後空が赤くなるまで続けられた。
●祭りは予定通りに……?
歪虚の殲滅も完了し平和が戻ったはずの広場はすでに新たな戦場と化していた。
遅れを取り戻すために怒号をとばし続ける村長の下、祭りの準備が急ピッチで進められているのだ。
その中にはラルも含まれている。疲れは残っているはずだが本人はとても楽しそうだ。
「お祭り、きっと楽しくなりますね。……よかった」
その様子に閏がそう言葉をこぼす。
祭りはもうすぐだ。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/16 23:47:20 |
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お助けしましょう! 閏(ka5673) 鬼|34才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2016/05/17 10:39:00 |