• 春郷祭1016

【春郷祭】村長祭・オンステージ!

マスター:cr

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/05/19 09:00
完成日
2016/05/27 00:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
 この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催され、郷祭と呼ばれていた。
 この春と秋の郷祭は、二年ほど前から近隣の住人のみならず同盟内の商人達も商機を当て込んで集まる、大規模な祭りとなっている。
 今年も、その春郷祭の季節が廻って来た。
 ジェオルジ各地の村長達の会議は今にも始まりそうで、そこではいつもはない議題が取り上げられる。
 サルヴァト―レ・ロッソからジェオルジ各地に移り住んだ新住人達からの幾つかの要望と、彼らに新たな地での商業を試みる機会を与えるといった内容だ。
 しかし。
 それらとはまた別に、春郷祭はすでにさまざまな意味で賑やかに始まっていた。


 村長祭で賑わうジェオルジに一台の馬車が止まる。その馬車を出迎えるべく、村の人々が集まってくる。
 やがて、馬車から降り立った女性のもとに人々が殺到し、歓迎の言葉を次々に口にする。
「お帰り、クリスちゃん」
「クリスちゃん、こんなに立派になって……」
「クリスちゃんはこの村の自慢だよ!」
 馬車から降り立ったのはクリスティーヌ・カルディナーレ(kz0095)。職業はオペラ歌手。しかもただのオペラ歌手ではない、ヴァリオスの歌姫と称されるスーパースターであった。


「しかしクリスちゃんがこの村で歌ってくれるなんてねぇ……」
「いえ、こんな私で良ければいくらでも歌います! それに今はお仕事もお休みですし」
 クリスはこの村の出身であった。そんな彼女のもとに届いた願い、それが村に帰ってきて村長祭のためにリサイタルを開いて欲しいというものだった。彼女はそれを承諾、その結果がこれであった。彼女が歌うための特設野外劇場が作られている。もちろん彼女のホームグラウンドであるベルカント大劇場に比べれば遥かに小さいが、そんなことは関係無かった。
「それより、お願いの方は聞いていただけました?」
「もちろんだよ! クリスちゃんのためなら何だってやるよ。しかしこんなことでいいんかねぇ」
 そう答えた村人の手には依頼書の写し。内容はこの村でクリスのリサイタルの前に行われる演芸大会で一芸を披露して欲しいというもの。彼女の願いは演芸大会を開いて欲しいということと、その出場者の募集をハンターオフィスに出して欲しいということであった。
「いいんです。これが私の願いですから……」
 クリスはほんの少し前まで、歪虚に魅入られていた。そんな彼女はハンター達の活躍によって救い出され、歪虚の枷から解き放たれた。彼女の願い、それはハンター達と舞台で共演したいというものだった。
 クリスははにかみながら自らの思いを語る。その頬はほんの少し、赤く染まっていた。

リプレイ本文


「……これだ……これならあの人を立ち直らせれるかも!」
 クリスの願いによってオフィスに貼りだされた村長祭演芸大会出演の依頼書を見て、テンシ・アガート(ka0589)はそう叫んでいた。歪虚に魅入られていた歌姫、クリスはハンター達の活躍によって救われた。だが、彼にはまだ心残りのことが残っていた。それを解決する銀の弾丸になるかもしれない、そう思ったらじっとしては居られなかった。
 すぐさま依頼を請け負う手続きを終えると、テンシは走りだしていった。


 時は進んで演芸大会当日。なかなか立派なステージが作られ、向かい合うように観客席が備えられている。客席には出演者たちと、何よりクリスの歌声を目当てに多くの観客達が集まっている。そんな観客達を目当てに、露店が立ち並び祝祭ならではの華やかな雰囲気を醸し出している。
 その中に、出演者でもあるハンター達の姿もあった。
「~♪」
 そんな中、鼻歌を歌いながらステージを見るものが居た。マリィア・バルデス(ka5848)である。彼女は右手に持ったジョッキをぐいっと傾け、また鼻歌を歌いながらステージを見る。ジョッキの中身がなくなればすぐに新しいジョッキが届く。中にはなみなみと注がれたビール。顔を見ればいい感じに赤くなっている。詰まるところ彼女は酔っ払っていた。太陽の下で飲む酒はなんとも気持ちいい。
「春郷祭か……良いね、皆笑顔だ」
 そこにやってきたウェグロディ(ka5723)はそんな空気を肌で感じて、何だか幸せな気分になっていた。祭りというハレの日ならではの間隔。心が自然と高揚する。
「リリスはどうだい? 少し人が多いが、大丈夫かい?」
 さらに、隣には最愛の姉がいる。ロディはすれ違う人々から庇うようにアマリリス(ka5726)の肩をぐっと抱き寄せた。
「さ、ロディ。特等席で見ていましょう」
 抱き寄せられた彼女は首に腕を絡めていたずらっぽく笑い、弟に座るよう促した。そうして二人が席についた頃、最初の出演者がステージに現れた。


 観客達の視線がステージに集まる。そんな中ステージに現れたのはその注目を受けるに足る存在だった。
 まず目を引くのは奇怪な黒い革製のマスク。黒で統一された衣装を身にまとい、深い黒のマントを羽織っている。その男の名はデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。自称暗黒皇帝であった。
 そんな暗黒皇帝はマイクを取ると客席に向かって叫ぶ。
「一曲披露してやるぜ! 頂点に立つ者としちゃ、楽しませてやらなきゃ嘘だろ。このデスドクロ様のソウルサウンドを聴かせてやろうじゃねぇの!」
 そう、皇帝は庶民に対して情が厚いのである。彼はやはり黒く塗られたギターをかき鳴らす。そこから奏でられる音は、暗黒皇帝を名乗る彼の演奏とは思えないほど明るくスカッと抜ける音であった。バックで演奏する者達の弦楽器から出る音色が重なり、明るく賑やかな音楽を奏でている。その中には、リュートを演奏する小柄な少女、ルナ・レンフィールド(ka1565)も混ざっていた。そういった楽器から流れる音色が観客達の心を盛り上げる。それを見て、聞いてロディとリリスも自然と身体が動いていた。皇帝の三億曲のレパートリー(自称)から今回演奏することになったカントリーロックの一曲である。
「祭りのはじまりだぜ!」
 曲のサビで皇帝はそうシャウトする。その彼の言葉通り、この音は祭りの始まりを告げる曲となった。


「演芸とは言えないかもしれませんが、前に他のお祭りでやった魔法の実演をしましょうか」
 次にステージに上がったのはエルバッハ・リオン(ka2434)だった。ステージの上には彼女が用意した的が3つ並べられている。
「お祭りですから、普段着や戦闘用装備では興がそがれるかもしれませんしね」
 そういう理由で着替える彼女。しかし情熱的な鮮やかなドレスに身を纏った彼女の姿は、年齢不相応に発達した胸を強調する形になって目のやり場に困ってしまう。
 そんな彼女はステージの中央に進み出ると、静々と一礼。そして身体を起こすと同時に覚醒する。するとそんな目を引いてしまう彼女の胸元に薔薇の花のような赤い紋様が浮かび上がった。彼女の両手両足の先には、茨が絡み合うかのような紋様が浮かび上がっている。
 その状態で彼女は踊るように手足を振るい、口の中で呪文を唱える。すると指の先から鋭い風が放たれ、それが的に当たって綺麗に真っ二つにする。観客達からはその様子に拍手が巻き起こる。
 だが、拍手が鳴り止まぬうちに彼女は踊り続け、次の呪文を唱えた。今度は指先から氷の矢が放たれ、それが的の真ん中に突き刺さる。すると一瞬で凍りつく的。
 最後にくるりと回ってから腕を突き出すと、その先から稲妻が放たれ、舞台を一直線に横切って凍りついていた的と最後に残っていた的に当たる。雷鳴の轟音と共にはじけ飛ぶ二つの的。
 踊り終えた彼女は最後にもう一度一礼。その彼女に観客からの惜しみない拍手が送られていた。


 続いて舞台に上がったのは星野 ハナ(ka5852)。彼女はステージ中央に進み出ると、トランプを手に持ちカードスプレッドをひとしきり披露する。なるほど、彼女はまずはカードマジックを披露しようということらしい。そんな彼女はクリスにステージ上に上がるよう促すと、カードを扇状に広げてこう告げた。
「……1枚選んでくださいぃ」
 促された通りにクリスはカードを引いて、それを観客達だけに見せる。ハートが一つだけ描かれている。クリスが引いたのはハートのエースだ。
「いいですねぇ……混ぜて切りましたぁ」
 引いたカードを返してもらったハナは再びシャッフルして、手にトランプの山を置いた。そして
「はい、貴方がさっき選んだのは……」
 その言葉と同時にハナがめくったカードはクラブの7。全然違うカードである。一瞬観客達もクリスもドキリとしたが、ここで再びカードを上に乗せると指を弾いた。同時にカードの山から1枚のカードが弾き飛ぶ。
「このハートのエースですぅ」
 ハナの指に挟まれていたのは確かにクリスが選んだハートのエースだった。観客達から成功を賞賛する拍手が飛ぶ。眼の前で見ていたクリスも眼を丸くして拍手している。
 そんな最中、パルムがステージ上に現れる。ハナはパルムを呼び寄せると
「布の代わりにこのルミエルコートをかけましてぇ……」
 美しく白く輝くコートをパルムにかけた。そして
「ワン・トゥー・スリー!」
 その言葉と同時にコートを取り去る。
「はい、パムちゃん消失ですぅ」
 取り去ったそこには、何もなかった。見事な消失マジック。
 そんな彼女の手品をよほど珍しかったのか、ルナは食い入るようにまじまじと見つめていた。


「主役じゃないとはいえ……私如きがこういう大会に参加するってのは緊張するわね」
 ハナの出番の時、舞台袖で自分の出番を待っていたアルスレーテ・フュラー(ka6148)はその言葉通り緊張していた。彼女が今回披露しようとしているのは舞。ただ、これについては彼女はまだ練習中。さらに言うと彼女はそもそもこのように舞台に上がることに慣れていない。今回は舞台度胸を付けることも目的の一つだった。
 そうと決まればやるしかない。まずは形からと彼女は着物を身に纏い、舞台中央に進み出る。
 そんな彼女が着る、東方ともまた違う衣装にUisca Amhran(ka0754)は興味を引かれていた。
「アルスレーテ・フュラー。練習中の身で恐縮ですが……舞わせていただきます」
 そう一礼。そして両手に鉄扇を広げ、静かに舞い始める。ただ静かに舞うだけでも、背が高く手足も長い彼女が舞えばそれだけで否応なく目を引く。
 一方イスカは別のところに目を引かれていた。衣装だけでなく、その舞にも東方とはまた違う何かが入っていた。
「聞いたことがあるのです……これがリアルブルーの“和”なのですね」
 その通り、彼女の舞には確かにリアルブルー文化の影響が入っていた。それに興味津々のイスカ。
 しかし披露の時間はあっという間に終わってしまう。舞い終えた彼女は改めて客席に一礼。自分の舞は上手く行ったのだろうか。思い返せばもっと上手く行ったのでは。まだ練習中、どうしても自信満々とは行かないが、少なくとも観客達が不満に思っていないことはその拍手が示していた。


「あ、ヴァイスさん!」
「よ、クリス。元気にしてたか?」
 自分の出番の準備のため、舞台裏へ行こうとしていたヴァイス(ka0364)を見かけ、クリスが声をかける。彼はクリスがまさに歪虚に魅入られ、その手に落ちようとした時彼女を救いだしたハンターの一人である。積もる話も沢山ある。
「クリスの歌、楽しみにしているぜ……俺も準備があるからまた後でな」
 が、彼の出番はもうすぐ。こんなことばかりしていられない。一度別れて舞台裏へ。
 程なく準備を終えた彼がステージ上に現れる。手には斬龍刀、腰には霊刀。
 そして彼は何も言わず、その刀を振るい始めた。刀を振るうことによって産まれた風切り音、そして舞台を踏む音。その二つだけが鳴る。
 乗るとか興奮するとかそういったものとは無縁のこの動きに、思わず野次を飛ばす者も居たが、それも最初の間だけ。
 歪虚によってその生命を落とした者もこの世界には多い。ヴァイスはその様な者たちが安らかに眠れる様に、祈りを込めて剣舞を披露していた。その文字通り真剣な雰囲気に、もう物音を立てるものすら居なかった。
 こうして、ヴァイスの出番は静かに終わったのであった。


 続いて舞台に現れたのは、リュートを手にした銀髪の少女、ディーナ・フェルミ(ka5843)であった。彼女はステージに出るとぺこりと一礼し、その手にした楽器を爪弾く。弦から紡ぎだされる音に合わせて、彼女は歌声を送り出し始めた。
 その歌を、その場に居るクリムゾンウェストの人々は皆知っていた。彼女が歌っていたのはエクラ教の聖歌。人々にとっては日常の生活に密着した、耳慣れた曲である。そして同時に、人々がこの曲をよく聴くのはある場所であった。勿論その事は彼女も百も承知である。
(この聖歌は……とても慣れた曲なの)
 思わず心のなかで苦笑い。この曲は鎮魂歌としてよく演奏される曲であった。つまりクリムゾンウェストの人々にとっては、葬式でかかっている曲である。それでも。
(生き残った人が、これから前を向いて歩く元気が出るように)
 その願いを歌声にのせる。会場に荘厳に広がっていく音は、いつしかすこし沈みかけた雰囲気を変え始めていた。
 そして、続けざまに彼女は次の曲を歌う。こちらは彼女が最近酒場で聞いた曲。吟遊詩人が歌っていた冒険譚、それを明るく元気な音に乗せて歌う。
(俺様には嫌いなもんや苦手なもんは無ぇ)
 と鎮魂歌を聴きながら思っていたデスドクロだったが、こちらの曲には強く心が惹かれていた。恐らく、彼女の本質はこちらなのだろう。人々を癒やしたい、元気にしたい。その気持ちが歌声から伝わる。それを聞いて彼は感銘を受けていた。


「ロックコンサートを運営参画した事は有るが、自分でってのは緊張するな」
 舞台袖から観客席を見ながら、ザレム・アズール(ka0878)は大きなため息を一つつきつつ、そうつぶやいた。といっても参加したからにはそうも言ってはいられない。彼は自分の心を落ち着かせるように深呼吸すると、ギターを手にし、それを爪弾く。
 奏でられる「再会」という曲のサビの部分に乗って舞台に出て行くザレム。彼は舞台中央まで進み出ると、マイクを手に一つ宣言した。
「ひとついいか?」
 観客達の視線が集まった所で、こう続けた。
「俺の曲はクリスに手伝って貰いたいんだけど、いいかい?」
 少し芝居がかった言い方でそう言う。その物言いは少し前、舞台袖でため息をついていた姿とはまるで違う、堂々としたものだった。
「ええ、私の曲で良ければ……」
 と戸惑いながら答えるクリス。といってもここまでのやり取りは打ち合わせ済み。ただ一つ言えるのは、観客にとっては本番前にクリスのコラボリサイタルがサプライズで行われるということだった。
 そして舞台に並んだ二人は一つアイコンタクト。ザレムがギターをかき鳴らし始めたところで、クリスも歌い始めた。
 彼女の高く澄んだソプラノボイスで歌われるその歌は、自らの恋心を野鳥に例えた曲。誰も手なづけられない気まぐれな女心を情熱的なロックサウンドに乗せて歌う。その豊かな声量から紡ぎだされる歌声は流石本職のそれ、観客達の視線を一手に集めていた。
 そしてサビにかかったところで、ザレムは歌声にハモらせて自らも歌い出す。激しく上下する歌声は、揺れ動く心を表しつつも、美しいハーモニーを響かせる。そんな二人の歌声を賞賛するかのように、マリィアは何杯目かの空になったジョッキを持ち上げてその意を示していた。


 続いて舞台に上がったのはロディとリリスの姉弟だった。弟の手には笛。それに唇を当て、息を柔らかく吹き込む。ゆったりとしたリズムで響くその笛の音に合わせて、姉の方も歌声を紡ぐ。
 その歌は彼女が部族で暮らしていた頃に学び、身につけたもの。知識と知っているのではなく、体に染み込んだその歌声を即興で己の体を楽器と化して奏でる。
 その優しいメロディにアルスレーテもまた、その身を任せていた。その静かで、体をそよ風のように撫でる音はこの晴れた日に聞く音として実に気持ちがいい。
 そしてリリスは十分に歌った所で、ロディに視線を合わせる。すると弟の笛の音が変わった。今度は弾むようなリズムになる。姉が思うがままに歌った後は、弟が思うがままに演奏する番だ。
 そのリズムに合わせて姉はステップを刻む。足についたベルが鳴り、その音がさらにリズムを加えていく。そしてそのベルの音に合わせ、弟がステップを刻む。二人のステップの二重奏。
 曲が最高潮に達した所で、リリスは再び歌い始めた。祭の楽しい気持ちをそのまま現したかのような、明るく華やかなリズムと歌声。
 たっぷりと歌い終えた時、彼女の顔は笑顔に変わっていた。弟に取ってはそれを見るだけで満足だった。


「……うちの馬鹿どもには絶対に言うなよ」
 ただでさえ目付きの悪い顔をさらにしかめっ面にして、綾瀬 直人(ka4361)はそう渋々漏らしていた。その手には何やら楽器。
「それは……ギター?」
「……三味線って言うんだ」
 クリスの疑問にそう答える。リアルブルーの日本で使われる楽器。東方に行けばあるかもしれないが、クリスの知識には無い楽器、こういう反応になって当然だった。
 そんな返事を残しつつ、綾瀬は舞台に上がる。仏頂面のままバチを三味線の撥皮に叩きつけ、激しいリズムを響かせる。荒々しくも力強い音色。
 実は三味線は綾瀬が祖母から学んだ密かな特技であり、趣味であり、そして夢だった。彼はこの場所でまだただの夢見る少女だったクリスと出会った時から、その夢を思い出していた。その思いを込めて、三味線を弾く。その音はまるで彼自信の様に粗削りで、それでいて心の芯に響く様な強く、そして優しい音色だった。


 続いて舞台に上がったのはマリィア。しかしその足はゆらゆらと揺れ動いている。端的に言えば千鳥足だ。この演芸大会が始まる前から酒を飲んでいたのである。こうなって当然だ。そんな状態で大丈夫かと観客の皆が思いつつ、ステージの中央に立った彼女はやおらマイクに向かってシャウト。
「『スピーカー』なんてどこで手に入れたの? リアルブルーの機械があるなんてすごーい!」
 リアルブルーの機械に興味津々だったエリス・ブーリャ(ka3419)はいったいどういう技術でできているのか、隅々まで見てやろうとちょうどスピーカーに近づいていた。そのタイミングでのシャウトである。スピーカーから放たれた強烈な音圧を食らってたまらずノックダウン。
 一方のステージのマリィアは、そんなことどこ吹く風とばかりに気持よく歌い上げる。彼女が歌っているのはリアルブルーで軍人だった頃に覚えた軍歌なのだが、ロック調に歌っているのでその事に気づくものは誰もいない。ただ、その熱く激しい音が観客達の心のぶつかり、衝撃を与えていた。
 歌い上げた彼女はすっきりしたと言わんばかりに席に戻り、またジョッキを傾け始めていた。


「にゃにゃ~~!」
 と素っ頓狂な声を上げながら大きな球が転がってきた。ややあって、球の影からアルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が姿を現した。小柄な体にダボダボの服を着た滑稽な服装。サーカスのクラウンの格好である。これでクラウンの芸を見せようと言うのが彼女の狙いだった。
 というわけで照れながら一礼すると、両手にクラブを持ち、ひょいひょいと少しジャグリングをしてみせ、そしてその大きな球に飛び乗ってジャグリングを続けようとする。球乗りを披露……といいたかったが、
「にゃっ!」
 見事に滑って転んで、ドンガラガッシャンと大きな音を立てていた。バツの悪そうな顔をして客席を見る彼女だったが、これはご愛嬌。観客席から楽しい笑い声が聞こえてくる。
 そこで一つ咳払いをしたアルス。すると突然のドラムロールが鳴り響き、そして舞台に火の輪が現れる。
「今から見せるのは火の輪くぐりにゃぁ! さて? 果たして? ケガもせず、きれいな髪が焦げたりしないかにゃ? ……乞う! ご期待にゃあ!」
 メラメラと燃え上がる火の輪を前に、観客席をビシッと指差して照れつつウィンク。そして再び火の輪に向かうと精神集中を始める。
 するとピョコンと猫耳が生え、猫しっぽがいつの間にか現れていた。そのまま火の輪に向かって軽快なビートと共にダッシュするアルス。
 観客のドキドキする胸の内を見透かしたかのようにジャーンと派手な音が一つ鳴り、それと共にアルスはジャンプ!
 クルクルと空中で回転しながら火の輪へ飛び込むとそのまま飛び越えて見事に着地した。
 無事飛び終えてドヤ顔と共にポーズを決めるアルスに、観客からの惜しみない拍手が送られる。と、思った時だった。彼女の体からプスプスと煙が上がっていた。
「にゃ? ……にゃにゃ~~~っ!」
 残念ながらしっぽに火がついていた……といっても、これもちょっとしたトリックだったのだが。慌てて舞台袖に引っ込むアルスにたっぷりの笑いと拍手が送られていた。


「初めまして、クリスティーヌさん。 ルナ・レンフィールドです」
 それまで他参加者の伴奏として何度かステージに上がっていたルナだが、彼女自身もメインとして出演することになっていた。自分の出番が来る直前でクリスに会った彼女は丁寧に挨拶する。
「ヴァリオスの歌姫にお会いでき、同じ舞台に立つ機会を頂き、光栄です」
「そんな、それ程の人間じゃないですよ」
 そしてクスクスと笑い合う二人。
「本日はよろしくお願いしますね」
 改めて挨拶して、ルナはステージへと出て行った。
 彼女の今回の演目は今までも伴奏として何度も演奏してきたリュート。今度は彼女一人による演奏だ。左手でネックを押さえ、右手で弦を撫でる様に弾くと、20本の弦がシンフォニーを奏で始めた。一本のリュートがこの祭を祝う明るく楽しい音符を広げていく。流石楽団一家の末娘と言うしか無い、見事な演奏であった。
 そして彼女は次の曲に繋げる。その曲を観客達は聴き慣れていた。とあるオペラで最初に歌われる宴を告げる歌であり、クリムゾンウェストの人々にとっては乾杯の際に歌われる曲であり、そしてクリスのレパートリーの一つであった。
 その時、リュートの音色に歌声が重なった。ルナのリュートに、クリスの歌声が合わさる。突然始まったセッションに、ルナは驚きながらも笑顔で演奏を続けた。
 客席の前で買ってきたおやつを食べていたディーナも、合わせるように歌い始めた。歌声はゆっくりと客席に広がっていく。あちこちから聞こえる乾杯の声に、マリィアはまたジョッキを傾け始める。
 歌声が観客席いっぱいに広がった頃、観客席の一番後ろに一組の男女が現れた。男はテンシ。そしてそのとなりには、苦々しく会場全体を見ている女性の姿があった。


「ステージの上で歌を歌えるのー? ホントのホント?」
 この演芸大会も大詰め。エリスにとっては待ちに待った出番の時がやって来た。何せ彼女はハンター系アイドル(自称)、この依頼をハンターオフィスで見た時も受付嬢に何度も確認していたぐらいである。
「やったー! まさか舞台の上で歌えるとは思わなかった!」
 というわけで、確認ができればこの反応。早速アイドルらしくフリフリの衣装を用意し、髪型もアイドルらしく決めるエリス。なんだかんだ言ってもこうやって決めるとアイドルそのものである。
 そしてエリスのライブがスタート。まずは誰もいないステージに楽しげな音楽が流れてくる。彼女が興味を示していたスピーカーに、さらにアンプまである。その音が十分に流れて、観客達のテンションが一つ上がった所で彼女は飛び出してきた。
「イェーイ、皆ノッてるー?」
 その言葉に「イェーイ!」と返す観客達。もうこれで観客達の心は彼女に掴まれていた。
「エルちゃんの歌を聞けー!」
 ダンスステップを踏み、歌い出すエリス。彼女が調べたリアルブルーのアイドルが歌うような曲に合わせて歌う。女の子の恋心を歌った明るいポップスナンバーに、観客達もノリノリだ。どこからか「エルちゃーん!」という掛け声までかかっている。
 そして観客席の一番前では両手を握りしめ目をキラキラと輝かせていたハナか食いつくようにその姿を見つめていた。


 エリスのアイドルライブが終わり、入れ替わるようにステージに立ったのはイスカ。純白の衣装に身を包んでいる。ひらひらとした感じはどことなく先程までエリスが着ていたアイドル衣装を思わせる。
「聖地の巫女として……」
 彼女は巫女である。故に捧げるための歌と舞を身に着けている。それを披露しようとしていた。
「そしてあいどるとして、歌と舞を披露いたします」
 しかしそれだけではなかった。聖地は先日まで歪虚の手に落ちていた。そのため巫女達は各自それぞれ避難をしていたのだが、タダで避難が出来るわけでもない。経済的にピンチを迎えていた。
 そこで同胞を救うためにイスカが考えた事、それがアイドルとして名を上げることだったのだ!
 というわけで早速歌い始めるイスカ。歌う歌は巫女らしく祝詞……なのだが、それをポップスにアレンジしてアイドルソングにしている。作詞したのは彼女自身、タイトルは名づけて「見守っていてネ☆白龍様♪」!

 紅き大地を every☆守護せし 
 聖地に坐した lovely☆白龍様

 アイドル達の連続登場に、すっかり理解した人々は「イスカちゃーん!」と声援を飛ばしている。

 この地に住まう 私たち
 キュン☆キュン☆させて
 守り導き給へとpray~

 ハナの隣で見ていたディーナも、ニコニコしながら乗っていた。自分も聖歌をアレンジしてアイドルソングにしてみようか、なんて思い始めていた。

 これからも見守っていてネ☆白龍様

 決めポーズを取り、客席にウィンクするイスカ。その笑顔に観客達はハートを撃ちぬかれていた。


「クリスさん、お元気そうでよかったです。一緒に歌ってもらえます?」
 歌い終えたイスカは、クリスを呼び寄せる。戸惑いながらステージに出てくる彼女。
「え? でも私に歌えるかな……」
「それじゃあエルちゃんも歌う~!」
 ここで、もう一人ステージに出てきた。エリスである。ここにハンター系アイドル、みこみこあいどる、そして村の人達のアイドルの3人が揃ったわけである。さらにそこにもう一人出てきた。
「よし、俺もアイドルとして歌うぜ!」
 そこに居たのはヴァイスである。しかしその格好は驚くべきものだった。赤いゴシックドレスにはレースやフリルが多く付けられており……つまりエリスやイスカが着ているような、フリフリの衣装だったのだ。一瞬皆が呆然とするが、イスカの掛け声でアイドル達によるスペシャルセッションが始まった。
 皆即興で合わせているわけだが、それを感じさせず歌声をユニゾンさせる。ダンスもお手の物、一糸乱れる踊りで観客達の目を引き付ける。クリスはダンスは出来なかったが、プロの歌声でそれをカバーしていた。
 こうして夢の様な一時は過ぎていったのだった。


 これで出演者は全員登場した。一人来ていないものが居たが、それは仕方ない。進行役の村民が進めようとした時だった。
「ごめんなさい! 遅くなりました!」
 ステージにテンシが飛び出してきた。彼はそれだけ言うとすぐに舞台袖に戻り、何やら話している。
「やっぱり嫌だよ。私に何が出来るってのさ!」
「お願いします、歌ってください! 歪虚に人生を狂わされた人がそのままなのは……俺は納得できない!」
 そうやって連れてきた女性をステージに引っ張っていくテンシ。その顔を知っていたのは、この場ではクリスだけだった。
「イレーニアさん……」

「……夢を阻んでいた奴は消えました。再起の一歩として俺とジェオルジで舞台に立ってもらえませんか?」
 クリスがスーパースターへの階段を駆け上がっていったのは、彼女が受けて落ちたオーディションで合格していた歌い手が稽古中に骨折し、その代役を務めたことがきっかけだった。テンシが会いに行ったのは、その時骨折した本来の歌い手だった。今にして思えば、これもファントムと言う歪虚の仕業だったのだと理解できる。その事を報告し、そして彼女にこの舞台で歌ってもらおう、そう彼は考えていた。
 彼女は酒に溺れ、世を拗ねていた。閉ざしてしまった彼女の心を、夢を歪虚なんかのせいで諦めて欲しくないというテンシの思いが少しだけ開いていた。

「もうどうなっても知らないからね……」
 といってもテンシに出来ることはここまでだった。彼は伴奏のオカリナを吹く。それは、王女と侍女の恋の鞘当てを描いたオペラで、侍女が歌う有名なアリアの旋律だった。これはクリスが代役を務めて有名になったオペラで、つまり彼女が練習していた曲だった。
 そのテンシが奏でるメロディに合わせ、彼女は歌う。確かにリズムや音程はきっちりしていた。しかし酒に焼けた喉は彼女の美しかった声を奪い、不摂生を重ねた身体からはとてもこの会場に広がるような声量は出すことは出来なかった。一度はオーディションに通りスターへの道を進み始めたはずの彼女の歌声は、この時とても聴くに堪えないものになっていた。
 そして彼女の歌が終わる。彼女はテンシの事を冷めた目で見つめている。それに、人々はどう反応していいかわからなかった。沈黙が一帯を支配していた。
 そのときだった。一つ、手を叩く音が聞こえてきたのは。
 一人の者が必死に拍手をしていた。人々の視線がそこにあつまる。そこでは、クリスが目に涙を浮かべ拍手をしていた。
「イレーニアさん、お帰りなさい」
 クリスの拍手をきっかけに、人々は拍手を始める。その音は、一度歪虚に夢を壊された人の背を再び押す音楽となっていた。
 その時、テンシはイレーニアがほんの少しだけ、笑顔になった様に感じていた。


 今度こそ全て終わり。この後はクリスのリサイタルだが、その前に出演者が全員ステージに上って挨拶。代表してクリスが挨拶を始めようとした時だった。
 ザレムが近づいていった。そして彼女の前で、突然花束が現れる。
「驚いたかい?」
 微笑むザレム。
「あの時はゆっくり聴けなかったし、来れて嬉しいんだ」
「私も……です」
 驚きながら、そうはにかんで返すクリス。
「素敵な時間になったよ。本当に良かった、有難う」
「ザレムくんも隅に置けないですぅ。それよりこの後は何しますぅ? 終わったらお祭り見学一緒にどうですぅ?」
 そうつぶやくザレムに、ハナは肘で突っつきながらこの後のことを話していた。


 辺りはすっかり暗くなっていた。クリスのリサイタルも終わった後で、一組の男女が歩いていた。
「そういや、此処から始まったんだったな」
 そう話したのは綾瀬だった。隣りにいるのはクリス。ここが、代役を務めることになったクリスがヴァリオスに向かうために馬車に乗り込んだ場所だった。
「はっ、それでも良く頑張ったじゃねーか」
「いえ、皆さんのお陰ですよ」
 静かに言葉を交わす二人。その時、綾瀬はめったに見せない笑顔を見せていた。
「何してんだ。次、いくぞ」
 そして綾瀬はゆっくりと歩き出す。やや遅れて付いて行くクリス。
「ったく、お前ほっとくと碌な事ねーからな」
「そんなこと……ありますね」
 微笑みを浮かべるクリスに、綾瀬はこう答えた。
「まぁ、そん時は手を伸ばせ。そしたら掴んで……死ぬまでまた付き合ってやるよ」

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MVP一覧

  • 遥かなる未来
    テンシ・アガートka0589
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールドka1565
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャka3419
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師
  • 歌姫を守りし者
    綾瀬 直人(ka4361
    人間(蒼)|17才|男性|魔術師

  • ウェグロディ(ka5723
    鬼|18才|男性|格闘士
  • 星朧の中で
    アマリリス(ka5726
    鬼|21才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 魅惑のぷにぷにほっぺ
    アルス・テオ・ルシフィール(ka6245
    エルフ|10才|女性|霊闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/19 08:52:59