ゲスト
(ka0000)
王国メイドの旅支度
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/27 19:00
- 完成日
- 2016/06/04 13:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「暇をいただきたく、存じます」
王国東部に領を構えるマーシャロウ家。
領主の執務室で、一人のメイドが見事な礼を見せていた。彼女の名は、フィオ・ドランド。マーシャロウ家のメイド長である。
「……理由を聞こうか」
領主シヴィ・マーシャロウは、苦々しい表情で問いただす。
フィオは遠い目をしながら、ぽつりという。
「先日、ご主人様から身に余る言葉を頂きました」
身に余るお言葉とは、簡潔にいえば「プロポーズ」であった。以前よりシヴィからそれらしき好意を寄せられていることに、フィオは気づいていた。
だが、自分はメイド。相手は貴族。
「ですが、それは身分違いの恋……。今の私では、到底お答えできません」
やや大仰そうに手振りを交え、フィオは主張する。
「一方でご主人様の好意を無碍にすることは、メイドとして恥です」
そして、フィオは一つの結論に思い至った。
「暇をいただき、ご主人様にふさわしい女になって戻ってまいります」
「なんか暴走していないか?」
冷静なシヴィのツッコミに、フィオは視線を逸らした。
「そんなことございませんわ」
「……まぁ、いいだろう。フィオが決めたことだ」
基本的にフィオに甘いシヴィは、彼女の出した結論を肯定した。
「だが、危険に飛び込む以上はそれなりの装備を整えてほしい」
「メイド服はやめませんよ。私は、マーシャロウ家のメイド長ですから」
「では、メイド服を基調とした新しい防具を用意しよう」
素材としてシヴィは一つ思い至るものがあった。
それは、マーシャロウ領の特産品でもある鉄鉱石だ。加工しやすさでは王国の中でも上位に入る鉄を用いて、メイド服を強化すればよい。
「お言葉ですが」
シヴィの考えを遮るように、フィオが発言を求めた。
先を促されたフィオは頷いて告げる。
「領家の鉱山に先日雑魔が発生したため、ハンターを要請中のはずです」
「……そうだったか」
「ご主人様が、そのようでは安心して旅に出れませんね」
「すまない」
「今回は私のためでもあります。雑魔討伐に随伴してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、ただし戦闘はするなよ」
仕方ないですねと述べて、フィオは部屋をあとにした。
●
フィオが屋敷を出て行くのを見送り、シヴィは執務机に置かれた報告書に目をやる。無論、鉱山に雑魔が出た報告を忘れてなどいない。
「たかがスライム。されど、スライム……か」
鉱山に現れたのは何ら変哲のないスライムである。ただし、鉱山の道幅は狭く戦闘には不向きだ。そして鉱山を開けた暁には、フィオへの贈り物を決めねばならぬ。
「ハンターの知見も知りたいところだな」
資料から目を話し、シヴィはぽつりとつぶやく。
フィオにふさわしい防具に思いを馳せ、ハンターへの依頼書にそっと一文書き添えるのだった。
「暇をいただきたく、存じます」
王国東部に領を構えるマーシャロウ家。
領主の執務室で、一人のメイドが見事な礼を見せていた。彼女の名は、フィオ・ドランド。マーシャロウ家のメイド長である。
「……理由を聞こうか」
領主シヴィ・マーシャロウは、苦々しい表情で問いただす。
フィオは遠い目をしながら、ぽつりという。
「先日、ご主人様から身に余る言葉を頂きました」
身に余るお言葉とは、簡潔にいえば「プロポーズ」であった。以前よりシヴィからそれらしき好意を寄せられていることに、フィオは気づいていた。
だが、自分はメイド。相手は貴族。
「ですが、それは身分違いの恋……。今の私では、到底お答えできません」
やや大仰そうに手振りを交え、フィオは主張する。
「一方でご主人様の好意を無碍にすることは、メイドとして恥です」
そして、フィオは一つの結論に思い至った。
「暇をいただき、ご主人様にふさわしい女になって戻ってまいります」
「なんか暴走していないか?」
冷静なシヴィのツッコミに、フィオは視線を逸らした。
「そんなことございませんわ」
「……まぁ、いいだろう。フィオが決めたことだ」
基本的にフィオに甘いシヴィは、彼女の出した結論を肯定した。
「だが、危険に飛び込む以上はそれなりの装備を整えてほしい」
「メイド服はやめませんよ。私は、マーシャロウ家のメイド長ですから」
「では、メイド服を基調とした新しい防具を用意しよう」
素材としてシヴィは一つ思い至るものがあった。
それは、マーシャロウ領の特産品でもある鉄鉱石だ。加工しやすさでは王国の中でも上位に入る鉄を用いて、メイド服を強化すればよい。
「お言葉ですが」
シヴィの考えを遮るように、フィオが発言を求めた。
先を促されたフィオは頷いて告げる。
「領家の鉱山に先日雑魔が発生したため、ハンターを要請中のはずです」
「……そうだったか」
「ご主人様が、そのようでは安心して旅に出れませんね」
「すまない」
「今回は私のためでもあります。雑魔討伐に随伴してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、ただし戦闘はするなよ」
仕方ないですねと述べて、フィオは部屋をあとにした。
●
フィオが屋敷を出て行くのを見送り、シヴィは執務机に置かれた報告書に目をやる。無論、鉱山に雑魔が出た報告を忘れてなどいない。
「たかがスライム。されど、スライム……か」
鉱山に現れたのは何ら変哲のないスライムである。ただし、鉱山の道幅は狭く戦闘には不向きだ。そして鉱山を開けた暁には、フィオへの贈り物を決めねばならぬ。
「ハンターの知見も知りたいところだな」
資料から目を話し、シヴィはぽつりとつぶやく。
フィオにふさわしい防具に思いを馳せ、ハンターへの依頼書にそっと一文書き添えるのだった。
リプレイ本文
●
湿気と金属の臭いが混ざり合い、鼻孔をくすぐる。視界に映るのは、闇とわずかな手に持つ光だけだ。それでも複数人で隊列をなせば、周囲は非常に明るくなる。
隊列を成すのは六人のハンター。そして、中心に一人のメイドがいた。
「迷いやすく思えますが、構造は単純です。ただし、奇襲には備えてください」
メイドことフィオの言葉を聞きながら、先頭を行くヴァイス(ka0364)が振り返った。
「初めてなら、単純でも迷うものさ。先導、よろしく頼むぜ?」
「はい。僭越ながら……あ、次は右です」
フィオに従ってヴァイスは右に折れる。天井や別の道へも視線を向けて警戒は怠らない。ヴァイスに続いて、ザレム・アズール(ka0878)とガニュメデス・ホーリー(ka6149)が道をゆく。
ザレムは松明を片手に、今いる場所を予測する。予め坑道の地図を見せてもらい、構造は頭に入れてある。壁に触れていた手に、冷たい感触があった。
手を見れば、銀色を含む粘液が付着していた。
「敵はスライム……か」
粘液は通常のスライムより、硬質に感じる。色に劣らぬ性質を有しているのだろうか。
「油断しなければ難しくないだろうけど、ね」
「なんでしょうか」
ザレムはふと一つ後ろにいたフィオを見た。視線に気づいたフィオは、訝しげな表情を浮かべた。
「確か、旅の装備を作るんだよね?」
「えぇ」
フィオの首肯に合わせて、ガニュメデスが「旅か……」と言葉を漏らした。
「侍女長はそれなりに大きなポストです。長いこと空席にするのは推奨しませんよ、大切にされているなら尚更ね」
「心得ているつもりです」
「それと、大きな判断を必要とされているときは、イエス、ノーをはっきりさせましょう。相手のためにも、自分のためにもね」
ガニュメデスの冗談めかしく告げられ、フィオは斜めに視線をそらして「善処します」とだけ応えた。濁した形に持って行こうとしたのだが、ここでエリス・カルディコット(ka2572)がフィオの後ろから声をかけてきた。
「メイドとご主人様との恋……当人さえ良ければ、それは幸せな事だと思いますよ」
自身の境遇に思いを馳せつつ、エリスはフィオに話しかけた。フィオは頬を桜色に染めつつ、
「何故それも……」
知っているのか、と続けようとして止めた。この事情を語った人物に心当たりは一人しかないのだ。
「メイドを妾ではなく正式に妻になさるだなんて、いいご主人様ですわね」
不意にライラ = リューンベリ(ka5507)が述べた言葉が決定打となり、フィオの顔が真っ赤に染まる。戦いには慣れている乙女も、色恋沙汰には弱いのだ。
「素敵です。シンデレラストーリーですわ」
ライラは目をつむり、お伽話のような事実に目をつむり思いを馳せる。次に目を開けた時、ライラは頷きながら告げた。
「そのためにも、まずは邪魔なスライムのお掃除をしなければなりませんね」
「メイドとして当たり前のことです」
本気か冗談かわからぬ会話に、不意にイーディス・ノースハイド(ka2106)が口を挟む。
「盛り上がっているところ、申し訳ないがそろそろ敵影が見えてもおかしくはない」
油断はするな、という忠告にライラとフィオは表情を引き締める。心構えができたとき、物事は前へ進んでいる。
ガニュメデスが立ち止まり、後続へ頭だけ振り返る。
「イーディスさんの言うとおりみたいですね」
先頭を歩くヴァイスの足が止まり、ハンドサインが送られたのだ。同時に何かがちぎれるような音が、耳に響いた。
ヴァイスからの合図を待たずして、イーディスは何が起こったのかを知る。
「分裂、だね」
移動している間にも増えているかもしれない。松明を壁に立てかけ、盾を重厚に構え直すのであった。
●
ハンターたちが持つ光に反応して、二体のスライムは向かってきていた。近づくほどに、金属質な表面があらわになる。そして、近づきながらブチッとちぎれた。
「いきなりか!」
声を上げてヴァイスは小手調べにと手裏剣を放つ。星状の手裏剣は、スライムに当たると甲高い金属音を立てた。
「本当にかてぇみたいだな……」
「なら、光はどうかな」
ヴァイスの後ろで、ザレムが光の三角を紡ぐ。放たれた光線が、分裂したてのスライムに穴を穿つ。通常のスライムより穴の深さは浅く見えた。
「魔法にも硬いのか」
やや驚きを見せつつ、慌てずに次の手を打つ。投げ出した松明で反応を見ようとしたのだが、スライムはその炎を気にせずに突っ込んできた。
ザレムが観察の目を向けている間に、ライラが前へ出る。
狭い中で鞭を繰り出すべく、射程まで近づいて素早く抜き放つ。炎の加護が付与された鞭の一撃。当たりの感触を確かめつつ、戻ってきた鞭を丸める。
放たれた強酸を避けて、ライラは距離を取る。
代わりにガニュメデスがやや前に出て、盾で強酸が後衛に及ぶのを防ぐ。
「……うん。これぐらいなら、なんともない」
防御性能を高め、盾役として特にフィオを守る位置につく。
その間に、ガニュメデスの後方からは、エリスが狙いを定めていた。ただし、エリスが狙うのは坑道の壁面である。スライムの動きを予測、さらには角度を計算して引き金を引く。
放たれた弾丸は、二度三度、跳ね返りスライムを穿つ。高威力のライフルは、スライムといえども確実な損傷を与えるのだ。
分裂もあって体積を減らしていたスライムを、ヴァイスが弧を描き切り払う。
最後は前へ出ていたガニュメデスが、光の刃でとどめを刺した。残るは三体。いずれも分裂体である。
「このまま押し切るぜ!」
飛びついてきたスライムを返す刃で切り落とし、ヴァイスは意気揚々と告げる。
だが、ここでイーディスが後ろを振り返った。
否、戦いが始まったときから彼女は奇襲を警戒していたのだ。その予見は、あたっていた。彼女の司会に飛び込んできたのは、二体のスライムであった。
エリスは反転すると、手早く後ろから迫っていたスライムへ銃弾を放つ。冷気を帯びた弾丸は、スライムに食い込むとその表面に霜をつけた。
「よく冷えます。本当に金属のようでございますね」
キンと冷えたスライムの動きは、鈍っているように見えた。
冷えたスライムを横目に見て、イーディスはもう一体を抑えに入る。スライムはイーディスに向けて体当たりを仕掛けるが、自身よりも金属で覆われた彼女に傷をつけるには及ばない。
体当たりを盾で受け止めると、鋼色の刀身が軌跡を描く。反撃を食らったスライムは、何を思ったか、さらに分裂を試みた。
「……むやみに増えるのもどうかと思うぞ?」
盾をめいいっぱいに使い、イーディスは二体のスライムの攻撃を凌ぐ。彼女の足元を弾丸が跳ね、そのうち一体を撃ち倒す。
視線のみ振り向けば、エリスが銃口を向けている。
「何だか倒せば経験値が凄い貰えそうな色をしておりますね」
ぽつりとつぶやきながら、弾込めを果たし、再度引き金を引く。イーディスが合わせて射線を作り、スライムへ弾丸をぶち当てる。今度は、マテリアルによって加速度をました弾丸だ。
中央に大穴を作り、なおも動くスライムをイーディスが一刀両断に伏す。
「経験値とやらがどうかは知らないが、一匹や二匹に遅れは取らないさ」
ただし、防具についたスライムの痕には小さな嘆息を漏らすのだった。
●
一時の休憩を挟み、探索を再開したハンターたちは五分ほどして次のスライムと出くわす。
今度は最初から挟撃の態勢だった。前から三体、後ろから少なくとも四体以上のスライムが迫る。そんな中、ライラがザレムに恭しく進言する。
「ザレム様、先ほど申しましたとおりでございます」
「ああ、とにかくやってみよう」
こちらへ這いずってくるスライムを見て、ザレムは素早く炎を放った。本来、扇状に広がる炎は通路を塞ぐように伸びていく。勢いよく飛び込んできたスライムが巻き込まれて、金属質な身体を柔らかくする。
「指摘通り有効的なようだね」
「やはりそうですか」
一戦目の中で、ライラは鞭の感触が予想より柔らかく感じていた。ザレムが炎を試していたのを見ていたライラは、そのことを報告したのだ。
「これで少しは戦いやすくなるだろう」
ザレムの言葉を耳に受け、ヴァイスが「よし」と前へ出る。焦げた地面を踏みしめて、一気に刀を振り下ろす。斬撃がスライムの身体に吸い込まれ、小気味よい感触をヴァイスは感じた。
先の戦いで打ち鳴らされた金属音は、響かなかった。
一方でスライム特有の感触――物理に対する吸収性――は感じられた。
「特徴をなくせば、ただのスライムだな」
「それでも、油断はできないよ」
「間違いない!」
ザレムに応えながら、ヴァイスはスライムの攻撃を凌ぐ。三体同時に放たれた体当たりを受けさばき、つぶさに反撃を加えた。
同時にヒットアンドアウェイの容量で一度、退避する。
「炎のおかわりだ!」
ヴァイスが口の端を上げると同時に、再度炎がスライムを包み込んだ。三体のうち、一体がぷつぷつと音を立てて地面に伏す。
前方が炎に照らされる一方、後方では静かな戦いが始まっていた。
「凍ったら分裂も出来なくなる……と、良いのですがいかがでしょうか?」
エリスはレイターコールドショットを叩き込む。炎で融解するならば、冷気を与えれば硬質化するのだろうか。経験則でいえば、動きが鈍ることは間違いがない。
一方で弾丸を撃ちこむ前に、別な一体は分裂を果たす。これだけ数が多いのは、分裂をしていたからだろうか。
「数が増えた分、経験値も増えればいいですのに」
つい、そんなことを考えてしまう。
事実、増えたスライムほど厄介なものはない。イーディス一人では、迫り来るスライムを押しとどめることは難しい。地面をまっすぐに這いよるスライムへは、盾を十全に広げて対処できるが……。
「天井、行ったぞ!」
「心得ました!」
イーディスの言葉に、ガニュメデスが素早く反応する。見上げれば二体のスライムが、イーディスの頭上を抜けて中腹に迫る。フィオをかばうように動きながら、ガニュメデスは再度防御性能を高める。
落下を利用した体当たりに、ガニュメデスは盾で応対する。ガニュメデスとスライムの間には、光の障壁が緩衝材のように出現していた。ザレムの防御障壁だ。
障壁が割れ、転がったスライムへガニュメデスは機導剣を放つ。
「レディを怪我させるのは、ジェントルマンとしてあるまじきですし。ましてや嫁入り前の方を傷物にしたら何言われるかわかりません」
壁際の攻防、そこにもう一体スライムが降りてくる。ライラが手裏剣を避け、スライムは強酸を繰り出す。狭い中で踊るような動きを見せ、ライラは強酸を回避。降り立ったスライムに手早く鞭を放つ。
「お掃除も大詰めですね」
「はい、塵芥一つ残しません」
フィオのつぶやきに、ライラは頷くのだった。
戦いは混戦を見せるかと思ったが、ザレムの炎に巻かれた前方の敵は呆気無く崩れ落ちた。振り返りざまに徹刺を放ち、ヴァイスが中腹に寄る。
後方の戦いもイーディスが抑えながら、エリスが要所を締めていく。
弾丸が身体をえぐり、四体のスライムは瞬く間に数を減らす。
「分裂のしすぎだ」とイーディスは誰にも構わぬ苦言を呈す。イーディスへまとわりつこうとしたスライムは、体積が小さすぎて軽くあしらわれていた。
気がつけば、残るは一体。
「これで終わりです」
最後はイーディスの斬撃に、エリスが跳弾を合わせて確実に仕留めるのであった。
●
かくして二戦目を終えたハンターたち。
坑道内を一通り見まわると、鉱山を後にした。その道すがら、エリスがフィオへと尋ねる。
「先の戦闘を見て、何か思った事などはございませんか?」
フィオの戦い方を踏まえて、意見を頂きたいのですとエリスは重ねて問う。フィオは少し考えをめぐらして、
「やはり運動性能は重要だと実感しました。それと要所を締める防御性能ですね」
イーディスの硬さ、ライラのステップを踏むような回避。どちらも重要であるといわざるをえないのだ。
不意にライラがフィオの顔を覗き込む。
「ついでに、フィオのご主人様についても教えて下さい」
続けざまの問いかけに、フィオは顔をまた赤く染めるのであった。
屋敷についた一行は、まずエリスが聞き出したこの意見を中心に提案が行われた。
イーディスは簡単なことだ、と自信を持って切り出す。
「メイド服の上や下に着用する必要は無いよ、メイド服を鎧にすればいいんだ」
エプロンを模したデザインのキュイラスとフォールド、タセットに、ワンピースとして蒼く染めたチェインメイル。襟のデザインを流用したゴルゲット、金属製ヘッドドレス。
「それと、手袋として白いガントレットを付けるのもいいね。靴はより防御を重視するならグリーブやソルレットだ」
イーディスの案にはライラがおずおずと反駁を加える。
「メイド服というのは、作業着でありますから、やはり動きやすさ、軽さというのは重要になります」
「慣れればどうって事ないとは思うよ。私は休暇と寝る時以外は大体いつも鎧を着ているからね」
「慣れ……ですか。ですが、全身となるとフィオのいう要所を締める形とは異なります」
ライラは胸当てや腕当て等の一部重点タイプを推す。
それに賛同したのがガニュメデスとザレムだ。
「指先を保護するようなガントレットはどうでしょう。これはイーディスさんも提案されていました」
「俺も近い形で、ホワイトグローブに薄鉄板を仕込みたい。そして、ヘッドドレスを兜代わりにメッキ加工を施した金属製にするのはどうかな。それとレッグホルスター」
加えてヴァイスが、「エプロンをチェインメイルにする」案を出した。
「美観を大切にするならメイド服に合うエプロンの内側に鎖帷子を編み込む……のなら折衷案としていけると思うんだ」
「侍女長としての立場を捨てないのであれば、美観は重視されますね」
全員の意見が出揃ったところで、メイド服であるという視点を置いて話を整理する。
まず、ホワイトグローブのようなガントレットとヘッドドレスを防具として作るのは決まった。メイド服の鎧化計画は、話し合いが難航した。
結果として、鎖帷子を裏打ちしたエプロン、スカート部にタセットを付与したメイド服。ロングスカートの下に隠せるレッグホルスター。ガントレットとヘッドドレス。
「ふむ、よいではないか」
マーシャロウはハンターたちに示された案を見て、満足そうに頷いた。
鉱山は無事に再開し、材料の確保も可能となった。フィオがこの装備を纏うとき、彼女はたびに出る。マーシャロウは窓の外を見て、思う。
願わくば、この装備が彼女の命を守り、満足のいく結果が得られますように……。
湿気と金属の臭いが混ざり合い、鼻孔をくすぐる。視界に映るのは、闇とわずかな手に持つ光だけだ。それでも複数人で隊列をなせば、周囲は非常に明るくなる。
隊列を成すのは六人のハンター。そして、中心に一人のメイドがいた。
「迷いやすく思えますが、構造は単純です。ただし、奇襲には備えてください」
メイドことフィオの言葉を聞きながら、先頭を行くヴァイス(ka0364)が振り返った。
「初めてなら、単純でも迷うものさ。先導、よろしく頼むぜ?」
「はい。僭越ながら……あ、次は右です」
フィオに従ってヴァイスは右に折れる。天井や別の道へも視線を向けて警戒は怠らない。ヴァイスに続いて、ザレム・アズール(ka0878)とガニュメデス・ホーリー(ka6149)が道をゆく。
ザレムは松明を片手に、今いる場所を予測する。予め坑道の地図を見せてもらい、構造は頭に入れてある。壁に触れていた手に、冷たい感触があった。
手を見れば、銀色を含む粘液が付着していた。
「敵はスライム……か」
粘液は通常のスライムより、硬質に感じる。色に劣らぬ性質を有しているのだろうか。
「油断しなければ難しくないだろうけど、ね」
「なんでしょうか」
ザレムはふと一つ後ろにいたフィオを見た。視線に気づいたフィオは、訝しげな表情を浮かべた。
「確か、旅の装備を作るんだよね?」
「えぇ」
フィオの首肯に合わせて、ガニュメデスが「旅か……」と言葉を漏らした。
「侍女長はそれなりに大きなポストです。長いこと空席にするのは推奨しませんよ、大切にされているなら尚更ね」
「心得ているつもりです」
「それと、大きな判断を必要とされているときは、イエス、ノーをはっきりさせましょう。相手のためにも、自分のためにもね」
ガニュメデスの冗談めかしく告げられ、フィオは斜めに視線をそらして「善処します」とだけ応えた。濁した形に持って行こうとしたのだが、ここでエリス・カルディコット(ka2572)がフィオの後ろから声をかけてきた。
「メイドとご主人様との恋……当人さえ良ければ、それは幸せな事だと思いますよ」
自身の境遇に思いを馳せつつ、エリスはフィオに話しかけた。フィオは頬を桜色に染めつつ、
「何故それも……」
知っているのか、と続けようとして止めた。この事情を語った人物に心当たりは一人しかないのだ。
「メイドを妾ではなく正式に妻になさるだなんて、いいご主人様ですわね」
不意にライラ = リューンベリ(ka5507)が述べた言葉が決定打となり、フィオの顔が真っ赤に染まる。戦いには慣れている乙女も、色恋沙汰には弱いのだ。
「素敵です。シンデレラストーリーですわ」
ライラは目をつむり、お伽話のような事実に目をつむり思いを馳せる。次に目を開けた時、ライラは頷きながら告げた。
「そのためにも、まずは邪魔なスライムのお掃除をしなければなりませんね」
「メイドとして当たり前のことです」
本気か冗談かわからぬ会話に、不意にイーディス・ノースハイド(ka2106)が口を挟む。
「盛り上がっているところ、申し訳ないがそろそろ敵影が見えてもおかしくはない」
油断はするな、という忠告にライラとフィオは表情を引き締める。心構えができたとき、物事は前へ進んでいる。
ガニュメデスが立ち止まり、後続へ頭だけ振り返る。
「イーディスさんの言うとおりみたいですね」
先頭を歩くヴァイスの足が止まり、ハンドサインが送られたのだ。同時に何かがちぎれるような音が、耳に響いた。
ヴァイスからの合図を待たずして、イーディスは何が起こったのかを知る。
「分裂、だね」
移動している間にも増えているかもしれない。松明を壁に立てかけ、盾を重厚に構え直すのであった。
●
ハンターたちが持つ光に反応して、二体のスライムは向かってきていた。近づくほどに、金属質な表面があらわになる。そして、近づきながらブチッとちぎれた。
「いきなりか!」
声を上げてヴァイスは小手調べにと手裏剣を放つ。星状の手裏剣は、スライムに当たると甲高い金属音を立てた。
「本当にかてぇみたいだな……」
「なら、光はどうかな」
ヴァイスの後ろで、ザレムが光の三角を紡ぐ。放たれた光線が、分裂したてのスライムに穴を穿つ。通常のスライムより穴の深さは浅く見えた。
「魔法にも硬いのか」
やや驚きを見せつつ、慌てずに次の手を打つ。投げ出した松明で反応を見ようとしたのだが、スライムはその炎を気にせずに突っ込んできた。
ザレムが観察の目を向けている間に、ライラが前へ出る。
狭い中で鞭を繰り出すべく、射程まで近づいて素早く抜き放つ。炎の加護が付与された鞭の一撃。当たりの感触を確かめつつ、戻ってきた鞭を丸める。
放たれた強酸を避けて、ライラは距離を取る。
代わりにガニュメデスがやや前に出て、盾で強酸が後衛に及ぶのを防ぐ。
「……うん。これぐらいなら、なんともない」
防御性能を高め、盾役として特にフィオを守る位置につく。
その間に、ガニュメデスの後方からは、エリスが狙いを定めていた。ただし、エリスが狙うのは坑道の壁面である。スライムの動きを予測、さらには角度を計算して引き金を引く。
放たれた弾丸は、二度三度、跳ね返りスライムを穿つ。高威力のライフルは、スライムといえども確実な損傷を与えるのだ。
分裂もあって体積を減らしていたスライムを、ヴァイスが弧を描き切り払う。
最後は前へ出ていたガニュメデスが、光の刃でとどめを刺した。残るは三体。いずれも分裂体である。
「このまま押し切るぜ!」
飛びついてきたスライムを返す刃で切り落とし、ヴァイスは意気揚々と告げる。
だが、ここでイーディスが後ろを振り返った。
否、戦いが始まったときから彼女は奇襲を警戒していたのだ。その予見は、あたっていた。彼女の司会に飛び込んできたのは、二体のスライムであった。
エリスは反転すると、手早く後ろから迫っていたスライムへ銃弾を放つ。冷気を帯びた弾丸は、スライムに食い込むとその表面に霜をつけた。
「よく冷えます。本当に金属のようでございますね」
キンと冷えたスライムの動きは、鈍っているように見えた。
冷えたスライムを横目に見て、イーディスはもう一体を抑えに入る。スライムはイーディスに向けて体当たりを仕掛けるが、自身よりも金属で覆われた彼女に傷をつけるには及ばない。
体当たりを盾で受け止めると、鋼色の刀身が軌跡を描く。反撃を食らったスライムは、何を思ったか、さらに分裂を試みた。
「……むやみに増えるのもどうかと思うぞ?」
盾をめいいっぱいに使い、イーディスは二体のスライムの攻撃を凌ぐ。彼女の足元を弾丸が跳ね、そのうち一体を撃ち倒す。
視線のみ振り向けば、エリスが銃口を向けている。
「何だか倒せば経験値が凄い貰えそうな色をしておりますね」
ぽつりとつぶやきながら、弾込めを果たし、再度引き金を引く。イーディスが合わせて射線を作り、スライムへ弾丸をぶち当てる。今度は、マテリアルによって加速度をました弾丸だ。
中央に大穴を作り、なおも動くスライムをイーディスが一刀両断に伏す。
「経験値とやらがどうかは知らないが、一匹や二匹に遅れは取らないさ」
ただし、防具についたスライムの痕には小さな嘆息を漏らすのだった。
●
一時の休憩を挟み、探索を再開したハンターたちは五分ほどして次のスライムと出くわす。
今度は最初から挟撃の態勢だった。前から三体、後ろから少なくとも四体以上のスライムが迫る。そんな中、ライラがザレムに恭しく進言する。
「ザレム様、先ほど申しましたとおりでございます」
「ああ、とにかくやってみよう」
こちらへ這いずってくるスライムを見て、ザレムは素早く炎を放った。本来、扇状に広がる炎は通路を塞ぐように伸びていく。勢いよく飛び込んできたスライムが巻き込まれて、金属質な身体を柔らかくする。
「指摘通り有効的なようだね」
「やはりそうですか」
一戦目の中で、ライラは鞭の感触が予想より柔らかく感じていた。ザレムが炎を試していたのを見ていたライラは、そのことを報告したのだ。
「これで少しは戦いやすくなるだろう」
ザレムの言葉を耳に受け、ヴァイスが「よし」と前へ出る。焦げた地面を踏みしめて、一気に刀を振り下ろす。斬撃がスライムの身体に吸い込まれ、小気味よい感触をヴァイスは感じた。
先の戦いで打ち鳴らされた金属音は、響かなかった。
一方でスライム特有の感触――物理に対する吸収性――は感じられた。
「特徴をなくせば、ただのスライムだな」
「それでも、油断はできないよ」
「間違いない!」
ザレムに応えながら、ヴァイスはスライムの攻撃を凌ぐ。三体同時に放たれた体当たりを受けさばき、つぶさに反撃を加えた。
同時にヒットアンドアウェイの容量で一度、退避する。
「炎のおかわりだ!」
ヴァイスが口の端を上げると同時に、再度炎がスライムを包み込んだ。三体のうち、一体がぷつぷつと音を立てて地面に伏す。
前方が炎に照らされる一方、後方では静かな戦いが始まっていた。
「凍ったら分裂も出来なくなる……と、良いのですがいかがでしょうか?」
エリスはレイターコールドショットを叩き込む。炎で融解するならば、冷気を与えれば硬質化するのだろうか。経験則でいえば、動きが鈍ることは間違いがない。
一方で弾丸を撃ちこむ前に、別な一体は分裂を果たす。これだけ数が多いのは、分裂をしていたからだろうか。
「数が増えた分、経験値も増えればいいですのに」
つい、そんなことを考えてしまう。
事実、増えたスライムほど厄介なものはない。イーディス一人では、迫り来るスライムを押しとどめることは難しい。地面をまっすぐに這いよるスライムへは、盾を十全に広げて対処できるが……。
「天井、行ったぞ!」
「心得ました!」
イーディスの言葉に、ガニュメデスが素早く反応する。見上げれば二体のスライムが、イーディスの頭上を抜けて中腹に迫る。フィオをかばうように動きながら、ガニュメデスは再度防御性能を高める。
落下を利用した体当たりに、ガニュメデスは盾で応対する。ガニュメデスとスライムの間には、光の障壁が緩衝材のように出現していた。ザレムの防御障壁だ。
障壁が割れ、転がったスライムへガニュメデスは機導剣を放つ。
「レディを怪我させるのは、ジェントルマンとしてあるまじきですし。ましてや嫁入り前の方を傷物にしたら何言われるかわかりません」
壁際の攻防、そこにもう一体スライムが降りてくる。ライラが手裏剣を避け、スライムは強酸を繰り出す。狭い中で踊るような動きを見せ、ライラは強酸を回避。降り立ったスライムに手早く鞭を放つ。
「お掃除も大詰めですね」
「はい、塵芥一つ残しません」
フィオのつぶやきに、ライラは頷くのだった。
戦いは混戦を見せるかと思ったが、ザレムの炎に巻かれた前方の敵は呆気無く崩れ落ちた。振り返りざまに徹刺を放ち、ヴァイスが中腹に寄る。
後方の戦いもイーディスが抑えながら、エリスが要所を締めていく。
弾丸が身体をえぐり、四体のスライムは瞬く間に数を減らす。
「分裂のしすぎだ」とイーディスは誰にも構わぬ苦言を呈す。イーディスへまとわりつこうとしたスライムは、体積が小さすぎて軽くあしらわれていた。
気がつけば、残るは一体。
「これで終わりです」
最後はイーディスの斬撃に、エリスが跳弾を合わせて確実に仕留めるのであった。
●
かくして二戦目を終えたハンターたち。
坑道内を一通り見まわると、鉱山を後にした。その道すがら、エリスがフィオへと尋ねる。
「先の戦闘を見て、何か思った事などはございませんか?」
フィオの戦い方を踏まえて、意見を頂きたいのですとエリスは重ねて問う。フィオは少し考えをめぐらして、
「やはり運動性能は重要だと実感しました。それと要所を締める防御性能ですね」
イーディスの硬さ、ライラのステップを踏むような回避。どちらも重要であるといわざるをえないのだ。
不意にライラがフィオの顔を覗き込む。
「ついでに、フィオのご主人様についても教えて下さい」
続けざまの問いかけに、フィオは顔をまた赤く染めるのであった。
屋敷についた一行は、まずエリスが聞き出したこの意見を中心に提案が行われた。
イーディスは簡単なことだ、と自信を持って切り出す。
「メイド服の上や下に着用する必要は無いよ、メイド服を鎧にすればいいんだ」
エプロンを模したデザインのキュイラスとフォールド、タセットに、ワンピースとして蒼く染めたチェインメイル。襟のデザインを流用したゴルゲット、金属製ヘッドドレス。
「それと、手袋として白いガントレットを付けるのもいいね。靴はより防御を重視するならグリーブやソルレットだ」
イーディスの案にはライラがおずおずと反駁を加える。
「メイド服というのは、作業着でありますから、やはり動きやすさ、軽さというのは重要になります」
「慣れればどうって事ないとは思うよ。私は休暇と寝る時以外は大体いつも鎧を着ているからね」
「慣れ……ですか。ですが、全身となるとフィオのいう要所を締める形とは異なります」
ライラは胸当てや腕当て等の一部重点タイプを推す。
それに賛同したのがガニュメデスとザレムだ。
「指先を保護するようなガントレットはどうでしょう。これはイーディスさんも提案されていました」
「俺も近い形で、ホワイトグローブに薄鉄板を仕込みたい。そして、ヘッドドレスを兜代わりにメッキ加工を施した金属製にするのはどうかな。それとレッグホルスター」
加えてヴァイスが、「エプロンをチェインメイルにする」案を出した。
「美観を大切にするならメイド服に合うエプロンの内側に鎖帷子を編み込む……のなら折衷案としていけると思うんだ」
「侍女長としての立場を捨てないのであれば、美観は重視されますね」
全員の意見が出揃ったところで、メイド服であるという視点を置いて話を整理する。
まず、ホワイトグローブのようなガントレットとヘッドドレスを防具として作るのは決まった。メイド服の鎧化計画は、話し合いが難航した。
結果として、鎖帷子を裏打ちしたエプロン、スカート部にタセットを付与したメイド服。ロングスカートの下に隠せるレッグホルスター。ガントレットとヘッドドレス。
「ふむ、よいではないか」
マーシャロウはハンターたちに示された案を見て、満足そうに頷いた。
鉱山は無事に再開し、材料の確保も可能となった。フィオがこの装備を纏うとき、彼女はたびに出る。マーシャロウは窓の外を見て、思う。
願わくば、この装備が彼女の命を守り、満足のいく結果が得られますように……。
依頼結果
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相談卓 イーディス・ノースハイド(ka2106) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/05/27 18:46:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/26 07:54:20 |