ユグディラと聖女とゴブリンと

マスター:秋風落葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/05/19 07:30
完成日
2016/05/24 00:54

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ここはグラズヘイム王国東部にあるリンダールの森。
 時折とある幻獣の姿を見かけることを除けば、普段は平穏な森林地帯である。
 しかしこの日、いずこかから迷い込んできたゴブリンの群れにより、静かな森が脅かされようとしていた。


 森の中を歩くゴブリン達。それぞれ薄汚れた剣と鎧を身につけており、新たな居住地にでもしようというのか、あたりをキョロキョロと見回している。
 そんな亜人達を遠くから窺う者たちがいた。茂みに潜む彼らの姿は一言でいうと猫だった。この地に住まう幻獣ユグディラである。
(おい、どーすんだよ!? 俺たちのねぐらがあいつらに荒らされちまうぞ!?)
(ア、アニキ……やばいですよ……)
(あわわわ……)
 やや大柄の茶トラの個体とそれの取り巻き然とした二体。最初の言葉を発したのは茶トラだったが、その言葉は己の子分ではなく、この場にいるもう一体の仲間に向けられていた。
 問いかけの対象であるつややかな黒い毛並みの一体が答えた。彼らと同じ、ユグディラの間でしか通用しない言語で。
(助けを呼びに行くしかないニャ)
(助け? おい、それはまさか……)
(そうだニャ。人間だニャ)
(それはゴメンだぜ!)
 茶トラは毛を逆立て、黒ユグディラにすごんだ。
 彼らユグディラは森の近くにある街によく出没し、主に食物を狙った窃盗を働いていた。
 そのせいもあって、かの街に住む人間達のユグディラに対する心証はすさまじく悪い。
 過去に、この黒いユグディラが人間の盗人から濡れ衣を着せられて拘束され、やがて誤解であることが分かって街の住人が頭を下げるという出来事があったが、それだけでユグディラたちの悪行が帳消しになるわけでもない。
 この黒ユグディラは最近人間というものに興味を抱くようになり、それと同時に街で盗みをしなくなっていたが、茶トラのユグディラはもちろんそんな考えを持ってはいなかった。
 茶トラの視点では人間がわざわざ自分たちの為に出向いてくれるとは思えないし、それに借りを作りたくもない。
(俺たちでやるぞ)
 彼らは他者の感覚を一時的に狂わせる幻惑の力を多少行使できる。それに、軽い身のこなしに加えて武器を用いた武術の心得もある。地の利を生かせばゴブリンにもひけをとらないかもしれない。だが……。
(無理だニャ。数が違いすぎるニャ)
 贔屓目に見ても黒ユグディラの言う通りであろう。しかしそれを認めたくないのか茶トラはますます不機嫌な顔になった。
(ちっ。お前は人間と関わってから腑抜けちまったな! 勝手にしろ! 俺たちも好きにするからな。いくぞお前たち!)
(ア、アニキィ……)
(うう……)
 取り巻きの二体は黒ユグディラに視線を投げたものの、茶トラに逆らう度胸はないのか彼の後をついていった。
(……)
 黒ユグディラはかすかに逡巡したものの、自分が加わったところで戦況がくつがえらないのは目に見えている。物音を立てぬよう、素早くこの場を離れた。


 黒ユグディラは人間達の街を駆ける。
 行くべき場所はもう分かっている。かつて自分を助けてくれた、ハンターという人種が集まるところだ。人が通う往来を抜けて角をいくつも曲がると、時々ひそかに訪れていた建物が見えてきた。ハンターオフィスである。
 閉まっていた扉を一人の男が開けてくぐった瞬間、黒ユグディラは素早く開いた空間を通り抜けて建物の中に滑り込む。そして探していた人物の姿を見つけると、その銀髪の人間がつくテーブルにぴょんと飛び乗った。
「!? 貴方は!」
 銀髪の女性――ロザリーは闖入者に驚き、目を見開いた。
 かつての因縁から一瞬メイスに手が伸びそうになったロザリーだったが、その指が柄に触れる前に動きを止める。目の前の黒いユグディラの瞳が、とても真剣な光を帯びていたからだ。
 それに、最近はこの街で黒いユグディラが盗みをしなくなったと街の住人が噂していたのを、ロザリーは思い出したからである。
 ロザリーはユグディラの瞳をじっと見つめた。
 黒ユグディラは、そんな彼女に対してテレパシーを送る。途端にロザリーは顔をしかめた。ユグディラの瞳を見返している内に、剣と血と荒廃を想起させる陰惨なイメージがなぜか心に湧き上がってきたからだ。
「まさか……貴方の森に危機が迫っているのですか?」
 黒ユグディラはこくりと頷く。
 そしてテーブルから飛び降りると、扉の方へと向かい、物言いたげに振り返った。
 ロザリーはもちろん過去に自分の食事が盗まれたことを忘れているわけではなかったが、それでも黒ユグディラを安心させるように笑みを浮かべて頷いていた。
「……分かりました。すぐに向かいます」
 ロザリーは椅子から立ち上がり、周囲を見回した。そこには何事かと様子を窺っているハンター達がいる。
「皆さん、力を貸していただけませんか? どうやらリンダールの森で何かが起きているようです」

リプレイ本文


「ユグディラが助けを求めている? 敵は何だ? ゴブリンか? ゴブリンだろう? ゴブリンのはずですよね?」
 カイン・マッコール(ka5336)は椅子を蹴って立ち上がり、なぜかロザリーを問い詰めた。
「いえ、さすがにそこまでは……」
 やや気圧されながら歯切れ悪く答えつつも、この件を依頼した本猫に視線で助けを求めるロザリー。
 黒ユグディラはこくこくと頷いていた。
 敵がゴブリンという確証が取れたカインも頷く。
「僕にはユグディラ達を助ける義理もないし、彼らを助けられる保証もないが、ゴブリンをココで放置すれば村が滅びる、ユグディラ達が嫌われ者だからといってゴブリンを無視して彼らを見殺しにしていい理由にはならない、ゴブリンは殺すだけだ」
 どうやらユグディラからの依頼を受けるという宣言らしい。カインは復讐のためにゴブリンを殲滅すると誓った男である。
「ユグディラが人間に助けを? 何と言うか……珍しいですね」
 事の顛末を見守っていたヴァルナ=エリゴス(ka2651)もロザリーと黒ユグディラの下へとやってくる。
「それはそうと、助けを求めてきた相手を無下には出来ませんね。いいでしょう、貴方のお仲間を助けに行きましょうか」
 と真面目な顔で口上を述べながら黒ユグディラの手を嬉しそうににぎにぎしていた。黒ユグディラもまんざらではない様子。もしくは、彼女が隠し持つツナ缶の存在に気付いていただけかもしれない。
「戦闘に使うわけじゃないから、多少臆病でもいいんで脚速いの準備して」
 クリス・クロフォード(ka3628)も椅子から立ち上がり、オフィスの受付嬢に馬の調達を頼む。受付嬢は頷くとすぐに手配を始めた。
 事態は一刻を争う。リンダールの森はそこまで離れてはいないが、さすがに徒歩では手遅れになる可能性がある。
 馬の希望者を募る受付嬢の声に手を挙げたのはアイビス・グラス(ka2477)だ。
「助けを求めてるユグディラか……前に人に迷惑をかけたとは言え、やっぱり見過ごす訳には行かないのよね……甘いかな、私って」
 誰にも聞こえない声でそう呟くアイビス。
 騒がしくなり始めたオフィスの扉が開き、新たな客が足を踏み入れた。
「あ、いつかの黒いユグディラ。またあなたなの?」
 オフィスに入ってきたキサ・I・アイオライト(ka4355)が、床の上に鎮座している黒い猫を見て目を丸くした。
 ユグディラは振り返ると、久しぶりといった表情でニャンと鳴いた。
 ロザリーから事情を聞いたキサは頷く。
「ここまで縁があるなら、今さら断る理由も無いでしょ。私はいつもと得物が違うけど、それなりには役に立てるはずよ。この服装は別件の仕事用なの。武器関係もね」
 普段と違う武装でもゴブリンに遅れはとるまい。キサは胸を張る。
「……思うところが無いじゃないが、まあ、ロザリーの姐さんからの頼みだからな。俺に否はない。喜んで協力させて貰うな」
 ロザリーに好意を抱いているAnbar(ka4037)としては、依頼を受けない理由はなかった。
「Anbarさんもありがとうございます」
 問題はロザリーがその気持ちに未だ気付いていないということなのだが……。
「二本の足で歩く猫かあ……長靴を履いた猫みたいだね」
 ユグディラの姿にリアルブルーでの記憶を刺激されたのはバジル・フィルビー(ka4977)。何かの役に立つかと、ロザリーと人語を解するらしいユグディラに彼らの好物を尋ねた。
「……少なくともこの子はツナサンドからうなぎアイスまで、なんでも食べるようですわ」
 ロザリーの言葉にバジルは頷いて自分の荷物を改めた。


 全員が自前の、もしくはオフィスから借り受けた馬やバイクに乗りリンダールの森を目指す。
 馬上で今回の件について深く考えているのはエステル(ka5826)。
(ゴブリンも大変な問題ですが、ユグディラさんと街の人の関係もどうにか修復できないものでしょうか? 今回黒ユグディラさんが駆けつけてくれたおかげで、森の中にゴブリンが来たとすぐに知ることが出来たわけですし、お互いにいがみ合う事をやめられれば……)
 エステルは黒ユグディラにちらりと視線を向ける。件の猫はヴァルナの馬にタンデムしていた。

 道中は特に何事もなく、無事にリンダールの森のまだ深くない場所まで乗り付けたハンター達。
「仲間と別れた場所ぐらいは分かるでしょう。案内をお願いできますか?」
 馬を降りたヴァルナは黒ユグディラに尋ねる。ユグディラは頷き、音もなく大地に着地した。
 カインは森の様子を調べながらぽつりと言う。
「油を撒いて森ごと一気に焼き尽くそうと思ったけど、生木ばっかりな上に間隔が結構広いし、延焼しない可能性が高いから無理かな」
 もちろん黒ユグディラは毛を逆立てて全力で抗議した。


 ハンター達はそれぞれ手分けしつつ、森の中の探索を開始する。
 アイビスはスキルの瞬脚を用い、やや先行する形で敵を見つけようとしていた。
 Anbarは持ち前の鋭敏視覚と方向感覚を生かして周囲に目を配る。キサもスキルの超聴覚により、野生の動物霊の力を借りて聴力を上昇させ、物音を探る。
(すでに事が動き出してるのなら、きっと現場は騒がしくなってるはず)
 やがてハンターたちの目が、耳が、異変を察知した。
 緑の森の中にちらつく異形の影、下生えを踏みつける荒々しい音。
 騒ぎの中央に真っ先に駆けつけたのは、瞬脚で素早く移動したアイビスだった。
「あんた達の相手はこっちよ!」
 突然の口上に驚き、振り向く数体のゴブリン達。中の一体は小さな猫を追いかけている。もちろんユグディラだろう。
 アイビスは周囲の木々を蹴って飛びながら近づき、ユグディラを追い回す一体のゴブリンの頭を思い切りぶん殴った。
 たまらず吹き飛ぶゴブリン。
 その隙にユグディラはそそくさとその場を離れたが、まだ事態を把握できていないようだ。
「あなた、私達の言葉はわかるのよね?」
 クリスが黒ユグディラに尋ね、幻獣は頷いた。
「なら、あの子達にさがるように言ってもらえないかしら。後ろにいてもらった方が守り易いしね。無理しない程度でいいわ。じゃ、ヨロシク!」
 クリスの求めに応じ、黒ユグディラは彼らにしか分からない言葉で鳴いた。
 さきほどのユグディラは、天の助けとばかりに彼らの下へと走り寄る。
 それと同時に黒ユグディラの声を聴いたもう一体のユグディラが、別方向から駆けて来た。しかしそれに追いすがる二体のゴブリン。
 バジルはすばやくその間に割って入り、スターライトロッドにフォースクラッシュの力を込めて思い切り振りぬいた。ゴブリンはそれを避けられず、したたかに打たれて倒れ伏す。
 もう一体のゴブリンもヴァルナの刺突剣、コリシュマルド「フラーメ・ルージュ」がその命を速やかに奪った。
 九死に一生を得たユグディラは茂みに飛び込み、しばらくして恐る恐る顔を出した。
「僕たちを利用すれば良いんだよ。ね?」
 自分たちの手でゴブリン達をどうにかしようとしていたらしい、小さな幻獣達に対してそういたずらっぽく囁くバジル。
「大人しくしていたら差し上げます」
 ヴァルナはなんとか保護できた二体のユグディラに手持ちのツナ缶を開けてちらつかせながら、戦場を油断なく見据えた。

 まだ異変に気付かず、弱者をいたぶるように遊んでいた残りのゴブリン達もようやく邪魔が入ったことを理解した。一体はばらけている仲間を呼ぶ声を上げる。
 集まってきた亜人達は新たな敵に対して向き直り、剣を構えた。
 しかし、そうでないゴブリンも何体かいる。木々に紛れて未だ何者かが亜人達と切り結んでいるのだ。
 それはいまだ逃げるそぶりを見せない茶トラ柄のユグディラだ。黒ユグディラがもう一度彼に呼びかけるが、茶トラは聞く耳を持たない。
 茶トラは小さな槍を手にゴブリンとやりあっている。意外にも一対一ならゴブリンに勝てるのではないかと思えるほどの戦いぶりではあった。
 とはいえ多勢に無勢。今も背後を取ったゴブリンの剣が彼のすぐ側をかすめ、毛が数本宙を舞ったところだ。
「ロザリーさん。プロテクションを!」
「分かりましたわ!」
 エステルの要請に応え、ロザリーはすぐさまスキルの行使に入る。たちまち光が茶トラの体を覆う。
 さらにカインが放った矢が空気を震わせてゴブリンの喉元に突き立った。茶トラに切りかかろうとしていた亜人はどうと倒れ、絶命する。
「練習通り、次はどいつだ? 一匹も逃さない、ゴブリン共は皆殺しだ」
 カインはそう口にしながらダガー「コルタール」を引き抜く。続いて黒ユグディラが茶トラの近くにいる別のゴブリンに幻惑の力を使った。
 茶トラはよろめいたゴブリンの隙をつき、その足へと槍の穂先を突き刺した。悲鳴をあげて後退する亜人。
 茶トラが黒ユグディラとハンター達の方を一瞬だけ振り向き、何かを言った。黒ユグディラも言い返す。
 しかし、ハンター達にその言葉の意味は分からない。
 その意を誰かが尋ねる前に、ゴブリン達が彼らに殺到してきた。


「一人頭3~4匹ってトコかしら?」
 ゴブリン達の気を引くようにソウルトーチのオーラを纏うクリスは、威嚇するかのようにバキバキ指を鳴らしている。襲い掛かってきたゴブリンの剣をかわすと、その腕を掴んで亜人の群れにぶん投げた。
 Anbarは野獣のような咆哮をあげ、ゴブリンをすくませる。それでも向かってくる相手は斧で切って捨てた。
 エステルとバジルのヒールが、全身に擦り傷を作っていた子分ユグディラ達の体を優しく包む。
 アイビスは連撃を繰り出し、迫るゴブリンを圧倒した。
 その間、茶トラはハンター達の下へと逃げてくることもなく孤軍奮闘している。
 そんな茶トラを見据えつつ、キサはなぜか懐から花束を取り出した。
「拳銃の扱いには慣れてないの。流れ弾に当たりたくなかったら大人しくしてなさい」
 キサが本気なのか冗談なのか分からないことを口にしつつ狙いをつける。
 彼女が手に持っているのはブーケデリンジャーという、花束の中に拳銃が仕込まれた武器である。
 キサの言葉に茶トラの背が一瞬びくりと震え、今まで逃げるそぶりも見せなかった彼が亜人と切り合いながらも少しずつハンター達の下へと移動し始めた。
 それを横目で見つつキサはトリガーを引く。
 先ほどの言葉は本当だったのか、銃弾は目標をそれて飛んでいった。幸い味方やユグディラに当たることもなかったが。
「……勇気と無謀は違うのよ。森を守ろうとする心意気は立派。けれどね、茶トラのユグディラさん。もしもあなたが倒れたら、誰がこの森を守るのかしら。死んだらその先は守れない。信頼しろとは言わないけど、ここは私たちに任せてほしいわね」
 短剣ローゼンメッサーに武器を持ち替えながら、まだ戦いをやめない茶トラの背へと言葉をかけた。

 アイビスは木々を利用しながらゴブリンに肉薄し、瞬く間に打ち倒していく。亜人らが繰り出す反撃の刃はその体にかすりもしない。
「格闘戦になら誰にも負けるつもりなんてないから……!」
 アイビスの宣言通り、また新たなゴブリンが打撃を受けて地を這った。
 キサのファミリアアタックが挑みかかってきた亜人を吹き飛ばし、バジルのホーリーライトが胸を穿つ。
 クリスも拳で、あるいは蹴りでゴブリンを駆逐していく。
「リハビリにはちょうど良かったかもしれないわね」
 ぽつりと呟き、手近なゴブリンを殴り倒した。

 ハンター達とゴブリン達との力の差は歴然であり、数の差はあっという間に逆転した。茶トラの前のゴブリンもついに倒れる。さすがに茶トラも新たな敵に向かう元気はもう残っていないようだ。
 ユグディラ達の安全はもはや確保されたと言ってよいだろう。ゴブリンの数も残り少ない。亜人達は猫を追いかけていた時の気分が抜けておらず、逃げ時を見失っていたのだ。
 クラッシュブロウにより、一撃で敵をしとめたAnbarはロザリーの方を振り向いた。
「……ロザリー! 思う存分自分が戦いたいように戦ってくれればいいぜ。フォローは俺達に任せてくれ」
「了解ですわ!」
 援護に徹していた今までの鬱憤を晴らすかのように、前へと出たロザリーがメイスを手にゴブリンを叩きのめす。
 ヴァルナはユグディラ達が飛び出していかないように注意しつつ、彼らに寄り添うように武器を構えている。往生際の悪いゴブリンが襲いかかかってきたら真っ先に迎撃するつもりだ。
 しかし、さすがにもう挑んでくる気力はないらしい。
「逃げてもいいけど、きっちり心は折れて帰ってね?」
 もはや戦意を失ったゴブリン達にクリスはそう呟いたが、ゴブリンにとっては不幸なことにカイン・マッコールがいた。
「下手に生き残ってこちらの情報がゴブリンに広まれば対策されかねない」
 カインの手には返り血にまみれた短剣が握られている。
 ゴブリン達の運命は、もはや決まっていたのである。


 まだ息があるゴブリンがいないかチェックしているカインをよそに、残りのハンターとユグディラは一箇所に集まって、バジルが持ってきたお菓子を食べつつ思い思いに過ごしていた。彼らの傷はクルセイダー達の力によってすでに完治している。
 そんな中、ユグディラ達の前に立つのはエステル。
「街の人とユグディラさん達の関係の根が深いのならユグディラさんが森の見回りをし、代わりに人間が食料を交換したり戦力を貸す。そんな利用しあう関係からでも少しずつ改善が出来るかもしれません」
 幻獣達を心配しているエステルはユグディラ――特に茶トラ――にこんこんと説いて聞かせていた。
「人間も住んでる場所の近くでゴブリンに繁殖されると困りますから、自分達だけではなく人間達を利用する感じで……どうでしょう?」
 必死に言葉をかけるエステルであったが……。
 黒ユグディラと助けてもらった茶トラの子分はともかく、茶トラの態度はふてぶてしい。今も寝転がってそっぽを向きつつ毛づくろいしていた。助け自体が余計なことだったと思っているのかもしれない。そのくせにバジルの用意してきたお菓子やヴァルナのツナ缶は悪気もなく食べていた。
「いい? 今回はたまたま助けてもらえたからいいけど、次はこう上手くはいかないわよ」
「……これからはあまり悪さをするなよ。次は俺達みたいな物好きが助けてやれるとは限らないし。な」
 業を煮やしたらしいクリスとAnbarも猫たちに説教をする。
「悪さも程々にしないと……次は無いわよ。OK?」
 クリスのダメ押しに茶トラの子分二体はこくこくと頷いているが、やはり親分は態度を改めない。茶トラがニャーゴと鳴き、黒ユグディラがニャアニャアと返す。

 しかしそれでも、街の住人達とここのユグディラ達との関係が、今回の事件をきっかけに少しずつ変わっていく……のかもしれない。

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MVP一覧

  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライトka4355
  • 聖堂教会司祭
    エステルka5826

重体一覧

参加者一覧

  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォード(ka3628
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 願いに応える一閃
    Anbar(ka4037
    人間(紅)|19才|男性|霊闘士
  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライト(ka4355
    エルフ|17才|女性|霊闘士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 聖堂教会司祭
    エステル(ka5826
    人間(紅)|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
キサ・I・アイオライト(ka4355
エルフ|17才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/05/18 00:58:30
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/17 20:19:05