ゲスト
(ka0000)
送る音色
マスター:月宵
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/18 09:00
- 完成日
- 2016/05/26 06:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の地。そこには様々な部族が存在している。彼らにはそれぞれ崇拝し、信仰するトーテムと言うものが存在する。彼ら部族をまとめあげるに不可欠なもの、言わば生命線と言ったところだろうか。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●
その集落では、大地がトーテムとされ崇められていた。大地と共に生を受け、死して大地と共に眠る。
そして、今。族長と呼ばれていた男が大地へと還ろうとしていた。
「そんな、急に逝ってしまうなんて……」
「族長のおじさん、えぐ」
「貴方は立派でした。けど、早すぎますよ」
棺桶を囲うように、嗚咽混じりの部族達の声が聴こえる。それは、気温を変えるには充分過ぎるほど、悲しみには熱を持っていた。
「……汝が体躯。今大地に還されたし」
族長を送るため、イチヨ族よりイ・シダが選ばれたのだ。仮面で顔は一切見えないが、淡々とした台詞。なれど部族達の心を打つものであった。最後にシダはオカリナを取り出し、御遺体の胸元にそっと置いた。
大地信仰を行う彼らにとって、焼き物であるオカリナは大切な儀式の道具なのだ。
「見送りを」
シダの声に合わせ、人々は一斉にオカリナを口にあてがう。高くも低くもない音色。まるで当たり前に動くさざ波のように、棺桶を包むのだ。
「………やっとか」
棺桶に覆い被さる土を眺め、皆が粛々とした空気のなか、ただ一人男だけは疲労にも似た溜め息をつくのであった……
●死して祝えざるもの
男は次なる族長であった。先代に子が無かったため、彼が族長を引き継ぐことになっていたのだが……
その男が、自ら拠点にてこう言うのだ。
「三日後、私の族長としての式を開く。もちろん、イチヨ族も手助けしていただけるのでしょうな」
先程前族長を見送ったばかりと言うのにこれである。ただ感情を最低限までなくし、シダは口を開いた。
「そちらは僕の担当ではない。その方面の担当は別だ」
イチヨ族の催事を担うものも種類は様々。特にシダはその中でも特殊で、生命を担う儀式などを担当している。
「なら新たに依頼しますよ。どうせなら、族長の葬式より盛大にやらなければ! 一般人である彼より、覚醒者である私がね」
指を交差させながら、クツクツと煮込んだ笑いを残す男。そんな族長となるべき男に、シダがかける言葉はない。仮面すら合わせず彼女は背中越しにこういう。
「催事は終わった。僕は明日発つ」
●
こうして釈然としないまでも、何事もなく朝を迎える筈、であった。それは翌朝のこと、集落の見回りに行った族長の男が気付いたのだ。
墓場に無数のアンデットが出現した。こうして男は一見人の良い笑みを貼り付けながら、ハンター達を呼び出した。
集落の民が男によって集められ、その声がハンター達の耳にも入る。
「アンデットったって、雑魚ばっかだろ。族長一人でも間に合うじゃないか」
「フン、大方点数稼ぎのつもりだろ。ハンターを引き連れる程の力があるんだぞ、的な?」
「……なんで、アレが族長なのさ」
「仕方ないだろ。奴が部族じゃ一番強いからさ」
「族長何故、死んでしまったのです……」
ハンター達も軽く話は聴いていた。目の前で御高説をたれる男は、つい昨日族長になったらしいことを。
しかし、どうも評判はよろしくない。それが、快晴に似通わぬ曇天の愚痴にて彼らハンターにも理解に到れる。
「この付近にある墓場より、アンデットが攻めてきています。広範囲の攻撃で一層してください」
場所は自分が案内する、そう言いかけた男にたいし、部族達は口を挟んだ。
「ま、待ってください! あそこには族長のお墓もあるんですよ。いくらなんでも乱暴ですって」
「……何を言いますか、このままではこの集落にアンデットが襲いかかるのですよ」
それでも良いのか、と含む男の言い様はどうみても愛すべき民と言った意味合いをは含んではいなさそうだ。
「私は、死した者より生きた者達を護る義務があるんですよ。彼だってそれを望むことでしょう」
「それは……」
前族長を話に出されては、他の民達も言葉を閉ざさざるを得なかった。
それで勝った、とでも言いたげに満足したのか民から再びハンター達に視線を移し、こう口早に告げた。
「さぁ、皆様。私自ら案内させていただきます。墓場に急ぎましょう」
そう男が、足を踏み出した……その瞬間だった。
「させない」
「なっ!?」
男の喉元を狙うひと突き。男は得物である片手斧で咄嗟に防ぐも、その威力は大の大人を吹き飛ばす程であった……
「お前はシダ! か、帰ったはずだ」
「――るさない」
次の棍による一撃を男は斧でどうにか受け止める。男の見上げた先にはシダ。殺気を帯びた瞳が仮面の隙間からもよく伝わった。
「私が何を……したと」
「集落の信仰を穢した、僕は貴様を許さない」
目を見開き顔を青ざめる男の口から言葉はない。
「だ、誰か! 私を助けないか!」
自ら守る民達に助けを呼ぶ男。しかし、彼らの足が動くことはない。
「イチヨ族を怒らせるなんて、何をしたんだ?」
それ以上に、唐突なイチヨ族の豹変に恐怖の色を見せる。それほどに彼らの名は知られているのだろうか……
「…………」
シダは部族の民を見渡すと、少し考えてからハンター達へ言う。
「行け。早く墓場に向かえ!!」
男の対応とは違い、必死にアンデットの退治を促すシダ。そうして、言われたままに足を動かしたハンター達は、小声で彼がこう囁く台詞を耳にした。
「死者の声に耳を傾けろ」
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●
その集落では、大地がトーテムとされ崇められていた。大地と共に生を受け、死して大地と共に眠る。
そして、今。族長と呼ばれていた男が大地へと還ろうとしていた。
「そんな、急に逝ってしまうなんて……」
「族長のおじさん、えぐ」
「貴方は立派でした。けど、早すぎますよ」
棺桶を囲うように、嗚咽混じりの部族達の声が聴こえる。それは、気温を変えるには充分過ぎるほど、悲しみには熱を持っていた。
「……汝が体躯。今大地に還されたし」
族長を送るため、イチヨ族よりイ・シダが選ばれたのだ。仮面で顔は一切見えないが、淡々とした台詞。なれど部族達の心を打つものであった。最後にシダはオカリナを取り出し、御遺体の胸元にそっと置いた。
大地信仰を行う彼らにとって、焼き物であるオカリナは大切な儀式の道具なのだ。
「見送りを」
シダの声に合わせ、人々は一斉にオカリナを口にあてがう。高くも低くもない音色。まるで当たり前に動くさざ波のように、棺桶を包むのだ。
「………やっとか」
棺桶に覆い被さる土を眺め、皆が粛々とした空気のなか、ただ一人男だけは疲労にも似た溜め息をつくのであった……
●死して祝えざるもの
男は次なる族長であった。先代に子が無かったため、彼が族長を引き継ぐことになっていたのだが……
その男が、自ら拠点にてこう言うのだ。
「三日後、私の族長としての式を開く。もちろん、イチヨ族も手助けしていただけるのでしょうな」
先程前族長を見送ったばかりと言うのにこれである。ただ感情を最低限までなくし、シダは口を開いた。
「そちらは僕の担当ではない。その方面の担当は別だ」
イチヨ族の催事を担うものも種類は様々。特にシダはその中でも特殊で、生命を担う儀式などを担当している。
「なら新たに依頼しますよ。どうせなら、族長の葬式より盛大にやらなければ! 一般人である彼より、覚醒者である私がね」
指を交差させながら、クツクツと煮込んだ笑いを残す男。そんな族長となるべき男に、シダがかける言葉はない。仮面すら合わせず彼女は背中越しにこういう。
「催事は終わった。僕は明日発つ」
●
こうして釈然としないまでも、何事もなく朝を迎える筈、であった。それは翌朝のこと、集落の見回りに行った族長の男が気付いたのだ。
墓場に無数のアンデットが出現した。こうして男は一見人の良い笑みを貼り付けながら、ハンター達を呼び出した。
集落の民が男によって集められ、その声がハンター達の耳にも入る。
「アンデットったって、雑魚ばっかだろ。族長一人でも間に合うじゃないか」
「フン、大方点数稼ぎのつもりだろ。ハンターを引き連れる程の力があるんだぞ、的な?」
「……なんで、アレが族長なのさ」
「仕方ないだろ。奴が部族じゃ一番強いからさ」
「族長何故、死んでしまったのです……」
ハンター達も軽く話は聴いていた。目の前で御高説をたれる男は、つい昨日族長になったらしいことを。
しかし、どうも評判はよろしくない。それが、快晴に似通わぬ曇天の愚痴にて彼らハンターにも理解に到れる。
「この付近にある墓場より、アンデットが攻めてきています。広範囲の攻撃で一層してください」
場所は自分が案内する、そう言いかけた男にたいし、部族達は口を挟んだ。
「ま、待ってください! あそこには族長のお墓もあるんですよ。いくらなんでも乱暴ですって」
「……何を言いますか、このままではこの集落にアンデットが襲いかかるのですよ」
それでも良いのか、と含む男の言い様はどうみても愛すべき民と言った意味合いをは含んではいなさそうだ。
「私は、死した者より生きた者達を護る義務があるんですよ。彼だってそれを望むことでしょう」
「それは……」
前族長を話に出されては、他の民達も言葉を閉ざさざるを得なかった。
それで勝った、とでも言いたげに満足したのか民から再びハンター達に視線を移し、こう口早に告げた。
「さぁ、皆様。私自ら案内させていただきます。墓場に急ぎましょう」
そう男が、足を踏み出した……その瞬間だった。
「させない」
「なっ!?」
男の喉元を狙うひと突き。男は得物である片手斧で咄嗟に防ぐも、その威力は大の大人を吹き飛ばす程であった……
「お前はシダ! か、帰ったはずだ」
「――るさない」
次の棍による一撃を男は斧でどうにか受け止める。男の見上げた先にはシダ。殺気を帯びた瞳が仮面の隙間からもよく伝わった。
「私が何を……したと」
「集落の信仰を穢した、僕は貴様を許さない」
目を見開き顔を青ざめる男の口から言葉はない。
「だ、誰か! 私を助けないか!」
自ら守る民達に助けを呼ぶ男。しかし、彼らの足が動くことはない。
「イチヨ族を怒らせるなんて、何をしたんだ?」
それ以上に、唐突なイチヨ族の豹変に恐怖の色を見せる。それほどに彼らの名は知られているのだろうか……
「…………」
シダは部族の民を見渡すと、少し考えてからハンター達へ言う。
「行け。早く墓場に向かえ!!」
男の対応とは違い、必死にアンデットの退治を促すシダ。そうして、言われたままに足を動かしたハンター達は、小声で彼がこう囁く台詞を耳にした。
「死者の声に耳を傾けろ」
リプレイ本文
ハンター達は、シダの言葉を考えつつも自らの行動を取り始めていた。時間はあまりないと言えど、一言二言部族の人間に聞く時間はあるだろう。
「前族長の墓の場所と…埋葬時の格好を教えてください。認識できずに薙ぎ倒すのは寝覚めが悪い」
イチヨ族と族長のやり取りに困惑する民にシリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)はそう聞いた。その言葉にいぶかしむ彼ら。族長がアンデットになったかも、などと考えたくないのだ。
「不要な目覚めを強いられているなら救います。そうでなければ、その眠りを守る必要がある」
神官職に就く彼女としても、今回見過ごせない事態でもあるのだろう。
「……わかりました」
「ここまで状況が整うというのも珍しいですね。自業自得のようですが……」
困り顔と言うには、若干厚すぎる笑みを浮かべるのは狭霧 雷(ka5296)で、その隣でわかりやすく不機嫌なのはウィンス・デイランダール(ka0039)だ。
「……気に、喰わねえな」
範囲で一掃。それも聞いたかぎり、族長一人でも問題ない強さの雑魔をだ。ハンターをなめ腐った依頼に彼は苛立ちを募らせていた。
(…これはどういう状況なのかしら?)
今回が初仕事となるノエル・ウォースパイト(ka6291)は、今の状況に困惑していた。簡単な依頼と聞いてきた筈だったのに、しかし同時に思い直す。沢山斬れることに代わりはない。この一点では、現族長の利害は一致しているのだから。
(声、いいなぁ)
シダの台詞に玉兎 小夜(ka6009)はぼんやり思い、依頼への集中に頭を切り替えなおした。
にこやかに雷が告げる。
「依頼内容からは逸脱しますが、この状況を見過ごすわけにはいきませんから。墓所の方、お願いします」
「はい、わかりました。それとシダさん、戻ってくるまででいいので、息の根だけは止めないであげてくださいね」
そうリリティア・オルベール(ka3054)は告げて、ハンター達は一人を除き墓場へ向かった。
●道中
墓場へ向かい走りながらもシダの言った『死者の声』について、ハンター達はお互いに考えを巡らせていた。
「霊媒師でもイタコでもないのでそういう意味では絶対声って聞けないと思いますぅ。つまりは死体や墓場の状況を確認して来いってことですよねぇ…はふぅ」
こう言うことは苦手だと、集落から借りてきたスコップ片手に星野 ハナ(ka5852)かぼやく。
「急死かつ現族長の慌てぶりから見て、前族長の死因は割と分かりやすいものかもしれないな」
あるいは、族長と関わりを示すものがあるのかと白桜龍(ka6308)は考える。
どのみち、前族長の遺体はなるべく、損壊させないほうが良いだろう。この件はしっかり糺さなくてはならない。
小夜は拾い主とウィンスと一緒の依頼、頑張らなくちゃと思う反面、別の想いを抱えていた。
大切な人、彼はなくしたのだ。だからこそ、リリティアは心配でこの依頼に付き添ったのだ。
「死人を起こしたりする術、あるのかな」
そうしたら、もう一回━━━
「ギョ・ク・ト・サ・ン」
グワシッ
「ァーッ!!」
●
波。墓場はまさに波であった。白く黒く腐臭漂う波。最初にその波を突っ切ったのは自らにプロテクションをかけた、シリルであった……
「状況全てが面白くない方向を向いていますね」
生きた異物にアンデットが気付く、その脚光を横からかっさらうはウィンスだ。
ソウルトーチで自らを照らせば、ゾンビは皆一斉にウィンスを攻撃対象とした。
「えい、ですぅ!」
続いてはハナの地縛符。シリルの向かった先を除きつつ結界を張り、更に足元に注目する。
掘り返された跡はない。と言うより、アンデットが這い出た跡もない。それは前族長の墓も同じだ。得物もよくある短剣と言ったところか。
疑問は増えるばかりだ。自分がつけた予測は見当違いのものなのか、だがそれでもシダと族長が仲たがいしたのには意味がある筈だ。
ゾンビ達の誘導はうまく言ったものの、スケルトンには然程効果は両者とも生み出せなかったようだ。
白桜龍は仲間の死角を補うため、ウィンスを狙うゾンビの背後を取る。その腕を掴み、持ち上げようと力を入れる。
ブチッ、掴み所が悪かったのか、ゾンビの筋繊維が切れたのだ。
「ぐっ、これしき……」
それに追撃をかけるように、骨雨が彼に降り注ぎ足に打ち身を残した。
リリティアは刀を舞う様に振るい、劣化した骨を一つ二つと連続で両断する。
「私のダンスのお相手お願いしましょうか」
孤立をせぬよう仲間から外れぬよう、それでもノエルは弧を描き落葉の如く舞った。
が、その斬撃はスケルトンに抜けられてしまう。彼らはとても『身軽』なのだ。
「漸く着いた」
アンデット合間を抜けて、シリルは前族長の墓場らしき場所に足を踏み入れた。
見たところゾンビに踏み荒らされてはいるが、聞いていた墓を飾る装飾品がその姿をなんとか保っていた。
もっと良く確認しよう。そう思い、シリルがその場で屈んだところ彼女は真実を聴いた。
当たってなど、いてほしくない。現実感がない。気付いてしまったのだ。いや、正しくは感付いてしまったのだ……男の悪意に……
「早く、早く!」
シリルはソンビの呻き声すら意にかえさず、地面を引っかき土を掘り始めたのだった。
●
二発の銃声。撃ったのは一人残った雷。相変わらずの微笑を浮かべ、こういい放つ。
「申し訳ありません。立場上、依頼主を見捨てるわけにはまいりませんので。…ですが、我々が悪用されるようなことがあっても大問題です。事と次第によっては、我々も方針を変えねばなりません。襲撃理由をお教えいただけますでしょうか?できれば具体的に」
両手のリボルバーを、一つは高々と上げもう一つは下方へと向ける。
が、足元の床を撃ち抜いた銃弾にシダは仰け反りもしない。最初から宛てる意思が此方に無いのを、それこそ発砲前からわかっていたようにだ。
「くっ、退け!」
退路を防いだにも拘わらず、今更逃走をはかろう斧を雷へ振るおうとする族長。彼は技にて瞳を輝かせ、動きを仰け反り見切る。その上で、腕に照準をあてながら屈みつつ、霊魔撃で足を蹴り砕いた。
「っ……ガァ゛」
更に追い討ちにシダが得物であるトンファで、鳩尾をうち据えた。苦悶に胃液を撒き散らす無様な代表。
パチパチと軽い拍手を雷が鳴らせば、シダは漸く口を開いた。
「今は言えない、が。貴様達が。今は」
●
戦闘自体は、はっきり言ってしまえば温いの一言である。結界に縛られ、魂の光に翻弄されるゾンビは案山子とそう変わらなかった。スケルトンだって素早いが弱いことに代わりはない。
「玉兎さん!」
エンタグルをリリティアが用いて動きを狭め、小夜が距離を狭める。
「なんで起きちゃったの?不満なことでもあった?」
問い質すが屍は応えない。だが、何か伝わるものがあるようなそんな気が微かにするのだ。
「うん、わかった」
生者に干渉して良いのは、生者だけ。そうして、ゾンビの首に刃をあてがう。
「ヴォーパルバニーが刻み刈り獲らん……ごめんね」
ハナが振り翳す符。次いで起きる五色の光刃がアンデット達を焼き貫いた。塵も無くせば、もう、ナカマが叫び声をあげても生き戻ることはないだろう。
「敵認識しなければ発動しなくて延焼もしないのが五色光符陣のいいところだと思いますぅ」
「ハナ! それを貸して下さい!」
符を補充するハナの背に、シリルが泥まみれになりながらスコップを掴み声をかける。
「良いですよぉ。あ、シリルさんはどうおもいますぅ?」
シダの言葉の意味を、未だ考えるハナ。
「私はイチヨ族が信仰を汚したっていう以上、あの人(現族長)が大地を汚したって意味だと思いますぅ」
「当たりです、ある意味では」
謎が解けたのか、そう聞こうとした矢先シリルはまた戻って言ってしまったのだった。
●真相或いは悪意
「どすこーい」
スモウを利用し、片手を突き出し雑魔を押し出そうとする白桜龍。しかし、当たりどころが悪いのか、どうも手応えが軽い。やはり、生者と死者では勝手が違うらしい。まだまだのびしろを持つ彼は眉を顰めた。
一番注目を集めるウィンスにたいして、強酸の弾幕が落ちてくる。
「はっ、遅いぜ」
しかし、それらは全て大地を溶かす音を奏でるだけだ。そこから突進。一匹のゾンビが躯に還る。雑魔は減っていく、が前族長と思わしき服装をしたゾンビはいなかった。
雑魔化しなかったなら、それはそれで幸運であっただろう。彼が気にしていた小夜とノエルも今の所、アンデット達と善戦している。
良くわからないのは、シリルが一心不乱に墓土を掘り下げていることだ。遺品を探すなら、戦闘後でも構わないはずだろうに。
だが、あまりに真剣な彼女の様子に水を指すことにウィンスは躊躇した。そこへやって来る空気読めないスケルトン。
「わあ!」
精度のない刃を振り回し、見事にさけられる。
ウィンスはそちらへ足を踏み込み、槍を突きだした。
「あんたらの相手はこの俺だろう!」
「助かりました」
襲い掛かった一人を突き抜け、その背後でいくつも骨が砕ける音が聴こえた。
●
全ての躯と白骨を皆で土に戻し終える。シリルはただ一人、熱心に穴を掘り続けていた。既に穴の深さは彼女の半身に達していた。
やがて辿り着いたのは、無論あるべき所にあるもの前族長の棺桶であった……
バキッ
次の瞬間だった。神聖とも言える棺桶の蓋をシリルは得物の柄でぶち抜いたのだ。
「何をなさって………」
ノエルは絶やさぬ笑顔で、シリルの行動を問うが、刹那。その笑顔は固まっていた。
「白桜龍さん! 手伝ってください!」
「ああ。が、これはどういうことだ」
「うっそぉ」
「…………」
「ま、待ってウィンスさん!」
無言のまま踵を返し、走り去るウィンス。もう、リリティアには彼の目的は読めていた。そして、自らの制止に答えてくれないことも。
この現状に至れば、自ずと悪意に閃くはすだ。
●
雷は困っていた。シダの沈黙は変わらないが、状況を説明出来る族長まで黙りこんでしまったのだ。
「これは、困りましたね」
そうはぼやくものの、一つ彼も気にしていることがあった。対立する互い、だがどうも周りの人を気にしている節がある。
天蓋を開けて、ウィンスが入ってくるのを雷が気付き、墓場の様子を聞こうと口を開いた直後━━━━
「このゴミクズ野郎ッ!!!」
怒りに任せた拳にて、族長の顔面を歪むほど殴り付けた。吹っ飛び、身体を慣性に任せることも許されず、地べたに沈んだ。表情は雷から見えないが、彼が憤るものを抱えているのはわかる。
「や……やめ、るんだ」
ウィンスが胸ぐらを掴みかかると、背後からとめる声がした。暫くすると、シリルと白桜龍に肩を貸してもらい一人の中年の男性がやってきた。
彼を見た瞬間。空気が一変した。今彼が誰か、知らないのは雷のみであろう。
「族長? い、生きてる!! 生きていらっしゃるぞ」
嬉々とする声。そう、彼こそ昨日葬式をあげられていた、前族長その人なのだった。部族の中、喜びに満ち溢れている……そう真っ青な現族長を除いて。
「知っていたんですね。族長が生き返ったことを」
「私は……」
「それで、生き埋めになった彼を退治、と言う名目で処分させようとした」
「だからぁ、大地を利用したでぇ、信仰を穢したなんですぅ」
シリルの悲痛な言葉が聴こえる。あの時墓へ一番近かった彼女には、彼女にだけは聴こえていたのだ。
彼が奏でたオカリナの音色。恐らくシダもまた、この音色が聴こえたのだろう。
彼もまた頷いた。
「その通りだ」
「だが、何故あの時教えてくれなかったんだ?」
族長が生き埋めにされた、そう言えばもっと早く問題を解決出来た筈だ。白桜龍の質問は尤もだろう。
「この場所では出来なかった……が、答えですね」
この場所で全てを見ていた雷が、笑みを浮かべ言い切った。部族の民の殆どが前族長に信頼をよせていたのだ。もし、その族長が今も窮地に陥っているとしれは、最悪墓場へ人々が雪崩れ込んだかもしれない。
そのため、真実を口に出来なかったのだろう。
●
「本当にすまない。僕があの時に貴殿に気付いていれば」
「いや、アナタが気付いて下さったから俺は皆にまた会えたのだよ」
額を床に擦り付けるシダに、会釈を微かに動く首で族長は返した。
胸ぐら手を離したウィンスは、他の部族へ向き直った。
「ほんとはわかってんじゃねえのかよ、族長っつーんは強いばかりじゃ駄目だって」
だからこそ、現族長を睨み付ける彼らにも責任はある、ウィンスはそう言いたげであった。
「…死を冒涜する行為こそ、まさしく許されざる悪逆」
ノエルが浮かべる笑みに笑みはない。見れなかった真紅を、今にもここで晴らしかねない程に口元を吊り上げていた。
「悪いのは、私じゃない。勝手に生き返ったあんただ!」
「それを見捨てたのは貴様だ。恥を知れ!」
シリルはシダへそっと話し掛けた。同じ生死を司る者として聞きたかったことだ。
「…そろそろ話していただけますか?あなたの行動の意図を」
「帰りに、墓参り…だ。族長が世話になっていたんだ此方の、な」
「その時異変に気付いたのですね」
だが、それならばその場で、シダが助ければよかったのでは、といえば……
「盗掘、墓荒し。見つかれば、あの男は貴様らにそう言うだろう。それに、彼らにとって大地はそれでも信仰対象だ。僕には無碍に出来ない」
「それが、他の信仰を信仰する…ですか」
そんな様子をぼんやり、小夜は離れて眺めていた。いつもなら、ここで殺し文句の一つも出るのに、今回に限って出てこない。不安げに主リリティアは、彼女に声をかけた。
「玉兎、今回は……」
「わかってる、仮死よね。本当は死んでない奴」
これは後に聞いた話だが、族長の本当に心臓が止り、急死しその日の内に葬儀があげられたと言う。それが、大地へ還るこの部族の習わしだったからだ。
だが、今回の一件で色々と変わることになるだろう。まだ他にもいたかも知れないのだ。風習、故の悲劇は。
「どうして彼女には、それがなかったのよ……もしかして、実は生」
強気だが、震える声。言い掛けた言葉を飲み込むよう、リリティアは小夜を抱き締める。
「生き返らせたい、私も経験あるわ。けど、二度三度と死を味わわせるような事だけはしたくない、してはいけないの」
「……わかってる。だって、私は生きてるから」
その台詞は、誰かに言い聞かせているような彼女達はそんな気がしていた。
「前族長の墓の場所と…埋葬時の格好を教えてください。認識できずに薙ぎ倒すのは寝覚めが悪い」
イチヨ族と族長のやり取りに困惑する民にシリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)はそう聞いた。その言葉にいぶかしむ彼ら。族長がアンデットになったかも、などと考えたくないのだ。
「不要な目覚めを強いられているなら救います。そうでなければ、その眠りを守る必要がある」
神官職に就く彼女としても、今回見過ごせない事態でもあるのだろう。
「……わかりました」
「ここまで状況が整うというのも珍しいですね。自業自得のようですが……」
困り顔と言うには、若干厚すぎる笑みを浮かべるのは狭霧 雷(ka5296)で、その隣でわかりやすく不機嫌なのはウィンス・デイランダール(ka0039)だ。
「……気に、喰わねえな」
範囲で一掃。それも聞いたかぎり、族長一人でも問題ない強さの雑魔をだ。ハンターをなめ腐った依頼に彼は苛立ちを募らせていた。
(…これはどういう状況なのかしら?)
今回が初仕事となるノエル・ウォースパイト(ka6291)は、今の状況に困惑していた。簡単な依頼と聞いてきた筈だったのに、しかし同時に思い直す。沢山斬れることに代わりはない。この一点では、現族長の利害は一致しているのだから。
(声、いいなぁ)
シダの台詞に玉兎 小夜(ka6009)はぼんやり思い、依頼への集中に頭を切り替えなおした。
にこやかに雷が告げる。
「依頼内容からは逸脱しますが、この状況を見過ごすわけにはいきませんから。墓所の方、お願いします」
「はい、わかりました。それとシダさん、戻ってくるまででいいので、息の根だけは止めないであげてくださいね」
そうリリティア・オルベール(ka3054)は告げて、ハンター達は一人を除き墓場へ向かった。
●道中
墓場へ向かい走りながらもシダの言った『死者の声』について、ハンター達はお互いに考えを巡らせていた。
「霊媒師でもイタコでもないのでそういう意味では絶対声って聞けないと思いますぅ。つまりは死体や墓場の状況を確認して来いってことですよねぇ…はふぅ」
こう言うことは苦手だと、集落から借りてきたスコップ片手に星野 ハナ(ka5852)かぼやく。
「急死かつ現族長の慌てぶりから見て、前族長の死因は割と分かりやすいものかもしれないな」
あるいは、族長と関わりを示すものがあるのかと白桜龍(ka6308)は考える。
どのみち、前族長の遺体はなるべく、損壊させないほうが良いだろう。この件はしっかり糺さなくてはならない。
小夜は拾い主とウィンスと一緒の依頼、頑張らなくちゃと思う反面、別の想いを抱えていた。
大切な人、彼はなくしたのだ。だからこそ、リリティアは心配でこの依頼に付き添ったのだ。
「死人を起こしたりする術、あるのかな」
そうしたら、もう一回━━━
「ギョ・ク・ト・サ・ン」
グワシッ
「ァーッ!!」
●
波。墓場はまさに波であった。白く黒く腐臭漂う波。最初にその波を突っ切ったのは自らにプロテクションをかけた、シリルであった……
「状況全てが面白くない方向を向いていますね」
生きた異物にアンデットが気付く、その脚光を横からかっさらうはウィンスだ。
ソウルトーチで自らを照らせば、ゾンビは皆一斉にウィンスを攻撃対象とした。
「えい、ですぅ!」
続いてはハナの地縛符。シリルの向かった先を除きつつ結界を張り、更に足元に注目する。
掘り返された跡はない。と言うより、アンデットが這い出た跡もない。それは前族長の墓も同じだ。得物もよくある短剣と言ったところか。
疑問は増えるばかりだ。自分がつけた予測は見当違いのものなのか、だがそれでもシダと族長が仲たがいしたのには意味がある筈だ。
ゾンビ達の誘導はうまく言ったものの、スケルトンには然程効果は両者とも生み出せなかったようだ。
白桜龍は仲間の死角を補うため、ウィンスを狙うゾンビの背後を取る。その腕を掴み、持ち上げようと力を入れる。
ブチッ、掴み所が悪かったのか、ゾンビの筋繊維が切れたのだ。
「ぐっ、これしき……」
それに追撃をかけるように、骨雨が彼に降り注ぎ足に打ち身を残した。
リリティアは刀を舞う様に振るい、劣化した骨を一つ二つと連続で両断する。
「私のダンスのお相手お願いしましょうか」
孤立をせぬよう仲間から外れぬよう、それでもノエルは弧を描き落葉の如く舞った。
が、その斬撃はスケルトンに抜けられてしまう。彼らはとても『身軽』なのだ。
「漸く着いた」
アンデット合間を抜けて、シリルは前族長の墓場らしき場所に足を踏み入れた。
見たところゾンビに踏み荒らされてはいるが、聞いていた墓を飾る装飾品がその姿をなんとか保っていた。
もっと良く確認しよう。そう思い、シリルがその場で屈んだところ彼女は真実を聴いた。
当たってなど、いてほしくない。現実感がない。気付いてしまったのだ。いや、正しくは感付いてしまったのだ……男の悪意に……
「早く、早く!」
シリルはソンビの呻き声すら意にかえさず、地面を引っかき土を掘り始めたのだった。
●
二発の銃声。撃ったのは一人残った雷。相変わらずの微笑を浮かべ、こういい放つ。
「申し訳ありません。立場上、依頼主を見捨てるわけにはまいりませんので。…ですが、我々が悪用されるようなことがあっても大問題です。事と次第によっては、我々も方針を変えねばなりません。襲撃理由をお教えいただけますでしょうか?できれば具体的に」
両手のリボルバーを、一つは高々と上げもう一つは下方へと向ける。
が、足元の床を撃ち抜いた銃弾にシダは仰け反りもしない。最初から宛てる意思が此方に無いのを、それこそ発砲前からわかっていたようにだ。
「くっ、退け!」
退路を防いだにも拘わらず、今更逃走をはかろう斧を雷へ振るおうとする族長。彼は技にて瞳を輝かせ、動きを仰け反り見切る。その上で、腕に照準をあてながら屈みつつ、霊魔撃で足を蹴り砕いた。
「っ……ガァ゛」
更に追い討ちにシダが得物であるトンファで、鳩尾をうち据えた。苦悶に胃液を撒き散らす無様な代表。
パチパチと軽い拍手を雷が鳴らせば、シダは漸く口を開いた。
「今は言えない、が。貴様達が。今は」
●
戦闘自体は、はっきり言ってしまえば温いの一言である。結界に縛られ、魂の光に翻弄されるゾンビは案山子とそう変わらなかった。スケルトンだって素早いが弱いことに代わりはない。
「玉兎さん!」
エンタグルをリリティアが用いて動きを狭め、小夜が距離を狭める。
「なんで起きちゃったの?不満なことでもあった?」
問い質すが屍は応えない。だが、何か伝わるものがあるようなそんな気が微かにするのだ。
「うん、わかった」
生者に干渉して良いのは、生者だけ。そうして、ゾンビの首に刃をあてがう。
「ヴォーパルバニーが刻み刈り獲らん……ごめんね」
ハナが振り翳す符。次いで起きる五色の光刃がアンデット達を焼き貫いた。塵も無くせば、もう、ナカマが叫び声をあげても生き戻ることはないだろう。
「敵認識しなければ発動しなくて延焼もしないのが五色光符陣のいいところだと思いますぅ」
「ハナ! それを貸して下さい!」
符を補充するハナの背に、シリルが泥まみれになりながらスコップを掴み声をかける。
「良いですよぉ。あ、シリルさんはどうおもいますぅ?」
シダの言葉の意味を、未だ考えるハナ。
「私はイチヨ族が信仰を汚したっていう以上、あの人(現族長)が大地を汚したって意味だと思いますぅ」
「当たりです、ある意味では」
謎が解けたのか、そう聞こうとした矢先シリルはまた戻って言ってしまったのだった。
●真相或いは悪意
「どすこーい」
スモウを利用し、片手を突き出し雑魔を押し出そうとする白桜龍。しかし、当たりどころが悪いのか、どうも手応えが軽い。やはり、生者と死者では勝手が違うらしい。まだまだのびしろを持つ彼は眉を顰めた。
一番注目を集めるウィンスにたいして、強酸の弾幕が落ちてくる。
「はっ、遅いぜ」
しかし、それらは全て大地を溶かす音を奏でるだけだ。そこから突進。一匹のゾンビが躯に還る。雑魔は減っていく、が前族長と思わしき服装をしたゾンビはいなかった。
雑魔化しなかったなら、それはそれで幸運であっただろう。彼が気にしていた小夜とノエルも今の所、アンデット達と善戦している。
良くわからないのは、シリルが一心不乱に墓土を掘り下げていることだ。遺品を探すなら、戦闘後でも構わないはずだろうに。
だが、あまりに真剣な彼女の様子に水を指すことにウィンスは躊躇した。そこへやって来る空気読めないスケルトン。
「わあ!」
精度のない刃を振り回し、見事にさけられる。
ウィンスはそちらへ足を踏み込み、槍を突きだした。
「あんたらの相手はこの俺だろう!」
「助かりました」
襲い掛かった一人を突き抜け、その背後でいくつも骨が砕ける音が聴こえた。
●
全ての躯と白骨を皆で土に戻し終える。シリルはただ一人、熱心に穴を掘り続けていた。既に穴の深さは彼女の半身に達していた。
やがて辿り着いたのは、無論あるべき所にあるもの前族長の棺桶であった……
バキッ
次の瞬間だった。神聖とも言える棺桶の蓋をシリルは得物の柄でぶち抜いたのだ。
「何をなさって………」
ノエルは絶やさぬ笑顔で、シリルの行動を問うが、刹那。その笑顔は固まっていた。
「白桜龍さん! 手伝ってください!」
「ああ。が、これはどういうことだ」
「うっそぉ」
「…………」
「ま、待ってウィンスさん!」
無言のまま踵を返し、走り去るウィンス。もう、リリティアには彼の目的は読めていた。そして、自らの制止に答えてくれないことも。
この現状に至れば、自ずと悪意に閃くはすだ。
●
雷は困っていた。シダの沈黙は変わらないが、状況を説明出来る族長まで黙りこんでしまったのだ。
「これは、困りましたね」
そうはぼやくものの、一つ彼も気にしていることがあった。対立する互い、だがどうも周りの人を気にしている節がある。
天蓋を開けて、ウィンスが入ってくるのを雷が気付き、墓場の様子を聞こうと口を開いた直後━━━━
「このゴミクズ野郎ッ!!!」
怒りに任せた拳にて、族長の顔面を歪むほど殴り付けた。吹っ飛び、身体を慣性に任せることも許されず、地べたに沈んだ。表情は雷から見えないが、彼が憤るものを抱えているのはわかる。
「や……やめ、るんだ」
ウィンスが胸ぐらを掴みかかると、背後からとめる声がした。暫くすると、シリルと白桜龍に肩を貸してもらい一人の中年の男性がやってきた。
彼を見た瞬間。空気が一変した。今彼が誰か、知らないのは雷のみであろう。
「族長? い、生きてる!! 生きていらっしゃるぞ」
嬉々とする声。そう、彼こそ昨日葬式をあげられていた、前族長その人なのだった。部族の中、喜びに満ち溢れている……そう真っ青な現族長を除いて。
「知っていたんですね。族長が生き返ったことを」
「私は……」
「それで、生き埋めになった彼を退治、と言う名目で処分させようとした」
「だからぁ、大地を利用したでぇ、信仰を穢したなんですぅ」
シリルの悲痛な言葉が聴こえる。あの時墓へ一番近かった彼女には、彼女にだけは聴こえていたのだ。
彼が奏でたオカリナの音色。恐らくシダもまた、この音色が聴こえたのだろう。
彼もまた頷いた。
「その通りだ」
「だが、何故あの時教えてくれなかったんだ?」
族長が生き埋めにされた、そう言えばもっと早く問題を解決出来た筈だ。白桜龍の質問は尤もだろう。
「この場所では出来なかった……が、答えですね」
この場所で全てを見ていた雷が、笑みを浮かべ言い切った。部族の民の殆どが前族長に信頼をよせていたのだ。もし、その族長が今も窮地に陥っているとしれは、最悪墓場へ人々が雪崩れ込んだかもしれない。
そのため、真実を口に出来なかったのだろう。
●
「本当にすまない。僕があの時に貴殿に気付いていれば」
「いや、アナタが気付いて下さったから俺は皆にまた会えたのだよ」
額を床に擦り付けるシダに、会釈を微かに動く首で族長は返した。
胸ぐら手を離したウィンスは、他の部族へ向き直った。
「ほんとはわかってんじゃねえのかよ、族長っつーんは強いばかりじゃ駄目だって」
だからこそ、現族長を睨み付ける彼らにも責任はある、ウィンスはそう言いたげであった。
「…死を冒涜する行為こそ、まさしく許されざる悪逆」
ノエルが浮かべる笑みに笑みはない。見れなかった真紅を、今にもここで晴らしかねない程に口元を吊り上げていた。
「悪いのは、私じゃない。勝手に生き返ったあんただ!」
「それを見捨てたのは貴様だ。恥を知れ!」
シリルはシダへそっと話し掛けた。同じ生死を司る者として聞きたかったことだ。
「…そろそろ話していただけますか?あなたの行動の意図を」
「帰りに、墓参り…だ。族長が世話になっていたんだ此方の、な」
「その時異変に気付いたのですね」
だが、それならばその場で、シダが助ければよかったのでは、といえば……
「盗掘、墓荒し。見つかれば、あの男は貴様らにそう言うだろう。それに、彼らにとって大地はそれでも信仰対象だ。僕には無碍に出来ない」
「それが、他の信仰を信仰する…ですか」
そんな様子をぼんやり、小夜は離れて眺めていた。いつもなら、ここで殺し文句の一つも出るのに、今回に限って出てこない。不安げに主リリティアは、彼女に声をかけた。
「玉兎、今回は……」
「わかってる、仮死よね。本当は死んでない奴」
これは後に聞いた話だが、族長の本当に心臓が止り、急死しその日の内に葬儀があげられたと言う。それが、大地へ還るこの部族の習わしだったからだ。
だが、今回の一件で色々と変わることになるだろう。まだ他にもいたかも知れないのだ。風習、故の悲劇は。
「どうして彼女には、それがなかったのよ……もしかして、実は生」
強気だが、震える声。言い掛けた言葉を飲み込むよう、リリティアは小夜を抱き締める。
「生き返らせたい、私も経験あるわ。けど、二度三度と死を味わわせるような事だけはしたくない、してはいけないの」
「……わかってる。だって、私は生きてるから」
その台詞は、誰かに言い聞かせているような彼女達はそんな気がしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/17 16:28:38 |
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相談卓 シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/05/17 23:50:28 |