ゲスト
(ka0000)
伯爵地沖クールズ ~グローリー号~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/22 15:00
- 完成日
- 2016/05/28 21:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
伯爵地【ニュー・ウォルター】はグラズヘイム王国の南部に位置する。領主が住まう城塞都市『マール』は海岸線よりも十kmほど内陸部に存在していた。
マールと海岸線を繋ぐ運河のおかげで海上の帆船で直接乗りつけることができる。もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』までだ。
それ以降は手こぎのゴンドラが利用されている。升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やか。橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少ない。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
去年の十二月初旬、船長メタシア・ギルバートが率いる商船グローリー号は冒険都市リゼリオへと向かう。貴族から請け負った各種機導装置の引き取りのためだったが、帰路のついでに人殺しの犯人移送を頼まれることとなった。
ハンター一行と犯人を乗せて港を出航。目指す先は王国のマール港である。
航海の途中、雑魔の巨大イカと鮫人に襲われた。その目的は犯人の奪取、または口封じと考えられる。
ハンター達は犯人とグローリー号を守りきった。自らの立場を悟った犯人はようやく白状し始める。
犯人の男性が大事にしていたカメオのペンダントは元々、亡くなった恋人と対のもの。とはいえ、そこらで売っていた品だ。故に雑魔を引きつける効力があるはずもない。知らぬ間に雑魔を引きつける効果を持つ偽物とすり替えられていたと犯人は嘆いた。
犯人は自分の名をカルアテだと白状する。殺人は恋人を殺されたための復讐だった。そして人殺しを唆したのは三十路前後のミントという女だとハンター達に告げた。
カルアテが城塞都市マール周辺で殺した三名は全員がエクラ教の敬虔な信者である。ハンターが仮面舞踏会に潜入して殺された三名の後釜に就いた者達の正体を洗いだす。
どの人物も限りなく黒。見聞きしたすべて反乱の意思を示すのに充分なものだった。
マール城への侵攻が懸念され、それは実行に移されようとしていた。
オリナニア騎士団の副長のミリオド・スコンが指揮を執って対処。海からの武装帆船襲来はグローリー号が阻止。ニュー港に集まった歪虚崇拝者集団の排除にはハンターが活躍する。
結果、クーデターは未然に防がれたのだった。
「準備はどうだ?」
「計画通りに進めております。特に料理についてはご要望にそえることでしょう」
ある日のニュー港。メタシア船長はグローリー商会本社で秘書メリーと顔を突き合わせていた。
歪虚崇拝者によって企てられた城塞都市『マール』での暴動計画。メタシア船長はそれらを未然に阻止した者達が集まっての慰労の場を用意しようとしていたのである。
グローリー号でニュー港から出港し、運河を下って沖へ。そして半日ほど海原を走って戻るパーティ・クルーズだ。
オリナニア騎士団の副長のミリオド・スコンを含めて、騎士達も参加。そして重要な役割を果たしてくれたハンターにも紹介状が送られていた。形式としては会議への参加を要請する内容ではあったのだが。
殺人をおかしてしまったカルアテ。
ビセント商会を乗っ取った元金貸しのセンセスト。
騎士モニュール家の当主になった十三歳ミナンタと、その後見人になったブリオンデ。
武器問屋を引き継いだ元経理のコニューリ。
これらの人物がどうなったかについても、クールズ内で語られることだろう。
すっかりと春めいた季節。船上でのパーティがもうすぐ始まろうとしていた。
マールと海岸線を繋ぐ運河のおかげで海上の帆船で直接乗りつけることができる。もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』までだ。
それ以降は手こぎのゴンドラが利用されている。升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やか。橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少ない。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
去年の十二月初旬、船長メタシア・ギルバートが率いる商船グローリー号は冒険都市リゼリオへと向かう。貴族から請け負った各種機導装置の引き取りのためだったが、帰路のついでに人殺しの犯人移送を頼まれることとなった。
ハンター一行と犯人を乗せて港を出航。目指す先は王国のマール港である。
航海の途中、雑魔の巨大イカと鮫人に襲われた。その目的は犯人の奪取、または口封じと考えられる。
ハンター達は犯人とグローリー号を守りきった。自らの立場を悟った犯人はようやく白状し始める。
犯人の男性が大事にしていたカメオのペンダントは元々、亡くなった恋人と対のもの。とはいえ、そこらで売っていた品だ。故に雑魔を引きつける効力があるはずもない。知らぬ間に雑魔を引きつける効果を持つ偽物とすり替えられていたと犯人は嘆いた。
犯人は自分の名をカルアテだと白状する。殺人は恋人を殺されたための復讐だった。そして人殺しを唆したのは三十路前後のミントという女だとハンター達に告げた。
カルアテが城塞都市マール周辺で殺した三名は全員がエクラ教の敬虔な信者である。ハンターが仮面舞踏会に潜入して殺された三名の後釜に就いた者達の正体を洗いだす。
どの人物も限りなく黒。見聞きしたすべて反乱の意思を示すのに充分なものだった。
マール城への侵攻が懸念され、それは実行に移されようとしていた。
オリナニア騎士団の副長のミリオド・スコンが指揮を執って対処。海からの武装帆船襲来はグローリー号が阻止。ニュー港に集まった歪虚崇拝者集団の排除にはハンターが活躍する。
結果、クーデターは未然に防がれたのだった。
「準備はどうだ?」
「計画通りに進めております。特に料理についてはご要望にそえることでしょう」
ある日のニュー港。メタシア船長はグローリー商会本社で秘書メリーと顔を突き合わせていた。
歪虚崇拝者によって企てられた城塞都市『マール』での暴動計画。メタシア船長はそれらを未然に阻止した者達が集まっての慰労の場を用意しようとしていたのである。
グローリー号でニュー港から出港し、運河を下って沖へ。そして半日ほど海原を走って戻るパーティ・クルーズだ。
オリナニア騎士団の副長のミリオド・スコンを含めて、騎士達も参加。そして重要な役割を果たしてくれたハンターにも紹介状が送られていた。形式としては会議への参加を要請する内容ではあったのだが。
殺人をおかしてしまったカルアテ。
ビセント商会を乗っ取った元金貸しのセンセスト。
騎士モニュール家の当主になった十三歳ミナンタと、その後見人になったブリオンデ。
武器問屋を引き継いだ元経理のコニューリ。
これらの人物がどうなったかについても、クールズ内で語られることだろう。
すっかりと春めいた季節。船上でのパーティがもうすぐ始まろうとしていた。
リプレイ本文
●
ニュー港から出航した帆船グローリー号は湾内から運河へと舵を取る。充分な風を帆に受けながら南方へと下っていった。
「こんなにたくさんの人が参加しているんだね。知っている人、いるかな?」
甲板の片隅にいたユーリィ・リッチウェイ(ka3557)が船上パーティ参加者達を眺める。
「海まで出れるのは嬉しいです」
セシル・ディフィール(ka4073)は船縁に寄りかかりなから葡萄酒を嗜んでいた。
運河沿いの道を荷馬車が駆けていく。荷台に乗っていた子供達が手を振っていた。気づいたセシルも笑顔で手を振って応える。
「キバ、大人しくしとけば肉をやろう、な?」
恭牙(ka5762)の足元でハスキー犬のキバが目を輝かせていた。恭牙が持っていたのは骨付き生肉が盛られた大皿だ。キバがお座りを崩したのは、恭牙が大皿を床において「食べてよし」といってからである。
恭牙はすぐ側の鞍馬 真(ka5819)と同じ卓へとつく。
「こういう豪華な食事にありつく機会はなかなかないからな」
真は料理を味わっていた。特に牛フィレとフォアグラが使われた一皿は、普段マイペースな彼の表情を動かすほどの美味さである。
真と恭牙が見かけた仲間達を次々と卓へと招いた。その中にはディーナ・フェルミ(ka5843)の姿もあった。
「鞍馬さん、セシルさん、恭牙さん、ユーリィさん! こんにちはなの」
ディーナは普段通りの聖導士の姿をしていた。まずは締めくくりを乾杯を祝おうとディーナにも飲み物が手渡される。
「お、いいところに出くわしたようだ」
そこへメタシア船長も卓の近くを通りかかった。
役者が揃ったところで乾杯が行われた。まるで合わせたかのように周囲の卓でも乾杯が交わされていく。そうやってパーティの雰囲気が盛り上がっていった。
「見えてきましたよ」
席から立ち上がったセシルが進行方向を望んだ。運河口の向こうには青く輝く水平線が広がっていた。まもなくグローリー号は運河から海原へ。船乗りの間で結成された楽団によって演奏が始まる。
「クーデター失敗のその後、歪虚崇拝者の処置や、他に隠れ歪虚崇拝者等の検挙などは如何なりましたか?」
セシルは牡蛎のオイル煮を頂きながら船長に質問を投げかけた。
「又聞きになるが、薬を使って暗示がかけられた者達は微罪になりそうだ。教団の裏名簿が手に入ったので、大半はそこから判断することになるだろう」
ラム酒は船長の口をなめらかにする。
「そうだ。カルアテがどうしたのか気になっていたのだ。船長は知らないか? ……寛大な処遇であれば良いのだがなぁ」
「カルアテさんが殺害したことで利を得た三人の歪虚信奉者のことも教えてくださいの」
恭牙とディーナが船長を見つめた。
カルアテとは、堕落者のミントに唆されてエクラ教の敬虔な信者三名を殺害した青年である。恋人の仇と信じ込まされての犯行だった。
「カルアテは終身刑になった。死罪に決まりかけていたのだが、ミナンタという被害者家族の嘆願によってな。その娘には興味があったので、パーティの招待状を送っておいた。乗船は確認しているのだが、どこにも見当たらなくてな」
船長達の会話を耳に挟んだユーリィが背筋を伸ばす。食べかけのハムサンドを喉に押し込んで席を立つ。
「センセストはどうなったのだ?」
恭牙が空になった船長のジョッキへとラム酒を注いだ。
「あいつは死罪に決まったのだが、刑執行の前に牢獄で自害したそうだ。さっき話したミナンタの後見人だったブリオンデ、もう一人のコニューリって奴も同罪だが今のところは生きている。とはいえ歪虚崇拝者側の情報を引きだすためなので……。ま、このぐらいにしておこうか」
船長が片腕をあげてウエイター役の船乗りを呼ぶ。そして更なる酒と料理を注文する。
ちなみに本日のパーティでくつろげなかった船乗り達には、恩賞と後日の長期休暇が与えられる手筈になっていた。
●
「あ、これ美味しいですの」
ディーナがフォークで煮こごりで固められた冷製肉料理に頬を綻ばせる。旬の野菜サラダにはチーズとドレッシングがふんだんに使われていた。
「ボイルしたソーセージもうまいぞ。色々な種類があるが、俺のお勧めはこのボックヴルストだ」
「メタシアさま、ありがとうですの」
船長によれば秘書のメリーも乗船しているとのことだ。ディーナはメリーがくつろいでいた卓に挨拶へ向かう。誘われたので隣に座ってしばしお喋りを楽しんだ。
「人手が必要な時はハンターオフィスに是非ご依頼くださいなの」
「そうさせてもらいますわ。想像していた以上の活躍と成果でとても助かりました」
「それにしても、どのお料理もとっても美味しいの。作り方教えて欲しいくらいなの」
「厨房の主任に聞けばきっと教えてくれるわ。ちょっと待って……私の名前をだしてこれを渡せば大丈夫だから」
ディーナはメリーから変わった意匠の硬貨一枚を渡される。後で厨房の主任に渡してお願いすると住所を訊かれた。後日、レシピが記された手紙が届いて料理を再現。友人を呼んで舌鼓を打つことになるのだが、これは別の話である。
ディーナが元いた卓へ戻ろうとしたときにミリオド副長を見かけた。副長と話している外套を羽織った金髪の男性にも見覚えがある。
「ミリオド副長さまも騎士さまもお久しぶりなの」
ディーナは二人に挨拶をした。
「ディーナさんでしたね。一連の出来事についての尽力、とても助かりました。是非に楽しんでいってくださいね」
金髪の男性が騎士の振る舞いでディーナに感謝の意を示す。
「ハンターオフィスも私も仕事の依頼は手ぐすねひいてまってるの。じゃんじゃんどうぞなの」
「私を狙う影は今も闇の中で潜んでいるはずです。新たな悪意を持って狙ってくることでしょう。そのときは是非にお願いします」
金髪の男性からの杯を受け取る。副長、金髪の男性と一緒にあらためて乾杯したディーナであった。
●
「少し酔ってしまったかも」
一時的に席を外したセシルは酔い覚ましに船首楼で風に当たろうとしていた。すでに先客がいたが気にせずに近づいていく。
(あそこに居らっしゃるのは、アーリアさん? まさか、ですけれど……)
横顔が見えて誰なのかわかる。眼鏡こそかけていたが、金髪の男性は見知った人物だった。
「そちらの女性。もしや……セシルさんではありませんか?」
金髪の男性が振り返ってセシルははっとする。
「こちらでお会いできるとは」
「領内の護りに力を貸してくれた勇敢なる方々を少しでも労いたいと思いまして」
セシルは金髪の男性と海を眺めながらしばし歓談した。そして彼の大変さに思いを馳せる。
(ご自身も大変な中、領内のこともしっかりとしなければならない……。気づいていたようで、改めて気づかされますね……)
海鳥の話をするうちに金髪の男性が表情が和らいでいく。そんな彼を眺めているうちにセシルも心が安らいだ。
「あれはまさか?」
「これは珍しいな」
イルカの群れが波間を跳ねながらグローリー号の近くを通り過ぎる。セシルと金髪の男性だけでなく、他の乗船者達も気づいて歓声があがるのだった。
●
「そう言えば私が酒ぶっかけたのは誰であったかな……。女性をはべらしていたような気がするが」
「それならきっとブリオンデだろう。私はセンセストに探りをいれていたが」
ほろ酔いの恭牙と真は舞踏会での出来事を思いだす。平らげた皿は片付けられて新たな料理が卓へと運ばれてくる。
「誠に都市も守れてよかった……」
そう恭牙はしみじみと語りながら心の中では「護鬼に近付けただろうか?」と呟く。
「こちらはピザを丸めて揚げたものだ」
「どれ……。うん、チーズがとろりとしてなかなかいけるな」
真に進められて恭牙がピロシキを口にする。そのとき副長が卓へと顔をだした。
「恭牙殿と真殿、部下からいくつもの武勇を伝え聞いています」
副長からの感謝の言葉に恭牙と真が礼儀正しく返す。続いて恭牙が副長のジョッキにピッチャーからよく冷えたビールを注いだ。真は酒の摘まみになりそうなアイスバインの皿を副長の近くへと動かした。
「ここだけの話になりますが……ハンターのみなさんの力添えがなければ城は大変なことになっていたのではと考えています。腕っ節だけなら騎士団もみなさんに引けを取らぬと自負しておりますが、どうも融通が利かぬ点がありまして――」
副長が話している間に熱々の若鶏の手羽唐揚げが運ばれてくる。こちらも摘まみにしながらお喋りと酒を進ませた。
楽団による演奏は続いている。そろそろ興が乗ってきたようで踊りだす者達がちらほらと。声援と拍手が巻き起こって場が盛り上がっていく。
「……少し参加させてもらうか」
真は横笛を握った腕を高く掲げて楽団へと手を振った。ギターを弾いていた演奏者が真を指さしたのでOKと判断。真は即興で合わせていく。
真だけではなかった。他にも楽器が弾ける者達が次々と参加して、セッションの音が厚くなっていった。
「ちょっと野暮用でな」
「そういえば、俺達が港で戦っているとき、このグローリー号はどんな海上戦を繰り広げていたんだ?」
恭牙は卓に戻ってきた船長のジョッキにビールを注いだ。そして副長と一緒に海戦の様子を聞かせてもらう。
「普通は敵船の後方に砲弾を撃ち込むのが常道なんだが、運河の河口を塞がなければならなかったからその手は当然使えなかった。後ろ向きで突撃してくる敵なんているはずないからな」
恭牙が「ではどうしたのであろうか?」と船長に返す。
「大砲四門を事前に陸地へ揚げておいた。つまり固定砲台化する作戦をとったのだ。敵の武装帆船も河口を通過しなければならない縛りがあるからな。突っ込まざるを得ないわけだ。最後には敵船に接舷しての乱闘を演じたが、勝敗の鍵はそこで決まったといっていい」
船長の海戦話を酒の肴にしていて楽しむ恭牙と副長。それとは別に楽器演奏とダンスがさらなる盛り上がりをみせていた。先程まで横笛を吹いていた真がセシルとステップを踏んで躍りだす。
「何を話しているんですの?」
「河口付近での戦いを話していたんだ」
卓へ戻ってきたディーナも海戦話に耳を傾ける。料理はまだまだ続く。今度は子牛肉のステーキが卓に運ばれてきた。
「俺が頼んだんだ、子牛肉のステーキ。船長から厨房主任自慢の一皿だと聞いたのでな。おぬしもどうだろう?」
「ありがとうですの。食欲をそそるにおいですの」
恭牙が食べる前にナイフで半分に切ってディーナにお裾分け。二人がステーキを一切れずつ食べて顔を見合わせる。
「旨いのであるよ、クハハハハ!」
「本当に」
満面の笑みを浮かべながら二人は頬張った。その姿を見て船長と副長が愉快に笑う。
「いい食べっぷりだな。そうでなくてはな」
「では頂こうか」
船長と副長も冷めないうちにステーキに手をつけるのだった。
●
「乗っているっていってたのに、どこにもいないや。どうしたのかな?」
疲れたユーリィは適当な椅子に座ってジュースで喉の渇きを癒やす。甲板を何周もして探したのだが、ミナンタは見つからなかった。
ふと真と躍っているセシルの姿が視界に入る。セシルも気づいたようでウインクで合図を送ってきた。ユーリィが疲れ顔を変えてセシルに微笑んだとき、船倉室から出てきた小柄な娘に気がつく。
「……ボクと同じ位の背格好のこの場に居るような……? もしかして……!」
席から立ち上がったユーリィが近づいた。
「ねぇ、そこの子。一緒に遊ばない?」
ユーリィはいつかの仮面舞踏会のときと同じように彼女の手を取ってダンスに誘う。怪訝そうなミナンタの表情が朗らかになる。
「わたしでよろしければ」
ユーリィとミナンタは踊りの場へと踏みだす。ユーリィの身のこなしは舞踏会のときと同じ。誘い方だけでなくステップやリズムのとり方も。アンクレット・ベルを鳴らしながら。
「……あなたはあのときの?」
「そうだよ。また会えたね!」
それからのユーリィとミナンタの間には言葉はいらなかった。ステップで衣服の裾を揺らしながら躍り続ける。
真とセシルの隣で一緒にダンス。恭牙、ディーナ、船長、副長からの声援が届く。
海原が夕暮れに染まっても宴は続いた。焚かれたいくつもの篝火が甲板を照らす。泡沫の夢が弾けるにはまだ早かった。
●
グローリー号がニュー港へ帰港したのは深夜であった。
「エクラにも円環の思想はあるの。死は魂を滅しない。現世と異界は隔たれているけれど、死は新たな肉体と生の目覚めの始まり。今しかできないことはあっても二度とできないことはないの。だから……生きて償うだけが全てじゃないの」
今では一人前を自負しているディーナだが、カルアテと出会った頃は駆け出しだった。呟きと同様の考えを認めたカルアテ宛の手紙を副長に預ける。
副長によれば将来的に恩赦があった場合、騎士のモニュール家当主ミナンタがカルアテの身柄を預かることになるかも知れないという。
親殺しの仇をミナンタがどのように扱うつもりなのか。
復讐のためかも知れないし、反対に慈愛の心で接するつもりなのかも知れない。こればかりはミナンタの心の内に潜んでいて誰にもわからなかった。
ただ一ついえるのは最後にユーリィと別れの挨拶を交わしたミナンタは笑顔であった。
多くのハンターがニュー港近くの宿屋へと泊まる。
ハンターの活躍のおかげで城塞都市マールが救われたのは確かなことだ。もし歪虚崇拝者の集団による城攻めがあったのならば、死者は軽く千を越えていたことだろう。市中にも広がったのなら万に届いていた可能性もある。
柔らかなベッドの傍らにはお土産の紅茶が。ハンター達はそれぞれに夢を見たのだった。
ニュー港から出航した帆船グローリー号は湾内から運河へと舵を取る。充分な風を帆に受けながら南方へと下っていった。
「こんなにたくさんの人が参加しているんだね。知っている人、いるかな?」
甲板の片隅にいたユーリィ・リッチウェイ(ka3557)が船上パーティ参加者達を眺める。
「海まで出れるのは嬉しいです」
セシル・ディフィール(ka4073)は船縁に寄りかかりなから葡萄酒を嗜んでいた。
運河沿いの道を荷馬車が駆けていく。荷台に乗っていた子供達が手を振っていた。気づいたセシルも笑顔で手を振って応える。
「キバ、大人しくしとけば肉をやろう、な?」
恭牙(ka5762)の足元でハスキー犬のキバが目を輝かせていた。恭牙が持っていたのは骨付き生肉が盛られた大皿だ。キバがお座りを崩したのは、恭牙が大皿を床において「食べてよし」といってからである。
恭牙はすぐ側の鞍馬 真(ka5819)と同じ卓へとつく。
「こういう豪華な食事にありつく機会はなかなかないからな」
真は料理を味わっていた。特に牛フィレとフォアグラが使われた一皿は、普段マイペースな彼の表情を動かすほどの美味さである。
真と恭牙が見かけた仲間達を次々と卓へと招いた。その中にはディーナ・フェルミ(ka5843)の姿もあった。
「鞍馬さん、セシルさん、恭牙さん、ユーリィさん! こんにちはなの」
ディーナは普段通りの聖導士の姿をしていた。まずは締めくくりを乾杯を祝おうとディーナにも飲み物が手渡される。
「お、いいところに出くわしたようだ」
そこへメタシア船長も卓の近くを通りかかった。
役者が揃ったところで乾杯が行われた。まるで合わせたかのように周囲の卓でも乾杯が交わされていく。そうやってパーティの雰囲気が盛り上がっていった。
「見えてきましたよ」
席から立ち上がったセシルが進行方向を望んだ。運河口の向こうには青く輝く水平線が広がっていた。まもなくグローリー号は運河から海原へ。船乗りの間で結成された楽団によって演奏が始まる。
「クーデター失敗のその後、歪虚崇拝者の処置や、他に隠れ歪虚崇拝者等の検挙などは如何なりましたか?」
セシルは牡蛎のオイル煮を頂きながら船長に質問を投げかけた。
「又聞きになるが、薬を使って暗示がかけられた者達は微罪になりそうだ。教団の裏名簿が手に入ったので、大半はそこから判断することになるだろう」
ラム酒は船長の口をなめらかにする。
「そうだ。カルアテがどうしたのか気になっていたのだ。船長は知らないか? ……寛大な処遇であれば良いのだがなぁ」
「カルアテさんが殺害したことで利を得た三人の歪虚信奉者のことも教えてくださいの」
恭牙とディーナが船長を見つめた。
カルアテとは、堕落者のミントに唆されてエクラ教の敬虔な信者三名を殺害した青年である。恋人の仇と信じ込まされての犯行だった。
「カルアテは終身刑になった。死罪に決まりかけていたのだが、ミナンタという被害者家族の嘆願によってな。その娘には興味があったので、パーティの招待状を送っておいた。乗船は確認しているのだが、どこにも見当たらなくてな」
船長達の会話を耳に挟んだユーリィが背筋を伸ばす。食べかけのハムサンドを喉に押し込んで席を立つ。
「センセストはどうなったのだ?」
恭牙が空になった船長のジョッキへとラム酒を注いだ。
「あいつは死罪に決まったのだが、刑執行の前に牢獄で自害したそうだ。さっき話したミナンタの後見人だったブリオンデ、もう一人のコニューリって奴も同罪だが今のところは生きている。とはいえ歪虚崇拝者側の情報を引きだすためなので……。ま、このぐらいにしておこうか」
船長が片腕をあげてウエイター役の船乗りを呼ぶ。そして更なる酒と料理を注文する。
ちなみに本日のパーティでくつろげなかった船乗り達には、恩賞と後日の長期休暇が与えられる手筈になっていた。
●
「あ、これ美味しいですの」
ディーナがフォークで煮こごりで固められた冷製肉料理に頬を綻ばせる。旬の野菜サラダにはチーズとドレッシングがふんだんに使われていた。
「ボイルしたソーセージもうまいぞ。色々な種類があるが、俺のお勧めはこのボックヴルストだ」
「メタシアさま、ありがとうですの」
船長によれば秘書のメリーも乗船しているとのことだ。ディーナはメリーがくつろいでいた卓に挨拶へ向かう。誘われたので隣に座ってしばしお喋りを楽しんだ。
「人手が必要な時はハンターオフィスに是非ご依頼くださいなの」
「そうさせてもらいますわ。想像していた以上の活躍と成果でとても助かりました」
「それにしても、どのお料理もとっても美味しいの。作り方教えて欲しいくらいなの」
「厨房の主任に聞けばきっと教えてくれるわ。ちょっと待って……私の名前をだしてこれを渡せば大丈夫だから」
ディーナはメリーから変わった意匠の硬貨一枚を渡される。後で厨房の主任に渡してお願いすると住所を訊かれた。後日、レシピが記された手紙が届いて料理を再現。友人を呼んで舌鼓を打つことになるのだが、これは別の話である。
ディーナが元いた卓へ戻ろうとしたときにミリオド副長を見かけた。副長と話している外套を羽織った金髪の男性にも見覚えがある。
「ミリオド副長さまも騎士さまもお久しぶりなの」
ディーナは二人に挨拶をした。
「ディーナさんでしたね。一連の出来事についての尽力、とても助かりました。是非に楽しんでいってくださいね」
金髪の男性が騎士の振る舞いでディーナに感謝の意を示す。
「ハンターオフィスも私も仕事の依頼は手ぐすねひいてまってるの。じゃんじゃんどうぞなの」
「私を狙う影は今も闇の中で潜んでいるはずです。新たな悪意を持って狙ってくることでしょう。そのときは是非にお願いします」
金髪の男性からの杯を受け取る。副長、金髪の男性と一緒にあらためて乾杯したディーナであった。
●
「少し酔ってしまったかも」
一時的に席を外したセシルは酔い覚ましに船首楼で風に当たろうとしていた。すでに先客がいたが気にせずに近づいていく。
(あそこに居らっしゃるのは、アーリアさん? まさか、ですけれど……)
横顔が見えて誰なのかわかる。眼鏡こそかけていたが、金髪の男性は見知った人物だった。
「そちらの女性。もしや……セシルさんではありませんか?」
金髪の男性が振り返ってセシルははっとする。
「こちらでお会いできるとは」
「領内の護りに力を貸してくれた勇敢なる方々を少しでも労いたいと思いまして」
セシルは金髪の男性と海を眺めながらしばし歓談した。そして彼の大変さに思いを馳せる。
(ご自身も大変な中、領内のこともしっかりとしなければならない……。気づいていたようで、改めて気づかされますね……)
海鳥の話をするうちに金髪の男性が表情が和らいでいく。そんな彼を眺めているうちにセシルも心が安らいだ。
「あれはまさか?」
「これは珍しいな」
イルカの群れが波間を跳ねながらグローリー号の近くを通り過ぎる。セシルと金髪の男性だけでなく、他の乗船者達も気づいて歓声があがるのだった。
●
「そう言えば私が酒ぶっかけたのは誰であったかな……。女性をはべらしていたような気がするが」
「それならきっとブリオンデだろう。私はセンセストに探りをいれていたが」
ほろ酔いの恭牙と真は舞踏会での出来事を思いだす。平らげた皿は片付けられて新たな料理が卓へと運ばれてくる。
「誠に都市も守れてよかった……」
そう恭牙はしみじみと語りながら心の中では「護鬼に近付けただろうか?」と呟く。
「こちらはピザを丸めて揚げたものだ」
「どれ……。うん、チーズがとろりとしてなかなかいけるな」
真に進められて恭牙がピロシキを口にする。そのとき副長が卓へと顔をだした。
「恭牙殿と真殿、部下からいくつもの武勇を伝え聞いています」
副長からの感謝の言葉に恭牙と真が礼儀正しく返す。続いて恭牙が副長のジョッキにピッチャーからよく冷えたビールを注いだ。真は酒の摘まみになりそうなアイスバインの皿を副長の近くへと動かした。
「ここだけの話になりますが……ハンターのみなさんの力添えがなければ城は大変なことになっていたのではと考えています。腕っ節だけなら騎士団もみなさんに引けを取らぬと自負しておりますが、どうも融通が利かぬ点がありまして――」
副長が話している間に熱々の若鶏の手羽唐揚げが運ばれてくる。こちらも摘まみにしながらお喋りと酒を進ませた。
楽団による演奏は続いている。そろそろ興が乗ってきたようで踊りだす者達がちらほらと。声援と拍手が巻き起こって場が盛り上がっていく。
「……少し参加させてもらうか」
真は横笛を握った腕を高く掲げて楽団へと手を振った。ギターを弾いていた演奏者が真を指さしたのでOKと判断。真は即興で合わせていく。
真だけではなかった。他にも楽器が弾ける者達が次々と参加して、セッションの音が厚くなっていった。
「ちょっと野暮用でな」
「そういえば、俺達が港で戦っているとき、このグローリー号はどんな海上戦を繰り広げていたんだ?」
恭牙は卓に戻ってきた船長のジョッキにビールを注いだ。そして副長と一緒に海戦の様子を聞かせてもらう。
「普通は敵船の後方に砲弾を撃ち込むのが常道なんだが、運河の河口を塞がなければならなかったからその手は当然使えなかった。後ろ向きで突撃してくる敵なんているはずないからな」
恭牙が「ではどうしたのであろうか?」と船長に返す。
「大砲四門を事前に陸地へ揚げておいた。つまり固定砲台化する作戦をとったのだ。敵の武装帆船も河口を通過しなければならない縛りがあるからな。突っ込まざるを得ないわけだ。最後には敵船に接舷しての乱闘を演じたが、勝敗の鍵はそこで決まったといっていい」
船長の海戦話を酒の肴にしていて楽しむ恭牙と副長。それとは別に楽器演奏とダンスがさらなる盛り上がりをみせていた。先程まで横笛を吹いていた真がセシルとステップを踏んで躍りだす。
「何を話しているんですの?」
「河口付近での戦いを話していたんだ」
卓へ戻ってきたディーナも海戦話に耳を傾ける。料理はまだまだ続く。今度は子牛肉のステーキが卓に運ばれてきた。
「俺が頼んだんだ、子牛肉のステーキ。船長から厨房主任自慢の一皿だと聞いたのでな。おぬしもどうだろう?」
「ありがとうですの。食欲をそそるにおいですの」
恭牙が食べる前にナイフで半分に切ってディーナにお裾分け。二人がステーキを一切れずつ食べて顔を見合わせる。
「旨いのであるよ、クハハハハ!」
「本当に」
満面の笑みを浮かべながら二人は頬張った。その姿を見て船長と副長が愉快に笑う。
「いい食べっぷりだな。そうでなくてはな」
「では頂こうか」
船長と副長も冷めないうちにステーキに手をつけるのだった。
●
「乗っているっていってたのに、どこにもいないや。どうしたのかな?」
疲れたユーリィは適当な椅子に座ってジュースで喉の渇きを癒やす。甲板を何周もして探したのだが、ミナンタは見つからなかった。
ふと真と躍っているセシルの姿が視界に入る。セシルも気づいたようでウインクで合図を送ってきた。ユーリィが疲れ顔を変えてセシルに微笑んだとき、船倉室から出てきた小柄な娘に気がつく。
「……ボクと同じ位の背格好のこの場に居るような……? もしかして……!」
席から立ち上がったユーリィが近づいた。
「ねぇ、そこの子。一緒に遊ばない?」
ユーリィはいつかの仮面舞踏会のときと同じように彼女の手を取ってダンスに誘う。怪訝そうなミナンタの表情が朗らかになる。
「わたしでよろしければ」
ユーリィとミナンタは踊りの場へと踏みだす。ユーリィの身のこなしは舞踏会のときと同じ。誘い方だけでなくステップやリズムのとり方も。アンクレット・ベルを鳴らしながら。
「……あなたはあのときの?」
「そうだよ。また会えたね!」
それからのユーリィとミナンタの間には言葉はいらなかった。ステップで衣服の裾を揺らしながら躍り続ける。
真とセシルの隣で一緒にダンス。恭牙、ディーナ、船長、副長からの声援が届く。
海原が夕暮れに染まっても宴は続いた。焚かれたいくつもの篝火が甲板を照らす。泡沫の夢が弾けるにはまだ早かった。
●
グローリー号がニュー港へ帰港したのは深夜であった。
「エクラにも円環の思想はあるの。死は魂を滅しない。現世と異界は隔たれているけれど、死は新たな肉体と生の目覚めの始まり。今しかできないことはあっても二度とできないことはないの。だから……生きて償うだけが全てじゃないの」
今では一人前を自負しているディーナだが、カルアテと出会った頃は駆け出しだった。呟きと同様の考えを認めたカルアテ宛の手紙を副長に預ける。
副長によれば将来的に恩赦があった場合、騎士のモニュール家当主ミナンタがカルアテの身柄を預かることになるかも知れないという。
親殺しの仇をミナンタがどのように扱うつもりなのか。
復讐のためかも知れないし、反対に慈愛の心で接するつもりなのかも知れない。こればかりはミナンタの心の内に潜んでいて誰にもわからなかった。
ただ一ついえるのは最後にユーリィと別れの挨拶を交わしたミナンタは笑顔であった。
多くのハンターがニュー港近くの宿屋へと泊まる。
ハンターの活躍のおかげで城塞都市マールが救われたのは確かなことだ。もし歪虚崇拝者の集団による城攻めがあったのならば、死者は軽く千を越えていたことだろう。市中にも広がったのなら万に届いていた可能性もある。
柔らかなベッドの傍らにはお土産の紅茶が。ハンター達はそれぞれに夢を見たのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/22 12:16:49 |