ゲスト
(ka0000)
リゼリオ事件簿『迷子からの依頼』
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/30 09:00
- 完成日
- 2016/06/04 21:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●暗くて寒くて寂しい場所
ここはどこだろう?
気づいた時にはこの場所にいた。とても暗くて何にも見えない。それにとても寒くて、体が勝手に震えてくる。
どうしてこんなところにいるんだろう?
思い出してみる。少し前までは確かお買い物をしてたはずなのに。今日の夕食の食材を買いに市場に行って、それから……
それから、どうしたんだっけ?
ずきりと頭が痛んだ。上手く思い出せない。気づいたら体中に痛みが走り出した。
痛い。痛い。痛い。
瞳から勝手に涙が溢れだしてきた。口から思わず嗚咽の声が漏れてしまう。
暗い。痛い。寒い。怖い。
心の中はそんな言葉で満ちていく。何があったのかも分からなくて、どうしていいかも分からなくて。
「誰か……助けて……」
誰にも聞こえない懇願の言葉は闇に飲まれて消えた。
●ハンターオフィス
「暇だな」
「暇ね」
「暇ですねぇ」
ハンターオフィスに設けられている休憩所の机の1つを囲って、3人のハンターがそんな言葉を漏らしていた。
容姿はそれぞれ筋骨隆々の厳つい顔をしたオッサン、兎耳のアクセサリーをした小柄な少女、エルフ特有の尖った耳をした細身の青年だ。
「なあ、何か依頼でも受けないか?」
「だーかーらー、私達は待機組なの。有事の際の即応要員としてここにいないといけないの」
オッサン――熟練ハンターのブレアの言葉に兎耳少女は辟易といった様子で自分達がここにいる理由を告げる。
ハンターは基本的に依頼を自由に選ぶことが出来る。依頼人がハンターズソサエティに申請して、それがハンターオフィスに張り出され、ハンター達はその中から選んで自分に合った仕事を請け負うのだ。
ただ、極稀にだが即時対応が求められる依頼が舞い込む時もある。近くの街道で雑魔が出たり、街中で誘拐事件が起きたり、海で船が難破したりと時間との勝負が必要になるものがそれだ。
そう言った時の為に、ハンターオフィスには『待機組』と言われるメンバーが詰めていたりする。
因みにこれはハンターズソサエティの作った仕組みではなく、そういった依頼に対応する為にハンター達が自主的にやりだしたことだ。
そんなわけで、知り合いのハンター達の中で今日の待機組となったブレア達は朝からハンターオフィスに詰めているのだ。
「分かってるけどよ。この待機組って、滅多に出番ないじゃねーか」
「そうですね。でもその滅多にない出番がたまにあるので、疎かにするわけにもいかないんですよ」
ブレアの言う通り待機組に仕事が回ってくることは稀だが、エルフ青年が言うように稀にはあるのでそれに備えないわけにはいかないのだ。
「まっ、今日は休息日だとでも思ってのんびりするしかないわね」
「そういうことです」
そういって兎耳少女は鞄から取り出した本を読みだし、エルフ青年は耳にイヤホンを嵌めて何やら小さな機械を弄りだした。
完全に手持ち無沙汰になったブレアは1つ溜息を吐きながら、休憩所に設けられた売店に足を向ける。
「全く、待機組じゃ酒も飲めねぇし」
「……」
「こうなったらやけ食いでもして……」
「……」
「……何だ?」
売店の前で適当な食べ物を買おうとしていたブレアは、こちらを見上げてくる小さな影に気づいてそちらに視線を向けた。
影の正体はブレアの腰程度の背丈しかない幼い少女だった。年齢にすれば10歳にいくかどうかといった程度だろうか。
同業者かとも思ったが、見たところ体も鍛えている様子はなくマテリアルの気配も一般人のソレだ。少なくともハンターではなさそうだった。
「ねえ、おじさんはハンターよね?」
「ああ、その通りだ。お嬢ちゃんはどうしてこんなところにいるんだ。もしかして迷子か?」
ブレアの問いに少女は口元に指をあてて「んー」と暫し考える仕草をした上で、こくりと頷いた。
「そうか。それなら……」
「あのね、わたし迷子なの。だから探して欲しいの」
「はぁ?」
少女からの突然の頼みにブレアは首を傾げる。迷子だから探して欲しいと言われても、今彼女は目の前にいる。
どうしたものかとブレアは周囲を見渡すが、少女の保護者らしき姿は見当たらない。
「……んっ? おい、どこに行った」
そしてブレアが少女に視線を戻した時、何故かそこに少女の姿はなかった。
代わりにその場の床に一枚の布切れが落ちているのに気付く。それを拾い上げて広げてみると、どうやらそこには地図が描かれているようだった。
「こりゃあ、リゼリオの下水道の地図か?」
昔受けた依頼で同じような地図をみたことのあったブレアは、その地図がどこの道を示しているのかの検討がついた。
ただ、どうみても手書きな地図は線が曲がっていたり、縮尺がどう見てもあってない場所がいくつも見受けられる。恐らくだが、子供が作ったものなのだろう。そうだとしたらよくできている部類だ。
「で、これを元に『私』を見つけて欲しいと……つまりはかくれんぼへのお誘いか」
やれやれと思いながらブレアは溜息を吐く。無視してもいいのだが、先ほどの少女は既にこの地図の示す場所へ隠れに行ってしまっただろう。
そもそも下水道内は関係者以外立ち入り禁止だし、悪人が隠れ家にしていたり雑魔が発生する可能性もあって危険な場所だ。
「まあ、放ってはおけないよな」
顔に似合わず世話焼きなブレアは、暇潰しついでに探しに行くかと仲間のいる机へと戻る。
しかし、そこには彼を待っているはずの仲間2人の姿はなかった。
「あっ、ブレアさん。お2人なら酒場の喧嘩を止める為に行っちゃいましたよ」
「おい、それなら何で……アイツら、喧嘩の仲裁ついでにサボる気だな」
恐らく数時間後に帰ってきて、喧嘩を止めるのに時間が掛かったとか言い訳してくるんだろう。もしかしたら酒臭い息まで吐いてくるかもしれない。
「2人共俺には散々アレコレ言っておいて、やっぱ自分達も我慢できなかったんじゃねぇか」
とりあえず後で殴ると心の中で誓いつつ、ブレアはハンターオフィス内に目を配る。そして数人のハンター達に目をつけて声を掛けた。
「よう、お前ら。迷子からの依頼を受ける気はねぇか?」
●誰も見ていない
ブレアが数名のハンターを引き連れて出ていくのをカウンターにいるオフィス職員は見つめていた。
突然現れてそして消えた迷子の少女を探しに行くのだと言っていたが、彼も暇だから外に出る口実が欲しかったんだろうなとオフィス職員は思っていた。
「今日は子供なんて誰も来てませんもんね」
「そうだな。入ってきたらカウンターにいる俺達が絶対見ているはずだからな」
今日はそんな少女は見かけていない。入ってくるところも、出ていくところも見ていない。
仕事には割と真面目なブレアもサボることはあるんだなとオフィス職員達はそんな話を暫く続けていた。
そしてその数十分後、慌てた様子で駆け込んできた女性から子供が行方不明になったという話を聞くことになる。
ここはどこだろう?
気づいた時にはこの場所にいた。とても暗くて何にも見えない。それにとても寒くて、体が勝手に震えてくる。
どうしてこんなところにいるんだろう?
思い出してみる。少し前までは確かお買い物をしてたはずなのに。今日の夕食の食材を買いに市場に行って、それから……
それから、どうしたんだっけ?
ずきりと頭が痛んだ。上手く思い出せない。気づいたら体中に痛みが走り出した。
痛い。痛い。痛い。
瞳から勝手に涙が溢れだしてきた。口から思わず嗚咽の声が漏れてしまう。
暗い。痛い。寒い。怖い。
心の中はそんな言葉で満ちていく。何があったのかも分からなくて、どうしていいかも分からなくて。
「誰か……助けて……」
誰にも聞こえない懇願の言葉は闇に飲まれて消えた。
●ハンターオフィス
「暇だな」
「暇ね」
「暇ですねぇ」
ハンターオフィスに設けられている休憩所の机の1つを囲って、3人のハンターがそんな言葉を漏らしていた。
容姿はそれぞれ筋骨隆々の厳つい顔をしたオッサン、兎耳のアクセサリーをした小柄な少女、エルフ特有の尖った耳をした細身の青年だ。
「なあ、何か依頼でも受けないか?」
「だーかーらー、私達は待機組なの。有事の際の即応要員としてここにいないといけないの」
オッサン――熟練ハンターのブレアの言葉に兎耳少女は辟易といった様子で自分達がここにいる理由を告げる。
ハンターは基本的に依頼を自由に選ぶことが出来る。依頼人がハンターズソサエティに申請して、それがハンターオフィスに張り出され、ハンター達はその中から選んで自分に合った仕事を請け負うのだ。
ただ、極稀にだが即時対応が求められる依頼が舞い込む時もある。近くの街道で雑魔が出たり、街中で誘拐事件が起きたり、海で船が難破したりと時間との勝負が必要になるものがそれだ。
そう言った時の為に、ハンターオフィスには『待機組』と言われるメンバーが詰めていたりする。
因みにこれはハンターズソサエティの作った仕組みではなく、そういった依頼に対応する為にハンター達が自主的にやりだしたことだ。
そんなわけで、知り合いのハンター達の中で今日の待機組となったブレア達は朝からハンターオフィスに詰めているのだ。
「分かってるけどよ。この待機組って、滅多に出番ないじゃねーか」
「そうですね。でもその滅多にない出番がたまにあるので、疎かにするわけにもいかないんですよ」
ブレアの言う通り待機組に仕事が回ってくることは稀だが、エルフ青年が言うように稀にはあるのでそれに備えないわけにはいかないのだ。
「まっ、今日は休息日だとでも思ってのんびりするしかないわね」
「そういうことです」
そういって兎耳少女は鞄から取り出した本を読みだし、エルフ青年は耳にイヤホンを嵌めて何やら小さな機械を弄りだした。
完全に手持ち無沙汰になったブレアは1つ溜息を吐きながら、休憩所に設けられた売店に足を向ける。
「全く、待機組じゃ酒も飲めねぇし」
「……」
「こうなったらやけ食いでもして……」
「……」
「……何だ?」
売店の前で適当な食べ物を買おうとしていたブレアは、こちらを見上げてくる小さな影に気づいてそちらに視線を向けた。
影の正体はブレアの腰程度の背丈しかない幼い少女だった。年齢にすれば10歳にいくかどうかといった程度だろうか。
同業者かとも思ったが、見たところ体も鍛えている様子はなくマテリアルの気配も一般人のソレだ。少なくともハンターではなさそうだった。
「ねえ、おじさんはハンターよね?」
「ああ、その通りだ。お嬢ちゃんはどうしてこんなところにいるんだ。もしかして迷子か?」
ブレアの問いに少女は口元に指をあてて「んー」と暫し考える仕草をした上で、こくりと頷いた。
「そうか。それなら……」
「あのね、わたし迷子なの。だから探して欲しいの」
「はぁ?」
少女からの突然の頼みにブレアは首を傾げる。迷子だから探して欲しいと言われても、今彼女は目の前にいる。
どうしたものかとブレアは周囲を見渡すが、少女の保護者らしき姿は見当たらない。
「……んっ? おい、どこに行った」
そしてブレアが少女に視線を戻した時、何故かそこに少女の姿はなかった。
代わりにその場の床に一枚の布切れが落ちているのに気付く。それを拾い上げて広げてみると、どうやらそこには地図が描かれているようだった。
「こりゃあ、リゼリオの下水道の地図か?」
昔受けた依頼で同じような地図をみたことのあったブレアは、その地図がどこの道を示しているのかの検討がついた。
ただ、どうみても手書きな地図は線が曲がっていたり、縮尺がどう見てもあってない場所がいくつも見受けられる。恐らくだが、子供が作ったものなのだろう。そうだとしたらよくできている部類だ。
「で、これを元に『私』を見つけて欲しいと……つまりはかくれんぼへのお誘いか」
やれやれと思いながらブレアは溜息を吐く。無視してもいいのだが、先ほどの少女は既にこの地図の示す場所へ隠れに行ってしまっただろう。
そもそも下水道内は関係者以外立ち入り禁止だし、悪人が隠れ家にしていたり雑魔が発生する可能性もあって危険な場所だ。
「まあ、放ってはおけないよな」
顔に似合わず世話焼きなブレアは、暇潰しついでに探しに行くかと仲間のいる机へと戻る。
しかし、そこには彼を待っているはずの仲間2人の姿はなかった。
「あっ、ブレアさん。お2人なら酒場の喧嘩を止める為に行っちゃいましたよ」
「おい、それなら何で……アイツら、喧嘩の仲裁ついでにサボる気だな」
恐らく数時間後に帰ってきて、喧嘩を止めるのに時間が掛かったとか言い訳してくるんだろう。もしかしたら酒臭い息まで吐いてくるかもしれない。
「2人共俺には散々アレコレ言っておいて、やっぱ自分達も我慢できなかったんじゃねぇか」
とりあえず後で殴ると心の中で誓いつつ、ブレアはハンターオフィス内に目を配る。そして数人のハンター達に目をつけて声を掛けた。
「よう、お前ら。迷子からの依頼を受ける気はねぇか?」
●誰も見ていない
ブレアが数名のハンターを引き連れて出ていくのをカウンターにいるオフィス職員は見つめていた。
突然現れてそして消えた迷子の少女を探しに行くのだと言っていたが、彼も暇だから外に出る口実が欲しかったんだろうなとオフィス職員は思っていた。
「今日は子供なんて誰も来てませんもんね」
「そうだな。入ってきたらカウンターにいる俺達が絶対見ているはずだからな」
今日はそんな少女は見かけていない。入ってくるところも、出ていくところも見ていない。
仕事には割と真面目なブレアもサボることはあるんだなとオフィス職員達はそんな話を暫く続けていた。
そしてその数十分後、慌てた様子で駆け込んできた女性から子供が行方不明になったという話を聞くことになる。
リプレイ本文
●迷子捜し
「オッサン! ここか? ここで間違いないのか? 本当にここで合ってる? 覚え違いしてるとかない?」
海辺にある鉄格子の扉を前にして、玉兎 小夜(ka6009)は頭1つ分は高い壮年の男、ブレアを前にして飛び跳ねながら捲し立てるように尋ねる。
「お前さんはちょっと黙ってろ」
「むぎゃっ!?」
そんな小夜の頭に軽くチョップを喰らわせて撃墜したブレアは、気を取り直して鉄格子の扉に巻かれている鎖を外していく。
鉄格子の扉の先には一切の光のない真っ暗闇の1本道が続いており、湿ってよどんだ空気が何とも言えない気持ち悪さを感じさせる。
「ほんまにこんなところに女の子がおるんか?」
半信半疑といった様子でりり子(ka6114)がブレアにそう尋ねた。一見したらどう考えても子供が遊びに入るような場所ではない。
だが、子供は時にそんな考えをまるっきり無視して危険な場所へと入って行ったりするものだ。それもまた事実である。
「僕には理解できないけど……危ないし、汚いし、どうしてこんなところで遊ぼうなんて考えるんだろう」
そう口にしたのはハマル=アルカナ(ka6300)だ。その真面目さ故か子供心に芽生える好奇心やスリルを楽しむという考え方には共感できないようだ。
「それにしても、本当なんですか? これから迷子になるので見つけて欲しいと頼まれたという話は」
ハマルは自分で口にしながら意味が分からんと怪訝な表情をしている。
「嘘を吐く理由がないだろ? それにこうして証拠もあるしな」
そう言ってブラウは手にしている布切れを軽く振った。少女が残したという地図だ。
「その地図は本物みたいだしね。ハンターオフィスで借りてきた下水道の地図とも一致してるし」
バジル・フィルビー(ka4977)は借りてきた地図を懐からだして、今一度ブレアの持つ布切れの地図と比較してみた。
するとやはり縮尺や幾つかの小さな間違いはあるが、大体の道は概ね一致していることが確認できた。
「俺としちゃその少女が居たって話すら半信半疑なんだがな。何せその少女の姿を俺は見てないしよ」
ジルボ(ka1732)はそう言いながら肩を竦める。彼も今日は偶然ハンターオフィスで暇をしていた口なのだが、ブレアの言う少女の姿を見た覚えがなかったのだ。
「俺は見たよ。ただ、気づいたらいなくなってたけど……」
ジルボとは逆にアルト・ミケランジェリ(ka6162)はその少女の姿を見ていた。
とは言っても注意して見ていたわけでもなかったので、姿を消しても特に気にも留めていなかったが。
「まあどっちでもいいじゃない。子供がいるならしっかり見つけてみっちり叱って、いなければそれはそれで何も起こってなくて一安心よ」
カメリア(ka4869)はそう口にすると、頬に軽く手を当てて軽くため息を吐いた。
彼女としては子供は苦手なのでこの事件はそんなに乗り気ではないが、聞いてしまったからには見捨てられるほど非情でもなく今回の捜索に参加したのだ。
「うむ、カメリア君の言う通りだな。少女が本当にいるのかいないのか……」
Holmes(ka3813)は被る帽子のつばを軽く撫で、手にしたライトの明かりを点けた。小さなライトの明かりが下水道の闇を僅かにだが払い、ハンター達が進むべき道を示す。
「諸君、その答え合わせに向かおうじゃないか」
そう言ってドワーフの『少女』は不敵な笑みを浮かべた。
●暗い道へと誘う影
「待て」
先頭を進んでいたブレアが後続のハンター達を手で制した。目の前にあるのはほぼ直角の曲がり角。その先に何かの気配を感じたらしい。
ブレアのすぐ後ろに控えていたジルボは手にしている拳銃を曲がり角へと向ける。そしてごくりと喉を鳴らした。
その時、曲がり角から何かが現れる。ハンター達の緊張は一気に高まり、そして姿を現したモノの正体に気づいてため息を吐いた。
「またネズミか」
やれやれといった様子でジルボは構えていた拳銃を下へと降ろす。
「歪虚化している様子もないし、問題なさそうだね」
バジルも安心しつつもどこか肩透かしを食らった気分になり、苦笑しながら走り去って行くネズミをライトの光で追っていく。
「小さなネズミ如きにこんなに脅かされるなんて、なんか屈辱や」
「過剰に反応しすぎているのでは?」
はふぅと溜息を吐くりりかに、ハマルは率直な意見を口にした。
「なんやとぉ! うちがビビりやって言うんか?」
「いや、そうは――」
「いくで、ブレアさん。うちはビビッてなんかないで!」
りりかは急にやる気を出して先頭にいたブレアを追いこしてずんずんと先へと進んでいく。
ブレアは一瞬きょとんとした表情を浮かべるものの、気にすることなく先頭を譲りその後に続く。
「急にどうしたんでしょうか?」
「ふふ、それはね。君の言葉があの子の心に火を点けたのよ」
ハマルの鼻腔にふわりと僅かに甘い香りが漂ってくる。この下水道に似つかわしくない香りの元へと振り返れば、すぐ真後ろに何故だか楽し気な笑みを浮かべているカメリアの姿があった。
「僕の言葉が? 特に変なことを言った覚えはないんですけど」
「あら、無自覚なのね。将来は罪作りな男になりそうね」
「それこそまさかです。僕は罪を罰する側の人間です」
ハマルの返答に、カメリアは敢えて答えずにくすくすと笑って返す。
どこかからかわれていると感じたハマルは少しだけ目を細め、それからカメリアに背を向けて先へと進むことにした。
「こらこら、今は仕事中だよ?」
ハマルの後ろ姿を見送るカメリアの背中に声を掛けたのはHolmesだ。手にしたチョークで壁に矢印を書き込みながら、少し呆れた表情を浮かべている。
「あら、少しくらい良いじゃない。こんなじめじめした場所でのお仕事なんだもの。癒しくらい欲しいわ」
「やれやれ、緊張感が足りないな。まあ、こんな不確かな事件ともなれば気持ちは分かるけどね」
本当にいたのかも分からない少女からの頼み事だ。Holmesとしても今回の仕事の内容に関しては半信半疑だった。
しかし、どうにも彼女には引っかかるものがあった。それが探偵としての直感なのか、はたまた精霊による導きなのかは分からない。
ただこんな光も届かない居心地の悪い場所で、もし誰かが助けを求めているのかもしれないと想定するならば――
「どうにも最悪の場合を想定してしまうのは、探偵っていう職業の嫌なところだね」
Holmesは思わず吐きそうになった溜息を飲み込んだ。
さらに進むこと10分ほど。ハンター達の前に十字路が姿を現した。
「地図によるとここは右ね」
カメリアの言葉にハンター達は右の通路へと視線を向けるが、そちらは鉄格子が道を塞いでいるのが見えた。
「あれ、どうやら行き止まりになっているみたいですよ?」
「あら本当ね。おかしいわね、地図にはそんな鉄格子のこと描いてないんだけど」
バジルの言葉にカメリアはもう一度地図を見直してみるが、確かにそこには鉄格子は描かれていなかった。
「あー、恐らくここはもう再開発地区に入ってるな。あの辺は今色々作りなおしてる最中だし、地図に反映されてないことは多いんだわ」
それがまさか下水道にまで及んでいるとは思わなかったが、とブレアは頭を掻きながら困ったような表情を浮かべる。
「ねえ、オッサン。あの鉄格子ぶっ壊して進んじゃ駄目なの?」
「駄目だな。お前さんがあとで弁償するって言うなら試してみてもいいぞ?」
小夜の提案もブレアはばっさりと却下する。
「となるとー……ん?」
何か提案しようとしたところで、りり子の耳が何か物音を拾った。正確には足音、だろうか?
音がしたのは十字路の左の道だ。そちらに視線を向けてみれば、道の奥へと駆けていく人影が見えた。
ほんの一瞬しか見えなかったが、その人影は小柄でりり子と同じくらいの子供のようだった。
「あっ、ちょっと待ってぇな!」
りり子はその人影の消えた左の通路に駆け寄る。そしてライトで道の奥を照らしてみるが、既にそこには人の姿は影も形もなかった。
「……急にどうした?」
急に駆けだしたりり子の様子が気になったのか、アルトがりり子に声を掛けた。
それに対してりり子は自分が見たものをそのままはっきりとアルトに伝える。
「その子は……何か身に着けてた?」
「えっ? あー……そういや、白いリボンをしとった気がする」
アルトに問われてりり子はその影の持ち主の頭に揺れる白いリボンの端が見えたのを思い出した。
「誘われてるってことかな……」
「やっぱそういうことかな? 全く、早く捕まえて叱ってやらんとな!」
りり子は腰に手を当ててむぅっと暗い通路の先を睨む。ただアルトはどこかで感じる不自然さに言いようのない違和感を覚えていた。
何れにせよ、迷子の少女を探すには下水道を進むしかない。ハンター達はその少女が向かったらしい左側の通路を進むことにした。
●下水道での追いかけっこ
それから少女は何度もその姿を現した。とは言っても曲がり角に入るところで一瞬ワンピースの端が見えただけだったり、暗闇の先からくすくすと笑う声が聞こえたりとはっきりとした姿を現すことはなかったが。
「あっ、こらっ。ええかげん捕まらんかい!」
「本当にすばしっこい子ね。お姉さんも流石に吃驚だわ」
ご立腹な様子のりり子を眺めながらカメリアは感心した声色でそんな感想を零した。
「なあ、本当にその少女って人間なのか?」
「どういう意味だ……って、聞き返すまでもないか。だが、あの時俺の前にいたのは確かに普通の少女だった。少なくとも俺にはそう見えた」
ジルボの問いにブレアははっきりとそう答えた。
「何れにせよ答えはもうすぐ分かるだろう。そろそろ地図に印のあった場所に着く」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……クヒ、そのほうが退治出来て楽なんだがな」
アルトの言葉にジルボはそう口にした僅かに肩を竦めた。そして互いに自分の手にしている銃の握る力を強める。
ハンター達は目的地の数十メートル前から喋るのを止め、ハンドサインと視線だけで会話をしながら先へと進んでいく。
そして最後の曲がり角に到着したところで、一気にその場所へと雪崩込んだ。
「……何だこりゃ」
そう口にしたのはブレアだ。そこは少し開けた空間のようだが、そこには何故か瓦礫が山のように積み上げられている。
その中には下水道には似つかわしくない木製の看板や、壊れたテーブルや椅子もあった。
「これは……なるほど。そういうことか」
Holmesは周囲を見渡し、そして最後に視線を上に向けたところでこの瓦礫が何なのかを理解した。
本来あるべきの天井の石壁に綺麗にぽっかりと穴が開いている。恐らく、この残骸はこの上に建っていた建物の物だろう。
理由は知らないが地面が抜けて、色んなものがこの下水道に落下してきてこのありさまになったようだ。
「確かにちょっと吃驚したけどー……えっ、これだけ?」
小夜はかくりと首を傾げる。と、そこでカツンと音が鳴った。上の方から転がり落ちてきた石でもあったのか……しかし、それはこの瓦礫の山より少し奥のほうから聞こえた。
「待って、何か聞こえる……女の子の声? あっ、そこにおるんやな!」
やっと追い詰めたぞとりり子は瓦礫の山を乗り越えて、その声のした方へと向かう。
ハンター達もそれに続き、声がしたという暗がりへとライトの明かりを集めた。
「あら、みーつけた……って、大変!」
その明かりの中でキラリと輝く金色の髪。それを見つけたカメリアはそう口にしたところで、その髪の持ち主が地面に倒れていることに気づいた。
慌てて駆け寄って抱き起すと、少女の服や髪は土埃で汚れて体のあちこちに擦り傷や打撲の痕があるのを見つける。
「これは不味い。すぐに手当てをしましょう」
バジルは淡い光を灯した手を少女の体にかざし、癒しの力をゆっくりと送り込んでいく。
「人を呼んできたほうがいい?」
「いや、手当てを済ませて一緒に出るほうが早いだろう」
ハマルの言葉にブレアはそう返した。となると手持ち無沙汰になったなとハマルは視線を周囲に巡らせる。
そして、丁度自分達が来た道の方へ振り返ったところで小さな少女と目が合った。水色のワンピースを着た、ショートカットの幼い少女だ。
ハマルは素早く介抱されている少女へと視線を向ける。その少女は髪は少し短いが肩程まではあり、服装も土埃で汚れているが赤い色をしていることが分かる。
そこで改めてハマルが視線を戻すと、そこに今先ほど目を合わせた少女の姿はなかった。目元を一度もみほぐし、もう一度見てみるがその視界に変化はない。
「どうしたハマル君。そんな幽霊をみたような顔をして」
そんなハマルの様子を不思議がりHolmesが声を掛ける。
その幽霊を見たかもしれない、とはハマルは口にしなかった。その胸中の感情を隠す為にただ口を噤み難しい表情を浮かべる。
その後、下水道を脱出したハンター達は発見した少女を病院に運び、そしてその少女が行方不明としてハンターオフィスに届けられていたことを知る。
少女の両親は昨日から姿が見えない少女を探し回り、それでも見つからなかった為にハンターオフィスを頼ったのだという。
「つまり、あの子はブレアがあった少女じゃなかったってことか?」
打ち上げと称した食事の最中、ジルボはブレアにそう聞いた。そしてブレアの答えは「YES」だった。
「服装も違ったし、別の子なのは確か」
ハンターオフィスで少女を見かけていたアルトもブレアと同じ答えを返す。そうなると本当にあの少女は何者なのだろうか?
「理解不能だ」
そう口にしたハマルの言葉に他のハンター達も同意した。
「オッサン! そんなことより飲めよ! てかさ、私の話ちゃんと聞いてる? あの時もオッサンったら強引に……」
そこで完全に絡む相手としてブレアをターゲットに決めた小夜がぐりぐりとジョッキを押し付けてくる。
「そうねぇ。気になることも多いけど、今はあの少女を助けられたことをお祝いしましょう」
細かい事を気にしちゃ駄目よ、とカメリアは琥珀色の液体の入ったグラスを揺らしながら微笑んで見せる。
「そうやな。そうや、あの子には今度お見舞いにパイを持って行ってやろ。うちの知り合いのおねーさん一押しで、ほんまに美味いんや!」
徐々に花咲きだす歓談の場。良く分からない不思議な体験をしたことも忘れ、今この時を楽しむべくハンター達は語らい合う。
「ボクの勘も外れたか……でも、今回は悔しくはないな」
Holmesもその中で酒に口を付けながら、ふと窓の外へと視線をやる。
「Catch Me If You Can……まだ迷っているなら、そう言っておくれよ」
一瞬見えたかもしれないその人影に、Holmesはそう声を掛けた。
「オッサン! ここか? ここで間違いないのか? 本当にここで合ってる? 覚え違いしてるとかない?」
海辺にある鉄格子の扉を前にして、玉兎 小夜(ka6009)は頭1つ分は高い壮年の男、ブレアを前にして飛び跳ねながら捲し立てるように尋ねる。
「お前さんはちょっと黙ってろ」
「むぎゃっ!?」
そんな小夜の頭に軽くチョップを喰らわせて撃墜したブレアは、気を取り直して鉄格子の扉に巻かれている鎖を外していく。
鉄格子の扉の先には一切の光のない真っ暗闇の1本道が続いており、湿ってよどんだ空気が何とも言えない気持ち悪さを感じさせる。
「ほんまにこんなところに女の子がおるんか?」
半信半疑といった様子でりり子(ka6114)がブレアにそう尋ねた。一見したらどう考えても子供が遊びに入るような場所ではない。
だが、子供は時にそんな考えをまるっきり無視して危険な場所へと入って行ったりするものだ。それもまた事実である。
「僕には理解できないけど……危ないし、汚いし、どうしてこんなところで遊ぼうなんて考えるんだろう」
そう口にしたのはハマル=アルカナ(ka6300)だ。その真面目さ故か子供心に芽生える好奇心やスリルを楽しむという考え方には共感できないようだ。
「それにしても、本当なんですか? これから迷子になるので見つけて欲しいと頼まれたという話は」
ハマルは自分で口にしながら意味が分からんと怪訝な表情をしている。
「嘘を吐く理由がないだろ? それにこうして証拠もあるしな」
そう言ってブラウは手にしている布切れを軽く振った。少女が残したという地図だ。
「その地図は本物みたいだしね。ハンターオフィスで借りてきた下水道の地図とも一致してるし」
バジル・フィルビー(ka4977)は借りてきた地図を懐からだして、今一度ブレアの持つ布切れの地図と比較してみた。
するとやはり縮尺や幾つかの小さな間違いはあるが、大体の道は概ね一致していることが確認できた。
「俺としちゃその少女が居たって話すら半信半疑なんだがな。何せその少女の姿を俺は見てないしよ」
ジルボ(ka1732)はそう言いながら肩を竦める。彼も今日は偶然ハンターオフィスで暇をしていた口なのだが、ブレアの言う少女の姿を見た覚えがなかったのだ。
「俺は見たよ。ただ、気づいたらいなくなってたけど……」
ジルボとは逆にアルト・ミケランジェリ(ka6162)はその少女の姿を見ていた。
とは言っても注意して見ていたわけでもなかったので、姿を消しても特に気にも留めていなかったが。
「まあどっちでもいいじゃない。子供がいるならしっかり見つけてみっちり叱って、いなければそれはそれで何も起こってなくて一安心よ」
カメリア(ka4869)はそう口にすると、頬に軽く手を当てて軽くため息を吐いた。
彼女としては子供は苦手なのでこの事件はそんなに乗り気ではないが、聞いてしまったからには見捨てられるほど非情でもなく今回の捜索に参加したのだ。
「うむ、カメリア君の言う通りだな。少女が本当にいるのかいないのか……」
Holmes(ka3813)は被る帽子のつばを軽く撫で、手にしたライトの明かりを点けた。小さなライトの明かりが下水道の闇を僅かにだが払い、ハンター達が進むべき道を示す。
「諸君、その答え合わせに向かおうじゃないか」
そう言ってドワーフの『少女』は不敵な笑みを浮かべた。
●暗い道へと誘う影
「待て」
先頭を進んでいたブレアが後続のハンター達を手で制した。目の前にあるのはほぼ直角の曲がり角。その先に何かの気配を感じたらしい。
ブレアのすぐ後ろに控えていたジルボは手にしている拳銃を曲がり角へと向ける。そしてごくりと喉を鳴らした。
その時、曲がり角から何かが現れる。ハンター達の緊張は一気に高まり、そして姿を現したモノの正体に気づいてため息を吐いた。
「またネズミか」
やれやれといった様子でジルボは構えていた拳銃を下へと降ろす。
「歪虚化している様子もないし、問題なさそうだね」
バジルも安心しつつもどこか肩透かしを食らった気分になり、苦笑しながら走り去って行くネズミをライトの光で追っていく。
「小さなネズミ如きにこんなに脅かされるなんて、なんか屈辱や」
「過剰に反応しすぎているのでは?」
はふぅと溜息を吐くりりかに、ハマルは率直な意見を口にした。
「なんやとぉ! うちがビビりやって言うんか?」
「いや、そうは――」
「いくで、ブレアさん。うちはビビッてなんかないで!」
りりかは急にやる気を出して先頭にいたブレアを追いこしてずんずんと先へと進んでいく。
ブレアは一瞬きょとんとした表情を浮かべるものの、気にすることなく先頭を譲りその後に続く。
「急にどうしたんでしょうか?」
「ふふ、それはね。君の言葉があの子の心に火を点けたのよ」
ハマルの鼻腔にふわりと僅かに甘い香りが漂ってくる。この下水道に似つかわしくない香りの元へと振り返れば、すぐ真後ろに何故だか楽し気な笑みを浮かべているカメリアの姿があった。
「僕の言葉が? 特に変なことを言った覚えはないんですけど」
「あら、無自覚なのね。将来は罪作りな男になりそうね」
「それこそまさかです。僕は罪を罰する側の人間です」
ハマルの返答に、カメリアは敢えて答えずにくすくすと笑って返す。
どこかからかわれていると感じたハマルは少しだけ目を細め、それからカメリアに背を向けて先へと進むことにした。
「こらこら、今は仕事中だよ?」
ハマルの後ろ姿を見送るカメリアの背中に声を掛けたのはHolmesだ。手にしたチョークで壁に矢印を書き込みながら、少し呆れた表情を浮かべている。
「あら、少しくらい良いじゃない。こんなじめじめした場所でのお仕事なんだもの。癒しくらい欲しいわ」
「やれやれ、緊張感が足りないな。まあ、こんな不確かな事件ともなれば気持ちは分かるけどね」
本当にいたのかも分からない少女からの頼み事だ。Holmesとしても今回の仕事の内容に関しては半信半疑だった。
しかし、どうにも彼女には引っかかるものがあった。それが探偵としての直感なのか、はたまた精霊による導きなのかは分からない。
ただこんな光も届かない居心地の悪い場所で、もし誰かが助けを求めているのかもしれないと想定するならば――
「どうにも最悪の場合を想定してしまうのは、探偵っていう職業の嫌なところだね」
Holmesは思わず吐きそうになった溜息を飲み込んだ。
さらに進むこと10分ほど。ハンター達の前に十字路が姿を現した。
「地図によるとここは右ね」
カメリアの言葉にハンター達は右の通路へと視線を向けるが、そちらは鉄格子が道を塞いでいるのが見えた。
「あれ、どうやら行き止まりになっているみたいですよ?」
「あら本当ね。おかしいわね、地図にはそんな鉄格子のこと描いてないんだけど」
バジルの言葉にカメリアはもう一度地図を見直してみるが、確かにそこには鉄格子は描かれていなかった。
「あー、恐らくここはもう再開発地区に入ってるな。あの辺は今色々作りなおしてる最中だし、地図に反映されてないことは多いんだわ」
それがまさか下水道にまで及んでいるとは思わなかったが、とブレアは頭を掻きながら困ったような表情を浮かべる。
「ねえ、オッサン。あの鉄格子ぶっ壊して進んじゃ駄目なの?」
「駄目だな。お前さんがあとで弁償するって言うなら試してみてもいいぞ?」
小夜の提案もブレアはばっさりと却下する。
「となるとー……ん?」
何か提案しようとしたところで、りり子の耳が何か物音を拾った。正確には足音、だろうか?
音がしたのは十字路の左の道だ。そちらに視線を向けてみれば、道の奥へと駆けていく人影が見えた。
ほんの一瞬しか見えなかったが、その人影は小柄でりり子と同じくらいの子供のようだった。
「あっ、ちょっと待ってぇな!」
りり子はその人影の消えた左の通路に駆け寄る。そしてライトで道の奥を照らしてみるが、既にそこには人の姿は影も形もなかった。
「……急にどうした?」
急に駆けだしたりり子の様子が気になったのか、アルトがりり子に声を掛けた。
それに対してりり子は自分が見たものをそのままはっきりとアルトに伝える。
「その子は……何か身に着けてた?」
「えっ? あー……そういや、白いリボンをしとった気がする」
アルトに問われてりり子はその影の持ち主の頭に揺れる白いリボンの端が見えたのを思い出した。
「誘われてるってことかな……」
「やっぱそういうことかな? 全く、早く捕まえて叱ってやらんとな!」
りり子は腰に手を当ててむぅっと暗い通路の先を睨む。ただアルトはどこかで感じる不自然さに言いようのない違和感を覚えていた。
何れにせよ、迷子の少女を探すには下水道を進むしかない。ハンター達はその少女が向かったらしい左側の通路を進むことにした。
●下水道での追いかけっこ
それから少女は何度もその姿を現した。とは言っても曲がり角に入るところで一瞬ワンピースの端が見えただけだったり、暗闇の先からくすくすと笑う声が聞こえたりとはっきりとした姿を現すことはなかったが。
「あっ、こらっ。ええかげん捕まらんかい!」
「本当にすばしっこい子ね。お姉さんも流石に吃驚だわ」
ご立腹な様子のりり子を眺めながらカメリアは感心した声色でそんな感想を零した。
「なあ、本当にその少女って人間なのか?」
「どういう意味だ……って、聞き返すまでもないか。だが、あの時俺の前にいたのは確かに普通の少女だった。少なくとも俺にはそう見えた」
ジルボの問いにブレアははっきりとそう答えた。
「何れにせよ答えはもうすぐ分かるだろう。そろそろ地図に印のあった場所に着く」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……クヒ、そのほうが退治出来て楽なんだがな」
アルトの言葉にジルボはそう口にした僅かに肩を竦めた。そして互いに自分の手にしている銃の握る力を強める。
ハンター達は目的地の数十メートル前から喋るのを止め、ハンドサインと視線だけで会話をしながら先へと進んでいく。
そして最後の曲がり角に到着したところで、一気にその場所へと雪崩込んだ。
「……何だこりゃ」
そう口にしたのはブレアだ。そこは少し開けた空間のようだが、そこには何故か瓦礫が山のように積み上げられている。
その中には下水道には似つかわしくない木製の看板や、壊れたテーブルや椅子もあった。
「これは……なるほど。そういうことか」
Holmesは周囲を見渡し、そして最後に視線を上に向けたところでこの瓦礫が何なのかを理解した。
本来あるべきの天井の石壁に綺麗にぽっかりと穴が開いている。恐らく、この残骸はこの上に建っていた建物の物だろう。
理由は知らないが地面が抜けて、色んなものがこの下水道に落下してきてこのありさまになったようだ。
「確かにちょっと吃驚したけどー……えっ、これだけ?」
小夜はかくりと首を傾げる。と、そこでカツンと音が鳴った。上の方から転がり落ちてきた石でもあったのか……しかし、それはこの瓦礫の山より少し奥のほうから聞こえた。
「待って、何か聞こえる……女の子の声? あっ、そこにおるんやな!」
やっと追い詰めたぞとりり子は瓦礫の山を乗り越えて、その声のした方へと向かう。
ハンター達もそれに続き、声がしたという暗がりへとライトの明かりを集めた。
「あら、みーつけた……って、大変!」
その明かりの中でキラリと輝く金色の髪。それを見つけたカメリアはそう口にしたところで、その髪の持ち主が地面に倒れていることに気づいた。
慌てて駆け寄って抱き起すと、少女の服や髪は土埃で汚れて体のあちこちに擦り傷や打撲の痕があるのを見つける。
「これは不味い。すぐに手当てをしましょう」
バジルは淡い光を灯した手を少女の体にかざし、癒しの力をゆっくりと送り込んでいく。
「人を呼んできたほうがいい?」
「いや、手当てを済ませて一緒に出るほうが早いだろう」
ハマルの言葉にブレアはそう返した。となると手持ち無沙汰になったなとハマルは視線を周囲に巡らせる。
そして、丁度自分達が来た道の方へ振り返ったところで小さな少女と目が合った。水色のワンピースを着た、ショートカットの幼い少女だ。
ハマルは素早く介抱されている少女へと視線を向ける。その少女は髪は少し短いが肩程まではあり、服装も土埃で汚れているが赤い色をしていることが分かる。
そこで改めてハマルが視線を戻すと、そこに今先ほど目を合わせた少女の姿はなかった。目元を一度もみほぐし、もう一度見てみるがその視界に変化はない。
「どうしたハマル君。そんな幽霊をみたような顔をして」
そんなハマルの様子を不思議がりHolmesが声を掛ける。
その幽霊を見たかもしれない、とはハマルは口にしなかった。その胸中の感情を隠す為にただ口を噤み難しい表情を浮かべる。
その後、下水道を脱出したハンター達は発見した少女を病院に運び、そしてその少女が行方不明としてハンターオフィスに届けられていたことを知る。
少女の両親は昨日から姿が見えない少女を探し回り、それでも見つからなかった為にハンターオフィスを頼ったのだという。
「つまり、あの子はブレアがあった少女じゃなかったってことか?」
打ち上げと称した食事の最中、ジルボはブレアにそう聞いた。そしてブレアの答えは「YES」だった。
「服装も違ったし、別の子なのは確か」
ハンターオフィスで少女を見かけていたアルトもブレアと同じ答えを返す。そうなると本当にあの少女は何者なのだろうか?
「理解不能だ」
そう口にしたハマルの言葉に他のハンター達も同意した。
「オッサン! そんなことより飲めよ! てかさ、私の話ちゃんと聞いてる? あの時もオッサンったら強引に……」
そこで完全に絡む相手としてブレアをターゲットに決めた小夜がぐりぐりとジョッキを押し付けてくる。
「そうねぇ。気になることも多いけど、今はあの少女を助けられたことをお祝いしましょう」
細かい事を気にしちゃ駄目よ、とカメリアは琥珀色の液体の入ったグラスを揺らしながら微笑んで見せる。
「そうやな。そうや、あの子には今度お見舞いにパイを持って行ってやろ。うちの知り合いのおねーさん一押しで、ほんまに美味いんや!」
徐々に花咲きだす歓談の場。良く分からない不思議な体験をしたことも忘れ、今この時を楽しむべくハンター達は語らい合う。
「ボクの勘も外れたか……でも、今回は悔しくはないな」
Holmesもその中で酒に口を付けながら、ふと窓の外へと視線をやる。
「Catch Me If You Can……まだ迷っているなら、そう言っておくれよ」
一瞬見えたかもしれないその人影に、Holmesはそう声を掛けた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/26 06:45:52 |
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作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/05/30 07:30:21 |