ゲスト
(ka0000)
【闘祭】あしたのイバラキ
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/05 09:00
- 完成日
- 2016/06/11 03:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「武闘大会が開かれるなんてな! いやぁ、受付開始が楽しみだぜ!」
ある日のハンターオフィス。ひときわ大きな体格の女性、イバラキ(kz0159)が受付嬢のモア・プリマクラッセ(kz0066)にそう話しかけていた。何せイバラキは強い相手と戦うことを何より好む格闘バカ。こんなイベントが行われるとなったら居ても立ってもいられない。
「なあモアさん、なんか話は聞いてないか?」
「と言われましても……まだ大会のスケジュールやルールも決まって無いみたいですよ」
「何だよ、まどろっこしいなぁ。ゴチャゴチャ言わずに一番強い奴を決めりゃいいんだよ」
「それを決める方法を決めなければ行けない、とそういうことです」
そこで何かを思い出したモアは依頼書を取り出し、イバラキに説明しだした。
「そういえばこんな依頼があります。受けられてはいかがですか?」
●
「さて、何から始めようかねぇ」
というわけでイバラキはリゼリオに来ていた。彼女がモアの紹介で受けた仕事、それは武闘大会のレギュレーションを決めるためのデモンストレーションをやって欲しいとの事だった。さらに言えば、武闘大会本番の注目度を上げるためプレ大会を開き、人々の関心を高める狙いも合った。一つだけ武闘大会で決まっていることは、会場がここ、リゼリオになることである。そこで彼女はこの街にやってきたのだった。
「そういやプロレスに誘われたのもここだったっけ」
そうイバラキが少し前のことを思い出していた時だった。
「おお……おめぇ、拳闘をやる気はねぇか?」
「ああ? 何だよオッサン」
ハゲ頭に、片眼に眼帯を付けた小柄な中年男がイバラキに話しかけてきた。
「おめぇなら世界を取れる。二人で歯を食いしばってこの橋を逆に渡っていこう」
「だから何の話だよ!」
●
そして数日後。リゼリオのとある広場に突然リングが出現していた。そこに立つのはイバラキと彼女に話しかけていた男。
「イバラキよぉ、おめぇは良くここまで付いてきてくれた。イバラキ、おめぇは俺の生きがいだぁ……おめぇなら明日を掴めるぜ」
「ああ、任せときな、オッサン」
イバラキは良く言えば素直、悪く言えばすぐに人の影響を受けるタイプである。すっかり心酔していた彼女の両拳にはボクシンググローブ。この男はリアルブルーに居た時はボクシングのトレーナーをしていたらしい。
「言ってくるぜ、オッサン」
そしてゴングが鳴った。ボクシング、両拳のみで戦う最も歴史が古く最もシンプルな格闘技。しかし考えてみれば武闘大会のデモンストレーション競技としてはピッタリである。そして他にもこのデモンストレーションに参加するハンター達が集められていたのであった。
「武闘大会が開かれるなんてな! いやぁ、受付開始が楽しみだぜ!」
ある日のハンターオフィス。ひときわ大きな体格の女性、イバラキ(kz0159)が受付嬢のモア・プリマクラッセ(kz0066)にそう話しかけていた。何せイバラキは強い相手と戦うことを何より好む格闘バカ。こんなイベントが行われるとなったら居ても立ってもいられない。
「なあモアさん、なんか話は聞いてないか?」
「と言われましても……まだ大会のスケジュールやルールも決まって無いみたいですよ」
「何だよ、まどろっこしいなぁ。ゴチャゴチャ言わずに一番強い奴を決めりゃいいんだよ」
「それを決める方法を決めなければ行けない、とそういうことです」
そこで何かを思い出したモアは依頼書を取り出し、イバラキに説明しだした。
「そういえばこんな依頼があります。受けられてはいかがですか?」
●
「さて、何から始めようかねぇ」
というわけでイバラキはリゼリオに来ていた。彼女がモアの紹介で受けた仕事、それは武闘大会のレギュレーションを決めるためのデモンストレーションをやって欲しいとの事だった。さらに言えば、武闘大会本番の注目度を上げるためプレ大会を開き、人々の関心を高める狙いも合った。一つだけ武闘大会で決まっていることは、会場がここ、リゼリオになることである。そこで彼女はこの街にやってきたのだった。
「そういやプロレスに誘われたのもここだったっけ」
そうイバラキが少し前のことを思い出していた時だった。
「おお……おめぇ、拳闘をやる気はねぇか?」
「ああ? 何だよオッサン」
ハゲ頭に、片眼に眼帯を付けた小柄な中年男がイバラキに話しかけてきた。
「おめぇなら世界を取れる。二人で歯を食いしばってこの橋を逆に渡っていこう」
「だから何の話だよ!」
●
そして数日後。リゼリオのとある広場に突然リングが出現していた。そこに立つのはイバラキと彼女に話しかけていた男。
「イバラキよぉ、おめぇは良くここまで付いてきてくれた。イバラキ、おめぇは俺の生きがいだぁ……おめぇなら明日を掴めるぜ」
「ああ、任せときな、オッサン」
イバラキは良く言えば素直、悪く言えばすぐに人の影響を受けるタイプである。すっかり心酔していた彼女の両拳にはボクシンググローブ。この男はリアルブルーに居た時はボクシングのトレーナーをしていたらしい。
「言ってくるぜ、オッサン」
そしてゴングが鳴った。ボクシング、両拳のみで戦う最も歴史が古く最もシンプルな格闘技。しかし考えてみれば武闘大会のデモンストレーション競技としてはピッタリである。そして他にもこのデモンストレーションに参加するハンター達が集められていたのであった。
リプレイ本文
●
「拳闘の試合が出来るとは思わなかった。せっかくの機会なんだから楽しみたいな」
リゼリオの広場に設けられた特設試合会場で、サントール・アスカ(ka2820)はウォーミングアップに励んでいた。彼はボクシングの心得があるのか、その構え、その動きは実に堂に入ったものだ。
「ちょっと小技の練習でもして行こうか」
彼はシャドーボクシングを始める。サイドステップを踏み、左ジャブを突く。基本に則った動きだが、そのスピードが抜群に早い。それでいてフォームが乱れることもない。
「あれ、イバラキさんも出場するんだ?」
その様子を背後に、天竜寺 舞(ka0377)は会話を交わしていた。彼女は以前もイバラキと共に依頼に参加したことがある。
「ああ、男相手でも負ける気は無いぜ」
「そうさぁ……コイツは俺の夢なんだぁ……」
「張り切るのもいいけど真っ白な灰になって燃え尽きないでよね」
その隣りにいる、セコンドを務める男を見てそう苦笑い。そして彼女もシャドーを始めつつ
「あたしは漫画の知識しかないけどこの拳に勝利の虹を掴んで見せるよ!」
とやる気を漲らせていた。
●
「まさか、この世界で本格的なボクシングができるとは……柄ではありませんが心が躍りますね」
イバラキの対戦相手は真田 天斗(ka0014)だった。彼は軍時代にボクシングを身に着けている。
「貴女が習得したボクシング、見せてもらいましょう」
「アタシもまだまだだけどな。でも負ける気は無いぜ!」
中央に呼び寄せられた二人はそう言葉を交わす。
「懐かしい感触。やはりリングは良いものです」
レフェリーが二人を分け、真田は自分のコーナーに戻る。彼はリングを確かめるかのようにシャドー。かつての感触が蘇ってくる。
「へェ……拳だけで、ねェ……」
その様子をリングサイドで腕を組んで見ているものが居た。万歳丸(ka5665)だった。彼の武器は両親から受け継いだ格闘技術だった。しかし、それは父から受け継いだ氣の扱いと、母から受け継いだ投げの理念のみだった。
「――その術理、掴ませてもらおうじゃねェか」
彼は拳の極意を求めていた。自らの弱点を埋めるためには、この時は絶好の機会だった。
その時ゴングが鳴った。
「まずはお手並み拝見と行きましょう」
真田は左拳を下げて構える。ヒットマンスタイルと呼ばれる構えから小刻みなステップで間合いを詰め、鞭をしならせるように左ジャブを放つ。長いリーチから繰り出される弾幕が彼女を寄せ付けない。
「ガード固めろ!」
だが、セコンドの言葉を聞いたイバラキは両拳を顔の前に高く掲げ構えた。ピーカブースタイルと呼ばれる構え。真田のジャブをガードで弾きながら持ち前の突進力で前へ出てジャブを突き返す。
真田はそれに付き合う気は無い。足を使って間合いを外す。ジャブを打って追いかけるイバラキだが、高速フットワークを前に捉えることが出来ない。
しかし次の瞬間だった。突如真田の体が崩れ、尻餅をつくようにダウンしていた。
その足運びを読み切り、移動先を塞ぐように放った右ストレートが真田の顎を打ち抜いていた。ダウンさせられたことにも一瞬気づかなかったような鮮やかな一発。カウント8で立ち上がるが、膝がまだ震えている。そこを見逃さず野獣の如く攻め立てようとするイバラキ。
その時ラウンド終了のゴングが鳴った。コーナーに戻り腰掛けながら、真田はプランを組み直していた。あのストレートをもう一度喰らう訳には行かない。ならば……。
第2ラウンド、同じく間合いを離す真田と潜り込むイバラキ。だが、間合いを詰めた後が違っていた。
真田はそこからすぐに離れず、左ボディフックをイバラキの脇腹に細かく当てる。彼女も打たれながらも前へ出る。このラウンドはこういった攻防で終わった。
そして第3ラウンド。同じように突進し間合いを詰めるイバラキ。真田が仕掛けた伏線に、この時気づいたのはセコンドの男だけだった。
「イバラキィ、体振れ!」
だがボディブローでスタミナを削られた彼女には真っ直ぐ出て右ストレートを放つことしか出来なかった。そこを狙っていた。
その右を体を開いてかわし、すかさず電光石火の左フックを放つ。その左拳は空を切る右拳に巻き付き、そしてイバラキの顔にめり込んでいた。
マウスピースが宙を舞い、フラフラとニ、三歩進んだ彼女は大の字に倒れる。
「立て、立つんだイバラキィ!」
セコンドは必死に叫んだ。その声にのろのろと体を起こす。
「まだ……やれ……る……」
だがそれが限界だった。真田にすがりつくように再び倒れ、テンカウントを聞いた。
「また何時か試合をしましょう」
意識を取り戻したイバラキに、真田は握手を求める。ボクシングは紳士のスポーツ、試合が終われば健闘を称える。彼女はそれにガッチリとした握手で答えていた。
観客達が拍手を送る中、一人、万歳丸はイバラキが放ったパンチを見よう見まねで身につけようとしていた。
●
「ぼくしんぐ? とりあえず殴り合えばよいのだな」
バルバロス(ka2119)は依頼の内容を見て、シンプルにそう考えていた。早速手続きを済ませる。
「久々に友と拳を交わすのも悪くないんじゃあないかな?」
その様子を見ていた者が居た。Holmes(ka3813)だった。
そして試合当日。二人はリングで向かい合っていた。
「強きモノとの闘いであれば、方法は問わぬ。ホームズと殴り合うなら、この競技のルールだと ワシに分があるかもしれんな。まあ、ヤツ相手に遠慮など失礼になるしな……全力で叩き潰してやるか」
彼の言うとおりだった。二人の体格は大人と子供、と言うレベルではない。本来階級制であるボクシングでは考えられない差があった。
「存分にやろうじゃあないか、バルバロス」
だが、ホームズはそれを意に介さない。
「辺境部族が一つにまとまってからは 互いの部族でぶつかり合うこともなくなってしまったからな。競技というルールの中とはいえ、久々に全力でやり合うかのぅ」
なぜなら二人にはそれを超える、戦う理由があったからだ。
そして試合が始まる。バルバロスは最初から全開で行った。その筋骨隆々の肉体から拳を振るう。掬い上げるような軌道は小柄な彼女の体を確実に捉える。
ホームズも打ち返す。その小さな体からは想像できない威力のパンチで反撃する。とある名探偵の使っていた武術の心得の応用、それが秘密だった。
しかし、リーチと体重の差は残酷だった。ガードの上から拳を叩きつけられ、彼女の体はロープまで吹っ飛ばされていた。例え急所にパンチを喰らわなくてもその重さが容赦なく彼女の体力を削っていく。この時点でまだ立っている事だけで驚異的である。
その展開はラウンドが進んでも変わらなかった。互いに決定的な一発を貰わない消耗戦が続く。
その時だった。バルバロスの突き上げるような拳が、ホームズのボディをえぐる。内臓をかき混ぜられるような強烈な衝撃。
そして狂戦士は止めに入った。手加減や気遣いなど逆に失礼。振り下ろされるパンチが彼女を文字通り叩き潰さんとしていた。
だが彼女はその時を待っていた。何故かバルバロスの体は前に崩れる。意識を刈り取るはずだった拳は彼女の頭上を通り背後に落ちていた。
彼女がとっさに放った“敵意”、それがトリックだった。そしてガラ空きになった体の左胸、大きな傷跡の残るそこへ拳を叩き込んだ。その一発で動きが止まる。
そこから彼女は殴った。殴った。殴り続けた。ボディに体力の続く限り連打し、上半身が沈めば顔面へと連打する。戦士の体を滅多打ちに晒す。
しかし戦士は倒れなかった。戦闘本能が彼を押し留めていた。そして再びバルバロスが動き始める。拳を上から下から、振るう。
ここからは技術を超えた世界だった。ホームズも自らの耐久力に賭け、反撃の拳を止めない。リング中央で壮絶な打ち合いが繰り広げられていた。
それを止めたのは岩の如き狂戦士でも小柄な女でもなかった。試合終了を告げるゴングが戦いの終了を告げる。
結果は三者三様のドロー。その結果を聞きながら、ホームズは友に話しかけた。
「しかし懐かしいね。初めて会った頃を思い出すよ」
「ああ、そうだな」
「最後にこうして殴り合った原因は何だったかな? ボクは忘れたよ」
「ワシもだ。しかし、機会があれば また違う競技でもぶつかり合いたいものだ」
●
「対戦相手は全殺しだー!」
リングインと同時にジェノサイダーマスクを投げアピールしていた舞の姿を対戦相手のアスカは涼やかな目で見ていた。
そんな二人だったが、試合が始まると先に動いたのはアスカの方だった。左右にステップを刻んで的を絞らせず、牽制のジャブを打ち込んで行く。
しかし舞もそれに対応していった。自分の拳が届く位置を保ち、相手の攻撃に鋭く反応して舞い踊る様なフットワークでかわしてその隙にジャブを打ち込む。「蝶のように舞い蜂のように刺す」彼女はその名の通り、今は亡きリアルブルーの名ボクサーの言葉を体現していた。
だが鋭すぎる反応が仇になった。アスカは右肩を動かす。それに反応する舞だったが、右ストレートはいつまで待っても来なかった。代わりに、振りぬかれた左フックが彼女の顔を捉えていた。
「いった~い! このぅ!」
熱くなりかけた舞だが焦らずジャブを突いて行く。しかしアスカはウィービングで攻撃をかわしていき尻尾を掴ませず、返しのジャブが当たり始めていた。スタミナが切れたのか、舞のフットワークが鈍っていた。
それはラウンドが進んでも同じだった。しかし舞もこれで終わる気は無かった。フットワークは鈍っても、その感覚は鈍ってなかった。一度喰らえば引っかからない。アスカのフェイントを見切り、本命の左フックに合わせ右ストレートでカウンターを取る。
鮮やかな一発。しかし惜しむらくは倒すためのパワーが足りなかった。アスカはよろめくがそこで踏みとどまる。舞は追撃を狙うが、巧みにクリンチして攻撃を止める。
そこで舞は覚悟を決めた。危険だがこれに賭ける。もう一度来た左フックに合わせカウンターを放つ。それもタダのカウンターではない。強く踏み込み、全体重を掛けたジョルトカウンター。いくら非力な彼女でも、これを食らわせればKOできる。
だがアスカもそれを見切っていた。広く視野を取るように構えていた彼にとって、その一発はテレフォンパンチであった。左足に体重を掛けて回転を止め、飛び込んできた舞に左アッパーを叩き込んだ。
跳ね上げられる顔、視界が歪む。この時舞は思った。
(もう大技しかない!)
舞はバックステップから大きく跳ぶと、ロープを足場にして高く飛び、体を螺旋状に回転させパンチを放った。
「喰らえス○イラルタイフーン!」
しかしこれこそアスカの狙いだった。リズミカルな攻撃とフットワークで相手を焦らせ、リズムを狂わせる。今がその時だった。あっさりサイドに回り込むと、一気にラッシュを仕掛ける。パンチの雨の前に、舞は為すすべなく浴びる他ない。
何とかダウンせずに済んだ舞だったが、勝負は明らかだった。判定の結果が告げられ、レフェリーはアスカの手を上げる。
それを舞は自分のコーナーで座り込み静かに聞いていた。彼女は全く動かずただ
「燃え尽きたぜ」
とつぶやいていた。その後で
「ってあたしが灰になったら駄目じゃん!」
と自分にツッコミを入れていた。
●
イバラキをいたわるセコンドの男の元へ尋ねた者が居た。万歳丸だった。
彼は男にイバラキが放った各種パンチを見せる。この僅かな時間で身につけ、自らの身体に合わせた見事なものだった。そして彼は男に乞うた。
「俺ァ強くなる。その為には、『コレ』がいる。頼む」
そして試合の時を迎える。先にリングインしていたヴァイス(ka0364)の元に、万歳丸が入ってくる。傍らには、セコンドとして男とイバラキが付いていた。
二人はリングで向かい合い、そして戦いの開始を知らせるゴングが鳴る。
ヴァイスはジャブ、そこから続けてのストレート、それを中心に攻めを組み立て前へ出る。接近戦勝負を挑むインファイタータイプ。
それに対して万歳丸の狙いも同じだった。パンチをアームブロック、ショルダーブロックを駆使して防ぎ接近する。
「見せろや、てめェの拳をォ!!」
二人は頭が触れる様な超近距離で打ち合っていた。
「あいつはぁ、やるな……」
だが、ヴァイスの動きに男は舌を巻いていた。攻撃を止めず、早く鋭いパンチでプレッシャーをかける。体を振って逃げ道を潰すと、知らぬ間に万歳丸の背中がコーナーマットに当たっていた。
「怪力無双、万歳丸……行っくぜコラァァァッ!!」
だが、万歳丸も退かなかった。体内で練り上げた氣が全身に紋様を浮かべる。そんな中腕を畳みパンチを打ち込んでいく。
「体に力を入れず柔らかく構え……当てる瞬間に拳を握り込みえぐるように打つべし!」
万歳丸は男に教えられたパンチの基本に忠実に従って放つ。その拳には小刻みながら鋭さと重さが兼ね備わっていた。
しかしヴァイスの方が一枚上手だった。そのパンチの連打をパーリングで弾くと、それで開いたガードにストレートをねじ込む。そして一瞬怯んだところを逃さず重く鋭い連打をまとめる。
「ああ、お前や万歳丸とあいつの差はこれだぁ……野獣には勝つことはできねぇ……常に冷静な精密機械じゃなきゃぁいけねぇ……」
(万歳丸よぉ……どうする?)
だが、リング上の万歳丸は野獣と化していた。ヴァイスの連打に滅多打ちにされながら、力を貯め反撃の一発を放つ。乾坤一擲の一発。
「……待っていたぜ、渾身の一撃を!」
しかし、ヴァイスもそれを狙っていた。テンプル、チン、ジョー、どこを打たれればKOされるか分かっていた。精密機械の如き動きでその一発を受け同時にクロスカウンターの一発を合わせていた、はずだった。
その時、ヴァイスの視界から万歳丸が消えた。次の瞬間見たものは、地面すれすれから這い上がってくるアッパーカットだった。
「殺ったァ……!」
万歳丸もこの時極意を掴んでいた。極限の集中状態の中、彼には相手が何を思い、次に何を狙って来るかが見えていた。これが拳で語るということなのか、理解よりも早く体は動いていた。ダッキングでカウンターをかわし、さらなるカウンターを重ねる。それは顎先を正確に捉え、脳を揺らしていた。スローモーションの様にリングに沈むヴァイス。カウントが進むが、もう立ち上がれない……。
しかしヴァイスは立った。闘志を燃やしファイティングポーズを取る。それを止めたのはレフェリーだった。意識を失っていた彼を受け止め手を交差させた。
●
試合後万歳丸は男に深々と頭を下げていた。それに男は再会を約束する一瞥で返し、去っていくのであった。
「拳闘の試合が出来るとは思わなかった。せっかくの機会なんだから楽しみたいな」
リゼリオの広場に設けられた特設試合会場で、サントール・アスカ(ka2820)はウォーミングアップに励んでいた。彼はボクシングの心得があるのか、その構え、その動きは実に堂に入ったものだ。
「ちょっと小技の練習でもして行こうか」
彼はシャドーボクシングを始める。サイドステップを踏み、左ジャブを突く。基本に則った動きだが、そのスピードが抜群に早い。それでいてフォームが乱れることもない。
「あれ、イバラキさんも出場するんだ?」
その様子を背後に、天竜寺 舞(ka0377)は会話を交わしていた。彼女は以前もイバラキと共に依頼に参加したことがある。
「ああ、男相手でも負ける気は無いぜ」
「そうさぁ……コイツは俺の夢なんだぁ……」
「張り切るのもいいけど真っ白な灰になって燃え尽きないでよね」
その隣りにいる、セコンドを務める男を見てそう苦笑い。そして彼女もシャドーを始めつつ
「あたしは漫画の知識しかないけどこの拳に勝利の虹を掴んで見せるよ!」
とやる気を漲らせていた。
●
「まさか、この世界で本格的なボクシングができるとは……柄ではありませんが心が躍りますね」
イバラキの対戦相手は真田 天斗(ka0014)だった。彼は軍時代にボクシングを身に着けている。
「貴女が習得したボクシング、見せてもらいましょう」
「アタシもまだまだだけどな。でも負ける気は無いぜ!」
中央に呼び寄せられた二人はそう言葉を交わす。
「懐かしい感触。やはりリングは良いものです」
レフェリーが二人を分け、真田は自分のコーナーに戻る。彼はリングを確かめるかのようにシャドー。かつての感触が蘇ってくる。
「へェ……拳だけで、ねェ……」
その様子をリングサイドで腕を組んで見ているものが居た。万歳丸(ka5665)だった。彼の武器は両親から受け継いだ格闘技術だった。しかし、それは父から受け継いだ氣の扱いと、母から受け継いだ投げの理念のみだった。
「――その術理、掴ませてもらおうじゃねェか」
彼は拳の極意を求めていた。自らの弱点を埋めるためには、この時は絶好の機会だった。
その時ゴングが鳴った。
「まずはお手並み拝見と行きましょう」
真田は左拳を下げて構える。ヒットマンスタイルと呼ばれる構えから小刻みなステップで間合いを詰め、鞭をしならせるように左ジャブを放つ。長いリーチから繰り出される弾幕が彼女を寄せ付けない。
「ガード固めろ!」
だが、セコンドの言葉を聞いたイバラキは両拳を顔の前に高く掲げ構えた。ピーカブースタイルと呼ばれる構え。真田のジャブをガードで弾きながら持ち前の突進力で前へ出てジャブを突き返す。
真田はそれに付き合う気は無い。足を使って間合いを外す。ジャブを打って追いかけるイバラキだが、高速フットワークを前に捉えることが出来ない。
しかし次の瞬間だった。突如真田の体が崩れ、尻餅をつくようにダウンしていた。
その足運びを読み切り、移動先を塞ぐように放った右ストレートが真田の顎を打ち抜いていた。ダウンさせられたことにも一瞬気づかなかったような鮮やかな一発。カウント8で立ち上がるが、膝がまだ震えている。そこを見逃さず野獣の如く攻め立てようとするイバラキ。
その時ラウンド終了のゴングが鳴った。コーナーに戻り腰掛けながら、真田はプランを組み直していた。あのストレートをもう一度喰らう訳には行かない。ならば……。
第2ラウンド、同じく間合いを離す真田と潜り込むイバラキ。だが、間合いを詰めた後が違っていた。
真田はそこからすぐに離れず、左ボディフックをイバラキの脇腹に細かく当てる。彼女も打たれながらも前へ出る。このラウンドはこういった攻防で終わった。
そして第3ラウンド。同じように突進し間合いを詰めるイバラキ。真田が仕掛けた伏線に、この時気づいたのはセコンドの男だけだった。
「イバラキィ、体振れ!」
だがボディブローでスタミナを削られた彼女には真っ直ぐ出て右ストレートを放つことしか出来なかった。そこを狙っていた。
その右を体を開いてかわし、すかさず電光石火の左フックを放つ。その左拳は空を切る右拳に巻き付き、そしてイバラキの顔にめり込んでいた。
マウスピースが宙を舞い、フラフラとニ、三歩進んだ彼女は大の字に倒れる。
「立て、立つんだイバラキィ!」
セコンドは必死に叫んだ。その声にのろのろと体を起こす。
「まだ……やれ……る……」
だがそれが限界だった。真田にすがりつくように再び倒れ、テンカウントを聞いた。
「また何時か試合をしましょう」
意識を取り戻したイバラキに、真田は握手を求める。ボクシングは紳士のスポーツ、試合が終われば健闘を称える。彼女はそれにガッチリとした握手で答えていた。
観客達が拍手を送る中、一人、万歳丸はイバラキが放ったパンチを見よう見まねで身につけようとしていた。
●
「ぼくしんぐ? とりあえず殴り合えばよいのだな」
バルバロス(ka2119)は依頼の内容を見て、シンプルにそう考えていた。早速手続きを済ませる。
「久々に友と拳を交わすのも悪くないんじゃあないかな?」
その様子を見ていた者が居た。Holmes(ka3813)だった。
そして試合当日。二人はリングで向かい合っていた。
「強きモノとの闘いであれば、方法は問わぬ。ホームズと殴り合うなら、この競技のルールだと ワシに分があるかもしれんな。まあ、ヤツ相手に遠慮など失礼になるしな……全力で叩き潰してやるか」
彼の言うとおりだった。二人の体格は大人と子供、と言うレベルではない。本来階級制であるボクシングでは考えられない差があった。
「存分にやろうじゃあないか、バルバロス」
だが、ホームズはそれを意に介さない。
「辺境部族が一つにまとまってからは 互いの部族でぶつかり合うこともなくなってしまったからな。競技というルールの中とはいえ、久々に全力でやり合うかのぅ」
なぜなら二人にはそれを超える、戦う理由があったからだ。
そして試合が始まる。バルバロスは最初から全開で行った。その筋骨隆々の肉体から拳を振るう。掬い上げるような軌道は小柄な彼女の体を確実に捉える。
ホームズも打ち返す。その小さな体からは想像できない威力のパンチで反撃する。とある名探偵の使っていた武術の心得の応用、それが秘密だった。
しかし、リーチと体重の差は残酷だった。ガードの上から拳を叩きつけられ、彼女の体はロープまで吹っ飛ばされていた。例え急所にパンチを喰らわなくてもその重さが容赦なく彼女の体力を削っていく。この時点でまだ立っている事だけで驚異的である。
その展開はラウンドが進んでも変わらなかった。互いに決定的な一発を貰わない消耗戦が続く。
その時だった。バルバロスの突き上げるような拳が、ホームズのボディをえぐる。内臓をかき混ぜられるような強烈な衝撃。
そして狂戦士は止めに入った。手加減や気遣いなど逆に失礼。振り下ろされるパンチが彼女を文字通り叩き潰さんとしていた。
だが彼女はその時を待っていた。何故かバルバロスの体は前に崩れる。意識を刈り取るはずだった拳は彼女の頭上を通り背後に落ちていた。
彼女がとっさに放った“敵意”、それがトリックだった。そしてガラ空きになった体の左胸、大きな傷跡の残るそこへ拳を叩き込んだ。その一発で動きが止まる。
そこから彼女は殴った。殴った。殴り続けた。ボディに体力の続く限り連打し、上半身が沈めば顔面へと連打する。戦士の体を滅多打ちに晒す。
しかし戦士は倒れなかった。戦闘本能が彼を押し留めていた。そして再びバルバロスが動き始める。拳を上から下から、振るう。
ここからは技術を超えた世界だった。ホームズも自らの耐久力に賭け、反撃の拳を止めない。リング中央で壮絶な打ち合いが繰り広げられていた。
それを止めたのは岩の如き狂戦士でも小柄な女でもなかった。試合終了を告げるゴングが戦いの終了を告げる。
結果は三者三様のドロー。その結果を聞きながら、ホームズは友に話しかけた。
「しかし懐かしいね。初めて会った頃を思い出すよ」
「ああ、そうだな」
「最後にこうして殴り合った原因は何だったかな? ボクは忘れたよ」
「ワシもだ。しかし、機会があれば また違う競技でもぶつかり合いたいものだ」
●
「対戦相手は全殺しだー!」
リングインと同時にジェノサイダーマスクを投げアピールしていた舞の姿を対戦相手のアスカは涼やかな目で見ていた。
そんな二人だったが、試合が始まると先に動いたのはアスカの方だった。左右にステップを刻んで的を絞らせず、牽制のジャブを打ち込んで行く。
しかし舞もそれに対応していった。自分の拳が届く位置を保ち、相手の攻撃に鋭く反応して舞い踊る様なフットワークでかわしてその隙にジャブを打ち込む。「蝶のように舞い蜂のように刺す」彼女はその名の通り、今は亡きリアルブルーの名ボクサーの言葉を体現していた。
だが鋭すぎる反応が仇になった。アスカは右肩を動かす。それに反応する舞だったが、右ストレートはいつまで待っても来なかった。代わりに、振りぬかれた左フックが彼女の顔を捉えていた。
「いった~い! このぅ!」
熱くなりかけた舞だが焦らずジャブを突いて行く。しかしアスカはウィービングで攻撃をかわしていき尻尾を掴ませず、返しのジャブが当たり始めていた。スタミナが切れたのか、舞のフットワークが鈍っていた。
それはラウンドが進んでも同じだった。しかし舞もこれで終わる気は無かった。フットワークは鈍っても、その感覚は鈍ってなかった。一度喰らえば引っかからない。アスカのフェイントを見切り、本命の左フックに合わせ右ストレートでカウンターを取る。
鮮やかな一発。しかし惜しむらくは倒すためのパワーが足りなかった。アスカはよろめくがそこで踏みとどまる。舞は追撃を狙うが、巧みにクリンチして攻撃を止める。
そこで舞は覚悟を決めた。危険だがこれに賭ける。もう一度来た左フックに合わせカウンターを放つ。それもタダのカウンターではない。強く踏み込み、全体重を掛けたジョルトカウンター。いくら非力な彼女でも、これを食らわせればKOできる。
だがアスカもそれを見切っていた。広く視野を取るように構えていた彼にとって、その一発はテレフォンパンチであった。左足に体重を掛けて回転を止め、飛び込んできた舞に左アッパーを叩き込んだ。
跳ね上げられる顔、視界が歪む。この時舞は思った。
(もう大技しかない!)
舞はバックステップから大きく跳ぶと、ロープを足場にして高く飛び、体を螺旋状に回転させパンチを放った。
「喰らえス○イラルタイフーン!」
しかしこれこそアスカの狙いだった。リズミカルな攻撃とフットワークで相手を焦らせ、リズムを狂わせる。今がその時だった。あっさりサイドに回り込むと、一気にラッシュを仕掛ける。パンチの雨の前に、舞は為すすべなく浴びる他ない。
何とかダウンせずに済んだ舞だったが、勝負は明らかだった。判定の結果が告げられ、レフェリーはアスカの手を上げる。
それを舞は自分のコーナーで座り込み静かに聞いていた。彼女は全く動かずただ
「燃え尽きたぜ」
とつぶやいていた。その後で
「ってあたしが灰になったら駄目じゃん!」
と自分にツッコミを入れていた。
●
イバラキをいたわるセコンドの男の元へ尋ねた者が居た。万歳丸だった。
彼は男にイバラキが放った各種パンチを見せる。この僅かな時間で身につけ、自らの身体に合わせた見事なものだった。そして彼は男に乞うた。
「俺ァ強くなる。その為には、『コレ』がいる。頼む」
そして試合の時を迎える。先にリングインしていたヴァイス(ka0364)の元に、万歳丸が入ってくる。傍らには、セコンドとして男とイバラキが付いていた。
二人はリングで向かい合い、そして戦いの開始を知らせるゴングが鳴る。
ヴァイスはジャブ、そこから続けてのストレート、それを中心に攻めを組み立て前へ出る。接近戦勝負を挑むインファイタータイプ。
それに対して万歳丸の狙いも同じだった。パンチをアームブロック、ショルダーブロックを駆使して防ぎ接近する。
「見せろや、てめェの拳をォ!!」
二人は頭が触れる様な超近距離で打ち合っていた。
「あいつはぁ、やるな……」
だが、ヴァイスの動きに男は舌を巻いていた。攻撃を止めず、早く鋭いパンチでプレッシャーをかける。体を振って逃げ道を潰すと、知らぬ間に万歳丸の背中がコーナーマットに当たっていた。
「怪力無双、万歳丸……行っくぜコラァァァッ!!」
だが、万歳丸も退かなかった。体内で練り上げた氣が全身に紋様を浮かべる。そんな中腕を畳みパンチを打ち込んでいく。
「体に力を入れず柔らかく構え……当てる瞬間に拳を握り込みえぐるように打つべし!」
万歳丸は男に教えられたパンチの基本に忠実に従って放つ。その拳には小刻みながら鋭さと重さが兼ね備わっていた。
しかしヴァイスの方が一枚上手だった。そのパンチの連打をパーリングで弾くと、それで開いたガードにストレートをねじ込む。そして一瞬怯んだところを逃さず重く鋭い連打をまとめる。
「ああ、お前や万歳丸とあいつの差はこれだぁ……野獣には勝つことはできねぇ……常に冷静な精密機械じゃなきゃぁいけねぇ……」
(万歳丸よぉ……どうする?)
だが、リング上の万歳丸は野獣と化していた。ヴァイスの連打に滅多打ちにされながら、力を貯め反撃の一発を放つ。乾坤一擲の一発。
「……待っていたぜ、渾身の一撃を!」
しかし、ヴァイスもそれを狙っていた。テンプル、チン、ジョー、どこを打たれればKOされるか分かっていた。精密機械の如き動きでその一発を受け同時にクロスカウンターの一発を合わせていた、はずだった。
その時、ヴァイスの視界から万歳丸が消えた。次の瞬間見たものは、地面すれすれから這い上がってくるアッパーカットだった。
「殺ったァ……!」
万歳丸もこの時極意を掴んでいた。極限の集中状態の中、彼には相手が何を思い、次に何を狙って来るかが見えていた。これが拳で語るということなのか、理解よりも早く体は動いていた。ダッキングでカウンターをかわし、さらなるカウンターを重ねる。それは顎先を正確に捉え、脳を揺らしていた。スローモーションの様にリングに沈むヴァイス。カウントが進むが、もう立ち上がれない……。
しかしヴァイスは立った。闘志を燃やしファイティングポーズを取る。それを止めたのはレフェリーだった。意識を失っていた彼を受け止め手を交差させた。
●
試合後万歳丸は男に深々と頭を下げていた。それに男は再会を約束する一瞥で返し、去っていくのであった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/03 18:13:46 |
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質問卓 真田 天斗(ka0014) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/01 12:06:29 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/03 20:16:36 |