ササノハ誘拐事件

マスター:尾仲ヒエル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/05/23 09:00
完成日
2016/05/30 12:34

みんなの思い出

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オープニング

●帝都の酒場
「くそっ。何が朱花の教団だ。あいつら人を馬鹿にしやがって」
 薄暗い隅のテーブルで、くたびれた風体の男が酒をあおっていた。
 他の客が遠巻きにする中、ガラの悪い3人組が男のいるテーブルに近づいていく。
「よお、どうした。そんなにカッカして」
 愛想よく話しかけたのは、目つきの鋭い小男。
 3人組の中では一番立場が上のようだ。
 しばらく飲む内に、小男の口のうまさと気前よく振舞われる酒に、男の口が軽くなる。
「それがな。この間のことなんだが……」
 男はそう言って、先日の一件を話し出した。
 朱花の教団がパンを配っているところに男が乱入し、教団を非難したところ、そこにいた信者全員から非難され、追い出されたのだった。
「あいつらなんにも分かっちゃいないんだ」
「そりゃあ気の毒に。ひどい目にあったな。朱花の教団って、あれだろ。『ササノハさま』がどうとかいう」
「ああ。あんな奴、ただ見た目がいいだけでちやほやされてる偽者だ。いつか絶対に正体を暴いてやる」
 その言葉を聞いた小男が、興味をそそられた様子で口を挟む。
「へえ、教主が美人っていう噂は本当だったのか」
「ふん。教団については色々と調べたからな。なんでも知ってるぞ。東方風のそれらしい服をいつも着ていてな……あの服を買う金もどこから出ているのやら」
「俺も一度近くで拝みたいもんだが、なかなか会えるもんでもないんだろう?」
「ああ。教団が街に来ている時、行列に並べば会えないこともないだろうが……今の人気じゃ見るのも大変かもな」
「そうか。ちらっと見るだけでもいいんだがなあ」
 さも残念そうにため息をつく小男。
 ササノハについて妙に興味のある様子だが、聞き役ができて気分の良くなった男は気付かない。
「それなら教団本部に行くといい。教主は本部の離れに暮らしてるからな。何度か行けば近くで見かけることもあるだろうよ」
「本部ねえ……俺みたいなのがうろうろしていたら怪しまれるんじゃないか?」
「ふん。じゃあ、とっておきの情報を教えてやるよ。しばらく観察していて分かったんだが、いつも新月の日になると教団幹部どもの集会があるらしくてな。離れを含めた本部を警備する人間がぐっと減るんだ」
「へえ。そりゃあいい。ありがとよ」
 酔いの回った男を残し、小男は連れの2人に目くばせすると酒場を出ていった。

●新月の夜に
 帝都近くの町。そのはずれに、朱花の教団の本部があった。
 ひなびた町に似合わない真っ白な壁に囲まれた建物ができたときには、周辺の住民も不安に感じたものだが、ササノハの人気と教団関係者の礼儀正しさに、今では貧しい人々のために尽力する教団として受け入れられている。
 その本部の離れ、広い部屋に敷かれた布団の中で、咳き込む人影があった。
 艶のある黒い髪を広げて横になっているのは、朱花の教団の教主のササノハ。
 元々体が丈夫ではないササノハは、幼い頃からこうして床に臥すことが少なくなかった。
 咳の合間に疲れたようなため息がこぼれる。
「……でも、たくさん寝たら背が伸びるかも」
 これまでのハンターたちとの出会いを思い返したササノハが、くすりと笑みをこぼす。
 それは13歳の少年らしい、あどけない笑顔だった。
「ササノハさま、失礼致します。お薬の時間です」
 その時、すっと襖が開いて青い髪の若者が部屋に入ってきた。
 新しくササノハのお付きになったゴウだ。
 傭兵として働いていたことがあることから、護衛としての役割も期待され、信者の中から選ばれた。
「それから、新しいお着物をお持ちしました。お元気になられたら、これをお召しになるようにとイリフネさまからの言伝です」
「分かりました。ありがとう」
 ササノハは素直に薬を飲むと、紫を基調とした艶やかな女物の着物を一瞥した。
 その表情が少しかげるが、敬愛するササノハの前で粗相のないよう緊張するゴウには気付く余裕はない。
 すると、申し訳なさそうにササノハが近くに置いてある香炉を示した。
「そういえば、香が切れてしまったみたいなんです。替えをお願いできますか? 手間をかけてしまってごめんなさい」
「とんでもありません。すぐに持って参ります」
 ぶんぶんと首を横に振ったゴウが部屋を出ていくと、ササノハはため息をついた。
「僕がもう少し丈夫で、もう少し力があれば……」
 その時、がたんという音がした。
 驚くササノハの前で、庭に面した障子が大きく左右に開き、3人の男が土足で部屋に上がり込んでくる。
 明かりを手にした男たちはササノハの知らない顔だ。
「おやおや。こりゃあ本当に上物だ」
 その内の1人、にたりと笑った小男がササノハに近づく。
「誰だ!」
 駆け付けたゴウが香の袋を放り出して小刀を抜く。
「ちっ。やれ」
 弓を背負った小男が合図すると、一緒にいた眼帯の男がゴウに向かっていった。
「賊ごときに遅れを取るわけが……」
 目にもとまらない速さで距離を詰めてきた男に、ゴウの顔が驚きに歪む。
「なっ……まさか、ハンター!?」
「男に用はないんんだよ」
 必死に応戦するゴウの足に、小男の放った矢が刺さった。
 膝をついたゴウにとどめの一撃が加えられそうになったとき、凛とした声が響いた。
「おやめください。彼はただの世話係です」
 布団の上に正座したササノハが、人形のように整った顔を頭領に向けていた。
 熱のせいで潤んだ瞳と、朱に染まったまなじりが匂い立つような色香を放つ。
 ただ白い着物の膝の上で組まれた手だけが微かに震えていた。
「ほう」
 小男は面白そうなものでも見るように目を細め、残りの2人はササノハの美貌にごくりと喉を鳴らした。
「まあ、アンタが大人しく俺たちについてきてくれるなら、考えないこともないがな」
「わかりました」
 頷いたササノハが少しふらつきながら立ち上がる。
「その足じゃ追いつかれるな。おい」
 指示を受けた大男がササノハを軽々と担ぎ上げ、大きな体に見合わない子供っぽい声を出した。
「わあ。この人、いいにおいがするよ」
「ちっ。黙ってかついでろ」
 倒れているゴウの耳に、賊の相談する声が聞こえてくる。
「思っていたより幼いな」
「まあいいさ。そういう趣味の客に売れば高値がつくだろう」
 男たちは、その見た目と着物から、まさかササノハが男だとは思ってもいない様子だ。
「……追っ手が……」
「こちらは8人……元ハンターが2人も……」
 朦朧とする意識の中でゴウが最後に見たのは、大男にかつがれて庭に消えていくササノハの姿だった。
 黙って大男の肩につかまるササノハの着物の袖がきらりと光る。
 それは、ササノハが咄嗟に爪で傷をつけて袖に入れた、香の袋からこぼれる粉。
 目に見えないほどの香の粉は、ごくわずかに、道の上へとこぼれ続けていく。

リプレイ本文

●離れにて
 月の無い夜。
 離れの庭で、ライトを手にした八原 篝(ka3104)が直感視を使って地面をつぶさに調べていた。
「部屋に入ったのが3人、ここに足跡が5つ……賊が8人というのは本当みたいね」
 その時、ゴウに話を聞きに行っていたデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が、離れに戻って来た。
 手には香の袋が載せられている。
「皆様、こんな袋はありまして? 事件の時、ゴウさんが香の入った袋を落としたらしいのですけれど」
 その言葉に、同じく直感視を使ったウーナ(ka1439)が部屋の中に目を凝らす。
「ん? 袋は無いけど……何かキラっとしたよ。なんだか粉みたいなのが、庭に続いているみたい」
 ウーナが指さす方向を見つめながら、文挟 ニレ(ka5696)が呟いた。
「ボウズが手掛かりを残してくれたのかもな」
「庭を通って、外の道に続いてる」
 篝の言葉に、デュシオンが紫がかった黒髪をふわりと靡かせてしゃがんだ。
「それなら、匂いで進んだ道が分かるかもしれませんわね。この子に匂いを辿ってもらいましょう」
 連れてきた柴犬に香の袋をかがせると、しばらく地面を嗅ぎまわっていた柴犬は、わん、と一声吠えた。
 そして小走りで匂いを追いはじめる。
「っと。待て待て」
 思わずニレが声を掛けると、柴犬は道の真ん中でじれたように振り返った。
 柴犬の嗅覚と、ハンターたちのスキルを最大限に活かした追跡が始まった。

●夜の町
 一方、万歳丸(ka5665)と金鹿(ka5959)は町に聞き込みに来ていた。
 人通りの無い通りを進んでいると、酒場からにぎやかな喧噪が聞こえてくる。
「ちょっと宜しいでしょうか。私たちハンターですの」
 金鹿が簡単に事件の概要を説明すると、酒場がしんと静まり返った。
「何か騒ぎとか、怪しい奴を見なかったか」
 万歳丸の問いに、客の1人が口を開いた。
「今日は見かけてないが、何日か前から柄の悪い奴らがここに来てたな」
 それを皮切りに、客たちが口々に話し出す。
「ああ。背の低い男と眼帯の奴と、あとオドオドした大男だろ」
「そういえば、その大男、『ポゴ』って呼ばれてたぜ」
 礼を言って酒場を出た金鹿は魔導バイクにまたがる。
「名前が分かったのは収穫ですわね」
「ああ。早速向こうに合流しよう」
 魔導短伝話で篝と連絡をとり終えた万歳丸が、ひらりと馬に飛び乗った。

●発見
 道の分岐があるたび、ハンターたちはスキルを使いながら慎重に進んでいく。
「攫った奴ら、『男に用はない』って言ったんだよね。急がないと」
 そう呟いて双眼鏡を覗いていたウーナが、遠くに並んで動く灯りに気付いて声を上げた。
「……いた! 」
「8。縦に長く並んで移動しているようね」
 望遠鏡を覗いた篝が賊の様子を伝える。
 そこに、追いかけてきた万歳丸と金鹿が合流した。
 賊に気取られないよう、手早く作戦会議が開かれる。

 さり、さり、と、土を踏む音が微かに響く。
 舞うように禹歩を刻んでいた金鹿が、たおやかに腕を上げる。
 方角を示す細い指の先に、どこからか現れた金色の蝶が休み、羽ばたきを一つして消えた。
「吉方はこちらです」
 ハンターたちは、金鹿の占った方角から賊の近くに忍び寄り、まずはデュシオンが術を放った。
「安らかな眠りへ誘いましょう? お休みなさいまし」
 青白い霧が突如として広がり、賊を包み込む。
 先頭を走っていた小男や、殿の眼帯の男を残し、ササノハを抱えた大男を含めた中央付近の数人がばたばたと倒れた。
 間髪入れず、残った賊の中へウーナがバイクで突入した。
「うわ!」
 かろうじてバイクの直撃を避けた賊の男が悲鳴を上げる。
「なんだ。避けちゃったの。残念」
 無邪気な笑みと共に放たれた恐ろしい言葉に、男たちが息を呑む。
「そーれ。もう一回!」
 再び発進したバイクによって悲鳴が起こる中、万歳丸が駆け出した。
 大男と共に地面に転がったササノハを目指し、一直線に飛び込む。
「確保ォ!」
 保護を知らせる声に、他のハンターたちも動いた。
「どうか、私の友人を守ってくださいませ」
 金鹿が放った守護の力を持った符が、ササノハの背中に貼りつく。
「何故だ。何故こんなにも早く、追っ手が……」
 焦りの声を上げる小男は知らない。
 ハンターたちの助けを信じてササノハが香を撒いたことも、ハンターたちがその意図を汲み、ササノハを救おうと全力を尽くしたことも。
「くそ!」
 矢をつがえた小男は、ササノハを抱えて素早く退避しようとした万歳丸に狙いを定める。

 篝は皆から離れ、暗闇の中で息を潜めていた。
 使い慣れた銃で狙うのは、リーダーとして命令を下している小男だ。
「指揮系統が崩れれば……」
 暗闇の中で、篝の両の瞳が青く光った。
 引き金を引いた瞬間、狙いすました一撃が、弓を構える小男の右腕に命中する。
「ぐあ!」
 たまらず小男が弓を落とし、腕を抱えてうずくまった。
「こちらへ!」
 白く変化した髪を闇の中で輝かせながら、デュシオンが万歳丸たちを呼ぶ。
「味方だ。舌ァ噛むなよ!!」
 目を覚ましたササノハに愉しげに叫びつつ、万歳丸が走った。
 デュシオンのアースウォール。
 万歳丸たちが滑り込んだ瞬間、地面がぼこりと膨らんだかと思うと、土で出来た壁が出現した。
 それと同時に、壁の中央に眼帯の男が投げたナイフが突き立った。
「ちっ」
 再度ナイフを構える眼帯の男に、オートマチックを構えたウーナが声を掛ける。
 銃床に死神と小さな信号の意匠が刻まれたリアルブルーの拳銃が、少女の手の中で光った。
「ねえ! 見える? 死神のウインク」
 セーフティレバーがスライドされ、銃床の信号がぱちりと点灯する。
 撃たれると判断した眼帯の男が、咄嗟に横に転がった。
「バアン! ――なんてね」
 軽やかにステップを踏んだウーナは、命ではなく行動の自由を奪う弾を放つ。
 片目を見開いた眼帯の男は弾の雨を受け、なすすべもなく動きを止めた。

「くそっ。起きろ!」
 腕を押さえた小男が、地面に転がっている賊たちを順番に蹴っていく。
 大男をはじめ、スリープクラウドで眠らされていた男たちが、きょとんとした表情で起きあがった。
「あの壁の向こうだ! 行け!」
 小男の言葉に、賊たちが二手に分かれてササノハの元へと向かう。
「あんたらの相手は、あっしさ」
 ニレが飛ばした符から、無数の花びらが舞い上がり、辺りを薄桃色に染める。
 徐々に勢いを増し吹き荒れる花びらが賊の視界を鮮やかに塞いだ。
「ぎゃあ!」
 そんな幻想的な光景にそぐわない悲鳴が響く。
 壁の後ろから伸びたデュシオンのウィップが、賊の1人を引き倒していた。
「させませんわ」
 デュシオンが腕を振るうたび、びっしりと棘の生えた鞭が賊を倒していく。
「……『銃なんて命を奪う為の道具だ。必要な時にしか抜くな』」
 銃を構えた篝が呟く。
 その言葉を胸に刻んできた篝も、今では命を奪わない術に習熟している。
「『抜いた後はためらうな』。それがわたしの先生の教え」
 残った賊たちに、篝の制圧射撃が降り注ぐ。
「東方の人間を連れ去ったアホ共には、東方の流儀を叩きこンでやらねェとなァ!」
 そうして動きを封じられた賊の元に、万歳丸が迫る。
「その目に刻め! オレが天下の」
 大男の腕をとった万歳丸が、その体を背負うように投げた。
「万歳丸だァ!」
 勢いよく地面に叩き付けられた大男が白目を剥いて気絶する。
「次ィ!」
 くるりと振り返った万歳丸が、残りの敵にゆっくりと近付く。
 迫りくる巨体に、動けない賊たちの顔が恐怖に染まった。

 次々と仲間が倒されていく様子に、小男はじりじりと後退しながら戦場を離れようとしていた。
「逃がさねぇよ」
 小男の前に、優美な扇を手にしたニレが立ち塞がる。
 利き腕を負傷し、武器も持たない小男に残された選択肢は無かった。
「うわああ!」
 やぶれかぶれに繰り出された拳が、ぱん、と金属的な音を立て、扇の表面で受け止められる。
 驚いたような表情を浮かべた小男は、そのまま閉じた扇を首筋に叩き込まれて崩れ落ちた。

●戦いの後
 空が次第に明るさを増す。
 賊を追う間に次の町の近くまで来ていたようで、道の先には町並みが見えていた。
 ひずめの音と共に、町に連絡を取りに行っていた万歳丸が戻ってくる。
「教団が迎えをよこすってさ」
 ハンターたちは万歳丸の持参したロープで賊を次々に縛っていた。
 教団の関与を疑い、小男を縛り上げていたウーナが尋ねる。
「で、キミら動機は? 依頼? 単独犯?」
 口を引き結んだ小男が横を向く。
「なんだい。腐れ外道の分際で、どうにも態度が過ぎるんじゃあねえか? ええ? どうしてもってんならお望み通り、火炎符で丸焼きにしてやるよ」
 誘拐への嫌悪を滲ませながら、ニレが符をちらつかせていると、後ろから情けない声が上がった。
「や、やだよう。丸焼きやめてよう」
 縛られた大男がぶるぶると震えている。
「それなら教えて下さいな」
「だ、だめ。話しちゃだめって言われてる」
 微笑みを浮かべて妖しくねだるデュシオンの言葉にも首を振り、大男はちらりと視線を小男に向ける。
 小男が何か言う前に、ニレが素早くその口に布きれを押し込んだ。
 近くの賊の服の端を千切った、汗やら何やらが長年染み込んだ布。
 衝撃の味に、小男は声もなくのたうちまわった。
「話して大丈夫でしてよ、『ポゴ』さん」
「ポゴの名前、知ってるの?」
 驚く大男に、金鹿は微笑んで見せる。
「ええ。私、符術師ですの」
「占いでなんでも分かるんだよ」
 篝が真面目な顔で話を合わせる。
「あなたの考えている事、当ててみせましょうか?」
 地面に呪符を並べた金鹿が、もっともらしい仕草で一枚一枚めくっていく。
「これは……誰かの姿が見えますわね。女性……いえ、男性……?」
 かまをかける言葉に、ポゴが目を見開いた。
「すごいね! そう。男だったよ。ポゴたちに『きょうだん』のこと教えてくれたんだ」
 すっかり占いを信用したポゴは、酒場で会った男のことや、新月の日の集会を狙って教団に忍び込んだことをぺらぺらと話した。
「純粋に……というのもおかしいですが、お金目当ての誘拐、のようですわね」
 見事に賊の情報を引き出した金鹿の呟きに、デュシオンも頷く。
「酒場の男も情報を提供しただけみたいですわね」
「そっかー……あ、ねえ。ササノハくん男の娘だけど、今どんな気持ち?」
 唐突にウーナが放った言葉に、ポゴ以外の賊に衝撃が走った。
 全員が離れた場所で休んでいるササノハを、信じられない物でも見るような目で見つめた。
 ハンターに捕まった上に、そもそもの目的さえ失敗していたと知り、リーダーとしての面目を失った小男が肩を落とす。

「すぐに追いかけられたのも、ゴウが気張ったおかげ、だぜ? 善い奴が世話についたみてェでよかったじゃねェか!」
 万歳丸の言葉に、ササノハが声を詰まらせる。
「ゴウは……無事だったんですね。よかった」
 そんなササノハの肩に、篝がコートを掛ける。
「……調子悪そうだし貸してあげる。無いよりはマシでしょ?」
「ありがとうございます」
 篝、そして金鹿、ウーナ、ニレ。
 見知った姿を認めたササノハは嬉しそうな表情を浮かべてから、ふと表情を曇らせた。
「それと……何度も助けていただいて申し訳ありません。僕がもっとちゃんとしていたらゴウも……僕も皆さんみたいに……強くなりたいです」
「ゴウって人庇ったんでしょ、それも強さよ。自信持って良いわ。あなたなら、もっとたくさんのことが出来るようになるわよ」
 ぶっきらぼうに聞こえる言葉に隠された篝の優しさに、ササノハが微笑む。
 そこに賊を縛り終えたニレが近づいてきた。
「よお、ボウズ。また随分と草臥れちまってるなあ。疲れたろう? あっしは早く帰って晩酌がしてえ気分だよ」
 ニレの手が、ぽんとササノハの頭に置かれる。
「今夜のことでお前さんが何を思ったのかは、次の機会に聞かせてくれたら嬉しいね」
「……篝さんも、ニレさんも、なんだか母上みたいです」
 色々あった後で気が緩んだのだろう。
 はっとしたように着物の袖で口を押えたササノハの頬が、みるみる上気していく。
「……すみません。若い女性に失礼でしたよね」
 まだ頬に赤みを残したまま、こほんと咳払いをし、ササノハが袖から香の袋を取り出す。
「この香、母上が好きだったらしいんです」
「らしい?」
 ササノハの言葉をデュシオンが聞きとがめる。
「ええ。僕が生まれた時に亡くなって、一度も会ったことはないんですけど……顔だけはそっくりだって、叔父さんが言ってました」
 静かな痛みを含んだ言葉に、沈黙が生まれる。
 そんな空気を変えるように、隣に座ったウーナがぽんぽん、と太ももを叩いた。
「えーと、疲れてるみたいだし、膝まくら、する?」
「えっ、いえ、それは」
 年頃の少年らしく慌てるササノハに、万歳丸が己の鍛え上げられた太ももを叩き、スパァン! と良い音を響かせた。
「よし。ここは間をとってオレの膝まくらだな!」
「何と何の間をとったらそうなるんですの」
 素早く指摘するデュシオンの声も笑ってしまっている。
 教団の馬車が迎えに来るまでの間、その場にはあたたかな笑い声が響いていた。

 何台も連なった教団の馬車が到着し、教団関係者が慌ただしく立ち働く。
 一台の馬車にササノハを丁重に乗せると共に、残りの馬車には、賊たちをロープで縛りなおして順々に押し込んでいく。
「ササノハさまをお救いくださり、本当にありがとうございました。念のため1人1人に尋問してから、しかるべき機関に引き渡します」
「皆さん、本当にありがとうございました」
 教団関係者の隣でササノハも深々と頭を下げる。
「普通の男の子なのに……」
 コートを手に、遠ざかる馬車を見送る篝の眉根は寄せられている。
「友人として心配ですわね」
 隣で見送る金鹿も憂い顔だ。
「多くの人がササノハに期待を寄せて、いつかあの子がそれに応え切れなくなったら……」
 帰り道、篝の小さな呟きは誰にも届くことなく消えていった。

 ササノハを取り戻す依頼が大成功に終わった、後日。
 教団から、搬送中の賊が逃げたという報告がハンターオフィスに届いた。
 一体何をどうしたのか、厳重に縛ってあったロープを切って逃げたという。
 逃げたのは小男と眼帯の男、そしてポゴ。
 ササノハの周りに立ちこめる不穏な空気は、まだ晴れていないのかもしれなかった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • ライラックは美しく咲く
    デュシオン・ヴァニーユ(ka4696
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 豪放なる慈鬼
    文挟 ニレ(ka5696
    鬼|23才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
デュシオン・ヴァニーユ(ka4696
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/05/23 00:59:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/19 13:07:03