無能力異邦人とエルフの森

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2016/05/24 09:00
完成日
2016/05/30 16:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 リゼリオの町の一角に居を構える喫茶店『ひだまり亭』で暮らす私『柊真緒』と『マルシア・シュタインバーグ』は最近は少し良い暮らしができていた。
 バレインタインに臨時で販売したチョコレートの売り上げのお陰だ。
 でもあれからもう4ヶ月が過ぎて、流石に蓄えが少なくなってきている。
 店の売り上げが以前と変わってないから当然だけど。
 やっぱり臨時収入ではなく、日々の定期収入を上げる方法を考えないといけない。
 一番簡単な方法は固定客を増やす事。
 なので毎日モーニングを食べにくる常連のおじさん達に話しを聞いてみた。
「え? なんで毎日この店に来てるかって?」
「そりゃあ俺達が来なきゃマルシアさん飢え死んじまうだろうが」
「そんな事になったら死んだ旦那に申し訳ねぇよ」
「もちろんコーヒーが美味いし、マルシアさんが好きだから来てるんだぜ」
「最近はマオちゃんもいるしな」
「お陰で料理は普通になったな」
「色気はないけどな」
「あっはっはっ」
 嬉しいけど余計なお世話です。
 おじさん連中は役に立たないのでもう1人の常連客、牛乳配達員のキイ君に話を聞いた。
「え? ボクがこの店に来る理由ですか? それは、この店が最後の配達場所だからそのついでというか……」
「それでも毎日来てくれて嬉しいわ」
 話を聞いていたらしい店長のマルシアさんがキイ君に微笑みかけた。
「いえ! あの……ボクここのモーニング好きなんです。コーヒーもとっても美味しいですし」
 キイ君は照れたのか、やや頬を赤らめながら嬉しそうに答える。
「うふふっ、ありがと。おかわりどうぞ」
 店長が嬉しそうにキイ君のカップにコーヒーを注ぐ。
 どうやらキイ君が店に来る理由はもう一つありそうだ。
 キイ君って確か私より1つ年下の15歳よね。
 店長ってかなり若く見えるけど幾つなのかな?
 ま、それはともかく、常連客の目的はほぼ店長だ。
 これでは何の参考にもならない。
 どうしたらいいんだろう……。
 私は頭を悩ましながらキイ君が配達してくれた牛乳を飲んだ。
 キイ君の牛乳は味が濃くて美味しいから私のお気に入り。
 最初はこの世界はオーガニックだから牛乳も美味しいんだろうと思ってたけど違った。
 他の牛乳も飲んでみたけど、キイ君の牛乳は特別美味しかったのだ。
 こんなに美味しい牛乳はこの世界でもそんなにない……
 ……
 ……
 ……
「これだーー!!」
「ど、どうしたのマオちゃん。いきなり大声出して」
「店長! 牛乳ですよ牛乳! キイ君の牛乳です!」
「えぇ、そうね。キイ君の牛乳ね」
「違います。牛乳を使って新メニューを作るんです」
「え?」
「キイ君の牛乳でバターとかチーズとかヨーグルトとか作って、それで新作料理作ればきっと美味しいものができますよ!」
「すごいアイデアよ、流石マオちゃんだわ!」
「ふふぅ~ん♪」
 おだてられた私は得意気に胸を張った。
「という訳でキイ君。牛乳をもっとたくさん買いたんだけど」
「ボクは単なる配達員ですから、そういう事は決められませんよ」
 それもそうか。
 なので私はキイ君に牛乳の生産者の『キング』さんを紹介してもらい、早速交渉に向かった。


「うちの牛乳を気に入ってくれたのは嬉しいけど、今は販売数に余裕がないんだ。悪いけど今以上は売ってあげらないよ」
 え? 計画実行前に頓挫?
 いやいや、私達の今後の生活がかかっているのだ。諦めるわけにはいかない。
「販売数を上げられないんですか? あんなに美味しい牛乳なんですから数を増やしても売れると思うんですけど」
「僕も増やしたいんだけど放牧地が足りなくてね。森を開墾できれば土地は増やせるんだけど、森のエルフがそれを許してくれなくてね」
「エルフ?」
「放牧地の隣には森が広がってるんだけど、その森はエルフの物なんだ。そこのエルフは友好的だけど、開墾するには彼らの許可がいるんだよ」
「じゃあ、許可を取ってくれば放牧地を増やせるんですね?」
「そうだけど……アンタもしかして?」
「はい! 許可をくれないか交渉してみます」
 友好的なら危険はないはず。
 それに絶世の美貌を誇るエルフにも一度会ってみたかったしね。


 私はキングさんの案内でエルフと会う事になった。
 そのエルフ達は森の中にある物だけを使って生活しているらしく、木々を上手く利用して作った家に住んでいた。
 そして私達と会ってくれたのはとっても美形なエルフのお兄さん。
 眼福だわ~。
「放牧地を増やすために森を切りたいと? それはもちろん相応の見返りを用意しての事だろうな?」
 でも話し方や態度はちょっと怖い。
「先に言っておくが金はいらんぞ。我らには必要のないものだからな」
 お金じゃダメなのかぁ……。
「それじゃあ、え~と……何か困っている事はありませんか?」
「困り事?」
「はい。私達がそれを解決する代わりに開墾の許可をいただくとか、そういうのはダメでしょうか?」
「ふむ……」
 エルフのお兄さんは少し考え込んだ。
「お前達は、その……バイクという物を持っているか?」
「え? いえ、私は持ってません。キングさんは?」
「僕も持ってないな」
「そうか……」
「あの、バイクが欲しいんですか?」
「いや、その件はもういい。忘れろ」
「はぁ?」
 慌てて取り繕ったみたいだけど、何なんだろう?
「最近森の外れにコボルトが出没するらしい。我らで退治すると手や森がコボルトの血で穢れるため放っておいたのだが、未だ森に居座っているらしい。
 このまま居つかれても迷惑だ。お前達がコボルトを森から追い払ってくれるのなら、そうだな……牛2頭分の森を開墾する事を許そう。
 手段は問わない。ただし退治するのなら森は決して汚さぬ事、遺体はお前達で全て処理し、森には血の一滴も残さぬ事。それが条件だ」


 私達はエルフの出した条件をとりあえず保留にして、キングさんの家に戻った。
「コボルト退治ですか……そんなの私達の手には負えないですよね」
 となると、一番手っ取り早いのはハンターを雇う事だけど、今ある残金で雇えるだろうか?
「柊さん。もしハンターを雇うつもりなら依頼料の半分は僕が持つよ」
「本当ですか!」
 それは本当に助かる。
「その代わり条件を出してもいいかな?」
「条件?」
「エルフは牛2頭分の開墾を約束したけど、どうせなら3、4頭分は欲しいんだ。だから雇ったハンターと協力して再交渉しててくれないか」
「う~ん……でもあの人達頑固そうですよ。交渉の余地があるでしょうか?」
「あのエルフ、最初にバイクの事を聞いてきただろ。もしかしたらバイクや機械に興味があるのかもしれない」
「え? そういう物に頼らない生活が信条の人達じゃないんですか?」
「そういう生活をしてたって興味は持ったりするものさ」
「確かにそうですね」
「ま、ダメ元でもいいから交渉してみてくれ」
「はい、分かりました」
 私はエルフとキングさんの2つの用件をハンターオフィスに依頼した。

リプレイ本文

 マーオ・ラルカイム(ka5475)はマオと再会するなり優雅な仕草で一輪の薔薇を差し出した。
「お久しぶりです、マオさん。薔薇を一輪どうぞ」
「あ、ありがとうございます。あの……マーオさん、ですよね?」
 マオは思いっきり戸惑った。
 なぜなら以前のマーオはやや幼い雰囲気だったが、今では貴公子のような大人の雰囲気を纏っていたからだ。
「なんだか雰囲気変わりましたね」
「最近薔薇を育てるようになったので、そのせいでしょうか?」
(そういう問題かな?)
 ともかく、依頼を受けたハンター達はマオを交えつつ方針を話し合った。
「共存の問題か……将来的にも軋轢が起きないようにしたいな」
「コボルトをぶっ殺しては、いかんのか?」
 ザレム・アズール(ka0878)の提案に、てっきりコボルト退治の依頼だと思っていた何 静花(ka4831)が疑問を投げかける。
「始末しろという条件ではないようですから、まずは穏便に退去させる方法を考えましょう」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が説明する。
「そうか。まぁそれはいいとして、森を血で汚すなという事だが……ゴボッ 私の血で汚れるけど、大丈夫か?」
 静花が早々に吐血して床を汚す。
 重篤患者で超虚弱な彼女は常に血塗れなのだ。
「ま、まぁそれはその都度拭くという事で……」
 保・はじめ(ka5800)は弱り顔で床の血を拭いた。

 そうこう話し合って大体の方針を決めると、エルバッハと保でコボルトの観察に向かい、残りの者達でエルフとの交渉に向かった。
 だが。

 ゴボッ

 ジダルへの献上品として用意したバイクを静花が引いていこうとした途端に吐血し、その場に倒れた。
「あ゛ー……死にそう……」
「だ、大丈夫ですか?」
 マオが慌てて介護する。
「……バイクは俺が引いていこう」
「静花さんは私が抱いていきますね」
 ザレムが代わりにバイクを引き、マーオが静花を抱き上げて運んだ。
「ハンターって体に負担の掛かる仕事なんですね。私、無能力でよかったかも……」
「ぁー……私の体はハンター云々とは関係ない、から」
 妙な勘違いをしたマオに静花が訂正を入れる。

 一行がエルフの森を訪ねると、シダルが怪訝そうな顔で出迎えた。
「もうコボルトを追い払ったのか?」
「いえ、その……実はお願いがありまして」
 マオは申し訳なさそうに報酬アップを願い出る。
「牛2頭分では足りないと?」
「もちろんタダでとは言わない。まずは牧場の牛乳を飲んでみてくれ」
 ザレムはキング牧場で採れた牛乳をシダルに渡した。
「……ほぉ、美味いな」
「ですよね! 美味しいですよね!」
 感心した様子のシダルにマオが満面の笑みで身を乗り出す。
「気にいって貰えてよかった。牧場が広がれば生産量も増えるから、エルフ族にも定期的に提供しよう」
「ふむ……」
 好感を得られたようだが、シダルはまだ難色を示している。
「シダルさん。こんな物もありますけど、興味はありませんか?」
 もう一押しするため、マーオが『携帯ゲーム機』を渡す。
「これは……何だ?」
 初めて見たらしく、シダルはゲーム機を色んな角度から眺めている。
「リアルブルーで作られた、携帯して持ち運べるコンピュータゲーム機です」
「こんぴゅーたげーむき?」
「とてもやってて楽しかったですよ。シダルさんもぜひどうぞ」
「むぅ……」
 説明されてもシダルは困惑顔のままだ。
「こうするんです」
 なのでマーオはシダルにやって見せる。
「……よく分からんな」
 今までほとんど機械類を触った事のないシダルにコンピュータゲームは敷居が高すぎた。
 しかしチェスは知っていたらしく、それは楽しんでもらえた。
「なるほど、これはこういう機械か」
 だが、あまり興味は惹かれなかったらしい。
(ん……)
 静花が肘で軽くマオの脇をつつき『自分のバイクを提示しろ』と催促する。
 静花が自分から言い出さないのは、交渉を委託されたとはいえ取引は当事者間で成立させたいと思っているからだ。
「あの、ジダルさん。他にも見ていただきたい物があるんです」
 マオはジダルを家の外に連れ出し、静花の持ってきた『魔導二輪「龍雲」』を見せた。
「おぉ! これは……」
 ジダルの目がバイクに釘付けになる。
「欲しいならやるよ」
 静花が軽く言い捨てる。
「いや、決して欲しいわけではない。だが、その……長として人の持つ機械の構造や弱点などは知っておく必要があるからな」
 ジダルは言い訳したが、バイクに興味津々なのはバレバレだ。
「それなら構造や乗り方も教えるから、実際に体験してみるといいい」
 ザレムがこれ幸いと畳み掛ける。
「それはありがたい申し出だが、ここでは、その……」
 どうやら他のエルフの目が気になるらしい。
「それならキングさんの牧場で乗ったらどうです? あそこなら自由に走れますよ」
「うむ。では、お願いする」
 マーオの提案に乗ってもらえ、一同はシダルをキングの牧場まで連れて行く事にした。
 が。

 ゴボッ

 やはり道中で静花が吐血し、バタリと倒れた。
「ぁー……バイク譲ってやるから、介護しろ。ついでに報酬も上げてくれたら、最高」
 ついでに情に訴えつつ交渉もする。
「バイクは結構だが介助はしよう。報酬についてはコボルトの件が片付いてからだ」
 ジダルは呆れつつも静花を抱き上げた。
 そして零れた血はみんなでせっせと拭きとった。



 一方、エルバッハと保はコボルトの住処を発見し、観察を行っていた。
「数は全部で4体。どうやら1体は妊婦のようですね。子育ての準備中でしょうか?」
 保もエルバッハから双眼鏡を借りるとコボルト達の様子を伺った。
 どうやら一回り小柄なコボルトがリーダーらしい。
(小柄なコボルト?)
 何かが記憶に引っかかった。
 更にそのコボルトの背中に剣で刺されたような傷跡を見つけると、記憶がハッキリする。
「もしかしてロブ?」
「え? 知っている人、いえ犬、ではなく、コボルトなのですか?」
 エルバッハがややつっかえながら怪訝そうに尋ねる。
「多分ですけど……」
 保は群れのリーダーのコボルトが、とある人間の子供にロブと名付けられて友達となり、ゴブリンに追われた経緯を話した。
「あのロブが今や群れのリーダーですか……」
 保は虐げられていた者が、その地位を向上させている様に感慨を覚えた。
「そして世の中、広いようで狭いがですね」
 更にこの巡り合わせに苦笑する。

 コボルト達の素性は分かったので観察は一旦打ち切り、皆と集まってから改めて移住計画を練る。
 ザレムは周辺の地図を検討し、森の外で移住に適した場所をピックアップ。
 翌日に皆で現場に向かい、コボルト達の巣を作ろうとしたのだが……。

 ゴボッ……バタン。

 現場に着く前に静花が吐血でダウン。
「き、綺麗な川が……向こう岸で誰かが手招き、してる……」
「それ越えちゃいけない川です! しっかりして下さい!」
 失血で意識の朦朧としている静花をマーオが介抱する。
「ぁー……私、森歩き、無理……」
 エルフなのに?
 と何人かが心の中で突っ込んだ。
「私牧場でジダルにバイク教えとくから、巣作りは皆で、頼む」
「それは構いませんけど、1人で戻れますか?」
「たぶん無理、途中で死ぬかも……」
 心配そうなエルバッハの問いかけにキッパリ答えた。
「では、僭越ながらまた私が」
 静花は今日もマーオに抱えられてキングの牧場に戻り、他の者は現場に向かった。

「コボルトの巣ってどんな感じなんですか?」
「昨日見た棲家は粗末な物でしたよ」
 エルバッハは見てきた棲家の様子をザレムに伝えた。
「移住して貰うにはそがれより快適な物を作らないといけないな……」
 ザレム、エルバッハ、保は木材で囲った小屋を作り、床に布団を敷き、食料を置いた。
 簡単な造りであるが、コボルト達の作ったものより格段に良い出来だ。
「あ、もう出来たんですか。これならきっと気に入って貰えますよ」
 そこに静花を送り届けたマーオが合流し、小屋の出来に感心する。
「問題はどうやってここに移住してもらうかです」
「言葉はもちろん通じませんよね……」
 保とエルバッハが頭を悩ますが、身振り手振りぐらいしか思いつかない。
「それで駄目なら今の住処を破壊するか、相手に分かる形で四六時中監視するなどして森で生活しづらくさせる事で立ち退かせるか……」
「それはちょっと可哀想ですよ。もう少し穏便に済ませましょう」
 保の案にマーオが難色を示す。
「もしダメだったらスリープクラウドで眠らせて、ここに強制移動させるのはどうでしょう?」
「それならまだ穏便ですね」
 エルバッハの案で方針も決まり、4人はコボルトとの交渉に望んだ。

 4人が姿を見せるとコボルト達は大騒ぎし、妊婦の前に3体が立ち塞がって剣を構え、牙をむく。
「俺達は争いに来たんじゃない。お前達にもっと快適な棲家を提供しにきたんだ」
 ザレムが手を上げて無抵抗を示しながら話しかけるが、やはり言葉は通じないらしく、警戒を解く様子はない。
 だが向こうから襲ってくる様子もない。
 先頭にいる少し小柄なコボルトは警戒してはいるが、人馴れしている雰囲気がある。
(やっぱりロブですね)
 保は確信を得たが、ロブとは顔を見知っている程度の間柄だ。それだけで交渉が上手く進められるとは思えない。
 保やエルバッハが身振り手振りで移り住むように伝えてみたが、理解して貰えなかった。
「仕方ありませんね。眠らせましょう」
 エルバッハが『スリープクラウド』を発動。
 一瞬コボルトが青白いガスに包まれ、4体全てパタパタと眠りに落ちてゆく。
 ザレムは素早く駆け寄ると起き出す前に紐で拘束していった。
「ゴメンな。でもお前達のためなんだ」
 そして4人でそれぞれ1体ずつ担いで移動する。
「エルさん。妊婦さんが起きた時にはすぐにスリープクラウドをお願いします。もし暴れられて地面に落ちたらお腹の子が危ないですから」
「はい。任せてください」
 マーオの気遣いを快く思いながらエルバッハが快諾する。
 そうして眠ったままの4体を小屋の中に運び、離れた場所から様子を伺った。

 眠りから覚めたコボルトは居場所が変わっている事に気づき、思いっきり動揺した。
 怯えた様子で小屋の中に潜み、チラチラと顔を覗かせては周囲を警戒する。
 2時間ほど警戒した後、ようやく小屋から出てきて周囲も探り始める。
「森に戻らないといいのですけど……」
 双眼鏡で監視しているエルバッハが心配そうに呟く。
 やがて周囲の探索を終えたコボルトが小屋に戻り、今度は小屋の中の食料に興味を持ち始めた。
 最初に食べたのは、やはり人間の食べ物に慣れているロブだ。
 そして安全だと分かると他の者も食べ始める。
「食べ物は気に入って貰えたみたいだな」
 その後もコボルトは警戒し続けていたが森に戻る様子はなかった。

 4人はその後も交代で監視を続けた。
 妊婦は布団を気に入ったらしく、ずっと小屋の中に居続けたため、コボルト達が森に戻る事はなかった。
 やがて妊婦が臨月を迎え、コボルトの赤ちゃんが誕生する。
 ぽわぽわの毛皮の小さな体で短い手足をジタバタさせ、きゅんきゅんと鳴き声を上げるコボルトの赤ちゃん達。
「産まれたわ。小さい……。それに可愛い~」
 その愛らしさにエルバッハの頬が思わず緩む。
「え! 見せてください」
 『動物愛』持ちのマーオがエルバッハから双眼鏡を借りて覗き込む。
「うわぁ~。よつんばいで歩く姿は子犬そのものですね」
「あの……僕にも見せてください」
 マーオが愛らしい姿を堪能していると、猫好きの保が待ちきれなくなって催促する。
「これは……本当に可愛いですねぇ~」
 保の相好がにやけて崩れる。
 続いてザレムも双眼鏡を覗く。
 よちよち歩く赤ちゃんコボルトが乳をねだる様子が見えた。
「確かにコボルトじゃなくて子犬だな。こんなの見せられたら今度コボルトと戦う時困るなぁ……」
 困り顔だが、口元にはやはり笑みが浮かんでしまう。

 ともかく、これで育児にためにコボルト達はこの場から動けなくなるはずである。
 少なくとも赤ちゃんコボルト達が成長するまで森に戻る事はないだろう。
 これでコボルトを森から追い出すという依頼は達成された。



 一方、静花も連日ジダルにバイクの講習を行っていた。
 最初はおっかなびっくりバイクに触れ、恐々と乗り、すぐに転倒していたジダルだが、元々勘がよいのか数日で乗りこなせるようになった。
「バイクという物は馬とはまた違う独特な乗り物だな。一体感とでも言えばいいのか……。自分の身が高速で駆ける瞬間はとても高揚する。何と言えばいいか……そう! 実に爽快だ!」
 興奮した口調で語るジダルは実にご満悦な様子だった。
「そんなに気に入ったのなら、受け取れ。この龍雲はもう処分したいから、貰ってくれると私も、助かる」
「嬉しい申し出だが、それはできない」
 静花は何度となくバイクを譲るよう言ったが、ジダルには頑なに拒否されている。
「どうしてそんなに、嫌がる? 欲しいんだろ? 素直になれ」
「我らは自然と調和しながら生きている。その長である私だけが機械を持って生きる事はできない。今回は好奇心に負けてしまったが、こんな事はこれっきりだ。だが素晴らしい体験だった。感謝する」
「そうか……」
 晴れ晴れとした顔でそう言われては、静花これ以上無理強いはできない。
「ところで君はキング氏をずっと祟りそうな顔で見ているが、森を開墾する彼を気に入らないのかい?」
「まぁそうだ。アンタもエルフなら、分かるだろ? どうして自分達の森を切り渡す気に、なった?」
「我らの森と称してはいるが、元々森は誰の物でもない。森は森の物だ。元来我らとて森の事に口出しできる訳ではない」
「なら今回のコボルトの件は何なのさ?」
「人間は森に無知すぎる。森を人間の勝手にさせると全て材木にし、土地は自分達の物としてしまうだろう。それでは自然のバランスが崩れ、その反動はいずれ災害として人間達に返るだろう。そうならないよう我らが管理している。そして今回お前達は森を血で汚す事なく森のために尽くした。それはお前達が森に敬意を払える者だという証だ。そんな者達が森に手を加える事を止める権利まで我らは有してはいない。そういう事だ」
 エルフは年齢が分かり辛いが、おそらく長寿だろうと分かる柔和な笑みでジダルは語った。
「牛4頭分だったか。了解したとキング氏には伝えてくれ。ミルクの配達も忘れないようにとな」
「なぁ、本当にバイクは、いらないのか?」
 静花が最後に尋ねると、ジダルは後ろ髪を引かれたような困った苦笑いを浮かべた。
「この数日はとても楽しかった。ありがとう。一生の思い出だ」
 ジダルはそう言い残して背を向け、森に帰っていった。



 こうして依頼は無事完了し、キングは牧場を広げる権利を得て、マオは牧場の牛乳を得られるようになった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • それでも生きてる
    何 静花(ka4831
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 慈愛の聖導士
    マーオ・ラルカイム(ka5475
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/22 20:15:11
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/05/24 06:38:46