シュパーゲル ~そっと娯楽を添えて~

マスター:からた狐

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2016/05/24 19:00
完成日
2016/06/13 12:29

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 歪虚が訪れようと、季節は廻る。世界が不穏でも、日々の生活は続く。小さな喜びは来る。
 ゾンネンシュトラール帝国の片隅でも。温かな風やぬるむ水に人々は春の訪れを感じ、その熱は日に日に高まっていく。
「夏だね」
「夏だな」
「夏じゃの」
 鳥のさえずり、芽吹きの季節。それももうじき終わりが見える。続けて来るのは生育の夏。
 畑仕事の傍らで、御近所農家たちが集まって今年の出来栄えを話し込んでいた。
「今年の春はよかったね」
「おお。あれの出来も良かったな」
「しかし、それももうすぐ終わりじゃ……」
 名残惜しそうな目をするとある農夫だが、そこで待ってましたとばかりに別の農夫が口を開く。
「そこで、どうだね。時期を過ぎる前に、ハンター方を労い込めて呼んでみては」
「いやいや。あんな美味なるもの、とっくに食されておるじゃろ」
 苦笑する一人に対し、そうでもない、と別の誰かが軽く首を振る。
「他地域ではそもそも流通が無い場合もあるからな」
「リアルブルーや東方では、そもそも馴染みがあるかどうかとも聞くね」
「それはいかん。あれを知らずして春の訪れなし! ぜひともこの機会にあれの良さをわかってもらわねば!」
 どこまで本気か、雑談か。
 ともあれ、村の中に話は広がり、特に反対意見も出なかったので、そのままハンターオフィスに依頼が出される。


 そして、ハンターオフィスにて。オフィスの係員がハンターたちを集めていた。
「帝国のとある村にて。ホワイトアスパラガスが旬を迎えております。今年は思ったより出来もよくて豊作なので、ハンター様方にも食べていただきたいと招待状が来ております」
 春の味覚のホワイトアスパラガス。依頼に歓声を上げる者、不思議そうな顔をする者、嫌そうに顔をしかめる者。反応は実に様々だった。
 それらの表情をぐるりと見渡した後に、こほんと咳払い一つ、係員は説明を付け加える。
「旬の野菜とはいえ、手もかかる物なので高級と言えば高級。これを振る舞っていただけるとはありがたい事です。帝国料理と言えば確かに飯マズでも有名ですが、食材自体は間違いありません。不安なようでしたらハンター様たちが腕を振るってみるのもよろしいかと思います」
 新しい食べ方は珍しがられる。口に合おうがなかろうが、娯楽にはなるし、話の種になる。
「ちなみにだが……、村ではどんな料理があるのだ?」
 飛んできた質問に、係員は少し考える。
「そうですね。当方の知る限りですと、シンプルに茹でて様々なソースをかけたり、油で素揚げしたり。後はそこに定番のカツレツをそっと添えてみたり」
「カツレツが……従なのか?」
「メインはホワイトアスパラガスですから。ま、ついでにじゃが芋料理や各種ハムやウィンナー、チーズなども用意されているようですし、各種エールも揃えているそうです。苦手な人はそれとなく逃げ道はあるでしょう」
 それとなく失礼なことを言っている気もするが。帝国料理を知る者にはすんなりと受け入れられている。
「そうそう、今の季節、バラとラヴェンダーが見事だそうです。娯楽が少ない村のようですが、その分庭の手入れに力を入れているようなので、見て回るのも目の保養になるかと思います。
 後は、近くに池があるようで今だとマス釣りが楽しめるようですね」
 とはいえ、村人たちのメインはホワイトアスパラガス。折を見てはいろいろと勧められるだろう。

リプレイ本文

 春到来。
 厳しい冬を抜け、様々な命が萌える季節。
 だが、喜びは長くは続かない。巡って直に夏が来る。その前に、やはり旬の物は堪能したい。そして、それを人と分かち合いたい。
「すみません、間違いなんです。ドタキャンですが、今回の依頼はなしでお願いします」
「そうですか……。次は気を付けて下さいね」
 ハンターオフィスでわたわたと身振り手振り激しく説明しながら頭を下げている箍崎 来流未(ka2219)に、オフィスの係員は淡々と手続きを取る。
 それを横目に、他のハンターたちは帝国辺境のとある村に出発。そこで、今だけの旬の味を振る舞ってくれるのだという。

 到着したのは実に素朴な村。出来る限りの飾りつけがされており歓迎ムード満点。興味津々にハンターたちを出迎えてくれた。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ。お忙しい中、足を運んでいただきありがとうございます。本来ならこちらから赴くべきでしたが……」
 丁寧にあいさつをする鷹藤 紅々乃(ka4862)に、村長もまた丁寧に頭を下げている。
「ほーん、中々いい催しじゃなぁい? 丁度つまみが欲しかったところなのよぉ」
 その挨拶もそこそこに、鵤(ka3319)は用意されているという料理を探す。
 村の御馳走を振る舞う、というが、美味いのは食料ばかりでもなく、酒も当然用意されている。
 紫煙を吐き出すと、期待と共に鵤は煙草の火を消す。
 ではこちらに、と用意された食堂に案内される。
「ざくろと二人っきりなんて……他の子たちは大丈夫かしら」
「きっと大丈夫だよ。それより、ざくろたちの方が大丈夫かな」
 何やら心配ごとのあるコーシカ(ka0903)に微笑み、その手を取って時音 ざくろ(ka1250)は先導する。
 二人だけでのんびりと過ごせたらとやって来たのだが。田舎街ゆえか、来客を物珍しそうに見てくる目も多い。
 時間と共に、どれだけ解消されるか。ざくろも無遠慮な眼差しに苦笑するしかない。
 ともあれ、歪虚の脅威も無く、平和そのものの村。さっと歩くだけでも、家々の庭は手入れされており、初夏の花が咲き乱れている。
「到着に合わせてご用意させていただいております。どうぞ召し上がれ」
 笑顔で告げる村長に、ハンターたちも礼を述べて食のテーブルに着く。
 運ばれてくる料理……が、いささか不安の種でもある。


「ほわいとほわいとあ~すぱらが~す♪ 焼いて食べたら美味しいの~♪ とってもとっても楽しみ~♪」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)が自作の歌を披露している。
 感情を素直に出した歌詞に、村人たちの表情も明るく、自信に満ちて皿を並べる。
「さあ、どうぞ。召し上がれ」
 並べられた料理のメインはアスパラガス。肉魚その他野菜やパンなどもあるが、やはり目立つのはホワイトアスパラガス。
 残月(ka6290)は、シンプルに茹でただけの白アスパラガスを口にすると、その出来栄えに感心する。
「ん……なるほど。さすがに旬と言うだけあって、しっかりした味だ」
 勧められた以上は遠慮なし。そもそもお代わりを告げる間もなく、村人たちは次々と白アスパラガスを運んでくる。遠慮していると、テーブルが大変なことになりそうだ。
「……うん、美味しいです。新鮮な物は風味も繊細で甘いですし♪」
 紅々乃は懐かし気に笑顔を作る。リアルブルー以来とあって、味以外の想いも胸中に広がる。
「新鮮だから柔らかくて美味しいね……ざくろもお酒飲んでみたかったなぁ」
 料理を喜んでいたざくろだったが、ふと鵤に視線が止まる。
 鵤は早速とばかりに出されたエールを一杯ひっかけ上機嫌になっている。
 飲み干すさまをうらやましそうに見ていたざくろの頬を、コーシカがいきなり撫でた。
 不意の行動に赤くなったざくろを、おかしそうにコーシカが見つめる。
「ソースがついてるわよ。……そうね、私も一杯いただこうかしら。言っておくけど、私はもう二十歳なんだからね」
 外見では十代前半のコーシカ。酒を要求されて、さすがに困ったようだった村人も、歳を聞いて一応納得。それでも何気に低アルコールを勧めてくる辺りは半信半疑といった所か。
「美味しくない。最後まで残さず食べるが、追加はいらない」
 出された料理はきちんといただきつつ、斬月の評価は実に率直。勿論、口に合えばきちんと褒める。
 けれども、帝国料理のお粗末さは世間の知る所。食べる手は休めないが、辛口評価が続いている。
 鬼の彼女相手では、地方の料理は口に合わないかと、村人たちは苦笑いしているものの、裏に回ればやはり肩を落としている様子。
「よく言えばシンプル。悪く言えば適当に味付……いえ、ゴホン。良ければ私たちにも料理させていただけますか? ある程度の食材も用意してきているのですが」
「いやしかし。お客人の手を煩わせるというのは――」
 紅々乃の申し出を、最初は断っていた村側だが。珍しい料理が食べられるかも、という誘惑には勝てず。
 最終的にはどっちが招かれたのか分からないぐらいに、そわそわと台所まで案内してくれていた。


 今度は村人たちがテーブルに着き、ハンターたちが台所から皿を運んでくる。
「さあ、どうぞ。お口に合えばよいのですが……」
 紅々乃がソテーとスープを並べる。
 ソテーはアスパラとウィンナーを大蒜とオリーブ油で炒め、レモン塩と白ワインで味付け。余ったアスパラも無駄にはせずに根元や皮で茹で汁を作り、牛乳に塩で味を足し、ウィンナーとジャガイモと玉ねぎを入れてスープにしている。
 村人にとっても使い慣れた食材が多くて馴染みやすい。それでいて村では滅多に無い味付けに、感心したり褒めたりしている。
 誰が最初に手を出すか。ためらっている間にも、ディーナが歌いながら次の皿を運んでくる。
「一味とマヨネーズと醤油を持ち込んだの、ジャジャン♪ 生のアスパラガスは炭火焼きしてちょっぴり醤油を垂らして七味マヨネーズで食べると最高だって聞いたの」
 東の調味料に視線が集まる。さすがに田舎では見るどころか、聞くのも初めてなようだ。
 先にディーナが一口パクリ。
「サクサクなのアスパラガスに思えないの。大革命なのっ」
 すぐに美味しそうな笑顔を作る。その言葉で「そうなのか?」と、村人たちもそろそろと手を出し始める。
「醤油も良い。……私が醤油好きだからかもしれないが」
 斬月は全く抵抗なく、料理に手を出す。醤油は慣れ親しんだ味だ。
 他にも、塩にマヨネーズ、ジェノベーゼ、卵黄、チーズと準備したソースは様々。それらを順番に食べ比べ。
「塩だと素材の味が生きるな。他ももちろん文句無しに美味しい」
 満足げに頷く斬月。
「そうだよね。特に、マヨネーズは調味料の王さまなの。ホワイトアスパラガスにピッタリなの」 
 だからどうぞ、と、ディーナは春野菜とアスパラガスのマヨネーズ焼きを差し出す。
 ベーコンと芽キャベツ・キャベツに新玉葱。それらをニンニクとオリーブオイルで炒め、仕上にマヨネーズ。
 大蒜の強い匂いは食欲もそそる。
 酒もふんだんに振る舞われ、やがて辺りは陽気な笑い声に満ちていく。
「やっぱりおっさんがやる必要無く美味いもん揃ったなぁ。これは酒が進むねぇ」
 部屋の隅で賑わいを見ながら、鵤はエールをあおる。
 鵤が用意したのはアスパラガスの塩ゆで。さらに、それらの数本を薄切り肉で巻いた肉巻き。つまみには十分で、他の料理も自分の分はしっかり確保。それらをつまみに、それ以上に酒が次々腹へと消えている。


 食べ続ければさすがに腹も膨れる。
「まだいける。ほぉ、これはオランデーソースとな」
 勧められるままに、味を楽しむ斬月。たまに口に合わない料理も出てくるが、ならば美味しいと言わせたい、と村の方も調理に余念が無くなった。
 片隅では、すっかり料理よりもエールが主になっている鵤。陽気な村の男たちが次々と酒を運んできている。
 後は、時折思い思いに席を立っては、せっかくだからと外の景色を見に行ったりする。
「いいお庭ですね。手入れもよくされています」
 花の甘い香りの中で、村の女性たちと紅々乃は端切れ布を縫い合わせ。中にはバラやラベンダーの花弁を詰められている。拾おうとしたところで、ポプリならあると村の女性たちからも誘われ、サシェ作りを楽しんでいた。

 コーシカとざくろは皆から二人だけで庭を散策。
「のどかでいい村だね、普段はリゼリオだし、ざくろの故郷も大きな町だったから……コーシカの故郷は、どんな所だったの?」 
 綺麗に手入れされている花壇を眺めていたざくろが、ふとコーシカに尋ねる。
 何気ない問いだったが、コーシカは強張る。
「故郷……? あまりいい思い出はないわ……名前も両親も……何もかもあそこに置いてきたの」
 言葉を濁し、眼差しも遠く。深く語ろうとしない態度に、ざくろは何に踏み込もうとしたかを悟る。
 ざくろの動揺が顔にも出たようで、コーシカは安心させるような笑みを作っていた。
「ざくろは? どういうところで育ったの?  明るい話の方が……私は好きだから」
 話を変えるも、なんとなく気まずさは残る。
「凄く綺麗な花……コーシカはどんな花が好き?」
「好きな花? そうね……リンドウは好きよ? 花言葉は……『貴方の悲しみに寄り添う』よ」
 雰囲気を変えようとさらに会話を続けるざくろを、コーシカは強引に振り向かせ、ぎゅっと抱き締める。
「貴方の悲しみに私は寄り添い続けるわ」
「コーシカ……」
 咲き誇るバラは愛を示す。強い甘い香りに包まれ、ざくろが彼女を優しく抱きしめると、二人、唇を交わす。


 名残惜しくても終わりは来る。
 帰る時刻となり、ハーブティーで口直しをしたディーナは、笑顔で村人たちにお礼を告げる。
「お腹が一杯♪ 幸せも一杯ですの~♪ 美味しい物は人を笑顔にさせますの♪」
 村人たちも珍しい料理を食べられた、と満足気。

 腹を満たし、心を満たし。明日からの戦いに備え、ハンターたちは村を後にした。

依頼結果

依頼成功度成功
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重体一覧

参加者一覧


  • ルーティア・ルー(ka0903
    エルフ|12才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 戦場の舞姫
    箍崎 来流未(ka2219
    人間(蒼)|19才|女性|闘狩人
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 琴瑟調和―響―
    久我 紅々乃(ka4862
    人間(蒼)|15才|女性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

  • 残月(ka6290
    鬼|19才|女性|格闘士

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/24 02:59:20