ゲスト
(ka0000)
ばあさん、わしの飯はどこじゃ!
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/03 12:00
- 完成日
- 2014/09/11 23:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ばあさん、わしの飯はどこじゃ!
おじいさん、あなたさっき食べたばかりでしょ!?
※※※
「だ、誰かー……! う、うちの主人を助けて下さい……!」
通りすがりのハンター達に駆け寄ってきたのは、疲れ果てた老女だった。
余程慌てていたのか、服は泥だらけで、途中何度も転んでしまったことが伺える。
「主人が、主人が……茶碗を持ったまま帰ってこないんです!」
「……茶碗?」
予想していなかった言葉が混じっており、ハンター達は首を傾げる。
「実は、主人……飯はまだか、と叫んで家から飛び出す癖があるんです」
老女は泣きながらハンター達に告げるけれど、それを聞かされたハンター達は反応に困ってしまう。
色々な家庭があるのはわかるけれど、飯はまだか、と叫んで出ていく人の話など初めて聞いたからだ。
「えっと、つまり、おたくの旦那さんは……その、物忘れがひどいというか、そういう感じなんですか?」
「いえ、ただそう叫べばご飯がもらえると思っている、ただの食い意地張ったジジイです」
ハンター達が気を遣いながら問いかけたのだが、更に予想しなかった言葉が返ってきて脱力する。
「もういい、自分で飯を探すと言って出て行ったきり戻ってこないんです」
「森の中に入ったという話を聞いて、あそこは雑魔がいると噂されているのに……」
ジジイ、自重しろ――……と思ったハンターは1人や2人ではないだろう。
「あんな人でも私の大事な主人です、あんな人でも!」
あんな人、という言葉に妙に力が入っているのは気のせいだろうか。
「うちの主人を助けてあげてください、お願いします……」
老女深く頭を下げながら頼み込み、ハンター達はその頼みごとを聞く事にしたのだった――……。
おじいさん、あなたさっき食べたばかりでしょ!?
※※※
「だ、誰かー……! う、うちの主人を助けて下さい……!」
通りすがりのハンター達に駆け寄ってきたのは、疲れ果てた老女だった。
余程慌てていたのか、服は泥だらけで、途中何度も転んでしまったことが伺える。
「主人が、主人が……茶碗を持ったまま帰ってこないんです!」
「……茶碗?」
予想していなかった言葉が混じっており、ハンター達は首を傾げる。
「実は、主人……飯はまだか、と叫んで家から飛び出す癖があるんです」
老女は泣きながらハンター達に告げるけれど、それを聞かされたハンター達は反応に困ってしまう。
色々な家庭があるのはわかるけれど、飯はまだか、と叫んで出ていく人の話など初めて聞いたからだ。
「えっと、つまり、おたくの旦那さんは……その、物忘れがひどいというか、そういう感じなんですか?」
「いえ、ただそう叫べばご飯がもらえると思っている、ただの食い意地張ったジジイです」
ハンター達が気を遣いながら問いかけたのだが、更に予想しなかった言葉が返ってきて脱力する。
「もういい、自分で飯を探すと言って出て行ったきり戻ってこないんです」
「森の中に入ったという話を聞いて、あそこは雑魔がいると噂されているのに……」
ジジイ、自重しろ――……と思ったハンターは1人や2人ではないだろう。
「あんな人でも私の大事な主人です、あんな人でも!」
あんな人、という言葉に妙に力が入っているのは気のせいだろうか。
「うちの主人を助けてあげてください、お願いします……」
老女深く頭を下げながら頼み込み、ハンター達はその頼みごとを聞く事にしたのだった――……。
リプレイ本文
●じいちゃん、自重して!
「おじ様は好きだけど、ただ歳を食っただけのは勘弁ね」
事情を知ったエリシャ・カンナヴィ(ka0140)は呆れたように呟く。
「けど、食べ物で釣れば簡単に見つかりそうな気がするわね。ご飯を探しに行って、自分がエサになっていなければいいけど……」
少々物騒な事を言いながら、エリシャはため息を吐く。
「腹が減ってはなんとやら……ってのは分かるんだが……やれやれ……」
リック=ヴァレリー(ka0614)も呆れる事しか出来ないらしく、ため息ばかり吐いている。
「おじいさんが行方不明っていうのは大変なんだよ。歪虚も出るって言うし、おばあさんも心配しているから探してあげないといけないね……けど、森の中にご飯はないと思うんだよ」
柊崎 風音(ka1074)もやや呆れ気味に呟く。
救助対象とハンター達は会った事もない他人だけど、何となく会ったら疲れそうな相手だな、とは予想が出来ているらしく、ハンター達も気が重そうにしている。
「心配を掛けるのはいかがなものかと思うが……そうか、ご飯催促にはそんな手が……と思わず感心してしまったぞよ、まぁ、雑魔がいるのもあるが森の中で転んで大怪我とかも心配ぞよ、とにかく……急ぐぞよ!」
ディーナ(ka1748)は資料を見ながら、グッと拳を強く握り締める。
「急がなきゃいけなのは分かるんですけど、茶碗片手に森の中、狩りをするでもなくご飯探し……改めて考えると、すごくシュールな感じがしますね」
イェルバート(ka1772)も苦笑しながら呟く。
「雑魔相手に茶碗を差し出しても、ご飯をよそってくれるワケなさそうだし……いやいや、呑気に考えている場合じゃないや、そのおじいさん、早く探さないと……」
「けど、困ったおじいさんですね。少しくらい危ない目に遭った方が今後自制するんじゃないかな……もちろん冗談だけど。呆れるけど放っておけないし、何かあったら依頼人のおばあさんが悲しむからね、早く森に行って救助してあげよう」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)も肩を竦めながら呟く。
おじいさん自体には呆れて言葉が出ないほどだけど、おばあさんの懇願して来る姿を思い出すと、どうしても放っておけないのだろう。
「食欲旺盛なのはある意味結構な話じゃないかしら? ま、まぁ、さすがに茶碗片手に飛び出して行くのは問題だけど……それにしても、そんな事をされたら毎回食事を作る方としてはたまったものじゃないわね、夫婦って本当に難しいわ……」
坂斎 しずる(ka2868)も盛大なため息を吐きながら呟く。
「それにしても、森の中で狩りでもするつもりかしら……まさかとは思うけど、雑魔を食べるなんて発想には到っていないわよね? ま、まさかね……?」
坂斎の言葉に「ま、まさかね」と柊崎も引きつった笑みを浮かべながら言葉を返す。
そんなことないよ、と言えないのが少し悲しい所である。
「とりあえず、魚でも焼いてみればすぐに見つかりそうだな。斧とか薪とか借りてくかな」
リックが苦笑気味に呟き、他のハンター達もそれぞれ食料を持っていく者などが多く、餌付けに行くのか、救助に行くのか、いまいち分からない依頼が始まった――……。
●おじいさん救助のために!
救助対象は森の中という事もあり、ハンター達は手分けして探す作戦を考えていた。
第1班・エリシャ、リック、柊崎。
第2班・ディーナ、イェルバート。
第3班・ルーエル、坂斎。
「とりあえずレトルトカレーを温めておいたけど、これで出て来てくれるのを祈るのみね」
エリシャは金属製の器に入れたレトルトカレーを見ながら、ため息を吐く。
エリシャを含め、こんな方法で救助対象を探す事になるとは予想もしなかっただろう。
「おじいさん、ご飯だよ~って声を掛けながら探すのがいいかな?」
柊崎の言葉に「それいいな、案外簡単に出て来てくれるかもしれないぞ」とリックが言葉を返す。
「それでは! ジイさまを捕――……保護を最優先として餌……もとい食べ物で呼び寄せる作戦を始めるぞよ!」
ディーナの言葉に「……何か、ハンターって何なんだろうって思わされる作戦だよね」とイェルバートがボソッと呟く。
「イェルバートさん、それ多分言っちゃいけない言葉だと思う……や、僕もイェルバートさんと同じ事を思っているけどね」
ルーエルが苦笑気味にイェルバートに言葉を投げかけると「世の中っていうのは、中々自分の思い通りにいかないものだよね」と坂斎も悟ったような口調で呟いていた。
※第1班
「あれ? 何を落としてるの?」
歩きながら目印のように何かを落としているエリシャに気づき、柊崎が問い掛ける。
「個別に包装したナッツとか、あとは魚の干物を落としているのよ。上手くいけばこれに釣られて出て来てくれるかもしれないし」
エリシャの言葉に「なるほど」とリックが感心したように呟く。
「さっきからおじいさんに声を掛けているんだけど、中々見つからないんだよ……おじいさん、この辺にはいないのかな……?」
ふぅ、とため息を吐きながら柊崎が呟く。
確かに彼女は捜索を開始した頃から、大きな声で「おじいさん、ご飯ですよー」と言いながら歩いているが、救助対象らしき人物も雑魔の姿も見当たらない。
「この辺にはいないのかな? まぁ、じいさんも動き回っているだろうし見つけるのは結構苦労するかもな……」
頭を掻きながら、リックが困った表情を見せて呟く。
その時『魔導短伝話』に、第3班のルーエル&坂斎ペアから救助対象を発見したという連絡が入り、少し遅れて第2班のディーナ&イェルバートペアが雑魔との戦いを始めた、という連絡が入ってきた。
「まさか他の2班の方に行くなんてね」
エリシャがため息混じりに呟くと「けど、雑魔とおじいさんが同じ場所にいなくて良かったんだよ」と柊崎も眉を下げながら言葉を返す。
「そうだね、とりあえずそれだけが救いだよ。とにかく雑魔の方に急ごう!」
※第2班
少し時を遡り、まだ第2班が雑魔を発見していない頃――……。
「ふむぅ、ジイさまの好物を出せばすぐに出てくるかと思っていたが、食べ物だったら何でも食べる、という答えは予想外だったぞよ」
ディーナが困ったように呟くと「おじいさん、来ないね……」と魚の干物や干し肉を焼きながらイェルバートが言葉を返す。
こういう状況でなかったら、バーベキュー的な雰囲気が楽しかったかもしれない――が、ここには確かに救助者が存在していて、ハンターや救助者を狙う雑魔もいるのだ。
だから、救助者を探すために食べ物で釣るという、お間抜けな感じではあるが、ハンター達は雑魔を呼び寄せる危険も覚悟して行っている。
「……ふむ、焼く匂いや音で雑魔の気配の関知に遅れるかもしれないぞよ」
「その辺はいつも以上に警戒を強めるしかないよね……それにしてもいい匂い、食べちゃダメかなぁ……」
目の前で良い匂いを醸し出す魚と肉に、イェルバートのお腹がグゥと鳴る。
「そういえば、急ぎの依頼だったため腹ごなしもせぬまま来てしまったぞよ……少しくらい食べても分からないのではなかろうか、うむ、少しくらいなら――……」
ディーナが手を伸ばそうとした時、茂みがガサッと動く。
「……はは、美味しそうな匂いに釣られてやってきたのはお爺さんじゃなくて、涎を垂らすキツネさんの方だったね」
「しかも、キツネの視線はしっかりと我らを向いておるぞよ。焼ける匂いに釣られたにしては、魚や肉に全く興味を示しておらんのぅ」
イェルバートとディーナはそれぞれ苦笑しながら、第1班と第3班に連絡を行った後、戦闘態勢を取り始めた。
※第3班
少し時を遡り、まだ第3班が救助者を発見していない頃――……。
「そういえば、お爺様は食い意地が張っているという事だけど……わざと、大きな音を立ててポテトチップの袋を開けたら、飛びついて来たりしてくれないかしら?」
坂斎は少し考えた後、バリッ、とわざとらしく大きな音を出しながらポテトチップの袋を開ける。
「お爺さんを探し始めて少し経つけど、そんなので現れるくらいなら苦労は――……」
「く・い・も・のはどこじゃーっ!」
「……苦労しないよね! 何で現れるかな! 袋よりさっき僕達があげていた声の方が明らかに大きかったはずなのに何で!?」
茶碗を持ちながら現れた老人に、ルーエルは思わずツッコミを入れてしまう。
「そこの娘! わしに食い物を寄越すのじゃ! さっきから探しておるが中々飯が見つからんでのぅ! 菓子類はあまり食わんが、この際は仕方ない、我慢してやるぞい!」
老人は一気にまくしたてた後、坂斎からポテトチップの袋を取り上げ、口の周りを汚しながらバクバクと一心不乱に食べている。
「と、とりあえずこれも飲んだらどうかしら? 一気に食べると喉に詰まらせるわよ……?」
坂斎は持っていた緑茶も差し出すと、老人はそれすらも一気に飲み干してしまう。
(どれだけ飢えていたんだろう、このお爺さん……)
そんな事を心の中で呟きながら、ルーエルは冷めた視線を老人に向ける。
「とりあえず他の班に連絡をしようか」
ルーエルが呆れたように呟き『魔導短伝話』で他の班に救助者を見つけた事を告げると、第2班が戦闘中である連絡が入ってきた。
●合流、戦闘開始!
「とりあえず雑魚には下がっていてもらうわ」
第2班と合流したエリシャは太刀を構え『ランアウト』と『瞬脚』を使用して、雑魔との距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
「はぁ、何か雑魔も食い意地張った感じだなぁ……涎垂らしまくりじゃないか」
エリシャが攻撃を仕掛けた後、追撃するかのようにリックは『カッツバルゲル』を勢いよく雑魔に向けて振り下ろす。
イェルバートは『運動強化』を前衛で戦う仲間達に使用した後に『オートマチックピストル』で雑魔の足を狙う。
そして、その射撃に合わせるように柊崎も『アサルトライフル』で攻撃を行う。後衛が射撃で攻撃を仕掛ければ、前衛が続いて攻撃を行い、また後衛が――という良いリズムで戦闘を進めており、このままだったら楽勝で終わるとハンター達は油断ではなく、実力の差からそう思っていた――が!
「ちょ、ちょっとお爺さん! そっちは雑魔が……!」
「本気で待ちなさい!」
しかし、戦闘中ルーエルと坂斎の慌てる声が聞こえ、そちらに視線を向けると――茶碗を持ったジジイが、口の周りにポテトチップの食べかすを付けながら勢いよく向かってくる姿が見受けられた。
「わーしーのーめーしーは、いーずーこーじゃあああっ!」
救助者、いや、ジジイは第2班が焼いていた魚や肉に向かって駆けだしており、雑魔もジジイの方に向かおうとする。
「そうはさせないわ!」
「くっ、食欲がこんなにも人を狂わせるなんて……!」
坂斎は『オートマチックピストル』で攻撃を、ルーエルは『ホーリーライト』で攻撃を行い、何とか雑魔がジジイに辿り着く前に足止めをする事が出来た。
そして、その隙を突いてエリシャとリックはそれぞれの武器で攻撃を行い、最後にイェルバートが雑魔の頭を撃ち抜いて無事に雑魔退治を終えたのだった。
●食欲、それは時に迷惑行為となる
「ジイさま! 如何に食事が欲しかろうと馬鹿な真似はよすぞよ! 下手するとジイさまが狐のご飯になっていたぞよ!」
戦闘終了後、ディーナのお説教が始まったのだが、肝心のジジイは何も聞いていない。それどころかエリシャが落としていたナッツなどを拾いながら食べているという始末。
「おじ様、もう少し人の話は聞いた方がいいんじゃないかしら」
エリシャは怒りを堪えながら、優しく、静かにジジイに言葉を投げかけるが、ジジイは調子に乗っているらしくエリシャの言葉に耳を貸そうとしない。
「……ふぅ、とりあえず力ずくで聞かせてもいいかしら?」
「わー! ま、待って! お爺さんもお腹が空いているだけだと思うし……! 何気にボク達が持って来た食料を全部食い尽くしてるけど、きっと食欲旺盛なだけだし……!」
柊崎がジジイを庇うような発言をするが、彼女は分かっていないだけである。
目の前のジジイは食欲旺盛ではあるが、それが周りにとって迷惑でしかないということに。
「じ、爺さん……食欲よりも婆さんとの昔話とか聞かせて欲しいんだけどなー。俺も婚約者がいるし、将来の役に立つような話が聞きたいなーなんて」
「ふっ、女など歳を取れば変わるものよ……昔は『あなたの沢山食べる所がす・て・き』とか言いながら、今では『あなたの要望通りにご飯を出していたら破綻します!』と言う始末じゃ……くっ、昔の清楚で優しい婆さんカムバック!」
「それって、お爺様が食べ過ぎだから言うんじゃないかしら……? 普通の量だったら、多分お婆様も何も言わないと思うんだけど……」
坂斎が苦笑気味に呟くと「わしから食べる事を取ったら何が残るんじゃ!」と意味不明な反論を受けてしまう。
ジジイの言葉を聞き、ハンター達が思った事は1つ――知らねぇよ、のみである。
「お婆さんにちゃんと謝った方がいいですよ、酷く心配していたし……」
ルーエルが呆れ気味に呟くと「心配か、それなら今後はわしの飯も少しは増えるかもしれんのぅ」とどんな話をしていても、最終的には食事の話に持っていくらしい。
(駄目だ、このお爺さん誰か何とかしないとまた繰り返す……)
ルーエルは心の中で思ったが、お爺さんの食欲を減退させる方法など思いつかず、結局はどうしようもないという結論に至る。
「爺さん、1つだけ言わせてもらう。もう少し食欲を抑えないとまた酷い目に遭うぞ?」
リックが意を決して言ったのだが……「酷い目? わしは酷い目になんか遭ってないぞ、むしろこの森は食い物が沢山落ちていることが判明してわしは幸せじゃ!」と至福の笑顔を見せる。
「いやいやいやいや! 落ちてたんじゃなくて、爺さんを探すためのものだからな!? それ、普通に落ちてるなんてありえないから!」
リックも思わずツッコミを入れたが、ジジイは全く聞いていない。
「次も魚とか落ちてるといいのぅ、しかもご丁寧に焼いてある! 最近の落し物は意外と便利である事が分かったぞい。ほら、そこの奴ら何をしとる、さっさと帰るぞ」
救助された事にも気づかず、森に焼き魚が落ちていると信じ込む――。
(うちの爺ちゃん婆ちゃんだったら、こんな風にはならないだろうな……婆ちゃん、笑顔で怒るから数秒で爺ちゃんの負けが決定しそうだ……うん、あのお爺さんを止めるにはお婆さんに強くなってもらうしかない)
イェルバートは心の中で呟き、上機嫌で前を歩くジジイの後ろ姿を見ながら、他のハンター同様に深いため息を吐いたのだった。
END
「おじ様は好きだけど、ただ歳を食っただけのは勘弁ね」
事情を知ったエリシャ・カンナヴィ(ka0140)は呆れたように呟く。
「けど、食べ物で釣れば簡単に見つかりそうな気がするわね。ご飯を探しに行って、自分がエサになっていなければいいけど……」
少々物騒な事を言いながら、エリシャはため息を吐く。
「腹が減ってはなんとやら……ってのは分かるんだが……やれやれ……」
リック=ヴァレリー(ka0614)も呆れる事しか出来ないらしく、ため息ばかり吐いている。
「おじいさんが行方不明っていうのは大変なんだよ。歪虚も出るって言うし、おばあさんも心配しているから探してあげないといけないね……けど、森の中にご飯はないと思うんだよ」
柊崎 風音(ka1074)もやや呆れ気味に呟く。
救助対象とハンター達は会った事もない他人だけど、何となく会ったら疲れそうな相手だな、とは予想が出来ているらしく、ハンター達も気が重そうにしている。
「心配を掛けるのはいかがなものかと思うが……そうか、ご飯催促にはそんな手が……と思わず感心してしまったぞよ、まぁ、雑魔がいるのもあるが森の中で転んで大怪我とかも心配ぞよ、とにかく……急ぐぞよ!」
ディーナ(ka1748)は資料を見ながら、グッと拳を強く握り締める。
「急がなきゃいけなのは分かるんですけど、茶碗片手に森の中、狩りをするでもなくご飯探し……改めて考えると、すごくシュールな感じがしますね」
イェルバート(ka1772)も苦笑しながら呟く。
「雑魔相手に茶碗を差し出しても、ご飯をよそってくれるワケなさそうだし……いやいや、呑気に考えている場合じゃないや、そのおじいさん、早く探さないと……」
「けど、困ったおじいさんですね。少しくらい危ない目に遭った方が今後自制するんじゃないかな……もちろん冗談だけど。呆れるけど放っておけないし、何かあったら依頼人のおばあさんが悲しむからね、早く森に行って救助してあげよう」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)も肩を竦めながら呟く。
おじいさん自体には呆れて言葉が出ないほどだけど、おばあさんの懇願して来る姿を思い出すと、どうしても放っておけないのだろう。
「食欲旺盛なのはある意味結構な話じゃないかしら? ま、まぁ、さすがに茶碗片手に飛び出して行くのは問題だけど……それにしても、そんな事をされたら毎回食事を作る方としてはたまったものじゃないわね、夫婦って本当に難しいわ……」
坂斎 しずる(ka2868)も盛大なため息を吐きながら呟く。
「それにしても、森の中で狩りでもするつもりかしら……まさかとは思うけど、雑魔を食べるなんて発想には到っていないわよね? ま、まさかね……?」
坂斎の言葉に「ま、まさかね」と柊崎も引きつった笑みを浮かべながら言葉を返す。
そんなことないよ、と言えないのが少し悲しい所である。
「とりあえず、魚でも焼いてみればすぐに見つかりそうだな。斧とか薪とか借りてくかな」
リックが苦笑気味に呟き、他のハンター達もそれぞれ食料を持っていく者などが多く、餌付けに行くのか、救助に行くのか、いまいち分からない依頼が始まった――……。
●おじいさん救助のために!
救助対象は森の中という事もあり、ハンター達は手分けして探す作戦を考えていた。
第1班・エリシャ、リック、柊崎。
第2班・ディーナ、イェルバート。
第3班・ルーエル、坂斎。
「とりあえずレトルトカレーを温めておいたけど、これで出て来てくれるのを祈るのみね」
エリシャは金属製の器に入れたレトルトカレーを見ながら、ため息を吐く。
エリシャを含め、こんな方法で救助対象を探す事になるとは予想もしなかっただろう。
「おじいさん、ご飯だよ~って声を掛けながら探すのがいいかな?」
柊崎の言葉に「それいいな、案外簡単に出て来てくれるかもしれないぞ」とリックが言葉を返す。
「それでは! ジイさまを捕――……保護を最優先として餌……もとい食べ物で呼び寄せる作戦を始めるぞよ!」
ディーナの言葉に「……何か、ハンターって何なんだろうって思わされる作戦だよね」とイェルバートがボソッと呟く。
「イェルバートさん、それ多分言っちゃいけない言葉だと思う……や、僕もイェルバートさんと同じ事を思っているけどね」
ルーエルが苦笑気味にイェルバートに言葉を投げかけると「世の中っていうのは、中々自分の思い通りにいかないものだよね」と坂斎も悟ったような口調で呟いていた。
※第1班
「あれ? 何を落としてるの?」
歩きながら目印のように何かを落としているエリシャに気づき、柊崎が問い掛ける。
「個別に包装したナッツとか、あとは魚の干物を落としているのよ。上手くいけばこれに釣られて出て来てくれるかもしれないし」
エリシャの言葉に「なるほど」とリックが感心したように呟く。
「さっきからおじいさんに声を掛けているんだけど、中々見つからないんだよ……おじいさん、この辺にはいないのかな……?」
ふぅ、とため息を吐きながら柊崎が呟く。
確かに彼女は捜索を開始した頃から、大きな声で「おじいさん、ご飯ですよー」と言いながら歩いているが、救助対象らしき人物も雑魔の姿も見当たらない。
「この辺にはいないのかな? まぁ、じいさんも動き回っているだろうし見つけるのは結構苦労するかもな……」
頭を掻きながら、リックが困った表情を見せて呟く。
その時『魔導短伝話』に、第3班のルーエル&坂斎ペアから救助対象を発見したという連絡が入り、少し遅れて第2班のディーナ&イェルバートペアが雑魔との戦いを始めた、という連絡が入ってきた。
「まさか他の2班の方に行くなんてね」
エリシャがため息混じりに呟くと「けど、雑魔とおじいさんが同じ場所にいなくて良かったんだよ」と柊崎も眉を下げながら言葉を返す。
「そうだね、とりあえずそれだけが救いだよ。とにかく雑魔の方に急ごう!」
※第2班
少し時を遡り、まだ第2班が雑魔を発見していない頃――……。
「ふむぅ、ジイさまの好物を出せばすぐに出てくるかと思っていたが、食べ物だったら何でも食べる、という答えは予想外だったぞよ」
ディーナが困ったように呟くと「おじいさん、来ないね……」と魚の干物や干し肉を焼きながらイェルバートが言葉を返す。
こういう状況でなかったら、バーベキュー的な雰囲気が楽しかったかもしれない――が、ここには確かに救助者が存在していて、ハンターや救助者を狙う雑魔もいるのだ。
だから、救助者を探すために食べ物で釣るという、お間抜けな感じではあるが、ハンター達は雑魔を呼び寄せる危険も覚悟して行っている。
「……ふむ、焼く匂いや音で雑魔の気配の関知に遅れるかもしれないぞよ」
「その辺はいつも以上に警戒を強めるしかないよね……それにしてもいい匂い、食べちゃダメかなぁ……」
目の前で良い匂いを醸し出す魚と肉に、イェルバートのお腹がグゥと鳴る。
「そういえば、急ぎの依頼だったため腹ごなしもせぬまま来てしまったぞよ……少しくらい食べても分からないのではなかろうか、うむ、少しくらいなら――……」
ディーナが手を伸ばそうとした時、茂みがガサッと動く。
「……はは、美味しそうな匂いに釣られてやってきたのはお爺さんじゃなくて、涎を垂らすキツネさんの方だったね」
「しかも、キツネの視線はしっかりと我らを向いておるぞよ。焼ける匂いに釣られたにしては、魚や肉に全く興味を示しておらんのぅ」
イェルバートとディーナはそれぞれ苦笑しながら、第1班と第3班に連絡を行った後、戦闘態勢を取り始めた。
※第3班
少し時を遡り、まだ第3班が救助者を発見していない頃――……。
「そういえば、お爺様は食い意地が張っているという事だけど……わざと、大きな音を立ててポテトチップの袋を開けたら、飛びついて来たりしてくれないかしら?」
坂斎は少し考えた後、バリッ、とわざとらしく大きな音を出しながらポテトチップの袋を開ける。
「お爺さんを探し始めて少し経つけど、そんなので現れるくらいなら苦労は――……」
「く・い・も・のはどこじゃーっ!」
「……苦労しないよね! 何で現れるかな! 袋よりさっき僕達があげていた声の方が明らかに大きかったはずなのに何で!?」
茶碗を持ちながら現れた老人に、ルーエルは思わずツッコミを入れてしまう。
「そこの娘! わしに食い物を寄越すのじゃ! さっきから探しておるが中々飯が見つからんでのぅ! 菓子類はあまり食わんが、この際は仕方ない、我慢してやるぞい!」
老人は一気にまくしたてた後、坂斎からポテトチップの袋を取り上げ、口の周りを汚しながらバクバクと一心不乱に食べている。
「と、とりあえずこれも飲んだらどうかしら? 一気に食べると喉に詰まらせるわよ……?」
坂斎は持っていた緑茶も差し出すと、老人はそれすらも一気に飲み干してしまう。
(どれだけ飢えていたんだろう、このお爺さん……)
そんな事を心の中で呟きながら、ルーエルは冷めた視線を老人に向ける。
「とりあえず他の班に連絡をしようか」
ルーエルが呆れたように呟き『魔導短伝話』で他の班に救助者を見つけた事を告げると、第2班が戦闘中である連絡が入ってきた。
●合流、戦闘開始!
「とりあえず雑魚には下がっていてもらうわ」
第2班と合流したエリシャは太刀を構え『ランアウト』と『瞬脚』を使用して、雑魔との距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
「はぁ、何か雑魔も食い意地張った感じだなぁ……涎垂らしまくりじゃないか」
エリシャが攻撃を仕掛けた後、追撃するかのようにリックは『カッツバルゲル』を勢いよく雑魔に向けて振り下ろす。
イェルバートは『運動強化』を前衛で戦う仲間達に使用した後に『オートマチックピストル』で雑魔の足を狙う。
そして、その射撃に合わせるように柊崎も『アサルトライフル』で攻撃を行う。後衛が射撃で攻撃を仕掛ければ、前衛が続いて攻撃を行い、また後衛が――という良いリズムで戦闘を進めており、このままだったら楽勝で終わるとハンター達は油断ではなく、実力の差からそう思っていた――が!
「ちょ、ちょっとお爺さん! そっちは雑魔が……!」
「本気で待ちなさい!」
しかし、戦闘中ルーエルと坂斎の慌てる声が聞こえ、そちらに視線を向けると――茶碗を持ったジジイが、口の周りにポテトチップの食べかすを付けながら勢いよく向かってくる姿が見受けられた。
「わーしーのーめーしーは、いーずーこーじゃあああっ!」
救助者、いや、ジジイは第2班が焼いていた魚や肉に向かって駆けだしており、雑魔もジジイの方に向かおうとする。
「そうはさせないわ!」
「くっ、食欲がこんなにも人を狂わせるなんて……!」
坂斎は『オートマチックピストル』で攻撃を、ルーエルは『ホーリーライト』で攻撃を行い、何とか雑魔がジジイに辿り着く前に足止めをする事が出来た。
そして、その隙を突いてエリシャとリックはそれぞれの武器で攻撃を行い、最後にイェルバートが雑魔の頭を撃ち抜いて無事に雑魔退治を終えたのだった。
●食欲、それは時に迷惑行為となる
「ジイさま! 如何に食事が欲しかろうと馬鹿な真似はよすぞよ! 下手するとジイさまが狐のご飯になっていたぞよ!」
戦闘終了後、ディーナのお説教が始まったのだが、肝心のジジイは何も聞いていない。それどころかエリシャが落としていたナッツなどを拾いながら食べているという始末。
「おじ様、もう少し人の話は聞いた方がいいんじゃないかしら」
エリシャは怒りを堪えながら、優しく、静かにジジイに言葉を投げかけるが、ジジイは調子に乗っているらしくエリシャの言葉に耳を貸そうとしない。
「……ふぅ、とりあえず力ずくで聞かせてもいいかしら?」
「わー! ま、待って! お爺さんもお腹が空いているだけだと思うし……! 何気にボク達が持って来た食料を全部食い尽くしてるけど、きっと食欲旺盛なだけだし……!」
柊崎がジジイを庇うような発言をするが、彼女は分かっていないだけである。
目の前のジジイは食欲旺盛ではあるが、それが周りにとって迷惑でしかないということに。
「じ、爺さん……食欲よりも婆さんとの昔話とか聞かせて欲しいんだけどなー。俺も婚約者がいるし、将来の役に立つような話が聞きたいなーなんて」
「ふっ、女など歳を取れば変わるものよ……昔は『あなたの沢山食べる所がす・て・き』とか言いながら、今では『あなたの要望通りにご飯を出していたら破綻します!』と言う始末じゃ……くっ、昔の清楚で優しい婆さんカムバック!」
「それって、お爺様が食べ過ぎだから言うんじゃないかしら……? 普通の量だったら、多分お婆様も何も言わないと思うんだけど……」
坂斎が苦笑気味に呟くと「わしから食べる事を取ったら何が残るんじゃ!」と意味不明な反論を受けてしまう。
ジジイの言葉を聞き、ハンター達が思った事は1つ――知らねぇよ、のみである。
「お婆さんにちゃんと謝った方がいいですよ、酷く心配していたし……」
ルーエルが呆れ気味に呟くと「心配か、それなら今後はわしの飯も少しは増えるかもしれんのぅ」とどんな話をしていても、最終的には食事の話に持っていくらしい。
(駄目だ、このお爺さん誰か何とかしないとまた繰り返す……)
ルーエルは心の中で思ったが、お爺さんの食欲を減退させる方法など思いつかず、結局はどうしようもないという結論に至る。
「爺さん、1つだけ言わせてもらう。もう少し食欲を抑えないとまた酷い目に遭うぞ?」
リックが意を決して言ったのだが……「酷い目? わしは酷い目になんか遭ってないぞ、むしろこの森は食い物が沢山落ちていることが判明してわしは幸せじゃ!」と至福の笑顔を見せる。
「いやいやいやいや! 落ちてたんじゃなくて、爺さんを探すためのものだからな!? それ、普通に落ちてるなんてありえないから!」
リックも思わずツッコミを入れたが、ジジイは全く聞いていない。
「次も魚とか落ちてるといいのぅ、しかもご丁寧に焼いてある! 最近の落し物は意外と便利である事が分かったぞい。ほら、そこの奴ら何をしとる、さっさと帰るぞ」
救助された事にも気づかず、森に焼き魚が落ちていると信じ込む――。
(うちの爺ちゃん婆ちゃんだったら、こんな風にはならないだろうな……婆ちゃん、笑顔で怒るから数秒で爺ちゃんの負けが決定しそうだ……うん、あのお爺さんを止めるにはお婆さんに強くなってもらうしかない)
イェルバートは心の中で呟き、上機嫌で前を歩くジジイの後ろ姿を見ながら、他のハンター同様に深いため息を吐いたのだった。
END
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相談所。 ディーナ(ka1748) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/09/03 06:46:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/31 16:49:36 |