ゲスト
(ka0000)
犬雑魔討伐依頼
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/18 22:00
- 完成日
- 2016/05/19 20:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●男の罪
小太りの男が鞭を振って地面を叩いた。
「オラオラ! あっち行け!」
威嚇されているのは何頭もの犬達だ。
お世辞にも綺麗とはいえない小屋の中で、犬達は右往左往していた。
「まったく、糞と死体の処理だけはだるい仕事だぜ」
男はそう言うと、押し車に、瀕死の犬を乱暴に乗せた。
病気だったのだろうか毛が落ち、皮膚はただれ、無残な姿のその犬は成すがままだ。
「……待てよ。病気がうつるとやっかいだな」
ジッと犬共を観察し、やがて、一部、毛が抜けている犬を見つけると、突然、その犬を蹴った。
執拗に、何度も。
「オラ! オラ!」
その犬は弱々しく鳴いていたが、やがて、鳴く事もできず、横たわった。
それをまたもや乱暴に押し車に乗せる。
「まったく、金にならなかったら、てめーら全部まとめて処分だ」
憤慨して男は小屋から出て行った。
押し車を押して男は小屋から離れた場所を目指す。
そこは、死んだ犬や瀕死な犬を“捨てる”場所だ。大きな窪みの縁に立つと、押し車を傾けた。
「金にならない商品の行き先って訳だ」
ザザーと窪みの中に転がって行く二頭の犬。
この小太りの男は犬を繁殖させては適当な血統書を作成して売り払っていたのだ。
そして、自分の手に負えない犬は“処分”していた。
●天罰
ある日の事。雷雨を伴った激しい嵐が吹き荒れた。
春とは言え、こうなると肌寒いものがある。
「ちくしょう。暖炉の薪が外か……」
男は外套を羽織ると渋々、玄関の扉を開けた。
家の裏側に薪置き場があるのだ。
「うるせぇ犬共だ」
雷雨の中というのも関わらず、近くに立つ犬小屋から犬の鳴き声が聞こえてきた。
嵐に怯えているのだろうか。
「五月蠅い犬は売れないからな。後で“処分”だな」
口をへの字にして男は言った。
だが、とりあえずは、今は薪だ。
そう思って視線を犬小屋から変えた時、小太りの男は驚愕した。
「な、な、なんだ!?」
嵐の中で真っ黒な犬が“立って”いた。
目は赤く輝き、口からは鋭い牙と共に、炎が舌のように見える。
所謂、雑魔――ぞうま――だ。
「ば、化け物!!」
小太りの男は慌てて家へと逃げ帰る。
それを追って直立した犬は迫ってくる。
家に入って扉を閉めようとしたが、後少しという所で鼻先が挟まった。
「ひ、ひぃぃ!」
男は慄きながら家の奥へと逃げる。
犬の雑魔はそれを追って家の中へと入った。
嵐の風で家の戸が大きな音を立てて閉まった。
まるで、男の人生が終わったかのを知らせる様に。
●あるハンターオフィスにて
「新人ハンターさんの依頼といえば、ゴブリン退治と雑魔退治です」
ハンターオフィスの受付嬢がそんな事を言いながら依頼の資料を並べた。
新しく登録されたハンター向けという事ではないが、そういうハンターでも十分に依頼が達成されると見込まれての事なのだろう。
「依頼内容は、グラズヘイム王国の古都アークエルスの郊外の山中となります」
転移門を使えば移動は問題ないだろう。
山の中腹に立つ家と小屋がモニターに映し出されている。
「なんでも、ペットを売っている人が住んでいた家らしいのですが、犬の受け取りにきた目撃者によると、家の中に雑魔がいる事を見つけた様子なのです」
同時に家の主の死体も目撃したという。
雑魔は直立している黒い犬。家の中から出られないのか家の中をウロウロとしているという。
「また、小屋には多数の犬が取り残されているようです」
モニターがパッと変わって、一台の場所といくつかの檻が表示された。
「飢えの為、相当数の犬が死んでいると思われますが、もし、生き残りの犬が居たら、保護をよろしくお願いします」
つまり、雑魔を退治して犬を保護する依頼という訳だ。
ここまで説明してから受付嬢は声を落とした。
「実は、追加の依頼内容があります。この家の持ち主は犬に対して酷い事をしていたそうで、その証拠となるものを探して来て欲しいのです」
保護した犬をどうするかという問題はハンターオフィス側で行う事になっているが、事情を確認しておきたいという事だろう。
「それでは、もし、よろしければ、この依頼書にサインをお願いします」
差し出された依頼書にサインをするかどうかは、ハンターに委ねられたのであった。
小太りの男が鞭を振って地面を叩いた。
「オラオラ! あっち行け!」
威嚇されているのは何頭もの犬達だ。
お世辞にも綺麗とはいえない小屋の中で、犬達は右往左往していた。
「まったく、糞と死体の処理だけはだるい仕事だぜ」
男はそう言うと、押し車に、瀕死の犬を乱暴に乗せた。
病気だったのだろうか毛が落ち、皮膚はただれ、無残な姿のその犬は成すがままだ。
「……待てよ。病気がうつるとやっかいだな」
ジッと犬共を観察し、やがて、一部、毛が抜けている犬を見つけると、突然、その犬を蹴った。
執拗に、何度も。
「オラ! オラ!」
その犬は弱々しく鳴いていたが、やがて、鳴く事もできず、横たわった。
それをまたもや乱暴に押し車に乗せる。
「まったく、金にならなかったら、てめーら全部まとめて処分だ」
憤慨して男は小屋から出て行った。
押し車を押して男は小屋から離れた場所を目指す。
そこは、死んだ犬や瀕死な犬を“捨てる”場所だ。大きな窪みの縁に立つと、押し車を傾けた。
「金にならない商品の行き先って訳だ」
ザザーと窪みの中に転がって行く二頭の犬。
この小太りの男は犬を繁殖させては適当な血統書を作成して売り払っていたのだ。
そして、自分の手に負えない犬は“処分”していた。
●天罰
ある日の事。雷雨を伴った激しい嵐が吹き荒れた。
春とは言え、こうなると肌寒いものがある。
「ちくしょう。暖炉の薪が外か……」
男は外套を羽織ると渋々、玄関の扉を開けた。
家の裏側に薪置き場があるのだ。
「うるせぇ犬共だ」
雷雨の中というのも関わらず、近くに立つ犬小屋から犬の鳴き声が聞こえてきた。
嵐に怯えているのだろうか。
「五月蠅い犬は売れないからな。後で“処分”だな」
口をへの字にして男は言った。
だが、とりあえずは、今は薪だ。
そう思って視線を犬小屋から変えた時、小太りの男は驚愕した。
「な、な、なんだ!?」
嵐の中で真っ黒な犬が“立って”いた。
目は赤く輝き、口からは鋭い牙と共に、炎が舌のように見える。
所謂、雑魔――ぞうま――だ。
「ば、化け物!!」
小太りの男は慌てて家へと逃げ帰る。
それを追って直立した犬は迫ってくる。
家に入って扉を閉めようとしたが、後少しという所で鼻先が挟まった。
「ひ、ひぃぃ!」
男は慄きながら家の奥へと逃げる。
犬の雑魔はそれを追って家の中へと入った。
嵐の風で家の戸が大きな音を立てて閉まった。
まるで、男の人生が終わったかのを知らせる様に。
●あるハンターオフィスにて
「新人ハンターさんの依頼といえば、ゴブリン退治と雑魔退治です」
ハンターオフィスの受付嬢がそんな事を言いながら依頼の資料を並べた。
新しく登録されたハンター向けという事ではないが、そういうハンターでも十分に依頼が達成されると見込まれての事なのだろう。
「依頼内容は、グラズヘイム王国の古都アークエルスの郊外の山中となります」
転移門を使えば移動は問題ないだろう。
山の中腹に立つ家と小屋がモニターに映し出されている。
「なんでも、ペットを売っている人が住んでいた家らしいのですが、犬の受け取りにきた目撃者によると、家の中に雑魔がいる事を見つけた様子なのです」
同時に家の主の死体も目撃したという。
雑魔は直立している黒い犬。家の中から出られないのか家の中をウロウロとしているという。
「また、小屋には多数の犬が取り残されているようです」
モニターがパッと変わって、一台の場所といくつかの檻が表示された。
「飢えの為、相当数の犬が死んでいると思われますが、もし、生き残りの犬が居たら、保護をよろしくお願いします」
つまり、雑魔を退治して犬を保護する依頼という訳だ。
ここまで説明してから受付嬢は声を落とした。
「実は、追加の依頼内容があります。この家の持ち主は犬に対して酷い事をしていたそうで、その証拠となるものを探して来て欲しいのです」
保護した犬をどうするかという問題はハンターオフィス側で行う事になっているが、事情を確認しておきたいという事だろう。
「それでは、もし、よろしければ、この依頼書にサインをお願いします」
差し出された依頼書にサインをするかどうかは、ハンターに委ねられたのであった。
リプレイ本文
●相棒と行く道
ガラガラと音を立てながら目的地を目指す馬車。
その馬車を引いている馬を撫でながらマルカ・アニチキン(ka2542)は山裾に見えてきた家を見つめる。
(雑魔の討伐……ですが、今回の主目的は、あくまで犬の保護と虐待の証拠集め……)
目的を履き違えないようにと心に思ったその時、彼女の足元に並んでいた牧羊犬がくっと顔を上げた。
空を飛んでいる鳥を見上げたのだ。その鳥は身体に桃色の羽を持つインコだった。雄大に翼を伸ばし――。
「ソラぁ~!」
飼い主であるリンカ・エルネージュ(ka1840)の頭上を旋回している。降りてくる気配はない。
これから雑魔を討伐し、取り残されている犬達のピンチを救いたい所である主の気持ちを汲んでか汲まないかフリーダム状態だ。
そんな様子を狛(ka2456)は見守って――鳥が怖いとかそういう事は口にせずに――いた。
すぐ傍にいる柴犬いぬと狛犬けだまが心配するような視線を向けて来た。
「いぬ、けだま! 自分らの仲間をお助けに行くっすよ!」
だから、心配かけないように、宣言した。
犬の保護だけではなく、家主の悪事も必ず突き止める覚悟だ。
一方、長良 芳人(ka3874)は足元をうろつく虎猫にぼんやりと視線を向けていた。
自身も小悪党だった過去があるので、悪徳ブリーダーの事をとやかく言うつもりはなかった。だからと言って仕事の手を抜くつもりはまったくない。
「悪事を全部暴くとするッス」
「まったくだ。犬を相棒にしてる俺様としても、心苦しい事件だよ全く」
エリミネーター(ka5158)が頷きながら芳人の言葉に続いた。
ふと気が付けば葉巻の箱に手を伸ばしていたが、相棒のマックスが精悍な顔をしたまま視線を向けて来たのを感じて、葉巻の箱をしまう。
「……ま、まぁ、ガイシャをしょっ引けなかったのは残念だが、事件を立証する為にも証拠品は必要だ」
家主は既に雑魔によって殺されているとの事であるが、動物虐待がそれで許される訳ではない。
雑魔を倒し、証拠品を確保する事を再認識した所で、先頭を歩くユキトラ(ka5846)が振り返った。
「犬に狼藉を働いて犬の雑魔にやられちまうなんて、因果応報ってヤツだよな、こりゃ」
柴犬のサスケを飼っているが、とても虐待するとか考えられない。大変な時を支えてくれた大事な相棒だ。
その相棒は今もユキトラの横をぴったりと付いて歩いている。
「犬をお金儲けの道具にして虐待するなんて、酷すぎます」
とプンプンしながら胸をプルプル揺らしルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は何度も頷きながら言った。
犬も鍛えれば立派なニンジャになれるのに……とりあえず、危険な雑魔をルンルン忍法で退治しますと誓った所でふと思った。
「……私だけ、相棒連れて来てない!?」
雑魔が潜む家は、もう、目と鼻の先だ。
●犬雑魔討伐
「ほーら、おいしい干し肉だよ~。……なんて言って出て来たら、いいんだけどねー」
干し肉を頬張りながらリンカが仲間達にも干し肉を回す。
「私も、その……この、ローストチキンで」
申し訳なさそうにマルカもそんな言葉を口にした。
決して、リンカのインコが調理された訳ではない事をここに記しておく。
二人は家の中にいる雑魔を誘き出す為に用意したのだが、効果は無い様子だった。持ってきた以上、食べてしまった方が衛生的にもよろしいので、相棒らにも分けて食している。
「オイラも準備万端だぜ!」
肉をごっくんと飲み込んでから、ユキトラがどん刀を構えた。
独特の金属音を鳴らし、愛用のライフルを構えるエリミネーター。彼の脇には相棒が伏せて鋭い視線を家に向けている。
「突入班が、雑魔を家から出してくれるだろうからな」
手が届くすぐ近くに斧も用意し、万が一の接近に備える。体を捻れば、犬小屋との間の射線も確保した。
「ここにトラップカード設置です!」
目印と共に、ルンルンが家の戸の外に符を用意していた。
家の中に潜んでいる雑魔を外に誘き出し、一気に片をつけるつもりなのだ。万が一にも雑魔を取り逃がす事は許されない。
「わー! ほんとうに真っ黒っす! 黒い犬っすー!」
「今から引っ張り出すっス!」
出て来る気配がない雑魔を誘き出す為に家の中に入った狛と芳人の声が響いた。
符が舞う中、ルンルンが無駄な身振りと共に胸を揺らしながら忍術――符術――を行使した。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! トラップカード発動です☆」
刹那、玄関付近の地面が泥状と化した。
直立したような黒い犬の姿の雑魔は足を取られる。
「魔法で援護します」
マテリアルをマルカは操り、盾を構えている芳人に風の力を付与させるべく魔法を唱える。
「……風よ、我らを守る旋風となり、不浄なる存在を吹き流して」
魔法の援護を受けながら、全身から炎のようなものを放つ芳人に対し、雑魔は噛み付こうとした。
「悪いんッスけど、お前に、構ってる暇はないんッスよ!」
早く討伐し、証拠の確保と、なにより、犬小屋に取り残されている犬達の保護が待っている。
雑魔ごときに時間を使ってやる事はないはずだ。
ぬかるみの中でも、しっかりと攻撃を受け止めた所で、エリミネーターが放ったマテリアルが込められた銃弾が雑魔の足元に突き刺さり、雑魔の動きを止める。
「積極的に、攻撃を仕掛けさせて貰うぜ」
雑魔はこれで移動能力を失ったはずだ。
機動力さえ奪ってしまえば、ハンター達は数と包囲によって一気に攻撃を集中できる。
チャンスとばかりに、反転した狛が雑魔に指先を向けて叫ぶ。
「よし、いぬ! いくっす!」
霊闘士としての力により、相棒とシンクロした狛が雑魔をマテリアルの力で貫く。
それだけで揺らめく雑魔に対し、リンカは魔法を行使した。
「……故郷に舞い降りる、私の雪よ! 凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じて!」
いくつもの白い氷の矢がリンカが構えた魔法剣の剣先から放たれる。
それらは、移動する事も叶わない雑魔に襲い掛かって煌く。
「ふふー! 氷の輝き……綺麗でしょ!」
リンカが満足そうに言った。意識を集中させて放つ魔法の威力は絶大である。
氷の魔法を受けて、更に動きが鈍くなった所に、ユキトラが日本刀を最上段に構えながら迫る。
「そちらさんが黒い犬ってんなら、オイラは白い狼だい! 相手にとって不足なし、ってなァ!」
白狼の精霊の力と共に繰り出した強烈な一撃を叩き込んだ。
苦し紛れに天を見上げ、大きく咆哮する雑魔。
「いってぇ! だけど、もう一撃!」
やはり特殊な能力を持っていたかとユキトラは思ったが、間髪おかずに二撃目を放つ。
「叫びで裂けた、か……。だが、大した事ではないな」
ユキトラへの支援の為、牽制の射撃を撃ちながらエリミネーターが冷静に雑魔の能力を分析した。
負のマテリアルが宿った雑魔の叫びはハンター達の二の腕や太ももの皮膚を切り裂いたのだ。だが、威力は低く、大したダメージではない。
「まだまだ、前には立っていられるっスよ」
芳人は盾をしっかりと構え、雑魔の正面に立ち続けていた。
複数枚の符が宙を駆ける。ルンルンが放ったものである。
「ジュゲームリリ(中略)……煌めいて星の花弁!」
符が結界を張ると、眩い光を放ち、雑魔を焼く。
雑魔は遠吠えをしながら塵となって消えていった。悲しい声の遠吠えだった。
●証拠を求めて
再びルンルンの符が舞った。
結界を構築しているのだ。攻撃するための結界ではなく、生命を探知する結界である。
「ジュゲームリ(以下略)」
犬小屋と思しき場所以外からは生命は感じなかった。
という事は、やはり、犬小屋に取り残されている犬らがいるという事だろう。
「よし、家宅捜査といくか」
エリミネーターが険しい表情で家の中に入る。それに続く狛と芳人。
「いぬとけだまは犬小屋の方をお願いするっす」
「犬の血統書の偽造道具でもあれば一発なんッスけどね」
三人に続くようにリンカも足を踏み出したが、残っている干し肉をマルカに手渡した。
「生き残った犬たちに」
「はい。リンカさんの方も、よろしくお願いします」
その言葉に頷き、リンカは家の中へと足を踏み入れた。
荒らされている……訳ではないようだ。奥の部屋は生々しい惨殺跡だった。
「……相当な恨みでも買ったか?」
奥の部屋で注意深く見渡していたエリミネーターが呟いた。
確かに、家主の遺体は激しく損傷していた。傷跡から推測するに、先ほど倒した雑魔の仕業だとはすぐに判断がつく。
「まぁ、当然の事っス……あったっスよ」
崩れている本棚の下から芳人はノートのようなものを数冊拾いあげると、そのうちの1冊をエリミネーターに投げ渡した。
それは、帳簿であった。
家主の性格なのか大雑把ではあるが、犬が生まれた日と数、売った数、食材費などが記録されている。
「これで、小屋に缶詰にされてるワンちゃんたちの状態と照らし合わせてみて、どういう管理の仕方をしていたかというのが分かれば十分な筈だ」
パラパラと内容を確認しエリミネーターが言った。
概算でしか分からないが、餌の量が少ない気がしたし、『処理』という文字も気になった。
「ここにもなんかあったっす」
狛が書類の束を見つけた。
それを手にするリンカは驚きの声をあげた。
「これ、血統書かな? でも、なんだか作りが雑っぽい?」
少女の素直な感想に苦笑を浮かべながら芳人が書類を覗き込む。
「これは、記されている認定機関に問い合わせなくとも、偽物とすぐに分かりそうっスね」
重要な証拠品となるだろう。
リンカは大事そうに書類を鞄にしまうと、ライトを取り出して机の下などに潜る。
暗い所にも見落としが無いようにというつもりなのだ。
「まだ、他にも証拠品があるかも!」
「そうっスね。壁とか床も気を付けてみるっス」
壁をコンコンと叩きながら芳人は言った。
ちょっと探してこれなのだ。他にも、隠している可能性もある。
「よぉーし! もっと探してみるっすー!」
スーッと鼻から息を吸い込む。
霊闘士の術を使用して、嗅覚を強化しているのだ。
「決定的な証拠を見つけないとな」
『処理』という文字の意味を推測し、エリミネーターは声を落として言った。
どこかにあるはずだ。犬を『処理』した跡が。
●保護、そして……
「もう、大丈夫、ですよ……」
弱弱しく横たわって虫の息の犬を、マルカは毛布で優しく包み込むと、丁寧に荷台に乗せた。
もふもふとした感触にわずかなりでも体温が感じられてマルカも安堵する。
「修行に耐え、立派な忍犬になるんだからっ! ファイトです!」
ルンルンは優しく撫でながら励ました。
犬の瞳からは安堵感が覗える。
「なるべく、揺れがストレスを与えないように、荷台には何人か乗ってて貰った方が、良いと思うのですが……」
心配しながら、遠慮気味に言ったマルカの言葉にルンルンとユキトラは頷いた。
「ルンルン忍法で犬さん達を安心させます!」
「その方が、オイラ達の相棒も安心するかもだしな」
それほど犬達は消耗していた。警戒したり、吠えたりしたりする体力もない様子だ。
他にも数匹ほど生き残りがいるが、ほとんどは全滅状態だ。
保護した犬らを馬車の荷台に乗せ終わると、ハンター達は犬小屋の内部を再確認する。
「……遅れてごめんな。飢えとか、ケガとか、すっげえ辛かったろうな」
息絶えた犬達に合掌し、ユキトラは小屋の中を見渡した。
小屋の中は衛生状態は良いとはいえないと思えた。少なくとも動物を愛する人であれば、ここまで放置はしないだろうという程だ。
拳を強く握るユキトラ。
「一段落したら、こちらの子達も弔いましょう」
「それが良いと思うのです」
マルカの言葉に、符を取り出しながらルンルンが応えたその時だった。
家を探索していた仲間達が外に出てきた。
這い蹲ってなにか、臭いを追っている狛と彼の二頭の相棒。
更に、その後ろを仲間のハンターらが付いて歩いており、明らか、なにか、可笑しい状況である。
「そっちに何かあるんだな?」
ユキトラの質問に芳人が応える。
「狛の超嗅覚が、何か嗅ぎつけたみたいッスね」
全員で狛の後を着いていく、程なくして、窪みに到着した。
一人と二頭が「ここ! ここ!」と同じ顔して仲間達に知らせる。
「これは……ひでぇな……死体の捨て場という事か」
「なんという事を」
エリミネーターとリンカが言葉を発した。
幾体もの犬の死体の一部が申し訳ない程度にかけられた土の間から姿を見せていた。
窪みは大きく、元々の深さは分からないが、降りるまでもなく腐臭が漂ってきそうである。
「男が生きてたら、噛みついてたっす……!」
「死んだのは、本当のクズだったって事っスね」
その惨状に狛と芳人も感情を露わにした。
犬小屋から『処理』された犬はこちらで捨てられていたのだろう。明らかに人員的な傷も確認できる。
「これは……自然や病死ではなさそうな遺体もあります、ね」
「どう見ても人の手でやったみたいだぜ」
犬の亡骸の様子を見てマルカが言った言葉に、ユキトラも続いた。
これは、家主が虐待を行っていたという証拠になるはずだ。書類と犬小屋、そして、ここの状況を照らし合わせれば十分な程、明らかになっただろう。
「せめて成仏して下さい」
ルンルンが手を合わしてから、符で印をきった。
「マルカちゃん、スコップ借りるぜ」
きちんと土をかけて弔ってやろうと思ったエリミネーターがマルカからスコップを受け取った。
窪みを慎重に降りる時だった。ある事に気が付いた。
「これは……足跡か? なんだ?」
異変に芳人が近寄って一緒に確認する。
それは、『降りる何かの足跡と、窪みから登る二人分の足跡』だった。
「一人分は、倒した雑魔のものっスね」
では、『降りて再び登った足跡』とはいったいなんなのか。
「……考えられるとしたら、歪虚?」
リンカが首を傾げた。
雑魔が出現するには負のマテリアルが関係しているという。行き場の失った淀んだマテリアルが集まって雑魔が出現するケースもあれば、七眷属のいずれかの歪虚が雑魔を生み出す場合もある。
「形状からすると、人じゃないみたいだな」
ユキトラの推測通り、明らかに人のではない足跡だと分かる。
きっと答えは見つからない謎だろう。しかし、その謎を見つけた意味は大きいかもしれない。ハンター達はお互いで顔を見合わせて、静かに頷いた。
「では、犬さん達と一緒に帰るのです」
ルンルンが宣言するように言い、一行は保護した犬らが乗っている馬車へと歩き出したのであった。
ハンター達は生き残った犬を保護し、無事にハンターオフィスへと帰還した。
保護した犬らはオフィスを通じ、心優しい新しい飼い主の元へと、それぞれ行き、可愛いがわれているという。
おしまい。
ガラガラと音を立てながら目的地を目指す馬車。
その馬車を引いている馬を撫でながらマルカ・アニチキン(ka2542)は山裾に見えてきた家を見つめる。
(雑魔の討伐……ですが、今回の主目的は、あくまで犬の保護と虐待の証拠集め……)
目的を履き違えないようにと心に思ったその時、彼女の足元に並んでいた牧羊犬がくっと顔を上げた。
空を飛んでいる鳥を見上げたのだ。その鳥は身体に桃色の羽を持つインコだった。雄大に翼を伸ばし――。
「ソラぁ~!」
飼い主であるリンカ・エルネージュ(ka1840)の頭上を旋回している。降りてくる気配はない。
これから雑魔を討伐し、取り残されている犬達のピンチを救いたい所である主の気持ちを汲んでか汲まないかフリーダム状態だ。
そんな様子を狛(ka2456)は見守って――鳥が怖いとかそういう事は口にせずに――いた。
すぐ傍にいる柴犬いぬと狛犬けだまが心配するような視線を向けて来た。
「いぬ、けだま! 自分らの仲間をお助けに行くっすよ!」
だから、心配かけないように、宣言した。
犬の保護だけではなく、家主の悪事も必ず突き止める覚悟だ。
一方、長良 芳人(ka3874)は足元をうろつく虎猫にぼんやりと視線を向けていた。
自身も小悪党だった過去があるので、悪徳ブリーダーの事をとやかく言うつもりはなかった。だからと言って仕事の手を抜くつもりはまったくない。
「悪事を全部暴くとするッス」
「まったくだ。犬を相棒にしてる俺様としても、心苦しい事件だよ全く」
エリミネーター(ka5158)が頷きながら芳人の言葉に続いた。
ふと気が付けば葉巻の箱に手を伸ばしていたが、相棒のマックスが精悍な顔をしたまま視線を向けて来たのを感じて、葉巻の箱をしまう。
「……ま、まぁ、ガイシャをしょっ引けなかったのは残念だが、事件を立証する為にも証拠品は必要だ」
家主は既に雑魔によって殺されているとの事であるが、動物虐待がそれで許される訳ではない。
雑魔を倒し、証拠品を確保する事を再認識した所で、先頭を歩くユキトラ(ka5846)が振り返った。
「犬に狼藉を働いて犬の雑魔にやられちまうなんて、因果応報ってヤツだよな、こりゃ」
柴犬のサスケを飼っているが、とても虐待するとか考えられない。大変な時を支えてくれた大事な相棒だ。
その相棒は今もユキトラの横をぴったりと付いて歩いている。
「犬をお金儲けの道具にして虐待するなんて、酷すぎます」
とプンプンしながら胸をプルプル揺らしルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は何度も頷きながら言った。
犬も鍛えれば立派なニンジャになれるのに……とりあえず、危険な雑魔をルンルン忍法で退治しますと誓った所でふと思った。
「……私だけ、相棒連れて来てない!?」
雑魔が潜む家は、もう、目と鼻の先だ。
●犬雑魔討伐
「ほーら、おいしい干し肉だよ~。……なんて言って出て来たら、いいんだけどねー」
干し肉を頬張りながらリンカが仲間達にも干し肉を回す。
「私も、その……この、ローストチキンで」
申し訳なさそうにマルカもそんな言葉を口にした。
決して、リンカのインコが調理された訳ではない事をここに記しておく。
二人は家の中にいる雑魔を誘き出す為に用意したのだが、効果は無い様子だった。持ってきた以上、食べてしまった方が衛生的にもよろしいので、相棒らにも分けて食している。
「オイラも準備万端だぜ!」
肉をごっくんと飲み込んでから、ユキトラがどん刀を構えた。
独特の金属音を鳴らし、愛用のライフルを構えるエリミネーター。彼の脇には相棒が伏せて鋭い視線を家に向けている。
「突入班が、雑魔を家から出してくれるだろうからな」
手が届くすぐ近くに斧も用意し、万が一の接近に備える。体を捻れば、犬小屋との間の射線も確保した。
「ここにトラップカード設置です!」
目印と共に、ルンルンが家の戸の外に符を用意していた。
家の中に潜んでいる雑魔を外に誘き出し、一気に片をつけるつもりなのだ。万が一にも雑魔を取り逃がす事は許されない。
「わー! ほんとうに真っ黒っす! 黒い犬っすー!」
「今から引っ張り出すっス!」
出て来る気配がない雑魔を誘き出す為に家の中に入った狛と芳人の声が響いた。
符が舞う中、ルンルンが無駄な身振りと共に胸を揺らしながら忍術――符術――を行使した。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! トラップカード発動です☆」
刹那、玄関付近の地面が泥状と化した。
直立したような黒い犬の姿の雑魔は足を取られる。
「魔法で援護します」
マテリアルをマルカは操り、盾を構えている芳人に風の力を付与させるべく魔法を唱える。
「……風よ、我らを守る旋風となり、不浄なる存在を吹き流して」
魔法の援護を受けながら、全身から炎のようなものを放つ芳人に対し、雑魔は噛み付こうとした。
「悪いんッスけど、お前に、構ってる暇はないんッスよ!」
早く討伐し、証拠の確保と、なにより、犬小屋に取り残されている犬達の保護が待っている。
雑魔ごときに時間を使ってやる事はないはずだ。
ぬかるみの中でも、しっかりと攻撃を受け止めた所で、エリミネーターが放ったマテリアルが込められた銃弾が雑魔の足元に突き刺さり、雑魔の動きを止める。
「積極的に、攻撃を仕掛けさせて貰うぜ」
雑魔はこれで移動能力を失ったはずだ。
機動力さえ奪ってしまえば、ハンター達は数と包囲によって一気に攻撃を集中できる。
チャンスとばかりに、反転した狛が雑魔に指先を向けて叫ぶ。
「よし、いぬ! いくっす!」
霊闘士としての力により、相棒とシンクロした狛が雑魔をマテリアルの力で貫く。
それだけで揺らめく雑魔に対し、リンカは魔法を行使した。
「……故郷に舞い降りる、私の雪よ! 凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じて!」
いくつもの白い氷の矢がリンカが構えた魔法剣の剣先から放たれる。
それらは、移動する事も叶わない雑魔に襲い掛かって煌く。
「ふふー! 氷の輝き……綺麗でしょ!」
リンカが満足そうに言った。意識を集中させて放つ魔法の威力は絶大である。
氷の魔法を受けて、更に動きが鈍くなった所に、ユキトラが日本刀を最上段に構えながら迫る。
「そちらさんが黒い犬ってんなら、オイラは白い狼だい! 相手にとって不足なし、ってなァ!」
白狼の精霊の力と共に繰り出した強烈な一撃を叩き込んだ。
苦し紛れに天を見上げ、大きく咆哮する雑魔。
「いってぇ! だけど、もう一撃!」
やはり特殊な能力を持っていたかとユキトラは思ったが、間髪おかずに二撃目を放つ。
「叫びで裂けた、か……。だが、大した事ではないな」
ユキトラへの支援の為、牽制の射撃を撃ちながらエリミネーターが冷静に雑魔の能力を分析した。
負のマテリアルが宿った雑魔の叫びはハンター達の二の腕や太ももの皮膚を切り裂いたのだ。だが、威力は低く、大したダメージではない。
「まだまだ、前には立っていられるっスよ」
芳人は盾をしっかりと構え、雑魔の正面に立ち続けていた。
複数枚の符が宙を駆ける。ルンルンが放ったものである。
「ジュゲームリリ(中略)……煌めいて星の花弁!」
符が結界を張ると、眩い光を放ち、雑魔を焼く。
雑魔は遠吠えをしながら塵となって消えていった。悲しい声の遠吠えだった。
●証拠を求めて
再びルンルンの符が舞った。
結界を構築しているのだ。攻撃するための結界ではなく、生命を探知する結界である。
「ジュゲームリ(以下略)」
犬小屋と思しき場所以外からは生命は感じなかった。
という事は、やはり、犬小屋に取り残されている犬らがいるという事だろう。
「よし、家宅捜査といくか」
エリミネーターが険しい表情で家の中に入る。それに続く狛と芳人。
「いぬとけだまは犬小屋の方をお願いするっす」
「犬の血統書の偽造道具でもあれば一発なんッスけどね」
三人に続くようにリンカも足を踏み出したが、残っている干し肉をマルカに手渡した。
「生き残った犬たちに」
「はい。リンカさんの方も、よろしくお願いします」
その言葉に頷き、リンカは家の中へと足を踏み入れた。
荒らされている……訳ではないようだ。奥の部屋は生々しい惨殺跡だった。
「……相当な恨みでも買ったか?」
奥の部屋で注意深く見渡していたエリミネーターが呟いた。
確かに、家主の遺体は激しく損傷していた。傷跡から推測するに、先ほど倒した雑魔の仕業だとはすぐに判断がつく。
「まぁ、当然の事っス……あったっスよ」
崩れている本棚の下から芳人はノートのようなものを数冊拾いあげると、そのうちの1冊をエリミネーターに投げ渡した。
それは、帳簿であった。
家主の性格なのか大雑把ではあるが、犬が生まれた日と数、売った数、食材費などが記録されている。
「これで、小屋に缶詰にされてるワンちゃんたちの状態と照らし合わせてみて、どういう管理の仕方をしていたかというのが分かれば十分な筈だ」
パラパラと内容を確認しエリミネーターが言った。
概算でしか分からないが、餌の量が少ない気がしたし、『処理』という文字も気になった。
「ここにもなんかあったっす」
狛が書類の束を見つけた。
それを手にするリンカは驚きの声をあげた。
「これ、血統書かな? でも、なんだか作りが雑っぽい?」
少女の素直な感想に苦笑を浮かべながら芳人が書類を覗き込む。
「これは、記されている認定機関に問い合わせなくとも、偽物とすぐに分かりそうっスね」
重要な証拠品となるだろう。
リンカは大事そうに書類を鞄にしまうと、ライトを取り出して机の下などに潜る。
暗い所にも見落としが無いようにというつもりなのだ。
「まだ、他にも証拠品があるかも!」
「そうっスね。壁とか床も気を付けてみるっス」
壁をコンコンと叩きながら芳人は言った。
ちょっと探してこれなのだ。他にも、隠している可能性もある。
「よぉーし! もっと探してみるっすー!」
スーッと鼻から息を吸い込む。
霊闘士の術を使用して、嗅覚を強化しているのだ。
「決定的な証拠を見つけないとな」
『処理』という文字の意味を推測し、エリミネーターは声を落として言った。
どこかにあるはずだ。犬を『処理』した跡が。
●保護、そして……
「もう、大丈夫、ですよ……」
弱弱しく横たわって虫の息の犬を、マルカは毛布で優しく包み込むと、丁寧に荷台に乗せた。
もふもふとした感触にわずかなりでも体温が感じられてマルカも安堵する。
「修行に耐え、立派な忍犬になるんだからっ! ファイトです!」
ルンルンは優しく撫でながら励ました。
犬の瞳からは安堵感が覗える。
「なるべく、揺れがストレスを与えないように、荷台には何人か乗ってて貰った方が、良いと思うのですが……」
心配しながら、遠慮気味に言ったマルカの言葉にルンルンとユキトラは頷いた。
「ルンルン忍法で犬さん達を安心させます!」
「その方が、オイラ達の相棒も安心するかもだしな」
それほど犬達は消耗していた。警戒したり、吠えたりしたりする体力もない様子だ。
他にも数匹ほど生き残りがいるが、ほとんどは全滅状態だ。
保護した犬らを馬車の荷台に乗せ終わると、ハンター達は犬小屋の内部を再確認する。
「……遅れてごめんな。飢えとか、ケガとか、すっげえ辛かったろうな」
息絶えた犬達に合掌し、ユキトラは小屋の中を見渡した。
小屋の中は衛生状態は良いとはいえないと思えた。少なくとも動物を愛する人であれば、ここまで放置はしないだろうという程だ。
拳を強く握るユキトラ。
「一段落したら、こちらの子達も弔いましょう」
「それが良いと思うのです」
マルカの言葉に、符を取り出しながらルンルンが応えたその時だった。
家を探索していた仲間達が外に出てきた。
這い蹲ってなにか、臭いを追っている狛と彼の二頭の相棒。
更に、その後ろを仲間のハンターらが付いて歩いており、明らか、なにか、可笑しい状況である。
「そっちに何かあるんだな?」
ユキトラの質問に芳人が応える。
「狛の超嗅覚が、何か嗅ぎつけたみたいッスね」
全員で狛の後を着いていく、程なくして、窪みに到着した。
一人と二頭が「ここ! ここ!」と同じ顔して仲間達に知らせる。
「これは……ひでぇな……死体の捨て場という事か」
「なんという事を」
エリミネーターとリンカが言葉を発した。
幾体もの犬の死体の一部が申し訳ない程度にかけられた土の間から姿を見せていた。
窪みは大きく、元々の深さは分からないが、降りるまでもなく腐臭が漂ってきそうである。
「男が生きてたら、噛みついてたっす……!」
「死んだのは、本当のクズだったって事っスね」
その惨状に狛と芳人も感情を露わにした。
犬小屋から『処理』された犬はこちらで捨てられていたのだろう。明らかに人員的な傷も確認できる。
「これは……自然や病死ではなさそうな遺体もあります、ね」
「どう見ても人の手でやったみたいだぜ」
犬の亡骸の様子を見てマルカが言った言葉に、ユキトラも続いた。
これは、家主が虐待を行っていたという証拠になるはずだ。書類と犬小屋、そして、ここの状況を照らし合わせれば十分な程、明らかになっただろう。
「せめて成仏して下さい」
ルンルンが手を合わしてから、符で印をきった。
「マルカちゃん、スコップ借りるぜ」
きちんと土をかけて弔ってやろうと思ったエリミネーターがマルカからスコップを受け取った。
窪みを慎重に降りる時だった。ある事に気が付いた。
「これは……足跡か? なんだ?」
異変に芳人が近寄って一緒に確認する。
それは、『降りる何かの足跡と、窪みから登る二人分の足跡』だった。
「一人分は、倒した雑魔のものっスね」
では、『降りて再び登った足跡』とはいったいなんなのか。
「……考えられるとしたら、歪虚?」
リンカが首を傾げた。
雑魔が出現するには負のマテリアルが関係しているという。行き場の失った淀んだマテリアルが集まって雑魔が出現するケースもあれば、七眷属のいずれかの歪虚が雑魔を生み出す場合もある。
「形状からすると、人じゃないみたいだな」
ユキトラの推測通り、明らかに人のではない足跡だと分かる。
きっと答えは見つからない謎だろう。しかし、その謎を見つけた意味は大きいかもしれない。ハンター達はお互いで顔を見合わせて、静かに頷いた。
「では、犬さん達と一緒に帰るのです」
ルンルンが宣言するように言い、一行は保護した犬らが乗っている馬車へと歩き出したのであった。
ハンター達は生き残った犬を保護し、無事にハンターオフィスへと帰還した。
保護した犬らはオフィスを通じ、心優しい新しい飼い主の元へと、それぞれ行き、可愛いがわれているという。
おしまい。
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相談卓 長良 芳人(ka3874) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/05/18 18:08:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/15 10:22:57 |