ゲスト
(ka0000)
【刻令】開墾してくだサァイよォ~
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/04 22:00
- 完成日
- 2016/06/23 22:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
かつて酒の都として名高かったデュニクスは、歪虚住まう土地に近しいことから斜陽の土地となっていた。それが好転し始めたのは、ちょうど一年前のことだ。王国騎士団の介入により、この地に自衛組織が興されてから、この地は変わった。
周囲の脅威を払い、寒村から人を迎え入れ――遂には歪虚に踏み荒らされた農場を再生し、うららかな春を迎えようとしていた。
そんな、ある日の事である。
「なんという……い、いや、幸いでした、と言うべきなのでしょうか」
《デュニクス騎士団》の団長、グラズヘイム王国騎士団は青の隊に属する騎士レヴィンは、執務室で薄い頭を抱えていた。
「……どうしたんですか?」
「はっ!?」
唐突に感じた人の気配に、思わずレヴィンは動揺の声を漏らす。振り返る、と、艶やかな金髪に、曇りのない碧眼の持ち主――マリーベルが、いた。元々美しい少女であったが、この一年で髪が伸び、その容姿に華が添えられている。
ハンター達に依頼した結果応募に掛かった“一般人”の少女だが、十分な教育を受けており、レヴィン達騎士団では秘書を務める才媛であった。
「え、あ、えー、そ、そそそその、これは……」
レヴィンはそんな彼女に、滅法弱い。元々コミュニケーションが苦手な性質のレヴィンだが、それをさっぴいても、なお。
「テスカ教徒の動乱……ですか?」
「え、あー……ま、まあ、はい」
一年を超える付き合いの中で、その点はマリーベルも汲む所なのだろう。レヴィンの直属の部下であるポチョム、ヴィサンを除けば、彼女が最もレヴィンと接している時間は長い。レヴィンにしても、そうだ。彼女の含意を読めないわけでは、ない。
――そこまでお悩みなら、デュニクスからは応援は出さないのですか?
こういうこと、だろう。彼女は理性の人となりであるが、同時に、施しを厭わぬ精神性を持っている。
「幸い、新規参入された戦闘員の方々の練度も高まって来ましたし、ポチョムさんかレヴィンさんを此方に残せば、お手伝いくらいは出来るのでは……」
「――いえ」
レヴィンは息を吐いた。そうして、引き出しから一枚の紙を示す。
「そ、その……わ、私の上司から……動くなくてもよい、と。そ、そういう指示が、来てまして……」
「……ゲオルギウス様から?」
マリーベルは、具体的な紙面を見ることはしなかった。言葉のままに受け止めて、動揺に表情を固くした。その事に、レヴィンの胸が少しだけ、痛みを覚える。
「……こ、ここは、要衝の一つでもあります。そ、それに、収穫の時期だからかとは思いますが、亜人達の影も、見えてきていますから……」
だから彼は、短くそう言った。隙間だらけの言葉だが、マリーベルは俯き、ほんの微かに肩を落とす。その横顔を見て、レヴィンは気づかれぬように息を溢した。
最近、こういう時間が増えてきた。
デュニクス騎士団と、デュニクスは順調なのに、どうにもわだかまる。その理由をレヴィンは知っていたが、今はそれについて語るべきではない事も、彼はよく解っていた。
――お恨み申し上げますよ、ゲオルギウス様。
やり場のない感情たまらず、冷えきった紅茶を口に含みつつ、外を見た。
「ぶっ」
「れ、レヴィンさん?!」
燦燦と日を受けて立つ、巨大な影。その頭部に――。
「ぞ、ゾウさん…………?」
「ああ……」
同じものを見て、すぐに雑巾を取り出して机を拭き始めたマリーベルの表情が綻んだ。幾分の少女らしさをにじませながら彼女は、こう言った。
「可愛いですよね」
●
――なんでアタシらがこんなコトになってんだい……。
アカシラ(kz0146)は憮然とした表情を崩さないまま、腕組み仁王立ちしていた。防寒具も不要な頃合いになってきた現状では、コートも不要。肌の露出を隠すことなく、《それ》を睨みつけている。
「本日はお集まり頂き、有難うございます」
樽腹の疾影士の騎士、ポチョムはそんな言葉と共に、場を見渡した。丸っこい顔に人好きのする笑顔を浮かべながら、その弁舌は爽やかに踊る。
「『第六商会』にて開発をすすめて参りました、こちらの機体、本日お披露目の運びとなりまして――皆様、しかとご覧ください!」
その後方には、威容が鎮座していた。
「Gnomeくん、一号にございます!」
す、と身を引く――までもあるまい。その巨体は、ポチョムの巨大な腹をしても隠れようもないのだから。
幅にして8メートル。高さも6メートルを超える大型の鋼鉄の塊だ。巨躯に比して扁平な下半身。その両側には履帯が巻かれた無限軌道となっている。上半身は、人に似た――と言っていい程度には人らしい、それ。ただし、その両手は人のそれとは異なり、鎚であったり、レンチのようなそれであったりする。
その頭部は、はっきりと人外であった。なにせ、ピンク色の象である。全体の作りは剛健といっていい《Gnome》だが、その頭部だけは木製品であることがひと目で知れた。ただ、色彩に比してその写実的な塗装には底知れぬ拘りが感じられたが――兎角、『Gnomeくん一号』と喚ばれたそれは、ポチョムに名を喚ばれると同時にその状態を大きくそらし、両手を天空へと向けV字に掲げた。
どうやら、後ろで人が操っているらしい。
「いやはや! すンばらしい! それからコチラが、二号、そして三号、それから四号、五号になります!」
声に合わせて、一号のやや後方、そして左右に鎮座していた《Gnome》達がそれぞれ左右に両手を掲げて、ポーズをキメている。
ポチョムは独りウンウンと力強く頷くと、ハンター達に向き直った。
「皆さんにはこちら(と人力)で、開墾をしていただきます!」
微妙に何か挟み込んだが、それは、それとして。
「……姐さん、なんすか、ありゃァ」
「うるせェ、アタシに聞くんじゃないよ……」
手下の困惑に、アカシラはつれなく返す。なるほど、大方、意図は読めて来た。アカシラ達は精強な傭兵集団だ。それも、鬼である。こと、力仕事にはお誂え向きだろう。
ハンター達があのオモチャで遊んでいても、さらには、何かしらのトラブルが起こってもアカシラ達だけで仕事を完遂するための安全牌と思われた。
ついでに言えば、アカシラ達も彼女達自身の――特に非戦闘員のための――住処をいずれ拓くことを思えば、あのたわけたゾウ人形も使い出はありそうに見えた。
なんにせよ、仕事だ。銭が出るなら問題は無い。なら。
「――あのオモチャ以上の仕事ぶりを見せてやらなくちゃねェ……」
魔刀に変えて、鍬を持つアカシラは不敵に笑うのであった。
かつて酒の都として名高かったデュニクスは、歪虚住まう土地に近しいことから斜陽の土地となっていた。それが好転し始めたのは、ちょうど一年前のことだ。王国騎士団の介入により、この地に自衛組織が興されてから、この地は変わった。
周囲の脅威を払い、寒村から人を迎え入れ――遂には歪虚に踏み荒らされた農場を再生し、うららかな春を迎えようとしていた。
そんな、ある日の事である。
「なんという……い、いや、幸いでした、と言うべきなのでしょうか」
《デュニクス騎士団》の団長、グラズヘイム王国騎士団は青の隊に属する騎士レヴィンは、執務室で薄い頭を抱えていた。
「……どうしたんですか?」
「はっ!?」
唐突に感じた人の気配に、思わずレヴィンは動揺の声を漏らす。振り返る、と、艶やかな金髪に、曇りのない碧眼の持ち主――マリーベルが、いた。元々美しい少女であったが、この一年で髪が伸び、その容姿に華が添えられている。
ハンター達に依頼した結果応募に掛かった“一般人”の少女だが、十分な教育を受けており、レヴィン達騎士団では秘書を務める才媛であった。
「え、あ、えー、そ、そそそその、これは……」
レヴィンはそんな彼女に、滅法弱い。元々コミュニケーションが苦手な性質のレヴィンだが、それをさっぴいても、なお。
「テスカ教徒の動乱……ですか?」
「え、あー……ま、まあ、はい」
一年を超える付き合いの中で、その点はマリーベルも汲む所なのだろう。レヴィンの直属の部下であるポチョム、ヴィサンを除けば、彼女が最もレヴィンと接している時間は長い。レヴィンにしても、そうだ。彼女の含意を読めないわけでは、ない。
――そこまでお悩みなら、デュニクスからは応援は出さないのですか?
こういうこと、だろう。彼女は理性の人となりであるが、同時に、施しを厭わぬ精神性を持っている。
「幸い、新規参入された戦闘員の方々の練度も高まって来ましたし、ポチョムさんかレヴィンさんを此方に残せば、お手伝いくらいは出来るのでは……」
「――いえ」
レヴィンは息を吐いた。そうして、引き出しから一枚の紙を示す。
「そ、その……わ、私の上司から……動くなくてもよい、と。そ、そういう指示が、来てまして……」
「……ゲオルギウス様から?」
マリーベルは、具体的な紙面を見ることはしなかった。言葉のままに受け止めて、動揺に表情を固くした。その事に、レヴィンの胸が少しだけ、痛みを覚える。
「……こ、ここは、要衝の一つでもあります。そ、それに、収穫の時期だからかとは思いますが、亜人達の影も、見えてきていますから……」
だから彼は、短くそう言った。隙間だらけの言葉だが、マリーベルは俯き、ほんの微かに肩を落とす。その横顔を見て、レヴィンは気づかれぬように息を溢した。
最近、こういう時間が増えてきた。
デュニクス騎士団と、デュニクスは順調なのに、どうにもわだかまる。その理由をレヴィンは知っていたが、今はそれについて語るべきではない事も、彼はよく解っていた。
――お恨み申し上げますよ、ゲオルギウス様。
やり場のない感情たまらず、冷えきった紅茶を口に含みつつ、外を見た。
「ぶっ」
「れ、レヴィンさん?!」
燦燦と日を受けて立つ、巨大な影。その頭部に――。
「ぞ、ゾウさん…………?」
「ああ……」
同じものを見て、すぐに雑巾を取り出して机を拭き始めたマリーベルの表情が綻んだ。幾分の少女らしさをにじませながら彼女は、こう言った。
「可愛いですよね」
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――なんでアタシらがこんなコトになってんだい……。
アカシラ(kz0146)は憮然とした表情を崩さないまま、腕組み仁王立ちしていた。防寒具も不要な頃合いになってきた現状では、コートも不要。肌の露出を隠すことなく、《それ》を睨みつけている。
「本日はお集まり頂き、有難うございます」
樽腹の疾影士の騎士、ポチョムはそんな言葉と共に、場を見渡した。丸っこい顔に人好きのする笑顔を浮かべながら、その弁舌は爽やかに踊る。
「『第六商会』にて開発をすすめて参りました、こちらの機体、本日お披露目の運びとなりまして――皆様、しかとご覧ください!」
その後方には、威容が鎮座していた。
「Gnomeくん、一号にございます!」
す、と身を引く――までもあるまい。その巨体は、ポチョムの巨大な腹をしても隠れようもないのだから。
幅にして8メートル。高さも6メートルを超える大型の鋼鉄の塊だ。巨躯に比して扁平な下半身。その両側には履帯が巻かれた無限軌道となっている。上半身は、人に似た――と言っていい程度には人らしい、それ。ただし、その両手は人のそれとは異なり、鎚であったり、レンチのようなそれであったりする。
その頭部は、はっきりと人外であった。なにせ、ピンク色の象である。全体の作りは剛健といっていい《Gnome》だが、その頭部だけは木製品であることがひと目で知れた。ただ、色彩に比してその写実的な塗装には底知れぬ拘りが感じられたが――兎角、『Gnomeくん一号』と喚ばれたそれは、ポチョムに名を喚ばれると同時にその状態を大きくそらし、両手を天空へと向けV字に掲げた。
どうやら、後ろで人が操っているらしい。
「いやはや! すンばらしい! それからコチラが、二号、そして三号、それから四号、五号になります!」
声に合わせて、一号のやや後方、そして左右に鎮座していた《Gnome》達がそれぞれ左右に両手を掲げて、ポーズをキメている。
ポチョムは独りウンウンと力強く頷くと、ハンター達に向き直った。
「皆さんにはこちら(と人力)で、開墾をしていただきます!」
微妙に何か挟み込んだが、それは、それとして。
「……姐さん、なんすか、ありゃァ」
「うるせェ、アタシに聞くんじゃないよ……」
手下の困惑に、アカシラはつれなく返す。なるほど、大方、意図は読めて来た。アカシラ達は精強な傭兵集団だ。それも、鬼である。こと、力仕事にはお誂え向きだろう。
ハンター達があのオモチャで遊んでいても、さらには、何かしらのトラブルが起こってもアカシラ達だけで仕事を完遂するための安全牌と思われた。
ついでに言えば、アカシラ達も彼女達自身の――特に非戦闘員のための――住処をいずれ拓くことを思えば、あのたわけたゾウ人形も使い出はありそうに見えた。
なんにせよ、仕事だ。銭が出るなら問題は無い。なら。
「――あのオモチャ以上の仕事ぶりを見せてやらなくちゃねェ……」
魔刀に変えて、鍬を持つアカシラは不敵に笑うのであった。
リプレイ本文
●
「噂では聞いていましたけど、ここまで復興が進んでいるんですね」
アーリフラヴィア・エクスドミナ(ka4484)は周囲を眺めて、思わず零す。この地方の出である彼女にとって馴染み深い光景が広がっていた。
晴天。陽の高さや無遠慮な陽射しはもはや夏日、といっても過言ではない。そんな中、黒衣に身を包んだ男が仁王立ちしていた。
「巨大惑星ひとつを丸ごと開墾したこともあるこのデスドクロ様にとっちゃ、猫の額をちょちょいとくすぐるような仕事だなぁオイ!」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。広大な土地を、傲岸不遜にも男は笑い飛ばす。
「……なんだか、凄いこと言ってるわね」
ロベリア・李(ka4206)は苦笑と共に流しつつ、
「こっちはこっちで、可愛くなっちゃって」
視線を転じると、居並ぶGnome達の姿が目に入った。かつて提言もした機体だ。愛着は、ある。
その時だ。
「ロベルトさん!」
土を掘り返した藤堂研司(ka0569)が、発奮していた。
「こいつは……いいぜ!」
「へ?」
ぺろり、と味わう。躊躇いの無い姿にロベルトはたじろぐが研司は気にも留めない。古くは中世ブルゴーニュに伝わる風習である。土を舐める。これ即ち農家の皆さんに対するリスペクトだ。
「元々農地だったからかな!」
「そ、そう?」
「あちこち試してくる!」
(――美味しいんですの?)
Gnomeの造形に魅せられていたチョココ(ka2449)は、飛び込んできた声に超反応を示した。土が美味だとは終ぞ考えたこともなかった。躊躇いつつ足元の土を口に運ぶ。
「うえ」
土以外の何物でもない味に嗚咽がこぼれた。
「はやくご飯にしたいですの……」
「Gnomeに搭乗する人は、よかったら協力してくれないか?」
と、種々の項目を記した用紙を配布したザレム・アズール(ka0878)は、そ、とGnomeに触れてみる。
「機導師冥利につきるよ」
丁寧に打たれた鉄の感触に緩む口元は、どうにも抑えようがなかった。
「試用段階に入ってきたとなれば正式な運用までもう少し……」
傍らで、アルルベル・ベルベット(ka2730)が神妙につぶやく。どこか嬉しげなのは、技術の有効利用を善きものとしているからだろうか。
しかし、ふいに眉根を寄せて、こう呟いた。
「でも、お高いんでしょう?」
近づく気配に、アカシラは素早く目を走らせた後、『それ』を受けいれた。
「姐貴――っ!!」「姐さ――ん!」
声は二つ、しかし、衝撃は三つ。アカシラの背に次々と飛びついてくる小柄な鬼たちをアカシラは苦笑と共に受け止める。
「っと、ユキトラじゃないか」
「久しぶり! 今回はよろしくな! あっ、こっちは鎬鬼とアクタ!」
「俺達もカイコン手伝うぞ! よっしくなー!」
長い白髪を流すユキトラ(ka5846)はアカシラの左肩にしがみつき、右肩と腰に抱きついている鎬鬼(ka5760)とアクタ(ka5860)を指差した。片手をブンブンと振り回しながら快活に言う鎬鬼に「耳元で叫ぶんじゃないよ」と苦笑を深めるアカシラは、最後の一人、腰に掴まっているアクタをむんず、と掴みあげると、軽々と持ち上げる。目線の高さまで持ち上げられたアクタはへらり、と笑って、
「お姉さん、よろしくねー」
と、動じる様子もない。幼さの残る容姿に、少しばかり胸が痛んだが、快活に見える笑みと共にアカシラはこう応じた。
「おゥ、よろしくさね」
この日、ウィンス・デイランダール(ka0039)は燃えていた。
――俺はもう負けられない、負けるわけにはいかない!
――この背を見つめ、肩を並べるグロウナイトの仲間が!
――遥か先にいる……あいつや、あいつやあいつに追いつく為に!
以上、独白。ピンク色の象さんヘッドを睨みつけながら、傲然と槍を差し向けた。
「ゴーレム、てめえには負けねえ……!」
「盛り上がっとるのう」
ウィンスの様子に、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)はコロコロと笑い声を上げた。
「はて、さて……」
Gnomeは順番待ちだ。なら、その前に一仕事しておきたい。
「ロベルト、ソフィア、我はどこへいけばよいかのぅ?」
地図を眺めて打ち合わせをしているソフィア=リリィホルム(ka2383)とロベルトに向かって問いかける。
「そうですねー」
かつて農業用地を中心に、今回は以前よりも随分と広く用地をとるらしく、各所には大岩や廃屋などが残っている。貯水池や用水路の設定や、作業区画の整理を事前にやっておくために図面と向き合っていたのだが、
「このあたりとか、どうでしょうか!」
ソフィアは躊躇いなく、岩石が多い一帯を指差した。
●
いよいよ、開墾が始まった。
「ぁー」
真っ先にGnomeに乗り込んだ小鳥遊 時雨(ka4921)はへなへなと崩れ落ちた。グルングルンと世界が回る。口元を押さえながら、新鮮な空気を求めて深呼吸。
「……よく、わかんないなぁ」
彼女が見送る先。Gnome達が所定の位置へと移動していた。じ、と。時雨は嘔気をこらえながら、刻令術の技師たちの動向を見張ることにした。
だが。
「あ、無理」
その口元から、虹が咲いた。
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は、両の手に渡された鍬を見て、目を光らせた。
「この鍬をこうもってぇ。ドゥルンドゥルン振り回して耕すわけよぉ」
「わかったー」
「おー、がんば……ん?」
開墾の仕方を鵤(ka3319)に尋ね、その講釈を受けたメオはぞんぞんぞん、と足元を掘り下げていく。鵤は一瞬呆気に取られたが、あっという間に臍のあたりまで掘り進めたメオを見て、ゲラゲラと笑い出した。
「すごいなぁオイ!」
「でしょー」
鵤の喝采に、メオは目を細めて、ふんす、と鼻息一つ。
しかし。
「でもなー、違うんだよねぇ」
普段ならメオの大ボケを受け入れもしようが、今日の鵤には大望があった。
メオにはちゃんと働いてもらわねばならない。
――全ては、彼がサボるために。
「土を耕すのね……冬籠りの穴熊だってもう起きてるもの。きっと賑やかになるわ」
雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリアは今日も絶好調である。日傘を肩にかけ、慣れた手つきで泥団子を作っている。
「ねぇ」
「……はい」
何も自分でなくてもいいのに、と刻令術の技師は困り顔で見下ろした。
「耕したら何を植えるの? 野良犬かしら?」
「備蓄用として、麦の増産を図るのかもしれません」
生真面目にそう答えたところで、眼鏡を曇らせた。
「野良犬?」
「おねえさんが館の裏に植えていたの。とっても賑やかなのよ」
「はぁ」
「よし、と」
アルルベルはドリルで耕運予定地に目印用の穴を開けていく。どうせGnomeは順番待ちである。段取りよく、かつ正確に作業をするための一手間だ。散在するGnomeの巨体が遠景にある。ふと、少女の眉根が怪訝げに寄せられた。
「何だあれは……」
爆走している象さんヘッドが目に入った。
土煙をあげてザレムが操縦するGnomeが奔る。
「……っ!」
刻令術は『事前に設定された行動を』取る魔術だ。進展に伴い、複数系統の行動を同時に発現させることで似たような事はできても、ドリフトやそれに近しい走行は困難極まる。耕運しながら、となるとなおのこと。
「とはいえ、耕運は効率的だ……!」
走行性は高くはないが予定されている機能については高水準だと感じた。
「次は耐久テストといこうか」
Gnomeのマニピュレーターに手を延ばし――集中させる。
「《超重錬成》」
機体の荷重耐性を確認する意図があったのだが、残念ながら、機体経由での発動は果たせなかった。
「発動しなかったか……ん?」
視線を感じて、見下ろした。
「降りて来て下さいますか? お話があります」
刻令術の技師が眼鏡の奥で目を細めて、そう言った。
この後、滅茶苦茶怒られた。
「と、まぁ、無茶はザレムさんがしてくださいましたので」
へっへ、と笑いながら、Gnomeに乗り込むソフィア。操縦は無線式のリモコンである。ボタンの数は多く、その点は少し煩雑ともいえた。少しばかりCAMと相似性はあるのだが――兎角。
「発進! かーらーの!」
進み出すGnomeに捕まりつつ、見渡す。進路方向は自動で耕せそう。手持ちの魔導鋸に機導術を用いて並行しての耕運をしようと思った、のだが。
「はっ」
どうやら、準備を怠っていたらしい。一向に発動せず、哀しみに暮れた耕運に勤しむことにした。
「……落ち着いたら休憩所、作りましょうね、Gnomeさん……」
「空に旋風、天に雷光。輝く刃はこの腕に」
岩井崎 旭(ka0234)がそんな『詠唱』をした時、彼の精霊であるミミズク姿の『先生』はやれやれとどこぞへと飛び立ってしまった。
全身鎧姿の『師匠』はついぞ姿を表さない。
「耕す魂はこの胸に!」
構うもんか。全力全壊、である。男だって疲れるんだ。息抜きの一つや二つ無くては困る。
「行くよ、ウラガンクーペ!」
掲げた、その時だ。光が旭を包んだ。
「魔法少女リリ◯ルあさひッ、やってやるぜええええっ!」
「ま、魔法少女……?」
旭のはしゃぎっぷりに、麦わら帽子姿のミィリア(ka2689)は驚嘆した。日焼け対策に勤しんでいる間に、一体何が在ったというのか。しかも、サムライよりも一癖ありそうな名称である。むくむくと、ミィリアの胸の裡で叛逆心が湧き上がってくる。
「兼元!」
愛馬の名を呼ぶと、すぐに返事が返る。たまらなくなって、すぐに飛び乗った。
「行こ……わわっ!」
走らせようとすると麦わら帽子が風に翻り吹き飛びそうになる。刹那の判断で帽子を死守。落馬寸前で姿勢を整える。
「ふー」
ミィリア、◯◯歳。お肌はもうすぐ曲がり角。
●
Gnome共々各地に散開しての作業は順調に進む。
「ちょっと慣れがいるねー」
「さすが蒼世界のカラクリ……かっけぇ! 俺も!」
Gnomeでひとくさり開墾してみた感触を告げるアクタが降りると、待ちかねたように鎬鬼は飛び込んでいった。
「蒼世界のカラクリこれやべえ……!」
ちなみにGnomeは蒼世界のカラクリではないのだが、指摘する人物はいない。
「乗り心地はどんな感じだー!?」
3人の中で“ただ一人”人力で開墾しているユキトラの声に、鎬鬼は我に返った。
「ガツガツ耕せる! 全然疲れねえ!」
「なにぃ……!」
ブツブツと呟くユキトラだが、しかし、すでに鎬鬼の眼中には無かった。その頃にはもう、遥か後方に置き去りにしている。
「くぁぁ! 後れを取る訳にはいかねえ! 白鬼の働きっぷり、お天道様もとくとご覧あれってんだ! そいやあああああ!」
悔しげにひとつ吠えたユキトラは、その背を追って鍬を振るい始めた。
「頑張るねー」
「あっ! おかえりなさい!」
アクタはフラフラと休憩所にたどり着くと、カリンが迎えた。外見は掘っ立て小屋に近しいが、ソフィアとカリンがGnomeを利用して建築したものだ。
強い陽射しを遮るには十分――と思いきや、内装は出来合いのものとは思えないほど、確りとしている。
「すごいですよねっ! ソフィアさんがパパパッとやってくださいました!」
「はいただいまー……あれ、食べ物?」
「はいっ! それはアシェールさんが置いていってくださいましたよー」
「働くなー」
「私も、頑張らなくちゃです……ゆっくり休んでくださいねー!」
言うなり、Gnomeを操って去っていくカリンを感嘆と共に見送り、いよいよ手持ち無沙汰になっていると、鵤がやってきた。手には、既に酒。
「やー、お邪魔するよぉ」
「ん、どうぞー」
「休憩中? ね、あれ見てご覧よぉ」
ヘラヘラと笑う鵤は、遠景、メオを指差した。
「いやーさっすがめおし丸ちゃんだわぁ。みろよあの腕の回転率」
「あはは、すっごいねー」
両手に鋤を持つメオが、ぞぞぞぞ、と鋤をぶん回しながら土煙を上げている。
――みんな頑張ってるんだなあ。
隣のおっさんはさておき、そんなことを思ったアクタは雑談もそこそこに切り上げていくつか食料と飲料を掴み上げる。
「じゃ、ボクも戻るねー」
「ほーい」
鵤にしても、特に気にせず、見送った。彼は彼で、やることがあったからだ。
「さ、て……」
幸い、ただただサボるような不心得者は鵤以外には居ないらしい。
じつ、と。Gnomeを観察し始める。
働け。
●
土と鉱石と共に生きてきた種族となれば、その適性は土仕事にもあるのだろう。
「さて」
「ン?」
力強く大地を耕していたフラメディア・イリジア(ka2604)は手にする鍬を掲げると、アカシラに声をかけた。
「農具をちゃんと扱った方が丁寧に扱えるぞ?」
「いやぁ……苦手なのさ」
「だろうと思いました!」
横合いから、声。慌てて振り向いたアカシラに、ずい、と差し出されたのは、大ぶりな鍬。
アシェール、である。
「鍬と一言で言っても色々種類があります。目的に応じて選びましょう! とりあえず、アカシラさんには、これで!」
「お、ぉぅ……?」
「使い方は……フラメディアさん、お願いします!」
「あい、任されよう」
慌ただしく、アシェールは告げる。無理もない。各地でお手伝いをしようとなると、この土地では身体がいくつあってもたりない。
「お酒は水分にはなりませんからね! 適度な水分栄養補給と休憩を忘れずにです! よ!」
そのまま、駆け足で何処かへと走り去っていった。
「……おぉ」
唖然として見送ったアカシラにフラメディアは笑いかけると、
「簡単じゃよ、我がやるように、まずは真似るところからじゃ」
さっそく、指導を賜ったのだった。
その後暫くして、何とか様になってきたころ。
「なあ」
「む?」
「……あんな感じじゃだめなのかい?」
視線の先には、Holmes(ka3813)が居た。身の丈を遥かに超える大鎌を手に、そ、と踏み込んだ。
「――と」
足取りは軽く、しかして、結果は凄烈であった。彼女の周囲の大地が爆ぜるように撹拌され、耕される。
大地と《気》を合わせての巧みの技だ。視線に気づいたHolmesは微かに笑んだ。どこか誇るような表情、まだまだ若い者には負けないよ、と嘯くようでもある。
「ぐぐ……っ」
「まずは基本からじゃよ」
アカシラの負けん気が刺激される様をHolmesとフラメディアは視線を絡めて苦笑したのだった。
「しかし……」
Holmesは手元の鎌を見つめて、ぽつと零す。敵ではない相手に得物を振るう感触が、残る手を。
「……ただの土塊を相手するというのも、何だか新鮮な気分だね」
「ほっ! ほっ! ほっ!」
万力を体に漲らせて、里見 茜(ka6182)は土を耕し続ける。少女らしい外見とは裏腹に、そこに籠められた力はいかほどの物か。硬く踏み均された土が容易く解れていく。
「あっ、ミミズ! えへへ、きっと良い土になりますね……!」
そいそいそい、と鍬を振るいながら遅滞なく進んでいく茜であったが、不意にその目が止まった。
「あ。ナメクジさん」
めくり上がった土に今まさに落ちてゆくナメクジを。
「えいっ」
害虫死すべし。慈悲はない。茜の拳は容赦なく撃ち貫いた。
スパァンと快音が響く中、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)の歩みは鈍い。肌に馴染んだ王国の空だが、今ばかりは胸に痛い。ならば体を動かそう――そう思って望んだ開墾で、彼は。
まず、服を脱いだ。
「攻め攻めだぜ……ファースト☆マッスルゥ!」
サイドチェスト。鍛え上げた体は、既に汗でテラテラである。
「からのぉ……セカンド☆マッッスル!!」
轟、と獅子の咆哮に似た気配と共に、ジャックを中心にマテリアルが爆ぜた。此処まで1mm足りとも耕していない。そこで、ジャックは鍬を二つ、取り出した。
「鍬二刀流かぁらぁのぉ……ファイナル☆マッッッスル!!!」
大上段からの振り下ろし――からの、フロントリラックス。ここまで30秒。耕したのは僅か前方一回分。
「……何をしてるんです……?」
「はっ!?」
その横を、さーーっと馬が抜けて行った。アーリフラヴィアである。馬鍬を引く愛馬に跨りながら、怪訝そうに見つめられると、ジャックは思わずその大胸筋を両腕で隠した。
「えっ、あっ、いや、これはなっ!?」
「んー……土作りも終わらせるには、ちょっと時間が足りませんね」
とはいえ、彼女の興味はこの土地の復興に大きく偏っていた。ジャックの挙動不審は空振りのまま後方に置き去りにしていくのであった。
●
自称霧の魔女、となれば、魔法を扱う。
ヴィルマの魔術は何れも破壊に特化していた。請われるままに足を向け、遮る全てを破壊してきた。今も、そうである。
「こやつは中々頑丈だったのう」
4発目の炎球でアカシラの部下たちが掘り出した大岩を破壊し尽くすとヴィルマは額に滲んだ汗を拭った。霧らしい魔法はただの一つも放つことは無く、まごうこと無く破壊者としての姿をお日様に晒す。
「どかーん!」
チョココもまた、彼女に続いていた。ヴィルマと比べれば威力に劣るが、景気よくアチラコチラで爆砕爆滅させていた。いまも、廃屋を灰燼に帰せしめたところである。
「ふー……」
「そろそろ休んではどうじゃ?」
とはいえ、流石に一八回も魔法を放てば打ち止めであった。空腹のほうも、限界に近い。お腹を抑えて息を吐くチョココにヴィルマが笑いかけながらそう言うと、少しばかり気まずそうな表情を見せた後、
「はいですの!」
いうなり、休憩所へと駆け出していった。ヴィルマは優しげにその背を見送ると、杖を掲げる。
「どれ……我もGnomeに乗るまで、もうひと踏ん張り、といくかの!」
Gnomeのうち二機は用水路と貯水池の作成にとりかかった。土地が広大に過ぎるため、現地の人間に確認の上の措置である。Gnomeは胴部に据えられたコンテナから材料となる木材を取り出し、壁在として設置することで作業を進めていく。
「結構、位置取りが難しいかもです……!」
Lモードでなければ置いていかれる心配もないので、有効距離なら搭乗する必要もない。離れた場所からリモコンを操作して一列ずつ壁を打ち立てていくカリンが汗を拭いながら言うのを、ザレムは手元の紙に書き留めていく。
「でも、出来ないことはない感じです!」
難しいが、位置取りをすることで対応しさえすれば、問題はない。それに。
「細かい所は俺に任せろー!!」
Gnomeがあげる建築音に負けぬ声量が、足元から響いた。Gnomeが作業したそばから、細かな工事をしている研司である。細かな樋を作ったり、用水路の壁材の細かな位置調整を行っている。
「ゴーレム単品じゃ無理でも、人とゴーレム、両方あわせりゃ力は無限さ!!」
「――いや、でも、早いですね。全然楽ですよこれ」
喝采を上げる研司の傍ら、必要な資材の調整や具体的な指示をするソフィアが太鼓判を押すと、
「……確かに、その通りだね」
ザレムは頷き、その点も書き留めておくのだった。
「あれって、どうやってるの?」
そんな様を眺めている技師のもとを、時雨は尋ねた。
「基本は魔術ですね。予め設定されている行動を再現するだけのものですが、組み合わせる事で、種々の行動を可能にしていて――」
――ふぅん。
通り一辺倒の《刻令術》の説明を聞きながら、少女は黙考する。彼女のノゾミに、叶うものかを測るために。
●
ウィンスは苦戦を強いられていた。
「ハァッ、ハァッ、……ッ!」
粗い息が溢れる。Gnomeは遥か彼方にあった。鼻先からか細い煙を上げるGnomeを敵と定めていたが追いつけそうにもない。
「ガーッハッハ! この線香との組み合わせ、凄まじいじゃねえか! 農業革命おこるんじゃねコレ……!」
彼方にあるのにもかかわらずGnomeの肩に搭乗するデスドクロの高笑いが響いていた。とはしゃぐデスドクロ自身はウィンスの事を眼中にも入れていないのだが――しかし。
「《爆氷》ォ!!」
氷柱の如きマテリアルの衝撃で綺麗に耕された地面を踏み、
「くっそァァァァァっ!」
吐き棄てて、遮二無二足を進める。そうこうしているうちにジャックの背が目に入った。どうやら、追いついたらしい。
――それでも、Gnomeには至らぬのだ。
と、そこで。
「4度目のセカンド★マッスルゥゥッ!」
ジャックは獅子の如く、そう咆哮した。
何となく。
腹立たしかった。
ゆらり、と。幽鬼の如くジャックの至近に踏み込む、と。
「ファイナルゥッぶふぁああっ!?」
「邪魔だ金髪馬鹿コラァァァッ!」
叫ぶジャックごと、《爆氷》。
後には、彼方まで吹き飛ばされるジャックの悲鳴が高く残ったのだった。
豪快にして痛快、バッサバッサと土砂が舞い上がる!
「空を翔けるは我が翼、地を揺るがすは我が刃!」
風切る巨斧!
土属性っぽい大地を風属性が爆滅する!
「捻れて集え、大嵐! 撃ちて砕いて吹き荒rぐわーーっ!?」
無念! 魔法少女真っ盛りの旭が、文字通り風に乗り吹き飛ばされてしまった!!
「な、なにを!?」
「汚しすぎ土撒きすぎ帽子飛ばし過ぎ……!!」
身を起こした旭のもとに泥まみれのミィリアが肩を怒らせて駆けよってきた。彼女の周囲の土砂がこれまた激しくめくれており、旭はその土砂に飲み込まれてしまったらしい、と知る。
「日焼けしちゃう……!!」
見れば、彼女の愛馬、兼元さんも土砂にまみれて不満気だった。
「え? あ……いやぁ」
あれやこれやと言い訳めいたモノは浮かんだが、馬まで汚してしまった事には胸が痛む。気持ちは魔法少女になっても、馬を愛する心は忘れなかった。謝罪するように頭を下げた旭は、顔を上げると。
「あっちで続きをしてくる!」
「え、ええ……っ!?」
動揺するミィリアを置いて、駆け出した。まだまだ遊び足りなかったらしい。
●
「よーーーし、こっから此処は俺の陣地な!」
鍬でざざっと線を引いた鎬鬼がそう言った、直後の事だった。
「ヒッ!?」
ゾン、と。眼前に鍬が落ちてきた。股間を、さわやかな風が撫でる。すぐに、犯人が解った。
「アクタ――! お前かぁぁぁ!」
「ごっめーん、ほらボクか弱いからさー」
へら、と笑うアクタだ。悪びれもせずに言うアクタだが、少しは働いてみよう、としてみたらしい。
結果はこの通り、であったが――そのまま、手にした食べ物や飲みモノを差し出す。
「アクタ、お前どっかに行って……って、おおう差し入れ! ありがとな!」
目ざとくそれを見つけたユキトラは、ご満悦の表情であった。空腹を感じていたらしい。
「疲れたし、休憩にしよー?」
「「…………」」
にへら、というアクタが最も働いていない気がしたのだが、二人は深くは追求しないことにした。
長い、付き合いだ。
「おう!」
●
――そんなこんなで賑やかに開墾は進み、所定の土地をきっちりと耕し、用水路まで引くことができた。
結果として時間はかかったものの、夕暮れ時には宴を迎える事ができたのだった。
●
トン、とジャックの前に多量の料理が並べ置かれた。給仕はウィンス。片腕に五つ載せた盆に、その倍の皿を載せていた。
「……お待たせしたが何かァ!?」
流石に、ジャックを謂われなく吹き飛ばしたことは咎められたらしく、主にジャックの仕事で 『完敗しましたが何かァ!?』と書かれた腕章がつけられた。
「オイオイ、そこはお待たせしました、ジャック・J・グリーヴ様。先程は大変粗相をブハアアアッ!?」
「上等だてめェ……ぶん殴る!!」
――乱闘か! やれ! 殺せ! ぶちのめせ!!!
そんな二人を、アカシラの部下たちは一斉に囃す。瞬く間に、和やかな宴会場は騒々しい場末の酒場レベルまで落ち込んでいた。わいのわいのと、夫々のグラスに乱雑に酒を注ぐ様をみたアシェールは、「手酌はダメですよっ!」と酒瓶を手に駆けよっていく。可憐な少女の酌である。鬼は満面の笑みを浮かべて応じた。
「ありがとよ……「あわわっ!」ぶわっ」
お約束のように転倒するアシェールの手で大惨事となっていたが、アカシラはそんな様を愉しげに見つめ笑っていた。
「ゴハン、美味しいですねっ!」
「お……ああ、そうさね。こっちの飯にもようやくなれてきたよ」
えへ、と笑う茜に、アカシラは笑みを返した。アカシラはどうにも、年下の鬼には甘い。そこには、かつて彼女が犯した罪がある。鬼たちの地位を貶めた、という。
しかし。
「私、気にしてないですからねっ?」
茜は、その胸中を汲んだか、そう言った。そう言う鬼や東方の人間も少なくない事を、アカシラは――有難い事に――知っていた、のだが。
「悪いのは全部、妖怪――歪虚ですから」
には、と歯を見せて、頬にパスタのソースを付けて笑う少女は続けた。
「アカシラさんは、ただの一つも悪く無いですっ」
「そうじゃないさ」
「そうですよっ!」
訂正しようとしたアカシラを、茜ははっきりと遮ると有無を言わさぬ口調でこう結んだのだった。
「ね、笑いましょっ。せっかくのゴハンがおいしくなくなっちゃいますっ」
「あの二人は相変わらずだね」
「そうじゃのう……」
ころころ、と笑うHolmesに、ヴィルマも引き出されるように笑った。
「メオ殿もがんばったようじゃの?」
「んー、たかし丸もねー」
そうしてメオに水を向けると、メオはふんす、と胸を張るようにしながら、泥に塗れボロボロに草臥れたたかし丸を差し出してみせた。
「……少しばかり、同情しなくもないけどね」
「え? いやいや、俺は何も言ってないよぉ?」
Holmesの含みのある視線に、メオに渡したっきり鍬を一度も握っていない鵤はさも心外そうである。
「君がそう言うのなら、それでいいけどね」
まっ白な鵤の白衣を見つめて笑うHolmesもまた、追及はせずに酒を味わうのだった。
「くーっ、染み渡るぅ~! 一仕事のあとの晩酌最高ー!」
「良い飲みっぷりじゃのぅ」
互いに酒を注ぎながら、ミィリアとフラメディアはご満悦であった。
「やはり、働いた後の酒はまた格別じゃなぁ!」
「ホントに! ……旭は飲まないの?」
「ぁー」
「旭さん、だいぶ頑張ってましたもんねー!」
はしゃぎ過ぎた旭は軋む体を机と椅子にあずけて死人のようになっている。隣で介護していたカリンが苦笑しながら、その身体を揉みほぐしていた。
「おぉぅ……」
「お酒もいるー?」
けらけら、と笑いながら、ミィリアは取り分けたピザを旭の口元に運んだ。面倒見のよい女性たちに囲まれつつも。
「おぉ、ぅ……」
どうやら動けそうにもない。最後にそう呻いて、差し出されるままに咀嚼するのであった。
「ンめ……!」
「あはは、そんなに慌てなくても誰も取らないよー?」
「いや、あれを見ろ!」
「……おぉ」
鎬鬼とユキトラがガツガツと飯を平らげるのをアクタは窘めたのだが、指差す先、二人に伍する勢いで食し続けるチョココがいた。積み上げられた空いた皿を見ると、アクタは目を細めた。
「……食べ過ぎじゃない?」
「まー、美味いからな!」
「皆で食うから尚更だな♪」
そんな風に満足気な二人を眺めて、アクタはくすりと笑った。
「じゃ、ボクもご相伴……」
「おう!」
「はー……今日耕した土地で、今度は美味い野菜が採れっといいなー」
「そうだねー……」
「そいや、あのゾウ人形どうだったんだ?」
「あー! ゾウ人形な、うぃーんてなってな! がががって地面掘り起こすんだ!!」
「あはは、雑な説明~」
3人の、異国での楽しい時間が過ぎていく。
●
「あら、来てたの」
「おねえさん、あのね、わたしパンケーキが食べたいわ。3つ重ねて寝坊のバタと昼下がりの蜜をかけた奴!」
盛況につき給餌に出ていたキャシーに、フィリアは僅かに頬を染めて、いう。
「溶けたバターとはちみつたっぷりね、ハイな♪」
調理されている間、フィリアは開墾された土地を眺める。斜陽の中、広大に耕された彼の地を。
「……植えるなら、不毛じゃないのね」
そこで、少女の目がまん丸く変わった。
「――あら、そうね。きっと耕せば良いんだわ。教えてあげなくちゃ!」
どうやら、不穏な気付きを得たようであった。
●
「んー……意外と損耗は激しくないね」
相当な無茶をしたザレム本人の言葉だけに技師や職人が聞いたら発狂しそうではあるが、
「この子、もともとの機能にかなり制限されてるからみたいね」
ロベルトはいっそ嬉しげに応じた。
「相応に負荷が掛かる所には配慮されてるのね」
「しかし、なぜゾウの頭なのだろう……?」
二人と同じく機体を眺めていたアルルベルがぽつ、と呟いた。事情を知るロベルトが笑みを零す。
「サービス精神、かしら」
「確かに、機能面で考えたら、この機体には頭部は不要だろうしね」
ザレムが頷いた、その時だ。
「そうか……私は、無限軌道だけでも十分可愛らしいと、思うのだが……」
「「……」」
二人とも、どちらかと言うと機械愛は深い方では在ったが、そういう発想は無かった。
「……そうね、可愛いかもしれないわ」
ただ、ロベルトはいたずらに少女の心を乱さないように、そう結んだ。
●
「3年もすれば、また出荷量が増えそうですね」
愛馬の背を撫でながら、アーリフラヴィアはハンター達とGnomeの手によって広く耕された土地を嬉しげに見渡した。着実な歩みと疲れが、今はとても心地よい。
ふと。その視線が、止まった。
「……時雨さん……?」
暗がりで良く見えないが、ザレム達が離れた後、Gnomeの足元に立ち、機体を見上げる姿が目に入ったのだった。
物想うように機体に触れる少女は、黄昏時に消え入るように、儚くて。
――くふふ。
時雨は、笑っていた。
それが、何かに期待するように。あるいは、祈るように、アーリフラヴィアには、見えたのだった。
「噂では聞いていましたけど、ここまで復興が進んでいるんですね」
アーリフラヴィア・エクスドミナ(ka4484)は周囲を眺めて、思わず零す。この地方の出である彼女にとって馴染み深い光景が広がっていた。
晴天。陽の高さや無遠慮な陽射しはもはや夏日、といっても過言ではない。そんな中、黒衣に身を包んだ男が仁王立ちしていた。
「巨大惑星ひとつを丸ごと開墾したこともあるこのデスドクロ様にとっちゃ、猫の額をちょちょいとくすぐるような仕事だなぁオイ!」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。広大な土地を、傲岸不遜にも男は笑い飛ばす。
「……なんだか、凄いこと言ってるわね」
ロベリア・李(ka4206)は苦笑と共に流しつつ、
「こっちはこっちで、可愛くなっちゃって」
視線を転じると、居並ぶGnome達の姿が目に入った。かつて提言もした機体だ。愛着は、ある。
その時だ。
「ロベルトさん!」
土を掘り返した藤堂研司(ka0569)が、発奮していた。
「こいつは……いいぜ!」
「へ?」
ぺろり、と味わう。躊躇いの無い姿にロベルトはたじろぐが研司は気にも留めない。古くは中世ブルゴーニュに伝わる風習である。土を舐める。これ即ち農家の皆さんに対するリスペクトだ。
「元々農地だったからかな!」
「そ、そう?」
「あちこち試してくる!」
(――美味しいんですの?)
Gnomeの造形に魅せられていたチョココ(ka2449)は、飛び込んできた声に超反応を示した。土が美味だとは終ぞ考えたこともなかった。躊躇いつつ足元の土を口に運ぶ。
「うえ」
土以外の何物でもない味に嗚咽がこぼれた。
「はやくご飯にしたいですの……」
「Gnomeに搭乗する人は、よかったら協力してくれないか?」
と、種々の項目を記した用紙を配布したザレム・アズール(ka0878)は、そ、とGnomeに触れてみる。
「機導師冥利につきるよ」
丁寧に打たれた鉄の感触に緩む口元は、どうにも抑えようがなかった。
「試用段階に入ってきたとなれば正式な運用までもう少し……」
傍らで、アルルベル・ベルベット(ka2730)が神妙につぶやく。どこか嬉しげなのは、技術の有効利用を善きものとしているからだろうか。
しかし、ふいに眉根を寄せて、こう呟いた。
「でも、お高いんでしょう?」
近づく気配に、アカシラは素早く目を走らせた後、『それ』を受けいれた。
「姐貴――っ!!」「姐さ――ん!」
声は二つ、しかし、衝撃は三つ。アカシラの背に次々と飛びついてくる小柄な鬼たちをアカシラは苦笑と共に受け止める。
「っと、ユキトラじゃないか」
「久しぶり! 今回はよろしくな! あっ、こっちは鎬鬼とアクタ!」
「俺達もカイコン手伝うぞ! よっしくなー!」
長い白髪を流すユキトラ(ka5846)はアカシラの左肩にしがみつき、右肩と腰に抱きついている鎬鬼(ka5760)とアクタ(ka5860)を指差した。片手をブンブンと振り回しながら快活に言う鎬鬼に「耳元で叫ぶんじゃないよ」と苦笑を深めるアカシラは、最後の一人、腰に掴まっているアクタをむんず、と掴みあげると、軽々と持ち上げる。目線の高さまで持ち上げられたアクタはへらり、と笑って、
「お姉さん、よろしくねー」
と、動じる様子もない。幼さの残る容姿に、少しばかり胸が痛んだが、快活に見える笑みと共にアカシラはこう応じた。
「おゥ、よろしくさね」
この日、ウィンス・デイランダール(ka0039)は燃えていた。
――俺はもう負けられない、負けるわけにはいかない!
――この背を見つめ、肩を並べるグロウナイトの仲間が!
――遥か先にいる……あいつや、あいつやあいつに追いつく為に!
以上、独白。ピンク色の象さんヘッドを睨みつけながら、傲然と槍を差し向けた。
「ゴーレム、てめえには負けねえ……!」
「盛り上がっとるのう」
ウィンスの様子に、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)はコロコロと笑い声を上げた。
「はて、さて……」
Gnomeは順番待ちだ。なら、その前に一仕事しておきたい。
「ロベルト、ソフィア、我はどこへいけばよいかのぅ?」
地図を眺めて打ち合わせをしているソフィア=リリィホルム(ka2383)とロベルトに向かって問いかける。
「そうですねー」
かつて農業用地を中心に、今回は以前よりも随分と広く用地をとるらしく、各所には大岩や廃屋などが残っている。貯水池や用水路の設定や、作業区画の整理を事前にやっておくために図面と向き合っていたのだが、
「このあたりとか、どうでしょうか!」
ソフィアは躊躇いなく、岩石が多い一帯を指差した。
●
いよいよ、開墾が始まった。
「ぁー」
真っ先にGnomeに乗り込んだ小鳥遊 時雨(ka4921)はへなへなと崩れ落ちた。グルングルンと世界が回る。口元を押さえながら、新鮮な空気を求めて深呼吸。
「……よく、わかんないなぁ」
彼女が見送る先。Gnome達が所定の位置へと移動していた。じ、と。時雨は嘔気をこらえながら、刻令術の技師たちの動向を見張ることにした。
だが。
「あ、無理」
その口元から、虹が咲いた。
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は、両の手に渡された鍬を見て、目を光らせた。
「この鍬をこうもってぇ。ドゥルンドゥルン振り回して耕すわけよぉ」
「わかったー」
「おー、がんば……ん?」
開墾の仕方を鵤(ka3319)に尋ね、その講釈を受けたメオはぞんぞんぞん、と足元を掘り下げていく。鵤は一瞬呆気に取られたが、あっという間に臍のあたりまで掘り進めたメオを見て、ゲラゲラと笑い出した。
「すごいなぁオイ!」
「でしょー」
鵤の喝采に、メオは目を細めて、ふんす、と鼻息一つ。
しかし。
「でもなー、違うんだよねぇ」
普段ならメオの大ボケを受け入れもしようが、今日の鵤には大望があった。
メオにはちゃんと働いてもらわねばならない。
――全ては、彼がサボるために。
「土を耕すのね……冬籠りの穴熊だってもう起きてるもの。きっと賑やかになるわ」
雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリアは今日も絶好調である。日傘を肩にかけ、慣れた手つきで泥団子を作っている。
「ねぇ」
「……はい」
何も自分でなくてもいいのに、と刻令術の技師は困り顔で見下ろした。
「耕したら何を植えるの? 野良犬かしら?」
「備蓄用として、麦の増産を図るのかもしれません」
生真面目にそう答えたところで、眼鏡を曇らせた。
「野良犬?」
「おねえさんが館の裏に植えていたの。とっても賑やかなのよ」
「はぁ」
「よし、と」
アルルベルはドリルで耕運予定地に目印用の穴を開けていく。どうせGnomeは順番待ちである。段取りよく、かつ正確に作業をするための一手間だ。散在するGnomeの巨体が遠景にある。ふと、少女の眉根が怪訝げに寄せられた。
「何だあれは……」
爆走している象さんヘッドが目に入った。
土煙をあげてザレムが操縦するGnomeが奔る。
「……っ!」
刻令術は『事前に設定された行動を』取る魔術だ。進展に伴い、複数系統の行動を同時に発現させることで似たような事はできても、ドリフトやそれに近しい走行は困難極まる。耕運しながら、となるとなおのこと。
「とはいえ、耕運は効率的だ……!」
走行性は高くはないが予定されている機能については高水準だと感じた。
「次は耐久テストといこうか」
Gnomeのマニピュレーターに手を延ばし――集中させる。
「《超重錬成》」
機体の荷重耐性を確認する意図があったのだが、残念ながら、機体経由での発動は果たせなかった。
「発動しなかったか……ん?」
視線を感じて、見下ろした。
「降りて来て下さいますか? お話があります」
刻令術の技師が眼鏡の奥で目を細めて、そう言った。
この後、滅茶苦茶怒られた。
「と、まぁ、無茶はザレムさんがしてくださいましたので」
へっへ、と笑いながら、Gnomeに乗り込むソフィア。操縦は無線式のリモコンである。ボタンの数は多く、その点は少し煩雑ともいえた。少しばかりCAMと相似性はあるのだが――兎角。
「発進! かーらーの!」
進み出すGnomeに捕まりつつ、見渡す。進路方向は自動で耕せそう。手持ちの魔導鋸に機導術を用いて並行しての耕運をしようと思った、のだが。
「はっ」
どうやら、準備を怠っていたらしい。一向に発動せず、哀しみに暮れた耕運に勤しむことにした。
「……落ち着いたら休憩所、作りましょうね、Gnomeさん……」
「空に旋風、天に雷光。輝く刃はこの腕に」
岩井崎 旭(ka0234)がそんな『詠唱』をした時、彼の精霊であるミミズク姿の『先生』はやれやれとどこぞへと飛び立ってしまった。
全身鎧姿の『師匠』はついぞ姿を表さない。
「耕す魂はこの胸に!」
構うもんか。全力全壊、である。男だって疲れるんだ。息抜きの一つや二つ無くては困る。
「行くよ、ウラガンクーペ!」
掲げた、その時だ。光が旭を包んだ。
「魔法少女リリ◯ルあさひッ、やってやるぜええええっ!」
「ま、魔法少女……?」
旭のはしゃぎっぷりに、麦わら帽子姿のミィリア(ka2689)は驚嘆した。日焼け対策に勤しんでいる間に、一体何が在ったというのか。しかも、サムライよりも一癖ありそうな名称である。むくむくと、ミィリアの胸の裡で叛逆心が湧き上がってくる。
「兼元!」
愛馬の名を呼ぶと、すぐに返事が返る。たまらなくなって、すぐに飛び乗った。
「行こ……わわっ!」
走らせようとすると麦わら帽子が風に翻り吹き飛びそうになる。刹那の判断で帽子を死守。落馬寸前で姿勢を整える。
「ふー」
ミィリア、◯◯歳。お肌はもうすぐ曲がり角。
●
Gnome共々各地に散開しての作業は順調に進む。
「ちょっと慣れがいるねー」
「さすが蒼世界のカラクリ……かっけぇ! 俺も!」
Gnomeでひとくさり開墾してみた感触を告げるアクタが降りると、待ちかねたように鎬鬼は飛び込んでいった。
「蒼世界のカラクリこれやべえ……!」
ちなみにGnomeは蒼世界のカラクリではないのだが、指摘する人物はいない。
「乗り心地はどんな感じだー!?」
3人の中で“ただ一人”人力で開墾しているユキトラの声に、鎬鬼は我に返った。
「ガツガツ耕せる! 全然疲れねえ!」
「なにぃ……!」
ブツブツと呟くユキトラだが、しかし、すでに鎬鬼の眼中には無かった。その頃にはもう、遥か後方に置き去りにしている。
「くぁぁ! 後れを取る訳にはいかねえ! 白鬼の働きっぷり、お天道様もとくとご覧あれってんだ! そいやあああああ!」
悔しげにひとつ吠えたユキトラは、その背を追って鍬を振るい始めた。
「頑張るねー」
「あっ! おかえりなさい!」
アクタはフラフラと休憩所にたどり着くと、カリンが迎えた。外見は掘っ立て小屋に近しいが、ソフィアとカリンがGnomeを利用して建築したものだ。
強い陽射しを遮るには十分――と思いきや、内装は出来合いのものとは思えないほど、確りとしている。
「すごいですよねっ! ソフィアさんがパパパッとやってくださいました!」
「はいただいまー……あれ、食べ物?」
「はいっ! それはアシェールさんが置いていってくださいましたよー」
「働くなー」
「私も、頑張らなくちゃです……ゆっくり休んでくださいねー!」
言うなり、Gnomeを操って去っていくカリンを感嘆と共に見送り、いよいよ手持ち無沙汰になっていると、鵤がやってきた。手には、既に酒。
「やー、お邪魔するよぉ」
「ん、どうぞー」
「休憩中? ね、あれ見てご覧よぉ」
ヘラヘラと笑う鵤は、遠景、メオを指差した。
「いやーさっすがめおし丸ちゃんだわぁ。みろよあの腕の回転率」
「あはは、すっごいねー」
両手に鋤を持つメオが、ぞぞぞぞ、と鋤をぶん回しながら土煙を上げている。
――みんな頑張ってるんだなあ。
隣のおっさんはさておき、そんなことを思ったアクタは雑談もそこそこに切り上げていくつか食料と飲料を掴み上げる。
「じゃ、ボクも戻るねー」
「ほーい」
鵤にしても、特に気にせず、見送った。彼は彼で、やることがあったからだ。
「さ、て……」
幸い、ただただサボるような不心得者は鵤以外には居ないらしい。
じつ、と。Gnomeを観察し始める。
働け。
●
土と鉱石と共に生きてきた種族となれば、その適性は土仕事にもあるのだろう。
「さて」
「ン?」
力強く大地を耕していたフラメディア・イリジア(ka2604)は手にする鍬を掲げると、アカシラに声をかけた。
「農具をちゃんと扱った方が丁寧に扱えるぞ?」
「いやぁ……苦手なのさ」
「だろうと思いました!」
横合いから、声。慌てて振り向いたアカシラに、ずい、と差し出されたのは、大ぶりな鍬。
アシェール、である。
「鍬と一言で言っても色々種類があります。目的に応じて選びましょう! とりあえず、アカシラさんには、これで!」
「お、ぉぅ……?」
「使い方は……フラメディアさん、お願いします!」
「あい、任されよう」
慌ただしく、アシェールは告げる。無理もない。各地でお手伝いをしようとなると、この土地では身体がいくつあってもたりない。
「お酒は水分にはなりませんからね! 適度な水分栄養補給と休憩を忘れずにです! よ!」
そのまま、駆け足で何処かへと走り去っていった。
「……おぉ」
唖然として見送ったアカシラにフラメディアは笑いかけると、
「簡単じゃよ、我がやるように、まずは真似るところからじゃ」
さっそく、指導を賜ったのだった。
その後暫くして、何とか様になってきたころ。
「なあ」
「む?」
「……あんな感じじゃだめなのかい?」
視線の先には、Holmes(ka3813)が居た。身の丈を遥かに超える大鎌を手に、そ、と踏み込んだ。
「――と」
足取りは軽く、しかして、結果は凄烈であった。彼女の周囲の大地が爆ぜるように撹拌され、耕される。
大地と《気》を合わせての巧みの技だ。視線に気づいたHolmesは微かに笑んだ。どこか誇るような表情、まだまだ若い者には負けないよ、と嘯くようでもある。
「ぐぐ……っ」
「まずは基本からじゃよ」
アカシラの負けん気が刺激される様をHolmesとフラメディアは視線を絡めて苦笑したのだった。
「しかし……」
Holmesは手元の鎌を見つめて、ぽつと零す。敵ではない相手に得物を振るう感触が、残る手を。
「……ただの土塊を相手するというのも、何だか新鮮な気分だね」
「ほっ! ほっ! ほっ!」
万力を体に漲らせて、里見 茜(ka6182)は土を耕し続ける。少女らしい外見とは裏腹に、そこに籠められた力はいかほどの物か。硬く踏み均された土が容易く解れていく。
「あっ、ミミズ! えへへ、きっと良い土になりますね……!」
そいそいそい、と鍬を振るいながら遅滞なく進んでいく茜であったが、不意にその目が止まった。
「あ。ナメクジさん」
めくり上がった土に今まさに落ちてゆくナメクジを。
「えいっ」
害虫死すべし。慈悲はない。茜の拳は容赦なく撃ち貫いた。
スパァンと快音が響く中、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)の歩みは鈍い。肌に馴染んだ王国の空だが、今ばかりは胸に痛い。ならば体を動かそう――そう思って望んだ開墾で、彼は。
まず、服を脱いだ。
「攻め攻めだぜ……ファースト☆マッスルゥ!」
サイドチェスト。鍛え上げた体は、既に汗でテラテラである。
「からのぉ……セカンド☆マッッスル!!」
轟、と獅子の咆哮に似た気配と共に、ジャックを中心にマテリアルが爆ぜた。此処まで1mm足りとも耕していない。そこで、ジャックは鍬を二つ、取り出した。
「鍬二刀流かぁらぁのぉ……ファイナル☆マッッッスル!!!」
大上段からの振り下ろし――からの、フロントリラックス。ここまで30秒。耕したのは僅か前方一回分。
「……何をしてるんです……?」
「はっ!?」
その横を、さーーっと馬が抜けて行った。アーリフラヴィアである。馬鍬を引く愛馬に跨りながら、怪訝そうに見つめられると、ジャックは思わずその大胸筋を両腕で隠した。
「えっ、あっ、いや、これはなっ!?」
「んー……土作りも終わらせるには、ちょっと時間が足りませんね」
とはいえ、彼女の興味はこの土地の復興に大きく偏っていた。ジャックの挙動不審は空振りのまま後方に置き去りにしていくのであった。
●
自称霧の魔女、となれば、魔法を扱う。
ヴィルマの魔術は何れも破壊に特化していた。請われるままに足を向け、遮る全てを破壊してきた。今も、そうである。
「こやつは中々頑丈だったのう」
4発目の炎球でアカシラの部下たちが掘り出した大岩を破壊し尽くすとヴィルマは額に滲んだ汗を拭った。霧らしい魔法はただの一つも放つことは無く、まごうこと無く破壊者としての姿をお日様に晒す。
「どかーん!」
チョココもまた、彼女に続いていた。ヴィルマと比べれば威力に劣るが、景気よくアチラコチラで爆砕爆滅させていた。いまも、廃屋を灰燼に帰せしめたところである。
「ふー……」
「そろそろ休んではどうじゃ?」
とはいえ、流石に一八回も魔法を放てば打ち止めであった。空腹のほうも、限界に近い。お腹を抑えて息を吐くチョココにヴィルマが笑いかけながらそう言うと、少しばかり気まずそうな表情を見せた後、
「はいですの!」
いうなり、休憩所へと駆け出していった。ヴィルマは優しげにその背を見送ると、杖を掲げる。
「どれ……我もGnomeに乗るまで、もうひと踏ん張り、といくかの!」
Gnomeのうち二機は用水路と貯水池の作成にとりかかった。土地が広大に過ぎるため、現地の人間に確認の上の措置である。Gnomeは胴部に据えられたコンテナから材料となる木材を取り出し、壁在として設置することで作業を進めていく。
「結構、位置取りが難しいかもです……!」
Lモードでなければ置いていかれる心配もないので、有効距離なら搭乗する必要もない。離れた場所からリモコンを操作して一列ずつ壁を打ち立てていくカリンが汗を拭いながら言うのを、ザレムは手元の紙に書き留めていく。
「でも、出来ないことはない感じです!」
難しいが、位置取りをすることで対応しさえすれば、問題はない。それに。
「細かい所は俺に任せろー!!」
Gnomeがあげる建築音に負けぬ声量が、足元から響いた。Gnomeが作業したそばから、細かな工事をしている研司である。細かな樋を作ったり、用水路の壁材の細かな位置調整を行っている。
「ゴーレム単品じゃ無理でも、人とゴーレム、両方あわせりゃ力は無限さ!!」
「――いや、でも、早いですね。全然楽ですよこれ」
喝采を上げる研司の傍ら、必要な資材の調整や具体的な指示をするソフィアが太鼓判を押すと、
「……確かに、その通りだね」
ザレムは頷き、その点も書き留めておくのだった。
「あれって、どうやってるの?」
そんな様を眺めている技師のもとを、時雨は尋ねた。
「基本は魔術ですね。予め設定されている行動を再現するだけのものですが、組み合わせる事で、種々の行動を可能にしていて――」
――ふぅん。
通り一辺倒の《刻令術》の説明を聞きながら、少女は黙考する。彼女のノゾミに、叶うものかを測るために。
●
ウィンスは苦戦を強いられていた。
「ハァッ、ハァッ、……ッ!」
粗い息が溢れる。Gnomeは遥か彼方にあった。鼻先からか細い煙を上げるGnomeを敵と定めていたが追いつけそうにもない。
「ガーッハッハ! この線香との組み合わせ、凄まじいじゃねえか! 農業革命おこるんじゃねコレ……!」
彼方にあるのにもかかわらずGnomeの肩に搭乗するデスドクロの高笑いが響いていた。とはしゃぐデスドクロ自身はウィンスの事を眼中にも入れていないのだが――しかし。
「《爆氷》ォ!!」
氷柱の如きマテリアルの衝撃で綺麗に耕された地面を踏み、
「くっそァァァァァっ!」
吐き棄てて、遮二無二足を進める。そうこうしているうちにジャックの背が目に入った。どうやら、追いついたらしい。
――それでも、Gnomeには至らぬのだ。
と、そこで。
「4度目のセカンド★マッスルゥゥッ!」
ジャックは獅子の如く、そう咆哮した。
何となく。
腹立たしかった。
ゆらり、と。幽鬼の如くジャックの至近に踏み込む、と。
「ファイナルゥッぶふぁああっ!?」
「邪魔だ金髪馬鹿コラァァァッ!」
叫ぶジャックごと、《爆氷》。
後には、彼方まで吹き飛ばされるジャックの悲鳴が高く残ったのだった。
豪快にして痛快、バッサバッサと土砂が舞い上がる!
「空を翔けるは我が翼、地を揺るがすは我が刃!」
風切る巨斧!
土属性っぽい大地を風属性が爆滅する!
「捻れて集え、大嵐! 撃ちて砕いて吹き荒rぐわーーっ!?」
無念! 魔法少女真っ盛りの旭が、文字通り風に乗り吹き飛ばされてしまった!!
「な、なにを!?」
「汚しすぎ土撒きすぎ帽子飛ばし過ぎ……!!」
身を起こした旭のもとに泥まみれのミィリアが肩を怒らせて駆けよってきた。彼女の周囲の土砂がこれまた激しくめくれており、旭はその土砂に飲み込まれてしまったらしい、と知る。
「日焼けしちゃう……!!」
見れば、彼女の愛馬、兼元さんも土砂にまみれて不満気だった。
「え? あ……いやぁ」
あれやこれやと言い訳めいたモノは浮かんだが、馬まで汚してしまった事には胸が痛む。気持ちは魔法少女になっても、馬を愛する心は忘れなかった。謝罪するように頭を下げた旭は、顔を上げると。
「あっちで続きをしてくる!」
「え、ええ……っ!?」
動揺するミィリアを置いて、駆け出した。まだまだ遊び足りなかったらしい。
●
「よーーーし、こっから此処は俺の陣地な!」
鍬でざざっと線を引いた鎬鬼がそう言った、直後の事だった。
「ヒッ!?」
ゾン、と。眼前に鍬が落ちてきた。股間を、さわやかな風が撫でる。すぐに、犯人が解った。
「アクタ――! お前かぁぁぁ!」
「ごっめーん、ほらボクか弱いからさー」
へら、と笑うアクタだ。悪びれもせずに言うアクタだが、少しは働いてみよう、としてみたらしい。
結果はこの通り、であったが――そのまま、手にした食べ物や飲みモノを差し出す。
「アクタ、お前どっかに行って……って、おおう差し入れ! ありがとな!」
目ざとくそれを見つけたユキトラは、ご満悦の表情であった。空腹を感じていたらしい。
「疲れたし、休憩にしよー?」
「「…………」」
にへら、というアクタが最も働いていない気がしたのだが、二人は深くは追求しないことにした。
長い、付き合いだ。
「おう!」
●
――そんなこんなで賑やかに開墾は進み、所定の土地をきっちりと耕し、用水路まで引くことができた。
結果として時間はかかったものの、夕暮れ時には宴を迎える事ができたのだった。
●
トン、とジャックの前に多量の料理が並べ置かれた。給仕はウィンス。片腕に五つ載せた盆に、その倍の皿を載せていた。
「……お待たせしたが何かァ!?」
流石に、ジャックを謂われなく吹き飛ばしたことは咎められたらしく、主にジャックの仕事で 『完敗しましたが何かァ!?』と書かれた腕章がつけられた。
「オイオイ、そこはお待たせしました、ジャック・J・グリーヴ様。先程は大変粗相をブハアアアッ!?」
「上等だてめェ……ぶん殴る!!」
――乱闘か! やれ! 殺せ! ぶちのめせ!!!
そんな二人を、アカシラの部下たちは一斉に囃す。瞬く間に、和やかな宴会場は騒々しい場末の酒場レベルまで落ち込んでいた。わいのわいのと、夫々のグラスに乱雑に酒を注ぐ様をみたアシェールは、「手酌はダメですよっ!」と酒瓶を手に駆けよっていく。可憐な少女の酌である。鬼は満面の笑みを浮かべて応じた。
「ありがとよ……「あわわっ!」ぶわっ」
お約束のように転倒するアシェールの手で大惨事となっていたが、アカシラはそんな様を愉しげに見つめ笑っていた。
「ゴハン、美味しいですねっ!」
「お……ああ、そうさね。こっちの飯にもようやくなれてきたよ」
えへ、と笑う茜に、アカシラは笑みを返した。アカシラはどうにも、年下の鬼には甘い。そこには、かつて彼女が犯した罪がある。鬼たちの地位を貶めた、という。
しかし。
「私、気にしてないですからねっ?」
茜は、その胸中を汲んだか、そう言った。そう言う鬼や東方の人間も少なくない事を、アカシラは――有難い事に――知っていた、のだが。
「悪いのは全部、妖怪――歪虚ですから」
には、と歯を見せて、頬にパスタのソースを付けて笑う少女は続けた。
「アカシラさんは、ただの一つも悪く無いですっ」
「そうじゃないさ」
「そうですよっ!」
訂正しようとしたアカシラを、茜ははっきりと遮ると有無を言わさぬ口調でこう結んだのだった。
「ね、笑いましょっ。せっかくのゴハンがおいしくなくなっちゃいますっ」
「あの二人は相変わらずだね」
「そうじゃのう……」
ころころ、と笑うHolmesに、ヴィルマも引き出されるように笑った。
「メオ殿もがんばったようじゃの?」
「んー、たかし丸もねー」
そうしてメオに水を向けると、メオはふんす、と胸を張るようにしながら、泥に塗れボロボロに草臥れたたかし丸を差し出してみせた。
「……少しばかり、同情しなくもないけどね」
「え? いやいや、俺は何も言ってないよぉ?」
Holmesの含みのある視線に、メオに渡したっきり鍬を一度も握っていない鵤はさも心外そうである。
「君がそう言うのなら、それでいいけどね」
まっ白な鵤の白衣を見つめて笑うHolmesもまた、追及はせずに酒を味わうのだった。
「くーっ、染み渡るぅ~! 一仕事のあとの晩酌最高ー!」
「良い飲みっぷりじゃのぅ」
互いに酒を注ぎながら、ミィリアとフラメディアはご満悦であった。
「やはり、働いた後の酒はまた格別じゃなぁ!」
「ホントに! ……旭は飲まないの?」
「ぁー」
「旭さん、だいぶ頑張ってましたもんねー!」
はしゃぎ過ぎた旭は軋む体を机と椅子にあずけて死人のようになっている。隣で介護していたカリンが苦笑しながら、その身体を揉みほぐしていた。
「おぉぅ……」
「お酒もいるー?」
けらけら、と笑いながら、ミィリアは取り分けたピザを旭の口元に運んだ。面倒見のよい女性たちに囲まれつつも。
「おぉ、ぅ……」
どうやら動けそうにもない。最後にそう呻いて、差し出されるままに咀嚼するのであった。
「ンめ……!」
「あはは、そんなに慌てなくても誰も取らないよー?」
「いや、あれを見ろ!」
「……おぉ」
鎬鬼とユキトラがガツガツと飯を平らげるのをアクタは窘めたのだが、指差す先、二人に伍する勢いで食し続けるチョココがいた。積み上げられた空いた皿を見ると、アクタは目を細めた。
「……食べ過ぎじゃない?」
「まー、美味いからな!」
「皆で食うから尚更だな♪」
そんな風に満足気な二人を眺めて、アクタはくすりと笑った。
「じゃ、ボクもご相伴……」
「おう!」
「はー……今日耕した土地で、今度は美味い野菜が採れっといいなー」
「そうだねー……」
「そいや、あのゾウ人形どうだったんだ?」
「あー! ゾウ人形な、うぃーんてなってな! がががって地面掘り起こすんだ!!」
「あはは、雑な説明~」
3人の、異国での楽しい時間が過ぎていく。
●
「あら、来てたの」
「おねえさん、あのね、わたしパンケーキが食べたいわ。3つ重ねて寝坊のバタと昼下がりの蜜をかけた奴!」
盛況につき給餌に出ていたキャシーに、フィリアは僅かに頬を染めて、いう。
「溶けたバターとはちみつたっぷりね、ハイな♪」
調理されている間、フィリアは開墾された土地を眺める。斜陽の中、広大に耕された彼の地を。
「……植えるなら、不毛じゃないのね」
そこで、少女の目がまん丸く変わった。
「――あら、そうね。きっと耕せば良いんだわ。教えてあげなくちゃ!」
どうやら、不穏な気付きを得たようであった。
●
「んー……意外と損耗は激しくないね」
相当な無茶をしたザレム本人の言葉だけに技師や職人が聞いたら発狂しそうではあるが、
「この子、もともとの機能にかなり制限されてるからみたいね」
ロベルトはいっそ嬉しげに応じた。
「相応に負荷が掛かる所には配慮されてるのね」
「しかし、なぜゾウの頭なのだろう……?」
二人と同じく機体を眺めていたアルルベルがぽつ、と呟いた。事情を知るロベルトが笑みを零す。
「サービス精神、かしら」
「確かに、機能面で考えたら、この機体には頭部は不要だろうしね」
ザレムが頷いた、その時だ。
「そうか……私は、無限軌道だけでも十分可愛らしいと、思うのだが……」
「「……」」
二人とも、どちらかと言うと機械愛は深い方では在ったが、そういう発想は無かった。
「……そうね、可愛いかもしれないわ」
ただ、ロベルトはいたずらに少女の心を乱さないように、そう結んだ。
●
「3年もすれば、また出荷量が増えそうですね」
愛馬の背を撫でながら、アーリフラヴィアはハンター達とGnomeの手によって広く耕された土地を嬉しげに見渡した。着実な歩みと疲れが、今はとても心地よい。
ふと。その視線が、止まった。
「……時雨さん……?」
暗がりで良く見えないが、ザレム達が離れた後、Gnomeの足元に立ち、機体を見上げる姿が目に入ったのだった。
物想うように機体に触れる少女は、黄昏時に消え入るように、儚くて。
――くふふ。
時雨は、笑っていた。
それが、何かに期待するように。あるいは、祈るように、アーリフラヴィアには、見えたのだった。
依頼結果
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開墾しましょ(相談卓) ロベリア・李(ka4206) 人間(リアルブルー)|38才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/06/04 08:30:40 |
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質問卓 アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/06/02 17:48:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/03 01:52:12 |