ガンズ&ゴブリンズ!

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/05 07:30
完成日
2014/09/10 21:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 襲撃は、石と棍棒によって行われた。
 人目を避ける為、海岸沿いの街道から遠く離れた内陸部を踏破せんと試みたもぐりの武器商人ふたりは、
 主立った難所を既に切り抜けたという安心感と、酔いと、互いの取り分に関する何度目かの口論のせいで、
 背の高い草と夕闇に紛れて忍び寄るゴブリンたちの気配に気づくことが出来なかった。
 今ではふたり共々、泥と血だまりの中にうつ伏せて死に、
 傍らでは3匹の痩せ衰えたゴブリンが、
 生前のふたりが起こした小さな焚火を取り囲んで、所在なさげにしている。

 3匹は、焚火から少し離れた場所に停まっていた武器商人の馬車から、
 積荷が次々と放り出される様を眺める。
 投げ出された積荷のひとつが崩れ、中から干し肉の束がこぼれ落ちると、
 馬車へ乗り込んでいた5匹の別のゴブリンたちが途端に飛び出し、わっと群がる。
 5匹は相争って肉を取り、黄色い歯を閃かせて、石のように硬いそれに齧りつく。

 彼らは所謂『はぐれ』と呼ばれるゴブリンだった。
 死滅、追放、遭難といった理由で、元居た群れを離れて単身流浪の身となった者たち。
 そうしたはぐれ者同士が放浪の中で少しずつ寄り集まって、即席のハンティング・パーティを成していた。
 焚火を囲む3匹は新参者で、獲得した食料に真っ先にありつく権利は先輩の5匹にある。
 恐らく、新参には肉の欠片ひとつ回ってこないだろう。
 幸運に恵まれれば、襲撃時は馬車の傍に繋がれていて、ゴブリンの気配に怯えて綱を切り逃げ出した馬2頭を後で見つけられるかも知れない。
 だが、先輩5匹は目前に残った荷馬車を優先した。
 3匹は勝手に離れて馬を追っても良かったはずだが、
 過酷な日々の長く続いたことによる疲労が、彼らから思考力を奪っていた。

 3匹のうち、片耳の欠けたゴブリンがふと、足元に転がっていた『長い棒のようなもの』を拾い上げる。
 襲撃の際、犠牲者のひとりが咄嗟に掴もうとしていたもの。
 木と鉄で出来た棒。コレハ何ダ?
 片耳のゴブリンは、棒を仔細に調べ始める。
 他の2匹は彼に気を留めず、恨みがましくも先輩たちの食事を見つめている。
 『片耳』は何度も棒を取り上げ、振り回し、やがて棒の片一方に、丁度いい握り手を見つける。
 そこには指を通すための金属の輪がある。小さな爪がある。

(コレハ棍棒?)
(コレハ楽器?)
(コレハ何ダ?)

 突然『片耳』の脳裏に、今は遠い故郷を追われたときの記憶が鮮やかに蘇る。
 山狩りから逃れる途中、怪我を負って動けなくなった仲間のゴブリンが、遂に人間たちに仕留められる様子を草叢から目撃した記憶。
 あの時、人間たちは『これ』と同じものを持っていた。
 人間のひとりが『これ』を掲げて何かをすると、何かが弾け飛ぶ凄まじい音と共に、離れた場所に座っていた仲間がばたり、と倒れた。
 それから人間たちは、悠々と歩いて仲間に近づいていく。死んだ仲間に――

(コレハ、武器ダ)

 飢餓と疲労による無気力の靄を掃って、凶暴な意思が『片耳』の心中に湧き上がる。

(思イ出セ。コレノ使イ方ヲ)
(奪イ取レ。ヤツラノ餌ヲ)
(俺ハコレヲ使ッテ、俺ニ必要ナモノヲ手ニ入レル)

 1発の銃弾が、干し肉を咀嚼する5匹のうち1匹を背後から貫いた。
 響き渡った銃声にパニックを起こしたゴブリンたちは、四つん這いで草叢へ逃げ込んでいく。
 ただ2匹、肉を咥えたまま撃ち殺されたゴブリンと、それに向けて銃を構えた『片耳』を残して。

 『片耳』は笑顔を浮かべている。それから立て続けに4発、猟銃を空へ向けて高々と撃ち放つ。
 弾が切れると、彼は馬車から放り出された数個の木箱に見当をつけた。同ジモノガマダアルハズ。
 悠然と馬車へ歩み寄る『片耳』の周囲に、逃げ散っていたゴブリンたちがおずおずと戻ってくる。
 彼は仲間を見回すと牙を剥いて笑みを見せ、群れの頭目がたった今代変わりしたことを教える。

 こうして、銃は必要な者たちの手に渡った。


「昨日、半島東部の内陸に位置する農村『ピオンボ村』より、
 銃で武装したゴブリンに占拠された農場を奪還して欲しい、との依頼がありました。

 一昨日、村人のひとりが、村から2キロほどの場所に所有していた農場を弟夫婦に任せて外出、
 夜になって帰宅する途中、農場のある方向から何発もの銃声を聴きつけました。
 彼が慌てて農場へ向かったところ、母屋の前で血を流して倒れている弟嫁の姿と
 母屋の屋根に登って猟銃らしきものを掲げた、1匹のゴブリンと思しき影が見えた、とのこと。
 農場から2、30メートルの場所まで近づくと、相手も村人に気づいて発砲、これは命中しませんでしたが
 次いで母屋の中からやはりゴブリンらしい影が複数飛び出し、逃げる村人へ向けて散発的な銃撃を加えました。
 内1匹は農場を出てしばらく村人を追いかけながら、手にした拳銃を5、6発発砲した後
 弾が切れたのか、あるいは彼を追い払うだけで良しとしたのか、銃撃を止めて引き返したそうです。

 村人はどうにか無傷でピオンボ村まで戻り、村の住人全員による協議の結果、今回の依頼に至りました。

 農場を占拠しているゴブリンの総数、及び彼らが装備している銃器の詳細は不明。
 農場に残っていた弟夫婦の消息も不明ですが、恐らく共に農場内にて死亡したものと思われます。
 ピオンボ村は農場の奪還と併せて、ゴブリンの全駆除と夫婦の遺体の確認・回収を希望しています。

 この依頼を受けられるハンターの方は、所定の書類にサインの後、
 各々必要な準備を終え次第現地へ向かって下さい」

リプレイ本文


「やれやれ。やーっと終わった」
 日暮れ前。手についた泥をジャケットの裾で拭うと、フラン・レンナルツ(ka0170)は魔導短伝話を取り上げて
「奈月? ボクだよ。こっちはオッケー」
『カーディナーさんはまだそっちに?』
 フランとロクス・カーディナー(ka0162)はいち早く北側の雑木林に潜伏し、
 敵が脱出した際に備えて罠を仕掛けていた。
「や、さっきシャリファと合流しに行ったよ」
『了解、なら彼の連絡待ちで。オーバー』

 シャリファ・アスナン(ka2938)は、農場東側に広がる背の高い麦畑に隠れていた。
(春小麦か。これなら収穫は夏の終わり頃からだけど……早いとこ収穫しないと、麦が倒れちゃうな)
 依頼の最優先目標は『農場の奪還』。村人たちは実りきった作物の収穫を最優先にしたいのだろう。
 じっと伏せて様子をうかがっているうち、ロクスが到着する。
 シャリファはそっと手を伸ばし、母屋の2階を指差した。
「あそこに1匹。長い銃……見張りだ。こっちを向いてる、でも気づかれてない」

「ええ、3人とも問題ありません……」
 南側、農場へ続く道の途中。
 木陰から米本 剛(ka0320)、鈴胆 奈月(ka2802)、リリティア・オルベール(ka3054)の3人が農場を見張る。
「こちらでははっきりとは見えませんでしたが、確かに2階に1匹いるようですね。他は見えません。
 それと例のご夫婦の、奥さんの遺体を確認しました。母屋の前です」
 剛は伝話を通じて、東側のロクスと情報をやり取りする。
「はい……はい、そのように。では失礼します」
「どうでした?」
 剛が通信を切り上げると、脇に控えていたリリティアが心配げに尋ねる。
「確かに見張りがいるようですが、あちらは今のところ問題ないと」
「レンナルツさんも配置についた。そろそろ始めよう」
 奈月がそう言って、遠射用のコンポジットボウを準備する。
 剛が頷く。リリティアも頷くが、唾を呑む大きな喉音が響く。剛が微笑んで
「大丈夫、始まってしまえば意外と呆気ないものですよ……
 失われた命は戻りませんが、私たちが力を尽くすことで補える『何か』を信じましょう」
 リリティアがもう一度大きく頷く。各々、武器に手をかけ――


 奈月の放った牽制の矢が母屋2階の窓を割ると、
 見張りのゴブリンが割れた窓へ駆け寄って、南側へ1発ぶっ放した。
 響き渡る銃声に、母屋1階の西側玄関からすぐさま4匹のゴブリンが飛び出す。
 1匹が猟銃、他3匹はリボルバーで武装している。

「ここから分かれますよ!」
 3人は農場へ続く道を駆け上がりながら、途中で3手に分かれた。
 散開の直前、黒い鎧をまとった剛の腕がさっと振り上げられる。
 リリティアは右手に走りながら、自分がいつの間にか薄い光の渦をまとっていることに気づく。
(これが、米本さんの魔法)
 と、立て続けの銃声に思わず振り返る。
 母屋のゴブリンたちが、真っ直ぐに突っ込んでいた剛へ向けて一斉射撃を始めたのだ。
「米本さん、大丈夫!?」
 1発が剛の兜にかん、と跳ね返される。剛は前のめりに転げて

「ぐぁぁぁ……こ、これ程とはっ!?」

「ぶっ」
 普段無表情の奈月も、これには思わず頬をほころばせた。
(演技力は、ちょっといまいち)
 思いつつ、左手に見えた1本の木――道の途上にある、最後のまともな遮蔽――
 の陰へ滑り込むと、伝話でフランを呼び出す。


「そっちに向いてるのが5体ね……こっちはまだだ。
 西側は奈月が抑えられそうなんだね? じゃ、ボクも上がるよ」
 小川で待ち伏せしていたフランだったが、敵の来る気配がない。
 伏射の構えを解いて立ち上がり、浅く狭い川を軽々越えて家畜小屋へ。

 壁板の隙間から小屋の中を覗く。
 母屋からの銃声に興奮した馬1頭と豚たちが鳴き声を上げている。
 床に溜まったままの糞が臭った。ゴブリンたちは家畜の世話なんかしていないのだろう。
 ゴブリンの気配――なし。

 母屋からの射撃を警戒しつつ、家畜小屋の角を回って中庭へ。
 小さなポンプ式井戸の傍らに、男性のものと思しき遺体がひとつ。
 周囲は豚の残骸と乾いた血で汚れている。鼻を突く死臭。蠅の群れが渦を巻く。
(夏のシベリアよりはマシ)
 蠅を片手のナイフで払いながら慎重に辺りをうかがっていると、倉庫の中からロクスがそっと顔を出した。
 フランに気づいて、片手でハンドサインを出す。

 倉庫は敵及び不審物なし。
 シャリファが母屋の中で新しく1匹見つけた。彼女は屋内に隠れて接近のチャンスをうかがってる。

 フランは首を傾け、中庭の遺体を示す。それを見たロクスは顔をしかめて
(依頼の第3目標達成。後はゴブリンどもを皆殺しにするだけだな)
 彼が皮肉めいたハンドサインを飛ばすや否や、母屋西側の裏口から物音が。
 ふたりは目配せして、そっと裏口に忍び寄る。


 母屋正面のゴブリンたちはひとしきり無茶撃ちすると、弾切れの銃を捨てて新しい拳銃に持ち替えた。
 剛は道の真ん中に倒れて動かない。拳銃を持ったゴブリン3匹が、じりじりと前に出てくる。
 突然現れた黒ずくめの大男に怯んではいたが、銃を手にした自信が不安に勝ったようだ。剛の演技も報われたというもの。
 奈月とリリティアはそれぞれ手近な遮蔽に隠れたまま、
 敵を充分引きつけて、タイミングと距離をじっと測って――

 母屋の裏側から銃声。別働班の襲撃。
 剛は即座に起き上がると愛刀『烏枢沙摩』の柄に手をかけ、真っ向切り込んでいく。
 呼応して奈月とリリティアも飛び出すが、敵の狙いの大半は依然剛に集中している。
 剛が蹴り上げる砂埃、ゴブリンたちの発砲による硝煙。農場の前にもうもうと煙が立つ。

 左へ走っていた奈月の動きを視界の端で捉えたか、2階の窓からゴブリンの猟銃が彼を狙った。
 殺気を感じ取った奈月は、振り向きざまに矢を放つ。命中――悲鳴と共に、窓から銃が引っ込んだ。
 奈月はそのまま弓を捨ててLEDライトを引っ掴むと、僅かな地面の窪みへ身を伏せる。
 剛は――

「……八百万の神々よ」

 頑丈さが売りとはいえ、銃弾を立て続けに受け止めるのは堪えた。
 反撃する。剛は低く呟くと、刀の柄を握る手に力を込めた。

「追い縋る聖なる光を!」

 走りながらも、渾身の居合抜き。振り抜かれた刀身が青く閃く。
 放たれた魔法が、正面のゴブリンを1匹吹き飛ばした。

 剛とタイミングを合わせて、右手からリリティアが襲いかかる。
 抜き身の日本刀『黒松』の切っ先で1匹に狙いをつけ、跳躍する。
 リリティアの瞳が紅く煌めく。宙を舞う彼女の背には、影のような黒い翼。
 ゴブリンが拳銃を掲げて撃つ。頬をかすめただけだ――
 剛の傍に、砂にまみれた女性の遺体。

(容赦の2文字は、なし)

 リリティアの右足がゴブリンの肩口を踏みつけた。
 そのままゴブリンを仰向けに押し倒すと、構えていた刀の切っ先をずぶりとその腹に沈める。
 最後の抵抗に振り上げられた腕をさっとかわし、リリティアは刀をぐいと捩じった。
 ゴブリンが血を吐いて絶命すると、リリティアの翼が身震いするように小さく羽ばたく。

 残り2匹のうち、猟銃を握ったゴブリンが踵を返して母屋の裏へ走った。
 奈月がLEDライトをそちらへ向ける。が、間一髪ゴブリンは逃げおおせる。
(裏に誰かいるはずだ。ここは慌てず任せよう)
 即座に狙いを変えれば、最後の1匹が果敢にも剛へ挑みかかっている。
 銃を両手に握り絞め、両足を広げた構え。必中狙い。
 対する剛の反応が僅かに遅れた。何故――

 剛の足元に女性の遺体、その向こうに銃を構えたゴブリン。
 このまま戦えば遺体を傷つける。剛は思わず躊躇した。
 引き金を引き絞るゴブリン――その背中目がけて、奈月がLEDライトを触媒に機導砲を撃ち放つ。
 ゴブリンの銃は発射されることなく、そのまま地面に落ちる。


(野郎、勘が良い!)
 マテリアルを込め、不意を狙い振り下ろされたロクスの大包丁が、拳銃2丁持ちのゴブリンの片腕を切りつける。
 頭をかち割るつもりだったのだが、咄嗟に身をかわされてしまった。
 2丁拳銃のゴブリンは台所の床に食い散らかされた食料を蹴って走り、間合いを離すと、追いすがるロクスの脇腹に1発命中させた。
 痛みに耐えつつ追撃しようとするロクスの後ろからフランが魔導銃を撃ち、2丁持ちの頭を吹き飛ばす。
「カバー遅れてゴメン!」

「! フラン、右だァ! 外だ!」
 銃声の合間を縫って聴こえた足音に、ロクスが気がついた。フランが裏口から飛び出してもう1発撃つ。
「殺(と)った!」
 更に数発の銃声。2階からだ。
「シャリファがやりあってるかも知れねェ。俺が行く、1階は任せた」
「ちょっと、ロクス今撃たれたんじゃないの!?」
「こんくらい死にゃしねェよ!」

 台所には食料と一緒に、弾薬の詰まった袋や使われていない銃が散らばっている。
 それらを踏み越えて、ロクスは階段を探しに廊下へ出ていった。
 フランは屋外に逃げるゴブリンがいないことを確認すると、ロクスの背後を守りつつ後に続いた。


 2階の廊下、窓の前に転がっていたゴブリン。
 シャリファはそれを死体だと思ったが、まだ生きていた。
 最初に見つけたゴブリンは弾薬を詰めた袋と猟銃、拳銃を抱えて階段を上がった。
 逃げる気かと思い、2階へ上がるなり飛びかかったのだが、
 廊下の途中に転がっていたゴブリンが突然動き出し、シャリファの行く手は阻まれた。
 大荷物を抱えた片耳のないゴブリンもすかさず拳銃を抜き、ほとんど条件反射のようにぶっ放す。
 その1発はシャリファの脚に命中し、彼女の動きを鈍らせた。

「……!」

 掴みかかってきたゴブリンを素早く組み伏せるも、『片耳』がもう1発と狙いをつける。
 シャリファは捕まえたゴブリンごと狭い廊下を横に転がり、弾丸をかわした。
 背中が床に打ちつけられる。今度はゴブリンが彼女の上にかぶさり、喉首を狙って手を伸ばす。
 その手を掴んで捻り上げた。きいい、という耳障りな悲鳴を上げるゴブリン。
 関節を極めながら相手を押しやると、弾丸が再び頭上をかすめた。早くこいつを仕留めなければ。
 死にもの狂いで抵抗するゴブリンと組み合って、何度も廊下を転げるシャリファ。
 力を込めた腕に、紋様のような痣がくっきりと浮かび上がる。


 階段を駆け上がるなり、ロクスはゴブリンと格闘するシャリファに出くわした。
 そしてその奥、東向きの窓を背にして銃を構えた片耳のゴブリン。
(逃がすかよ)
 ロクスの顔から表情が消えた。左手がひとりでに動いて、腰のジャンクガンを抜く。
 対する『片耳』も、もう1丁――こいつも2丁提げかよ、とロクスは心中で毒づく――を腰から抜く。
 お互い、腕を真っ直ぐに伸ばして、撃った。

 母屋の2階、狭い廊下の中を弾丸が激しく飛び交う。

 相手は2丁を乱射したが、ロクスは怯むことなく仁王立ちで射撃を続けた。
 自分より上背のある人間を相手にする以上、ゴブリンの銃の狙いは上向きになりがちだ。
 低く伏せたほうが弾はかわせるが、それでは目の前で戦っている最中のシャリファに流れ弾が行くかも知れない。
 ロクスは右肩に思いきり殴られたような衝撃を感じる。だが、彼は動かない。
 ロクスの銃弾が『片耳』の右手の銃を指ごと弾き飛ばす。

 しかし『片耳』も撃ち続ける。逃げることも忘れ、何かに取りつかれたように引き金を引き続けた。

 格闘するシャリファの視界に、ロクスの姿が飛び込む。
 肩と脇腹から出血。銃創か――早く目の前の1匹を仕留めて、彼を助けなければ。
(ゴブリン1匹にこうも手こずる……それでも戦士の一族の末裔か!)
 湧き上がる怒りがシャリファの手業を早めた。
 ゴブリンの手足を巧みに拘束すると、ダガーを喉笛へ叩き込む。仕留めた。
 ちょうどその瞬間、彼女の頭上で行われていた射撃の応酬が止まる。
 ロクスも『片耳』も、拳銃を撃ち尽くしていた。

 シャリファの体内を、マテリアルの奔流が駆け巡る。
 刹那、彼女は猛虎の如く『片耳』へ飛びかかり、逃げ出す暇も与えずその腕を獲った。
「ロクス!」
 『片耳』の腕を極め、すぐさま床に叩きつける。
「合わせて!」
 ロクスが大包丁を振り上げて、引き倒された『片耳』へ躍りかかる。
 
 『片耳』が最後に得たものは、頭部に食い込む分厚い刃が瞬く間に彼の脳髄から命を奪い去っていく感触だった。


「無事に依頼を達成出来て良かったです……亡くなられたご夫婦のことは、本当に残念ですが」
「あんまり無事って感じでもないな~。連中、意外と銃を当てられるもんだね」
 剛とリリティアが負傷者に治療を施す様子を、倉庫と家畜小屋の調べを終えたフランが眺めている。
「ったく、ゴブリンに銃ってのはつくづく良くねェ取り合わせだ」
 畑の柵に腰かけたまま、ロクスは剛を見上げた。鎧のあちこちに深いへこみ。
「……頑丈だなァ、アンタは」
「それだけが取り柄でして」
「そんなことないですよ! 米本さんの剣捌き、素晴らしかったです……」
 剛が苦笑する。その後ろから鈴の音と共に、何やら袋を引きずった奈月が母屋から出てきた。
「母屋のクリアリング、終わったよ。ゴブリンはあの7匹で全部だった。
 でも銃と弾薬が……かなり重い。誰か、運び出すのを手伝ってくれないかな」

「ボク、やるよ」
 腰かけていたシャリファが立ち上がろうとするのを、リリティアが押し止めた。
「私がやりますから。シャリファさんは休んでて下さい」
 リリティアが微笑むと、押し止められたシャリファはそのまま、すとん、と座り直す。

「被害者の遺体は言われた通り、布かけて荷車に積んだけど。
 銃を回収して、あとゴブリンどもの死体も片づけなきゃだよね……裏の川で焼いちゃうかい?」
 フランが嘆息すると、リリティアが自分の帽子に手を突っ込み、
「マッチ要ります?」
「……包帯以外にまだ入ってるの、その帽子の中」
「ご夫婦とは別に、ゴブリンたちの鎮魂(たましずめ)もしてやらねばなりませんからね」
 そう言う剛へ、ロクスは怪訝そうに
「おいおい、ゴブリンに弔い出してやンのか。敵だろ?」
「生きている間は確かにそうでしたが、今は違います。
 願わくば、彼らのマテリアルが清き流れに乗らんことを……」

 ロクスはしばし剛を見つめた後、肩をすくめて立ち上がる。
「……まァ、とにかくもうひと仕事ってこった」
「いや私がやりますから! 大丈夫ですから!」
「手が足りねェだろ! さっさと片づけてホトケさん村に帰してやらにゃ」
「ボクもやっぱり手伝う」
「いやでも怪我したおふたりに仕事させるのは」
「誰か、銃を運ぶの手伝ってくれないかな……」
「どれどれ。お、ゴブリンのクセに結構良いの持ってたじゃん」

 銃とゴブリン、つくづく悪い組み合わせだ。
 ロクスは後始末の手間を思うと、深く溜め息を吐いた。

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MVP一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320

重体一覧

参加者一覧

  • 人の上下に人を造らず
    ロクス・カーディナー(ka0162
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人

  • フラン・レンナルツ(ka0170
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 森の戦士
    シャリファ・アスナン(ka2938
    人間(紅)|15才|女性|疾影士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼相談スレッド
ロクス・カーディナー(ka0162
人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/09/05 00:33:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/30 19:14:06