ゲスト
(ka0000)
豊穣を邪魔する輩 ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/03 09:00
- 完成日
- 2016/06/11 06:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に伯爵地【ニュー・ウォルター】は存在する。
領主が住まう城塞都市の名は『マール』。マールから海岸まで自然の川を整備した十kmに渡る運河が流れていた。そのおかげで内陸部にも関わらず海上の帆船で直接乗りつけることができる。
もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』まで。それ以降の水上航路は手こぎのゴンドラを利用しなければならない。
升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やかだ。各地からやってきた行商もゴンドラに乗って売り買いの声を張り上げている。
橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少なかった。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
この地を治めるのはアリーア・エルブン伯爵。ニュー・ウォルターを守護するオリナニア騎士団長を兼任する十七歳になったばかりの銀髪の青年だ。
前領主ダリーア・エルブン伯爵が次男である彼に家督を譲ったのは十四歳のとき。それからわずかな期間で亡くなっている。闘病の日々で死期を予感していたのだろうと当時は市井の者の間でも囁かれていた。
長男ドネア・エルブンも事故で亡くなっていたが、妹のミリア・エルブンは健在。幼い頃から秀才ぶりを発揮し、弱冠十五歳ながらも内政を担う。アーリアにとっては心強い片腕であった。
マール内で発生した偽金事件は想像し得ない様相を見せる。
偽の聖堂教会に残されていた暗号は『アスタロト』『闇の支配』『ドネア』と読み解けた。ドネアとはアーリアとミリアの死んだはずの長兄であった。
世間には事故と発表されたドネアの死因だが、現実には謀反に失敗して命を落としている。
ドネアが本当に死んだのか、真相を暴くべくハンター達が動く。謀反に加担した行方不明のバーンズを探しだす過程においてそれは白日の下に晒された。ドネアだけでなく、謀反に関与していた元ドネア親衛隊の女性ロランナ・ベヒも歪虚になっていた。
ドネアは歪虚軍長アスタロト。そしてロランナはネビロスを名乗った。
後日、マールにおいて武器防具を積んだゴンドラの沈没事件が頻繁に発生する。ハンター達が水中に潜んでいた雑魔を退治。これによって歪虚崇拝者達の手に武器防具が渡る手段を潰すことができた。
別の機会には町村巡回中のアーリア一行が罠にはめられてしまう。窮地に陥ったものの、火の手に囲まれた状態からの脱出に成功。この件においてもハンター達の貢献は大きかった。
歪虚軍長、黒伯爵のアスタロトの拠点は人里離れた森深き地に存在する。
「黒伯爵様、このネビロスめにどうか今一度挽回の機会を与えて下さいませ」
蜜蝋燭に照らされた王座に座るアスタロトの前でネビロスが跪く。
二人とも元人間のアイテルカイトである。本性は別にしてアスタロトは二十歳前後の青年の姿。ネビロスも同年齢くらいの女性を象っていた。
「幾度の失敗を重ねたのだ? ネビロスよ」
「そ、それは……」
答えられないネビロスの前にアスタロトが左足をわずかに前へとだす。腰を下げたまま近づいたネビロスはアスタロトの革ブーツに口づけをして忠誠を表した。
マール城にある執務室のノッカーが激しく叩かれる。
「どうぞ」
「兄様、大変ですの!」
領主アーリア・エルブンが入室を許したのと同時に扉が開く。妹のミリア・エルブンがつかつかと近づいてきた。
「そんなに急いでどうした。何事か?」
「つい先程、緊急の連絡が届きましたの。伯爵地の東部に広がる穀倉地帯に雑魔が現れました!」
ミリアによれば、全長一mほどの巨大蝗雑魔が出没して収穫を控えた冬蒔き小麦の穂を食い散らかしているという。
「現地駐屯兵だけでは難しいのか?」
「雑魔とはいえ普通の者達でも十人がかりなら倒せるようなのですが……。泡状の卵のようなものを産みつけて、それから新たな蝗雑魔が発生するようなのです。そのいたちごっこで兵達が疲弊しているとのこと。早くに応援をださねば、ねずみ算的に増えて取り返しがつかないことになるかも知れませんの」
ミリアの説明を聞いたアーリアは考え込む。
オリナニア騎士団を動かせば掃討は可能だ。しかし、そうなると城塞都市マールが手薄になってしまう。かといって出し惜しみをしたのなら最悪の事態を招きかねない。
「今期小麦が不作になったとすれば大変なことに。民心が離れてしまいます」
ミリアがアーリアに顔を近づけて懇願する。
「わかっている。騎士団三小隊を送ろう。それに加えてハンターズソサエティーにも連絡を。ハンターに力を貸してもらえれば切り抜けられるはずだ」
アーリアの指示に従ってミリアは市内の支部に連絡をとる。無理を承知でハンターの緊急招集をかけてもらうのだった。
領主が住まう城塞都市の名は『マール』。マールから海岸まで自然の川を整備した十kmに渡る運河が流れていた。そのおかげで内陸部にも関わらず海上の帆船で直接乗りつけることができる。
もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』まで。それ以降の水上航路は手こぎのゴンドラを利用しなければならない。
升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やかだ。各地からやってきた行商もゴンドラに乗って売り買いの声を張り上げている。
橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少なかった。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
この地を治めるのはアリーア・エルブン伯爵。ニュー・ウォルターを守護するオリナニア騎士団長を兼任する十七歳になったばかりの銀髪の青年だ。
前領主ダリーア・エルブン伯爵が次男である彼に家督を譲ったのは十四歳のとき。それからわずかな期間で亡くなっている。闘病の日々で死期を予感していたのだろうと当時は市井の者の間でも囁かれていた。
長男ドネア・エルブンも事故で亡くなっていたが、妹のミリア・エルブンは健在。幼い頃から秀才ぶりを発揮し、弱冠十五歳ながらも内政を担う。アーリアにとっては心強い片腕であった。
マール内で発生した偽金事件は想像し得ない様相を見せる。
偽の聖堂教会に残されていた暗号は『アスタロト』『闇の支配』『ドネア』と読み解けた。ドネアとはアーリアとミリアの死んだはずの長兄であった。
世間には事故と発表されたドネアの死因だが、現実には謀反に失敗して命を落としている。
ドネアが本当に死んだのか、真相を暴くべくハンター達が動く。謀反に加担した行方不明のバーンズを探しだす過程においてそれは白日の下に晒された。ドネアだけでなく、謀反に関与していた元ドネア親衛隊の女性ロランナ・ベヒも歪虚になっていた。
ドネアは歪虚軍長アスタロト。そしてロランナはネビロスを名乗った。
後日、マールにおいて武器防具を積んだゴンドラの沈没事件が頻繁に発生する。ハンター達が水中に潜んでいた雑魔を退治。これによって歪虚崇拝者達の手に武器防具が渡る手段を潰すことができた。
別の機会には町村巡回中のアーリア一行が罠にはめられてしまう。窮地に陥ったものの、火の手に囲まれた状態からの脱出に成功。この件においてもハンター達の貢献は大きかった。
歪虚軍長、黒伯爵のアスタロトの拠点は人里離れた森深き地に存在する。
「黒伯爵様、このネビロスめにどうか今一度挽回の機会を与えて下さいませ」
蜜蝋燭に照らされた王座に座るアスタロトの前でネビロスが跪く。
二人とも元人間のアイテルカイトである。本性は別にしてアスタロトは二十歳前後の青年の姿。ネビロスも同年齢くらいの女性を象っていた。
「幾度の失敗を重ねたのだ? ネビロスよ」
「そ、それは……」
答えられないネビロスの前にアスタロトが左足をわずかに前へとだす。腰を下げたまま近づいたネビロスはアスタロトの革ブーツに口づけをして忠誠を表した。
マール城にある執務室のノッカーが激しく叩かれる。
「どうぞ」
「兄様、大変ですの!」
領主アーリア・エルブンが入室を許したのと同時に扉が開く。妹のミリア・エルブンがつかつかと近づいてきた。
「そんなに急いでどうした。何事か?」
「つい先程、緊急の連絡が届きましたの。伯爵地の東部に広がる穀倉地帯に雑魔が現れました!」
ミリアによれば、全長一mほどの巨大蝗雑魔が出没して収穫を控えた冬蒔き小麦の穂を食い散らかしているという。
「現地駐屯兵だけでは難しいのか?」
「雑魔とはいえ普通の者達でも十人がかりなら倒せるようなのですが……。泡状の卵のようなものを産みつけて、それから新たな蝗雑魔が発生するようなのです。そのいたちごっこで兵達が疲弊しているとのこと。早くに応援をださねば、ねずみ算的に増えて取り返しがつかないことになるかも知れませんの」
ミリアの説明を聞いたアーリアは考え込む。
オリナニア騎士団を動かせば掃討は可能だ。しかし、そうなると城塞都市マールが手薄になってしまう。かといって出し惜しみをしたのなら最悪の事態を招きかねない。
「今期小麦が不作になったとすれば大変なことに。民心が離れてしまいます」
ミリアがアーリアに顔を近づけて懇願する。
「わかっている。騎士団三小隊を送ろう。それに加えてハンターズソサエティーにも連絡を。ハンターに力を貸してもらえれば切り抜けられるはずだ」
アーリアの指示に従ってミリアは市内の支部に連絡をとる。無理を承知でハンターの緊急招集をかけてもらうのだった。
リプレイ本文
●
「俺は歩夢。よろしくっ」
転移門近くで待機していた歩夢(ka5975)が次々と現れる仲間達と挨拶を交わす。
予定時刻になって城塞都市マールへ移動。ハンター一行は魔導バイク一両、馬四頭で出立する。
「恨んでいる恨んでいないでいえば、簒奪に失敗したあの人は、アーリアを恨んでいると思うの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は敵側による今後への布石ではないかと憂慮していた。強烈な感情から抜けだせないのが歪虚アイテルカイトだとすれば、アーリアの力を削ぐために手段は厭わないだろうと。伯爵地のすべてを奪いたいのであれば、邪魔なのはオリナニア騎士団だ。今回の一件は騎士団を誘いだすための罠かも知れないので、ディーナは先行して現地に向かっている小隊への同行を望んでいた。
「後手に回っている気がしますが、一つ一つ対処していくしかないですね。とにかく急ぎましょう」
ミオレスカ(ka3496)が跨がる戦馬ハニーマーブル号の横腹を踵で軽く蹴る。速く駆けさせて先頭を走った。
「何かあったときにはトランシーバーで連絡を取り合おう」
鳳凰院ひりょ(ka3744)も愛馬の足運びを早めて先を急ぐ。
(それに……ここでアスタロトが何か一手を打ってこないとも限らない。どう出てくるか…が問題だが)
鳳凰院もまた今回の作戦が敵にとっての搦め手ではないかと疑っていた。
「蝗か。どこにどういう状況で卵を産みつけて来たんだろう?」
魔導二輪「闘走」で駆ける歩夢は蝗雑魔が卵を産みつける過程についてを考える。
「蝗……よりにもよって虫、蟲、無視……できないですよね……」
歩夢の隣を走っていたアメリア・フォーサイス(ka4111)が憂鬱そうな表情を浮かべて項垂れた。
「農作物を襲うのだからその付近についでに産みつけるのではないかと……もしかしてそういう意味ではなかったのかな?」
「グロいから虫嫌い……」
アメリアが小さな声で呟く。
「こればっかりは……そうだな。その背中に担いでいるライフルなら近づく前に倒せるんじゃないのか?」
「そうは言っても……ですよねー……。がんばってみます」
苦笑いしながらもアメリアはわずかにやる気をみせる。草原の一軒家を見つけた歩夢が一人進路を変えて遠ざかっていく。後で追いつくと言葉を残して。
一行は街道を走り、途中で枝道へと入る。穀倉地帯に辿り着いたのは暮れなずむ頃だった。
●
ハンター一行が広大な麦畑のあぜ道を走る。騎士団三小隊の宿営地へ辿り着くまでに蝗雑魔らしき飛翔物体を見かけたものの、遠すぎて手がだせなかった。
「おい! 加勢が来てくれたぞ!!」
一行の到着に沸き立つ騎士団の面々。ハンター達は空腹を満たすための水のパンをもらい、それらを頂きながら状況を教えてもらう。
依頼書の状況から大きく変わっていない様子だった。蝗雑魔が産みつけた卵の孵化数と倒す回数が均衡していてイタチごっこの状態は続いていた。
一時間半もすれば夜が訪れる。そうなれば蝗雑魔の活動もある程度弱まるものの、退治する側にとっても探しにくくなるのは必定だ。
「不幸中の幸いはお月さまですよね」
「そうだな。一晩かけて数を減らして、夜明けの後にまとめて一気にがよさそうだね」
ミオレスカと鳳凰院が天を仰いで月を眺めた。
ディーナは希望通りに小隊と行動を共にする。他のハンターは遊撃で蝗雑魔を狙う手筈だ。駐屯兵は蝗雑魔が退治されたばかりの麦畑周辺に卵が産みつけられていないかを確かめる。見つけた場合は処分する役割だ。
駐屯兵、騎士団を含めて無線連絡方法を確認した上で一斉に散らばるのだった。
●
(日が暮れないうちに…………いた)
麦穂垂れる畑の狭間。両手に銃を握りしめたミオレスカが蝗雑魔三体を目撃する。
全長一mはある蝗雑魔が麦を倒して、噛み千切っていた。早くに止めなければと狙い定めてフォールシュートによる銃弾の雨を降らせる。
凄まじい銃撃音。
頭部を撃ち抜かれた蝗雑魔二体は瀕死の状態。しかし背中に一発食らった蝗雑魔は鳴いてその場から逃げだそうとした。
追いかけたい気持ちを抑えながら、ミオレスカは武器を銃から弓へと持ち帰る。羽根が傷ついて蝗雑魔は飛べずに跳ねることしかできなくなっていた。
敵はまだ射程距離内。弦を引きつつ慎重に狙い定める。放たれた一矢は蝗雑魔の頭部を後ろから撃ち抜いた。その後は、のたうち回る三体すべてに止めを刺していく。その過程で蝗雑魔の卵らしき泡の集まりを見つけた。
「今、弓を振っていますがわかるでしょうか?」
駐屯兵に無線連絡。駐屯兵に卵の位置を教えるとすぐに駆けつけてくれる。駐屯兵は蝗雑魔との遭遇を想定して十二名前後で行動していた。
「これですよね」
「間違いありません。急いで処分しないと」
卵のことは駐屯兵達に任せようとしたミオレスカだが、途中で立ち止まって振り返る。
「どうかなさいましたか?」
「蝗雑魔をけしかけた敵が潜んでいるかも知れません。森林や小屋には近づかないほうがよいでしょう。そういった場所は私達にまかせてください」
そう言い残してから去っていく。ミオレスカは蝗雑魔を探しつつ、隠れ家にできそうな場所にも目を光らせたのだった。
●
アメリアが選んだ戦いの場は麦畑に何カ所かある櫓の上だ。元々は監視と合わせて空砲を撃って鳥を散らすために建てられたものである。
「寄られる前に撃つ。ならここが一番適していますよね」
目立たぬように漆黒に塗られた愛銃のライフル「ルインズタワー」を一撫で。構えて神経を研ぎ澄ます。
やがてスコープ内に小さな影を発見。周囲は片眼で確かめつつ、射程距離まで近づくのを待ち続けた。
一瞬息を止めて射撃に集中。やさしく銃爪を絞った。
銃撃音の後に畑へと落ちる様子を目視。近くを探していた騎士団に無線連絡したところ、瀕死の蝗雑魔を発見したので止めを刺したとの報が入る。
二射目。三射目。こうして順調に戦果を重ねていったアメリアだが、不意を突かれる状況に陥った。身近な畑内に隠されていた卵が二時間前に孵化していたのである。
突然に麦畑から飛ぶ忌まわしき群れ。
「な、何この数!」
小さな十五の蝗雑魔がまとめて迫ってきた。まだ速くは飛べずにゆらゆらとした感じだったが、それがかえって気持ち悪い。発狂しそうになるアメリアだが、自我崩壊の一歩手前で踏みとどまる。
「いや、ヤられる前にヤル! 何よりこっちに来ないで!」
まずは速射でライフルを使用。途中で魔導拳銃に切り替えたのは射程距離の問題だ。迫り来る恐怖と戦いながら、銃撃を繰り返す。
そして最後に倒した一体は五メートルも離れていなかった。
その場にへたり込んだもののすぐに立ちあがって地上へとおりる。「いやだけど」と呟きながら仕留め切れていない個体を探し回るアメリアだった。
●
ディーナはマール訪問の際、転移門を抜けた先で待機していた騎士に手紙を預けていた。
『あの歪虚たちは、貴方達の全てを奪いたいように思えるの。小隊を送らなければ民と名声が奪われる。送っても自身を守る術をきちんと講じていなければ、貴方達を襲って迂闊な領主という悪評を広められる。私達は貴方の民と騎士、駐屯兵を守ってくるの。だから貴方達も、私達が戻るまで自分達をきちんと守ってほしいの。歪虚と戦い続ける限り、私達は全面的に協力するの』
綴った文面を思いだしながらディーナが進む。小隊の一つに混じって蝗雑魔を探す。三つの小隊はお互いが見える位置関係で麦畑のあぜ道を進行していた。
蝗雑魔を見つけた瞬間に小隊全員が屈んだ。無線連絡を聞いた二小隊もわずかに遅れただけだ。背を低くしたまま息を殺してゆっくりと進み、敵に気づかれた瞬間に全力で立ち向かう。
「今ですの!! ♪~」
ディーナは敵の手中へと飛びこんでレクイエムを唄った。蝗雑魔四体の動きを鈍らせて、その間に小隊が倒しきる。
「この調子でやっていけば倒しきれますの」
ディーナがヒーリングスフィアで騎士達に治癒を施しているとき、背後から嫌な気配が感じられた。
「ここからだと小さく見える林のことは知っていますの?」
「農夫達によれば秋に美味しい茸が採れるので、開墾せずにそのままにしているそうで。普段は滅多に立ち寄らない林だと聞いていますね」
ディーナは騎士の一人から林のことを教えてもらう。無線を使って仲間達にも伝えておくのだった。
●
(蝗の雑魔が現れているのは穀倉地帯周辺だけだと聞いているが)
歩夢は背を低くしながら麦穂の最中を駆け抜けていた。
脳裏には往路で道すがらの旅人に訊いたり、人家を訪ねて集めた情報が思い浮かんだ。そうして集めた情報から推測したところ、わかったのは蝗雑魔の出没が穀倉地帯に絞れる事実だ。
蝗雑魔が長く一所に留まるのは不自然極まりない。遠距離を一気に飛べる羽根があるからだ。また誤解されているのだが、蝗雑魔は麦穂を食べたりはしない。踏み倒して囓る等、粗末にしているのは事実であったが。
(往路と反対側からやってきて、穀倉地帯に辿りついたのか? それも違うような)
歩夢は仲間達から聞いた話を思いだす。現在この伯爵地では歪虚軍長アスタロト、そして歪虚ネビロス。この二体が暗躍している事実を。
(それと無関係ってのも考え辛いよな。これが計画的なものなら――)
蝗雑魔の行動原理そのものが高位歪虚の指図によるものではないかといった結論に達したとき、動く影が目の端に映る。
蝗雑魔三体を確認。通り過ぎていったので式符に後を追わせた。味方の担当範囲と照らし合わせて無線連絡を行う。
当然、自ら戦うときもある。
「雷鳥招来。急急如律令! サンダーバード!」
投げた符が高く宙へと舞い上がり、轟きを纏いし稲妻となって蝗雑魔三体を貫く。二体は瀕死だが一体はまだ動いていた。胡蝶符の光弾で倒してから、瀕死の二体にも止めを刺す。
太陽が地平線に沈みかかった頃合いに仲間からの無線連絡が届く。大急ぎで走りだした歩夢であった。
●
夕暮れの中、鳳凰院が目をこらす。
「影が十五……いやもっと?」
あぜ道に長い影がいくつも落ちていた。その先では逆光による影がいくつも蠢く。影は人型だけではなかった。異質な飛翔する影がいくつも見かけられる。
「おそらく駐屯兵に十体前後の蝗雑魔が襲いかかっている! 至急応援を頼む」
自身でも気づかないうちに走りだしていた。取りだしたトランシーバーで仲間達に連絡しつつ、二刀を抜いて敵の直中へと突っ込む。
最初にやったのがソウルトーチ。体内のマテリアルを燃やすことで蝗雑魔等をおびき寄せる。それからは次々と蝗雑魔に噛まれながらも二刀流の刃を突き立てていく。
蝗雑魔が一斉に飛翔。牙を剥きだしにした状態で一撃離脱の攻撃を仕掛けられる。
(アーリアの元から護衛になりそうな人員がだいぶ引き離されている……。何事もないといいが)
この状況下にありながらも鳳凰院はアーリアの身を案じていた。傷つけられながらも迫り来る個体の羽根を削いでいく。地面に落ちたところを両断して塵へと還した。
ボロボロの身で二体を倒したところでマテリアルヒーリング。
太陽が完全に地平線へ沈もうとしていたときである。
無線を聞きつけた仲間達が現れた。その力を借りて残るすべてを殲滅。怪我人こそでたものの重傷者、死者は一人もでないで終わる。
駐屯兵達が周囲の麦畑を探ってみると、蝗雑魔の泡状卵が三個所で見つかった。
●
月夜の宵の口。
かなりの蝗雑魔を倒したので、ハンター達は先に林の様子を確かめることにした。林は外縁を歩くと一周するのに約十五分で済む程度の広さである。
歩夢が林に少し入ったところで式符を飛ばす。そして見つけてくれた。場に不釣り合いな黒いドレスをまとう金髪女性の存在を。
それがネビロスなのは明白であった。アスタロトについてはいないようだ。
蛇を殺したければ頭から。ハンター達はネビロスを狙うべく、林の外周に散らばって一斉に攻めた。
「お前達は黒伯爵様の邪魔をした?!」
ミオレスカの高加速射撃を肩を受けつつ、ネビロスが睨んだ。跳ねた彼女は枝を足がかりにして大樹の上へと逃げていく。
鳳凰院はソウルトーチを使いつつ、ネビロスを追いかけた。
アメリアはネビロスの背中に速射銃撃を浴びせる。
ディーナは途中まで大樹を登り、セイクリッドフラッシュの光波動を放つ。足を滑らせて落ちてきたところをクロイツハンマーで叩く。
そのとき、気持ち悪い羽音がハンター達の鼓膜を震わせた。周囲の麦畑に潜んでいた蝗雑魔が一斉に集まろうとしていたのである。高位であるネビロスが何らかの方法で呼び寄せたに違いなかった。
「あなたの狙いは、なんでしょう? 国家転覆を狙うにしては、やることが、だんだん小さくなっている気がします」
ミオレスカの問いに落ちた地面から立ちあがったネビロスが下品な笑みを零す。
「堰の小さなひび割れから大洪水にまみれるかも知れないわよ」
その言葉を発した直後、ネビロスは姿を眩ました。二十体前後の蝗雑魔を倒すまで、彼女への追撃に移れなかったからだ。
苦労はしたものの、襲ってきた蝗雑魔を倒しきる。月光降り注ぐ林は再び静寂に包まれたのだった。
●
ハンター達は眠らずに翌朝になっても蝗雑魔退治を続行した。林で襲ってきた蝗雑魔は、その時点で孵化済みの全個体だと判断したからだ。
陽光の下で探したところ、麦畑に残っていたのは卵三個所と孵化したばかりの十三体の蝗雑魔のみである。それらの退治には一時間もかからなかった。
どこかに卵が残っていたとしても、後は駐屯兵だけで対処可能だと判断。アーリアとミリアの身を心配した騎士団とハンター達はマールへの帰路に就いた。
城へ立ち寄ったハンター達に、アーリアが自らマールで昨晩起きた事件のことを話してくれる。
「鳥の雑魔に直接城を襲われたのだ。銃撃と弓撃によって事なきを得たのだが――」
アーリアは穀倉地帯での騒ぎと連動したものではないかと推測していた。
ミオレスカはネビロスが残していった捨て台詞をアーリアに伝える。アスタロトとネビロスは今もあきらめずに画策していると思われた。
ハンター達は城でゆっくりとした三日間を過ごす。その間に蝗雑魔や新たな卵発見の報は聞こえてこない。
依頼の完遂を確認したところで、リゼリオへの帰路に就いたハンター一行であった。
「俺は歩夢。よろしくっ」
転移門近くで待機していた歩夢(ka5975)が次々と現れる仲間達と挨拶を交わす。
予定時刻になって城塞都市マールへ移動。ハンター一行は魔導バイク一両、馬四頭で出立する。
「恨んでいる恨んでいないでいえば、簒奪に失敗したあの人は、アーリアを恨んでいると思うの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は敵側による今後への布石ではないかと憂慮していた。強烈な感情から抜けだせないのが歪虚アイテルカイトだとすれば、アーリアの力を削ぐために手段は厭わないだろうと。伯爵地のすべてを奪いたいのであれば、邪魔なのはオリナニア騎士団だ。今回の一件は騎士団を誘いだすための罠かも知れないので、ディーナは先行して現地に向かっている小隊への同行を望んでいた。
「後手に回っている気がしますが、一つ一つ対処していくしかないですね。とにかく急ぎましょう」
ミオレスカ(ka3496)が跨がる戦馬ハニーマーブル号の横腹を踵で軽く蹴る。速く駆けさせて先頭を走った。
「何かあったときにはトランシーバーで連絡を取り合おう」
鳳凰院ひりょ(ka3744)も愛馬の足運びを早めて先を急ぐ。
(それに……ここでアスタロトが何か一手を打ってこないとも限らない。どう出てくるか…が問題だが)
鳳凰院もまた今回の作戦が敵にとっての搦め手ではないかと疑っていた。
「蝗か。どこにどういう状況で卵を産みつけて来たんだろう?」
魔導二輪「闘走」で駆ける歩夢は蝗雑魔が卵を産みつける過程についてを考える。
「蝗……よりにもよって虫、蟲、無視……できないですよね……」
歩夢の隣を走っていたアメリア・フォーサイス(ka4111)が憂鬱そうな表情を浮かべて項垂れた。
「農作物を襲うのだからその付近についでに産みつけるのではないかと……もしかしてそういう意味ではなかったのかな?」
「グロいから虫嫌い……」
アメリアが小さな声で呟く。
「こればっかりは……そうだな。その背中に担いでいるライフルなら近づく前に倒せるんじゃないのか?」
「そうは言っても……ですよねー……。がんばってみます」
苦笑いしながらもアメリアはわずかにやる気をみせる。草原の一軒家を見つけた歩夢が一人進路を変えて遠ざかっていく。後で追いつくと言葉を残して。
一行は街道を走り、途中で枝道へと入る。穀倉地帯に辿り着いたのは暮れなずむ頃だった。
●
ハンター一行が広大な麦畑のあぜ道を走る。騎士団三小隊の宿営地へ辿り着くまでに蝗雑魔らしき飛翔物体を見かけたものの、遠すぎて手がだせなかった。
「おい! 加勢が来てくれたぞ!!」
一行の到着に沸き立つ騎士団の面々。ハンター達は空腹を満たすための水のパンをもらい、それらを頂きながら状況を教えてもらう。
依頼書の状況から大きく変わっていない様子だった。蝗雑魔が産みつけた卵の孵化数と倒す回数が均衡していてイタチごっこの状態は続いていた。
一時間半もすれば夜が訪れる。そうなれば蝗雑魔の活動もある程度弱まるものの、退治する側にとっても探しにくくなるのは必定だ。
「不幸中の幸いはお月さまですよね」
「そうだな。一晩かけて数を減らして、夜明けの後にまとめて一気にがよさそうだね」
ミオレスカと鳳凰院が天を仰いで月を眺めた。
ディーナは希望通りに小隊と行動を共にする。他のハンターは遊撃で蝗雑魔を狙う手筈だ。駐屯兵は蝗雑魔が退治されたばかりの麦畑周辺に卵が産みつけられていないかを確かめる。見つけた場合は処分する役割だ。
駐屯兵、騎士団を含めて無線連絡方法を確認した上で一斉に散らばるのだった。
●
(日が暮れないうちに…………いた)
麦穂垂れる畑の狭間。両手に銃を握りしめたミオレスカが蝗雑魔三体を目撃する。
全長一mはある蝗雑魔が麦を倒して、噛み千切っていた。早くに止めなければと狙い定めてフォールシュートによる銃弾の雨を降らせる。
凄まじい銃撃音。
頭部を撃ち抜かれた蝗雑魔二体は瀕死の状態。しかし背中に一発食らった蝗雑魔は鳴いてその場から逃げだそうとした。
追いかけたい気持ちを抑えながら、ミオレスカは武器を銃から弓へと持ち帰る。羽根が傷ついて蝗雑魔は飛べずに跳ねることしかできなくなっていた。
敵はまだ射程距離内。弦を引きつつ慎重に狙い定める。放たれた一矢は蝗雑魔の頭部を後ろから撃ち抜いた。その後は、のたうち回る三体すべてに止めを刺していく。その過程で蝗雑魔の卵らしき泡の集まりを見つけた。
「今、弓を振っていますがわかるでしょうか?」
駐屯兵に無線連絡。駐屯兵に卵の位置を教えるとすぐに駆けつけてくれる。駐屯兵は蝗雑魔との遭遇を想定して十二名前後で行動していた。
「これですよね」
「間違いありません。急いで処分しないと」
卵のことは駐屯兵達に任せようとしたミオレスカだが、途中で立ち止まって振り返る。
「どうかなさいましたか?」
「蝗雑魔をけしかけた敵が潜んでいるかも知れません。森林や小屋には近づかないほうがよいでしょう。そういった場所は私達にまかせてください」
そう言い残してから去っていく。ミオレスカは蝗雑魔を探しつつ、隠れ家にできそうな場所にも目を光らせたのだった。
●
アメリアが選んだ戦いの場は麦畑に何カ所かある櫓の上だ。元々は監視と合わせて空砲を撃って鳥を散らすために建てられたものである。
「寄られる前に撃つ。ならここが一番適していますよね」
目立たぬように漆黒に塗られた愛銃のライフル「ルインズタワー」を一撫で。構えて神経を研ぎ澄ます。
やがてスコープ内に小さな影を発見。周囲は片眼で確かめつつ、射程距離まで近づくのを待ち続けた。
一瞬息を止めて射撃に集中。やさしく銃爪を絞った。
銃撃音の後に畑へと落ちる様子を目視。近くを探していた騎士団に無線連絡したところ、瀕死の蝗雑魔を発見したので止めを刺したとの報が入る。
二射目。三射目。こうして順調に戦果を重ねていったアメリアだが、不意を突かれる状況に陥った。身近な畑内に隠されていた卵が二時間前に孵化していたのである。
突然に麦畑から飛ぶ忌まわしき群れ。
「な、何この数!」
小さな十五の蝗雑魔がまとめて迫ってきた。まだ速くは飛べずにゆらゆらとした感じだったが、それがかえって気持ち悪い。発狂しそうになるアメリアだが、自我崩壊の一歩手前で踏みとどまる。
「いや、ヤられる前にヤル! 何よりこっちに来ないで!」
まずは速射でライフルを使用。途中で魔導拳銃に切り替えたのは射程距離の問題だ。迫り来る恐怖と戦いながら、銃撃を繰り返す。
そして最後に倒した一体は五メートルも離れていなかった。
その場にへたり込んだもののすぐに立ちあがって地上へとおりる。「いやだけど」と呟きながら仕留め切れていない個体を探し回るアメリアだった。
●
ディーナはマール訪問の際、転移門を抜けた先で待機していた騎士に手紙を預けていた。
『あの歪虚たちは、貴方達の全てを奪いたいように思えるの。小隊を送らなければ民と名声が奪われる。送っても自身を守る術をきちんと講じていなければ、貴方達を襲って迂闊な領主という悪評を広められる。私達は貴方の民と騎士、駐屯兵を守ってくるの。だから貴方達も、私達が戻るまで自分達をきちんと守ってほしいの。歪虚と戦い続ける限り、私達は全面的に協力するの』
綴った文面を思いだしながらディーナが進む。小隊の一つに混じって蝗雑魔を探す。三つの小隊はお互いが見える位置関係で麦畑のあぜ道を進行していた。
蝗雑魔を見つけた瞬間に小隊全員が屈んだ。無線連絡を聞いた二小隊もわずかに遅れただけだ。背を低くしたまま息を殺してゆっくりと進み、敵に気づかれた瞬間に全力で立ち向かう。
「今ですの!! ♪~」
ディーナは敵の手中へと飛びこんでレクイエムを唄った。蝗雑魔四体の動きを鈍らせて、その間に小隊が倒しきる。
「この調子でやっていけば倒しきれますの」
ディーナがヒーリングスフィアで騎士達に治癒を施しているとき、背後から嫌な気配が感じられた。
「ここからだと小さく見える林のことは知っていますの?」
「農夫達によれば秋に美味しい茸が採れるので、開墾せずにそのままにしているそうで。普段は滅多に立ち寄らない林だと聞いていますね」
ディーナは騎士の一人から林のことを教えてもらう。無線を使って仲間達にも伝えておくのだった。
●
(蝗の雑魔が現れているのは穀倉地帯周辺だけだと聞いているが)
歩夢は背を低くしながら麦穂の最中を駆け抜けていた。
脳裏には往路で道すがらの旅人に訊いたり、人家を訪ねて集めた情報が思い浮かんだ。そうして集めた情報から推測したところ、わかったのは蝗雑魔の出没が穀倉地帯に絞れる事実だ。
蝗雑魔が長く一所に留まるのは不自然極まりない。遠距離を一気に飛べる羽根があるからだ。また誤解されているのだが、蝗雑魔は麦穂を食べたりはしない。踏み倒して囓る等、粗末にしているのは事実であったが。
(往路と反対側からやってきて、穀倉地帯に辿りついたのか? それも違うような)
歩夢は仲間達から聞いた話を思いだす。現在この伯爵地では歪虚軍長アスタロト、そして歪虚ネビロス。この二体が暗躍している事実を。
(それと無関係ってのも考え辛いよな。これが計画的なものなら――)
蝗雑魔の行動原理そのものが高位歪虚の指図によるものではないかといった結論に達したとき、動く影が目の端に映る。
蝗雑魔三体を確認。通り過ぎていったので式符に後を追わせた。味方の担当範囲と照らし合わせて無線連絡を行う。
当然、自ら戦うときもある。
「雷鳥招来。急急如律令! サンダーバード!」
投げた符が高く宙へと舞い上がり、轟きを纏いし稲妻となって蝗雑魔三体を貫く。二体は瀕死だが一体はまだ動いていた。胡蝶符の光弾で倒してから、瀕死の二体にも止めを刺す。
太陽が地平線に沈みかかった頃合いに仲間からの無線連絡が届く。大急ぎで走りだした歩夢であった。
●
夕暮れの中、鳳凰院が目をこらす。
「影が十五……いやもっと?」
あぜ道に長い影がいくつも落ちていた。その先では逆光による影がいくつも蠢く。影は人型だけではなかった。異質な飛翔する影がいくつも見かけられる。
「おそらく駐屯兵に十体前後の蝗雑魔が襲いかかっている! 至急応援を頼む」
自身でも気づかないうちに走りだしていた。取りだしたトランシーバーで仲間達に連絡しつつ、二刀を抜いて敵の直中へと突っ込む。
最初にやったのがソウルトーチ。体内のマテリアルを燃やすことで蝗雑魔等をおびき寄せる。それからは次々と蝗雑魔に噛まれながらも二刀流の刃を突き立てていく。
蝗雑魔が一斉に飛翔。牙を剥きだしにした状態で一撃離脱の攻撃を仕掛けられる。
(アーリアの元から護衛になりそうな人員がだいぶ引き離されている……。何事もないといいが)
この状況下にありながらも鳳凰院はアーリアの身を案じていた。傷つけられながらも迫り来る個体の羽根を削いでいく。地面に落ちたところを両断して塵へと還した。
ボロボロの身で二体を倒したところでマテリアルヒーリング。
太陽が完全に地平線へ沈もうとしていたときである。
無線を聞きつけた仲間達が現れた。その力を借りて残るすべてを殲滅。怪我人こそでたものの重傷者、死者は一人もでないで終わる。
駐屯兵達が周囲の麦畑を探ってみると、蝗雑魔の泡状卵が三個所で見つかった。
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月夜の宵の口。
かなりの蝗雑魔を倒したので、ハンター達は先に林の様子を確かめることにした。林は外縁を歩くと一周するのに約十五分で済む程度の広さである。
歩夢が林に少し入ったところで式符を飛ばす。そして見つけてくれた。場に不釣り合いな黒いドレスをまとう金髪女性の存在を。
それがネビロスなのは明白であった。アスタロトについてはいないようだ。
蛇を殺したければ頭から。ハンター達はネビロスを狙うべく、林の外周に散らばって一斉に攻めた。
「お前達は黒伯爵様の邪魔をした?!」
ミオレスカの高加速射撃を肩を受けつつ、ネビロスが睨んだ。跳ねた彼女は枝を足がかりにして大樹の上へと逃げていく。
鳳凰院はソウルトーチを使いつつ、ネビロスを追いかけた。
アメリアはネビロスの背中に速射銃撃を浴びせる。
ディーナは途中まで大樹を登り、セイクリッドフラッシュの光波動を放つ。足を滑らせて落ちてきたところをクロイツハンマーで叩く。
そのとき、気持ち悪い羽音がハンター達の鼓膜を震わせた。周囲の麦畑に潜んでいた蝗雑魔が一斉に集まろうとしていたのである。高位であるネビロスが何らかの方法で呼び寄せたに違いなかった。
「あなたの狙いは、なんでしょう? 国家転覆を狙うにしては、やることが、だんだん小さくなっている気がします」
ミオレスカの問いに落ちた地面から立ちあがったネビロスが下品な笑みを零す。
「堰の小さなひび割れから大洪水にまみれるかも知れないわよ」
その言葉を発した直後、ネビロスは姿を眩ました。二十体前後の蝗雑魔を倒すまで、彼女への追撃に移れなかったからだ。
苦労はしたものの、襲ってきた蝗雑魔を倒しきる。月光降り注ぐ林は再び静寂に包まれたのだった。
●
ハンター達は眠らずに翌朝になっても蝗雑魔退治を続行した。林で襲ってきた蝗雑魔は、その時点で孵化済みの全個体だと判断したからだ。
陽光の下で探したところ、麦畑に残っていたのは卵三個所と孵化したばかりの十三体の蝗雑魔のみである。それらの退治には一時間もかからなかった。
どこかに卵が残っていたとしても、後は駐屯兵だけで対処可能だと判断。アーリアとミリアの身を心配した騎士団とハンター達はマールへの帰路に就いた。
城へ立ち寄ったハンター達に、アーリアが自らマールで昨晩起きた事件のことを話してくれる。
「鳥の雑魔に直接城を襲われたのだ。銃撃と弓撃によって事なきを得たのだが――」
アーリアは穀倉地帯での騒ぎと連動したものではないかと推測していた。
ミオレスカはネビロスが残していった捨て台詞をアーリアに伝える。アスタロトとネビロスは今もあきらめずに画策していると思われた。
ハンター達は城でゆっくりとした三日間を過ごす。その間に蝗雑魔や新たな卵発見の報は聞こえてこない。
依頼の完遂を確認したところで、リゼリオへの帰路に就いたハンター一行であった。
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穀倉地帯の危機を救え! ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/06/03 07:29:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/01 12:03:26 |
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質問卓 ウル=ガ(ka3593) エルフ|25才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/02 18:24:54 |