ゲスト
(ka0000)
遺跡の守護者
マスター:nao

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/27 12:00
- 完成日
- 2016/05/31 23:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●遺跡の守護者
「だぁぁっ! もぅっ、話が違うじゃないのよッ!」
長い金髪を振り乱し、その女剣士は降り積もった鬱憤をぶつけるように大きく叫んだ。
女剣士とその仲間達、そして学者然とした青年の周囲には、おびただしいほどの血と臓物が飛び散って混ざり合い、薄く湯気を上げていた。立ち昇る血生臭い臭気を気にも留めず、女剣士達はそれぞれ油断なく武器を構え、学者然とした青年を護るようにジリジリと移動する。
女剣士の眼前には、同胞達を殺された怒りか、緑の肌にがっしりとした体格の小柄な種族……ゴブリンと呼ばれる亜人が一匹、木を削っただけの無骨な棍棒を構えていた。ぎょろりと見開いた両の眼は嚇怒に燃え盛り、薄く開いた口腔からは、殺意の唸りが漏れる。と、唸りが漏れると同時、ゴブリンは棍棒を大きく振り上げ、一足飛びに女剣士へ襲い掛かったッ。
女剣士はゴブリンの動きを冷静に見極め、鋭く一歩を踏み込みざま、円を描くような体捌きで握った長剣を横薙ぎに振り切った。
弧を描く銀の切っ先が、ゴブリンの胸元から腹腔までを斬り裂き……烈風を纏った棍棒が、女剣士の長い金髪をふわりと巻き上げる。一瞬後、ゴブリンは鮮血を派手に噴き出しながらバランスを崩し、叩きつけられるような勢いで地を転がった。女剣士は素早く駆け寄り、ゴブリンの首筋へ刃を走らせる。瞬間、断ち切られたゴブリンの首が、断末魔のごとく大量の鮮血を吐き出した。
戦闘が一段落したのを見て取り、女剣士達は一息吐いて、青年へ詰め寄った。
「あんたねぇッ! あんたが言ってた事前の情報と、全然違うじゃないのッ! こんな数だなんて、聞いてないわよッ!?」
「はっはっはっ。いいじゃないか、なんとかなったんだしさっ。……と、あっちの部屋はなんだろなっ?」
女剣士が怒号をぶつけるも、青年は悪びれた様子もなく、好奇心に輝く瞳で通路の奥へ駆け出した。
「あっ、こらッ! 待ちなさい!」
女剣士達は、叫ぶなり駆け出した青年を追いかけ……そして『その部屋』の前で、首根っこをひっ捕まえるのに成功した。
五十メートル四方ほどの石造りでできたその広い部屋は、床や壁に幾筋もの亀裂が走り、長い年月の経過で相当劣化しているようだった。天井に至っては、劣化どころか半壊し、陽の光が降り注いでいる。
細かな亀裂が走っている壁は、一面が壁画となっており、解読不能な文字や、幾つかの絵が掘り込まれていた。そして……その部屋の真ん中には、全身が堅固な質感で覆われた巨人が鎮座していた。人型で、腕も足も太く、肌は岩石のような重量感のある気配を放っている。そのシルエットから察するに、立ち上がれば全高は三メートルに達するだろう。
『ゴーレム』
それは見る者にその名を想起させる、巨大な異形だった。……だが、問題はここから。
鎮座していたゴーレムは、突如としてギギギッ、と錆びついたような動きで立ち上がり、大きな双眸を赤く光らせたのだ。その現象に、青年以外が、ぎょっとしたように低く呻く。
「まっ、魔法生物ッ!? あんなのとやり合う体力なんて、もう残ってないわよッ!?」
「うわぁっ、あの壁画とか、とっても興味深いなっ! 女剣士君っ、女剣士君っ! これで最後でいいから、あれをなんとかしてよっ!」
立ち上がったゴーレムを愕然と見上げる女剣士に、青年は無邪気とも呼べる笑顔で頼み込んだ。
「冗談じゃないわよっ! あんたの『これで最後』は、これで三回目じゃないのッ! 帰りの体力も計算しなきゃだし、ここで限界よッ!」
女剣士が怒号をぶつけるも、青年は首根っこを掴まれたまま、ジタバタと暴れる。
「いい加減に、してくださいッ!」
……が、突然、ドスンッと鈍い音が響き、華奢な拳が青年の腹へめり込んだ。
女剣士の仲間の一人が堪えかね、青年の鳩尾をぶん殴ったのだ。青年は「くぅ、ぉ……」と、言葉にならない呻きを漏らし、白い泡を噴いて気絶した。力を失った青年の身体を、女剣士の仲間の一人がひょいと抱え上げる。
「戻りましょう、姉さんっ。これ以上は付き合いきれませんっ!」
「そうねッ」
女剣士達は顔を見合わせ、素早く踵を返し、その場を撤退した。
●依頼
「……と、言うわけで気絶させられちゃったんだよっ。酷いと思わないかいっ?」
アランと名乗った青年は、口角泡を飛ばし、捲くし立てるような勢いで続ける。
「つまり、ハンター君達に依頼したいのは、遺跡を探索する僕の護衛さっ! ゴブリンが住み着いてたみたいだけど、昨日ので大方掃討されたし……問題はやっぱり、あの魔法生物かなっ? あぁ、あの奥にある壁画は是非とも解読したいから、傷つけないでねっ。とにもかくにも、よろしく頼むよ!」
アランは幼子のような好奇心に瞳を輝かせ、邪気のない顔で微笑んだ。
「だぁぁっ! もぅっ、話が違うじゃないのよッ!」
長い金髪を振り乱し、その女剣士は降り積もった鬱憤をぶつけるように大きく叫んだ。
女剣士とその仲間達、そして学者然とした青年の周囲には、おびただしいほどの血と臓物が飛び散って混ざり合い、薄く湯気を上げていた。立ち昇る血生臭い臭気を気にも留めず、女剣士達はそれぞれ油断なく武器を構え、学者然とした青年を護るようにジリジリと移動する。
女剣士の眼前には、同胞達を殺された怒りか、緑の肌にがっしりとした体格の小柄な種族……ゴブリンと呼ばれる亜人が一匹、木を削っただけの無骨な棍棒を構えていた。ぎょろりと見開いた両の眼は嚇怒に燃え盛り、薄く開いた口腔からは、殺意の唸りが漏れる。と、唸りが漏れると同時、ゴブリンは棍棒を大きく振り上げ、一足飛びに女剣士へ襲い掛かったッ。
女剣士はゴブリンの動きを冷静に見極め、鋭く一歩を踏み込みざま、円を描くような体捌きで握った長剣を横薙ぎに振り切った。
弧を描く銀の切っ先が、ゴブリンの胸元から腹腔までを斬り裂き……烈風を纏った棍棒が、女剣士の長い金髪をふわりと巻き上げる。一瞬後、ゴブリンは鮮血を派手に噴き出しながらバランスを崩し、叩きつけられるような勢いで地を転がった。女剣士は素早く駆け寄り、ゴブリンの首筋へ刃を走らせる。瞬間、断ち切られたゴブリンの首が、断末魔のごとく大量の鮮血を吐き出した。
戦闘が一段落したのを見て取り、女剣士達は一息吐いて、青年へ詰め寄った。
「あんたねぇッ! あんたが言ってた事前の情報と、全然違うじゃないのッ! こんな数だなんて、聞いてないわよッ!?」
「はっはっはっ。いいじゃないか、なんとかなったんだしさっ。……と、あっちの部屋はなんだろなっ?」
女剣士が怒号をぶつけるも、青年は悪びれた様子もなく、好奇心に輝く瞳で通路の奥へ駆け出した。
「あっ、こらッ! 待ちなさい!」
女剣士達は、叫ぶなり駆け出した青年を追いかけ……そして『その部屋』の前で、首根っこをひっ捕まえるのに成功した。
五十メートル四方ほどの石造りでできたその広い部屋は、床や壁に幾筋もの亀裂が走り、長い年月の経過で相当劣化しているようだった。天井に至っては、劣化どころか半壊し、陽の光が降り注いでいる。
細かな亀裂が走っている壁は、一面が壁画となっており、解読不能な文字や、幾つかの絵が掘り込まれていた。そして……その部屋の真ん中には、全身が堅固な質感で覆われた巨人が鎮座していた。人型で、腕も足も太く、肌は岩石のような重量感のある気配を放っている。そのシルエットから察するに、立ち上がれば全高は三メートルに達するだろう。
『ゴーレム』
それは見る者にその名を想起させる、巨大な異形だった。……だが、問題はここから。
鎮座していたゴーレムは、突如としてギギギッ、と錆びついたような動きで立ち上がり、大きな双眸を赤く光らせたのだ。その現象に、青年以外が、ぎょっとしたように低く呻く。
「まっ、魔法生物ッ!? あんなのとやり合う体力なんて、もう残ってないわよッ!?」
「うわぁっ、あの壁画とか、とっても興味深いなっ! 女剣士君っ、女剣士君っ! これで最後でいいから、あれをなんとかしてよっ!」
立ち上がったゴーレムを愕然と見上げる女剣士に、青年は無邪気とも呼べる笑顔で頼み込んだ。
「冗談じゃないわよっ! あんたの『これで最後』は、これで三回目じゃないのッ! 帰りの体力も計算しなきゃだし、ここで限界よッ!」
女剣士が怒号をぶつけるも、青年は首根っこを掴まれたまま、ジタバタと暴れる。
「いい加減に、してくださいッ!」
……が、突然、ドスンッと鈍い音が響き、華奢な拳が青年の腹へめり込んだ。
女剣士の仲間の一人が堪えかね、青年の鳩尾をぶん殴ったのだ。青年は「くぅ、ぉ……」と、言葉にならない呻きを漏らし、白い泡を噴いて気絶した。力を失った青年の身体を、女剣士の仲間の一人がひょいと抱え上げる。
「戻りましょう、姉さんっ。これ以上は付き合いきれませんっ!」
「そうねッ」
女剣士達は顔を見合わせ、素早く踵を返し、その場を撤退した。
●依頼
「……と、言うわけで気絶させられちゃったんだよっ。酷いと思わないかいっ?」
アランと名乗った青年は、口角泡を飛ばし、捲くし立てるような勢いで続ける。
「つまり、ハンター君達に依頼したいのは、遺跡を探索する僕の護衛さっ! ゴブリンが住み着いてたみたいだけど、昨日ので大方掃討されたし……問題はやっぱり、あの魔法生物かなっ? あぁ、あの奥にある壁画は是非とも解読したいから、傷つけないでねっ。とにもかくにも、よろしく頼むよ!」
アランは幼子のような好奇心に瞳を輝かせ、邪気のない顔で微笑んだ。
リプレイ本文
●先発組
整備された街道からやや外れた小道を二頭の馬が並んで走っていた。空は薄い雲が幾つか浮かぶだけの快晴で、道の先にはなだらかな丘陵が広がっている。今回の目的地の遺跡のある場所だ。
「ま、興味を惹かれるとつい我を失っちゃうのはわからなくもないわね……」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)は馬に揺られ、青々と広がる草地を眺めながらのんびりと言う。
「リアルブルーの劇作家曰く『のんき者は長生きする』そうですよ。アランさんは、多分この通りな気がします。個人的には人生を楽しく生きてる人は好きだし、ゴーレムをどうにかして壁画を見せてあげたいですね」
同じく馬に揺られ、テノール(ka5676)は『今は任務中だ』と意識的に冷静さを保ち、アルスレーテの呟きに応えた。
「まっ、そうかもしれないわね」
呟くと同時、アルスレーテは手綱を強く握る。二人の目に映るのは、劣化が進み半ば緑に覆われた石造りの巨大な建造物。つまりは目的地だった。
二人は馬を下り、目的地までの経路を確認しながら遺跡の内部へ入った。
「……ふッ」
鋭い呼気と共に振り下ろされた鉄扇が、唸りを上げてゴブリンの頭蓋へ襲い掛かるッ。瞬間、ゴブリンの頭蓋が大きく陥没し、爆砕したように鮮血と脳漿が飛び散った。
アルスレーテの視界に映るのは、生気なく崩れるゴブリンと、嚇怒の炎を双眸に燃やして襲い掛かって来るもう一体のゴブリンだった。数瞬の後、木を粗く削っただけの無骨な棍棒が、大上段から振り下ろされ……アルスレーテは瞬時でその軌道を見極め、円を描くような足捌きで回避する。流れる風に、ふわりと銀髪がなびいた。
「はぁッ!」
と、攻撃を外し、棍棒に振り回されるようにバランスを崩したゴブリンの側面から、テノールが弾丸の勢いで拳を打ち放った。横殴りとなった拳撃はゴブリンの脇腹へぶち当たり、肋骨をメギメギと破壊しながら臓腑まで突き抜ける。ゴブリンの身体が一瞬宙へ浮き、血反吐を吐き出しながら、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「ゴブリンは二体か。まあ、こんなものかしらね」
ゴーレムの居る部屋はもう目前。アルスレーテは全身の感覚を研ぎ澄ますも、生きている気配は何も感じられなかった。
「そうですね。じゃあ、皆を待つとしましょうか」
テノールは鎮座したゴーレムを遠目で見詰め、壁に背を預けて静かに言った。
●後発組
「それで、アランさん。ゴーレムについて、もう少し詳しく教えてくださいっす」
遺跡内部を目的の部屋へ向かって進む中、骸香(ka6223)はアランを見上げて可愛らしく小首を傾げた。
「うん? あれで全部だよ? 大きくて硬そうで人型でタフそうだったかな?」
「もう少し、何かないっすか?」
つぶらな瞳で見上げる骸香に、アランは顎に手を当てて考える。
「そうは言ってもなぁ。僕、壁画に釘付けで、それ以外はほとんど意識に入ってなかったし」
あまりにもあんまりな答えを真面目な顔で語るアランに、骸香の肩が呆れにガクッと下がる。
「ゴーレムを倒した後でゆっくり解読すればいいのに。そっちの方が落ち着いて好きなだけ見れるっすよ?」
「骸香殿の言う通りだ。それに、きみが勝手に動くと壁画が壊れる可能性がある。ゴーレムを片付けたらゆっくり見る時間が作れるから、しばらく我慢してくれないか?」
骸香へ続いて、鞍馬 真(ka5819)が嗜めるように説得する。
「うぅん、理屈では解ってるんだけどね。でも興味を惹かれると、自分の命すら意識から飛んじゃうんだ。……ごめんね」
しゅんと項垂れ、本当に申し訳なさそうに謝るアランに、真は二の句が告げなくなる。……ややあって、
「今回、ゴーレムからの護衛は、私と骸香殿がメインでする事になる。おそらく首根っこを掴んで止める事になるだろうが、覚悟しておいてくれ」
頭痛を覚えたように頭へ手をやり、真はアランへ警告した。そのまま、じっとアランを観察し……線の細く華奢な体型に、胸中で微かに安堵する。
(不幸中の幸いか。これなら取り押さえるのに、そう苦労はなさそうだ)
真は小さく頷き、もしもの時に対する覚悟を決めた。
「それにしても、凄い数だったんだな」
前を歩くショウコ=ヒナタ(ka4653)が、そこらに累々と転がったゴブリンの死体を避けながら、呆れたように首を振った。
「うん、凄い数だよね」
同じく前方を警戒する門守 透(ka4863)も、鼻を突く血生臭い死臭に顔を顰め、ショウコへ同意する。
(入口近くのゴブリンは一撃で殺してるけど……奥へ行くほど手間取り、死骸の傷が増えてる。女剣士さん達の疲れが見えるようだよ)
「周りが見えなくなるってのも、迷惑なもんだね」
ショウコも死体の傷から察し、ちらりとアランを振り返って憮然と呟く。
「アランさんのような人が居るからこそ、戦う意義もあるのです。侍なんて生き物は、壊すしか能がありませんからね」
無駄を許す余裕がこの世界に多い事に感心して……ふと己の故郷を思い出し、透は複雑な心境になる。
「それはそれとして。結局一番大事なのって、自分の命ですからね。もしもの時は捨てていきましょう」
心へ渦巻いた感情を振り切るように、透は冗談めかして笑う。
「なんだそりゃ。ま、賛成だけどさ」
ショウコも冗談めかして笑い、ハンター達は周囲を警戒しながらも先を急いだ。
●激闘開始
全員が合流し、問題の部屋の前でハンター達は様子を窺う――と、突然、部屋の中央で静かに鎮座していたゴーレムが、軋んだような音と共に巨体を持ち上げ、双眸を妖しく光らせた。次いで、軽い地響きを響かせながら威嚇するように一歩を踏み出す。
「壁画に近付かれたら厄介だね。今の内に前へ出るよ」
落ち着いた口調でテノールは言い、ゴーレムへ向けて地を蹴り抜く勢いで飛び出した。
「そうね。今の状況は都合がいいし、壁画に接近される前に畳み掛けましょう」
「うん、同感。それじゃあ行こうか」
テノールへ続き、アルスレーテと透がそれぞれ左右に展開し、ゴーレムへ向けて疾走した。
「私は少し、ゴーレムの挙動を探ってみるかな」
ショウコは呟くと同時、部屋へ駆け込み……直ぐ傍の壁画に触れて不審な物がないか調べた。それと並行して、己の行動にゴーレムが反応するか、注意深く様子を窺う。
「あ~、いいなぁいいなぁ! 僕も見たいな!」
と、それまで身体をウズウズ小刻みに震わせながらも、どうにか衝動に耐えていたアランが突如として飛び出し、
「だから駄目だと言っているだろう。きみは私達と一緒に行動するんだ」
真が素早くその首根っこを引っ掴んだ。
アランの喉から「ぐぇっ」と苦鳴が漏れるも、真は気にせず……皆の援護、かつアランを戦闘に巻き込まない位置を見極め、そちらへ歩を進める。アランの腕がジタバタと空を掻き、靴裏がズルズルと音を立てて激しく擦れた。
「鞍馬さん、うちもお手伝いするっす!」
骸香はアランの片腕を取り、引き摺るのを手伝いながら、部屋の様子やゴーレムの死角となる箇所を探そうと目まぐるしく視線を巡らせた。
そして、その数秒前……。アランが飛び出したのとほぼ同時――テノールの接敵を皮切りに、本格的な戦闘が開始された。
地を這うような低い姿勢から、テノールはゴーレムの間合いへ一気に飛び込み、硬く握った拳を鋭く跳ね上げる。拳はゴーレムの下腹部へ突き刺さり……瞬間、凄まじい衝撃がゴーレムの内部まで貫通し、下腹部が僅かに崩れ落ちた。パラパラとゴーレムの破片が宙を舞う。
それに一拍遅れ、右からアルスレーテが怪力無双を発動、ゴーレムの右腕を掴んで抑え込み……左側面へ回り込んだ透が低く身を旋回させ、横薙ぎにウォーピックを振り抜いた。
「人形如きが……調子に乗ってんじゃないわよ……!」
アルスレーテが裂帛の気合を叫び、ほんの一瞬、力が拮抗してゴーレムの動きが硬直した。そこへ遠心力を上乗せしたウォーピックが、ゴーレムの右足首へ激しくぶち当たるッ。轟音が爆発し、突き刺さった衝撃にゴーレムはほんの微かにバランスを崩した。
「うん、鎧徹しは通るね」
「この調子ならいけそうですね」
今の一撃に手応えを感じてテノールは冷静に言い……透は武器を素早く引き戻し、ゴーレムを見上げながら軽く頷いた。
そして……豪腕を天高く振り上げ、反撃の構えを見せるゴーレムの一挙動すら見逃すまいと、三人は大きく目を見開いた。
「来ないね……」
壁画に接近し、注意深くゴーレムの挙動を窺っていたショウコは首を傾げて訝んだ。
自分が壁画へ触っても無反応なのは、目前に三人の敵が居るからか……それとも壁画は関係なく、部屋へ侵入して来た者を無作為に殺すようになっているのか。
「ま、今は関係ない。あっちを手伝うか」
ショウコは思考を切り上げ、三人を手伝おうと矢のような勢いで駆け出した。
「まっ、下手に動かれるより、これはこれで有りなのかなぁ……」
場所は入口の直ぐ傍……骸香は、瞳をキラキラさせて食い入るように壁画を見詰めるアランを、本日何度目かの呆れと共に見守った。ゴーレムは部屋のほぼ中央で戦っている。ショウコに対するゴーレムの反応も考慮し、部屋の壁際……つまりは壁画の傍が最も安全かつ、仲間の援護もできると判断した為だ。
「はいはい、勝手に動き回ったりはしないでくださいっすね~。今はそれだけで我慢してくださいっす」
時折、隣の壁画を見ようと歩き出すアランの首元を掴み、骸香はゴーレムの核や弱点がないか目を凝らして観察した。
「骸香殿、アランの事をしばらく任せる。勿論、離れたりはしないから心配しなくていい」
真は淡々と言い、ゴーレムへ鋭い視線を向けた。その手には二メートルに達する巨大な黒弓が握られている。
「任されたっす、鞍馬さん♪」
どこか甘い声で返事をする骸香へ首肯し……真は冷静な眼差しでゴーレムを見据え、素早く矢をつがえた。
ゴーレムの右脚が大きく持ち上がり、眼前に迫っていたテノールへ叩きつけるような勢いで振り下ろされるッ。豪風を纏って迫り来る岩塊の一撃を、テノールは上体を沈めつつ右へ体重移動し、流れるような体捌きで空を切らせた。
次いで、ゴーレムの右脚が地面へ激突する間際、その勢いを利用して投げ飛ばそうと手を伸ばす……が、あまりの重量に重心を崩すので精一杯だった。だが、それで充分。
その隙に背後へ移動した透がウォーピックを振り被り、左側面へ回り込んだアルスレーテが身を落としてタイミングを見計らう。一瞬後、銀の軌跡となった金属塊が唸りを上げてゴーレムの後頭部をぶっ叩き……極端な前傾姿勢から地を蹴り抜いたアルスレーテが、テノールの一撃と寸分違わぬ箇所、ゴーレムの下腹部へ掌を添える。
ゴーレムの後頭部がぐらりと揺れ……アルスレーテの掌から凄まじい衝撃が爆発し、触れた下腹部が轟音と共に大きく抉れた。
と、ほぼ同時、空を引き裂き飛来する矢が、揺れるゴーレムの後頭部へ襲い掛かった。真の援護だ。ゴーレムへ着弾した矢は、後頭部を削るように小さく砕き、ほんの微かに違う質感の中身を露出させる。
真の援護に数瞬遅れ、ショウコもゴーレムへ疾走しながら援護――冷気を纏ったチャクラムが、鋭い風切り音と共にゴーレムの足元へ突き刺さった。地へ刺さったチャクラムが冷気を放出し、ゴーレムの足回りをピキピキと凍らせる。
「ゴーレムの後頭部、なんか質感が違うみたいだよ! もしかして核かも!」
――と、その時。部屋中に響き渡るような大声で骸香が叫んだ。
骸香の叫びに、ハンター達の視線がゴーレムの後頭部へ集中する。小さくひび割れた後頭部の隙間からは、ゴーレムの身体とは微かに違う質感の『何か』が覗いていた。外観や、大きく抉れた下腹部とは僅かながら異なる質感だ。
ハンター達がゴーレムの後頭部を注視する中、ゴーレムは重量感のある巨拳を持ち上げる。
「僕がどうにか、ゴーレムの体勢を崩そう」
「僕も手伝いますよ」
ゴーレムの真正面に立つテノールが力強く拳を握り締め、背後へ回り込んでいた透が低く身構えて言う。
刹那、ゴーレムの豪腕が天高く持ち上げられ、凄まじい圧力を纏って叩きつけられるッ。眼前に迫る巨拳を、テノールは深く身を沈め、弧を描くように身を捌いた。巨拳が空を切り、長い黒髪がふわりと揺れる。瞬間、テノールの両手が眼前の豪腕へ触れ――叩きつけの勢いを利用し投げ飛ばそうとするも、やはり重量に負けて体勢を崩すに留まる。
そこへ、地を這うような低い軌道を描き、ウォーピックがゴーレムの右足首をぶっ叩いた。透の放った横殴りの一撃が、体勢を崩したゴーレムの右足首を微かに宙へ浮かせ、
「……そこだッ!」
浮いた右足首を真が狙撃する。宙を駆け抜ける一条の銀閃が、浮いた右足首へ深く突き刺さり――突き立った矢の衝撃と地面が凍っていたのも相まって、ゴーレムは地響きと共に片膝を折った。
「終わらせる!」
「止めよ!」
片膝を折ったゴーレム、その後頭部へ向け、ショウコとアルスレーテが一斉に跳躍する。
ショウコは疾走の勢いを最大限まで利用し、身体ごと叩きつけるような殴打を……アルスレーテは鎧徹し、突き出した掌が目標へ向けて最短距離を突っ切った。それらが、無防備となった後頭部の中身へ襲い掛かり……そして、決着した。
●依頼完了
「よかったらどう、テノールも」
アランが壁画を調査しているのを、アルスレーテはツナサンドを頬張りながら遠目にし……ふと、近くに佇む既知の仕事仲間へ声を掛けた。
「い、いただきます、アルスレーテさん……」
張っていた緊張が解け、どこか腰の引けたように受け取るテノールを、アルスレーテは不思議そうに見詰める。
「……面白いのかね、これは」
「さぁ。僕には教養のない世界だけど、解る人が見たら面白いのかもね」
二人から少し離れた箇所では、ショウコが壁一面に続く壁画を矯めつ眇めつ眺めやり……透が曖昧そうに首を捻りながら視線を巡らせた。巡らせた先では、全身で喜びを表現するようにはっちゃけているアランが居た。
「うわぁ、凄い凄い! これって見た事ない文明だよ! 早速複写して解読しよう! 数日は徹夜になるぞぉっ! うふふ、あっはははっ♪」
今にも踊りだしそうなアランを、骸香はげんなりとした顔で見やる。
「鞍馬さん。あの人、いつか好奇心が原因で死にそうっすね……」
「今まで生き残って来れたんだ、きっと大丈夫さ。今回のように、最低限の警戒はしてるようだし……多分、ね」
言葉尻に自信をなくす真に、
「そうだといいっすけどね」
そう小さく返して、骸香は壁画にへばりつくようにしているアランを眺めた。
『まぁ、それでも。あれだけ喜んでくれるのなら頑張った甲斐もあったってものか』と。
ハンター達は狂喜しているアランを眺め、多かれ少なかれそう感じるのだった。
整備された街道からやや外れた小道を二頭の馬が並んで走っていた。空は薄い雲が幾つか浮かぶだけの快晴で、道の先にはなだらかな丘陵が広がっている。今回の目的地の遺跡のある場所だ。
「ま、興味を惹かれるとつい我を失っちゃうのはわからなくもないわね……」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)は馬に揺られ、青々と広がる草地を眺めながらのんびりと言う。
「リアルブルーの劇作家曰く『のんき者は長生きする』そうですよ。アランさんは、多分この通りな気がします。個人的には人生を楽しく生きてる人は好きだし、ゴーレムをどうにかして壁画を見せてあげたいですね」
同じく馬に揺られ、テノール(ka5676)は『今は任務中だ』と意識的に冷静さを保ち、アルスレーテの呟きに応えた。
「まっ、そうかもしれないわね」
呟くと同時、アルスレーテは手綱を強く握る。二人の目に映るのは、劣化が進み半ば緑に覆われた石造りの巨大な建造物。つまりは目的地だった。
二人は馬を下り、目的地までの経路を確認しながら遺跡の内部へ入った。
「……ふッ」
鋭い呼気と共に振り下ろされた鉄扇が、唸りを上げてゴブリンの頭蓋へ襲い掛かるッ。瞬間、ゴブリンの頭蓋が大きく陥没し、爆砕したように鮮血と脳漿が飛び散った。
アルスレーテの視界に映るのは、生気なく崩れるゴブリンと、嚇怒の炎を双眸に燃やして襲い掛かって来るもう一体のゴブリンだった。数瞬の後、木を粗く削っただけの無骨な棍棒が、大上段から振り下ろされ……アルスレーテは瞬時でその軌道を見極め、円を描くような足捌きで回避する。流れる風に、ふわりと銀髪がなびいた。
「はぁッ!」
と、攻撃を外し、棍棒に振り回されるようにバランスを崩したゴブリンの側面から、テノールが弾丸の勢いで拳を打ち放った。横殴りとなった拳撃はゴブリンの脇腹へぶち当たり、肋骨をメギメギと破壊しながら臓腑まで突き抜ける。ゴブリンの身体が一瞬宙へ浮き、血反吐を吐き出しながら、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「ゴブリンは二体か。まあ、こんなものかしらね」
ゴーレムの居る部屋はもう目前。アルスレーテは全身の感覚を研ぎ澄ますも、生きている気配は何も感じられなかった。
「そうですね。じゃあ、皆を待つとしましょうか」
テノールは鎮座したゴーレムを遠目で見詰め、壁に背を預けて静かに言った。
●後発組
「それで、アランさん。ゴーレムについて、もう少し詳しく教えてくださいっす」
遺跡内部を目的の部屋へ向かって進む中、骸香(ka6223)はアランを見上げて可愛らしく小首を傾げた。
「うん? あれで全部だよ? 大きくて硬そうで人型でタフそうだったかな?」
「もう少し、何かないっすか?」
つぶらな瞳で見上げる骸香に、アランは顎に手を当てて考える。
「そうは言ってもなぁ。僕、壁画に釘付けで、それ以外はほとんど意識に入ってなかったし」
あまりにもあんまりな答えを真面目な顔で語るアランに、骸香の肩が呆れにガクッと下がる。
「ゴーレムを倒した後でゆっくり解読すればいいのに。そっちの方が落ち着いて好きなだけ見れるっすよ?」
「骸香殿の言う通りだ。それに、きみが勝手に動くと壁画が壊れる可能性がある。ゴーレムを片付けたらゆっくり見る時間が作れるから、しばらく我慢してくれないか?」
骸香へ続いて、鞍馬 真(ka5819)が嗜めるように説得する。
「うぅん、理屈では解ってるんだけどね。でも興味を惹かれると、自分の命すら意識から飛んじゃうんだ。……ごめんね」
しゅんと項垂れ、本当に申し訳なさそうに謝るアランに、真は二の句が告げなくなる。……ややあって、
「今回、ゴーレムからの護衛は、私と骸香殿がメインでする事になる。おそらく首根っこを掴んで止める事になるだろうが、覚悟しておいてくれ」
頭痛を覚えたように頭へ手をやり、真はアランへ警告した。そのまま、じっとアランを観察し……線の細く華奢な体型に、胸中で微かに安堵する。
(不幸中の幸いか。これなら取り押さえるのに、そう苦労はなさそうだ)
真は小さく頷き、もしもの時に対する覚悟を決めた。
「それにしても、凄い数だったんだな」
前を歩くショウコ=ヒナタ(ka4653)が、そこらに累々と転がったゴブリンの死体を避けながら、呆れたように首を振った。
「うん、凄い数だよね」
同じく前方を警戒する門守 透(ka4863)も、鼻を突く血生臭い死臭に顔を顰め、ショウコへ同意する。
(入口近くのゴブリンは一撃で殺してるけど……奥へ行くほど手間取り、死骸の傷が増えてる。女剣士さん達の疲れが見えるようだよ)
「周りが見えなくなるってのも、迷惑なもんだね」
ショウコも死体の傷から察し、ちらりとアランを振り返って憮然と呟く。
「アランさんのような人が居るからこそ、戦う意義もあるのです。侍なんて生き物は、壊すしか能がありませんからね」
無駄を許す余裕がこの世界に多い事に感心して……ふと己の故郷を思い出し、透は複雑な心境になる。
「それはそれとして。結局一番大事なのって、自分の命ですからね。もしもの時は捨てていきましょう」
心へ渦巻いた感情を振り切るように、透は冗談めかして笑う。
「なんだそりゃ。ま、賛成だけどさ」
ショウコも冗談めかして笑い、ハンター達は周囲を警戒しながらも先を急いだ。
●激闘開始
全員が合流し、問題の部屋の前でハンター達は様子を窺う――と、突然、部屋の中央で静かに鎮座していたゴーレムが、軋んだような音と共に巨体を持ち上げ、双眸を妖しく光らせた。次いで、軽い地響きを響かせながら威嚇するように一歩を踏み出す。
「壁画に近付かれたら厄介だね。今の内に前へ出るよ」
落ち着いた口調でテノールは言い、ゴーレムへ向けて地を蹴り抜く勢いで飛び出した。
「そうね。今の状況は都合がいいし、壁画に接近される前に畳み掛けましょう」
「うん、同感。それじゃあ行こうか」
テノールへ続き、アルスレーテと透がそれぞれ左右に展開し、ゴーレムへ向けて疾走した。
「私は少し、ゴーレムの挙動を探ってみるかな」
ショウコは呟くと同時、部屋へ駆け込み……直ぐ傍の壁画に触れて不審な物がないか調べた。それと並行して、己の行動にゴーレムが反応するか、注意深く様子を窺う。
「あ~、いいなぁいいなぁ! 僕も見たいな!」
と、それまで身体をウズウズ小刻みに震わせながらも、どうにか衝動に耐えていたアランが突如として飛び出し、
「だから駄目だと言っているだろう。きみは私達と一緒に行動するんだ」
真が素早くその首根っこを引っ掴んだ。
アランの喉から「ぐぇっ」と苦鳴が漏れるも、真は気にせず……皆の援護、かつアランを戦闘に巻き込まない位置を見極め、そちらへ歩を進める。アランの腕がジタバタと空を掻き、靴裏がズルズルと音を立てて激しく擦れた。
「鞍馬さん、うちもお手伝いするっす!」
骸香はアランの片腕を取り、引き摺るのを手伝いながら、部屋の様子やゴーレムの死角となる箇所を探そうと目まぐるしく視線を巡らせた。
そして、その数秒前……。アランが飛び出したのとほぼ同時――テノールの接敵を皮切りに、本格的な戦闘が開始された。
地を這うような低い姿勢から、テノールはゴーレムの間合いへ一気に飛び込み、硬く握った拳を鋭く跳ね上げる。拳はゴーレムの下腹部へ突き刺さり……瞬間、凄まじい衝撃がゴーレムの内部まで貫通し、下腹部が僅かに崩れ落ちた。パラパラとゴーレムの破片が宙を舞う。
それに一拍遅れ、右からアルスレーテが怪力無双を発動、ゴーレムの右腕を掴んで抑え込み……左側面へ回り込んだ透が低く身を旋回させ、横薙ぎにウォーピックを振り抜いた。
「人形如きが……調子に乗ってんじゃないわよ……!」
アルスレーテが裂帛の気合を叫び、ほんの一瞬、力が拮抗してゴーレムの動きが硬直した。そこへ遠心力を上乗せしたウォーピックが、ゴーレムの右足首へ激しくぶち当たるッ。轟音が爆発し、突き刺さった衝撃にゴーレムはほんの微かにバランスを崩した。
「うん、鎧徹しは通るね」
「この調子ならいけそうですね」
今の一撃に手応えを感じてテノールは冷静に言い……透は武器を素早く引き戻し、ゴーレムを見上げながら軽く頷いた。
そして……豪腕を天高く振り上げ、反撃の構えを見せるゴーレムの一挙動すら見逃すまいと、三人は大きく目を見開いた。
「来ないね……」
壁画に接近し、注意深くゴーレムの挙動を窺っていたショウコは首を傾げて訝んだ。
自分が壁画へ触っても無反応なのは、目前に三人の敵が居るからか……それとも壁画は関係なく、部屋へ侵入して来た者を無作為に殺すようになっているのか。
「ま、今は関係ない。あっちを手伝うか」
ショウコは思考を切り上げ、三人を手伝おうと矢のような勢いで駆け出した。
「まっ、下手に動かれるより、これはこれで有りなのかなぁ……」
場所は入口の直ぐ傍……骸香は、瞳をキラキラさせて食い入るように壁画を見詰めるアランを、本日何度目かの呆れと共に見守った。ゴーレムは部屋のほぼ中央で戦っている。ショウコに対するゴーレムの反応も考慮し、部屋の壁際……つまりは壁画の傍が最も安全かつ、仲間の援護もできると判断した為だ。
「はいはい、勝手に動き回ったりはしないでくださいっすね~。今はそれだけで我慢してくださいっす」
時折、隣の壁画を見ようと歩き出すアランの首元を掴み、骸香はゴーレムの核や弱点がないか目を凝らして観察した。
「骸香殿、アランの事をしばらく任せる。勿論、離れたりはしないから心配しなくていい」
真は淡々と言い、ゴーレムへ鋭い視線を向けた。その手には二メートルに達する巨大な黒弓が握られている。
「任されたっす、鞍馬さん♪」
どこか甘い声で返事をする骸香へ首肯し……真は冷静な眼差しでゴーレムを見据え、素早く矢をつがえた。
ゴーレムの右脚が大きく持ち上がり、眼前に迫っていたテノールへ叩きつけるような勢いで振り下ろされるッ。豪風を纏って迫り来る岩塊の一撃を、テノールは上体を沈めつつ右へ体重移動し、流れるような体捌きで空を切らせた。
次いで、ゴーレムの右脚が地面へ激突する間際、その勢いを利用して投げ飛ばそうと手を伸ばす……が、あまりの重量に重心を崩すので精一杯だった。だが、それで充分。
その隙に背後へ移動した透がウォーピックを振り被り、左側面へ回り込んだアルスレーテが身を落としてタイミングを見計らう。一瞬後、銀の軌跡となった金属塊が唸りを上げてゴーレムの後頭部をぶっ叩き……極端な前傾姿勢から地を蹴り抜いたアルスレーテが、テノールの一撃と寸分違わぬ箇所、ゴーレムの下腹部へ掌を添える。
ゴーレムの後頭部がぐらりと揺れ……アルスレーテの掌から凄まじい衝撃が爆発し、触れた下腹部が轟音と共に大きく抉れた。
と、ほぼ同時、空を引き裂き飛来する矢が、揺れるゴーレムの後頭部へ襲い掛かった。真の援護だ。ゴーレムへ着弾した矢は、後頭部を削るように小さく砕き、ほんの微かに違う質感の中身を露出させる。
真の援護に数瞬遅れ、ショウコもゴーレムへ疾走しながら援護――冷気を纏ったチャクラムが、鋭い風切り音と共にゴーレムの足元へ突き刺さった。地へ刺さったチャクラムが冷気を放出し、ゴーレムの足回りをピキピキと凍らせる。
「ゴーレムの後頭部、なんか質感が違うみたいだよ! もしかして核かも!」
――と、その時。部屋中に響き渡るような大声で骸香が叫んだ。
骸香の叫びに、ハンター達の視線がゴーレムの後頭部へ集中する。小さくひび割れた後頭部の隙間からは、ゴーレムの身体とは微かに違う質感の『何か』が覗いていた。外観や、大きく抉れた下腹部とは僅かながら異なる質感だ。
ハンター達がゴーレムの後頭部を注視する中、ゴーレムは重量感のある巨拳を持ち上げる。
「僕がどうにか、ゴーレムの体勢を崩そう」
「僕も手伝いますよ」
ゴーレムの真正面に立つテノールが力強く拳を握り締め、背後へ回り込んでいた透が低く身構えて言う。
刹那、ゴーレムの豪腕が天高く持ち上げられ、凄まじい圧力を纏って叩きつけられるッ。眼前に迫る巨拳を、テノールは深く身を沈め、弧を描くように身を捌いた。巨拳が空を切り、長い黒髪がふわりと揺れる。瞬間、テノールの両手が眼前の豪腕へ触れ――叩きつけの勢いを利用し投げ飛ばそうとするも、やはり重量に負けて体勢を崩すに留まる。
そこへ、地を這うような低い軌道を描き、ウォーピックがゴーレムの右足首をぶっ叩いた。透の放った横殴りの一撃が、体勢を崩したゴーレムの右足首を微かに宙へ浮かせ、
「……そこだッ!」
浮いた右足首を真が狙撃する。宙を駆け抜ける一条の銀閃が、浮いた右足首へ深く突き刺さり――突き立った矢の衝撃と地面が凍っていたのも相まって、ゴーレムは地響きと共に片膝を折った。
「終わらせる!」
「止めよ!」
片膝を折ったゴーレム、その後頭部へ向け、ショウコとアルスレーテが一斉に跳躍する。
ショウコは疾走の勢いを最大限まで利用し、身体ごと叩きつけるような殴打を……アルスレーテは鎧徹し、突き出した掌が目標へ向けて最短距離を突っ切った。それらが、無防備となった後頭部の中身へ襲い掛かり……そして、決着した。
●依頼完了
「よかったらどう、テノールも」
アランが壁画を調査しているのを、アルスレーテはツナサンドを頬張りながら遠目にし……ふと、近くに佇む既知の仕事仲間へ声を掛けた。
「い、いただきます、アルスレーテさん……」
張っていた緊張が解け、どこか腰の引けたように受け取るテノールを、アルスレーテは不思議そうに見詰める。
「……面白いのかね、これは」
「さぁ。僕には教養のない世界だけど、解る人が見たら面白いのかもね」
二人から少し離れた箇所では、ショウコが壁一面に続く壁画を矯めつ眇めつ眺めやり……透が曖昧そうに首を捻りながら視線を巡らせた。巡らせた先では、全身で喜びを表現するようにはっちゃけているアランが居た。
「うわぁ、凄い凄い! これって見た事ない文明だよ! 早速複写して解読しよう! 数日は徹夜になるぞぉっ! うふふ、あっはははっ♪」
今にも踊りだしそうなアランを、骸香はげんなりとした顔で見やる。
「鞍馬さん。あの人、いつか好奇心が原因で死にそうっすね……」
「今まで生き残って来れたんだ、きっと大丈夫さ。今回のように、最低限の警戒はしてるようだし……多分、ね」
言葉尻に自信をなくす真に、
「そうだといいっすけどね」
そう小さく返して、骸香は壁画にへばりつくようにしているアランを眺めた。
『まぁ、それでも。あれだけ喜んでくれるのなら頑張った甲斐もあったってものか』と。
ハンター達は狂喜しているアランを眺め、多かれ少なかれそう感じるのだった。
依頼結果
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MVP一覧
- ―絶対零度―
テノール(ka5676)
重体一覧
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サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/24 22:32:01 |
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相談卓 門守 透(ka4863) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/05/26 18:54:52 |